ページ番号1008706 更新日 令和2年3月2日
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概要
- これまで米国による対露制裁では、解釈の拡大、実際の抵触事例及び解除事例等を通して、外国企業の対露ビジネスで留意すべき、以下8つの事象が観測されており[1]、詳細を振り返る。
(1) ガスプロジェクトにも制裁が拡大
2015年8月:南キリンスキー・ガス鉱床を相当量のコンデンセート生産が見込めることを理由に、「将来的石油生産ポテンシャル」を有するとして制裁対象に指定。
(2) 最初の制裁抵触事例
2017年7月:SDN(特定国籍指定者)に指定されていたRosneftセーチン社長とExxonMobilが交わした8つの文書に対するExxonMobilへの罰金(2百万ドル)。
(3) 最初の制裁解除事例
2019年1月:2018年4月に突如SDNに指定された結果、アルミ市場に影響を与えた世界第2位のアルミ生産企業を含むデリパスカ傘下3企業のSDN対象解除。
(4) 金融制裁における融資(Providing Financing)の定義が拡張
2019年4月:米国ソフトウェア企業Haverly SystemsによるRosneftに対する売掛金回収遅延を資金提供と判断し、罰金(約7.5万ドル)を課した事例。
(5) 対イラン制裁からの跳弾
2019年9月:イラン制裁によってSDN指定された中国遠洋海運(COSCO)の子会社2社が関与するヤマルLNG向け砕氷LNGタンカー傭船が一時停止。その後、2020年1月、内1社については制裁を解除。
(6) 輸出管理規制で初の逮捕者
2019年12月:米国司法省が北極海鉱床開発向けのガスタービン輸出を偽装したとしてロシア人、イタリア人及び米国人を逮捕。
(7) 国防授権法への抱き合わせによる新たな制裁法案の議会通過と制裁発動
2019年12月:翌年の軍事予算措置のために不可欠で、年内に成立する慣わしの国防授権法に米国の国防という文脈では読み込めないと思われた「独露間ガスパイプライン」を抱き合わせて通過。今後同じ方法で毎年末新たな制裁が盛り込まれる可能性を示唆。
(8) OFACの対露制裁を巡る最初の法的敗北
2019年12月:上記(2)を受けて、ExxonMobilがOFACに対して制裁課金を無効とするようテキサス州北部地区連邦地方裁判所に訴えを起こし、係争中だった事案について、同地裁がExxonMobilの訴えを認め、OFACによる制裁課金は無効であるとの判決を下す。
[1] 第一から第四の事例までは以下の拙稿も併せて参照されたい。
「ロシア:欧米による対露制裁を巡る動き(注目される三つの事象とウクライナ大統領選が持つ意味)」(2019年2月26日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/733/190225_Russia_US_EUSanctions_r2.pdf
「ロシア・CIS諸国:石油ガス産業を巡る最近のトピックス(3月~8月)」(2019年8月21日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/840/1908_j_ru_recenttopics_r.pdf
1. 欧米による対露制裁/これまでの経緯
2014年2月のウクライナ騒乱、3月のロシアによるクリミア併合を受け、その解消とウクライナ東部の紛争鎮静化を目指し、欧米はロシアに制裁を課し、この3月6日で丸6年が経過しようとしている。当初は、個人・企業に対する入国制限、資産凍結に限られていたが、7月に発生したウクライナ上空でのマレーシア航空機撃墜事件を受け、ロシアの経済活動の根幹である石油産業をターゲットとした制裁に先鋭化した。具体的には「将来的石油生産ポテンシャルのある」分野、すなわち大水深(500フィート(米)/152m(EU)以深)、北極海(米)・北極圏(EU)[2]、そしてシェール層開発に必要な資機材について7月から実質的禁輸措置が実施された。減退する可能性の高いロシアの原油埋蔵量に対してロシアが期待を寄せているのが現在の主力生産地域と分布が重なるバジェノフ層におけるシェール開発や大きな資源ポテンシャルを有する北極海であり、欧米制裁は外資の技術なくしては開発が進まないエリアを狙うことを目的としたものである。また、将来的な「石油」ポテンシャルをターゲットとし、天然ガスを対象外とした背景には、実際の原油・天然ガスの禁輸措置を行う場合にはその受益者となる欧州諸国が損害を蒙ることに対する配慮があったと考えられている。
同年9月には、さらに踏み込んだ制裁として資機材の禁輸を役務(サービス)にまで拡大した。この欧米によるロシアへの更なる圧力のトリガーとなった出来事として、RosneftとExxonMobilが2011年に合意した戦略的協力協定に基づき、8月からカラ海で掘削を開始すると発表をしたことが挙げられる。欧米としては制裁の抜け道(バックフィル)を許さないことを示すために制裁に役務を含めることでExxonMobilを同プロジェクトから撤退させることを目的としたものだった。実際、制裁発動(9月12日)から2週間の猶予が与えられ、ExxonMobilは撤退を余儀なくされたが、同プロジェクトでは猶予期間内で掘削を完了するべく作業が続けられた。
[2] 米国制裁ではArctic offshore、欧州制裁ではArcticと記載。なお、これまでの事例から欧州も陸上を含む北極圏を対象にしているのではなく、北極海を対象としていることが判明している。
結果、Rosneftは2週間の猶予期間が終わるや否やセーチン社長による単独会見を開催し、大規模油ガス田の発見を発表し、奇しくも制裁発動後に北極海の有望なポテンシャルが判明することとなった[3]。
