ページ番号1007832 更新日 令和1年8月19日

原油市場他:世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念とOPEC産油国による減産推進姿勢に挟まれる原油価格

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レポートID 1007832
作成日 2019-08-19 00:00:00 +0900
更新日 2019-08-19 16:04:12 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 30
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2019/08/19 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、製油所での装置不具合等による稼働低下等の影響で原油精製処理量が伸び悩む場面が見られたが、それによりかえってガソリン精製利幅が拡大、その後原油処理量回復とともにガソリン製造活動が活発化した等により、ガソリン在庫は若干ながら増加したうえ、平年幅上限を超過する水準となっている。また、米国物流部門活動の鈍化等で留出油需要が不振であったこともあり、当該製品在庫も増加した他平年幅上方に位置する量となっている。他方、米国からの堅調な原油輸出等により同国原油在庫は減少傾向となったが平年幅上限を上回る状態は継続している。
  2. 2019年7月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、日本では夏場のガソリン需要期到来に向け原油在庫を積み増す動きが発生したと見られることから在庫は増加したものの、米国では在庫が減少した他欧州でも製油所での装置不具合に対する改修作業の進展とともに原油精製処理量が増加したこともあり在庫が減少したことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では製油所の稼働上昇により石油製品生産が活発化したものの米国方面へのガソリン流出が旺盛となったことで相殺され在庫は微増にとどまった。また、米国ではガソリン等幅広く製品在庫が増加した他、日本でも灯油在庫増加等により石油製品全体の在庫も増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上限を上回っている。
  3. 2019年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場では、7月中旬から下旬にかけてはハリケーン「バリー」の米国メキシコ湾通過後の油田操業回復等が原油相場に下方圧力を加えた一方、イランが英国船籍タンカーを拿捕したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油相場はWTIで1バレル当たり50ドル台後半の範囲で推移した。しかしながら、7月末に米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催された際、長期的な金利引き下げ方針を必ずしも肯定しない旨パウエルFRB議長が示唆したうえ、米国のトランプ大統領が中国製品に対し追加関税を賦課する旨発表したことから、8月初頭には原油価格は50ドル台前半へと下落した。もっとも、サウジアラビア等が減産措置を推進する意志を表明したことに加え、米国が対中国追加関税賦課を一部延期する旨発表したことから、8月上旬後半頃には原油相場は回復、8月中旬には50ドル台半ば程度で推移している。
  4. 今後米国での夏場のガソリン需要期が終了に向かうことにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成される他、米国と中国の貿易紛争等に伴う石油需要の伸びの鈍化観測が原油相場に下方圧力を加える結果、原油価格の上昇が抑制される他、経済状況等によっては価格が下落する場面が見られる可能性がある。もっとも、原油価格が持続的に下落しようとする局面では、サウジアラビア等が減産措置強化の可能性を表明する等により、原油相場が下支えされるものと考えられる。また、米国金融当局が世界経済リスクの増大を意識するとともに、相応規模の金融緩和措置の実施可能性を示唆するようであれば、原油相場に上方圧力が加わることも想定される。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2019年5月の米国ガソリン需要(確定値)は日量940万バレルと前年同月比で1.6%程度の減少となり(図1参照)、速報値(前年同月比で1.5%程度減少の日量940万バレル)とほぼ同水準となった(図1参照)。5月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.946ドルと前年同月比では0.041ドル(約1.4%)下落したものの、前月からは0.065ドル(約2.3%)上昇、同国消費者のガソリン小売価格に対する不満が顕在化する1ガロン当たり3ドルに接近していたことが、ガソリン需要に負の影響を与えたものと思われる。加えて、4月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.881ドルと前月及び前年同月比で上昇していたにもかかわらずガソリン需要が前年同月比で1.8%程度伸びていたことへの反動で5月は当該ガソリン需要が減少したといった側面もあるものと考えられる。他方、7月の同国ガソリン需要(速報値)は日量955万バレル、前年同月比で0.9%程度の減少となった。7月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.823ドルと前年同月比では0.105ドル(約3.6%)下落しているものの、前月からは0.019ドル(約0.7%)上昇していることが、当該需要に影響した他、ハリケーン「バリー(Barry)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したこともあり、ハリケーンの進路に当たる地域の住民が自動車を利用した外出を手控えたことでも需要が抑制された可能性がある。また、7月においても製油所での装置の不具合等の発生に伴う稼働低下(6月21日にはPES(Philadelphia Energy Solutions)のフィラデルフィア製油所(原油精製処理能力日量33.5万バレル)で発生した火災により、同製油所は被災した一部施設の操業を停止したが、製油所の残りの部分についても永久に操業を停止させるべく作業中であると7月22日に報じられる)が原油精製処理活動(原油精製処理量は図2参照)及びガソリン製造(ガソリン最終製品生産量は図3参照)に影響を及ぼす場面があったものと考えられるものの、特に米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入の一方でフィラデルフィア製油所の操業停止の情報により、米国北東部を中心とする地域のガソリン需給引き締まり感が市場で強まったことでガソリン価格が上昇したことにより同国でのガソリン精製利幅が上昇したこともあり、その後製油所での稼働上昇とともに原油精製処理量が回復、ガソリン製造活動が活発化したうえ、米国のガソリン価格が欧州のそれと比べ割高感が強まった結果、欧州方面から米国に向けガソリンが流入した(同国の8月9日までの4週間平均のガソリン輸入量は日量103万バレルと前年同期(同80万バレル)を28.8%程度上回った)ことにより、7月上旬から8月上旬にかけ同国のガソリン在庫は若干ながらも増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~19年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~19年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~19年)

図4 米国ガソリン税子推移(2003~19年)

2019年5月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量404万バレルと前年同月比で5.4%程度の減少となったが、速報値である日量390万バレル(同8.6%程度の減少)からは上方修正された(図5参照)。5月の米国の鉱工業生産が前年同月比で1.7%の増加にとどまるなど同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で1.9%の増加にとどまった(因みに2018年各月の同国物流活動は前年同月比で2.9~8.9%の増加であった)ことから、この面で留出油需要が抑制されたものと考えられる。また、7月の留出油需要(速報値)も日量386万バレルと前年同月比で2.6%程度の減少となった。6月が5月と同様米国中西部における大雨により穀物の作付け作業が遅延したことから、作付け作業のために使用される農機具向けの軽油需要が不振であったと見られることに加え、米国と中国の貿易紛争の影響で景況感が悪化しつつあったことが米国経済に負の影響を与えるとともに物流部門(6月物流活動は前年同月比で1.3%の増加であった)等における軽油需要を抑制する格好で作用したものの、6月の当該需要が速報値ながら前年同月比で1.0%程度増加していることへの反動が発生したことが7月の需要の前年同月比での減少に寄与している可能性がある他、7月の米国鉱工業生産が前年同月比で0.5%の増加にとどまるなど、経済活動の減速が留出油需要に影響していることが示唆される。そして、輸出がそれなりに行われた(夏場のドライブシーズンが接近しつつあった欧州(同地域では他の地域に比べ乗用車に占めるディーゼル車の比率が高いとされる)等に軽油が向かったと思われる)他、製油所での不具合発生等が留出油生産に影響を与えている(図6参照)と見られるものの、国内需要が不振であったことで相殺されて余りあったこともあり、7月上旬から8月上旬にかけ留出油在庫は増加傾向を示した他、7月上旬時点では平年幅上方に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~19年)

