ページ番号1008809 更新日 令和2年7月20日

原油市場他: 1バレル当たり40ドル近辺の比較的限られた範囲で変動する原油価格

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レポートID 1008809
作成日 2020-07-20 00:00:00 +0900
更新日 2020-07-20 12:16:43 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 35
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2020/07/20 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、精製利幅改善に伴い製油所での石油製品製造活動が活発化した一方で、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制や経済活動制限の緩和によるガソリンや留出油需要増加によりガソリン在庫は減少、留出油在庫は比較的限られた範囲内で変動したものの、平年幅上限を上回る状態は継続している。他方、米国のサウジアラビア等からの原油輸入が高水準であったこともあり、同国の原油在庫は増加傾向となり、6月5~19日には同国週間原油在庫統計史上最高水準に到達した他、平年幅上限も超過している。
  2. 2020年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では原油輸入の増加により在庫水準は上昇したもののOPECプラス産油国による原油生産削減の影響もあり欧州やアジアにおいて在庫が減少したことで相殺された結果、OECD諸国全体として原油在庫は減少したが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州や日本で個人の往来規制が緩和されたことにより自動車用燃料を中心として石油製品在庫は減少したものの、米国で暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴い当該製品在庫が増加したこと等もあり同国の石油製品在庫が増加したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する量となっている
  3. 2020年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、IEAによる2020年の世界石油需要見通しの上方修正に加え、米国石油坑井掘削装置稼働数の減少、OPECプラス産油国の減産遵守向上への期待、米国等での経済改善を示唆する指標類の発表等が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国等での新型コロナウイルス感染再拡大による経済への影響に対する懸念及び米国原油在庫の増加等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は概ね1バレル当たり37~41ドルを中心とする範囲で上下に変動しつつ推移した
  4. 当面の市場の主な注目点は、まず、新型コロナウイルス感染再拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限に関する動向である。感染再拡大により個人の外出規制及び経済活動制限の再強化が広がるようであれば、石油需給の緩和感が市場で再燃する結果、原油相場に下方圧力が加わるものと思われる。他方、規制等の再強化が広がらないようであれば、石油需要の回復と石油需給の引き締まり期待が市場で持続する結果、原油相場に上方圧力が加わるものと考えられる。加えて、米国等による景気刺激策検討等の動きによっても経済成長及び石油需要の伸びの回復期待を市場で拡大させることにより原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、今後のOPECプラス産油国の減産遵守状況に関する情報や、米国での石油坑井掘削装置稼働数、原油生産及び原油在庫の状況等にも原油相場が反応するといったことも想定される。そして、香港での国家安全維持法等を巡る米国と中国等の対立の先鋭化で両国等による貿易上の制限が強化されるようであれば、世界経済成長及び石油需要回復に対する市場の不安感が増大する結果、原油相場を抑制する場面が見られることもありうる。さらにイランやリビア等の動向次第でも原油相場が変動する可能性もある。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1.  原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2020年4月の米国ガソリン需要(確定値)は日量585万バレルと前年同月比で37.4%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で39.2%程度減少の日量569万バレル)からは上方修正された。新型コロナウイルス肺炎の拡大により、カリフォルニア州では3月19日、ニューヨーク州は3月22日に、それぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで個人の往来が大きく制限されたことに伴い、自動車での移動が大幅に鈍化した(4月の米国自動車運転距離数は前年同月比で40.2%減少と、3月の同18.9%、5月の同25.5%の減少に比べても、新型コロナウイルス感染拡大に伴う米国当局等による規制の影響で当該距離数の落ち込みが顕著であることが窺われる)ことが、ガソリン需要に大きく影響したものと考えられる。また、2020年6月の同国ガソリン需要(速報値)は日量836万バレル、前年同月比で13.6%程度の減少となっており、4月の同国ガソリン需要及び5月の当該需要(速報値)(前年同月比で22.2%減少の日量731万バレル)から回復しているものと推定される。4月16日に米国のトランプ大統領が米国民の外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国では外出規制と経済活動制限が緩和されつつある(5月20日のコネチカット州を以て米国の全50州で部分的であれ個人の外出規制及び経済活動制限が緩和された他、6月8日には人口密集地域であるニューヨーク市でも経済活動が再開された)ことから個人の往来が活発化していることがガソリン需要の回復に寄与しているものと見られる。それでも、個人の外出状況が新型コロナウイルス肺炎に伴う政府の規制発動前の水準には戻っていないものと見られることから、6月の同国ガソリン需要も前年同月比で減少したままとなっている。他方、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の緩和に伴い、石油製品需要増加に対する期待から石油製品価格が持ち直すとともに製油所での精製利幅が改善したことにより、製油所での原油精製処理量が上向く(図2参照)とともにガソリンを含めた石油製品の生産活動も活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ものの、米国でのガソリン需要の増加を相殺するには不十分であったこともあり、6月上旬から7月上旬にかけての同国のガソリン在庫水準は減少傾向を示したが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~20年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~20年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~20年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~20年)

2020年4月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量351万バレルと前年同月比で11.9%程度の減少となったが、速報値である日量310万バレル(同22.2%程度の減少)から相当程度上方修正されている(図5参照)。新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う経済活動制限により同月の米国の鉱工業生産が前年同月比で16.3%の減少となった(因みに2019年4月のそれは同0.7%程度の増加であった)こともあり、同月の同国の物流活動も前年同月比で9.8%の減少となった(因みに2019年4月の同国物流活動は前年同月比で2.7%の増加であった)ことが、留出油需要を前年同月比で減少させる一因となったものと見られる。もっとも、速報値のように留出油需要を同20%超減少させる程には物流活動が鈍化していなかったこともあり、確かに同国の物流活動は前年同月比で低下はしたものの、その減少幅は速報値を大きく下回るものとなったものと考えられる。また、2020年6月の留出油需要(速報値)は日量346万バレルと前年同月比で13.7%程度の減少となった。新型コロナウイルス感染に伴う米国での経済活動制限は4月後半以降緩和されつつあったことから、製造及び物流活動等の産業活動が回復してきていることが、当該需要を押し上げているものと見られるが、なお、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動制限導入以前の状態には戻っていない(6月の米国鉱工業生産は前年同月比で10.8%の減少(因みに2019年6月は同1.0%の増加)であった)ことが同月の当該需要を抑制した結果、前年同月比では減少となっているものと考えられる。一方で、精製利幅改善に伴い製油所の稼働が上昇したことから当該製品生産活動が活発化したこと(図6参照、但しこの図は4週間平均の留出油生産量であることから、過去の生産低迷を織り込んでしまっていることもあり回復が限定的であるように見える部分がある)が留出油需要の回復を相殺する格好となったことから、6月上旬から7月上旬にかけて同国の留出油在庫は比較的限られた範囲で推移していたものの、総じて高水準で推移、7月3日時点の当該製品在庫量は1.773億バレルと1983年1月7日(このときは1.778億バレル)以来の高水準に到達した他、平年幅の上限を超過する状態は続いている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~20年)

図6 米国の留出油生産量(2009~20年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~20年)

2020年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で26.9%程度減少の日量1,469万バレルとなった(図8参照)。ガソリン、ジェット燃料、留出油及び重油等幅広く石油製品の需要が前年同月の水準を相当程度下回ったことが同月の石油需要に反映されている。また、ガソリン及び留出油需要の確定値が速報値から上方修正された一方で、その他の石油製品需要が速報値(日量416万バレル)から確定値(同349万バレル)に移行する段階で相当程度下方修正されたことにより、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,473万バレル、前年同月比26.7%程度の減少)から若干ながら下方修正されている。他方、2020年6月の米国石油需要(速報値)は、日量1,773万バレルと前年同月比で14.0%程度減少しており、米国での新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の緩和に伴い各種石油製品需要の回復を反映し、5月の当該需要速報値(前年同月比19.7%程度減少の日量1,625万バレル)を上回っているものの、なお、新型コロナウイルス肺炎拡大前のような個人の外出及び経済活動状況には戻っていないことから、ガソリン、ジェット燃料及び留出油等幅広く石油製品の需要が前年同月を下回っていることが同国の石油需要全体に影響を及ぼしているものと見られる。他方、4月12日にOPECプラス産油国で日量970万バレル程度の減産措置の実施が決定したものの、4月中にサウジアラビア等が増産した(OPECプラス産油国による減産措置の開始は5月1日であったこともあり、4月のサウジアラビアの原油生産量は日量1,164万バレルと前月比で同170万バレルの増加であった)ことにより、サウジアラビア等で産出された原油を積載したタンカーが時間差で以て米国に到着した結果、5月下旬から6月中旬にかけては米国のサウジアラビア等からの原油輸入が総じて高水準(日量138~159万バレル、因みにその前の約1ヶ月間である4月下旬から5月中旬にかけての米国のサウジアラビアからの原油輸入量は同37~64万バレル)であった。このため、米国の製油所での原油精製処理量は増加傾向であったが、それを相殺して余りある状態であった結果、既に6月5日の時点で5.38億バレルと1982年後半以降の週間統計史上最高水準に到達していた米国原油在庫は、6月19日には5.41億バレルと最高記録を更新した。しかしながら、その後は、5月1日以降のOPECプラス産油国による減産措置実施の影響が米国にも及び始めたと見られ、同国のサウジアラビアからの原油輸入が減少傾向を示したことから、7月10日の米国の原油在庫は5.32億バレルと6月5日時点の水準を下回ることとなったが、それでも平年幅上限を上回る状態は続いている(図9参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~20年)

