ページ番号1008776 更新日 令和2年6月8日
原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国で5~6月に実施している減産措置を1ヶ月間延長することで合意(速報)
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概要
- 2020年6月6日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、5~6月に実施している減産措置を7月末迄1ヶ月間延長する旨決定した。
- また、2020年5~6月に100%の減産遵守率を達成できなかったOPECプラス産油国は、減産遵守未達成分を同年7~9月に既存の減産措置に追加して減産することに同意した。
- そして減産措置の継続は、これまで減産遵守未達成であった産油国が未達成分を今後追加して減産することを含め減産措置を完全に遵守することを条件とするとされた。
- さらに、サウジアラビア(日量100万バレル)、UAE(同10万バレル)、クウェート(同8万バレル)及びオマーン(同1~1.5万バレル)が、6月において自主的に追加減産措置を実施する旨表明した。
- 次回OPEC総会(通常総会)は2020年11月30日に、OPECプラス産油国閣僚級会合は同年12月1日に、それぞれオーストリアのウイーンで開催される予定である。
- 新型コロナウイルス肺炎による世界各国・地域での個人の外出規制及び経済活動制限は部分的には緩和されつつあることから、世界石油需要及び原油価格は回復しつつあるが、サウジアラビアはさらなる石油需給の引き締めと原油価格の上昇を希望していたと見られ、5~6月に実施している減産措置を2020年末まで延長することを主張していたと伝えられる。
- しかしながら、さらに原油価格が上昇を続ければ米国のシェールオイル開発・生産活動が活発化することによりOPECプラス産油国が制御不可能なほどに米国の原油生産が回復することを危惧するとともに、国内石油会社に対する石油需要が増大しつつあったロシアは、当初既存の減産措置の延長には消極的であったとされる。
- ただ、依然として世界経済成長及び石油需要面で不透明感が漂っていたこともあり、1ヶ月間減産措置を延長して様子を見ることで両国が折り合ったものと考えられる。
- 6月7日夜間(米国東部時間)の原油市場では、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置の1ヶ月間の延長決定による世界石油需給の一層の引き締まりに対する条件反射的反応で原油相場が上昇する場面が見られるが、当該会合前に既にサウジアラビアとロシアとの間で1ヶ月間の減産延長に対し暫定的に合意に至ったとの情報が流れていたこともあり、当該延長に伴う石油需給引き締まり期待は市場関係者の心理には織り込まれ済となっており、会合の結果はそのような期待を上回ったわけではなかったことから、かえって利益確定の動きを誘発する結果、今後原油相場に下方圧力が加わるといった展開も想定される。
- ただ、6月5~7日頃にかけ、熱帯性低気圧「クリストバル」が米国メキシコ湾沖合を北上しつつあることで当該地域の油・ガス田の操業が停止しつつあること等に伴い、同国の原油供給に支障が発生すること等により、原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうることから、原油価格が乱高下する場面が見られることも予想される。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2020年6月6日にOPEC産油国は総会を開催(会合時声明参考1参照)、そしてその後OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催した(会合時声明参考2参照)(どちらもテレビ会議形式で開催された)。
(2) OPECプラス産油国閣僚級会合にはエクアドル、インドネシア及びトリニダード・トバゴがオブザーバーとして参加した。
(3) 2020年4月12日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では次回会合の開催日は6月10日とされた(またその前日の6月9日にはOPEC通常総会が開催される旨3月5日開催のOPEC臨時総会で決定されていた)が、サウジアラビアの原油公式販売価格(地域ごとの指標原油価格に対し加減する調整金)の決定が通常毎月5日であることから、実務上の支障を回避するべく、6月4日に前倒しして開催することになった(OPEC議長国であるアルジェリアのアルカブ(Arkab)エネルギー相が関係各国に会合開催日の前倒しにつき書簡を発出した旨5月30日に伝えられた)が、その後さらに関係国間での調整に時間を要した結果6月6日の開催となった。
(4) OPECプラス産油国閣僚級会合では、2020年全体で世界石油需要が日量900万バレル程度縮小するとの認識に基づき、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された2020年5月1日~6月30日において日量970万バレル、及び7月1日~2020年12月31日において日量770万バレルの、それぞれ減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)に関し、2020年7月1日~7月31日の1ヶ月間については、5月1日~6月30日と同様の減産規模と、当初の予定であった日量770万バレルの減産措置を同200万バレル程度拡大する旨決定した(表1参照)。
