ページ番号1008777 更新日 令和2年6月12日

ロシア情勢(2020年5月 モスクワ事務所)

レポート属性
レポートID 1008777
作成日 2020-06-12 00:00:00 +0900
更新日 2020-06-12 11:07:57 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者 黒須 利彦秋月 悠也
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 18
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2020/06/12 黒須 利彦 秋月 悠也
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1. 政治・経済情勢

(1) 国内

政治・経済

ロシアにおける新型コロナウイルスの状況、ロシア政府の支援策
  • ロシアでは5月初めから1日あたり1万人を超える新規感染者が記録されており、5月12日には感染者が23万人を超えて、米国に次いで世界で2番目に感染者が多い国となった。5月後半からは、1日当たりの新規感染者数は9千人前後となっている。
  • こうした状況を踏まえ、外出制限や企業経済活動が制限されている状況に対応すべくロシア政府が累次の支援策を発表しており、Reshetnikov経済発展大臣は、5月27日、新型コロナウイルスの支援対策の費用は累計3.3兆ルーブルを超えたと語った。政府は4月までに、経営が困難になっている中小企業と個人企業を対象とした税金の最大6ヶ月間猶予や、4~5月分の従業員給与への補助などを含む新型コロナウイルスの対策のための2つの支援パッケージを承認しているが、5月11日に第3弾となる支援パッケージを承認した。第3弾の支援内容は、臨時現金支給や育児手当の引き上げなどの子どもを持つ家庭への支援、従業員給与のための優遇融資制度の設立や中小企業等への一部免税などの感染拡大の影響を受けている企業等への支援、社会福祉施設の従業員を対象とした追加手当などが含まれている。
  • ロシアでは新型コロナウイルスの蔓延を防ぐため、3月28日から非労働日とされてきたが、5月11日に非稼働日は解除され、5月12日からは建設、工業、農業、通信、エネルギー鉱物採掘を含む基本的な産業から活動を再開している。

 

経済発展省は2020年のGDPはマイナス5%、原油価格は31.1ドル/バレルと予測
  • 経済発展省は、5月21日、2023年までの社会経済開発の予測を示した。報道によると、2020年のGDPはマイナス5%(2020年第2四半期にマイナス9.5%、第3四半期にマイナス6.3%、第4四半期にマイナス5.2%)、2021年は2.8%、2022年は3.0%、2023年は3.1%と予測とされている。また、2020年~2023年のインフレ率は4%と予測されている。
  • 実質賃金では、2020年にマイナス3.9%となるが、2021年には3.1%に転じると予測。失業率は2020年に5.7%に達し、2011年以来最悪となると予測しているが、2023年には4.7%まで回復するとしている。
  • 原油価格については、2020年のウラル原油平均価格31.1ドル/バレルから、2023年に45.6ドル/バレルと、徐々に上昇する見通しを示した。
  • Reshetnikov大臣はこの予測に関し、5月21日、原油価格はロシア経済の安定に脅威をもたらすものではないと指摘し、OPECとの合意は石油市場の状況を安定させるのに役立ったが、回復がどの程度安定しているかを言及するのは難しい、大量の石油在庫は年末まで市場に圧力をかけるだろうと述べた。
  • また、同省は5月28日に、4月のGDPは前年比マイナス12%だったと発表した。3月末から導入している非稼働日の影響により、サービスや小売業で大きく下落したことが要因とされている。

 

(参考:経済発展省の社会経済開発予測)
 

2019実績

2020

2021

2022

2023

GDP(前年比、%)

1.3

-5.0

2.3

3.0

3.1

GDP(10億ルーブル)

110,046

103,346

111,606

121,118

130,373

インフレ率(年末時点の前年比)

3.0

4.0

4.0

4.0

4.0

鉱工業生産(前年比、%)

2.3

-5.4

3.3

3.3

3.4

小売売上高(前年比、%)

1.9

-5.2

4.0

3.2

2.8

実質賃金(前年比、%)

2.9

-3.9

3.1

2.0

2.5

失業率(前年比、%)

4.6

5.7

5.4

4.9

4.7

為替レート(USD/RUB)

64.7

72.6

74.7

73.3

72.1

ウラル原油価格(USD/バレル)

