ページ番号1008733 更新日 令和2年4月20日
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 2020年4月9日及び12日に、OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、テレビ会議形式による臨時閣僚級会合を実施し、2020年5月1日~6月30日につき合計で日量970万バレル程度原油生産を削減する他、7月1日から2020年12月末にかけ日量770万バレル程度、2021年1月1日以降2022年4月30日まで同580万バレル程度、それぞれ減産することで合意した。
- OPECプラス産油国各国の原油生産削減率等については、4月9日及び12日開催の会合の声明では明らかになっていないものの、メキシコを除きOPECプラス産油国で一律23%とされる。
- また、減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアが日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月のそれとした。
- 但し、メキシコについては日量40万バレルの減産要請に対し同10万バレルの減産を主張した結果日量10万バレルの減産で妥協が成立し、減産率は他のOPECプラス産油国を下回っている。
- また、4月12日に、OPECプラス産油国は、米国、カナダ、ブラジル及びノルウェーといったOPECプラス産油国の枠外の産油国が日量500万バレルの減産を実施することを要望する旨表明したと伝えられるが、具体的な個別産油国の減産目標は示されていない。
- 次回のOPECプラス閣僚級会合は6月10日にテレビ会議形式にて開催される予定である。
- 2020年3月6日にOPECプラス産油国会合での交渉が決裂して以来、OPECプラス産油国間で原油増産合戦の様相を呈するともに、原油価格が18年ぶりの低水準にまで下落するなど低迷したが、それにより米国内石油会社の中で窮地に陥るところが出てきたこともあり、米国のトランプ大統領がサウジアラビア及びロシアに対し仲介を行った結果、両国を含むOPECプラス産油国は減産措置の再設定に向け交渉を再開し、今般の合意に至った。
- 原油価格の下落に対する耐性という観点からはサウジアラビアよりもロシアの方が有利であると見られているにもかかわらず、今回の会合ではロシアが相当程度の譲歩を行っているが、ここにおいては、プーチン大統領が、サウジアラビア、ロシア及び米国との間で石油市場及び産業を含めた政治・経済情勢等を考慮しつつ総合的な判断を下した可能性も考えられる。
- また、2020年5~6月において日量1,000万バレル程度の減産措置を実施しても、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う世界石油需要の落ち込みを相殺するには不十分であるとの市場の懸念に対応するために、減産措置の実施自体は2022年4月までとしたものと考えられる。
- しかしながら、今般決定したOPECプラス産油国等による減産措置を以てしても短期的には新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う石油需要の下振れを相殺するには不十分との観測が市場で発生したこともあり、4月9日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.33ドル下落し、終値は22.76ドルとなった他、日本時間4月13日午前8時半現在同23ドル前後と4月9日の終値近辺の水準で取引されている。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2020年4月9日午後4時(オーストリアのウィーン時間)より、OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、テレビ会議形式による臨時閣僚級会合を実施した。
(2) 当該会合には、OPECプラス産油国に加え、アルゼンチン、コロンビア、エジプト、インドネシア、ノルウェー、トリニダード・トバゴ及び国際エネルギーフォーラム(IEF)がオブザーバーとして参加した。
(3) そして当該会合では、メキシコの同意を条件として(後述)、2020年5月1日~6月30日につきOPECプラス産油国全体で日量1,000万バレル原油生産を削減する他、7月1日~12月31日については日量800万バレル、2021年1月1日~2022年4月30日にかけては同600万バレル程度、それぞれ減産することで合意した旨声明で発表された(参考1参照)。
(4) 減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月のそれとした。
(5) OPECプラス産油国各国の原油生産目標及び減産目標の具体的内容については、当該会合の声明では明らかになっていないが、この時点では減産率についてはOPECプラス産油国で一律23%とされた(表1参照)。