図6 米国の留出油生産量(2009~19年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~19年)

2019年5月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.5%程度減少の日量2,026万バレルとなった(図8参照)。ガソリン及び留出油の需要等が前年同月比で減少したことが石油需要に影響する格好となっている。また、留出油需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたこともあり、当該需要は速報値(日量2,007万バレル、前年同月比1.4%程度の減少)から上方修正されている。他方、7月の米国石油需要(速報値)は、日量2,117万バレルと前年同月比で2.7%程度の増加となった。その他の石油製品の需要が伸びていることが石油需要全体の増加に寄与している。ただ、7月のその他石油製品の需要は日量455万バレルと前年同月比で同55万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年6月~2019年5月の1年間で日量351~426万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要全体(確定値)が調整されることもありうる。また製油所での装置不具合の発生等により原油精製処理量は伸び悩み気味となったものの、ハリケーン「バリー」の米国メキシコ湾来襲に伴い当該地域の油田関連施設での原油生産が一時停止した一方で、原油輸出が堅調であったこともあり、原油在庫は7月上旬から8月上旬にかけ減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過している一方で、留出油在庫が平年幅上方に位置する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~19年)

図9 米国原油在庫推移(2003~19年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~19年)

図10 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~19年)

2019年7月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、日本では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来と製油所のメンテナンス作業終了を控え、原油在庫を積み増す動きが発生したと見られることから在庫は増加したものの、米国では当該在庫は減少した他、欧州でも装置不具合等で稼働が低下していた製油所で改修作業が完了するとともに原油精製処理量が増加したこともあり原油在庫が減少したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。他方、石油製品については、欧州では製油所の稼働上昇により石油製品の生産は活発化したものの、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入の一方、フィラデルフィア製油所の稼働停止による同国北東部でのガソリン需給の引き締まり感から米国のガソリン価格が欧州のそれに比べ割高となったこともあり、欧州から米国方面へのガソリン流出が旺盛となったことで相殺されたこともあり、製品全体の在庫としては微増にとどまった。また、米国では暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要が減少したことによるその他の石油製品在庫の増加に加え、製油所の稼働が上昇したことに伴い石油製品製造活動が活発したことよりガソリンや留出油を含め幅広く製品在庫が増加した。また、日本においても暖房用の需要が低下した灯油の在庫が増加した他、製油所のメンテナンス作業終了に伴う稼働の上昇と石油製品生産活動活発化の一方、2019年は梅雨の時期が長引いた(気象庁は7月29日に関東地方が梅雨明けしたと見られる旨発表したが、これは平年に比べ8日、昨年に比べ30日遅かった)ことから、行楽のための乗用車向けガソリン需要が7月一杯低迷したこともあり、当該製品在庫が増加した結果、同国の石油製品全体の在庫も増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上限を上回っている(図13参照)。そして、原油及び石油製品の在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態になっている(図14参照)。なお、2019年7月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.1日と6月末の推定在庫日数(61.1日)と同水準となっている。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~19年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~19年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~19年)

7月10日に1,100万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、7月17日には1,000万バレル台前半、7月24日には900万バレル台前半の、それぞれ量へと減少したが、7月31日には1,000万バレル弱、8月7日には1,000万バレル台前半の、それぞれ量へと回復している。ただ、8月14日には900万バレル台後半の水準へと再び減少した。夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が到来する中で、インドや中国等で製油所のメンテナンス作業が実施されていたことから、これら諸国の国外からのガソリン等軽質製品調達が行われたり、これら諸国からシンガポールへの当該製品の流入が鈍化したりしていたことに加え、7月中はシンガポールから米国方面へガソリンが輸出される場面が見られたこと(6月21日にPESの米国フィラデルフィア製油所で火災が発生した影響で、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入していた米国のガソリン価格がアジアのそれに比べ相対的に割高となったことが影響しているものと見られる)が、シンガポールでの軽質留分在庫水準低下の背景にあるものと見られる。もっとも、8月に入ってからは、米国方面への軽質留分の流れが沈静化したことに加え、アジア地域での一部製油所でのメンテナンス作業が終了し操業を再開するとともに軽質留分を含む石油製品の生産が活発化したことでシンガポールから他のアジア諸国への軽質留分輸出が抑制されたことから、当該製品在庫が多少なりとも持ち直しているものと考えられる。そして、7月中は、シンガポールでの軽質留分在庫が減少傾向を示したこともあり、アジア市場でのガソリン需給の引き締まり感が発生したことに加え、米国でのガソリン価格上昇がアジア市場でのガソリン価格に影響を与えたことから、ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向を示した。ただ、8月に入ってからはシンガポールでの軽質留分在庫の持ち直しがガソリン価格に下方圧力を加えたこともありガソリンとドバイ原油の価格差が縮小する場面が見られたものの、ドバイ原油価格の下落にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、ガソリンとドバイ原油の価格差はその後回復している。

ナフサについては、冬場の暖房シーズンが終了したことに伴い暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減少するとともに価格に割安感が強まったことが、石油化学産業において原料としてLPGと競合するナフサの価格を抑制し続けたことに加え、台湾、インドネシア等アジア一部諸国でのナフサ分解装置のメンテナンス作業を実施されつつあったこと、さらには米国と中国の貿易紛争に伴う両国等の経済減速によるプラスチックの需要の低迷で原料としてのナフサ需要の鈍化懸念が市場で発生したこと、そして、7月中旬以降米国フィラデルフィア製油所操業停止の影響によるガソリン需給引き締まり感が市場で落ち着いてきたことにより、欧州から米国へと輸出されるガソリンに混入されていたナフサがアジアに向かうとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた結果、7月中旬から8月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が認められる。

7月10日には1,100万バレル強程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、7月17日には1,000万バレル台後半、7月24及び31日には1,000万バレル台半ば程度、8月7日には1,000万バレル弱の、それぞれ量へと減少した。もっとも、8月14日には1,100万バレル弱の水準へと回復している。アジア一部諸国で製油所メンテナンス作業が実施されたことで、シンガポールへの中間留分の流入が低迷する反面シンガポールからアジア諸国各国への中間留分輸出が行われたと見られることに加え、5~6月を中心として欧州で製油所のメンテナンス作業が活発に実施されたことから、夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期を前にして、欧州の軽油価格がアジア市場でのそれに対ししばしば割高となったことから、中東諸国から欧州方面への軽油等の輸出がそれなりに行われた反面、アジア方面への輸出が抑制されたことが、8月上旬にかけシンガポールでの当該製品在庫を押し下げたものと考えられる。もっとも、アジア地域での一部製油所ではメンテナンス作業が終了し操業を再開するとともに中間留分を含む石油製品の生産が活発化したことで、シンガポールから他のアジア諸国への中間留分輸出が抑制されたことが、当該製品在庫の回復に寄与しているものと考えられる。そして在庫の減少傾向伴い当該製品需給に引き締まり感が発生したことがアジア市場での軽油価格に上方圧力を加えたことに加え、ドバイ原油価格の下落に軽油のそれが追い付かない場面が見られたことから、7月中旬から8月中旬にかけ当該製品価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油の価格は原油価格のそれを上回っている)は拡大傾向を示している。

