ページ番号1008774 更新日 令和6年10月22日
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概要
- モーリタニア・セネガル沖では長らく中小独立系企業が探鉱を行ってきた。2012年にKosmos Energyが同海域での探鉱に参入すると、アフリカでの豊富な経験を活かして、その後もTortueを含む有望なガス層を相次いで発見した。
- 同海域の有望性が明らかになると、BPが参入し、Tortueガス田開発が加速した。Tortueガス田はモーリタア・セネガル国境に跨るものの、両国間の速やかな権利関係確定により順調に開発が進んだ。
- 2018年12月にはGrater Tortue Ahmeyim LNGプロジェクトのフェーズ1がFIDされた。その後、ガスの販売は全量BPが引き受けることが発表され、BPのLNG・ポートフォリオプレーヤーとしての地位がさらに強化された。
- 2019年には同海域でBPが追加埋蔵量ポテンシャルを評価するための掘削キャンペーンを実施し、さらなる天然ガス埋蔵量が見込まれることが明らかになった。
- ただし、COVID‐19の感染拡大の影響を受けて、Grater Tortue Ahmeyim LNGプロジェクトで使用されるFLNGの引き取りが困難になったとして、BPがGoar LNGに対してフォースマジュール宣言を発出した。これにより、1年間の遅延が見込まれることになった。
- セネガル南部では、2014年に発見されたSNE油田(現:Sangomar油田)の開発プロジェクトが2020年1月にFIDされた。しかし、COVID‐19の感染拡大や油価下落を受けて同年3月にはファイナンス確保に失敗し、先行きは不透明である。
(各社HP、Upstream 他)
1. モーリタニア・セネガル沖開発の概況
モーリタニア、セネガル、ガンビア、ギニアビサウ、ギニア沖にまたがるアフリカ大西洋海域に位置する広大な堆積盆地では、中小の独立系企業が長らく地道な探鉱を続けてきた。その代表的なものが、モーリタニア・セネガル国境付近海域で探鉱を行ってきたKosmos Energy(米国)や南セネガル沖で探鉱を行ってきたCairn Energy(英国)である。

モーリタニア・セネガル沖でのTortueガス田発見までの探鉱の歴史については次の表1を参照いただきたい。
年月 |
場所 |
イベント |
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1974年 | モーリタニア |
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2001年 | モーリタニア |
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2006年2月 | モーリタニア |
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2012年 | モーリタニア |
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2015年4月 | モーリタニア |
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2015年11月 | モーリタニア |
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2016年1月 | セネガル |
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2016年3月 | モーリタニア |
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2016年5月 | セネガル |
|
各種資料からJOGMEC作成
Kosmos Energyは2012年のモーリタニア沖への参入から相次いでガス層を発見し、2016年にはモーリタニア沖のMarsouin-1号井から国境を跨ぐTortueエリアを経てセネガル沖のTeranga-1号井にかけての南北に約200キロメートルにわたって、天然ガスの埋蔵が続いていることを確認した。IHSのアナリストによると、同社の順調な探鉱成功の要因は赤道ギニアやガーナといったアフリカの沖合での豊富な経験によるものだと分析されている。
2. Kosmos Energy
Kosmos Energyは2003年に米国で設立され、大西洋フロンティアや大水深エリアを対象とし、探鉱の実績に定評のある企業である。経営陣には技術的経験が豊富な人材が多く、CEOのAndrew Inglis氏はBPで探査生産部門のCEOを務めた経験がある。同社の主な発見には2007年のガーナのJubilee油田がある。