その後、米国とEUの制裁の足並みが乱れる。ロシアに圧力をかけ、クリミア併合の解消を目指すのが制裁の目的だが、特に全会一致で更なる制裁(もしくは解除)を決定するEUは、実効性が見えず、対露制裁によるビジネス界の反発もあり、更なる制裁の追加に消極的となっている。それは2014年の12月に米国が「ウクライナ自由支援法」を制定し(大統領署名後、未発動の状態が続いていたが、後述の新制裁法「CAATSA」で一部発動された)、外国企業をも米国制裁の対象とすることができるようになったのと対照的に、EUは既存制裁の対象個人・企業の拡大に留めたことに現れている。その後、2015年2月にドイツ、フランス、ロシア、ウクライナ4者が見守る中、「ミンスク合意Ⅱ」が結ばれるも、結果が出ないまま現在に至っているが、米国はその間もRosneft(2015年7月)、Gazprom(2016年9月)、NOVATEK(2016年12月)、Transneft(2017年6月)、そして、Surgutneftegaz(2018年1月)と、制裁対象企業の子会社をも特定する形で制裁を強化してきた。50%以上の株式を保有する子会社は実質グループ企業と見做されるという定義があるにもかかわらず、さらに子会社を特定した背景には制裁がクリミア併合解消やウクライナ東部地域鎮静化のためのロシア締め付けと譲歩引き出しという実質的成果を出さないまま、打つ手が限られていることを露呈する一方、制裁対象企業とはならない子会社を特定するという意味合いもあったとも推察される。例えば、2015年11月にBPが20%、インド企業連合が29.9%買収したRosneftの子会社であるTaas Yuryakh NeftegazodobychaはRosneftの子会社リストには入っていない。また、2016年12月のNOVATEKの制裁対象子会社指定では、ヤマルLNGプロジェクトの操業会社はリストに入らなかった例が挙げられる。
その後、米国はオバマ政権からトランプ政権に移行し、議会の反トランプ派によるロシアゲート問題(2016年の大統領選を巡ってトランプ大統領とその側近がロシアと共謀していたという可能性)への注目によってロシアと距離を置く姿勢を示す必要に迫られたトランプ大統領と議会の反露強硬派・超党派議員による追加制裁への拍車を受けて、2017年8月にさらに踏み込んだ制裁法「制裁による米国敵性国家対抗法」(H.R.3364/Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act/CAATSA)を施行し、これまで米国人だけに適用されてきた分野別制裁(大水深、北極海、シェール層開発の禁止)が外国人に対しても対象となった(二次制裁の発動)。さらに、任意制裁ながら、Rosneftのような国営企業が保有する鉱区への参画に際して外資に必要とされる同国営企業の子会社(鉱区ライセンスホルダー)への出資が国営企業の民営化促進とその対価が政府幹部を利すると見做される場合や、ロシアからのエネルギー輸出パイプラインへの資金・技術供与に対して制裁を課す新たな内容も含まれた。
そして、2019年終盤になり米国は新たな制裁を発動した。12月20日にトランプ大統領が署名した2020年国防授権法に盛り込まれたロシア~ドイツ間ガスパイプラインであるNord Stream 2及びロシア~トルコ間ガスパイプラインであるTurk Streamに対する新たな制裁である(海洋パイプ敷設会社を対象とするもの)。国防授権法は、次年度軍事予算措置のために不可欠で、必ず年内に成立する性格の法律であり、独露間のパイプラインという米国の国防という文脈では読み込めないものを抱き合わせて通過させた変化球である。今後同じ方法で毎年末新たな制裁が盛り込まれる可能性も示唆するもので、同法発効により、94%完成していたNord Stream 2は建設中断を余儀なくされており、今後当事者である独米間の交渉とロシア独自で残る区間の建設を行うことができるのかに注目が集まっている。
米国制裁は留まるところを知らず、今年に入ってからも次々と追加制裁(SDN対象者拡大)を打ち出している。まず1月29日付で米国財務省OFACは、ロシアが編入したクリミア共和国の政府関係者7名、同共和国の鉄道運営企業1社、同社社長1名について、SDN対象者の追加発表を行った(欧州及びカナダ両政府と共同で実施。また、ロシア人だけでなく、ロシアに与したクリミア出身のウクライナ人も対象となる点が注目される)[4]。また、2月18日には、「腐敗したマドゥーロ政権による同国の石油資産の収奪を食い止めるために」(ムニューシン財務長官)ベネズエラ産原油の輸出取引に関与しているRosneftの子会社であるRosneft Trading SA及びその代表のディディエル・カシミーロRosneft副社長をSDNに指定すると発表している[5]。
他方、EUは、前述の通り、制裁解除・強化には全会一致が必要であり、反露派(東欧を中心)と親露派がまとまらず、制裁の成果(ミンスク合意Ⅱの履行)が見えない現状では、既存制裁を延長するしかない状況が、2014年以降続いている。米国と比較すると、2014年にExxonMobilがカラ海から撤退したのとは対照的に、制裁後も欧州企業によるロシアとの石油開発プロジェクトが続けられてきたことは興味深い。例えば、欧米の金融制裁・技術制裁対象であるRosneftと2016年から2018年に行われたENIによる黒海開発(最終的に撤退)、2016年旧Statoil(Equinor)によるマガダン鉱区での試掘井掘削(結果、ドライ)、2016年BPによるRosneft子会社であるYermakneftegazへの出資・資金提供は、それぞれ現在の欧米制裁に抵触する可能性がある案件だったはずだが、結果はどうであれ、実行されている[6]。この背景には、EUではグランドファーザー条項を適用し、2014年の制裁施行前に合意された内容については制裁対象としないという原則があること、そして、欧州企業によるロシアでの活動について、それが制裁に抵触するかどうかの判断は各国に委ねられており、厳密に制裁に抵触するかどうか不確かな案件(例えば、マガダン鉱区のように鉱区内に大水深領海ではあるが、掘削深度は大水深ではない場合など)については、欧州企業は自国政府からのお墨付きを得る形でロシアとの石油開発プロジェクトを推進してきたと考えられる。
