ページ番号1008686 更新日 令和2年1月30日
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概要
- インドは天然ガスの潜在的な需要は高いものの、購買力に加え需要家(発電プラントを含む)へのパイプライン整備の遅れがLNG受入基地の低稼働率や需要制約要因となっている。
- しかし政府は大気汚染対策や低炭素化の観点から天然ガスの利用拡大を図ろうと努力しており、幹線パイプラインや都市ガス配給網の整備が徐々に進んでいる。
- 政府はガス部門の市場化(平等なアクセスによる競争、パイプライン建設・利用の促進)の観点から幹線パイプラインの7割を握る国営GAILのガスマーケティング・輸送部門の分割を検討していたが、LNGサプライヤーの承認が得られないことを理由に棚上げとなった模様である。
- 2019年のインドのLNG輸入は年8%増の見通し。2020年も低価格と受入基地の立ち上がりにより同様の成長が見込まれる。インド企業はLNG長期売買契約の見直しや米LNG調達によるコスト低減を図ろうとしている。
- 成長を続けるインドの天然ガス市場開拓を見据え、メジャーズやロシア企業が天然ガスの開発から小売りおよび関連事業への協力あるいは投資を検討している。
- IEAによると2040年にかけてインドの天然ガス需要は増加が続く。国産ガスの供給は限定的であり、需給ギャップは6割(LNG換算8,300万トン)に拡大する見通しである。輸入パイプライン計画は課題があり、当面はLNGの輸入が拡大する見通しである。
はじめに
インドのエネルギー消費は経済成長や人口増加に伴い過去10年で2倍に増加した(図1)。2018年のエネルギー消費は石油換算8億915万トンである。インドは国内に豊富に賦存する石炭資源に大きく依存しており、石炭消費が全体の56%を占める。次いで石油が30%、天然ガスが6%、原子力と再生可能エネルギーが8.4%である(図2)。輸入比率は石油が8割、天然ガスが5割、石炭が3割である。
IEA World Energy Balanceによると2017年の天然ガス消費の38%は化学肥料向けの原料として消費されている。ついで発電28%、工業23%となっており、家庭・商業用の比率は4%未満と限定的である(図3)。インドの発電電力量は経済成長に伴い過去10年で1.6倍に増加した。低炭素化、大気汚染対策の観点からインドはエネルギーミックスのクリーン化を進めている。IEAによると水力を筆頭に風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーが発電設備容量に占める比率(2018年)は33%、発電電力量に占める比率は21%に達している(図4)。一方、天然ガス火力が発電設備容量に占める比率は7%、発電電量力が占める比率は4%である。発電電力量に占める天然ガスの比率は国内天然ガス生産の減退、パイプラインなどインフラ整備の不足に伴い2010年の12%から2018年は4%に低下した(図4)。
1. インドにおける天然ガスの政策的な位置付け
インド政府は経済成長に伴う需要増大、低炭素化・大気汚染への対応という観点から天然ガスの利用拡大を図っている。2019年12月にプラダン石油相は2030年までに1次エネルギー消費における天然ガスの比率を現在の6%から15%に高めたいと述べた。
(1) 経済成長に伴う需要増対策
インドのエネルギー政策は難しいかじ取りを迫られている。人口の増大と経済発展、さらに”Make in India”に代表される製造業振興策への対応として、増大するエネルギー需要に対し低炭素化を進めつつ必要なエネルギーの供給を確保しようとしている。輸入比率が8割を超える石油、4割を超える天然ガスについてはエネルギー安全保障の観点から国内供給の強化、省エネルギーなどによる輸入比率抑制を志向している。本稿では詳説しないが、天然ガスの利用拡大以外の省エネルギーや低炭素化、大気汚染への対策として、インド政府は2016年から2022年にかけて自動車の燃費を1.6%改善し、4.9リットル/100キロメートルとする目標を設定している。また、石油製品の品質向上・低硫黄化を進めており、2020年4月には全面的にバーラット(BS)Ⅵ(EURO VI相当)を導入し、同基準を満たさない新車販売は禁止される。2030年までに自動車販売の30%を電気自動車(EV)にする目標を設定している。
インドは1951年以降国家計画委員会(Planning Commission)が策定する5か年計画に基づく政策運営を行っていたが、2014年5月に発足したモディ政権は同委員会を解散し、政策諮問を担うシンクタンクとしてNITI Aayog(National Institute for Transforming India、以下NITI)を新設した。NITIは国家エネルギー政策の草案(Draft National Energy Policy)」(以下NEP案)を2017年6月に発表した。NEP案は2040年までの長期のエネルギー政策の方向性を示すとともに、これまで政府が掲げた2022年までのエネルギー政策目標(全国の電力化と24時間の電力供給、国民全員へのクリーンな調理燃料を供給(薪炭などの伝統的なバイオマスからLPGに転換)、175GWの再生可能エネルギー導入、石油輸入依存度を2014~15年比で10ポイント引き下げ)の実現に向けた政策を提言している。

