ページ番号1008765 更新日 令和2年5月27日

ロシア:ロシア政府とRosneftによる「奇策」。制裁解除を狙い、Rosneftが保有するベネズエラ資産を政府保有のRosneft株式と交換譲渡

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レポートID 1008765
作成日 2020-05-27 00:00:00 +0900
更新日 2020-05-27 14:34:57 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2020
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地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
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国・地域 旧ソ連,ロシア
2020/05/27 原田 大輔
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概要

  • 2月18日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、ベネズエラ産原油の輸出取引に関与しているRosneftの子会社であるRosneft Trading SA及びその代表のディジエ・カシミーロRosneft副社長を特定国籍指定者(SDN)に指定すると発表。さらに、3月12日にはもう一つの子会社であるTNK Trading International SAに対しても制裁を発動。
  • 3月28日、Rosneftは全ベネズエラ事業から撤退することを決定。その方法としてRosneftのベネズエラ全事業をロシア政府へ売却し、その対価として、ロシア政府が保有するRosneft株式(9.6%)をRosneftに譲渡することで合意。
  • Rosneftにとって今回のロシア政府を巻き込んだ「奇策」によって、自社株9.6%を保有することでRosneft自身が自ら分配する配当を自社に還流させることが可能に。ロシア政府は新会社Roszarubezhneftを設立し、4月にRosneftの警備会社と見られるRN-Okhrana-Ryazanを買収。その後、RosneftがRN-Okhrana-Ryazanにベネズエラ資産を移管。
  • 4月23日、Rosneftは2019年下半期について記録的な配当を支払うことを決定。最終的には6月の株主総会で承認されることが前提だが、この配当額が承認されれば、2018年時点の配当実績2,746億ルーブルから、2019年には上半期及び下半期を合わせて3,541億ルーブル(約54億ドル)、前年比約3割増の配当を割り当てることになる。Rosneftに還流する配当は半期で2.8億ドルに上る。
  • 他方、今回のロシア政府とRosneftの「奇策」によって、ロシア政府によるRosneftの株式シェアが過半を割り込んだことにより、形式的にはRosneftは「非国営企業」または国の管理が見掛け上弱体化することとなった(但し、連邦資産管理庁による黄金株の存在が想定される)。さらに派生する影響として、2008年以降改革が行われた戦略外資規制によって付与されてきた国営企業(政府が過半を有する規定あり)への特権にも影響が及ぶかもしれない。

1. OFACによるRosneft子会社に対する制裁発動

2月18日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、「腐敗したマドゥーロ政権による同国の石油資産の収奪を食い止めるために」(ムニューシン財務長官)、ベネズエラ産原油の輸出取引に関与しているRosneftの子会社であるスイス登記の法人Rosneft Trading SA及びその代表のディジエ・カシミーロRosneft副社長を特定国籍指定者(SDN)に指定すると発表した[1]。リリースでは、Rosneft Trading SAが関与したとされるベネズエラ産原油取引に関する活動及び今回の制裁対象について、FAQも含め以下説明している。



OFACによるベネズエラ原油取引を巡る新たな対露制裁について

(2020年2月18日プレスリリース要点抜粋)

(1) 大統領令(Executive Order)13850に従って、Rosneft Trading SA及び同社のディジエ・カシミーロ代表をSDNに指定した。

(2) Rosneft Trading SAのベネズエラ産原油取引に関する活動は以下判明。

  • 2019年8月:ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)と2百万バレルの原油輸送を協議。
  • 2019年9月:PDVSAがMerey-16原油をRosneft Trading SAへ供給。同社はベネズエラでロードし、アジアへ輸送。
  • 2019年秋:9月から12月にかけての55百万バレルの原油輸送をPDVSA及びRosneft Trading SAが計画。
  • 2020年1月:PDVSAに代わって、Rosneft Trading SAがMerey-16原油を西アフリカ向けにタンカー輸送。

