ページ番号1007932 更新日 平成31年11月25日

カナダのブリティッシュ・コロンビア州における環境影響評価法の改正について

レポート属性
レポートID 1007932
作成日 2019-11-20 00:00:00 +0900
更新日 2019-11-25 09:02:33 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 環境探鉱開発
著者
著者直接入力 桑山 広司/水谷 健亮/武市 知子
年度 2019
Vol
No
ページ数 7
抽出データ
地域1 北米
国1 カナダ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,カナダ
2019/11/20 桑山 広司/水谷 健亮/武市 知子
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はじめに

カナダでは連邦レベルの環境影響評価法が2019年6月に改正され[1]、今後省令・政令等(regulations)が定められる予定である。そのような中、州レベルでも同様の法改正に向けた動きがあり、ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)は同州の環境影響評価法の見直しを実施しており、2019年末以降に省令・政令等が整い次第、新しい環境影響評価法を施行する予定である。本稿では今回の法改正の資源エネルギー業界への影響を考察するために、法改正に携わり政令・省令等の整備を担当しているBC州環境影響評価庁(以下、BCEAO)のNathan Braun氏(Executive Project Director, Oil & Gas Sector)に対してパンクーバー事務所が行ったインタビュー結果を踏まえ、具体的な法改正の内容を報告する。


[1] Bill C-69, An Act to enact the Impact Assessment Act and the Canadian Energy Regulator Act, to amend the Navigation Protection Act and to make consequential amendments to other Acts, 1st Sess, 42nd Parl, 2019 (assented to 21 June 2019), SC 2019 c 28.


1. 法改正の背景

現在のBC州の環境影響評価法Environmental Assessment Actは2002年に施行された[2]。ただ、この現行の環境影響評価法には大まかな評価基準しか記されておらず、以前から具体性と透明性に欠けるとの批判があり、特にBC州内のファースト・ネーションからは「環境影響評価により深く参画させてほしい」との声が上がっていた。さらに、カナダ全土でファースト・ネーションを含むカナダの先住民族[3]との和解を模索する動きが進む中で、BC州は他州に比べファースト・ネーションが強い影響力を持っており、ファースト・ネーションの土地請求権をめぐる問題が燻り続けていることから、BC州政府はこれまでの環境影響評価法では各種プロジェクトへの許認可の付与の正当性を保てないとの認識から法改正を検討してきた。

このような中、2017年7月にBC州第36代首相に就任したJohn Horgan首相は、選挙公約において「先住民族の権利に関する国際連合宣言(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP)」のBC州法制度への反映やファースト・ネーションとの和解を掲げていたことからも、首相就任後のGeorge Heyman環境・気候変動戦略大臣に対するマンデート・レター(指示書)の中で「ファースト・ネーションの権利を尊重し、同時に州民に対する透明性を確保する新しい環境影響評価法により、同州内での環境影響評価を再活性化すること」を指示した[4]

このBC州の環境影響評価の再活性化に関する取り組みの中核を占めるのが2002年以来運用されている環境影響評価法の改正であり、これを実現するための法案Bill 51, Environmental Assessment Actは2018年11月にBC州議会で可決されている。本稿の執筆時点(2019年11月)ではBill 51は未だBC州議会による施行を待っている状況であるが、2019年末までに関係政令・省令等を整備の上、公布・施行される見通しである。(2020年初めに遅れるとの報道もある)


[2] Environmental Assessment Act (British Columbia), SBC 2002, c 43.

[3] カナダの先住民族は1982年憲法第35条により、ファースト・ネーション、メティス、イヌイットの3つに大別される。BC州に居住する先住民族は主にファースト・ネーションである。

[4] Government of British Columbia, Office of the Premier, “Mandate Letter to George Heyman, Minister of Environment and Climate Change Strategy” (18 July, 2017), online: Government of British Columbia <https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/government/ministries-organizations/premier-cabinet-mlas/minister-letter/heyman-mandate.pdf>.