各種資料に基づきJOGMEC作成
(2) 低炭素化、大気汚染対策
インドは国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に先立ち、2015年10月に温室効果ガス削減について自国が決定する貢献案(Intended Nationally Determined Contribution ; INDC)として2030年までにGDP単位あたりのCO2排出量を2005年比33~35%削減すること、発電設備容量に占める原子力・再生可能エネルギーの比率を40%に引き上げる目標を提出している。
大気汚染への対策も進めている。インドの大気汚染は深刻である。世界の大気汚染を地図上に示したWHO Global ambient air pollution(2018)を見ると、デリーやコルカタなどの都市を含む各地でWHOガイドライン(Annual mean値粒子状物質<PM>2.5について1立方メートルあたり10マイクログラム<㎍>、PM10は同20マイクログラム)を大きく超えていることが分かる(図6)。また2019年3月にグリーンピースが公表した“World’s most polluted cities”によると、2018年の世界の大気汚染が深刻な都市の上位20都市のうち15都市をインドが占めている。筆者が2019年11月22日にデリーを訪問した際、PM10はWHOガイドラインの17.5倍の350マイクログラムを超えており、車内でも目が痛むほどであった。
2019年1月、インド政府は大気汚染問題に対して国家レベルで取り組む“National Clean Air Program(NCAP)”を発表した。NCAPは、対象期間が2019年から2024年までの5年間で、2024年までに粒子状物質(PM)の全国平均を2017年のレベルから20~30%削減する目標を設定している。インドではガス購買力に加え需要家(発電プラントを含む)へのパイプライン整備の遅れがLNG受入基地の低稼働率や需要制約要因となっている。政府は天然ガス使用の増加による大気汚染対策に力を入れており、ガス関連インフラの整備を進めている。2019年11月、プラダン石油相は2024年までの5年間で石油・ガスインフラ投資に1,000億ドルを費やすと表明した。このうち600億ドルは天然ガスパイプライン、LNG受入基地、都市ガス配給網の整備に投じる計画である。NCAPの天然ガスの需要への影響についてあるコンサルタントは、インド政府は目標を達成できず修正を加えながらNCAPを2024年以降も継続するとの見方を示している。なお、インドの天然ガスへの転換は民間投資主導であり、同じく大気汚染対策で石炭から天然ガスへの転換を政府主導で進めた中国に比べ時間を要すると思われる。

