ページ番号1008734 更新日 令和2年4月13日

豪州石油・天然ガス上・中流事業を牽引する地場企業の現状と展望

レポート属性
レポートID 1008734
作成日 2020-04-13 00:00:00 +0900
更新日 2020-04-13 15:35:07 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG基礎情報
著者 庄子 達也
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 20
抽出データ
地域1 大洋州
国1 オーストラリア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
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国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 大洋州,オーストラリア
2020/04/13 庄子 達也
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概要

  • 豪州のLNG輸出量は、2019年暦年で世界第1位となった。
  • 豪州の石油天然ガス上・中流事業は、豪州企業の存在感が増加している。
  • 今回紹介した豪州企業4社は、ここ数年来の生産コストや開発コスト削減により、競争力を改善させ企業収益や利益率が向上している。また、企業活動から得られるCashは探鉱や新規開発へ積極的に再投資され、資源量の増強や競争力の更なる向上にとり好循環が続いている。
  • 一方、これら豪州企業の好循環を阻害する不確実性やリスク要因として、コロナウィルスの世界的な蔓延、OPEC+の協調減産終了(20年3月末)や豪州政府による気候変動対策の強化等による以下影響があげられる。
  1. 油価急落による既存事業の経済性の低下
  2. 新規事業のFIDや工事遅延(コスト増のリスク)
  3. 資源価格の下落が豪州経済に与える影響と豪州におけるCAPEX、OPEXへの影響
  4. 気候変動政策導入による事業への影響
  • 豪州企業4社は、今まさにこれまでの経営努力の成果が試されている。
  • 豪州産LNGの最大の輸入国である日本企業は、これまでも豪州企業との協働が進んできたが、原油価格やガス価格の下落の中で、協力関係の更なる進化を期待したい。

はじめに

総合資源エネルギー調査会 資源燃料分科会が2020年2月に行った「新・国際資源戦略策定に向けた提言」の中で、「世界における地政学的な日本のポジションや日本の技術力、資本力などの総合力を上手く活用することにより、供給国に付加価値を与えうる存在として我が国のプレゼンスを発揮すべきである。」とある。

日本から約6,000-8,000kmの距離にある豪州の2019年度石油天然ガス生産量は、石油換算日量約3百万バレルである。石油と天然ガスの生産量の割合(石油換算)は、石油が約15%、ガスが85%となっており、天然ガスが圧倒的に大きな割合を占めている。その豪州国内での天然ガスの生産量のうち約30%が国内で消費され、約70%はLNGとして輸出されている。

その豪州産LNG最大の輸出先は日本で、輸出量の約40%を占めている。また、日本にとっても豪州はLNGの最大の輸入先となっており全体の約40%を占めている。日本のエネルギーセキュリティーにとって不可欠な豪州の石油・天然ガスの上・中流事業を現在牽引しているのは、Chevron、ExxonMobil、Shell等のメジャーズでもあるが、同時に豪州地場企業も大きな役割を果たしている。今回は石油換算生産量で上位4社の豪州企業を、経営者、注力事業、競争力、投資額、気候変動対応にスポットを当てて、現状と展望を報告する。


1. 豪州石油天然ガス 上中流事業の現状

1.1 連邦政府の組織改編

まず、今年3月18日に発行されたResources and Energy Quarterly(図1)を使い豪州全般の石油・天然ガス 上・中流事業の概観を確認する。この資料は石油・天然ガスを含め、豪州で採掘される主要な天然資源の需給統計と見通しをまとめたもので、連邦政府が四半期ごとに発行している。以下ウェブサイトからダウンロードできる。

https://publications.industry.gov.au/publications/resourcesandenergyquarterlymarch2020/index.html

図1:Resources and Energy Quarterly March 2020
図1:Resources and Energy Quarterly March 2020
(出所:豪州連邦政府 産業・科学・エネルギー・資源省のHPより)

