ページ番号1008711 更新日 令和2年3月17日
原油市場他: 中国国外での新型コロナウイルス肺炎拡大による世界経済成長と石油需要の鈍化懸念、及びOPECプラス産油国による減産調整協議決裂で大幅に下落する原油価格
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概要
- 米国では、ガソリンや留出油需要は必ずしも堅調ではなかったものの、製油所での春場のメンテナンス作業実施や一部装置での不具合等の発生により、石油製品生産活動が不活発となったこともあり、ガソリンや留出油在庫は減少傾向となったが、ガソリン在庫は平年幅上限を超過、留出油在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている。また、製油所の稼働伸び悩みにより原油精製処理が進まなかったこともあり、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は維持されている。
- 2020年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州では3月以降の春場のメンテナンス作業実施を控えて地域の製油所が原油の受け入れを手控えたと見られることから原油在庫が減少した他、日本においても、2月の製油所での原油精製処理活動が鈍化するとともに原油購入が減速したと見られることから、原油在庫は減少した。しかしながら、米国で原油在庫が増加したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン、留出油及び需要が比較的堅調であったプロパン/プロピレンの在庫が減少したこともあり石油製品全体の在庫水準も低下した。また、欧州では当該在庫は微減となった他、日本でも製油所での稼働低下が石油製品の生産に影響を及ぼしたと見られる等により石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが、量としては平年幅上方付近に位置する量となっている。
- 2020年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場では、2月中旬は、ベネズエラ産原油取引を巡り米国がロシア系企業に制裁を科する旨発表したこと等もあり、原油価格(WTI)は1バレル当たり50ドル台前半で推移していたが、2月下旬以降は、新型コロナウイルス肺炎が中国国外で拡大する様相を呈し始めたことにより、世界経済成長と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったことに加え、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において減産措置の強化に関する協議が決裂したことに伴い、サウジアラビアやロシアが原油販売価格引き下げや増産方針を明らかにしたことから、世界石油需給緩和感が市場で強まった結果、原油価格は急落、3月9日には1バレル当たり31.13ドルと2016年2月19日以来の低水準に到達した。
- 今後当面、イラン等を巡る地政学的リスク要因次第で原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性はあるものの、市場の焦点は新型肺炎の拡大及びOPECプラス産油国の増産による世界石油需給緩和具合といったところであろう。ただ、短期的には新型肺炎終息に向けた見通しに関し不透明感が市場で強いことに加えて、OPECプラス産油国による増産及び原油価格引き下げ合戦は今暫く継続すると見られることもあり、原油相場には下方圧力が加わりやすいものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国での減産措置強化に関する協議が決裂
(1) 協議内容等
OPEC産油国は、2020年3月5日にオーストリアのウィーンで臨時総会を開催し、新型コロナウイルス肺炎拡大により2020年の世界石油需要の伸びが2019年12月時点の見通しである日量110万バレルから今般日量48万バレルへと下振れした(総会当時)ことを考慮し、前回OPEC総会(2019年12月5~6日開催)、そしてOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国閣僚級会合(同12月6日開催)で合意した、3月31日までの減産措置(基準原油生産水準(概ね2018年10月の原油生産量)から日量約170万バレル程度減産)を2020年末まで延長することに加え、2020年6月末まで日量150万バレル減産を強化することを、3月6日に開催される予定あるOPECプラス産油国閣僚級会合に進言することで合意した。新たに強化する日量150万バレルの減産については、OPEC産油国で日量100万バレル、一部非OPEC産油国で同50万バレル、それぞれ負担するとした。総会では、新型肺炎の拡大の石油市場への影響につきさらに継続的に監視する旨表明した。ただ、その後同日、OPEC産油国による非公式協議が実施され、石油市場での展開(OPEC総会後も原油価格が下落し続けたことを指しているものと見られる)を考慮し、OPEC産油国は、3月6日開催予定のOPECプラス産油国閣僚級会合に対する進言につき、日量150万バレルの減産措置の強化期限を総会で決定した2020年6月末ではなく2020年末とすることで改めて合意した。
ところが、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、減産措置強化を主張するOPEC産油国と既存の減産措置の6月末迄の延長のみの実施を主張するロシアとの間での議論の隔たりが解消しなかった結果、協議は事実上決裂し、OPECプラス産油国が2020年1月1日より実施していた減産措置も当初予定通り3月末で終了、4月1日以降OPECプラス産油国は事実上自由に原油生産を行うことが可能となった(表1参照)。協議が事実上決裂したことを受け、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合に関する声明は発表されない旨3月6日に報じられた。
なお、OPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)は3月18日に開催される予定である他、OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、カザフスタン、及びオマーン)の枠組みは存続する旨3月6日に伝えられる。
3月6日に、ロシアのノバク エネルギー相は、次回のOPEC産油国閣僚級会合の日程を決定する前に新型肺炎の状況や他の産油国の原油生産状況等を監視する必要があるとして、当該会合の次回開催については定まっていないことを示唆した。ただ、OPECプラス産油国は石油市場安定化に向け適宜非公式に協議を行う方向である旨3月6日に報じられる他、ロシアが同意するのであれば、当初開催が予定されていた次回OPEC総会(6月9日)及びOPECプラス産油国会合(6月10日)前にOPECプラス産油国間で会合を開催することもありうる旨3月6日にUAEのマズルーイ エネルギー相は発言している。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
前回OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合開催時点では、2020年の世界石油需給が日量100万バレル程度供給過剰になると予想されたこともあり、OPECプラス産油国は既存の減産措置に日量50万バレル程度を追加したうえ、減産遵守徹底(これにより事実上日量50万バレル程度の供給を市場から排除できると見られた)を要請することで、石油需給を均衡させるとともに原油価格の下支えを図ろうとした。もっとも、2020年の世界石油需給に関し、米国と中国の貿易紛争を巡る交渉の進捗状況、及び米国のシェールオイルを含む原油生産量の見通し、といった要素等に強い不透明感があったことから、この時のOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合では、2020年3月に改めてOPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合を開催し、必要であれば減産措置につき再調整するという余地を残す格好となった。2019年12月のOPECプラス産油国会合における減産措置拡大の決定により、世界石油需給の引き締まり期待が市場で醸成されたことに加え、米国と中国の貿易紛争を巡る第一段階の合意に関する文書署名実施への期待が市場で高まるとともに2020年1月15日には実際に当該文書署名が行われたこと、そして1月3日に米国軍がイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官を殺害したうえ、1月8日にはイランがイラクに駐留する米軍基地を攻撃するなど、一時米国とイランとの対立が先鋭化したことにより中東情勢の緊迫化と当該地域からの石油供給への不安が高まったこともあり、OPECプラス産油国会合以降1月中旬にかけ原油価格はWTIの終値ベースで1バレル当たり57.81ドル~63.27ドル、ブレントのそれで同63.72~68.91ドルの範囲で推移した(図1参照)。
