ページ番号1008718 更新日 令和2年3月26日
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
1969年、アラスカLNGを初受入し、世界初の商業的LNG取引が始まってから50年が経過した。LNG需要は現在も増加の一途をたどっており、再生可能エネルギーのベストミックスエネルギー源として2050年まで市場は拡大を続けるとの予測が大宗を占める。LNG市場は、これまでもサイクリカルな需給変動を繰り返してきたが、今回は、市場構造が変化している点でこれまでとは大きく異なる。ポートフォリオプレーヤーの出現により需要量と生産量のデカップリングが進み、恒常的な供給過剰が発生するようになった。さらに、シェール革命以降、仕向地自由な北米産LNGの出現によりトレーディングが活性化した。市場が成熟することで、LNGのコモディティー化が一気に進展するとともに、これまで上流をコントロールしてきたIOCによる主導から、下流需要家による主導へ変化し、バーゲニングパワーも下流に移動してきている。ここでは、
- 市場構造の変化に大きな役割を果たした欧州ガス市場の概要
- 2018~2020年の世界のLNG需給バランス
- 欧州向けLNGおよびPL(パイプライン)ガスのコスト分析
- 供給過剰が新規/既存液化プロジェクトへ与える影響
- 最近の動向(米中貿易摩擦、新型肺炎ウイルスの影響など)
についてまとめる。
(出所 IEA、GIIGNL、EC、GIE、WM、ICE、BP、Lambert Energy、SIA Energy他)
1. 世界のLNG市場の動き(2019年)と欧州ガス市場が果たした役割
2019年の世界のLNG市場の主なトピックスを以下にまとめる。
- 2019年の世界のLNG貿易量は、2018年の314MTPA(Million Tons Per Annum、百万トン/年)から351MTPAに拡大した。対前年比12.2%、38MTPAの大幅増加。
- 豪州、米国、ロシアでLNG生産急増。40MTPAの新規液化プロジェクトが稼働を開始した。
- 豪州、カタールが世界最大級のLNG輸出国となった。
- LNG液化プロジェクトFIDが世界全体で7,100万トンと、過去最大となった。
- 米国産LNGの日本向け供給が本格化し、4MTPA、55隻を受け入れた。
- 欧州でのLNG受入量が、対前年ほぼ2倍の78MTPAに増加した。
- ロシア産LNGが欧州市場でシェアを拡大した。
この中で特に特徴的な出来事は、「欧州のLNG受入量が対前年2倍に増加」したことである。なぜこのような事象が起こったのであろうか?
現在、LNG市場が遂げている構造的な変化は、(1)ポートフォリオプレーヤーの出現による液化プロジェクトFIDの加速、(2)仕向地自由なアメリカLNGの供給拡大、(3)アジアを中心としたガス需要の高まり、の3点に起因するものであるが、変化の要因を完成させる最後のピースとして、(4)高度に自由化され統合された欧州ガス市場の存在を見逃すことはできない。
昔から欧州に統合的なガス市場が存在していたわけではない。1997年のEU成立以降、1つのヨーロッパのコンセプトの下、各国の国内PLが接続され、戦略的にLNG受入基地が建設されてきた。また、エネルギーセキュリティーを向上させるべく、地下貯蔵設備が増強されてきた。自由化を進め、公平性、透明性の高いガス市場が作り上げられてきた。その結果、欧州ガス市場は、行き先の決まっていないスポットLNGを持ち込むことができる世界で唯一のガス市場となった。その特徴を以下にまとめる。
- 十分なLNG受入能力が整備されている。
- 域内パイプライングリッドが整備されておりある基地に受け入れれば離れた地域にも供給できる。
- 備蓄に不向きなLNGをガスの形で地下貯蔵できる。
- 受入基地、域内パイプライングリッド、地下貯蔵が高度に統合されている。
- リロード設備やLNGバンカリング設備の整備が進んでいる。
- 受入基地、パイプライン、ガス卸市場などへの第3者アクセスが整備されている。
- 域内産ガス、および、ロシア産PLガスを主な供給源とした巨大なガス市場が存在し、TTF、NBPなどガス対ガス価格指標とガス取引市場が確立している。売買の透明性、公平性、柔軟性が確保されている。
2. 欧州のガス需給
(1) 地域別ソース別ガス需給(2018年)
2018年、欧州のガス需要は409MTPA(LNG相当)に上った。天然ガスのオリジンは地域毎に異なる。
- 北西ヨーロッパ(イギリス、ドイツ、フランス、オランダ等)地域は、欧州全体の6割を消費。その内訳は、域内産ガス3割、ノルウェー産PLガス3割、ロシア産PLガス3割、LNG1割。
- 地中海ヨーロッパ(イタリア、ギリシャ等)地域は、全体の2割を消費。その内訳は、ロシア産PLガス4割、LNG2割、北アフリカ産PLガス2割、域内産ガス他2割。
- 中央、東ヨーロッパ(ポーランド、オーストリア、ウクライナ等)地域は、全体の1割強を消費。その内訳は、ロシア産PLガス6割、域内産ガス3割、ノルウェー産ガス1割。
- イベリア半島(スペイン、ポルトガル)地域は、1割弱を消費。その内訳は、LNGと北アフリカ産PLガスがそれぞれ5割弱、ノルウェー産ガスが1割。

(Lambert Energy)

