ページ番号1008829 更新日 令和6年10月21日
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概要
- ApacheとTotalは、スリナム沖合Block58で掘削した探鉱井Maka Central 1号井、Sapakara West 1号井、Kwaskwasi 1号井で、それぞれネットペイ123メートル、79メートル、278メートルの油層、コンデンセート層を確認した。埋蔵量の具体的な規模についての言及はないものの、両社は大規模な炭化水素の埋蔵を確認したと発表し、引き続き、探鉱井と評価井の掘削を続けるとしている。
- スリナム陸上では国営石油会社Staatsolieにより1980年代から原油の生産が行われており、近年の原油生産量は1万5,000b/d程度となっている。沖合については、特に、ガイアナ沖合でLiza油田が発見されて以降、メジャーをはじめとする石油会社の参入の動きが活発化し、探鉱が行われてきたが、これまで商業規模の油田の発見はなかった。
- 2020年5月25日に実施された総選挙の結果を受け、Desi Bouterse前大統領からChan Santokhi大統領にスムーズな政権交代が行われた。Santokhi政権は、石油・ガス開発を支援し、外資の誘致に力を入れる方針を示している。
(出所:LatAmOil、Platts Oilgram News、International Oil Daily、BNamericas他)
USGS(米国地質調査所)は2000年に、ガイアナ、スリナム、仏領ギアナの沖合と一部陸上を含むGuyana Basinは世界で最も有望な堆積盆地の一つで、埋蔵量のポテンシャルは原油150億bbl、天然ガス40Tcfであると発表した。
このうち、仏領ギアナでは2011年にTullow OilがZaedyus井を掘削、石油を確認した。Zaedyus油田は仏領ギアナ初の油田として注目を集めたが、その後、当初の予想より規模が小さいことが判明した。また、フランス政府が2017年8月に2040年までに同国の全領域内での探鉱・開発を中止する法案を上程、12月19日にフランス議会がこれを可決した。政府は新たに炭化水素に関するライセンスを付与することはせず、既存のライセンスについても2040年までに終了させることとした。このような状況から、仏領ギアナでは探鉱・開発への新規参入の動きはなくなり、活動は停滞している。
一方、ガイアナでは2015年にExxonMobilがLiza 1号井で油層を確認、その後も油田発見が続き、2019年末にはガイアナ初の石油生産が始まった。政争や政権交代、新型コロナウイルス感染拡大により、開発に一部遅れが見られるものの、ExxonMobilは2026年までに石油75万b/dを生産することを計画している。
スリナムは1982年以降、少量ではあるものの陸上で石油生産を行っており、3か国中唯一の産油国であった。にもかかわらず、これまで沖合での掘削では商業規模の油・ガス田を発見できず、この点ではガイアナや仏領ギアナの後塵を拝していた。ところが、2020年に入り、ApacheとTotalが沖合で掘削した3坑の探鉱井でいずれも油層が確認された。スリナムが、今後、石油生産量、輸出量を増やし、ガイアナと並ぶ探鉱・開発のホットスポットとなることができるのか注目を集めている。
1. ApacheとTotal、沖合Block58で油層確認
ApacheとTotalは2020年に入り、スリナム沖合Block58(面積約140万エーカー、水深100~2,100メートル)で掘削した探鉱井3坑で立て続けに、油層を確認したと発表した。

(各種資料を基に作成)
Apacheは、2015年1月にスリナム政府が実施した鉱区入札でBlock58を落札し2015年6月にPS契約を締結した。
その後、Apacheは2016年に同鉱区で3D地震探鉱6,250平方キロメートルを実施した。
そして、2019年9月から、ドリルシップNoble Sam Croftを用いてMaka Central 1号井を掘削した(掘削長6,200メートル)。Apacheは12月2日、2プレイの評価を行ったとしたが、その結果を公表せず、掘削長6,900メートルまで掘削を続けることを明らかにした。このような状況から、Apacheは同井の掘削で有望な結果を得られなかったのではないかと見る向きもあった。
