ページ番号1007915 更新日 平成31年11月8日

Petroleum Engineerの取り組む技術トレンド2019

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レポートID 1007915
作成日 2019-11-08 00:00:00 +0900
更新日 2019-11-08 15:22:40 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 技術
著者 伊原 賢
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 16
抽出データ
地域1 グローバル
国1
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国・地域 グローバル
2019/11/08 伊原 賢
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概要

  • 報告者は、カナダのアルバータ州カルガリーで開催された2019年SPE(Society of Petroleum Engineers:世界石油工学者協会、154ヶ国の会員数約15万6千人)の年次総会(Annual Technical Conference and Exhibition:ATCE)に参加し、関係者とのネットワークを通じて、最新の石油工学に係る情報を得た。得られた情報を基に、Petroleum Engineerが取り組むべき技術トレンドを探った。
  • 参加者数は約5,000人と前年のダラス(8,100人)に比べ減少した。減少の原因として、開催地周辺に在している技術者数がそもそも少ないことに加え、環境への影響や脱炭素化の動きを踏まえたカナダ産炭化水素の需要量への懸念、カナダ原油の輸出先はほぼ米国に限られているがパイプラインでの輸送能力に限界がある、ほかの課題が有る故と感じた。
  • 石油採掘技術者の集団であるSPEにとっては、2014年半ばから2017年半ばまで3年余り続いた油価下落、採掘コストの上昇抑制意識の高まり、低炭素化社会への移行といったトレンドの下、また損益分岐点として油価50ドル/バレル付近を意識した中で、OPECと非OPECが、また石油会社と石油サービス会社が共働しながら、中期の2023年頃を目途にした供給にどう立ち向かうのかが、石油産業にとって関心の高い課題の一つである。
  • 採掘コストの上昇抑制に寄与するとされる「石油業界におけるデジタル化」のインセンティブは、一義的にはコスト削減・埋蔵量確保・HSEマネージメントにある。ATCE Startup Village、Petroleum Data-Driven Analytics (PD2A)、An Unconventional Theatreといった企画が、今年のSPE年次総会には盛り込まれていた。
  • 現在業界に居る人たちとこれからの若者で業界を支えるには、各自が持つ知見を若者へ伝授・共有すること、若者が石油開発に夢や強い関心を持つべく草の根の啓蒙活動を精力的に行うことが極めて重要である。石油業界におけるデジタル化の動きは、社会的受容性を高め、原油や天然ガスという人類にとってかけがえのないエネルギー源を供給してきた業界への理解と支援を勝ち取るための手段の一つであろう。
  • 世界における石油・天然ガスの一次エネルギー源に占める割合は半分を越え続け、原油需要は2040年には日量1億800万バレルに達するとも言われている(IEA New Policies Scenario)。ATCEにおけるディスカッション、発表論文や展示を通じて、その実現に必要な技術の進展を見聞きできた。

ホームページ:Society of Petroleum Engineers


1. はじめに

昨2018年には石油輸出国機構OPECの生産調整、米シェールガス及びオイルの増産、地政学リスクに対する市場関係者の観測ならびに株式相場ほかの要因を受け、原油価格は概ね70ドル台前半/バレルで推移してきた。2019年に入ると、WTIは50~65ドル/バレルで推移している(図1)。短期の原油価格変動要因としては、季節的な石油需要期、製油所の秋場のメンテナンス、米中貿易紛争交渉の再開、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産措置の(2020年3月までの)継続、9月14日のサウジアラビア石油施設への無人機攻撃、地政学的リスク要因(イラン・ベネズエラ・リビア等)、及びハリケーンシーズンに注目が集まった。

図1 原油価格の推移(2003~2019年)
図1 原油価格の推移(2003~2019年)
出所:各種資料よりJOGMEC調査部作成(2019年10月15日)

このような背景の中、報告者は、カナダのアルバータ州カルガリーのダウンタウン南東に位置するBMOセンター(写真1)にて今年9月30日から10月2日にかけて開催された2019年SPE(Society of Petroleum Engineers:世界石油工学者協会、154ヶ国の会員数約15万6千人)の年次総会(Annual Technical Conference and Exhibition:ATCE)に参加し、最新の石油工学に係る情報を収集した。石油工学とは、石油・天然ガスの掘削、油層管理、生産に関する技術の総称で、この工学なくして、地下の石油・天然ガス資源を地上に取り出すことはできないといっても過言ではない。

