ページ番号1008585 更新日 平成31年12月13日

英国:英領北海におけるプライベートエクイティ系企業の台頭

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レポートID 1008585
作成日 2019-12-13 00:00:00 +0900
更新日 2019-12-13 09:54:19 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業探鉱開発
著者 川田 眞子
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 9
抽出データ
地域1 欧州
国1 英国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 欧州,英国
2019/12/13 川田 眞子
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概要

  1. 2000年前後にピークを迎えて以降、石油・天然ガスの生産が減少していた英領北海において、2015年以降、生産が持ち直している。この背景には、プライベートエクイティ系企業の台頭がある。
  2. プライベートエクイティ系企業は、メジャー企業等から資産を買収することで急激にその存在感を表してきた。これまで英領北海最大の生産者はメジャー企業であったが、2019年、プライベートエクイティ系企業が最大の生産者となる見通しとなった。
  3. プライベートエクイティ系企業が台頭してきた背景として、これらの企業の戦略・経営手法と、英領北海の投資環境がマッチしていることが挙げられる。キーワードは、(1)ショートサイクル、(2)コスト削減、(3)技術・ノウハウ・人材へのアクセスの3つである。
  4. 大規模ディスカバリーを狙うのではなく、中小規模の埋蔵量を効率的に開発するという手法は、英領北海に限らず、世界の成熟地域においてよく見られるようになったモデルであり、今後、中小規模の上流企業にとって主流な戦略の一つとなるだろう。一方、英領北海への新規参入・追加投資については、廃坑問題やエグジットが成功するのかという懸念もある。リスクを回避・軽減するにはOGA/OGUKとの連携や優秀な人材の確保(熟練技術の獲得や顔の利く人材を通した情報収集)、さらに素早い判断が重要となる。

 

2019年、英領北海での最大の生産者がプライベートエクイティ系企業(以下「PE企業」という。)Chrysaorとなる見通しが明らかになり、英国の石油・天然ガス業界では大きな話題となっている。1960年代から開発が行われ、古くからメジャー企業が生産を牽引してきた英領北海において、プレーヤーにどのような変化が起こっているのか、また、PE企業の台頭の背景には何があるのかを考察する。


1. 英領北海の現状:生産量とプレーヤーの動向

英領北海は、1960年代から開発されてきた成熟地域であり、2000年前後をピークに生産が減退している。生産量はその後減少し続けると思われたが、2015年以降、生産量がやや持ち直している。その理由として、高油価の際に投資決定をしたプロジェクトが順調に進んでいること、操業費の低下により開発対象となる資産が広がったことが一般的に挙げられている[1]

図1:英国における石油・天然ガスの生産量推移

(OGA[2] Production and Beis Demand Projections March 2019に基づきJOGMEC作成)         


[1] 詳細は、2019年セミナー・報告会資料「英領北海のレジリエンス(10/17)」を参照。

[2] OGA: Oil and Gas Authorityの略。英国の行政機関。

 

生産量が落ち込み始めた2000年前後、英領北海では大きなディスカバリーが減り、中小規模のディスカバリーが目立ち始めた。このころから、メジャー企業が中心だった英領北海に中小規模の企業が参入が増してきた。ここで、過去10年間におけるプレーヤーの変化を見ていく。企業を(1)メジャー企業、(2)政府系石油企業(National Oil Company:NOC)・独立系その他上場企業、(3)PE企業を含む非上場企業の3つに分類して、その生産量を比較した(図2)。

図2:英領北海における石油・天然ガス生産量推移と企業種類別内訳

2008年以降の生産量全体に占めるメジャー企業の割合推移を見ると、これまで英領北海全体の生産量は、メジャー企業が牽引してきたと言える。しかし、2017年~2018年の生産量に注目すると、PE企業を含む非上場企業が全体の生産量の増加に貢献していることが分かる。以上のことから、現在の英領北海では、メジャー企業だけでなく、PE企業を含む非上場企業も生産に大きく貢献していると言える。

プレーヤーの多様化について、2008年と2018年の状況を比較すると(図3)、過去10年でメジャー企業のシェアが49%から37%に減少したこと、一方で、NOC・独立系その他上場企業とPE企業を含む非上場企業の割合が増加したことが分かる。

図3:英領北海の石油・天然ガス生産における企業種類別内訳


2. 2019年、英領北海で話題になったプレーヤーとM&A

近年、英領北海ではPE企業の台頭が話題になっているが、2019年、ついに英領北海での最大の生産者がPE企業Chrysaorとなる見通しが明らかになった。英国ベースのPE企業Chrysaorは、今年7月に英領北海からの撤退を表明したConocoPhillipsの資産を約27億米ドルで買収することで、No. 1の生産者へと躍進した。