(6) なお、原油生産が不安定なイラン、リビア、ベネズエラ及びOPEC加盟国としての資格が停止しているエクアドルについて今般減産目標が設定されていないかどうかについては、当該声明では言及がない。
(7) また、声明では、今回の減産措置に関し、米国等のOPECプラス産油国の枠外の産油国による減産を条件とするかどうかについては明記されなかった。
(8) 次回のOPECプラス閣僚級会合は6月10日にテレビ会議形式により開催される予定であり、その際に石油市場均衡のために必要とされる、さらなる行動につき判断する予定である。
(9) また、2022年4月30日以降の減産措置の延長につき2021年12月に再検討する旨決定した。
(10) そして、OPEC及び非OPEC閣僚監視委員会(JMMC: The OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、カザフスタン、及びオマーン)が、共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局による支援のもと、全般的な市場の状況、原油生産水準と減産遵守状況につき緊密に監視を行うことも確認した。
(11) ただ、4月9日のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、メキシコが日量10万バレルの減産目標(23%の減産率は日量40万バレル程度に相当する)を主張し抵抗した結果、同日のOPECプラス産油国閣僚級会合の声明では、合意はメキシコの同意を必要とする旨の条件付となった。
(12) その後メキシコとサウジアラビア等との間でさらに協議を続けた結果、メキシコが日量10万バレルの減産を実施するということで、4月12日にサウジアラビア等との間での妥協が成立した(後述)。
(13) 4月12日夜(リヤド時間)に再度OPECプラス産油国によるテレビ会議形式の臨時閣僚級会合を開催し、2020年5月1日~6月30日につきOPECプラス産油国全体で日量970万バレル、7月1日~12月31日については日量770万バレル、2021年1月1日~2022年4月30日にかけては同580万バレル程度、それぞれ減産する(減産の基準となる原油生産量等他の条件は4月9日に開催されたOPECプラス閣僚級会合時の内容と同様である)旨声明で発表したが、当該声明においてもOPECプラス産油国各国の具体的な減産内容については明らかになっていない(参考2参照)。
(14) また、4月12日のOPECプラス閣僚級会合開催に際し、ロシアのノバク エネルギー相は、減産目標等からはコンデンセートは除外される旨発言した。
(15) そして、4月12日の会合開催の際に、OPECプラス産油国は米国、カナダ、ブラジル及びノルウェーといったOPECプラス産油国の枠外の産油国が日量500万バレルの減産を実施することを望む旨表明したと伝えられるが、具体的な各産油国の個別減産目標は示されていない。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 2020年3月6日にオーストリアのウィーンで開催された前回のOPECプラス閣僚級会合においては、その前日の夕方に実施されたOPEC産油国による非公式協議で合意された2020年末までの日量150万バレルの減産措置強化案をロシアが拒否したことから、交渉が決裂、OPECプラス産油国が2020年1月1日より実施していた減産措置も3月末で終了、4月1日以降OPECプラス産油国は事実上自由に原油生産を実施できるようになった。
(2) 当該会合の際、新型コロナウイルス肺炎の拡大による石油需要への影響が不透明であったことから、ロシアはもう一四半期既存の減産体制で様子を見るよう提案した一方で、サウジアラビアは日量30万バレルの減産幅を拡大し日量60万バレルの減産を実施すようロシアに要請、それはロシアにとって技術的に困難なものであった旨、3月11日にロシア エネルギー省のソローキン副大臣が明らかにしている(また、その際ソローキン氏は原油価格の均衡点は1バレル当たり45~55ドル程度であり、この水準であれば、産油国にとっても快適であり、世界経済発展にとっても十分に低水準である旨認識している旨示唆した)。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合での交渉決裂を受け、サウジアラビアは4月積みの同国産原油の全ての品種につき大幅な値下げを行う旨3月7日に発表した他、同国は4月に日量1,000万バレルを相当程度超過する(日量1,100万バレル近くの水準とも伝えられた)原油生産(因みに2月の同国原油生産量は日量968万バレルであった)を行う意向である旨3月8日に報じられたことに加え、さらに、サウジアラビアは4月の原油生産量を日量1,230万バレルへと引き上げる旨サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)が3月10日に明らかにした一方、サウジアラビアが欧州(従来ロシア産原油の主要販売先)の石油会社に対し原油を1バレル当たり25~28ドル(CIFベース)で販売、ロシアから市場シェアを奪う行為を実施している旨示唆されると3月13日に報じられた他、3月16日にサウジアラムコのナセルCEOが、サウジアラビアが5月も増産を継続する可能性がある旨示唆した。