図9 米国原油在庫推移(2003~20年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~20年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~20年)

2020年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では製油所での原油精製処理量が増加したものの、4月に増産したサウジアラビア等からの原油輸入の増加により相殺されて余りあったことから在庫水準は上昇した。他方、中東やロシアを含むOPECプラス産油国による原油生産削減の影響が米国に比べ相対的に距離の近い欧州や日本での原油輸入減少となって現れたこともあり、これら地域では製油所でのメンテナンス作業実施や石油需要低迷に伴う石油在庫の増加による精製利幅の低下等で原油精製処理活動は不活発であったものの、原油在庫は多少なりとも減少した。この結果、OECD諸国全体として原油在庫は減少したが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州や日本では製油所の稼働低下に伴う石油製品生産活動の鈍化により供給が低迷した反面、6月16日には欧州の31ヶ国で国境を跨いだ往来が自由化された(それまで新型コロナウイルス感染拡大に伴い規制されていた)他、日本においても5月25日に新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除されたうえ6月19日には都道府県間での移動制限も撤廃されたことにより、自動車による往来が相対的に活発化するとともに自動車用燃料需要が回復したと見られることから、ガソリンや軽油(ディーゼル車の割合の多い欧州の場合)を中心として石油製品在庫が減少した。しかしながら、米国では暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴い当該製品在庫が増加したことや冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要が減少したことによりブタンを含むその他の石油製品在庫が増加したことから石油製品全体の在庫も増加、欧州及び日本での在庫減少を相殺して余りあったこともあり、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する量となっている(図13参照)。そして、原油及び石油製品在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油と石油製品を合計した在庫も平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2020年6月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は73.1日と5月末の推定在庫日数(75.2日)から減少している。

図12 OPEC諸国原油在庫推移(2005~20年)

図13 OPEC諸国石油製品在庫推移(2005~20年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~20年)

6月10日に1,500万バレル台前半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、6月17日も1,500万バレル台前半程度の量であった。6月24日には1,500万バレル弱の水準へと低下したものの、7月1日には1,500万バレル強、そして7月8日には1,600万バレル台半ば程度の量へと増加した。7月15日は1,600万バレル強へと在庫水準は低下したものの6月10日時点の量は超過している他、前年同期を600万バレル程度上回っている。3月に欧州諸国で新型コロナウイルス感染者が増加しつつあったことにより個人の外出制限等の規制が強化された他、同月米国でも主要各州で個人の外出禁止令が発令されるなどしたことから、域内及び米国向けガソリン需要が減少するとの観測が欧州市場で広がったこともあり、当該地域におけるガソリン価格が下落した結果、アジアのガソリン価格(中国では2月10日以降経済活動制限を緩和し始めたことにより石油需要回復への期待が市場で発生したこともありアジア市場でのガソリン価格は比較的維持されていた)が欧州のそれを上回る状態となったことから、欧州方面からアジアに向けガソリンが流入し続けたことに加え、3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で追加減産協議が決裂した結果、原油価格が大幅下落したことにより、中国が相対的に安価となった原油の購入を活発化、それが5~6月にかけ大量に中国に流入したうえ、新型コロナウイルス感染沈静化に伴う同国経済の回復と石油需要増加期待から精製利幅が拡大したこともあり、中国における製油所の稼働が上昇、石油製品生産活動が活発化したが、それによりかえって同国での石油製品供給が豊富となった他、同国で長期間降雨が発生したことが個人の積極的な外出を阻む格好となったことで自動車向けガソリン需要が抑制されたと見られることから、余剰となったガソリンが国外に輸出されたことが、シンガポールの軽質留分在庫増加傾向の背景にあるものと考えられる。そして、このようにシンガポールでの軽質留分在庫が豊富に存在したことが、アジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加えたものの、新型コロナウイルス感染の沈静化に伴う個人の外出規制の緩和による自動車での往来の活発化とガソリン需要回復期待がガソリン価格に上方圧力を加えたことから、5月にはドバイ原油価格を相当程度下回る場面も見られたガソリン価格は6月に入りその度合いを縮小、6月後半以降はドバイ原油価格とほぼ同水準で推移している。

ナフサについては、暖房需要期ではなくなったことにより価格が下落した液化石油ガス(LPG)と石油化学部門で競合したことがナフサ価格を抑制する格好で作用したものの、欧米諸国での新型コロナウイルス感染に伴う外出規制の緩和によるガソリン需要回復傾向でガソリンに混入するナフサの需要が拡大しつつあったことから、欧州方面からのアジア向けナフサ供給が減少するとの観測が市場で拡大した一方、アジアでのプラスチック製品需要が堅調であった(新型コロナウイルス肺炎対応を含む医療用防護服や飲食店での持ち帰りの容器等のプラスチック製品需要が旺盛であったとの指摘もある)ことが、原料となるナフサの価格に上方圧力を加えた結果、6月中旬以降ナフサ価格はドバイ原油価格を下回る程度を縮小したうえ、7月に入ってからはナフサ価格がドバイ原油のそれを上回る場面も見られている。

6月10日には1,400万バレル台後半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、6月17日及び24日には1,400万バレル弱、また7月1日には1,300万バレル台半ば程度の量へと減少した。7月8日の当該在庫は増加したが依然1,300万バレル台半ば程度の水準であったうえ、7月15日には1,300万バレル台前半程度の量へと低下した結果、6月10日時点の水準を割り込む状態となっている。そして、このように中間留分在庫が減少傾向を示したことが、例えばアジア市場での軽油価格を下支えしたものの、世界の一部地域における新型コロナウイルス感染の再拡大により産業部門での軽油需要が影響を受けるのではないかとの懸念が市場で発生したことが、当該製品価格を抑制したことから、軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は概ね限られた範囲で推移した。

6月10日には2,500万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫(高硫黄のものが中心と見られる)は、6月17日及び24日は2,600万バレル台後半程度の量へと増加した。7月1日には2,500万バレル強へと在庫水準は低下したが、7月8日には2,600万バレル台後半程度の量に回復した。7月15日の在庫量は2,600万バレル強へと減少したものの、6月10日時点の水準は超過している他、前年同期を750万バレル超上回っている。新型コロナウイルス感染拡大による経済活動制限に伴う経済成長の減速と貿易活動の不活発化で船舶向け重油需要が不振であったことが、シンガポールでの重油在庫増加に寄与しているものと見られる。そしてこのように、シンガポールでの重油在庫が増加傾向を示したことが当該製品価格に下方圧力を加えた反面、5月1日にOPECプラス産油国による減産措置が実施されたことで、アジア諸国に対し中質もしくは重質高硫黄原油の供給が減少しつつあることが製油所での重油生産に影響を及ぼすとの観測を市場で発生させるとともに重油価格を支持する方向で作用したと見られることから、シンガポールでの高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は概ね限られた範囲で推移した。


2. 2020年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況

2020年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、IEAによる2020年の世界石油需要見通しの上方修正に加え、米国石油坑井掘削装置稼働数の減少、OPECプラス産油国の減産遵守向上への期待、米国等での経済改善を示唆する指標類の発表等が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国等での新型コロナウイルス感染再拡大による経済への影響に対する懸念、米国原油在庫の増加、IMFによる2020年の世界経済見通しの下方修正等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は概ね1バレル当たり37~41ドルを中心とする範囲で上下に変動しつつ推移した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~20年)

