ページ番号1008735 更新日 令和2年5月18日
原油市場他: OPECプラス産油国による減産措置の決定に対し、新型コロナウイルス肺炎による世界石油需要下振れには不十分との観測で、下落する原油価格
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概要
- 米国では、新型コロナウイルス肺炎拡大による一部地域での外出禁止令発令に伴い市民の自動車による往来が鈍化したことでガソリン需要が大幅に減少したことから、当該製品在庫は増加傾向となった。他方、米国の物流活動等は必ずしも大幅に制限されたわけではなかったことから、留出油需要が比較的底堅く推移したこともあり、当該製品在庫は減少した。また、精製利幅縮小による製油所での原油精製処理量の減少により原油在庫は増加傾向を示した。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている。
- 2020年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、原油については、米国でのガソリン需要減少等で欧米の製油所での精製利幅が圧迫されたことにより原油精製処理活動が不活発化したことから、原油在庫は増加した。また、日本においても、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う市民の外出自粛の動き等により石油需要が軟調であったこともあり、製油所での原油精製処理活動が抑制されたことから、原油在庫が増加した。従ってOECD諸国全体として原油在庫は増加したうえ平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧米では製油所の稼働が低下した結果石油製品生産活動が鈍化したことが一因となり在庫は減少した。また、日本においても、製油所の精製活動が抑制される一方で暖房用石油製品需要が発生していたことにより、灯油を中心として石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となったが平年幅上限を上回る量となっている。
- 2020年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場では、サウジアラビアが高水準の原油生産を継続する旨表明したこと等から、3月中旬から同月末にかけ原油価格は下落傾向となり、3月30日のWTIの終値は20.09ドルと2002年2月7日以来の低水準に到達した。その後はOPECプラス産油国の大規模減産実施に向けた動きに対する世界石油需給引き締まり期待が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国原油先物契約受渡地点での原油在庫増加の情報等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は3月末から4月上旬にかけ、概ね20~28ドル程度の範囲で推移した。しかしながら、4月12日に合意したOPECプラス産油国の減産措置に対し世界石油需要の下振れを相殺するには不十分であるとの観測が市場で増大したこともあり、以降原油価格は再び下落傾向となり、4月17日には18.27ドルの終値と2002年1月18日以来の低水準となった。
- 当面の市場の注目点は、OPECプラス産油国による減産措置の遵守状況やOPECプラス産油国枠外の産油国の原油生産状況等に加え、新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースがどうなるか、ということになろう。そして、新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースによって、世界経済成長見通しと石油需要の伸びに関する観測が市場で変化するとともに、OPECプラス産油国等による減産措置の石油需給バランスに対する影響の仕方も変化する結果、原油価格に圧力が加わる場面が見られる可能性があるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が日量970万バレル程度の減産措置実施で合意
(1) 協議内容等
2020年4月9日午後4時(オーストリアのウィーン時間)頃より、OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、テレビ会議形式による臨時閣僚級会合を実施した。当該会合には、OPECプラス産油国に加え、アルゼンチン、コロンビア、エジプト、インドネシア、ノルウェー、トリニダード・トバゴ及び国際エネルギーフォーラム(IEF)がオブザーバーとして参加した。
当該会合では、メキシコの同意を条件として(後述)、2020年5月1日~6月30日につきOPECプラス産油国全体で日量1,000万バレル原油生産を削減する他、7月1日~12月31日については日量800万バレル、2021年1月1日~2022年4月30日にかけては同600万バレル程度、それぞれ減産することで合意した旨声明で発表された。減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月のそれとした。OPECプラス産油国各国の原油生産目標及び減産目標の具体的内容については、当該会合の声明では明らかになっていないが、この時点では減産率についてはOPECプラス産油国で一律23%とされた(表1参照)。なお、原油生産が不安定なイラン、リビア、ベネズエラ及びOPEC加盟国としての資格が停止しているエクアドルについて今般減産目標が設定されていないかどうかについては、当該声明では言及がない。また、声明においては、今回の減産措置に関し、米国等のOPECプラス産油国の枠外の産油国による減産を条件とするかどうかについては明記されなかった。
次回のOPECプラス閣僚級会合は6月10日にテレビ会議形式により開催される予定であり、その際に石油市場均衡のために必要とされる、さらなる行動につき判断する予定である他、2022年4月30日以降の減産措置の延長については2021年12月に再検討する旨決定した。そして、OPEC及び非OPEC閣僚監視委員会(JMMC: The OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、カザフスタン、及びオマーン)が、共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局による支援のもと、全般的な市場の状況、原油生産水準、及び減産遵守状況につき緊密に監視を行うことも確認した。
ただ、4月9日のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、メキシコが日量10万バレルの減産目標(23%の減産率は日量40万バレル程度に相当する)を主張し抵抗した結果、同日のOPECプラス産油国閣僚級会合の声明では、合意はメキシコの同意を必要とする旨の条件付となった。
その後メキシコとサウジアラビア等との間でさらに協議を続けた結果、メキシコが日量10万バレルの減産を実施するということで、4月12日にサウジアラビア等との間での妥協が成立(後述)、4月12日夜(リヤド時間)に再度OPECプラス産油国によるテレビ会議形式の臨時閣僚級会合を開催し、2020年5月1日~6月30日につきOPECプラス産油国全体で日量970万バレル、7月1日~12月31日については日量770万バレル、2021年1月1日~2022年4月30日にかけては同580万バレル程度、それぞれ減産する(減産の基準となる原油生産量等他の条件は4月9日に開催されたOPECプラス閣僚級会合時の内容と同様である)旨声明で発表したが、当該声明においてもOPECプラス産油国各国の具体的な減産内容については明らかになっていない。
また、4月12日のOPECプラス閣僚級会合開催に際し、ロシアのノバク エネルギー相は、減産目標等からコンデンセートは除外される旨発言した。そして、4月12日の会合開催の際に、OPECプラス産油国は米国、カナダ、ブラジル及びノルウェーといったOPECプラス産油国の枠外の産油国が日量500万バレルの減産を実施することを望む旨表明したと伝えられるが、具体的な各産油国の個別減産目標は示されていない。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2020年3月6日にオーストリアのウィーンで開催された前回のOPECプラス閣僚級会合においては、その前日の夕方に実施されたOPEC産油国による非公式協議で合意された2020年末までの日量150万バレルの減産措置強化案をロシアが拒否したことから、交渉が決裂、OPECプラス産油国が2020年1月1日より実施していた減産措置も3月末で終了、4月1日以降OPECプラス産油国は事実上自由に原油生産を実施できるようになった。
当該会合の際、新型コロナウイルス肺炎の拡大による石油需要への影響が不透明であったことから、ロシアはもう一四半期既存の減産体制を継続し様子を見るよう提案した一方で、サウジアラビアは日量30万バレル減産幅を拡大し日量60万バレルの減産を実施すようロシアに要請しており、それはロシアにとって技術的に困難なものであった旨、3月11日にロシア エネルギー省のソローキン副大臣が明らかにしている(また、その際ソローキン氏は原油価格の均衡点は1バレル当たり45~55ドル程度であり、この水準であれば、産油国にとっても快適であり、世界経済発展にとっても十分に低水準である旨認識している旨示唆した)。
OPECプラス産油国閣僚級会合での交渉決裂を受け、サウジアラビアは4月積みの同国産原油の全ての品種につき大幅な値下げを行う旨3月7日に発表した他、同国は4月に日量1,000万バレルを相当程度超過する(日量1,100万バレル近くの水準とも伝えられた)原油生産(因みに2月の同国原油生産量は日量968万バレルであった)を行う意向である旨3月8日に報じられたことに加え、さらに、サウジアラビアは4月の原油生産量を日量1,230万バレルへと引き上げる旨サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)が3月10日に明らかにした一方、サウジアラビアが欧州(従来ロシア産原油の主要販売先)の石油会社に対し原油を1バレル当たり25~28ドル(CIFベース)で販売、ロシアから市場シェアを奪う行為を実施している旨示唆されると3月13日に報じられた他、3月16日にサウジアラムコのナセルCEOが、サウジアラビアが5月も増産を継続する可能性がある旨示唆した。また、UAEも、4月に原油生産量を日量400万バレル(2月同299万バレル)へと増産する旨3月11日に伝えられる(さらに、イラクも原油生産量を日量20万バレル増加させ同480万バレルにする旨3月31日に報じられた他、クウェートも原油生産量を日量315万バレル(2月同266万バレル)にまで増加させる意向である旨4月3日に伝えられる)。