これまでは連邦政府で石油・天然ガス等の資源全般を管轄してきた「産業・イノベーション・科学省(DIIS)」が発行していたが、本年2月の連邦政府の省庁組織改編を受け、今回から資源全般の管轄を引き継いだ「産業・科学・エネルギー・資源省(DISER)」が発行している。DISERには担当業務別に4名もの大臣が任命されているのだが、石油・天然ガス上・中流事業を担当しているのは資源担当のKeith Pitt大臣である。また、今回の組織改編でDISERの新たな機能として加わった「エネルギー・排出削減」の担当のAngus Taylor大臣については、詳細は後述の通り環境規制・気候変動対応の規制等が強化される可能性があるため、彼の動向についても注目しておきたい。

ここで少しおさらいになるが、石油・天然ガス開発及び環境政策に係る連邦政府と州の役割分担について確認する。図2にあるように、豪州では開発を行う地域によって連邦政府若しくは州政府の何れが鉱業権の付与や環境規制を担当するかが定められている。また、それぞれの政策は、各々の政権により変わってくる。

図2:石油・天然ガス開発及び環境政策に係る連邦と州の担当施策
図2:石油・天然ガス開発及び環境政策に係る連邦と州の担当施策(出所:JOGMEC)

次のページの図3で、連邦、州および特別州における政権獲得政党をご覧いただきたい。各州においては、保守連合と労働党の政権交代が頻繁に生じている。環境政策について、一般的に連邦政府では労働党政権は環境重視の政策が多く、自由党と国民党の保守連合は産業重視の政策が多いと言われており、州政府でこれだけ政権が変わると環境政策も影響を受け投資環境の観点でややリスクを孕んでいると思われる。

図3:各州の政権の変遷
図3:各州の政権の変遷(出所:JOGMEC)

また、DISERに新たに加わったエネルギー・排出削減大臣については既に触れたが、同大臣が管轄している豪州の気候変動対策の元となる「Australia’s 2030 Emission Reduction Target」についても整理しておきたい。図4は、豪州が2015年8月に国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)に排出削減目標をまとめたもので、赤枠で囲んだ通り2030年までに2005年比で温室効果ガス(CO2)を26%-28%削減することを目標としていることが示されている。2020年は、2030年まであと10年という節目の年であること、また2019年9月ごろから2020年2月ごろまで続いた豪州東海岸における大規模森林火災があったことから、豪州国民の気候変動対策への関心が高まっているものと考える。

図4:豪州の排出削減目標
図4:豪州の排出削減目標 (出所:Australia’s 2030Emission Reduction Targetから抜粋)

1.2 豪州石油天然ガス 上・中流事業の現状(石油・コンデンセート・LPG)

さて、石油・天然ガス 上・中流事業の現状の概観に戻る。まず、Resources and Energy Quarterly March 2020によれば、豪州の石油の資源量は世界の3%に相当するとされている。2019年度の豪州の石油生産量は、以下表1の赤枠で囲んだ通り、原油・コンデンセートが日量34万バレルとLPG日量約7万バレルを合わせた約日量41万バレルである。このうちの輸出は約日量25万バレル(表1の青枠)である。

豪州の国内消費は、生産量と輸出量の差を国内消費量で割った単純計算で約15%が国内産で賄われている計算になる。ただし、豪州は石油製品も輸入しているため、豪州国内で実際に精製に回されている国産の原油・コンデンセートの量は、次ページ図5の赤枠部分に示されている22%となる。いずれにしても、自国の需要の1/7程度しか生産できていないことになる。

表1:豪州における石油の需給見通し

図5: 豪州の原油・コンデンセート・LPGの概観
図5: 豪州の原油・コンデンセート・LPGの概観(出所:Resources and Energy Quarterly March 2020)

これは、参考情報だが、豪州は原油・石油製品の輸入が多く、かつ国内の製油所がかなり閉鎖されたために原油の貯蔵能力が少ないため、国際エネルギー機関(IEA)加盟国に義務付けられている国家石油備蓄90日分の維持ができていない状況にある。このため豪州政府は2026年までにその義務を達成する計画をIEAに提案していると言われている。また、3月10日には、米国エネルギー省が行っている原油の戦略備蓄、いわゆるSPRの貯油能力の一部を豪州政府が借り受ける方向で基本合意が締結されている。