(5) また、2020年5~6月に100%の減産遵守率を達成できなかったOPECプラス減産参加産油国は、減産遵守未達成部分を同年7~9月に既存の減産措置に追加して減産することに同意した。
(6) そして減産措置の継続は、4月に開催されたOPECプラス産油国会合で決定された減産措置につき、これまで減産遵守未達成であった産油国が未達成分を今後追加して減産することを含め減産を完全に遵守することを条件とするとされた。
(7) さらに、サウジアラビア(日量100万バレル)、UAE(同10万バレル)、クウェート(同8万バレル)及びオマーン(同1~1.5万バレル)が、6月において自主的に追加減産措置を実施する旨表明した。
(8) ただ、6月5日にメキシコのロペスオブラドール大統領は4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された5~6月の減産措置(メキシコ分は日量10万バレルであり、これは5~6月のみに適用されると6月6日に報じられる)を延長する立場にはない旨表明した他、6月6日には同国のナーレ(Nahle)エネルギー相も5~6月に実施されている自国の減産措置を7月に延長することはない旨発言、アルカブOPEC議長も7月のOPECプラス産油国の減産幅は日量960万バレル程度である旨明らかにし、4月12日に開催された前OPECプラス産油国閣僚級会合で決定された同970万バレルをメキシコの減産幅分だけ下回る旨示唆するなど、OPECプラス産油国減産措置を巡っては不透明な部分も存在する。
(9) なお、原油生産が不安定なイラン、リビア及びベネズエラの各国の減産目標については、4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時の声明では言及されてなかったが、今般の会合等での声明においても言及されていない。
(10) 次回のOPEC総会(通常総会)は2020年11月30日に、OPECプラス閣僚級会合は12月1日に、それぞれオーストリアのウイーンで開催される予定である。
(11) そして、OPEC及び非OPEC閣僚監視委員会(JMMC: The OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、カザフスタン及びオマーン)が、共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局による支援のもと、全般的な市場の状況、原油生産水準と減産遵守状況につき緊密に監視を行うことも確認するとともに、2020年12月までJMMCを毎月開催、次回JMMCを6月18日に開催する旨OPECプラス産油国閣僚級会合で決定した。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 前述の通り、4月12日に前回のOPECプラス産油国臨時閣僚級会合が開催され、2020年5~6月において合計日量970万バレルの減産を実施する旨決定し、5月1日より実施した。
(2) 4月のOPECプラス産油国原油生産量は、減産措置が実施される前であり、3月6日に開催された前々々回(4月12日の前回OPECプラス産油国閣僚級会合の3日前の4月9日にも閣僚級会合が開催されているため前々々回となる)のOPECプラス産油国閣僚級会合において追加減産措置に関する交渉が決裂した影響で、大幅な増加となっていた(4月のOPECプラス産油国原油生産量は2月のそれに比べ日量276万バレル(減産に参加するOPECプラス産油国のみでは同307万バレル)の増加となっていた)一方で、新型コロナウイルス肺炎の拡大により、米国(カリフォルニア州では3月19日、ニューヨーク州は3月22日に、それぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで個人の往来が大きく制限された)他世界各国・地域において個人の外出が規制されるとともに経済活動が制限されたことにより、ガソリンやジェット燃料といった石油需要が世界的に減少した(2020年4月の世界石油需要は1月時の見通しから日量2,480万バレル下方修正されたとの指摘もある)ことから、4月は石油供給が需要を日量2,300万バレル程度上回ったものと推定される。
(3) しかしながら、4月16日に米国のトランプ大統領が新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制及び経済活動制限の緩和に関する指針を発表して以降米国の諸州が一部であれ市民の外出規制及び経済活動制限を緩和した(5月20日のコネチカット州を以て米国の50州全てが部分的にではあるが規制等を緩和している)他、イタリア、スペイン及びフランスといった欧州の一部諸国でも外出規制や経済活動制限が緩和される方向で動いている一方、中国では4月8日に武漢の都市封鎖が解除された後、経済が正常化に向かいつつあり、それに伴い石油需要も回復する傾向にある旨伝えられる。
