ページ番号1008824 更新日 令和2年8月18日

ロシア情勢(2020年7月 モスクワ事務所)

レポート属性
レポートID 1008824
作成日 2020-08-18 00:00:00 +0900
更新日 2020-08-18 10:16:32 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者 秋月 悠也
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 17
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2020/08/18 秋月 悠也
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1. 政治・経済情勢

(1) 国内

政治・経済

憲法改正の全国投票最終結果
  • 6月25日~7月1日、ロシアの憲法改正法案の国民投票が行われ、投票率は67.97%、賛成票が77.92%となり、賛成多数の結果となった。改正案は3月に議会で可決されていたが、国民の意思を確認するため、国民投票が実施された。投票は、当初4月に行われる計画だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、延期されていた。プーチン大統領は、7月3日に憲法改正に関する法令に署名し、憲法は7月4日に発効した。
  • プーチン大統領は、7月3日に憲法改正案の作成に携わった作業部会との会談を行い、責任ある選択をした方々に改めて感謝申し上げる、私たちはこの重要な決定を国全体で行った、これはロシアのさらなる発展の根底にある価値観と基本原則に関係し、私たちを一つにすると述べた。
  • 憲法改正案には、領土割譲の禁止、神への信仰の重要性、同性婚の禁止、公務員が外国の市民権を得ることの禁止、国際条約に対するロシア憲法の優先などが含まれる。また、憲法は大統領の任期を最大2期12年までと定めるが、プーチン大統領のこれまでの任期は数えないこととなり、2024年に迎える任期の後も、最大2036年まで大統領に就くことが可能となる。
投票をするプーチン大統領
投票をするプーチン大統領
写真出典:http://kremlin.ru/events/president/news/63587

国家発展目標を2030年まで後ろ倒し
  • プーチン大統領は、7月21日、2030年までのロシアの国家発展目標に関する政令に署名し、10月30日までに国家発展目標を達成するための計画を提出し、目標に基づき進められている国家プロジェクトを調整するように閣僚に指示をした。また、予算案を作成する際には、国家発展目標の実施のための優先的な予算配分をすることとした。国家発展目標は、2018年5月のプーチン大統領の第4期政権の開始とともに「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」(5月指令)を定め、2024までの目標を策定していたが、今回、この目標を修正し、期間を2030年までに延長する。
  • 新たな目標は、国民の健康福祉の指示、自己実現と才能発展の機会、快適で安全な生活環境、効率的な仕事と起業の成功、デジタル変革の5つが挙げられている。具体的には、2030年までに、国の平均寿命を78歳とすること、2017年比で貧困レベルを半分に削減すること、有害汚染物質の排出量を半分にすること、国内総生産の成長率の世界平均を越えること、2020年比で非主要非エネルギー商品の輸出を70%増加すること、2019年比で情報技術分野の投資を4倍に増加すること、などが挙げられている。新たな目標が加えられた一方、ロシアが経済分野で世界5位になるという目標は、今回は含まれなかった。
  • これに先立ち、プーチン大統領は、7月13日に戦略的開発と国家プロジェクト評議会をテレビ会議形式で開催し、特に新型コロナウイルスの流行とそれに続く経済危機、世界経済と我が国で現在進展している状況を考慮に入れなければならないと説明し、長期的なベンチマークは変わらないとしつつ、国家発展目標に修正が必要な旨を説明した。また、憲法の改正も考慮に入れる必要性を言及し、2030年までの目標改定の準備を指示していた。
戦略的開発と国家プロジェクト評議会
戦略的開発と国家プロジェクト評議会
写真出典:http://kremlin.ru/events/president/news/63635

金融

政策金利を4.25%に引き下げ
  • ロシア中央銀行は、7月24日、政策金利を0.25%引き下げ、4.25%とすることを発表した。政策金利は、4月に6%から5.5%、5月に5.5%から4.5%に引き下げられていた。
  • ロシア中央銀行は、ロシアのインフレは、5月~6月の低迷の後、安定したと評価しているが、経済活動の制限緩和にも関わらず、ロシア及び世界経済の回復は緩やかになるだろうと予測している。そして、この状況下では、2021年のロシアのインフレは目標の4%を下回る恐れがあるとし、このリスクを回避するための4月以降の金融緩和政策の一環として、更なる政策金利の引き下げを決定した。さらに、前回と同様に、次回の理事会でも更なる政策金利の引き下げを検討すると述べている。
  • また、同銀行は、新たな基本予測シナリオも発表した。ウラル原油価格については、2020年は38ドル/バレル、2021年は40ドル/バレルと、4月の予測から上方修正している。2020年の年間インフレ率は3.7~4.2%となり、2021年は3.5~4.0%、その後はおよそ4%になると予測している。また、GDP成長率は、2020年はマイナス4.5%~5.5%、2021年は3.5%~4.5%、2022年は2.5%~3.5%と、4月の予測の範囲内で予測幅を狭めている。
(参考)ロシア中央銀行中期予測
 