(3) Rosneft Trading SAは既にRosneftと共に分野別制裁対象。今回は更にSDN指定が加わる。

(4) 米国制裁は終わりないものではなく、ベネズエラの民主化を支援する意味のある具体的なアクションを取るのであれば、制裁解除を検討する。

(5) Rosneft Trading SAとの取引に関して、撤退猶予(Wind Down)期間を設定する。

 

OFACによるFAQ要点(抜粋)

(1) SDNによる今次制裁はRosneft Trading SAに対してであり、親会社であるRosneft及び他同社子会社には適用されない。

(2) Rosneft Trading SAとの取引に関して撤退猶予(Wind Down)期間として、2020年5月20日(2月18日から93日間/3カ月)を設定する。

(3) 米国人以外の個人・企業でその期間に取引を終了できない場合にはOFACにガイダンスを求めることができる。

この発表を受けて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「米国による制裁は国際法に則っておらず、ロシアとベネズエラの二国間関係を変更するものではない。逆に二国間関係は更に発展するだろう。Rosneftの子会社に関しては同社の権利を守るあらゆる既存の法的手段を検討している」と発言[2]。今回同社が制裁対象となった理由はベネズエラへの主要なレンダーであり投資者であった親会社のRosneft(2010年以降、これまでPDVSAに対して融資累計65億ドル、その他投融資総額を合わせると90億ドルに上るとされる)、そして、近年ベネズエラの原油輸出の約6割を扱ってきたRosneft Trading SAが冒頭ムニューシン財務長官の言の通りマドゥーロ政権に対する打撃を主目的に、ロシアに対する間接攻撃も行えるツールとして浮上し、今回の米国制裁に繋がったと考えられる[3]


[2] Prime(2020年2月19日)

[3] 同様の事例として、2017年6月1日、制裁下にある北朝鮮への原油輸出に関与したとして、Rosneft元社長でセーチン現社長の右腕と目されてきたエドアルド・フダイナトフ社長が率いるIPC-Holding(露語ではННК/Independent Petroleum Company/独立石油会社)社長が保有する子会社2社(JSC Independent Petroleum Company及びJSC NNK-Primornefteproduct)をSDNに指定したことがある。なお、同制裁は当該二社が北朝鮮に対する全ての輸出活動を停止し、米国制裁を遵守したことを確認したとして、2020年3月2日に解除されている。


2. Rosneft Trading SAに対する制裁の影響

SDNへの指定は実質指定対象者とのありとあらゆる商取引関係の終了を意味し(SDN指定後も商取引を継続した場合には、外国人であろうとSDN対象者を幇助していると見做され、米国制裁の対象となる可能性があるため)、Rosneft Trading SAの経済活動が停止することにより、親会社Rosneftのトレーディング業務の機能不全や同社が関与してきた欧州及びインド向けの重質原油の供給途絶をもたらす可能性が、制裁直後から指摘された。

Rosneft Trading SAはRosneftの輸出原油量(日量280万バレル)の25%(同70万バレル)を扱ってはいたが、OFACが設定した三カ月間の撤退猶予期間があるので、その間に他の子会社へ業務を振替えることが可能となっており、大きな影響は与えないだろうと考えられた。同社は2011年に設立されてから、ドイツの製油所供給を中心に欧州市場でのRosneftのプレゼンス拡大に貢献してきた。ロシア産原油の主力商品であるウラルブレンドだけでなく、カザフスタン産原油を輸送するCPC原油やサハリン1プロジェクトからのソーコル原油、黒海積み出しの石油製品輸出等の取り扱い実績もあり、これらの取引はTrafiguraとの非公式JVを通じて行われていたと言われている(ちなみにTrafiguraも今回の制裁発動を受けて米国による経済制裁を遵守していくことを改めて表明している)[4]