(Lambert Energy)
(2) ロシアからのガス供給
ロシアは、50年以上前から欧州にPLでガスを供給している。
ロシア産PLガスは、アルジェリア産、リビア産PLガスより安価で供給も安定しており、競争力のある価格でマーケットシェアを維持してきた。
欧州向けロシアPLは、ノルドストリーム、ヤマル~ヨーロッパ、ブルーストリーム、ウクライナ経由、フィンランド向けが敷設されており、トルコストリームが2019年1月に運用を開始した。ガスは、ウクライナ経由4割強、ノルドストリーム経由3割、ベラルーシ経由2割で欧州に輸送されている。
2019年10月、年内に完成予定であったノルドストリーム2の最後の建設許可がデンマークから下りたが、その後、米国が自国産シェールLNGの販促を目的に、同プロジェクトの海洋PL敷設企業へ制裁を課した結果、建設は遅延している。物理的な欧州向けロシアPL能力は、これまで建設済みのPLで充足しているが、ノルドストリーム2、および、トルコストリームの完成により、これまで係争の多かったウクライナを迂回することが可能となる。
ロシアからのPLガス供給量はLNG相当で180MTPAに上るが、セキュリティー上の懸念から、欧州委員会はロシア産PLガスへの依存をできるだけ抑えようとしている。それに対してロシアは、LNGによる欧州へのガス輸出を目指すことで欧州市場のシェアを維持しようと苦心している。

(各種資料によりJOGMEC作成)

(各種資料によりJOGMEC作成)

(各種資料によりJOGMEC作成)
(3) 今後のガス需給予測(~2024年)
IEAによると、今後の欧州のガス需要は400MTPA前後で、ほぼ一定と予測されている。一方、欧州のガス輸入量は、毎年37MTずつ増加し、2024年には247MTPAに達する見通しである。これは、消費はフラットであるにもかかわらず、フローニンゲンガス田の停止等により域内生産が3.5%/年で減衰するためである。PLガス輸入量はセキュリティー上、一定以下に制限され、不足分は主にLNG輸入により賄われる見込みである。
なお、ノルウェーは、埋蔵量は十分あるものの、今後のガス開発は、価格の上昇を待ってからの実施と言われている。
また、2017年、30年以上もイギリス地下貯蔵容量の70%を占め、イギリス需要の40%を供給してきたRoughガス田(ヨークシャー東岸から26km南の北海沖にある地下貯蔵施設。ガス送出能力125mcm/dでイギリス需要の70%を供給)が度重なるトラブルのため停止し、イギリスのワーキングガス貯蔵能力は、LNG 34MT相当から10MTに減少した。

(IEA)

(IEA)
国別では、ドイツ、イギリス、イタリア、トルコ、オランダ、フランス、スペインで、欧州全体の3/4を消費する。用途別では、発電用3割、工業用3割、家庭用4割の割合となる見込みである。
2018年の発電用需要については、フランスの原子力高稼働、南ヨーロッパの水力発電増加、トルコの水力、石炭火力増加により、6.7%、10bcm(7.4MTPA-LNG相当)の減少となった。IEAによると、今後ガス発電はほとんど伸びず、2023年以降の原子力、石炭火力閉鎖を考慮しても0.6%/年の微増との予測であった。ところが実際は、ガス価格がそれまでの半分に低下した結果、ガス火力発電所の稼働率が上昇した上、石炭火力発電所からの燃料転換が進んだため、2019年、発電用ガス需要は増加した。
家庭用、商業用需要については、2018年はリニューアブル導入の影響により、対前年1%の減少となった。2019年は温暖な天候の影響で微減となった。
今後、オランダでは、新築家屋のガスグリッドへの接続が禁止される予定で、当初は3~5万件/年、最大20万件/年の切り離しが発生すると予測されている。また、イギリスでは、2025年以降、ビルへのボイラー設置が禁止される。その他の地域では、石油製品からガスへの燃料転換が進行中である。
工業用需要は、2018年は130bcm(96MTPA-LNG相当)で、対前年でほぼ同レベルであった。

(IEA)
(4)欧州のLNG需給(2018年、2019年前半)
2018年、欧州のLNG輸入は49MTPA、全世界の15.4%となり、そのうち、スペイン、トルコ、フランス3か国で55%を占めた。
2019年、欧州のLNG輸入は前年の2倍に急増し、地下貯蔵在庫も上限に近いレベルまで上昇した。これは、ロシア-ウクライナガスPL輸送契約交渉の決裂を懸念するガス価格の先高感があった中、安価なLNGを受け入れてガスを地下貯蔵し、価格高騰後の払い出しを目論み多くのLNGが受け入れられたためである。
欧州は、大西洋、中東地域のLNG供給者から近距離であるため輸送費が低く、北東アジアよりコストメリットがあるため、受入基地容量を確保しているNOCや、ポートフォリオプレーヤーによって、多くのLNGが輸入された。
LNG輸出国別では、カタール3割、ロシア2割弱、ナイジェリア2割弱、アメリカ1割の順番で、以降、アルジェリア、ノルウェー、トリニダードトバゴとなった。

(GIIGNL)