(4) このような石油需要の回復に加え、5月1日にはOPECプラス産油国による減産措置の開始もあり、5月の世界石油需給バランスは供給が需要を日量1,100万バレル程度超過しているものと推定され、引き続き供給過剰ではあるものの、4月に比べれば相当程度過剰幅が縮小しているものと考えられる。
(5) 新型コロナウイルス肺炎については、外出規制や経済活動制限を緩和した地域の一部では、感染が再拡大する現象も見られるが、概ね外出規制や経済活動制限を再強化することなく今日に至っていることから、感染の第二波及び第三波の到来は世界経済成長及び石油需要の伸びにとって依然としてリスクではあり続けるものの、現時点では世界石油需要はこの先回復方向に向かうものと市場では認識されている。
(6) 他方、4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、2020年5月1日~6月30日は日量970万バレル、2020年7月1月~12月31日は同770万バレル、2021年1月1日~2022年4月30日は同580万バレルの、それぞれ減産措置を実施する旨決定されたことから、需要回復と併せれば、世界石油需給は引き締まる方向に向かうものと市場では予想されている。
(7) このようなこともあり、5月渡し原油先物契約取引期限を4月21日に控え、4月20日には一時1バレル当たりマイナス40.32ドルに到達した他、この日の終値もマイナス37.63ドルとなった原油価格(WTI、以下特に記載がない場合は同様)は、その後上昇傾向となり、5月下旬においては終値ベースで概ね33~35ドル程度で推移していた。
(8) しかしながら、この時点でもまだ、3月6日のOPECプラス閣僚級会合開催直後の終値である1バレル当たり41.28ドルには到達しておらず、3月6日のOPECプラス閣僚会合開催以前のサウジアラビアの財政収支均衡原油価格とされる1バレル当たり80ドル程度(WTIを基準としている)及びロシアの予算措置前提原油価格である40ドル程度(WTIを基準としているが、ブレント原油価格で42.40ドルと伝えられる)も割り込んだままとなっていた(また、3月11日にロシア エネルギー省のソローキン副大臣は原油価格の均衡点は1バレル当たり45~55ドル程度であり、この水準であれば、産油国にとっても快適であり、世界経済発展にとっても十分に低水準である旨認識している旨示唆していた)。
(9) 加えて、世界石油需給は少なくとも2020年第一四半期及び第二四半期は供給過剰となったことで、この期間中は世界的に石油在庫が積み上がりつつあると見られる(18億バレル程度の石油在庫が積み上がるものと推定される)ことから、これがこの先市場関係者間での石油購買意欲を削ぐ形で作用する結果原油価格の回復を抑制する恐れがあることも予想された。
(10) このようなことから、サウジアラビアを中心とする一部OPECプラス産油国は余剰石油在庫の取り崩しを促進するとともに市場での世界石油需給の引き締まり感を増大させることを通じ原油価格の回復を加速させることを望んだと見られ、2020年5~6月に実施している減産措置を2020年末まで延長することを希望している旨5月28日に伝えられた。
(11) この直前の5月26日には、ロシアのノバク エネルギー相が同国の主要石油会社との間で会合を開催し、5~6月に実施されている減産措置を延長する(8月末までにかけての2ヶ月間の延長につき議論されていたとされる)ことにつき、石油会社から意見を聴取したが、賛成と反対が相半ばする状況であった旨この日報じられた他、その後ロシアとしては4月12日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された7月以降の日量770万バレル程度の減産措置の実施に固執する方針である旨5月26日に報じられた。
(12) また、ロシアの最大手石油会社であるロスネフチは、原油売買に関し長期契約を締結している大口需要家に対し販売する原油が不足するとして、減産措置を6月以降延長することは困難である旨示唆したと5月28日に伝えられる。
(13) さらに、ロシアとしては、大幅な減産措置を長期間推進する結果、石油需給の引き締まり感が市場で広がることで原油価格が相当程度上昇することに伴い、米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果、OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほどの世界石油需給緩和を招くことによって原油価格が乱高下するのではないかという懸念を持っていたこともあり、5~6月に実施されている減産措置を延長することには消極的であった。
(14) この結果、この時点ではサウジアラビアを中心とする一部OPECプラス産油国が推進する、5~6月に実施されている減産措置の2020年末までの延長に対し、ロシアが賛同しないという構図が明らかとなった。
(15) ただ、そのような中で、ロシアのプーチン大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を実施し、減産措置に関しさらに緊密に協力することで合意した旨、5月27日にロシア大統領府が声明を発表した。