出所:WHO Global ambient air pollution (WHOガイドライン:Annual mean値PM2.5: 1立方メートルあたり10マイクログラム、PM10同20マイクログラム)
(3) 「天然ガス利用政策」、輸送・配給インフラの整備
国産ガスの供給が需要をまかなえていないため、インド政府は「ガス利用政策」("Gas Utilizations Policy")により、国産ガスの利用について2つのグループに分けて利用の優先順位をつけている。第1グループ(優先)は家庭用・交通輸送用(都市ガス、CNG)、化学肥料(原料)・LPG(原料)、ガスパイプライン網に接続された天然ガス火力発電である。従来は化学肥料向けが最優先であったが、2014年7月以降は家庭用・輸送用のガス供給が最優先となった。第1グループの需要家で国産ガスの8割を消費している。第2グループは産業(製鉄、石油精製石化)、商業、その他原料・燃料用である。LNGは第1グループの不足を満たし、第2グループに供給されることになる。
2. インドの天然ガス供給構造
インドの天然ガス供給構造(供給、輸入インフラ、輸送インフラ)についてを表1に示す。
(1) 天然ガス供給
インドの2018年の天然ガスの確認埋蔵量は1.3兆立方メートル(45.5兆立方フィート)、生産量は275億立方メートル、消費量は581億立方メートル(LNG換算約4,200万トン)である(図7)。インド石油省傘下の石油計画・分析室(PPAC)によると、天然ガスの主な生産者はインドを代表する国営石油・天然ガス開発企業のOil and Natural Gas Corporation (以下、ONGC)とOil India(以下、OIL)であり、両社で天然ガス生産の8割を占める(図8)。ONGCが操業する西部沖合Mumbai High油ガス田ならびに財閥系で石油化学を中心に、石油・ガス開発、小売、インフラ、バイオテクノロジーなどの事業を手がけるインド最大のコングロマリットReliance Industries(以下、Reliance)が操業する東部沖合Krishna Godavari(KG)堆積盆におけるKG-D6ガス田などが生産、開発中だが、経済成長と人口増加により需要が増加し2004年にLNGの輸入を開始した。輸入比率は5割(全量LNG)で2018年は2,242万トンを輸入した。その結果、インドは日本、中国、韓国につぐ世界4位のLNG輸入国となった。GIIGNLによると2018年の世界のLNG貿易量3億1,400万トンのうちインドは7%を占める(図9)。LNG輸入の9割は長期契約である。長期契約に基づくカタールからの輸入が5割を占める(図10)。

出所:GIIGNLに基づき作成

出所:GIIGNLに基づき作成
(2) LNG輸入・輸送インフラ
(2)-1 ガスパイプライン
インドでは操業中のガスパイプラインが約1万7,000キロメートルある。国営GAIL、民間Reliance、地方政府系のGSPCなどが保有、操業しているが、このうちGAILが7割、1万2,000キロメートルを操業している(図11、12)。パイプラインは国産ガスへのアクセスがある西岸中心で、東岸への整備は住民の反対などにより遅れている。政府は2023年までに3万5,000キロメートルの建設を目指している。また政府はガス部門の市場化(平等な競争、パイプライン建設・利用促進)の観点からGAILのガスマーケティング・輸送部門の分割を検討していたが、LNGサプライヤーの承認が得られないこと(GAILは米国Sabine Pass・Dominion Cove point、ロシアGazpromと合計年830万トンの長期契約を締結しているが、分割後の会社が長期契約カーゴを引き取ることができなくなるということを懸念)を理由に棚上げとなった模様である。