他方、ロシア最大手石油会社ロフネフチは4月以降増産を実施し、数週間以内に日量30万バレル原油生産量が増加する可能性がある旨3月9日に報じられた他、ロシアのノバク エネルギー相も、ロシアは数週間以内に最大日量50万バレル程度原油生産量を増加することが可能である旨3月10日に明らかにするなど、石油市場ではOPECプラス産油国間での増産及び原油価格引き下げ合戦の様相を呈するようになった。それでも、3月20日にはロシア大統領府のペスコフ報道官は、原油価格の下落は不快ではあるが壊滅的ではない他、誰も介入する必要はない旨明らかにした。
さらに、新型コロナウイルス肺炎の欧米諸国での拡大による、市民の往来の制限等に伴う経済活動の減速により、ガソリンやジェット燃料をはじめとする石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した結果、前述の通りOPECプラス産油国の一部による増産攻勢と相俟って、石油需給緩和感が市場で増大するとともに、原油相場に下方圧力が加わったことから、原油価格(WTI終値)は3月5日の1バレル当たり45.90ドルから3月30日には同20.09ドルと2002年2月7日(この時は同19.64ドル)以来の低水準となった他、この日は一時19.27ドルと、2002年2月7日の取引日(この時は同19.27ドル)以来の安値水準に到達する場面が見られるなど、特に3月下旬以降は概ね20~25ドルを中心とする領域で推移するなど低迷した(図1参照)。
また、米国でも石油需要の減少に伴う精製利幅の低迷により、製油所の稼働が低下した(例年であれば春場のメンテナンス作業終了とともに夏場のドライブシーズンの到来に伴うガソリン需要期到来に向け原油精製処理量が増加するところ、3月27日の週の同国の原油精製処理量は前週比で日量94万バレル削減された他、4月3日の週にはさらに同126万バレル減少した)ことで、原油需要が減少したことにより、特に同国製油所の中心地帯であるメキシコ湾に原油販売先が限定されやすい同国パーミアン盆地等内陸部のシェールオイル等を生産する油田地帯における現物市場では原油価格が10ドル近くにまで下落する場面が見られるなどした。このようなことから、米国のシェールオイルを開発・生産する中堅・中小企業を中心に経営が窮地に追い込まれており、例えば、4月1日にはホワイティング・ペトロリアム(Whiting Petroleum)が米国連邦破産法第11条の適用を申請し経営破綻したことが明らかになっている。そして、一部のシェールオイル開発・生産会社や産油州選出議員がトランプ政権にサウジアラビアとロシアの増産合戦に対し介入するように圧力を加えつつあると3月31日に報じられた他、米国議会上院の議員2名が米軍をサウジアラビアから撤退させる法案の提出準備を進めつつあるなどの動きも出始めた旨4月3日に報じられた。
これに対し、米国のトランプ大統領は、まず3月30日にロシアのプーチン大統領と電話で会談し世界石油市場に関する問題につき協議、両国のエネルギー当局最高幹部による原油市場に関する会談の場を設けることで合意した。また、3月31日には、米国のブルイエット(Brouillette)エネルギー長官とロシアのノバク エネルギー相が電話で会談し、20ヶ国・地域(G20)を含む産油国及び消費国間で石油市場に関する問題につき協議を継続することで意見が一致した。さらに、世界石油市場が大幅に供給過剰となっていることを受け、ロシアは増産しない旨政府関係者が明らかにしたと4月1日に報じられる。加えて、トランプ大統領は4月2日に、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を行い、トランプ氏としてはサウジアラビア及びロシアで約1,000万バレルの減産を実施することを期待及び希望している旨表明した他、その後減産規模は最大1,500万バレルになる可能性がある旨発言した(なお、トランプ氏の発言には1,000~1,500万バレル程度の減産規模については「日量」とは明示されていなかったが、市場では「日量1,000~1,500万バレル程度」と受け取られた)(下記ツイート参照)。原油価格下落当初の3月12日に原油価格の下落は消費者にとって減税に等しいとして歓迎したトランプ大統領にとって、このような発言は姿勢の変化とも受け取れるが、その背景には本年11月に予定されている米国大統領選挙に向け同国石油産業に配慮するといった側面があると見る向きもある。
そして、4月2日には、サウジアラビアが石油市場の安定化のための公正な合意に到達すべく、OPEC及び非OPEC産油国による緊急会合を開催するよう要請した旨国営サウジ通信が伝えているが、「公正な合意」は、OPECプラス産油国以外の米国等の主要産油国が減産に参加することを前提とする旨示唆された。また、4月3日には、4月6日にOPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で開催する旨アゼルバイジャンのエネルギー省が明らかにした他、OPECプラス産油国間で、日量1,000万バレルの減産措置が検討されるとともに、その中で、サウジアラビアが日量300万バレル、他の中東湾岸産油国とロシアが各々同150万バレル、その他のOPECプラス産油国が同200万バレル、米国、カナダ及びブラジル等OPECプラス産油国の枠外の産油国が同200万バレルを負担するといった選択肢がある旨関係筋が明らかにしたと4月3日報じられた。
他方、4月3日午後(米国東部時間)にはトランプ大統領と米国石油業界との間で原油価格下落に関する会合が開催されたが、OPEC産油国等はその場においてトランプ大統領が石油会社に対し減産を要請するかどうかにつき注目していた。しかしながら、当該会合においてトランプ大統領は石油業界に対しOPECプラス産油国と協調して減産するよう要請を行うことはなく(既に4月2日には、トランプ氏は減産要請を行う意向はない旨米国政府関係者が明らかにした旨伝えられてはいた)、4月4日にトランプ氏は、サウジアラビア等国外からの原油輸入に対し関税を賦課する方策を含め、エネルギー産業での雇用を守るためにはすべきことは何でも行う旨明らかにすることで、サウジアラビア及びロシアを含むOPECプラス産油国に対し圧力を加えた(但し、関税賦課は製油所の経営を圧迫するものとして米国石油協会(API: American Petroleum Institute)及び米国燃料石油化学製造者協会(AFPM: American Fuel & Petrochemical Manufacturers)が反対である旨4月1日にトランプ大統領宛に書簡を発出していることもあり、トランプ大統領は当該関税賦課につき実施する用意はあるものの、現時点では実施しない旨4月3日及び4月5日に明らかにしている)一方で、最終的には(原油生産は)市場により決定されるとした他、OPEC(の減産)に関しては「気にしない」として産油国は自滅しつつある旨明らかにした。
米国による減産措置の実施については、同国テキサス州のシェールオイル生産者の中には日量50万バレル程度の減産措置を希望する旨示唆するところもあったが、エクソンモービルやシェブロンといった大手国際石油会社は自由な経営を阻害する他反トラスト法に抵触する恐れがある(これについては異論も見られる、後述)ものとして、反対していたとされる(他にも、油田の位置する土地の所有者の財産権を侵害する恐れがあるとの指摘もある)。このようなことから、トランプ大統領はOPECプラス産油国の減産措置からは一定の距離を置いたものと見られる。
ただ、テキサスの石油産業規制当局であるテキサス鉄道委員会(TRCもしくはRRC: Texas Railroad Commission)の3人の委員のうちの1人であるシットン(Sitton)氏は、3月20日にOPECのバルキンド事務局長と石油市場の現状と将来の協力の可能性につき協議し、バルキンド氏はシットン氏を6月に開催される予定であるOPEC関連会合に招待するなど、両者の緊密な関係を披露しており、シットン氏は、トランプ氏が減産措置を実施するのであれば、減産に協力する意向である旨示唆したが、TRCのクリスチャン(Christian)委員長やもう1人の委員であるクラディック(Craddick)氏は、減産措置について否定的な意志を示していたり、懐疑的に見ていたりするとされるなど、意見が分かれる状態となっていたものの、テキサス州の生産業者に対し原油生産量を制限する規制を発動するかどうかについての公聴会(反トラスト法抵触等の問題はあるものの、これについては企業が連携して減産措置を実施することは禁止されるが、連邦もしくは州による減産規制まで禁止しているわけではないとの主張も存在する)を4月14日に実施するとした。また、テキサス州当局による減産措置に関しては、3月30日にパイオニア・ナチュラル・リソーシズ(Pioneer Natural Resources)とパセリ・エネジー(Parsley Energy)が大規模石油・ガス会社の生産を20%削減する権限を州に付与するよう要請したのに対し、4月7日にオクシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)は、減産措置は「近視眼的な」考え方であり他の州に対しテキサス州の生産者を不利にする(ので望ましくない)旨主張する書簡を送付した旨明らかにした他、エクソンモービルもテキサス州当局に対し、自由市場が極端な需給不均衡を是正する最も効率的で方法であるとして、減産措置の権限付与に反対する書簡を発出した旨4月8日に報じられる(なお、実際4月14日にはTRCによる公聴会が実施され、テキサス州の減産措置実施については賛成意見と反対意見が混在している状況であったが、早ければ4月21日にも減産規制を講ずる旨決断する可能性があるとされる一方、オクラホマ州の石油産業規制当局も5月11日に原油生産制限措置を導入するかにつき石油産業関係者を交えた公聴会を実施する旨4月14日に決定している)。
他方、4月3日以降サウジアラビアとロシアの新たな対立が明らかになった。4月3日にロシアのプーチン大統領は同国の石油会社との会合を開催したが、その場でプーチン大統領は、サウジアラビアが米国のシェールオイルを排除しようとして減産合意から脱退したことが原油価格を急落させた一因であるとして、サウジアラビアを非難する旨示唆した。これに対しサウジアラビアは、4月4日にファイサル外相がプーチン大統領の発言は完全に間違っていると発言した他、同日アブドルアジズ エネルギー相も、最初にロシアのエネルギー相が減産措置参加国は減産が免除される旨対外的に宣言したことで、減産参加国が原油価格下落の影響を相殺させるべく原油収入を補完させようと増産するに至ったとして、ロシアを批判した。このようなロシアとサウジアラビアとの間での対立の再燃もあり、4月6日に開催予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合は4月9日に延期される旨4月4日に明らかになった(なお、4月6日にはロシア大統領府は「技術的な理由」で当該会合が延期されたと説明している)。そしてこれは、サウジアラビアとロシアとの間で、OPECプラス産油国の結束を乱し、世界石油市場を混乱させるとともに原油価格の急落を引き起こしたきっかけは自国ではなく、相手の国であるといった面目の問題が、OPECプラス産油国の減産措置復活への手続きを複雑化させていることを示唆していた。併せて、ロシアは米国が減産措置を実施するのであれば、日量100万バレル程度の減産を目標とする旨関係筋が明らかにしたと4月4日に報じられるが、これは当時OPECプラス産油国間で選択肢の一つとして検討している日量150万バレルの減産目標を下回るものであった。もっとも、ロシア及びプーチン大統領としてはOPECプラス産油国協調体制を終了させることを望んでいるわけではなく、建設的な交渉を行うことを約束する旨4月5日に同国大統領府のペスコフ報道官は明らかにしている。