7月10日には1,900万バレル台前半の量であったシンガポールの重油在庫は、7月17日には、1,800万バレル台半ば程度の水準、7月24日には1,700万バレル弱の、それぞれ量へと減少した。しかしながら、7月31日に1,900万バレル強、8月7日には2,200万バレル弱の、それぞれ水準へと回復している。ただ、8月14日には1,900万バレル台後半の量へと再び減少している。7月24日にかけ重油在庫が減少した(中東での夏場の空調のための発電向け重油需要の盛り上がりもあり、西側諸国方面等からシンガポールへの重油の流入が抑制されたことが背景にあるものと考えられる)ことで、かえってシンガポールでの重油価格の西側諸国でのそれに対する割高感が強まったことから、その後西側諸国方面等からシンガポールに向け重油の流入が活発化したことが、7月下旬から8月にかけての当該在庫水準回復傾向の背景にあるものと考えられる。そして7月中旬から下旬にかけ重油在庫が減少傾向となったことによりアジア市場での重油需給の引き締まり感が市場で増大したことが重油価格に上方圧力を加えた結果、当該時期において重油価格は総じてドバイ原油価格を上回るなど堅調に推移した。しかしながら、その後重油在庫が増加したことにより重油需給の緩和感が市場で醸成されたことがアジア市場での重油価格に下方圧力を加えたことから、7月下旬から8月中旬にかけては、重油価格はドバイ原油価格を下回ったうえ、その度合いは拡大する傾向を示した。


2. 2019年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場等の状況

2019年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場では、7月中旬から下旬にかけてはハリケーン「バリー」の米国メキシコ湾通過後当該地域での原油生産が回復しつつあることが示されたことや欧米諸国の経済指標類がそれら地域経済の減速を示唆していたこと等が原油相場に下方圧力を加えた一方で、中東のホルムズ海峡付近で英国船籍のタンカーがイランにより拿捕されたことや、米国のトランプ大統領が金融当局に対し大幅な金利引き上げの要望を表明したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油相場はWTIで1バレル当たり50ドル台後半の範囲で推移した。しかしながら、7月末に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で金利引き下げが決定された後、これが長期的な金利引き下げの始まりではない旨パウエルFRB議長が示唆したうえ、トランプ大統領が中国製品に対し追加関税を賦課する方針である旨発表したことから、8月初頭には原油価格は50ドル台前半へと変動領域を切り下げた。もっとも、サウジアラビア等が減産措置を積極的に推進する意志を表明したことに加え、米国が中国に対する追加関税賦課を一部延期する旨明らかにしたことから、8月上旬後半頃には原油相場は回復、8月中旬には概ね50ドル台半ば程度で推移している(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~19年)

米国がイランに対する制裁を解除し離脱した核合意に復帰すれば、イランとしては協議する用意がある旨7月14日にロウハニ大統領が明らかにしたことで、米国とイランを巡る対立の先鋭化に対する懸念が7月15日の市場で後退したことに加え、7月15日に中国国家統計局が発表した2019年第二四半期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比で6.2%の増加と第一四半期の同6.4%の増加から鈍化したことで、同国経済成長と石油需要の伸びに対する懸念が市場増大したこと、ハリケーン「バリー」が熱帯性低気圧へと勢力を弱めるとともに、米国メキシコ湾沖合の原油生産停止量が7月15日時点で日量131万バレルと前日の同138万バレルから低下した旨示されたことで、「バリー」の原油生産への影響に対する懸念が市場で後退したことから、7月15日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.63ドル下落し、終値は59.58ドルとなった。7月16日も、米国メキシコ湾沖合の原油生産停止量が同日時点で日量109万バレルと前日の同131万バレルからさらに低下した旨示されたことで、「バリー」の原油生産への影響に対する懸念が市場で一層後退したことに加え、7月16日に米国のトランプ大統領他が、イランがミサイル計画につき交渉する用意がある旨明らかにしたとして、米国とイランとの関係改善の兆候が見られる旨示唆したことで、中東情勢不安定化と当該地域からの原油供給への支障の可能性に対する懸念が市場で低下したこと、自らが希望すれば中国からの輸入品に対し追加関税を賦課することが可能である旨7月16日にトランプ大統領が表明したことで米国と中国の貿易紛争の先行きに対し不安視する向きが市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.62ドルと前日終値比で1.96ドル下落した。7月17日には、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(7月12日の週分)でガソリン在庫が前週比で357万バレルの増加と市場の事前予想(同93~240万バレル程度の減少)に反し増加していた他、留出油在庫が同569万バレルの増加と市場の事前予想(同30~61万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことで、米国石油製品需要の弱さが市場で意識されたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.84ドル下落し、終値は56.78ドルとなった。また、ロシア国営石油輸送会社トランスネフチが自社の原油パイプライン(輸送される原油が有機塩素化合物で汚染された(そのまま使用すると製油所の装置を傷めると言われる)ことにより4月25日に操業停止、5月2日には部分的操業を開始したと伝えられる)で輸送する原油に関し、7月16日に同国国営石油会社ロフネフチからの受け入れが完全に復旧した旨トランスネフチが7月18日に明らかにしたことから、ロシアからの原油供給への支障を巡る市場の懸念が後退したことに加え、ハリケーン「バリー」の米国メキシコ湾地域通過に伴う原油生産停止量が7月18日時点で日量35万バレル程度にまで減少したことで、当該地域での石油供給途絶懸念が市場で軽減したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.30ドルと前日終値比で1.48ドル下落した。この結果原油価格は7月15~18日の4日間で併せて1バレル当たり4.91ドルの下落となった。7月19日には、米国海軍の強襲揚陸艦「USSボクサー」に接近してきた無人機(米国はイランのものであると主張しているが、イランはそれを否定)を撃墜した旨7月18日午後遅く(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表したことに加え、船舶位置情報の発信を怠ったうえ革命防衛隊の警告に従わなかったとしてホルムズ海峡付近で英国船籍のタンカー「ステナ・インペロ」をイランが拿捕した旨7月19日に革命防衛隊が発表したことで、中東情勢の不安定化に伴う当該地域からの原油供給への懸念が市場で増大したことに加え、7月19日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で779基と前週比で5基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で730基と同5基減少)していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.63ドルと前日終値比で0.33ドル上昇した。