しかしながら、1月下旬以降中国で新型肺炎の拡大により同国等の経済成長と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、原油価格は下落し始め、2月4日以降WTIで1バレル当たり50ドル、ブレントでは1月27日以降1バレル当たり60ドルを、それぞれ割り込むようになった。このようなことから、2019年12月11日に実施したサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの株式公開後、原油価格の下落もあり同社の株式価格が下落傾向を示した(同社の株式売却価格は1株当たり30~32サウジアラビア・リヤル(870~930円程度)であり、上場初日の終値は1株当たり35.20リヤル、12月16日には38リヤルに到達したものの、その後原油価格の下落等の影響もあり、2020年3月5日には33.00リヤルにまで下落してきている、図2参照)ことに対し、同社株式の相当部分を購入している同国投資家間での利回り低下に神経質になっていたサウジアラビアは、早急に原油価格の浮揚を図るべく減産措置の拡大を推進すべく調整を図り始めた。
中国での新型肺炎がどの程度拡大し、またいつ拡大ペースが鈍化するかが不透明である中、当該肺炎により世界石油需要がどれくらい下振れするかについては、市場でも評価が定まらなかったが、それでも2020年は日量50万バレル程度下振れするのではないかとの見方が市場で出始めた(2月3日には米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、新型肺炎拡大により2020年の世界石油需要が日量50万バレル失われることを原油市場は折り込みつつある旨示唆している)。そのような中で、OPECプラス産油国が当初の会合開催日程を2月14~15日に前倒しして日量50万バレル程度追加減産を実施する旨検討していると2月3日に伝えられた。そして、2月4~5日に開催されたJTCは、2月6日へと協議を1日延長したうえ、関係産油国全てが同意するのであれば日量60万バレルの減産措置強化を即時実施し6月末まで継続する旨OPECプラス産油国会合等に進言することで合意した。しかしながら、この場においてロシアは当該減産措置強化を受け入れるかどうか判断するために時間的猶予が必要である旨表明、態度を保留した(当初サウジアラビア側は日量80~100万バレルの規模の減産措置強化を希望したが、ロシアが拒否したため、日量60万バレルへと減産措置強化の規模を縮小し妥協を図ろうとしたものの、新型肺炎の世界石油需要への影響を判断するには時期尚早であるとしてロシア側の姿勢は軟化しなかった旨2月6日に伝えられる)。そして、2月7日にはロシアのノバク エネルギー相は、中国の新型肺炎の世界石油需要への影響は日量15~20万バレルと有意な規模ではなく、従って減産措置を強化するには及ばない旨明らかにするなどしており、OPECプラス産油国間での意思統一が得られない状況となった。このため、2月14~15日へのOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合の前倒しは行われず、当初予定通り3月5~6日の会合開催となった。
しかしながら、2月下旬以降は中国のみならず中国以外の国でも新型肺炎の拡大が目立つようになり世界各国・地域の経済成長と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、原油価格はさらに下落し続け、2月28日にはWTIで1バレル当たり44.76ドル、ブレントで同50.52ドルの、それぞれ終値と、WTIで2018年12月27日(この時は同44.61ドル)以来、ブレントで2018年12月24日(この時は同50.47ドル)以来の低水準に到達した。このように原油価格が下落し続けたこともあり、2月28日にはサウジアラビア等が2020年第二四半期において日量100万バレル減産措置を強化することを検討している旨明らかになった。他方、減産措置強化に消極的であったロシアは、2020年の自国の予算措置の前提となっている平均原油価格想定がブレントで1バレル当たり42.40ドル(WTIで同37ドル程度)であるため、足元の原油価格水準は許容範囲である(また、3月5日には同国のシルアノフ財務相も、OPECプラス産油国閣僚級会合で減産につき合意できなくてもロシアは原油価格下落に対しての準備はできている旨示唆している)ものの、国外の相手先との間での協力を含め何らかの方策を講じることを排除するわけではない旨プーチン大統領が3月1日に明らかにした。また、同時にプーチン大統領は、原油価格の動きの予測が困難であることや、ロシアは複数のシナリオを検討する必要がある旨強調するとともに、OPEC産油国との協力を通じ長期的な世界エネルギー市場の安定性を確保することが重要であることを示唆した(背景には、原油価格を短期的にかつ急激に上昇させてしまえば、米国のシェールオイル開発・生産活動が急速に活発化するとともに同国の原油生産が大幅に増加するため、原油価格が乱高下し石油市場が不安定化することに加え、原油価格の急激な上昇で産油国であるロシアの通貨ルーブルが急上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けることに対する懸念があるとされる)。このようなことにより、財政収支均衡価格がロシアより高水準(サウジアラビアの財政収支均衡価格はWTIで1バレル当たり80ドル程度、ブレントで同85ドル程度であると推定される)であり、かつサウジアラムコの株式価格の浮揚という喫緊の課題を抱えるサウジアラビアと、国家予算措置の前提原油価格がサウジアラビアよりも大幅に低水準であり、かつ長期的な石油市場の安定を望ましいと考えるロシアとの間では、減産措置に対する姿勢に相違が見られる状況であった。
その後、ロシアは日量60万バレルの減産措置強化につき検討しているものの、日量100万バレルの減産措置強化については提案を受領していない旨ノバク エネルギー相が明らかにしたと3月2日に伝えられる。また、3月3日に開催されたJTCでは、日量60~100万バレルの減産措置の強化をOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合に対し進言したと報じられた。しかしながら、新型肺炎拡大により、2020年前半の世界石油需要が日量210万バレル下振れするという新たな見解を3月3日にゴールドマン・サックスが披露した。このようなこともあり、3月4日に開催されたJMMCで、サウジアラビアが日量120~150万バレル程度の減産措置強化案を主張したとされたのに対し、ロシアは既存の減産措置を2020年第二四半期末まで延長する案を主張、委員会に出席していたノバク エネルギー相が途中退席する(そして、ノバク氏はプーチン大統領に相談するためにロシアに帰国、3月6日のOPECプラス産油国閣僚級会合の際にウィーンに戻る旨明らかにしたと3月5日に報じられる)など、両国の歩み寄りはなされてないことが判明した。そして、3月5日になってもサウジアラビアとロシアとの間での調整が完了しなかったことから、OPEC産油国としては減産措置強化策を確定しきれなかったものと見られ、同日開催されたOPEC総会ではOPECプラス産油国閣僚級会合に向け既存の減産措置の期限延長と日量150万バレルの減産措置強化を進言することで合意したものと見られる。ただ、OPEC総会で打ち出された2020年6月末までの日量150万バレルの減産措置の強化方針に対し、例えばゴールドマン・サックスが2020年第二四半期の世界石油供給過剰を防止しきれないかもしれない旨同日明らかにしたこともあり、総会開催後も原油価格の下落は続いた。このようなこともあり、OPEC総会後に、改めて非公式協議をOPEC産油国は開催するとともに、日量150万バレルの減産措置の強化期限を6月30日から2020年末まで延長する方針に改定する旨決定した。