他方、4月3日にカナダ アルバータ州のケニー(Kenny)首相はOPECプラス産油国会合に出席する意向であるが虚心坦懐で臨む旨明らかにした他、4月4日にはノルウェーのブル(Bru)石油エネルギー相が、他の産油国が幅広く相当程度の減産を実施することに合意するのであれば、ノルウェーも減産を検討する旨明らかにしている。ただ、4月6日に米国のトランプ大統領は、自由市場であれば原油生産量は自動的に減少すると発言した他、4月7日には米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)も原油価格の下落が石油会社に影響を与える結果同国の原油生産量が日量200万バレル程度減少する見込みである旨示唆した(EIAは4月7日発表の短期エネルギー展望(SETO: Short-term Energy Outlook)で、米国の原油生産が2020年第一四半期の日量1,273万バレルから2021年第一四半期には同1,096万バレルへと同177万バレル減少する旨の見解を発表している)。4月8日にはロシアが日量160万バレル減産する用意がある旨報じられたが、同日同国大統領府のペスコフ報道官は、原油価格の下落に伴う米国のいわば非自発的な原油生産の減少については、自発的な減産措置とは全く異なると主張しており、この時点では依然としてロシアの減産は米国の自発的な減産の実施を前提としていることが窺われた。このように、米国からはOPECプラス産油国に対する減産措置に対する自発的な減産といった形での参加が期待されず、むしろ米国外産原油輸入に対する関税賦課をちらつかされる状態となっていた中で、サウジアラビアの財政収支均衡価格がWTIで1バレル当たり80ドル前後である一方、ロシアは同40ドル程度の原油価格で予算措置を講じている他、ロシア政府及び石油会社の収入はルーブル建てとなっており、原油価格が下落すればルーブルも下落することから、それら収入は原油価格の下落程落ち込むといった可能性もそれほど高くない一方、サウジアラビアの場合現地通貨リヤルは米ドルに連携していることから、原油価格の下落が財政収入の減少に直結することを含め、原油価格の下落に対する耐性という観点からはサウジアラビアよりもロシアの方が有利であると見られているにもかかわらず、4月9日に開催されたOPECプラス産油国会合で(声明では言及されていないが)OPECプラス産油国各国で一律23%の減産率の適用が決定されたとすれば、ロシアが相当程度の譲歩を行っている(2020年1月1日~3月31日の減産措置時点ではサウジアラビアの減産規模が日量48.9万バレルであった一方ロシアは同30万バレルであった)ことになるが、ここにおいては、プーチン大統領が、サウジアラビア、ロシア及び米国との間で石油市場及び産業を含めた政治・経済等の状況を考慮しつつ総合的な判断を下したという可能性も考えられる。
また、当該会合では、2020年5~6月において日量1,000万バレル程度の減産措置を実施しても、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う世界石油需要の落ち込みを相殺するには不十分であるとの市場の懸念に対応するために、時間の経過とともに緩和はするものの減産措置の実施自体は2022年4月30日までとしたものと考えられる。
他方、4月9日に開催されたOPECプラス閣僚級会合では、メキシコが、日量40万バレルの減産目標の受け入れ要請につき、2020年3月の原油生産量である日量178万バレルに対し同168万バレルの原油生産目標とし、日量10万バレルの減産目標を設定したい旨異を唱え(メキシコのロペスオブラドール大統領は同国国営石油会社Pemexによる原油生産拡大による石油産業復活を目指す旨明言していることもあり、4月3日にメキシコのナーレ(Nahle)エネルギー相は、原油価格の低迷は永遠に続くわけでないことから原油生産及び投資計画を変更する価値はない旨主張していたが、その背景にはメキシコは原油価格下落に備え一定の原油価格で販売予約を行う権利を保有していたことがあるとの指摘もある)、議論が平行線を辿ったうえ、ナーレ エネルギー相は会合途中で退席したため、OPECプラス産油国間での減産合意に至らなかった結果、声明でも当該減産合意はメキシコの同意を条件とする旨記載された。米国のトランプ大統領は、4月10日に仲介に乗り出し、メキシコの減産を日量10万バレルに限定することを認める一方で、米国が日量25万バレルの減産を肩代わりする(但しトランプ大統領はこの量の減産につき「すでに実施中である」旨明らかにしているところからすると、米国の自発的な減産と言うよりは原油価格の下落による石油会社の経済的理由に伴う原油生産削減であると推察される)とともに将来米国の肩代わり部分につきメキシコが負担し直すという妥協案を提示し、メキシコのロペスオブラドール大統領も合意した旨同日伝えられた他、大部分のOPECプラス産油国がトランプ大統領の妥協案を支持している旨4月11日に報じられる。ただ、サウジアラビアは当該妥協案を巡り引き続きメキシコと交渉を継続した旨4月10~11日に伝えられたが、最終的にはメキシコの減産規模を日量10万バレルとすることで妥協が成立した(米国の肩代わりが日量30万バレルへと同5万バレル引き上げられた旨アゼルバイジャンのエネルギー省が4月12日に明らかにしている)ことで、4月12日夜に再度OPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で開催した結果、減産措置の実施で公式に合意した。
なお、4月10日には、サウジアラビアが議長国となり、G20エネルギー相会合がテレビ会議形式で開催され、安定的な原油市場に向けた対策の実施を支持する旨表明した。他方、当該G20会議開催に際しては、例えば、ロシアのノバク エネルギー相がOPECプラス産油国枠外の産油国から日量500万バレルの減産を期待する旨表明した他、米国のブルイエット エネルギー省長官が2020年末までに日量200~300万バレル程度原油生産水準が低下する可能性がある旨予想したことに加え、ノルウェーのブル石油エネルギー相もOPECプラス産油国が減産を実施すればノルウェーも減産措置を実施するかもしれない旨明らかにしたものの、G20会議声明においてはOPECプラス産油国枠外の産油国による具体的な減産目標数値は盛り込まれていない他、カナダのオリーガン(O’Regan)天然資源相は当該会合においては減産につき具体的数値を約束しなかった旨4月10日に発言している。
(3) 原油価格の動き及びOPECプラス産油国閣僚級会合後の産油国の動向等
4月1日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が、サウジアラビアとロシアは数日以内に(原油生産調整につき)合意する旨予想していると明らかにした他、4月2日にはトランプ大統領がサウジアラビアとロシアが最大1,500万バレルの減産を実施すると期待及び希望している旨発言したことに加え、サウジアラビアが石油市場の安定化のための公正な合意に到達すべくOPEC及び非OPEC産油国による緊急会合を開催するよう要請した旨同日国営サウジ通信が伝えたこと等もあり、4月2日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり5.01ドル上昇し、終値は25.32ドルとなった。
また、4月3日も、4月6日にOPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で実施する予定である他、現在関係産油国間で日量1,000万バレル程度の減産を実施する案につき検討中である旨4月3日に報じられたことにより、世界石油需給の相対的な引き締まりへの期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり28.34ドルと前日終値からさらに3.02ドル上昇した。
しかしながら、4月9日に開催されたOPECプラス産油国で条件付きながら新たな減産措置が決定したことで、その分だけ世界石油市場から供給が排除されることになると見られるものの、新型コロナウイルス肺炎の拡大による世界経済成長の減速等により、4月等の世界石油需要が日量2,000~3,500万バレル程度下振れする旨示唆する予想が市場で出されていたこともあり、今般のOPECプラス産油国の減産措置を以てしても短期的には世界石油需給を引き締めるには不十分である(国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は日量1,000万バレルの減産を実施しても、日量1,500万バレルの在庫積み増しが発生する旨4月3日に説明している)との観測が市場で発生したから、それまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きと併せ、4月9日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.33ドル下落し終値は22.76ドルとなった。また、その後も、新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う世界石油需要の下振れに対しOPECプラス産油国等による減産措置では不十分なのではないかとの懸念が市場で根強かったことに加え、米国の原油等の在庫が大幅に増加したこと、2020年第一四半期の中国国内総生産(GDP)が四半期統計史上初めて減少を示したこと(後述)等により、原油価格の下落傾向は続き、4月17日のWTIの終値は1バレル当たり18.27ドルと2002年1月18日以来の低水準に到達している。
