ページ番号1007925 更新日 令和1年12月12日

原油市場他:米国と中国の貿易紛争を巡る交渉の進展具合等で変動する原油価格

レポート属性
レポートID 1007925
作成日 2019-11-18 00:00:00 +0900
更新日 2019-12-12 17:47:27 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 33
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2019/11/18 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、秋場のメンテナンス作業実施に加え一部装置に不具合が発生するなどしたことから、製油所の稼働が低迷した結果、ガソリンや留出油の製造が影響を受けたことにより、両製品とも在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を上回っているものの留出油在庫は平年幅を割り込む量となっている。他方、原油については、製油所での精製処理が進まなかったことに加え、輸出が伸び悩んだことから、在庫は増加傾向となり平年幅上限を上回る状態は続いている。
  2. 2019年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、日本でも製油所の秋場のメンテナンス作業実施に伴い原油精製処理量が低迷したこともあり、原油在庫は増加した。また、欧州でも10月の製油所での原油精製処理活動安定していたこともあり、原油在庫もほぼ同水準となったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では製油所の稼働低下により、石油製品の生産活動が不活発になったことから、石油製品全般に渡り在庫は減少した。ただ、欧州では製油所の稼働が安定していたこともあり、石油製品在庫はほぼ同水準を維持した他、日本では10月1日に導入された消費税率の引き上げを前にして発生した9月の駆け込み需要の反動が10月に現れた結果、ガソリンや灯油の出荷が落ち込んだことに伴い、石油製品の在庫が増加した。ただ、米国での石油製品在庫の減少が日本の在庫増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている。
  3. 2019年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場では、10月中旬を中心とする期間は、米国株式相場の上昇等が原油相場に上方圧力を加えたものの、米国と中国の貿易紛争を巡る交渉に対する不透明感やサウジアラビアの原油生産が回復しつつある旨示唆する情報等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり50ドル台前半で推移した。しかしながら、10月下旬初頭頃以降は、米国と中国の貿易紛争を巡る協議が進展していることを示唆する情報等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり55ドルを中心とする範囲に変動領域を切り上げたうえ、11月15日には同57.72ドルと9月23日以来の高水準に到達した。
  4. 米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、今後製油所での原油精製処理量が増加し原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で発生するとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。他方、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関し文書の署名への目途が立った場合には原油価格が上昇する場面が見られることも想定されるが、その先の段階の交渉の進捗に対する不透明感が市場で払拭しきれないことから、この面で原油相場の上昇が抑制されうるものと思われる。そのような中で、12月5~6日に開催される予定であるOPEC及び一部非OPEC産油国の会合における減産措置の取り扱いを巡る動きが原油相場に影響を及ぼすことになろう。また、米国北東部を中心とする地域の気温及び気温予報、米国等の経済指標類、地政学的リスク要因などでも原油相場が変動することがありうる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2019年8月の米国ガソリン需要(確定値)は日量982万バレルと前年同月比で0.4%程度の増加となり(図1参照)、速報値(前年同月比で0.4%程度減少の日量974万バレル)から上方修正された。8月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.707ドルと、前月から0.207ドル(約7.1%)下落した他前年同月比でも0.116ドル(約4.1%)下落するとともに、同国消費者のガソリン小売価格に対する不満が顕在化する1ガロン当たり3ドルからも遠ざかったことが、ガソリン需要を喚起したものと考えられる(因みに同月の全米自動車運転距離数は前年同月比で0.7%の増加であった)が、8月の同国の1人当たり実質個人可処分所得が前年同月比で2.5%の伸びにとどまる(因みに2018年8月の当該所得の前年同月比での増加率は3.7%であった)など、米国と中国の貿易紛争による両国の関税賦課合戦等に伴い米国経済が減速しつつあることが、ガソリン需要を抑制した結果、同月の同国ガソリン需要の伸びが比較的限定的な幅にとどまったものと考えられる。他方、10月の同国ガソリン需要(速報値)は日量947万バレル、前年同月比で1.9%程度の増加となった。10月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.724ドルと前月からは0.043ドル(約1.6%)上昇しているものの、前年同月比では0.219ドル(約7.4%)下落していることが消費者のガソリン購買意欲を刺激していると見られる。しかしながら、10月のガソリン最終製品輸出量(速報値)は日量76万バレルと9月の同79万バレル(速報値)及び8月の同69万バレル(確定値)とそれほど変わらない一方、2018年10月の同109万バレル(確定値)からは大きく落ち込んでいる。米国で製造されたガソリンの主な輸出先であるメキシコではこの時期製油所のメンテナンス作業を実施することもあり、国内需要を満たすために米国から大量のガソリンを輸入する傾向がある(因みに2018年10月の米国のガソリン輸出量は同年9月の同82万バレル、8月の同68万バレルから相当程度増加していた)ことを考慮すれば、2019年10月についても確定値ベースではメキシコ等へのガソリン輸出が相当程度拡大している旨判明することにより、同国ガソリン輸出量の確定値が速報値を上回る部分につき、国内需要が速報値から確定値に移行する段階で、需要から輸出に振り替えられる結果、確定値ベースでの当該需要が速報値から下方修正される可能性もあるので注意する必要があろう。他方、同国では秋場の製油所のメンテナンス作業が実施されていたことに加え、一部製油所で装置に不具合が発生したこともあり、製油所の稼働と原油精製処理活動が低迷したままとなった(2019年10月の原油精製処理量は日量1,575万バレルと2018年10月のそれ(同1,641万バレル)を相当程度下回っている)。このため、ガソリンの製造活動も鈍化したまま(ガソリン最終製品の生産量は図3参照)となったことで、国内需要と輸出を併せた当該製品の出荷を賄うには不十分となったこともあり、10月上旬から11月上旬にかけ同国のガソリン在庫は減少傾向となったものの、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。

米国ガソリン需要の伸び(2006~19年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~19年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~19年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~19年)

2019年8月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量400万バレルと前年同月比で4.6%程度の減少となったが、速報値である日量394万バレル(同6.2%程度の減少)からは上方修正されている(図5参照)。8月の米国の鉱工業生産が前年同月比で0.4%の増加にとどまる(因みに2018年8月のそれは同5.3%の伸びであった)など同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で3.7%の増加にとどまった(因みに2018年8月の同国物流活動は前年同月比で5.5%の増加であった)ことから、この面で留出油需要が抑制されたものと考えられる。また、10月の留出油需要(速報値)は日量423万バレルと前年同月比で2.7%程度の減少となった。10月の同国鉱工業生産が前年同月比で1.1%の減少であった(因みに2018年10月の同国鉱工業生産は前年同月比で4.1%の増加であった)ことから、同月の同国の物流活動もその影響を受けていると見られる(因みに9月の同国物流活動は前年同月比で0.1%の減少となっている)ことが、当該需要を押し下げているものと考えられる。他方、製油所では秋場のメンテナンス作業実施に加え一部製油所での装置の不具合発生により稼働が低迷したことから、留出油生産活動も不活発化となった(図6参照)うえ、国際海事機関(IMO)による2020年1月1日の船舶用燃料硫黄含有分規制強化(3.5%から0.5%)を控え米国外諸国の低硫黄軽油在庫積み上げに向け、米国から留出油が比較的に堅調されたことから、10月上旬から11月上旬にかけ米国の留出油在庫は減少傾向となり、11月上旬時点では平年幅下限を割り込む状態となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~19年)

図6 米国の留出油生産量(2009年~19年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~19年)