石油採掘技術者の集団であるSPEにとって、2014年半ばから2017年半ばまで3年余り続いた油価下落、採掘コストの上昇抑制意識の高まり、低炭素化社会への移行のなかで、損益分岐点として油価50ドル/バレル付近を意識した中で、OPECと非OPECが、また石油会社と石油サービス会社が共働しながら、中期の2023年頃を目途にした供給にどう立ち向かうのかが、石油産業にとって関心の高い課題の一つである。

本稿では、まず2019年SPEの年次総会の概要を述べる。次に報告者が興味をもったテーマでの議論を時系列に紹介する。最後に石油開発技術のトレンドをまとめたい。

写真1  BMOセンター(カナダ・アルバータ州カルガリーのダウンタウン南東のStampede公園内)
写真1  BMOセンター(カナダ・アルバータ州カルガリーのダウンタウン南東のStampede公園内)
出所:報告者撮影

2. 2019年SPE ATCEの概要

SPEが主催する情報交流の場は、総合的な議論を行うSPE Technical Conference(秋の年次総会ATCEほか)、最新の技術動向等を中心に議論するApplied Technology Workshop (ATW)と、今後の技術展開を議論するSPE Forumから構成される。

今2019年のSPE年次総会は96回目であり、カナダでは初めての開催となった(写真2)。

写真2 会場の入口
写真2 会場の入口  出所:報告者撮影

発表論文・eポスターは379件で、通常の7技術分野(1. Drilling; 2. Completions; 3. Health, Safety, and Environment; 4. Management and Information; 5. Production and Operations; 6. Project, Facilities and Construction; 7. Reservoir)に加え、カナダに特化した1分野(Canadian Heavy Oil and Unconventional Resources Operations)に亘る計57の技術セッション、42のeポスターセッション及び12の特別セッションに分かれて発表された。

参加者数は約5,000人と前回のダラス(8,100人)に比べ減少した。減少の原因として、開催地周辺に在している技術者数がそもそも少ないことに加え、環境への影響や脱炭素化の動きを踏まえたカナダ産炭化水素の需要量への懸念、カナダ原油の輸出先はほぼ米国に限られているがパイプラインでの輸送能力に限界がある、ほかの課題が有る故と感じた。

一方、今回の開催地カルガリーがあるカナダの石油を概観すると、2018年末の可採埋蔵量1678億バレル(世界3位)、2018年の日産量521万バレル【含むコンデンセート・NGL、在来型161万バレル、オイルサンド294万バレル】(世界4位)、R/P(可採埋蔵量/生産量)=88年を誇るが、重質原油の魅力減、パイプライン輸送能力の限界といった問題を抱えている中、天然ガスに注目が集まっている(カナダの天然ガス:年6Tcf(兆立方フィート)生産【世界第5位】、埋蔵量1,220Tcf)。

【コラム: 新たな天然ガスがアルバータ州の経済にもたらすビジネスチャンス】

2018年末、アルバータ州政府の天然ガス諮問パネル(Natural Gas Advisory Panel)が開催された。

そのパネルでは、CIBC銀行のアナリストJon Morrisonは次のように解説した。「低価格環境が長く続いているが、カナダの天然ガス市場には明るい動き(例えば、2018年LNGカナダの最終投資決定FID、Pieridae社主導のノバスコシア州のGoldboro LNGへの期待)が見られる。その結果、天然ガスに膨大な資金が流れ込む可能性がある。LNGと製品輸出(プロパン、ポリプロピレン、アクリル酸、メタノール)に関して、「トンネルの先に光」が見える状態となったが、収益の発生は概ね2020年以降となろう。」

カナダ産の天然ガスは、カナダと米国市場にのみ依存しており、加えて新規パイプラインの認可遅延や米国シェール革命他から競争にさらされて「生産者の収入と政府の歳入が大変な危機」(アルバータ州政府)に瀕しているとされており、アルバータ州とブリティッシュコロンビア州のエネルギー業界にとって、上記天然ガス諮問パネルの結論は、国際エネルギー機関(IEA)の世界の天然ガス需要増(2040年までに46%増)の見込みとともに朗報となった。

LNG施設の建設は、カナダと米国市場以外への天然ガスの販売契約の獲得能力を意味する。北米市場はガスが飽和状態なので誰もが引き続き、カナダ発のLNG(Clean Green LNGとしてのブランドイメージ、LNGに加えガス化学への展開)を注視している。