Rosneft Trading SAは欧州及びインド市場にベネズエラ産原油を販売してきた。まず、欧州でのベネズエラ産原油需要は、重質原油受け入れが可能なアップグレードした精製施設での使用に限られ、スペインRepsolが最大の顧客ではあるが市場規模は限定的である。一方、インドは重質原油需要が大きい。例えば、Rosneft本体が49.13%出資(他の50.87%はTrafiguraが出資)しているナヤラ・エナジー[5]の場合、印グジャラート州のヴァディナール製油所(日量精製能力40.5万バレル)で調達する原油の65%が超重質油、26%が重質油となっており、同社はベネズエラ重質原油を主に受け入れてきた。この他、精製大手のリライアンス(ジャムナガル製油所等)は「事態を分析しているが、これまでベネズエラ産原油の購入は米国政府の許可の下、行われてきた」と発表しており、ベネズエラ産重質原油を相当量輸入していたことも明らかにしている。現在は、イラン産重質原油の輸出にも米制裁がかかっており重質原油の供給は世界的に逼迫しているため、インドの製油所による重質原油の代替調達先としては、ロシア産の高硫黄重質原油(Mazut-100)及び他の中東産油国から調達することが考えられた[6]

さらに、米国制裁は前述の通り、5月20日まで三カ月間の撤退猶予(Wind Down)期間を設けており、また、Rosneftは該当する輸送を今次制裁対象会社から他子会社へ移管することが可能でもあった[7]

このように、市場では今回の制裁はRosneft本体の原油トレーディングそのものには結局のところ大きな影響を与えないという見方が大勢を占めた。

なお、Rosneft Trading SAはこれら事業の他、LNG貿易も手掛けていると言われており、また、CITGO(石油製品・石油化学製品の精製や輸送、販売を行っていた米石油販売企業)の49.9%も保有していて、これらも制裁対象となるかも注目された[8]。LNG事業に関しては他のRosneft子会社への移管によって制裁適用を回避することが想定される。また、CITGOに関しては株式保有比率が50%を超えないことからRosneft Trading SAのグループ企業とは見なされず、制裁対象とはならないと考えられる。


[4] PIW(2020年2月20日)

[5] SDNに指定後、カシミーロRosneft副社長は印ナヤラ・エナジーの役員を辞任している。

[6] IOD(2020年2月19日)

[7] この背景には2018年4月にデリパスカ傘下の世界有数のアルミ生産企業「Rusal」に対する制裁発動とその後の国際アルミ市場での混乱と米国への非難に対する教訓があると考えられる。

[8] POG(2020年2月19日)


3. Rosneft Trading SAに次ぐターゲットへ制裁発動

制裁発動からまだ日も経たない2月25日、PDVSAは、同社の原油輸出の契約先を制裁対象となったRosneft Trading SAから別のRosneft子会社であるTNK Trading International SA[9]へ変更し、670万バレルを2月にベネズエラから輸出したことが明るみに出た。Rosneft Trading SA同様2011年に設立されたTNK Trading International SAは、過去長年に亘ってベネズエラ産原油を扱ってきた実績がある。

これに対して、エリオット・エイブラムス米国ベネズエラ特命代表は、同社によるベネズエラ産原油輸出継続に関しての事実を把握していると共に、彼らがOFACとゲームをするのであれば、追加制裁を受けるだろうと警告を発した[10]。また、同日、トランプ大統領もベネズエラ産原油のバイヤーに対する新たな制裁を示唆すると共にインドの製油所がベネズエラ産原油を購入していることに対して、「深刻な制裁を受ける可能性がある」と述べた[11]。これにより、OFACがTNK Trading International SAに対する制裁発動を準備していることが明らかになり、3月初旬には制裁が発動されるとの観測が為された[12]

そして3月12日、遂にOFACがTNK Trading International SAに対する制裁を発動し、SDNに指定されるに至る[13]


[9] TNKはチュメニ石油会社の略であり、ソ連解体後は第4位の石油会社として西シベリア(サモトロール油田)を主要生産地域として活動。2003年にBPが出資(BP:50%/TNK:50%)。その後、2012年にRosneftが同社を買収し、Rosneftの傘下となり、現在に至る。TNK Trading International SAはTNK-BPの子会社として2011年設立。PDVSAから1月だけで14百万バレル(45万BD)を購入したとされる。

