ページ番号1008586 更新日 令和2年1月6日
原油市場他:OPECプラス産油国の減産幅拡大等の決定、及び米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意のための文書内容面での合意等で、上昇する原油価格
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概要
- 米国では、製油所の秋場のメンテナンス作業実施が概ね終了した他、一部製油所で発生していた装置不具合の改修も進んだことで、稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだことから、原油在庫は減少した。他方、製油所の稼働上昇に伴い石油製品製造活動が活発化したことから、ガソリン及び留出油在庫は増加傾向を示したが、ガソリン在庫は平年幅上限を超過しているものの、留出油在庫は平年幅下方に位置する量となっている。
- 2019年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では若干の増加となったものの、欧州や日本での製油所のメンテナンス作業終了による原油精製処理活動の活発化に伴う原油在庫減少で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少したものの、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では、製油所での石油製品生産活動の活発化により在庫は増加となったが、欧州では米国からの中間留分輸入鈍化もあり石油製品在庫は減少、米国でも、冬用ガソリンに混入するブタンを含むその他の石油製品在庫等の減少により石油製品全体の在庫が減少したことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、量としては平年幅下方に位置している。
- 2019年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場では、11月中旬から12月上旬にかけては、米国と中国の貿易紛争を巡る協議の進捗状況に関し楽観的な見方と悲観的な見方が市場で交錯した他、OPECプラス産油国の減産措置が今後拡大するかどうかについての不透明感が市場で発生したことから、原油相場はWTIで1バレル当たり概ね55~58ドル台の範囲で推移した。しかしながら、12月6日に開催されたOPECプラス閣僚級会合開催の際に減産幅拡大で合意した等が明らかになった他、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意のために署名する文書の内容面で両国が合意した旨12月13日に米国が発表したことが、原油価格を押し上げ、12月13日にはWTIは1バレル当たり60.07ドルと9月16日以来の高水準に到達した。
- 米国では冬場の暖房用石油製品需要期に入っていることから、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場を下支えする他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力を加えるといった場面が見られることもありうる。しかしながら、米国と中国の貿易紛争を巡る第二段階以降の合意に向け再び両国間での交渉が紆余曲折を経ることに伴い両国等の経済成長及び石油需要の伸びに関する不透明感が市場で醸成されることが原油相場の上昇を抑制するといった展開も想定される。結果として原油相場は上昇もしくは下落傾向を創出しにくく、比較的限られた範囲内で推移していく可能性があるものと考えられる。このような中、米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、OPECプラス産油国の新規減産措置に関する当事者等による減産遵守状況を含む情報、そして、地政学的リスク要因等が原油相場に影響を及ぼすものと見られる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC産油国が日量約50万バレル減産措置を拡大することで合意
(1) 協議内容等
OPEC産油国は、2019年12月5日にオーストリアのウィーンで通常総会を開催し、翌6日に開催が予定されるOPEC及び一部非OPEC産油国(OPECプラス)閣僚級会合で合意することを条件としてOPECプラス産油国が2019年1月1日より実施していた減産措置(基準原油生産水準(概ね2018年10月の原油生産量)から日量約120万バレル減産)を同約50万バレル拡大し2020年1月1日より実施することで合意した。この条件は減産に参加するOPECプラス産油国による減産の完全遵守を条件とするとされる。また、次回のOPEC総会(臨時総会)は2020年3月5日にオーストリアのウィーンで、さらにその次のOPEC総会(通常総会)を6月9日に同じくオーストリアのウィーンで、それぞれ開催することを決定した。さらに、OPEC総会では、2020年1月1日から1年の任期でアルジェリアのアルカブ(Arkab)エネルギー相がOPEC議長を務める旨決定した。
また、12月6日にはOPECプラス閣僚級会合を開催し、OPECプラス産油国が2019年1月1日より実施していた、基準原油生産水準(概ね2018年10月の原油生産量)から日量約120万バレル程度減産する措置を同約50万バレル(厳密には同50.3万バレル)拡大、同約170万バレルの減産とし、2020年1月1日より実施することで合意した(OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合に関する声明では減産実施期限は明示されていないが、2020年3月末までである旨報じられる)。このうちOPEC産油国の減産量は日量37.2万バレルの拡大、一部非OPEC産油国の減産量は同13.1万バレルの拡大となる(表1参照)。加えて、サウジアラビアを中心とする一部減産措置参加産油国が自主的な追加減産措置を継続することで日量210万バレル超の減産となる(つまり、自主的追加減産量は日量40万バレル超ということになる)旨OPECプラス閣僚級会合の際の声明で公式に表明された。さらに、OPEC総会時と同様OPECプラス閣僚級会合においても減産に参加する産油国に対し減産遵守の徹底が要請された。そして、引き続きOPEC及び非OPEC閣僚監視委員会(JMMC: The Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、カザフスタン、及びオマーン)が、共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局による支援のもと、減産の実施状況に対する監視を行い、定期的にOPECプラス閣僚級会合に報告するよう要請された。なお、2019年10月1日に、財政問題により2019年12月31日を以てOPECを脱退する旨発表したエクアドルについては、今回のOPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合の声明では同国の脱退に関する言及はなく、また同国の減産措置の取り扱いも曖昧になっている。
また、減産措置対象となっていた原油生産のうちコンデンセート生産分を除外、2020年1月1日以降の原油生産目標が日量1,032.8万バレルとなった(2019年12月末までは同1,039.8万バレル)旨ロシアのノバク エネルギー相が12月6日に主張した(またそのように報道する向きもある)が、これについてはOPECプラス閣僚級会合の声明には盛り込まれておらず、また、アゼルバイジャンのシャフバゾフ(Shahbazov)エネルギー相は、(減産に参加する非OPEC産油国の減産量計算の際に)原油生産量からコンデンセート相当分を除外する件についてはOPECプラス閣僚級会合では合意に至らなかったため、従来通りコンデンセートは含まれる旨OPECプラス閣僚級会合開催後に発言している他、関係筋もロシアの原油生産目標は日量1,121.1万バレルでコンデンセートは含まれる旨明らかにしている。この点については、OPECプラス会合後の声明とともに配布された2020年1月1日以降の減産措置に関する資料では追加減産幅(合計日量50.3万バレル)の産油国別内訳が記載されているのみであり、減産目標については明示的もしくは暗示的に算出困難な格好となっており、今後コンデンセートを減産対象の原油生産量の中に含めるかどうかの解釈に関する問題が露呈するリスクを内包している。そして、次回のOPECプラス閣僚級会合は3月6日にオーストリアのウィーンで、さらに6月10日にも同じくオーストリアのウィーンで、それぞれ開催される予定である。