2019実績

2020

2021

2022

ウラル原油価格(US$/bbl)

64

38(27)

40(35)

45(45)

インフレ率(12月時点前年比、%)

3.0

3.7~4.2(3.8~4.8)

3.5~4.0(4.0)

4.0(4.0)

GDP成長率(%)

1.3

-4.5~-5.5(-4.0~-6.0)

3.5~4.5(2.8~4.8)

2.5~3.5(1.5~3.5)

注:()内は2020年4月の予測数値    

出典:ロシア中央銀行の資料から作成


(2) 対外関係

1) 米国

トランプ大統領との電話会談を実施
  • プーチン大統領は、7月23日、米国のトランプ大統領との電話会談を実施した。会談では、軍縮、イランの核兵器問題、新型コロナウィルス問題等について議論された。
  • ロシア大統領府は、記者会見で、軍縮については、ロシアと米国の国際的な平和と安全維持のための特別な責任を考慮して検討が行われ、戦略兵器削減条約(START)を含む二国間問題について議論がされたと述べた。また、ロシアと米国の貿易と経済協力の発展のための相互の取り組みの意見交換を行い、新型コロナウイルス対策の協力では、好意的な評価がされたと述べた。
ロシアからの輸出パイプラインへの制裁対象を明確化
  • 米国国務省は、7月15日、2017年8月に成立した米国敵性対抗法(CAATSA)の232条のガイドラインを改定し、Nord Stream 2及び、Turk Streamの2番目のパイプラインを制裁対象にすることを明確にした。これにより、2020年7月15日以降にこれらのプロジェクトに関する投資またはその他の活動に従事した者に、制裁が課される可能性がある。
  • CAATSAの232条は、米国のパートナーのエネルギー安全保障に害を与えたり、公衆衛生と安全を危険にさらしたりすることを回避する目的がある。米国は、EU加盟国及び欧州の機関と協力して、多様化したエネルギーの調達源、供給者、供給ルートを提供する、多様化自由化されたエネルギー市場を通じてエネルギー安全保障を促進するとしている。
  • 米国は、Nord Stream 2及び、Turk Streamの2番目のパイプラインは、欧州のガス市場におけるロシアの支配的なシェアを数十年間維持し、重要なエネルギー多様化プロジェクトへの投資を抑制し、欧州での価格、透明性、環境問題についてロシアが優位とする可能性があると指摘している。
  • CAATSAが成立した2017年8月2日時点で存在し、商用の炭化水素を輸送できるパイプラインの修理メンテナンスに関する投資やその他の活動は対象とならない。既に完成しているTurk Streamの1番目のパイプラインについては、トルコ国内のガス市場に供給するためだけに設計されており、今回の制裁対象とはならないとされている。

 

2) 中国

習国家主席との電話会談を実施
  • プーチン大統領は、7月8日、中国側の主導で習国家主席と電話会談を実施した。プーチン大統領は、習国家主席に対し、主権の保護、内政干渉の防止、国際法の優越性の確保について支持を表明した。また、習国家主席はプーチン大統領に対し、憲法改正の成功を祝福した。
  • 両首脳は、新型コロナウイルスの蔓延との戦いの最も困難な時期に、両国が互いに支援を提供したことをはじめ、包括的な戦略的パートナーシップが高い水準に達していることに高い評価をした。
  • また、炭化水素供給、平和的な原子力エネルギー、民間航空、科学的技術的・革新的協力分野での大規模プロジェクトによる経済協力を、積極的に構築していくことを強調した。さらに、主に国連安全保障理事会、上海協力機構、BRICSを通じて、国際舞台での取り組みをさらに緊密に調整していくことを再確認した。

 