同社の事業戦略は、探鉱リスクの高いエリアに進出し、探鉱により資源を発見し、資産の価値を高めた後に権益を売却し、次の探鉱へ向かうというものである。発見した埋蔵量を確実に商業化させるために経験のある有力なパートナーの取り込みにも努めている。
また、2020年2月には、気候変動リスクをうけて、油田よりも天然ガス開発に焦点を当てることを表明している。
3. Tortueガス田開発
3‐1. Tortueガス田の発見
Tortueガス田のプレイオープナーとなったのはTortue‐1探鉱井(現在はAhmeyim‐1号井と呼ばれている)であった。Ahmeyim‐1号井は、2015年4月に白亜系セノマニアンで層厚107メートルの炭化水素を発見した。つづく2016年1月には、Ahmeyim‐1号井の南5キロメートルの位置でGuembeul‐1号井が白亜系セノマニアンとその下に位置する白亜系アルビアンで層厚101メートルのガス層を発見した。さらに2016年3月には、Ahmeyim‐1号井の北西5キロメートルでAhmeyim‐2号井が白亜系セノマニアンと白亜系アルビアンで層厚78メートルのガス層を発見した。
これらの結果から、モーリタニアからセネガルにまたがる単一のガス田の存在が判明し、この海域はTortueまたはTortue Westと呼ばれるようになった。
この海域の有望性が明らかになったことで、BPは2016年12月にKosmos Energyの保有するモーリタニア沖及びセネガル沖の鉱区でKosmos Energyとパートナーシップ契約を締結し、すべての鉱区でBPが開発オペレーターとなった。財務能力、深海開発の経験を保有するスーパーメジャーのBPが参入することより、Tortueの開発計画は実現に向け大きく前進した。
2018年2月には、モーリタニア、セネガルはInter-Governmental Cooperation Agreement (ICA)に署名し、資源、収入、コストを両国間で50:50に分担・分配することに合意した。この協定により、Tortueガス田は国境を跨ぎつつも極めて順調に開発されることになった。
可採埋蔵量 | 15Tcf(アップサイドポテンシャル有り) |
場所 | モーリタニア・セネガル国境付近海域、大水深(水深2,850メートル) |
規模 | 712平方キロメートル |
契約形態 | 生産物分与契約(Production Sharing Agreement/PSC) |
オペレーター | BP |
権益比率 | Tortue(モーリタニア)BP 62%, Kosmos Energy 28%, SMHPM 10% Tortue(セネガル)BP 60%, Kosmos Energy 30%, Petrosen 10% |
各種資料からJOGMEC作成
権益比率について、2018年12月の開発プロジェクトPhase1に係るFID(後述)で、モーリタニア、セネガル各国の国営企業が権益を拡大させるとの一部報道もある。その場合、モーリタニア国営SMHPMは10%から14%へ、セネガル国営Petrosenは10%から20%へ拡大する可能性があると見られる。
3‐2. Grater Tortue Ahmeyim LNGプロジェクト
2018年12月に、Grater Tortue Ahmeyim LNG事業のフェーズ1としてLNG生産年間250万トンの計画で最終投資決定(FID)がなされた。
2019年2月には、Golar LNG社がBPにFLNG設備を提供することが発表され、Golarの子会社のGimi MSとBPの間でFLNG Gimi号の賃貸・操業契約が締結された。さらに、2019年3月には、TechnipFMCがGreater Tortue Ahmeyim LNGプロジェクトで展開されるFPSOユニットの設計、調達、建設、据付および試運転(EPCIC)に関する契約をBPと締結したと発表した。そして、2020年2月、Kosmos Energyとそのパートナー企業はBPの完全子会社であるBP Gas Marketing Limited.とGrater Tortue Ahmeyimプロジェクト第1段階より20年間、年間245万トンのLNGについて販売契約(SPA)を締結した。Grater Tortue FLNGプロジェクトはBPのポートフォリオプレーヤーとしての地位を強化する事業と言うことができるだろう。
Greater Tortue FLNG Phase1 |
BP |
Kosmos Energy |
Petrosen |
SMHPM |
権益比率 |
61% |
29% |
5% |
5% |
出所:Kosmos Energy プレスリリース[1]
生産は船舶の形状をしているFPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)を用いて行われる。FPSOでコンデンセートを処理し、生産されたガスのうち海外市場向けガスは沿岸防波堤で厳重に守られた遊液化天然ガス(FLNG)施設に送られて液化してLNGとして出荷、国内用ガスはパイプラインで地上へ運ばれる。商業生産開始は2022年と見込まれていたが、COVID‐19の影響により後ろ倒しになることが予想されている(後述)。
