ページ番号1007887 更新日 令和1年11月1日
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概要
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中国は大気汚染対策や低炭素化社会の実現という観点から天然ガスの利用促進を政策的に進めている。また、それらの実現のために輸入・輸送・貯蔵インフラの整備や市場化を進めている。
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天然ガス需要は石炭から天然ガスへの転換政策が過去2年急速に進行したことで伸びしろが縮小したことや米中関係や世界経済の減速により2017、2018年に比べ伸びが鈍化。ただし19年通年では前年比10%増の見通しであり、引き続き世界の天然ガス消費のけん引役となる。
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国内生産は政府が安全保障の観点から国内供給増加を奨励し、国有石油企業が投資を増加したことで上向いている。しかし輸入比率は4割を超えたままでLNGの輸入は引き続き高いペースで推移。2019年通年のLNG輸入は前年比900万トン増の約4,500万トンの見通し。2024年にはLNG単独で日本を上回る最大のLNG輸入国に成長すると見込まれる。
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政府は天然ガス市場化に関する政策を打ち出している。習主席がトップを務める委員会で国有パイプライン会社の設立が決定され、陸上の主要な幹線パイプラインの輸送価格が公開された。また幹線パイプラインを対象としたパイプラインの開放と監督管理規則が制定された。
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中国は政策的に欧州型の天然ガスの市場化を進めようとしているようだ。中国政府、企業による天然ガスハブ市場設立や中国の需要を反映した天然ガス価格形成の意向、同国の天然ガス消費・輸入増加のスピード、取引所利用や国有パイプライン会社設立による第三者アクセス促進の動きを踏まえると、同国の天然ガス市場化は予想以上のスピードで進む可能性がある。
はじめに 中国における天然ガスの位置付け
2019年6月に発表された“BP Statistical Review of World Energy”によると、中国の2018年の消費量は前年比17.7%増(43Bcm増)の283Bcm(約2億700万トン)で、米国、ロシアに次ぐ世界第3位(日本の2.4倍を消費する)の天然ガス消費国である。同国は大気汚染対策や低炭素化社会の実現という観点から天然ガスの利用促進を政策的に進めている。また、それらの実現のために輸入・輸送・貯蔵インフラの整備や市場化を進めている(図1)。
政策的な後押しにより中国の天然ガスシフトは急ピッチで進んでいる。国家統計局によると、天然ガスの1次エネルギー消費に占める比率は2000年の2.2%から2018年は7.8%に増加した。

各種情報に基づきJOGMEC作成
政府は「天然ガス発展13次五か年計画」(国家発展改革委員会、2016年12月)において2020年に天然ガスの1次エネルギー消費に占める比率を8.3~10%とする目標を設定している。さらに2017年8月に公表した「エネルギー生産・消費革命戦略」において、2030年に1次エネルギー消費に占める原子力・再生可能エネルギーの比率を20%前後、天然ガスの比率を15%以上に高める目標を設定しており、天然ガスの利用を中長期的に拡大する政策である(図2)。同戦略に基づき2030年の1次エネルギー消費を石油換算42億トン(以下、toe)とした場合、天然ガスの消費量は現在の2.6倍の740Bcmとなる。ただしこの目標は若干野心的のようだ。IEA は2030年の天然ガス消費は1次エネルギーの12%(560Bcm)と見ている(2018年11月、World Energy Outlook2018)。またIEAはその前年公表のアウトルックにおいて2030年の天然ガス消費を482Bcm、輸入比率を46%、224Bcm(パイプライン114Bcm、LNG110Bcm<8,300万トン>)と見ていた。