7月22日も、イランが「ステナ・インペロ」を拿捕したことで、中東情勢の不安定化に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.59ドル上昇し、終値は56.22ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2019年8月渡し原油先物契約は取引を終了したが、9月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり56.22ドル(前日終値比0.46ドルの上昇)であった)。7月23日も、米国海軍の強襲揚陸艦「USSボクサー」が先週2基目のイラン無人機を撃墜したかもしれず、現在確認中である旨7月23日に米国中央軍のマッケンジー司令官が明らかにしたことで、ホルムズ海峡を含む中東地域の情勢不安定化に伴う当該地域からの石油供給に対する懸念が市場で増大したことに加え、米国のライトハイザー通商代表部(USTR)代表他が貿易協議を実施するために7月29日に中国に向かう旨7月23日に報じられたことで、両国の貿易問題解決に向けた協議の進展に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.77ドルと前日終値比で0.55ドル上昇した。この結果原油価格は7月22~23日の2日間で併せて1バレル当たり1.14ドルの上昇となった。7月24日には、この日英国経済情報サービス会社IHSマークイットから発表された7月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)(50が経済好不況の分岐点)が51.5と6月の52.2から低下したうえ市場の事前予想(52.1~52.2)を下回ったことに加え、同じく7月24日に米国商務省から発表された6月の同国新築住宅販売件数が年率64.6万戸と市場の事前予想(同65.8~66.0万戸)を下回ったことで、欧米諸国の経済成長と石油需要の伸びに対する不安感が市場で増大したことに加え、サウジアラビアとクウェートの中立地帯(日量50万バレル程度の原油生産量であるが、Wafra油田がメンテナンス作業実施に伴い操業を停止した旨2015年5月13日にクウェートのオマイル石油相が発表したことにより、2014年10月14日に報じられたKhafji油田の環境問題に伴う操業停止と併せ事実上完全操業停止)につき、原油生産再開に向け協議を開始したと7月24日に報じられたことにより、当該地域での原油生産能力の増強に対する期待が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.88ドルと前日終値比で0.89ドル下落した。7月25日には、この日開催された欧州中央銀行(ECB)理事会で、この先金利引き下げを含む金融緩和措置を行う方針である旨示唆されたことで、欧州経済の浮揚に対する期待が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル上昇し、終値は56.02ドルとなった。また、7月24日にイランが中距離弾道ミサイルを試験発射した旨7月25日夜(米国東部時間)にCNNが報じたことで、中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給への支障に対する懸念が7月26日の市場で増大したことに加え、7月26日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で776基と前週から3基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で726基と同4基減少)となっている旨判明したことで、この先の米国のシェールオイル等原油生産量が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したこと、7月25日夕方(米国東部時間)に発表された米国複合企業アルファベット及び米国コーヒーチェーン大手スターバックス、7月26日に発表された米国SNS企業ツイッターの2019年4~6月期業績が市場の事前予想を上回ったことに加え、7月26日に米国商務省から発表された2019年4~6月期同国国内総生産(GDP)(速報値)が前期比で年率2.1%の増加と市場の事前予想(同1.8%の増加)を上回ったこともあり、7月26日の米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.20ドルと前日終値比で0.18ドル上昇した。この結果原油価格は7月25~26日の2日間で併せて1バレル当たり0.32ドルの上昇となった。

また、英国の船舶を護衛するための同国の駆逐艦「ダンカン」がペルシャ湾に到着した旨7月28日に同国国防省が発表したことで、ホルムズ海峡を含む中東情勢不安定化に伴う当該地域からの石油供給に対する懸念が市場で増大したことに加え、米国のトランプ大統領が、小規模の金利引き下げでは不十分である旨7月29日に表明したことで、7月30~31日に開催されるFOMCを前にして、米国金融当局による金利引き下げ期待が市場で増大したこと、そして、7月31日にEIAから発表される予定である米国石油統計(7月26日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日(7月29日)の原油価格の終値は1バレル当たり56.87ドルと前週末終値比で0.67ドル上昇した。7月30日も、7月31日にEIAから発表される予定である米国石油統計で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、米国がドイツに対しホルムズ海峡での船舶運航上の安全確保体制参加を正式に要請した旨7月30日に駐ベルリン米国大使館が明らかにしたことで、同海峡を含めた中東情勢不安定化及び当該地域からの石油供給に対する懸念が市場で増大したこと、米国金融当局に対し大幅な金利引き下げを希望している旨7月30日にトランプ大統領が示唆したことで、FOMCでの金利引き下げ決定に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.18ドル上昇し、終値は58.05ドルとなった。7月31日も、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で850万バレルの減少と市場の事前予想(同260~390万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、7月30~31日に開催されたFOMCで0.25%の金利の引き下げが決定したこと、リビアのSharara油田(原油生産量日量31.5万バレル)が7月30日午後10時(現地時間)に同油田からZawiya石油ターミナルへと原油を輸送するパイプラインのバルブが閉じられたことにより生産を停止したうえ、7月31日には当該油田からの原油の出荷につきリビア国営石油会社NOCが不可抗力条項の適用を宣言したことで、同国からの原油供給減少の懸念が市場で発生したこと、OPEC産油国14ヶ国の7月の原油生産量が前月比で日量28万バレル減少している旨7月31日にロイター通信が報じたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.58ドルと前日終値比で0.53ドル上昇した。この結果原油価格は7月29~31日の3日間で併せて1バレル当たり2.38ドルの上昇となった。しかしながら、7月30~31日のFOMC開催後の7月31日午後(米国東部時間)に、パウエルFRB議長が、今回の金利引き下げは必ずしも一連の金融緩和政策の開始ではない旨表明したことで、米国株式相場が下落するともに米ドルが上昇した流れを8月1日の市場が引き継いだことに加え、8月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された同国製造業景況感指数(50が当該部門の好不況の分岐点)が51.2と6月の51.7から低下、2016年8月(この時は49.6)以来の低水準となった他、市場の事前予想(52.0)を下回ったこと、8月1日午後に米国のトランプ大統領が、現在関税が賦課されていない3,000億ドル相当の中国製品に対し9月1日を以て10%の関税を賦課する方針である旨表明したことで、米国と中国の貿易紛争が激化する結果、世界経済が減速し石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で増大したことから、8月1日の原油価格の終値は1バレル当たり53.95ドルと前日終値比で4.63ドル下落した。ただ、8月2日には、前日の下落に対し原油先物契約を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、8月2日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で770基と前週から6基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で720基と同6基減少)となっている旨判明したことで、この先の米国のシェールオイル等原油生産量が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.71ドル上昇し、終値は55.66ドルとなった。

