ページ番号1007894 更新日 令和1年10月15日
原油市場他:サウジアラビア原油供給関連施設攻撃に伴う操業停止で大幅に上昇するも、早期の復旧見込みが示されたうえ、石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことで、沈静化する原油価格
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概要
- 米国では秋場のメンテナンス作業実施等により製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少した結果、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限も超過し続けている。他方、ガソリンについては、製油所での生産活動は鈍化したものの、夏場のドライブシーズンに伴う需要期が終了したことによる需要の低下により相殺されたことから、在庫は上下に変動しつつも比較的限られた範囲内で推移したが、平年幅上限を上回る量となっている。また、留出油については、製油所での生産活動が減速した一方で、2020年1月以降の船舶用燃料の硫黄含有分規制強化に備え米国外諸国での船舶向け軽油在庫積み増しの動きが発生したことにより輸出が堅調であったことから、在庫は減少傾向となり平年幅下方に位置する量となっている。
- 2019年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で増加となった他、欧州では製油所での秋場のメンテナンス作業実施に加え一部諸国での製油所での装置不具合発生等により原油精製処理量が減少したこともあり原油在庫は若干ながら増加した。他方、日本では秋場の製油所でのメンテナンス作業実施を控え原油輸入量が減少したと見られることもあり当該在庫は減少した。結果としてOECD諸国全体として原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧米諸国及び日本いずれも製油所での石油製品製造活動が不活発となったこともあり、OECD諸国全体として在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている。
- 3. 2019年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場では、9月14日のサウジアラビアの油田及び原油処理施設への攻撃による操業停止で原油価格(WTI)は2008年9月22日以来の大幅な上昇となり、攻撃直前の終値である1バレル当たり55ドル弱から攻撃直後には63ドル弱の終値に到達した。しかしながら、原油生産能力が早期に攻撃前の水準にまで回復する見通しである旨サウジアラビアが表明したことに加え、米国と中国の貿易紛争を巡る対立等に関し経済成長及び石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したこと等から、以降は下落傾向となり9月末以降は攻撃直前の原油価格を下回る状態となっている。
- この先冬場の暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることに加え、中東地域(イラン、サウジアラビア、イエメン、イラク、及びシリア等)情勢と石油供給への影響に対する不安感が原油相場を下支えする一方で、米国と中国の貿易紛争及びトランプ大統領のウクライナ問題を巡る米国議会の大統領弾劾手続きの行方等を巡る不透明感と経済及び石油需要への影響に対する懸念が、原油価格の上昇を抑制するものと考えられる。そのような中で、中東地域等において実際に発生する各種事象、米国等経済指標類、米国石油統計などにより原油相場が変動していくものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2019年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量948万バレルと前年同月比で1.6%程度の減少となり(図1参照)、速報値(前年同月比で0.9%程度減少の日量955万バレル)から下方修正された。7月の同国ガソリン(最終製品)輸出量についてEIAは速報値時点では暫定的に日量61万バレル程度と見込んでいたものの、実際の輸出量は日量68万バレル程度と速報値を日量7万バレル上回っていたことから、この部分が確定値算出段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、下方修正の一因と見られる。また、7月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.823ドルと、前月から0.019ドル(約0.7%)上昇したものの前年同月比では0.105ドル(約3.6%)下落するとともに、同国消費者のガソリン小売価格に対する不満が顕在化する1ガロン当たり3ドルからも遠ざかっており、この面では必ずしもガソリン需要に大きな負の影響は与えていないものと思われるものの、7月の同国の1人当たり実質個人可処分所得が前年同月比で2.3%の伸びにとどまる(因みに2018年7月の当該所得の前年同月比での増加率は3.4%であった)など、米国と中国の貿易紛争による両国の関税賦課合戦等に伴い米国経済が減速しつつあることが、ガソリン需要を抑制しているものと考えられる。他方、9月の同国ガソリン需要(速報値)は日量930万バレル、前年同月比で1.6%程度の増加となった。9月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.681ドルと前年同月比では0.234ドル(約8.0%)、前月からは0.026ドル(約1.0%)下落していることで消費者のガソリン購買意欲が刺激されていることが当該製品需要を押し上げているものと考えられるが、米国経済成長が減速しつつあること(因みに8月の1人当たり実質個人可処分所得の前年同月比での伸びは2.4%にとどまっており、9月も同様に伸び悩みの状態が継続しているものと見られる)もあり、9月のガソリン需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正されるか、9月の堅調なガソリン需要の反動が10月の当該需要に現れるといった展開もありうる。他方、9月に入り夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより季節的に需要が低下してきたものの、同国の製油所が秋場のメンテナンス作業実施時期に突入したことや9月中旬に熱帯性低気圧「イメルダ(Imelda)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したことで当該熱帯性低気圧の進路近辺に位置する製油所の操業に影響を与えたこともあり稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少(図2参照)、ガソリン製造活動も鈍化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ことで相殺されたことから、9月上旬から10月上旬にかけ同国のガソリン在庫は上下に変動しつつも比較的限られた範囲内で推移したが平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。
2019年7月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量391万バレルと前年同月比で1.4%程度の減少となったが、速報値である日量386万バレル(同2.7%程度の減少)からは上方修正されている(図5参照)。7月の米国の鉱工業生産が前年同月比で0.5%の増加にとどまる(因みに2018年7月のそれは同3.9%の伸びであった)など同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で2.4%の増加にとどまった(因みに2018年7月の同国物流活動は前年同月比で6.0%の増加であった)ことから、この面で留出油需要が抑制されたものと考えられる。また、9月の留出油需要(速報値)は日量391万バレルと前年同月比で2.9%程度の減少となった。2019年は1月から8月にかけ同国鉱工業生産の前年同月比の伸びは縮小する傾向を示しており、米国と中国の貿易紛争の状況を考慮すれば9月も当該生産が大幅に回復したとは考えにくい。また8月の同国の物流活動は前年同月比で4.1%増加するなど、7月から伸びが加速するように見えるが、同じく米国と中国の貿易紛争の状況を考慮すれば9月も同様の伸びが継続しているとは考えにくいことから、このような経済的要因が留出油需要の伸びに影響している可能性があるものと考えられる。他方、製油所では秋場のメンテナンス作業時期突入等もあり稼働低下とともに留出油生産活動も不活発化した(図6参照)うえ、国際海事機関(IMO)による2020年1月1日の船舶用燃料硫黄含有分規制強化(3.5%から0.5%)を控え低硫黄軽油在庫積み上げのための米国外諸国からの当該製品需要の拡大により、米国からの留出油輸出が堅調であったことから、9月上旬から10月上旬にかけ米国の留出油在庫は減少傾向となり、10月上旬時点では平年幅下方に位置する量となっている(図7参照)。