(4) また、UAEも、4月に原油生産量を日量400万バレル(2月同299万バレル)へと増産する旨3月11日に伝えられる(さらに、イラクも原油生産量を日量20万バレル増加させ同480万バレルにする旨3月31日に報じられた他、クウェートも原油生産量を日量315万バレル(2月同266万バレル)にまで増加させる旨4月3日に伝えられる)。
(5) 他方、ロシア最大手石油会社ロフネフチは4月以降増産を実施し、数週間以内に日量30万バレル原油生産量が増加する可能性がある旨3月9日に報じられた他、ロシアのノバク エネルギー相も、ロシアは数週間以内に最大日量50万バレル程度原油生産量を増加することが可能である旨3月10日に明らかにするなど、石油市場ではOPECプラス産油国間での増産及び原油価格引き下げ合戦の様相を呈するようになった。
(6) それでも、3月20日にはロシア大統領府のペスコフ報道官が、原油価格の下落は不快ではあるが壊滅的ではない他、誰も介入する必要はない旨明らかにした。
(7) さらに、新型コロナウイルス肺炎の欧米諸国での拡大による、人々の往来の制限等に伴う経済活動の減速により、ガソリンやジェット燃料をはじめとする石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した結果、前述の通りOPECプラス産油国の一部による増産攻勢と相俟って、石油需給緩和感が市場で醸成されるとともに、原油相場に下方圧力が加わったことから、原油価格(WTI終値)は3月5日の1バレル当たり45.90ドルから3月30日には同20.09ドルと2002年2月7日(この時は同19.64ドル)以来の低水準となった他、この日は一時19.27ドルと、2002年2月7日の取引日(この時は同19.27ドル)以来の安値水準に到達する場面が見られるなど、特に3月下旬以降は概ね20~25ドルの領域で推移するなど低迷した(図1参照)。
(8) また、米国でも石油需要の減少に伴う精製利幅の低迷により、製油所の稼働が低下した(例年であれば春場のメンテナンス作業終了とともに夏場のドライブシーズンの到来に伴うガソリン需要期到来に向け原油精製処理量が増加するところ、3月27日の週の同国の原油精製処理量は前週比で日量94万バレル削減された他、4月3日の週にはさらに同126万バレル減少した)ことで、原油需要が減少したことにより、特に同国製油所の中心地帯であるメキシコ湾への原油輸送に限定される同国パーミアン盆地等内陸部のシェールオイル等を生産する油田地帯における現物市場では原油価格が10ドル近くにまで下落する場面が見られるなどした。
(9) このようなことから、米国のシェールオイルを開発・生産する中堅・中小企業を中心に経営が窮地に追い込まれており、例えば、4月1日にはホワイティング・ペトロリアム(Whiting Petroleum)が米国連邦破産法第11条の適用を申請し経営破綻したことが明らかになっている。
(10) そして、一部のシェールオイル開発・生産会社や産油州選出議員がトランプ政権にサウジアラビアとロシアの増産合戦に対し介入するように圧力を加えつつあると3月31日に報じられた他、米国議会上院の議員2名が米軍をサウジアラビアから撤退させる法案を提案するなどの動きも出始めた旨4月3日に報じられた。
(11) これに対し、米国のトランプ大統領は、まず3月30日にロシアのプーチン大統領と電話で会談し世界石油市場に関する問題につき協議、両国のエネルギー当局最高幹部による原油市場に関する会談の場を設けることで合意した。
(12) また、3月31日には、米国のブルイエット(Brouillette)エネルギー長官とロシアのノバク エネルギー相が電話で会談し、20ヶ国・地域(G20)を含む産油国及び消費国間で石油市場に関する問題につき協議を継続することで意見が一致した。
(13) さらに、世界石油市場が大幅に供給過剰となっていることを受け、ロシアは増産しない旨政府関係者が明らかにしたと4月1日に報じられる。
(14) 加えて、トランプ大統領は4月2日に、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を行い、トランプ氏としては両国で約1,000万バレルの減産を実施することを期待及び希望している旨表明した他、その後最大1,500万バレル減産になる可能性がある旨発言した(なお、トランプ氏の発言には1,000~1,500万バレル程度の減産規模につき「日量」とは明示されていなかったが、市場では「日量1,000~1,500万バレル程度」と受け取られた)(下記ツイート参照)。
(15) 原油価格下落当初の3月12日に原油価格の下落は消費者にとって減税に等しいとして歓迎したトランプ大統領にとって、このような発言は姿勢の変化とも受け取れるが、その背景には本年11月に予定されている米国大統領選挙に向け同国石油産業に配慮するといった側面があると見る向きもある。