[6] この他、最近ではRosneft及びEquinorによる西シベリア・タイトオイル開発のJV設立等も挙げられる(IOD/2019年1月29日)。ノルウェーも対露制裁を課しているが、EU制裁とは若干異なる独自の特徴を持つ。
2. 米国制裁発動からこれまでに発生した注目すべき8つの事象
特に米国による対露制裁に関して、これまで制裁法文の解釈の拡大や実際の抵触事例・解除事例等を通して、以下に挙げる8つの事象が観測されている。これらの背景や発生事由についての分析は、今後の外国企業の対露ビジネスに対する示唆を与えるものであり、以下、整理してみたい。
(1) ガスプロジェクトにも制裁拡大(2015年8月:南キリンスキー鉱床を制裁対象に)
冒頭の通り、欧米制裁は「将来的な石油生産ポテンシャル」を有する三分野(北極海(米:Arctic Offshore/EU:Arctic)・シェール層・大水深)を対象としているが、その背景には既存の原油生産や天然ガス生産を対象とした場合には、大顧客である欧州市場に大きな影響が出ることに対する配慮があったと考えられる。しかし、2015年6月、GazpromとShellがサハリン-3鉱区で発見したガス田・南キリンスキー鉱床について資産スワップに合意したのを受け、米国政府は、その二カ月後にはその鉱床をガス田にもかかわらず、輸出規制対象に加えた[7]。その理由について米国政府は「相応の液分(コンデンセート)の生産が見込まれるため。」と説明。通常天然ガス生産では地表で液化する天然ガス液(コンデンセート)の生産が見込まれるものであり、この米国の新解釈によって、今後北極海(米)や大水深で立ち上がる天然ガス・LNGプロジェクトも相応のコンデンセートの生産が見込まれる場合には米国の制裁対象となる可能性がある。
(2) 最初の制裁抵触事例(2017年7月:ExxonMobilに対する罰金)
2017年7月、2014年5月にExxonMobilが米国制裁対象リストであるSDN(特定国籍指定者)に登録されたRosneft・セーチン社長とビジネスを行ったこと(契約等8文書を締結)に対して制裁金(2百万ドル:一文書当たり25万ドル)を科す処分を決定した[8]。これは2014年に始まった米国の対露制裁において違反した米国企業が特定され、具体的な罰金を科された初めての例となり、米国の制裁が形骸化したものではないことを示す出来事となった一方、既にExxonMobilはロシアでの事業中止で2億ドルの損失を計上しているが、さらにその流れ玉は米国企業という身内に当たるという対露制裁の皮肉な結果を示すことにもなった。
<参考>米国財務省外国資産管理室(OFAC)によるExxonMobilへの罰金適用の内容について
- ExxonMobilに対してウクライナ関連制裁法違反のため、2百万ドルの罰金を科す。
- 具体的には、2014年5月14日~23日の間に同社が米国制裁対象として指定されたSDNリストにあるRosneft・セーチン社長と8つの文書を署名したことによる対露制裁法違反。
- Rosneft本体はSDNリストに入っていない。但し、分野別制裁(SSI)リストには入っているとの注あり。
- セーチン社長は2014年4月28日にSDNリストに登録されている。
- ExxonMobilはセーチン社長のProfessional(職業的)なキャパシティとPersonal(個人)のキャパシティの違いがあると抗弁しているが、財務省はその区別をしない。
- ExxonMobilは当時のホワイトハウス・財務省の説明を受け、SDNはPersonal(個人)に対して行われているものであり、Rosneft社の社長としてのキャパシティは対象とならないという論拠)
- 更に、OFACは2013年にミャンマー政府に対するSDNリスト対象者との同様の面談等についても、Professional(職業的)なキャパシティとPersonal(個人)のキャパシティを区別しないことをFAQ(No285)で示している。
- ExxonMobilの制裁法違反の自発的な開示が行われず、同制裁法違反は決して許されないものであることから、基礎民事罰金及び法廷最高民事罰金の合計である2百万ドルを科すことを決定。
- また、OFACは次のExxonMobilによる問題点を指摘・懸念を表明(強い言葉で)。
(1) 同社が対露制裁という警告を無視し、無謀にも米国制裁要件を無視してきたこと。
(2) 同社幹部はセーチン社長がSDNリストの対象となった際の同氏の立場を認識していたこと。
(3) 同社は、ウクライナ危機に与するロシア政府の高官であるセーチン社長と取引を行う(engaging services)ことによりウクライナ制裁プログラムの目的に深刻な損害を与えていること。
(4) 同社は洗練された、経験豊富な石油ガス企業であり、米国経済制裁、輸出管理規制の対象となる製品、役務、技術の提供を全世界で行っていること。
- 他方、OFACは過去5年間違反を行っていない点には情状酌量の余地があると考えている。
出典:米国財務省
他方、今回の罰金決定は即時決定し発表されたものではなく、ExxonMobilに対して制裁抵触に対する警告表明と弁明の遣り取りが2年以上前から財務省との間で行われていたことが分かっている。
<参考>OFAC及びExxonMobil間の罰金確定に至るまでの遣り取り
- 2015年6月29日:財務省OFACはExxonMobilに対してPre-penalty Noticeを発出。
- 対象は今回と同じ8つの文書(SDN対象者(セーチン)とのLNGに関する合意及び7つのDeedの締結)。