(EC)
3. 世界のLNG需給増減比較(2018→2019年)
2018~2019年の世界のLNG需給増減について以下に比較する。
(供給)
- 2019年の世界のLNG貿易量は、2018年の314MTPAから351MTPAに増加した。対前年比12.2%、38MTPAの大幅増加となった。
- 豪州、米国、ロシアでLNG生産量が急増し、40MTPAの新規液化プロジェクトが稼働を開始した。
- 豪州、カタールが世界最大級のLNG輸出国となった。
- ロシア産LNGが欧州市場でシェアを拡大した。
(需要)
- 欧州のLNG受入量は、対前年比37MTPA増加し、それまでのほぼ2倍の78MTPAとなった。
- 供給増加量のほとんどを欧州、その中でも主要7か国(イギリス、ドイツ、ベルギー、オランダ、フランス、イタリア、スペイン)が吸収した。
- 日本、韓国では、原発の順次稼働等により需要が低下した。
- 中国は、引き続き需要を伸ばしたが、その伸び率は低下した。
- インド、パキスタン、バングラデシュ等は、順調に需要を伸ばし、アジア全体では微増となった。
(バランス)
- 2019年の生産増加量のほとんどを欧州が吸収した。2020年は、もはや欧州地下貯蔵容量の余裕はない。
欧州に大量に受け入れられたLNGは、次の4つの分野に吸収された。
a.ガス火力燃料、b.PLガスの代替、c.域内生産減少分、d.地下貯蔵量の増加。
- ガス火力発電用需要は、安価なガス価格と炭素価格の上昇を背景に、石炭火力発電からの転換が進み増加した。
- ロシア産PLガス受入量は微増となった。
- ノルウェーのガスPLは毎年夏に定期修理を実施している。2019年はガス価格が低かったため、前倒しで定期修理等を実施し生産量が低下した。北海ガス田は他の地域と比べ減退が早く、継続的な投資が必要で開発コストが高いため、ガス価格が上昇した時点で開発を進める戦略を取っている。
- 2019年夏、アルジェリアは7つのPL契約を更改し、更改前の83bcm(61MTPA)から送出量は半減しTOPレベルも引き下げられた。国内需要の増加も影響しているが、Sonatrachは今後アジアへのLNG販売拡大を目指している。
- フローニンゲンガス田のガスイヤー2018(2018/10~2019/9)の生産量は17.5bcmであった(目標19.4bcm)。ガスイヤー2019はキャップが15.4→11.8bcmに引き下げられ、2022年半ばには生産が中止される予定である。
- 2018年末の地下貯蔵容量は100bcm。現在16bcm分の貯蔵可能な施設を建設中である。2019年9月30日、在庫レベルが97%まで上昇し、過去8年間で最高レベルになった。これは、LNGが安価であったこと、ロシア-ウクライナガスPL輸送契約が万一成約しなかった場合を懸念してガス価格に先高感があったことにより、LNGを安価なうちに輸入して地下貯蔵し価格が上昇した際に在庫ガスを販売し鞘を稼ごうとする動きがあったため。現状地下貯蔵は既に高在庫で、今後は昨年ほどには受け入れられない。また、先物価格も先安で、2020年秋の在庫はこれほどにはならない見込み。ちなみに、2019年末、ロシア-ウクライナガスPL輸送契約が無事合意され、供給途絶のリスクは回避された。

(JOGMEC HP)
4. 欧州のLNG受入基地
(1) 概要
2000年代、欧州では多くのLNG受入基地が建設された。2019年時点で、運転中の大型受入基地は29基地(うちFSRU7)、基地能力は212MTPAである。
需要の2/3を占める北西ヨーロッパでは、基地能力自体は充足している。バルカン半島、南東ヨーロッパに若干のボトルネックがあるものの、需要を賄うためには、受入基地やPLガス設備の追加建設は、ほとんどの地域で不要である。今後は、周辺国でのロシア産PLガスへの依存度低減用の受入基地や、スモールスケールLNG基地の建設が計画されている。
EC(European Commission、欧州委員会)は、LNGをロシア産PLガス価格のキャップとして利用している。過去にも、バルト海周辺の各国に補助金を出して受入基地を建設させて、安価なLNGと競わせて、ロシア産PLガスの価格を下げさせた前例がある。現在建設中のクロアチアFSRUも同様な考えで推進されている。
今後、建設の可能性のある基地としては、a.ギリシャ、アレキサンドロポリス、b.ドイツ、c.ポーランドFSRU、d.イタリア、シチリアなどが挙げられている。

