ページ番号1008695 更新日 令和2年2月17日

原油市場他: 中国等での新型コロナウイルス肺炎拡大による同国等の経済成長と石油需要の鈍化懸念で下落する原油価格

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レポートID 1008695
作成日 2020-02-17 00:00:00 +0900
更新日 2020-02-17 12:36:24 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 28
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
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地域8
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2020/02/17 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、製油所での春場のメンテナンス作業実施や一部装置での不具合の発生等により原油精製処理活動が不活発化したことから、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は続いている。また、中国との貿易紛争により経済成長が伸び悩み気味となっていることや、気温が温暖であったこともあり、留出油の需要は抑制されたものの、製油所での生産水準が低下したことから、在庫は減少傾向となったが、量としては平年幅上限付近に位置している。また、製油所でのガソリン生産も抑制されたと見られるものの、ガソリンは季節的に不需要期であるうえ、米国経済成長減速により需要が鈍化していることもあり、在庫は増加傾向となった結果、平年幅上限を上回る状態となった他、一時週間統計史上最高水準に到達した。
  2. 2020年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加したが、年末に向けた原油在庫の積み上げが年を明けて一段落したことから日本の原油在庫は減少した他、欧州においても製油所での精製利幅低下に併せ原油の調達が手控えられたと推測されることから原油在庫が減少したことで相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少したものの、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国で増加となった他、欧州でも暖冬で留出油需要が抑制されたこと等もあり石油製品在庫が増加、日本でも、製油所が暖房用灯油生産に注力した結果、ガソリン等他の製品供給及び在庫が増加した等したことから、同国の石油製品全体の在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方に位置する量となっている。
  3. 2020年1月下旬から2月中旬にかけての原油市場では、中国での新型コロナウイルス肺炎感染者数と死者数の増加により、同国等の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で強まったことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、1月17日に1バレル当たり58.54ドルであった原油価格(WTI)は下落傾向となり、2月4日には同49.61ドルと終値ベースでは2019年1月7日以来の低水準に到達する場面が見られた。
  4. 今後少なくとも短期的には、冬場後半の季節的な石油需給の緩和感継続に加え、中国等での新型肺炎の拡大ペース減速の兆候が見られず、OPECプラス産油国による追加減産措置合意に向けた交渉も難航するようであれば、世界経済成長及び石油需要の鈍化観測等から、原油相場に下方圧力が加わるものと考えられる。ただ、OPECプラス会合で世界石油需給引き締まり感を市場で醸成するのに十分な程度に追加減産措置を決定したり、中国の新型肺炎の拡大ペースが鈍化する兆候が見られたりすれば、原油相場が持ち直す可能性もある。また、3月に入ると夏場のガソリン需要期到来による石油需給引き締まり観測が市場で発生することで、相対的に原油価格に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。さらに、イラン及びリビア等の地政学的リスク要因や米国石油坑井掘削装置稼働数等でも原油相場が変動することもありうる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2019年11月の米国ガソリン需要(確定値)は日量919万バレルと前年同月比で1.0%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で1.3%程度減少の日量917万バレル)からは若干ながら上方修正された。11月の同国の1人当たり実質個人可処分所得が前年同月比で2.5%の伸びにとどまる(因みに2018年11月の当該所得の前年同月比での増加率は3.2%であった)など、米国と中国の貿易紛争による両国の関税賦課合戦等に伴い米国経済成長が伸び悩み気味となっていることが、ガソリン需要を抑制した結果、同月のガソリン需要が前年同月比で減少したものと考えられる。また、2020年1月の同国ガソリン需要(速報値)は日量870万バレル、前年同月比で0.5%程度の減少となった。1月15日には米国と中国との貿易紛争を巡る第一段階の合意文書が署名されたものの、既に賦課された関税の税率が直ちに軽減されたわけではなかったことから米国経済成長への足枷も排除されたわけではなかったこともあり、2019年12月の同国実質個人可処分所得が前年同月比で1.5%の伸びにとどまった(因みに2018年12月は同3.7%の増加であった)流れを2020年1月も引き継いだと見られることが、同月の同国ガソリン需要の伸びに影響しているものと見られるうえ、1月の同国ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.636ドルと前月比では0.009ドル(約0.3%)の下落となったものの、前年同月比では同0.298ドル(約12.7%)の上昇であったことが、当該需要が前年同月比で減少を示した背景にあるものと考えられる。他方、米国では、1月後半以降、春場の製油所のメンテナンス作業が開始されつつあることに加え、一部製油所で装置不具合が発生したこともあり、原油精製処理量が減少傾向となった(図2参照)ため、ガソリンの製造活動も不活発化した(ガソリン最終製品の生産量は図3参照)ことが、同国のガソリン在庫増加を抑制する方向で作用したものの、季節的にもこの時期ガソリンは不需要期であることに加え、米国経済減速の面(前述)からも当該製品需要が伸び悩み気味となったこともあり、2020年1月上旬から2月上旬にかけ増加ペースが大幅に鈍化はしたものの同国のガソリン在庫は増加傾向が維持され、1月24日には2.61億バレルと1990年以降の同国週間ガソリン在庫統計史上最高水準に到達するとともに、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~20年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~20年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~20年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~20年)

2019年11月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量418万バレルと前年同月比で0.4%程度の減少となったが、速報値である日量417万バレル(同0.8%程度の減少)からは若干ながら上方修正された(図5参照)。11月の米国の鉱工業生産が前年同月比で約0.7%の減少となる(因みに2018年11月のそれは同4.1%程度の増加であった)など同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で1.2%の減少となった(因みに2018年11月の同国物流活動は前年同月比で5.8%の増加であった)ことが、留出油需要に負の影響を及ぼしたものと考えられる。また、2020年1月の留出油需要(速報値)は日量388万バレルと前年同月比で10.8%程度の減少となった。同月の同国鉱工業生産が前年同月比で0.8%の減少となり(因みに2019年1月の同国鉱工業生産は前年同月比で3.6%の増加であった)、その影響を受け同国の物流活動が鈍化していると見られる(因みに2019年12月の同国の物流活動は前年同月比で0.8%の減少となったが、2018年12月は同2.9%の増加であった)ことが物流部門での軽油需要を抑制していると見られることに加え、2020年1月は米国の暖房用需要の中心地である北東部で気温がしばしば平年を上回るほど温暖な場面が見られたことにより暖房用留出油需要が低迷したことから、前年同月比での留出油需要が減少しているものと考えられる。ただ、このように需要が不振であったものの、1月後半以降春場のメンテナンス作業開始等に伴い製油所での留出油生産が減少傾向となった(図6参照)ことで相殺された余りあったことから、2020年1月上旬から2月上旬にかけ米国の留出油在庫は減少傾向となったが、2月上旬時点では平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~20年)