3) ウクライナ

ゼレンスキー大統領との電話会談を実施
  • プーチン大統領は、7月26日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を実施し、ウクライナ問題の解決のため詳細な議論がなされた。ウクライナでの紛争を解決するため、ウクライナ、ロシア、欧州安全保障協力機構は、7月22日、テレビ会議での3者協議を行い、ウクライナ軍と親ロシア派が完全停止することで合意し、合意は7月27日に発効することになっていた。両首脳は、この合意について肯定的な評価を行い、紛争当事者による合意の無条件での遵守することの重要性が強調された。
  • ロシア側は、2019年12月のパリでの首脳会談を含め、ノルマンディーフォーマット(ロシアウクライナ・ドイツ・フランスでウクライナ情勢を協議する形式)での決定の実施が優先であることを確認した。また、プーチン大統領は、ミンスク合意に代わるものはないと強調し、ウクライナにミンスク合意の遵守を求めた。
  • また、両大統領は、新型コロナウイルスのパンデミックを取り巻く状況について意見を交換した。

2. 石油ガス産業情勢

(1) 原油・石油製品輸出税

  • 2020年7月、原油輸出税はUSD5.2/バレルに引き上げられ、東シベリア及びカスピ海北部の油ガス田等に対しては、引き続きゼロ課税となった。
  • 7月の石油製品輸出税はUSD11.3/トン、ガソリンについてはUSD20.7/トンに設定された。

参考:原油及び石油製品輸出税の推移


(2) 原油生産・輸出量

  • 7月、原油、ガス・コンデンセート生産量は3,963万トン(約2億8,930万バレル、平均日量937万バレル)で、前年同月比16.0%減。
  • 7月、原油輸出量は1,722万トン(約1億2,570万バレル)で、前年同月比25.2%減。

(3) 減産合意

OPECプラスの第20回合同閣僚監視委員会を開催

  • OPECプラスは、7月15日、サウジアラビアのAbdulazizエネルギー大臣を議長、ロシアのNovakエネルギー大臣を共同議長とし、第20回合同閣僚監視委員会を開催した。OPECプラスでは、5月から日量970万バレルの減産を実施してきたが、8月からは、予定通り、減産を日量770万バレルに縮小する。OPECプラスは、減産量の緩和による追加の供給は、世界の需要が回復するにつれて消費されると見込んでいる。
  • OPECプラスのプレスリリースによると、2020年6月の減産合意の遵守率は95%だった。完全な遵守を達成できなかった国については、埋め合わせの実施計画を7月末までにOPEC事務局に提出することを求めた。
  • 委員会は、石油市場の安定を支援する上で、減産合意の重要性を再確認した。委員会は、すべての参加国が100%の減産目標を達成し、5月と6月に目標を達成できなかった国が計画に基づく埋め合わせを行うことが、長期的な石油市場の安定を実現するために不可欠であることを強調した。
  • 委員会は、一部の地域では部分的なロックダウンが課される可能性があるものの、世界の経済の制限が解除されるとともに、有望な市場の改善の兆候が見られていると述べた。

(4) 天然ガス生産量

  • 7月、天然ガス生産量は503億立方メートル(約1.8TCF)で、前年同月比で7.9%減。

(5) 税制・法制

石油流出の対応と補償に関する法律に大統領が署名

  • プーチン大統領は、7月13日、2002年1月10日連邦法「環境保護法」の46条等の改正案に署名した。本法律は、地質調査、炭化水素の探査及び生産、炭化水素の加工輸送・保管・販売に従事する事業者に対する燃料流出の対策の義務について具体的な内容を規定している。内海、領海、大陸棚のプロジェクトについてはこれもまでも立法ベースの規制があったが、陸上のプロジェクトについても、法律により対策を義務付ける。
  • 本法律は、2021年1月1日に発効する。対象事業者は、2024年1月1日までに本法律に基づく事故対応計画を作成する必要があり、事故の補償を含めた財政的な証明(銀行の保証や保険契約等)を示す必要がある。補償の対象には、石油と石油製品の流出の結果として生じる環境、市民の生命健康・財産、法人の財産への完全な補償を含む。
  • 本改正は、5月29日にNorlisk市近郊で発生したNorlisk Nickel社発電所での燃料漏れ事故を受け、対策を強化するために、プーチン大統領が6月5日に環境法の整備を指示したもの。Norlisk Nickel社には、主に水域に対する汚染の罰金として1,477億ルーブルが課されることになり、金額としてはロシア最大級の金額とされている。