(16) 他方、OPECの議長国であるアルジェリアのアルカブ エネルギー相がOPECプラス産油国閣僚級会合を当初の6月10日開催から6月4日開催へと繰り上げることを提案した旨5月30日に報じられる一方で、ロシアはその案に対し反対していない旨5月31日に伝えられたことに加え、OPECプラス産油国間で5~6月に実施されている減産措置を1~3ヶ月(1~2ヶ月との情報もあった)延長すべく検討されていると5月31日に伝えられた(この時点でサウジアラビア等は5~6月に実施している減産措置の1~3ヶ月程度の延長につき受け入れる方針であったことが示唆される)。
(17) また、前述の通り、ロシアとしては、なお若干の原油価格の上昇は希望するものの、大幅な上昇は望んでおらず、他方、新型コロナウイルス肺炎の再拡大により世界石油需要の回復が阻害されるといった展開も否定できないなど、不透明感が漂う中で、同国としては、5~6月に実施している減産措置を短期間実施してみることにより、世界石油需給と原油価格への影響を見極めるといった方針を採用する方向に傾いていったと見られる。
(18) 6月2日には、ロシア他一部OPECプラス産油国は5~6月に実施している減産措置に関し1ヶ月間の延長を希望している旨、そして、6月3日にはサウジアラビアとロシアは減産措置を1ヶ月間延長することにつき暫定的に合意した旨伝えられた(ただ、サウジアラビアはその後も5~6月に実施している減産措置を8月末迄継続することを主張していたと6月5日に報じられる)。
(19) しかしながら、この合意、及び合意のための6月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合の前倒し開催は条件付きとされた。
(20) その条件とは、過去の減産状況が芳しくない、イラクやナイジェリア等の産油国に対し、減産遵守を徹底させることであった。
(21) OPEC産油国の盟主としてこれまで高水準の減産遵守を維持してきたサウジアラビアに加え、今回の減産措置では国内の石油会社を説得し日量241万バレル程度の大幅減産措置を実現したロシアにとって、OPECプラス産油国の減産措置実施による世界石油需給均衡と原油相場の回復への努力にただ乗りするように見受けられるイラクやナイジェリアといった産油国の存在はOPECプラス産油国の結束という観点からも許容しがたいものであったと見られる。
(22) このため、サウジアラビアやロシアは遵守率の低いOPECプラス産油国に対し減産の遵守徹底に加え、これまでの減産措置における目標未達成分についても、今後追加減産を実施することで相殺するよう迫ったとされる。
(23) そしてナイジェリア等の減産遵守率の低いOPECプラス産油国に加え、6月5日にはイラクも減産遵守を約束する旨表明した(なお、ナイジェリアは通常OPEC産油国の原油生産量には計上されないコンデンセート生産量が自国の原油生産量に含まれ、これが増加したことが減産遵守率の悪化に寄与しており、このコンデンセート生産量を従来の原油生産量から分離した後の原油生産量は原油生産目標の枠内に収まっている旨6月3日に同国石油資源省が明らかにしている)。
(24) このようなことから、OPEC総会及びOPECプラス産油国が6月6日に開催され、5~6月に実施している減産措置の1ヶ月延長を決定したものと考えられる(これに伴い当初6月5日に決定予定であったサウジアラビアの7月積みの原油公式販売価格は6月7日に決定されており、油種の大半の公式販売価格が引き上げられた旨同日明らかになっている)。
(25) なお、6月5日に米国のトランプ大統領は、サウジアラビアとロシアの支援もあって原油価格は回復し米国のエネルギー産業は短期間で救われたとしてOPECプラス産油国による減産措置に対し感謝の意を表明している。
3. 原油価格の動き等
(1) 市場では、5~6月に実施されている減産措置の1~3ヶ月間の延長がOPECプラス産油国により検討されていることが5月31日に伝えられたことに加え、6月3日にはサウジアラビアとロシアとの間で当該減産措置を1ヶ月間延長することで暫定合意に到達した旨報じられたことから、当該延長による石油需給引き締まりの加速に対する期待が市場で高まったことが原油相場に上方圧力を加える方向で作用した結果、原油価格の終値は6月1日の1バレル当たり35.44ドルから6月5日には同39.55ドルへと上昇傾向を示した。
(2) また、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置の1ヶ月間の延長決定による世界石油需給の一層の引き締まりに対する条件反射的反応で、6月7日夜間(米国東部時間)の市場では取引開始直後に一時前週末終値比で1バレル当たり0.50ドル程度上昇し、40ドルを超過する場面が見られた。
(3) しかしながら、市場では予め5~6月に実施している減産措置の1ヶ月間延長に対する認識が織り込まれてしまっている一方で、実際にOPECプラス産油国閣僚級会合でも5~6月に実施している減産措置の1ヶ月間延長が決定されるなど、市場の事前予想を上回るものではなったことから、OPECプラス産油国閣僚級会合を巡る石油需給引き締まり期待に関する材料は出尽くし感が強まっていると見られることに加え、これまで減産目標が未達成となっているイラク等の産油国が減産遵守を強化する意向である旨伝えられはするものの、これまでの実績からするとこれらの産油国が今後減産遵守を徹底したうえでこれまでの減産目標未達成分まで追加して減産することに対し市場では懐疑的な見方が根強いものと考えられることから、6月8日の市場では時間が経過するにつれ利益確定の動きとともに原油相場に下方圧力が加わるといった展開も想定される。