8月5日には中国人民元が1ドル当たり7.0352元と2008年5月9日以来で初めて1ドル当たり7元を超過したことに対し中国金融当局が人民元下落を容認する旨同日(8月5日)報じられたうえ、8月6日未明(中国時間)には中国商務省が米国の農産品の輸入を停止した旨発表したことで、貿易紛争を巡る米国と中国の対立の先鋭化に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり54.69ドルと前週末終値比で0.97ドル下落した。また、8月5日夕方(米国東部時間)に米国財務省が中国を為替操作国に認定したことから、米国と中国の貿易問題を巡る対立の先鋭化と世界経済成長の減速及び石油需要の鈍化に対する懸念が8月6日の市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.06ドル下落し、終値は53.63ドルとなった。さらに、8月7日も、この日EIAから発表された同国石油統計(8月2日の週分)で原油在庫が前週比で239万バレルの増加と市場の事前予想(同270~380万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.09ドルと前日終値比で2.54ドル下落した。この結果原油価格は8月5~7日の3日間で併せて1バレル当たり4.57ドルの下落となった。ただ、8月8日には、これまでの価格下落に対し原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、サウジアラビアが原油価格の下落を抑制すべく他の産油国と対策につき協議した旨8月7日午後(米国東部時間)に報じられた他、9月のサウジアラビアの国外向け原油出荷につき顧客が望む量から日量70万バレル削減する旨サウジアラビア関係者が明らかにしたと8月8日に報じられたことで、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、8月8日に中国税関総署から発表された7月の同国輸出が前年同月比で3.3%の増加と2019年3月(この時は同13.8%の増加)以来の増加率となった他、市場の事前予想(同1.0~2.0%の減少)に反し増加している旨判明したこと、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が8月6日の週に前週比で290万バレル減少した旨Genscapeが明らかにしたと8月8日に伝えられたことで、米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.54ドルと前日終値比で1.45ドル上昇した。また、8月9日には、サウジアラビアが原油価格の下落を抑制すべく他の産油国と対策につき協議した旨8月7日午後に報じられた他、9月のサウジアラビアの国外向け原油出荷につき顧客が望む量から削減する旨8月8日に報じられたことで、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを8月9日の市場が引き継いだことに加え、8月9日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で764基と前週から6基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で718基と同2基減少)となっている旨判明したことで、この先米国のシェールオイル等原油生産量が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.96ドル上昇し、終値は54.50ドルとなった。この結果原油価格は8月8~9日の2日間で併せて1バレル当たり3.41ドル上昇した。

また、クウェートは原油価格支持のための産油国による減産合意実施に対し断固たる決意を持っており、7月の同国の減産遵守率は160%近くと減産目標を超過して減産している旨同国のファディル石油相が8月12日に発言したと報じられたことで、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産措置によるこの先の石油需給引き締まり観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.43ドル上昇し、終値は54.93ドルとなった。また、8月13日も、8月14日にEIAから発表される予定である米国石油統計(8月9日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、9月1日に10%の関税賦課が予定されていた中国製品の一部であるノートパソコン、玩具及びビデオゲーム等に対し、賦課の実施を12月15日まで延期する旨8月13日に米国商務省が発表した他、同日中国の劉鶴副首相と米国のライトハイザーUSTR代表が電話で会談、2週間以内に両国の当局者が再度電話会議を実施することで合意した旨8月13日に中国商務省が発表したことで、米国と中国の貿易紛争による世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.10ドルと前日終値比で2.17ドル上昇した。この結果原油価格は8月12~13日の2日間で併せて1バレル当たり2.60ドルの上昇となった。8月14日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で158万バレルの増加と市場の事前予想(同250~280万バレルの減少)に反し増加していた旨判明したことに加え、8月14日に中国国家統計局から発表された7月の同国鉱工業生産が前年同月比で4.8%の増加と6月の同6.3%の増加から低下、2002年2月(この時は同2.7%の増加)以来の低水準になった他市場の事前予想(同5.8~6.0%の増加)を下回ったうえ、同じく同日に発表された7月の同国小売売上高が前年同月比で7.6%の増加と市場の事前予想(同8.6%の増加)を下回った一方で、同日ドイツ連邦統計局から発表された2019年4~6月期の同国国内総生産(GDP)(速報値)が前期比で0.1%の減少を示していたことに加え、同日米国国債の10年物と2年物の利回りが逆転したことにより世界経済成長減速に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.23ドルと前日終値比で1.87ドル下落した。8月15日も、8月1日にトランプ大統領が発表した中国製品への追加関税賦課方針に対し、中国としても報復措置を講じざるを得ない旨8月15日に同国財政省等が表明したことで、貿易紛争を巡る米国と中国の対立の先鋭化と石油需要に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.76ドル下落し、終値は54.47ドルとなった。この結果原油価格は8月14~15日の2日間で併せて1バレル当たり2.63ドル下落した。ただ、米国のトランプ大統領が非常に近いうちに中国の習近平国家主席と電話で協議する旨発言したと8月15日午後遅くに報じられたことで、米国と中国の貿易紛争に関する協議進展に対する期待が8月16日の市場で増大したことに加え、8月15日夕方米国半導体大手エヌビディアの2019年5~7月期業績が市場の事前予想を上回った他、ドイツが景気後退に突入した場合には同国政府は債務を増加させて対応する方針である旨8月16日にドイツのシュピーゲル誌が伝えたこともあり、8月16日の米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は54.87ドルとなっている。


3. 原油市場における注目点等

8月1日には、イエメン南部の港湾都市アデンで軍事パレードに対し無人機等による攻撃が行われ、49人が死亡したが、イランが支援しているとされ、同国のハディ暫定大統領派勢力(サウジアラビアが支援)と対立するフーシ派武装勢力が犯行声明を同日発表している。また、8月7日には、アデンで、イエメン南部の分離を主張する「南部暫定評議会(STC: Southern Transitional Council)」(UAEが支援)とハディ暫定大統領の軍との間で戦闘が発生、8月10日にはSTCがハディ暫定大統領の宮殿を占拠した(ハディ暫定大統領はサウジアラビアに退避中で不在と見られると報じられる)。