6月15日には、イラクが同国で石油開発・生産事業を行うルクオイル、BP及びエクソンモービルとの間で原油生産の削減で合意した旨(ルクオイルはウエスト・クルナ(West Qurna)2油田の原油生産量につき5月の日量7万バレルの減産に加え6月はさらに同5万バレル追加減産し同27.5万バレルの原油生産量に、エクソンモービルはウエスト・クルナ1油田の原油生産量につき5月の日量5万バレルの減産に加え6月はさらに同17万バレルの追加減産を行うことにより同35万バレルの原油生産量とすることで、それぞれ合意した他、BPにはルメイラ(Rumaila)油田の原油生産につき日量14万バレルの減産を行うよう要請)6月14日にロイター通信が報じた一方で、同国がアジアや欧州の需要家に対し原油販売数量を削減する旨通知したと6月15日に報じられたことから、OPECプラス産油国の減産遵守向上と世界石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大したことに加え、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが少なくともアジアの需要家5社に対し7月積みの原油販売数量を削減した旨6月15日に報じられたこと、2020年5月の中国の原油精製処理量が日量187万トン(推定日量1,364万トン)と前年同月比で8.2%増加している旨6月15日に中国国家統計局が発表したことで、同国の石油需要回復観測が市場で増大したこと、6月15日に米国エネルギー省(EIA)から発表された掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)で2020年7月の米国主要7シェール地域の原油生産量が前月比で日量9.1万バレル減少する旨明らかになったことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、米国連邦準備制度理事会(FRB)が米国企業の社債購入を開始する旨6月15日に発表したことで米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.86ドル上昇し、終値は37.12ドルとなった。また、米国トランプ政権が約1兆ドル規模のインフラ構築向け支出を検討している旨6月15日夜(米国東部時間)に報じられたことで、同国経済及び石油需要の回復に対する期待が6月16日の市場で増大したことに加え、6月16日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートでIEAが2020年の世界石油需要を日量49万バレル上方修正したことに加え、5月は世界全体で日量1,200万バレル石油供給が減少した他、OPECプラス産油国も日量940万バレル石油供給が減少し、同月の減産遵守率が89%に到達している旨明らかになったこと、ステロイド系抗炎症薬「デキソメタゾン」の投与が、重症化して呼吸補助が必要な新型コロナウイルス肺炎患者の回復に大きな効果を発揮した旨確認されたと6月16日に英国の研究チームが発表したこと、6月16日に米国商務省から発表された5月の米国小売売上高が前月比で17.7%の増加と1992年以来の当該統計史上で最大の伸びを示した他、市場の事前予想(同8.0~8.4%増加)を上回ったこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値も1バレル当たり38.38ドルと前日終値比で1.26ドル上昇した。この結果原油価格は6月15~16日の2日間で併せて1バレル当たり2.12ドルの上昇となった。6月17日には、この日EIAから発表された米国石油統計(6月12日の週分)で原油在庫が前週比で122万バレルの増加と市場の事前予想(同350万バレル程度の減少~13万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加した結果、当該在庫が5.39億ドルと1982年後半以降の同国週間原油在庫統計上最高記録を更新した旨判明したことに加え、中国の北京市で新型コロナウイルス感染者が増加し続けていることにより、6月16日には同市内の学校が休校となった他、航空便約1,200便が運休となったことに加え、米国でもフロリダ州等一部の州において新型コロナウイルス感染者数が増加し続けている旨6月17日に伝えられたことで、当該肺炎第二波到来に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり37.96ドルと前日終値比で0.42ドル下落した。しかしながら、6月18日には、この日開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)において、イラクとカザフスタンが既にこれまでの減産遵守未達成部分の相殺のための具体策を提出している旨明らかになった他、他の減産遵守未達成産油国についても、6月22日までに具体策をOPEC事務局に提出することで合意した旨発表したことで、今後の減産遵守率向上と世界石油需給引き締まり加速に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.88ドル上昇し、終値は38.84ドルとなった。また、6月19日も、6月18日に開催されたJMMCにおいて、イラクとカザフスタンが既にこれまでの減産遵守未達成部分の相殺のための具体策を提出している判明した等で、今後の減産遵守率向上と世界石油需給引き締まり加速に対する期待が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、米国と中国との貿易問題を巡る第一段階の合意に基づき、今後中国が米国産農産物の購入を加速する意向である旨6月19日に報じられたこともあり、米国株式相場が一時上昇したこと、6月19日にベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で189基と前週比で10基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で183基と同13基減少)していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり39.75ドルと前日終値比で0.91ドル上昇した。この結果原油価格は6月18~19日の2日間で併せて1バレル当たり1.79ドルの上昇となった。

6月22日も、6月19日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が前週比で減少していた旨判明した流れを引き継いだことに加え、石油需要が当初見込みよりも早く回復する可能性があること及びOPECプラス産油国が当初見込みよりも大幅な減産を行う可能性があることに伴い2020年後半には日量250万バレル程度の石油供給不足となると見られることにより、米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカが2020年の原油価格予想をWTIでそれまでの1バレル当たり32.00ドルから39.70ドルに、ブレントのそれを同37.00ドルから43.70ドルへと引き上げた旨6月22日に報じられたこと、6月22日に米国大手航空会社デルタ航空が6月25日より中国向け路線の運航を再開する旨発表したことで、新型コロナウイルス感染拡大の個人の往来への影響に対する懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.46ドルと前週末終値比で0.71ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2020年7月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2020年8月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり40.73ドル(前日終値比0.90ドルの上昇)であった)。6月23日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.09ドル下落し、終値は40.37ドルとなったが、米国原油先物8月渡し同士では前日終値比0.36ドルの下落となった。これは、6月24日にEIAから発表される予定である同国石油統計(6月19日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことによる。また、6月24日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で144万バレルの増加と市場の事前予想(同10万バレル程度の減少~150万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想の一部を上回って増加したうえ、1982年後半以降の同国週間原油在庫統計史上最高記録を更新している旨判明したことに加え、6月23日の米国の新型コロナウイルス肺炎の新規感染者数が3.56万人と4月24日(この時は3.64万人)以来の多さであり、かつ当該肺炎拡大後2番目の高水準であった他、テキサス州ヒューストン地区の病院の集中治療室(ICU)の稼働率が10%程度上昇し、97%に到達した旨6月24日に報じられたうえ、ニューヨーク州、ニュージャージー州及びコネチカット州の州知事が、当該肺炎感染率の高い他の州(8州)からの訪問者に対し14日間の自主隔離を義務付ける旨6月24日に発表したことから、当該肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の再強化に対する懸念が市場で増大したこと、6月24日に国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通しで、IMFが2020年の世界経済成長見通しをマイナス4.9%と4月14日発表時のマイナス3.0%から下方修正したことで、世界経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で後退したこと、米国が英国、ドイツ、フランス及びスペインからの輸入品(31億ドル相当)に対し新規関税を賦課する方策を検討している旨6月24日にブルームバーグ通信が報じたこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり38.01ドルと前日終値比で2.36ドル下落した。ただ、6月25日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、6月25日に米国商務省が発表した5月の同国耐久財受注が前月比で15.8%の増加と市場の事前予想(同10.5~10.9%程度の増加)を上回って増加していた旨判明したこと、7月のロシアのウラル原油の海上輸出量が日量78.5万バレルと前月比で40%減少する旨6月25日にブルームバーグ通信が報じたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.71ドル上昇し、終値は38.72ドルとなった。しかしながら、6月26日には、新型コロナウイルス感染者拡大により、6月26日正午(現地時間)以降のテキサス州のバーの営業停止及び飲食店の入店制限強化を指示する旨同州のアボット知事が同日朝に表明した他、同日フロリダ州でもバーでの酒類の販売禁止を発表するなどしたことにより、当該肺炎の拡大による経済活動制限の再強化に伴う石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり38.49ドルと前日終値比で0.23ドル下落した。

6月29日には、この日中国国家統計局から発表された5月の同国工業部門の企業利益が前年同月比で6.0%増加と2019年11月以来で初めて増加に転じたことで、同国経済と石油需要の改善に対する期待が市場で増大したことに加え、6月29日に全米不動産業者協会(NAR)から発表された5月の同国中古住宅販売仮契約指数が前月比で44.3%の増加と統計史上最高水準の増加率となった他市場の事前予想(同18.9~19.3%程度の増加)を上回ったことで、米国経済減速に対する懸念が市場で後退したこと、米国中古住宅販売仮契約指数が市場の事前予想を上回って大幅な伸びを示したことに加え、6月29日に米国連邦航空局(FAA)が、この時点で運航を停止していたボーイング737MAX航空機につき、この週に飛行試験を開始する旨明らかにしたことから、同型機の運航再開とボーイングの業績改善への期待が市場で増大したことで、同社株式が大幅に上昇したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.21ドル上昇し、終値は39.70ドルとなった。ただ、6月30日には、この日米国ニューヨーク州のクオモ知事が、6月24日に発表した、米国の8州から同州への訪問者の14日間の自主隔離義務付け措置において、さらに8州を追加した旨発表した他、同日米国アレルギー感染症研究所のファウチ所長が、米国民が行動を変更しなければ、現在の1日当たり4万人の新型コロナウイルス感染者数が10万人へと増加していても不思議ではない旨米国議会上院委員会で証言したことで、新型コロナウイルス感染者数増加による米国経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり39.27ドルと前日終値比で0.43ドル下落した。それでも、7月1日には、この日中国独立系報道機関財新伝媒から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が51.2と5月の50.7から上昇し、2019年12月(この時は51.5)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(50.5)を上回ったことに加え、7月1日に英国情報サービス会社IHSマークイットから発表された6月のドイツ製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)(改定値)が45.2と5月の36.6から上昇した他、6月24日に発表された速報値(44.6)から上方修正された旨判明したこと、7月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された6月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が52.6と2019年4月(この時は53.4)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(49.5~49.8)を上回ったこと、7月1日にEIAから発表された米国石油統計(6月26日の週分)で原油在庫が前週比で720万バレルの減少と市場の事前予想(同50~270万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.55ドル上昇し、終値は39.82ドルとなった。また、7月2日も、この日米国労働省から発表された6月の同国非農業部門雇用者数が前月比で480万人の増加と市場の事前予想(同300~323万人程度の増加)を上回ったうえ6月の失業率が11.1%と5月の13.3%から低下した旨判明したことに加え、7月2日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で185基と前週比で3基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で175基と同5基減少)していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.65ドルと前日終値比で0.83ドル上昇した。この結果原油価格は7月1~2日の2日間で併せて1バレル当たり1.38ドルの上昇となった。なお、7月3日は、米国独立記念日(インディペンデンス・デー)(7月4日)の振替休日により、終値は計上されなかった。