63.8

31.1

35.4

42.2

45.6

出典:報道情報から作成    


(2) 対外関係

1) 米国

6月のG7サミットを延期し、ロシア等を招待する可能性に言及
  • 米国のトランプ大統領は、5月30日、6月にワシントンで開催するとしていたG7サミットについて、9月以降に延期をする方針を示した。G7開催の時期は確定されていないが、報道によると、同大統領は、9月15日から22日に予定されている国連総会の前後や、11月の米国大統領選挙後などを示唆している。
  • また、同大統領は、G7は時代遅れで、世界で起こっていることを代表するものではないと述べ、中国について議論をするために、サミットにはロシア、韓国、オーストラリア、インドも招待する方針とされている。トランプ大統領はこれまでにも、G7で議論されていることの多くはロシアと関係があるとして、G7にロシアを加えることを主張していた。

 

米国がオープンスカイ条約から離脱を発表
  • 米国のトランプ大統領は、米国がロシアの条約違反を理由に、5月21日、相互の領空に査察用航空機の飛行を認めるオープンスカイ条約からの離脱を表明した。同大統領は、ロシアとはとても良好な関係であるとしつつ、ロシアがこの条約を遵守しなかった、ロシアが遵守するまで離脱するだろうと述べたが、新しい合意をするか、合意をもとに戻すために何かをする可能性は非常に高いとも述べた。米国の離脱は、6ヶ月後に有効となる。また、米国とロシアの間では、2021年2月に期限が切れる長距離核ミサイルの数を規制する新戦略兵器削減条約の交渉についても保留されている。
  • ロシアのGrushko外務次官は、5月21日、新聞のインタビューで、米国のロシアに対する条約違反の疑惑を技術的な問題だとし、これを理由に条約からの離脱を正当化するいかなる試みも拒否をすると述べた。
  • また、ロシアは、5月30日、プーチン大統領が議長を務める連邦安全保障会議を開催し、オープンスカイ条約に対するロシアの立場や新戦略兵器削減条約の状況について議論した。同会議の副議長を務めるメドベージェフ前首相は、同日、SNS上で、これらの文書に対する米国の立場は、国際安全保障構造の破壊につながり、深刻な結果をもたらすだろうと述べた。
連邦安全保障会議の様子
連邦安全保障会議の様子
写真出典:http://kremlin.ru/events/president/news/63430

2) サウジアラビア

ムハンマド皇太子と電話会談を実施
  • プーチン大統領は、5月27日、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を実施した。両者は4月のOPECプラスで合意された石油生産制限の共同努力の重要性について議論した。また、エネルギー省を通じて、更なる協力を行うことで合意した。さらに、2019年10月にプーチン大統領がリャドを訪問した際に合意された二国間協力についても議論が行われた。
  • これに先立ち、エネルギー省のNovak大臣は、5月14日には、サウジアラビアのAbdulazizエネルギー大臣と電話会談を実施し、石油市場の状況について議論している。エネルギー省の発表によると、両国は市場の安定を達成し、石油市場のバランス回復を加速させることを確約している、また、OPECプラスのパートナーもこれらの目標を完全に支持し、合意を遵守することを確信していると共同声明で述べている。

 

3) ユーラシア経済共同体

ユーラシア経済共同体のガス輸送価格について合意せず
  • プーチン大統領は、5月19日、テレビ会議形式で開催された最高ユーラシア経済評議会に出席した。会合の中で、プーチン大統領は、2025年までのユーラシア経済連合の発展戦略について、ガス輸送価格に関する1つの条項を除いて、実質的に合意されていると述べた。同大統領は、アルメニアとベラルーシが提案しているユーラシア経済共同体でのガス輸送価格を一律にする案については、同じ市場、同じ税制の中でのみ実施できると述べ、現在の議論内容では導入できないと主張した。また、ガス輸送価格は供給者の費用と投資を考慮して市場環境に基づいて計算されるべきであり、投資された資本の利益を確保することが世界の慣行であると述べた上で、現時点ではガスに関する項目を完全に除外することが論理的だが、この点についてはユーラシア経済委員会の専門家の議論を継続することができるとした。

 

