ページ番号1007931 更新日 平成31年11月21日

水深1,000メートルの海底に住む生き物たち ― どのように調べるか?

レポート属性
レポートID 1007931
作成日 2019-11-21 00:00:00 +0900
更新日 2019-11-21 13:44:21 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 環境技術
著者
著者直接入力 鋤崎 俊二/荒田 直/浅井 貴匡
年度
Vol
No
ページ数
抽出データ
地域1 アジア
国1 日本
地域2
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地域3
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地域8
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地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,日本
2019/11/21 鋤崎 俊二/荒田 直/浅井 貴匡
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はじめに

メタンハイドレートの研究開発では、本邦太平洋側の水深1,000メートルの場所で研究が進められています。水深1,000メートルといえども、ここには様々な生き物たちが生息しています。メタンハイドレートの資源開発においては、これら生き物たちに対しても極力影響を与えることがないよう研究開発を進める必要があると考えています。そこで、資源開発候補海域において、“どのような生き物たちが”、“どこに”、“どれくらい”、“どのように”生息しているのかを知るための調査を継続的に実施しています。なお、このような生き物たちは、水深が深いこともあり特別な装置を用いることで初めてその姿を見ることができます。また、その数や生息状況を知るためにも特別な装置が必要になります。このような装置は“海洋観測機器”と呼ばれており、メタンハイドレートの研究開発においても様々な機器を活用することで、資源開発候補海域に生息する生き物たちの実態を把握する調査を進めています。


1. なぜ、様々な生き物たちを調べるのか

本邦太平洋側のメタンハイドレートの研究開発では、海底面下200~300メートル程度の堆積物中の砂粒子間の隙間に充填するように存在しているもの(砂層充填型と称する。)を対象にしています。メタンハイドレートはメタン分子の周りを籠状の水分子が取り囲んだ化合物であり、固体の状態で存在します。メタンガスは、このメタンハイドレートをガスと水に分離することで回収します。このような形態で存在するメタンハイドレートをメタンガスとして取り出すためには、(1)メタンハイドレート層まで井戸を掘り、(2)固体で存在するメタンハイドレートをメタンガスになるよう分解させ、(3)このメタンガスを回収することになります。これら一連の作業の過程で、様々な生き物たちにとって直接的ないし間接的に影響を与える事象が発生する可能性があります。一例として、メタンハイドレート層まで井戸を掘る場合、在来型の海洋石油・天然ガス開発時と同様に掘くずが発生しますが、この掘くずが井戸の周辺に堆積することで、そこに生息していた海底の生き物たちが埋没してしまい、その結果、自然の生態系を変えてしまう可能性があります。

また、メタンハイドレートをメタンガスになるよう分解させる過程では、メタンハイドレートから分離した水と元々ある地層中の水の混和水(生産水と称する。)が発生します。メタンガスは回収しますが、不要な生産水は廃棄することになります。廃棄に際し、生産水をそのまま海洋に放流して良いかは生産水中に含まれる成分如何によります。これまでの海洋産出試験で発生した生産水中には環境に対して著しく悪影響を及ぼすような成分は含まれていないことは明らかになっています。ただし、周辺海水には殆ど含まれないアンモニウムイオン等が含まれていたことから、この影響についても検討を加えています。ちなみに、アンモニウムイオンは適正な濃度であれば植物プランクトン等の栄養源として利用されるため、一概に負の影響のみでなく、生物の増殖促進の面からも検討を加える必要があると考えています。

このように、メタンハイドレート開発は、海洋に住む生き物たちにとって様々な影響を及ぼす可能性が考えられており、メタンハイドレート開発の際に考慮しなくてはならない事項を明確にするためにも、その生息実態とメタンハイドレート開発が及ぼす具体的な影響の程度を調べることが重要であると認識しています。


2. どのような生き物たちがいるのか

図1 バクテリア、図2 ナノベントス

海洋には、大きさが数マイクロメートル(1ミリメートルの1/1,000程度)の細菌(バクテリア)から体長数十メートルになるクジラ等の海産哺乳類まで様々な大きさの生き物たちが生息しています。