 

北極圏支援法に大統領が署名

  • プーチン大統領は、7月13日、北極圏の企業活動を支援するための3つの法律案に署名した。これにより、3月18日に大統領が署名した石油ガスプロジェクトを対象とした税優遇の法律と合わせ、北極圏投資支援パッケージとして起草された法案が全て成立した。
  • 今回成立した法律により、北極圏は約500万平方キロメートルに及ぶ世界最大の経済特区となる。北極圏で100万ルーブル以上の投資を行う企業には、所得税、資産税、土地税等の減税を受ける資格が与えられ、土地の割り当て、税関、定期検査、等の多くの行政手続きが簡素化される。また、砕氷船のエスコート、海上輸送、輸出用の貨物の積み替えサービスに対し、VATを免除する。
  • 優遇資格を得るための申請は、8月28日からオンラインで受付が開始される。
支援対象となる北極圏の範囲
支援対象となる北極圏の範囲
出典:https://arctic-russia.ru/about/

(6) 北極海航路

Zvezda造船所で原子力砕氷船Rossiyaの建造を開始

  • Zvezda造船所は、7月6日、新たな原子力砕氷船Leaderプロジェクトの建造を開始した。原子力砕氷船はRossiyaと名付けられる。砕氷船建設に関する契約は、4月23日に、Zvezda造船所とAtomflotとの間で締結され、建設は2027年に完了する予定。
  • RossiyaにはRITM-400型原子炉が2基装備され、総容量は120MWととなる。4基のタービン、4つのモーターにより、2ノットの速度で4メートルを超える厚さの氷を砕くことができる。また、氷の厚さが2メートルの場合は、最大速度は12ノットとなる。この砕氷船により、約50メートルの幅の航路を開くことができ、輸送能力5万トンを超えるタンカーを先導することができる。この原子力砕氷船の完成までは、最大60MWの砕氷船が利用される。

3. ロシア石油ガス会社の主な動き

(1) Rosneft

Vostok Oilプロジェクトの鉱区で2,000万トン超の埋蔵量を発見

  • Rosneftは、7月23日、Vostok Oilプロジェクトの探査プログラムの一環で、子会社のRN-VankorがNovoognennoye鉱区で可採埋蔵量2,000万トン以上の石油と、約1BCMのガスを発見したと発表した。新鉱区はクラスノヤルスク地方とヤマロネネツ自治管区の境界に位置する。現在、当該鉱区では、商業開発に向けた準備のための設計文書を作成している。Vankorプロジェクトでは、2009年の商業生産開始以降の探査活動で、埋蔵量が石油で20%、ガスで54%増加した。
  • RN-Vankorは、クラスノヤルスク地方北部とヤマロネネツ自治管区において、38のライセンスブロックで探査活動をおこなっている。
  • Vostok Oilプロジェクトでは、Vankorクラスターの他、West-Irkinsky鉱区、Payakha鉱区、East-Taimyrクラスターが含まれる。プロジェクトの資源基盤は合計約50億トンとされており、生産された原油は800キロメートルのパイプラインを経て北極海に輸送され、北極海航路で欧州とアジアの市場に供給する計画となっている。
Vostok Oilプロジェクト位置図
Vostok Oilプロジェクト位置図
出典:https://www.rosneft.com/upload/site2/document_cons_report/Q32019_Results_ENG.pdf

Ushakovsky油田の開発についてRosneftとNorilsk Nickelが合意

  • Norlisk Nickelは、7月29日、クラスノヤルスク地方のUshakovskyガス田を含むTurkovsky地区でのオークションでのライセンス条件について、Rosneftと合意し、両社の共同書簡を天然資源省に提出したと発表した。要件には、オークション参加者がクラスノヤルスク地方の北極圏内で石油ガスの開発に従事していること、生産されるガスは北極海航路でロシア製の砕氷船により輸送することが含まれる。
  • もし、Rosneftがライセンスを取得した場合、RosneftはUshakovskyガス田から、Norlisk Nickelが必要とするガスを供給する。また、両社の合意の一環として、Rosneftは、2020年10月から2021年4月まで、最大12万3,900トンの石油製品をNorlisk工業地帯に供給する。
  • 報道によると、今年4月、RosneftのSechin社長は、ミシュスチン首相に、Ushakovskyガス田を含む3つの北極圏のガス田をオークションにかけるように要望した。その際、オークション参加者に、クラスノヤルスク地方の北極圏において開発、商業生産するプロジェクトを実施していることを義務付けることも提案していた。一方、Norlisk Nickelは、7月に、Ushakovskyガス田はNorlisk工業地帯のガス供給の確保に必要なため、新たな資源クラスターから除外するようにエネルギー省に要望していた。