他方、7月1~4日において全米50州のうち39州で新型コロナウイルス感染者数が増加している他、7月に入り米国の16州で1日当たり新規感染者数が最多記録を更新している旨7月6日にロイター通信が報じたことで、米国経済成長と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が7月6日の市場で増大したことが原油相場に下方圧力を加えた反面、7月6日に中国株式相場が相当程度上昇した(中国経済回復に伴い株式相場の健全な上昇への環境が形成されつつある旨同日中国国営報道機関新華社通信系の中国証券報が示唆したことが一因であると見る向きもある)ことに加え、7月6日にISMから発表された6月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が57.1と5月の45.4から上昇したうえ、市場の事前予想(48.9~50.2)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.63ドルと前日終値比で0.02ドルの下落にとどまった。また、7月7日も、この日米国ニューヨーク州のクオモ知事が、新型コロナウイルス肺炎の感染が再拡大している他州から同州への訪問者につき14日間の自主的隔離を義務付ける措置適用に関し、デラウエア州、カンザス州及びオクラホマ州の3州を追加する旨発表したことで、新型コロナウイルス肺炎の感染の再拡大と経済活動への影響に対する懸念が市場で増大したことをきっかけとして、これまでの上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことにより、米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、7月7日にEIAから発表された「短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)」で、EIAが2020年の世界石油需要見通しを日量36万バレル上方修正した一方同年の世界石油供給見通しを同17万バレル下方修正したことで、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.01ドルの下落にとどまり、終値は40.62ドルとなった。7月8日には、この日EIAから発表された米国石油統計(7月3日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で484万バレルの減少と市場の事前予想(同120万バレル程度の減少~55万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.90ドルと前日終値比で0.28ドル上昇した。しかしながら、7月8日の米国の新型コロナウイルス感染者増加数がこれまでで最も多い6万人超となった旨7月9日にロイター通信が報じたことに加え、米国金融機関大手ウェールズ・ファーゴが2020年内に数千人規模の雇用削減を実施する旨7月9日に報じられたことで、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したこと、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が7月7日までの1週間で200万バレル程度増加した旨米国石油関連情報サービス会社ジェンスケープ(Genscape)が報告したと7月9日に報じられたことで、米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給の緩和感を市場が意識したことから、7月9日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.28ドル下落し、終値は39.62ドルとなった。ただ、7月10日には、この日IEAから発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが2020年の世界石油需要を日量36万バレル上方修正している旨判明したことに加え、7月10日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で181基と前週比で4基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で170基と同5基減少)していた旨明らかになったこと、ギリアド・サイエンシズが製造する坑ウイルス薬「レムデシビル」の使用により新型コロナウイルス肺炎の重症患者の死亡リスクが相当程度低減したり症状が改善したりしたと7月10日に同社が発表したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.55ドルと前日終値比で0.93ドル上昇した。

ただ、7月15日に開催される予定であるJMMCで、減産規模を現在の日量960万バレル程度から8月1日以降同770万バレルへと縮小する方針の決定に向け関係産油国の意向が傾きつつある他、ロシアの大手石油会社が8月に増産を行うべく準備している旨7月12日に報じられたことから、この先の石油需給の相対的な緩和感を市場が意識したことに加え、7月12日の米国フロリダ州の新型コロナウイルス感染者数が1.5万人を超過し過去最多になった旨同日報じられた他、同国カリフォルニア州においても当該肺炎感染の拡大が続いていることにより、同州のニューサム知事が州全体の教会等を閉鎖する他屋内飲食店の営業を停止する方針である旨7月13日に発表したことから、新型コロナウイルス感染拡大よる同国経済活動への影響に対する懸念が市場で増大したこと、7月9日に米国財務省が中国新疆ウイグル自治区での人権侵害に関与したとして中国共産党幹部等4人に対し制裁を科する旨発表したことに対し、7月13日に中国政府が米国議会上院共和党のルビオ議員他に対し制裁を科する旨発表したことで、米国と中国との対立の先鋭化と両国等の経済減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が市場で増大したことから、7月13日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.45ドル下落し、終値は40.10ドルとなった。ただ、7月14日には、2020年6月のOPECプラス産油国減産遵守率が107%に到達した旨OPEC関係筋が明らかにしたと7月14日に伝えられたことで、世界石油需給引き締まり加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.29ドルと前日終値比で0.19ドル上昇した。また、7月15日も、この日EIAから発表された米国石油統計(7月10日の週分)で原油在庫が前週比で749万バレル、ガソリン在庫が同315万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同210万バレル程度、ガソリン在庫同64~200万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、7月14日夕方(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が香港の民主派勢力弾圧に関与した中国側関係者に対し制裁を科する旨の法律及び米国の香港に対する優遇措置の撤廃に関する大統領令に署名した旨発表したものの、当面は中国政府幹部への制裁実施は見送る意向である旨トランプ大統領が明らかにしたと7月15日に報じられたことで、米国と中国の対立の先鋭化を巡る市場の懸念が後退したこと、7月14日夕方(米国東部時間)に米国バイオ医薬品製造大手モデルナが新型コロナウイルス肺炎ワクチン開発の初期段階試験において安全性が示された他、治験の結果抗体が形成された旨発表したうえ、この日発表された米国大手金融機関ゴールドマン・サックスの2020年第二四半期業績が市場の事前予想を上回った旨判明したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.91ドル上昇し、終値は41.20ドルとなった。この結果原油価格は7月14~15日の2日間で併せて1バレル当たり1.10ドル上昇した。ただ、7月15日に開催されたOPECプラス産油国によるJMMCで現行日量960万バレル程度のOPECプラス産油国の減産措置を8月以降同770万バレル程度に縮小する旨事実上決定したことで、今後世界石油需給引き締まりペースが減速するとの観測が増大した流れを7月16日の市場が引き継いだことに加え、7月16日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(7月11日の週分)が130万件と前週比で1万件の減少にとどまったうえ市場の事前予想(125万件)を上回ったこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.45ドル下落し、終値は40.75ドルとなった。また、7月16日の米国新型コロナウイルス感染者数が70,727人と史上最高水準に到達した旨同日夜(米国東部時間)にロイター通信が報じたことから、この先の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、7月17日に発表された7月の米国ミシガン大学消費者信頼感指数(1964年=100)(速報値)が73.2と6月の78.1(確定値)から低下した他市場の事前予想(79.0)を下回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.59ドルと前日終値比で0.16ドル下落した。この結果原油価格は7月16~17日の2日間で併せて1バレル当たり0.61ドルの下落となった。


3. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面では、新型コロナウイルス感染拡大とともに個人の外出規制や経済活動制限が強化された一時期に比べ、相対的に動きが活発化しているように見受けられる。イエメンでは、サウジアラビア等が支援するハディ暫定大統領派勢力、UAEが支援する南部暫定協議会(STC)派勢力(従来はハディ暫定大統領派勢力と共闘)、イランが支援するフーシ派武装勢力が対立していたが、6月20日にイエメン沖のソコトラ島(従来ハディ暫定政権派勢力が支配)をSTC派勢力が掌握した旨6月22日に報じられた(ハディ暫定大統領派勢力はSTC派勢力との間での停戦につき調整を行っている旨同日伝えられる)。他方、イエメンのフーシ派武装勢力が同国の首都サナアからサウジアラビアの首都リヤドに向けドローン(無人攻撃機)と弾道ミサイルを発射した(フーシ派武装勢力はサウジアラビア国防省と軍事施設を標的とした旨主張している)他サウジアラビア南部のナジュラン(Najran)及びジーザーン(JizanもしくはJazan)の軍事施設に向けても弾道ミサイルを発射した旨6月23日に伝えられるが、サウジアラビアは同国を中心とする有志連合軍(フーシ派武装勢力を攻撃している)が当該弾道ミサイル等を迎撃した旨6月23日に発表した(6月22日にもサウジアラビアはフーシ派武装勢力が同国に向け発射した無人攻撃機8基を迎撃した旨明らかにしている)。また、7月12日夜(現地時間)にも、フーシ派武装勢力はサウジアラビアのジーザーンにある石油関連施設(サウジアラムコの保有する製油所(原油精製処理能力日量40万バレルであるが2020年後半に操業開始予定であるとされる)と見られる)に対しミサイル及び無人攻撃機で攻撃を行った旨7月13日に発表した。(サウジアラビアを中心とする有志連合軍もフーシ派武装勢力が発射したミサイル4発及び爆発物を積載した無人攻撃機6基を迎撃した旨7月13日未明(現地時間)に報じられる)。