英領北海では、メジャー企業の撤退・資産売却とPE企業等による資産買収がよく見られる。PE企業ChrysaorによるConocoPhillipsの資産買収の他にも、同じく撤退を表明したChevronの資産をイスラエル系Ithaca Energy[3]が20億米ドルで買収したことも話題になった。この買収により、Ithaca Energyは、メジャー企業(Total, BP, Shell)に次ぎ、英領北海で第5位の生産者となる見込みである。(図4)

図4:英領北海における2019年企業別石油・天然ガス生産見通し


[3] Ithaca Energyは、イスラエル系コングロマリットDelek Groupの子会社であり、非上場企業である。

 

今年PE企業に対して北海資産を売却したConocoPhillipsとChevronの両社とも、撤退理由はポートフォリオの整理であり、米国・パーミアン等の主力地域に投資を集中するためとしている。今年8月には、同じく米国企業のExxon Mobileも英領北海撤退を検討していると報じられている。

図5:英領北海における2019年の主要なM&A

図5の事例のように、PE企業、コングロマリット系企業、独立系企業が、メジャー企業等の撤退を好機と捉えて、資産買収を行っており、英領北海での存在感を増してきている。


3. プライベートエクイティ系企業の台頭の背景

PE企業が英領北海で台頭している理由と背景を考察する。その理由は、PE企業のビジネスモデルと英領北海の環境がマッチしているためと考えられる。具体的には、(1)PE企業の短期出口戦略と英領北海のショートサイクル資産のマッチ、(2)PE企業の経営手法と英領北海全体で低下している操業コストのマッチ、(3)PE企業の潤沢な資金とノウハウ・人材のマッチの3点が主に挙げられる。

図6:英領北海におけるプライベートエクイティ系企業台頭の背景


(1) PE企業の短期出口戦略と英領北海のショートサイクル資産のマッチ

1点目、PE企業は一般的に5年間でエグジットする戦略を取ると言われている。ここにおいてエグジットとは、資産売却に限らず、企業の上場も含まれる。ここで英領北海資産の特徴を見てみると、英領北海にはショートサイクルで投資回収が見込める成熟資産が多い。ショートサイクル資産の例を挙げると、撤退したメジャー企業等の生産中の資産はもちろんのこと、すでにある程度の確認埋蔵量が認められる中小規模の資産(未開発油ガス田)もそれに当たる。また、英領北海の生産トレンドの一つに、点在している中小規模のフィールドをまとめて開発したり、生産中のプロジェクト周辺の埋蔵量を、既存施設を利用して開発したりする手法(tie-in)が見られる。これらの手法を用いて、PE企業は、短期間で出口戦略を描くことができる資産を狙ってM&Aをしていると思われる。


(2) PE企業の経営手法と英領北海全体で低下している操業コストのマッチ

2点目、PE企業は一般的にプロジェクトや企業を買収した後、コストを削減することで利益を増やす(価値を創造する)という経営手法を取る。他方、英領北海におけるバレル当たりの操業コスト(Unit Operating Costs:UOC)は、2014年以降、大幅に減少している。

図7:英領北海における過去5年間の操業コスト推移(バレル当たり)

(OGUK[4] Business Outlook Report 2019に基づきJOGMEC作成)         

 

英領北海における操業コスト削減の背景を掘り下げていく。図7は、過去5年間の操業コスト推移を示したもである。2016年にはバレル当たりの操業コストが2014年比で半分にまで減少した。背景には、2014年の油価下落に伴う探鉱の低迷により、サービス産業がコスト削減の努力をしたことが挙げられる。ただ、2016年時点で可能な範囲までコスト削減が達成されたため、その後はほぼ横ばいとなっている。

大幅なコスト削減が可能になった背景として、2010年以降、生産効率[5](Production Efficiency)が低下し、操業コストが増大していたため、生産効率上昇及びコスト削減の余地があったという事情がある。(図8)具体的には、2009年から油価の上昇に伴い、サービス産業の需要が高まり、操業コストが上昇した。2012年から油価が緩やかに落ち込み、2014~2015年に大幅に油価が落ち込んだことでサービス産業の需要も減り、操業コストの低下が見られた。また、2000年頃から落ち込み続けていた生産量が2015年以降、持ち直したことも、生産効率上昇とバレル操業コスト低下に繋がった。

PE企業は、このような英領北海での操業コスト削減のトレンドに乗り、価値創造を進めようとしていると見られる。


[4] OGUK:Oil & Gas UKの略。英国のOil & Gas産業による団体。

[5] 年間の生産量を資産からの最大可能生産量で割ったもの(“total annual production divided by the maximum production potential of an asset”)と定義されている。詳細は、OGAのUKCS Production Efficiency in 2017を参照。