中国最大の国有石油会社CNPC傘下のCNPC経済技術研究院(CNPC-ETRI)は2030年の消費を39億toe、天然ガスの消費を1次エネルギーの12.7%(590Bcm)と見ている(「2050年の世界・中国エネルギー展望」、2019年8月)。またCNPC-ETRIの天然ガス部門の担当者は、上記はエネルギー全体のベースシナリオであり、2030年の天然ガス消費は輸入ガスの価格により変動するが、概ね540Bcm(3億9,000万トン)程度、その内訳として、シェールガスを中心とする非在来型ガスの増産を前提に国内生産340Bcm、輸入比率を37%、200Bcm(1億4,600万トン)と見ている。シェールガスの生産は前年比26%増(2.3Bcm増)の11.3Bcmと大きく伸びた。ただし依然として生産の7%、消費の4%という状況である。シェールガスは国有石油企業2社(Sinopec、PetroChina)が主に同国西南部四川・重慶地域で生産している。2020年の政府シェールガス生産目標(30Bcm)に向け2社は投資を拡大しているが、Sinopec とPetrochina の開発計画を見る限り、目標達成は数年遅れる可能性が高い。今後シェールガスの大幅な増産を進めるにあたり深度の深い地域、あるいは山地かつ人口密度の高いエリアにおける開発などの課題があり容易ではない。2030年における中国の天然ガス需給はこれらの不確実性を抱えている。

出所:中国能源摘要2019および「エネルギー13次五か年計画」、「生産・消費革命戦略」に基づき作成
1. 最近の天然ガスを巡る状況
1-1. 需給、LNG市場における中国の存在感の高まり
中国における天然ガスの主な生産地域は四川、新疆など消費地から離れた西部に偏っており、1990年代中頃まで地産地消で開発は限定的であった。しかし消費地の北京や上海などを結ぶ幹線パイプラインや都市ガス導管が整備された2000年前後から天然ガスの開発・利用が進んだ。
中国能源(エネルギー)統計年鑑によると、天然ガス消費は過去10年で4倍近く伸びた。特に製造業、電力・熱供給、交通輸送、家庭分野で伸びた。日本では天然ガスの6割強が発電向けに使われているが、中国における天然ガスの用途は製造業(工業炉、ボイラー、化学工業の原料・熱源など)で40%ともっとも多く、ついで電力・熱供給が19%、都市ガス(家庭用)が18%、交通輸送分野(CNG自動車向けなど)が12%となっている(図3)。

出所:中国能源統計年鑑2019に基づき作成
中国の天然ガス消費は2017年と2018年に2年連続で前年比15%以上増加という高い伸びを示した。「大気汚染防止行動計画(2013~17年)」(2013年9月、国務院)や「北部のクリーン暖房化計画(17~21年)」(2017年12月、国家発展改革委員会)など一連の環境政策(石炭から天然ガスへの転換政策)に加え、国内の天然ガス価格が代替燃料に比べ相対的に安く、価格競争力があったことが増加の主な要因である。2017年は石炭から天然ガスへの転換政策による需要の急激な増加に加え、中央アジアからのパイプラインガス供給トラブルがあったためにLNGの輸入が急増した。
2019年1-7月の中国の天然ガス需給は消費が前年同期比10%増の171Bcmで前年の17%増に比べ伸びが若干鈍化した(18年消費は280Bcm、2億500万トン)。石炭から天然ガスへの転換政策が過去2年急速に進行したことで伸びしろが縮小したことに加え、米中関係悪化を含む世界の経済情勢の変化も天然ガスの需要を抑制する要因となっている(図4)。とはいえCNPC-ETRIによると2019年通年の天然ガス消費は前年比10%増加し300Bcm(2億2,000万トン)を超える見通しであり、引き続き世界の天然ガス消費のけん引役は中国と言える。
2019年1-7月の国内生産は前年同期比10%増の100Bcmであった(18年は160Bcm)。安全保障意識の高まりから政府は企業に国内供給強化を求めており、国有石油企業が投資を増やした(国有石油企業3社の2018年上流投資額は前年比25%増の約450億ドル、19年は同20%増の約540億ドルの見通し)ことで堅調に推移した。
2019年1-7月の天然ガス輸入は前年同期比11%増の76Bcm(5,550万トン)で、輸入比率は44%である(18年は123Bcm、9,030万トン)。内訳はLNGの輸入が同18%増の46Bcm(約3,350万トン)、パイプラインガスの輸入が横ばいの29Bcm(約2,200万トン)である。LNGの輸入が輸入の6割を占めており、過去2年と同様にLNGがパイプラインガスの輸入を上回っている。

BP Statistical Review of World Energy 2019に基づき作成(19年1-7月はCNPC-ETRIより聴取)