(2) 今回の会合の背景等及び石油市場の反応
前回のOPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合開催時(OPEC総会が2019年7月1日、OPECプラス閣僚級会合が7月2日)以降、原油価格(WTI)(因みに7月2日時点の原油価格は1バレル当たり56.25ドルであった)は8月7日早朝(米国東部時間)には一時50.52ドル近くにまで下落したものの、その後米国と中国の間での貿易紛争を巡る交渉の進展に対する市場の期待の増大もあり、特に11月以降は1バレル当たり概ね50ドル台後半で安定するようになっていた。しかしながら、OPECプラス産油国にとってこの先の世界石油需給を巡る状況は必ずしも安心できるものではなく、従来の減産方針をそのまま延長していいというものでもなかった。従来の減産措置を現在の遵守率で以て延長した場合、2020年全体では世界石油供給が需要を日量105万バレル程度超過することが見込まれた(表2参照)。
従って、OPEC総会等で従来の減産措置を現在の遵守率で以て延長する旨決定した場合、2020年10月末時点ではOECD諸国の石油在庫が平年(過去5年平均)を相当程度上回ること(図1参照)により、世界石油需給の緩和感とともに原油価格の先安観が市場で強まる結果、今次OPEC総会等で従来の減産措置の延長を決定した直後から原油相場に下方圧力が加わるといった展開が予想された。
他方、サウジアラムコの株式公開(IPO)関連作業を行っている(12月11日に同社株式売買を開始する旨伝えられる)サウジアラビアにとってみれば、原油価格下落によりサウジアラムコの資産価値が減少することに伴い同社株式価格が下落することを通じサウジアラビア国内を中心とする投資家に損失を与える恐れがあったことから、そのような事態は回避したい旨希望していたと見られる。
このようなことから、OPECプラス産油国全体としては、従来の減産措置を日量約50万バレル拡大するとともに、減産遵守を徹底する(これにより日量50万バレル程度の原油供給を市場から排除することが可能となる)ことで、世界石油需給を日量100万バレル程度引き締めることにより、2020年全体としての世界石油需給の均衡と原油相場の維持を図ろうとしたものと考えられる。2020年に向け世界石油需給がさらに日量100万バレル程度引き締まれば、例えばOECD諸国石油在庫は概ね平年水準からそう大きく乖離することなく推移することが予想される(図2参照)。
もっとも、2020年においては、米国と中国の貿易紛争を巡る交渉の進捗状況、及び米国のシェールオイルを含む原油生産量の見通し等に関しては強い不透明感があったことから、今次OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合では2020年3月に改めてOPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合を開催し、必要であれば減産措置につき再調整する余地を残したものと見られる。
ただ、今回のOPECプラス産油国による減産措置強化の決定は円滑になされたわけではなかった。これまでサウジアラビア等は減産目標を超過する水準で減産を遵守することで、米国でのシェールオイル等の原油生産増加に対抗、石油市場及び原油価格の安定化を図ってきた。しかしながら、全てのOPECプラス産油国が減産を遵守できていたわけではなかった。減産遵守状況が良好でないとしばしば指摘されてきた主な産油国は、イラク、ナイジェリア及びロシアであった。サウジアラビアが目標を超過する水準で減産を行い原油相場の安定化に向け努力した一方、減産を遵守しないことにより原油価格安定化の恩恵を過剰に受ける格好となっていた産油国に対し、12月3日に開催されたJTCでは、減産遵守を軽視し続けるのであればサウジアラビアは減産の超過遵守を取りやめる(つまりその分だけ増産する)旨示唆したとされる。また、12月5日のOPEC総会は6時間を超過して実施されたが、ここにおいても、サウジアラビアは減産遵守状況の思わしくないイラクやナイジェリアに対し遵守徹底を迫ったとされる(イラクはクルド自治区の原油生産までは制御が困難である旨主張し、サウジアラビアと激しい議論となったと伝えられる)。これを受け、12月6日にはイラク及びナイジェリアは減産を完全に遵守する旨表明したと伝えられる。他方、アンゴラについては出席していたアゼベド(Azevedo)鉱物資源・石油相が自国の減産目標を拡大するようなことになればアンゴラはOPECから脱退する旨発言したとされる。そのようなこともあり、アンゴラについては追加減産なしとなったと見られる(OPECプラス減産措置拡大に関する資料においては、アンゴラの追加減産幅は記載されていない)。
他方、ロシアでは特に冬季は原油生産中心地である西シベリア地域で原油生産を停止することは困難であり(蝋分の多い原油が通過するパイプが低温で凍結することによりパイプ内で原油が凝固する結果以降の操業に支障が生じる可能性があると言われている他、油井が破裂する(原油の凝固が関係しているものと見られる)恐れがあるとの指摘もある)、ロシアは減産措置拡大で合意する見込みは低く、従来の減産措置の延長を約束することでOPECプラス産油国の減産措置を推進するサウジアラビアを支援する可能性がある旨関係筋が11月19日に明らかにしていた。さらに、ロシアでは新規の天然ガス田が生産を開始しつつあると言われており、天然ガス生産増加とともにコンデンセート生産量が増加しつつあり、このコンデンセート生産相当分が原油生産量に含まれていたことが同国の減産遵守を低下させる方向で影響したとして、この分を減産状況測定の際の原油生産から除外するようロシアは主張したと11月19日に報じられる。ただ、11月14日にロシアのプーチン大統領は、サウジアラムコのIPOを控えているサウジアラビアはOPECプラス産油国による減産措置に関し厳しい姿勢を示しており、ロシアとしてはサウジアラビアの意向を尊重したい旨示唆した。また、11月20日にプーチン大統領は、石油市場を均衡させ予見可能なものとし続けるという目標をロシアとOPECは共有しており、ロシアは減産措置の面での協力を継続する旨発言した。このようなことから、ロシアは、最終的にはサウジアラムコのIPOを控え石油市場の安定と原油価格の維持を希望するサウジアラビアとの関係を重視することで、減産措置の拡大を容認したものと考えられる(但しコンデンセートの扱いについては議論が平行線を辿った結果曖昧なままとなっていると見られる)。
12月5日のOPEC総会開催の際に流れた、OPECプラス産油国で日量約50万バレル減産を拡大する方向であるとの情報に対し、当該減産措置拡大は従来サウジアラビア等が減産目標を超過して自主的に減産していた部分を追認するに過ぎず、従って世界石油需給引き締め効果は殆どないのではないかとの疑念が一部市場関係者から示されたが、12月6日に開催されたOPECプラス閣僚級会合で、OPECプラス産油国による日量約50万バレルの減産措置拡大方針に加え、サウジアラビア等一部産油国による自主的な追加減産実施が公式に表明されたことにより、そのような市場の疑念が相当程度払拭されるとともに、2020年に向けた世界石油需給引き締まり期待が市場で増大したこともあり、12月6日の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり59.20ドルと前日終値比で0.77ドル上昇した。