なお、4月13日には、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が、サウジアラビア、クウェート、UAEは4月に相当程度増産しているところから、それを基準とすれば(4月の原油生産量(推定)と基準減産量の差はサウジアラビアで日量130万バレル、クウェートで同34万バレル、及びUAEで83万バレル程度であるものと推定される)、OPECプラス産油国の減産幅は合計で日量1,250万バレルとなり、また、米国、カナダ及びブラジルは併せて日量370万バレル、その他産油国で日量130万バレル(イラン、ベネズエラ、リビアといったOPEC産油国の他、インドネシアを含むOPECプラス産油国枠外の産油国の非自発的減産が含まれている可能性がある)、それぞれ減産を実施する他、消費国が2億バレルの備蓄積み増し(3ヶ月間で積み上げれば日量約200万バレル相当となる(当該備蓄の積み上げ量は日量300万バレル程度となる見込みである旨OPEC関係筋が明らかにしていると4月12日に伝えられるが、4月17日にIEAのビロル事務局長が米国、韓国、中国及びインドにより日量200万バレルの備蓄向け原油購入が行われる予定である旨明らかにしている))を実施することから、足元の原油生産量からは合計で日量1,950万バレル減産することになる旨示唆した。また、同日アブドルアジズ氏は、他のOPECプラス産油国が減産するのであればサウジアラビアはさらなる減産を行う用意がある旨明らかにしている(また、4月16日にはアブドルアジズ氏とロシアのノバク エネルギー相が電話会談を行い、必要であれば他のOPECプラス産油国とともに減産を強化する用意がある旨の共同声明を発表している)。ただ、4月15日には、メキシコのナーレ エネルギー相は、同国の日量10万バレルの減産措置は5月及び6月のみである旨表明している。
他方、米国国務省のファノン(Fanon)次官補(エネルギー資源担当)は外国産原油に対する関税の賦課については、OPECプラス産油国による減産措置の決定後も取り下げられているわけではない旨4月15日に明らかにしている。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2020年1月の米国ガソリン需要(確定値)は日量876万バレルと前年同月比で0.2%程度の増加となり(図2参照)、速報値(前年同月比で0.5%程度減少の日量870万バレル)から若干ながら上方修正された。それでも、1月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.636ドルと前月比では0.009ドル(約0.3%)下落しているものの、前年同月比では0.298ドル(約12.7%)上昇しているうえ、1月の同国の1人当たり実質個人可処分所得が前年同月比で1.7%の伸びにとどまる(因みに2019年1月の当該所得の前年同月比での増加率は2.7%であった)など、米国と中国の貿易紛争による両国の関税賦課合戦等の影響で米国経済活動が伸び悩み気味であったと見られることが、ガソリン需要を抑制した結果、同月の当該需要の前年同月比での伸びが限定されたものと考えられる。また、2020年3月の同国ガソリン需要(速報値)は日量803万バレル、前年同月比で12.5%程度の減少となった。新型コロナウイルス肺炎の拡大により、カリフォルニア州では3月19日、ニューヨーク州は3月22日に、それぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで市民の往来が大きく制限されたことに伴い、自動車での移動が大幅に鈍化したことが、ガソリン需要に大きく影響しているものと考えられる(なお、4月3日の週の同国ガソリン需要は日量507万バレルであったが、これは1991年2月以降の同国週間統計史上最低水準である)。また、米国の製油所では春場のメンテナンス作業は終了しつつあるものの、ガソリン需要が大きく落ち込んでいることに加え、3月13日午後11時59分以降米国国外からの渡航制限が実施されたこともあり、航空機の往来も大幅に減少した結果、3月の米国ジェット燃料需要も前年同月比で18.2%減少するなどの影響を受けていることもあり、製油所での精製利幅確保が困難となりつつあるという経済的な理由で、製油所の稼働が抑制されるとともに原油精製処理量が大幅に減少した(図3参照)ことにより、ガソリンの製造活動も不活発化した(ガソリン最終製品の生産量は図4参照)ものの、ガソリン需要の低下を相殺するまでには至らなかったことから、2020年3月上旬から4月上旬にかけ同国のガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図5参照)。
2020年1月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量400万バレルと前年同月比で8.2%程度の減少となったが、速報値である日量388万バレル(同10.8%程度の減少)からは上方修正されている(図6参照)。1月の米国の鉱工業生産が前年同月比で0.9%程度の減少となる(因みに2019年1月のそれは同3.6%程度の増加であった)など同国の経済活動が減速しつつあったこともあり、同月の同国の物流活動も前年同月比で1.2%の減少となった(因みに2019年1月の同国物流活動は前年同月比で5.4%の増加であった)ことに加え、2020年1月は同国北東部が前年同月に比べ温暖であったことから、当該地域で暖房用に利用されている留出油の需要が抑制されたと見られることが、同月の米国の留出油需要の前年同月比での相当程度の減少に寄与しているものと考えられる。また、2020年3月の留出油需要(速報値)は日量397万バレルと前年同月比で4.5%程度の減少となった。新型コロナウイルス肺炎に伴う市民の外出制限の影響もあり2020年3月の同国鉱工業生産が前年同月比で5.5%の減少となったこと(因みに2019年3月の同国鉱工業生産は前年同月比で2.3%の増加であった)から、その影響を受け同国の物流活動も鈍化しているものと見られることに加え、3月は米国北東部が前年同月よりも温暖であったことから、暖房向け留出油需要が不振であったことが、同国の留出油需要の前年同月比での減少に影響しているものと見られる。それでも、3月の時点ではまだ工場での活動が市民の往来程には大きくは鈍化していなかったと言われていることから産業向けの軽油需要が比較的底堅く推移したと思われることもあり、同月のガソリンやジェット燃料程には留出油需要は落ち込んではいなかった他、前年同月比で不振であったとはいえ、それなりに暖房用需要が発生したと見られる一方で、ガソリンやジェット燃料の精製利幅の縮小に伴い製油所の稼働が低下したことにより留出油の生産(図7参照)が低迷したことから、3月上旬から4月初頭にかけて同国の留出油在庫は減少傾向となった。しかしながら、その後新型コロナウイルス肺炎による工場活動の減速等もあり、4月10日の週の米国留出油需要は日量276万バレルと1999年4月9日の週(この時は同265万バレル)以来の低水準に到達したことから、この週の当該製品在庫が大幅に増加した結果、4月10日時点での留出油在庫は3月6日時点のそれを若干ながら上回るとともに、平年幅の上限を超過する量となっている(図8参照)。
2020年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.8%程度減少の日量1,991万バレルとなった(図9参照)。留出油に加え、米国が前年同月に比べ温暖であったことから、暖房用向け消費が不振であったと見られるプロパン/プロピレン需要が前年同月の水準を相当程度下回ったことが同国の石油需要に影響する格好となっている。また、その他の石油製品需要が速報値(日量428万バレル)から確定値(同400万バレル)に移行する段階で下方修正されたことが一因となり、当該需要も速報値(日量2,022万バレル、前年同月比1.2%程度の増加)から下方修正されている。他方、2020年3月の米国石油需要(速報値)は、日量1,912万バレルと前年同月比で5.3%程度の減少となった他、4月10日の当該需要は日量1,380万バレルと1990年11月以降の同国週間統計史上で最低水準となるとともに、月次統計と比較しても、1971年5月(この時は同1,368万バレル)以来の低水準となっている。米国の一部地域での外出禁止令に伴う市民の自動車及び航空機での往来の大幅削減によりガソリン及びジェット燃料が相当程度落ち込んだことが、同月の同国石油需要の減少に寄与しているものと考えられる。また、3月のその他石油製品の需要は日量436万バレルと前年同月比で同67万バレルの増加となっているが、過去の実績(2019年2月~2020年1月の1年間(確定値)で日量351~422万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。そして製油所での精製利幅の縮小に伴う稼働の低下と原油精製処理活動の不活発化により、原油在庫は2020年3月上旬から4月上旬にかけ増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は続いている(図10参照)他、米国オクラホマ州クッシング(米国原油先物契約受渡地点であり、ここでの原油需給状況がしばしばWTI原油先物価格に影響を与える)は、4月3日の週には前週比で642万バレルの増加と2004年4月以降の週間在庫統計史上最大の伸びを示している。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2020年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、原油については、3月は新型コロナウイルス肺炎の拡大による市民の往来の制限に伴い特に米国でガソリン需要が打撃を受け始めたことで製油所での精製利幅が影響を受けつつあったこともあり、米国、そして米国にガソリンを輸出している欧州においては、製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理活動が不活発化したことで、原油在庫は増加した。また、日本においても、暖冬による暖房用石油需要の不振や新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う市民の外出自粛の動きの発生等により石油需要が軟調であったこともあり3月の製油所での原油精製処理活動が抑制されたことから、原油在庫が増加した。従ってOECD諸国全体として原油在庫は増加したうえ、在庫量が平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、米国では製油所の稼働が低下した結果石油製品生産活動が鈍化した一方で、3月時点では工場等での活動が必ずしも不活発化していなかったことから工業用需要が発生していたり、冬場の暖房用需要がそれなりに発生していたりした留出油、及び同じく暖房用需要が発生していたプロパン/プロピレンの在庫が減少したことが影響し、石油製品全体としても在庫は減少となった。また、欧州でも製油所の稼働低下による石油製品生産活動の不活発化により、ガソリンや中間留分の在庫が減少した結果、石油製品全体の在庫水準は低下した。日本においても、製油所での精製活動が抑制される中、暖房用石油製品需要は発生し続けていたことから、灯油を中心として石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となったが、平年幅上限を上回る量となっている(図14参照)。そして、原油及び石油製品在庫が平年幅上限を上回ったことから、原油と石油製品を合計した在庫も平年幅上限を超過する状態となっている(図15参照)。なお、新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う市民の外出制限等の実施により2020年3月直後の3ヶ月間のOECD諸国石油需要が大幅に下方修正されたこともあり、2020年3月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は90.7日と2月末の推定在庫日数(82.9日)から相当程度増加している。