しかしながら、3月6日にウィーンに戻ってきたロシアのノバク エネルギー相はOPECプラス産油国閣僚級会合においても、従来の主張を繰り返したと見られ、日量150万バレルの減産措置強化を主張するサウジアラビアをはじめとするOPEC産油国との間で妥協点が見出せず、協議は事実上決裂した。ノバク エネルギー相は、新型肺炎と世界石油需給がどのように展開するかにつき把握する必要がある旨の認識を示した(原油価格の下落には多分に投機的要素がある旨発言したと3月6日に伝えられる)と3月6日に伝えられており、この時点でもロシアとしては減産措置強化を判断するにはなお時期尚早であると認識していたことが示唆される(実際3月11日にはロシアのソロキン(Sorokin)エネルギー副大臣が、どの程度石油需要が減少する可能性があるかを関係者が理解するまで(追加の)減産措置の実施は意味がない旨明らかにした他、ロシアの新規減産目標が日量60万バレルと従来から倍増させることを求められたが、それは困難であった旨示唆している)。
(3) 原油価格の動き等
3月5日に開催されたOPEC総会では、2020年6月末までの日量150万バレルの減産措置強化をOPECプラス産油国閣僚級会合に進言する等の内容で合意したが、この時点でロシアによる当該措置強化への合意が得られていなかったことに加え、当該減産措置強化を以てしても2020年第二四半期の世界石油供給過剰感を払拭するには力不足であるかもしれない旨市場関係者から見解が示されたこと、さらに新型肺炎拡大に対する懸念から米国株式相場が下落したこともあり、この日の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり45.90ドルと前日終値比で0.88ドルの下落となった。
ただ、その後OPEC産油国間で日量150万バレルの減産措置の強化期限を6月末から年末まで延長する旨変更したことから、世界石油供給過剰感が市場で後退したこともあり、3月5日夜間(米国東部時間)の時間外取引では、原油価格が上昇する場面も見られた。しかしながら、ロシアの減産措置強化に対する姿勢が不透明であったことに加え、3月5日の米国株式相場下落の流れをアジア市場も引き継いで当該地域株式相場が下落したことから、まもなく原油価格は下落に転じた。
さらに、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置強化に関する協議が事実上決裂し、既存の減産措置も3月末で終了することとなったことにより、この先の新型肺炎による世界経済成長及び石油需要の伸びの鈍化観測と併せ、世界石油需給緩和懸念が市場で強まったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.62ドル下落し、終値は41.28ドルと、2016年8月3日(この時は同40.83ドル)以来の低水準となった。そして、OPECプラス産油国閣僚級会合での協議決裂を受け、サウジアラビアは4月積みの同国産原油の全ての品種につき大幅な値下げを行う旨3月7日に発表した(当初サウジアラビアは自国の4月積み原油価格につき3月5日に決定する予定であったが、OPECプラス産油国閣僚級会合での結果を考慮するため、発表を3月7日に遅延させる旨3月5日に伝えられていた)他、同国は4月に日量1,000万バレルを相当程度超過する(日量1,100万バレル近くの水準とも伝えられる)原油生産を行う(必要とされる場合には日量1,200万バレルにまで増産することもありうる)意向である旨3月8日に報じられるなど、OPECプラス産油国間で原油増産及び値下げ合戦の兆候が見られたことから、石油市場関係者の心理が一層冷え込んだことで、3月9日の原油価格の終値は1バレル当たり31.13ドル2016年2月19日(この時は同29.64ドル)以来の低水準に到達した他、以降も新型肺炎の拡大による世界経済成長及び石油需要の伸びの鈍化懸念を反映し3月中旬においても原油価格は終値ベースで1バレル当たり31~34ドル程度の範囲内で推移している。
また、原油価格の下落を受け、3月8日のサウジアラムコ株式終値価格は1株当たり30リヤルと前取引日(3月5日)終値比で9.09%の下落となった他、3月9日には28.35リヤルと続落、3月15日においても同28.70リヤルとなるなど低迷している。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2019年12月の米国ガソリン需要(確定値)は日量895万バレルと前年同月比で2.6%程度の減少となり(図3参照)、速報値(前年同月比で2.0%程度減少の日量899万バレル)からは若干ながら下方修正された。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量84万バレル程度と推定されるところ、確定値では同104万バレルへと上方修正されたことで、この分がガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。また、12月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.645ドルと前月比では0.048ドル(約1.8%)下落しているものの、前年同月比で0.188ドル(約7.7%)上昇しているうえ、12月の同国の1人当たり実質個人可処分所得が前年同月比で1.3%の伸びにとどまる(因みに2018年12月の当該所得の前年同月比での増加率は3.7%であった)など、米国と中国の貿易紛争による両国の関税賦課合戦等の影響で米国経済成長が伸び悩み気味となっていたことが、ガソリン需要を抑制した結果、同月のガソリン需要が前年同月比で減少したものと考えられる。他方、2020年2月の同国ガソリン需要(速報値)は日量901万バレル、前年同月比で0.5%程度の増加となった。2月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.533ドルと前年同月比では前年同月比では0.140ドル(約5.9%)上昇しているものの、前月比では0.103ドル(約3.9%)とそれなりに下落していることに加え、2月の米国非農業部門雇用者数が前月比で27.3万人の増加と市場の事前予想(同17.5万人増加)を相当程度上回る程堅調であったことが、同国の1人当たり個人可処分所得が低迷していると見られる(2020年1月の同国実質個人可処分所得が前年同月比で1.7%の伸びにとどまった(因みに2018年12月は同2.7%の増加であった)流れを2月も引き継いだと見られる)ことを相殺した格好となったことが背景にあるものと考えられる。他方、米国では、春場の製油所メンテナンス作業が実施されていたことに加え、2月中旬等においてテキサス州やルイジアナ州の製油所でのガソリン製造関連装置を含む施設で不具合が発生した結果、稼働及び原油精製処理量が伸び悩む(図4参照)とともに、ガソリンの製造活動も不活発化した(ガソリン最終製品の生産量は図5参照)ことから、2020年2月上旬から3月上旬にかけ同国のガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図6参照)。
2019年11月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量390万バレルと前年同月比で2.9%程度の減少となったが、速報値である日量372万バレル(同7.5%程度の減少)からは上方修正された(図7参照)。12月の米国の鉱工業生産が前年同月比で約0.9%の減少となる(因みに2018年12月のそれは同3.8%程度の増加であった)など同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で0.8%の減少となった(因みに2018年11月の同国物流活動は前年同月比で2.9%の増加であった)ことが、留出油需要に負の影響を及ぼしたものと考えられる。また、2020年2月の留出油需要(速報値)は日量393万バレルと前年同月比で9.2%程度の減少となった。同月は、米国で寒波が来襲した結果一時気温が平年を下回る程冷え込んだことにより、暖房用石油製品需要がそれなりに堅調ではあったと見られるものの、2020年1月の同国鉱工業生産が前年同月比で0.8%の減少となり(因みに2019年1月の同国鉱工業生産は前年同月比で3.6%の増加であった)、その影響を受け同国の物流活動が鈍化した流れが2月にも引き継がれたものと見られる(因みに2020年1月の同国の物流活動は前年同月比で1.0%の減少となったが、2019年1月は同5.5%の増加であった)ことが物流部門での軽油需要を抑制したものと見られる。ただ、そのように留出油需要は低迷していたものの、製油所での春場のメンテナンス作業実施や一部装置での不具合等発生により稼働が伸び悩んだことが留出油生産に影響した(図8参照)他、2020年1月に入り米国の留出油在庫が一時平年幅上限を超過するほどに増加したこともあり、米国での留出油価格が欧州のそれを相当程度下回ったことで、米国からの留出油輸出が活発化したことから、2月上旬から3月上旬にかけての同国の留出油在庫は減少傾向となったが、平年幅の上限付近に位置する量となっている(図9参照)。