2. 法改正の内容

BC州政府は今回の法改正には次の3つの目的があるとしている[5]。まず、州民の環境影響評価への意義のある参加を可能にすることにより、環境影響評価法の透明性を確保し州民の信頼を醸成すること。次に、ファースト・ネーションの環境影響評価への参加をさらに促進し、州内のファースト・ネーションとの和解を加速すること。そして、環境保護と持続可能な発展の両方を可能にする明確な道筋をつけること。これらの目的を達成するためにBC州政府は産業界、環境NGO、ファースト・ネーション、法曹界の識者との検討会や一般州民からのパブリック・コメントを踏まえ、州議会で法案Bill 51を審議してきた[6]

Bill 51により実現する新しい環境影響評価法の具体的な対象プロジェクトについては、BC州政府はBill 51の下に定める省令Reviewable Projects Regulation(RPR)で詳細を決めると発表している。現時点では大型プロジェクトは自動的に評価対象となると予想されているが、これまでの様にプロジェクトの規模で環境影響評価の対象となるか否かが決まるのではなく、多岐に亘る評価基準を導入し決定することが検討されている[7]

今回の法改正の内容で特記すべき内容は、BC州政府がBCEAOの権限を明確にしていることである。特に、BCEAOの新たな機能として環境保護のさらなる促進によりBC州の持続可能な発展を実現すること、そして上述のUNDRIPの精神に基づき州内の先住民族(BC州の場合は主にファースト・ネーション)との和解を進めることが明記されている。BC州政府によると、UNDRIPの州法への反映はファースト・ネーションとの新しい関係の構築と和解の推進の一環であり、現在のカナダの法的義務である「先住民族とのコンサルテーション義務(duty to consult and accommodate)」[8]の具体化でもある。このため、Bill 51はUNDRIPを踏まえ、以下のようにファースト・ネーションとの合意形成を目指すための取り組みを明記している。

  • ファースト・ネーションを含むステークホルダーの懸念を早期に汲み上げ、必要に応じてプロジェクトに反映するための事前協議(アーリー・エンゲージメント)の導入
  • ファースト・ネーションがプロジェクトに関するヒアリングに臨席する際の費用負担
  • ファースト・ネーションと事業主の交渉が難航した場合の仲裁人による紛争解決

さらに、この様な州内のファースト・ネーションに関する事項以外でも、州民の関心事項である環境への配慮を効率的に検討し、その後のモニタリングに反映する取り組みや、環境影響評価法の運用に関する透明性・正当性を確保するための取り組みがBill 51には含まれている。以下がその例である。

  • パブリック・コメント制度と情報公開制度の強化
  • 個別のプロジェクトに合わせた柔軟性のある評価
  • 独立した専門家やピア・レビューによる透明性の確保
  • 許認可が付与されたプロジェクトに対する環境モニタリングの強化と、その効果を踏まえた柔軟な環境対策

さらに、従来の様にプロジェクトを土地利用、水質管理、生態系への影響等の各分野で個別に評価するのではなく、「地域への全体的な影響(regional assessment)」として総合的に評価する方向であることが示されている。ただ、この点については現時点では具体的な省令・政令等は定まっておらず、今後BCEAOが具体的なプロセスを定めるものと見られる。

さらに、今回の法改正で期待されている重要なポイントは、カナダという連邦制国家における連邦レベルでの環境影響評価と州レベルでの環境影響評価の重複を避け、事業主の負担を軽減することである。例えば、州の機関であるBCEAOは連邦レベルでのカウンターパートであるカナダ影響評価庁(Impact Assessment Agency of Canada, IAAC)と協定を結び、一定の条件を満たす州レベルでの環境影響評価をもって連邦レベルでの環境影響評価を省略することを可能にする予定である[9]。これについてBCEAOは、連邦政府とBC州政府のそれぞれの環境影響評価が求められる場合でも、両政府が個別に環境影響評価を行うのではなく、プロジェクトごとに連邦政府と州政府が代替契約(substitution agreement)を締結し共通の評価基準を策定することで、法改正後はBC州内の新規プロジェクトに対してBCEAOが連邦当局の代理として環境影響評価を行う権限が与えられ、「ワン・プロジェクト、ワン・アセスメント(one project, one assessment)」という、より簡易で迅速な環境影響評価が可能になると説明している。


[5] Government of British Columbia, “Environmental Assessment Revitalization: Intentions Paper” (2018), online (pdf) at 3: Government of British Columbia <https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/environment/natural-resource-stewardship/environmental-assessments/environmental-assessment-revitalization/documents/ea_revitalization_intentions_paper.pdf>. 