(GIE)
(2) Regulated基地とExempted基地
欧州のLNG受入基地は、Regulated基地とExempted基地に分かれている。
Third Party Accessが可能なRegulated基地が基本となる。基地利用料は、Capex、Opex、WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)を考慮して以下の式で決定される。
Capex + Opex + WACC = 基地収入 = 基地利用料 × 基地利用率
ここで、フランスの場合、パイプラインオペレーターにはWACC 5.25%が適用されているが、受入基地の場合は利用者がいないリスクを考慮し、より高い7.25%が認められている。また、当年の基地利用収入損益が、翌年以降の基地利用料に反映されるシステムとなっている。
Exempted基地はMarchant基地とも呼ばれ、基地利用料は、基地所有者と利用者の相対交渉によって決定される。競争を促進する、アンバンドリングに違反しないなどの条件に合えばExemptionが許可される。ちなみに、ECは大枠の規則を提示し、実際の規制は各国の事情を反映して、ある程度の幅を持って行われている。
EUが一つのヨーロッパの原則を踏襲させるために、より一層透明性を増したキャパシティーアロケーションルールをどう作るかが現在課題となっている。クロアチアのカーク基地、ギリシャのアレクサンドリア基地などが、今後この対象となる見込みである。
(3) LNG受入基地利用率
2019年の欧州受入基地全体の利用率は、急激なLNG輸入量増加を受けて50%に上昇した。(ちなみに、それ以前は、全体平均で25%前後であった。例外として、オランダ、ベルギー、フランスの受入基地は、重要なガスハブ、パイプラインネットワークに連係され流動性も高く、2018年の時点でも利用率は7割程度と高かった)
その中でも、稼働率80%以上の基地は、ビルバオ(スペイン)、OLT(Offshore LNG Toscana、イタリア)、ゼーブルージュ(ベルギー)、ロビーゴ(イタリア)、モントワール(フランス)、ゲート(オランダ)であった。
イタリアでは、2019年、OLTが基地容量を開放し、稼動率を高めた。また、その他の基地においても、従来からのガス価格プレミアムに加え、基地利用割当方法を改善したり、基地利用料を引き下げたりして、大幅に利用率を向上させた。
スペインは、ピレネー山脈に阻まれフランスからの国際パイプラインが2本に限定されているため、北西ヨーロッパガスグリッドとは半ば隔離された形となっており、地下貯蔵容量も少ない。ガス価格プレミアムがあるもののガスハブの流動性が低いため、これまで基地稼働率は3割程度と高くはなかった。2020年4月から、利用率を改善すべく、ガスインフラシステムの変更がスタートする。利用者への利便性や契約の柔軟性を向上させるため、北西ヨーロッパ受入基地と規定をほぼ合致させた上、これまでは利用する6基地それぞれと契約が必要だったものを、1回契約を結べば、LNGタンクの空き状況を考慮しながらスペイン国内6基地すべてに荷揚げすることができるシステムに変更される。変更は、2020年10月に完了する予定である。受入量の増加に対応して、休止中のGijon基地の再開も申請されている。
イギリスの受入基地は、カタールガスが主な利用者で、世界各地のLNG市況をみて受入が判断されている。2019年の稼働率は30%程度まで上昇した。Exempted基地であるが、特にアメリカとの相対交渉で基地容量を開放する動きがある。
ベルギーFluxysが運営するゼーブルージュ受入基地は、2019年の利用率が前年の10倍に増加した。カタールと2038年までの長期利用契約を締結したことが反映され、来年以降の基地使用料は大幅な減額となる見込みである。

(EC)
(4) 欧州へのLNG輸送コスト
欧州に対しては、これまではカタールが最大のLNG輸出国であった。2019年、北米産、ロシア産LNGが増加したが、2024年前後からは、さらに北米産LNGの輸入が増加する予定である。その後も、きわめてコスト競争力の高いカタールの拡張が予定されている。ロシアも増産を計画中で、ムルマンスクでの積替が実現すればさらなるコストダウンが可能となる。
さらに、欧州に近い西アフリカ、モーリタニア/セネガルトーチューFLNGプロジェクト、ナイジェリア、トレイン7、東アフリカ、モザンビーク拡張も計画されている。
大西洋地域、中東の液化プロジェクトからは、アジア向けより欧州向けの方が輸送コストが低く、その結果、欧州にLNGが流入する構図となっている。

(Wood Mackenzie、JOGMEC)

(Wood Mackenzie)
5. PLガス価格とLNG価格
(1) 国際PLガス、LNG価格比較(2019年9月)
従来、夏期は世界各地のガス価格が低位で安定し、冬期は、PLガス供給量や地下貯蔵容量が小さいアジア等で上昇する傾向があった。
世界各地のスポットLNG価格の動きは、近年のマーケットグローバル化により同期しつつあったが、2019年、ウィートストン、イクシス、パプアLNGに加え、プレリュードLNG初出荷など、アジア太平洋地域で供給が急速に増加し、かつ、夏期低気温で発電需要もそれほど強くなかったこともあり、アジアのLNGスポット価格は例年以上に低下した。
アジアLNG価格のTTFに対するプレミアムは、昨今の余剰生産量のため減少し、TTFとJKMは以前よりもかなり近いレンジで推移するようになってきている。このため、カーゴは輸送費の低い欧州に振り向けられ、多くのLNGが欧州市場に流入している構図となっているのである。
また、原油価格リンクのアルジェリア産PLガスの価格(スペイン着)は、$7.5/MMBtuと、他ガスの2倍の高価格であった。
2019年10月、日本着スポットLNG価格は、冬期需要を期待して$6/MMBtuに上昇した。これは、TTFと比較して$3/MMBtuも高いレベルであった。
2019年秋までのTTF平均は$3.2/MMBtuであった。また、ロシア産ガスのドイツでの国境渡し価格は、一部油価リンク契約が残っているため、TTF平均より$1/MMBtu弱高くなっている。
一方、米国のHHガス価格は、引き続き低下し、$2.3/MMBtu前後にある。HHに対するTTFのプレミアムレベルも$0.8/MMBtuと6年ぶりの低さとなっている。
(2) LNG価格指標の変遷
伝統的なLNG長期売買契約においては、JCC(Japan Crude Cocktail)等の原油価格を指標とする契約が主流であった。
Henry Hub(HH、アメリカ)、Title Transfer Facility(TTF、オランダ)、National Balancing Point(NBP、イギリス)のように流動性が高いガスハブを指標とできれば、クロスコモディティーリスク(LNG価格の値決めをガス市場価格ではなく、異なる商品、例えば原油を指標とすることで価格差が発生するリスク)を低減し、需給状況をより適切に反映できる。