出所:Alberta Oil & Gas Quarterly(カナダ・アルバータ州政府在日事務所、Spring 2019)


3. 2019年SPE ATCEの個別内容

以下、大会の個別セッションの様子や、参加したセッションにおいて興味を引いた発表論文の概要を中心に記す。

9月30日(月) 午前 (1)オープニングセッション Positively Impacting the World Through Responsible Energy Development
午後

(2)技術セッション13 Proppant transport and fracture conductivity / 技術セッション16 Unconventional completions optimization

(3)展示会場
(4)University Alumni Reception: The University of Tulsa

(1) オープニングセッション Positively Impacting the World Through Responsible Energy Development

  • エネルギー開発における経済成長、社会活動、環境適合のバランスの重要性について、パネリストが議論した。
  • パネリストは、Jeanne-Mey Sun, Baker Hughes; Leigh-Ann Russell, BP; Alexei Vashkevich, Gazprom Neft; Jackie Forrest, ARC Energy Research Institute; Eithne Treanor, moderatorの5名(写真3の左から右へ)。
写真3 オープニングセッション
写真3 オープニングセッション  出所:報告者撮影
  • 資源保護や環境適合と両立させる効率的なエネルギー(熱・輸送用燃料・原料ほか)の供給者に求められるキーワードが議論された。
  • 議論で出たキーワードを列記: 水力発電の利用、炭素税、CO2圧入(CCS)、エネルギー開発の上中下流に亘るLCA、2050年ネットゼロ排出に向けた取り組み(ブレークイーブンコストの低減、開発効率向上、ゼロフレア、フットプリントの軽減、モニタリング)、デジタル変革(センサー、ビッグデータの利活用)、データ戦略(法令順守、保有、データ諸元の規準)のスケールアップ、意思決定のスピードアップ、EVの充電スピードアップ、石油化学への更なる展開、掘削の自動化や掘削作業の効率改善のためにデータ分析、震探や検層ログの多変数解析に基づく自動解釈、人材のリクルートと多様性確保、他業界との協働ほか。
  • 議論の方向性として、報告者は次のように感じた。「過去数世紀にわたる統計を見ると、化石燃料を中心としたエネルギーの利活用により、環境は改善し、人々の暮らしは快適になった。大気汚染は減り、水質はきれいになり、廃棄物は管理されるようになった。栄養状態は良くなり、寿命は延び、健康状態は良くなった。労働時間は減り、教育が受けられるようになった。経済的に豊かになるにつれ、政治や社会も改善した。今後、エネルギー開発関係者は、環境適合や社会活動に更なる軸足を移し、誇りをもって真摯に業務を推進したい。」

(2) 技術セッション13 Proppant transport and fracture conductivity

  • 水圧破砕により作られた岩石割れ目の導通性向上と割れ目への詰め物(プロパント)の充填法、プロパントと水圧破砕流体の坑井の生産性への影響についての発表。
  • SPE 196048: Schlumberger社とPRI Operating社の発表。2018年パーミアン堆積盆地では、従来使用の白砂(Northern White Sand)に比べ、(水圧破砕に使う)プロパントとしての質が劣るとされた、安価な地元の砂(Regional Sand)の使用が急増した。Delaware及びMidland堆積盆にてどちらか一方のプロパントを使って水圧破砕を行った450坑のデータを類似の貯留層特性・坑井の仕上げ手順に基づき、幾つかのグループに分け、初期の生産性を比較評価した。十分なデータ数を持つグループでは、プロパントの違いによる生産性に有意な差異は認められなかった。経済性を示すNPVはRegional Sandの方が高い傾向を示した。プロパントの物性や経済性を加味したモデル構築を通じて、プロパントの違いによる長期の生産性について、今後深掘りを行う。

    技術セッション16 Unconventional completions optimization

  • カナダにおける非在来型資源の採掘坑井の仕上げ法の進化についてのケーススタディとデータ解釈のアプローチ。
  • SPE 196012: Reservoir Diagnostics社の発表。カナダのMontney層のガス・コンデンセートをターゲットにした、水平坑井への多段階水圧破砕に係るパラメーター(シェールの物性・坑井仕上げ・水圧破砕)を、実験・モデル・データの組合せから最適化した手順が紹介された。16坑の日時データと90坑の月例データを用い手順を検証し、新規6坑井に同手順を適用して想定の結果を得た。水圧破砕の検討時間短縮とコストダウンに結び付くものと思われる。