2019年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.3%程度増加の日量2,074万バレルとなった(図8参照)が、これはガソリン及び留出油需要の前年同月比での落ち込みを、その他の石油製品需要の前年同月比での増加で相殺していることが背景にある。もっとも6月のその他の石油製品の需要は前年同月比で減少しているところからすると、その減少の反動が7月の当該需要に影響している側面もあるものと考えられる。また、その他の石油需要が速報値(日量480万バレル)から確定値(同422万バレル)に移行する段階で下方修正されたこともあり、当該需要も速報値(日量2,117万バレル、前年同月比2.4%程度の増加)から下方修正されている。他方、9月の米国石油需要(速報値)は、日量2,094万バレルと前年同月比で4.3%程度の増加となった。ガソリンに加えその他の石油製品の需要が伸びていることが石油需要の増加に寄与している。ただ、9月のその他石油製品の需要は日量460万バレルと前年同月比で同82万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年8月~2019年7月の1年間(確定値)で日量351~429万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、米国の原油生産量や輸出入量が概ね一定の範囲内で推移した一方で、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことに伴いメンテナンス作業実施時期に突入等したこともあり米国の製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少したことから、原油在庫は9月上旬から10月上旬にかけ増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅下方に位置する量となっているものの、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過していることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2019年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、欧州では製油所での秋場のメンテナンス作業実施に加え一部諸国での製油所の装置の不具合発生等により稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少したこともあり原油在庫は若干ながら増加した。他方、日本では秋場の製油所でのメンテナンス作業実施を控え原油輸入量が減少したと見られることもあり当該在庫は減少した。結果として欧米諸国での原油在庫の増加が日本での減少で相殺された格好となったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧米諸国及び日本いずれも製油所での原油精製処理及び石油製品製造活動が不活発となったことを背景として、米国では留出油及びその他の石油製品、欧州では中間留分、そして日本では、10月1日の消費税引き上げを控えた駆け込み需要に加え、消費税引き上げ直前の通信販売会社の販売促進策実施等による消費者の購買拡大とそれに伴う物流活動の活発化もあり、軽油を中心として石油在庫が減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みとなっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態となっている(図14参照)。なお、2019年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.7日と8月末の推定在庫日数(61.5日)から減少している。
9月11日に1,100万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、9月18日は1,000万バレル程度にまで減少した後、9月25日に1,000万バレル強、10月2日に1,000万バレル台前半への量と、それぞれ増加した。しかしながら、10月9日には900万バレル台後半の量へと減少している。日本や韓国を含めアジア地域では秋場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることで、ガソリンの輸出が手控えられるようになったことが、シンガポールでの軽質留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。そしてこのようなシンガポールでの在庫の減少を含めアジア地域での製油所のメンテナンス作業実施に伴う軽質留分製造活動の鈍化と当該留分の需給引き締まり感の発生が価格に上方圧力を加えたこともあり、例えばアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向を示した。
ナフサについても、アジア諸国及び中東地域での製油所での秋場のメンテナンス作業実施時期突入により当該製品の生産が鈍化するとの観測が市場で発生したことに加え、9月14日に発生したサウジアラビアのアブカイク原油処理施設及びクライス油田への攻撃に伴う操業停止で、同国の製油所に向け原油が供給されなくなる結果ナフサの製造に支障が発生することで、アジア諸国へのナフサの供給が低下するのではないかとの懸念が市場で増大したことにより、9月中旬から10月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は多少なりとも縮小する傾向が認められる。
9月11日には1,100万バレル強程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、9月18日には1,200万バレル台半ば程度、9月25日には1,300万バレル台後半の量へと増加した。しかしながら、10月2日には1,200万バレル台前半程度、10月9日には1,100万バレル台半ば程度の量へと減少している。インドで雨季(モンスーン)に突入していたこともあり、軽油需要が抑制されている(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速することによる)ことから、同国から軽油が輸出されたと見られることが、9月中のシンガポールでの中間留分在庫増加の一因になっているものと推測されるものの、インドで雨季が終了しつつあることで同国の軽油の需要が回復すると見られることもありインドからシンガポールへの軽油の流入が低下していることに加え、一部のアジア諸国では製油所のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあることから、これら諸国からの軽油等の輸出が鈍化しつつあることが、10月に入って以降のシンガポールでの中間留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。そしてこのように製油所でのメンテナンス作業実施時期突入に伴う中間留分供給の低下に加え、2020年1月1日に実施される予定である国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制強化(重量ベースで3.5%から0.5%に引き下げ)に伴う低硫黄軽油需要の増加観測が市場で発生したことが、例えばアジア市場での軽油価格に上方圧力を加えたうえ、原油価格の下落に軽油価格のそれが追い付かなかったこともあり、9月中旬から10月中旬にかけての当該製品価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油価格は原油価格のそれを上回っている)は拡大する傾向が見られる。
9月11日には1,900万バレル台後半程度の量であったシンガポールの重油在庫は、9月18日には、1,800万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、9月25日には2,000万バレル台前半程度の量へ増加した。また、10月2日には1,900万バレル台前半程度の量へと減少したものの、10月9日には2,200万バレル弱の水準へと増加している。2020年1月1日に実施される予定である船舶燃料硫黄含有分規制強化を控え船舶用燃料需要が重油から低硫黄軽油に移行しつつあることがシンガポールでの重油在庫増加の一因であるものと見られる。そして当該在庫の増加とこの先も船舶用燃料の移行に伴い重油の需要が減少していくとの観測が市場で発生していることが、アジア市場での重油価格に下方圧力を加えていることから、重油とドバイ原油の価格差(この場合重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大している。
2. 2019年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況