7月16日には、ドバイからフジャイラに向かいつつあったタンカー「リア」(UAEのプライム・タンカー所属)がイラン領海内に進入したうえ、消息不明となったが、7月18日には、イランは当該タンカーがイランからの原油密輸行為(100万リットル:6,290バレル)に加担していた(沖合で別のタンカーへ積み替えるようとした)として拿捕した旨報じられる。他方、英国国防省は7月16日に、ペルシャ湾(既にフリゲート艦「モントローズ」を派遣し商業船舶の護衛を実施中だが、近く駆逐艦「ダンカン」を派遣予定)に対し、8月には補給艦「ウェーブナイト」、そして9月にはフリゲート艦「ケント」が派遣される予定である旨明らかにした。また、7月15日にはイランのザリフ外相が米国が制裁を解除すれば交渉の余地はあると述べ、ミサイル問題につき交渉したいのであればサウジアラビアやUEAへの武器売却を停止する必要がある旨明らかしているが、イランの国連代表部はミサイル問題については交渉できない旨7月16日に明らかにしている。7月18日午前にはホルムズ海峡にいた米国強襲揚陸艦「USSボクサー」が無人機を撃墜した旨同日トランプ大統領が発表した(米国は無人機はイランのものと主張しているが、7月18日にイラン外務省のアラグチ次官はイランは無人機を失っていない旨明らかにした)。また7月18日には米国財務省がイラン、中国、ベルギーを拠点として活動する7団体及び5個人に対し、イランのウラン濃縮活動のためのアルミニウム供給に関与したとして制裁を科する旨発表した。他方、7月19日には、米国政府がワシントンでホルムズ海峡での船舶の安全航行を確保するための有志連合計画である「海洋安全保障イニシアティブ」につき日本を含む諸外国政府60ヶ国超の関係者に説明、船舶を海上から監視するための艦船や航空機、中央指揮所向けの要員の派遣や資金の支出面を含む貢献を求める旨明らかにした(8月5日に英国は有志連合計画に同国海軍を参加する旨明らかにしている)。7月19日には、英国船籍タンカー「ステラ・インペロ」が船舶位置捕捉装置を稼働させていなかったうえイラン側の警告に従わなかったとしてイラン革命防衛隊が拿捕した(7月21日にラリジャニ国会議長がジブラルタル沖で英国が海賊行為を働いた(イランタンカー拿捕のことを指していると見られる)ことに革命防衛隊が対応した旨明らかにしている)。また、7月19日には米国中央軍はサウジアラビアのリヤド南東のプリンス・スルタン基地に約500名の米軍関係者を駐留させる(6月17日にシャナハン米国防長官代行が発表した約1,000人の米国軍事関係者中東追加派遣の一環とされる)旨発表した(駐留は2003年に撤退して以来のこと)。7月22日には、英国は欧州諸国と組んでホルムズ海峡を含む中東地域でのタンカーの安全航行確保体制の構築を図る旨表明している。また、同日米国のポンペオ国務長官は中国の珠海振戎(Zhuhai Zhenrong)とその経営責任者に対しイランから原油を輸入したとして米国内での資産の取り扱いや外国為替を含む金融取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。7月28日には、英国駆逐艦「ダンカン」がペルシャ湾に到着した旨英国防相が発表した。また、同日には、一定程度の欧州とイランとの貿易額が確保できれば、イランの核合意逸脱行為を取りやめる旨ロウハニ大統領が示唆したと報じられる。また、7月31日に米国財務省はイランのザリフ外相に制裁を科する旨発表した。同氏が米国に保有する資産の凍結と米国人との取引禁止がその内容となるが、ザリフ氏は、米国には資産を保有しておらず、影響は限定的とされる。他方、ザリフ外相が7月中旬に訪米しポール上院議員と会談した際、ポール氏はザリフ氏にトランプ大統領との直接会談の実施を提案していたと8月4日にイラン政府は明らかにした。当該会談はイラン政府が承認しなかったため実現しなかった。8月15日には、英領ジブラルタル自治政府が7月4日に拿捕したイランの石油タンカー「グレース1」の解放を発表している(米司法省が当該タンカー拿捕期間延長を要求しており、ジブラルタル自治政府司法当局は検討中と8月15日に伝えられる)

リビアでは7月19日夜にシャララ油田で生産された原油をZawiya石油ターミナルへと輸送するパイプラインのバルブが閉じられた結果、NOCは7月20日遅くにZawiya石油ターミナルでの原油の出荷に関し、不可抗力条項の適用を宣言した(生産が日量29万バレル減少したと7月20日に伝えられる)。ただ、7月22日未明には生産が徐々に回復しつつある他不可抗力条項の適用も7月22日に解除された旨報じられる。しかしながら、7月30日午後10時(現地時間)には、Sharara油田からZawiya石油ターミナルへのパイプラインのバルブが再度閉じられたことにより原油生産が停止したうえ、7月31日には当該油田からの生産原油の出荷につきNOCが不可抗力条項の適用を宣言した。しかしながら、8月8日には徐々に原油生産が再開されつつあるうえ、不可抗力条項の適用も解除されたと伝えられる。

7月15日には、ベネズエラのロドリゲス通信情報相が同国のマドゥロ大統領派勢力とグアイド国会議長派勢力がバルバドスでノルウェー政府を介し和平協議を再開する旨明らかにした(グアイド国会議長派勢力も参加する旨発表したと7月15日に伝えられる)。8月1日には米国のロス商務長官が、ベネズエラが社会主義政府を終結させるのであれば、投資等を通じ同国の民主化や経済改革推進に貢献する用意がある旨表明した。ただ、8月5日には米国のトランプ大統領が米国におけるベネズエラ政府の資産凍結に加え、財務省が制裁対象としているマドゥロ政権関係者に対し物質、財政及び技術面で支援を実施した人物に対しても資産凍結や米国への入国を原則禁ずることを内容とする大統領令を発動した。これにより、マドゥロ政権を支援している中国やロシア等の外国関係者に対しても制裁が適用されることを8月6日に米国のボルトン大統領補佐官は示唆した。他方8月7日にはマドゥロ大統領は、この制裁を理由として、8月8日に実施する予定であった、ノルウェー政府の仲介による反体制派勢力との協議には参加しない旨明らかにした。

このように地政学的リスク面では複数の国で動きが見られるが、まずはこの面で市場が注目するのはイラン情勢であろう。当面米国はイランに対し政府関係者やイランの原子力産業と関係を持つイラン内外の個人もしくは法人等に対し制裁を発動する一方で、イランはペルシャ湾でのタンカー等の拿捕を行う(もしくはイラク領土内他に対しイラン関連武装勢力等と見られる勢力がミサイルや無人機による攻撃等を行う)ことで、両国間でいわゆる挑発行為が散発する一方、対話の機会の模索が続くものの実際の対話実現までにはなお紆余曲折を経る他実現するとしてもなお相当程度の時間を要するものと思われる。ただ、米国がイランに対し軍事行動を開始するのであれば別である(そしてその場合原油価格とともに米国ガソリン小売価格(8月5日時点で1ガロン当たり2.772ドル)が急上昇するとともに、米国民のトランプ政権に対する不満が増大、トランプ大統領の支持率と2020年11月に予定される大統領選挙に悪影響を及ぼすといった事態が想定されることから、トランプ大統領はそのような展開は余程のことがない限り望まないものと見られる)が、いわゆる米国等とイランとの小競り合いが継続するといったことであれば、そのような展開は市場の心理には既に粗方織り込み済となっていることから、原油価格への上方圧力はあったとしても緩やかなものとなるものと考えられる。

また、リビアについても、西部のトリポリを拠点とする国連が支援する統合政府と東部トブルクを拠点とする政府(暫定議会)との対立及び軍事衝突は継続しており、このような衝突がさらに激化するか、ないしは政府機能が麻痺することにより地方部族への統制が機能しなくなる等することにより、油田の操業に影響が生じるようであれば、同国からの原油供給が下振れする結果、相対的に石油需給の引き締まり感が市場で強まり、原油相場に上方圧力が加わる可能性があるので注意が必要であろう。