今後は、OPECプラス産油国の減産遵守状況が、まず市場から注目されるところになろう。イラクやナイジェリアといった産油国による減産の遵守が徹底しないようだと、当初見込み通り石油需給引き締まり感が市場で醸成されない結果、原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。また、ロシアの減産遵守を測定する際に用いられる同国原油生産量から、コンデンセートが除去された場合、コンデンセートを除く原油の減産は目標に到達していても、コンデンセートの生産量の増加が加速すれば、世界石油需給緩和感を市場に与える結果原油相場が下落することにもなりうるため、実際ロシアのコンデンセートを除いた原油生産量及びコンデンセート生産量がどのように推移するかについても市場は注視するであろう。加えて、今般の一連のOPECプラス産油国による減産措置により、2020年全体としては、石油需給は均衡すると見られるものの(もちろん世界経済成長に伴う石油需要の伸びの変化や米国シェールオイル生産の上振れもしくは下振れにより、この状態は変わりうる)、それでも同年前半は季節的に石油需要が落ち込むことにより供給過剰となる結果、原油相場が下落する場面が見られる可能性もあることから、このような季節的な石油需給緩和感の市場での情勢に伴う原油相場下落に対しOPECプラス産油国がどのような対応を行うか、ということにも注意を要する。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2019年9月の米国ガソリン需要(確定値)は日量917万バレルと前年同月比で0.2%程度の増加となった(図3参照)が、速報値(前年同月比で1.6%程度増加の日量930万バレル)からは下方修正された。9月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.681ドルと、前月から0.234ドル(約8.0%)下落した他前年同月比でも0.026ドル(約1.0%)下落するとともに、同国消費者のガソリン小売価格に対する不満が顕在化する1ガロン当たり3ドルからも遠ざかったことが、ガソリン需要を喚起したものと考えられるものの、9月の同国の1人当たり実質個人可処分所得が前年同月比で2.6%の伸びにとどまる(因みに2018年9月の当該所得の前年同月比での増加率は3.3%であった)など、米国と中国の貿易紛争による両国の関税賦課合戦等に伴い米国経済成長が伸び悩み気味であることが、ガソリン需要を抑制した結果、同月の同国ガソリン需要の伸びが比較的限定的な幅にとどまったものと考えられる。また、11月の同国ガソリン需要(速報値)は日量917万バレル、前年同月比で1.3%程度の減少となった。米国と中国の貿易紛争による関税賦課合戦等に伴いここ数ヶ月間米国の経済成長が伸び悩み気味となっていることが同国のガソリン需要の伸びを抑制していると見られることに加え、同様の背景があるにもかかわらず10月の同国のガソリン需要が前年同月比で1.9%程度増加したため、その反動で11月の当該需要の伸びが落ち込んだ格好となっているものと考えられる。他方、同国での秋場の製油所のメンテナンス作業実施は概ね終了したうえ、一部製油所で発生していた装置の不具合に関しても改修が進んだと見られることから、製油所の稼働と原油精製処理活動が回復してきた(図4参照)。このため、ガソリンの製造活動も活発化した(ガソリン最終製品の生産量は図5参照)こともあり、11月上旬から12月上旬にかけ同国のガソリン在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図6参照)。
2019年9月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量392万バレルと前年同月比で2.7%程度の減少となったが、速報値である日量391万バレル(同2.9%程度の減少)からは上方修正されている(図7参照)。9月の米国の鉱工業生産が前年同月比で0.1%の減少となる(因みに2018年9月のそれは同5.4%の増加であった)など同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で0.2%減少した(因みに2018年9月の同国物流活動は前年同月比で7.3%の増加であった)ことが、留出油需要に負の影響を及ぼしたものと考えられる。また、11月の留出油需要(速報値)は日量417万バレルと前年同月比で0.8%程度の減少となった。10月の同国鉱工業生産が前年同月比で1.1%の減少であった(因みに2018年10月の同国鉱工業生産は前年同月比で4.1%の増加であった)こともあり、10月の同国の物流活動もその影響を受けている(因みに10月の同国物流活動は前年同月比で0.5%の増加となっているが、2018年同月は同6.8%の増加であった)が、11月もそのような状況が継続していると見られることが当該需要を抑制する格好となっているものの、11月は中旬を中心として米国の暖房油需要の中心地である北東部で気温が平年を下回るほど冷え込む場面が見られたことから、この面で留出油需要が多少なりとも下支えされる格好となっている。ただ、11月の同国からの留出油輸出(速報推定値)は日量114万バレルとなっているが、2019年4~9月の当該製品輸出量(確定値)である日量133~157万バレルと比較しても低いことから、速報値の段階では輸出の一部が国内需要として計上されている可能性もあり、その結果、確定値算出段階では、国内需要の一部が輸出として振り替え直される結果、その分だけ国内需要が下方修正される等の影響が生じることもありうる。他方、製油所では秋場のメンテナンス作業実施が概ね終了するとともに一部製油所で発生した装置不具合についても改修が進んだこともあり、稼働が上昇するとともに留出油生産活動も活発化した(図8参照)ことから、11月上旬から12月上旬にかけ米国の留出油在庫は増加傾向となり、12月上旬時点では平年幅下方付近に位置する量となっている(図9参照)。
2019年9月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.7%程度増加の日量2,022万バレルとなった(図10参照)。ガソリン等殆どの石油製品の需要は前年同月比で減少しているか若干の増加にとどまっているものの、半製品を含むその他の石油製品の需要が前年同月比で相当程度増加していることで相殺された格好となっている。しかしながら、特に半製品については、月によって増減のばらつきが大きいことから、これを以て米国石油需要の増減の背景を判断するのは困難である。また、その他の石油製品需要が速報値(日量460万バレル)から確定値(同419万バレル)に移行する段階で相当程度下方修正されたことが一因となり、当該需要も速報値(日量2,094万バレル、前年同月比4.3%程度の増加)から下方修正されている。また、11月の米国石油需要(速報値)は、日量2,104万バレルと前年同月比で1.4%程度の増加となった。プロパン/プロピレンの需要が増加したこと(2019年は春場の降雨量が多かったこともあり、米国中西部を中心とした地域では穀物等の作付けが遅延したことにより、収穫時期もずれ込んだことで、例年よりも遅い時期に、収穫した穀物等の乾燥のためのプロパン需要が発生したことが影響しているものと見られる)に加え、その他の石油製品等の需要が伸びていることが石油需要の増加に寄与している。ただ、11月のその他石油製品の需要は日量413万バレルと前年同月比で同32万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年10月~2019年9月の1年間(確定値)で日量351~422万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。他方、米国の原油生産量が概ね一定の範囲内で推移した一方で、製油所では秋場のメンテナンス作業実施が概ね終了するとともに一部製油所で発生していた装置不具合に対する改修も進んだことで、稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだこともあり、原油在庫は11月上旬から12月上旬にかけ減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は続いている(図11参照)。そして、留出油在庫が平年幅下方に位置する量となっているものの、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過していることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図12及び13参照)。