続いて、豪州の石油・コンデンセート・LPGの生産量の推移をご覧いただきたい。図6にあるようにこれまで減少傾向だった石油・コンデンセート・LPGの生産量が2020年度には増加傾向に転じた。これは2019年9月のブリーフィングでも紹介したが、Woodsideがオペレーターを務める、西豪州沖合約50kmに位置するGreater Enfield油田で2019年8月から原油生産を開始したことや、2018年に生産を開始したIchthysガス・コンデンセート田やPreludeガス田などのLNGプロジェクトのランプアップに伴い、コンデンセート・LPGの生産量が増えたことに起因する。

図6: 豪州 原油・コンデンセート・LPG生産見通し
図6: 豪州 原油・コンデンセート・LPG生産見通し(出所:Resources and Energy Quarterly March 2020)

2020年3月現在、SantosやExxonMobil/BHPが、新たにVan Gogh Phase 2油田、及びWest Barracouta油田の開発作業を進めているが、そのピーク生産量はそれぞれ日量約1万2千バレル(2019年末)、日量約2.5千バレル(2023年推定)とあまり大きくはなく、豪州全体の原油(コンデンセート・LPGを含む)生産量減退をカバーするには至らない。このため、2020年から2025年度にかけて豪州の原油生産量は図7の通り、緩やかに減少していく見通しとなっており、原油の更なる探鉱・開発や新規ガス田の生産開始に伴うコンデンセート・LPGの増産が、石油生産量維持のカギを握ると考える。


1.3 豪州石油天然ガス 上中流事業の現状(ガス・LNG)

次にガス・LNGについて最近の状況をまとめる。DISERの報告書によれば、2019年暦年で世界のLNG取引量は3億4,800万トンで2018年暦年比3800万トン増(12%増)であった。(表2参照)

表2:ガス・LNG需給見通し

図7: 豪州 ガス・LNGの概観
図7: 豪州 ガス・LNGの概観(出所:Resources and Energy Quarterly March 2020)

また、2019年暦年の豪州のLNG生産量は7,700万トンとなり、推定で7,600万トンのカタールをわずかに抜いて世界第1位になった。(図7の赤枠参照)これはメジャーズや豪州企業がオペレーターとなって精力的にLNGプロジェクトを推進してきたこと、日本の電力・ガス会社が草創期の段階から積極的に豪州のLNGプロジェクトに資本参加するとともに、豪州産LNGを安定的に調達してきたことに起因する。また、豪州のLNGプロジェクトの特徴として挙げたいのは、その多くの販売量が長期販売契約に基づいていることである。実に約70%が長期販売契約に基づき販売されているとある。長期販売契約には様々なメリットがあるが、例えば需要側にとっては重要な安定供給の確約となり、一方、供給側にとっては開発を推し進めるための明確な後ろ盾になっている。

さて、豪州LNG輸出量と設備容量の推移を確認する。現在の豪州における天然ガス液化能力の合計は、10プロジェクト、21トレイン、8,760万トンである。表2や図8にある通りLNG輸出量は、2020年度8030万トン、2021年度8,090万トンと増加が見込まれているが、2021年度をピークに2023年度にかけて緩やかに減少し、その後8,000万トンレベルでの推移が見込まれている。この緩やかな減少の理由は一部プロジェクトでガス田の生産が減退することに起因している。その一例がダーウィンLNGである。このDISERの報告書の中で、ダーウィンLNGのBayu-Undanガス田は2022年以後に生産が中止すると予想されている。また、北西大陸棚LNGプロジェクト(NWS)についても2022年にかけてガス田の生産の減退が予想されている。豪州企業は、上記のようにガス田の減退が予想される中、長期販売契約の供給義務を果たすために、一定の新規探鉱・開発投資を継続していくことが求められる。

図8: 豪州 LNG輸出量と設備容量の見通し
図8: 豪州 LNG輸出量と設備容量の見通し(出所:Resources and Energy Quarterly March 2020)

また、2026年度の追加設備容量の候補案件としてWoodsideのPlutoトレイン2拡張、ChevronのGorgonトレイン4拡張、PTTEPのCash Mapleなどが紹介されている。