3‐3. Tortueを含む追加埋蔵量評価掘削キャンペーン
2019年にはモーリタニア・セネガル沖でBPによる追加埋蔵ポテンシャルを評価するための掘削キャンペーンが行われ、さらなる天然ガス埋蔵量が発見された。当該エリアでBPがオペレーターとして掘削するのは初めてのことであったが、予定よりも40日早く、予算内で完了した。

(1)GTA‐1号井
2019年7月にTortueで掘削が行われた。Guembeul‐1号井の10キロメートル西でGTA-1号井が掘削され、白亜系アルビアンで30メートルのガス層が発見された。この発見について、Kosmos EnergyのCEO Inglis氏は、Greater Tortue Ahmeyimのガス資源が追加探鉱により、今後も確認埋蔵量が増加していく可能性があるという期待感を示した。
(2) Yakaar‐2号井
2019年9月には、セネガルのCayar Offshore Profond鉱区で掘削が行われた。2017年に掘削されたYakaar‐1号井の南9キロメートルでYakaar‐2号井は掘削され、Yakaar‐1号井と同じ白亜系セノマニアンで30メートルのガス層を発見した。これにより、フィールドが南へ伸びていることが確認された。
YakaarとTerangaを合わせたエリアでは、以前原始埋蔵量が10~15Tcfあると推定されていたが、今回の発見により、増加したと見られている。そのため、このエリアでの新たな天然ガス開発の可能性があることが明らかになり、今後、開発に向けての進展が期待される。
(3) Orca‐1号井
2019年11月には、Orca‐1号井が掘削された。Orca‐1号井はモーリタニアC-8鉱区で掘削され、2015年に白亜系セノマニアンでガス層を見つけたMarsouin‐1号井よりもさらに深い位置にある白亜系アルビアンで36メートルのガス層を発見し、さらに、セノマニアンでも11メートルのガス層を発見し、合計47メートルのガス層を発見した。Orcaは原始埋蔵量で13Tcfが期待されているが、Marsouin‐1号井により発見されたBirallahガス田と合わせると、原始埋蔵量で50Tcfまで増加する可能性があると見込まれている。
4. ガス開発を取り巻く環境
4‐1. ガス田の価格競争力及び大規模性
モーリタニア・セネガル沖は欧州に近く、地理的に優位性をもつため、コスト面では輸送費が米国産LNGの半分程度に抑えることができると考えられている。さらに、LNGの液化プロジェクトで用いられるFLNGのGimi号は改良型FLNGで、新造のFLNGに比べるとコストを抑えることができる。
また、2019年のBPによる追加埋蔵ポテンシャルを評価するための掘削キャンペーンでは、地域全体で50~100Tcfのガス埋蔵量ポテンシャルがあることが明らかになっている。
この優れた価格競争力や大規模性がBPを惹きつけたと推察される。BPは従来から「大水深」「巨大ガス田」「ガスバリューチェーン」に重点をおいている。BPはShellやTotalに比べ、エクイティLNGが少なく、これを拡大させる狙いがあるとみられる
一方、Kosmos Energyは、スーパーメジャーのBPをパートナーにすることで、同社が切り開いたモーリタニア・セネガル沖の鉱区の価値を示すことができると発言しており、BPの資金力や経験に期待をしていたとみられる。
上流の液化事業への関与拡大を狙うBPとBPによって鉱区の価値を高めることを狙うKosmos Energyの利害が一致した結果、BPの参入につながったと推察される。
4‐2. COVID‐19及び油価下落の影響
2020年4月7日、Golar LNG は、プレスリリースにて同社の子会社であるGimi MSが、セネガル・モーリタニア沖のGreater Tortue Ahmeyim プロジェクトについて、BPからフォースマジュール通知を受けたことを発表した。この通知によると、COVID‐19の世界的な流行により、BPは2022年の目標接続期日までに浮体LNG生産設備GIMIを引き取ってこれを据え付ける作業の準備ができないとしている。BPは現時点で、フォースマジュール宣言要因による遅延は1年程度であり、これを緩和・短縮するのは不可能としている。プロジェクトの行方に関連して急に暗雲が広がった。
4‐3. 政府の動き
セネガル政府は2025年までにセネガル国民の電力へのアクセスを現在の70%から普遍的なアクセス、つまり100%にすることを目指している。

図3に示されているとおり、セネガルは現在、発電の大部分を石油に依存している。セネガルは産油国ではないために、原油輸入は輸入金額全体の実に4分の1を占めており、セネガル財政全般が油価の動きに左右されている。これに対して、セネガル政府は、石油に依存した発電から天然ガスを中心に水力や再生可能エネルギーを含めたエネルギーミックスへの移行を目指している。この流れの中で、ガスは重要な役割を担うことになろう。