この他、2019年1-7月はSINOPECによるLNGの輸入が増加した。SINOPECは北部の天津(Tianjin)、山東省青島(Shandong・Qingdao)および西南部の広西自治区北海(Guangxi・Beihai)の3基地(受入能力3基地計年960万トン)を操業中だが、SINOPEC関係者によると2018年に操業を開始した天津基地における受け入れが好調であったことに加え、今年完成した河南省濮陽(Puyang)市文(Wen)-23地下貯蔵(ワーキングガス量<払い出し可能量3.3Bcm>)に安価に推移しているスポットLNGにより貯蔵を行い、貯蔵コスト低減を図った模様である。
また、ロイターなどによると2019年8月にCNOOCからの転売(リロード)LNG1カーゴ約7万トンが日本の知多受入基地に入った。CNOOC関係者によるとポートフォリオ契約により受け入れた米LNGを海南・洋浦(Hainai・Yangpu)受入基地(受け入れ能力年300万トン)の保税タンクに入れ、入札により国際石油資本を介し日本に向かった模様である。中国はこれまで米LNGについて売り主との協議によるダイバート、日本のユーティリティ他との交渉によるダイバートを行って来たが、今回のような入札による中国から日本へのリロードは初めてのことである。受入前のダイバートに加え、受け入れた上で保税タンクに貯蔵し、入札というプロセスを経て、税金を払わずに米LNGを捌くことができた(新たなオプションを手に入れた)ことが中国にとっての意義と考えられる。
また中国側の統計によると、7月に日本からLNG17トンが輸出された。日本から中国へのコンテナによる輸出は2018年10月に大連向けに輸出が行われており、統計上は今回が2度目である。
国際LNG輸入者協会(GIIGNL)によると、2017年に中国のLNG輸入は前年比1,200万トン増加の3,800万トンとなり、韓国を超え世界2位のLNG輸入国となった。2018年は前年比約1,600万トン増加の約5,400万トンとなり、パイプライン輸入と合わせた輸入量は9,000万トンを超え、日本を上回る世界最大の天然ガス輸入国となった。2018年の世界のLNG輸入量の前年比2,400万トン増加の3億1800万トンに対し、中国は増分の3分の2を占めたことになる。また、世界のLNG輸入におけるシェアは2018年時点では日本が26%(約8,300万トン)で中国は17%だが、IEAは2024年までに中国がLNG輸入単独で8,000万トンを超え、日本を上回ると見ており(Gas2019、2019年6月)、中国の世界のLNG市場における存在感は高まっている(図5)。なお、19年通年のLNG輸入は前年比900万トン増の6,300万トンの見通しである。

IEA Gas 2019(2019年6月)
国別の輸入の状況(図6)を見ると、2018年はトルクメニスタンが輸入ガスの28%(34Bcm)と最大の輸入相手先であったが、19年1-7月では豪州からのLNGの輸入が輸入の30%(1,640万トン、22Bcm)で首位となった。豪州からのLNG輸入は長期契約供給の増加に伴い前年同期比38%増加(447万トン増加)した。一方、トルクメニスタンからの1-7月の輸入は同3%減の20Bcm(約1,470万トン)で輸入ガスの27%を占めた。トルクメニスタンに加えウズベキスタンからの供給も減少した。SIA Energyによると、中央アジアパイプラインのメンテナンスに加え、国産ガスの増産やガスの市況からPetroChinaが調達を絞った模様である。カザフスタンからの輸入は長期契約増量に伴い前年同期比35%増加の4Bcm(286万トン)であった。パイプラインガスを巡り気になる動きはロシアの存在である。まず今年12月1日からシベリアの力パイプラインを通じロシア東シベリアからのパイプラインガスの中国への供給が始まる。契約量は年38Bcmだが、2024年まで段階的に輸入量を増加(ランプアップ)させる契約となっている。そのロシア国営Gazpromは子会社を通じ期間5年(2024年1月30日まで)で年5.5Bcmのガスをトルクメニスタン国営Turkmengasから購入することで契約を締結した。トルクメニスタンは生産の5割を自国で消費、残りをほぼ全量中国に輸出しており、国内消費も伸びていることから、今後はロシアから中国向けの供給が伸びる一方でトルクメニスタンから中国向けの供給が停滞する可能性がある。また中国はロシアとパイプラインガスに加え、YamalとArctic-2 LNGを合わせ年約700万トン(9.5Bcm)の契約を結んでおり、パイプラインとLNGの輸入を合わせると40Bcm前後となり、2024年頃にロシアからの供給がトルクメスタンや豪州を上回る可能性がある。
