ページ番号1008730 更新日 令和2年4月6日

低油価時代のEOR技術「低塩分濃度水攻法」における研究成果と課題

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レポートID 1008730
作成日 2020-04-06 00:00:00 +0900
更新日 2020-04-06 10:16:49 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 技術探鉱開発
著者
著者直接入力 香山 幹
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国・地域 グローバル
2020/04/06 香山 幹
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概要

低塩分濃度水攻法(Low Salinity Water Flooding: LSWF)とは、圧入水の塩分濃度が油層中に存在する水より低いという点以外は通常の水攻法と変わらないため、比較的追加コストが低く、近年世界中で注目されている増進回収法(EOR)です。そのため本技術は一見単純なものに思えますが、増油に至るまでのメカニズムについてはわかっていない点が多く、研究対象として非常に魅力的な分野でもあります。本稿では、LSWFをめぐる世界での研究動向および機構がこれまで実施してきた当分野における研究の概要について紹介いたします。


1. 低塩分濃度水攻法(Low Salinity Water Flooding: LSWF)とは

成熟油田においてしばしば二次回収後に実施される増進回収法(EOR)は、一般的に追加施設の建設や圧入流体の調達コストが大きいことが知られています。しかし、文字通り「地層水や海水より低塩分濃度の水を圧入する」LSWF技術は、二次回収のひとつである水攻法の施設に脱塩設備を取り付けるだけで済むため、近年は安価なEOR技術として注目されています。実際に、2018年にBPが世界初の商業生産を開始した英領西シェトランドのClair Ridge油田での低塩分濃度水攻法に対する追加ユニットコストは、およそ$3/bbl(1)であると報告されており、他のEORの手法に比べて安価となることが期待されます。しかし、増油メカニズムは油層条件によってそれぞれ異なっているため、最適な圧入水の組成を追及すべく、その解明に向けて世界中の技術者が未だ模索している、想像以上に奥が深い技術です。

ある程度有力な増油メカニズムはいくつか提唱されており、その中で最も有名なもののひとつがMIE(Multicomponent Ionic Exchange)理論(2)と呼ばれるものです。この理論では、粘土鉱物表面に存在する陽イオンが別のイオンによって置き換えられることによって、原油に対する濡れ性(岩石と原油との間の付着しやすさ)が変化し、増油に至るとされています。しかし、増油効果のある全ての油層に対してこの理論が万能という訳ではありません。なぜなら、粘土鉱物に乏しい砂岩や炭酸塩岩において増油する実験ケースや、粘土鉱物が多くてもFine migration(微細粒子の移動)や粘土の膨潤など別のメカニズムが増油に大きく寄与していると考察された実験ケース(3) (4)が報告されているからです。また、エマルジョンの生成など原油中の成分が作用したり、塩水と鉱物が反応したりするメカニズムもあると考えられています。

それでは、このように鉱物-原油-塩水の三相が複雑に相互作用を及ぼしあっているLSWFにおいて、どのようにして増油メカニズムを推定し、圧入水の組成を最適化することにつなげればよいのでしょうか。今回はその一例として、技術部EOR課において2015~17年にVietnam Petroleum Instituteと共同で実施した砂岩貯留層を対象とした研究(5) (6) と、中東の油田への適用を目指して2018年より実施中の炭酸塩岩貯留層を対象とした研究について紹介いたします。


2. 砂岩貯留層を対象としたLSWFの研究

LSWFの増油メカニズムを解き明かすためには、鉱物-原油-塩水の三相系での相互作用を考察する必要があります。本研究ではまず、油層条件下で原油を満たした岩石コアに、高塩分と低塩分の濃度水を順に圧入する「コア流動試験」を行い、その増油効果を検証しました。その結果、図 1のように同じ油層から採取した、異なる浸透率のコアを用いた二つの実験において、想定とは異なる油回収挙動が見られました。Case 1では、圧入水の塩分濃度を低下させると17%もの増油が大きな差圧の上昇とともに確認されましたが、より浸透率が低いコアを用いたCase 2では増油効果と差圧上昇はわずかでした。