(4) ただ、6月5~7日頃(米国東部時間)の週末に熱帯性低気圧「クリストバル(Cristobal)」が勢力を強めつつ米国メキシコ湾沖合を北上、ルイジアナ州沿岸方面に向かいつつあり、既にメキシコ湾沖合の一部油田及びガス田が操業を停止し(6月7日午後零時半(米国東部時間)現在米国メキシコ湾沖合原油生産量(日量186万バレル)の34.30%に当たる日量約64万バレルが停止していると報告されている)、従業員を避難させつつある(新型コロナウイルス感染抑制のため、従業員の避難及び復員に時間を要す結果油・ガス田の操業停止が長期化する懸念が市場で発生している)ことから、当該地域での原油生産が減少する他、米国メキシコ湾沖合の原油受入ターミナルが閉鎖されたり(実際6月6日には米国の主要原油受入ターミナルであるルイジアナ沖合石油ターミナル(LOOP: Louisiana Offshore Oil Port、原油受入能力日量100万バレル程度とされる)が閉鎖された)、メキシコ及び米国メキシコ湾沖合のタンカーの動きに混乱が生じたりする等の可能性があることに伴い、石油需給引き締まり感を市場が意識することにより、6月7日夜間以降の市場では原油相場に上方圧力が加わることもありうる。
(5) このように足元の原油市場では市場心理を強気にする材料と弱気にする材料が混在しているとから、6月7日夜間以降の原油相場は乱高下する可能性がある。
(6) 今後の原油市場を見るうえでの注目点としては、まず、新型コロナウイルス肺炎の感染再拡大の状況であろう。
(7) 既に外出規制や経済活動制限を緩和した一部地域では感染が再拡大しているとも伝えられるが、これが外出規制や経済活動制限の再強化に繋がるようであれば、石油需要の回復がその分だけ遅延することになり、世界石油需給引き締まり感が市場で後退することから、原油相場の上昇を抑制する方向で作用する反面、感染再拡大が限定的であり、外出規制や経済活動制限の緩和過程に大きな影響を及ぼさない、ということであれば、世界石油需要回復(もしくはその期待)がOPECプラス産油国による減産措置延長と相俟って市場での世界石油需給引き締まり観測が強まる結果、原油相場に今暫くは上方圧力を加える続ける可能性があるものと考えられる。
(8) また、3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げたことに伴い、大幅に低下したコストで調達された資金が商品等のリスク資産市場に流入する結果、原油相場に下方圧力を加える要因により原油価格が下落しても、むしろ下落した局面では原油を購入する良い機会であると見做されて資金が流入する結果、原油価格が十分に下落しない反面、原油相場に上方圧力を加える要因に対しては原油を購入するための大量の資金が流入する結果、原油価格の上昇が増幅されるといった傾向が生じやすいことにも注意が必要である。
(9) 他方、原油相場を抑制する方向で作用する可能性の要因が存在する。
(10) まず、OPECプラス産油国の減産遵守率が挙げられよう。
(11) 2020年5月はOPECプラス産油国で日量970万バレル程度、うちOPEC産油国で推定日量609万バレル程度の減産を実施する予定となっていたが、実際OPEC産油国の減産遵守状況はまだら模様である。
(12) サウジアラビアについては、日量251万バレル程度の減産目標と推定されるところ、実際の減産量は同240万バレルと遵守率は96%となっている他、UAEは同72万バレルの減産目標に対し同67万バレルの減産と93%の遵守率である。
(13) また、5月のロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は日量859万バレルと減産量は同241万バレルで、減産目標である同251万バレルに対し遵守率は96%とサウジアラビアと同様の遵守状態となっている。
(14) 他方、イラクは日量106万バレルの減産目標に対し実際の減産量は同40万バレルと遵守率38%、ナイジェリアは同42万バレルの減産目標に対し実際の減産量は同8万バレルと遵守率は19%にとどまる。
(15) この結果、OPEC産油国の減産量は日量448万バレルと遵守率は74%となっている。
(16) 今般イラク等は遵守率を向上させる意向である旨表明したとされるが、低遵守に対する罰則が事実上存在しないということもあり、引き続き遵守状態が必ずしも良好でない減産参加国が存在するようであると、この先のOPECプラス産油国の減産遵守のための結束力に緩みが生ずることにより、遵守率がさらに低下する結果、石油需給引き締まり感が市場で後退することで、原油価格の回復が鈍化するといった展開となる可能性も否定できない。
(17) 他方、4月10日の20ヶ国・地域(G20)エネルギー相会合(サウジアラビアが議長国)開催の際には、米国のブルイエット エネルギー省長官が2020年末までに日量200~300万バレル程度同国の原油生産水準が低下する可能性がある旨予想していたが、当該原油生産量は5月29日の週は日量1,120万バレルと直近の最高水準である3月13日の週の同1,310万バレルから同190万バレル減少している。