2019年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で1.4%程度減少の日量2,106万バレルとなった(図8参照)。留出油需要の減少に加え、プロパン/プロピレンの需要の減少(2019年7月31日にExxonMobil Chemicalのベイタウン(Baytown)事業所のプロピレン製造関連施設が爆発・火災事故の発生により操業を停止したことで原料となるプロパンの需要が影響を受けた可能性がある)が石油需要減少の一因となっている。また、その他の石油需要が速報値(日量480万バレル)から確定値(同421万バレル)に移行する段階で下方修正されたこともあり、当該需要も速報値(日量2,117万バレル、前年同月比1.6%程度の増加)から下方修正されている。他方、10月の米国石油需要(速報値)は、日量2,122万バレルと前年同月比で2.3%程度の増加となった。ガソリンに加えその他の石油製品等の需要が伸びていることが石油需要の増加に寄与している。ただ、10月のその他石油製品の需要は日量423万バレルと前年同月比で同19万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年9月~2019年8月の1年間(確定値)で日量351~422万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、米国の原油生産量が概ね一定の範囲内で推移した一方で、製油所では秋場のメンテナンス作業実施や装置の不具合が発生したことで稼働が低迷したこともあり、原油精製処理が進まなかった一方で、WTIとブレント等他の原油との価格差が縮小した結果、WTIの他の原油に対する割安感が薄れたことや、9月25日に米国財務省が、イラン産原油を輸送したとして中国遠洋海運集団(COSCO)の子会社2社を含む5個人6法人に対し制裁を発動する旨表明したことにより、同社の関与する石油タンカーの利用が敬遠された他、10月11日には紅海でイランのタンカーが攻撃された旨報じられた結果、世界のタンカー運賃が大幅に上昇、例えばペルシャ湾から日本へ原油を輸送する大型タンカーの原油輸送コストは制裁発表前には1バレル当たり1ドル程度であったものが10月中旬には同9ドル弱程度にまで上昇した(その後同2ドル台にまで下落したが依然として制裁発表前の水準を上回っている)ことが、米国産原油の輸出を阻む格好となったと見られることが一因となり、原油輸出が伸び悩んだこともあり、原油在庫は10月上旬から11月上旬にかけ増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅下限を割り込む量となっているものの、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過していることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~19年)

図9 米国原油在庫推移(2003~19年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~19年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~19年)

2019年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、日本でも製油所の秋場のメンテナンス作業実施に伴い原油精製処理量が低迷したこともあり、原油在庫は増加した。また、欧州でも10月の製油所での原油精製処理活動が前月とほぼ変わらず安定していたこともあり、原油在庫もほぼ同水準となったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では製油所の秋場のメンテナンス作業実施や装置の不具合による稼働低下により、石油製品の生産活動が不活発になったことから、石油製品全般に渡り在庫は減少した。ただ、欧州では製油所の稼働が安定していたこともあり、石油製品在庫はほぼ同水準を維持した他、日本では製油所の稼働低迷が石油製品の製造に影響を及ぼしたと見られるものの、10月1日に導入された消費税率の引き上げを前にして発生した9月の駆け込み需要の反動が10月に現れた結果、ガソリンや灯油の出荷が落ち込んだことに伴い、石油製品の在庫が増加した。ただ、米国での石油製品在庫の減少が日本の在庫増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みとなっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態となっている(図14参照)。なお、2019年10月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.6日と9月末の推定在庫日数(60.8日)から増加している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~19年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~19年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~19年)

10月9日に900万バレル台後半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、10月16日には1,100万バレル弱、10月23日には1,100万バレル強、10月30日には1,100万バレル台後半程度への量と、それぞれ増加、11月6日も1,100万バレル台後半程度の量を維持した。11月13日には1,000万バレル台後半程度の量へと減少したが、10月9日の水準は上回っている。韓国を含むアジア地域での秋場の製油所メンテナンス作業が峠を越え始めたことに加え、精製能力の増強が進む中国において原油精製処理活動が活発化しつつあることでシンガポール向けガソリン供給が堅調に行われたことが、軽質留分在庫を下支えしている格好となっている。このように在庫水準がどちらかと言うと上昇傾向を示したため、例えばアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、10月中旬から11月中旬にかけ、原油価格の上下変動に製品価格のそれが追い付かなった結果拡大したり縮小したりする場面が見られながらも、概して低下気味に推移している。

ナフサについては、米国と中国との貿易紛争がアジア諸国の経済成長を圧迫したこともあり、石油化学製品需要が軟調になったことが当該産業向けナフサ需要に影響した他、アジア、中東及び欧州の各地域で製油所のメンテナンス作業実施が終結に向かいつつあったことから、ナフサの供給が増加するとの観測が市場で発生したことに加え、石油化学部門向け原料でナフサと競合する液化石油ガス(LPG)の価格が米国からの供給が豊富であったこともあり抑制されたこと等が、アジア諸国でのナフサ価格に下方圧力を加えた結果、10月中旬から11月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が認められる。

10月9日には1,100万バレル半ば程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、10月16日には900万バレル台半ば前後の量へと減少したものの、10月23日には1,000万バレル台後半、10月30日には1,100万バレル台前半程度の、それぞれ量へと増加した。ただ、11月6日は1,100万バレル強の量、11月13日には1,000万バレル台前半程度の量へと減少している。中国からの当該製品供給が堅調である他インドでは国内経済が減速していることもあり軽油需要が不振であった(10月の同国の軽油需要は前年同月比で7.4%の減少であった旨11月16日に伝えられる)結果同国から当該製品が輸出されている一方、2020年1月1日に実施される予定である国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制強化(重量ベースで3.5%から0.5%に引き下げ)を控え、船舶向けの低硫黄軽油需要が増加しつつあることが、シンガポールでの中間留分在庫を比較的限られた範囲で変動させる背景にあるものと考えられる。しかしながら、アジア諸国等での秋場の製油所のメンテナンス作業実施が終了するとともに中間留分供給がさらに増加するとの観測が市場で発生していることが、例えばアジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたことから、10月中旬から11月中旬にかけての当該製品価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油価格は原油価格のそれを上回っている)は縮小する傾向が見られる。

10月9日には2,100万バレル台前半程度の量であったシンガポールの重油在庫は、10月16日には、2,200万バレル強の量へと増加したものの、10月23日には2,000万バレル台後半程度の量へ減少した。また、10月30日には2,100万バレル台後半程度の量へと増加したものの、11月6日には2,100万バレル弱、そして11月13日には2,000万バレル台前半程度の量へと、それぞれ減少した。2020年1月1日に実施される予定である船舶燃料硫黄含有分規制強化を控え船舶用燃料需要が高硫黄重油から低硫黄軽油等に移行しつつあることから、高硫黄重油の需要が減少している反面、製油所でも低硫黄軽油の生産に傾斜し始めていることもあり高硫黄重油の製造が不活発になってきていることから、シンガポールでの高硫黄を中心とする重油在庫は増減しながらもどちらかというと減少している。もっとも、この先船舶燃料硫黄含有分規制強化実施に向け高硫黄重油需要がさらに減少するとの観測が市場で強まっていることが、アジア市場での当該製品価格に下方圧力を加えていることから、重油とドバイ原油の価格差(この場合重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大している。


2. 2019年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況

2019年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場では、10月中旬を中心とする期間は、米ドルの下落や米国株式相場の上昇が原油相場に上方圧力を加えたものの、米国と中国の貿易紛争を巡る交渉に対する不透明感やサウジアラビアの原油生産が回復しつつある旨示唆する情報、中国経済が減速していることを示す指標類が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり50ドル台前半で推移した。しかしながら、10月下旬初頭頃以降は、米国と中国の貿易紛争を巡る協議が進展していることを示唆する情報に加え、米国石油坑井掘削装置稼働数の減少等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり55ドルを中心とする範囲に変動領域を切り上げたうえ、11月15日には同57.72ドルと9月23日以来の高水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~19年)