3月11日に1,400万バレル台半ば程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、3月18日には1,400万バレル台前半程度の量へと減少したものの、3月25日は1,500万バレル台前半程度の水準へと上昇、4月1日には1,400万バレル強の量へと再び減少したものの、4月8日には1,400万バレル台半ば程度の量へと増加したうえ、4月15日には1,600万バレル台半ば程度の水準に到達するなど、当該在庫は増減しながらも全体としては増加傾向を示している。新型コロナウイルス肺炎に伴い一部都市が封鎖されたことに伴い市民の自動車での往来が大幅に鈍化した結果ガソリン需要が低迷した中国等から当該製品がシンガポールに向け輸出された一方で、インドネシアで、ラマダン(2020年は4月23日から5月23日までとされる)明けの大祭による休日(2020年は5月24~25日であるが、26~27日も有給休暇取得奨励日となっている)に伴う帰省等のための市民の自動車での移動に備えたガソリン在庫積み上げのための購入活発化により、同国向けの当該製品の輸出が行われていたこともあり、3月はシンガポールでの軽質留分在庫は比較的限られた範囲で変動していたものの、その後インドネシアでも新型コロナウイルス肺炎の拡大によりガソリンの購買活動が不活発化したことから、4月に入って以降はシンガポールでの軽質留分在庫が増加したものと見られる。そして、アジア諸国の新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う市民の外出制限等による地域の自動車での往来の不活発化とガソリン需要の伸びの鈍化もあり、3月中旬から4月中旬にかけてのアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(従来ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小したうえ、4月上旬以降は継続的にガソリン価格がドバイ原油のそれを下回る状態となっている。
ナフサについては、概ね2月から4月にかけてアジア地域の石油化学産業におけるナフサ分解装置がメンテナンス作業等を実施していることに加え、新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴うアジア地域等の経済減速による石油化学製品製造のためのナフサ需要が低迷したうえ、米国等でのガソリン需要の伸びの鈍化によりガソリンに混入されるナフサの需要が影響を受けた結果、欧州等からアジアへのナフサの流入が増加するとの観測が市場で発生したことから、当該製品需給の緩和感が市場で増大したこともあり、3月中旬から4月中旬にかけナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大している。
3月11日には1,100万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、3月18日には1,200万バレル台前半程度、3月25日には1,300万バレル台前半程度の量へと、それぞれ増加した。そして、4月1日には1,300万バレル弱、4月8日には1,200万バレル台半ば程度の量へと、それぞれ減少したものの、4月15日には1,500万バレル弱の水準へと相当程度増加している。新型コロナウイルス肺炎の拡大により、中国等での工場の活動が不活発化したことに加え、市民による航空機での往来が大幅に鈍化したことに伴い、軽油やジェット燃料の需要が減少した結果、シンガポールに当該製品が流入していることが、中間留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そしてこのような在庫の増加による当該製品需給の緩和感が市場で醸成されたことが、例えば、アジア市場での軽油価格に下方圧力を加えた結果、軽油とドバイ原油価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、概ね3月中旬から4月中旬にかけ、縮小する傾向を示した。
3月11日には2,500万バレル弱の水準であったシンガポールの重油在庫(高硫黄のものが中心と見られる)は、3月18日には、2,500万バレル台前半程度の量へと増加した。また、3月25日には2,400万バレル台後半程度、4月1日には2,400万バレル前半程度、さらに4月8日には2,300万バレル強の水準へと低下したものの、4月15日には2,400万バレル台半ば程度の量へと回復している。中国での春節(2020年は1月24日以降)の休日到来に伴う同国での一部企業活動が停止したこと、及び新型コロナウイルス肺炎の拡大に伴う都市封鎖等による経済活動低迷からアジア地域の貿易が不活発化したことにより、シンガポールでの船舶用重油需要が影響を受けたものの、重油価格が下落したことによる値頃感から当該製品を購入する動きが見られた他、1月1日に発効した国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制強化(重量比で3.5%から0.5%に引き下げ)により、製油所からの高硫黄重油供給が減少していることから、シンガポールでの重油在庫は比較的限られた範囲で推移した。そしてこのように当該製品在庫水準が比較的抑制される格好となっていたことに加え、原油価格の下落に重油のそれが追い付かなかった場面が見られたこともあり、例えば、シンガポールでの高硫黄重油とドバイ原油の価格差(従来高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っていた)は3月中旬から4月中旬にかけ高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを概ね継続的に上回る状態となっている。
3. 2020年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況
2020年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場では、サウジアラビアが高水準の原油生産を継続する旨表明した他、市場関係者が世界石油需要の下振れの予測や原油価格予想の下方修正を明らかにしたことに加え、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う世界経済成長減速観測増大により米国株式相場が下落した他、米国石油在庫が増加を示したこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、3月中旬から同月末にかけ、原油価格は下落傾向となり、3月30日のWTIの終値は20.09ドルと2002年2月7日以来の低水準に到達した。その後はサウジアラビア及びロシアを含めたOPECプラス産油国の大規模減産実施に向けた動きによる世界石油需給引き締まり期待が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国原油先物受渡地点での原油在庫増加の情報やOPECプラス産油国閣僚級会合の開催延期等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油相場は3月末から4月中旬にかけ、WTIの終値で1バレル当たり概ね20~28ドル程度の範囲で推移した。しかしながら、OPECプラス産油国による日量970万バレル程度の減産措置の決定に対し世界石油需要の下振れを相殺するには不十分であるとの観測が市場で増大したこともあり、以降原油価格は下落傾向となり、4月17日には1バレル当たり18.27ドルの終値と2002年1月18日以来の低水準にまで下落した他、この日は一時17.31ドルと2001年11月19日の取引日以来の安値に到達する場面も見られた(図16参照)。
3月16日には、この日サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)が、サウジアラビアは4月に続き5月も原油増産体制を維持する意向である旨示唆したことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことに加え、世界的な新型コロナウイルス肺炎拡大により、人々等の往来や経済活動が制約を受けるとの市場の懸念が増大したことにより米国株式相場が史上最大の下落(この日ダウ工業株30種平均は前週末終値比で2997.1ドル下落)を記録したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.03ドル下落し、終値は28.70ドルとなった。また、3月17日も、この日サウジアラビアのエネルギー省が、4~5月にかけ原油輸出を日量25万バレル増加させ(発電所向けに利用されていた原油に代わり天然ガスを利用)、同1,000万バレル超とする(因みに2019年12月は同737万バレルであった)旨示唆したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり26.95ドルと前日終値比で1.75ドル下落した。3月18日も、2020年3月末までに世界石油需要が日量800~900万バレル下振れする結果、2020年第二四半期の原油価格がブレント原油で最低1バレル当たり20ドルに到達する可能性があるものと予測する旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたと3月18日に報じられたことで、世界石油需給の緩和感と原油価格の先安観を市場が意識したことに加え、今後数ヶ月間日量1,230万バレルの原油生産量を継続する旨3月18日にサウジアラビアが表明したことで、世界石油供給過剰状態の長期化懸念が市場で増大したこと、新型コロナウイルス肺炎感染抑制のために都市封鎖等経済活動を制約する動きが世界的に広がっていることもあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり6.58ドル下落し、終値は20.37ドルとなった。この結果原油価格は3月16~19日の3日間で併せて1バレル当たり11.36ドル下落した。ただ、3月19日には、これまでの価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、サウジアラビアとロシアとの間での原油価格引き下げ競争に関し、米国は適切な時期に関与し妥協を模索する意向である旨3月19日に米国のトランプ大統領が表明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.85ドル上昇し、終値は25.22ドルとなった。しかしながら、3月20日には、世界石油需要が日量1,000万バレル以上減少する可能性がある旨の予測を大手国際商品取引会社ビトール(Vitol)が披露した他、複数の機関が4月までに最大で日量1,000万バレル世界石油需要が下振れする可能性がある旨明らかにしたと3月20日に報じられたことから、この先の世界石油需給の緩和感を市場が意識したことに加え、3月20日の米国原油先物契約の納会を控え持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり22.43ドルと前日終値比で2.79ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2020年4月渡し原油先物契約は取引を終了したが、5月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり22.63ドル(前日終値比3.28ドルの下落)であった)。