(EC)
2016年の北米産LNGの出荷以降、アジアでもGas to Gas指標化が増加中であるが、アジア向け輸入LNG価格の7割が引き続き油価連動となっている。
一方、欧州では2010年ごろを境に、ガスハブリンクを含む契約が増加し始めた。欧州輸入LNGの価格指標はGas to Gasの割合が高く、Oilリンク : Gas to Gas = 2 : 1である。ちなみに、アジアでは、Oilリンク : Gas to Gas = 9 : 1となっている。

(IEA)
6. 世界のLNG需給増減比較(2019→2020年)
2019~2020年のLNG需給増減について以下に比較する。収支を取ると、2020年は14MTPAのLNG供給過剰となり、LNG価格下落による若干の需要喚起効果はあったとしても、記録的な需給ギャップが生じることが予測される。
(供給)
- 米国を中心に、23MTPAの新たなLNGの供給が開始される。なお、スタートアップ月とランプアップは考慮していない。
(需要)
- 欧州地下貯蔵は、これ以上の追加貯蔵はできないレベルにある。昨年と同ペースで貯蔵施設に注入した場合、8月には100%に達する計算となる。
- ガス価格低下によって石炭火力の燃料転換が進み、ガス火力発電需要が増加する。CO2排出権が€25/CO2-t、および、最近の低ガス価格であれば、石炭からガス発電への転換が加速する。
- PLガスの増減なし。
- ノルウェー産PLガスは、2019年に引き続き、低ガス価格のため生産量を削減(2019年の定期修理先取り等により生産能力自体は増加)。
- ロシアは、ウクライナとの合意によりPL能力を確保。ノルドストリーム2は2020年に完成がずれ込み、トルコストリームは完成したものの、セルビア-ハンガリー間が未接続であるため能力制限あり。
- 原油リンクで高価格である上、DQT幅が大きいと言われるアルジェリア産PLガスの生産は大きく低下。さらに、国内需要増加により輸出が減少する。
- 中国は新型肺炎の影響により需要が減少する。
- 日本、韓国の需要は低下するが、その他のアジアで需要増加。
(バランス)
- 14MTPAの供給過剰が生じる。
2020年1月以降、暖冬、景気減速、新型肺炎による短期的な要因も重なり、JKMの低下が継続し、下記と同様な論調の報道が、価格を入れ替える形で日々繰り返されている。
「年明け以降、JKMは$5.3/MMBtu程度から日々低下。2月6日(木)には$3/MMBtuを割り、2月14日(金)、2020年3月引き渡し分が、$2.713/MMBtuをつけた。3月引き渡しJKM平均価格は$3.522/MMBtuとJKM開始以来の安値となった。ちなみに、日本の平均輸入LNG価格を示すJLCは、$9.5/MMBtu程度と3倍以上高い。」
北東アジア買主の多くは在庫が高く、スポットLNGの価格が低くても調達できない状況にある。一方、インドでは輸入量が増加し、1月3週間で、15カーゴの買い入札が発行された。(前年同期は4カーゴ)
この状況下で、先に述べた、行き場のない14MTPAのLNGが、生産されることになる。
7. PLガス、LNGのコスト分析
(1) 北米産新規LNGのLRMCとSRMC
次に、北米産新規LNGの北西ヨーロッパ着LRMC(Long Run Marginal Cost)とSRMC(Short Run Marginal Cost)について分析する。
LRMCは、長期的に全ての投資が適正利潤と共に健全に回収可能なコストのことで以下で表される。
LRMC = フィードガスコスト + 液化コスト + 輸送コスト(Capex、Opex)
SRMCは、利益を上げることはできないが、短期的にキャッシュショートすることなく経営を維持できるコストのことで、今回は、最低レベルのSRMCとして液化能力、輸送能力、リガス能力を既に確保しそれらをサンクコストとして考えられるメジャー買主等を想定した。
SRMC = フィードガスコスト + 輸送コスト(Opex)
これに、リガスコスト(LNGがガスとしてTTFに到着するまでのコスト、基地受入、リガス、輸送含む)を加えて、それがTTF以下であれば、欧州へのガス輸入者は利益を得ることができ、TTF以上であれば損失となる。例えば、HHガス価格が$2/MMBtuの場合、北西ヨーロッパ着LNGのLRMCは$5.5/MMBtuとなり、リガスコストを$0.4/MMBtuとすれば、TTFが$5.9/MMBtu以上であれば、利益を得ることができる計算となる。同様に、SRMCは$2.6/MMBtuとなるため、TTFが$2.6/MMBtuであれば、現時点でのキャッシュアウトはなく、当面は出荷を継続できるであろう。
今後しばらくHHガス価格は$2前後で推移すると予測されており、欧州着北米産LNGのLRMCは$6前後、SRMCは$3/MMBtu前後とみることができる。
ここで、実際のLNGの値動きと比較すると、2020年以降のスポットLNG価格はLRMC以下に低下していることがわかる。ただし、2019年以前は、JLC、JKMともこれを上回っている期間が長く、売主は大きな利益をあげていたことになる。今後は、供給過剰が進み、先物価格はさらに低下していくと考えられるが、カタール産、ロシア産LNGのSRMCはさらに低いレベルにあり、競争力が高いことがわかる。