図 1 砂岩を対象としたコア流動試験Case 1, 2の回収率と差圧挙動 上、排出水中のイオン挙動 下
図 1 砂岩を対象としたコア流動試験Case 1, 2の回収率と差圧挙動(上)、排出水中のイオン挙動(下)

このとき、図 1における排出水中のイオン濃度の変化では、いずれのケースでも一価の陽イオン(ナトリウムイオン[Na+]やカリウムイオン[K+])が増加、二価の陽イオン(カルシウムイオン[Ca2+]やマグネシウムイオン[Mg2+])が減少しており、MIE理論が説明する岩石表面におけるイオン交換が示唆されましたが、これだけでは二つの流動試験結果が大きく異なることを説明することは困難です。

そこで注目したのがエマルジョンの生成です。エマルジョンとは、通常混ざり合わない水や原油が界面張力の低下により微細な液滴となって他相の中に分散した溶液のことです。エマルジョンは塩分濃度が低くなれば安定して存在することが知られており、実際に図 2のように低塩分濃度の排出水中のみでエマルジョンが確認され、これが何らかの形で原油回収挙動の違いに結び付いたと考察しました。

図2  排出水から検出されたエマルジョン
図 2 排出水から検出されたエマルジョン

しかし、どのようなメカニズムでエマルジョンが増油に寄与をしたのかは、コア流動試験の結果からだけでは判然とせず、またCase 1, 2の間で原油回収の挙動が異なる理由も説明できませんでした。そこで、コア内部の孔隙形状を模した透明な流路を持つガラス製チップ(マイクロモデル)の流動試験(図 3)を実施し、流動試験中に生じている現象の可視化を試みました。

図3 マイクロモデル流動試験の装置とチップ(赤枠内)
図 3 マイクロモデル流動試験の装置とチップ(赤枠内)

マイクロモデルを用いた流動試験を実施した際、低塩分濃度水中のみで図 4のように大きなエマルジョンが形を変えながら流路を閉塞している現象が観測されました。このことから、低塩分濃度水圧入時に生成したエマルジョンが、これまで水が流れていた流路を閉塞し、異なる流路に水が流れるようになったと推測しました。その結果、置換効率が改善して増油につながった可能性が示唆されます。

以上のことから、Case1, 2におけるエマルジョンによる原油回収挙動の違いは、コアを構成する岩石の孔隙構造や低塩分濃度水を圧入する前の油飽和率の違いに起因していると考えられます。さらに、マイクロモデル内では、トラップされた油が低塩分濃度水によって徐々に置換していく様子も、画像解析によって示されています。これらの考察は、MIE理論などこれまでに提唱されてきた増油メカニズムに対して、新たな視点を加えるものであると考えています。

図4 マイクロモデル流動試験で低塩分濃度水を圧入した際に生成したエマルジョン
図 4 マイクロモデル流動試験で低塩分濃度水を圧入した際に生成したエマルジョン

3. 炭酸塩岩貯留層を対象としたLSWFの研究

炭酸塩岩貯留層を対象としたLSWFでは、砂岩貯留層を対象にしたものとは異なるメカニズムが働いている可能性があります。例えば、前項で説明したエマルジョン生成による増油は炭酸塩岩を対象としても生じえますが、イオン交換に関しては、粘土鉱物をしばしば多く含む砂岩と炭酸塩岩とは異なる挙動を示すと言われています。具体的には、炭酸塩岩においては主な構成成分のひとつであるカルサイト(炭酸カルシウム)が、低塩分濃度水圧入時の濡れ性変化に寄与すると考えられています。正に帯電したカルサイトには、図 5左のように極性を持つ原油成分(負に帯電)が吸着していることが考えられているのですが、低塩分濃度水中においては鉱物表面のイオン構造が変化することで表面の電荷が負に改質され、原油と鉱物の表面同士が反発し、濡れ性が変化すると言われています(7)。その他にも、カルサイトの溶解に伴い原油が脱離するメカニズムが提唱されています。