4) 日本

安倍首相との電話会談を実施
  • プーチン大統領は、5月7日、安倍首相との電話会談を実施し、安倍首相は第二次世界大戦の勝利75周年についての祝いの言葉を述べた。ロシアは5月9日にモスクワで記念式典を開催することを予定していたが、新型コロナウイルスの影響により、延期が決定された。
  • 両首脳は、新型コロナウイルスの蔓延の状況についても議論し、感染の拡大と闘うためにとられた措置について情報交換を行い、医薬品の共同開発を含めた保健分野の連携拡大の計画が確認された。また、貿易と経済の分野を含むロシアと日本の協力についても議論され、疫学的状況の正常化とともに、さまざまなレベルで連絡を続けることが合意された。

2. 石油ガス産業情勢

(1) 原油・石油製品輸出税

  • 2020年5月、原油輸出税はUSD0.9/バレルに引き下げられ、東シベリア及びカスピ海北部の油ガス田等に対しては、引き続きゼロ課税となった。
  • 5月の石油製品輸出税はUSD2.0/トン、ガソリンについてはUSD3.7/トンに設定された。

<参考:原油及び石油製品輸出税の推移

(2) 原油生産・輸出量

  • 5月、原油、ガス・コンデンセート生産量は3,970万トン(約2億8,981万バレル、平均日量939万バレル)で、前年同月比15.5%減。
  • 5月、原油輸出量は1,849万トン(約1億3,495万バレル)で、前年同月比13.0%減。

 

ロシアガス協会がロシアでの石油戦略備蓄を検討

  • ロシアガス協会は、5月15日、エネルギー省の要請に基づき、戦略備蓄について検討し、結果をSorokin次官に提出したと発表した。ロシアガス協会のPavel Zavalny代表は、下院エネルギー委員会の委員長も務めている。
  • 同協会は、戦略的備蓄はロシアのエネルギー安全保障を確保するだけでなく、収益性の高いビジネスであり、グローバルな石油市場の均衡のために重要な役割を果たせるため、ロシアの年間原油生産量の少なくとも10%(約5,000万トン)相当の戦略的備蓄を創設するべきと主張している。また、同協会は、地上施設より経済的であり、ロシアのガス分野での経験を活かすことができるため、岩塩層の岩盤内地下貯蔵施設を作ることを推奨している。
  • ロシアガス協会のSamsonov事務局長は、5月18日、新聞のインタビューで、備蓄施設をゼロから作るには10年~12年が必要だが、枯渇した油ガス田を活用することも可能であり、この場合、国が障害を取り除くように主導すれば3~5年以内で完成が可能との見通しを示した。
  • なお、Transneftは現在2,000~3,000万トンの保管能力を有するが、その半分ほどは通常の操業で使用されていると推測されており、戦略的な備蓄を行うための施設はほとんどないとされている。

(3) 減産合意

Novak大臣は6月~7月に需給が均衡すると予測

  • Novakエネルギー大臣は、5月25日、OPECプラスの合意とその他の国の生産減少を考慮すると、すでに市場から日量1,400~1,500万バレルの原油が減少しており、供給過剰は日量700~1,200万バレルとなっていると述べ、消費の増加により6月~7月には需給が均衡するとの見通しを示した。また、Novakエネルギー大臣は石油会社と会合を開き、今後の減産合意の対応について協議した。
  • 報道によると、ロシアの5月の原油ガスコンデンセート生産量は平均日量939万バレルで、原油のみの生産量は平均日量859万バレルだった。5月の減産目標の日量850万バレルにはわずかに届かなかった。

(4) 天然ガス生産量

・5月、天然ガス生産量は526億立方メートル(約1.9TCF)で、前年同月比で14.5%減。


(5) 税制・法制

石油製品の輸入を禁止

  • 政府は、5月22日付けの政令で、10月1日まで一時的に石油製品の輸入を禁止することを決定した。対象は自動車用ガソリン、ディーゼル、航空機燃料、船舶用燃料。国内製油所の在庫過多または稼働低下により操業が不可能となることを防ぐことが目的とされている。
  • ロシアでは国内の石油価格を抑えるため、輸出価格が国内価格よりも高い場合、国内市場に供給する石油精製事業者はその差額分を補償されるが、輸出価格が国内価格よりも低い状況では、石油精製事業者が税金を支払う仕組みとなっている。このため、ロシアでは国内の石油製品価格が外国よりも高い状態が続いており、輸入石油製品が国内市場を圧迫している。エネルギー省は4月から石油製品の輸入禁止を提案し、財務省との調整を行っていた。
  • ロシアの貿易統計によると、2020年3月のロシアのディーゼルの輸入量は約3万トン、輸入額は1千万ドル強でロシアにおけるシェアは微々たるものであるが、前月比で輸入量は9.0倍、輸入額では4.4倍と急増していた。