図6 米国の留出油生産量(2009~20年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~20年)

2019年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.8%程度減少の日量2,059万バレルとなった(図8参照)。ガソリン、留出油及び重油(米国の重油需要の相当部分を占める船舶部門において、2020年1月1日に国際海事機関(IMO)により施行された船舶用燃料硫黄含有分規制強化(重量比で3.5%から0.5%へと低減)により、船舶用燃料の一部が重油から軽油に移行しているものと推察される)の需要が前年同月比で減少したことが影響している。また、その他の石油製品需要が速報値(日量413万バレル)から確定値(同389万バレル)に移行する段階で相当程度下方修正されたことが一因となり、当該需要も速報値(日量2,104万バレル、前年同月比1.4%程度の増加)から下方修正されている。他方、2020年1月の米国石油需要(速報値)は、日量2,020万バレルと前年同月比で1.1%程度の減少となった。留出油に加え、米国での気温がしばしば平年を上回って温暖であったこともあり、留出油とともに暖房用に利用されるプロパン/プロピレンの需要が前年同月比で減少したことが、同国石油需要の前年同月比での減少に影響している。また、1月のその他石油製品の需要が日量428万バレルと前年同月比で同56万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年12月~2019年11月の1年間(確定値)で日量351~422万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。他方、米国の原油生産量が概ね一定の範囲内で推移した一方で、春場のメンテナンス作業実施が開始されつつあるとともに、一部装置に不具合が発生したこともあり、製油所での原油精製処理活動が不活発となってきたことから、原油在庫は2020年1月上旬から2月上旬にかけ増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっている一方で、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過していることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~20年)

図9 米国原油在庫推移(2003~20年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~20年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~20年)

2020年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加したものの、年末に向けた原油在庫の積み上げが年を明けて一段落したことから、日本の原油在庫は減少した他、欧州においても、ガソリン輸出先である米国での当該製品在庫の積み上がりや欧州での暖冬による留出油需要抑制と在庫増加もあり当該地域の製油所でのガソリン及び軽油の精製利幅が低下してきたことにより原油精製処理量が減少したものの、併せて原油の調達も手控えられたと推測されることから、原油在庫は減少した。このため、米国での原油在庫増加を欧州及び日本での減少で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少したものの、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国ではガソリン及び留出油在庫が積み上がったこともあり石油製品全体の在庫も増加となった。また、米国でのガソリン在庫の積み上がりで欧州から米国への当該製品輸出が影響を受けた他、欧州での暖冬で暖房用留出油需要が抑制されたこともあり当該地域での石油製品在庫は増加した。また日本では、製油所が暖房用灯油生産に注力した結果、ガソリン等他の製品供給及び在庫が増加した一方で、暖冬により灯油の出荷が伸び悩んだこともあり当該製品在庫の減少ペースが比較的緩やかだったことから、同国の石油製品全体の在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上方に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2020年1月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.7日と2019年12月末の推定在庫日数(61.7日)と同水準となっている。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~20年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~20年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~20年)

1月15日に1,300万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、1月22日には1,300万バレル弱、1月29日は1,300万バレル強程度の水準と減少傾向を示したが、2月5日には1,300万バレル台半ば程度へと回復した。ただ、2月12日には1,300万バレル台前半程度の量に戻るなど、当該在庫はどちらかと言うと比較的限られた範囲で推移している。年末年始の自動車での移動シーズンが終了したことで、インドネシアでのガソリン需要が低下したと推察される一方で、中国において春場の製油所メンテナンス作業が実施されつつあることから、中国からシンガポールへのガソリンの輸出が低下したと見られることが、シンガポールでの軽質留分在庫量に影響したものと考えられる。そして、中国での新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴い同国等の経済成長の減速と石油需要の鈍化懸念が市場で強まったことから、原油価格の下げ足が速まる一方で、ガソリン価格が原油価格の下落に追い付かなかったことから、1月下旬には一時アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する場面が見られたが、その後ガソリン需要への影響に対する懸念も市場で強まるとともにガソリン価格にも下方圧力が加わったことから、2月初旬にはガソリンとドバイ原油の価格差は縮小した。それでも2月中旬に入る頃には、新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う中国等での石油需要の減退により中国国営石油会社等の製油所の稼働と石油製品生産水準が相当程度低下する(中国石油化工集団(Sinopec)は2019年の同社の原油精製処理量である日量500万バレルの約12%に当たる日量60万バレル程度の処理量を削減したうえ、中国山東省を中心に活動する独立系製油所も稼働率を30~50%低下させる結果精製能力の50%以下での操業となる旨2月3日に伝えられた他、中国石油天然気(PetroChina)も原油精製処理量を日量32万バレル削減する旨2月10日に明らかにしていることに加え、中国化工集団(ChemChina)も日量10万バレル原油精製処理量を削減等する旨2月13日に報じられる)ことや、ガソリン製造に伴う利幅が低迷していることから、韓国等のアジア諸国の一部で、ガソリン生産を絞り込む一方でより利幅を確保しやすい超低硫黄重油(VLSFO)の生産に傾注する動きが出ていることから、これら諸国からのガソリン輸出が減少するとの見方が市場で広がったこともあり、アジア市場でのガソリンと原油の価格差は多少持ち直している。