2019年12月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.1%程度減少の日量2,029万バレルとなった(図10参照)。ガソリン及び留出油需要が前年同月比で減少したものの、エタン及び石油コークスを含むその他の石油製品の需要が前年同月比で増加したことが相殺した結果、同国石油需要が前年同月比で微減にとどまることとなった。ただ、エタンについては、2019年にかけ米国でエタン分解装置の建設が進んだこともあり、年末を控え原料であるエタン在庫積み増しに向けた当該製品購入増加幅が拡大した可能性がある他、石油コークス需要(前年同月比で日量11万バレル増加)にいては、月によって増減にばらつきが見られることから、当該需要が持続的な増加傾向を示しているわけではない可能性があるうえ、2018年12月の需要が前年同月比で相当程度(同日量11万バレル)減少した反動が2019年12月の増加になって現れている可能性がある点に注意が必要であろう。また、その他の石油製品需要が速報値(日量406万バレル)から確定値(同394万バレル)に移行する段階で下方修正されたことが一因となり、当該需要も速報値(日量2,032万バレル、前年同月比0.1%程度の増加)から下方修正されている。他方、2020年2月の米国石油需要(速報値)は、日量2,051万バレルと前年同月比で1.6%程度の増加となった。ガソリン需要が前年同月比でほぼ変わらず、留出油需要が大幅減少となった一方で、プロパン/プロピレン需要が増加したこと(原油価格の下落に従ってプロパン価格水準も低下したことから、石油化学部門向け需要が刺激された可能性がある)に加え、その他の石油製品の需要が増加したことが、同国石油需要の前年同月比での増加に寄与しているものと見られる。ただ、2月のその他石油製品の需要は日量415万バレルと前年同月比で同64万バレルの増加となっているが、過去の実績(2019年1~12月の1年間(確定値)で日量351~422万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、米国の原油生産量が概ね一定の範囲内で推移した一方で、春場のメンテナンス作業実施に加え一部装置に不具合が発生したこともあり、製油所での原油精製処理が進まなかったことから、原油在庫は2020年2月上旬から3月上旬にかけ増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は続いている(図11参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっている一方で、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過していることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図12及び13参照)。
2020年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州では3月以降の春場のメンテナンス作業実施を控えて地域の製油所が原油の受け入れを手控えたと見られることから原油在庫が減少した他、日本においても、暖冬による暖房用石油需要の不振や物流効率化等による軽油需要の伸び悩み等で1月までの石油需要が軟調であったこともあり2月の製油所での原油精製処理活動が鈍化するとともに原油購入が減速したと見られることから、原油在庫は減少した。しかしながら、米国で原油在庫が増加したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する状態は継続している(図14参照)。石油製品については、米国ではガソリン、留出油及び需要が比較的堅調であったプロパン/プロピレンの在庫が減少したこともあり石油製品全体の在庫水準も低下した。また、欧州でも製油所での原油精製処理活動が若干ながら減速したことにより石油製品の生産が鈍化したと見られる結果石油製品在庫が微減となった他、日本でも製油所での稼働低下が石油製品の生産に影響を及ぼしたと見られる他、暖冬とはいえある程度の冬場の暖房用石油製品需要は発生していたことから、灯油を中心として幅広く石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが、量としては平年幅上方付近に位置する量となっている(図15参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図16参照)。なお、2020年2月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は63.2日と1月末の推定在庫日数(63.3日)から若干ながら減少している。
2月12日に1,300万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、2月19日には1,300万バレル半ば程度の量へと増加した。また、2月26日は1,200万バレル台後半程度の水準へと低下したものの、3月4日には1,400万バレル台前半程度、そして3月11日には1,400万バレル台半ば程度の量へと増加している。1月23日に中国政府が新型肺炎の拡大に伴い武漢を封鎖したこと等により、同国での乗用車による移動が大幅に制限されたことで国内ガソリン需要が低迷したこともあり、同国からシンガポールへのガソリン輸出が増加したことが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そしてシンガポールでの軽質留分在庫増加に加え、中国内外での新型肺炎の拡大による乗用車による往来とガソリン需要の鈍化観測がアジア市場でのガソリン価格を圧迫した結果、概ね2月中旬から3月上旬にかけては、アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小傾向を示した。しかしながら、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で減産措置強化に関する協議が決裂したことにより、既存の減産措置も3月末を以て終了することになったことを受け、原油相場が急落したことにガソリン価格の下落が追い付かなったこともあり、3月中旬突入直前以降ガソリンとドバイ原油の価格差は持ち直す格好となっている。
ナフサについては、概ね2月から4月にかけてアジア地域の石油化学産業におけるナフサ分解装置がメンテナンス作業等を実施したことに伴いナフサ需要が抑制されたことがアジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えたものの、サウジアラビアやUAE等中東地域での製油所のメンテナンス作業実施(1月13日~2月29日でSATORP(Saudi Aramco Total Refining and Petrochemical: Saudi Aramcoが62.5%出資、Totalが37.5%出資)が操業するジュベイル(Jubail)製油所(原油精製処理能力日量23万バレル)、1月15日~3月14日にYasref(Yanbu Aramco Sinopec Refining: Saudi Aramcoが50.0%出資、Sinopecが50.0%出資)が操業するヤンブー(Yanbu)製油所(同40万バレル)、2月17日~3月16日にクウェート国営石油会社KNPCが操業するミナ・アル・アマディ(Mina Al-Ahmadi)製油所(同17万バレル)、3月3~28日に、Saudi Aramcoが操業するラス・タヌラ(Ras Tanura)製油所(同33万バレル)が、それぞれメンテナンス作業実施により操業を停止しているとされる他、UAEのアブダビ国営石油会社ADNOCが操業するルワイス(Ruwais)製油所(同84万バレル)も3月から4月第一週にかけメンテナンス作業を実施すると伝えらえる)により、中東地域からアジア地域に向けナフサの供給が低下していることが、ナフサ価格に上方圧力を加えたことで相殺されて余りあったことに加え、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置強化に関する協議決裂後の原油価格の大幅下落にナフサ価格のそれが追い付かなかったこともあり、2月中旬から3月中旬にかけてはナフサとドバイ原油の価格差(この場合従来ナフサ価格がドバイ原油のそれを下回っていた)は下回る程度を縮小したうえ、3月中旬にはナフサとドバイ原油の価格はほぼ同水準となっている。