参考として表3に豪州におけるLNGプロジェクトの一覧をLNGの生産開始が古い順に示す。

表3: 豪州 LNGプロジェクト一覧表

豪州企業は10件中6件のプロジェクトに資本参加しており、そのうち4件はオペレーターを務めている。また、SantosがダーウィンLNGの権益をConocoPhillipsから買収する契約を締結しており、この契約が承認されると豪州企業が5件、つまり豪州全体の半数のプロジェクトのオペレーターを務めることとなる。また、日本の電力・ガス会社は8件のプロジェクトに資本参加し、Ichthys Projectでは日本のINPEXがオペレーターを務めている。

図9: 豪州 LNGプロジェクトサイトマップ
図9: 豪州 LNGプロジェクトサイトマップ(出所:JOGMECブリーフィング)

2.豪州企業の現状と事業戦略

それではここからは豪州企業の現状と展望を各社ごとに見ていく。

2.1 BHP Group Limited

まずは、BHP Group Limited(以下BHP)について紹介する。ご案内の方も多いと思うが、BHPは1885年設立の金属資源や石炭も取り扱う豪州発祥の資源メジャーである。社名の由来でもある豪州NSW州西部のBroken Hillにある銀鉱山発見を起源としている。石油部門の執行責任者は、ジェラルディン・スラッタリー氏であり、BHP在籍26年、同社石油事業のアセットマネージメント部門長を経て2019年3月に現職に就任した。

BHPの2019年度末の従業員は28,926名で、その内、豪州の従業員は18,146名と全体の63%を占めている。石油・ガス部門の売上は5,930百万米ドル、同じく同部門の金利・税引き前利益(EBIT)は2,220百万米ドルだった。フリーキャッシュフローは、全社の分しか公表されていないが10,200百万米ドルだった。

BHPの豪州国内での取り組みとしては、有力な企業がオペレーターとして実施する大規模案件にノン・オペレーターとして資本参加しているのが特徴である。例えばExxonMobilがオペレーターを務め1969年から生産を開始した豪州では有名な油田であるBass Strait油田開発に50%資本参加している。また、LNGプロジェクトでは、Woodsideがオペレーターを務める豪州初のLNGプロジェクトであるNWSに資本参加している。また、今後は既存の天然ガス液化設備を有効活用できるガス案件にも注力していく方針で、WoodsideがHead of Agreementを締結したScarborough Development(ガス田開発)などは、正に既存のプルートLNGへつなぎ込む計画である。開発コストが高いとされる豪州において、できるだけ低コストで開発するためにこのような取り組みを追及しているものと考えられる。尚、豪州国内でBHPがオペレーターとして実施している案件もあるが、それらは比較的小規模である。

一方、海外ではメキシコ湾、トリニダード・トバゴやカナダの沖合で在来型の石油開発に注力しており、こちらはオペレーターとして探鉱段階から参画し、高いリターンを目指している。なお、米国のシェールオイル開発にも参入していたが、2018年にBPに全資産を105億米ドルで売却して撤退している。

2020年度の投資・開発計画としては探鉱費と新規開発に19億米ドルを支出する計画となっている。内訳は探鉱費が7億米ドルと新規開発が12億米ドルで、他豪州企業に比べ探鉱費が5倍から7倍程大きいところが特徴である。なお、現在のところ公表されていないが、コロナウィルスの世界的蔓延や、油価急落を受けて、投資額の引き下げや、計画の後ろ倒し・縮小の可能性はあると考えている。

同社の2019年度における生産コスト(操業費)は2014年対比25%削減の石油換算1バレル当たり10.54米ドルとなっており、引き続き生産コスト(OPEX)の低減を継続する方針も示している。

また、気候変動対応に関する方針は、Scope1と2が対象で、21世紀後半にNet Zeroを目指すとしている。またScope3については2020年度に検討する予定である。

BHPのAnnual Report 2019に掲載されている主要なプロジェクトマップは、図10の通りの分布となっている。

図10: BHPの主なプロジェクトマップ
図10: BHPの主なプロジェクトマップ(出所:BHP Annual Report 2019)