他方、6月15~19日に実施された国際原子力機関(IAEA)理事会において、イランがIAEAへの申告なしに核開発作業を行っていた(2003年とされる)可能性のある施設(2ヶ所)に対し同国がIAEAによる査察を拒んでいることを深刻に懸念しており、イランに対し即時IAEAの査察に完全対応するよう要請する旨グロッシ事務局長が明らかにした。また、同様にイランに対し査察対応を要請する決議案を英国、ドイツ及びフランスが提出したと6月18日に伝えられ、決議案は6月19日には採択された(ロシア及び中国は反対、棄権7ヶ国、賛成25ヶ国)が、これを受け、6月21日にはイラン国会がイラン政府に対しIAEAによる核査察の実施を定めた追加議定書の履行を停止するよう要請する旨の声明を発表した他、イラン政府も歩調を併せ行動する旨表明した旨6月21日に伝えられるなど、イランでは反発する動きも見られる。また、6月30日に開催された国連安全保障理事会で、米国のポンペオ国務長官は、10月末に予定されている対イラン武器禁輸期限の延長を要請した。ただ、安全保障理事会の常任理事国であるロシア及び中国は反対する方針である旨表明しており、両国が拒否権を行使することにより、採択する可能性は高くはないものと見られる(英国、ドイツ及びフランスも禁輸期限延長には反対であるが、イランに対する武器禁輸措置解除による中東情勢への影響を懸念しており、ロシア及び中国とは協議中であると伝えられる)が、採択されない場合には、米国単独でイランに対する国連制裁再発動を要請する姿勢であるとされる。6月24日にはイランのロウハニ大統領が2018年に離脱したイラン核合意に関し米国が謝罪と補償を行うのであれば、米国と協議する用意がある旨表明した。しかしながら、6月25日に米国財務省は、対イラン金属輸出禁止に関する制裁に違反したとして、イラン最大手製鉄会社モバラケ・スチールの国外にある販売関係会社4社とイランの金属関係会社4社に対し、米国内資産凍結及び米国人との取引禁止を内容とした制裁を発動する旨発表した。他方、6月25日には、イランのロウハニ大統領は、2021年3月を目指しイランのホルムズ海峡南部にあるオマーン湾沿岸に位置するバンダルジャスク(Bandar-e-Jask)港から日量100万バレルの石油輸出を行うことが可能となるよう今後準備を進める方針である旨表明した。7月2日には、イラン中部のナタンズにある、ウラン濃縮のための遠心分離機の開発・製造のための核関連施設で火災が発生し、同施設が損傷を受けたが、イラン側は、当該火災の原因は破壊工作であり、イスラエルや米国が関係している可能性があるとして捜査中である旨7月8日に報じられる。このように、イランが支援しているとされるイエメンを含め、イランと米国やサウジアラビア等との対立を巡る情勢については、米国とイランとの間では対話を否定しない動きが見られないわけではないものの、依然として両国の対立は緩和しておらず、今後新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制と経済活動制限の緩和がさらに進むようであれば、11月の米国大統領選挙実施を控えることもあり、米国とイランとの対立が一層先鋭化するようになることを通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性も否定できない。

リビアでは、西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と、東部トブルクを拠点とする暫定議会を支援する、ハフタル将軍を指導者とするリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトやUAE等が支援)との間での事実上の内戦状態となっている。6月29日に、リビア国営石油会社NOCは、過去数週間に渡り、国連及び米国が仲裁し、GNAとLNAとの間で和平協議が行われており、LNAの支援による地域武装勢力の油田関連施設封鎖(但しLNAは施設封鎖を支援しているわけではない旨示唆)が解除され従業員の安全が確保され次第、油田の操業と原油生産を再開する旨明らかにした。7月8日にはNOCが中部のエス・シデル(Es Sider)の石油ターミナルの操業を再開するとともに当該ターミナルに対して発動されていた不可抗力条項を解除、7月10日にはリビアにおける原油出荷全てに関する不可抗力条項を解除する旨発表した。同日にはリビアのエス・シデルにおいて1月以降初めて原油が船積みされたが、7月11日夜(現地時間)には、ハフタル将軍が同国からの輸出を6ヶ月間停止するよう指示した結果同国の油田及び石油ターミナルが封鎖されたことから、7月12日にNOCは同国からの全ての原油輸出につき再び不可抗力条項の適用を宣言した。LNAは、封鎖解除のための条件(現在GNAが支配しているリビア中央銀行に入金されている原油収入を、テロリストや雇い兵(GNA部隊やGNAを支援しているトルコ等を念頭に置いていると見られる)に向かわせないよう、リビア国外の銀行に入金したうえで、各地域に分配する体制を構築するようLNGは主張している)が設定されることにより、(封鎖解除の)指令が行われるまで、油田やターミナルは閉鎖される旨の声明を7月13日に発表している。そのような中で、現在LNAの支配している中部のシルト(Sirte)を奪還すべくGNAが進軍中である(シルトはリビア中部の複数の石油ターミナルから至近距離に位置するため、両勢力が重要視する都市である)。トルコのチャヴシュオール外相は停戦に合意する前にGNAがシルトとその南方にあるジュフラ(Jufra)空軍基地を掌握する必要がある(そうでなければGNAに恩恵がない)旨7月13日示唆している。他方、7月16日にハフタル将軍派勢力からリビア内戦への介入要請を受けたエジプトのシシ大統領はリビア内戦に介入する姿勢を明らかにしたが、7月17日にトルコのエルドアン大統領はエジプトのリビア内戦への介入を不法行為であるとして批判している。このように、リビアにおいては、国連及び米国が仲介する形で、内戦終結及び原油生産再開につき協議しているものの、GNAとLNAとの間での対立は、自国内勢力のみならず外国勢力も巻き込んで状況が複雑化していることから、原油生産再開までにはなお時間を要する可能性がある他、石油ターミナル等関連施設の操業が開始されても短期間で当該施設が封鎖されることにより、原油生産が再度停止してしまう例が過去にも頻発していたことから、今後も同国での原油生産が再開したとしても、当該生産量が十分に回復した(但し、NOCは油田関連施設等に必要な資金が十分に確保できないことを理由に2022年においても原油生産量は日量65万バレルと2019年第四四半期の同国原油生産量である日量120万バレル弱の約半分にとどまる旨7月7日に明らかにしている)うえで、それがある程度の期間持続することにより、最早同国からの原油生産停止リスクが相当程度低下したと市場が確信するまでは、この面で原油相場に下方圧力を加えるといった展開にはなりにくいものと考えられる。

経済面での市場の注目点は、まず、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限に関する動向であろう。これまで欧米やアジア諸国等においては個人の外出規制や経済活動制限の緩和が実施されており、この結果、石油需要も回復傾向を示していることから、OPECプラス産油国等による原油供給削減努力と相俟って、石油需給引き締まり期待を市場で醸成させた結果、原油相場に上方圧力が加わる格好となっている。今後も欧米及びアジア諸国等において都市の封鎖が緩和されるとともに経済活動が再開する動きが続くようであれば、原油相場にさらなる上方圧力が加わりやすいものと考えられる。ただ、個人の外出規制や経済活動制限が緩和されている地域の一部では、新型コロナウイルス肺炎の感染が再拡大しつつある。例えば、米国テキサス州では感染者数が増加した(ヒューストン地区の病院の集中治療室(ICU)の受入患者数が7月1日には受入能力の102%に到達したと伝えられる)こともあり、同州の経済発動制限緩和措置に関する手続きを一旦凍結する旨アボット知事が6月25日に表明した。7月1日にはカリフォルニア州のニューサム知事が同州の大半の地域において飲食店での店内飲食やバーの営業を禁止する旨発表しており、さらにそれでも当該肺炎感染拡大が続いたことから、州全体において教会等の施設を閉鎖する他飲食店での屋内営業を禁止する方針である旨7月13日に発表した。また、7月9日に至るまでの過去2週間と、その前の2週間を比較した場合、全米50州のうち42州で感染者が増加していた旨判明したと7月9日に報じられたことに加え、7月16日の1日で米国での新型コロナウイルス肺炎新規感染者数が70,727人の史上最高水準に到達するなどしていることから、今後個人の外出や経済活動制限の再強化が実施される可能性が高まっている。そして、今後も米国等での新型コロナウイルス感染者拡大により個人の外出規制や経済活動制限が再強化されるようであれば、自動車運転距離数や経済成長が抑制されることで輸送部門や産業部門等での石油需要が伸び悩むことにより、原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。一方で、米国の複数の製薬会社が新型コロナウイルス肺炎ワクチンにつき、安全性と感染患者体内での抗体形成が確認された他、米大手バイオ製薬会社ギリアド・サイエンシズの坑ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナウイルス肺炎の重症患者に使用したことにより死亡リスクが相当程度低減したり症状が改善したりした旨判明したと7月10日に同社が発表するなど、新型コロナウイルス感染に対する治療薬やワクチン開発進展の動きも見られるが、今後も治験結果が良好であれば早期の新型コロナウイルス感染収束と経済活動完全回復による石油需要増加期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加える反面、治験結果が後ろ向きであれば、新型コロナウイルス感染収束と経済活動の完全回復時期が遠のくとの観測が増大する結果、石油需要の増加期待が市場で後退することにより原油相場を抑制する方向で作用するものと考えられる。また、米国では、6月15日夜(米国東部時間)にトランプ政権が1兆ドル程度のインフラ関連支出案を検討している旨伝えられる他、ムニューシン財務長官が7月末までに新規の景気刺激策を策定する旨6月30日に実施された米国議会下院金融委員会公聴会で証言している(また、7月9日もムニューシン財務長官は国民への追加現金支給策を支持している他、さらなる新型コロナウイルス肺炎対策が7月末までに議会を通過することを希望している旨明らかにしている)。今後も米国トランプ政権や金融当局関係者等から景気刺激策に関する動きが明らかになれば、経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大する結果、原油相場が上振れする場面が見られることもありうる。また、今後発表される予定である米国、欧州及び中国等の経済指標類において、経済状況が改善していることを示唆するものが発表されるようであれば、経済成長とともに石油需要の伸びが回復するとの期待が市場で増大する結果、株式相場とともに原油相場に上方圧力を加わる可能性がある。他方、新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制と経済活動制限の実施に伴う同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。このような金融緩和策に伴う資金調達コストの低下により、株式や商品といったリスク資産市場に低コストで調達された資金が流入しやすい状況が生まれており、これが原油相場への上方圧力を増幅する方向で作用する可能性がある。この場合、原油価格を押し下げる要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を購入する良い機会であるとの判断から原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない現象が見られやすくなる一方で、原油相場をそれほど大幅に押し上げそうにない要因が見られても、資金流入が活発化する結果、原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうるので注意が必要であろう。