2月12日には1,100万バレル後半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、2月19日も1,100万バレル台後半程度の水準であった。また、2月26日には1,100万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、3月4日には1,200万バレル弱の水準へと回復した。ただ、3月11日には再び1,100万バレル台半ば程度の量へと減少するなど、シンガポールの中間留分在庫は比較的限られた範囲で推移している。新型肺炎が拡大していることで国内での軽油やジェット燃料需要が低迷している中国からの輸出を含め、シンガポールの中間留分輸入は堅調であったものの、例えば軽油価格が下落してきたこと(後述)で、周辺諸国等の需要が刺激される格好となったことにより、シンガポールからの中間留分輸出が活発化する場面が見られたことが、当該在庫の増加を抑制しているものと考えられる。そして、シンガポールでの中間留分在庫は必ずしも増加傾向を示しているわけではないものの、新型肺炎拡大により、この先も中国内外において産業活動や人及び物の往来が制限されることで軽油やジェット燃料が抑制されるとの観測が市場で強まったことが、例えば、アジア市場での軽油価格に下方圧力を加えた結果、軽油とドバイ原油価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、概ね2月中旬から3月上旬にかけ、縮小する傾向を示した。しかしながら、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で減産措置強化に関する協議が決裂したことで原油価格が急落したことに軽油価格の下落が追い付かなかった結果、3月中旬直前以降軽油とドバイ原油の価格差は拡大する場面も見られた。
2月12日には2,200万バレル強の水準であったシンガポールの重油在庫(高硫黄のものが中心と見られる)は、2月19日には、2,400万バレル台前半程度、2月26日には2,500万バレル弱程度、そして、3月4日には2,600万バレル強程度の量へと増加した(また、シンガポール近海における低硫黄のものを中心とする重油の洋上在庫量も増加していると推定される旨3月5日に伝えられる)。3月11日には2,500万バレル弱の水準へと低下しているものの、それでも2月12日の量を相当程度上回っている。1月24日以降の中国での春節に伴う休日に加え新型肺炎拡大により産業及び輸送活動が低迷したことに伴いこれら部門向けの重油需要が影響を受けたことが、在庫を増加させたものと考えられる。ただ、1月1日に発効した国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制強化(重量比で3.5%から0.5%に引き下げ)により、製油所からの高硫黄重油供給が減少する一方硫黄除去装置を設置した船舶等からの高硫黄重油需要はそれなりに発生していたことで、当該製品需給の引き締まり感が市場で根強かったことが当該重油価格を下支えしたうえ、原油価格の下落に重油のそれが追い付かなかったこと(特に3月6日のOPECプラス産油国閣僚級会合において減産措置強化の協議が決裂したことによる原油価格の急落時はその傾向が顕著になった)に加え、重油価格の下落により多少なりとも需要が刺激される格好となったことから、例えば、シンガポールでの高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は2月中旬から3月中旬にかけ縮小する傾向を示した。
3. 2020年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場等の状況
2020年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場では、2月中旬は、ベネズエラ産原油取引を巡り米国がロシア国営石油会社ロスネフチの関係会社等に制裁を科する旨発表したことや、リビアでの内戦を巡り和平協議が中断したこと等が原油価格に上方圧力を加えたこともあり、原油価格(WTI)は1バレル当たり50ドル台前半で推移していたが、2月下旬以降は、新型肺炎が中国国外で拡大する様相を呈し始めたことにより、世界経済成長と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったことから、原油価格は下落傾向となり、2月25日から3月5日にかけて概ね40ドル台後半を中心とする領域へと価格変動範囲を切り下げた。また、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において減産措置の強化に関する協議が決裂したことにより、3月末を以て既存の減産措置も終了、4月1日以降は各々の産油国の意志で自由に原油生産を行うことが可能になったこと、さらにはサウジアラビアやロシアが原油販売価格引き下げや増産方針を明らかにしたことから、世界石油需給緩和感が市場で強まった結果、原油価格は急落、3月9日には1バレル当たり31.13ドルと2016年2月19日以来の低水準に到達した(図17参照)。
2月17日は米国ワシントン大統領誕生記念日による休日によりこの日の終値は計上されなかったが、2月18日には、米国IT大手アップルが、中国での新型肺炎の拡大による事業の遅延と需要の鈍化により2020年1~3月期の売上高が当初見通しに到達しない可能性がある旨示唆したこともあり、米国株式相場が下落したことが、原油価格に下方圧力を加えた反面、2月18日に米国財務省が、ベネズエラ国営石油会社PDVSAと取引を行ったとして、ロシア国営石油会社ロスネフチ(Rosneft)の関係会社ロスネフチ・トレーディングと同社のカシミロ(Casimiro)会長に対し制裁を科する(但し5月20日までの猶予付き)旨発表したことで、ベネズエラ産原油が世界石油市場からさらに排除されることによる石油需給引き締まり感を市場が意識したうえ、米国でLyondell Basellの操業するヒューストン製油所(原油精製能力日量26.38万バレル)、Marathonの操業するガスベストン・ベイ(Galveston Bay)製油所(同58.5万バレル)、Shellの操業するコンベント(Convent)製油所(同21.127万バレル)のガソリン製造関連装置が前週末に稼働を停止した旨2月18日に報じられたことで、米国ガソリン先物価格が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日(2月18日)の原油価格は前週末終値比で変わらず終値は1バレル当たり52.05ドルとなった。ただ、2月18日に米国財務省がロスネフチ・トレーディングと同社会長に対し制裁を科する旨発表したことでベネズエラ産原油が世界石油市場からさらに排除されることによる石油需給引き締まり感を市場が意識した流れが2月19日にも引き継がれたことに加え、リビアのトリポリを拠点とする統合政府(国連が支援)のシラージュ首相が、2月17日にトリポリの港湾が攻撃されたとして、対立する同国東部トブルクを拠点とする暫定議会を支援するハフタル将軍を指導者とする「リビア国民軍(LNA)」との和平協議を中断する旨2月18日に表明したと同日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことで、既に大幅に減少(2019年平均日量120万バレルが2月18日時点で日量12万バレルに)していた同国の原油生産低迷が長引くとの観測が市場で増大したこと、中国政府が2月20日に政策金利を引き下げるとの観測が市場で発生したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日(2月19日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.29ドルと前日終値比で1.24ドル上昇した。2月20日には、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(2月14日の週分)で原油在庫が前週比で42万バレルの増加と市場の事前予想(同250~320万バレル程度の増加)程増加していなかった他、ガソリン在庫が同197万バレルの減少と市場の事前予想(同20~44万バレルの増加)に反し減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.49ドル上昇し、終値は53.78ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2020年3月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2020年4月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり53.88ドル(前日終値比0.39ドルの上昇)であった)。この結果原油価格は2月19~20日の2日間で併せて1バレル当たり1.73ドル上昇した。しかしながら、2月21日には、新型肺炎が中国以外にも拡大している旨明らかになりつつあることにより世界経済成長に対する懸念が市場で広がったうえ、2月21日に英国金融情報サービス会社IHS Markitから発表された2020年1月の米国総合購買担当者指数(50が好況不況の分岐点)が49.6と2013年10月(この時は49.6)以来の低水準となったこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格(2月21日)は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル下落し、終値は53.38ドルとなった。