- 2百万ドルの罰金の提示とExxonMobilに対して制裁に違反していない論拠を書面で示す権利を忠告。
- ExxonMobilは次の日付でOFACに対し、複数回に亘って情報提供・説明を実施。
年月日 | 内容(ExxonMobil→米国財務省) |
---|---|
2015年08月05日 | 書面回答 |
2016年09月26日 | 面談 |
2016年10月12日 | 追加資料提出 |
2017年03月29日 | 追加資料提出 |
2017年04月13日 | 面談 |
2017年04月17日 | 追加資料提出 |
2017年06月23日 | レター(1)送付(財務省テロ金融情報担当次官宛) |
2017年06月26日 | レター(2)送付(財務省テロ金融情報担当次官宛) |
2017年07月06日 | 追加資料提出 |
2017年07月14日 | 面談 |
2017年07月17日 | 追加資料提出 |
出典:米国財務省入手資料から抜粋
このように2年前からのコレスポンデントに加え、罰金が確定する7月までの3カ月間、ExxonMobilは頻繁に財務省と遣り取りを行っていた。2017年4月という月は、3月にフリン大統領補佐官が辞任し、5月にトランプ大統領がコミーFBI長官を事実上解任という狭間で、ロシアゲート問題が激しく燃え上がる過程に当たり(最終的に8月の新制裁法「制裁による米国敵性国家対抗法(CAATSA)」発動に至る)、これらを受けても、財務省とExxonMobilの主張(ProfessionalとPersonalの区分けがあるのかないのか)について解決ができず(ExxonMobilが説得できず)、今回の財務省による制裁金を科す決定に至ったということになる。また、この事象は制裁抵触となった場合でも、すぐに米国による罰則発動とはならず、弁明の機会が与えられ、その上で双方が妥結できない場合に罰則が適用されるということも示している点は、ロシアに参入しながら制裁リスクを懸念する外資にとって重要な点である。
(3) 最初の制裁解除事例(2019年1月:デリパスカ傘下3企業のSDN対象解除)
制裁を強化し続けてきた米国だが、2018年12月には、2014年の対露制裁発動から初めて制裁対象(SDN/特定国籍指定者)3企業の解除という措置を打ち出したことは特記に値する。対象企業は同年4月にSDN指定となった寡占資本家として有名なオレグ・デリパスカ氏傘下の投資会社En+及び世界第二位のアルミ生産企業Rusal、電力会社EuroSibEnergoの3社であり、その世界経済への影響に鑑み、前英国エネルギー気候変動大臣のグレゴリー・バーカー卿を代表とするメンバーにより制裁解除の請願が行われ、対象企業に対するデリパスカの支配構造を排除する方策を検討し、実行に移した(米国政府(財務省)との間でバインディング(法的拘束力を持つ)文書を締結)ことを評価した結果として、財務省から議会に対して解除勧告が出されたものである[9]。デリパスカの保有する3社に対する制裁が解除された理由=支配権の排除を明確化しており、今後制裁が課された場合でも解除される条件と方法(上述の通り、今回はスクリパリ親子毒殺未遂事件をはじめ、政治・外交的には反露の色が濃い英国、その著名人が仲介した点も興味深い)の可能性も示すものでもある。制裁解除の動きに対して、民主・共和両党の反対議員による差し止め動議が出されるという波乱があり、勧告期限の30日を経過したものの、最終的に1月27日、財務省は制裁リストからの除外を発表している[10]。
(4) 金融制裁における融資(Providing Financing)の定義が拡張(2019年4月:Haverly Systemsに対する罰金)
2019年4月25日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、米国企業の新たな制裁違反事例と、対象となった米国企業との間で制裁金支払いについて妥結したと発表した[11]。その時点で同国の制裁違反事例として公表されていたものは、上記(2)2017年7月20日のExxonMobil(SDN対象であるセーチン社長との取引行為(8文書を締結)に対する罰則適用であり、200万ドルの罰金を課すもの。現在も係争中)に続くものだが、今回の事例は、分野別制裁(SSI)である金融制裁(対象企業に対する融資(providing financing)期間の制限。2015年時点で「90日を超える融資」を禁止するものだったが、2017年8月の新制裁法(CAATSA)発動後、「60日超」に短縮)の違反として、その融資の概念が制裁対象企業であるRosneftに対する米国企業の売掛金の回収にも適用されるという点で極めて特殊な事例であるだけでなく、これまで融資を行う金融機関が対象と考えられてきた同金融制裁が、サービス・機器を提供・販売する一般企業にも適用されるという点で多大な影響を及ぼす事例となる。
事の発端は2015年8月19日に遡る。米国石油開発関連ソフトウェア企業Haverly Systems, Inc(テキサス州とカリフォルニア州に事務所を持つニュージャージー州の中小産業ソフトウェア・プログラミング企業[12])は、Rosneftに提供したソフトウェアのライセンス及び保守サービスに関連して、Rosneftに請求書(2通)を発行。請求書には発行日から30〜70日の支払期日が規定されており、Rosneftは支払いを実行するために同社に対して税務書類を要請。その後、税務書類の入手・遣り取りに数カ月を要した結果、RosneftからHaverly Systems, Incへの支払い(請求書1通分)は請求書発行から約9カ月後の2016年5月31日に実行された。また、残る請求書については金融機関が制裁を事由にRosneftからの送金を断るというアクシデントが生じたものの、最終的に2017年1月11日にHaverly Systems, Incへの支払いが実現した。