図8:英領北海における過去10年間の操業コスト及び生産効率推移


(3) PE企業の潤沢な資金とノウハウ・人材のマッチ

3点目、PE企業の特徴の一つに潤沢な資金が挙げられる。英領北海では、PE企業は以前より見られたが、近年、グローバルな大規模PE企業が増加したと言われている。大規模PE企業は、資産の競争力が低く、安価な時を好むため、油価下落後に撤退を検討する企業が目立った英領北海に白羽の矢が立った。そのようなPE企業は、資金力により優秀な人材を雇用することが可能である。他方、英領北海は歴史を持つ石油・天然ガスの産地であり、新規参入者にとっても、蓄積されたノウハウ・技術と経験豊富な人材へのアクセスが比較的容易な環境にあると言われている。とりわけ、技術や人材のプラットフォームとして機能しているOGUKとOGAの役割は大きい。OGUKは、石油・天然ガス産業の事業者同士のネットワーキングの機会や技術的な分野もカバーするテーマ別の会合を行っている。また、OGAは操業コストの削減や廃坑問題といった業界共通の課題について積極的に情報開示や技術支援を行っている。

 

以上3点が主要な理由であるが、第4の理由として、環境団体の圧力の強い欧州の土壌とPE企業のマッチも挙げられるかもしれない。近年、特に欧州において、環境団体や気候変動活動家、さらに投資家による化石燃料関連産業への圧力は高まっており、世界の他の地域と比較すると欧州はプレーしにくいと捉える企業も出てきている。一方、PE企業は非上場企業であり、情報開示の義務も少ないため、上場企業と比較するとプレッシャーが少ない。このように、上場企業が英領北海をはじめとする欧州への参入・追加投資を躊躇する中で、PE企業が素早い判断を重ねてきたという見方もできる。


4. おわりに

成熟した英領北海においてショートサイクル資産を狙うことで存在感を増してきたPE企業の手法は、最近の上流産業における一つのトレンドと言える。具体的には、米国のシェール資産に投資するPE企業や豪州での既存フィールドに周辺の埋蔵量を繋ぐバックフィルプロジェクトについても、コンセプトが類似するところがある。このように、開発に時間のかかる大規模油田を対象とするのではなく、ショートサイクル資産をターゲットとする方法は、PE企業に限らず、中小の独立系石油企業にとっても、主流なプレースタイルの一つとなっていくだろう。とりわけ英領北海は、先述のとおりOGA・OGUKの積極的な取り組みもあり、投資環境が比較的整っており、中小規模の企業はなおさらプレーしやすい土壌と言える。

一方、英領北海で新規参入を検討するにおいて、避けられない懸念材料が主に2つある。1つ目は廃坑である。OGA[6]によれば、英領北海には現在でも100~200億boeの資源が回収可能とされているが、長期的には生産量は減退する見通しである。OGUKのレポート[7]によると、今後10年間、英領北海における廃坑費は年間152億ポンドと推測され、英国における石油・天然ガス産業のすべての支出のうち約10%を占めると報告している。問題は金額だけではなく、廃坑費用を誰が負担するかという点もある。M&Aによりプロジェクトの関係者が複雑になったケースや、複数のプロジェクトで共有しているパイプラインの廃坑をどうするか等、今後の見通しが不透明で判断が難しい状況がある。よって、新規参入者は廃坑を見据えた出口戦略を考える必要がある。

2つ目は、エグジットに成功するかという点である。近年目立っているPE企業の多くが2016~2017年に参入しており、一般的なエグジット期間である「5年後」をまだ迎えていない。現状、ヨーロッパではIPOが上手くいかなかった事例も見られる。今年6月、タイ企業とPE企業が株式を保有するノルウェーのOkeaがIPOを行ったが、目標の半分以下しか資金が集まらなかったと報道があった。英領北海のPE企業が予定どおりエグジットできるのか、その時に彼らの資産は市場にどう評価されるのか、2021~2022年頃に業界の関心を集めるだろう。

それでは、上記のような好機とリスクを踏まえて、参入すべきプロジェクトを選定するにはどうすればよいのだろうか?PE企業は、英領北海で経験を積んだ人材を集めており、熟練の技術者による技術レビューだけでなく、顔の利く人材による人的なネットワークを駆使した情報収集を行っていると言われている。プレーヤーが変化している英領北海では、メジャー企業や撤退した企業の人材が他の企業に移ったり、独立したりするケースが見られる。たとえば、PE系のSiccar Pointは、上流からの撤退を表明したCentricaの上流部門の人材をチームに迎えている。

以上、廃坑や出口戦略といった不確定要素や懸念があるものの、実際に多くのPE企業が参入し、多くの生産をして結果を残していることも事実である。英領北海は新しい局面を迎えているが、OGA・OGUKとの連携や経験豊富な人材といった、英領北海ならではの強みを生かして、PE企業や中小規模の企業がこれからどのようにプレーしていくのか注目される。


[6] OGA Overview 2019/2020参照。

[7] OGUK Decommissioning Insight 2019参照。


以上

(この報告は2019年12月13日時点のものです)

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