2019年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場では、9月14日のサウジアラビアの油田及び原油処理施設への攻撃による操業停止と原油供給減少懸念で原油価格(WTI)は2008年9月22日以来の大幅な上昇となり、攻撃直前の終値である1バレル当たり55ドル弱から攻撃直後には63ドル弱の終値に到達した。しかしながら、原油生産能力が早期に攻撃前の水準にまで回復する見通しである旨サウジアラビアが表明したことに加え、米国原油在庫が増加したこと、米国や中国等の経済減速を示す指標類が発表されたこと、米国と中国の貿易紛争を巡る両国の対立等に関し経済成長及び石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したこと等から、以降は下落傾向となり9月末以降は攻撃直前の原油価格を下回る状態となっている(図15参照)。
9月14日(現地時間午前3時30~40分頃と伝えられる)、サウジアラビア東部にあるアブカイク(Abqaiq)原油処理施設(原油処理能力日量700万バレル超とされる)及びクライス油田(原油生産能力日量120万バレル程度と伝えられる)が攻撃され(9月14日にイエメンのフーシ派武装勢力が犯行声明を発表しているが、同日米国はイランが関与している旨示唆している)、施設が一部破壊された結果、日量570万バレル相当の原油供給に支障が発生した他、9月15日には原油供給の完全復旧までに数週間を要すると伝えられていたところ、9月16日には、完全復旧には数ヶ月間を要する旨報じられたことで、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり8.05ドル上昇し、終値は62.90ドルとなった(この日の上昇幅は2008年9月22日(この時は前日終値比1バレル当たり16.37ドルの上昇)以来の大幅なものであった)。しかしながら、サウジアラビアの原油生産能力は9月末までに日量1,100万バレル、11月末までに同1,200万バレルへと回復するとともに原油輸出量は減少させない旨9月17日に同国のアブドルアジズ エネルギー相が明らかにしたことにより石油需給引き締まり感が市場で後退ことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.34ドルと前日終値比で3.56ドル下落した。9月18日も、サウジアラビアの原油生産能力が早期に回復する等9月17日に同国のアブドルアジズ エネルギー相が明らかにしたことで石油需給引き締まり感が市場で後退した流れを引き継いだことに加え、長期的に相当規模の石油供給が途絶してもそれを相殺するのに十分な程世界には石油備蓄が存在している旨9月18日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が表明したことで、石油需給の引き締まり感が市場でさらに後退したこと、9月18日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(9月13日の週分)で原油在庫が前週比で106万バレルの増加と市場の事前予想(同200~250万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したこと、9月17~18日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の政策金利引き下げが決定したものの2019年末まで金利引き下げは行われない旨の見通しが示されたことにより米ドルが上昇したことから、この日(9月18日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.23ドル下落し、終値は58.11ドルとなった。この結果原油価格は9月17~18日の2日間で併せて1バレル当たり4.79ドル下落した。9月19日には、サウジアラムコがイラク国営石油販売会社SOMOに2,000万バレルの原油販売を要請した旨この日ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことで、サウジアラビアの原油供給体制に対する不安感が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、熱帯性低気圧「イメルダ(Imelda)」が米国テキサス州のメキシコ湾岸地域を北上したことで、当該地域の製油所の操業に支障が発生した旨9月19日に伝えられたことで、これら製油所の原油需要が低下するのではないかとの観測が市場で発生したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.02ドルの上昇にとどまり、終値は58.13ドルとなった。また、9月20日も、米国と中国との間の貿易問題に関し中国による米国産農産物の購入といった部分的な合意では不十分であり全面的な合意を望む旨トランプ大統領がこの日表明する一方で、翌週に実施が予定されていた、貿易問題に関する次官級協議実施で訪米した中国代表団による両国友好のための米国モンタナ州及びネブラスカ州の農場視察が取り消された旨9月20日に判明したことで、両国の貿易問題を対し悲観的な見方が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えたものの、この日サウジアラビアが主導する有志連合軍がイエメン西部の港湾都市であるホテイダを攻撃したことで、イエメンのフーシ派武装勢力とサウジアラビアとの対立がさらに先鋭化するのではないかとの市場の懸念が増大したことが原油相場に上方圧力を加えたことから、この日(9月20日)の原油価格の終値は1バレル当たり58.09ドルと前日終値比で0.04ドルの下落にとどまった(なお、この日を以てNYMEXの2019年10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、11月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり58.09ドル(前日終値比0.10ドルの下落)であった)。
また、9月14日に攻撃されたサウジアラビアのアブカイク原油処理施設及びクライス油田の完全操業回復に関し、サウジアラビア側が示唆した10週間程度よりも多くの時間を要する旨関係筋が明らかにしたと9月22日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことで、世界石油需給の引き締まり感を9月23日の市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.55ドル上昇し、終値は58.64ドルとなった。それでも、9月24日には、この日米国非営利調査機関コンファレンス・ボードから発表された9月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が125.1と8月の134.2(改定値)から低下した他市場の事前予想(133.0~133.5)を下回ったことに加え、9月24日の国連総会において米国のトランプ大統領が中国との貿易紛争に関し悪い合意は認めない旨表明したことにより、両国間の貿易問題に関する解決に対し悲観的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.29ドルと前日終値比で1.35ドル下落した。9月25日も、サウジアラビアの原油生産能力が日量1,130万バレルに到達したことで、サウジアラムコのアブカイク原油処理施設及びクライス油田の改修が進んでいることが示唆される旨この日報じられたことに加え、9月25日にEIAから発表された米国石油統計(9月20日の週分)で原油在庫が前週比で241万バレルの増加と市場の事前予想(同19~60万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したこと、欧州連合(EU)が米国からの輸入品40億ドル超相当に関税を賦課することを検討している旨9月25日に報じられたことで、ユーロ圏経済に悪影響が及ぶとの観測が市場で発生したこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.80ドル下落し、終値は56.49ドルとなった。この結果原油価格は9月24~25日の2日間で併せて1バレル当たり2.15ドル下落した。9月26日には、米国のトランプ大統領が、7月25日に行った電話会談で、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、ウクライナのガス会社で役員を務めたことのある民主党のバイデン前副大統領の子息による不正行為の疑いに関し捜査を依頼したとされる疑惑につき、当該電話会談記録を政権幹部が隠蔽しようとしたことを含む内部告発文書を9月26日に同国下院情報特別委員会が公表したことで、トランプ大統領弾劾手続き実施と米国経済に対する不透明感が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことが原油相場に下方圧力を加えた反面、9月26日に米国のエスパー国防長官がサウジアラビアに対し「パトリオット」地対空ミサイル発射装置1基、レーダーシステム4基、及び200人程度の支援要員の派遣を決定した旨発表したことで、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給への支障に対する懸念が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.08ドルの下落にとどまり、終値は56.41ドルとなった。ただ、9月27日には、米国のトランプ政権当局関係者が、米国の中国に対する投資資金流入を規制する方法につき検討している旨9月27日報じられたことで、米国と中国の貿易紛争を巡る両国の対立の先鋭化により、世界経済減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.91ドルと前日終値比で0.50ドル下落した。