(18) ただ、原油価格がWTIで1バレル当たり30ドルを相当程度上回る水準に到達していることもあり、米国でのシェールオイル開発・生産活動が復活するとの見方が市場で広がってきている(各鉱床によりばらつきはあるものの、同国のシェールオイル生産コストは平均で1バレル当たり23~32ドルとされる他、ダイアモンドバック・エナジー(Diamondback Energy)やパセリ・エナジー(Parsley Energy)等の米国シェールオイル開発・生産会社は30ドル前後の原油価格であれば、開発・生産活動を再開できる旨示唆していると5月5日に報じられることに加え、パイオニア・ナチュラル・リソーシズ(Pioneer Natural Resources)は既に石油サービスコストが20%低減しているうえ、現状の原油価格やリグ稼働数が継続すれば2021年に向けさらに5~10%石油サービスコストが低下する可能性がある旨示唆したと6月4日に報じられる)。
(19) 実際、北米の油井の操業停止は5月がピークであり、原油価格が上昇してきていることから、生産者は急速に原油生産を回復させるはずである旨の見解を6月1日に米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカが明らかにしている他、パセリ・エナジー(2019年の原油生産量日量9万バレル)も原油価格が上昇していることにより数週間前に操業を停止した油井での操業を再開させつつあると6月1日に報じられたことに加え、米国中堅石油会社(そして米国最大のシェールオイル生産企業である)EOGリソーシズ(2019年原油生産量日量46万バレル)も5月には自社の原油生産量を4分の1程度削減したものの、2020年後半においては産出を加速する方針である旨6月2日に明らかにするなど、米国の原油生産が持ち直す兆候が見られたり、持ち直すとの観測が市場で発生したりしている。
(20) このようなことから、世界石油需給の引き締まり感が市場で後退する結果、原油相場の上昇を抑制するといった展開が見られることもありうる。
(参考1:2020年6月6日開催OPEC総会時声明)
OPEC 179th Meeting of the Conference concludes
No 08/2020
Vienna, Austria
06 Jun 2020
The 179th Meeting of the Conference of the Organization of the Petroleum Exporting Countries (OPEC) was held via videoconference, on 06 June 2020, under the Chairmanship of its President, HE Mohamed Arkab, Minister of Energy of Algeria and Head of its Delegation.
The Conference welcomed new ministers: HE Dr. Ali Haidar Abdulameer Allawi, Minister of Finance and Acting Minister of Oil of Iraq and HE Tareck El Aissami, People's Minister of Petroleum of the Bolivarian Republic of Venezuela.
The Conference thanked their predecessors in office: HE Thamir Abbas Al-Ghadhban of Iraq and HE Manuel Salvador Quevedo Fernandez of Venezuela.
The Conference considered the Secretary General’s report, the report of the Economic Commission Board, as well as various administrative matters. The Conference took note of oil market developments since it last met in Vienna on 5 March 2020 and reviewed the oil market outlook for the remainder of 2020 and into 2021.
It noted the positive ramifications of the decision taken by all Participating Countries in the Declaration of Cooperation (DoC) at the 10th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12 April 2020.