[10] Prime(2020年2月25日)

[11] IOD(2020年2月26日)

[12] POG(2020年2月27日)

[13] 米国財務省プレスリリース(2020年3月12日)https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm937


4. Rosneft及びロシア政府の奇策

このような米国のベネズエラとその原油を扱うRosneftに対する執拗な圧力に対して、ロシア政府と協力の下、Rosneftは驚くべき発表を行う。3月28日、Rosneftは全ベネズエラ事業から撤退することを決定。その方法として、Rosneftはロシア政府が100%出資する会社と以下の協定を締結したのである。

  • Rosneftのベネズエラ全事業をロシア政府へ売却(油田の権益やオリノコ重質油の生産・改質事業権益を持つジョイントベンチャー企業の株式[14]及びベネズエラで活動するサービス会社等)。
  • その対価として、ロシア政府は政府が保有するRosneft株式(9.6%)をRosneftに譲渡。同株式はRosneftが100%保有する子会社が管理する[15]

ロシア政府は同28日付で、新会社Roszarubezhneft(ロシア海外石油開発会社)を設立している。資本金はロシア政府から対価譲渡を受けたロスネフチ株9.6%の時価と近似の3,227億ルーブル(約40億ドル)となっている。新会社Roszarubezhneftの代表には、1980年代アンゴラでセーチン社長と関係があったとされるニコライ・リュブチュック氏が就任。登記情報によれば同社の活動は、ホールディング企業管理、石油ガス生産、石油ガス生産サービス提供、パイプライン輸送となっている。また、Reyestr-RN社が幹事管理企業として登録されているが、同社はRosneftの幹事管理企業ともなっている[16]。その意味するところは、ベネズエラ事業を継承するロシア政府「出資」のRoszarubezhneftの設立も、実際にはRosneftが背後で全て取り仕切っているのではないかということだ。


[14] Rosneftがベネズエラで保有する主要上流プロジェクト:Petromonagas(40%)、Petroperija(40%)、Boqueron(26.7%)、Petromiranda(26.7%)、Petrovictoria(40%)

[15] Rosneft社リリース(2020年3月28日)https://www.rosneft.com/press/releases/item/200275/

[16] Prime・ロイター(2020年3月31日)

図1 Rosneftの株主構成(3月1日と28日ロシア政府とのベネズエラ資産交換後)

今回ベネズエラ資産の譲渡対価としてRosneftに引き渡されたRosneft株式9.6%(時価40億ドル相当)はロシア政府が100%出資するROSNEFTEGAZ(図1)が保有していたものと考えられる。このROSNEFTEGAZは、Rosneft株式の他、Gazpromの10.97%株式、送電会社InterRAOの26.36%株式を保有し、それら大企業の配当を政府へ還流することを目的としたホールディング会社であり、会長はセーチンRosneft社長が務め、登記所在地もモスクワのRosneft本社と同じ住所となっている。今回の譲渡によって、ロシア政府のRosneft保有株式はROSNEFTEGAZ(40.40000001%)+連邦資産管理庁(0.000000009%[17])となり、過半を割って、40.40000002359%へ低下することとなる。

この「奇策」によって、Rosneftの子会社だけでなくRosneft自体がベネズエラ事業から見掛け上撤退したという形を創り出すことに成功しており、Rosneft(子会社)に対する米国制裁の解除を求めていくことが可能となる。問題はこの奇策を以って、冒頭のOFACが制裁解除の条件としている「ベネズエラの民主化を支援する意味のある具体的なアクションを取るのであれば、制裁解除を検討する」という内容に合致するかどうかということになる。焦点はロシア政府、さらには後述するRoszarubezhneftに渡るRosneftのベネズエラ権益を、今後同政府がどのように扱っていくのかという点になる。恐らく、ベネズエラ政府とも合意の上で、ロシア政府の権利を保持したまま実際の新規投資や操業を凍結するのか、あるいはベネズエラ政府又は第三者へベネズエラ権益の売却を図るのか(この選択肢はベネズエラ政府の財政状況や第三者も米国制裁に対する懸念から極めて困難)という二択になる。恐らく「いつかベネズエラにおける原油生産やベネズエラからの原油輸出の再開を前提とした凍結」というシナリオに落ち着くであろうが、その場合にも米国政府が「意味のある具体的なアクション」と見做すとは考えにくい。