図5 岩石表面のイオン構造変化による濡れ性変化の模式図
図 5 岩石表面のイオン構造変化による濡れ性変化の模式図

これらの増油メカニズムが実際に生じうるのかを検証するため、ほぼカルサイトのみで構成されている露頭の炭酸塩岩コアを用いて流動試験を実施しました。

図6 炭酸塩岩を対象としたコア流動試験の回収率・差圧の変化
図 6 炭酸塩岩を対象としたコア流動試験の回収率・差圧の変化

図 6に示したように、低塩分濃度水圧入時に5%程度の増油が見られました。しかし、差圧挙動については前項で示した砂岩貯留層のコアを対象とした流動試験とは対照的に、低塩分濃度水圧入時に低下するという結果となりました。また、図 5のように表面電荷の変化による濡れ性の改質を期待して圧入したALSW(Adjusted LSW:低塩分濃度水の硫酸イオン濃度[SO42-]を高めたもの)では、ほとんど増油が見られないという結果となりました。また、図 7のように、低塩分濃度水圧入時にエマルジョンは生成していなかったことから、エマルジョンにより流路が変化した可能性は低いと考えられました。さらに、排出水中のカルシウムイオン濃度は圧入水中の濃度から大きく変化しておらず、カルサイトの溶解は生じていないと思われます。

図7 低塩分濃度水圧入時の排出流体
図 7 低塩分濃度水圧入時の排出流体

以上の通り、事前に検討していた増油メカニズムは、いずれも今回の実験では確実に作用したとは言い切れない結果となりました。しかし、水と原油との間でのイオン交換など考慮していない要素も残っているため、さらなる検証を多角的に行っていく必要があります。


4. おわりに

LSWFは他のEOR手法に比べて安価な手法ですが、実施中に油層内部で生じる鉱物-原油-塩水の相互作用は複雑であり、増油をもたらすメカニズムや増油量が貯留層性状によって異なることが、フィールド適用を難しくさせる要因のひとつであると考えています。技術部EOR課では、TRCの保有する様々な実験・分析技術や大学との共同研究により得られた知見を活かしながら、引き続きLSWFの持つポテンシャルを着実に明らかにし、本邦E&P企業や海外NOCへの貢献を目指します。


参考文献


(1) Yuan, B and Wood, D. A., 2018, Formation Damage during Improved Oil Recovery: Fundamentals and Applications, Gulf Professional Publishing, pp. 55.

(2) Lager, A, Webb, K., Black, C., Singleton, M. and Sorbie, K., 2008, Low Salinity Oil Recovery - An Experimental Investigation1, Petrophysics, 49.

(3) Al-Sarihi, A., Zeinijahromi, A., Genolet, L., Behr, A., Kowollik, P., Bedrikovetsky, P., 2018, Effects of Fines Migration on Residual Oil during Low-Salinity Waterflooding, Energy & Fuels 2018 32 (8), 8296-8309.

(4) Bernard, G. G., 1967, Effect of Floodwater Salinity on Recovery of Oil from Cores Containing Clays. Society of Petroleum Engineers.

(5) Morishita, R., Matsuyama, R., Takayanagi, M., Takahashi, S., Dinh, D. H., Pham, T. G., Nguyen, M. H., and Nguyen, M. Q., 2019, Applicability of low-salinity EOR to an offshore clastic reservoir in Vietnam through experiments and simulation: The 25th Formation Evaluation Symposium of Japan, 25-26 September, Chiba, Japan.

(6) Morishita, R., Matsuyama, R., Ishiwata, T., Tsuchiya, Y., Pham, T. G., and Takahashi, S., 2020, Oil and Water Interactions during Low-Salinity EOR in Water-Wet Porous Media, Energy & Fuels (In press).

(7) Mahani, H., Levy Keya, A., Berg, S., Bartels, W.-B., Nasralla, R., & R. Rossen, W., 2015, Insights into the Mechanism of Wettability Alteration by Low-Salinity Flooding (LSF) in Carbonates, Energy & Fuels, 29(3), 1352–1367.

以上

(この報告は2020年4月6日時点のものです)

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