ちなみにロシアはかつて欧州向けのガスを、トルクメニスタンを含む「裏庭」の中央アジア諸国から調達していたが、ロシアは金融危機後需要が減少する欧州市場に対し自国のガス輸出を優先させ、買い取り価格値上げを迫るトルクメニスタンからの購入を控えるようになり、2015年以降ロシアはトルクメニスタンからの調達を止めていた。ロシアへの依存から脱却し多様化を図りたかったトルクメニスタンは中国から巨額の融資を得て中国向けの天然ガス輸出パイプライン(中央アジアパイプライン)を建設し、2010年1月から中国向けの輸出を開始(契約量30Bcm)した。ロシア迂回ルートの構築と対露バーゲニングを獲得したトルクメニスタンであったが、中国がガスを生産、輸送、販売、買い取るというスキームを許しロシアへの依存が中国への依存に置き換わるという結果を招いた。今回のガス売買契約は2014年以降の石油価格低下や国内要因から経済危機に陥ったトルクメニスタンにロシアが手を差し伸べた形である。トルクメニスタンの中国一辺倒からの脱却を図りたいという思惑と、ロシアのトルクメニスタンにおける政治・経済的プレゼンスを再認識させるという思惑が合致したと考えられる。さらに、あるロシアのエネルギー専門家によると、ウクライナとのパイプライントランジット契約が今年11月で失効するロシアがウクライナとの協調を模索しており、ウクライナ向けの安いガス供給ソースとしてトルクメニスタンのガスを調達する狙いがあると見ている。
LNGは米国からの輸入が追加関税の影響により前年同期の168万トンから27万トンへと大きく減った(2018年の米LNG輸入量は215万トン)。

出所:新華社China OGPに基づき作成
参考:中国の天然ガス価格
天然ガス卸価格(幹線パイプラインにおける各省、地域のシティゲートへの基準卸価格)は中央政府が統制しており、不定期に見直しを行っている。価格はパイプラインの輸送距離により異なり(ネットバック)、最新の見直し(2019年4月)では最安値が新疆の4.1ドル/MMBtu、最高値は上海や広東の8.1ドル/MMBtuで平均は6.7ドル/MMBtuとなっている。かつては産業用卸価格が民生用より高く設定されていたが、2018年6月に統一されている。この基準卸価格に基づき各地方政府が小売価格およびCNG自動車向け価格を定めている。上海を例に挙げると産業・民生用価格が12.6~15.2ドル/MMBtu、CNG自動車向けが18.8ドル/MMBtuに設定されている(表1)。一方、トラック(ローリー)LNG配送価格は統制されておらず、需給に基づき変動している。中国では国産LNGと輸入LNGの一部が特に導管未接続エリアでトラックLNG(ローリーやコンテナ)により配送される。サテライトステーションを経て需要家やCNG充填ステーション(天然ガス自動車向け)に供給,あるいは需要家のもとに直送される。コンサルタントのSCIによると、2019年7月の上海へのトラックLNG配送価格は9.7~9.8ドル/MMBtuであった。
参考:上海(19年7月) ドル/MMBtu |
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中央政府 | 幹線パイプライン輸送価格 | パイプライン企業毎に異なる |
各省・地域への卸価格(シティゲート) | 8.1 | |
地方政府 | 小売価格 産業・民生 CNG自動車 |
産業・民生:12.6~15.2 CNG自動車18.8 |
市場価格 | トラックLNG配送価格 | 9.7~9.8 |
国家発展改革委員会、SCIに基づき作成
1-2. 貯蔵・輸送(地下貯蔵、LNG受入基地、トラックLNG)
中国の天然ガス供給構造を表2にまとめた。天然ガスの生産の8割、輸入の9割以上は主に国有石油会社3社による。特にCNPC(PetroChina)は国内天然ガス生産の7割をおさえ、幹線パイプラインの輸送およびトルクメニスタンを初めとする中央アジアやミャンマーからのパイプラインガスによる輸入、卸売を一手に担っている。LNG受入基地について操業中基地の9割は国有石油企業3社(CNOOC、PetroChina、Sinopec)が最大出資者である。LNG輸入の5割はCNOOCが行っている。末端の都市ガス配給事業についてはPetroChina傘下の都市ガス会社もあるが、北京燃気(ガス)、上海ガスなど地方政府系のガス会社あるいは新奥(ENN)などの民間都市ガス会社が地方政府と協力して行っている。