中国政府による香港国家安全維持法は6月30日に開催された同国全国人民代表大会(全人代)(国会に相当)常務委員会で可決され、同日中国の習近平国家主席が署名、7月1日に発効したが、同日同法に違反したとして香港で10人が逮捕された。7月1日に英国のラーブ外相は当該法に対し、1997年7月1日に実施された英国から中国への香港返還の際に香港の位置付け(一国二制度)につき規定した「中英共同宣言」に反するものと批判、米国では、7月1日夕方(米国東部時間)に議会下院が香港民主運動を弾圧する中国関係者と取引する銀行に対し制裁を科する旨を内容とした法案を全会一致で可決した他、7月2日には、議会上院で同様の法案を全会一致可決し、香港自治法案としてトランプ大統領に送付、7月14日に同大統領が当該法案に署名した他、同日トランプ大統領は香港に対する貿易面等での優遇措置を廃止する大統領令に署名した(但しトランプ大統領は当面は中国政府関係者等に対する制裁実施は見送る意向である旨7月15日に報じられる)が、これらの動きに対し中国は反発している。また、6月17日に米国のトランプ大統領が中国新疆ウイグル自治区でウイグル族の弾圧に関与した当局者に制裁を科する旨の法案に署名、7月9日には米国財務省が中国新疆ウイグル自治区における人権侵害に関与したとして中国共産党幹部等4人に制裁を科する旨発表したが、7月13日に中国政府は米国議会上院共和党のルビオ議員他に対し制裁を科する旨発表している。このように、香港問題等を巡り中国と米国等の政治的対立が高まる兆候が見られるが、今後これが両国等の政治・外交・経済問題に発展することにより、貿易を含む両国等の関係が悪化することで、両国等の経済成長及び石油需要の伸びに対する懸念が市場で広がる結果、原油相場に下方圧力を加えるといった展開となることもありうる。

他方、既に米国主要企業等により2020年4~6月等の企業業績及び業績見通し等が発表され始めているが、それらの内容によっては、米国等の経済成長及び石油需要の伸びに関する観測を市場で発生させる結果、株式相場を通じる等して原油相場にそのような観測が反映されるといったことも想定される。

石油需給ファンダメンタルズ面では、前述の新型コロナウイルス感染による個人の外出規制と経済活動制限の緩和具合による石油需要の回復状況や回復に対する市場の観測に加え、OPECプラス産油国等による減産措置を巡る動向と実際の石油供給状況等が挙げられる。2020年6月はOPECプラス産油国で日量970万バレル程度の減産(加えてサウジアラビア日量100万バレル、UAE同10万バレル、クウェート同8万バレル、オマーンが同1~1.5万バレルの追加自主減産)を実施する予定となっていたが、同月の遵守率は107%である旨7月15日に開催されたJMMCで明らかになるなど、遵守状況は良好である。また、6月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で5~6月に実施されている減産措置につき目標が未達成である産油国については、7月以降規定された減産措置に加え、減産目標未達成部分を補償すべく追加減産を実施する旨決定したが、6月18日に開催されたJMMCでイラクとカザフスタンについては既に追加減産に関する計画を提出している旨判明している(イラクは7月に日量5.7万バレル、8~9月には各月同25.8万バレル追加減産を行い、カザフスタンは8~9月に各月同5万バレル追加減産を行うと伝えられる)。また、追加減産を行う産油国として他に挙げられているアンゴラ、ガボン、ナイジェリア及びブルネイについては当該JMMCで、6月22日までに生産計画を提出するように要請されたが、ナイジェリアは6~9月の各月に日量4.5万バレル追加減産する旨の計画を6月22日までに提出した他、アンゴラ、ガボン、ブルネイについても同日までに計画を提出した旨伝えられる(アンゴラは当初追加減産を7~9月ではなく10~12月に実施することを希望している旨7月2日に報じられたが、7月7日には7~9月に追加減産を実施する旨合意したと伝えられる)。このように各産油国はこれまで完全遵守に近い減産措置を実施していたり、今後完全遵守を実施する方針である旨明らかしたりしているが、この先もタンカー追跡データや需要家側への供給通知の情報等で、各産油国の実際の減産遵守状況が明らかになるようであれば、それが原油相場に織り込まれる可能性がある。また、7月15日に開催されたJMMCでは、8月から当初予定通り減産措置を日量770万バレルへと緩和することを事実上決定した。市場の一部では、新型コロナウイルス肺炎の感染再拡大による不透明感の増大により7月時点の日量960万バレル程度の減産措置の1ヶ月間延長を期待する声があったこともあり、今般のJMMCでの事実上の減産措置縮小の決定により、世界石油需給引き締まり加速期待が市場で後退するとともに、条件反射的反応で原油の売却が発生した結果、原油相場が下落する場面が見られたものの、新型コロナウイルス肺炎の拡大による個人の外出規制や経済活動制限の再強化に対する懸念がこの先市場でさらに強まらなければ、世界石油需要が持ち直すとの期待が市場で持続する一方、規模は縮小するにしてもこの先OPECプラス産油国の減産措置が継続される結果、石油需給引き締まり期待が市場で根強く維持されることにより、原油相場の下落局面は限られたものになるものと見られる(実際現時点では減産措置縮小の原油相場への影響は限定的である)。

ただ、原油価格が1バレル当たり40ドルに接近していることもあり、米国の石油坑井掘削装置稼働数の減少ペースが鈍化している(2020年4月には1週当たり60基程度減少する場面も見られたが7月に入り1週当たり数基程度の減少にとどまっている)他、同国の原油生産量も日量1,100万バレル近辺で安定しつつある。このようなことから、米国のシェールオイル開発・生産活動が底打ちするとの観測が市場で発生しやすくなっており、これが原油相場のさらなる上昇を抑制する形で作用する可能性がある。もっとも、5月1日より実施されているOPECプラス産油国減産措置により、サウジアラビア等が実施した減産に伴う原油輸出削減の影響が米国のサウジアラビア等からの原油輸入の減少となって現れ始めており、今後それが米国原油在庫を押し下げる方向で作用すると見られることから、この面では原油相場に上方圧力を加える格好となることも予想される。

大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設の操業に影響を与える結果、当該地域での原油生産が減少する(実際に被害が発生しなくても、暴風雨接近に伴い沖合油・ガス田は従業員を避難させなければならず、また、2020年は新型コロナウイルス感染抑制のため、従業員の避難及び復員に時間を要する結果油・ガス田の操業停止が長期化する恐れもある)他、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により、米国の原油輸入(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)に影響を与えたりする。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも同国メキシコ湾沖合ではそれなりの量原油が生産されている(2019年に当該地域では日量188万バレルの原油を生産しており、米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は同国の精製活動中心地である(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国原油精製処理能力全体の約47%を占める)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況、進路及び勢力、そしてその予報等によっては石油市場関係者間での石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれるといった場面が見られることもありうる。5月21日に発表された米国国立ハリケーンセンターの予報や7月7日時点でのコロラド州立大学の予想によると、2020年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(7月7日時点でのコロラド州立大学の予報では、6月4日時点の予報に比べ暴風雨発生予想が上方修正されている)(表1参照)。そのような中で、シーズン初期に米国メキシコ湾沖合での油田操業を脅かすような暴風雨(クリストバル)が発生していることから、この先のシーズン中も活発にハリケーン等の暴風雨が発生し油田操業等を再度脅かすのではないとの神経質な感情が市場で根強くなっているものと見られる結果、この面で原油価格の下落が抑制されやすくなるといったこともありうる。