3月23日には、石油分野でのサウジアラビアと米国との同盟関係の構築が、現在米国の政策決定者により検討されている旨、同日同国のブルイエット エネルギー省長官が発言したことにより、両国による世界石油需給引き締めに向けての米国等の行動に対する期待が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.93ドル上昇し、終値は23.36ドルとなった。また、3月24日も、米国政府による2兆ドルの経済対策に関する議会における与野党合意が近い旨ムニューシン財務長官をはじめ複数の幹部が明らかにしたと3月24日に報じられたことから、世界経済成長回復に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場がダウ工業株30種平均で前日終値比2,112.98ドの上昇と過去最大の上昇幅となった(上昇率は11.4%と1933年3月15日(この時は同15.3%上昇)以来の大幅なものとなった)ことから、3月24日の原油価格の終値は1バレル当たり24.01ドルと前日終値比で0.65ドル上昇した。さらに、3月25日も、米国トランプ政権と同国議会上院与野党が新型コロナウイルス肺炎のための2兆ドル程度の規模の対策で合意した旨この日未明(米国東部時間)に報じられたことから、世界経済回復に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.48ドル上昇し、終値は24.49ドルとなった。この結果原油価格は3月23~25日の3日間で併せて1バレル当たり2.06ドル上昇した。しかしながら、3月26日には、世界で30億人程度の市民の外出が制限されたことで、世界の石油需要は2020年のある時点で日量2,000万バレル程度減少する可能性がある旨IEAのビロル事務局長が3月26日に示唆したことで、世界石油需給緩和感を市場が意識したうえ、米国石油需給引き締めのための米国エネルギー省による米国緊急時石油備蓄(SPR)向けの原油購入につき、3月25日夜に同国議会上院を通過した経済対策には購入資金が含まれなかったことから、3月26日に同国エネルギー省が当該購入計画を破棄する旨表明したことで、同国の石油供給過剰感が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.89ドル下落し、終値は22.60ドルとなった。また、3月27日も、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴い世界石油需要が下振れするとの市場の観測の流れを引き継いだうえ、サウジアラビアとロシアとの間では石油市場均衡に向けた協議は実施されてない旨3月27日にサウジアラビアのエネルギー省関係者が明らかにしたことで、世界石油供給過剰感を市場が意識したこと、これまでの上昇に対する利益確定の動きが発生したこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり21.51ドルと前日終値比で1.09ドル下落した。この結果原油価格は3月26~27日の2日間で併せて1バレル当たり2.98ドル下落した。
さらに、3月29日夕方に米国のトランプ大統領が、今後2週間以内に死亡率がピークに達する可能性があるとして、3月15日に発表した米国民に対する行動制限を当初期限であった3月31日から4月末迄延長する旨明らかにしたことにより、当初目指してきたイースター(4月12日)に向けた経済活動再開のための行動制限緩和が事実上見送られたことで、同国経済成長と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が3月30日の市場で増大したことに加え、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が3月27日の週に400万バレル超増加した旨米国石油情報サービス会社ジェンスケープ(Genscape)が明らかにしたと3月30日に報じられたことで、米国原油先物契約受け渡し地点での原油需給緩和感を市場が意識したことから、3月30日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.42ドル下落し、終値は20.09ドルとなった他、一時は19.27ドルと2002年2月7日の取引日(この時は同19.27ドル)以来の安値に到達した。ただ、3月31日には、これまでの原油相場の下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が52.0と2月の35.7から大幅に上昇した他市場の事前予想(44.8~45.0)を上回ったことに加え、同国非製造業PMIが52.3と2月の29.6から大幅に上昇した他市場の事前予想(42.0)を上回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり20.48ドルと前日終値比で0.39ドル上昇した。しかしながら、4月1日には、この日EIAから発表された米国石油統計(3月27日の週分)で、原油在庫が前週比で1,383万バレル、ガソリンが同752万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同330~460万バレル程度、ガソリン在庫同120~360万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、3月31日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が、新型コロナウイルス肺炎拡大状況に関し今後2週間非常に厳しい状況になる旨明らかにしたこともあり、新型肺炎の米国経済への影響に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式先物相場が下落したことから、この日(4月1日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.17ドル下落し、終値は20.31ドルとなった。それでも、4月1日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が、サウジアラビアとロシアは今後数日以内に(原油生産調整につき)合意する旨期待していると明らかにした他、4月2日にはサウジアラビアとロシアが最大(日量)1,500万バレルの減産を実施すると予想している旨発言したことに加え、サウジアラビアが石油市場安定化のための公正な合意に到達すべくOPEC及び非OPEC産油国による緊急会合を開催するよう要請した旨同日国営サウジ通信が伝えた他、サウジアラビアは当初予定されていた4月以降の日量1,230万バレルの原油生産量につき同900万バレルを割り込む水準へと削減することを検討している旨ウォールストリートジャーナルが4月2日に報じたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、中国が自国の備蓄用に原油購入を行う準備をしている旨4月2日に報じられたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり25.32ドルと前日終値比で5.01ドル上昇した。また、4月3日も、4月6日にOPECプラス産油国閣僚級会合をテレビ会議形式で実施する予定である他、現在関係産油国間で日量1,000万バレル程度の減産を実施する案につき検討中である旨4月3日に報じられたことにより、世界石油需給の相対的な引き締まりへの期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.02ドル上昇し、終値は28.34ドルとなった。この結果原油価格は4月2~3日の2日間で併せて1バレル当たり8.03ドル上昇した。
しかしながら、4月3日にロシアのプーチン大統領が、サウジアラビアが米国のシェールオイルを排除しようとして減産合意から脱退したことが原油価格急落発生の一因である旨示唆した一方で、4月4日にサウジアラビアのファイサル外相がプーチン大統領の発言は完全に間違っていると発言した他、同日同国のアブドルアジズ エネルギー相も、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合の際に、減産措置参加国は減産が免除される旨ロシアのエネルギー相が対外的に宣言したことで関係産油国が増産するに至ったと反論するなどしたこともあり、4月6日に予定されていたOPECプラス産油国閣僚級会合が4月9日に延期される旨4月4日に明らかになったことに加え、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が4月3日の週に前週比で580万バレルの増加と2004年4月以降の同国週間統計史上最大の増加を示している旨ジェンスケープが報告したと4月6日に報じられたことで、米国原油先物契約受渡地点での石油需給の緩和感を市場が意識したことから、4月6日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.26ドル下落し終値は26.08ドルとなった。また、4月7日も、この日EIAから発表された短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)で、EIAが2020年の世界石油需要を3月11日発表時点から日量560万バレル下方修正したことに加え、2020年の原油価格(WTI)見通しを3月11日発表時点の1バレル当たり38.19ドルから29.34ドルへと引き下げたことから、この日(4月7日)の原油価格の終値は1バレル当たり23.63ドルと前日終値比で2.45ドル下落した。この結果原油価格は4月6~7日の2日間で併せて1バレル当たり4.71ドルの下落となった。それでも4月8日には、4月9日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合を控え、ロシアが日量160万バレルの減産を実施する用意がある旨4月8日に報じられたことで、当該会合での減産措置に対する合意到達と世界石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.46ドル上昇し、終値は25.09ドルとなった。しかしながら、4月9日には、この日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、日量1,000万バレル程度の減産を2020年5~6月において実施する旨関係産油国間で合意したと伝えられたことに対し、世界石油供給過剰を払拭するには不十分であるとして市場が失望したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり22.76ドルと前日終値比で2.33ドル下落した。なお、4月10日は、米国のグッドフライデーに伴う休日により同国原油先物市場は休場であった。