[6] 脚註5の文献のp. 3。

[7] 脚註5の文献のp. 6。

[8] カナダの先住民族は1982年憲法第35条により、ファースト・ネーション、メティス、イヌイットの3つに大別される。よって、この「先住民族とのコンサルテーション義務」はカナダ連邦・州政府の国内の先住民族全てに対する憲法上の義務である。

[9] 脚註5の文献のp. 10。


3. 法改正によるファースト・ネーションへの対応

今回の法改正により、まず、ファースト・ネーション等のステークホルダーと事業主の交渉が従来の環境影響評価法より早い段階から求められる。事前協議(アーリー・エンゲージメント)と呼ばれるこの取り組みでは、監督官庁であるBCEAOによる環境影響評価を受ける前に、事業主が責任を持ってファースト・ネーション等のステークホルダーと対応することが必要となる。また、改正後の環境影響評価法の下では、全てのステップでファースト・ネーションとの調整が求められ、仮に事業主とファースト・ネーションの交渉が難航した場合は、仲裁人による紛争解決プロセスでの対応が義務付けられる。BCEAOによると、この紛争解決プロセスの仲裁人にはファースト・ネーション、環境評価、資源管理に関する知見や経験等が求められ、仲裁人の任命に際しては全ての関係者から同意を得ることを必要とする想定だが、任命プロセスを含めた仲裁人条項の具体的規定ついてはファースト・ネーションを代表するIndigenous Implementation CommitteeとBCEAOの間で目下協議中とのことである。

なお、今回の法改正により、もし検討中のプロジェクトに対してファースト・ネーションから異論が唱えられた場合、今回新設された合意内容に法的拘束力のない、期間を定めた紛争解決プロセスで関係者間の調整を行うことになる。BCEAOによると、敢えて紛争解決プロセスによる合意内容に法的拘束力を持たせないのは関係者の間で自由な取り組みが行えるよう配慮したためとのことであり、また、紛争解決プロセスに期間を定めたのは不必要な遅延を避けるためとのことである。

さらに今回の法改正により、環境影響評価のステップごとに全ての関係者の義務と作業期限が明確に設定された。BCEAOによると、例えばプロジェクトの開発速度が速い天然ガス・プロジェクトの環境影響評価では、現状では評価の遅延が発生すると評価期間を延長することで対応しているが、法改正後は関係者のそれぞれの義務とその作業期間を明確にすることで環境影響評価が迅速に進捗する仕組みにしているとのことである。特に、BC州政府の対応の遅れに起因するプロジェクト遅延等の事業主側リスクを低減すべく、州政府が何らかの義務を負う場合は州政府の作業期限が法律で明確に規定されているとのことである。

また、今回の法改正では新たに「ファースト・ネーションの知見(indigenous knowledge)」を環境影響評価の一環として導入予定だが、BCEAOによるとこれは以下に大別される。

  1. 過去の経験に基づいた知見(例:今年は特定の魚が大群で現れなかったが、数年後には戻ってくる可能性が高い、過去にも同様の事例があった、等。これはその土地の歴史的な知見として通常はそのまま活用できる。)
  2. 文化に基づいた知見(例:特定の魚がファースト・ネーションの文化にとって大切である、等。これは主観が混じり、同時に歴史的、文化的な検証が必要になる為、そのまま活用することは難しく、カナダにおいてはセンシティブな領域である。)
  3. 概念的な知見(例:サケの神が存在する、等。これはスピリチュアリティーや信仰等の主観に関係している為、そのまま活用できない。)

このファースト・ネーションの知見をどのように環境影響評価に取り込むかという課題は事業主にとって大きな難題であるが、時にはファースト・ネーションからの支持を得るための解決策となりうる、とBCEAOは説明している。例えば、多くの事業主はBCEAOに対してプロジェクトの環境影響評価を申請する前に、プロジェクトに関係するファースト・ネーションの知見を調査し、法令で必要と定められていなくても自主的に環境影響評価の一環としてファースト・ネーションの知見を活用した追加の環境対策を行っている。ファースト・ネーションの知見の導入を環境影響評価法に明記すること自体は新たな変更だが、資源エネルギー業界がこれまで行ってきている実態を反映しただけであり、新たな義務を課すものではないとBCEAOは説明している。