10月10~11日に開催された米国と中国の貿易問題を巡る閣僚級協議で到達した合意につき、両国で合意書に署名する前に、中国側がさらに詳細についての協議を希望している旨10月14日に報じられる一方で、同日米国ムニューシン財務長官が今後数週間を要し実施される協議の中で署名のための合意に至らなければ、12月15日には中国製品に対する追加関税を発動する旨明らかにしたことで、両国の貿易問題解決に対する楽観的な見方が市場で後退したことに加え、シリア北部に拠点を構える、トルコが敵対視するクルド人勢力の排除と、自国に流入したシリア難民帰還のための安全地帯創出のために、10月9日にシリア北部に侵攻したトルコ軍に対し、シリアのアサド政権軍が同国北部に進軍しつつあることから、トルコとシリアの軍事衝突発生の可能性に対する懸念が市場で増大したことから、安全資産である米ドルの購入が進んだ結果、米ドルが上昇したこと、10~11月のサウジアラビアの原油生産量が日量986万バレルと9月14日の同国原油供給関連施設攻撃前の水準を超過する量へと回復する旨同国のアブドルアジズ エネルギー相が10月14日に明らかにしたことで、同国からの原油供給低下に伴う世界石油需給引き締まり感が市場で緩和したことから、この日(10月14日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.11ドル下落し、終値は53.59ドルとなった。10月15日もこの日中国国家統計局から発表された9月の同国生産者物価指数が前年同月比で1.2%の低下と2016年7月(この時は同1.7%の低下)以来の大幅な低下となったことで、同国経済成長と石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大したことに加え、米国が関税賦課を終結させなければ中国は報復関税を終結させることができず、従って10月10~11日の両国間貿易協議で合意した中国による年間500億ドル相当の米国産農産物を購入することは困難である旨中国側が示唆していると10月15日にブルームバーグ通信が報じたことで、両国の貿易問題とその経済成長及び石油需要の伸びへの影響に関し悲観的な見方が市場で発生したこと、10月15日に国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通しでIMFが2019年の世界経済成長率見通しを7月18日発表時の3.2%から3.0%へと下方修正、2020年のそれを3.5%から3.4%へと下方修正したことで、石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大したこと、10月15日に米国エネルギー省(EIA)から発表された「掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)」で、11月の米国主要7シェール地域での原油生産量が前月比で日量5.7万バレル増加する見込みである旨EIAが示唆したこと、10月17日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月11日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日(10月15日)の原油価格の終値は1バレル当たり52.81ドルと前日終値比で0.78ドル下落した。この結果原油価格は10月14~15日の2日間で併せて1バレル当たり1.89ドルの下落となった。ただ、10月16日には、この日米国商務省から発表された9月の同国小売売上高が前月比で0.3%の減少と市場の事前予想(同0.3%の増加)に反し減少している旨判明したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.36ドルと前日終値比で0.55ドル上昇した。10月17日も、この日の朝(米国東部時間)に発表された米国大手金融機関モルガン・スタンレーの2019年7~9月期業績が市場の事前予想を上回るなど米国企業業績が概ね良好であったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.57ドル上昇し、終値は53.93ドルとなった。この結果原油価格は10月16~17日の2日間で併せて1バレル当たり1.12ドル上昇した。しかしながら、10月18日には、この日中国国家統計局から発表された2019年7~9月期の同国国内生産(GDP)が前年同期比で6.0%の増加と1992年以降の四半期統計史上最低水準となった他、市場の事前予想(同6.1%の増加)を下回ったことで、同国の経済成長の減速と石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.15ドル下落し、終値は53.78ドルとなった。

また、10月20日には、2019年9月のロシアの原油生産量が日量1,125万バレルと8月の同1,129万バレルから減少したものの、依然原油生産目標である同1,119万バレルを超過している旨明らかになったことに加え、10月10~11日に開催された米国と中国との貿易紛争を巡る閣僚級協議で到達した第一段階の合意についての文書での署名に関し、トランプ大統領は、11月16~17日に開催され、両国首脳が出席する予定であるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に行うことを希望しているものの、米国のロス商務長官が、署名する事項が全て適切であることが重要であることから、必ずしも11月に署名する必要があるということではない旨10月21日に示唆した他、米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が、米国と中国との間での貿易紛争を巡る第一段階の合意のための文書での署名に関し解決されていない問題がある旨示唆したと10月21日に報じられたことで、貿易問題に関する楽観的な見方が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.31ドルと前週末終値比で0.47ドル下落した。10月22日には、この日中国外務省の楽玉成次官が中国と米国の貿易問題を巡る協議は一定程度進展しており、両国が互いを尊重すれば解決が不可能な問題はない旨明らかにしたことで、両国貿易紛争に対する悲観的な見方が市場で後退したことに加え、2020年の世界石油需要の伸びが弱い可能性があるとの懸念で、減産措置に参加するOPEC及び一部非OPEC産油国(いわゆる「OPECプラス」)は12月に開催される予定である次回会合時に減産幅の拡大を行うかどうか検討するであろう旨関係筋が明らかにしたと10月22日にロイター通信が報じたことで、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.85ドル上昇し、終値は54.16ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2019年11月渡し原油先物契約は取引を終了したが、12月渡し原油先物契約価格のこの日の終値は1バレル当たり54.48ドル(前日終値比0.97ドルの上昇)であった)。10月23日には、この日EIAから発表された米国石油統計(10月18日の週分)で原油在庫が前週比で170万バレルの減少と市場の事前予想(同300~470万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことに加え、ガソリン在庫が同311万バレルの減少と市場の事前予想(同200~230万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.97ドルと前日終値比で1.81ドル上昇した。10月24日も、10月23日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が市場の事前予想に反し減少している旨判明した流れを引き継いだことに加え、英領北海にあるFortiesパイプライン(原油輸送能力日量60万バレル)が停電のため操業を停止した旨10月24日に操業者であるIneosが明らかにしたことで、欧州を中心とする地域での石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、メキシコのカンペチェ湾沖合に低気圧があり今後48時間以内に熱帯性低気圧へと発達する可能性が60%ある旨10月24日に米国国立ハリケーンセンターが発表したことで、米国メキシコ湾沖合油田等での原油生産及び米国メキシコ湾岸地域での製油所の稼働に影響が及ぶのではないかとの懸念等が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.26ドル上昇し、終値は56.23ドルとなった。さらに10月25日も、この日午前中(米国東部時間)に米国のライトハイザーUSTR代表及びムニューシン財務長官と中国の劉鶴副首相が電話会談を実施した後、米国と中国の貿易問題を巡る第一段階の合意につき特定の内容で最終段階に接近しつつある旨米国USTRがこの日明らかにしたことにより、当該問題に対する悲観的な見方が市場で後退したことに加え、10月25日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で696基と前週から17基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で649基と同17基減少)となっている旨判明したことで、この先の米国のシェールオイル等原油生産量が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.66ドルと前日終値比で0.43ドル上昇した。この結果原油価格は10月22~25日の4日間で併せて1バレル当たり3.35ドルの上昇となった。