貯蔵について、中国には枯渇油ガス田や岩塩ドームを利用した天然ガス地下貯蔵設備が13か所(ワーキングガス量計約17Bcm、18年の天然ガス消費の約6%、約22日)ある。政府は天然ガス13次五か年計画において2020年までに地下貯蔵設備を増設し、ワーキングガス量148Bcmとする目標を設定しているが、2年前倒しで達成したことになる。この他受入基地により異なるが、LNG受入基地の運転在庫は販売量の3%程度(約10日、18年の天然ガス消費の0.5%程度)とされる。しかし中国政府は欧米の地下貯蔵の能力が消費の15%程度あるとして地下貯蔵やLNG受入基地におけるタンクの増設を企業に求めている。2018年4月に国家発展改革委員会が公示した「天然ガス貯蔵設備建設の加速ならびにピーク需要向け貯蔵システム構築に関する意見」によると、ガス貯蔵容量について2030年にワーキングガス量35Bcmという目標を設定している。目標実現のためにPetroChinaなどの輸入・卸売事業者に対し供給の10%、北京ガスなどの都市ガス事業者に対し同5%、各地方政府に消費の3日分の在庫を持つことを推奨している。しかし卸売事業者から地方政府に至るまで資金の不足などを理由に貯蔵能力積み増しのペースは鈍いようだ。
LNG受入基地は2019年9月現在22基地(受入能力約6,600万トン)が操業中である。今年は南部で小規模なLNG受入基地2基地が操業を開始した。1つはCNOOCの広西・防城港(Guangxi・Fangchenggang)基地である。同基地はCNOOCにとり10番目の基地で3万立方メートルの貯蔵タンク2基を有し、受入能力は年60万トンである。CNOOCは同基地から広西自治区の他、雲南省(Yunnan)、貴州省(Guizhou)など西南地区にLNGを供給する計画だが同地域ではすでにSinopecの広西・北海(Beihai)受入基地(受入能力年300万トン)が操業中であり、PetroChinaもミャンマーから輸入したパイプラインガスを供給中で競合が予想される。
もう一つの基地は広東省深圳市政府傘下の都市ガス会社深圳燃気(Shenzhen Gas)が初めて建設した広東・深圳華安(Guangdon・Shenzhen Hua’an)基地(受入能力年60万トン)である。業界紙によると8月にインドネシアのボンタンLNGからスポットカーゴを受領した模様である。地方政府系都市ガス会社では上海申能(Shenergy)の上海・五号溝(Wuhaogou)受入基地(受入能力年50万トン)に次ぐものだ。華安基地は世界で最もコンパクトな基地とされる。8万立方メートルの貯蔵タンク1基を有し、1万~9万立方メートルのLNG小型船(0.5~4万トン)のみ受入が可能だ。

出所:各種資料に基づきJOGMEC作成
2017年から2018年冬季に急激な石炭から天然ガスへの転換政策による天然ガスの不足が発生した際、トラックLNGの流通が大きく伸びた。
中国の独立系コンサルタントSIA Energyが主要国産LNGプラントおよびLNG受入基地のトラックLNG出荷データを集計しているが、2018年のトラックLNG流通量は約2,500万トン(うち国産1,100万トン、輸入LNG1,400万トン)であった。2019年1-7月は1,600万トン(うち国産720万トン、輸入LNG880万トン)で前年同期を上回るペースで推移している。図8は中国全土のLNG市況を反映した中国のLNG出荷価格(“中国LNG出荷価格全国指数”)だ。上海石油天然ガス交易中心(SHPGX)が国内主要国産LNGプラント・LNG受入基地、SHPGXにおける取引データをベースに、SHPGX出資者の報告を加味し算出したものだが、これを見ると出荷価格は19年1月の15ドル/MMBtuから8月には9ドルを下回っている。CNOOCなど関係者によるとトラックLNGは参入業者が増え、競争が激化しているとのことである。国産ガスの増産もあり、マージンは低下し価格変動が大きいとのことだ。

出所:中国のLNG出荷価格:SHPGXの情報をもとに作成。
JKM価格:S&P Global Plattsの情報をもとに作成© 2019 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc. All rights reserved
2. 中国政府による天然ガス市場化の取り組み
中国政府は天然ガス産業における国有石油企業の独占打破と市場化に向けた取り組みを進めている。政府はパイプラインやLNG受入基地など輸送・貯蔵インフラへの第三者アクセスを促すべくガイドラインの公示や行政指導を行っている。8月には国有パイプライン会社の準備委員会が組織され、10月に設立の見込みである。また、政府主導で上海と重慶に天然ガス取引所を設立し、中国の需給を反映した指標価格、ハブ市場の形成を目指している。現時点では上海と重慶の天然ガス取引所における取引量は消費の1割程度で、参加者も限られ、流動性は低い。輸送・貯蔵設備への第三者アクセスも限定的である。
2-1. 天然ガス市場化に関連した主な政策