実際、米国の反応は冷ややかなものとなっている。28日の発表直後、エイブラムス米国政府ベネズエラ特別代表は、Rosneftによるロシア政府へのベネズエラ資産譲渡とロシア政府保有の同社株式の譲渡のための新会社設立について、内容を精査し、動向をトレースしていくと発表。また、米国政府幹部は「制裁を解除するのは時期尚早。マドゥーロ政権に対する全ての関与を止めるのが確認できるまでは満足できない」と述べている[18]


[17] 連邦資産管理庁が保有する一株相当。黄金株と推察される。

[18] IOD(2020年4月23日)


5. Rosneft株式9.6%が持つ意味/自らの配当によってコスト回収を図る

しかしながら、Rosneftにとっては今回のロシア政府を巻き込んだ「奇策」には大きな意味がある。その理由は自社株9.6%を追加的に保有することでRosneft自身が自ら分配する配当を自社に還流させることが可能となったからである。

Rosneftをはじめロシア企業によるベネズエラでの石油上流事業への参画は個別の企業活動というよりは寧ろ二国間外交の中で発展してきたものだが、今回の「奇策」によって、米国による横槍を受けたRosneftがこれまでベネズエラに投融資してきた事業から資金回収するのではなく自らの株式からの配当を自社に戻すことで回収することをロシア政府に了解させることに成功している(将来ロシア政府が得るべき収入を削減)。

この動きを反映するかのように、4月23日、Rosneftは2019年下半期について記録的な配当を支払う方向で調整を行っているとの報道が出ている。原油価格の崩壊にもかかわらず、国際財務報告基準に基づき2019年の純利益の50%に相当する配当を支払う予定で、1株当たり18.07ルーブル(23セント)の最終配当金支払いを決定したことを明らかにした。最終的には6月の株主総会で承認されることが前提だが、この配当額が承認されれば昨年上半期に支払われた15.34ルーブルを上回るレベルとなっており、また、2018年時点の配当実績2,746億ルーブルから、2019年には上半期及び下半期を合わせて3,541億ルーブル(約54億ドル)、前年比約3割増の配当を割り当てることになる[19]

表1の試算の通り、ロシア政府から譲渡された株式によってRosneftに還流する配当は半期で2.8億ドルに上り、通年では年間5億ドル程度の収入を、Rosneftは今後ベネズエラ資産見合いとして新たに見込むことができるようになったことを意味する。


[19] IOD(2020年4月24日)

表1 Rosneftの2019年上半期配当(実績)及び同下半期配当(予定)

疑問が沸くのは、どのようにこの9.6%という数字が算出されたのかということになるだろう。単純に考えれば、Rosneftによるベネズエラへの既往投融資回収(+利息)及び保有権益からの得られる将来的期待収入がベースとなっていると考えられるが、いつまでロシア政府が譲渡されたベネズエラ資産を留保することを想定しているのか(米国政権による制裁解除のタイミング次第)、また、混迷を極めるベネズエラ情勢下において、ロシア政府が保有することとなった資産(油田の権益やオリノコ重質油の生産・改質事業権益を持つジョイントベンチャー企業の株式やベネズエラで活動するサービス会社等からの収入。注14参照。これらジョイントベンチャー企業からの2018年の原油生産量は日量17.3万バレルに上り、Rosneft権益分は6.7万バレルであったと言われている)からの収入をロシア政府が受け取ることができるのかという点については、残念ながら現時点で情報は確認できていない。なお、PDVSAに対するRosneftの融資総額累計は65億ドルに上っていたが、2019年9月までに8億ドルまで返済が進んでいたとの情報もある[20]。いずれにせよ、Rosneftによる既往投融資回収(+利息)及び保有権益からの得られる将来的期待収入の対価が、同社株式9.6%、リリース発表直前の時価では39.5億ドル[21]+今後の配当収入見込み(年額5億ドル程度×n年)だったということになる。