しかしながら、10月27日に中国国家統計局から発表された9月の同国工業部門利益が前年同月比で5.3%の減少と8月に続き減少を示していたことで、同国の経済及び石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大したことに加え、10月25日までの1週間で米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で150万バレル程度増加した旨米国石油関連情報サービス会社Genscapeが報告したと10月28日に報じられたことで、米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日(10月27日)の原油価格の終値は1バレル当たり55.81ドルと前週末終値比で0.85ドル下落した。10月29日には、10月30日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月25日の週分)で原油在庫が前週比で増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する交渉が、APEC首脳会議の開催時までに完了しない可能性がある旨米国政府関係者が10月29日に明らかにしたと報じられたことで、当該貿易問題解決と経済成長及び石油需要の伸びの回復に対する市場の楽観的な見方が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.27ドル下落し、終値は55.54ドルとなった。また、10月30日も、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する交渉がAPEC首脳会議の開催予定時期(なお、反政府デモ活動活発化のため10月30日にチリのピニェラ大統領は当該首脳会議を中止する旨発表した)までに完了しない可能性がある旨米国政府関係者が10月29日に明らかにしたと報じられたことで、当該貿易問題解決と経済成長及び石油需要の伸びの回復に対する市場の楽観的な見方が後退した流れを引き継いだうえ、10月30日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で570万バレルの増加と市場の事前予想(同49~250万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.06ドルと前日終値比で0.48ドル下落した。そして、10月31日には、この日中国国家統計局から発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門好不況の分岐点)が49.3と9月の49.8から低下、6ヶ月連続で50を割り込んだ他、市場の事前予想(49.8)を下回ったうえ、同じく同日発表された同国非製造業PMIが52.8と2016年2月(この時は52.7)以来の低水準となったことから、同国経済成長と石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大したことに加え、中国政府関係者は米国との間での貿易紛争を巡る主要問題に関しては譲歩するつもりはない旨示唆したと10月31日にブルームバーグ通信が報じたことにより、両国の当該問題の解決に対する悲観的な見方が市場で増大したこと、10月のOPEC産油国の原油生産量が推定で日量2,959万バレルと9月比で同69万バレルの増加となった旨10月31日にロイター通信が報じたことで、石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.88ドル下落し、終値は54.18ドルとなった。この結果原油価格は10月28日~31日の4日間で併せて1バレル当たり2.48ドル下落した。しかしながら、11月1日には、これまでの価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、11月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された10月の中国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門好不況の分岐点)が51.7と9月の51.4から上昇、2017年2月(この時は51.7)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(51.0)を上回ったこと、11月1日に米国労働省から発表された10月の同国非農業部門雇用者数が前月比で12.8万人の増加と市場の事前予想(同8.5~8.9万人の増加)を上回ったこと、米国と中国の貿易問題を巡る協議に関する第一段階の合意につき署名するための文書作成作業が進捗している旨11月1日に複数の米国政府幹部が示唆した他、同日中国商務省も両国間での協議の結果意見の一致があった旨明らかにしたことで、当該問題に関する交渉に対する楽観的見方が市場で増大したこと、11月1日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で691基と前週から5基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で642基と同7基減少)となっている旨判明したことで、この先の米国のシェールオイル等原油生産量が伸び悩むのではないかとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.02ドル上昇し、終値は56.20ドルとなった。

また、中国の習近平国家主席が米国のトランプ大統領と両国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名のための首脳会談開催地に関し複数の米国での候補地を検討している旨11月4日に報じられた他、同日中国外務省の耿爽報道官も文書署名のための首脳会談開催場所や時期に関し両首脳は様々な手段で接触している旨示唆したことで、両国の貿易協議進展に対する楽観的な見方が市場で増大したことから、11月4日の原油価格の終値は1バレル当たり56.54ドルと前週末終値比で0.34ドル上昇した。11月5日も、米国ホワイトハウスが中国との貿易問題を巡り、9月1日に発動した1,120億ドル相当の中国製品に対する15%の関税賦課に関し譲歩することを検討している旨11月4日夜(米国東部時間)に報じられたことを含め、両国の交渉が進展している旨示唆されたことにより、当該問題解決に向けた楽観的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.69ドル上昇し、終値は57.23ドルとなった。この結果原油価格は11月4~5日の2日間で併せて1バレル当たり1.03ドル上昇した。ただ、11月6日には、この日EIAから発表された米国石油統計(11月1日の週分)で原油在庫が前週比で793万バレルの増加と市場の事前予想(同150~270万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、米国と中国との間での貿易問題を巡る第一段階の合意に関する文書署名が12月にずれ込む可能性がある旨11月6日にロイター通信が報じたことで、当該問題解決に向けた市場の期待が後退したこと、OPECプラスの一部大産油国が12月5~6日に開催される予定であるOPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合における減産措置強化の決定に消極的である旨11月6日に報じられたことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.88ドル下落し、終値は56.35ドルとなった。それでも11月7日には、この日中国商務省が過去2週間に渡る米国と中国の貿易紛争を巡る協議で、両国間で賦課された追加関税に関し両国で同じ比率で以て段階的に解除していく旨合意したと発表した他、米国政府当局関係者も第一段階の合意に関税賦課の緩和が含まれる旨認めたと11月7日に報じられたことで、米国と中国等の経済成長に対する障害が軽減されるとともに石油需要の伸びが回復するとの期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.15ドルと前日終値比で0.80ドル上昇した。11月8日には、この日中国税関総署から発表された10月の同国輸出が前年同月比0.9%、輸入が同6.4%の、それぞれ減少と市場の事前予想(輸出同3.9%、輸入同7.8~8.9%の、それぞれ減少)程減少していなかった他、原油輸入が4,551万トン(推定日量1,074万バレル)と前年同月比で11.5%増加、史上最高水準に到達した旨判明したことに加え、11月8日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で684基と前週比で7基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は638基と同4基減少)となっている旨判明したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、11月8日に米国のトランプ大統領が中国との間での段階的な追加関税の解除に関しては何も合意していない旨明らかにしたことから、両国の貿易紛争解決に対する楽観的な見方が市場で後退したことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.09ドルの上昇にとどまり、終値は57.24ドルとなった。

11月9日に中国国家統計局が発表した10月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比で1.6%の低下と9月の同1.2%から下落幅が拡大、2016年7月以来の低水準となった他、減少幅が市場の事前予想(同1.5%の低下)を上回ったことで、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に関する懸念が市場で増大したことに加え、米国と中国の貿易紛争を巡り米国は適切な場合のみ中国と合意する旨米国のトランプ大統領が11月9日に発言したことにより両国が合意に近づいているとの楽観的な見方が市場で後退したこと、OPEC及び一部非OPEC産油国は減産期間の延長では合意する可能性はあるものの減産措置を強化する可能性は高くない旨オマーンのルムヒ石油ガス相が11月11日に示唆したことで、2020年の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.86ドルと前週末終値比で0.38ドル下落した。11月12日には、米国と中国による貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書の署名は近い一方で合意しなければ大幅な関税の引き上げを実施する意向である旨この日米国のトランプ大統領が発言したことで、両国の貿易交渉の方向性に関しまちまちな観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.06ドル下落にとどまり、終値は56.80ドルとなった。また、11月13日には、2020年の米国のシェールオイル生産増加量が当初予想よりも下振れすることにより同年の非OPEC産油国石油生産見通しを相当程度下方修正する可能性があると考えている旨この日OPECのバルキンド事務局長が明らかにしたことで、この先の世界石油需給緩和感が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.12ドルと前日終値比で0.32ドル上昇した。しかしながら、11月14日には、この日中国国家統計局から発表された10月の同国鉱工業生産が前年同月比で4.7%、小売売上高が同7.2%の、それぞれ増加と、市場の事前予想(鉱工業生産同5.4%、小売売上高同7.8~7.9%の、ぞれぞれ増加)を下回ったことに加え、11月14日にEIAから発表された米国石油統計(11月8日の週分)で原油在庫が前週比で222万バレルの増加と市場の事前予想(同100~160万バレル程度の増加)を上回ったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.35ドル下落し、終値は56.77ドルとなった。それでも、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名に向けた交渉が決着に接近しつつある旨米国国家経済会議(NEC)のクドロー委員長が11月14日夜(米国東部時間)に明らかにした他、11月15日に米国のロス商務長官も当該交渉が最終段階に差し掛かっている旨発言したことで、両国等の経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことに加え、11月15日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で674基と前週比で10基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は631基と同7基減少)となっている旨判明したことから、この日(11月15日)の原油価格の終値は1バレル当たり57.72ドルと前日終値比で0.95ドル上昇、9月23日(この時は同58.64ドル)以来の高水準に到達した。