(16) そして、4月2日には、サウジアラビアが石油市場の安定化のための公正な合意に到達すべく、OPEC及び非OPEC産油国による緊急会合を開催するよう要請した旨国営サウジ通信が伝えているが、「公正な合意」は、OPECプラス産油国以外の米国等の主要産油国が減産に参加することを前提とする旨示唆された。
(17) また、4月3日には、4月6日にOPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で開催する旨アゼルバイジャンのエネルギー省が明らかにした他、OPECプラス産油国間で、日量1,000万バレルの減産措置が検討されるとともに、その中で、サウジアラビアが日量300万バレル、他の中東湾岸産油国とロシアが各々同150万バレル、その他のOPECプラス産油国が同200万バレル、米国、カナダ及びブラジル等OPECプラス産油国の枠外の産油国が同200万バレルを負担するといった選択肢がある旨関係筋が明らかにしたと4月3日報じられた。
(18) 他方、4月3日午後(米国東部時間)にはトランプ大統領と米国石油業界との間で原油価格下落に関する会合が開催されたが、OPEC産油国等はその場においてトランプ大統領が石油会社に対し減産を要請するかどうかにつき注目していた。
(19) しかしながら、当該会合においてトランプ大統領は石油業界に対しOPECプラス産油国と協調して減産するよう要請を行うことはなく(既に4月2日には、トランプ氏が減産要請を行う意向はない旨米国政府関係者が明らかにした旨伝えられてはいた)、4月4日にはトランプ氏は、サウジアラビア等国外からの原油輸入に対し関税を賦課する方策を含め、エネルギー産業での雇用を守るためにはすべきことは何でも行う旨明らかにすることで、サウジアラビア及びロシアを含むOPECプラス産油国に対し圧力を加えた(但し、関税賦課は製油所の経営を圧迫するものとして米国石油協会(API: American Petroleum Institute)及び米国燃料石油化学製造者協会(AFPM: American Fuel & Petrochemical Manufacturers)が反対である旨4月1日にトランプ大統領宛に書簡を発出していることもあり、トランプ大統領は当該関税賦課につき実施する用意はあるものの、現時点では実施しない旨4月3日及び4月5日に明らかにしている)一方で、最終的には(原油生産は)市場により決定されるとした他、OPEC(の減産)に関しては「気にしない」として産油国は自滅しつつある旨明らかにした。
(20) 米国による減産措置の実施については、同国テキサス州のシェールオイル生産者の中には日量50万バレル程度の減産措置を希望する旨示唆するところもあったが、エクソンモービルやシェブロンといった大手国際石油会社は自由な経営を阻害する他反トラスト法に抵触する恐れがある(これについては異論も見られる、後述)ものとして、反対していたとされる(他にも、油田の位置する土地の所有者の財産権を侵害する恐れがあるとの指摘もある)。
(21) このようなことから、トランプ大統領はOPECプラス産油国の減産措置合流については一定の距離を置いたものと見られる。
(22) ただ、テキサスの石油産業規制当局であるテキサス鉄道委員会(TRC: Texas Railroad Commission)の3人の委員のうちの1人であるシットン(Sitton)氏は、3月20日にOPECのバルキンド事務局長と石油市場の現状と将来の協力の可能性につき協議し、バルキンド氏はシットン氏を6月に開催される予定であるOPEC関連会合に招待するなど、緊密な関係を披露しており、シットン氏は、トランプ氏が減産措置を実施するのであれば、減産に協力する意向である旨示唆したが、TRCのクリスチャン(Christian)委員長やもう1人の委員であるクラディック(Craddick)氏は、減産措置について否定的な意志を示していたり、懐疑的に見ていたりするとされるなど、意見が分かれる状態となっているものの、テキサス州の生産業者に対し原油生産量を制限する規制を発動するかどうかについての会合(反トラスト法抵触等の問題はあるものの、これについては企業が連携して減産措置を実施することは禁止されるが、連邦もしくは州による減産規制まで禁止しているわけではないとの主張も存在する)を4月14日に行うとした(早ければ4月21日にも減産規制を講ずる旨決断する可能性があると見る向きもある)。
(23) また、テキサス州当局による減産措置に関しては、3月30日にパイオニア・ナチュラル・リソーシズ(Pioneer Natural Resources)とパセリ・エネジー(Parsley Energy)が大規模石油・ガス会社の生産を20%削減する権限を州に付与するよう要請したのに対し、4月7日にオクシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)は、減産措置は「近視眼的な」考え方であり他の州に対しテキサス州の生産者を不利にする旨主張する書簡を送付した旨明らかにした他、エクソンモービルもテキサス州当局に対し、自由市場が極端な需給不均衡を是正する最も効率的で方法であるとして、減産措置の権限付与に反対する書簡を発出した旨4月8日に報じられる。