表1 2020年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予測

総合すると、当面の市場の主な注目点は、まず、新型コロナウイルス感染再拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限に関する動向である。感染再拡大により個人の外出規制及び経済活動制限の再強化が広がるようであれば、石油需給の緩和感が市場で再燃する結果、原油相場に下方圧力が加わるものと思われる。他方、規制等の再強化が広がらないようであれば、石油需要の回復と石油需給の引き締まり期待が市場で持続する結果、原油相場に上方圧力が加わるものと考えられる。加えて、米国等による景気刺激策検討等の動きによっても経済成長及び石油需要の伸びの回復期待を市場で拡大させることにより原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、今後のOPECプラス産油国の減産遵守状況に関する情報や、米国での石油坑井掘削装置稼働数、原油生産及び原油在庫の状況等にも原油相場が反応するといったことも想定される。そして、香港での国家安全維持法等を巡る米国と中国等の対立の先鋭化が両国等の政治・外交・経済問題に発展する結果、両国等による貿易上の制限が強化されるようであれば、それが世界経済成長に対する足枷となることにより、石油需要回復に対する市場の不安感が増大する結果、原油相場を抑制する場面が見られることもありうる。さらにイランやリビア等の動向次第でも原油相場が変動する可能性もある。


4. 2021年に向けた世界石油市場に対する関係者の考え方等

IEAは2020年6月16日に、OPECは7月14日に、それぞれ初めて2021年の世界石油需給見通しの詳細を発表した。ここでは、2020年1月14日に2021年見通しの詳細を初めて発表したEIAを含め2021年の世界石油需要及び供給見通し等の特徴などにつき述べることとしたい。また、2020年も半分が過ぎたが、石油需給見通しが当初(例えば2019年半ばに主要各機関が初めて見通しを発表した時点)から大幅に変更されているため、ここで併せて2020年の残りの部分に関して改訂された見通しについても触れることとする(なお、データは原則、IEAが7月10日、EIAが7月7日、OPECが7月14日に、それぞれ発表したもの(つまり最新のもの)に基づくものとする)。

2020年前半は新型コロナウイルス感染の拡大に伴い世界の多くの地域において個人の外出規制及び経済活動が制限されたことにより、特に第二四半期の世界石油需要が大幅に下振れした一方で、5月1日にはOPECプラス産油国による減産措置が開始された他、同年4月後半までの原油価格の下落傾向に伴う採算性の悪化により米国等での原油生産が減少したことから、世界石油供給も大きく変動した。現時点では、米国を初めとする世界各地域において、個人の外出規制及び経済活動制限は緩和されつつあるものの、米国等では当該肺炎の感染者数が再拡大しつつあることから、この先再び個人の外出規制及び経済活動制限の再強化が行われないとも限らない状態にある。従って、いずれの機関もこの先の世界石油需給を巡る情勢に著しい不透明感が存在する旨示唆している。そのうえで、そのようなリスクを意識しつつも、各機関とも、新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限に関する措置が最も厳しかった2020年第二四半期の世界石油需要の前年同期比での増減につき、当該肺炎感染拡大当初の日量1,726~2,314万バレルの減少(IEAが4月時点見落としで日量2,314万バレル(23.3%)、EIAが5月時点見通しで同1,877万バレル(18.7%)、OPECが5月時点見通しで同1,726万バレル(17.5%)の、それぞれ減少)の見込みに対し、7月時点では日量1,630~1,661万バレルと推定する(IEAが日量1,641万バレル(16.5%)、EIAが同1,630万バレル(16.2%)、OPECが同1,661万バレル(16.9%)の、それぞれ減少))など、当初予想ほど同時期の世界石油需要は落ち込んでいなかった旨判明したうえ、今後は新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の緩和に伴う世界経済成長の回復により、ガソリンや軽油等陸上を中心とする輸送部門における石油製品の需要が2020年末に向け持ち直す他、中国ではプロパン脱水素化(PDH)能力の増強に伴い石油化学部門向けLPG需要が2020年後半に上向くことにより、この先前年同期比での需要の落ち込みの程度が縮小する方向で推移する結果、2020年全体の石油需要も前年比で日量793~895万バレルの減少(IEAが同793万バレル(前年比7.9%)、EIAが同815万バレル(同8.1%)、OPECが同895万バレル(同9.0%)の、それぞれ減少)と、4~6月時点の見通しである前年比834~970万バレルの減少(IEAが同930万バレル(前年比9.3%)(4月見通し)、EIAが同834万バレル(同8.3%)(6月見通し)、OPECが同970万バレル(同9.1%)(5月見通し)の、それぞれ減少)に比べ上方修正されている。ただ、感染防止が相対的に困難であると考えられる航空機による個人の移動が新型コロナウイルス感染拡大前の水準にまで回復するには長い期間を要すると見込まれることから、ジェット燃料の需要が低迷したままとなる結果、2020年の世界石油需要は2019年のそれを下回ったままとなるものと見られている。

2021年においてもガソリン及び軽油といった陸上を中心とする輸送部門での石油製品需要が増加する(但し、OPECは在宅勤務やテレビ会議等の普及がこれら石油需要を部分的に抑制する旨示唆している)他、米国でPDH能力の増強が行われると見られることから石油化学部門向けLPG需要が増加すると見られる反面、ジェット燃料に対する需要が十分回復しないことから、同年の世界石油需要は前年比では日量530~700万バレルの増加(IEAが同530万バレル(前年比5.8%)、EIAが同698万バレル(同7.5%)、OPECが同700万バレル(同7.7%)の、それぞれ増加)(図16参照)と予想されるものの、2019年比では依然日量117~263万バレルの減少(IEAが同263万バレル(前年比2.6%)、EIAが同117万バレル(同1.2%)、OPECが同195万バレル(同2.0%))の、それぞれ減少)となるなど、世界石油需要の回復はもたつき気味となる部分が残ることが示唆される。

図16 各機関の世界石油需要増加見通し(前年比)

他方、世界石油供給面であるが、5月の世界石油供給は日量8,925~8,989万バレル(IEAが同8,925万バレル、EIAが同8,932万バレル、OPECが同8,989万バレル)、6月のそれは同8,629~8,759万バレル(IEAが同8,686万バレル、EIAが同8,759万バレル、OPECが同8,629万バレル)と、4月の同9,946~1億59万バレル(IEAが同1億59万バレル、EIAが同9,997万バレル、OPECが同9,946万バレル)と比較し、5月で同957~1,134万バレル、6月で同1,238~1,373万バレルの、それぞれ減少と推定されている。5月1日以降OPECプラス産油国による減産措置が実施されていることで、OPEC産油国に加え、ロシア等の一部非OPEC産油国もOPEC産油国と協力して減産しているうえ、原油価格の下落により米国でのシェールオイルの開発・生産活動、及びカナダのアルバータ州でのオイルサンド開発・生産活動が減少していること等が背景にある。

米国の石油生産については、2020年は前年比で日量68~137万バレルの減少(IEAが同88万バレル(前年比5.1%)、EIAが同68万バレル(同3.5%)、OPECが同137万バレル(同7.4%)の、それぞれ減少)、2021年は同38万バレルの減少~24万バレルの増加(IEAが同38万バレル(前年比2.3%)減少、EIAが同25万バレル(同2.3%)減少、OPECが同24万バレル(同1.4%)増加)となっている(図17参照)。IEAは、6月には米国の原油生産が底打ちした可能性がある(このためIEAは2020年6月の米国原油生産量日量1,055万バレルが2020年12月には同1,087万バレル、そして2021年12月には同1,112万バレルへと増加するものと認識している)ものの、これまでの原油価格下落による採算性の悪化で停止した既存坑井でのシェールオイル生産が価格上昇により回復するが、原油価格下落によるシェールオイル開発のための石油水平坑井掘削装置稼働数の減少の影響により、この先新規開発によるシェールオイルの生産が低迷することで相殺される他、石油会社は自社の企業価値を維持すべく原油生産を巡る経済性を重視することにより、むやみな増産には消極的であると見られることから、同国での原油生産の増加は緩やかなペースとなる旨示唆している。EIAも、一部の石油会社が最近の原油価格の上昇に伴い生産を回復させつつあるものの、これまでの原油価格の下落に伴う掘削活動の低迷がこの先の新規開発による生産に時間差を以て影響する(EIAは原油価格の変動が新規開発事業を通じてシェールオイルの生産に影響を及ぼすまでに6ヶ月程度を要する旨説明している)結果、例えば米国本土48州の陸上原油生産は2020年7月の日量900万バレルから2021年4月には同850万バレルへと減少すると予想している他、その後は原油価格上昇の影響を受け当該生産は増加するものの、原油価格の回復が弱いものと見込まれる(EIAは2021年のWTI原油価格を1バレル当たり45.70ドルと想定している(2020年は同37.55ドル))ことから、原油生産の増加ペースは緩慢であり、2021年第四四半期の原油生産量は日量870万バレルと2021年4月に比べて限られた回復にとどまる旨示唆している。他方、OPECは足元6,000坑の未仕上坑井がある他原油価格(WTI)が1バレル当たり40~45ドルに到達していることにより、2020年第三四半期遅くには石油坑井掘削装置稼働数が持ち直すことから、2020年第四四半期には米国の石油生産が増加に転じ(因みに同国のシェールオイル生産は2020年9月まで減少が続くとしている)、2021年は年間を通じ増加傾向が持続するものと見ている。また、米国の石油生産に含まれるが、同国の天然ガス液(NGL)生産については、2020年は前年比で日量2万バレルの減少~同7万バレルの増加(IEAが同1万バレル(前年比0.3%)減少、EIAが同7万バレル(同1.5%)増加、OPECが同2万バレル(同0.4%)減少)、2021年は同3万バレルの減少~同11万バレルの増加(IEAが同3万バレル(前年比0.6%)減少、EIAが同11万バレル(同2.3%)増加、OPECが同6万バレル(同1.3%)増加)と、各機関は比較的小幅の増加もしくは減少を予想している。これについては、米国の天然ガス生産減少傾向に伴いプロパンやブタンの生産が減少するものの、石油化学産業向けエタン需要の増加(2020~21年も台湾塑膠工業(Formosa Plastic)、シェル、ベイポート・ポリマー(Bayport Polymer)でエタン分解装置の操業が開始されると言われている)に伴い、米国で生産される天然ガスからのエタン回収率が上昇する結果エタン供給が増加することで相殺されて余りあると見られることが、同国でのNGL生産増加の背景にある。