(2)-2 LNG受入基地
インドでは現在LNG受入基地5基地(受入能力)計3,630万トンが操業中である(表2)。現在のところ受入基地は西岸に集中している。
インドにおける主なLNG輸入事業者はPetronet LNG(Petronet)である。同社はインドの国営石油企業Oil and Natural Gas Corp(ONGC)、GAIL、Indian Oil Corp(IOCL)、Bharat Petroleum(BPCL)の4社が各12.5%出資している。仏Engie(旧GDF-Suez)が戦略的なパートナーとしてPetronetに10%出資していたが、事業見直しに伴い2016年7月に撤退した。グジャラート州Dahej(ダヘジ)受入基地はPetronetが操業する同国最大の受入基地である。2019年に拡張工事が完了し、受入能力は1,730万トン/年となった。フル稼働で同基地がインドのLNG輸入を主に担っている状況だ。同州にはShellが操業するHazira(ハジラ)受入基地(同500万トン/年)がある。同基地はTotalが26%出資していたが2018年にTotalは全権益をShellに譲渡した。ハジラ受入基地は外部利用者にも開放されているため、Relianceが自社製油所燃料向けに年250万トンのLNGを輸入(1年の短期契約やスポットが主体)している。この他同州では地方政府系のグジャラート州石油会社(GSPC)と大手都市ガス配給事業者Adaniグループが出資するMundra(ムンドラ)基地(500万トン/年)が2018年10月にモディ首相立会いの下で開業式典を行ったが、GSPCがAdaniに対し港湾開発(浚渫費用120万ルピー、約1億7,000万ドルを含む)への補償やグジャラート州海事委員会への年会費、用地賃借料(年6億5,000万ルピー、約900万ドル)の支払いを拒絶したことで紛争となり、コミッショニングが止まっていた。11月に米カーゴがMundraに到着したがハジラ基地に転用しなければならなかったようだ。2020年1月22日にカタールからコミッショニングカーゴを受入れたので数か月以内に商業稼働となる見通しである。GSPCはShellとポートフォリオ契約(年250万トン)を結んでいる。
グジャラート州の南に位置するマハラシュトラ州ではGAIL他が出資するRatnagiri Gas & PowerのDabhol(ダボール)基地(同500万トン/年)が操業中である。南部ケララ州ではPetronetが操業するKochi(コチ)基地(同1,000万トン/年)が操業中だが、同基地から南部3州(ケララ、カルナタカ、タミルナド州)需要地に向けたパイプラインの建設が住民の抗議活動により遅れており、LNGトラック(ローリー)による配送も行っているが基地の稼働率は1割程度と低い模様である。東南部では港湾都市チェンナイのあるタミル・ナドゥ州でIOCLが建設していたEnnore(エノール)受入基地(同500万トン/年)は2019年2月にカタールからコミッショニングカーゴを受け入れ、6月に操業を開始した。同基地も需要地に向けたパイプラインが未整備であり、LNGトラック(ローリー)による配送も少量行ってはいるが、2019年11月時点で受け入れ実績が6カーゴと基地の稼働率は高くない状況である。
建設中、計画中の受入基地も複数存在する。需要の急速な拡大に対しFSRU(浮体式貯蔵設備)の建設や計画も進んでいる。Swan Energyと商船三井(MOL)がグジャラート州Jafrabad (ジャフラバード)港で建設中のJafrabad FSRU(受入能力500万トン/年)は2020年下期稼働予定である。Swan EnergyはLNG長期契約を締結しておらず、当面は短期とスポットで調達するものと思われる。
都市ガス大手のAdani GroupはIndian OilやGAILとともに東部オリッサ州で建設中のDhamra(ダムラ)受入基地(受入能力500万トン/年)は2021年に完成予定である。
ムンバイの不動産大手Hiranandani Group傘下のH-Energyはムンバイのある西部マハラシュトラ州でJaigarh(ジャイガー)FSRU(受入能力400万トン/年)を建設中であり、2020年1Qにコミッショニングを予定している。同社は2014年にドバイでLNG調達・トレーディング会社H-Energy Mideast DMCC(HEMD)を設立しており、2018年1月にマレーシア国営PetronasやポートフォリオプレイヤーなどとLNG売買契約を締結している(数量や期間など詳細は不明)。
また同社はジャイガーFSRU(受入能力400万トン/年)を中核とした野心的なガス事業計画を打ち出している。東部では州Kakinada(カキナダ)でFSU(18万6,000立方メートル)と陸上再ガス化設備で構成されるLNG受入基地を、2022年末完成を念頭に計画中である(図12)。さらに西ベンガル州コルカタ近郊に位置するKukrahati(ククラハティ)に陸上2次基地を建設し、北東部からバングラデシュにまたがるLNG供給拠点整備を目指している。

出所:H-Energy
(2)-3 都市ガス配給網
現在都市ガスは首都デリーや工業都市ムンバイのある西北部(グジャラート州、マハラシュトラ州)で主に利用されている。2019年1月時点の需要家件数は家庭5,710,293件、商業29,253件、工業が9,846件であり、88%が上記3地域に集中している。石油類・天然ガス規制機関(RNGRB)が普及エリア(Geographical Area;GA)を設定し、2019年3月までに計10回都市ガス普及入札を実施した。入札への参加は地場企業が中心である。デリーなどでLPGからパイプラインガスへの転換が進んでいる。10次入札までの整備が完了すると、国土の53%、人口の70%に天然ガスが普及する計画である(図13)。都市ガス配給網整備の目的はクリーンな調理用・輸送燃料の普及だが工業・商業需要家開拓にも寄与すると期待されている。