9月30日には、この日中国国家統計局から発表された9月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門好不況の分岐点)が49.8と5月以降5ヶ月連続で50を割り込んだことで、同国経済成長と石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.84ドル下落し、終値は54.07ドルとなった。また、2019年の世界貿易量が前年比1.2%の増加率と、2019年4月2日発表時点の同2.6%の増加率から大幅に下方修正、2009年(この時は前年比12.1%減少)以来の低水準となる見通しである旨10月1日に世界貿易機関(WTO)が明らかにしたことで、世界経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、10月1日に米国非営利団体全米供給管理協会(ISM)から発表された同国製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が47.8と2009年6月(この時は46.3)以来の低水準にまで低下した他、市場の事前予想(50.0~50.1)を下回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.62ドルと前日終値比で0.45ドル下落した。10月2日も、この日イランのザンギャネ石油相がサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相とは22年来の友人であり、イランは中東地域安定化を約束している旨表明したことで、中東地域情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したうえ、10月2日にEIAから発表された米国石油統計(9月27日の週分)で原油在庫が前週比で310万バレルの増加と市場の事前予想(同130~200万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したこと、10月2日に米国給与計算サービス会社ADP及びムーディーズ・アナリティクスが発表した9月の同国民間雇用者数が前月比で13.5万人の増加と市場の事前予想(同14.0万人増加)を下回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.98ドル下落し、終値は52.64ドルとなった。さらに10月3日には、この日米国ISMから発表された9月の同国非製造業部門景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が52.6と前月の56.4から低下、2016年8月(この時は51.8)以来の低水準となった他、市場の事前予想(55.0)を下回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.45ドルと前日終値比で0.19ドル下落した。この結果原油価格は9月30日~10月3日の4日間で併せて1バレル当たり3.46ドル下落した。ただ、10月4日には、この日米国労働省から発表された9月の同国失業率が3.5%と前月の3.7%から低下したうえ、1969年12月(この時は3.5%)以来の低水準となった旨判明したことで、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことに加え、同じくこの日米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で710基と前週から3基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で664基と同4基減少)となっている旨判明したことで、この先の米国のシェールオイル等原油生産量が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.36ドル上昇し、終値は52.81ドルとなった。
また、10月9日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月4日の週分)で、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことが10月7日の原油相場に下方圧力を加えた反面、10月1日以降イラク南部で発生している、雇用や汚職問題及び不十分な公共サービスに抗議する反政府デモと政府の治安部隊との衝突で、10月7日時点で少なくとも110名が死亡したと同日報じられたことにより、同国の政治経済情勢の不安定化と同国からの石油供給への支障に対する懸念が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.75ドルと前週末終値比で0.06ドルの下落にとどまった。また、10月8日には、この日米国労働省から発表された9月の生産者物価指数(PPI)が市場の事前予想(前月比で0.1%の上昇)に反し、前月比で0.3%の低下と2019年1月(この時は同0.3%の低下)以来の大幅下落となった旨判明したことに加え、米国のトランプ政権が同国政府年金基金の中国企業株式保有制限を検討している旨10月8日にブルームバーグ通信が報じたことで、米国と中国との間での貿易問題に関する交渉に対する悲観的な見方が市場で増大したこと、10月8日にEIAから発表された「短期エネルギー見通し(STEO)」でEIAが2020年の世界石油需要と前年比での伸びを日量10万バレル下方修正した旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.12ドル下落し、終値は52.63ドルとなった。10月9日には、シリア北部に拠点を構えていたクルド人勢力に対し軍事行動を開始した旨この日トルコのエルドアン大統領が発表したことで、中東地域情勢及び当該地域からの石油供給の不安定化に対する懸念が市場で増大したことに加え、米国と中国との貿易紛争に関し部分的な合意を行う可能性を否定しない旨中国当局者が明らかにしたと10月9日に報じられたことで、10月10~11日に開催される予定である両国間での貿易紛争を巡る閣僚級協議での結果に対し楽観的な見方が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、同じくこの日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で293万バレルの増加と市場の事前予想(同140~240万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、10月9日に米国のトランプ大統領がトルコのシリアに対する軍事攻撃を悪い考えだとして支持しない旨表明したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.59ドルと前日終値比で0.04ドルと小幅に下落した。しかしながら、10月10日には、米国と中国との貿易問題に関する交渉のためにワシントンを訪問している中国の劉鶴副首相と10月11日に会談する意向である旨10月10日にトランプ大統領が表明したことで、両国間での貿易問題に関する交渉の進展に対する期待が市場で増大したことに加え、原油価格の下落を回避するためにはどのようなことでも実施する旨バルキンドOPEC事務局長が10月10日に明らかにしたことにより、OPEC産油国等による世界石油需給均衡に向けた方策実施に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.96ドル上昇し、終値は53.55ドルとなった。また、10月11日には、サウジアラビアのジッダ港沖合の紅海を航行していたイランの原油タンカー「サビティ(Sabiti)」が10月11日午前5時~5時20分にミサイル2発によると見られる攻撃を受け損傷したと報じられたことで、中東地域情勢不安定化と石油供給への支障に対する懸念が市場で増大したことに加え、10月10~11日に実施された米国と中国との間での貿易問題を巡る閣僚級協議で両国が部分的合意に到達した旨同日報じられたことで、両国の対立の先鋭化と経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり54.70ドルと前日終値比で1.15ドル上昇した。この結果原油価格は10月10~11日の2間で併せて1バレル当たり2.11ドルの上昇となった。