天然ガス市場化についての一連の政策は2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(18期三中全会)における"改革の全面的な深化における若干の重要な問題に関する中共中央の決定"における"現代市場システムの整備加速"という方針に基づいている。2019年は中央政府や各地方政府が天然ガスに関する様々な政策を打ち出しているが、本稿はその中から天然ガスの市場化を促すと中国国内で期待が高まる国有パイプライン会社の設立とパイプライン設備の開放、輸送価格の公開に関する政策を紹介する。
2-1-1. 習主席がトップの委員会で国有パイプライン会社の設立を決定
2019年3月19日、習近平国家主席がトップを務める中央改革全面深化委員会第7回会議において“石油天然ガスパイプライン網運営メカニズムの改革についての実施意見”が審議、通過した。パイプライン網運営メカニズムの改革、高度な開放を進めることや国有企業が株式を保有し、多角的な投資主体による石油天然ガスパイプライン会社を設立することが決められた。これにより上流油ガス資源の供給が多角化され、統一した輸送インフラによる効率向上が見込まれるとしている。2018年現在、省を跨ぐ主幹線総延長は9万6,000キロメートルあり、そのうち63%をCNPC、31%をSINOPEC、6%をCNOOCが保有している。この他省・自治区レベルの幹線パイプラインが2万5,000キロメートルあり、三大国有石油会社とその他企業が5割ずつ保有している。また都市ガス導管は2016年時点で50万キロメートルある。
2-1-2. パイプライン輸送価格の公開
2019年3月27日、国家発展改革委員会は「省を跨ぐ天然ガスパイプライン輸送価格の調整に関する通知」を公示し、4月1日から施行した。今回の通知ではパイプライン設備の開放に向けて、省を跨ぐ陸上幹線パイプラインの企業単位の輸送価格を公開した(表3)。これは2016年10月に国家発展改革委員会が公示、施行した「天然ガスパイプライン輸送価格(試行)管理法」および「天然ガスパイプライン輸送コスト(試行)審査法」に続くものである。それまで輸送費は容認されたコストに合理的な収益を加算するというあいまいなものであったが、この価格(試行)管理弁法によりパイプライン企業に対し内部収益率(IRR)を税引き後8%と定め、監督管理の対象を個別のパイプラインから企業単位とした。CBMや石炭合成ガスのパイプラインが含まれる一方で、原油・石油製品パイプラインや海洋のパイプラインの輸送価格は本通知では公開されていない。
2-1-3. パイプラインの開放と監督管理規則
2019年5月、国家発展改革委員会、国家能源局、住宅都市建設部、市場監督総局が連名で「石油・天然ガスパイプライン施設の公平な開放と監管弁法」(以下、「パイプライン開放・監督規則(19年5月)」)を公示した。2014年2月に「石油・天然ガスパイプライン網の公平な開放と監督管理弁法(試行)」を施行しており、今般5年の試行期間を経て「パイプライン開放・監督弁規則(19年5月)」が公示、施行された。「パイプライン開放・監督規則(19年5月)」の目的は石油・天然ガスパイプラインの設備利用率向上、安定供給、秩序あるパイプライン設備の公開(第三者アクセス)と競争の促進である。開放の対象は陸上と海洋の石油・天然ガス幹線パイプラインでガス導管は含まれない。対象のパイプライン企業は国家能源局あるいは政府が指定した情報プラットフォーム(取引所など)ならびに自社ウェブサイトにおいて毎年12月5日までに次年度の月毎の設備余剰能力を公示し、毎月10日までに残りの月の余剰能力についての情報を更新すると定められている。
2-2. 政府主導で設立された天然ガス・LNG現物取引所
中国には現在上海と重慶の2か所に天然ガス・LNGの現物取引を行う取引所がある。本稿では主に上海について紹介する。
上海石油天然気交易センター(SHPGX)は政府(国家発展改革委員会および国家能源局)が主導し、2015年3月に国営通信社の新華社、国有石油企業3社(CNPC、SINOPEC、CNOOC)ならびに地方・民間の発電・都市ガス会社(申能集団<Shenergy>、北京燃気<Beijing Gas>、中国燃気<China Gas>、中国華能<China Huaneng>、新奥<ENN>、港華燃気<Towngas>)の計10社が共同で出資(資本金10億元)して上海自由貿易区に設立した(図9)。2015年7月にパイプラインとLNGの現物取引のテスト運用を、2016年11月にパイプラインとLNGの現物取引(公示・競売)を開始した。また2018年以降LNG受入基地容量を開放する“ウィンドウ取引”の情報プラットフォームとして機能している。会員企業数は約2,400社でShellやExxonMobilも名を連ねている。2018年の取引量はパイプラインガス取引とLNGを合わせ約2,500万トン(パイプライン240億m3、LNG228万トン)で2018年の天然ガス消費の約1割に相当する。会長は新華社出身者が務め、出資企業各社から役員を出しており、上流、下流に偏らない公平な取引プラットフォームをコンセプトとしている。