図17 各機関の米国石油供給増加見通し(前年比)

カナダの石油生産については、2020年は前年比で日量41~44万バレルの減少(IEAが同41万バレル(前年比7.4%)、EIAが同44万バレル(同8.0%)、OPECが同43万バレル(同8.0%)の、それぞれ減少)、2021年は同9~46万バレルの増加(IEAが同35万バレル(前年比6.9%)、EIAが同46万バレル(同9.0%)、OPECが同9万バレル(同1.9%)の、それぞれ増加)と予想されている(図18参照)。2018年12月2日に発表された同国アルバータ州政府による減産指示(2019年1月1日の当該措置開始時点では日量32.5万バレルの減産規模であったが現在は同21.5万バレル程度となっているものと推定される)の影響が2020年まで及ぶことに加え、原油価格の下落よる採算性の悪化や国外からの石油需要の低下により、2020年の同国石油生産は減少するものの、2021年は需要が増加することからこれまで停止した生産が回復することにより、石油生産は増加、2021年後半には2019年の水準を超過するものとEIAは認識している。またIEAも、カナダのオイルサンド開発・生産事業者は原油価格が上向けば生産を再開させる意向であるとして2020年後半には同国の石油生産は増加に転じる可能性があるものの、これまでの投資削減の影響から、生産回復がもたつく結果、生産が2019年の水準に到達するのは2021年末頃となる旨示唆している。なおカナダの原油生産能力の増強は新規事業によるものではなく既存事業の拡張等によるものであるとEIAは指摘している。

図18 各機関のカナダ石油供給増加見通し(前年比)

また、ノルウェーについては、OPECプラス産油国による減産措置と歩調を併せ2020年6~12月に自主的に減産を実施する(基準となる日量185.9万バレルの原油生産量から2020年6月は同25万バレル、7~12月は同13.4万バレル、それぞれ減産する旨4月29日に同国石油・エネルギー省が発表している)ことに伴い、2020年後半に生産開始を予定していた油田の生産開始が2021年に延期されることから、2020年の同国の石油生産量は前年比で日量29~31万バレルの増加(IEAが同31万バレル(前年比17.8%)、EIAが同29万バレル(同16.4%)、OPECが同30万バレル(同17.3%)の、それぞれ増加)と見込まれている。また、2021年は減産措置が失効することから、同年の同国の石油生産量は同10~15万バレルの増加(IEAが同11万バレル(前年比5.3%)、EIAが同10万バレル(同5.0%)、OPECが同15万バレル(同7.2%)の、それぞれ増加)と認識されている(図19参照)。2020~21年の同国の石油生産増加の大部分は2019年10月に生産を開始したヨハン・スベルドルップ(Johan Sverdrup)油田(ピーク時原油生産量日量47万バレル)によるものであるが、OPECは2021年のスノーレ(Snoore)(同3.1万バレル)及びバウゲ(Bauge)(同2.2万バレル)の生産開始も同年の同国の石油生産増加に寄与するとしている。

図19 各機関のノルウェー石油供給増加見通し(前年比)

また、ブラジルについては、2020年において日量20万バレルの石油生産削減を実施する方針である旨4月1日に同国国営石油会社ペトロブラス(Petrobras)が発表したが4月27日には減産方針を撤回、同国では6月25日にP70浮遊式生産貯蔵出荷施設(FPSO)での原油生産が開始され同年後半には当該施設の生産が拡大すること(予定される原油生産量日量15万バレル)もあり2020年の同国の石油生産量は前年比で日量11~23万バレルの増加(IEAが同11万バレル(前年比3.7%)、EIAが同19万バレル(同6.2%)、OPECが同23万バレル(同5.5%)の、それぞれ増加)と見込まれている。また、2021年には、セピア(Sepia)(予定される原油生産量日量18万バレル)及びメロ(Mero)(同18万バレル)各油田の生産開始で同国の石油生産量は前年比18~30万バレルの増加(IEAが同22万バレル(前年比7.4%)、EIAが同30万バレル(同7.6%)、OPECが同18万バレル(同4.7%)の、それぞれ増加)と予想されている(図20参照)。

図20 各機関のブラジル石油供給増加見通し(前年比)

また、EIAは、メキシコでの既存油田での生産の自然減退により、同国は2020年に日量6万バレル、2021年には同9万バレル、それぞれ石油生産が減少する(2020年は前年比で3.1%、2021年は同4.8%の減少となる)(なお、同国の石油生産については、2020年はIEAが同3万バレル(前年比1.6%)の増加、OPECが同0.0万バレル(同2.4%)の減少、2021年はIEAが同4万バレル(前年比2.0%)、OPECが同0.0万バレル(同2.1%)の、それぞれ減少と予想))他、2021年にはインド、アゼルバイジャン、コロンビア、マレーシア、エジプト等において前年比で日量5~10万バレル程度減少すると見ている。

以上のような産油国を含めた2020年の非OPEC産油国石油供給量は前年比で日量224~326万バレルの減少(IEAが同298万バレル(前年比4.5%)、EIAが同224万バレル(同3.4%)、OPECが同326万バレル(同5.0%)の、それぞれ減少)、2021年は同74~111万バレルの増加(IEAが同74万バレル(前年比1.2%)、EIAが同111万バレル(同1.7%)、OPECが同92万バレル(同1.5%)の、それぞれ増加)と認識されており(図21参照)、2021年の非OPEC産油国の石油生産は増加となるものの、なお2019年の水準には到達しない旨示唆される。

図21 各機関の非OPEC産油国石油供給増加見通し(前年比)

そして、世界石油需要から非OPEC産油国石油供給とOPEC産油国のNGL供給等を差し引いた、いわゆる対OPEC原油需要等(「Call on OPEC」、但しこれには在庫変動も含まれる)は、2020年については、IEAが日量2,423万バレル、EIAが日量2,432万バレル、OPECが同2,380万バレル、2021年についてはIEAが日量2,869万バレル、EIAが日量3,031万バレル、OPECが同2,980万バレルになるものと予想している(図22参照)。OPECによれば、2020年6月のOPEC産油国原油生産量は日量2,227万バレルであるので、2020年の当該需要はそれを日量153~205万バレル上回ることになる。OPEC産油国は現在の減産措置につき2021年にかけ緩和していく方針である(2020年7月15日に開催されたJMMCでは、7月の日量960万バレル程度の減産措置を8月1日以降は日量770万バレル程度に縮小することを事実上決定した他、現在決定している方針によれば、2021年1月1日~2022年4月30日は日量580万バレル程度の減産を実施する予定である)が、現行のOPECプラス産油国の減産方針通りの原油生産量とOPEC産油国のNGL等生産量、非OPEC石油生産量、そして世界石油需要を組み合わせると、2020年後半には世界石油需要が供給を上回る(EIAは2020年6月には既に世界石油需要が供給を上回っている旨の見解を明らかにしている)ことになり(表2参照)、2020年に入り新型コロナウイルス感染拡大による経済活動制限等による石油需要の落ち込みとOPECプラス産油国間での減産協議の決裂による増産により積み上がった余剰石油在庫は取り崩され始めることになる。そして、世界石油需要が順調に回復し続けるようであれば、2021年は年間を通じて世界石油需要が供給を上回ることになり(表3参照)、OPECプラス産油国減産措置の期限である2022年4月30日を待たずして、これまで積み上がった余剰石油在庫が解消されることもありうるため、そのような展望が開け始めるようであれば、その時点でOPECプラス産油国も減産措置につき再検討するといった展開となることもありうる。

図22 各機関の対OPEC原油需要等見通し(前年比)

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2020年)

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2021年)

以上

(この報告は2020年7月20日時点のものです)

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