出所: 石油類・天然ガス規制機関(PNGRB)
参考1:GAILのパイプライン事業
GAILは国内パイプラインの7割、約1万2,000キロメートルを操業している。同社は2004年以降、第三者向けにパイプライン輸送サービスを提供しており、ガス取引企業や消費者が同サービスを利用している。2018年からオンラインサービスを展開し、キャパシティとタリフを公開している(図14、表3)。

出所:GAIL https://gailebank.gail.co.in/goga/NewApplication/index.html
参考2:インドの調理用ガスとしてのLPG普及
2016年以降、モディ政権は貧困層への近代的エネルギーへのアクセス、大気汚染対策を目的とした調理用ガス(LPG)の供給政策を展開してきた。これによりインドのLPG消費、普及率は大きく拡大した。またインドは日本や韓国を上回り、中国に次ぐ世界2位のLPG輸入国に成長している(図15)。PPACによると2019年10月現在家庭調理用のLPG普及率は96.5%に達している。2018年の同国のLPG消費は約2,460万トンで輸入比率は5割である。

PPAC、Argus他に基づきJOGMEC作成
3. 最近の天然ガス・LNGを巡る動き
(1) 最近のLNG輸入、調達を巡る動き
2019年1~11月のLNG輸入は前年同期比7%増(150万トン増)の2,200万トンである。前年の14%増に比べ伸びが鈍化した。2018年夏以降の経済減速が影響していると思われる(GDPの実質成長率は18年度の6.8%から19年度は4.8%の見込み)。2019年通年の輸入は前年比8%増の2,400万トン程度と見込まれている(図16)。
2020年のLNG輸入は、LNGスポット価格が低価格で推移すると見込まれることに加え、企業間の係争により完成後未稼働であったムンドラ受入基地(500万トン)、H-EnergyのジャイガーFSRUおよびSwan Energyと商船三井(MOL)によるジャフラバードFSRU(受入能力各500万トン/年)が立ち上がると見込まれていることから、前年比8%増の2,600万トン程度に達すると見込まれている。

出所:PPACに基づきJOGMEC作成(2019年、2020年は報道等に基づく見通し)
(2) Petronetの契約再交渉、米LNG大量調達の動き
インドにおける主なLNG輸入事業者は国営石油企業4社ONGC、GAIL、IOCL、BPCLが出資するPetronetであり、Dahej受入基地(受入能力年1,750万トン)、Kochi受入基地(同1,000万トン)を操業中であることは前項で述べた通りである。Petronetはカタール(RasGas)、ExxonMobil(豪Gorgon)、ロシアGazpromneft(ポートフォリオ)、米Main Pass Energy Hub(MPEH)と計1,514万トンの長期契約を結んでいる。同国のLNG長期契約の7割はPetronetによる契約である(図17)。
2020年1月、プラダン石油相はカタールとロシアのエネルギー大臣の訪問中にLNG長期契約について協議を行うと述べた。インドがカタールやGazpromと長期契約の再交渉に取り組むのはこれが2度目である。2015年の価格交渉時はカタールと価格のキャップとフロア撤廃で、GazpromとはJCCからBrent連動への変更について合意した。プラダン石油相は「LNGの価格水準を競争力のある透明なものにしたいと考えている」と述べた。
この他インドは米LNGの大量調達にも動いている。Petronetは2013年4月にMPEHと契約を結び、2018年から供給を受ける予定であったが、MPEHが2019年5月に作成したSummary Overviewによると2021年のFID、2025年の生産開始を目指している状況である。MPEHの代替としてかどうかは定かではないが、Petronetは2019年10月に米Tellurian とDriftwood LNG(フェーズ1:1,660万トン)から年最大500万トンのLNGを調達する覚書(MoU)に署名、調印した。両社は、2020年3月末までに最終契約の署名を目指している。契約に至るとDriftwoodは契約の3分の2が固まり、最終投資決定(FID)に近付くと見られる。
なお、Petronetの出資者のうちGAILを除く国営石油会社はモザンビークのArea1 LNGに出資している。出資比率はONGCが16%、Bharat(BPCL)が10%、IOCLが4%である。BPCLが100万トンの長期契約を結んでいる。
GAILはPetronetとは別に米Sabine Pass、Cove Pointと計580万トンの長期契約を結んでいる。IOCLはPetronetとは別に三菱商事と米Cameron LNGの長期契約70万トンを締結している。