(24) 他方、4月3日以降サウジアラビアとロシアの新たな対立が明らかになった。
(25) 4月3日にロシアのプーチン大統領は同国の石油会社との会合を開催したが、その場でプーチン大統領は、サウジアラビアが米国のシェールオイルを排除しようとして減産合意から脱退したことが原油価格を急落させた一因であるとして、サウジアラビアを非難する旨示唆した。
(26) これに対しサウジアラビアは、4月4日にファイサル外相がプーチン大統領の発言は完全に間違っていると発言した他、同日アブドルアジズ エネルギー相も、最初にロシアのエネルギー相が減産措置参加国は減産が免除される旨対外的に宣言したことで、減産参加国が原油価格下落の影響を相殺させるべく原油収入を補完させようと増産するに至ったとして、ロシアを批判した。
(27) このようなロシアとサウジアラビアとの間での対立の再燃もあり、4月6日に開催予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合は4月9日に延期される旨4月4日に明らかになった(なお、4月6日にはロシア大統領府は「技術的な理由」で当該会合が延期されたと説明している)。
(28) そしてこれは、サウジアラビアとロシアとの間で、OPECプラス産油国の結束を乱し、世界石油市場を混乱させるとともに原油価格の急落を引き起こしたきっかけは自国ではなく、相手の国であるといった面目の問題が、OPECプラス産油国の減産措置復活への手続きを複雑化させていることを示唆している。
(29) 併せて、ロシアは米国が減産措置を実施するのであれば、日量100万バレル程度の減産を目標とする旨関係筋が明らかにしたと4月4日に報じられるが、これは当時OPECプラス産油国間で選択肢の一つとして検討している日量150万バレルの減産目標を下回るものであった。
(30) もっとも、ロシア及びプーチン大統領としてはOPECプラス産油国協調体制を終了させることを望んでいるわけではなく、建設的な交渉を行うことを約束する旨4月5日にロシア大統領府のペスコフ報道官は明らかにしている。
(31) 他方、4月3日にカナダ アルバータ州のケニー(Kenny)首相はOPECプラス産油国会合に出席する意向であるが虚心坦懐で臨む旨明らかにした他、4月4日にはノルウェーのブル(Bru)石油エネルギー相が、他の産油国が幅広く相当程度の減産を実施することに合意するのであれば、ノルウェーも減産を検討する旨明らかにしている。
(32) ただ、4月6日に米国のトランプ大統領は、自由市場であれば原油生産量は自動的に減少すると発言した他、4月7日には米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)も原油価格の下落が石油会社に影響を与える結果同国の原油生産量が日量200万バレル程度減少する見込みである旨示唆した(EIAは4月7日発表の短期エネルギー展望(SETO: Short-term Energy Outlook)で、米国の原油生産が2020年第一四半期の日量1,273万バレルから2021年第一四半期には同1,096万バレルへと同177万バレル減少する旨の見解を発表している)。
(33) 4月8日にはロシアが日量160万バレル減産する用意がある旨報じられたが、同日ロシア大統領府のペスコフ報道官は、原油価格の下落に伴う米国のいわば非自発的な原油生産の減少については、自発的な減産措置とは全く異なると主張しており、この時点では依然としてロシアの減産は米国の自発的な減産の実施を前提としていることが窺われた。
(34) このように、米国からはOPECプラス産油国に対する減産措置に対する自発的な減産といった形での参加が期待されず、むしろ米国外産原油輸入に対する関税賦課をちらつかされる状態となっていた中で、サウジアラビアの財政収支均衡価格がWTIで1バレル当たり80ドル前後である一方、ロシアは同40ドル程度の原油価格で予算措置を講じている他、ロシア政府及び石油会社の収入はルーブル建てとなっており、原油価格が下落すればルーブルも下落することから、それら収入は原油価格の下落程落ち込むといった可能性もそれほど高くない一方、サウジアラビアの場合現地通貨リヤルは米ドルに連携していることから、原油価格の下落が財政収入の減少に直結することを含め、原油価格の下落に対する耐性という観点からはサウジアラビアよりもロシアの方が有利であると見られているにもかかわらず、4月9日に開催されたOPECプラス産油国会合で(声明では言及されていないが)OPECプラス産油国各国で一律23%の減産率の適用が決定されたとすれば、ロシアが相当程度の譲歩を行っている(2020年1月1日~3月31日の減産措置時点ではサウジアラビアの減産規模が日量48.9万バレルであった一方ロシアは同30万バレルであった)ことになるが、ここにおいては、プーチン大統領が、サウジアラビア、ロシア及び米国との間で石油市場及び産業を含めた政治・経済等の状況を考慮しつつ総合的な判断を下したという可能性も考えられる。