また、4月13日も、4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、最大日量970万バレル程度の減産を2020年5月以降実施する旨関係国間で合意したものの、世界石油供給過剰を払拭するには不十分であるとの見方が市場で持続したうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が4月10日の週に前週比で540万バレル程度増加した旨ジェンスケープが明らかにしたと4月13日に報じられたことで、米国原油先物契約受渡地点での石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.35ドル下落し、終値は22.41ドルとなった。4月14日も、4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で減産が決定されたことに対し世界石油供給過剰を払拭するには不十分であるとの見方が市場で発生していた流れを引き継いだうえ、4月14日に国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)でIMFが2020年の世界経済成長率見通しをマイナス3.0%と2020年1月9日に発表されたプラス3.3%から大幅に下方修正したことで、世界石油需要の下振れに対する懸念が市場で増大したこと、4月14日に開催されたテキサス鉄道委員会の公聴会(テキサス州の原油生産量を制限するかどうかを判断するために開催)で、米国大手パイプライン会社プレイン・オール・アメリカン・パイプライン(Plain All American Pipeline)のペファニス(Pefanis)社長が、5月半ばには米国の石油貯蔵施設が満杯になる可能性がある旨発言したことで、米国の石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり20.11ドルと前日終値比で2.30ドル下落した。さらに、4月15日も、この日IEAから発表された「オイル・マーケット・レポート」で、IEAが4月の世界石油需要が前年同月比で日量2,900万バレルの減少となり1995年以来の低水準に到達すると推定される旨の見解を明らかにするとともに、OPECプラス産油国による減産措置等では、短期的にはそのような需要の落ち込みを相殺するには不十分であろう旨示唆したことに加え、同日EIAから発表された米国石油統計(4月10日の週分)で、原油在庫が前週比で1,925万バレル、留出油が同628万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同1,010~1,270万バレル程度、留出油在庫同140~180万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.24ドル下落し、終値は19.87ドルとなった他、一時は同19.20ドルと2002年2月1日の取引日(この時は同19.09ドル)以来の安値に到達する場面も見られた。この結果原油価格は4月13~15日の3日間で併せて1バレル当たり2.89ドル下落した。ただ、4月15日にドイツのメルケル首相が、新型コロナウイルス肺炎対策がある程度功を奏しているとして、3月後半に導入した都市封鎖等の措置を緩和する旨発表したこともあり、同国の自動車製造企業が次週以降工場の操業を再開する意向である旨明らかにしたと4月16日に報じられたことから、同国等での経済活動と石油需要に対する楽観的な見方が4月16日の市場で発生したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、4月16日にOPECから発表された「月刊オイル・マーケット・レポート」でOPECが2020年の世界石油需要を日量691万バレル下方修正したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、4月16日の原油価格は前日終値比で変わらず、終値は1バレル当たり19.87ドルとなった。しかしながら、4月17日には、この日中国国家統計局から発表された2020年第一四半期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比で6.8%の減少と1992年以降の同国四半期統計史上で初めての減少を示した他、市場の事前予想(同6.0~6.5%程度の減少)を上回って減少したことに加え、4月21日の米国原油先物市場での納会を控え、持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり18.27ドルと前日終値比で1.60ドル下落、終値としては2002年1月18日(この時は同18.00ドル)以来の低水準となった他、一時は1バレル当たり17.31ドルと2001年11月19日の取引日(この時は同16.70ドル)以来の安値に到達する場面も見られた。
4. 原油市場における注目点等
現在原油相場に影響を与える可能性のある地政学的リスク要因は複数存在する。まず挙げられるのが、イランと米国を含む西側諸国等との核合意を巡る対立であろう。3月17日に米国のポンペオ国務長官がイランに対し石油化学製品輸出に関係したとして、9企業に制裁を科する他、2004年以前のイラン核開発事業に関与したとして、イランの科学者5名に制裁を科する旨発表した。そして、3月18日には米国国務省が、前日に発表した制裁の対象が、中国3社、香港3社、南アフリカ1社、ロシア1社、パキスタン1社、UAE1社(香港含む中国企業6社、南アフリカ企業2社、イラン軍関係会社1社とする情報もあり)の9企業と個人(イラン人科学者)であるとともに、その企業名及び個人名を明らかにした。さらに、3月19日に米国財務省は、イランの供給する原油及び石油化学製品の販売に関与したとして、UAE企業5社に対し、米国内資産凍結及び米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。また、3月26日には、米国財務省がコッズ部隊を含むイラン革命防衛隊やイラクを拠点とする親イラン武装勢力「カタイブ・ヒズボラ」を支援したとして、イラクの建設会社で「コッズ部隊」の関係会社である「コサルカンパニー」を含む、イラン及びイラクの個人15名及び企業5社に対し、米国内での資産凍結と米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。また、ペルシャ湾の公海上で米陸軍ヘリコプターとともに訓練を実施していた同国海軍及び沿岸警備隊の艦船6隻に対し、イランの革命防衛隊の艦船11隻が異常接近するとともに挑発行為を行った旨、4月15日に米海軍が発表するとともに、当該行為を批判した。これに対しイラン側は革命防衛隊の訓練中に米軍の艦隊が妨害行為を行った(また、4月6~7日にも同様の行為を行った)として米軍の行動を非難する旨の声明を革命防衛隊が4月19日に発表している。
このように、米国はイラン関係者やイランと取引を行ったイラン国外企業等に対し制裁を発動し続けている。また、イラン政府がウラン濃縮能力、ウラン濃縮濃度及びウラン濃縮に関する研究・開発活動等の制限を撤廃する旨表明した2020年1月5日から90日が経過した4月4日以降さらなる核開発活動の拡大がイラン政府から発表される可能性があること(但し、現時点ではイラン側からさらなる核開発活動の拡大に関する発表はなされていない)を含め、核開発を巡り米国とイランとの対立がさらに高まるとともに、既に最近でも、ペルシャ湾で米軍とイラン革命防衛隊との間での妨害行為に関し両国が批判し合う事例が見られているが、今後も例えば、ペルシャ湾における船舶に対する挑発行為が見られる可能性がある他、イラクに駐留する米軍関連施設に対する親イラン武装勢力等による攻撃(後述)、及び、米軍による親イラン武装勢力等に対する報復攻撃、そして、米国によるさらなる対イラン関連制裁の発動とそれに対するイラン政府関係者の反発等を含め、両国関係が一層複雑化する、といった展開となることにより、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることも否定できない。
また、イラン情勢とも関連するが、イエメンでは、3月28日に、サウジアラビア(同国が主導する有志連合軍はイエメンのハディ暫定大統領を支援している)の首都リヤド上空で、ハディ暫定大統領と対立するイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が発射した弾道ミサイルをサウジアラビア側が迎撃した旨同国が発表している。加えて、フーシ派武装勢力が同国中部のマリブ(Marib)にあるコフェル(Kofel)原油パイプライン(イエメン国営会社Safer Oil Companyが操業しているが、ここ4年間程度は内戦に伴う原油生産停止により原油輸送も停止状態にあるとされる)の原油送出施設を攻撃したとして、4月5日にハディ暫定大統領派勢力が非難したと、国営サウジ通信が報じた。しかしながらフーシ派武装勢力は、サウジアラビアを中心とする有志連合軍が当該施設を攻撃したと主張している(両勢力とも攻撃は4月5日に行われたと発言している)。その後、ハディ暫定大統領派勢力を支援するサウジアラビアが主導する有志連合軍は、4月8日に、国連による停戦要請を受け入れ、4月9日からフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)との戦闘を2週間停止する旨明らかにしている(フーシ派武装勢力が停戦を受け入れるかどうかは不明)。また、4月16日に国連安全保障理事会は、イエメン情勢につき会合を開催、その場で国連のイエメン担当事務総長特使であるグリフィス氏は、新型コロナウイルス肺炎拡大により、ハディ暫定大統領派勢力及びフーシ派武装勢力双方が国連による即時停戦の呼びかけに賛同しているとして、近いうちに正式合意に到達するとの見解を披露した。もっとも、現時点でも両勢力による戦闘は継続しているとされることもあり、両勢力による停戦が実現しなかったり、もしくは停戦で合意したとしても後にそれが破棄されるといった展開となったりするようであれば、引き続きサウジアラビア等の有志連合軍によるイエメンでの空爆等が行われる一方、フーシ派武装勢力が反撃を行うといった状況の中で、関係国の対立の高まりに伴う軍事攻撃等が、時として意図せぬ方向に展開する結果、お互いの軍事行動が激化することを通じ、中東情勢が不安定化するとともに当該地域からの石油供給が途絶する可能性に対する懸念が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることも否定できない。