ところが、12月22日にTotalがBlock 58の権益50%を取得することでApacheと合意したことが明らかにされた。Maka Central 1号井を含む最初の3坑の掘削についてはApacheがオペレーターを務め、その後はTotalが同鉱区のオペレーターとなるということであった。TotalはApacheに1億ドルを支払うとともに、Apacheがこれまで同鉱区に投じた探鉱費の50%を支払う。さらに、油田が発見され開発に移行した場合、TotalはApache分の評価・開発コスト50億ドル以上を負担することなどが合意された。TotalがBlock58の探鉱に参入することになったことで、同鉱区への期待が再度高まった。
そして、ApacheとTotalは2020年1月7日に、Maka Central 1号井の掘削結果を明らかにした。白亜系Campanianでネットペイ50メートルの軽質油、コンデンセート層(API比重40~60度)が、Santonianでネットペイ73メートルの油層(API比重35~45度)が確認された。両社は、発見した油田の規模については触れなかったが、コンサルタントのWood Mackenzieは埋蔵量の規模を原油3億bbl、コンデンセート1.5億bbl、ガス1.4Tcf、GlobalDataは可採埋蔵量を3億bblとみているとした[1]。
続いて、ApacheとTotalはNoble Sam CroftをMaka Central 1号井の南東19キロメートルの海域に移動し、Sapakara West 1号井を掘削した。両社は4月2日、同井を掘削長6,300メートルまで掘削し、白亜系Campanianでネットペイ13メートルのコンデンセート層とネットペイ30メートルの油層(API比重35~40度)、Santonianでネットペイ36メートルの油層(API比重40~45度)を確認したことを明らかにした。
ApacheとTotalは次に、Noble Sam CroftをSapakara West 1号井から北西に10キロメートルの海域に移動し、Kwaskwasi 1号井を掘削した。7月29日、両社は同坑井を掘削し(掘削長約6,645メートル)、白亜系Campanianでネットペイ63メートルの油層とネットペイ86メートルの石油、コンデンセート層(API比重34~43度)、Santonianでネットペイ129メートルの炭化水素層(API比重についてはデータ収集中)を確認したと発表した。具体的な埋蔵量については明らかにされなかったが、両社は世界的な規模の炭化水素の埋蔵を確認したと発表した。
今後は、Totalがオペレーターを引き継ぎ、Sapakara West 1号井の南東14キロメートルの海域にNoble Sam Croftを移動し、Keskesi East 1号井を掘削するという。さらに、2021年にはBlock58で評価井の掘削キャンペーンを実施する計画である。
[1] LatAmOil, 20200730

(出所:Apache website)
なお、8月に入り、スリナム国営石油会社Staatsolieは、Block58の権益を取得することを求める可能性があると述べた。Apache及びTotalとの契約によると、StaatsolieはBlock58の権益20%までを取得する権利を保持している。しかし、Staatsolieが権益持ち分に応じた資金を拠出するのは困難であるとの見方もある。Staatsolieのジェネラル・マネージャー代理Agnes Moensi-Sokowikromo氏も同社はプロジェクトへの参加を熱望しているが、資金調達の準備が整っていることを確認しなければならないと語っている。Block58の開発にかかる総費用は60~70億ドルとみられており、権益20%を保有することになれば、Staatsolieは10~15億ドルを調達しなければならなくなる[2]。
ちなみに、Block58は国境を隔てて、ExxonMobilがLiza油田を発見したStabroek Blockに隣接しているが、両者の地質的相関性についての詳細は明らかにされていない。
[2] LatAmOil, 20200806
国 鉱区 |
坑井 |
坑井掘削時期(年/月) |
掘削長 (メートル) |
結果など |
---|---|---|---|---|
スリナム Block58 | Maka Central 1 |
2019/9~2020/1 |
6,900 |
ネットペイ123メートルの油層、コンデンセート層を確認。 |
Sapakara West 1 |
~2020/4 |
6,300 |
ネットペイ79メートルの油層、コンデンセート層を確認。 | |
Kwaskwasi 1 |
~2020/7 |
6,645 |