3. 原油市場における注目点等
9月14日(現地時間午前3時30~40分頃と伝えられる)にサウジアラビア東部にあるアブカイク原油処理施設(原油処理能力日量700万バレル超とされる)が攻撃を受け(19ヶ所が攻撃された旨米国政府幹部が明らかにしたと9月15日に報じられる)出火した(同日夜までに鎮火したと9月14日に報じられる)他、クライス油田(原油生産能力日量120万バレル程度と伝えられる)も攻撃を受けたことにより、合計で日量570万バレル程度の原油供給量(うち日量450万バレル分がアブカイク原油処理施設分、残りの同120万バレル相当はクライス油田分と見られる)、及び50万バレル(日量と見られる)のNGL、日量20億立方フィートの随伴ガス、日量13億立法フィートの天然ガス、日量5億立法フィートのエタンの供給が停止したと伝えられる(9月14日のサウジアラムコ及び9月18日のサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相の発表による)。影響を受けた供給量の半分程度の量については9月16日に操業を再開するものの、全面的な供給の回復までには数週間を要すると9月15日に伝えられる。また、9月15日にアブドルアジズ エネルギー相は自国が保有する石油備蓄を利用し生産途絶に対応する旨発言した(1988~2009年の間に5ヶ所の地下備蓄基地を建設しているとされる)。他方、9月14日にイエメンのフーシ派武装勢力(サウジアラビア等がイエメンで支援するハディ暫定大統領派勢力と対立している)が当該攻撃を実施した旨発表したが、9月14日に米国のポンペオ国務長官は当該攻撃はイランが関与している旨示唆しており(攻撃はイエメンの方角ではなくイランの方角(西北西)から行われたと認識している旨9月15日に米国政府高官は明らかにしているが、9月15日にイランは否定している)、9月15日に米国のトランプ大統領は今回の攻撃に対し報復措置を検討する旨示唆している他、必要に応じ戦略石油備蓄の放出を実施することにつき承認した旨表明した。また9月16日にはフーシ派武装勢力は、自身の保有する無人機はサウジアラビア全土に到達可能であり、この先サウジアラムコの施設を標的にし続ける旨表明したが、9月20日には、サウジアラビアがフーシ派武装勢力への攻撃を停止すれば、同様にサウジアラビア等への攻撃を停止すると発表した。サウジアラビアはこの提案につき検討している旨10月4日に報じられる。9月17日には、アブドルアジズ エネルギー相が記者会見し、9月末までには日量1,100万バレル、11月末までには同1,300万バレルの原油生産能力を回復する他、天然ガス、エタン及びNGLについては9月末まで徐々に攻撃前の水準にまで引き上げることを明らかにした。また、アブドルアジズ エネルギー相は、9月の顧客に対する販売義務は石油備蓄からの払い出しにより完全に充足される他、9~10月の原油生産は日量989万バレルになると9月17日に発言したと報じられる。また、9月17日には、サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)は、アブカイクは現在日量200万バレル程度の処理を行っており、9月末までに日量490万バレル程度の処理水準に到達すると発言した。さらに、サウジアラビアの生産(原油と推定される)の3分の2は回復しており10日以内には完全に復旧するとムハンマド皇太子は韓国大統領に伝えたと9月18日に大統領府の声明で発表されている。そして、9月18日には、サウジアラビア国防省が、攻撃した兵器の残骸を公開、イランの革命防衛隊が保有する兵器と形式(ヤ・アリ)が一致した旨明らかにし、これら攻撃機が北方から飛来するとともに、この攻撃にイランが関与したことに対する疑いは否定できない旨明らかにした。他方、9月18日にイエメンのフーシ派武装勢力はサウジアラビアのみならずUAEも標的にする旨表明した。その一方で、9月19日にポンペオ国務長官はイランとの間では平和的な解決を望んでいる旨表明している。また、サウジアラムコの南部地域を担当する責任者であるアブドルカリム(Abdulkarim)氏はクライス油田施設は9月30日までに攻撃前の状態にまで戻る旨9月20日に明らかにした。他方、9月22日にはUAEのドバイ空港近辺に無人機と察せられる飛来物があり、この結果航空便の運航に支障が生じた。また、9月26日には米国国防省はサウジアラビアに対しレーダーシステム4基、長距離地対空ミサイル「パトリオット」1部隊、200人程度の軍事関係者を派遣しサウジアラビアの防衛力強化を支援する旨発表した(サウジアラビア原油供給関連施設攻撃を受け、9月20日に米国のエスパー国防長官が限定的な規模ではあるものの軍事力の派遣を増強する旨明らかにしていた)。さらに、10月11日には米国のエスパー国防長官がサウジアラビアに対し地対空ミサイル「パトリオット」2基とその支援部隊を含め1,800人の軍事関係者を追加派遣する旨発表した。また、アブドルアジズ エネルギー相は同国の原油生産量が日量990万バレルと9月14日に攻撃を受ける以前の水準に回復したと10月3日に明らかにした旨10月4日に報じられる。
9月20日に米国財務省は、イラン中央銀行やイラン国家開発基金(NDFI)等計3社に対し「コッズ部隊」を含むイラン革命防衛隊等のテロ組織に資金を供給しているとして米国内での資産凍結や米国人との取引禁止を内容とする制裁実施を発表した。また、9月23日に英国、フランス及びドイツが、9月14日のサウジアラビアの原油施設への攻撃は明らかにイランに責任があり、イランに既存の核合意遵守を求めるとともに核開発計画の枠組み及びミサイル開発計画を含む長期的な地域安全保障の問題につき交渉するようイランに呼び掛ける旨の共同声明を発表した。これに対し9月23日にイランのザリフ外相は、2015年の核合意すら欧州諸国は遵守していないと反発、イランのロウハニ大統領も9月23日にフランスのマクロン大統領との会談時に根拠のない非難であるとして当該声明を批判した。ただ、9月24日にロウハニ大統領は米国がイランに対する制裁を解除するのであれば、核合意に関する小規模の追加もしくは修正を実施する用意がある旨明らかにしたものの、同日米国のトランプ大統領は国連での演説でイランが中東地域を不安定化するような動きを継続する限り制裁を強化するとともに核兵器やミサイル開発を認めない旨表明、但しその一方で外交面での解決を模索する姿勢も示した。他方、ロウハニ大統領は9月25日に行った国連総会での演説で、米国が制裁を実施する限り会談を行うつもりはない旨表明するとともに、米国主導のペルシャ湾での石油往来等の防衛のための有志連合に対抗した連合の結成も提案、全ての国に参加を呼び掛けた。そして、9月25日に米国財務省は、イラン産原油を輸送したとして中国遠洋海運集団(COSCO)の子会社2社を含む5個人6法人に対し制裁を発動する旨表明したが、これに対し中国の王毅国務委員兼外相は反発、米国のイラン産原油輸入禁止要求には従わない姿勢を示した(9月27日にはトルコのエルドアン大統領も米国からの制裁の可能性にもかかわらずイランとの原油・天然ガス取引を停止しない旨明らかにしている)。また、9月25日にトランプ大統領は周辺諸国の船舶航行を含む安全保障上の脅威となっているとしてイランに対し、また、マドゥロ大統領が人道危機を招いているとしてベネズエラに対し、政府幹部とその近親者につき当面米国への入国制限を実施する旨発表した。9月26日には、イランの最高指導者ハメネイ師が英国、フランス及びドイツがサウジアラビア原油供給関連施設攻撃をイランの責任としたことに反発、欧州は信用できないと批判した。また、国際原子力機関(IAEA)はイランが研究開発中の新型遠心分離機を使用し低濃縮ウランを蓄積したり蓄積を準備したりする状況となっていることを9月25日に確認した旨の報告書を9月26日に取りまとめた。他方、7月19日にイランが拿捕した英国船籍タンカー「ステナ・インペロ(Stena Impero)」は9月23日にイラン当局が近々解放する見通しである旨明らかにしていたが、9月27日朝に同国南部のバンダルアバス港を出港したとイラン海事当局が明らかにした。また、9月27日にロウハニ大統領は国連総会出席の際英国、フランス及びドイツから「トランプ大統領との会談に応じれば米国は全ての制裁を解除する」として首脳会談実施を促された旨明らかにしたが、トランプ大統領は首脳会談実施のためにイランが制裁解除を要求したが米国は拒否したと9月27日に発言している。他方、サウジアラビアのムハンマド皇太子は、イランを抑止しなければ原油価格は高騰する旨指摘したものの、イランとの戦争は世界経済崩壊を招くことから、政治的な解決が望ましい旨明らかにしたと9月29日に報じられる。また、10月2日に開催されたロシアのプーチン大統領主催のセミナーで、イランのザンギャネ石油相がサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相とは22年来の友人であり、イランは中東地域安定化を約束している旨表明した他、同日ロウハニ大統領が核合意に関しフランスから提案されている条件((1)イランの核兵器開発の放棄、(2)中東湾岸地域及び地域海上航路の安全確保支援、(3)米国による対イラン制裁解除及びイランの原油輸出の円滑な再開)は一部修正する必要はあるものの受け入れ可能である旨明らかにしている。