ページ番号1007831 更新日 令和1年8月16日
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- メジャー企業5社の2019年第2四半期決算は、アナダルコ社買収契約キャンセルにより10億ドルの収入を計上したChevronを除き、前年同期比で減収減益となった。石油・天然ガス価格低下の影響を受けている点は各社に共通しているが、パーミアンにおけるシェールオイル生産が増加したExxonMobilとChevron、新規開発プロジェクトの投資決定が進むBP、天然ガス・LNG価格低下の影響を相対的に大きく受けたShellとTotalなど、個社別に特徴的な要因も見られる。
- M&Aを含めたシェール開発やLNG事業への設備投資と共に、メジャー企業各社は米国メキシコ湾・中南米・アフリカ・北海など深海油ガス田の探鉱開発への取り組みを強化している。石油・天然ガス価格の先行きが不透明な中、多額の設備投資を必要とするLNG事業、気候変動問題・エネルギー移行への対応に加えて、有利子負債の削減などの財務的な課題への対応も求められており、これらのバランスを取ることが一段と重要になっている。
(各社ホームページ、報道等)
1. はじめに
メジャー企業5社(ExxonMobil、Royal Dutch Shell、BP、Chevron、Total)の2019年第2四半期決算は、アナダルコ社買収契約キャンセルのペナルティとしてオクシデンタルから受け取った10億ドルを収入として計上したChevronが増益となったのを除き、いずれも前年同期と比べて減収減益となった。各社に共通の要因として、石油・天然ガス価格が低下したが石油・天然ガス生産は増加していることがあげられる。
2014年後半以降の低油価局面においてメジャー企業各社は精製・販売など中下流事業部門の貢献により利益水準を維持し、財務内容の強みを活かした資金調達やM&Aにより割安になった上流権益を取得しつつLNG事業や低炭素化技術・再生可能エネルギーへの投資を拡大するなどのポートフォリオの組み換えに取り組んできた。
多額の設備投資を必要とするLNG事業の占めるウェイトが増す中で、天然ガス・LNG価格の低下や有利子負債の削減などの財務上の要請とシェール開発や深海における石油・天然ガスの探鉱開発への取り組みを強化することによりメジャー企業が対応しようとしている課題について、決算関連プレスリリースを基に検討してみたい。
2. 決算概要
1) ExxonMobil
2019年第2四半期の売上高は690.9億ドルとなり前年同期735.0億ドルから6%減少、純利益も39.5億ドルから31.3億ドルへ21%減少した。生産量については、石油が238.9万b/dとなり前年同期221.2万b/dから8%増加、天然ガスも86.1億cf/dから91.2億cf/dに6%増加した。2017年にバース・ファミリーから買収したパーミアンの資産の開発が進んだために生産量は増加したが、石油・天然ガスの価格下落と精製・石化事業のマージン低下が減収減益につながった。
南米ガイアナ沖の開発プロジェクトLizaではPhase 1が2020年第1四半期に生産開始予定、Phase 2の計画も進行中で2022年に生産を開始し2025年に75万b/dを超える生産を見込んでいる。またアルゼンチンのVaca Muertaシェール、アンゴラ沖Block 15鉱区でも生産拡大を予定している。探鉱活動も強化しており、ガイアナ沖で13番目の油井Yellowtail-1を発見、Stabroek鉱区の推定可採埋蔵量を55億から60億boeに上方修正した。さらにアルゼンチン沖でカタール石油と共同して260万net acre、ナミビア沖では700万net acreの探鉱鉱区を新たに獲得している。
石油化学事業では低マージンの状況が続いているものの収益性はやや改善しており、サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)と合弁で米国メキシコ湾岸に石化プラントの建設を決定した。シンガポール、英国の製油所における設備拡張・高度化投資を最終決定している。またENI・CNPCと協働するRovuma LNGプロジェクトの開発計画がモザンビーク政府の承認を得て、2019年中に2トレイン・15百万トン/年の液化天然ガス製造設備を最終投資決定する予定である。
