ページ番号1008687 更新日 令和2年1月30日
(「激変するベネズエラの石油産業」(2019年5月)続報)
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概要
- 減少を続けていたベネズエラの原油生産量は、2019年1月末に米国がPDVSAを制裁対象に加えたこと、また、3月に大規模停電が発生したことにより、さらに落ち込み100万b/dを下回るようになった。8月に制裁が強化されると、タンカーの手配が難しくなり、輸出できない原油で貯蔵施設が満杯となり、その結果、9月には原油生産量が65万b/d程度まで減少した。その後、主にRosneftがベネズエラ原油を輸送するタンカーを調達、PDVSAは輸出量を回復させ、在庫のボトルネックが解消し、ベネズエラの原油生産量は70万~80万b/d程度まで回復した。2019年末からは、一部のプロジェクトでRosneft等がPDVSAに代わって操業をリードしたり、外資がオペレーターとなることを許可する可能性についてMaduro政権が野党側と協議を行ったりしているという。
- ベネズエラは、米国メキシコ湾岸から中国やインドに原油輸出先をシフトすることで、制裁の影響を緩和しようとした。しかし、米国から中国、インド等に圧力がかかり、4月には中国への原油輸出は石油で返済することを条件とした融資の返済分が中心となり、5月にはRelianceが、8月にはCNPCがベネズエラ産原油の直接購入を停止した。その結果、Rosneftがベネズエラ原油の大部分を取り扱うようになった。Rosneftはこの原油をReliance、CNPC、中国の地方製油所等に売却、アジア市場への輸出量が増加したことから、ベネズエラは超重質原油を改質せずに、軽質原油とブレンドし輸出するようになった。一方で、RepsolとEniは、生産する原油やガスの配当としてベネズエラ原油を引き取っている。両社はベネズエラから原油を輸送する際に、配当分を上回る原油を積み込み、その見返りとして、ベネズエラにガソリン等を供給している。このような状況から、米国はベネズエラ原油の取引が債務の返済や配当の支払い、石油製品とのスワップであれば制裁を科さないとの認識が広まり、第4四半期にはRelianceやChevronがベネズエラ原油の取引を再開した。
- 国内製油所の精製能力は合計で約130万b/dであるが、稼働率は10~20%まで低減している。
- Guaido氏が自ら暫定大統領となることを宣言して1年が経過したが、Maduro政権に対する抗議行動は次第に下火になり、また、米国の対PDVSA制裁によっても、原油の生産や輸出にMaduro政権交代を促すような決定的なダメージは与えられていない。このような状況が長引けば、油田や生産設備、製油所の状況はさらに悪化、生産回復にはより多くの投資と時間を要することになろう。
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas、Business Monitor International他)
1. 原油生産状況
2015年まで250万b/d前後で推移していたベネズエラの原油生産量は、国営石油会社PDVSAによる支払いの遅れからサービス会社がベネズエラでの活動を削減、稼働リグ数を減らしたことに伴い、2016年4月以降緩やかに減少を始めた。2017年には原油生産量は200万b/dを切るようになり、同年末からは、生産量減少が加速した。この時期までのベネズエラの原油生産量減少の原因は、稼働リグ数減少の他、悪化する政治、経済状況、投資不足、技術、経験、知見のある人材の流出、希釈剤不足等であった。2019年に入ると、これらの要因に米国財務省がPDVSAを制裁対象に加えたこと、また、大規模停電が発生したことが加わり、原油生産量はさらに大きく落ち込み100万b/dを下回ることになった。
米国財務省が2019年1月28日にPDVSAを制裁対象に指定した(Executive Order 13857)ことで、ベネズエラの原油輸出とともに、Orinoco Oil Beltで生産される超重質油を希釈するためのナフサと軽質原油の輸入が減少することとなった。ベネズエラは、中国やインドへの原油輸出を増やすことで、米国への原油輸出量減少分をカバーし、主に米国からの輸入に依存していたナフサや軽質原油をRosneft、Repsol、Relianceから輸入することで対応した。その結果、2019年1月から2月にかけてのベネズエラの原油生産量減少は10万b/dを若干上回る程度に抑えられた。