Main Pass Energy Hubの契約(500万トン)は残し、Driftwood LNGとのMoU(500万トン)は含まず。
(3) 企業のインドガス事業への投資
成長を続けるインドの天然ガス市場開拓を見据え、メジャーズやロシア企業が天然ガスの開発から小売りおよび関連事業への協力あるいは投資を検討している。
2019年9月にロシアNOVATEKは、インド Petronet LNG、H-Energy とそれぞれ覚書(MoU)を締結した。
Petronet LNG とのMoUは、NOVATEK のポートフォリオからインド市場へのLNG供給引き渡し、Petronet LNG によるNOVATEKの将来のLNGプロジェクトへの投資、インドでの自動車燃料としてのLNG充填ステーションおよびLNG燃料トラックへの共同投資含む共同販売活動を想定している。
そしてH-EnergyとのMoUは、長期のインド向けLNG供給、H-EnergyのLNG受入基地およびNOVATEK のLNG液化事業への双方向の投資、NOVATEK ポートフォリオからインド、バングラデシュ、その他市場の最終顧客へのLNG・天然ガス販売のための合弁事業設立を想定している。
また同年10月、Totalが都市ガス大手のAdani Groupのガス供給とLNG輸入ターミナルに6億ドルの投資を行うことを発表した。Adani Gasは都市ガス供給事業の他、Dhamra、Mundra受入基地に出資している。TotalはAdaniの株式37.4%を取得した。両社はインド、バングラデシュでLNG販売を行う50:50の合弁事業を設立する。Total はAdani Gas Limited に対して、LNG・ガス販売のノウハウと、LNG供給を提供するとしている。
なおExxonMobilも10月にONGC、IOCLと相次いでMoUを締結した。ONGCとは深海フロンティアを含む探鉱開発に関する共同スタディの実施と開発の協力についてMoUを結び、IOCLとは効率的なコストによるガスの供給を検討するMoUを結んだ。
日本企業の投資は商船三井(MOL)によるJafrabad FSRU(受入能力500万トン/年)への出資がある。この他直接の投資ではないが、2019年7月に大阪ガスが子会社のOsaka Gas Singapore Pte. Ltd.を通じ、シンガポールのAGP International Holdings Pte. Ltd.(AGP)と資本提携した。AGPに対しJBICと共同で100億円規模の出資を行った。大阪ガスのプレスリリースによると、AGPは、1900年創立のエンジニアリング事業会社として、石油化学プラント、鉱業分野、電力分野、LNG分野等のモジュール製作事業をグローバルに展開しており、2015年より、インドを中心とした中・小型のLNG受入基地事業や、同国における都市ガス事業に出資参画し、LNG中・下流関連事業を新たに展開している。大阪ガスは、AGPへの出資を通じて、新規LNG受入基地事業及び都市ガス事業へ参画するとともに、国内で培った両事業のノウハウを活かしてAGPとの協業を促進させることで、今後のさらなる海外事業拡大の足掛かりとすることを企図しているという。また親会社AG&Pのウェブサイトによると、AGPはインド規制当局のPNGRBからAndhra Pradesh(アンドラ・プラデシュ)、Tamil Nadu(タミル・ナド)、 Kerala(ケララ)、Karnataka(カルタナカ)、Rajasthan(ラジャスタン)の各州で都市ガスやCNG供給のライセンスを得ており、インド国土の8.5%、約8,000万人に都市ガスやCNGの供給を行っており、Tamil Nadu州Karaikal港でFSRU(受入能力年100万トン)を計画している。
4. 今後の見通し(IEA)
(1) 天然ガス需給見通し
IEAが2019年6月に発表した”Gas 2019”において、インドの天然ガス需要は2018年から2024年にかけて年平均6.5%増加(70億立方メートル増加)し890億立方メートルに達する見通しである(図18)。また、IEAが2019年11月に発表したWorld Energy Outlook(WEO2019)公表政策(SPS)シナリオによると、同国の天然ガス需要は2018年から2040年にかけて年平均5.4%増加(1,330億立方メートル増加)し1,960億立方メートル(LNG換算1億4,300万トン)となる見通しである。国内生産は年平均4.4%増加し820億立方メートルとなるが、需給ギャップは2018年の5割(300億立方メートル)から2040年は1,140億立方メートル(LNG換算約8,300万トン)に拡大し、輸入比率は6割に達すると見込まれる。インド政府の諮問機関NITIによる国家エネルギー政策の草案(Draft National Energy Policy、NEP案)における2040年の需要見通しはIEA WEO2019の見通しを若干下回る状況である。需給ギャップを全量LNGでまかなうと2040年までに約6,000万トン(年250万トン前後)の追加需要が生じることになる(図18)。
国産ガスの増産は限定的である。またトルクメニスタンの天然ガスをアフガニスタンとパキスタンを経由し輸入するTAPIパイプライン計画やイランからパキスタン経由で輸入するIPIパイプライン計画があるが、これらの計画はファイナンスに加え治安や主要購入者であるパキスタンとインドの関係悪化もあり、以前から大きな前進が得られず、今後も実現には紆余曲折が見込まれる。したがって、当面は輸入LNGが需給ギャップを埋めることになると思われる。