2019年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では製油所の稼働が低迷した後回復したことにより若干の増加となったものの、欧州や日本では製油所の秋場のメンテナンス作業終了とともに原油精製処理活動が活発化しつつあったこともあり、両地域とも原油在庫は減少となった。このため、米国での原油在庫増加を欧州と日本での当該在庫で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少したものの、平年幅上限を超過する状態は継続している(図14参照)。石油製品については、日本では、秋場のメンテナンス作業を終了した製油所での石油製品生産活動の活発化により、在庫は増加となった。ただ、9月から11月にかけ米国での製油所でのメンテナンス作業実施等に伴う稼働低下による同国での留出油在庫減少もあり、米国中間留分価格の欧州のそれに対する割安感が薄れたことが一因となり、米国から欧州向けの中間留分輸出が鈍化したことが影響し、欧州では中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。また、米国では、秋場の穀物乾燥に利用されるプロパン需要が例年よりも遅延して発生したこと(前述)もありプロパン/プロピレン在庫が減少した他、冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることにより、ブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫も減少した。結果として、日本の石油製品在庫増加を欧米での減少が相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、量としては平年幅下方に位置している(図15参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅下方に位置していることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図16参照)。なお、2019年11月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.7日と10月末の推定在庫日数(60.2日)から減少している。
11月13日に1,000万バレル台後半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、11月20日も1,000万バレル台後半であったが、11月27日及び12月4日には1,100万バレル台前半程度へと増加したうえ、12月11日も1,300万バレル弱程度の量へと増加している。韓国を含むアジア地域での秋場の製油所メンテナンス作業が終了しつつあったことで、これら製油所での石油製品生産活動が活発化するとともに石油製品の輸出が行われたことに加え、石油精製能力が増強された一方で米国と中国の貿易紛争に伴う関税賦課合戦による経済減速から石油需要が伸び悩み気味となった中国からガソリンが比較的活発に輸出されたことが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと見られる。そして、このようにシンガポールでの軽質留分在庫が増加傾向を示したことに加え、欧米諸国でもガソリン在庫が増加傾向になった(ガソリン不需要期の中、欧米諸国でも製油所が秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、石油製品生産活動を活発化させたことが背景にある)ことが、アジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加えた結果、アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、11月中旬から12月中旬にかけ概して縮小傾向を示している。
ナフサについては、9月14日にサウジアラビアの油田や原油精製処理施設が攻撃されたことにより、同国国内の製油所への原油供給が減少した後、同国の製油所(サウジアラムコの100%出資であるSASREFのジュベイル(Jubail)製油所(原油精製処理能力日量30.5万バレル))でメンテナンス作業が9月23日から11月23日にかけ実施された(メンテナンス作業完了時期が12月半ばに遅延しているとする情報もある)うえ、カタールでも11月にカタール・ペトロリアム(QP)のラファン(Laffan)製油所のコンデンセート処理装置(Condensate Splitter)でメンテナンス作業が実施された(メンテナンス作業完了時期が11月末から12月半ばに遅延しているとする情報もある)ことから、中東地域からのナフサ供給が減少したこともあり、アジア市場での当該製品需給引き締まり感が発生するとともに、価格に上方圧力を加えた結果、11月中旬から12月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は縮小する傾向が認められる。
11月13日には1,000万バレル前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、11月20日には1,100万バレル台後半程度の量へと増加したものの、11月27日には1,100万バレル弱、12月4及び11日には1,000万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。中国やインドで経済が減速していることもあり国内の軽油需要が不十分であった結果これら諸国から当該製品が輸出されたことが11月中の中間留分在庫増加の一因となったものの、12月に入り、2020年1月1日に実施される予定である国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制強化(重量ベースで3.5%から0.5%に引き下げ)に伴い船舶向けの低硫黄軽油(MGO)の購入意欲が強まり始めたことが、さらなる在庫の積み上がりを抑制する格好となっている。ただ、それでもシンガポールでの中間留分在庫の減少ペースが緩やかであることに加え、欧州(ARA:アムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ)での中間留分在庫が前年同期を相当程度上回っている(地域経済減速のため産業向け軽油需要が軟調であることに加え温暖であることから暖房用軽油需要が不振であることが背景にあるものと見られる)ことにより、当該製品需給緩和感が市場で発生したことが、アジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたことから、11月中旬から12月中旬にかけての当該製品価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油価格が原油価格のそれを上回っている)は縮小する傾向が見られる。
11月13日には2,000万バレル台前半程度の量であったシンガポールの重油(高硫黄のものが中心)在庫は、11月20日には、2,000万バレル後半程度、11月27日には2,100万バレル台後半程度、そして、12月4日には2,200万バレル強の量へと増加した。ただ、12月11日には2,100万バレル台前半程度の量へと減少している。2020年1月1日に実施される予定である船舶燃料硫黄含有分規制強化に伴い高硫黄重油需要が減少しつつあることによりシンガポールの高硫黄重油輸出も抑制されていることから、需要減少を視野に入れつつ製油所での高硫黄重油生産が削減されたことに伴いシンガポールへの当該製品輸入は減少したものの、重油在庫はどちらかというと増加している。そしてこのような在庫の増加傾向に加え、この先船舶燃料硫黄含有分規制強化実施に向け高硫黄重油需要がさらに減少するとの観測が市場で強まっていることが、アジア市場での当該製品価格に下方圧力を加えていることから、高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大傾向を示した。