しかし、3月7~11日と25~31日の2度にわたり、全国規模で停電が発生した。停電期間中、原油生産量は50万b/d、あるいは、それ以下まで減少し、3月の原油生産量は2月に比べ30万b/d弱減少することとなった。
大規模停電復旧後の原油生産の回復は容易ではなかった。Orinoco Oil BeltのPetropiar(生産能力190,000 b/d、Chevronとのジョイントベンチャー)、Petromonagas(同120,000 b/d、Rosneftとのジョイントベンチャー)、Petrocedeno(同202,000 b/d、Total、Equinorとのジョイントベンチャー)各プロジェクトのアップグレーダーは稼働を停止したままか、完全に生産を再開できない状況が続いた。さらに、停電によりポンプ等生産設備の一部が破損し、停電前と比べて定常時の生産量が10万b/d程度低減しているとの情報もあった。

OPEC Monthly Oil Market Report、IEA Oil Market Reportを基に作成
停電後、PDVSAは油田にバックアップ用の電源を設置する計画を発表した。しかし、電源が設置されるのはMaracaibo湖周辺の油田だけで、操業環境が悪化する中で比較的よく持ちこたえていたOrinoco Oil Beltは対象とされず、5月ごろのOrinoco Oil Beltの生産量は、生産能力130万b/dに対して、17万~25万b/d程度まで減少していると報じられた。また、Maracaibo湖周辺の油田についても、実際にバックアップ用の電源が設置されたのか、さらにそれを稼働させるためのディーゼル等をPDVSAが確保できたのかについては報道がない。
5月には、インドのRelianceがベネズエラからの原油直接取引を停止した。Relianceが原油とのスワップでベネズエラに提供していたナフサの供給も停止し、ナフサ不足からOrinoco Oil Beltの生産に影響が生じているとの情報が見られるようになった。また、この頃から、タンカーが手配できないため、貯蔵施設内に貯蔵される原油が増加しているとの報道がなされるようになった。
7月22日には3月以来の大規模な停電が発生した。ベネズエラの送電系統は何年も十分な投資が行われず、整備されていない状態にあるが、Maduro大統領は一連の停電について、根拠を示さずに米国が仕掛けた妨害行為によるものであるとの主張を続けた。停電によりOrinoco Oil BeltのPetropiar、Petromonagas、Petrocedeno、Sinovensa(生産能力105,000 b/d、CNPCとのジョイントベンチャー)が影響を受け、Orinoco Oil Beltの原油生産量は124,000 b/dまで減少した。しかし、この7月の全国規模の停電は1日で復旧し、原油生産量は1週間以内に停電前の状態まで回復した。

各種資料より作成

出所:PDVSA website
Trump大統領は8月5日、特に定められたものを除き、米国内にあるベネズエラ政府のすべての資産を凍結し、同国政府との取引を禁止するという内容の大統領令を発出した(Executive Order 13884)。米国内にあるベネズエラ政府の資産のほか、今後米国内に送られるものや、米国人が所有・管理するベネズエラ政府の資産も凍結すると命じ、こうした資産は「封鎖され、送金・支払い・持ち出し・引き出しのほか取引も禁止される」こととなった。しかし、米国はすでに数か月にわたり、ベネズエラから原油を購入したり、ベネズエラに希釈剤を供給したりする非米国企業を阻止しようと試みており、この制裁により必ずしも、PDVSAのパートナーとして生産に携わっている企業やPDVSAと取引を行っている企業のリスクが増大するわけではないと見られていた。しかし、CNPCは、米国による対ベネズエラ制裁をめぐり二次的な制裁を受ける可能性が高いとの懸念から、8月以降ベネズエラ産原油の直接取引を停止した。一方、Rosneftは債務返済用やPDVSAとのジョイントベンチャープロジェクトの配当としてPDVSAと原油等の取引を継続した。これに対し、Trump政権の上層部は、このような取引を続けるのならば、米国はRosneftに対して制裁を科すことになると語った。