(3) 展示会場

  • ソフトウェアや装置などの自社製品の説明・デモに力を入れていたSchlumberger, Halliburton, Baker Hughes(GEの子会社)の3大石油開発サービス会社が対談スペースを設けていた。大小取り混ぜて、274社(米国・カナダ・中国・ノルウェー・英国・ドイツ・UAE・豪州・アルゼンチン・クウェート・インドの11ヶ国、米国191社)の参加であり、前回のダラス(361社)に比べ減少し、展示規模はこぢんまりとした印象を持った。石油会社の出展はKuwait Oil Companyだけであり、長年大きな存在感を示してきたSaudi Aramcoの出展はなかった。
  • 掘削機器は、地域ごと・時々刻々と変化する自然環境を相手として、直接目視できない地中奥深くの状態をリアルタイムで把握して適当な処置を選択するという緻密で高度な技術が用いられていることを、実機を見ることによって実感した(例えば、Halliburton社の展示ブース733)。
  • nanoActivⓇ(展示ブース1341): シェール層からの油の産出挙動は生産開始後、数ヶ月で急減することが知られている。通常のプロパントは水圧破砕されてできたシェール層の割れ目には充填されるものの、自然な(元からある)微細な割れ目のネットワークの85%に充填するには大きすぎるからだ。日産化学は1951年から基盤となるナノ技術に取り組んでいる。その日産化学の米国子会社(ヒューストンのNissan Chemical America Corp.)が開発したnanoActivⓇ HRT (Hydrocarbon Recovery Technology) は、通常のプロパントの10万分の1のサイズ(径12ナノメートル:透過電子顕微鏡TEMで観察可)で無機物(Silicon Dioxide)から成るコロイド状の分散液であり、ブラウン運動を呈す。そのため自然の微細な割れ目にも到達し充填されるため、油の分解・拡散(Diffusion-Driven Disjoining Pressure, Spreading Force, Fragmentation)を引き起こす。油を岩石表面から引きはがすためシェール内での油の流動範囲が広がり、油の生産減退が抑えられるというもの。2017年4月に実施したテキサス州Wolfberry層の2坑にnanoActivⓇ HRTを適用したスタディでは、近傍井10坑と比較して54%と223%もの増油効果を得た。生産を続けるためのESPやサッカーロッドポンプといった人工採油法の適用時期も近傍井に対して数ヶ月遅らせ、操業費を削減できた。再度の水圧破砕よりも経済的としている。さらにBakken油層、Wolfcamp油層、Austin Chalk / Buda油層、Budaガス層でのケーススタディでも、産出量の大幅増加が確認できた。掘削・水攻法・EORへの適用や界面活性剤・インヒビター等への添加剤としても期待が集まっている。EORではCO2やN2によるハフアンドパフ法への添加物として評価中。初期生産レートを増やす技術としてnanoActivⓇ EFT(Enhanced Flowback Technology)も評価中(実験室レベルで42%増)。nanoActivⓇ HRTとnanoActivⓇ EFTは、他の競合技術(Leading Microemulsion, Generic Surfactant)と比べ、有効期間や温度について、適用範囲が広いとしている。今後の更なるデータ蓄積による技術検証に期待が集まる。カナダの大学やサービス会社(カルガリー大、Interface Fluidics社)と当該技術の社会実装中。石油サービス大手ではないが、多くの聴衆を集めていた。

ホームページ:nanoActivⓇ

【コラム: 米国のシェールオイル・ガスはどこまで増大するのか:技術的背景を探る】

米国は、石油・天然ガスの生産量の最高値更新に向けて、毎月新たな記録を打ち立てている。2018年には、生産量で石油1100万バレル/日、ガス760億立方フィート/日に到達した。輸出量でも原油は300万バレル/日、LNGは年2000万トンに向けて記録更新中である。パーミアン・エリアでは今2019年生産量が350万バレル/日を超え、2020年には500万バレル/日に到達する勢いで、シェールオイルの生産をリードしている。また、北東部のマーセラス・エリアではガス200億立方フィート/日に向かっている。イーグルフォード、バッケン、スタック、ヘーンズビル、ユティカの各主要鉱区エリアも成長を続けている。IHS Markit 社によれば、2018年第1四半期にシェールオイルのブレークイーブンコストは、40ドル/バレル以下に低減した。2026年に米国の石油生産は1500万バレル/日になると予想される。シェールガス、シェールオイルの生産増は、その減退を上回るペースで続いている。