OFACはこの売掛金の回収に要した期間をDirective 2(Rosneftを含む対象企業への60日超の融資を禁止する金融制裁を規定)違反であり、売掛金の期限を超えた遅延収集は禁止されているとHaverly Systems, Incに通知。同社と協議・調停の結果、同社は罰金75,375USD(当初OFACは最高民事罰金額として590,282USDを想定していたが、減額)を支払うことに合意したものである。
今回の制裁違反認定は、米国による金融制裁における融資の概念に、Rosneft等対象企業に対する売掛金の回収も含まれるという解釈を示唆するものである。これまでは融資の実行主体であった金融機関が対象と考えられてきたが、対象ロシア企業に制裁対象(所謂、将来的石油生産ポテンシャルを有する大水深・北極海・シェール層の開発)ではない、物品・役務を販売する企業もその対価回収に当たって、60日を超えて売掛金の資金回収ができなかった場合には、米国の金融制裁の違反罰則対象となるという事例となった。制裁対象ロシア企業が故意に支払いを遅らせる場合が生じた場合でも同様に米国制裁に抵触する可能性を示唆するものでもある。また、今回の件は氷山の一角であり、既にOFACでは「第二、第三のHaverly Systems」について調査が行われている可能性もあることから、今後の動向・OFACの発表に注目が集まる。
[11] 米国財務省OFACプレスリリース:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20190425.aspx
[12] Haverly Systems, Inc社HP:https://www.haverly.com/main-products
(5) 対イラン制裁からの跳弾(2019年9月:ヤマルLNGプロジェクトへの砕氷LNGタンカー派遣会社が運航停止に)
2019年9月25日にOFACが発動した対イラン制裁の一環での同国産原油輸出に対する幇助への罰則として、中国遠洋海運(COSCO)の子会社2社(COSCO Shipping Tanker (Dalian) CO., LTD.及びCOSCO Shipping Tanker (Dalian) Seaman & Ship Management CO., LTD.)が新たにSDN対象として指定された[13]。この2社の内、COSCO Shipping Tanker (Dalian) CO., LTD.はヤマルLNG向け砕氷LNGタンカーを6隻供給しているカナダTeekayとのJVに対して、50%を出資する子会社China LNG Shipping (Holdings) Limitedを通じて、50%出資しており、OFAC規則に従えば、SDN対象企業が50%以上を出資するグループ企業は全てSDNと見做されることから、上記COSCO子会社2社及びそれらが50%以上出資する会社との米国人による取引が禁止となり、外国人もこれら会社に対してmaterial supportを与えた場合にはOFACはその外国人もSDN対象とすることができるという二次制裁を含み、同社はヤマル及びアルクチク砕氷LNGタンカーを外資(カナダ:Teekay及び日本:商船三井)と共に傭船していることから、それらJVの活動に影響を及ぼすこととなった(図3参照)。この米国制裁を受けて、カナダのTeekay社が早速、10月2日に予定していた投資家説明会を事態精査のため延期すると発表[14]。なお、日本の商船三井が保有するヤマルLNG向け砕氷LNGタンカー3隻も中国遠洋海運(COSCO)とのJVが運営するものだが、商船三井のCOSCO側パートナーは上記SDN対象企業2社のさらに親会社であるCOSCO Shipping Corporation Limitedが直接のパートナーとなっており、上記SDN企業との資本関係はなく、米国OFACも親会社とのJVについては今回の制裁対象ではないことを明言しており、商船三井とCOSCOの保有する3隻については問題がないことが確認されている[15]。
NOVATEKも同じタイミングでプレスリリースを出し、「TeekayとSDN対象となったCOSCO子会社とのLNG輸送は今回の米国による対イラン制裁対象とは関係がないこと」、「ヤマルLNGプロジェクトは顧客との義務を履行するべく、生産されたLNGに対して必要十分なキャパシティを有している」と火消しに追われることになった[16]。
その後、一カ月が経とうとしている10月22日に、カナダのTeekay社がプレスリリースを行い、COSCO子会社が株式保有者再編を行い、同社とCOSCOとのヤマル向け砕氷LNGタンカーのJVは米国制裁対象とならないことを確保したことを発表する[17]。制裁解除の方策としては、OFAC規則ではSDN対象企業・個人が50%以上を実質保有する企業・個人もSDN対象と見做すとしており、裏を返せば、50%未満(50%-1株)にシェアを落とすことで、SDN対象を回避することが可能という、今年1月にデリパスカ関連企業が制裁解除された方法と同じ方法が採られたことが判明した。9月25日のイラン制裁発動から1カ月の間、Teekay及びCOSCOは株式比率変更による対応とOFACへのコンタクト・有効性の照会を行ってきたものと推察される。
その後、さらに2020年1月31日に新たな動きがあった。OFACが制裁対象会社2社の内、COSCO Shipping Tanker (Dalian) CO., LTD.について制裁の解除を発表。この背景には同社が世界の原油海上輸送に占める重要性が明らかになり、OFACがエネルギー産業からの圧力を受けたことによる可能性があると噂されている。
[13] 米国財務省ウェブサイト:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20190925.aspx