この制裁強化以降、ベネズエラはタンカーを手配することが難しくなり、8月、9月に出荷が予定されていた原油輸出にキャンセルが生じた。そのため、PDVSAの原油在庫は9月に2,270万bbl、10月には3,410万bblと積み上がっていった。ベネズエラの原油貯蔵能力は6,500万bblだが、メンテナンスが行われず使えないタンクが多い。そのため、陸上、海上ともに貯蔵設備が満杯となってしまい、その結果、ベネズエラは原油生産を削減せざるを得なくなった。ベネズエラの原油生産量は、3月の大規模停電後、若干回復し、4~8月はOPEC Monthly Oil Market Reportで73.5~78.5万b/d、IEAでは80~87万b/dと安定していたが、9月には65万b/d程度まで減少、10月7日には597,600b/dに急減した。Orinoco Oil Beltの生産量も希釈剤不足から低水準で推移していたが、貯蔵ができないため、9月26日には235,500 b/d、10月7日には199,700 b/dとさらに減少した[1]。
このような状況を受けて、PDVSAは原油在庫量を減らそうと、10月に90万b/dを輸出する計画を立てた。そして、主にRosneftがベネズエラ原油を輸送するタンカーを調達、PDVSAは80万b/dを輸出、その目標をほぼ達成した。このようにして、在庫のボトルネックが解消したため、ベネズエラの原油生産量は10月31日には93.4万b/dまで増加、10月、1カ月の平均では約70万b/dとなった。
その後12月までのベネズエラの原油生産量については、OPECがほぼ横ばい、IEAが82万b/dまで増加としている。この数か月の原油生産の安定あるいは増加には、貯蔵されていた原油の輸出が進んだことにより、RosneftとのジョイントベンチャーPetromonagas、CNPCとのジョイントベンチャーSinovensa、ChevronとのジョイントベンチャーPetropiar、PetroBoscan等のプロジェクトの生産量が増加したことが寄与していると見られている。
米国財務省が2019年1月末にPDVSAを制裁対象に加えると発表した直後には、ベネズエラの原油生産量は2019年中に50万b/d程度まで減少する可能性があると見る向きもあった。しかし、停電は頻発しているものの大規模なものは3回に留まったこと、米政府がChevronや大手サービス会社4社(Halliburton、Schlumberger、Baker Hughes、Weatherford)に対しベネズエラでの操業を認めていること、制裁下でもRosneftを中心に原油をベネズエラから持ち出し、希釈剤をベネズエラに供給していることから、原油生産量の落ち込みは当初懸念された最悪の状態には至っていない。
PDVSAを制裁対象とした当初、米国政府は、Chevronや大手サービス会社4社に対して2019年7 月27日までベネズエラで活動することを認めていたが、7月、10月、2020年1月にそれぞれ90日ずつ操業期間を延長することを認め、現在、これらの企業は2020年4月22日までベネズエラでの操業が可能となっている。サービス会社については、すでにベネズエラでの活動を縮小、あるいは、停止しており、操業期間が延長されても、されなくても、大きな影響はないと見られるているが、Chevronの操業が停止されれば、ベネズエラの原油生産量を1か月以内に30万b/d以下に減少させ[2]、Maduro政権の短命化を図ることができると見る向きも多い。しかし、その一方で、そのような場合にはRosneft等ロシア企業や中国企業がChevronの資産を引き継ぎ、45日以内に生産量を現在の水準まで回復させることができ、短期的には得るものがあっても長期的にみれば失うものが大きく、結局はMaduro政権に大きな圧力をかけることはできないとの見方もある[3]。