また、イラクでは、3月14日に同国のバグダッド北方にあるタジ基地に、ロケット弾30発超が飛来したことで、同基地に駐留する米国他有志連合軍関係者(米軍兵とされる)3名とイラク軍関係者2名が負傷した。これに対し3月16日に、米国のポンペオ国務長官が、アブドルマハディ暫定首相と電話会談し、米国人に対する攻撃や脅威を容認しない旨表明するとともに、報復措置を講じる可能性を示唆した。また、イラク北部では、トルコ軍事関係者4名が敵対するクルド労働者党(PKK)から砲撃を受けたことにより死亡したことに対し、トルコ軍が報復攻撃を行った旨3月25日にトルコ国防省が発表した。他方、2019年10月1日以降に発生した大規模反政府デモと国内混乱の責任を取って辞任の意向したアブドルマハディ首相(2019年11月29日に事実上の辞意表明、12月1日に国会で辞任承認、現在は暫定首相)の後任として2月1日に首相候補として指名されていたイラクのアラウィ(Allawi)元通信相が組閣を断念し首相候補を辞退する旨3月1日夜(現地時間)に発表、4月9日にイラクのサレハ大統領は、同国情報機関責任者であるカディミ(Kadhimi)氏を首相候補として指名した。同氏は30日以内の組閣を目指すとされる。ただ、組閣作業が長引いたり、カディミ氏が組閣を断念するようだと、同国での政治的空白が長期化するとともに、政治、経済、及び治安面等でイラクが不安定となり、例えば同国南部油田地帯での抗議行動が激化したり、テロリストによる攻撃が発生しそれを防御しきれなかったりする結果、同国からの石油供給に支障が生じるとの不安感が市場で増大することにより、原油相場を押し上げるといった展開が見られることもありうる。
他方、リビアでは、トリポリ拠点の統合政府(国連、トルコ、カタール等が支援)及び東部トブルクを拠点とする暫定議会を支援するハフタル将軍を指導者とするリビア国民軍(LNA)(エジプト、UAE、サウジアラビア等が支援)との間での事実上の内戦と、石油ターミナルやパイプラインといった石油生産・出荷関連施設の操業停止により、原油生産量が4月13日時点で日量8万バレル程度と、2019年12月以前の水準から日量110万バレル程度低下したままとなっており、この分だけ世界の石油供給が排除される格好となっている。
ベネズエラについては、3月26日に米国司法省がベネズエラのマドゥロ大統領、パドリノ国防相、カベジョ制憲議会議長、モレノ最高裁判所長官等をコロンビアからの麻薬密輸に関与したとして訴追した旨発表した。ただ、3月31日に米国のポンペオ国務長官は、野党を含む国会議員全員の権利を回復させる他、政治犯全員を釈放した後、与野党が各々代表を派遣して暫定政権を形成することに加え、ベネズエラ国内に駐留する外国部隊を撤収させるのであれば、米国はベネズエラ政府及び国営石油会社PDVSAに対する制裁を解除、さらに大統領及び国会議員選挙が公正に実施されれば(6~12ヶ月程度での実施をポンペオ氏は希望)、ベネズエラに対する全ての制裁を解除する方針である旨明らかにしたが、マドゥロ政権はこの提案を直ちに拒否している。また、3月31日には、ベネズエラのサーブ検事総長がグアイド国会議長に対し政権転覆計画容疑により4月2日に検察庁に出頭する旨の召喚状を発出した。
現在のところ、以上に挙げたものを含め地政学的リスク要因は後述の経済的要因及び石油需給面での要因の陰に隠れてしまっている格好となっている。しかしながら、これらの地政学的リスク要因の今後の展開次第では、原油相場に影響を与える場面が見られることもありうるので注意が必要であろう。
経済面では、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う世界経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化観測が挙げられよう。米国のトランプ大統領は4月15日に新型コロナウイルス肺炎の感染拡大に頭打ちの兆しが見える旨示唆するとともに、4月16日には同国の経済活動再開に関する指針を発表した。また、イタリア、スペイン及びフランスでも新型コロナウイルス肺炎感染者数が減少しているとの報告もなされている。これらについては、本当に持続的に新型コロナウイルス肺炎の拡大が鈍化しているかどうか見極める必要があり、もし再び当該肺炎感染が拡大傾向を示した場合には、世界経済成長とともに石油需要の鈍化が長期化するとの懸念が市場で再燃する結果、原油相場に下方圧力を加え続けることになる可能性が増大するものと見られる。他方、新型コロナウイルス肺炎の拡大が世界的に転換点を迎えつつある兆候が明確になってくれば、世界経済成長減速懸念が市場で後退し、米国等の株式相場が反発しやすくなるとともに、世界石油需要の伸びの回復観測が市場で強まることにより原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性がある。この場合、市民の往来制限等を通じた世界経済成長及び石油需要面への制約(及び世界石油需給の緩和感)は、新型コロナウイルス肺炎感染の頭打ち局面の兆候により直ちに全てが解消するわけではないが、市場では、足元の石油需給バランスよりも将来の石油需給バランスの方向性を見込んで原油先物契約を売買する場合もあることから、そのような兆候が現れれば株式相場とともに原油相場が持続的に上昇傾向を示しやすくなるものと考えられる。そしてそのような中で、米国、欧州及び中国等での経済指標類、及び4月中旬から発表が活発化している2020年1~3月期等の米国等主要企業の業績及び今後の業績見通しの内容が株式相場とともに原油相場に織り込まれるものと見られるが、新型コロナウイルス肺炎拡大が加速する過程にある場合、経済が減速していることを示唆する経済指標類や後ろ向きの企業業績等が発表されれば世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力を加える可能性があるものの、新型コロナウイルス肺炎拡大が鈍化する過程にある場合には、経済が減速していることを示唆する経済指標類や後ろ向きの企業業績等が発表されても、それら指標はしばしば過去の状況を反映することがあるため、それら内容が市場から軽視されるとともに、世界経済成長と石油需要の回復期待から米国等の株式相場には十分な下方圧力が加わらない結果、原油相場が左程下落しない場面が見られうる一方で、新型コロナウイルス肺炎拡大が鈍化する過程にある中で、経済が加速していることを示唆する経済指標類や前向きの企業業績及び業績見通し等が発表されれば世界経済成長と石油需要の伸びの回復期待が市場で煽られる格好となることにより、米国等の株式相場に上方圧力が加わるとともに原油相場が押し上げられる場面が見られる可能性がある。
OPEC及び一部非OPEC産油国(「OPECプラス産油国」)は、2022年4月30日にかけ最大で日量970万バレル程度の減産措置を実施することにつき4月12日に合意した。もっとも足元世界石油需要は日量2,000~3,500万バレル程度下振れしているとの見方が市場で広がっていることもあり、今回の合意だけでは少なくとも短期的には原油価格への上方圧力としては限定的となる可能性がある。他方、今後、サウジアラビアを始めとする「OPECプラス産油国」についての、タンカー追跡データ等による推定原油供給量等の情報により、減産措置の遵守状況に関する観測が市場で発生するとともに原油相場にそれが織り込まれることが想定される。ここで、減産遵守状況が捗々しくない旨判明した場合には、世界石油需給緩和感が市場で醸成されるとともに原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと見られる。特に、ロシアは今般日量250万バレル強と相当程度の減産措置を実施することになっているものの、ロシアの主力産油地帯である西シベリア地域の油田は老朽化が進んでいるとともに水攻法が多用されるとされており、短期的に大幅な減産を実施した場合、この先、減産措置を施した油田から原油生産を回復させようとする際には多額の費用が必要となる結果、生産回復の経済性が損なわれることにより、中長期的な原油生産に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されていることもあり、今後ロシアが定められた原油生産の削減を短期的に実施できるかどうかに市場が注目することになろう。また、サウジアラビア等中東湾岸産油国が減産目標を超過して減産を実施する結果、OPECプラス産油国の減産遵守率が100%を大きく超過するようであれば、石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、少なくとも原油価格の下落が抑制される他、他の石油需給条件によっては、原油相場が上昇する場面が見られる可能性がある。また、もし新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースが加速したままとなっているのであれば、OPECプラス産油国の減産措置遵守状況が良好でも原油相場の回復が鈍い可能性がある(他の要因次第では下落する場面が見られる可能性がある)一方で、新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースが減速している、もしくは減速する兆候が見られる中で、OPECプラス産油国の減産措置遵守状況が良好であれば、原油相場の上昇が勢いづくといった展開も想定される。他方、サウジアラビア等を含む産油国等の原油供給方針に対する発言等でも原油相場が反応することもありうる。さらに、米国の石油坑井掘削装置稼働数の動向に加え、米国を含めたOPECプラス産油国枠外の産油国の原油生産状況も、原油相場に影響を与える可能性もある。
全体としては、当面の市場の注目点は、OPECプラス産油国による2022年4月30日までの最大日量970万バレル程度の減産措置の遵守状況やOPECプラス産油国枠外の産油国の原油生産状況等に加え、新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースがどうなるか、ということになろう。そして、新型コロナウイルス肺炎の拡大ペースによって、世界経済成長見通しと石油需要の伸びに関する観測が市場で変化するとともに、OPECプラス産油国等による減産措置の石油需給バランスに対する影響の仕方も変化する結果、原油価格に圧力が加わる場面が見られる可能性があるので、注意が必要であろう。
以上
(この報告は2020年4月20日時点のものです)