ネットペイ278メートルの炭化水素層を確認。 | |
ガイアナ Stabroek Block | Liza 1 |
2015/3~5 |
5,433 |
90メートルの砂岩の油層を確認。油田は大規模と発表。 |
Liza 3 |
2016/9~10 |
5,709 |
Liza油田の可採埋蔵量は以前発表された8~14億bblの上限に近いと推測。 | |
Payara 1 |
2016/11~12 |
5,512 |
29メートル以上の油層を確認。 | |
Snoek 1 |
2017/2~3 |
5,175 |
25メートルの油層を確認。 | |
Turbot 1 |
2017/8~9 |
5,622 |
23メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Ranger 1 |
2017/11~2018/1 |
6,450 |
70メートルの油層を確認。同鉱区の埋蔵量を32億boe以上に引き上げ。 | |
Pacora 1 |
2018/1~2 |
5,597 |
20メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Longtail 1 |
2018/5~6 |
5,504 |
78メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Hammerhead 1 |
2018/7~8 |
4,225 |
60メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Pluma 1 |
2018/11~12 |
5,013 |
37メートルの砂岩の油層を確認。同鉱区の可採埋蔵量を50億boeに上方修正。 | |
Haimara 1 |
2019/1~2 |
5,575 |
63メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Tilapia 1 |
2019/1~2 |
5,726 |
93メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Yellowtail 1 |
2019/3~4 |
5,622 |
89メートルの砂岩の油層を確認。同鉱区の可採埋蔵量を55億boeに上方修正。 | |
Tripletail 1 |
~2019/9 |
N.A. |
33メートルの砂岩の油層を確認。同鉱区の可採埋蔵量を60億boe以上に上方修正。 | |
Mako 1 |
2019/11~12 |
N.A. |
50メートルの砂岩の油層を確認。 | |
Uaru 1 |
2020/1 |
N.A. |
29メートルの砂岩の油層を確認。同鉱区の可採埋蔵量を80億boe以上に上方修正。 |
(各種資料を基に作成、Stabroek Blockについては油層が確認された坑井のみを記載)
2. スリナムの探鉱・開発状況
Oil & Gas Journalによると、スリナムの2020年初の原油確認埋蔵量は7,440万bblで世界第72位、2019年の原油生産量は1万4,500b/dで同第69位となっている。これはStaatsolieが中心となり探鉱・開発が続けられているスリナム陸上Tambaredjo鉱区のTambaredjo油田(生産開始1982年)及びTambaredjo Northwest油田(同2010年7月)、Calcutta鉱区のCalcutta油田(同2006年3月)によるものである。生産される原油はSaramacca blendと呼ばれ、API比重は16度となっている。首都Paramaribo近郊にはスリナム唯一の製油所であるTout Lui Faut製油所がある。同製油所は1997年8月に稼働、当初、精製能力は7,000b/dであったが、2015年にStaatsolieが7億ドルを投じ、精製能力を1.5万b/dに引き上げた。天然ガスについては、これらの油田からごく少量の随伴ガスが生産されている。
Staatsolieは2008年に、沿岸部浅海Block1~7(2016年にBlock A、B、C、Dに名称変更)の権益を取得し、浅海での探鉱も行っている。Staatsolieの子会社Paradise Oilが、2012年にBlock4で2D地震探鉱を実施、2014年に評価作業を実施、2015年に5坑を掘削、うち4坑で出油に成功したものの、資金不足から作業が停止していた。その後、資金が確保できたことから、Staatsolieは2019年4月より掘削会社Seadrill社のジャッキアップリグWest Castorを用いBlock A、B、C、Dで探鉱井6坑(Marai 1、Electric Ray 1、Kankantrie 1、Powisie 1、Gonini 1、Tukunari 1)を掘削したが、商業規模の油田は発見されなかった。Staatsolieは貴重なデータが取集でき、4坑で油徴を見たとし、当初9坑予定されていた掘削計画を6抗の掘削に縮小した。