なお、2019年末からは、PDVSAが米国の制裁や技術面、資金面、人材面の制約からオペレーターとしての役割を果たすことができなくなっているとの報道がなされるようになっている。ベネズエラでは、石油関連のジョイントベンチャーでは、PDVSAが権益の過半を所有し、オペレーターを務めることが法律で定められている。しかし、契約上はPDVSAがオペレーターだが、実際にはオペレーターとしての役割を果たせていないということだろう。特に、Rosneftはすでに地場のサービス会社等コントラクターとの交渉を行う等、PDVSAに代わってオペレーションをリードしている。そして、Maduro政権は2019年10月ごろから、PDVSAのパートナーである外資がオペレーターとなることを許可する可能性について野党側と非公式に協議を行っているという。契約条件を修正し、PDVSA以外の企業にオペレーターの機能を移転することを妨げる条項を削除することを中心に協議が行われており、PDVSAが権益の過半を保持するという要件は変更されないと見られている。
2020年に入りMaduro政権は、同年中にベネズエラの原油生産量を200万b/dに引き上げるという目標を設定した。Maduro大統領は、原油生産量はすでに2019年9月から23万b/d増加していると語ったが、2019年の生産状況の詳細には触れなかった。確かに、9月に比べ原油生産量は増加しているが、これは上述した通り、在庫がはけ、貯蔵施設に余裕が生じたことが原因であり、希釈剤や電力の不足は続いていることから、ベネズエラが2020年に原油生産量を目標とする200万b/dまで増加させることは難しいというのが一般的な見方だ。
[1] International Oil Daily, 2019/10/14
[2] Platts Oilgram News, 2019/10/15
[3] Platts Oilgram News, 2020/1/13
2. 原油輸出状況
2019年1月末に米国がPDVSAを制裁対象に加えた当初、ベネズエラは、米国メキシコ湾岸の市場から中国やインドに原油輸出先をシフトすることで、制裁の影響を緩和しようとした。
しかし、米国から中国、インド等に圧力がかかり、4月には、中国への原油輸出は石油で返済することを条件とした融資(Loan for Oil)の返済分が中心となった。また、原油の売却先が見つからず、ベネズエラ沖に40隻以上の船舶が係留されているとの報道も見られるようになった。そして、PDVSAは石油の販売先ではなく、Rosneftに請求書を送り、Rosneftが一定額を割り引いた販売代金をPDVSAに立替払いし、その後全額をPDVSAの販売先から回収するという仕組みが用いられていると報じられるようになった[4]。5月にRelianceがベネズエラからの原油の直接購入を停止すると、RosneftはRelianceが引き取っていた原油を取り扱うようになった。さらに、8月にCNPCがベネズエラ産原油の直接購入を停止したことで、Rosneftはベネズエラ原油の大部分を取り扱うようになった。ただし、Rosneftはベネズエラ原油を自ら精製処理するわけではなく、これをReliance、CNPC、ティーポットと呼ばれる中国の中小規模の地方製油所等に売却している。Rosneftは、同社が取り扱っている原油はLoan for Oilの返済分であり、ベネズエラにキャッシュをもたらさないことから、制裁に抵触しないということで、米国と合意していると5月中旬に発表した。
米国への原油輸出量が減少したことで、ベネズエラは、Orinoco Oil Beltで生産された原油を改質(アップグレード)工程で軽質化、脱硫、脱重金属化し、輸出することをやめ、軽質原油とブレンドしたMerey-16(API比重16度、硫黄分2.99%)を市場に供給するようになった。PDVSAが制裁対象となる前には、改質された原油Special Hamaca Blend やZuata Sweetが米国メキシコ湾岸の製油所に供給されていたが、その後、これらの原油は不利な条件でアジア市場に供給されていた。一方、CNPCの製油所やティーポット製油所では以前からMerey-16が精製処理されており、アジア市場ではMerey-16の需要があることから、5月ごろより実施が計画されていたという。