2月24日には、中国国外での新型肺炎の感染例や死者が増加していることで、世界経済成長に対する懸念が市場でさらに拡大したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.43ドルと前週末終値比で1.95ドル下落した。2月25日も、この日米国疾病対策センター(CDC)が、新型肺炎感染が中国以外の国・地域に拡大していることにより米国民に対しても日常生活に混乱が生じる恐れがあるとして自国での新型肺炎感染の発生に向け準備するよう注意を喚起したことにより世界経済成長減速に対する懸念が市場で一層増大したこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり1.53ドル下落し、終値は49.90ドルとなった。2月26日も、新型肺炎が世界各国・地域に広がりつつあることで、米国大手金融会社ゴールドマン・サックスが2020年の世界石油需要の伸びを日量120万バレルから同60万バレルへと下方修正したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり48.73ドルと前日終値比で1.17ドル下落した。また、2月26日夜(米国東部時間)に米国CDCが、同国カリフォルニア州で新型肺炎の感染経路の確認できない患者1名が確認された旨発表したうえ、同州のニューサム知事が2月27日午前(米国西部時間)までに33名が新型肺炎の検査で陽性反応を示した他、アジア地域から帰国した8,400名余りにつき経過観察を行っている旨明らかにしたことに加え、2月26日午後遅く(米国東部時間)に米国IT大手マイクロソフトが新型肺炎の影響で2020年1~3月期の売り上げ見通しを下方修正したこともあり2月27日の米国株式相場が下落した(米国ダウ工業株30種平均は前日比1,190.95ドル下落で過去最高の下落幅)ことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.64ドル下落し、終値は47.09ドルとなった。2月28日も、この日WHOが新型肺炎の世界的感染拡大リスクをこれまでの「高い」から最高水準である「非常に高い」に引き上げたことにより世界経済成長と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で強まったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり44.76ドルと前日終値比で2.33ドル下落した。この結果原油価格は2月24~28日の5日間で併せて1バレル当たり8.62ドルの下落となった。
ただ、2月28日午後(米国東部時間)に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、経済活動を支援するための方策を利用し適切に行動する旨表明したうえ、3月2日に日本銀行が潤沢な資金供給と金融市場安定化確保に努める旨発表したことに加え、英国イングランド銀行も金融安定化のために必要とされる措置を実施するべく準備する旨示唆した他欧州中央銀行(ECB)も同様の趣旨を表明したことで、世界主要国・地域による協調金利引き下げに対する期待が市場で増大したこともあり、3月2日の米国株式相場が上昇したことに加え、OPECプラス産油国間で日量60万バレルの減産措置強化案につきロシアが検討している旨3月2日に同国のノバク エネルギー相が明らかにしたことで、OPECプラス産油国間での減産措置強化合意と世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日(3月2日)の原油価格の終値は1バレル当たり46.75ドルと前週末終値比で1.99ドル上昇した。また、3月3日も、この日開催されたJTCで、2020年1月1日より実施している減産措置(当初は3月31日が期限)を2020年末まで延長するとともに、2020年第二四半期については日量60~100万バレル程度減産措置を強化することをOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合に進言することを承認した旨同日伝えられたことにより、OPECプラス産油国会合等での減産措置強化の決定への期待と世界石油需給引き締まり観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.43ドル上昇し、終値は47.18ドルとなった。しかしながら、3月4日には、この日開催されたJMMCで、サウジアラビアが日量120~150万バレル程度の減産措置強化案を主張したとされるのに対し、ロシア側が現状の減産措置を2020年第二四半期末まで延長する案を主張したことで、3月5~6日に開催される予定であるOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合での合意に対し悲観的な見方が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり46.78ドルと前日終値比で0.40ドル下落した。また、3月5日も、この日開催されたOPEC総会で、2019年12月6日に決定した2020年3月末までの減産措置を2020年末まで延長する他、2020年6月末にかけ合計で日量150万バレルの減産措置の強化を実施することにつき、3月6日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合に進言することで合意したものの、この時点ではロシアの合意が得られていなかったことから、当該合意の有効性につき疑問視する見方が市場で発生したことに加え、新型肺炎感染拡大による世界経済成長と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.88ドル下落し、終値は45.90ドルとなった。さらに、3月6日には、この日開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、OPEC産油国が提案した2020年末までの日量150万バレルの減産措置強化につき、ロシアが受け入れを拒否したことで、2020年1月1日より実施していたOPECプラス産油国による減産措置が3月31日を以て終了することになったことにより、この先の世界石油需給の緩和感の増大を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり41.28ドルと前日終値比で4.62ドル下落した。この結果原油価格は3月4~6日の3日間で併せて1バレル当たり5.90ドルの下落となった。
3月9日も、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合での交渉決裂を受け、サウジアラビアが4月積みの同国産原油の全ての品種につき大幅な値下げを行う旨3月7日に発表した他、同国は4月に日量1,000万バレルを相当程度超過する(日量1,100万バレル近い水準とも伝えられる)原油生産を行う(必要とされる場合には日量1,200万バレルにまで増産することもありうる)意向である旨3月8日に報じられたことで、世界石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、ロシア最大手石油会社ロフネフチが4月以降増産を実施、1~2週間以内に日量30万バレル程度原油生産量を増加させることが可能である旨3月9日に報じられたことで、産油国間での増産及び値下げ競争激化に対する市場の観測が増大したこと、3月9日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが2020年の世界石油需要見通しを日量107万バレル下方修正したことにより、同年の石油需要が前年比で日量9万バレルの減少と2009年(この時は同104万バレルの減少)以来の減少となると予想している旨判明したことから、この日(3月9日)の原油価格の終値は1バレル当たり31.13ドルと2016年2月19日(この時は同29.64ドル)以来の低水準となった他、前週末終値比で10.15ドル下落、そして下落率は25%と1991年1月17日(この時は湾岸戦争が開始された日であるが、原油価格は前日終値比で33%下落した)以来の大幅なものとなった。