3. 2019年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場等の状況
2019年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場では、11月中旬から12月上旬にかけては、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意の文書署名に向けた協議の進捗状況に関する情報により、当該文書署名の可能性に対する楽観的な見方と悲観的な見方が市場で交錯した他、OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合を控え、OPECプラス産油国が実施している減産措置につき今後減産幅を拡大するかどうかについての不透明感が市場で発生したことから、原油相場はWTIで1バレル当たり概ね55~58ドル台の範囲で推移した。しかしながら、12月6日に開催されたOPECプラス閣僚級会合開催の際に減産幅拡大で合意した旨明らかになった他、サウジアラビアを含む一部諸国が自主的な追加減産を実施し続ける旨表明したこと、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意のために署名する文書の内容面で両国が合意した旨12月13日に米国が発表したことが、原油価格を押し上げ、12月13日にはWTIは1バレル当たり60.07ドルと9月16日以来の高水準に到達した(図17参照)。
米国のトランプ大統領が関税措置の緩和につき消極的であることから、米国と中国との貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名に対し悲観的である旨中国政府関係者が示唆したと11月18日朝(米国東部時間)にCNBCが報じたことで、両国間の貿易問題解決に対する市場の楽観的な見方が後退したことに加え、11月18日に米国エネルギー省(EIA)から発表された「掘削生産性報告(DPR: Drilling Productivity Report)」で12月の同国主要7シェール地域の原油生産量が前月比で日量4.7万バレル増加し日量913万バレルと史上最高水記録を更新するとの見通しが明らかになったことにより、石油需給緩和感が市場で醸成したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.67ドル下落し、終値は57.05ドルとなった。また、11月19日も、米国と中国の貿易紛争解決に対する楽観的な見方が11月18日の市場で後退した流れを引き継いだことに加え、11月20日にEIAから発表される予定である米国石油統計(11月15日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、2020年に向けたOPECプラス産油国の減産措置強化に対しロシアの姿勢が消極的であることから、既存の減産措置の期間延長がなされる可能性がある旨関係筋が11月19日に示唆したと同日ロイター通信が報じたことで、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.21ドルと前日終値比で1.84ドル下落した。この結果原油価格は11月18~19日の2日間で併せて1バレル当たり2.51ドルの下落となった。しかしながら、11月20日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で138万バレルの増加と市場の事前予想(同150~160万バレルの増加)ほど増加しなかったうえ、オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で230万バレル減少していた旨判明したことで、米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、OPEC産油国とロシアは世界石油市場を安定させ続けるとの共通の目標を持ち、減産措置のもとで協力を継続する旨ロシアのプーチン大統領が11月20日に発言したことで、OPECプラス産油国による減産措置強化に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.11ドルと前日終値比で1.90ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2019年12月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2020年1月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり57.01ドル(前日終値比1.66ドルの上昇)であった)。11月21日も、中国の劉鶴副首相が貿易紛争を巡る交渉の米国側代表であるライトハイザー通商代表部(USTR)代表とムニューシン財務長官に対し11月中の北京での直接交渉実施を提案(米国側は態度保留)するとともに、劉鶴氏がトランプ大統領の主要な要望の一部に応えるような中国国内経済改革の実施方針を明らかにした他、貿易紛争の今後につき慎重な姿勢ではあるが楽観的である旨明らかにした一方で、12月15日までに当該紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名のための交渉で合意しなくても、米国は同日発動が予定されている追加関税の実施を延期する可能性が高い旨11月21日に報じられたことに加え、同日中国商務省も、第一段階の合意に関する文書署名に向け懸命に取り組む意向を表明したこともあり、両国の貿易紛争を巡る協議が進展するとの期待感が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.47ドル上昇し、終値は58.58ドルとなった。この結果原油価格は11月20~21日の2日間で併せて1バレル当たり3.37ドル上昇した。ただ、11月22日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定が市場で発生したことに加え、11月22日に英国金融情報サービス会社IHSマークイットから発表された米国製造業購買担当者指数(PMI:50が当該部門好不況の分岐点)(速報値)が52.2と前月の51.3から上昇したうえ、市場の事前予想(51.4~51.5)を上回ったことに加え、同サービス業PMI(速報値)も51.6と前月の50.6から上昇、市場の事前予想(51.0)を上回った一方で、同日発表された11月のミシガン大学消費者信頼感指数(1966年第一四半期=100)(確定値)が96.8と11月8日の速報値である95.7から上方修正されたうえ、市場の事前予想(95.7)を上回ったことで、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.81ドル下落し、終値は57.77ドルとなった。
しかしながら、11月23日に米国のオブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関し12月末までに文書署名に至る可能性が依然存在する旨明らかにした他、11月24日に中国の国務院と共産党中央弁公庁が罰則の厳格化を通じ知的財産権保護を強化する方針である旨表明したことに加え、文書署名実施時期は非常に近い旨関係筋が明かしたと11月25日に中国共産党機関紙である人民日報系報道機関である環球時報が報じたこともあり、両国の貿易問題を巡る交渉の進展に対する期待が市場で増大したことから、この日(11月25日)の原油価格の終値は1バレル当たり58.01ドルと前週末終値比で0.24ドル上昇した。11月26日も、米国のライトハイザーUSTR代表及びムニューシン財務長官と中国の劉鶴副首相が電話会談し、両国の貿易紛争に関連する問題につき適切に解決していく他、残っている問題につき協議を継続することで合意した旨11月26日に中国商務省が発表した他、同日トランプ大統領が当該交渉は最後の苦しみの段階にあるが非常に順調に進捗している旨明らかにしたことで、当該貿易問題解決に向けた楽観的な見方が市場で増大したことに加え、11月27日にEIAから発表される予定である米国石油統計(11月22日の週分)で原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は58.41ドルとなった。