ナフサについては、中国での春節による休日に伴いプラスチック製造工場の稼働が低下することや、アジアの複数の国でナフサ分解装置がメンテナンス作業により操業を停止しつつあることにより、原料となるナフサの需要が低下するとの認識がアジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えたことから、1月下旬にはナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイのそれを下回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、サウジアラビアでSATORP(Saudi Aramco Total Refining and Petrochemical:Saudi Aramcoが62.5%出資、Totalが37.5%出資)が操業するジュベイル製油所(原油精製処理能力日量22.5万バレル)が1月13日から2月29日にかけメンテナンス作業を実施している他、UAEでアブダビ国営石油会社(ADNOC)が操業するルワイス(Ruwais)製油所(同84万バレル)も1月1日から2月20日にかけメンテナンス作業を実施している旨伝えられたことに加え、3月1日から4月14日にかけサウジアラビアのヤンブー(Yanbu)製油所(同24万バレル)もメンテナンス作業を実施するとされることから、当面中東からアジア方面へのナフサ供給が制限されるとの認識が市場で強まっていることに加え、アジアの他の諸国でも春場の製油所メンテナンス作業の実施によりナフサ供給が減少するのではないかとの見方が市場で発生したことが、中国での新型コロナウイルス肺炎の拡大によるプラスチック製造工場の稼働低迷とナフサ需要のもたつきへの懸念に対抗する格好となったこともあり、2月に入ってからはナフサとドバイ原油の価格差は多少なりとも縮小する傾向を示している。

1月15日には1,000万バレル強程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、1月22日には1,000万バレル台後半程度、1月29日には1,100万バレル台前半程度の量へと増加した。そして、2月5日には1,000万バレル台後半の量へ減少したが、2月12日には1,100万バレル台後半程度の水準へ増加しており、1月中旬から2月中旬にかけ当該在庫は増減しながらも増加傾向となっている。経済活動が減速しているインドからの軽油輸出が比較的堅調であることが、シンガポールでの中間留分在庫が増加傾向を示す背景にあるものと考えられる。そして、原油価格の下落にシンガポール市場での軽油価格のそれが追い付かなかった結果、1月下旬には軽油とドバイ原油価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する場面も見られたが、シンガポールでの中間留分在庫が増加傾向にあるうえ、2020年1月1日に国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制が強化(重量比で3.5%を0.5%へ)されたが、船舶部門では船舶用軽油(MGO: Marine Gasoil)よりも超低硫黄重油(VLSFO)のほうが割安であることもあり、船舶用軽油の需要が抑制された他、中国での新型コロナウイルス肺炎の拡大により同国での経済活動の減速に伴い物流部門等での軽油需要が鈍化しつつあるとの観測が市場で発生したことが、例えばシンガポール市場での軽油価格に下方圧力を加えたことから、1月末以降は軽油とドバイ原油価格差は縮小する傾向を示している。

1月15日には2,200万バレル台後半程度の量であったシンガポールの重油在庫(高硫黄のものが中心と見られる)は、1月22日も、ほぼ同水準となった。また、1月29日には2,300万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、2月5日には2,100万バレル台半ば程度の量へと減少している。ただ、2月12日には2,200万バレル強の水準へと回復した。中東地域での製油所のメンテナンス作業実施に伴い当該地域からシンガポールに向けた重油供給が低下していると見られる一方で、中国での春節の休日の接近及び突入、及び中国での新型コロナウイルス肺炎の拡大により、船舶向け重油需要が低迷したことが対抗する格好となったことから、シンガポールでの重油在庫は比較的限られた範囲内で推移した。また、新型コロナウイルス肺炎の拡大による中国等の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念から原油価格が下落する動きに重油価格のそれが追い付かなかったことから、例えば、シンガポールでの高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は1月下旬には一時縮小する場面が見られた。しかしながら、その後は重油についても、新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う船舶往来の不活発化による当該部門向け等需要の鈍化懸念や、新型コロナウイルス肺炎拡大の影響で中国の造船所等の稼働が低下したことにより、船舶への硫黄除去装置(スクラバー:Scrubber)の据え付け作業が遅延していることに伴う高硫黄重油需要の低迷観測が、市場で発生していることから、1月末以降は高硫黄重油とドバイ原油の価格差は拡大する傾向が認められる。


2. 2020年1月下旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況

2020年1月下旬から2月中旬にかけての原油市場では、中国での新型コロナウイルス肺炎感染者数と死者数の増加により、同国等の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で強まったことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、1月17日に1バレル当たり58.54ドルであった原油価格(WTI)は下落傾向となり、2月4日には同49.61ドルと終値ベースでは2019年1月7日以来の低水準に到達した。その後は、それまでの価格下落に対し原油を買い戻す動きが発生したうえ、OPEC及び一部非OPEC産油国(OPECプラス産油国)が原油価格の持ち直しを図るべく減産措置を強化する動きを見せたこと、新型肺炎に関する治療薬及びワクチンの開発が進展している旨の情報が流れたことが、中国等での新型肺炎感染者及び死者の増加による市場での石油需要の伸びの鈍化懸念等に対抗する格好となったこともあり、原油価格は2月上旬後半以降1バレル当たり50ドル弱~52ドル強の範囲で推移している(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~20年)

1月20日は、米国でのキング牧師誕生記念日による休日によりニューヨーク商業取引所(NYMEX)での原油先物取引の終値は計上されなかったが、この日国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)で、IMFが2020年の世界経済成長率見通しを3.3%と2019年10月15日に発表されたWEOにおける同年の見通しである同3.4%から下方修正したことで、この先の石油需要の伸びの鈍化可能性を市場が意識したことに加え、中国で新型コロナウイルス感染による新型肺炎発症の報告が相次いでいる他、1月21日には米国でも感染例が報告されたことで、世界経済への影響に対する懸念が市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日(1月21日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.20ドル下落し、終値は58.34ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2020年2月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2020年3月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり58.38ドル(前日終値比0.20ドルの下落)であった)。また、中国等で拡大しつつある新型肺炎により2020年の石油需要が日量26万バレル程度下振れするとともに原油価格が1バレル当たり約3ドル下落する可能性がある旨米国大手金融機関であるゴールドマン・サックスが明らかにしたと1月21日夜(米国東部時間)に報じられたことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことに加え、クウェートとサウジアラビアに跨る中立地帯陸上に位置するワフラ(Wafra)油田(2015年5月以降停止中(同年5月13日にクウェーのオメール(Omair)石油相(当時)が明らかに)、停止前の原油生産量日量20万バレル)の原油生産が2020年3月にも再開される見通しである旨クウェートのファディル(Fadhel)石油相が1月22日に明らかにしたことで、世界石油供給の余裕拡大の観測が市場で増大したことから、1月22日の原油価格の終値は1バレル当たり56.74ドルと前日終値比で1.60ドル下落した。1月23日も、新型肺炎が引き続き中国等で拡大しつつあることにより、石油需要の伸びが下振れするとの懸念が市場で増大した流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.15ドル下落し、終値は55.59ドルとなった。1月24日も、この日フランスでコロナウイルス感染者2名が確認された他、同日米国でも2人目の感染者が明らかになるなど、当該感染が拡大しつつある旨示されたことにより、世界経済成長及び石油需要の伸びへの影響に対する懸念が市場で一層強まったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり54.19ドルと前日終値比で1.40ドル下落した。この結果原油価格は1月21~24日の4日間で併せて1バレル当たり4.35ドルの下落となった。