[14] Teekay社プレスリリース:https://www.teekay.com/blog/2019/09/30/teekay-group-to-postpone-investor-day-on-october-2-2019/
[16] NOVATEK社プレスリリースhttp://www.novatek.ru/en/press/releases/index.php?id_4=3461
(6)制裁対象物品輸出容疑で初の逮捕者(2019年12月:Gazprom Neftへのタービン納入関連)
2019年12月3日、米国司法省は、北極海鉱床開発向けの偽装輸出でロシア人、イタリア人及び米国人の逮捕者が出たことを発表[18]。主な罪状は、Gazprom Neftのバレンツ海・プリラズロムノエ油田開発向けガスタービンの不正輸出であり、逮捕者は、Oleg Vladislavovich Nikitin(ロシア法人KS Engineering代表)、Anton Cheremukhin(同社社員)、Gabriele Villone(イタリア法人GVA International Oil and Gas Services代表)、Bruno Caparini(同社社員)及びDali Bagrou(米国法人World Mining and Oil Supply代表) と米国、イタリア及びロシア国籍の5名であった。5名はGazprom Neftが開発するバレンツ海・プリラズロムノエ油田向けにジーメンス傘下の米国企業Dresser-Rand製のガスタービンVectra 40Gを1730万USDで米国内向けを装って購入し、ロシアへ転送する計画だったが、機材は発送後、欧州での通関時に、同機材が必要とされないはずのカザフスタンが最終仕向地となっていたため偽装が発覚。5名の容疑者は制裁法違反、書類偽造、資金洗浄等の罪により、20年の刑期と100万USD以上の罰金を科される可能性がある(なお、逮捕者はいずれも罪を否認している)。
(7) 国防授権法への抱き合わせによる新たな制裁法案の議会通過と制裁発動(Nord Stream 2及びTurk Stream関連)
12月20日、トランプ大統領は2020年国防授権法に署名し、即日発効した。1119ページ、全7612条から成る同法の最後、1103ページから始まる第75章「欧州エネルギー安全保障の防御」に第7501条から7503条に亘って、Nord Stream 2及びTurk Streamに対する新たな制裁が盛り込まれている[19]。
翌日にはNord Stream 2及びTurk Streamのパイプライン敷設を請け負っていた、スイス登記のAllseas社(1985年設立。大水深パイプ敷設及びオフショアメジャー企業。2011年稼働を開始した最初のNord Streamも同社による敷設)が、Nord Stream 2についての全作業をサスペンドする旨のリリースを公表し[20]、同パイプライン工事は94%まで進捗したにも関わらずサスペンドされた。
国防授権法は、翌年の軍事予算措置のために、必ず年内に成立する性格の法律であり、「独露間のパイプライン」という米国の国防とは直接関係のないものまで抱き合わせて通過させた今回の事例は、今後同じ方法で毎年末新たな制裁が盛り込まれる可能性も示唆するものとなっている。
[20] Allseas社プレスリリース: https://allseas.com/news/allseas-suspends-nord-stream-2-pipelay-activities/
「国家授権法の制定に鑑み、Allseas社はNord Stream 2パイプ敷設活動を停止した。同法律の猶予期間条項(Wind-Down Period)に従うと共に、米国の関連当局からの必要な規制、技術及び状況のクラリフィケーションを含むガイダンスを期待している。
(8) OFACの対露制裁を巡る最初の法的敗北(2019年12月:テキサス州北部地区連邦地方裁判所がOFACによるExxonMobilへの制裁課金は無効であるとの判決を下す)
上記(2)に関して、2017年7月に最初の米国制裁法違反(SDN対象者との商取引の実行)の事例としてOFACがExxonMobilに対して制裁金2百万ドルを課し、その後、ExxonMobilがOFACに対して制裁課金を無効とするようテキサス州北部地区連邦地方裁判所に訴えを起こし、係争中だった事案について、2019年12月31日付で同地裁がExxonMobilの訴えを認め、OFACの同社に対する制裁課金は無効であるとの判決を下した[21]。テキサス州北部地裁は主要点として、以下の点を挙げている(ジェーン・J・ボイル裁判官)。
- 「政府はExxonMobilとロスネフチが契約した際に、米国の制裁に違反したかどうかについて、あまりにも説明が不足していた(provided too little detail)。」
- 「米国政府による制裁発動と発表は、今回のExxonMobilのような当該取引を誠意(acting in good faith)によりサスペンドする可能性はあるが、必ず禁止されるという確証を生み出さない。」
- 「政府は最終的に『SDN対象者との取引は同者がSDN対象となっていない企業を代表して行動している場合でも許可されない』というガイドラインを出したが、そのガイダンスはExxonMobilとロスネフチの契約文書締結後に出されている。」
- 「確かにOFACからのガイダンスがない状態で契約を進めたExxonMobilの判断は危険であり、恐らく無分別である。しかし、このことが、(OFACによる)公正な説明という欠如を許容するものではない。」
現時点ではExxonMobilは当該判決を確認しているに留めており、OFACはコメントを出しておらず、今後OFAC(司法省)が控訴するかどうかについては新たな情報は出ていない。