[20] IOD(2020年3月31日)

[21] ロンドン市場(LSE)でのドル建てRosneft株価をベースに試算。発表前日2020年3月27日の株価は一株当たり3.886ドル。Rosneftの時価総額は411.84億ドル。


6. その他留意点と注目すべき動き

(1) 政府保有株式が過半を割ったRosneftに対する影響

今回のロシア政府とRosneftの「奇策」には、依然いくつかの不明点が存在する。まず、ロシア政府による株式シェアが過半を割り込んだことにより、形式的にはRosneftは「非国営企業」または国の管理が見掛け上弱体化することとなった(但し、連邦資産管理庁による黄金株の存在が想定される)。さらに派生する影響として、2008年以降改革が行われた戦略外資規制によって付与されてきた特権を失うことにも繋がる可能性がある。地下資源法第二条では「全ての海洋エリアは連邦意義を有する」と規定され、また、第九条にて大陸棚での油・ガス田開発の主体は「政府が過半を有し、5年以上の経験のある国営石油ガス会社に限定」されているためである(図2)。他方、実際の探鉱作業の実施や結果の成功・不成功は別として、過去10年以上に亘って、有望大陸棚鉱区の大半はすでにRosneftまたはGazpromに付与されてしまっていて、ほとんど残っていないことから、これも大きな問題とはならないとも言える。

また、Rosneftからベネズエラ資産を譲渡された企業はROSNEFTEGAZ又はその傘下の子会社ということが当初想定されたが、Rosneftによる3月28日のリリースでは「ロシア政府が100%保有する会社」とだけ書かれてあり、名前が伏せられていた(後述の通り、最終的にはRosneft子会社で警備会社と見られるRN-Okhrana-Ryazanにベネズエラ資産を譲渡し、そのRN-Okhrana-Ryazan をロシア政府によって設立されたRoszarubezhneftが買収する形になった)。ROSNEFTEGAZは保有株式の価値は莫大だが、大きな組織ではなく、譲渡されたベネズエラ資産の管理を直接行うことは現実的ではない。米国が今度はROSNEFTEGAZを制裁対象(SDN指定)とすることも不可能ではなく、既にロシア政府機関(旧KGBの後継である連邦保安庁(FSB)等)ですらSDN対象となっている状況では、Roszarubezhneftに対する制裁が発動され、「イタチごっこ」が続く可能性もあり得る。その場合にはRoszarubezhneftの配当分配機能に支障が生じる可能性がある。但し、米国の制裁発動の条件はあくまで同社がベネズエラでの生産やベネズエラ産原油の販売を継続した場合ということになるだろう。

図2 外国投資規制に伴う外資制限比率(連邦的意義を有するもの)の変遷


(2) ベネズエラ事業を巡る新たな動き

このような中、4月中旬にRosneftとは別にベネズエラからの原油輸出に関与している人間として、元Gazprom関係者2名の名前が上がるようになった。過去ロシア政府そしてGazpromに勤務していたボリス・イワノフとセルゲイ・タガショフである。彼らが運営するGPB Global Resources社はオランダを本拠地とし、昨年、PDVSAとの間で「ペトロサモラ(PetroZamora)」と名付けられたオペレーションを通じて、ベネズエラ産生産原油の約10%を取り扱ったと報じられている。イワノフはモスクワとワシントンでロシア政府による軍事情報収集に従事し、その後Gazpromに入社。タガショフはワシントンのロシア大使館で勤務後、Gazpromに入社。「ペトロサモラ」の原油取扱量は2018年から2019年も日量9.5万バレルから同11.1万バレルと近年上昇しており、今回のRosneftの撤退を受け、更に増える可能性がある。GPB Global Resources社は「ペトロサモラ」プロジェクトが立ち上がる1年前(2011年)に設立されており、同社の管理は上記GazpromのOBの他、アフリカと中東に拠点を置いているウラジーミル・シュヴァルツが担当しているという。また、「Bolichicos」(ボリチコス)と呼ばれるベネズエラの起業家も同社運営に関与しているとの情報が出てきている[22]