2.2 Woodside Petroleum Ltd

Woodside Petroleum Ltd(以下Woodside)は、1954年設立の豪州の大手石油・ガス会社である。豪州LNG業界のパイオニアとして、NWSとPlutoの2件のLNGプロジェクトでオペレーターを務め、合計6トレイン、液化設備容量は年産2,160万トンを持つ。国外では2020年1月にFIDを行ったSangomar Oilプロジェクトがあるセネガルを始め、ミャンマー、カナダ、アイルランド、韓国など世界各地で石油・ガス事業を展開中である。

最高執行役員兼取締役のピーター J コールマン氏はExxonMobilグループでの27年の勤務経験を含め、石油・ガス業界で35年を超える経歴で、社長に就任した2011年からは豪日経済合同委員会の執行委員も歴任している。

Woodsideの2019年度末の従業員は3,962名。同年度の売上は4,873百万米ドル、EBITは1,091百万米ドル、フリーキャッシュフローは4,0580百万米ドルだった。

Woodsideは、西豪州のLNG事業を軸足に西アフリカのセネガル、東南アジアのミャンマーや韓国、カナダ等へ世界展開を進めている。2019 Annual Reportによれば、2019年度の同社の生産コスト(OPEX)は、石油換算1バレル当たり5.7米ドルで2015年度比17%削減されている。

また、2020年度の当初計画では、新規開発投資額として41-43億米ドル、探鉱費が1億5千万米ドルの合計43-46億米ドルとされており、他豪州企業に比べ積極的な投資を目論む姿勢が見られた。しかしながら、今般のCOVID-19の世界的蔓延や油価急落を踏まえ、2020年3月27日Scarborough、PlutoTrain2拡張、Browseなどの主要プロジェクトのFIDの後ろ倒しと、新規開発投資額の60%、探鉱費の50%が削減を発表した。更に、今回のCOVID-19他の対応として、約900名に及ぶ契約社員の無給解雇を急遽実行したことが報じられており、今後の運営や人材確保に影響が出ないか懸念が残る。

なお、気候変動対応については、BHPと同様Scope1、2を対象にしており、2050年までにNet Zeroを目標としている。

WoodsideのAnnual Report 2019に掲載されている主要なプロジェクトマップは、図11の通りの分布となっている。

図11: Woodsideの主なプロジェクトマップ
図11: Woodsideの主なプロジェクトマップ(出所:Woodside 2019 Annual Report)

2.3 Santos Limited

Santos Limited(以下Santos)は、1954年に設立された豪州・パプアニューギニアのガス上流・LNG事業に注力する豪州の大手石油・ガス会社である。現在炭層ガスを活用するGladstone LNGプロジェクトでオペレーターを務め、Darwin LNGとパプアニューギニアのPNG LNGにも資本参加している。

最高執行役員兼取締役のケビン・ガレガー氏は、2016年2月に現職就任。元々掘削エンジニアで、ExxonMobilでは北海油田の探鉱・開発、WoodsideではNWS Ventureの社長を務め、石油・ガス業界で25年の経歴を持ち、2019年からは豪州石油生産探鉱協会会長にも就任している。

Santosの2019年度末の従業員は2,178名。同年度の売上は4,033百万米ドル、EBITは1,295百万米ドル、フリーキャッシュフローは1,138百万米ドルだった。

同社は、環境負荷の少ないLNGをアジアの顧客向けに年間450万トン以上の販売することを事業戦略に掲げている。上記戦略を達成するために、Santosは、ConocoPhillipsが保有するDarwin LNG、Bayu-Undanガス田及びBarossaガス油田等の権益を買収する契約を締結し、契約発効後にオペレーターとして生産能力を拡充する準備を進めている。また、北部準州のMcArthur Basinで、Shale Gasの試掘を行っている。

2019年度末の同社の生産コストは石油換算1バレル当たり7.24米ドルで、2015年度比31%削減となった。2020年度の投資計画は14億5000万米ドルを予定していたが、今般のCOVID-19や油価急落の状況を踏まえて、2020年3月23日に当初計画を38%削減し9億米ドルへと変更した。また、上記ConocoPhillipsの権益買収契約の契約発効時期やDarwin LNGのバックフィル用のBarossaガス田プロジェクトのFIDのスケジュールも後ろ倒しも発表している。