(2) Gazprom

2020年第1四半期ので2015年以来の損失計上

  • Gazpromは、7月14日、2020年第1四半期の業績を発表し、1,081億ルーブルの損失を計上した。損失が生じるのは、2015年第3四半期に10億ルーブルの損失が出て以来となる。2019年第1四半期には5,595億ルーブルの利益があった。
  • 報道によると、Gazpromは負債の7割以上が外貨建てとなっており、3月にルーブル安が急速に進んだことが損失を大きくした。一方、営業利益についても36%減少し、2,935億ルーブルとなり、ガス需要とガス価格の下落も大きく影響している。
  • Gazpromによると、第1四半期の外国向けガス販売量は51.6BMで、前年比で17%下落した。また、外国向け平均ガス販売価格は10,832.8ルーブル/mcmで、36%の下落となった。
Gazprom2020年第1四半期の財務結果
Gazprom2020年第1四半期の財務結果
出典:https://www.gazprom.com/f/posts/05/118974/gazprom-ifrs-1q2020-presentation.pdf

(3) Gazprom Neft

西シベリアで新たなクラスターの開発を開始

  • Gazprom Neftは、7月29日、ハンティマンシ自治管区とチュメニ州の鉱区で構成される炭化水素クラスターの本格的な開発を開始したと発表した。クラスターは、ハンティ・マンシ自治管区のAlexander Zhagrin鉱区、Zapadno-Zimny鉱区、Severo-Vaysky鉱区、Karabashsky-84鉱区、Srednevaysky鉱区と、チュメニ州のYuzhno-Zimny鉱区が含まれる。これらの鉱区は合計で5,000平方キロメートルあり、埋蔵量は6億5,000万トンと推定されている。
  • クラスターの中心となるAlexander Zhagrin鉱区では既に生産が開始されており、2019年に100万トンの液体炭化水素が生産された。2022年には石油精製施設が稼働を予定している。この鉱区の生産量は、2024年に650万トンに達すると見込まれている。
  • Zapadno-Zimny鉱区、Severo-Vaysky鉱区、Srednevaysky鉱区での探査は2027年までに完了し、Yuzhno-Zimny鉱区、Karabashsky-84鉱区での探査は2029年までに完了する計画。
クラスターの鉱区位置図
クラスターの鉱区位置図
出典:https://www.gazprom-neft.com/press-center/news/gazprom_neft_starts_developing_its_new_production_cluster_in_western_siberia/にJOGMEC加筆

モスクワ製油所のEURO+複合施設を立ち上げ

  • Gazprom Neftは、7月23日、モスクワ製油所にEURO+複合施設の運用開始の式典を実施し、プーチン大統領、Novakエネルギー大臣、Sobyaninモスクワ市長、DukovGazprom Neft社長が式典に参加した。EURO+複合施設の完成により、ガソリン及びディーゼル燃料の生産、航空燃料の生産を増やす。また、製油所での環境負荷を減らし、デジタル技術により生産管理をリモート管理し、安全性を高まるとされている。
  • Gazprom Neftは2011年からモスクワ製油所で近代化プログラムEURO+の稼働により、5つの旧式の設備が廃止され、モスクワ製油所の近代化の第2フェーズが完了し、80%が近代化されることになる。同社の2011年から2025年までのモスクワ製油所への総投資額は3,500億ルーブル以上とされており、今後も近代化プログラムを継続する。
  • Gazprom Neftのモスクワ製油所は、モスクワの市場の40%を供給している。