(Intercontinental Exchange、一部修正)

(各種資料によりJOGMEC作成)
(2) 既存液化プロジェクトのブレークイーブン
稼働開始後20年以上が経過し、減価償却が完了したと考えられる液化プラントによって生産されるLNGは全世界生産量の1/3を占めている。
新規液化プロジェクトの場合、設備コストを含め、$5~7/MMBtuが、採算性のブレークイーブンであるが、既存LNG液化プロジェクト(減価償却完了)の場合、液化プラントとLNG船のOpexを中心に、$1~3/MMBtuがブレークイーブンとなる。
既存液化プラントで生産するLNGのうち、世界の長期対スポット短期契約割合に倣い、7割をJCCリンク長期契約で、3割をJKMスポット契約で販売していると仮定した場合、長期JCCリンクで販売している部分からの利益が十分大きいため、スポットLNGをブレークイーブン以下のLNG価格で販売しても、プロジェクト全体としては、赤字にはならないことがわかる。
これが今後のLNG市場にどのように影響するのかを次章で紹介したい。

(BP、JOGMEC改)

(各種資料によりJOGMEC作成)
8. 供給過剰で何が起こるか?
(1) 既存液化プラントの生産継続判断
従来、長期JCCリンク価格は、概ねLRMC以上のレベルにあり、予定IRR以上の利益をあげていたと考えられる。価格改定を重ねるたびにその時点での市況が反映されるため、今後、長期JCCリンク契約も、先行価格指標としてのスポットLNGレベルに追従、低下していく傾向にあるが、収束するまでにはタイムラグがある。
先に述べたように、長期契約を持つ液化プロジェクトは、当面スポットLNGをSRMC以下で販売しても、液化プロジェクト全体としては利益を上げられることになることから、以下の場合(またはそれらの組み合わせ)において、既存液化プラントは市場価格がブレークイーブン以下となっても、スポットLNGの生産を継続する可能性がある。
(条件)
- マーケットシェア拡大戦略を取る場合。
- ガス田資源量制約がない場合。
- ガス資産の環境制約によるストランデッド化を懸念し、早期に生産を開始したい場合。
- カーボンフットプリントの影響を懸念する場合。
- リニューアブル(蓄電池)開発スピードアップを懸念する場合。
- 低コストでデボトルネッキング(稼働開始後、制約となっている液化プラントの一部を改造し生産量を増加させること)できる場合。
- 設計以上の生産ができた場合。(2019年、ヤマルLNGの生産量はネームプレート1,650万t/年を大きく超えて、1,850万t/年となった)
(2) さらに今後起こりうる事態
TTF先物はLRMC以下となっているため、長期的には新規LNG液化プロジェクトが成立しにくいレベルにある。最終買主も、この先のLNG価格がさらに低下するのではと判断すれば、長期契約締結を躊躇する。ただし、TTF先物はSRMCレベルは上回っており、新規液化プロジェクト推進各社はFIDにギリギリの判断を求められ、さながらの我慢比べの様相を呈している。今後起こりうる事態を以下にまとめる。
- 新規液化プラント
- FIDの先送り(長期買い手がつかない)。
- FID時のハードルレートを下げてFIDする。
- ハードルレートがクリアできなくてもFIDする(余剰資金を活用したい場合、マーケットシェア戦略をとる場合)。
- 既存液化プラント
- 大規模追加投資の抑制(バックフィルの追加など)。
- 定修期間の延長、一部メンテナンスの先取りなど。
- 稼働率ダウン。
- 停止(決まった長期買主がいる場合は停止不可。停止は、ホットアップ(設備全体の常温化)、窒素封入、作業員のレイオフ等、また、再稼働時は、作業員集め、クールダウン(設備全体の冷却)、スタートアップ、および、それに付随する申請等、膨大な作業と費用が必要となるため、慎重な判断を要する)。
- LNG船
- LNG船のドリフティング(大西洋における航海中のLNG船数は通常5隻程度であるが、2019年秋、積み込んだものの受入基地が決まっていなかった船を含め最大35隻のLNG船が大西洋上で待機させられた)。