図12:Santosの主なプロジェクトマップ
図12:Santosの主なプロジェクトマップ(出所:Santos 2019 Investor Day資料)

気候変動対応についてSantosは、Woodsideと同様Scope1,2を対象に2050年までにNet Zeroを目標としている。Santosの2019 Investor Dayに掲載されている主要なプロジェクトマップは、図12の通りの分布となっている。


2.4 Origin Energy Limited

Origin Energy Limited(以下Origin)は豪州の総合エネルギー会社である。LNG事業では、非在来型の炭層ガスを活用した設備容量900万トンのAPLNGの上流オペレーターを務めている。因みに、このAPLNGの液化プラントのオペレーターはConocoPhillipsである。

Originは、元々Boral Limitedという豪州の建設資材供給会社のエネルギー事業部門だったが、そこから2000年に分社・独立した歴史を持つ。同社の事業は電気・ガス事業とガス上・中流の2本柱である。ガス上・中流事業の責任者であるマーク・シューベルト氏は、ShellでPrelude FLNGの開発を担当した経験をもち、2015年にOrigin Energyへ転籍し、2017年に現在のポジションに就任している。

Originの2019年度末の従業員は5,360名。同年度のガス上・中流事業の売上は2,022百万米ドル、EBITは266百万米ドル、フリーキャッシュフローは1,113百万米ドルだった。

同社は非在来型のガス開発に注力しており、APLNGの他、北部準州のBeetaloo-Sub Basinで、Santosと同様に、別の鉱区でシェールガスの試掘を行っている。シェールガスの試掘では、既にShale層での水平井の試掘を完了させており、垂直井の試掘にとどまるSantosより先行している。このまま試掘が成功し、次のステージに進めば、豪州の非在来型ガス事業のパイオニアとなる可能性を秘めている。

生産コストについては、2019 Annual Reportの中で石油換算1バレル当たり21米ドルとしており、2017年度対比20%削減、掘削コストは同50%削減と紹介されている。投資計画については都度検討となっており金額の明示はない。

気候変動対応については、上記3社と異なり既にScope1、2に加えてScope3も対象としており、Scope1、2については2032年までにを2017年比50%削減、Scope3については同じく2032年までに2017年比25%削減する目標としている。

Originの2019 Annual Reportに掲載されている主要なプロジェクトマップは、図13の通りの分布となっている。

図13:Originの主なプロジェクトマップ
図13:Originの主なプロジェクトマップ(出所:Origin 2019 Annual Report)

3. 豪州地場企業4社の2019年度決算の比較

これまで豪州企業4社の特徴を見てきたが、ここで表4のとおり2019年度決算の比較をする。各社ごとに決算の開始期間が異なる点には注意いただきたい。

表4:豪州企業4社の2019年度決算の比較

まず、ここで注目したいのは生産コストである。左から3社のBHP、Woodside、Santosは各社とも生産コストが比較的安価であることが分かる。参考のため、ガス・LNG事業に注力しているShellのAnnual Report and Accounts 2019によると、Shellの子会社全体の生産コストが石油換算1バレル当たり8.95米ドル、オセアニア地域での生産コストが石油換算1バレル当たり9.17米ドルとなっている。Origin以外の豪州企業3社は、Shellと遜色ない生産コストを実現できていると言えるかもしれない。また、この3社のフリーキャッシュフロー(FCF)は生産コスト(USD/boe)に生産量(MMboe)をかけた年間生産コストの2倍強から8倍弱あり、現在のような油価下落の状況下でも一定の耐性はあると推測する。

一方、Originについては、上記豪州企業3社と比べると生産コストは高い状況だが、フリーキャッシュフローは年間生産コストの1倍強あり、加えて、総合エネルギー会社であることから、電気・ガス事業の調達コスト低減等による収益の補完効果も期待される。


4. 豪州企業4社の事業戦略の比較

次に各社の注力事業を表5で比較した。こうして整理してみると、各社それなりに特徴があることが分かる。BHPは4社の中で唯一在来型の石油資源開発に注力しており、伝統的な手法を追求しているように見える。Woodsideは西豪州の在来型LNG事業に軸足を置きながら世界展開も視野に入れている。