EURO+複合施設のセレモニー
EURO+複合施設のセレモニー
出典:http://kremlin.ru/events/president/news/63740

Gazprom NeftとShellがギダン半島での開発のためのJVを設立

  • Gazprom Neftは、7月21日、Shellとギダン半島のLeskinsky鉱区及びPukhutsyayakhsky鉱区を開発するためのジョイントベンチャーを設立する契約に署名したと発表した。ジョイントベンチャーは、Gazprom NeftとShellが50%ずつを保有し、共同管理する。取引は企業及び規制当局の承認後、2020年内に完了を予定している。
  • Leskinsky鉱区はクラスノヤルスク地方のTaymyr地区に位置し、3,000平方キロメートル以上の面積があり、石油換算で1億トンの資源量があると期待される。Pukhutsyayakhsky鉱区は、Leskinsky鉱区に隣接してヤマルネネツ自治管区のTazovsky地区に位置し、800平方キロメートル以上の面積があり、石油換算で3,500万トンの資源量があると期待される。
  • 現在、両鉱区で2次元地震探査が完了しており、2020年末までにLeskinsky鉱区での探査井の掘削が開始される予定。

 

Gazprom NeftとZarubezhneftと回収困難な石油開発のためのジョイントベンチャーを設立

  • Gazprom Neftは、7月3日、Zarubezhneftと、ハンティマンシ自治管区で、回収困難な石油開発のためのジョイントベンチャーを設立し、そのための技術開発に関する拘束力のある契約を締結したと発表した。ジョイントベンチャーはGazprom Neftが51%、Zarubezhneftが49%保有し、両社が共同で非在来型石油を開発するための技術開発を行い、ジョイントベンチャーが保有する鉱区に適用する。
  • ジョイントベンチャーは、ハンティマンシ自沈区に位置するSalysmky-3鉱区とSalymsky-5鉱区を保有する。Salymsky-3鉱区では、3次元地震探査が完了し、最初の探査井からコアサンプルが採取されている。Salymsky-5鉱区での地質調査は、2020年末までに開始される予定。両鉱区の探査は2024年まで継続され、2025年に商業生産を開始する見込み。予備的な予測では、両鉱区合わせて5億トン以上の石油埋蔵量が期待されている。

(4) Novatek

2020年の設備投資額は当初計画の3分の1削減

  • Novatekは、7月30日、2020年第2四半期の業績説明のためのテレカンファレンスを開催し、石油ガス価格の下落を背景に、2020年の設備投資額を当初計画の2,500億ルーブルから3分の1に削減し、1,700億ルーブルにすると発表した。Novatekは4月のテレカンファレンスにおいて、設備投資額を当初計画から20%削減し、2,000億ルーブルとすることを発表していた。
  • 同社の設備投資の多くは新規のLNGプロジェクトに投入されているが、各プロジェクトの稼働開始には変更はない。今後、Yamal LNGの第4トレインが今年第4四半期に完成を予定しており、Arctic LNG 2は2023年、Ob LNGは2024年、Arctic LNG 1は2027年に稼働開始を予定している。
  • Novatekの第2四半期の収益は昨年比で34%減少しており、約1,439億ルーブルとなった。収益の減少要因は販売量の減少ではなく、価格の下落に起因している。同社CFOのGyetvay氏によると、同社の2020年のガス生産は昨年比で2%の成長を予測している。中国でのガス需要は、年間4%の成長率で、LNG輸入は6,500万トンに達すると見込む。欧州での今年のLNG需要も昨年比で微増することを期待している。また、Novatekは世界の主要なガス価格は第4四半期近くで回復し始めると予想しているが、米国からのLNG輸出により需給の再均衡の傾向は限定的との見方を示した。
Novatek2020年第2四半期収益の前年比変動要因
Novatek2020年第2四半期収益の前年比変動要因
出典:http://www.novatek.ru/common/tool/stat.php?doc=/common/upload/doc/NOVATEK_CC_2Q20[2].pdf

4. 東シベリア・サハリン・極東

(1) サハリン

パイプライン事故後にサハリン北部の生産を停止

  • 7月13日、ハバロフスクのVerkhnetambovskoe村から12キロメートルの地点でOkha-Komsomolsk-on-Amurパイプラインが破裂し、付近の川や湖に約9トンの原油が流れ込んだ。パイプラインはすぐに閉鎖され、原油の回収作業が行われた。パイプラインは、サハリンでRosneftの子会社のRN-Sakhalinmorneftegazが生産した原油をKomsomolskに供給している。
  • その後の7月21日、RosneftはOPECプラスの減産合意に準拠するため、RN-Sakhalinmorneftegazがサハリン北部の油ガス田の生産を一時的に制限していることを明かした。生産制限の間、サハリンで生産される石油の輸送の安全性と信頼性を向上させる主要インフラプロジェクトを実施する。Okha-Komsomolsk-on-Amurパイプラインは1960年代に建設されたもので、老朽化が進んでおり、Rosneftは大体パイプラインの構築も検討している。