こうした背景をうけて、セネガルには国内での発電用ガス使用のため、ガスパイプラインネットワークの建設構想がある。セネガル政府は英国のエンジニアリング会社Penspen及びガス・エネルギー大手コンサルタント会社MJMEnergyと提携してgas-to-power開発を目指しているが、現在のところまだ調査段階である。
また、2020年2月には新ガス法令が議会で可決され、Tortueからの天然ガスの国内販売価格は10年間の固定価格で合意された模様である。具体的な価格は明らかになっていないが、この合意は、経済性を担保することからIOCにとって極めて重要な合意であり、セネガルの将来のエネルギーミックスの柱としてガスの信頼性を高めることに資すると推察される。
5. セネガル油田開発
セネガル南部の油田開発では、独立系の探鉱企業の動きが著しい。
(1) Cairn Energy
Cairn Energyは1980年に英国で設立された探鉱会社である。主要なエリアは英領北海である。英領北海の資産をベースとして、アフリカやノルウェーで探鉱開発を推進する。中期的な観点からポートフォリオを高める探鉱投資を毎年数件実施している。
(2) FAR
FARは1984年に豪州で設立したアフリカを対象とする探鉱会社である。同社はアフリカでの経験豊富な人材を経営陣に揃えている。
(3) Woodside
Woodsideは豪州の国際大手石油会社である。グローバルなポートフォリオを保有しつつも、主な資産は豪州である。
セネガルの油田開発の概況については表4を参照されたい。
年月 |
イベント |
---|---|
~2013年 |
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2013年 |
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2014年 |
|
2016年 |
|
2018年 |
|
2019年2月 |
|
2020年1月 |
|
各種資料からJOGMEC作成
また、Sangomar油田開発の概要については表5を参照されたい。
可採埋蔵量 | 500MMbbl |
契約形態 | 生産物分与契約(PSC) |
オペレーター | Woodside |
権益比率 | Cairn Energy 40%、Woodside 35%、FAR 15%、Petrosen 10% |
各種資料からJOGMEC作成
セネガル国営のPetrosenは権益比率を現在の10%から18%まで拡大させる可能性があると一部報道されているが、現在のところそのような動きはみられていない。
Sangomar油田開発プロジェクトの開発第1フェーズでは、海底インフラを備えたFPSOが設置される計画である。これは、将来のガス出荷や他の貯留層や油田からのタイバックを可能にするよう設計される予定である。このFPSOは最大で10万b/dの生産能力を保有する見込みで、第1フェーズでは2.3億バレルを出荷する見込みである。
2020年1月には、同プロジェクトで15%の権益を保有するFARとGlencoreがSangomar油田からの生産物のFARの持ち分原油全量を販売することでMOUを締結した。商業生産から7年間で合計2,000万バレルを対象とする見込みである。
商業生産は2022年から2023年前半で見込まれていたが、後述のとおりCOVID‐19の影響を受けて先行きは不透明である。
6. セネガル油田開発におけるCOVID‐19及び油価下落の影響
2020年3月下旬、FARはSangomar油田開発プロジェクトに資金提供を行うはずだったシンジケートファイナンスの確保に失敗し、1月に開発承認された同プロジェクトの先行きが疑問視されている。同社は、Macquarie Bank、BNP Paribas、Glencoreとシニアシンジケートファシリティを介して3億ドルの調達のために協議を続けていたが、主要銀行は低油価やCOVID‐19のパンデミックを理由に手を引いたと報じられている。
7. まとめ
モーリタニア・セネガル沖では中小の探鉱を得意とする独立系企業によってその有望性が確認された後、メジャーズが参入し、その豊富な経験と資金と政府間の速やかな権利関係の合意を背景に開発が加速した。モーリタニア・セネガル沖の開発は中小独立系企業とメジャーズの分業・パートナーシップによるスピーディーな開発成功の一例と見ることができよう。
ただし、COVID‐19及び油価急落の影響を受けて、ガス・油田開発ともに遅延や資金繰りに苦慮する事態となった。今後、モーリタニア・セネガルが主要なサプライヤーとして成長できるか注目される。
以上
(この報告は2020年5月27日時点のものです)