出所:SHPGX
SHPGXのLNGの現物取引は通常LNG船(カーゴ単位)ではなく、トラック(ローリー)である。公示1件あたりの取引量は1,000トン未満が多く、最大10万トン程度である。SHPGXの電子取引システム上に売り手または買い手が指値およびその他条件を公示、電子契約を結び、約定期限内に生産、実物を引き渡す取引である。図10にウェブサイトの公示の一部を例として示すが、例えば掲牌日期(公示日)8月16日、掲牌・成交量(公示・成約量)120トン、掲牌・成止価(公示・成約価格)4,375元/トン(12ドル/MMBtu)、交収地(引き渡し場所)CNOOC浙江省寧波LNG受入基地(江蘇・安徽地区)、交収裁止日(取引期限)2019年12月31日というように公示日、公示・成約量と価格、引き渡し場所、取引期限が表示されている。引き渡し場所は地域(省・市)あるいはLNG受入基地である。

出所SHPGX
SHPGXではパイプラインガスやLNGの現物取引に加え、2018年以降LNG受入基地の能力を一定期間、一定量第三者に開放する“ウィンドウ取引”を実施している。2018年9月に行われた初回のウィンドウ取引ではCNOOC傘下のCNOOC Gas & Powerが広東掲揚(Jieyang)LNG受入基地(2017年操業開始、受入能力年200万トン)を開放し、SHPGXが取引参加者向けの”ウィンドウ”(取引参加者向けの商品参考情報掲示板)を提供した。国有軍需会社北方工業公司(Norinco)傘下の振華(Zhenhua)石油控股有限公司と山東省民間企業の龍口勝通(Longkou Shengtong)能源有限公司が競争入札で落札した豪州カーゴ6.15万トン(CNOOCの長期契約)を輸入した。同年10月下旬にはCNOOC Gas & Power が別のLNG受入基地を開放し、2度目のウィンドウ取引を実施した。
2019年5月、SHPGXとCNOOCはLNG受入基地の容量を開放する“ウィンドウ取引・ワンストップ”を公示した。従来1船単位であったウィンドウ取引の期間と数量を拡大した。表4にまとめた通り長期(2020年4月から10年超)と短期・中期(2019年6月から1年、1.5年、2.5年)がある。長期は年4船提供(長期契約とスポットを4半期毎に交互に提供)。短期・中期は四半期毎に1船、長期契約の供給優先(長期契約カーゴはCNOOCが既に契約しているカーゴ提供する。うち1船は6~8月に提供する)、スポットは買い手の独自調達可能である。関係者によると、現在CNOOC以外のLNG受入基地は空き容量が無く、ウィンドウ取引を行っていないが、将来余剰ができれば対象となる模様である。
2-3. 国有パイプライン会社設立
2019年8月に国家油ガス管網公司(国有パイプライン会社)の準備委員会が組織され、10月の設立に向け準備を進めている。準備委員会は国有石油会社経営層の7名(CNPC3名、SINOPEC・CNOOC各2名)で構成される。準備委員会メンバーの一人、張偉(Zhang Wei)CNPC総経理(兼PetroChina副会長)が国家パイプライン会社の会長を兼任する予定と報じられている。この他CNPCは候啓軍(Hou Jijun)副総経理兼PetroChina執行董事社長、CNPC管道(パイプライン)公司社長、党委書記の姜昌亮(Jiang changlinag)氏がメンバーである。SINOPECは副総経理の劉中雲(Liu Zhongyun)氏、財務総監の王徳華(Wang Dehua)氏、CNOOC副総経理の李輝(Li Hui)氏、CNOOC精製石化子会社中海煉化会長の何仲文(He Zhongwen)氏がメンバーである。
まだ情報は錯綜しているが、国有資産監督管理委員会が管理し、国有3社と同様に会長が副大臣級の中央企業となる見込みである。国内9割の天然ガス幹線パイプラインをカバーする他、将来的には天然ガス貯蔵設備やLNG受入基地を組み込む可能性があるという。また、Sanford BernsteinはPetroChina関係者からの聴取で国有企業が7割を出資、30%は市場に放出されるとの見方を示している。
中国では米国の幹線パイプライン50万キロメートルに比べ中国の幹線パイプラインは不十分でさらに整備しなければならないと考えており、国家発展改革委員会「中長期油ガスパイプライン計画(2017年7月)によると2025年までに天然ガス幹線パイプラインを16万3,000キロメートルに増設する目標を設定している。