この結果原油価格は11月25~26日の2日間で併せて1バレル当たり0.64ドル上昇した。ただ、11月27日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で157万バレルの増加と市場の事前予想(同42~88万バレル程度の減少)に反し増加していた他、ガソリン在庫が同513万バレルの増加と市場の事前予想(同80~160万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.30ドル下落し、終値は58.11ドルとなった。11月28日は、米国での感謝祭(サンクスギビングデー)の休日に伴いニューヨーク原油先物市場では終値は計上されなかったが、11月27日にトランプ大統領が米国議会上下院が圧倒的多数で可決した香港人権民主主義法案に署名した旨ホワイトハウスが発表したことに対し、11月28日に中国外務省が強力な報復措置を講じる旨表明したことで、両国の貿易紛争を巡る交渉に悪影響が及ぶのではないかとの懸念が市場で発生したことに加え、OPECプラス産油国は既存の減産措置を現在の期限である2020年3月末近辺まで延長するのが望ましい旨ロシアのノバク エネルギー相が明らかにしたと11月29日に報じられたことで、2020年第一四半期の世界石油需給の緩和感を市場が意識したこと、2019年9月の米国の原油生産量が日量1,246万バレルと8月の同1,240万バレルから増加し史上最高水準に到達した旨11月29日にEIAが明らかにしたことから、11月29日の原油価格の終値は1バレル当たり55.17ドルと前日終値比で2.94ドル下落した。この結果原油価格は11月27日及び29日の2日間で併せて1バレル当たり3.24ドルの下落となった。
しかしながら、11月30日に中国国家統計局から発表された11月の同国製造業PMI(50が当該部門好不況の分岐点)が50.2と10月の49.3から拡大した他市場の事前予想(49.5)を上回ったうえ、非製造業PMIも54.4と10月の52.8から上昇した他市場の事前予想(53.1)を上回ったことに加え、12月5日に開催される予定であるOPEC総会及び12月6日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合において、減産措置を最低で日量40万バレル分拡大したうえで、少なくとも2020年6月まで実施することで合意すべく検討中である旨12月2日に報じられたことで、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり55.96ドルと前週末終値比で0.79ドル上昇した。12月3日も、12月5日に開催される予定であるOPEC総会及び12月6日に開催される予定であるOPECプラス閣僚級会合に向け、減産措置強化方針への支持がOPEC産油国間で広がりつつある旨12月3日にイラクのガドバン石油相が明らかにしたことに加え、12月4日にEIAから発表される予定である米国石油統計(11月29日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、12月3日に米国のロス商務長官が、米国と中国の貿易紛争を巡る交渉が大きく進展するということでなければ、12月15日には1,600億ドル相当の中国製品に対し追加関税を賦課する予定である旨表明した他、現時点では両国政府の高級レベル間での協議実施開催の見通しが立っていない旨明らかにしたことに加え、トランプ大統領も両国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名については期限はなく、2020年11月に実施される予定である大統領選挙後まで待つべきかもしれない旨12月3日に示唆したことで、当該紛争解決に対する悲観的な見方が市場で増大した結果、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル上昇し、終値は56.10ドルとなった。12月4日も、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意における関税賦課の緩和につき両国の意見が一致に接近しつつある旨12月4日に報じられた他、同日トランプ大統領が当該合意のための文書署名に向け極めて順調に作業が進捗している旨示唆したことから、当該紛争による経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する悲観的な見方が市場で後退したことに加え、12月4日にEIAから発表された米国石油統計(11月29日の週分)で原油在庫が前週比で486万バレルの減少と市場の事前予想(同70~170万バレル程度の減少)を上回って減少していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.43ドルと前日終値比で2.33ドル上昇した。この結果原油価格は12月2~4日の3日間で併せて1バレル当たり3.26ドルの上昇となった。ただ、12月5日には、この日開催されたOPECプラス共同閣僚監視委員会(JMMC:The Joint Ministerial Monitoring Committee)において既存の措置である基準原油生産量(概ね2018年10月の原油生産水準)から日量120万バレルの減産を同50万バレル拡大し同170万バレルとする旨提案されたことから、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、12月5日に開催されたJMMCにおいて、減産に参加する一部非OPEC産油国の減産目標からコンデンセートを除外するよう提案された旨ロシアのノバク エネルギー相が明らかにしたことから、OPECプラス産油国減産措置による世界石油需給引き締め効果が低減するとの観測が市場で発生したことが、原油相場に下方圧力を加えたうえ、12月5日にOPEC総会が長時間に渡り実施されたものの、声明の発表や記者会見の実施がなされなかったこともあり、OPECプラス産油国の減産方針に関する不透明感が強まるとともに、市場が様子見となったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.43ドルと前日終値比で変わらずであった。しかしながら、12月6日には、この日開催されたOPECプラス閣僚級会合で、それまでの減産幅である日量約120万バレルから日量約50万バレル拡大し、日量約170万バレルとする減産措置を2020年1月1日以降実施する他、サウジアラビアを含む一部諸国が日量40万バレル超の自主的減産を実施し続ける旨表明したことにより、この先の世界石油需給引き締まり感が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.77ドル上昇し、終値は59.20ドルと、2019年9月17日(この時の終値は同59.34ドル)以来の高値に到達した。