パーミアンにおけるシェール開発については、すでに100億バレル相当の資源を確保しているため当面は資産買収や企業買収を行う必要はなく、これらの開発により現状22.6万boe/dの生産量を2024年までに1百万boe/dまで拡大する計画を実現できるとしている。米国エネルギー省と協働して低炭素排出技術の研究開発に10年間で1億ドルの投資する計画を発表、バイオ燃料や炭素回収貯蔵技術の実用化に向けた取り組みも強化している。
2) Royal Dutch Shell
第2四半期の売上高は905.4億ドルとなり前年同期967.7億ドルから6%減少、純利益も46.9億ドルから34.6億ドルへ26%減少した。生産量については、石油が184.2万b/dとなり前年同期173.0万b/dから6%増加、天然ガスも99.3億cf/dから101.0億cf/dに2%増加した。石油・天然ガス価格の下落、精製・石化マージンの低下の影響が生産量増加を上回ったために減収減益となったが、第2四半期には米国メキシコ湾の洋上生産設備Appomattoxが操業を開始したほか、豪州のFLNGプロジェクトPreludeがLNGカーゴを初出荷するなどの成果があがっている。
ブラジル沖Mero油田開発でShellが20%出資するLibraコンソーシアムがFPSOの建造の投資決定を行った。また米国メキシコ湾ではPowerNapなどの投資決定が相次いでおり(2014年発見、2021年生産開始予定、ピーク生産量35,000 boed)、他社の油ガス田でもFIDが進んでいることからShellの保有する生産設備や原油・製品パイプラインの稼働率向上が期待される。探鉱においてもBlacktipを発見・評価中(52.4%出資)など取り組みが強化されている。
米中貿易摩擦等の影響により米国メキシコ湾の石油化学事業の採算が低下、欧州でも精製マージンが低下している。ガス事業部門の利益は米中貿易摩擦アジア市場の需要減、LNGスポット価格の低下により33.6億ドルから13.4億ドルに60%減少している。天然ガス・LNGの生産は前年同期比2%増加したが価格の低下により採算が低下した。
事業ポートフォリオの入れ替えが進んでおり、米国メキシコ湾で22.5%出資する上流権益Caesar TongaをEquinor、カリフォルニアのMartinez製油所を独立系のPBF Energyに売却することで合意した一方、太陽光発電・エネルギー供給のSonnenの買収に加え、洋上風力発電、電気自動車充電、水素等の技術開発への取り組みも強化されている。
3) BP
第2四半期の売上高は726.8億ドルとなり前年同期の754.4億ドルから4%減少、純利益は28.0億ドルから18.2億ドルへ35%減少となった。生産量については、石油が221.3万b/dとなり前年同期212.6万b/dから4%増加、天然ガスも85.0億cf/dから89.3億cf/dに5%増加した。英領北海Culzeanプロジェクトが生産を開始したほか、前期に稼働した米国メキシコ湾、エジプト、トリニダード・トバゴなどの油ガス田とBHPから買収したシェール事業BPX Energyの生産増加が寄与した。
設備投資は56.5億ドルとなり、第2四半期には米国メキシコ湾Thunder Horse South Expansion Phase 2とインドのBlock KG-D6が最終投資決定したほか、アンゴラ沖のBlock 15にも追加の投資を決定しており、第1四半期にFIDした英領北海とアゼルバイジャンと併せてFIDのピッチが上がっている。
米国メキシコ湾(King Embayment)で発見があったほか、セネガル沖Tortue Ahmeyim-1とトリニダード・トバゴで評価井を掘削している。アルゼンチン沖、ガンビア沖、英領北海西シェトランド諸島、西豪州沖の探鉱鉱区にも参加しており、探鉱活動も活発化している。