1月27日には、この日時点で中国における新型肺炎の死者が81人へと増加したことにより、世界経済成長及び石油需要の伸びへの影響に対する懸念が市場で拡大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.14ドルと前週末終値比で1.05ドル下落した。ただ、1月28日には、これまでの下落に対し、値頃感から株式を買い戻す動きが発生したこともあり米国株式相場が上昇したことに加え、3月末まで実施予定であるとされるOPECプラス産油国による減産措置が少なくとも6月まで延長される可能性が高い他、必要であれば減産措置を一層強化する可能性がある旨OPEC関係筋が示唆したと1月28日に報じられたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.34ドル上昇し、終値は53.48ドルとなった。それでも、1月29日には、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(1月24日の週分)で原油在庫が前週比で355万バレルの増加と市場の事前予想(同48~140万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、同日世界保健機関(WHO)が、中国で感染者と死者が増加しつつある新型肺炎に関し国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に該当するかどうか判断するため1月30日に会合を開催する意向である旨発表したことにより、当該宣言の世界経済成長と石油需要の伸びへの影響に対する懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.33ドルと前日終値比で0.15ドル下落した。そしてWHOが1月30日に会合を開催し中国での新型肺炎に関し緊急事態を宣言するかどうか検討する旨1月29日に発表したことにより、当該宣言の世界経済成長と石油需要の伸びへの影響に対する懸念が発生した流れを1月30日の市場が引き継いだことで、この日の原油価格の終値も1バレル当たり52.14ドルと前日終値比で1.19ドル下落した。また、1月30日午後(米国東部時間)にWHOが新型肺炎に関し国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言したことにより、世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が強まった流れを1月31日の市場が引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.56ドルと前日終値比で0.58ドル下落した。この結果原油価格は1月29~31日の3日間で併せて1バレル当たり1.92ドルの下落となった。

さらに、中国の石油需要が日量300万バレル(同国の石油需要全体の20%程度に相当)減少している旨同国エネルギー関係筋が明らかにしたと2月2日夕方(米国東部時間)に報じられたことで、新型肺炎感染拡大に伴う石油需要への影響に対する懸念が市場で一層増大したことから、2月3日の原油価格の終値は1バレル当たり50.11ドルと前週末終値比で1.45ドル下落した。2月4日も、中国での新型肺炎拡大に伴う同国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念増大の流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.50ドル下落し、終値は49.61ドルとなった。この結果原油価格は2月3~4日の2日間で併せて1バレル当たり1.95ドル下落した他、2月4日の原油価格の終値は2019年1月7日(この時は同48.52ドル)以来の低水準なものとなった。ただ、2月5日には、中国浙江大学の李蘭娟教授が率いるチームが新型コロナウイルスを阻害できる薬品を発見した旨2月4日に中国の長江日報が報じた他、2月5日には英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのロビン・シャトック教授が新型コロナウイルスに対するワクチン開発に関し相当な進展があった旨明らかにしたと英国のスカイニュースが伝えたことにより、新型肺炎拡大による中国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退したことから、2月5日の原油価格の終値は1バレル当たり50.75ドルと前日終値比で1.14ドル上昇した。また、2月6日も、中国での新型肺炎に対する治療薬やワクチンの開発進展の情報による同国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退した流れを引き継いだうえ、2月14日午後1時1分を以て、中国が2019年9月1日に関税を賦課した米国製品1,717品目(約750億ドル相当)への税率を半減させる旨2月6日に中国財政省が発表したことで、米国及び中国等の経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことに加え、2月4~6日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)で、全ての関係国の同意が得られれば、即時日量60万バレルの追加減産を実施し、それを6月末まで継続する旨OPECプラス産油国による関係会合で進言する方針を固めたと2月6日に明らかになったことで、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日(2月6日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は50.95ドルとなった。この結果原油価格は2月5~6日の2日間で併せて1バレル当たり1.34ドル上昇した。しかしながら、2月6日に開催されたJTCで打ち出された減産措置強化方針に対し、ロシアが当該方針を検討するために時間的猶予が必要である旨主張したうえ、2月7日にはロシアのノバク エネルギー相が新型肺炎による2020年の世界石油需要の下振れは日量15~20万バレル程度と有意なものにはならないかもしれない旨明らかにしたことにより、OPECプラス産油国による減産措置強化方針の合意に対する悲観的な見方が市場で発生したことから、2月7日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.63ドル下落し、終値は50.32ドルとなった。

また、アゼルバイジャンのシャフバゾフ(Shahbazov)エネルギー相が、OPECプラス産油国会合の開催日程前倒しの可能性は低いが3月5~6日には当初予定通り会合が開催される旨示唆したと2月9日に報じられたことから、OPECプラス産油国による追加減産措置の決定に対する市場の期待が後退したことに加え、2月9日に、WHOのテドロス事務局長が、中国に渡航していない人に新型コロナウイルス肺炎が感染している例があるため感染は見かけ以上に広がっている可能性がある旨懸念を示したことにより、中国等の石油需要のさらなる下振れに対する市場の懸念が増大したことから、2月10日の原油価格の終値は1バレル当たり49.57ドルと前週末終値比で0.75ドル下落した。ただ、中国で新型コロナウイルス肺炎に対応する専門家集団の最高責任者である鐘南山氏が、当該肺炎は2月に峠を越え、4月頃に終息する可能性があると予想する旨発言したと2月11日に報じられたことで、当該肺炎の中国等の経済成長と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.37ドル上昇し、終値は49.94ドルとなった。2月12日も、同日午前0時までの1日間で新たに2,015人が新型コロナウイルス肺炎に感染した旨中国政府が2月12日に発表したが、これが1月31日午前0時までの1日間以来の低水準である旨判明したことで、当該肺炎拡大が峠を越えることに伴う中国等の経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で発生したことに加え、2月11日夜遅く(現地時間)に米国ルイジアナ州にあるエクソンモービルのバトンルージュ製油所(原油精製処理能力日量50.3万バレル)の常圧蒸留装置に天然ガスを供給するパイプラインで火災が発生したことにより同製油所の操業が停止したことで、当該製油所からのガソリン供給に対する市場の懸念が増大したこともあり、米国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.69ドルと、前日終値比で1.75ドル上昇した。また、2月13日も、新型コロナウイルス肺炎の死者が前日1日間で254人、感染者が同15,152人増加した旨中国政府がこの日明らかにしたものの、WHOが同日感染者数増加は集計方法を変更したことに伴うもので、突然感染者が急増したことを意味するわけではない旨示唆する中、これまでの原油相場下落に対する買い戻しの動きが市場で続いたこともあり、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.25ドル上昇し、終値は51.42ドルとなった。2月14日も、中国の独立系石油会社が価格の低下した原油の購入を進めている旨同日報じられたことで、中国での石油需要減退に対する市場の悲観的な見方が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.05ドルと前日終値比で0.63ドル上昇した。この結果原油価格は2月11~14日の4日間で併せて1バレル当たり2.48ドル上昇した。