ただ、12月8日に中国税関総署から発表された11月の同国輸出が前年同月比で1.1%の減少と4ヶ月連続の減少を示した他、市場の事前予想(同0.8~1.0%の増加)に反し減少していた旨判明したことで、同国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したことから、12月9日の原油価格の終値は1バレル当たり59.02ドルと前週末終値比で0.18ドル下落した。ただ、12月10日には、翌11日にEIAから発表される予定である米国石油統計(12月6日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.22ドル上昇し、終値は59.24ドルとなった。それでも、12月11日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で82万バレルの増加と市場の事前予想(同280~300万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことに加え、ガソリンが同541万バレル、留出油が同412万バレルの、それぞれ在庫増加と、市場の事前予想(ガソリン同250~330万バレル程度、留出油同160~200万バレル程度の、それぞれ在庫増加)を上回って増加している旨判明したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.76ドルと前日終値比で0.48ドル下落した。しかしながら、12月11日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が1.50~1.75%で据え置かれたうえ、委員の大半が2020年の金利据え置きを予想したことで、当面米国金融当局は金利引き上げを実施しない旨示唆されたこともあり、米ドルが下落した流れを12月12日の市場が引き継いだうえ、12月12日にトランプ大統領が米国と中国との間の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名に向けた交渉が妥結に非常に近い旨表明した他、米国が当該紛争に際して中国に対し既に賦課した関税を最大50%引き下げる旨中国側に提案していると12月12日に報じられたことにより、当該紛争による両国等経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.42ドル上昇し、終値は59.18ドルとなった。また、12月12日に実施された英国議会総選挙の結果保守党が圧倒的な勝利を収めたことで、英国のEU離脱を巡りジョンソン首相がより安定して自身の方針を推進できるとの期待感が市場で増大したことから、英ポンド及びユーロが上昇した反面米ドルが下落した流れを12月13日の市場が引き継いだうえ、12月13日にトランプ大統領が米国と中国との間で実施していた両国間での貿易紛争を巡る交渉で第一段階の合意の文書内容で合意に到達した結果、米国が12月15日に予定していた追加関税発動を見送るとともに9月1日に発動された1,200億ドル相当の中国製品に対する15%の関税を7.5%に引き下げる旨明らかにしたことで、両国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.07ドルと前日終値比で0.89ドル上昇した。この結果原油価格は12月12~13日の2日間で併せて1バレル当たり1.31ドルの上昇となった他、12月13日の原油価格終値は2019年9月16日(この時は同62.90ドル)以来の高水準なものであった。
4. 原油市場における注目点等
イラクでは、政府の汚職問題や劣悪な公共サービスに抗議するデモ隊(10月1日に始まり、一時小康状態となったが10月25日に再び活発化した)と治安当局との間での衝突で、12月1日までに少なくとも420名が死亡したと伝えられる。また、11月27日には、同国中部の都市ナジャフにあるイラン領事館をデモ隊が放火した他、12月1日夜にもデモ隊が同領事館を再び放火した。このようなこともあり、11月29日には同国のアブドルマハディ首相が辞意を表明、12月1日に同国国会は同氏の辞任を承認した。しかしながら、デモ活動は沈静化する気配を見せていない旨伝えられる。
イランでは11月15日にガソリン小売価格を1.5倍(月60リットル以上のガソリン購入者に対しては3倍)に引き上げたことから、同日夜以降国内各地でデモ活動が発生したが、同国の最高指導者であるハメネイ師は、このようなデモ活動を批判する旨示唆した。しかしながら、デモ活動はその後も続くとともに治安部隊と衝突、少なくとも208名が死亡した旨12月2日に国際人権団体であるアムネスティ・インターナショナルが発表している他、米国のフック国務省イラン担当特別代表はイランでのデモ活動参加者の死者が1,000人を超えている可能性がある旨12月5日に指摘した。また、米国は現在中東に派遣している14,000人の軍事関係者等に加え、イランの脅威に対処するために、さらに14,000人の軍事関係者を派遣するべく検討している(トランプ大統領に対しても説明済とされる)旨12月4日に報じられる。さらに、同日米国海軍ミサイル駆逐艦「フォレスト・シャーマン」がペルシャ湾内で小型船舶(船籍不明)を拘束した際、イラン製とされるミサイル関連部品を発見した旨伝えられる。そして、11月18日に国際原子力機関(IAEA)は、イランが2015年の核合意で定められている重水貯蔵量(130キログラム)を超過し保有量が131.5キログラムに到達した旨報告した(11月16日にイランからIAEAに報告、IAEAは11月17日に超過を確認)。11月21日にはIAEAの定例理事会が開催されたが、イランが西側諸国等との合意を逸脱して核開発活動を加速していることやIAEAに未申告の場所でのウラン検出(11月11日にIAEAが報告)につき米国が批判、英国、フランス及びドイツはイランに対し核合意の遵守を要請した。さらに、英国、フランス及びドイツはイランが核兵器搭載の可能なミサイルの開発を推進しているとして非難する旨の書簡を国連のグテレス事務総長宛に発出したと12月5日に伝えられ(12月4日に書簡が公開されたとする情報もある)、これに対し同日イランのラバンチ国連大使が反発、当該開発は防衛のためのものであり、開発を推進し続ける旨表明している。また、12月6日には、イラン核合意に参加するイランと英国、フランス、ドイツ、ロシア及び中国が核合意を巡る問題に関する次官級協議をオーストリアのウィーンで開催したが、イランはIAEAによるイラン核関連施設の抜き打ち査察受け入れを一部停止する用意がある旨警告、欧州は核合意に規定される紛争解決手続きの実施により対イラン制裁を再開する可能性がある旨警告するなど、対立が先鋭化した旨明らかになっている。
このように、地政学的リスク要因面では、イラク、イラン等複数のものが挙げられる。イラクについては、政府による汚職と公共サービスの質の低下に対する市民のデモ活動の実施と治安部隊との衝突で、12月1日までに少なくとも420名が死亡したことに加え、アブドルマハディ首相は11月29日に辞意を表明、12月1日に同国国会は同氏の辞任を承認した。しかしながら、デモ活動は沈静化せず、12月1日夜にはデモ隊が同国中部ナジャフのイラン領事館を放火する(11月27日に次いで2回目)など、抗議行動の勢いは減速してない。そして、このような状況が継続することにより、イラク政府が大幅にデモ活動に関与せざるをえなくなることにより、他の国内治安面での対応が手薄になることを通じ、例えば、南部や北部の油田地帯での安全対策が劣化する結果、これらの油田地帯での原油生産活動等に影響が発生するか、もしくは活動等が脅かされるといった展開となるようであれば、同国からの石油供給途絶懸念が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、イランを巡っては、最近では米国との対立等の大幅な先鋭化や中東地域周辺でのタンカーを含む石油関連施設への攻撃と破損といった事象は影を潜めているが、イランと米国、及びイランとサウジアラビアをはじめとする中東湾岸諸国、イランとイスラエル、といった対立の構図には大きな変化はなく、また、同国は核合意から逸脱してウラン濃縮活動を拡大させつつあることにより、欧州諸国も態度を硬化させる兆候を見せているところからすると、同国を巡る情勢が沈静化したとは言い難く、いつまた、米国によるイランに対する制裁の強化(加えて欧州のイランに対する制裁再開検討の可能性)や、中東地域でのタンカーをはじめとする石油関連施設攻撃等により、市場の強気心理を刺激しないとも限らないので注意が必要であろう。また、リビアにおいては、東部トブルクを拠点とする暫定議会(エジプト及びUEA等が支援)を支援するハフタル将軍を指導者とする軍が支配するエル・フィール(El Feel)油田(原油生産能力日量7.4万バレル程度)を、西部トリポリを拠点とする統合政府(国連が支援)が空爆したことから、操業が停止した旨同国石油会社NOCが明らかにしており、その後操業を再開した旨11月28日に伝えられるものの、当該油田のバルブが何者かによって閉鎖された(不法に閉鎖されたとされる)ことから原油生産が停止した旨12月5日にNOCのサナラ会長が明らかにしている(なお、12月11日にエル・フィール油田は操業を再開した旨同日報じられる)。12月12日には、ハフタル将軍の軍がトリポリに対し最終的かつ決定的な侵攻を実施する旨宣言、以降統合政府の軍と大規模な戦闘を繰り広げていると12月14日に伝えられる。さらに、ベネズエラについては、米国のトランプ政権は、ベネズエラ国営石油会社PDVSA所有の石油タンカー6隻につき、キューバにベネズエラ産原油を輸送しているとして、制裁を科する旨12月3日に発表している。また、同日米国、ブラジル等の米州相互援助条約加盟15ヶ国はベネズエラのマドゥロ政権幹部(アレアサ外相、パドリノ国防相、ロドリゲス副大統領他)等計29名に対し、加盟国への入国禁止等を内容とする制裁を科すことで合意した。このように、リビアやベネズエラについても情勢が落ち着いているわけではないことから、これら諸国の動きによっても、石油供給に対する市場の観測が発生することを通じ、その影響が原油相場に織り込まれることになろう。