今回の判決は財務省にとって対露制裁での最初の法的敗北である一方、対露制裁自体の変更を促すものではなく、今後OFACが制裁内容をどのように解釈しており、それをいかに伝達するかに影響を与える判決であると言えるだろう。
<巻末参考>
欧米日による対露制裁の経緯・概要
2020年2月26日現在
(1) 米国の対露制裁の概要
3月6・17・20日 | 個人に対する渡航禁止・資産凍結(SDN) |
4月28日 | 個人(SDN)にセーチンRosneft社長を含める。対象を企業にも拡大。 |
7月16日 |
対象に国営銀行(Gazprombank・VEB)を含める。 (資金提供、新規の融資(90日を越える償還期間)等を禁止) 対象に石油企業(Rosneft・NOVATEK)を含める。 |
7月29日 |
対象国営銀行を拡大(VTB、Bank of Moscow、ロシア農業銀行)。 石油開発技術に関する製品等の実質的禁輸措置(商務省)。 (大水深探鉱開発、北極海探鉱開発、シェールオイル生産に関する技術) |
9月12日 |
対象国営銀行を拡大(Sberbank)。 石油開発技術に関する禁輸を役務に拡大。対象企業を指定(財務省)。 (Gazprom、Gazpromneft、LUKOIL、Surgutneftegaz、Rosneft) |
12月18日 |
【ウクライナ自由支援法(オバマ大統領署名)】 軍事分野、エネルギー分野、金融分野等に対して法施行から時限的に大統領が判断して、複数の制裁を課すことができる内容。現時点で発動は留保中。 外国人(企業)も対象になる。
<(注)特定の原油プロジェクト>
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12月19日 | クリミアへの米国人(企業)の投資、不動産売買の禁止及び全般的禁輸措置。対象個人・団体の拡大(財務省)。 |
3月11日 | 対象個人・団体(Russian National Commercial Bank等)の拡大。(財務省) |
7月30日 | 対象個人・団体の拡大。VEB及びRosneft子会社(Vankorneft、Verkhnechonneftegaz、各製油所等16社)の特定・制裁対象へ。(財務省) |
8月7日 | 商務省が規定する禁輸措置リストにGazpromが推進するサハリン-3キリンスキー鉱区内の南キリンスキー鉱床が加わる。 |
12月22日 | 対象個人・団体の拡大。Sberbank及びVTB子会社の特定・制裁対象へ。(財務省) |
9月1日 | 対象個人・団体の拡大。Bank of Moscow、Gazprombank及びGazprom子会社(53社)の特定・制裁対象へ。(財務省) |
12月20日 | 対象個人・団体の拡大。NOVATEK子会社(11社)の特定・制裁対象へ。(財務省) |
6月20日 | 対象個人・団体の拡大。Transneft子会社(20社)の特定・制裁対象へ。(財務省) |
7月20日 | 財務省はExxonMobilに対して対露制裁違反と断定し、2百万USDの罰金を科す(SDNリスト対象であるセーチンRosneft社長と2014年5月に締結された8文書が違反とするもの)。 |
8月2日 |
【制裁による米国敵性国家対抗法(トランプ大統領署名】
(a)制裁対象として対象企業を拡大
(d)Directive 4(エネルギー分野に対する制裁)の修正
(注) 10月31日、国務省が第225条及び第232条、財務省が第223条(a)及び(d)、第226条、第228条及び第233条についてディスクリプションを発表。 |
10月31日 | 8月2日に発効した新対露制裁法について、国務省及び財務省が一部条項に関するディスクリプション(解釈/追加情報)を公表。 |
1月26日 | 対象個人・団体の拡大。Surgutneftegaz子会社(12社)の特定・制裁対象へ。(財務省) |
3月15日 | 対象個人・団体の拡大。SDNに連邦保安庁(FSB)及び連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が含まれる。(財務省) |
4月6日 | 対象個人・団体の拡大。SDNにGazpromミレル社長を含むプーチン政権に近い人間・オリガルヒ26名及びオリガルヒが保有する企業15社を含める。(財務省) |
6月11日 | 対象個人・団体の拡大(サイバー攻撃関連)。 |
8月27日 | 3月に英国で起きた神経剤によるロシア人元スパイらの襲撃事件を受け、ロシアに新たな制裁を課すと発表。制裁は二段階から成り、第一弾では軍事転用可能なロシアへの輸出品に対する輸出禁止や化学・生物兵器の即時使用中止を求め、ロシアが一定の対応を取らない限り、90日以内により厳しい第二弾の制裁を課す方針(→第二弾を2019年8月2日発表)。 |
11月8日 | 対象個人・団体の拡大。ウクライナ人(3個人)及びクリミア企業・東部二州関連組織(9企業・団体・組織)を追加。 |
12月19日 |
OFACが議会に対するSDN対象企業(注)の一部解除意向を表明。 (注)今年4月にSDN対象となった寡占資本家オレグ・デリパスカ傘下の投資会社En+及び世界第二位のアルミ生産企業Rusal、電力会社EuroSibEnergoの3社。 |
1月27日 | 上記SDN指定解除意向表明に従い、OFACは同3社をSDN対象から解除。 |
3月15日 | 対象個人・団体の拡大。アゾフ海でのロシア海軍によるウクライナ海軍艦拿捕に関連したロシア人(4個人)、ウクライナ人(東部紛争地域2個人)及びケルチ海峡橋梁建設に関連の建設企業及び造船企業(ロシア企業・クリミア企業8社)を追加。 |
4月25日 | 財務省は米国ソフトウェア企業Haverly Systems, Incに対して、対露制裁違反と断定し、最大59万USD余りの罰金を科そうとしていたが、調停の結果、約7.5万の支払いで合意(金融制裁対象であるRosneftからの90日間を超える支払いを猶予したことを融資期間違反と見做す内容)。 |