3. 原油市場における注目点等

イラクでは、10月25日に政府の汚職問題や劣悪な公共サービスに抗議する活動が再び活発化した結果、デモ隊と治安部隊との衝突が発生した。これに対し10月31日にサレハ大統領は若者がより政治に参加できるよう選挙制度を改革したうえで早い時期に国会議員選挙を実施するべく準備する他、政治的空白を回避しつつアブドルマハディ首相は辞任する方向である旨も明らかにした。また、11月3日夜にイラク中部のカルバラにあるイラン総領事館前でデモ隊と治安部隊が衝突し3人が死亡した。さらに、同国南部ジカール県では不十分な燃料供給に抗議する反政府デモ隊がナシリヤ製油所の入口を封鎖した結果、同製油所の原油精製処理量が減少した(能力日量3万バレルが同1.5~2万バレル程度に)旨11月6日に報じられる。11月11日には、これまでの同国のデモ隊と治安部隊との衝突での死亡者数が少なくとも320名に到達した旨伝えられる。

10月11日には、サウジアラビアのジェッダ港の南西約130キロメートル程度沖合の紅海でイラン国営石油会社NIOCの所有する原油タンカー「サビティ(Sabiti)」(スエズ運河を航行できる規模で100万バレルの原油を積載し北進していたとされる)で午前5時頃及び午前5時20分頃爆発があった旨報じられた他、同日イラン外務省もタンカーが攻撃を受けた旨発表した。同日イランのタンカー関係者は、攻撃はサウジアラビア方向からなされた旨明らかにしたが、同日中に撤回した(また、10月13日にサウジアラビアのジュベイル外交担当国務相は当該攻撃にサウジアラビアは全く関与していない明らかにしている)。同タンカーは損傷し原油が流出したが、その後原油流出は停止し、自力で南方向へと進路を変更し航行し始めた(10月21日にイラン領海内に戻った旨伝えられる)。なお、このタンカー攻撃に関し、イラン政府内では攻撃の背後にイスラエルが存在しているとの見方が強まっている旨関係筋が明らかにしたと10月16日に報じられる。10月14日にイランのロウハニ大統領は記者会見し、被害を受けたタンカーはどこかの国家が関与する別の船舶から発射されたロケット弾の攻撃によるものと主張した。

他方、10月12日にイラン外務省はサウジアラビアと協議する用意があり、これには仲介役の存在は必要ない旨示唆した他、10月14日にはロウハニ大統領がイエメンでの内戦を含め中東地域の緊張緩和のために外交面で努力するよう周辺諸国に対し呼び掛けた。ただ、米国に加え、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、及びUAEの中東湾岸諸国6ヶ国は、イランの4個人及び21企業に対し制裁を発動する旨合意したと10月30日に米国財務省が発表した。また、10月31日には米国国務省がイランの建設、軍事、各部門で使用されている4素材に関する取引に対し制裁を発動した。加えて、11月4日に米国財務省はイラン最高指導者ハメネイ師の次男や側近9名と軍参謀本部に対し米国内資産凍結や米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。

また、11月4日にはイラン原子力庁のサレヒ長官が、能力の高い遠心分離機(IR6型)の導入を60台へと倍増させたうえで、さらに最新型の遠心分離機(IR9型)を導入、ウラン製造量が1日当たり5キログラムとなった旨表明した。これに対しドイツのマース外相は核合意違反であるとして反発している旨11月4日に伝えられる。また、11月5日にロウハニ大統領は翌6日に同国中部フォルドゥの核関連施設の遠心分離器に濃縮ウランの原料(六フッ化ウランガス)を注入する(原料は11月6日に施設に搬入されたと同日伝えられた)他、さらなる核合意逸脱行為実施まで2ヶ月間の猶予を与える旨表明した。一方、11月7日に696台の遠心分離機にガスの注入を開始した旨イラン原子力庁のカマルバンディ報道官は明らかにしたと同日報じられた他、同国原子力庁のサレヒ長官も、同施設で5%の濃縮ウランを製造する旨示唆したと11月5日に報じられる。これに対しEU報道官は11月5日に懸念を表明、同日米国国務省のオルタガス報道官も当該作業の再開を批判、イランに対し最大限に圧力を加え続ける旨明らかにした。11月11日には英国、フランス及びドイツ政府がイランのフォルドゥでのウラン濃縮活動再開に対し、こうした行為は3ヶ国による中東地域での緊張緩和努力を妨害するものであるとして非難するとともに、核合意に規定されている紛争解決メカニズムの適用を検討する意向である旨表明した。

他方、11月6日にイラン原子力庁は前週ナタンツにある核関連施設を査察しようとした国際原子力機関(IAEA)の女性職員につき10月28日に不審物所持の疑い(爆発探知機が繰り返し反応したと11月7日にイランのガリババディ駐ウィーン代表部大使が明らかにした)で施設への入場を拒否した旨発表した(当該職員はIAEA本部からの指示により10月30日に出国したとされる)。11月7日にIAEAは特別理事会を開催し今般のイラン核開発活動につき協議、その場で米国はイランの行為を批判した他、欧州諸国も懸念を表明している。また、11月11日にIAEAはイランの核合意の履行状況に関する報告書を取り纏めたが、そこでイランがIAEAに対し申告していない場所で天然ウラン粒子の存在を認めた旨言及した(隠密裏に核に関連した活動を実施している可能性があることを示唆するものとされる)他、11月3日時点で低濃縮ウラン貯蔵量は372.3キログラムと核合意で定められている上限である202.8キログラム(六フッ化ウラン換算300キログラム)を超過しているとした。

他方、11月7日にはペルシャ湾、ホルムズ海峡、オマーン湾、バブエルマンデブ海峡(イエメン沖)の船舶航行の安全を確保するための監視を実施する有志連合(米国、英国、豪州、サウジアラビア、バーレーン、UAE、アルバニア)の発足式が行われた(これに対し11月9日にイラン外務省のムサビ報道官は地域を不安定化する旨批判した)。また、11月8日未明にはイラン南西部フゼスタン州の港湾都市マフシャフルに飛来した外国製のものと見られる無人機を地対空ミサイルで撃墜した旨同日イラン軍が発表したが、米国中央軍は無人機の派遣を否定したと11月8日に伝えられる。

このように、地政学的リスク要因面では、いくつか原油相場に影響を与える可能性のあるものが存在する。まず、イラクであるが、政府の汚職問題や劣悪な公共サービスに対する民衆の抗議行動が10月1日以降断続的に活発化しており、10月31日にサレハ大統領は若年層の意向が反映されやすいよう選挙制度を改革したうえで、早期に国会議員選挙を実施すべく準備する方針を示している。もっとも、選挙制度改革に時間を要するようであれば、民衆の不満が沈静化しない結果、活発化した抗議活動が継続、そしてそれへの対処によりイラクの行政機能が麻痺することにより、例えば、同国の原油生産の中心である南部バスラ地域での治安体制上の不備が生じやすくなる結果、油田の操業に支障が生じるのではないかとの懸念が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。

また、10月28日に、米国のムニューシン財務長官がイランに対し一層の経済的圧力を加える方針である旨明らかにしたが、11月に入って以降イランは核開発活動を拡大する方向で動きつつあり、米国のみならず欧州各国もその行為を批判したり懸念を表明したりしている。そして、今後も米国の核合意離脱と対イラン制裁の発動に伴うイラン経済に対する逆風を相殺させるべく欧州諸国が十分な保障を施さなければ、60日毎に核合意による核開発制限の逸脱を進める旨イラン側は明らかにしているが、これまで欧州ではイランの経済補償に対し十分な策を講じて来れなかった状況となっていることもあり、今後もイランによる核開発制限逸脱行為が進行する結果、核合意自体の存続が危ぶまれるといった展開も想定されうることにより、イランと西側諸国等との関係の不安定化と親米であるとされるサウジアラビアやイスラエルとイランとの対立の先鋭化、そしてそれによる中東情勢の不安定化と地域からの原油供給への影響に対する懸念は継続するものと見られることから、この面では原油相場を下支えしやすい他、イランを巡る緊張が高まるようであれば、その内容によっては原油相場が上昇する場面が見られることもありうる。またリビアやベネズエラ(11月5日に米国財務省はベネズエラのマドゥロ政権下の政治家及び治安当局者に対し制裁を発動した旨明らかにした)においても、事態は現在のところ急激に悪化しつつあるといった感じではないが、それでも沈静化もしくは収束に向かっているわけでもなく、今後これら諸国において政情不安が拡大、その結果石油供給途絶懸念が市場で増大するようであれば、原油相場に影響を及ぼす可能性も残っているので注意が必要であろう。