経済面では、米国と中国の貿易紛争を巡る交渉の進捗状況が焦点となろう。12月13日には両国間での貿易紛争を巡る第一段階の合意のために署名する文書の内容面で両国が合意に到達した結果、米国が12月15日に発動する予定であった、約1,600億ドル相当の中国製品に対する追加関税を見送るとともに2019年9月1日に発動した1,200億ドル相当の中国製品に対する15%の関税を7.5%へと引き下げる旨米国側が発表した(中国は年間最大500億ドル相当の米国産農産物の購入(2017年は240億ドル)を行う方向である旨ライトハイザーUSTR代表は示唆したが、中国側は具体的な購入額を明らかにしていない)と。これにより両国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が後退したことから12月13日の株式相場と原油相場は上昇したものの、2018年に発動した2,500億ドル相当の中国製品に対する25%の関税は維持される方針であることもあり、同日の原油相場の終値はWTIで1バレル当たり60.07ドルと60ドルを超過したものの、その日の高値である60.48ドルからは上昇幅を縮小している(同様に株式相場もこの日の高値からは上昇幅を縮小している)他、同日午後遅くの時間外取引ではその日の終値からさらに下落するなどしている。また米国と中国の貿易紛争はこれを以て全面解決に至っているわけではなく、12月13日にトランプ大統領は当該紛争に関し直ちに第二段階に向け交渉を開始する旨明らかにしており(11月1日にナバロ米国大統領補佐官は中国の構造的問題に対処するためには第三段階の合意まで必要になるとの見解を披露している)、その過程においては再び追加関税措置の発動可能性を材料として使用する意向を示している。第一段階の合意においては、両国にとって比較的合意が容易である部分で合意に到達したと見られるものの、第二段階以降の合意に関する交渉については、より解決への難易度が増すものと考えられることから、その過程では再び両国の対立が高まるとともに、関税賦課合戦が復活する可能性も否定できず、その結果再び両国等の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で再燃し、原油価格に下方圧力が加わらないとも限らない。さらに、米国は香港人権民主主義法を成立させたことや同国議会下院がウイグル人権法案を圧倒的多数で可決したことに中国は反発し報復措置の実施を示唆している。そして、この面で両国関係が悪化、今後の貿易紛争を巡る交渉に影響を及ぼすこともありうるため、香港問題等と中国政府の対応、そして米国との関係についても、注目していく必要があろう。その他には、米国、欧州及び中国等の経済指標類の内容等により、世界経済成長と石油需要の伸びに関し市場の観測が発生されることにより、原油価格が変動する場面が見られることもありうる。
12月6日に開催されたOPECプラス閣僚級会合で、OPECプラス産油国による日量約50万バレルの減産措置拡大方針に加え、減産遵守の徹底、及びサウジアラビア等一部産油国による自主的な追加減産実施が公式に表明されたことで、とりあえずは2020年に向けた世界石油需給引き締め期待が市場で増大、原油価格に上方圧力を加えた。今後は、OPECプラス産油国による実際の減産状況(サウジアラビア等現在減産目標を超過している産油国の減産状況に加え、現在減産目標を下回っている産油国の減産遵守状況を含む)に関する情報(タンカー追跡データや速報値等を含む)等に基づき、世界石油需給バランスに関する観測が市場で発生することを通じ、原油相場が変動するものと見られる。ただ、新規減産措置の実施は2020年1月1日以降であるので、それまでは、OPECプラス産油国から新規の減産措置に関する発言等があれば原油相場がその内容を織り込む場面が見られる可能性があるが、そうでなければこの面での原油相場への影響は限定的なものとなると考えられる。
また、北半球では冬場の暖房シーズンに突入している。これに併せ、暖房用石油製品需要が増加、製油所も秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに、原油購入を活発化させるとの観測が市場で増大しつつある。このような市場での季節的な需給引き締まり感の醸成が当面原油相場を支持するものと考えられる。併せて、米国の暖房油消費の中心地である北東部での気温や気温予報に関しても市場関係者は敏感になっているものと見られ、当該地域での足元の気温が低下したり、気温が低下するとの予報が発表されたりするようだと、需給の引き締まり感が市場で強まる結果、暖房油価格が上昇、それに引きずられて原油価格に上方圧力が加わる可能性もある。他方、米国での原油在庫及び原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数の動向等によっても、原油相場が変動する場面が見られることがありうる。
なお、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等において濃霧の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げが鈍化することがありうる他、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することにより原油在庫が相当程度減少する場面が見られる可能性がある(もっとも、その間原油は沖合のタンカーに貯蔵され停泊していると言われている)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計では特にメキシコ湾岸地域での原油在庫等が減少傾向を示すことにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加えられる、といった展開となる場合もある。ただ、1月以降は製油所等での原油等の受入が再開される(沖合で停泊していた原油貯蔵タンカーが接岸し原油を陸上タンクへと流入させる)ことから、反動で相当程度の在庫増加が見られる可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることもありうる。
全体としては、米国では冬場の暖房用石油製品需要期に入っていることから、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場を下支えする他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力を加えるといった場面が見られることもありうる。しかしながら、米国と中国の貿易紛争を巡る第二段階以降の合意に向け再び両国間での交渉が紆余曲折を経ることに伴い両国等の経済成長及び石油需要の伸びに関する不透明感が市場で醸成されることが原油相場の上昇を抑制するといった展開も想定される。結果として原油相場は上昇もしくは下落傾向を創出しにくく、比較的限られた範囲内で推移していく可能性があるものと考えられる。このような中、米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、OPECプラス産油国の新規減産措置に関する当事者等による減産遵守状況を含む情報、そして、地政学的リスク要因等が原油相場に影響を及ぼすものと見られる。
以上
(この報告は2019年12月16日時点のものです)