ベネズエラでも7月22日夕方に大規模な停電が発生している(同国の原油生産及び出荷への影響は必ずしも明らかになっていないが、7月の原油生産量は6月比でほぼ変わらずとなってはいる)など、同国の政治・経済及びインフラ状態が依然不安定であることが窺われ、マドゥロ大統領派勢力とグアイド国会議長派勢力との対立が続く中、米国等による制裁の発動などにより同国経済が悪化し(実際8月5日には、米国のトランプ大統領が米国でのベネズエラ政府資産凍結や第三国関係者によるマドゥロ政権支援に対して制裁を科する旨の大統領を発動した)、インフラの稼働に支障が生ずるようであれば、同国からの原油生産がさらに下振れする可能性も否定できない状態であるので、同国情勢についても注視していく必要があろう。

米国では、7月30~31日にFOMCが開催されたが、同委員会直前にトランプ大統領が大規模な金利引き下げを期待していたにもかかわらず、0.25%の小幅の金利引き下げが決定された(このため、委員会直後にトランプ大統領はFOMCの決定には落胆した旨表明している)うえ、パウエルFRB議長は今回の決定は景気循環の過程上の調整であり一連の金利引き下げ政策の開始ではない旨発言したことから、長期に渡る金融緩和方針の実施による経済活性化を期待していた市場関係者を失望させる格好となった。そして8月1日には、トランプ大統領が中国に対し追加関税の賦課を発表している(8月2日には中国の張軍国連大使が中国も報復措置を講ずる用意がある旨示唆している)こともあり、これらの要素が市場での世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化観測へと直結する結果、原油相場に下方圧力を加える格好となっている。今後例えば8月22~24日に開催される予定であるカンザスシティー連邦準備銀行主催のジャクソンホールでの経済シンポジウム(於ワイオミング州ジャクソンホール)等で、パウエルFRB議長(8月23日に講演を行う予定)が、世界経済に対するリスクをより強く認識するとともに、相応の規模の金融緩和政策の実施に対する強い姿勢を示唆することにより、金利引き下げに対する期待が市場で持ち直すようであれば、経済回復への期待の増大と資金供給量の増加による投資家のリスク許容度の拡大を通じ原油相場に上方圧力が加わり始めるといった展開もありうるが、引き続き米国金融当局による金融緩和姿勢が慎重なままであれば、原油相場に下方圧力が加わりやすい状態が継続するものと考えられる。

他方、英国では、7月24日に欧州連合(EU)離脱推進派のジョンソン元外相が首相に就任したが、同氏は10月31日にEUを離脱する方針であり、それがEUとの合意による秩序を伴ったものではないものとなる可能性があり、もしその通りに事態が推移した場合には、英国のみならず欧州経済混乱に対する懸念が市場で増大、英国を含む欧州の株式相場が下落、ユーロ及び英ポンドが下落するとともに米ドルが上昇することを通じ、原油相場に下方圧力を加える可能性があるため、今後も英国離脱を巡る英国とEUとの協議の動向につき緊密に監視する必要があろう。

また、中国経済指標類もこの先発表される予定であるが、これらの内容が、同国経済が減速しつつあることを示唆するものであれば、同国の石油需要の伸びも鈍化するとの見方が市場で強まる結果、原油相場が下落する場面が見られることもありうる。

米国では、8月31日~9月2日の労働祭(レイバーデー)の休日(9月2日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期は終了する。そしてそれ以降の秋場の石油不需要期とメンテナンス作業の実施を視野に入れつつ、製油所は稼働を低下、原油精製処理量を減少させるとともに、原油購入を不活発にしてくる。このようなことから、これからの時期は季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなる。このため、夏場のドライブシーズン最後の行楽時期である連休直前を中心として、ガソリン需要が一時的に盛り上がることで原油相場が浮揚する場合もありうるが、全体としては、この面では原油相場に下方圧力を加えやすくなるものと考えられる。

ただ、原油価格がWTIで1バレル当たり50ドル方向への下落傾向が強まるようだと、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国等が原油価格の下落抑制のための原油供給調整に向けた意志を強めるといった展開も考えられ(既に8月7日~12にサウジアラビア、クウェート及びUAEは原油相場の維持のため減産措置に対する積極的な姿勢を表明する等している)、その場合、石油需給の引き締まり感が市場で意識される結果原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性もある。

大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入しており(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)、特に8月後半以降10月前半迄は1年で最もハリケーン等が発生しやすい時期となる。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり(当該地域では2018年は日量174万バレルの原油を生産した)、湾岸地域の石油受け入れ及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国での原油輸入に影響を与えたりする(2018年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量59万バレル程度の原油を輸入した)。5月23日発表の国立海洋大気局(NOAA)国立ハリケーンセンター及び8月5日時点のコロラド州立大学の予想によると、2019年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは概ね平年並みの暴風雨の発生が予想されている(表1参照)。それでも、このような予想に反し暴風雨の活動が活発化する可能性もあることから、この先のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には留意する必要があろう。

表1 2019年の大西洋圏でのハリケーン発生個数予想

全体としては、地政学的リスク要因の展開次第では、原油相場に上方圧力が加わるといった展開も否定できないものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かうことにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成される他、米国と中国の貿易紛争に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化観測が原油相場に下方圧力を加える結果、原油価格の上昇が少なくとも抑制される他、経済状況等の要因次第では下落する場面が見られる可能性がある。もっとも、原油価格が持続的に下落し、例えばWTIで1バレル当たり50ドルを割り込もうとする局面では、サウジアラビア等が減産措置強化の可能性に対する意志表明等を行うことにより、原油相場が反発する場面が見られるものと考えられる。また、米国金融当局が世界経済リスクの増大を意識するとともに、相応の規模の金融緩和措置実施可能性を示唆するようであれば、経済回復に対する期待及び資金供給量の増加に伴う投資家のリスク許容度の拡大により、原油先物市場に資金が流入し、原油相場に上方圧力が加わることも想定される。


4. 世界天然ガス市場動向

米国では、シェールガス開発・生産の効率が向上するとともにコストが低減していることや、特に米国パーミアン盆地でシェールオイル等石油坑井掘削後生産を開始した油田から随伴して天然ガスが生産されることもあり、天然ガス生産量は前年同期を上回る状態が続いている(図16参照)。もっとも、2018年11月以降天然ガス価格が下落傾向を示すとともに、2019年1月下旬以降は100万Btu 当たり2ドル台に突入していることもあり、全米の天然ガス坑井掘削装置の稼働数も2019年初来減少しつつある(2019年1月11日には同国天然ガス水平坑井掘削装置稼働数は196基であったが8月16日には159基となっている)ことから、2019年1月時点の同国天然ガス生産量は前年同月比で13.9%増加していたものの、7月時点では同8.3%の増加とその増加幅は縮小しつつある。

図16 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~20年)(EIA発表時期別)