The Conference noted the additional adjustments from Saudi Arabia (1 mb/d); the UAE (100 tb/d); Kuwait (80 tb/d) and Oman (10-15 tb/d) in June; the announcements of voluntary adjustments from several countries, such as Norway and Canada; as well as various oil company statements revising downward production plans and shutting in production, in view of the sudden and acute imbalance in the global oil markets.
It was emphasized that the production adjustments in May, as well as the gradual relaxation of many of the lockdown measures as a result of the COVID-19 pandemic across the globe and an economic pick-up, had contributed to a cautious recovery and the return of more stability in the oil market. Nevertheless, with global oil demand expected to contract by around 9 mb/d for the whole of 2020, consolidating this gradual recovery will require continued commitment and intensified efforts from DoC Participating Countries and all major producing countries.
In light of these facts, and in view of current fundamentals, all Member Countries agreed to the five key elements in reaching their unanimous decision, which will be recommended to non-OPEC Participating Countries. They:
Reconfirmed the existing arrangements under the April agreement.
Subscribed to the concept of compensation by those countries who were unable to reach full conformity (100 per cent) in May and June, with a willingness to accommodate it in July, August and September, in addition to their already agreed production adjustment for such months.
Agreed the option of extending the first phase of the production adjustments pertaining in May and June by one further month.
Recognized that the continuity of the current agreement is contingent on them fulfilling elements 1 and 2 above.
Agreed without dissent that the full and timely implementation of the agreement remains inviolable, based on the five key elements.
The Meeting therefore agreed unanimously to extend the first phase of the production adjustment agreed at the 10th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting for a further month, to now run from 1 May 2020 to 31 July 2020.
The Meeting called upon all major oil producers to contribute proportionally to the stabilization of the oil market, taking into consideration the substantial efforts made by the OPEC and non-OPEC Participating Countries of the DoC.