[22] Prime(2020年4月16日)


(3) Rosneftが子会社2社の貿易事業を引き継ぐ後継会社を準備か

4月下旬、Rosneftはスイス登記の子会社「Rosneft European Services Group」を「Energopole」へ改称するという。この動きは、ロシア政府とRosneftの「奇策」から1カ月が経ってもRosneft Trading SA及びTNK Trading International SAに対して米国が依然制裁を解除する兆しがなく、一方でこれらの企業が抱えるトレーディング事業を継続するべく、Energopoleを後継としようとする動きと見られている[23]


[23] IOD(2020年4月24日)


(4) ベネズエラ資産の譲渡が完了

5月14日、Rosneftの子会社・RN-Okhrana-Ryazan(Rosneftリャザン警備会社)がベネズエラのJunin-6鉱区の80%を取得するという報道が流れた。Junin-6鉱区のオペレータはPetromirandaと呼ばれ(注14参照)、Rosneftからロシア政府への譲渡資産の一部となっていた。この動きを受けて、RN-Okhrana-Ryazanの資本金は4月末に25万ルーブルだったものが、今回の9.6%Rosneft株式時価に近い3,227.52億ルーブルに激増しているという[24]。時系列で見ると、3月28日にロシア政府がRoszarubezhneftを設立し、Rosneftに同社株式9.6%を譲渡した後、4月にRoszarubezhneftがRN-Okhrana-Ryazanを買収。その後、RosneftがRN-Okhrana-Ryazanにベネズエラ資産を移管したということになり、このRosneftの警備会社が最終的にロシア政府に代わって、Rosneftのベネズエラ資産を管理するという、どこからが頭でどこまでが尻尾か分からないストラクチャとなりつつある。

5月15日には、Rosneftのフョードロフ第一副社長が「Roszarubezhneftがベネズエラの主要なRosneft資産を買収した。(対価譲渡された)9.6%の全株式がRosneftの100%子会社(どの子会社かは公表されていなかったが、後述の通り、5月21日付けでLLC RN-NeftKapitalInvestが保有することとなった)の帳簿に載っている。これらの株式については、自社資本増強のための貴重な資産であり、継続保有する予定」と述べている[25]。また、セーチン社長も「Rosneftはベネズエラでの事業を、4月30日をもって完全に停止した」と述べており[26]、5月20の撤退猶予期間までに、2月の米国制裁発動からRosneftによるロシア政府とのベネズエラ資産譲渡と同社株式の獲得という一連の動きが終息したこととなる。現時点では依然米国政府による制裁解除の動きは出ていない。

5月21日、Rosneftはホームページ上でRosneft株主リストを更新した[27]。その結果、ベネズエラ権益譲渡対価となった9.6%のRosneft株式をRosneftに譲渡したROSNEFTEGAZがその分シェアを落とした一方、新たな株主として、LLC RN-NeftKapitalInvestがその株式を引き継いだことが分かる。また、新たな株主としてRosneftの子会社と想定されるもう1社、LLC RN-Capitalという会社が登場し、マイナーシェアであるが、約0.33%余りを保有することとなった。Rosneftは2018年8月から2020年12月末を目途に自社株買い(バイバック)プログラム(最大3.2%)を発表・実行しており[28]、市場流動株を買い集めてきた結果がこのLLC RN-Capitalに集約されていると考えられる。また、LLC RN-NeftKapitalInvestとLLC RN-Capitalのシェアによって、取締役1名の任命枠がRosneftに生じており、今後の動向が注目される。


[24] Prime(2020年5月14日)

[25] Prime(2020年5月15日)

[26] Interfax(2020年5月15日)

表2 Rosneft株主の変化(公表されている3月1日と5月21日時点の比較)


以上

(この報告は2020年5月27日時点のものです)

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