経済面では、米国と中国の貿易紛争を巡る協議の動向が市場の関心事項となり続けるであろう。これまで、当該協議では、10月11日にトランプ大統領が両国間での貿易問題に関し第一段階の合意に至った旨発表したものの、その後当該合意に関する文書署名に向けなお詳細の協議が必要とされていたが、11月1日には文書署名のための協議につき原則意見が一致したことに加え、11月7日には関税につき段階的に撤廃することで両国が合意した旨、中国商務省が明らかにするなど、当該協議は進展していることが示唆された。しかしながら、11月8日には米国のトランプ大統領が関税の撤廃については何も合意していない旨明らかにするとともに、11月9日には合意できなければ大幅に関税率を引き上げる旨表明した。他方、技術の強制移転等を含むと見られるより困難な協議事項に関し中国は妥協しない旨明らかにしたと10月31日に報じられた他、11月13日には中国が米国産農産物購入の具体的金額を合意文書に含めることに反対していることや両国の関税撤廃方法で意見が一致していない旨伝えられるなど、依然として当該問題に関する交渉は紆余曲折を経ている状況となっている。今後も第一段階の合意に関する文書署名を巡る協議の進展具合が両国経済成長及び石油需要の伸びに対する観測を市場で発生させるとともに原油相場を変動させていくものと考えられる。そして、第一段階の合意に関する文書署名が行われる目途が立てば、両国の貿易問題解決に向けたさらなる進展と経済成長、及び石油需要の伸びの回復に対する市場の期待が増大することから、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることも想定される。もっとも、第一段階の合意を越えた交渉の進展にはより困難な問題の解決を必要とすることから、当該交渉にはさらに時間を要する他、その過程では両国間の緊張が高まるといった展開が見られる可能性がある一方で、その間は賦課されたままとなっている関税(もしくは両国の対立の高まりにより再び関税賦課合戦となることにより付加される可能性のある関税)、及び不安定な経済政策に対する市場の不安感が、両国等の経済を減速させ続けるとともに石油需要の伸びを鈍化させる形で作用すると見られることから、第一段階の合意により原油価格が浮揚した後、原油相場を持続的に上昇させる可能性は少なくとも短期的にはそれほど高くないものと考えられる。

また、2020年11月に実施される予定である次期大統領選挙でトランプ大統領と対立する大統領候補となる可能性のある民主党のバイデン前副大統領の子息に関しウクライナのガス会社役員時代の行為につき調査すべくトランプ大統領が大統領権限を行使したとの疑惑に関し弾劾調査実施のための決議案が10月31日に米国議会下院本会議で賛成多数で可決された。このため、それまで非公開で行われていた関係者による証言を11月13日には公開されたものとして実施し始めた。今後証言が継続するともに米国議会下院は弾劾訴追に向けた手続きを進めていくと見られるが、そのような流れを巡り米国議会及びトランプ政権との対立が先鋭化するとともに政治的空白が発生、政策遂行に影響を及ぼすようであれば、同国経済減速に対する懸念が市場で増大するとともに、それが原油相場に織り込まれる場面が見られるといった展開もありうる。

他方、米国連邦準備制度理事会(FRB)は10月29~30日に開催したFOMCで、金利をそれまでの水準から0.25%引き下げ、1.50~1.75%としたが、経済成長維持のために適切に行動する旨の文言を声明から削除するなど、連続した金利引き下げは行わない旨示唆した(もっとも同FOMC開催後の記者会見ではFRBのパウエル議長はさらなる金利引き下げの実施を排除しなかった)。12月10~11日にもFOMCが開催される予定であり、11月15日現在、金利が1.50~1.75%で据え置きとなる旨決定される確率が99.3%となっているが、開催時期までに米国をはじめとする世界経済の減速感や下振れリスクが強く感じられるとの認識を金融当局が持てば、金利引き下げが決定される可能性もある他、FOMC開催に際し米国等の経済の現状及びその見通しに関する認識とこの先の金融政策について示唆されるようなことがあれば、米ドルとともに原油相場がその影響を受ける可能性もある。その他、米国、欧州及び中国の経済指標類によっても、原油相場が変動すると見られるが、この場合経済活動が加速することを示唆する指標類が発表されれば、石油需要の伸びの回復観測が市場で発生することを通じ、原油相場に上方圧力を加える反面、経済活動が減速することを示唆する指標類が発表されれば、石油需要の伸びの鈍化観測が市場で発生することを通じ、原油相場に下方圧力を加えるといった展開となりやすいが、金融当局の発言や行動等によっては、経済活動が加速することを示唆する指標類が発表されれば、金融緩和等の景気刺激策の実施に対する観測が市場で後退することを通じ、原油相場に下方圧力を加える反面、経済活動が減速することを示唆する指標類が発表されれば、金融緩和等の景気刺激策の実施に対する観測が市場で広がることを通じ、原油相場に上方圧力を加えるといった展開となる場合があるので注意が必要であろう。

米国では、冬場の暖房シーズンに突入し(暖房シーズンは通常11月1日~翌年3月31日である)、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加、その結果原油購入が活発化するとともに季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しつつある。そして、このような市場の心理が原油相場を下支えしてくものと思われる。その際市場が考慮するのは足元の気温(特に米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温)及び気温予報である。例えば、足元の気温が大幅に低下する、もしくは今後3ヶ月間の気温が平年を下回る寒冷なものとなる旨の予報が発表される、ということになれば、暖房用石油製品需要が盛り上がるとの認識が市場で強まることにより、軽油・暖房油の価格が上昇、それに原油価格が引きずられる、といった展開となることもありうる。

また、12月5日にはOPEC総会、12月6日にはOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合が開催される予定である。OPEC産油国による足元の原油生産量がこのまま維持された場合、2020年は供給が需要を相当程度上回る(米国と中国との貿易紛争に関する交渉の進展具合によっては需要がさらに下振れする結果、供給過剰感が強まる)と見込まれることから、当該会合では2020年に向け減産措置の強化が協議される可能性がある。ただ、10月23日にロシアのノバク エネルギー相は減産措置を変更するような公式な提案はなされていないと発言、減産措置を変更するにしても良い予測が必要であり状況を監視し続けるとして、現時点では減産措置の拡大につき態度を保留している。また、サウジアラビアはイラクやナイジェリアを含めOPEC産油国等の減産遵守率の向上を希望している旨OPEC関係筋が明らかにしたと10月22日に報じられる。従ってOPEC産油国等はイラクやナイジェリアからの遵守率向上の意志を確認したうえで減産幅拡大を検討することになると予想される。このようなこともあり、最終的な減産幅の決定への意思統一はOPEC総会等開催間際になることも想定されうる。そして、当該会合で減産幅の拡大が決定し、2020年の世界石油需給引き締まり感が市場で発生すれば、原油価格が上昇する場面が見られうるであろうし、減産措置強化が見送られる等することにより、世界石油需給の緩和感が払拭しきれないということであれば、原油価格が下落する場面が見られうるであろう。また、OPEC総会等に向けサウジアラビア及びロシアといった中心となる産油国やバルキンドOPEC事務局長の発言、そしてOPEC関係筋等の情報等により、減産措置強化への市場の観測が拡大したり縮小したりする結果、原油相場が変動する可能性があるが、原油相場が下落(例えばWTIで1バレル当たり50ドルに接近)するといった場合には、OPEC産油国はより強く減産幅拡大に対する意向を示唆する結果、原油相場が反発する場面が見られる可能性もある。また、米国石油坑井掘削装置稼働数や米国石油統計によっても、原油相場が圧力を受けることもありうる。