第2四半期の石油精製量は159.7万b/dとなり前年同期の168万b/dから5%減少、精製マージンが低下し石油製品販売量も2%減少している。LNG事業ではインドネシアTangguh LNGプロジェクトで第3トレインを建設中であるが、新規天然ガス液化事業への投資は限定的である。
BHPから買収したBPX Energyが本格稼働しており、2020年まで100億ドル規模の資産売却によりポートフォリオの入れ替え計画が進行中である。ブラジルのバイオ燃料事業でBungeと50-50出資の合弁事業に投資、Lightsource(43%出資)を通じてブラジルで太陽光発電事業に参入、BP Chargemasterが英国で高速EV充電事業に参入、その他、BP Ventureによる中国のEV充電や飼料事業に投資するなど再生可能エネルギー・エネルギー移行への対応も進んでいる。他方、メキシコ湾原油流出事故関連の支出6億ドルが残ること、有利子負債は前年604億ドルから779億ドルに増加している。
4) Chevron
第2四半期の売上高は363.2億ドルと前年同期404.9億ドルから10%減少したが、純利益は前年同期34.1億ドルから43.1億ドルへ26%増加した。生産量については、石油が186.3万b/dとなり前年同期172.3万b/dから8%増加、天然ガスも66.2億cf/dから73.2億cf/dで11%増加となり、米国パーミアンのシェール開発の進捗とWheatstoneなど豪州LNGプロジェクトの生産増加により過去最高水準を記録した。
石油・天然ガスの価格が低下し減収となったものの、アナダルコ社買収契約のキャンセルフィー収入10億ドルをオクシデンタルから受け取ったために、メジャー企業中で唯一、前年同期比で増益となった。
米国メキシコ湾におけるBallymoreやAnchorの投資決定を2020年に予定しているほか、Jack/St. MaloやPerdido周辺の開発も検討している。ShellのPerdido周辺における探鉱でも発見があり、現在評価中であり、シェールの続く開発計画が進行している。
下流事業でも米国の石油精製事業をテキサス州パサデナ製油所買収などにより増強している。前年同期比では南アフリカの製油所の売却などにより減益となっている。LNG関連ではWheatstone、Gorgonに続く新規のLNGプロジェクトが注目されていたところ、アナダルコ社の買収がキャンセルになったために逃したモザンビークLNGプロジェクトに代わる新たな投資先がどこになるのか注目される。
テキサス州のパサデナ製油所をペトロブラスから買収、50%出資するChevron Phillips Chemicalが米国メキシコ湾とカタールで石油化学プロジェクトに投資決定、2024・2025年の操業開始を予定しているほか、低炭素、エネルギー移行対応関連ではカリフォルニア州で再生可能ガス事業への投資を決定、パーミアンのシェール開発に再生可能エネルギーを使用するなど取り組みを強化している。
5) Total
第2四半期の売上高は512.4億ドルと前年同期の525.4億ドルから2%減少、純利益も37.2億ドルから27.6億ドルへ26%減少した。生産量については、石油が162.4万b/dとなり前年同期158.2万b/dから3%増加、天然ガスも61.8億cf/dから74.8億cf/dに21%増加した。アンゴラのKaombo Sul、ナイジェリアのEgina、英領北海Culzeanの生産開始、ロシアのYamal LNG、豪州のIchthys LNGの本格稼働、Maersk Oilの買収効果などにより、石油・天然ガス生産は前年同期271.7万boedから295.7boedに9%増加した。
南アフリカ沖Brulpaddaの探鉱で大規模な資源を発見したほか、英領北海Glengormでも新規の発見があった。パプアニューギニアでは天然ガス開発に取り組んでいるほか、ブラジル沖Mero油田の第2期、カザフスタン陸上Dunga油田の第3期開発計画にも着手するなど開発投資も活発化している。さらにオクシデンタルによるアナダルコ社の買収が成立したことで同社がアフリカに保有している資産をTotalが88億ドルで取得する予定である。