8月2日 | 2018年3月に英国で起きた神経剤によるロシア人元スパイらの襲撃事件を受け、ロシアに新たな制裁を課すと発表(第二弾/第一弾は2018年8月)。(1)世界銀行や(IMF)等の国際金融機関によるロシアへの融資・金融支援に反対。(2)米国の銀行が非ルーブルでのロシア国債の主要市場に参画すること及びロシア政府に対する非ルーブル貸付を行うことを禁止。(3)商務省が管轄する物品及び技術の輸出ライセンス規制を追加。 |
9月25日 |
対イラン制裁の一環での同国産原油輸出に対する幇助への罰則として、中国海運(COSCO)の子会社2社を新たにSDN対象として指定。中国海運がヤマル・アルクチク砕氷LNGタンカーを外資(加:Teekay、日:商船三井)と共に傭船していることから、それらJVの活動に影響を及ぼすもの。
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9月26日 | シリアにおけるロシアの軍事行動において、ジェット燃料輸送に従事したロシア人(3個人)、ロシア企業(1企業)及びロシア船籍船(5隻)をSDN対象に追加。 |
9月30日 | 2018年の中間選挙への介入を行ったとして、既にSDNリストの対象となっているエフゲニー・プリゴージンに対して、その資産(プライベートジェット及びヨット)も対象にすると共に、同人に対する大統領令に基づく制裁規定を変更する措置。 |
12月3日 | 米国司法省は対露制裁違反などでロシア人、イタリア人及び米国人5人の逮捕を発表。罪状は、ガスプロムネフチの北極圏プロジェクト・プリラズロムノエ油田開発向けガスタービンの不正輸出。 |
12月5日 | ロシアに拠点を置くハッカー集団「Evil Corp」や関連団体の計7団体とリーダーら17人及び企業7社をSDN制裁対象に指定。これまで米英など40カ国以上の金融機関にハッキング攻撃(オンライン銀行詐欺ツール「DRIDEX」を使用したもの)を仕掛け、1億USD以上を盗難。 |
12月20日 |
トランプ大統領の2020年国防授権法案への署名により、新たな対露制裁(Nord Stream 2及びTurk Streamの海底パイプライン敷設業者:双方ともスイス登記Allseas社)が発動。
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12月30日 | 2017年7月に最初の米国制裁法違反(SDN対象者との商取引の実行)の事例としてOFACがExxonMobilに対して制裁金200万ドルを課し、その後、ExxonMobilがOFACに対して制裁課金を無効とするようテキサス州北部地区連邦地方裁判所に訴えを起こし、係争中だった事案について、同地方裁がExxonMobilの訴えを認め、OFACの同社に対する制裁課金は無効であるとの判決を下す。 |
1月29日 | 米国財務省OFACが欧州及びカナダ両政府と共同で、ロシアが主張するクリミア共和国の政府関係者7名、同共和国の鉄道運営企業1社、同社社長1名(ロシア人4名、ウクライナ人4名)について、SDN対象者へ追加。 |
1月31日 | 米国財務省(OFAC)が、前年9月に制裁を課したCOSCO関連会社の内、COSCO Shipping Tanker (Dalian) Co., Ltd. の制裁(SDN)を解除。 |
(2)EUの対露制裁の概要
3月6・17・21日 | 個人に対する渡航禁止・資産凍結 |
4月28日 | 対象個人を拡大。 |
5月12日 | 対象個人拡大に加え、対象をクリミア石油企業に拡大。 |
6月23日 | クリミア産品の禁輸。輸出に係る財務支援の禁止。 |
7月25日 | 対象個人及び対象ウクライナ企業を拡大。 |
7月30日 |
対象個人を拡大し、ロシア企業を制裁対象に加える。 (Almaz-Antey、Dobrolyot、Russian National Commercial Bank) |
7月31日 |
(1) 新規の武器取引・技術供与の禁止 (2) 石油ガスパイプ・掘削関連技術の輸出取引に事前承認 (3) 金融取引の制限(資金提供、新規の融資(90日を越える償還期間)等を禁止) |
9月12日 |
(1) 軍需関連製品の取引・技術支援・役務、資金提供等の禁止 (2) 特定の石油開発役務(associated services)提供の禁止 (3) 金融取引の禁止
(4) 対象個人を拡大。 |
11月29日 | 対象個人及び対象団体(東部地域・親露派)を拡大。 |
12月18日 | 6月の制裁強化。クリミアへの外国投資、不動産売買の禁止及び全般的禁輸措置。 |
2月16日 | 対象個人及び対象団体(ロシア人・宇親露派)を拡大。 |
7月31日 | 対象個人及び対象団体(ケルチ海峡橋建設関連会社5社)を拡大。 |
1月21日 | 対象個人及び対象団体(化学兵器使用反対施策の一環として、英国スクリパリ事件に関与したとしてGRU幹部4名を個人制裁対象リストに追加)を拡大。 |
1月29日 | 米国財務省OFACが欧州及びカナダ両政府と共同で、ロシアが主張するクリミア共和国の政府関係者7名、同共和国の鉄道運営企業1社、同社社長1名(ロシア人4名、ウクライナ人4名)について、SDN対象者へ追加。 |
(3)日本の対露制裁の概要
4月29日 | 個人に対する渡航禁止・資産凍結 |
7月28日 | 対象個人拡大に加え、対象をクリミア石油企業に拡大。 |
9月24日 |
(1) ロシアに対する武器・軍事用途の汎用品に関する輸出審査・手続きの厳格化。 (2) ロシアの特定銀行(注)による日本での証券発行を許可制に。 |
12月9日 | 7月の制裁(対象個人・団体)を拡大し、11月の欧州制裁に並べる内容へ。 |
以上
(この報告は2020年2月26日時点のものです)