(各種資料によりJOGMEC作成)
(3) LNGをめぐるサイクル
LNG市場が構造的な変化を遂げる一方、従来からのサイクリカルな要因も引き続き残っており、短期的にはこれらのループでLNGの需給、価格が変動している。
- 需要-LNG価格のサイクル
世界のガス需要が活性化すれば、ガス価格が上昇し、液化プロジェクトへの投資も盛んに行われるようになる。すると、LNG生産が増加し、その一部は欧州へも流入する。供給が増加した結果、LNG価格が低下し、再びガス需要を刺激する。
- LNG価格-液化プロジェクト推進のサイクル
ガス価格が、各地域のLNGプロジェクトのLTMC以上であれば、液化プロジェクトが推進され、LNG生産量は増加する。一方、SRMC以下となると、まず、稼働率低下などが発生し、次に、投資回収の見込みが薄くなるため、液化プロジェクトの推進は減速する。
- 原油価格-北米産LNGコストのサイクル
原油価格が低下するとシェールオイル開発が後退し、シェールオイル狙いで随伴ガスとして生産されていたシェールガスの生産が減退すると、HHガス価格が上昇し、それをフィードガスとして使用している北米産LNGのコストが上昇する。逆に、原油価格が上昇すると、随伴ガス生産が増加し、北米産LNGのコストが低下する。
- アジア需要-LNG輸送のサイクル
アジアのガス需要が強ければJKMが上昇し、JKMとTTFの価格差が、$0.6/MMBtu(中東や北米からのLNG輸送費差$1/MMBtuから、欧州着後、TTFに到着するまでの受入、輸送費に相当する$0.4/MMBtuをディスカウントしたもの)を上回ると、アジアへLNGが流入し始める。供給が増加しJKMが低下すると同時に欧州より距離の長いアジアへの輸送需要が増加し輸送費が上昇する。その結果、アジアへのLNG流入が減少する。アジアのガス需要が弱い場合は、欧州にLNGが流入するが、TTFの低下、および、輸送費の低下により、アジアへLNGが流入し、結果として、$0.6/MMBtu付近でバランスする。

(各種資料によりJOGMEC作成)
9. 最近のトピックス
最後に欧州、そして、新型肺炎、貿易摩擦で揺れる中国等のLNG、PLガスをめぐる最近のトピックスについて以下にまとめる。
(1) LNG、PLガスにもESGの波
今年から来年にかけて、欧州委員会から、グリーンディールの一環として、LNGに関するディレクティブが発表される。現在法案審議中。
今後、LNGの取引には、フレアリング、メタンエミッションを含めたライフサイクルでのカーボンフットプリント証書が必要となる。カタールはガス田や液化プラントが大きく効率よく製造されており、他よりグリーンなLNGとなる。シェールLNGは掘削段階でのメタンエミッション量が大きいといわれているが、フリーポートプロジェクトではグリーン電力を使用した液化プラント電動ドライバーの採用、LNGカナダではグリーン電力の使用などが検討されている。ちなみにPLガスは、液化エネルギーが不要であるため、LNGよりもグリーンなガスとなる。
短期的には、最近注目を集めるメタンエミッション等について早急な対応が必要となっている。ドローンを飛ばし、メタンエミッションを定量化する実験も始まっているが、オーディタビリティー、トランスパレンシー、データサーティフィケートを確立するための、MRV(Measureable、Verifiable、Repeatable)と具体的な手段の開発が大きな課題となっている。中長期的には、カーボンフットプリント証明なしのLNGの取引はできなくなるとの意見もある。
また、どうやってデカーボナイズを進めていくかも大きな課題である。今後、OGCI(Oil and Gas Climate Initiative)は$10億ドルの基金を設立しCCUS等のプロジェクトを推進する。メタノール、液化水素に関しても同様の議論が始められている。
現在、ガスはリニューアブル発電までのBridge Fuelとして重要な化石燃料と認識されてはいるが、その積極的利用までがEU内で合意されているわけではない。一般的には、
- 利用できる限り、また、適正な料金で支払える限り、第1にリニューアブル電力を利用する、
- 電化に不向きなトラック燃料や加熱炉などについては、まず、H2、バイオガスを利用する、
- それでもリニューアブルを利用できない場合に限って化石燃料を利用する、
との考え方が大勢を占める。
EIB(European Investment Bank、欧州投資銀行)は、PLガス、LNG設備について、サステイナブルな事業に関するタクソノミー基準を見直し中である。CCS対応、CO2やメタン排出量基準など、どのPLガス、どのLNGがサステイナブルかどうか、グリーンかブラウンかを仕訳けているという。これはガスに限った話ではなく、先日報道されたように、金属の取引についても同様な規制が課される模様である。
英金属取引所にESGの波(日経、1月31日)
英紙フィナンシャルタイムズのニュースレター「モラルマネー」1月29日号は、ロンドン金属取引所(LME)が取引商品に対してサステナビリティー(持続可能性)に関連する情報の開示要請を強めていることを論じた。
昨年、LMEは取引する商品に対する規則を2022年に厳しくする方針を明らかにした。生産過程で児童労働が使われたり、環境を破壊したりした商品を市場から排除するのが狙いだ。LMEは今、温暖化ガス排出量を示す「カーボンフットプリント」の開示を求めるべきかを思案中だ。
ESGの開示規則を強化する方針を打ち出した。
(2) リニューアブルガスの導入拡大
欧州では、リニューアブルガスや水素を既存ガスグリッドにどのようにして導入していくかが課題となっている。
導入量を増やすために、初めは、グリッドアクセスライツという考え方が採用される可能性が高い。これは、導管事業者はリニューアブルガスの受け入れを要請された場合その受け入れを拒否できない、とする考え方である。各社への数量割当制も検討されたが不採用となった。
今後、欧州のガス販売会社には、販売するガス中にどのようなリニューアブルガスがどの程度入っているか、ガス源のサーティフィケートを作ることも求められるかもしれない。
(3) ブレグジットの影響
炭素排出権に関する今年末のブレクジットの影響について、2つの見方がある。
1つは、ブレクジット後、イギリス分の炭素排出権が残留する27か国に再分配されるため、二酸化炭素の排出権価格が低下し、石炭火力からガス火力への転換が減速するとする見方である。
もう1つは、二酸化炭素排出権はこれまでイギリス込みの28か国で運用されてきたが、ブレクジット後は、イギリス分を除き、さらに総排出量のキャップを下げるというものである。従来、イギリスの古い石炭火力発電所のガス火力発電所への転換が最もCO2削減に貢献してきたが、これを除いて27か国を分母として再計算すると、これまでの削減達成量が大きく目減りする。これをリカバーするため、相対的にCO2削減目標を高く設定しなおすのでは、とする見方である。
(4) 米中貿易摩擦、第1次合意の影響
2018年9月24日、中国は米国より輸入するLNGに追加関税10%を課し、2019年6月1日、その税率を25%に引き上げた。中国各社は、売主、および、日本のユーティリティ等との交渉による仕向地変更や、入札による転売を行い、既契約分の米国産LNGの中国への輸入を削減した。この結果、2019年の米国からのLNG輸入量は、わずか7万tにとどまり、前年の215万tを大幅に下回った。
2020年1月15日、米中両国は経済貿易協議第1段階合意文書に調印した。また、中国政府は2月6日に原油への追加関税を2月14日以降2.5%に引き下げると発表した。ちなみに、原油については、2019年9月1日から5%の追加関税が課されたため、2019年の米国からの原油輸入量は635万tと前年レベルからほぼ半減していた。
今回の発表を受けて、2018年末、最終段階(180万t、25年、トーリングフィー$2.25/MMBtu)にあったにもかかわらず貿易摩擦により中断していたシェニエールとSinopecの交渉再開の可能性が報じられた。
その後、3月2日からLNGに関する免税手続き申請の受付が開始された。
(5) 新型肺炎(COVID-19)、中国への影響
これまで中国は世界のLNG需要を牽引してきたが、2017、2018年の対前年比40%増と比較すると、2019年の伸び率は低下してきていた。
LNG輸入量(2018年) 54 MT (対前年比40%増)
(2019年) 60.5 MT (対前年比12%増)
さらに、2020年の中国のLNG需要は、昨年末には68.5MTPA(対前年比4.6%増)と見込まれていたが、新型肺炎以後の2月上旬の見直しでは、最大でも62MT、一部では2019年並みと見る向きもある。主に、工業用、発電用の需要が低下する見込み。
また、2019年の主要な受入基地の稼働率は100%近かったとする情報もあり、新たな受入基地建設が進まないと今後のLNG需要は拡大していかない可能性もある。
(6) CNOOCフォースマジュール宣言
2月上旬、CNOOCは、売主であるシェル、トタールに対し、フォースマジュールを宣言した。1月末、中国国際貿易促進委員会CCPITからの、海外の取引先との契約履行が困難になった企業に対し証明書を発行するとの発表をきっかけとしたものである。シノペックも同様の対応を検討中である。