 

プーチン大統領が燃料・エネルギー産業への支援を指示

  • プーチン大統領は、5月21日、4月29日に開催したプーチン大統領と燃料エネルギー産業企業との会議での業界の意見を踏まえた支援について対応を指示した。
  • 石油業界に対する支援は、6月15日までに下記の対応検討を行うこととされている。
    • ローテーション制で操業している燃料・エネルギー産業の生産施設で新型コロナウイルス拡散のリスクを抑制するための管理を強化する
    • OPECプラスでの減産合意期間、鉱床の生産計画指標を満たせなくともペナルティを課さない
    • 未完成の油井のための基金の創設
    • 石油化学施設の投資規模に応じたエタンとLPGへの物品税の控除の設定
    • 自動車燃料の物品税の支払いをガソリンスタンドで販売された時点とする
    • 年間10億ルーブル以上の収益がある石油サービス企業を基幹企業のリストに加える
    • OPECプラスの減産合意の期間中、Transneftとロシア鉄道の原油・石油製品輸送について、特別料金を設定する
  • Novak大臣は、4月29日、年間収益1.5兆ルーブル規模、従業員は15万人以上とされる石油サービスの受注の落ち込みは30〜40%、またはそれ以上になる可能性があるとプーチン大統領に報告するなど、企業とともに業界への支援を訴えていた。

 

極東北極圏発展省、大陸棚の資源開発のための仕組みを継続検討

  • 5月21日付けの報道によると、極東北極圏発展省が2019年12月に起草した法案では、国営企業Rosshelfを新しく設立し、民間企業の参加を促して大陸棚の資源開発を促進する案としていたが、こうした制度の導入を断念することを決定した。Trutnev副首相は、関連省庁に法律の修正を指示したとされる。
  • この法案はTrutnev副首相が強く推進しようとしていたが、今年2月に、エネルギー省や天然資源省が、Rosshelfの役割や経済効率性が明確に示されていないと批判的な立場を示していた。極東北極圏発展省は、大陸棚開発の調整機関を設置する案は放棄しておらず、Rosshelfを設立する代わりに、極東北極圏開発基金が調整機能を担う案が検討されている。

3. ロシア石油ガス会社の主な動き

(1) Rosneft

Sechin社長の任期を5年間延長

  • 政府は、5月20日、Sechin社長の任期を、2020年5月24日から5年間延長することを承認した。その後、5月21日のRosneftの取締役会で承任された。Sechin社長は2012年5月から同社の社長を務めている。

 

ベネズエラ資産の譲渡が完了

  • RosneftのFedorov第一副社長は、5月15日、同社の投資家向けのテレカンファレンスの中で、RoszarubezhneftへのRosneftのベネズエラ資産の売却が完了したと発表した。Rosneftは、3月末にベネズエラの事業から撤退すると発表していた。
  • また、Rosneftは、5月22日、4月30日付にてベネズエラ関係等で保有していた会社株式を手放した旨を適時開示し、また、同社の株主構成としてRosneftの子会社であるRN-NeftKapitalInvestが同社の9.6%を保有し、約50%の株式を保有していたRosneftegazの保有分は40.4%に減少したことを公表した。これにより、ロシア政府のRosneftegazを通じたRosneftの保有比率が50%以下となった。
Rosneftの株主構成の変更
Rosneftの株主構成の変更
出典:Rosneft公開情報からJOGMEC作成