本邦太平洋側のメタンハイドレート開発の候補海域においても、これらの生き物たちが生息しているため、その実態調査を進める必要があります。なお、本稿でこれら全ての生き物たちを紹介するのは難しいので、ここでは、普段目にすることが無い海底堆積物中ないし海底表面に生息する生き物たちに絞って紹介します。ちなみに、このような海底に生息する生き物たちはベントス(底生生物)と呼ばれ、ギリシャ語の“海底“が語源になっています。

まず、最も小さな生き物はバクテリアです(図1)。通常、水深が1,000メートルを超える海域の海底表層堆積物中には泥1グラムあたり数千万~数憶個のバクテリア細胞が確認されます。大きさは0.2~数マイクロメートル程度であり、その形は、球状・桿状・螺旋状など様々で、かつ増殖のために有機物を利用するもの以外に、無機物のみを利用して生存できるものも存在します。海洋において光が届く場所では、植物プランクトンが1次生産者(有機物を生産する最も低次の生物)であり、これらをより高次の生物が捕食していく食物連鎖が存在しますが、光が殆ど届かない場所においては植物プランクトンが増殖できないため、バクテリアが最も低次の生産者の任を担うことになります。一般に、バクテリアは有機物の分解者としては認識されていますが、このように低次の生産者としても重要な役割を担っています。

海底には、このバクテリアを捕食する生き物として、細胞が数マイクロメートル~数十マイクロメートル程度の生き物が存在しています。これらは、その大きさからナノベントス(図2)と呼ばれ、鞭毛を持つ生物(微小鞭毛生物)や繊毛を持つ生物(繊毛虫)などによって構成されています。なお、ナノベントスとは、ナノメートルサイズのように小さな底生生物の総称です。

さらに、大きさが数十マイクロメートル~数百マイクロメートル程度のメイオベントス(ギリシャ語で“より小さい“に由来する”メイオ“サイズの底生生物のこと)も多く生息しています。メイオベントスに属するものとしては、主に線虫類(図3)、有孔虫類(図4)および小型の甲殻類(図5)などが知られています。

図3 メイオベントス(線虫類)、図4 メイオベントス(有孔虫類)

図5 メイオベントス(小型甲殻類)

バクテリアからメイオベントスまでの生き物はその大きさが非常に小さいため、通常は顕微鏡によって初めてその姿を見ることができる生き物たちです。

一方、1ミリメートル~数センチメートル程度の大きさのものはマクロベントスと呼ばれています。この大きさの生き物になると、人の目でも十分見ることができるようになり、貝類(二枚貝類や巻貝類)、多毛類(ゴカイ類など(図6))、甲殻類(図7)、棘皮動物などの様々な生き物が含まれます。

さらに大きな生物になるとメガロベントスと呼ばれ、我々が調査対象としている海域においても大型のナマコ類(図8)やクモヒトデ類(図9)などの生息が確認されています。

図6 マクロベントス(ゴカイ類)、図7 マクロベントス(甲殻類)

図8 メガロベントス(ナマコ類)、図9 メガロベントス(クモヒトデ類)

3. どのように調べるのか

図10 マルチプルコアラ―

図11 メイオベントスの堆積物中の生息深度、図12 無人探査機(ROV)、図13 プッシュコアラーによる採泥状況

通常、これらの生き物たちの数は、体が小さい程多く、大きなほど少ないのが一般的です。このため、それぞれの生き物たちを調べるためには、おのずと調査の仕方が変わってきます。

大きさが0.1マイクロメートル~数百マイクロメートル程度のバクテリアからメイオベントスまでの生き物を採取する場合には、図10に示すようなマルチプルコアラー(MC)と称する採泥器を使用しています。この採泥器は、内径8センチメートル、長さ50センチメートルのアクリル製の筒(コア)を8本装着しており、船舶からウインチで垂下しながら海底面に静かに着座させます。そうするとコア上部にある重りが外れ、その重さによってコアを緩やかに海底堆積物中に貫入させる機能を有しています。MCをウインチで回収する際には、コアの上下に装着している蓋が閉まるようになっており、これによって最大50センチメートル程度までの深さの海底表層堆積物を採取することができます。MCの特徴は、緩やかに海底表層堆積物を採取することでその鉛直的な構造を撹乱することなく採取することができることにあります。海底表層堆積物中に生息する生き物たちは、通常海底面から数センチメートル程度までが主な生息場になっています(図11)。生息場の深さや鉛直的な分布の傾向は生き物の種類により異なっています。このため、MCのように堆積物を撹乱することなく採取することが極めて重要であり、それによって初めて正確な堆積物中の分布の特徴を把握することが可能になります。