3. 原油市場における注目点等

2020年1月3日のイラクでの米軍によるイランのソレイマニ司令官殺害と1月8日のイラク駐留米軍へのイランの報復攻撃の実施後、両国がさらなる軍事行動の実施につき踏みとどまったことから、市場では、米国とイランとの事実上の戦争状態への突入と中東地域情勢の極度の不安定化、そしてホルムズ海峡を含む当該地域からの石油供給途絶の可能性に対する懸念は沈静化した格好となっている。このため、両国が先行き不透明な軍事行動の応酬の激化に陥る可能性は低い旨市場が認識していると見られることから、この面では、余程緊迫した展開が両国間で発生しなければ、原油相場の持続的かつ大幅な上昇局面が見られる可能性は低い。

しかしながら、中東諸国では依然として散発的な攻撃が見られる。1月18日にはイエメン西部のマーリブ(Marib)にあるハディ暫定大統領派勢力(サウジアラビアを含む有志国連合が支援している)の軍事基地(訓練施設)に対し空爆が行われた(イランが支援しているとされるフーシ派武装勢力によるものと見る向きもある)結果、少なくとも軍事関係者73名が死亡したと1月19日に報じられる。また、1月29日に、フーシ派武装勢力は、サウジアラビア南西部のジーザーン(Jazan)にある空港及びサウジアラムコの石油関連施設、同国南西部アブハ(Abha)の空港、ハーミス・ムシャイト(Khamis Mushait)軍事基地等をミサイル及び無人機等で攻撃した旨の声明を発表した(但しいつ攻撃したかについては明らかにしていない)が、当該攻撃は全て着弾する前に迎撃された旨サウジアラビア関係者が明らかにしたと1月29日に伝えられる。さらに、1月26日夜(現地時間)には、イラクの首都バグダッドの米国大使館付近にロケット弾5発が飛来したこと(犯行声明は未発表)により3人が負傷したと同日報じられる。2月13日には、イラク北部のキルクーク郊外にある米軍駐留のイラク軍基地に対しミサイル攻撃が行われ(死傷者はおらず犯行声明も未発表となっている)、2月16日未明(現地時間)にもバクダッドの米国大使館付近に数発のロケット弾が着弾した旨伝えられる(死傷者は報告されておらず、犯行声明も未発表)。

他方、1月18日に米国国務省は、2019年11月にイラン南西部のフゼスタン州でデモを実施したデモ隊に対し発砲等により危害を加えた(148名が死亡した)として、イラン革命防衛隊の幹部に対し1月17日より米国への入国禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。また、米国はイラン産原油輸出に関与したとして中国、香港、UAEを拠点とする企業6社と関係する個人2名に対し、米国での資産凍結と米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨1月23日にムニューシン財務長官が発表した。さらに、1月30日に米国財務省は、イランのサレヒ原子力庁長官に対し、米国内での資産凍結や米国人との取引禁止を内容とした制裁を発動する発表した。そして、イラン核合意に関しイギリス、フランス及びドイツが紛争解決手続きの実施を宣言したことに対し、1月19日には、イランのラリジャニ国会議長が、国際原子力機関(IAEA)によるイラン核関連施設への査察を見直すこともありうる旨示唆した他、1月20日に、イランのザリフ外相も、紛争解決手続きにおいて、関係国による外相級交渉で合意せず、国連安全保障理事会に通知された場合には、核拡散防止条約(NPT)から脱退することにより、IAEAによる査察義務を回避する旨示唆した。ただ、1月24日には、欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相に相当)が、イラン核合意に関する紛争解決手続き(手続きを発動する意向であることは1月14日に発表していたが、実際いつ発動したかについては明らかにされていない)の期間を15日間延長する旨明らかにした(解決すべき問題の複雑さによるものと同氏は説明している)。そして、2月7日にボレル氏は米国のポンペオ国務長官と会談したが、その場でボレル氏はイランとの核合意を維持すべく努力していく方針である他、イランが核合意を完全に遵守することに期待している旨表明したと2月9日に欧州対外活動庁(EU外務省)が明らかにした。

今後も、上述のように中東諸国における軍事基地や石油産業関連施設等に対する攻撃が行われたり、米国によるさらなる対イラン制裁の実施やイランの挑発的施設の表明等が行われたり等することにより、原油価格が反応する場面が見られる可能性は残っている。また、2月21日にはイラン議会選挙が実施される予定であり、ここで保守強硬派が伸長している旨判明すれば、米国とイランとの対立がさらに先鋭化するとの市場の観測が強まる結果、原油相場に上方圧力を加えるといった展開が否定できない。