中国国内を含め業界関係者はパイプライン資産の評価を含め、機能的な運営には時間を要するとし、急速な第三者アクセスの進展や競争の促進について懐疑的な見方を示している。
2-4. 需給を反映した価格形成、LNG先物、取引所増設の動き
SHPGXのウェブサイト上の発展戦略には“中国価格”を形成すると明記されている。2019年4月に上海で開催されたLNG19において、SHPGXの葉国標(Ye Guobiao)会長(元新華社上海分社副社長)は「LNGの原油価格連動は合理性を失っており、SHPGXは中国ハブ、上海ハブを目指す」と述べている。またOxford Institute for Energy Studies(OIES)のジョナサン・スターン教授はガスエネルギー新聞のインタビュー(2019年3月11日)において「上海・重慶でのハブ設立も前進させている。これらのハブはまだ発展途上で流動性もないが、中国が輸入するLNGの価格は中国のハブで値付けするという政府の意図ははっきり示されている。」と指摘している。
国有石油企業関係者は、中国の需給を反映した価格形成は課題も多く時間を要すると思われるが、天然ガス(LNG)の供給側に対しインパクトを与える手段として有効と前向きにとらえている。SHPGXは「欧州のような形で天然ガスの市場化が進み、間もなく正式に設立する国有パイプライン会社が軌道に乗ると、パイプラインへの第三者アクセスが進み、取引が増える。パイプラインと国内で生産したLNG価格の競合が起こり、パイプラインの価格統制が外れ、市場化が進む」と見ている。またSHPGXの関係者は「中国のLNG長期契約はJCC連動のものがあるが、将来的には、JKMに相当するような中国スポットLNG価格の設立が必要と認識している。国産ガス卸価格、輸入パイプラインガス卸価格、輸入LNGローリー出荷価格、国産LNGローリー出荷価格などを按分したバスケット方式になる」と考えている。
業界紙によると国家能源局(NEA)は中国がアジアにおける価格ハブを確立することで日本や韓国などに後れを取りたくないと考えているという。先物取引は2種類が検討されている。1つは上海国際エネルギー取引所(INE)における原油先物と同様の取引を想定しており国外プレイヤーにも門戸を開放するという。先物は流動性とプレイヤーの参加がカギとなるが、上海国際エネルギー取引所(INE)で行われている原油先物は取引量こそ多いが、国内の投機筋以外はほとんど関心を示さず指標価格形成にはほど遠い現状である。中国の関係者の中にはLNGにおいても同じことになるのではないかと懸念している向きもある。現在現物取引を行っているSHPGXで先物も扱う可能性がある。
もう1つはトラックLNGの先物取引を想定しており、こちらは国内トレーダーに限定されるという。トラックLNGは政府が価格統制を行っておらず、比較的着手しやすいが、ガス消費に占める割合が少ないトラックLNGだけでは指標にならないという見方がある。
企業はLNG供給側との契約価格の見直しに活用できるとして賛同しているという。CNPC関係者は「独自の市場価格が無ければLNGサプライヤーに長期契約の価格の検討を要請できない」と指摘している。
この他、広東・香港・澳門大湾区(「大湾区」とは、香港、澳門の2つの特別行政区と広東省の広州市、深圳市、珠海市など9都市で構成)で域内天然ガス取引所創設の動きがある。7月5日に広東省は広東・香港・マカオ大湾区建設指導グループが発表した「大湾区建設3年行動計画(2018~2020年)」を発表、その中で同域内の天然ガス取引組織設置を推進することを明らかにした。新疆など他の地域においても天然ガス取引所創設の動きがある。
おわりに
中国は政策的に欧州型の天然ガスの市場化を進めようとしている。天然ガス・LNGの輸入事業者は中国の需給を反映した価格により長期契約を締結することを望んでいる。国有パイプライン会社が設立され、一定の時間を要しながらもパイプラインへの第三者アクセスが進み、SHPGX他の取引所における取引量が増えるとパイプラインと国内で生産したLNG価格の競合が起こり、国内パイプライン卸価格統制が外れ、中国“ハブ”価格形成が進む可能性がある。
中国政府、企業による天然ガスハブ市場設立や中国の需要を反映した天然ガス価格形成への意志や同国の天然ガス消費・輸入増加のスピード、取引所利用や国有パイプライン会社設立によるパイプラインの第三者アクセス促進の動きを踏まえると、同国の天然ガス市場化は予想以上のスピードで進む可能性がある。
以上
(この報告は2019年10月2日時点のものです)