(SIA Energy)
中国では、新型肺炎に対応して、春節が延長され、工場操業が停止されたため、ガス需要が大幅に低下した。このため、LNG在庫が積み上がり、受入が不可となった。オーストラリアが、中国から来たFOB船の検疫を14日間に延長したことも、これを助長した。
ただし、1月末時点で国内産ガスは計画通り対前年比22%増、1bcm/dで順調に増産中であり、ロシアPL(シベリアの力)からの輸入量も低下していない。
景気減速と暖冬の影響で、以前から在庫がだぶついていたと判断し、Total はこのフォースマジュール適用要請を拒否した、といわれている。
また、ペトロチャイナは、カタールに、配船のリスケジュールおよび仕向地変更を要請し、カタールもこれを了承した。また、新型肺炎による中国国内の移動制限により、全LNG基地をフル稼働させる人員を確保できないことを理由に、複数のカーゴの受入を延期したと言われている。
さらに、2019年に中国向けLNGの46%を出荷した主要売主であるオーストラリアからのLNG船のキャンセルやリスケジュールが多発しており、その一部は、$2.00/MMBtuの破格の安値でスポットLNG市場にオファーされたとの情報もある。
フォースマジュール条文例
売主、買主一方が宣言し他方が合意することにより成立し、権利義務が消滅。多くの場合保険で補償される。
Force Majeure is event or circumstance which deteriorates Seller’s and Buyer’s prudent activities and is not avoidable, cannot be overcome, and cannot be controlled by Seller and Buyer.
- fire, flood, storm, cyclone, and Tsunami;
- epidemics, quarantine restrictions, and freight embargoes;
- strikes;
- war, invasion and terrorist acts; and
- closure of port or change acts by the government.
10. おわりに
- 欧州ガス市場は、世界で唯一高度に統合され自由化されたガス市場である。この存在があってこそ、今般のLNG市場の構造的な変化が成立した。
- この構造的な変化に起因する余剰スポットLNGが、2019年、大量に欧州ガス市場に流入した。
- 2020年は、現状の供給過剰に加え、さらに、行き先の決まっていない14MTPAのLNGが市場に投入される需給バランスとなり、史上初レベルの供給過剰が予測される。
- 現状、スポットLNG価格は$2/MMBtu台後半の安値をつけており、非需要期に向けてさらなる底値を探る展開となる。
- 新規液化プロジェクトのFID延期、既存液化プラントの定期修理延長などの可能性がある。
- 欧州グリーンディール政策のLNGに対する影響、新型肺炎の推移についても注視が必要である。
以上
(この報告は2020年3月26日時点のものです)