Member Countries reaffirmed their continued focus on fundamentals for a stable and balanced oil market, in the interests of producers, consumers, and the global economy. The Conference emphasized the ongoing dialogue with both producing and consuming countries, and the consultations undertaken in a collegial spirit before reaching decisions. Member Countries are resolute and committed to being dependable and reliable suppliers of crude and products to global markets.
The Conference expressed its sadness on the news of the passing of Mr. Hossein Kazempour Ardebili, Governor for OPEC for IR Iran, the longest serving member of the OPEC Board of Governors. Mr. Kazempour served his country with distinction and was highly regarded by his peers. The OPEC Conference expressed its deepest and heartfelt condolences to the family of Mr. Kazempour.
The Conference confirmed that its next Ordinary Meeting will convene in Vienna, Austria, on 30 November 2020, and noted that September 2020 will mark the 60 Year Anniversary since the founding of OPEC in Baghdad in 1960.
(参考2:2020年6月6日開催OPECプラス閣僚級会合時声明)
The 11th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 09/2020
Vienna, Austria
06 Jun 2020
The 11th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting was held via videoconference, on Saturday, 06 June 2020, under the Chairmanship of HRH Prince Abdul Aziz Bin Salman, Saudi Arabia’s Minister of Energy, and co-Chair HE Alexander Novak, Minister of Energy of the Russian Federation.
The Meeting recalled the rights of peoples and nations to permanent sovereignty over their natural wealth and resources.
The Meeting reaffirmed the continued commitment of the participating producing countries in the ‘Declaration of Cooperation’ (DoC) to a stable market, the mutual interest of producing nations, the efficient, economic and secure supply to consumers, and a fair return on invested capital.
The Meeting welcomed Ecuador, Indonesia, Trinidad & Tobago as observers.
The Meeting recalled the decision taken by all Participating Countries in the DoC at the 10th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12 April 2020 to adjust downwards overall crude oil production.
The Meeting noted additional adjustments from Saudi Arabia (1 mb/d); the UAE (100 tb/d); Kuwait (80 tb/d) and Oman (10-15 tb/d) in June; the announcements of voluntary adjustments from several countries, such as Norway and Canada; as well as various oil company statements revising downward production plans and shutting in supply.
The Meeting underscored how the production adjustments in May, alongside the emergence of many economies from the lockdowns due to the COVID-19 pandemic, have helped garner tentative signs of a recovery in the global economy and oil market.
However, the Meeting emphasized that it was vital that DoC Participants, and all major producers, remain fully committed to efforts aimed at balancing and stabilizing the market. In this regard, it was noted that global oil demand was still expected to contract by around 9 mb/d for the whole of 2020.
In view of the current fundamentals, and following the agreement reached at the 179th Meeting of the OPEC Conference, all Participating Countries:
Reconfirmed the existing arrangements under the April agreement.
Subscribed to the concept of compensation by those countries who were unable to reach full conformity (100 per cent) in May and June, with a willingness to accommodate it in July, August and September, in addition to their already agreed production adjustment for such months.
Agreed the option of extending the first phase of the production adjustments pertaining in May and June by one further month.
Recognized that the continuity of the current agreement is contingent on them fulfilling elements 1 and 2 above.
Agreed without dissent that the full and timely implementation of the agreement remains inviolable, based on the five key elements, and endorsed the ‘Statement on the Declaration of Cooperation,’ which is annexed to this Press Release.
The Meeting also called upon all major oil producers to proportionally contribute to the stabilization of the oil market, taking into consideration the substantial effort made by the OPEC and non-OPEC Participating Countries of the DoC.
In order to observe the fair, timely and equitable implementation of the above, the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) was requested to closely review the general energy market conditions and related factors, oil production levels, and conformity levels with the DoC, assisted by the Joint Technical Committee (JTC) and the OPEC Secretariat. The JMMC is to meet monthly until December 2020 for this purpose, with the next JMMC set for 18 June 2020.
The Meeting decided that an OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting also will convene in Vienna, Austria, on 01 December 2020.
以上
(この報告は2020年6月8日時点のものです)