(35) また、当該会合においては、2020年5~6月において日量1,000万バレル程度の減産措置を実施しても、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う世界石油需要の落ち込みを相殺するには不十分であるとの市場の懸念に対応するために、時間の経過とともに緩和はするものの減産措置の実施自体は2022年4月30日までとしたものと考えられる。
(36) 他方、4月9日に開催されたOPECプラス閣僚級会合では、メキシコが、日量40万バレルの減産目標の受け入れ要請につき、2020年3月の原油生産量である日量178万バレルに対し同168万バレルの原油生産目標とし、日量10万バレルの減産目標を設定したい旨異を唱え(メキシコのロペスオブラドール大統領は同国国営石油会社Pemexによる原油生産拡大による石油産業復活を目指す旨明言していることもあり、4月3日にメキシコのナーレ(Nahle)エネルギー相は、原油価格の低迷は永遠に続くわけでないことから原油生産及び投資計画を変更する価値はない旨主張していたが、その背景にはメキシコは原油価格下落に備え一定の原油価格で販売予約を行っていることがあるとの指摘もある)、議論が平行線を辿ったうえ、ナーレ エネルギー相は会合途中で退席したため、OPECプラス産油国間での減産合意に至らなかった結果、声明でも当該減産合意はメキシコの同意を条件とする旨記載された。
(37) 米国のトランプ大統領は、4月10日に仲介に乗り出し、メキシコの減産を日量10万バレルに限定することを認める一方で、米国が日量25万バレルの減産を肩代わりする(但しトランプ大統領はこの量の減産につき「すでに実施中である」旨明らかにしているところからすると、米国の自発的な減産と言うよりは原油価格の下落による石油会社の経済的理由に伴う原油生産削減であると推察される)とともに将来米国の肩代わり部分につきメキシコが負担し直すという妥協案を提示し、メキシコのロペスオブラドール大統領も合意した旨同日伝えられた他、大部分のOPECプラス産油国がトランプ大統領の妥協案を支持している旨4月11日に報じられる。
(38) ただ、サウジアラビアは当該妥協案を巡り引き続きメキシコと交渉を継続した旨4月10~11日に伝えられたが、最終的にはメキシコの減産規模を日量10万バレルとすることで妥協が成立した(米国の肩代わりが日量30万バレルへと同5万バレル引き上げられた旨アゼルバイジャンのエネルギー省が4月12日に明らかにしている)ことで、4月12日夜に再度OPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で開催した結果、減産措置の実施で公式に合意した。
(39) なお、4月10日には、サウジアラビアが議長国となり、G20エネルギー相会合がテレビ会議形式で開催され、安定的な原油市場に向けた対策の実施を支持する旨表明した。
(40) 他方、当該G20会議開催に際しては、例えば、ロシアのノバク エネルギー相がOPECプラス産油国枠外の産油国から日量500万バレルの減産を期待する旨表明した他、米国のブルイエット エネルギー省長官が2020年末までに日量200~300万バレル程度原油生産水準が低下する可能性がある旨予想したことに加え、ノルウェーのブル石油エネルギー相もOPECプラス産油国が減産を実施すればノルウェーも減産措置を実施するかもしれない旨明らかにしたものの、G20会議声明においてはOPECプラス産油国枠外の産油国による具体的な減産目標数値は盛り込まれていない他、カナダのオリーガン(O’Regan)天然資源相は当該会合において減産につき具体的数値を約束しなかった旨4月10日に発言している。
3. 原油価格の動き等
(1) 4月1日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が、サウジアラビアとロシアは数日以内に(原油生産調整につき)合意する旨予想していると明らかにした他、4月2日にはトランプ大統領がサウジアラビアとロシアが最大1,500万バレルの減産を実施すると期待及び希望している旨発言したことに加え、サウジアラビアが石油市場の安定化のための公正な合意に到達すべくOPEC及び非OPEC産油国による緊急会合を開催するよう要請した旨同日国営サウジ通信が伝えたこと等もあり、4月2日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり5.01ドル上昇し、終値は25.32ドルとなった。
(2) また、4月3日も、4月6日にOPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で実施する予定である他、現在関係産油国間で日量1,000万バレル程度の減産を実施する案につき検討中である旨4月3日に報じられたことにより、世界石油需給の相対的な引き締まりへの期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり28.34ドルと前日終値からさらに3.02ドル上昇した。