そのような中、中国石油天然ガス集団(CNPC)はイランのサウス・パースガス田開発事業から撤退した旨10月6日にイランのザンギャネ石油相が明らかにした(イランのペトロパースが事業を引き継ぐとされる)が、同石油相は米国に制裁にもかかわらず可能な手段を講じてイラン産原油を輸出する旨10月6日に表明している。さらに、10月11日には、紅海のサウジアラビアのジェッダ港の南西80マイル(約130キロメートル)程度沖合でイラン国営石油会社NIOCの所有する原油タンカー「サビティ」(スエズ運河を航行できる規模のもので100万バレルの原油を積載し北進していたとされる)が午前5時頃及び午前5時20分頃(いずれも現地時間)にミサイル2発により攻撃を受けた旨報じられた他、同日イラン外務省も同国のタンカーが攻撃を受けた旨発表した。イランのタンカー関係者は攻撃はサウジアラビア方向からなされた旨明らかにしたが後に撤回している(10月13日にサウジアラビアのジュベイル外交担当国務相は当該攻撃にサウジアラビアは全く関与していない明らかにしている)。同タンカーは損傷し原油が流出したが、その後原油流出は停止し、南へと進路を変更しイランのバンダルアバス港に向け航行していると10月14日に伝えられる。
イラクでは、10月1日以降、バグダッド他同国各地で雇用、停電及び上下水道等の公共サービスに対する不満を持つ若者を中心として政府に対する抗議活動が実施され、政府治安部隊との衝突により死者は110人に達した旨同国内務省は10月7日に報じられる。これに対し同国議会最大勢力となっている政党連合の指導者であるイラクのシーア派指導者サドル師はアブドルマハディ首相の辞任と総選挙実施を要求したと10月6日に伝えられる。
10月6日に米国のトランプ大統領とトルコのエルドアン大統領は電話で会談し、11月(13日と伝えられる)にワシントンで会談することで合意したとトルコ大統領府が発表した。そして、トルコがシリア北部にある事実上クルド人勢力が支配する地域において安全地帯を設置しクルド人勢力を排除するとともにトルコに流入したシリア難民を帰還させるための軍事行動を実施することに対し、米国軍はこれに対し関与はしないし支援もしない旨10月6日に米国ホワイトハウスは示唆した。しかしながら、本件でトルコが行き過ぎた行為を実施すれば、米国はトルコ経済を壊滅させる旨10月7日にトランプ大統領が表明している。また、10月7日には米国がシリア北部から軍隊を撤収し始めた旨報じられたものの、同日米国政府高官が米国軍はシリアからは撤収しない旨明らかにしている。それでも10月9日にはトルコのエルドアン大統領はシリア北部に対し新たな軍事行動を開始した旨明らかにした。トルコ軍はシリア北部において空爆や砲撃のみならず同日夜には地上戦も実施し始めた。これに対し欧州諸国国連理事国(英国、フランス、ドイツ、ベルギー及びポーランド)と次期理事国であるエストニアはシリアでのトルコの攻撃を停止するよう要求する旨の声明を発表、米国のトランプ大統領は関係者間での仲介を行う意向を10月10日に示している。そしてトルコ軍は少なくとも11の村を制圧したと10月11日に伝えられる他、480名のクルド人戦闘員を殺害した旨トルコ軍が10月13日に発表した。これに対し10月11日に米国のムニューシン財務長官は、必要な場合にはトルコに対し「相当程度の」制裁を発動する権限をトランプ大統領から与えられた旨明らかにしたが、同日トルコのエルドアン大統領はシリアへの軍事行動は停止しないと主張している。他方、トルコのシリア北部での軍事行動範囲が拡大しつつあることもあり、10月12日夜に米国のトランプ大統領は当該地域に駐留する米国軍事関係者(約1,000名)に対し撤収を命じた他、同日シリアのアサド政権がトルコの軍事行動に対抗するために同国北部に軍を派遣することでクルド人勢力と合意した旨報じられる。
リビアでは、統合政府と敵対する東部の暫定政府を支援するハフタル将軍が行った国営石油会社NOC傘下のBrega Oil Companyの責任者指名を9月19日にNOCが拒否、同国を分割するとともに正当でない原油輸出主体を設立する試みであるとして非難した。また、9月22日に、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、トルコ及びUAEがNOCをリビアでの唯一正当な国営石油会社として支持する旨表明した。
このように、地学的リスク要因面では様々な動きが見られるが、当面の注目点は、まず中東地域を巡る情勢であろう。国連総会(9月24~30日開催)の際も米国とイランの両国首脳の会談は実現せず、米国の対イラン制裁解除が核合意に関する交渉の前提条件であるとイランのロウハニ大統領は主張している反面、米国のトランプ大統領は制裁を解除する意向はない(むしろ強化する)旨明らかにするなど、両国間での歩み寄りにはなお紆余曲折を経る可能性があることが示唆される。他方、IAEAはイランが核合意で定められた核開発に関する制限事項を逸脱し続けている旨明らかにしている他、サウジアラビアのアブカイク原油処理施設及びクライス油田への攻撃に関し英国、フランス及びドイツがイランに責任がある旨米国に同調していることに対しイランが反発するなど、むしろイランと西側諸国との間の対立が先鋭化しつつあることを示唆する場面も見られる。このようなことから、短期的に両国関係が改善に向け急展開する可能性は全くないわけではないものの高いとも考えにくく、この先もトランプ大統領とイラン政権幹部との間での発言等により、さらには中東地域周辺を航行するタンカー等に対する攻撃や偶発的な衝突などによって、イラン等を巡る緊張が高まる結果原油相場が影響を受けるといった展開も排除できない。また、サウジアラビアとイエメンとの間も、イエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビアとの間での停戦を提案する一方でサウジアラビアもこの提案を検討していると伝えられるものの、停戦合意が実現せず、フーシ派武装勢力がサウジアラビアに対し攻撃を継続する一方サウジアラビアが主導する有志連合軍がフーシ派武装勢力を攻撃し続けるようであれば、中東地域からの石油供給途絶懸念から、少なくとも原油相場が下支えされるとともに、攻撃やその影響の大きさによっては原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性もある。
さらに、イラクでも反政府デモ活動が活発化しており、今後イスラム教シーア派、イスラム教スンニ派及びクルド人勢力により成立している同国の連立政権で意思決定がもたつく等により政治的空白が発生することで同国南部等の油田地帯の治安体制に支障が生じる結果、同地域での原油生産に影響が生ずる可能性があるとの懸念が市場で高まることもありうる。また、シリアについても、同国北部においてトルコがクルド人勢力排除のための軍事行動を実施しており、今後そのような中でシリアのアサド政権が当該地域に軍を派遣することでトルコとの緊張が高まったり、トルコとクルド人勢力との戦闘の中でクルド人勢力がこれまで拘束したIS戦闘員が逃亡したりする等情勢が複雑化するようであれば、中東地域の不安定化と同地域からの石油供給への支障に対する市場の不安感が強まる可能性もある。そして、これらの要因が原油相場に影響を及ぼす場面が見られることもありうる。
他方、ベネズエラやリビア等に対しては、ここ最近はそれほど大きな動きは見られないが、これら諸国においても、敵対勢力による対立の激化や戦闘の発生、そして石油施設への影響等の情報が流れるようであれば、原油供給に対する市場の懸念が高まることにより、原油相場が変動することも想定される。
経済面では、まず米国と中国の貿易紛争を巡る動きが石油市場における注目点となるであろう。10月10~11日に開催された米国のライトハイザー通商代表部(USTR)代表他と中国の劉鶴副首相との間での協議は、中国が400~500億ドル相当の米国農産物の輸入増加等を実施する一方で、米国が10月15日に発動する予定であった2,500億ドル相当の中国製品に対する関税率引き上げ(既存の25%を30%へ)を先送りすることを含め、事実上の部分合意に到達して終了したと伝えられる。ただ、現在両国間で合意に至っていない問題には困難なものも多いとされ、今後協議が円滑に進捗して貿易問題に関し幅広く合意が成立することで、既に賦課されている両国の関税が緩和もしくは撤廃される可能性は少なくとも短期的にはそれほど高くないと見られるところからすると、既存の関税(及び今後賦課される予定の追加関税、さらに今後の展開次第では新たな経済活動制約措置)が両国経済への負担となることにより、この先両国及び世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化することに対する不安感が市場で増大する結果、この面で原油価格の上昇が抑制される可能性があるものと考えられる。また、そのような中で、10月15日には国際通貨基金(IMF)により世界経済見通しが発表される他、米国、欧州及び中国等の経済指標類も明らかになることから、これら見通しや指標類等が世界経済状況と石油需要増加に対する市場の認識に影響を与えるとともに原油価格が左右される場面が見られるといったこともありうる。また、10月に入り米国主要企業等の2019年7~9月等の業績が発表され始めているが、このような発表は当面継続する予定であるので、それら業績もしくは2019年の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼす可能性もある。さらに、米国金融当局関係者による連続的な金利引き下げを含む同国金融政策に対する見解に関する発言等によっても、緩和マネーの石油市場への流入に対する市場の観測に影響するとともに、原油相場に圧力を加えうる。