他方、1月19日にはドイツのベルリンでリビアに関する会議が開催され、西部のトリポリを拠点とする統合政府(国連、トルコ等が支援、指導者はシラージュ首相)と東部のトブルクを拠点とする暫定議会を支援するリビア国民軍(LNA: Libyan National Army)(エジプト、UAE、サウジアラビア等が支援)を指揮するハフタル将軍との間での暫定停戦(1月12日午前0時より発効中)を恒久化することを含め同国和平につき協議された(参加者は、ドイツ、アルジェリア、中国、エジプト、フランス、イタリア、ロシア、トルコ、コンゴ共和国、UAE、イギリス、米国、国連、EU、及びアラブ連盟)。但しシラージュ首相とハフタル将軍との間では直接的な協議は行われなかった。会議では、共同声明が採択され、停戦を恒久化されるためのリビアの当事者による努力、外国勢力による直接的もしくは間接的な軍事的支援の停止、及び武器禁輸を目的とした国連決議の遵守徹底をリビアの全ての関係者に求めるとともに、リビア国営石油会社NOCが同国唯一の独立した正当な石油会社である旨強調した。また、和平につきさらに協議するための委員会を設置し、統合政府及びLNAから5名ずつ委員を派遣することも決定した。しかしながら、LNAによる施設封鎖(1月18日LNA発表)により1月18日に同国東部の主要石油ターミナルが原油出荷につき不可抗力条項の適用を宣言した他、1月19日には西部のシャララ(Sharara)油田(停止前の原油生産量日量30万バレル程度)及びエル・フィール(El Feel)油田(同7万バレル程度)につきLNAが石油ターミナルへと原油を輸送するパイプラインの操業を停止させたことから、同国の原油生産量は減少し始め、2月6日までに生産量は日量18万バレルと大半の油田での生産が停止した(因みに2019年の同国原油生産量は同120万バレル程度であった)旨NOCが2月7日に発表した他、その後生産量は日量16万バレル程度にまで減少したと2月13日にNOCが明らかにしている。また、LNAは支配権を掌握している中部の都市シルト(Sirte)(トリポリの東方約370キロメートル)からさらに西にある都市ミスラタ(Misrata)(トリポリの東方約210キロメートルにある統合政府の支配する都市)に向け進軍しており、ミスラタの東方120キロメートルに位置するアブグレイン(Abgrein)でLNAとミスラタの軍が戦闘している他、トリポリ東部にあり、統合政府を支援するトルコの軍事拠点の一つとなっているミティガ(Mitiga)国際空港にロケット弾2発が着弾した結果、市民2名が負傷した旨1月26日に報じられるなど、1月12日に発効した暫定的な停戦合意が崩壊の危機に晒される兆候が見られる。他方、2月3~8日(当初は2月6日までとされた)には、国連主導によるリビア和平のための委員会の初めての会合がジュネーブで実施された(国連のサラメ(Salame)リビア担当事務総長特別代表はLNAに対し石油ターミナルの操業再開のための具体的条件を提示するよう2月6日に要求した)が、1月12日に発効した休戦につき両者ともそれを恒久化する必要性については認識しているとされるものの、事実上結論は出なかった(2月18日に再協議する旨決定したと2月8日に声明が発表されている)。このように、リビア和平については、国内の政治勢力間による対立のみならず、その背後にトルコ、カタール、エジプト、UEA、及びサウジアラビア等諸外国の利害が絡んでいることから、紛争の解決は容易ではなく、リビアの日量100万バレル程度の原油供給の低下が継続するようであれば、その分だけ世界石油需給に引き締まり感が発生する結果、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性があるので注意が必要であろう。

米国と中国との貿易紛争については、1月15日に第一段階の合意に関する文書が署名された。続いて2月14日午後1時1分を以て、中国が2019年9月1日に賦課した1,717品目(約750億ドル相当)の米国製品への関税を半減させる旨2月6日に同国財政省が発表した。但し、例えば米国産大豆に対する関税は既に2018年7月8日に25%の税率が適用されており、今回の関税引き下げで2019年9月1日に追加された税率5%は2.5%へと半減したものの、依然27.5%の関税が賦課されていることから、今回の税率半減措置の効果は限定的であると見る向きもある。また、今回の文書署名を以て米国と中国の貿易紛争は全て解決したわけではなく、少なくとも第二段階の合意が必要であるとされる。第一段階の合意は両国間で比較的合意が容易な部分で合意に至っているとの指摘もあり、第二段階以降の合意に関しては、解決への難易度がより高まることにより、当該合意のための交渉が紆余曲折を経る(既に米国のトランプ大統領は第二段階の合意には時間を要するかもしれない旨1月9日に明らかにしている)ことにより、賦課されたままとなっている関税が米国や中国等の経済成長にとって負担となり続けるとともに、石油需要の伸びに負の影響を与える可能性がある他、第二段階の合意に向けた交渉の過程では再び追加関税の賦課や関税率の引き上げ等を米国が交渉材料として持ち出すといったことも予想される(2019年12月13日にトランプ大統領はその旨示唆した)ことから、この面ではこの先米国や中国等の将来的な経済成長と石油需要の伸びに対する不安感が市場で払拭されない結果、原油相場に下方圧力が加わるといった展開も想定される。そのような中、中国での新型コロナウイル肺炎の拡大により、中国の一部都市に封鎖措置が施されるとともに、人や物の往来を含め経済活動が制約を受けることにより、石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で発生しやすくなっており、今後も、中国の新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースが鈍化する兆候が見られないようであれば、中国等の経済成長抑制とともに石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が市場で払拭できない結果、原油相場に下方圧力を加えるものと考えられる。ただ、中国の新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースが鈍化する兆候が見られれば、中国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の悲観的な見方が後退することにより原油相場に上方圧力が加わる場面が見られるといった展開もありうる。

米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお今暫く継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ものの、製油所の段階では暖房用石油製品の生産は峠と越え始めつつあることもあり、メンテナンス作業の実施等により製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理量も減少しつつあることから、製油所等の原油購入が不活発になるとともに季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることにより原油相場の上昇を抑制する格好となっており、この状態は当面続くものと見られる。ただ、前述の通り冬場の暖房用石油需要期は最終消費段階では当面続くことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油需要の増加観測と需給逼迫感が市場で意識される結果、暖房油とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、早ければ3月初頭以降、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来と製油所の稼働の上昇及び原油購入の活発化が市場で意識されるとともに、ガソリン及び原油価格に上方圧力が加わるといった展開が見られる可能性も否定できない。また、そのような中で、米国の石油坑井掘削装置稼働数の増減や米国原油生産状況及びその見通し、そして石油在庫等が原油相場に影響を及ぼしうるものと考えられる。

OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、3月5日にOPEC総会(臨時総会)、3月6日にOPECプラス産油国閣僚級会合を開催する予定である。中国での新型コロナウイルス肺炎の拡大による世界石油需要の下振れと石油需給の緩和感の市場での強まり、そして原油価格の下落により、当初の会合開催日程を2月14~15日に前倒しして日量50万バレル程度追加減産を実施する旨検討していると2月3日に伝えられた(2019年12月11日に実施したサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの株式公開もあり、サウジアラビアは原油価格の下落で同社の資産価値の減少と株式価格の下落に伴い同社株式の相当部分を購入した同国投資家が損失を被る可能性に対し神経質になっているものと見られる)。他方、2月4~5日に開催されたOPECプラス産油国によるJTCは、2月6日へと協議を1日延長したうえ、関係産油国全てが同意するのであれば日量60万バレルの追加減産措置を即時実施し6月末まで継続する旨OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合に進言することで合意した。しかしながら、JTCにおいてロシアは当該追加減産措置実施が妥当であるか判断するために時間的猶予が必要である旨表明、態度を保留した(当初サウジアラビア側は日量80~100万バレルの規模の追加減産措置を希望したが、ロシアが拒否したため、日量60万バレルへと追加減産規模を縮小し妥協を図ろうとしたものの、新型コロナウイルス肺炎の世界石油需要への影響を判断するには時期尚早であるとしてロシア側の姿勢は軟化しなかった旨2月6日に伝えられる)。そして2月7日にはロシアのノバク エネルギー相は、中国の新型コロナウイルス肺炎の2020年の世界石油需要への影響は日量15~20万バレルと有意な規模ではなく、従って追加減産措置を実施するに及ばない旨明らかした他、2月13日現在においてもロシア大統領府は依然として減産措置に対する判断を行っていない旨明らかにするなどしており、OPECプラス産油国間での意思統一が得られない状況であった。このため、2月14~15日へのOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚監視委員会の前倒しは行われなかった。もっとも、OPECプラス産油国の石油関係相間での協議において、膠着している追加減産措置につき、今後サウジアラビアがロシアに対しさらに高度な次元、つまりサルマン国王及びムハンマド皇太子とプーチン大統領との間での交渉に移ることで、最終的には、多少の妥協はあったとしても、追加減産で合意に至る可能性があることから、このような期待が市場で醸成されることを通じ原油相場をある程度は下支えすると見られる他、実際にOPECプラス産油国会合で世界石油需給引き締まり感を市場で醸成するのに十分な程度に追加減産措置が決定されれば、原油相場に上方圧力を加える可能性もある。それでも、それまでの交渉が紆余曲折を経るようだと、原油相場が上下に変動する場面が見られることもありうる。

全体としては、今後少なくとも短期的には、冬場後半の季節的な石油需給の緩和感継続に加え、中国等での新型コロナウイルス肺炎の拡大ペース減速の兆候が見られず、OPECプラス産油国による追加減産措置合意に向けた交渉も難航するようであれば、世界経済成長及び石油需要の鈍化観測等から、原油相場に下方圧力が加わるものと考えられる。ただ、OPECプラス会合で世界石油需給引き締まり感を市場で醸成するのに十分な程度に追加減産措置を決定したり、中国の新型肺炎の拡大ペースが鈍化する兆候が見られたりすれば、原油相場が持ち直す可能性もある。また、3月に入ると夏場のガソリン需要期到来による石油需給引き締まり観測が市場で発生することで、相対的に原油価格に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。さらに、イラン及びリビア等の地政学的リスク要因や米国石油坑井掘削装置稼働数等でも原油相場が変動することもありうる。


4. 世界天然ガス市場動向

米国では2019~20年の冬場は軒並み気温が平年を上回っていた(図16参照)ことから、暖房用の天然ガス需要が喚起されなかったこともあり、民生部門での天然ガス需要は前年同月比で減少、特に米国の気温が平年を上回る度合いが顕著であった2020年1月については前年同月比で13%弱の相当程度の減少を示した。ただ、新規の天然ガス火力発電所が稼働を開始しつつある一方、老朽化した石炭火力発電所の稼働が停止しつつあることに加え、2019~20年は天然ガス価格が前年同期比で安価になっていることから、石炭火力発電に比べ天然ガス火力発電の競争力が相対的に強まっていることもあり、天然ガス火力発電の稼働が上昇する(図17参照)とともに発電部門での天然ガス消費量が前年に比べ相当程度増加している(例えば2019年12月の当該部門での天然ガス消費量は前年同月比で20%の増加となっていた)。また、産業部門での天然ガス需要については、同国の鉱工業生産の伸びが鈍化しつつあったことが、同部門での天然ガス需要に負の影響を与えているものと見られるが、天然ガス価格の低下により化学工業を中心として製造業における経済性改善もあり天然ガス消費が促進されていると考えられ、その結果、産業部門での天然ガス需要は前年比でそれなりに増加している。結果として、米国の天然ガス需要は月によって前年同月比での増減はあるものの、基本的な傾向としては不振な民生部門での需要を発電及び産業部門での需要である程度相殺する格好となっていた(図18参照)。

図16 米国(ニューヨーク)気温(2019~20年)

図17 米国の発電量に占める石炭と天然ガスの占有率(2011~20年)

図18 米国天然ガス消費増加量(2015~20年、前年同月比)

また、メキシコの天然ガス需要は必ずしも増加しているとは見受けられないものの、国内生産も伸び悩み気味となっているものと推察されることから、メキシコの天然ガス輸入は安定的に推移していると見られるものの、米国のメキシコに対する輸出天然ガス価格はパイプライン経由のもののほうがLNGによるものより安価であり、それはメキシコにとっても米国からのパイプライン天然ガスのほうがLNGによる天然ガスよりも概して安価であることになるため、最近では、メキシコのLNG輸入が減少傾向となっている反面、米国からメキシコへのパイプラインを利用した天然ガス輸出は堅調に行われている(図19参照)。また、米国では、2019年は複数の天然ガス液化施設が商業的稼働を開始したことから、同国からのLNG輸出は増加傾向となっていたが、さらに、12月9日にテキサス州フリーポート(Freeport)LNG第一液化施設(LNG生産能力推定年産510万トン)が商業的生産を開始した旨発表された。このようなことから、同国からのLNG輸出は一層拡大している(図20参照)。

米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~19年)

図20 米国からのLNG輸出量及び主な輸出先(2016~20年)

他方、2019年1月下旬以降米国の天然ガス価格が100万Btu当たり3ドルを下回ったままとなるなど概して低水準となったことで同国での天然ガス坑井掘削装置稼働数が減少しつつあることもあり、坑井掘削効率の改善、開発・生産コストの低減、及びシェールオイル生産に随伴して生産される天然ガスが寄与した結果、米国の天然ガス生産規模は当初見込みを上回っているものの、11月以降米国の天然ガス生産量は頭打ちの兆候が見られる(図21参照)。