MC以外にも無人探査機(Remotely Operated Vehicle;ROV(図12))にプッシュコアラー(図13)と呼ばれる採泥器を搭載して海底表層堆積物を採取する場合もあります。一般に、MCなどのように調査船舶からウインチで垂下する採泥器は、採取したい海底の位置からは数十メートルほど離れる可能性があります。一方、ROVで運用するプッシュコアラーの場合には、船上にあるモニター(テレビ画面)で海底の状況を確認しながら正確に目的とする位置の海底表層堆積物を採取できる利点を有します。

水深が1,000メートルを超える海域に生息する1ミリメートル~数センチメートル程度の大きさのマクロベントスを採取する場合には、ボックスコアラー(図14)や改良式のエクマンバージ採泥器(図15)など、MCに比較しより面積の広い海底表層堆積物を採取できるものを使用します。これは、この水深帯に生息するマクロベントスの生息密度が少ないため、より定量的な評価ができる試料量を確保するためです。

通常、ボックスコアラーは調査船舶からウインチで垂下させ海底表層堆積物を採取しますが、改良式のエクマンバージ採泥器はプッシュコアラーと同様にROVを用いて運用します。

採泥器で採取した堆積物は生き物の大きさに応じた様々な前処理をおこない、生物と泥粒子とを分別します(詳細な方法を知りたい場合には、文末の参考資料をご確認下さい)。その後、顕微鏡下で観察しやすいよう各種の染色をおこない、図1~図7のような状態で種類や数を調べます。

図14 ボックスコアラー、図15 改良式のエクマンバージ採泥器

メガロベントスのような大型の生き物については、通常その数が極めて少ないため、より広い範囲での調査が必要になります。 これまで、メタンハイドレートの資源開発における海域環境調査では、深海ビデオカメラ等で撮影した海底面の画像からメガロベントスの種類と数を調べています(図16)。ROVに搭載した深海ビデオカメラを用いる場合は、通常0.5ノット(時速約0.9キロメートル)程度で走行させながら、海底面から2メートル程度の高さから撮影します。このとき深海ビデオカメラで撮影される視野面積は、海底面の2~3平方メートル程度です。仮に1日のROV調査によって5キロメートルを走行した場合には、5時間以上のビデオ画像が得られます。研究者は、このビデオ画像の全てを見ながらメガロベントスの種類や数(場合によっては大きさ)を確認しています。このような地道な作業によって、初めてメガロベントスの正確な分布の状況が明らかになってきます。

図16 深海カメラで撮影した海底の状況


4. おわりに

このように、水深1,000メートルを超える海底に暮らす生き物たちを調べるためには、生き物たちの大きさや生息する堆積物の深さ、あるいは生息密度に応じた海洋観測機器を使い分ける必要があります。

ここで紹介しました海洋観測機器は、海洋に暮らす生き物たちの、ほんの一部を調べるためのものです。海洋には、水中や海底堆積物のより深い深度にも様々な生き物たちが生息します。メタンハイドレートの研究開発における海域環境調査においては、当然、これら生き物たちも調査の対象としており、生物の種類や数などに応じて様々な海洋観測機器を活用しています。


<堆積物中の生物分析方法が記載されている参考資料>

Higgins, R. P.; Thiel, H.: Introduction to the Study of Meiofauna, Chapter: The Nanobenthos, Smithsonian Institution Press, 232-237, 1988.

Lunau, M.; Lemke, A. C.; Walther, K.; Habbena, W. M.; Simon, M.: An improved method for counting bacteria from sediments and turbid environments by epifluorescence microscopy, Environmental microbiology, 7, 7, 961-968, 2005.

日本海洋学会:海洋観測ガイドライン 底生生物(ベントス),日本海洋学会編,G602JP1-6,2016.

Thiel, H.: Meiobenthos and nanobenthos of the deep-sea, Deep-sea biology, 167-230, 1983.


以上

(この報告は2019年11月21日時点のものです)

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