さらに、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等における濃霧発生の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げに影響が及ぶことがありうる他、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少に向かいやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計でメキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度の減少傾向を示す場面が発生することにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加えられる、といった展開も予想される。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受け入れが再開されることから、反動で相当程度の在庫増加が見られる可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることもありうる。

全体としては、米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、製油所での原油精製処理量が増加し原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で発生するとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。他方、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関し文書の署名への目途が立った場合には原油価格が上昇する場面が見られることも想定されるが、その先の段階の交渉の進捗に対する不透明感が払拭しきれないことから、この面で原油相場の上昇が抑制されるものと思われる。そのような中で、12月5~6日に開催される予定であるOPEC及び一部非OPEC産油国の会合における減産措置の取り扱いを巡る動きが原油相場に影響を及ぼすことになろう。また、米国北東部を中心とする地域の気温及び気温予報、米国等の経済指標類、地政学的リスク要因などでも原油相場が変動することがありうる。


4. 世界天然ガス市場動向

米国では、シェールガス開発・生産の効率が向上する(米国主要7シェール鉱床における新規稼働掘削装置1基当たりの天然ガス生産量は増加傾向にある、図16参照)とともにコストが低減していると見られることや、特に米国パーミアン盆地でシェールオイル等石油坑井掘削後生産を開始した油田から随伴して天然ガスが生産されていることもあり、天然ガス生産量は増加基調が継続している(図17参照)。ただ、2018年11月以降天然ガス価格が下落傾向を示すとともに、2019年8月5日には100万Btu 当たり2.070ドルと2016年5月26日(この時は同1.963ドル)以来の低水準に到達するほどに下落したこともあり、シェールガス生産のために使用される天然ガス水平坑井掘削装置稼働数も減少傾向にある(2019年1月11日には同国天然ガス水平坑井掘削装置稼働数は196基であったが11月15日には125基と36%の減少となっている)ことから、2019年1月時点の同国天然ガス生産量は前年同月比で13.9%増加していたものの、10月時点では同7.6%の増加とその増加幅は縮小しつつある。そして天然ガス価格の下落に伴う掘削活動の減速により同国の天然ガス生産量の伸びはさらに鈍化し、2020年は頭打ち傾向が見られる可能性があると見る向きもある。

図16 米国主要7シェール地域における新規掘削装置1基当たり天然ガス生産量(2014~19年)

図17 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~20年)(EIA発表時期別)

他方、米国からメキシコに向けてはパイプラインを経由して天然ガスが安定的に出荷されている(図18参照)一方で、2019年3月1日には米国テキサス州コーパス・クリスティ(Corpus Christi)LNG第一液化施設(LNG生産量年産450万トン)が商業的操業を開始した他8月28日には第二液化施設(同450万トン)が建設を完了、そして、8月19日にはルイジアナ州のキャメロン(Cameron)LNG第一液化施設(同400万トン)、10月4日にはジョージア州エルバ・アイランド(Elba Island)LNG第一液化施設(同250万トン)が、それぞれ商業的操業を開始した旨発表された。また、9月3日にはテキサス州フリーポート(Freeport)LNG第一液化施設(LNG生産能力推定年産510万トン)で試験操業用のLNG出荷が初めて実施された旨発表された。このように、米国での天然ガス液化施設の完成もあり同国からのLNG輸出も旺盛である(図19参照)。また、天然ガスによる発電コストが石炭のそれを相当程度下回っていると見られることもあり、米国での発電量に占める天然ガス火力発電の比率が上昇している(一方で石炭火力発電の占める比率が低下している)(図20参照)。そして、発電部門での需要が堅調であったことが米国での天然ガス需要全体を牽引する格好にはなっている(図21参照)。もっとも、8月から9月にかけ米国の夏場の気温は平年を上回ってはいたものの前年同月に比べ大幅に暑かったというわけではなかった(図22参照)ことから、前年同月比での空調稼働のための電力供給等発電部門向け需要を含む天然ガス需要の伸びも比較的緩やかなものとなった。このように、米国からの天然ガス輸出や国内での需要はそれなりに発生していたものの、国内生産にカナダからの輸入を加えた天然ガス供給を消化するには不十分であったことから、3月22日には平年値(過去5年平均)を33.2%下回っていた同国天然ガス地下貯蔵量は平年値を下回る幅を縮小、10月11日には平年値を上回るようになり、10月25日には平年値を1.4%上回るなど超過する幅を拡大した(図23参照)。これに伴い、市場では天然ガス需給の緩和感が強まっていたことから、米国天然ガス先物市場ではしばしば先物契約を売却する動きが顕著になり(図24参照)、それが同国の天然ガス先物価格に下方圧力を加える格好となった。このような状況下、8月5日に100万Btu当たり2.070ドルであった天然ガス価格は平年を上回る気温もあり空調稼働のための電力供給を含む発電部門向け天然ガス需要の増加と相対的な天然ガス需給引き締まり感から9月半ばにかけ同2.6ドル台へと回復したものの、その後は気温が穏やかになったことにより、空調稼働のための電力供給を含む発電部門向け天然ガス需要が鈍化した一方で暖房向け天然ガス需要が盛り上がるには時期尚早であったことから、相対的な天然ガス需給緩和感が市場で強まったこともあり、天然ガス価格は再び下落傾向となり、10月22に日は2.272ドルに到達した(図25参照)。しかしながら、その後は米国の気温が低下し始めるとともにこの先気温が平年を割り込んで冷え込むとの予報が発表されたことで暖房用天然ガス需要が喚起されたこともあり、天然ガス先物契約を売却していた市場関係者が当該契約を買い戻し始めたことから、同国天然ガス価格は反発、11月5日には100万Btu当たり2.862ドルに到達している。

図18 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~19年)

図19 米国からのLNG輸出量及び主な輸出先(2016~19年)

図20 米国の発電量に占める石炭と天然ガスの占有率(2011~19年)

図21 米国天然ガス消費増加量(2015~19年、前年同月比)

図22 米国(ニューヨーク)気温(2019年)

図23 米国天然ガス貯蔵量(23017~19年)

図24 ニューヨーク天然ガス先物取引における資金運用者の純買い越し状況

図25 天然ガス先物価格の推移(2007~19年)