Sechin社長がプーチン大統領と面談

  • Sechin社長は、5月12日、プーチン大統領と面談し、石油ガス業界の状況と、Vostok Oilプロジェクトについて議論を行った。
  • Sechin社長は、世界の石油市場の状況と減産合意を考慮してRosneftの財務的経済的安定性を維持するためには投資を最適化する必要があると説明し、2020年の投資計画を7,500億ルーブルに削減すると報告した。2019年の投資額は9,500億ルーブルだったため、前年比2,000億ルーブルの削減となる。これに対し、プーチン大統領は石油関連企業の仕事の減少に懸念を示し、投資を保つために国の支援として何が必要かをSechin社長に質問した。同社長は、緊急に国からの支援を必要としているものとして、ロシアの各銀行の融資先への貸付上限額を引き上げることを挙げ、これは投資の増加だけではなく、将来の市場への炭化水素の供給にも役に立つと述べた。また、同社長は、石油輸送料が最終的なコストの32%にもなることを示し、石油価格の下落に合わせて輸送価格を調整することを求めた。さらに、同社長は、探査を継続するために探査費用に合わせて、原油価格が高い時期に納税を延期できるようにも求めた。
  • また、Sechin社長は市場が安定した後、石油を市場に提供するための新しい有望なプロジェクトとしてVostokOilプロジェクトを挙げ、ビデオを使いプロジェクトの説明を行い、同プロジェクトでの掘削を既に開始したことも明かした。同プロジェクトは、2024年に2,500万トン、2027年に5,000万トン、2030年までに1億1,500万トンの石油を供給できると推定されている。
    Sechin社長は、Zvezda造船所で建造されていたAframaxタンカー、Vladimir Monomakhが進水したことを報告した。また同社長は、このタンカーの電源ユニットは従来型燃料とLNGの両方を利用することができ、高い環境安全水準を満たしていると強調した。
プーチン大統領とSechin社長の面談
プーチン大統領とSechin社長の面談
写真出典:http://kremlin.ru/events/president/news/63346

(2) Gazprom

ポーランドとのガス供給契約を終了

  • Yamal–Europeパイプラインを通じてガスを輸送していたロシアとポーランドの長期ガス輸送契約は延長されず、5月17日に終了した。同パイプラインは1994年からガス供給を開始し、ロシアからドイツまでのガス輸送を行っており、現在の輸送能力は32.9BCMである。5月17日からは、同パイプラインのポーランド部分の輸送能力は、EUの規則に従って、ポーランドのGaz-System社を通じてオークションによりガス輸送の割り当てを行っている。5月17日以降の稼働率は低かったものの、6月は輸送量の93%がすでにオークションで割り当てられている。
  • ポーランドはEUのガス規則に基づき、ロシアのエネルギーへの依存を減らすことを目指しており、2022年以降はロシアからのガスを買わないとも伝えられている。ポーランドは今後、ノルウェーからのパイプラインガスや、米国やカタールからのLNGによりガスを調達していく計画。
Yamal-Europeパイプライン
Yamal–Europeパイプライン
出典:https://www.gazprom.com/projects/yamal-europe/

Ust-Lugaのガス処理・LNGプロジェクトの設計、土地整備を実施中

  • Gazpromは、5月14日、レニングラードのUst-LugaでRusGazDobycha社と共同で進めているガス処理LNGプロジェクトについて、基本的な設計方針について合意し、設計文書を作成中だと発表した。また、建設地でのエンジニアリング調査が完了し、土地整備を進めている。同プロジェクトに資金については、ロシア及び国際金融機関とプロジェクトファイナンスの組成を調整しており、第1トレインは2023年第4四半期、第2トレインは2024年の第4四半期の稼働を予定している。
  • 施設は年間45BCMのガスを処理するロシア最大のガス処理施設を建設し、北西ヨーロッパ最大となる年間1,300万トンの生産能力を持つ天然ガス液化施設を併設する。同施設では、LNGに加え、エタン、LPG、ペンタン-ヘキサン留分を生産する。
  • 同プロジェクトは、ヤマロネネツ自治管区のNadym-Pur-Taz地域のエタンを含むガスを利用する。生産されたエタンは、RusGazDobychaの建設するガス化学施設で、最大300万トンのポリエチレン製品を生産し、処理後に残ったガスはGazpromのガス輸送システムに送られる。
ヤマロ・ネネツ自治管区のNadym-Pur-Taz地域
ヤマロ・ネネツ自治管区のNadym-Pur-Taz地域
出典https://www.gazprom.com/projects/zapolyarnoye/にJOGMEC加筆