出所:IEA、インドNITIエネルギー政策草案(NEP)
参考3:TAPIパイプライン
- トルクメニスタン~アフガニスタン~パキスタン~インド
- 総延長:1,848キロメートル(うちアフガン~インド1,634キロメートル)
- 輸送能力33BCM/y(1期11BCM/y)
- 供給源:トルクメニスタンGalkynyshガス田
- 総工費:150億ドル(1期50~80億ドル)
- 供給開始見込み:2023年12月(1期)
- GAILがTapi Pipeline Co. Ltd.(TPCL)に5%出資
(2) 電源別発電量見通し
IEA“WE02019公表政策シナリオ”によると、インドの発電量は2018年から2040年にかけて年平均4.8%増加、2.8倍の4,581Twhに増加する見通しである。ガス火力発電量は倍増するが、発電量に占める比率は4%前後で推移する(図19)。インド政府は発電需要増加への対応と大気汚染への対策からで発電における天然ガスの利用拡大を図ろうとしており、2025年までにガス火力発電(発電設備容量計約25GW)の平均稼働率を現在の7.5%から20%に増加させる野心的な目標を設定しているが、具体的な方策は示されていない。

出所:WEO2019(公表政策)
主な参考資料
- 平成30年度石油産業体制等調査研究(中国・インドの天然ガス等に係る国内システムやエネルギー政策・方針等が世界の需給バランスと価格にもたらす影響に関する調査)METI平成31年2月(エイジアム研究所)
- BP Statistical Review of World Energy 2019 (BP, 2019)
- IEA World Energy Outlook 2019 (IEA, 2019)
- IEA World Energy Balance 2019 edition (IEA,2019)
- Global ambient air pollution 2018 (WHO,2019)
- “Latest air pollution data ranks world’s cities worst to best” (Greenpeace International, 5 March, 2019)
- IEA Gas 2019 (IEA, 2019)
- “India Abandons Plans to Break Up Gas Pipeline Utility” (International Oil Daily, 27 Dec, 2019)
- “PETRONAS Secures Maiden Term LNG Supply Agreement To India” (2018/2/22 Petronas)
- “NOVATEK Signs Memorandum of Understanding with Petronet LNG” (NOVATEK, 04 September 2019)
- H-Energy signs LNG Cooperation Agreement with NOVATEK (H-Energy, 04 September 2019)
- “Total expands its strategic partnership with Adani to supply and market natural gas in India” (Total Oct 14, 2019)
- ExxonMobil expands LNG collaborations in India: Allies with Indian Oil to explore growth opportunities (ExxonMobil, Oct. 14, 2019)
- Summary Overview Main Pass Energy Hub™ LNG Export Project (MPEH, 8 May 2019)
- 大阪ガス:海外で天然ガスインフラを開発するAGP International Holdings Pte. Ltd.への出資および戦略的協業契約の締結について(大阪ガス2019/7/22)
- AGP:Largest private foreign player in City Gas Distribution in India(AGPウェブサイト)
以上
(この報告は2020年1月22日時点のものです)