図21 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~20年)(EIA発表時期別)

そして、米国では需要が下支えされる一方で輸出も比較的堅調である一方で、生産に頭打ちの様相を呈しているものの、全体として供給が需要を超過していることもあり、同国の天然ガス需給には余剰感が大きくなっている。天然ガス地下貯蔵量は2019年3月22日時点では平年(過去5年平均値)を33%割り込んでいたものの、その後割り込む度合いを縮小したうえ、2020年1月3日以降は継続的に平年を上回る状態を維持している他、その度合いも拡大2月7日時点では平年を9.4%超過する状態となど、米国での天然ガス需給は緩和感が強まりつつある(図22参照)。そしてそのような天然ガス需給緩和感の強まりが足元の価格にも下方圧力を加えた結果、冬場の始まりである11月初旬には100万Btu当たり2.8ドルに到達していた天然ガス価格(それでも2018年同時期の同3ドル台前半に比べれば低水準であった)は、その後下落傾向となり、2020年1月21日には同2ドルを割り込むとともに、2月10日には同1.766ドルと終値ベースでは2016年3月9日(この時は同1.752ドル)以来の低水準に到達した他、2月中旬には同1.7ドル台後半から1.8ドル台前半を中心とする領域で推移している(因みに2019年2月中旬は概ね2ドル台後半を中心とする領域であった)(図23参照)。

図22 米国天然ガス貯蔵量(2017~20年)

図23 天然ガス先物価格の推移(2007~19年)

英国では、冬場の気温が多くの期間で平年を上回っていた(図24参照)ことが暖房用天然ガス需要に影響したことに加え、風力発電も比較的堅調であった(図25参照)こともあり発電用天然ガス需要が抑制された。他方、ロシア、ノルウェー及び英国の天然ガス供給には大きな供給途絶は見られず、また、米国での天然ガス液化施設の操業開始等によりLNG供給が増加しつつある一方で、米国と中国の貿易紛争等に伴う中国でのLNG需要の減速の影響で、欧州方面にLNGが向かっているものと見られ、欧州のLNG輸入も高水準を維持している(図26参照)。このようなことから、冬場の天然ガス需要期を迎え、欧州では天然ガス在庫の取り崩し時期に突入したものの、在庫減少ペースは緩やかであったとされる前年からさらに緩やかなものとなっている(図27参照)他、2019年末で失効することになっていたロシアからウクライナ経由の欧州向け天然ガス輸送契約につき、少なくとももう5年間はウクライナ経由での天然ガス輸送を継続するなどの条件で合意する(12月21日発表)など、2020年1月1日以降のロシアからウクライナ経由での欧州向け天然ガス供給に関する懸念が市場で低下したこともあり、冬場としては天然ガス需給の緩和感が市場で感じられるようになっている。加えて中国での新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う同国等での経済活動と天然ガス需要の鈍化により余剰となったLNGが欧州に流入するとの観測が市場で発生した。このため、冬場の暖房用天然ガス需要期の開始時点である11月初頭には100万Btu当たり推定で5ドル台半ば程度の水準であった英国天然ガス価格はその後下落傾向となり2020年2月3日には同3ドルを割り込だものと見られ、2月11日には同2.7ドル弱と、2003年8月28日(この時は同2.1ドル強)以来の低水準に到達している。

図16 英国(ロンドン)気温の推移(2019~20年)

図25 英国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2011~20年)

図26 欧州のLNG輸入(2006~20年)

図27 欧州天然ガス在庫(2018~20年)

北東アジア市場では、日本、中国、韓国等において冬場の気温が平年を上回る場面がしばしば見られた(図28参照)ことが、これら諸国の暖房用天然ガス需要を抑制したうえ、米国と中国の貿易紛争に伴う関税賦課合戦、そして2020年1月下旬以降は春節に伴う休日に加え新型コロナウイルスによる新型肺炎感染拡大により中国の企業活動が制約されたことが同国の産業用天然ガス需要に影響を及ぼした一方で、2019年12月2日にロシアから中国に向かう「シベリアの力(Power of Siberia)」パイプラインが稼働を開始された(第一段階として年間50億立方メートル(日量5億立方フィート)の天然ガスを供給)ことから、特に中国の天然ガス在庫が高水準となったこともあり、2月6日には同国でLNGを引き取る主要な企業の1社である中国海洋石油集団(CNOOC)は長期契約を締結しLNGを購入する相手先であるShellやTotalに対しLNG引き取りに関し不可抗力条項の適用を宣言したと伝えられる(同日Totalは当該条項の適用を拒否した旨明らかにしている他、Shellも当該条項の適用を拒否した旨2月7日に報じられる)ことに加え、他の主要LNG購入企業であるPetroChina及びSinopecもLNG引き取りに関し不可抗力条項の適用を宣言することを検討していると2月4日に伝えられる。またアジアのLNG輸入国の中では、例えばインドはスポットLNG価格の下落により当該LNGの購入に動きているとされるが、多くの輸入国はLNGの長期売買契約を締結していることもあり、スポットLNG価格が下落しても購入を拡大するには限界があった。このようなことから、スポットLNGに対する需要が低迷しままとなったこともあり、例えば、1月13日午前1時59分(現地時間)にサバ・サラワクガスパイプライン(SSGP:Sabah-Sarawak Gas Pipeline)(天然ガス輸送能力日量6億立方フィート)で火災が発生し操業が停止したと見られることにより、マレーシアLNGからのLNG供給に支障が発生、操業者であるPetronasはLNG購入者に対し供給遅延を要請している他、PetronasがLNG購入を行っているものと伝えられる他、豪州のプレリュード(Prelude)浮遊式天然ガス液化施設(液化能力年間360万トン)で電力供給体制の不具合により操業を停止(従業員は避難)した旨2月4日に報じられる(操業再開時期については明らかになっていない)にもかかわらず、スポットLNG価格は下落傾向となり、2019年11月半ば時点での100万Btu当たり5ドル台半ばが2020年2月中旬には同2ドル台後半と低迷する展開となっている。

図16 日本(東京)気温(2019~20年)

以上

(この報告は2020年2月17日時点のものです)

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