Yamal半島大陸棚で新たに発見されたガス田を「75 Years of Victory」と命名

  • Gazpromは、5月8日、Yamal半島の大陸棚で発見された新たなガス田を「75 Years of Victory」と命名すると発表した。第2次世界大戦においてドイツに勝利した日を記念して、ロシアは5月9日を戦勝記念日としており、2020年はこの75周年にあたるため、Gazpromはこの名前を付けた。
  • 同ガス田が発見されたSkratovsky鉱区では、2019年に最初の評価井を掘削し、商業的ガスの流量は日量746,000立法メートルと評価された。ガスの可採埋蔵量は2,000億立方メートル以上とされている。
  • Gazpromは2019年5月にも、Yamal半島の大陸棚で可採埋蔵量の合計が5,000億立方メートル以上となる2つの鉱区を発見したと発表している。

(3) Gazprom Neft

ヤマロ・ネネツ自治管区の複数の油田の開発を開始

  • Gazprom Neftは、5月19日、同社の子会社であるGapzromneft-Zapolyaryeが、ヤマロネネツ自治管区の最大のガスコンデンセート鉱区となるUrengoyskoye鉱区、Bovanenkovskoye鉱区、Kharasaveyskoye鉱区の石油ガスコンデンセートの開発を開始したと発表した。
  • Urengoyskoye鉱区のピーク生産量は2024年と予測され、5BCMのガスと、150万トンのガスコンデンセートを算出する見込み。Bovanenkovskoye鉱区とKharasaveyskoye鉱区の商業生産は2025年、2026年にそれぞれ始まる予定。これらの鉱区での生産量は2031年にピークを迎え、38BCMのガスと410万トンのガスコンデンセートを算出する見込み。
各鉱区の位置図
各鉱区の位置図
https://www.gazprom-neft.ru/press-center/news/gazprom_neft_pristupaet_k_osvoeniyu_krupneyshikh_gazokondensatnykh_mestorozhdeniy_yanao/にJOGMEC加筆

(4) Novatek

Novatek-Murmanskが経済特区の協定を締結

  • Novatekは、5月27日、同社の100%子会社のNovatek-Murmanskが極東開発公社と、ムルマンスクでの経済特区「北極圏の首都」に関する協定に署名したと発表した。Novatekはこの協定により、ムルマンスクでLNGプロジェクトに利用する設備を生産するLNG建設センターの実施が加速されるとしている。
  • Belousov第一副首相は、5月13日、社会経済開発を促進するため、ムルマンスクに経済特区「北極圏の首都」を作ることを決定した。投資額が50万ルーブル以上の投資家が「居住者」として登録することが可能で、所得税や固定資産税の免除、入札を経ずに賃貸用地の提供を受けられるなど、様々な特典を受けることができる。Novatekの他にもすでに3社の登録が見込まれており、経済特区の設定により、少なくとも1,500人の新規雇用と1,250億ルーブルの投資が見込まれている。

(5) Transneft

Tokarev社長がプーチン大統領と面談

  • TransneftのTokarev社長は、5月28日、プーチン大統領と面談し、同大統領がパイプラインは国にとって重要な役割を果たしているとして、現在の市場でのTransneftの状況や投資計画について説明を求め、Tokarev社長は2019年の業績と今後の計画について報告した。
  • 2019年の業績については、同社のパイプラインシステムでの石油の輸送量が1.5%増加、石油輸出は4%増加したと報告した。また、収益は初めて1兆ルーブルを超え、納税額も14%増加したと主張した。さらに東シベリア太平洋(ESPO)パイプラインの輸送について、Tayshetから中国国境までの容量が8,000万トン、SkovorodinoからKoziminoまでの容量が5,000万トンとなり、目標を達成したと述べ、また、Kozimino港の取扱容量を3,600万トンに増やしたと加えた。2020年の計画については、2,570億ルーブルの投資計画を削減しないように取り組んでいるとしたが、収益は10%減少することが予測されると述べた。また、キャッシュフローを枯渇させずに投資計画を実行するために、政府に提案を提出していると説明した。
  • Transneftの収益については、RosneftのSechin社長が5月12日にプーチン大統領と面談した際に、石油輸送価格が高いと訴えていたが、Transneftは、5月18日、これに反論する資料をウェブサイトに掲載。Transneftの輸送費は諸外国と比較しても安価であり、石油会社は減税を受けているがTransneftの政府への利益還元率は石油会社よりも高いと説明。また、輸送費を市場レベルまで値上げするべきで、これにより政府への配当は50%~75%に増加させることが可能と主張した。
  • プーチン大統領は、5月21日、OPECプラスの減産合意の期間中、Transneftとロシア鉄道の原油石油製品輸送について、特別料金の設定を検討するように政府に指示を出している。
プーチン大統領に説明するTokarev社長
プーチン大統領に説明するTokarev社長
出典:http://kremlin.ru/events/president/news/63423