他方、米国のトランプ大統領が2019年7月25日に行ったウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、2020年11月に予定される次回大統領選挙時に対立する大統領候補になる可能性のある民主党のバイデン前副大統領に関連し、ウクライナのガス会社において役員を務めていたバイデン氏の子息の不正行為疑惑につき、ゼレンスキー氏に捜査を依頼したとされる疑惑に関し、9月24日に米国議会下院のペロシ議長はトランプ氏弾劾に向けた調査を正式に開始する旨発表、9月26日には当該電話会談記録をトランプ政権幹部が隠蔽しようとしたことを含む内部告発文書の存在を同国下院情報特別委員会が公表したことで、米国議会によるトランプ大統領弾劾手続きの実施がトランプ政権の円滑な政策実施への足枷となることによる米国経済への影響に対する不透明感が市場で増大しつつあり、この面でも今後の展開次第では原油相場に圧力を加える可能性がある。
米国では、この先冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)を控え、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進むとともに、原油の購入を活発化させてくる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まると考えられる。従って、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、ここで市場が注目するのは、足元の気温状況及び冬場の気温予報であろう。現在のところ、2019年末にかけては米国の大部分は平年に比べ温暖になると見られているようであるが、そのような予報は変更される可能性もあり、また、秋場の後半及び冬場の前半での、厳冬予想や実際の気温の低下は、市場関係者間での暖房用石油製品需要増大観測と需給引き締まり懸念を増大させ、それが原油相場に上方圧力を加えることに繋がりやすい。その意味では、米国(特に暖房用石油製品消費の中心地である北東部)での気温予報や実際の気温の状況には注意する必要があろう。また、米国石油統計や米国石油坑井掘削装置稼働数統計における内容も、米国原油生産や石油需給バランスの今後の展望に対する市場心理を変化させることにより原油相場に影響することもありうる。
他方、サウジアラビアの原油生産能力が日量1,130万バレルに到達したことで、攻撃を受け操業に支障が発生したサウジアラムコのアブカイク原油処理施設及びクライス油田の改修が進んでいることが示唆される旨9月25日に報じられる一方、サウジアラビアがイラク、クウェート、UAE及びオマーンに対し原油購入依頼を出していた旨明らかになった(うちイラクとオマーンは否定しているとされる)他、タンカー追跡データで9月15日以降のサウジアラビアからの原油輸出がそれまで(9月1~14日)に比べ日量150万バレル程度減少しているとの情報が流れたうえ、サウジアラビアが北西欧州地域においてガソリンやナフサ(ナフサはアジア諸国向けとされる)の購入希望を出しており、また、地中海沿岸諸国が北西欧州地域に対し軽油購入希望を出している(通常地中海沿岸諸国はサウジアラビアから軽油を購入するなどしているとされる)などサウジアラビアの製油所に対し原油供給がなされていないことを示唆する事象が見られたりしている。今後なおこのような情報(サウジアラビアによる他の産油国での原油調達、タンカー追跡データによるサウジアラビア輸出量減少を示唆する情報、平常時と異なる欧州における石油製品の流れ等)が見られるようであれば、サウジアラビアの原油供給体制復旧に関する疑問が市場で増大する結果、原油相場に圧力が加わるといった展開も否定できない。
加えて、OPEC産油国等により、世界石油需給見通しや、減産措置に参加するOPEC及び一部非OPEC産油国の今後の減産措置に対する考え方が示されれば、次回OPEC総会(12月5日開催予定)、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合(12月6日開催予定)時において決定が予想される、2020年に向けての減産方針に対する観測を市場で発生させることにより、原油相場がその影響を受けるといったことも想定される。
また、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすこと等に伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。ハリケーン等の暴風雨は、その進路や勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり(当該地域では2018年は日量174万バレルの原油を生産した)、湾岸地域の石油受け入れ及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所等への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国での原油輸入に影響を与えたりする(2018年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量59万バレル程度の原油を輸入した)。他方、ハリケーン等の暴風雨が米国東海岸沿いを北上する進路を辿った場合、暴風雨により住民の自動車を利用した外出が手控えられる等する結果ガソリン等の石油需要が抑制されることを通じ原油相場に下方圧力を加える場合もありうるため、この先なお当面ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には留意する必要があろう。
全体としては、この先冬場の暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることに加え、中東地域(イラン、サウジアラビア、イエメン、イラク、及びシリア等)情勢と石油供給への影響に対する不安感が原油相場を下支えする一方で、米国と中国の貿易紛争及びトランプ大統領のウクライナ問題を巡る米国議会の大統領弾劾手続きの行方等を巡る不透明感と経済及び石油需要への影響に対する懸念が、原油価格の上昇を抑制するものと考えられる。そのような中で、中東地域等において実際に発生する各種事象、米国等経済指標類、米国石油統計などにより原油相場が変動していくものと考えられる。
4. 米国指標原油とその他の原油との価格差を巡る最近の動向等
米国の指標原油であるWTIは2018年半ば頃よりブレント他と比較し継続的に割安感が拡大、例えば2018年8月下旬以降WTI原油価格がブレントのそれを下回る度合いは1バレル当たり6ドル台~11ドル程度で推移した(終値ベース、因みにそれ以前は一部の期間を除き概ね同3ドル台~5ドル台であった)。しかしながら、2019年5月27日にWTI原油価格がブレントのそれを11.48ドル下回った後は、両者の価格差は縮小する傾向を示し、2019年8月以降は概ね3ドル台~5ドル台で推移するようになっている(図16参照)。ここでは、このように一時拡大したブレントとWTIの価格差がその後再び縮小している背景につき説明するとともに、その他の主な原油価格差における変化についても触れることとしたい。