英国を含む欧州では、8月以降気温が一時的に平年を大幅に上回る場面が見られた(図26参照)ものの、概ね平年並みの水準前後で推移した他、夏場の空調稼働のための電力供給を含む発電部門向け天然ガス需要が夏の終了とともに気温が低下したことで弱まった(しかしながら、暖房機器を稼働させ天然ガスを燃焼させる程気温は低下していなかった)一方で、風力発電もそれなりに行われていたことが発電部門向け天然ガス需要を抑制する格好となった。また供給関連施設のメンテナンス作業実施や装置不具合等による停止は発生したものの、ノルウェー、ロシア等からのパイプライン経由での欧州への天然ガス輸出は概して堅調に行われた他、米国(サビン・パス(Sabine Pass)他)、ロシア(ヤマル(Yamal))、及びカタール等からのLNG輸入も比較的活発に行われた(図27参照)結果、天然ガス需給が緩和、欧州の天然ガス貯蔵量は10月28日時点で推定3.54超立方フィートと地域の天然ガス貯蔵能力の98%弱に到達する(図28参照)などしたことで、例えば欧州の一部地域ではLNGを積載したタンカーの受け入れが困難な状況になる場面も見られた。もっとも、9月10日にオランダ政府が同国フローニンゲン(Groningen)のガス田の生産停止(天然ガス生産に伴う地震発生が理由とされる)を当初予定よりも8年早め2022年とする他、2019年10月1日~2020年9月30日の同ガス田での生産枠を年間118億立方メートル(日量11億立方フィート)と2018年10月1日~2019年9月30日の同194億立方メートル(同19億立方フィート)から削減する旨発表したことに加え、フランスの原子炉6基(同国の原子炉全体の約10%を占めると伝えられる)において、16基の蒸気発生器の溶接部分で不具合が発生している旨9月10日にフランス電力会社EDFが明らかにしたこともあり、この先これらの原子炉を使用している原子力発電所が改修のため操業を停止することにより、代替電力源としてガス火力発電の稼働が上昇するとともに天然ガス需要が増加するとの観測が市場で発生したこと、さらに、OPALパイプライン(ドイツ グライフスヴァルド(Greifswald)~オルベルンハウ(Olbernhau)、天然ガス輸送能力日量34億立方フィート)の天然ガス輸送につきロシア国営ガス会社ガスプロムがその能力の大半を利用できるとする2016年10月28日の欧州委員会(EC)による決定を、9月10日に欧州連合(EU)司法裁判所が覆した(2016年12月5日にポーランド国営石油会社PGNiGがECの決定を不服としてEU司法裁判所に提訴していた)ことに伴い、当該パイプライン経由で欧州に輸送される天然ガスが減少するのではないかとの懸念が市場で発生したこと、米国キャメロンLNGが技術的な問題(電気機器関連と伝えられる)で操業に関し不可抗力条項の適用を宣言した旨9月13日に報じられたこと(他方9月16日の同社の声明ではLNGの生産と出荷は予定通り実施されている旨伝えられる)、9月14日にサウジアラビア東部にあるアブカイク(Abqiaq)原油処理施設及びクライス(Khurais)油田が攻撃され、施設が一部破壊された結果、日量570万バレル相当の原油供給に支障が発生したこともあり、9月16日の原油価格が大幅に上昇したことが、石油製品価格連動型天然ガス価格体系の残る欧州の天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、例えば9月上旬には100万Btu当たり推定3ドル台後半で推移していた英国天然ガス価格(欧州と英国は天然ガスパイプラインで接続されていることから、両市場間での天然ガスの移動を通じて需給が調整されることもあり、欧州及び英国の天然ガス価格は互いに影響を及ぼし合いやすい)は9月中旬には同5ドル近くにまで上昇する場面が見られた。しかしながら、サウジアラビアの原油生産能力が9月末までに日量1,100万バレル、11月末までに同1,200万バレルへと回復するとともに原油輸出量は減少させない旨9月17日に同国のアブドルアジズ エネルギー相が明らかにしたことに加え、同国の原油生産能力が日量1,130万バレルに到達したことで施設の改修が進んでいることが示唆される旨9月25日に報じられたこともあり、石油需給の引き締まり感が市場で後退したことから、原油価格が下落した他、9月14日にはガスプロムがOPALパイプライン経由での天然ガス輸送を削減し始めたものの、NELパイプライン(グライフスヴァルド~レーデン(Rehden)、天然ガス輸送能力日量19億立方フィート)及びウクライナ経由の天然ガスパイプライン等の代替経路での天然ガス輸送量を増加させたこともあり、ロシアから欧州への天然ガス供給削減懸念が市場で後退したことから、9月下旬には英国の天然ガス価格は再び100万Btu当たり推定で3ドル台後半にまで下落した(なお、フランスで装置不具合が発生していると言われた原子炉を設置している原子力発電所を稼働させていたEDFはその後も原子力発電所を稼働させ続けた一方、10月24日にはフランス原子力安全局が当該原子力発電所を停止する必要はないと判断した旨明らかにしている)。それでも、9月下旬以降は、冬場に向け気温が低下するにつれ、暖房用天然ガス需要の増加とともに需給の引き締まり感が市場で意識され始めたことが天然ガス価格に上方圧力を加えたことから、英国の天然ガス価格は上昇傾向となり、11月に上旬には100万Btu当たり推定5ドル台後半程度に到達する場面も見られている。

図26 英国(ロンドン)気温の推移(2019年)

図27 欧州のLNG輸入(2006~19年)

図28 欧州天然ガス在庫(2018~19年)

北東アジア市場においては、8月後半は夏場の気温が平年を上回っていたこともあり、空調稼働用の電力供給を含む発電部門向け天然ガス需要はそれなりに発生していたと見られるものの、足元の在庫が比較的高水準であったことに加え、夏場の需要期が残り少なくなってきたことから、この時期さらに大量のスポットLNGを購入しようという動きは乏しかった。加えて、日本等の足元の気温が比較的温暖であったうえ、これら諸国の冬場の気温が平年を上回る旨予想されたことや、米国と中国の貿易紛争に伴う関税賦課合戦等により中国経済が減速しつつあることが天然ガス需要を抑制する格好となった。他方、豪州や米国からのLNG供給は豊富であった(前述の通り米国では新規天然ガス液化装置が操業を開始しつつあった他、豪州でも6月11日にプレリュードLNG(LNG生産能力年産360万トン)がLNG出荷を開始した)。このような要因により、北東アジアLNG需給は必ずしも引き締まったものではなかったことが、当該市場でのスポットLNG価格に下方圧力を加えたものの、原油価格連動型価格体系が主流であるアジア市場の長期契約LNG価格とスポットLNG価格と差が相当程度開いていた(足元の日本の輸入天然ガス価格は100万Btu当たり10ドル前後で推移していた反面、8月の北東アジアスポットLNG価格は同4ドル台であった)。このように長期契約価格とスポットLNG価格の乖離が大きかったことから、一部のポートフォリオLNG取扱者が長期契約を締結する需要家向けに安価なスポットLNG調達を実施する動きが見られたことが、スポットLNG価格を下支えする格好となっていた。しかしながら、米国キャメロンLNGが技術的な問題で操業に関し不可抗力条項の適用を宣言した旨9月13日に報じられたことに加え、9月14日にサウジアラビアの原油供給関連施設が攻撃されたことにより翌週の9月16日に原油価格が急上昇したこと、その後冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期の到来が市場関係者の視野に入り始めるとともにLNGの購入が行われ始めたこと、9月10日に韓国の国家気候環境会議(官民による組織)が大気汚染対策として同国の60基の石炭火力発電所のうち14基を2019年12月~2020年2月に操業停止、そして、22基の石炭火力発電所を2020年3月に操業停止させる旨提言したこと(韓国政府は当初10月末までに石炭火力発電稼働停止に関し最終判断を下す方針とされていたが、11月中旬現在そのような判断はなされておらず、11月末に判断する可能性があると見る向きもある)もあり、石炭火力発電所稼働停止に備え韓国によるLNGの調達が活発化したこと、9月25日に米国財務省が、イラン産原油を輸送したとして中国遠洋海運集団(COSCO)の子会社2社を含む5個人6法人に対し制裁を発動する旨表明したことにより、同社の関与するLNGタンカーの利用が敬遠されたことから、スポットLNGタンカー運賃が上昇したことが、スポットLNG価格に上方圧力を加えた結果、当該価格は10月下旬初頭には100万Btu当たり7ドル弱の水準にまで上昇した。ただ、その後韓国によるLNG購入が落ち着いたことに加え、12月2日にロシアから中国に向かう「シベリアの力(Power of Siberia)」パイプラインが稼働を開始、第一段階として年間50億立方メートル(日量5億立方フィート)の天然ガスが供給される見通しであることを市場が意識するようになったこともあり、11月中旬にはスポットLNG価格は同5ドル台後半程度にまで下落している。

以上

(この報告は2019年11月18日時点のものです)

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