その科学的理由は何か? シェール貯留層では、在来型の油ガス貯留層にも増して、データ主体の解析が必要となる。多くのデータを分析して知識を取り出すのに適するとされる「人工知能」技術を用い、シェール貯留層のデータ解析が試みられている。具体的には、在来型の油ガス貯留層に比べ、シェールの場合、シェール・マトリックスの浸透率、フラクチャーの到達長さ、シェール内密度、シェールの浸透率など実測値のないデータ(ソフトデータ)を、貯留層シミュレーションの際には、仮定しなければならない。近年はマイクロサイスミックデータの解析技術の進歩により、シェール内のフラクチャーの発達状況をある程度想定できるようになったとも言われるが、信頼性のある開発計画を策定し、生産予測をできるレベルには至らず、石油採掘のオペレーターも不確実性の因子の解釈と戦いながら、手探りの状態であると言われる。よって、データ解釈に人工知能技術の一つである「機械学習」のアプローチが用いられている。

以上述べた、IoT・ビッグデータの適用や貯留層内の10億分の1メートルというナノスケールでの可視化に加え、資機材の運用効率の改善やインフラ整備といった操業の最適化が、開発コストを低下させ、低油価でのシェール開発を可能にしていると見る。

水圧破砕による岩石中の流路のヒエラルキー
水圧破砕による岩石中の流路のヒエラルキー
出所:石油学会 第68回研究発表会 2019年5月29日 伊原賢

(4) University Alumni Reception: University of Tulsa

  • 9月30日夕にホテルFairmont Palliserにて開催されたタルサ大の石油工学科の同窓会(報告者は1989年~1991年に同大へ留学)に出席し、旧友や恩師と親交を深めた。2014年半ばからの3年余り続いた油価下落は、石油採掘業界にリストラと投資減をもたらしたものの、それにも耐える復元力(レジリエンス)を示した現状へのひとまずの安心感(例えば、世界における石油工学科での第1位評価 The Best Petroleum Engineering Schools Worldwide)もあり、歓談の輪が広がった(写真4)。
写真4 タルサ大留学時の旧友と
写真4 タルサ大留学時の旧友と  出所:報告者撮影

10月1日(火) 午前

(5)技術セッション20 Operationalizing artificial intelligence and machine learning in upstream oil and gas

午後

(6)特別セッション7 Porosity to profit: understanding north American unconventional resources dominance

(7)Annual Reception and Banquet

 

(5) 技術セッション20 Operationalizing artificial intelligence and machine learning in upstream oil and gas

  • 石油産業でデジタル技術の適用が進む背景としては、供給者側にとっての原油・天然ガス価格の低迷に伴う投資・操業コストの低減要請、環境規制の強化、熟練技術者の減少、データ供給技術の進歩(利用可能なデータの増大)、データ利用に係るインフラの整備(モバイル、クラウド、AI/ビッグデータのハンドリング)、サイバーセキュリティへの対応ほかが挙げられる。石油産業にとって、デジタル技術には、破壊的創造性による産業の持続性の確保、経済面と環境面の両立、デジタル革命(センサー社会、サイバーセキュリティ)への取り組みという付加価値が期待されている。大規模情報の収集や処理の一部にデジタル技術を適用することで、リスク削減と生産性向上を念頭に置き、情報に富んだ操業上の判断を、石油開発業界もスムーズにできる時代になっている。
  • 事例として、究極回収量の向上、プラントの稼働率向上を目指した保全、油層管理・坑井配置や人工採油法の最適化、生産量予測、CTスキャンを使った油層キャラクタリゼーションを通じた地質評価技術の高度化について発表があった。
  • SPE 195887: Chevron社の発表。重質油貯留層の管理手順の一つとして、AI(ファジー理論)を用いた層序(地層の導通性や不均質性の)予測を通じた坑井配置や坑跡の最適化フロー(dynamic Reservoir Quality Indexの同定)の紹介。フローは400坑以上のデータを用い検証され、Chevron社の2019年~2020年の掘削計画に組み込まれた。
  • SPE 196152: PETROBRAS社の発表。機械学習を用いた、水および水蒸気の同時圧入を行う陸上の成熟油田における油生産量の予測。過去の多くの生産データから機械学習により、パラメーター(圧入履歴、生産履歴、生産井数)間に隠されたパターンを導き、油の生産量予測に結び付けようとした。機械学習のアルゴリズムは、線形回帰(linear regression)と繰り返しニューラルネットワーク(recurrent neural networks)とした。今後、水圧入、あるいはガス圧入油田への適用・拡張を目指す。
  • SPE 195875: Anadarko社とKongsberg Digital社の発表。深海の油ガス田施設(油の移送パイプライン、ガスコンプレッサー等)は、定修ではないダウンタイムにより、年間5%程の生産ロス(数10億ドルのロス)があると言われる。その削減を目指した機械学習のアプローチ。施設の異常予知に用いた機械学習のアルゴリズムは、Principle Component AnalysisとAutoencoderとし、センサー及び危機の稼働データによって教育され、その予知機能を高めた。機械学習のアルゴリズムは30のセンサーデータを持つ設備に適用され、半年で24件の異常を30分から2時間前に予知し、余裕をもって対処できた。既設の異常検知システムは許容データの上下限に反応するので、データ傾向を読む機械学習アルゴリズムに優位性があるとした。クラウド・コンピューティングによるデータ利用に係るインフラの整備から、アルゴリズムの自動更新も容易になった。