4. 新規LNG・P/L事業

(1) Yamal LNG

北極海航路東回りルートでの輸送を1ヶ月以上前倒し

  • 報道によると、Yamal LNGから2020年最初の北極海航路東回りでのLNGタンカーとして「Christophe de Margerie」が5月18日に出航した。タンカーは6月11日に中国のTangshan港に到着する予定となっている。Yamalから最初に出航した東回りのLNGタンカーの出航日は2019年が6月29日、2018年は6月24日だったため、1ヶ月以上早まったこととなる。
  • 2019年のNovatekのGyetvay CFOの発言によれば、Yamalから北東アジアへのLNG輸送料は1.65ドル/mmBtu、北西欧州へは1.50ドル/mmBtuとなり、北東アジア向けは割高となるが、欧州の需要縮小により欧州でのガス価格が下がっており、アジアへの輸送を増加させる可能性がある。また、東回りルートの利用が早まったことに加え、昨年12月に最後のArc 7級LNGタンカーが納入され、今年は15隻全てのArc 7級LNGタンカーが利用できる。
    東回りルートは、2019年は10月18日、2018年は10月2日に最後のタンカーがYamalを出航しており、10月ごろまでの利用が見込まれている。

 

(2) Nord Stream 2

ドイツ規制当局はEUガス指令の免除を求める申請を却下

  • ドイツの規制当局は、5月15日、EUガス指令で定められた第三者アクセスや生産配送者分離規制について、Nord Stream 2の事業者、Nord Stream 2 AGによる免除要求を拒否した。2019年5月に改訂されたEUガス指令の改正により、新しい輸入パイプラインのオフショア部分を含むように規制が拡張され、Nord Stream 2も規制の対象となった。規制はパイプラインが上陸するドイツの管轄となる。
  • Nord Stream 2 AGは、同プロジェクトへの必要なすべての投資決定は行われており、建設及び関連するエンジニアリングプロセスのみが未完了だったため、EUガス指令の改正案が施行される2019年5月23日までにプロジェクトは完成したとみなされ、同指令はNord Stream 2には適用されないと主張していた。
  • ドイツの規制当局は、EU加盟国10ヶ国の意見を考慮に入れたとしているが、これらの意見はいずれもNord Stream 2 AGの主張を支持しなかったとされている。Nord Stream 2 AGは規制当局の決定に1ヶ月以内に異議申し立てする権利があり、同社は更なる行動を検討するとコメントしている。
  • また、Nord Stream 2の事業者は、EU裁判所に対しても同指令の適用免除を訴えていたが、同裁判所は、5月20日、これを却下する決定を下した。EU裁判所は、このEUガス指令はドイツの法律で規制が実施されるため、ドイツの法制度を通じてこの指令に異議を申し立てる必要がある説明している。

 

(3) シベリアの力P/L

シベリアの力2の設計を開始

  • GazpromのMiller社長は、5月18日、プーチン大統領の指示に従い、Gazpromがシベリアの力2パイプラインの設計を開始したと語った。また、同プロジェクトの目標は、ロシアの西部と東部の輸送インフラの接続と、東シベリアのガス化だと付け加えた。同社長によると、シベリアの力2は最大50BCMの容量を持ち、モンゴルから中国への新しい輸出経路の基礎となり、同時に、Yamalは欧州とアジアへのガス供給源となる。
  • 同パイプラインは、2019年9月にプーチン大統領からMiller社長に検討するように指示があり、Miller社長は、2020年3月のプーチン大統領との面談で、予備的な実現可能性調査により、プロジェクトが実現可能で費用対効果が高かったことを示したため、次の作業を継続する準備ができていると説明し、プーチン大統領はプロジェクトの継続に同意していた。

以上

(この報告は2020年6月11日時点のものです)

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