Santosは豪州・パプアニューギニアを軸足に、ガス開発では在来型・非在来型に幅広く注力しいる。Originは豪州国内の非在来型ガス開発に注力しているのが分かる。

表5:豪州企業4社の事業戦略の比較


5. 豪州企業4社の直近の主なニュース

上記も踏まえ表6で豪州企業4社の直近の半年程の主なニュースを見てみたい。

豪州企業が進める最近の新規案件は、ブラウンフィールド案件が多く、競争力を維持しつつ、資源量・生産量を増強させることにつながる事業が多いことは共通点である。

また、Origin EnergyのBeetaloo Sub-BasinやSantosのMcArthur BasinでのShale Gasの試掘は、一度成功すれば、近傍にガスパイプラインも通っていることから、国内向けやLNGプラントのバックフィルとしての活用方法があり、豪州でのシェール革命につながる可能性を秘めた挑戦となるかもしれない。

表6:豪州企業4社の直近の主なニュース


6. 豪州企業4社の直近の主なニュース(COVID-19等による影響)

2020年1月から3月にかけて、COVID-19の世界的蔓延やOPEC+の協調減産終了(2020年3月末)による油価急落により、世界的な非常事態が続く中、石油・天然ガスの上・中流事業の事業環境も予測不可能な状態が続いている。

この状況を受けて豪州各社は事業投資や操業コストの大幅な削減の他、FID前の開発プロジェクトはスケジュールの遅延も生じてしており、今後の影響の度合いによっては事業の凍結も予想される。(次ページ表7参照)

現にSantosは、前述の通り、3月23日に、ConocoPhillipsからの資産買収契約の発効時期やBarossaプロジェクトのFIDのスケジュールの後ろ倒しすると共に設備投資(CAPEX)、操業費(OPEX)の大幅削減を発表している。Originは3月26日にShale Gasの試掘についてHSE上の配慮から作業の一時中断を発表している。Woodsideは3月27日Scarborough、Plutoトレイン2拡張、Browseのスケジュールの後ろ倒しとCAPEXとOPEXの大幅削減発表しており、引き続き注視が必要である。

一方、ExxonMobil/BHPのWest Barracoutaプロジェクトは、Bass Straitプロジェクトに属すが、ExxonMobilが昨年(2019年)9月に公表した同プロジェクトの資産売却について、売却時期の後ろ倒しが予想される。これは、すでにFIDされた案件であり、当面はメジャーの技術力と資本力により確実に開発される可能性が高まったという意味で、BHPや豪州にとってはややポジティブかもしれない。

表7:豪州企業4社の直近の主なニュース(COVID-19やOPEC+の協調減算終了等による影響)


おわりに

2019年暦年でLNG輸出量世界第1位となった豪州の石油・天然ガス上・中流事業では、豪州企業の存在感がこれまでに増している。今回紹介した豪州企業4社は、ここ数年来の生産コストや開発コスト削減により、競争力を改善させ企業収益や利益率が向上している。また、企業活動から得られるCashは探鉱や新規開発へ積極的に再投資され、資源量の増強や競争力の更なる向上にとり好循環が続いている。

一方、豪州企業の好循環を阻害する不確実性やリスク要因として、COVID-19の世界的な蔓延、OPEC+の協調減産終了(20年3月末)や豪州政府による気候変動対策の強化等による以下影響があげられる。

  1. 油価急落による既存事業の経済性の低下
  2. 新規事業のFIDや工事遅延(コスト増のリスク)
  3. 資源価格の下落が豪州経済に与える影響と豪州におけるCAPEX、OPEXへの影響
  4. 気候変動政策導入による事業への影響

今回紹介した豪州企業4社は、世界大の非常事態の中で、今まさにこれまでの経営努力の成果が試されている。

そして、豪州産LNGの最大の輸入国であり、LNGの輸入の4割を豪州に依存している日本企業は、これまでも豪州企業との協働が進めてきたが、原油価格やガス価格の下落の中で、協力関係の更なる進化を期待したい。



以上

(この報告は2020年3月27日時点のものです)

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