他方、米国からメキシコに向けてはパイプラインを経由して天然ガスが安定的に出荷されている(図17参照)他、2019年3月1日には米国テキサス州コーパス・クリスティ(Corpus Christi)LNG第一液化施設(LNG生産量年産450万トン)がLNGの出荷を開始したこともあり、同国からのLNG輸出はさらに増加しつつある(図18参照)。また、需要面では、米国では老朽化した石炭火力発電所が廃棄されつつある一方でそれなりの規模で天然ガス火力発電所が新設され稼働を開始している。このため、米国での発電量に占める天然ガス火力発電の比率が上昇している(一方で石炭火力発電の占める比率が低下している)(図19参照)。そして5月においては米国では前半を中心として気温が平年を下回っていた(図20参照)こともあり、暖房向け天然ガス需要が発生、反対に6~8月にかけては、米国各所での気温が上昇したことにより、空調のための電力向け天然ガス需要が堅調となる場面が見られた。それでも、5月の気温の低下は平年を若干下回るものでしかなく、また6~8月については気温が平年を大幅に上回る状態はそれほど持続しなかったこともあり、同国の天然ガス需要の前年同月比での増加幅は比較的限定的なものにとどまった(図21参照)。このように、米国での天然ガス需要及び輸出は堅調ではあったが、同国の天然ガス生産の伸びを大幅に相殺させるには力不足であった結果、天然ガス地下貯蔵量の増加ペースはむしろ加速する方向で推移した結果、3月22日には平年値(過去5年平均)を33.2%下回っていた同国天然ガス地下貯蔵量は8月9日時点では平年を下回る率が3.9%と大幅に縮小した(図22参照)。そして、このようなことから米国天然ガス需給の引き締まり感が市場で後退するとともに、夏場の高温による空調のための発電向け天然ガス需要期が残り少なくなってきていることに加え、米国の天然ガス生産が堅調であることから、この先冬場に天然ガス需給引き締まりが発生する可能性に対する懸念が市場で後退したことが、同国の天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、5月20日には100万Btu当たり2.673ドルの終値であった天然ガス価格は下落傾向となり、8月16日には同2.200ドルとなった他、8月5日には同2.070ドルと2016年5月26日(この時同1.963ドル)以来の低水準に到達する場面も見られた(図23参照)。

図17 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~19年)

図18 米国からのLNG輸出量及び主な輸出先(2016~19年)

図19 米国の発電量に占める石炭と天然ガスの占有率(2011~19年)

図20 米国(ニューヨーク)気温(2019年)

図21 米国天然ガス消費増加量(2015~19年、前年同月比)

図22 米国天然ガス貯蔵量(2017~19年)

図23 天然ガス先物価格の推移(2007~19年)

英国を含む欧州では、5月後半から6月にかけては気温が高すぎず低すぎずであり、空調向け発電用の天然ガス需要が抑制されたことに加え、ノルウェー等からパイプラインにより輸送される天然ガス及びLNGにより輸入される天然ガス等の供給も堅調であった(米国やロシアからのLNG輸出が好調である一方で、アジア市場でのLNG需給が緩和状態となっている(後述)こともあり、特に欧州周辺諸国のLNG供給が欧州に向かいやすくなっているものと考えらえる)(図24参照)ことから、欧州の天然ガス在庫は前年同期を上回る程度を拡大する方向で推移するなどした(8月15日時点で当該在庫量は3.13兆立方フィートと2018年10月27日に到達したこの年の最高水準である3.10兆立方フィートを超過している)(図25参照)ことで、天然ガス需給の緩和感が市場で醸成されたことが、天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、例えば5月20日には100万Btu当たり推定3.9ドル程度であった英国の天然ガス価格は下落傾向となり、6月27日には同3.1ドル程度となった。もっとも7月前半には、ノルウェーのニーハムナ(Nyhamna)ガス処理施設(処理能力日量6.4億立方フィート)を初めとして複数の天然ガス関連施設が設備のメンテナンス作業の実施や操業上の支障等で生産を停止したことが、天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、7月12日には英国の天然ガス価格が100万Btu当たり4ドル台半ば程度にまで回復する場面が見られた。しかしながら、7月後半にはノルウェーからの英国への天然ガス供給が回復し始めたことに加え、同国での風力発電が堅調であったこともあり、天然ガス需要が抑制された結果、英国沖合でのガス田のメンテナンス作業実施による天然ガス供給低下が価格を下支えしたものの、英国の天然ガス価格は再び概して下落傾向となり、8月16日には100万Btu当たり推定で3.7ドルとなった(7月25日には英国ロンドンの気温が38度にまで上昇したが、このような高温状態は短期で終息したことから、天然ガス価格への影響は限定的であった)。

図24 欧州のLNG輸入(2006~19年)

図25 欧州天然ガス在庫(2018~19年)

北東アジア市場では、米国と中国の貿易紛争に伴う中国経済減速による産業用及び発電用天然ガス需要の低迷、及び暖冬の影響による暖房用天然ガス需要の不振により天然ガス在庫が高水準を維持した。そして、米国と中国の貿易紛争は根本的には解決しないままとなっていることから、引き続き中国での産業用及び発電用天然ガス需要が低迷したままとなったうえ、日本では梅雨が長引き、その間は気温が低下した他、中国や韓国でも気温が低下する場面が見られたことから、空調のための発電向け天然ガス需要が盛り上がらない状態が続いた。このようなことに加え、日本、中国及び韓国のLNG需要家は長期契約によるLNG購入を契約で許容される範囲内で低減しつつも継続したことで、これら諸国のスポットLNG調達が低調であった一方、これら需要家が削減した長期契約分のLNG供給がスポットLNG供給として市場に流入したことが、北東アジア市場でのスポットLNG価格に一層の下方圧力を加える格好となった。また、2019年3月1日には米国でコーパス・クリスティ LNGの第一液化施設が操業を開始した(前述)他、豪州でも6月11日にプレリュードLNG(LNG生産能力年産360万トン)がLNG出荷を開始したたことも、北東アジア市場でのスポットLNG価格を抑制する方向で作用した。この結果、LNGのスポット価格と長期契約価格(原油価格連動型価格体系が主流)が相当程度乖離して割安になったことにより、一部のポートフォリオLNG取扱者が長期契約を締結する需要家向けに安価なスポットLNG調達を実施する動きが見られたことに加え、マレーシアLNG(LNG生産能力年産2,570万トン)、ロシアのサハリン2 LNG(同960万トン)、豪州北西大陸棚LNG(同1,680万トン)、豪州イクシスLNG(同890万トン)、及び豪州プルートLNG(同470万トン)等で操業上の支障等が発生したと5月下旬から6月中旬にかけ報じられたが、これらを以てしても、LNG需給を引き締めてスポットLNG価格を強力に押し上げるには不十分であった他、欧州での天然ガス価格低迷の影響を北東アジア市場のLNG価格も受けた結果、北東アジア市場でのLNG価格は5月前半の100万Btu当たり5ドル台半ば近辺の水準から変動領域を切り下げ、5月下旬から8月上旬にかけては100万Btu当たり概ね4ドル台、それも前半を中心とする範囲で推移した。

以上

(この報告は2019年8月19日時点のものです)

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