(6) 特別セッション7  Porosity to profit: understanding north American unconventional resources dominance

  • コンサルタントによる、カナダのMontney・米国のPermian・アルゼンチンのVaca Muertaを中心としたシェール・エリアの開発技術動向のレビュー。
  • レビューを受けて、採掘業者(オペレーター)と投資家によるパネルディカッション。オペレーターは対象シェール層への投資計画と収益性、投資家は投資決定や経済的成功に必要な因子について言及。各論のポイントは以下。
    • カナダのコンサルタントGLJ Petroleum Consultants: Duvernayシェール層からのガスコンデンセート開発のRORは40%。
    • カナダのMcDaniel & Associates Consultants: Montneyシェール層のガスコンデンセート開発。2006年より8,100坑の水平坑井。2017年2018年は年1000坑ずつ掘削。LNG化に期待。
    • Ryder Scott社: 米国のPermianエリアのMidlandとDelaware堆積盆における活動。Wolfcamp、Bone Spring層という各々の主力シェール層の良好な経済性(発見開発コスト6~15ドル/boe、WTI58ドル/b ヘンリーハブ(HH)2.5ドル/MMBtuでROR35~111%、WTI70ドル/b HH3ドル/MMBtuでROR54~161%、ブレークイーブンコストはガスの販売なしで25ドル/b  HH2.5ドル/MMBtuベースでは18~24ドル/boe、Eagle Fordも同じレンジ)。坑井間隔の広がり、プロパント量の増大といった傾向あり。
    • TD Securities社(ファイナンス): 株価低迷。カナダの方が米国よりも経済性は悪い。ESGの意識要。キャッシュフローを増やすためROR重視(孔隙率の改善よりも収益性重視)。
    • Encana社: ガスよりも油生産に焦点を置く複数の堆積盆での展開。操業効率、市場投資・財務の基盤の重視・強化。
    • Chevron社: Permian、Duvernay、Marcellus/Utica、Vaca Muertaでの開発動向。
    • TAQA North社: カナダ西部での活動、7.8万boe/d。資産の在庫評価に強み。
    • 各パネラーの2020年のWTIとHH予想(60ドル/b、HH2.5ドル/MMBtu)。

【コラム: 2014年以降のシェールオイル産業の構造変化】

  • 中堅・中小のシェールオイル企業が財務リストラに取り組む間、大企業(メジャー)は相対的に安定した原油価格動向を活かし、ヘッジ取引を行いつつ、設備投資を増額して、原油生産を増加させ、利益を拡大させる準備を進めている。企業規模の大小や主な操業エリアによる格差が拡大している。エクソンモービルやシェブロンなどのメジャー企業もパーミアン・エリアで油井掘削リグを増やす等の積極的な設備投資を表明している。
  • メジャー企業や大手の独立系石油開発会社(インデペンデント)が資本力を活かし、一段のコスト削減を実現して、シェールオイル生産に邁進する中、中堅・中小規模の企業の再編・淘汰の流れは続き、競争的な産業構造が特徴であったシェールオイル産業の構造が変化している。2019年8月のオキシデンタル社によるアナダルコ社買収は、その代表例であろう。
  • コスト競争力・原油価格動向へのインプリケーションとしては、過去4年余りの低油価環境下において、シェールオイル企業は、水圧破砕時間の短縮化、水平坑井長の延伸といった技術の進歩に加え、生産トレンド・岩石力学・貯留層工学に係るビックデータの処理・解析による付加価値創出からシェールオイル開発のスピードアップを進めてきた。
  • メジャーやインデペンデントが資本力を活かして先端技術の導入により、Non Productive Time (NPT)の削減、コスト削減を進めていくと、中堅・中小企業とのコスト競争力の差が拡大する。
  • 競争的な産業構造がシェール資源開発の特徴であり、多くの中堅・中小企業がプライス・テイカーとして活動すると考えられていたシェールオイル産業の構造変化は、油価や生産量を安定化させることに寄与すると考えられる。即ち、今後さらにメジャーを中心に財務基盤の強い会社にシェール開発事業が集中しよう。