フランスLa Meda製油所においてバイオ燃料の製造を開始したほか、LNGでは米国Cameron LNG第1トレインが生産開始、東芝からFreeportなどのポートフォリオを買収し、TellurianのDriftwood LNGへの投資や中国のGuanghuiと長期契約を締結するなどLNG事業への取り組み強化が継続している。
低炭素、エネルギー移行対応関連としては、欧州でプラスチック・リサイクル事業のSynovaを買収、日本で2基目の太陽光発電を稼働したほか、買収したバッテリーメーカーSaftを通じて中国でリチウム・イオン・バッテリー製造の合弁事業を開始した。
有利子負債が540.2億ドルから616.2億ドルに増加しているが、2020年末までに高コストの上流資産を中心に50億ドル規模の資産売却する計画の実現を優先するとしている。英領北海の成熟油田をプライベートエクイティに売却するなど具体的な動きも見られ、当面は操業する国・地域の絞り込みを行い事業ポートフォリオの入れ替えを進めると見られる。
3. 財務動向
1) 価格変動等による業績への影響
アナダルコ社買収のキャンセルフィーとして10億ドルの収入があったChevronを除き、メジャー企業各社の2019年第2四半期純利益は前年同期比で減少した。パーミアンのシェールオイルが大きく増産されたExxonMobil・Chevron、新規開発プロジェクト投資を着実に拡大するなBPと比べて、事業ポートフォリオの天然ガス・シフトを進めてきたShellとTotalにとって天然ガス(LNG)価格低下の影響が相対的に大きくなった。
2) 財務内容の変化
メジャー企業各社は、2014年後半以降の低油価局面において中下流事業部門の収益力と安定した財務基盤の強みを発揮して、M&Aによる上流資産の獲得、中下流事業への設備投資、安定的な株主還元を維持してきた。
2017~2018年に原油価格は概ね50~70ドル/bbl台を回復したが探鉱開発などの上流事業部門の投資が回復しない上流開発企業の事情として借入依存度が2014年以前と比べて高い水準に止まっており、フリーキャッシュフローを充当する順序として設備投資よりも債務圧縮が優先されることが挙げられる。メジャー企業の中でも、オクシデンタルによるアナダルコ社のM&A案件への対応として買収合戦をめぐる価格競争に乗らなかったChevronが有利子負債の削減を進めているのに対し、ExxonMobilやBPは探鉱開発投資を拡大する一方で有利子負債を増やしているなど対応が分かれている。
M&Aを含めたシェール開発やLNG事業への設備投資に加えて、メジャー企業各社は米国メキシコ湾・南米・アフリカ・北海など深海の探鉱開発への取り組みを強化しているが、石油・天然ガス価格の先行きが不透明な中、大きな設備投資を必要とするLNG事業に加え、気候変動問題・エネルギー移行への対応と有利子負債削減など財務的な要請のバランスを保つことが課題になっている。
4. まとめ
メジャー企業の2019年第2四半期決算は石油・天然ガス価格の下落などにより(アナダルコ社買収契約のキャンセルフィー収入があったChevronを除き)減収減益となったが、2014年後半以降の低油価期を通じて継続してきたM&A戦略による上流資産の開発により石油・天然ガス生産は増加している。米国メキシコ湾や中南米・アフリカなどの深海油ガス田の探鉱開発投資はむしろ活発化している。
財務面に注目すると、低油価期を通じて高くなった借入依存度は低下しておらず、配当や借り入れ返済を先行させなければならない状況が窺われる。引き続き石油・天然ガス価格の先行きが不透明な中、米国系メジャーのExxonMobilやChevronを中心にシェール資産の開発が進んでいるが、パリ協定・気候変動問題への関心の高まりを受け、再生可能エネルギーなどへの投資を優先するなど開発に長期を要する上流資源の開発に慎重になる投資家に対する対応の要請も増している。
シェール開発を拡大するもの、より大規模で採算分岐点の低い大水深開発を拡大するもの、天然ガス・LNG・再生可能エネルギーへの投資を拡大するものと、多様化するメジャー企業各社の戦略、今後の動向が注目される。
以上
(この報告は2019年8月16日時点のものです)