米国のシェールオイル開発・生産の中心であるパーミアン盆地(Permian Basin)では、2018年半ば以降原油を米国メキシコ湾岸等他地域に輸送するためのパイプライン能力が限界に到達したと見られる(製油所等での原油精製処理能力に乏しいことから他地域に原油を輸送する必要があるパーミアン盆地から他地域に原油を輸送するパイプラインの能力は日量350~360万バレル程度とされるが、当該地域での原油生産量は2018年8月には日量360万バレルを超過したと推定される、図17参照)。このため、一部は鉄道で原油が輸送されていると推定されるものの、これには1バレル当たり6~8ドルの比較的高水準の輸送費を要すると言われており、このような内陸部から米国メキシコ湾岸地域への原油輸送の隘路(ボトルネック)の発生に伴い、米国メキシコ湾岸地域からの原油輸出(そしてそれは米国原油輸出の太宗を占めるものであった)も2018年半ば前後以降日量200万バレル強の水準で伸び悩むようになった(図18参照)。2018年11月6日にはパーミアン盆地の位置する内陸部(テキサス州ミッドランド/ラビング(Living))から米国オクラホマ州クッシングへと原油を輸送するSunriseパイプライン(操業者:Plains All American Pipeline、輸送能力日量32.5万バレル)が完成した(これによりパーミアン盆地の位置するテキサス州やニューメキシコ州といった地域(米国では「メキシコ湾岸地域」として分類されるもの)からオクラホマ州クッシングといった中西部地域への原油の移動が活発になっている、図19参照)ことに加え、それまで天然ガス液(NGL)を輸送していたSeminoleパイプライン(操業者:Enterprise Products Partners、ニューメキシコ州Hobbs~米国メキシコ湾岸地域、輸送能力日量28万バレル)が原油パイプイランに転換され、2019年2月6日に原油輸送を開始した(輸送量は当初日量20万バレル程度と推定される旨2月12日に伝えられる)ことにより、米国の内陸地域からメキシコ湾岸地域への原油輸送量が増加したものと推定され、これに伴い米国からの原油輸出量も2019年3月には推定同285万バレルへとSunriseパイプライン操業開始前の2018年10月から日量52万バレル増加した。それでも、クッシングから米国メキシコ湾岸地域への原油輸送パイプライン能力(Seawayパイプライン(クッシング~フリーポート、操業者Enterprise Products Partners 及びEnbridge、輸送能力日量85万バレル)及びGulf Coastパイプライン(クッシング~ヒューストン/ポート・アーサー、操業者:TC Energy(旧TransCanada)、同70万バレル)はこの時期増強されたわけではなかったことから、別途ここに隘路が形成される格好となった。そして、2018年秋場や2019年春場の製油所でのメンテナンス作業実施等で原油精製処理活動が低下することによる製油所での原油受け入れ減少と併せ、クッシングでの原油在庫は2018年10月から2019年6月にかけ増加傾向となった(図20参照)。このようにWTI先物契約受け渡し地点での原油需給が緩和してきたことがWTI原油価格に下方圧力を加えたこともあり、例えば、米国メキシコ湾岸で生産及び出荷される(つまり内陸で生産されるWTIに比べ流動性が高く相対的に輸出が容易である)軽質低硫黄原油であるLLS(Light Louisiana Sweet)やブレントに対しWTIが価格面で下回る程度が拡大した(図21参照)。他方、パーミアン盆地に位置するミッドランド(Midland)で受け渡されるWTIの価格とクッシングで受け渡されるWTIの価格は従来概ね同水準であったが、パーミアン盆地から他の地域への原油輸送上の制約に関する問題が顕在化した2018年以降、ミッドランドで受け渡されるWTIの価格がクッシングで受け渡されるWTIのそれを下回る程度が拡大、2018年5月以降はしばしば10ドルを超過する水準に達した他、2018年8月以降は17ドルを超過する場面も見られた。Sunrise パイプラインに加えSeminoleパイプラインによる原油輸送の開始が視野に入り始めた2019年1月下旬以降はクッシングで受け渡されるWTIとミッドランドで受け渡されるWTIの価格差は一旦ほぼ解消されたものの、両パイプラインの原油輸送能力(日量60.5万バレル)を以てしても余剰原油輸送能力が心もとなくなるほどにパーミアン盆地での原油生産が増加した(2019年4月15日にEIAにより発表された「掘削生産性報告(Drilling Productivity Report)」では、5月のパーミアン盆地での原油生産量は日量414万バレルと2018年8月比で同53万バレル増加すると見込まれた)。このようなことから、2019年4月にはミッドランドで受け渡されるWTIの価格がクッシングで受け渡されるWTIのそれを再び5ドル程度下回る場面も見られた。
しかしながら、その後パーミアン盆地での原油の流れの状況に変化が訪れる。まず、パーミアン盆地に位置するテキサス州ウィンク(Wink)から同州メキシコ湾岸に位置するコーパス・クリスティ(Corpus Christi)に向けたCactus IIパイプライン(操業者:Plains All American、原油輸送量日量67万バレル)が2019年6月3日に輸送料金体系につき米国連邦エネルギー規制委員会(FERC: US Federal Energy Regulatory Commission)から承認されたうえ、7月7日には当該パイプラインへの原油充填を間もなく開始する旨報じられ8月12日には操業を開始した旨発表されている。加えて、同じくミッドランド他からコーパス・クリスティ等に向け敷設され従来はNGLを輸送していたEPICパイプライン(操業者: EPIC Midstream)を原油輸送パイプラインに転換(原油輸送量は同40万バレルとされる)、2019年末までに操業を開始すべくパイプラインへの原油の充填し始めた旨7月30日に伝えられる。このように、クッシングを経由せず米国メキシコ湾岸に原油を輸送するパイプラインの整備が進みつつあることに加え、米国が夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期に突入したことで、製油所での原油精製処理が促されたこともあり、クッシングへの原油流入が抑制されるとともに、当該地点での原油在庫は6月14日の5,358万バレルから概ね減少傾向を辿り、2019年9月13日には3,868万バレルと6月14日の水準の72%にとどまっている。このようなことから、WTI原油先物契約受け渡し地点であるクッシングでの原油需給引き締まり感が市場で醸成された結果、WTI原油価格に上方圧力が加わる一方で、米国メキシコ湾岸地域に流入してきた原油が米国メキシコ湾岸地域もしくはメキシコ湾沖合地域で産出される原油と競合するようになる他、大西洋圏方面に輸出されるようになる結果米国以外の地域で生産される原油と競合するようになるとの観測が市場で増大したこともあり、米国メキシコ湾岸地域及びメキシコ湾沖合で生産されるLLS及びMars原油、及び米国以外の地域から供給されるブレントやドバイ原油に対し下方圧力を加えた結果、WTIと他の原油との価格差は縮小する傾向を示している。また、同じく6月に入ってからはミッドランドで受け渡されるWTIの価格とクッシングで受け渡されるWTIの価格はほぼ同水準に戻っている。
そして、このようなパイプラインの稼働開始に加え、2019年第四四半期にはパーミアン盆地に位置するオーラ(Orla)からコーパス・クリスティへと原油を輸送するGray Oakパイプライン(操業者:Gray Oak Pipeline(権益保有者:Phillips 66 48.75%、Enbridge 26.25%、Marathon 25%)、原油輸送能力日量90万バレル)が2019年第四四半期に操業を開始すると見られており、この結果、パーミアン盆地で生産された原油を市場で販売する際の隘路がさらに緩和され始めている。足元で操業を開始している、もしくは近々操業を開始する予定であるCactus II、EPIC及びGray Oakの各パイプラインを合計すると原油輸送能力は日量197万バレルに達し、しかもこれらパイプラインについては、クッシングからメキシコ湾岸方面への原油輸送パイプライン能力上の制約は関係しない。そして、パーミアン盆地から他の地域へと原油を輸送する能力は、Sunrise及びSeminoleパイプライン(合計原油輸送能力日量60.5万バレル)と併せ日量607.5~617.5万バレルと、現在の地域の原油生産量(11月見通しで日量448万バレル)と比較しても余裕のある水準となり、これまでの当該地域での原油生産増加量からすれば、1年半程度は追加のパイプライン輸送能力なしに生産が拡大した地域での原油を輸送することが可能、ということになる。このため、少なくとも当面は米国産シェールオイルを中心とする原油輸出が堅調に推移することにより、この面ではWTIとブレント等の原油価格差はそれほど大幅には広がらないものと考えられる。しかしながら、9月14日にサウジアラビアのアブカイク原油処理施設及びクライス油田が攻撃されたことにより、同国からの原油供給に対し市場の懸念が発生したこともあり、サウジアラビアと同じ地域で生産されるUAEのドバイ原油及び中東から相対的に市場が近接している欧州のブレント原油が、相対的に遠距離である米国のWTI原油価格を上回る幅が拡大する場面が見られたように、他の要因によって原油価格差は変動する可能性がある。また、2018年後半から2019年前半頃にかけては、WTIの割安感が強まったこともあり、米国産原油のアジア諸国への原油輸出が堅調であった(図22参照)が、それ以降はWTIとブレントの間での原油価格差が縮小したことに加え、9月25日に米国財務省は、イラン産原油を輸送したとして中国遠洋海運集団(COSCO)の子会社2社を含む5個人6法人に対し制裁を発動する旨表明したことにより、同社の関与する石油タンカーの利用が敬遠された他、10月11日には紅海でイランのタンカーが攻撃された旨報じられた結果、世界のタンカー運賃が大幅に上昇、例えばペルシャ湾から日本へ原油を輸送する大型タンカーの原油輸送コストは制裁発表前には1バレル当たり1ドル程度であったものが10月中旬には同7ドル超にまで上昇していることが、米国産原油の北東アジア諸国向け輸出を阻む格好となり、むしろ同国産原油の輸出が大西洋圏や南西アジア方面に向かいやすくなる可能性もある。
以上
(この報告は2019年10月15日時点のものです)