出所:各種資料より作成、2019年8月

(7) Annual Reception and Banquet

  •   出席者約500名(写真5)。
写真5 会場前で報告者とスタンフォード大のAziz教授
写真5 会場前で報告者とスタンフォード大のAziz教授  出所:報告者撮影
  • SPE会長Sami Alnuaim氏の挨拶は、石油開発技術のグローバル化を強く意識し、環境対策をとりつつ、可採埋蔵量の積み増しを着実に進め、石油需要の伸びにも応える供給努力を続け、世の中から良いイメージをもたれるようにしたいとのメッセージであった。

10月2日(水) 午前

(8)技術セッション47 Developing and implementing digitalization business values

午後

(9)特別セッション12 Nanotechnology for the oilfield

 

(8) 技術セッション47 Developing and implementing digitalization business values

  • 石油産業にとって、デジタル技術には、破壊的創造性による産業の持続性の確保、経済面と環境面の両立、デジタル革命(センサー社会、サイバーセキュリティ)への取り組みという付加価値が期待されている。流行語「デジタルエネルギー」という言葉の定義は曖昧。デジタル革命に取り組む各社の経験や戦略がハード・ソフト技術の実践という見地から紹介された。
  • SPE 196175: アルゼンチンのYPF社の発表。DataGMAとは、Data Governance, Data Management, Data Analyticsの略称。アルゼンチンのシェール層開発・操業におけるデジタル化の試み。YPF社内のタスクフォース(DataGMA、IT、上流技術部署からの人員構成)の活動紹介(design thinking, agile teams, business intelligence)。経営・専門技術・プロジェクトマネージメント・IT間でのコミュニケーション、データ共有、および有効活用が、YPF社にとっての付加価値(経済面と環境面の両立)に結び付く。
  • SPE 195830: Hewlett Packard社とTexmark Chemicals社の発表。石油精製業界におけるIoTアーキテクチャーの紹介。デジタルツインや仮想現実の活用に代表される。多様化が進むと市場化も進んだ時代は、もう終焉を迎え、グローバル化を超えた個別化と地域化が、モノづくりにとって、無形の価値の収益化につながる。それがデジタル変革と呼ばれるもの(単なるIT変革ではない)。

(9) 特別セッション12 Nanotechnology for the oilfield

  • ナノテクノロジーとは、物質をナノメートル(10-9m)のサイズの領域、すなわち原子や分子のスケールにおいて、自在に制御する技術。そのような小さな空間に閉じ込められた電子は微視的世界を支配する量子力学の原理に従って振舞い、マクロな世界ではあり得ないユニークな現象を示す。
  • その特徴を活かして、ナノテクの石油開発への適用が本格化している。スピーカーは、ヒューストン大・カルガリー大・テキサス大(オースティン)の研究者やM-I SWACO社・OMV社・シェブロン社の技術者。コスト削減や生産効率向上を目指した、次の様なケーススタディや開発努力が紹介された。
    • 高強度で軽量なナノ構造を持つセラミック: プロパントへの適用。
    • ナノ構造を持つ金属化合物: 坑井仕上げの操作機器の開閉圧に耐える強度を兼ね備える。役目を終えると消えてなくなる。流体が通るポートの開閉に用いられるボール。多段階水圧破砕への適用。
    • カーボンナノチューブを用いたコーティング: 対腐食性材料(合金への対抗馬)。金属(硝酸塩チタニ ウム、ニッケルクロム合金)とセラミック(非金属の固体材料)の複合物。難しいのはナノ物質を複合させて「コーティング」の吹きつけに用いられる粉末にすること。発がん物質として知られる6価クロムやタングステンカーバイドの代替として、マンドレルやプランジャーへのコーティング。物質表面に通電可能なのでガスハイドレートによる管の閉塞予防、また遮水表面加工にできるため、風車の羽根の凍結防止にも適用可。
    • カーボンナノチューブを含むポリマーによる通電: ナノチューブの端の間の距離を0.1ナノメー トル程度に狭めることがゴール。1.8ナノメートルほど離れると通電しない。海底電力ケーブルへの適用。
    • ナノ物質により強化されたポリマー: 厳環境下でのシール材への適用。坑井仕上げ流体への添加剤。
    • トレーサーやEOR添加剤:ナノ物質が貯留層内をスムーズに移動。