8月5日に米国の制裁が強化されると、タンカーの調達が困難になるとともに、ベネズエラ原油を購入する企業が減少、Rosneftはマレーシア沖等で瀬どりを行うことで原油がベネズエラ産ではないと見せかける偽装工作を行うようになったという。また、ベネズエラ原油を輸送するタンカーはギリシア、マルタ、リベリア等の船籍のものが用いられるようになった。
Rosneft以外にも、RepsolとEniが2019年に入ってもベネズエラ原油の引き取りを継続している。両社は西部沖合CardonⅣ鉱区でガスを、RepsolはPetroquiriquireプロジェクトでPDVSAのパートナーとして原油を生産しており、配当を現物(原油)で引き取っている。RepsolとEniはCardonⅣ鉱区について7月までに4カーゴ(1~7月に受領する予定量の45%に相当)、RepsolはPetroquiriquireについて月に約1カーゴを受領した[5]。そして、両社は、これらの取引は制裁以前にPDVSAと締結された契約に基づくもので、法令を順守しているということで、米国財務省外国資産管理室と連絡を取っているという。そして、ベネズエラから原油を輸送する際には、配当分を上回る原油が積み込まれており、その見返りとして、両社はベネズエラ市場向けにガソリン等石油製品を供給している。
また、PDVSAは、従来、原油販売先について石油業界で少なくとも2年間の実績を有することを求めていたが、米国の制裁を受け、新規の顧客や仕入れ先に課す要件を一時的に撤回し、経験の少ない無名の企業にも原油を販売するようになった。例えば、トルコ企業Grupo Iveex Insaatが4月よりベネズエラ原油購入を開始した。この企業はMaduro政権と関係のあるベネズエラ人実業家が所有する企業で、設立されてから1年にも満たず、資本はわずか1万リラ(1,775ドル)で、業種は住宅建設とされており、もちろん製油所も保有していないという[6]。7月には、2017年11月に設立されたシンガポール企業、Procerium Energyが希釈したベネズエラ原油100万bblを中国に供給している[7]。
11月には、Relianceがベネズエラ原油の直接購入を再開、見返りとしてPDVSAへのディーゼルの供給を開始した。RelianceとPDVSAの契約では、原油代金を現金または石油製品を供給することで支払うこととなっている。石油製品を供給することで、Relianceは現金での支払いを避け、米国の制裁を避けることができている。Chevronも第4四半期にベネズエラからの原油引き取りを再開した[8]。Rosneftはインドや中国への原油供給を継続、Grupo Iveex InsaatやProcerium Energyといった新設企業も引き続きベネズエラ原油の引き取りを希望していると伝えられている。また、RosneftやRepsolからナフサがベネズエラに供給されているという。前述した通り、Trump政権上層部が8月に、米国は、PDVSAとの取引を続けるRosneftに対し制裁を科す可能性があると語ったが、これまでのところRosneftに対する制裁は課されていない。このような状況から、米国の制裁の運用は当初考えられていたよりも緩やかで、米国は、ベネズエラ原油の取引が債務の返済や配当の支払い、石油製品とのスワップであれば制裁を科さないとの認識が広まっていると考えられる。PDVSAの暫定取締役によると、ベネズエラの原油生産量70万b/dのうち収益を生んでいるのはわずか10万b/dのみであり[9]、このことも米国の政策に影響を与えている一つの要因となっていると考えられる。
3. 精製状況