(3) しかしながら、4月9日に開催されたOPECプラス産油国で条件付きながら新たな減産措置が決定したことで、その分だけ世界石油市場から供給が排除されることになると見られるものの、新型コロナウイルス肺炎の拡大による世界経済成長の減速等により、4月等の世界石油需要が日量2,000~3,500万バレル程度下振れする旨示唆する予想が市場で出されていたこともあり、今般のOPECプラス産油国の減産措置を以てしても短期的には世界石油需給を引き締めるには不十分である(国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は日量1,000万バレルの減産を実施しても、日量1,500万バレルの在庫積み増しが発生する旨4月3日に説明している)との観測が市場で発生したから、それまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きと併せ、4月9日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.33ドル下落し終値は22.76ドルとなった。
(4) なお、4月10日は米国及び欧州はグッドフライデーに伴う休日により米国等の原油先物市場は休場であった。
(5) 4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で減産措置実施が確定したことを受け、同日夜間の米国原油先物市場の時間外取引開始直後には市場関係者による条件反射的反応から原油価格が1バレル当たり24.74ドル(前日終値比同1.98ドル上昇)にまで上昇する場面が見られたが、その後少なくとも短期的には世界石油供給過剰を払拭するには不十分であるとの懸念が市場で再燃したと見られることもあり、日本時間4月13日午前8時半時点では原油価格は同23ドル前後と4月9日の終値近辺の水準で取引されている。
(6) 他方、ロシアは今般日量250万バレルと相当程度の減産措置を実施することになったが、ロシアの主力産油地帯である西シベリア地域の油田は老朽化が進んでいるとともに水攻法が多用されるとされており、短期的に大幅な減産を実施すると中長期的な原油生産に悪影響を及ぼすと指摘されているところから、今後ロシアが定められた原油生産の削減を短期的に実施できるかどうか市場が注目することになろう。
(7) また、OPECプラス産油国全体としての減産遵守状況に加え、米国等OPECプラス産油国枠外の産油国の原油生産状況、新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースの状況と世界経済成長及び石油需要の伸びに関する市場での観測等が、少なくとも短期的には原油相場を左右していくものと考えられる。
(参考1:2020年4月9日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
The 9th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 05/2020
Via webinar
09 Apr 2020
The 9th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting was held via webinar, on Thursday, 09 April 2020, under the Chairmanship of HRH Prince Abdul Aziz Bin Salman, Saudi Arabia's Minister of Energy, and co-Chair HE Alexander Novak, Minister of Energy of the Russian Federation.
The Meeting welcomed Argentina, Colombia, Ecuador, Egypt, Indonesia, Norway, Trinidad and Tobago and the International Energy Forum (IEF) as observers.
In the meeting, the OPEC and non-OPEC oil producing countries participating in the Declaration of Cooperation, reaffirmed their continued commitment in the Declaration of Cooperation to achieve and sustain a stable oil market, the mutual interest of producing nations, the efficient, economic, and secure supply to consumers, and a fair return on invested capital.