しかしながら、3月10日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月9日夕方(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が給与税減税につき同国議会と協議する意向である旨報じられたことで、新型肺炎の拡大による米国の経済成長減速に対する市場の懸念が後退したこともあり、同国株式相場が上昇したこと、大手国際石油会社シェブロンをはじめとする米国石油会社が原油価格の大幅下落に直面したことで、投資削減を検討している旨3月10日に報じられたことで、この先の同国のシェールオイル等の生産の伸びが鈍化するとの観測が市場で発生したこと、ロシアのノバク エネルギー相が、石油市場安定化に向けOPEC産油国と協力することを排除したわけではなく、OPECプラス産油国による次回会合は5~6月に開催される予定である旨示唆したことで、OPECプラス産油国による減産措置復活に対する期待が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.23ドル上昇し、終値は34.36ドルとなった。ただ、3月11日には、サウジアラビアが4月の原油生産量を日量1,230万バレルへと引き上げる旨サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)が3月10日に表明したうえ、サウジアラビア エネルギー産業省がサウジアラムコに対し現在の同社の原油生産能力である日量1,200万バレルを同1,300万バレルへと増強するように指示した旨ナセル氏が明らかにしたと3月11日に報じられたうえ、UAEも4月の原油生産量を日量400万バレル超とする他、同国の原油生産能力の同500万バレルへの拡大を加速する旨3月11日にアブダビ国営石油会社(ADNOC)のアルジャベル(al-Jaber)CEOが発表したことで、世界石油供給過剰感の強まりを市場が意識したことに加え、3月9日夕方(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が大規模景気刺激策を明らかにすべく3月10日に記者会見を実施する旨発表していたにも関わらず、3月10日夕方に行われた記者会見に大統領は出席せず、ペンス副大統領が新型コロナウイルス肺炎拡大に対処するための経済対策を議会に提示した旨説明したものの、詳細に関する情報がなかったことに加え、3月11日に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス肺炎に関し世界的大流行(パンデミック)を宣言したことで、市場の米国経済に対する楽観的な見方が後退したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日(3月11日)の原油価格の終値は1バレル当たり32.98ドルと前日終値比で1.38ドル下落した。また、3月11日夜(米国東部時間)に、米国のトランプ大統領が演説を行い、新型肺炎拡大に対する対応策を発表した際、英国を除く欧州から米国への入国を3月13日深夜より30日間停止する他、同日米国国務省が自国民に対し外国への渡航自粛を呼びかけたことから、欧米間等での往来の鈍化による米国経済等への影響に対する懸念が市場で増大したことに加え、同日夜の演説でトランプ大統領が流動性を確保することで経済活動支援を行う方針である旨表明したものの、新型肺炎対策としては不十分との見方が市場で発生したこともあり、米国株式相場が大幅下落したことに加え、サウジアラビアが従来ロシア産原油を受け入れていた欧州各国等の石油会社に対しロシア産原油の受け入れを削減させるべく自国産原油の販売攻勢を強めている旨3月12日に報じられたことで、サウジアラビア及びロシア等による原油販売及び値引き合戦激化に対する観測が市場で増大したことから、この日(3月12日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.48ドル下落し、終値は31.50ドルとなった。この結果原油価格は3月11~12日の2日間で併せて1バレル当たり2.86ドル下落した。そして、3月13日には、これまでの下落に対する値頃感から買い戻しが発生したことで米国株式相場が上昇したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.23ドル上昇し、終値は31.73ドルとなっている。
4. 原油市場における注目点等
石油市場における注目点としては、地政学的リスク要因も挙げられるが、短期的には、新型肺炎の拡大による世界経済成長及び石油需要の伸びへの影響、そしてOPECプラス産油国による増産及び原油価格引き下げ合戦の行方、といったところが、より強く市場で意識されることになろう。
新型肺炎については、3月11日にWHOがパンデミックを宣言した他、米国のトランプ大統領は3月13日午後遅くに全米に対し非常事態を宣言した。そして、現時点では、新型肺炎が地域的・規模的にどこまで拡大するか、また、どの時期まで拡大するかについては、不透明感が強く、この面で世界経済成長及び石油需要への伸びへの影響を算出するのは困難な状況である(従って、現時点で金融機関等から世界経済成長及び石油需要の伸びへの影響に関する分析結果が発表されたとしてもそれは暫定的なもので、今後新型肺炎拡大具合とともに修正される可能性が高いものと認識すべきである)。従って、当面はこのような不透明感故に世界経済成長及び石油需要の伸びの下振れ懸念で原油相場が抑制される可能性がある。そのような中、新型肺炎に関する治療薬やワクチンの開発状況に関する情報による当該肺炎拡大見通しに加え、新型肺炎の拡大状況と世界経済成長への影響に対する市場関係者等による見解等によって、原油相場が変動することもありうる。また、米国、英国、欧州、日本及び中国等による、金融緩和措置を含めた景気刺激策の表明もしくは実施等で、一時的にせよ世界経済成長と石油需要の伸びに関する悲観的な見方市場で後退することにより、原油相場が浮揚する場面が見られることも予想される。
3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合は、2020年末までの日量150万バレルの減産措置強化案に関する協議が決裂し、既存の減産措置についても3月末を以て終了する、という結果となった。そして、3月10日にはロシアのノバク エネルギー相が、同国は近い将来最大で日量50万バレル増産することが可能であるものの、原油市場安定化に向けOPEC産油国との協力を排除しない旨発言(同日にはロシア大統領府のペスコフ報道官も協議再開の可能性を否定していない旨発言している)、3月11日には、3月18日に実施される予定であるJTCには代表を派遣する方針である旨表明した。このように、ロシアがOPEC産油国に対し協議再開を拒否するものではない旨の姿勢を表しているのに対し、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、3月10日に、単にOPECプラス産油国が合意できないことを確認するだけであれば、(JTCで)協議しても無駄である旨明らかにしている。また、ロシア側も3月10日にペスコフ氏が原油価格の乱高下はしばらく継続する可能性があるが、そのような乱高下は予期されていたものであり織り込み済みである他、自国の対外資産は如何なる一時的な市場の不安定性に対して十分耐えうるものである旨発言している。他方、当初サウジアラビアは4月の原油生産量を日量1,000~1,100万バレルとする方針である旨3月8日に伝えられた(同1,100万バレルに近い生産量とするとも伝えられる)が、3月10日にはサウジアラムコのナセルCEOが4月の原油生産量(因みに2月の同国の原油生産量は日量968万バレルであった)を日量1,230万バレルに引き上げる旨表明した他、サウジアラビア エネルギー省がサウジアラムコに対し足元日量1,200万バレルの原油生産能力を同1,300万バレルに引き上げるよう指示した旨3月11日に同CEOが明らかにしている(但し達成期日は明示されていない)。さらに、サウジアラビアはロシア産原油の主な販売先である欧州の石油会社に対し1バレル当たり25~28ドル程度で原油を販売(着地ベース)するなど販売攻勢を強めるとともに、欧州における原油販売シェアをロシアから奪う姿勢を示している旨3月13日に報じられる(大手国際石油会社であるBPやTotal、イタリア大手石油会社ENI、アゼルバイジャン国営石油会社Socarは、4月のサウジアラビア産原油の追加購入を行った旨3月13日に伝えられる)他、3月18日に予定されるJTCについてもサウジアラビアは出席しない方針である旨3月13日に報じられる。加えて、3月11日には、UAEも4月の原油生産量を日量400万バレル超(因みに2月の同国原油生産量は同304万バレルであった)へと引き上げる他、2030年の達成としていた日量500万バレルへの原油生産能力増強期限を前倒しする旨示唆した(但し実際には期限は明示されていない)。