そして、資源エネルギー業界の関心が最も高いUNDRIPに定める「自由意志による、事前の、十分な情報に基づく同意」(以下、FPIC)が今回の法改正でどの程度求められているかについて、BCEAOは FPICを「合意の義務」ではなく、あくまでも従来のカナダの法的基準である「先住民族とのコンサルテーション義務(duty to consult and accommodate)」に定める「合意形成を目指す義務」と同一であると解釈しており、このためFPICはファースト・ネーションに拒否権を与えるものではないと理解しているとのことであった。それ故、今回の法改正で事業主は従前以上にファースト・ネーションとプロジェクトの影響について共有することが求められているが、BCEAOの見解では多くの事業主は既にファースト・ネーションとの協働に努めていることから実際には従来通りのプロセスと何ら変わることがないとの理解で良いとしている。また、カナダの憲法や法律ではファースト・ネーションが彼ら自身に悪影響を与えうるプロジェクトの実現に合意しているか否かを担当大臣が考慮する義務のみが定められていることからも、改正後の環境影響評価法もそれに準ずるものであるとのことである。加えて、今回の改正で環境影響評価の各ステップでファースト・ネーションとの合意形成を推進することが義務付けられたことにより、仮に合意が形成されずファースト・ネーションに州政府や事業主が提訴された場合でも、合意形成へ向けた確実な履行とファースト・ネーションが懸念を表明する機会を早期に設定したことを確実に裁判で示せるため、許認可の付与が裁判により取り消されるなどの事業主側の不確実要素が軽減し、さらには合意形成の推進によりファースト・ネーションも恩恵を得ることができるとのBCEAOの見解であった。


おわりに

BC州政府による今回の環境影響評価法の改正は、具体的な省令・政令等が制定されていないため、今後BCEAOがどの様に運用するかは未だ不明点が多い。しかしながら、今回の法改正はファースト・ネーション対応が大きなテーマであり、UNDRIPに定めるFPICと現在のカナダの法的基準であるコンサルテーション義務との整合性をどの様に取るのかは注目を浴びる。

同州政府はその公式サイトのQ&Aにおいて「BC州政府はUNDRIPの州内での適用と環境影響評価への反映による環境影響評価の再活性化を実現する」とUNDRIPの州法への適用を明確にした上で、「自由意志による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)は拒否権ではない」と国連が発表したリポートを根拠にFPICの導入はこれまでのカナダの法制度と大差ないことを強調している[10]

ただし、これはあくまでもBC州政府の見解であり、今後実際に係争が起こった場合に裁判所がどの様な判決を下すかは未知数である。この点を巡っては、カナダの法曹界ではFPICと現行法下の「コンサルテーション義務」には法的に差異が認められるという議論もあり、産業界からはそうであればファースト・ネーションの権利が大幅に拡大されるとの懸念の声があがっている。

今回の法改正によりファースト・ネーションの権利が拡大され、事業主のプロジェクト実現の可否に影響力を持つという考え方もある一方、ファースト・ネーションとの合意形成のプロセスが明確になることから、仮に係争になった場合でもBill 51のプロセスを踏めばコンサルテーション義務の十分な履行を裁判所に示すことが可能になるという見方もある。

まずは2019年末予定の施行を待つ必要があるが、今後プロジェクトの実現を巡り事業主とファースト・ネーションが対立した場合、BCEAOがどの様にこの新たな環境影響評価法を運用するかの注視が必要である。BCEAOとの関係を緊密化させつつ、更なる情報入手に努めていきたい。


[10]Government of British Columbia, “Frequently Asked Questions about Environmental Assessment Revitalization: Q17: How is free, prior and informed consent reflected in the revitalized environmental assessment (EA) process?” (27 August 2019, online: Government of British Columbia <https://www2.gov.bc.ca/gov/content/environment/natural-resource-stewardship/environmental-assessments/environmental-assessment-revitalization/frequently-asked-questions-about-environmental-assessment-revitalization#manyindividualsandorganizationsjustprovidedawealthoffeedbackinthereviewofthefederalenvironmentalassessmentprocessistheirfeedbackbeingconsidereddotheyneedtorepeatthemselves>.


環境影響評価の流れ(法改正後)


以上

(この報告は2019年11月20日時点のものです)

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