4. 一人のPetroleum Engineerから見た技術トレンド2019

在来型石油埋蔵量の大半(70%弱)が産油国のNOC(国営石油会社)に握られている環境下では、IOC(国際石油会社)や独立系石油会社(インデペンデント)は、新規油田開発よりも既発見油田からの生産促進に軸足を置かざるを得なく、投資機会は縮小していると考える。縮小する投資機会に対応した開発技術のトレンドを整理するには、石油価格変動下における石油開発技術の適用とそれを担う人材確保の行方という観点から物事を分析する必要がある。2010年頃から日本のマスコミも注目した米国発のシェール革命は、その代表だろう。今回のSPE年次総会からの情報を基に技術トレンドを考えてみた。

SPE年次総会は、いうまでもなく、石油工学者(Petroleum Engineers)にとって1年で最大の展示を備えた学会で、学術的にも最も権威があると言われている。今回も米国の大学を中心に、多くの大学院生が発表を行っていたが、英語も流暢で論理構成もしっかりしており、業界の技術者の裾野の広がりは世界的に維持できていると感じた。日本からの口頭発表には、早大の古井准教授が指導する大学院生の青木・木村・飯島氏による「SPE195807: Numerical Study of Injection-Induced Seismicity Using A FEM-BEM Coupling Approach」が目を引いた。

SPE年次総会の一環として9月30日夕に開催されたタルサ大の石油工学科の同窓会に出席し、旧友や恩師と親交を深めた。2014年半ばから3年余りの油価下落は石油採掘業界にリストラと投資減をもたらしたが、それにも耐える復元力(レジリエンス)を示した現状へのひとまずの安心感からか歓談の輪が広がり、デジタル技術の発展による業界の未来が見えてきた。

展示会場では、ソフトウェアや装置などの自社製品の説明・デモに力を入れていたSchlumberger, Halliburton, GE (Baker Hughes)の3大石油開発サービス会社が対談スペースを設けていたが、昨2018年のダラスでの同総会(361社出展)と比べると、展示規模は274社とこぢんまりとしていた。石油会社の出展はKuwait Oil Companyだけであった。

技術発表では、新規油田開発よりも既発見油田からの回収率向上や生産効率向上を目指した技術(インテリジェントウェル、EOR/IOR、水平坑井、多段階の水圧破砕)の適用や非在来型資源(タイトオイル、シェールガス)の開発に軸足を移している。また、採掘コストの上昇抑制に寄与するとされる「石油業界におけるデジタル化のインセンティブ」は一義的にはコスト削減・埋蔵量確保・HSEマネージメントにある。

年次総会では、例年2日目夜にSPE主催の懇親会Annual Reception and Banquetが催される。石油・天然ガスの掘削、油層管理、生産に関する技術はメジャーのみならず、可採埋蔵量の65-70%を支配する産油国の国営石油会社、インド・中国ほかへと、全世界的な広がりを見せている。SPE会長の挨拶も、石油開発技術のグローバル化を強く意識し、環境対策をとりつつ、可採埋蔵量の積み増しを着実に進め、石油需要の伸びにも応える供給努力を続け、世の中から良いイメージをもたれるようにしたいとのメッセージであった。

SPEのみならず、AAPG(地質)、SEG(物探)などの技術会議に出て、最新動向を肌で感じ、かつ、発表を行うことは大変貴重な経験であり、JOGMEC技術者の認知・技術レベルの底上げには有効と考える。

来2020年の年次総会は、米国のコロラド州デンバーにて10月5日~7日の日程で開催予定である。


<参考資料>

SPE-ATCE2019 Conference Program: 冊子

SPE-ATCE2019 Conference Program: the mobile app searched "ATCE 2019" in the Apple store.

以上

(この報告は2019年11月8日時点のものです)

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