In view of the current fundamentals and the consensus market perspectives, the Participating Countries agreed to:
Reaffirm the Framework of the Declaration of Cooperation, signed on 10 December 2016 and further endorsed in subsequent meetings; as well as the Charter of Cooperation, signed on 2 July 2019.
Adjust downwards their overall crude oil production by 10.0 mb/d, starting on 1 May 2020, for an initial period of two months that concludes on 30 June 2020. For the subsequent period of 6 months, from 1 July 2020 to 31 December 2020, the total adjustment agreed will be 8.0 mb/d. It will be followed by a 6.0 mb/d adjustment for a period of 16 months, from 1 January 2021 to 30 April 2022. The baseline for the calculation of the adjustments is the oil production of October 2018, except for the Kingdom of Saudi Arabia and The Russian Federation, both with the same baseline level of 11.0 mb/d. The agreement will be valid until 30 April 2022, however, the extension of this agreement will be reviewed during December 2021.
Call upon all major producers to contribute to the efforts aimed at stabilizing market.
Reaffirm and extend the mandate of the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) and its membership, to closely review general market conditions, oil production levels and the level of conformity with the Declaration of Cooperation and this Statement, assisted by the Joint Technical Committee (JTC) and the OPEC Secretariat.
Reaffirm that the Declaration of Cooperation conformity is to be monitored considering crude oil production, based on the information from secondary sources, according to the methodology applied for OPEC Member Countries.
Meet on 10 June 2020 via webinar, to determine further actions, as needed to balance the market.
The above was agreed by all the OPEC and non-OPEC oil producing countries participating in the Declaration of Cooperation, with the exception of Mexico, and as a result, the agreement is conditional on the consent of Mexico.
(参考2:2020年4月12日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
The 10th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 06/2020
Videoconference
12 Apr 2020
The 10th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting was held via videoconference, on Sunday, 12 April 2020, under the Chairmanship of HRH Prince Abdul Aziz Bin Salman, Saudi Arabia’s Minister of Energy, and co-Chair HE Alexander Novak, Minister of Energy of the Russian Federation.
The Meeting reaffirmed the continued commitment of the participating producing countries in the ‘Declaration of Cooperation’ (DoC) to a stable market, the mutual interest of producing nations, the efficient, economic and secure supply to consumers, and a fair return on invested capital.
The Meeting emphasized the important and responsible decision to adjustment production at the 9th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 09/10 April.
Furthermore, the Meeting took note of the G20 Extraordinary Energy Ministers Meeting held on April 10, which recognized the commitment of the producers in the OPEC+ group to stabilize energy markets and acknowledged the importance of international cooperation in ensuring the resilience of energy systems.
In view of the current fundamentals and the consensus market perspectives, and in line with the decision taken at the 9th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting, all Participating Countries agreed to:
- Reaffirm the Framework of the DoC, signed on 10 December 2016 and further endorsed in subsequent meetings; as well as the Charter of Cooperation, signed on 2 July 2019.
- Adjust downwards their overall crude oil production by 9.7 mb/d, starting on 1 May 2020, for an initial period of two months that concludes on 30 June 2020. For the subsequent period of 6 months, from 1 July 2020 to 31 December 2020, the total adjustment agreed will be 7.7 mb/d. It will be followed by a 5.8 mb/d adjustment for a period of 16 months, from 1 January 2021 to 30 April 202 The baseline for the calculation of the adjustments is the oil production of October 2018, except for the Kingdom of Saudi Arabia and The Russian Federation, both with the same baseline level of 11.0 mb/d. The agreement will be valid until 30 April 2022, however, the extension of this agreement will be reviewed during December 2021.
- Call upon all major producers to provide commensurate and timely contributions to the efforts aimed at stabilizing the oil market.
- Reaffirm and extend the mandate of the Joint Ministerial Monitoring Committee and its membership, to closely review general market conditions, oil production levels and the level of conformity with the DoC and this Statement, assisted by the Joint Technical Committee and the OPEC Secretariat.
- Reaffirm that the DoC conformity is to be monitored considering crude oil production, based on the information from secondary sources, according to the methodology applied for OPEC Member Countries.
- Meet on 10 June 2020 via videoconference, to determine further actions, as needed to balance the market.
以上
(この報告は2020年4月13日時点のものです)