ベネズエラ国内の製油所は全てPDVSAが保有しており、精製能力は合計で約130万b/dである。これらの製油所は、PDVSAの資金不足で投資が十分に行われず、修理やメンテナンスが行われていない。また、原油生産量減少に伴い供給される原油が減少している。さらに、精製部門では人員不足が他の部門よりも著しいという。このような状況から、2011~2014年には73%であった全製油所の稼働率が、2018年第1四半期には約30%、8月には27%以下と低い水準で推移してきた。2019年に入ってからは、原油生産量がさらに減少したことや停電の頻発、火災等の理由で、稼働しているのはParaguana Refining Center(CRP)のAmuay製油所(精製能力645,000 b/d)とCardon製油所(同310,000 b/d)の両方、あるいは、一方のみと報じられることが多くなった。7月7日には、発電所のタービンに壊滅的な故障が起きたことによる停電で、Amuay製油所とCardon製油所がともに稼働を停止、ベネズエラ国内全ての製油所が稼働していないという状況に陥った。稼働率は3月の大規模停電前は20%程度とされていたが、その後は10~20%となっているという。PDVSAが長期間投資を行ってこなかったため、設備には甚大なダメージが生じており、既存の製油所を修理するよりも、新たに製油所を建設するほうが効率が良いとの見方も出ている。
2019年第3四半期までは国内の製油所でガソリン5~6.5万b/dを精製できていたものの、不足分及びそれ以降は輸入に依存せざるを得ない状況となっている。しかし、米国の経済制裁と資金不足からベネズエラは十分なガソリンを輸入できずに、ロシアへの依存を強め、ロシアへ原油を輸出し、その見返りとしてロシアからガソリンを輸入しているという。それでも、ガソリンは不足しており、最も供給が多いとされるCaracasでもサービスステーションには長蛇の列ができている。
終わりに
2019年の1年間を通して、ベネズエラの原油生産、輸出におけるRosneftの役割が拡大し、ベネズエラはRosneftへの依存を強め、RosneftとPDVSAはその関係を緊密化していることが窺える。
先に記した通り、PDVSAとRosneftのジョイントベンチャープロジェクトでは、より多くの責任がRosneftに移譲されている。そして、PDVSAとのジョイントベンチャープロジェクト5件のうちPetromiranda、Petromonagas、Petrovictoriaの生産を増やす計画である(PetroperijaとBoqueronはまだ生産を行っていない)。また、Rosneftは現在ベネズエラ原油販売の主要なハブとなっているパナマの事務所でPDVSAの元従業員を多く雇用している。さらに、Rosneftは、以前Weatherfordが所有していたベネズエラのサービス会社Precision Drilling de Venezuelaを引き継いでいるという。一方、PDVSAも、9月にモスクワに事務所を開設した。
輸出に関しては、Refinitiv EikonのデータとPDVSAの報告によると、2019年のベネズエラの石油輸出量の33.5%をRosneftが取り扱った[10]という。ただし、Rosneftが引き取るベネズエラ原油は債務の返済に充てられたり、石油製品とのスワップ取引となっており、ベネズエラの収入にはなっていない。その証左として、ロシアはPDVSAにこれまでに65億ドルを融資したが、未返済額は3月末の18億ドルから6月末には11億ドルに減少していて、少なからず返済が進んでいることが窺える。
ベネズエラでは、2020年1月5日に国会議長選出を巡り野党と与党が対立、野党がGuaido氏を再選、与党はParra氏を選出、とそれぞれ国会議長を選出、大統領に続き国会議長も2名という状況になった。2019年上半期には、Guaido暫定大統領の下Maduro政権に対する抗議行動が展開され、米国がPDVSAを制裁対象に加えたことで経済的なダメージも拡大し、早期の政権交代も期待された。Guaido氏が自ら暫定大統領となることを宣言して1年が経過したものの、Maduro政権に対する抗議行動は次第に下火になり、膠着状態が続いている。また、米国の対PDVSA制裁によっても、原油の生産や輸出にMaduro政権に退陣を促すような決定的なダメージは与えられていない。2019年4月ごろには、原油生産量を回復、増加させるためには500億ドル程度の投資が必要になるとの見方がなされていたが、しかし、このような状況が長引けば、油田や生産設備、製油所の状況はさらに悪化することになり、生産回復にはより多くの投資と時間を必要とすることになろう。
[10] Reuters, 2020/1/8
以上
(この報告は2020年1月27日時点のものです)