5. 新規LNG・P/L事業

(1) Yamal LNG

北極海航路の東回りで初めて日本にLNGを輸送

  • Novatekは、7月24日、初めて北極海航路を東回りでLNGタンカーを航行して日本にYamal LNGプロジェクトのLNGを輸送したと発表した。LNGはスポット契約により、Arc7級砕氷船LNGタンカーの「Vladimir Rusano」によって輸送され、扇島LNGターミナルに到着した。
  • Novatekはプレスリリースの中で、我々はLNGプロジェクトのロジスティックスキームの開発と強化に注力しており、将来のカムチャツカでの積み替えターミナルの完成により、コスト競争力のあるLNGのアジア太平洋地域全体への供給の機会を大幅に拡大すると述べている。
  • 「Vladimir Rusano」をChina COSCO Shipping社と保有する商船三井は、7月27日のプレスリリースの中で、同船は6月29日にSabetta港のYamal LNGプラントを出航し、7月23日に扇島LNGターミナルに到着したと発表している。北極海航路では6月末から7月初旬にかけて氷が溶けるのが一般的だが、航行中は東シベリア海などに氷が残っていたとされ、海氷を避航、または砕氷しながら航海を行い、約7日間(平均15ノット)でSabetta港からベーリング海峡までの北極海航路区間を航行したとされる。また、北極海航路の東回りでの輸送は、スエズ運河経由と比較して航行距離を65%削減できるとされている。

(2) Arctic LNG 2

第一トレインの進捗は29%以上

  • Novatekは、7月30日に行われた2020年第2四半期の業績説明のためのテレカンファレンスの中で、Arctic LNG 2全体の進捗は、6月末時点でおよそ21%、第一トレインの進捗はおよそ29%以上であると語った。第1四半期には新型コロナウイルスによる隔離措置のため、シップヤードを一時閉鎖したが、既に遅れは取り戻しており、モジュール調達の遅れはない見込み。
  • 最初のGBSプラットフォームのコンクリート打設は約45%を完了し、7月初旬には、ドライドックで第二GBSプラットフォームののコンクリート注入を開始した。第一GBSは2023年、第二GBSは2024年、第三GBSは2026年の進水を予定している。
  • 6月30日時点で、持ち分保有者によりプロジェクトの23%がファイナンスされ、プロジェクトの設備投資の81%の契約が締結されている。資金の外部調達は、2020年内を予定していたが、今回のテレカンファレンスでは、2021年と、後ろ倒しされている。しかし、最近のモザンビークのLNGプロジェクトのファイナンスクロージングを見ても、国際的金融機関からの十分な関心があるとして、Novatekは自信を見せた。また、世界で他のLNGプロジェクトが中止や遅延されている中、Arctic LNG 2プロジェクトを実現することは非常に重要であり、他のプロジェクトの中止やキャンセルにより、Arctic LNG 2の関心が高まり、市場機会が向上していると語った。

(3) Nord Stream 2

デンマークがパイプラインの敷設を許可

  • デンマークエネルギー庁は、7月6日、デンマーク水域でNord Stream 2のパイプラインを敷設するためにアンカー式船位保持システムを備えた船を利用することを許可した。パイプラインのオペレーターのNord Stream 2 AGは、6月5日に許可を申請しており、今回出された許可は8月3日までの異議申立期間を経て有効になる。この許可により、Nord Stream 2 AGは残り160キロメートルのパイプラインについて、アンカー式船位保持システムを利用した船「Fortuna」と、動的位置調整システムを利用した船「Akademik Cherskiy」と2船での建設が可能になる。
  • Nord Stream 2のパイプライン建設は、2019年12月に発表された米国からの制裁により、建設作業を行っていたAllseas社が撤退したことで中断されていた。アンカー式船位保持システムを備えた船の利用は、同プロジェクトの環境影響評価で評価が行われているが、2019年10月にデンマーク政府が出した建設許可では含まれていなかったため、今回改めてデンマーク政府の許可が必要になっていた。
Nord Stream 2位置図
Nord Stream 2位置図
出典:https://www.nord-stream2.com/en/pdf/document/125/

以上

(この報告は2020年8月14日時点のものです)

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