また、ロシア側は3月12日にノバク エネルギー相が同国石油会社との間で会合を実施したものの、OPEC産油国との間での協調減産復活については議論されなかった旨同日同国石油会社ガスプロムネフチのデュコフ(Dyukov)CEOが明らかにするなど、少なくとも短期的には、サウジアラビア及びUAE等と、ロシアとの間では、原油生産調整を巡り和解するといった状況ではないことが窺われるため、しばらくはOPECプラス産油国間での増産及び原油価格引き下げ合戦は継続するものと思われる。ただその場合、世界の石油需給が大幅に供給過剰に振れる(現時点での見通しでは、既存のOPECプラス産油国間での減産措置が2020年第二四半期も継続したと仮定した場合でも、当該四半期は世界石油供給が需要を日量140万バレル超過する(表2参照)ものと予想されることから、サウジアラビアが2月の原油生産量である日量968万バレルを4月に日量1,230万バレルとすることにより、4月以降日量260万バレル程度の増産を行う他、同様にUAEが同100万バレル、ロシアが同50万バレル、それぞれ増産することになれば、それだけで当該四半期は供給が需要を日量550万バレル超過、イラク(原油生産能力日量490万バレルに対し2月の同国原油生産量は日量450万バレルであった)等が増産すれば、供給過剰規模は日量600万バレル程度に到達することも想定され、その結果、原油相場に強い下方圧力が加わるといった展開もありうる。ただ、このまま原油価格の低迷が継続すれば、サウジアラビアやロシアをはじめとするOPECプラス産油国には少なからず国家財政収入等に対する影響が発生することから、いずれOPECプラス産油国間では再び原油生産調整の動きが発生するものと見られ、そうなれば、OPECプラス産油国間での減産措置復活と世界石油需給の引き締まり期待が市場で醸成される結果、原油価格に上方圧力が加わり始めるものと考えられる。しかしながら、原油収入減少の影響に耐えられる間は、増産及び原油価格引き下げ合戦が継続することにより、新型肺炎拡大による世界経済成長と石油需要の伸びの鈍化、及び鈍化に対する市場の懸念と相俟って、原油相場が今暫く低迷したままとなるといったことも否定できない。また、石油生産調整に向けた動きがOPECプラス産油国間で発生したとしても、新型肺炎拡大ペースが加速する過程では、どの程度の減産措置を実施すればいいかにつき、意見の調整に手間取る可能性がある他、仮に必要な減産措置算定の目途が立ってきたとしても、それをどのようにOPECプラス産油国間で配分するかに関する協議につき、特にサウジアラビアとロシアとの間で紆余曲折を経る可能性があるため、2016年11月30日に開催されたOPEC総会及び同年12月10日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定されたようなOPECプラス産油国による減産体制の完全復活までには、それなりの期間を要するものと予想される。
他方、原油相場に影響を与える可能性のある地政学的リスク要因としては、まずイランが挙げられよう。2月21日に国会議員選挙(定数290名)が実施され、開票の結果、保守強硬派が圧勝した。このため、既に先鋭化している核問題等を巡る米国との対立が一層強まる結果、米国はイランに対しさらなる制裁等を発動する一方で、イラン、もしくはイランの支援を受ける武装勢力等が中東諸国で米軍が駐留する軍事施設等やペルシャ湾等を航行中のタンカー等の船舶に散発的に攻撃を行う頻度が上昇する可能性がある。既に2月16日にはイラクのバクダッドの米国大使館付近にロケット弾が数発着弾した(死傷者は報告されておらず犯行声明は未発表である)が、3月11日には、バグダッド北方にある、米軍等が駐留するタジ基地に対し18発のロケット弾が着弾した結果、米国軍関係者2名、英国軍関係者1名が死亡した。これを受け、3月12日には、米国国防省が当該攻撃に関与したと見るイラク国内の親イラン武装勢力「カタイブ・ヒズボラ」の拠点(武器貯蔵庫)5ヶ所を空爆した旨発表した(但し米国はトランプ大統領を含め今回の攻撃がイランにより直接指示されたものであるとの判断を控えている)。他方、イエメンでも、2月21日未明に、フーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が首都サヌアからサウジアラビアに向け弾道ミサイルを複数発射したが、サウジアラビアが迎撃した旨同日報じられる(但しフーシ派武装勢力からの犯行声明は未発表である)。今後も同様の攻撃が行われる結果、中東地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる。
また、1月5日には、イランが西側諸国等との核合意で定められているウラン濃縮活動上の制限を撤廃する(但し国際原子力機関(IAEA)との協力体制は維持する)旨表明した。イランは欧州諸国によるイラン経済救済策において進展がなければ90日毎に核合意を逸脱する方向で見直す旨明らかにしており、次回は4月4日前後に判断することになると見られることから、それに向け、欧州諸国とイランとの協議の進展状況を市場が意識すると思われる他、逸脱行為を行うイランに対し核合意に参加する欧州諸国との軋轢が高まる可能性があり、この面でも中東地域での石油供給に対する不安感が市場で強まる結果、原油相場が影響を受ける可能性がある。
リビアでは、トリポリを拠点とする統合政府(国連が支援)のシラージュ首相が、2月17日にトリポリの港湾に攻撃がなされたとして、対立する東部トブルクを拠点とする暫定議会を支援するハフタル将軍を指導者とする「リビア国民軍(LNA: Libya National Army)」との和平協議を中断する旨2月18日に表明したと同日午後遅く(米国東部時間)に報じられるが、当該和平協議は2月20日に再開している。しかしながら、1月18~19日に同国の油田関連施設がLNAの指示により封鎖等されたことから、原油生産は減少し続け、3月11日時点で日量9.7万バレルとなっている旨同日リビア国営石油会社NOCが明らかにするなど、同国では日量100万バレル強の原油供給減少が長期化しつつあり、この分だけ、世界石油供給が低下していることから、この面でも原油相場を下支えするものと見られる。
ベネズエラについても、2月18日に米国財務省がベネズエラとの間で原油取引等をしていたとしてロシア国営石油会社ロスネフチの関係会社ロスネフチ・トレーディングとその会長に対し米国内の資産凍結と米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表している他、3月12日にも米国財務省は、2020年1月にベネズエラ産原油取引に関与したとして、ロスネフチの関係会社であるTNKトレーディング・インターナショナルに対し同様の制裁を発動している。このようなことから、ベネズエラ産原油の引き取り及び輸送業務等を行うベネズエラ以外の石油会社等が当該業務に関与することに消極的になる結果、ベネズエラ産原油が事実上世界石油供給体制から排除される可能性が高まることにより、この面でも石油需給引き締まり感が市場で発生するとともに、原油相場を支持する方向で作用するものと見られる。
また、イラクでは、2019年10月1日以降に発生した大規模反政府デモと国内混乱の責任を取って辞任の意向したアブドルマハディ首相(2019年11月29日に事実上の辞意表明、12月1日に国会で辞任承認、現在は暫定首相)の後任として2月1日に首相候補として指名されていたイラクのアラウィ元通信相が組閣を断念し首相候補を辞退する旨3月1日夜(現地時間)に発表したことから、同国では政治的空白が生じる恐れが発生している。そして、このような状態が長引くようだと、政治、経済、及び治安面等でイラクが不安定となり、例えば同国南部油田地帯での抗議行動が激化したり、テロリストによる攻撃が発生しそれを防御しきれなかったりする結果、同国からの石油供給に支障が生じるとの不安感が市場で増大することにより、原油相場を押し上げるといった展開が見られることも否定できない。
このように、前述の通り、イラン等を巡る地政学的リスク要因次第で原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性はあるものの、市場の焦点は当面新型肺炎の拡大及びOPECプラス産油国の増産による世界石油需給緩和具合といったところであろう。ただ、短期的には新型肺炎終息に向けた見通しに関し不透明感が市場で強いことに加えて、OPECプラス産油国による増産及び原油価格引き下げ合戦は今暫く継続すると見られることもあり、原油相場には下方圧力が加わりやすいものと考えられる。そのような中、米国、欧州、及び中国等の経済指標類や新型肺炎感染の拡大による世界各国・地域経済の減速に対するこれら国・地域の金融緩和措置を含む景気刺激策等により原油相場が変動する可能性がある。
以上
(この報告は2020年3月16日時点のものです)