沖合については、政府とStaatsolieが2001年以降ライセンスラウンドを実施、2006年以降は石油会社との個別交渉も実施したことで、Staatsolie以外に海外の石油会社も探鉱・開発に参入するようになった。これらの石油会社により地震探鉱や掘削が行われてきた。そして、特にガイアナ沖合のStabroek BlockでExxonMobilによりLiza油田が発見されてからは、メジャーをはじめとする石油会社の参入の動きが活発化してきた。2015年10月にはNoble Energy(Chevronが買収交渉中)がBlock54にファームイン、2016年3月にはHessがBlock42にファームイン、2017年にはExxonMobil、Equinor、HessがBlock59、EquinorがBlock60のライセンスを取得した。そして、Block47には、2017年にRatioが、2018年にPluspetrolがファームインした。さらに、2018年には英Cairn EnergyがBlock61、英TullowがBlock62を取得、2020年5月にはExxonMobilがPetronasからBlock 52の権益の50%を取得してファームインした。参入活発化により、PetronasがBlock52で2016年にRoselle1号井、Kosmosが2018年にBlock45でAnapai1号井、Block42でPontoenoe1号井、ApacheがBlock53で2015年にPopokai1号井、2017年にKolibrie1号井、TullowがBlock54で2017年にAraku1号井を掘削するなど、探鉱が盛んに行われるようになった。しかし、今回ApacheとTotalが炭化水素を発見したMaka Central 1号井以前は商業規模の油田発見はなかった。
Block |
権益保有状況 |
探鉱状況 |
---|---|---|
42 45 |
Kosmos Energyが2011年12月に権益100%を取得。2012年6月にChevronが権益50%を取得。両社は2016年、HessにBlock42の一部権益をファームアウト。3社が等しく権益を保有。 | Hessは参入時の条件で3D震探6,500平方キロメートルを実施。2018年6月にBlock45でAnapai 1号井、10月にBlock42でPontoenoe1号井を掘削もドライ。 |
47 |
Tullow Oilが2010年にPS契約締結。2011年11 月にEquinorが権益30%を取得したが、後に撤退。2017年にRatioが権益20%、2018年にPluspetrolが権益30%を取得しファームイン。 | 2012年に3D震探3,000平方キロメートルを実施。GVN1号井の掘削を2021年第1四半期に計画。 |
48 |
Murphyが2011年にPS契約を締結。2014年初にPetronasが権益50%を取得。2015年、Murphy が撤退。 | ― |
52 |
Petronasが2013年4月に同鉱区を取得。RWE Deaが権益の40%を取得し、ファームインしたが撤退。2020年5月、ExxonMobilが権益50%を取得。 | 2013年に3D震探1,800平方キロメートルを実施。2016年に探鉱井Roselle1号井を掘削したが、ドライ。2020年第3四半期か第4四半期にSloanea 1号井を掘削する計画。 |
53 |
Apacheが2012年のライセンスラウンドで同鉱区を取得。CEPSA、Petronasがファームイン。 | 2013年に、地震探鉱を実施。2015年にPopokai 1号井を掘削、商業規模の油田を発見できず。2017年にKolibri 1号井を掘削、ドライ。 |
54 |
Tullow Oil、Equinorが、2013年のライセンスラウンドに応札。2014年1月、同鉱区を取得。商業規模の油田発見があれば、開発、生産段階でStaatsolieが最大20%の権益を取得する。2015 年にNoble Energyが権益20%を取得。 | 3年間に3,500万ドルを投じ、地震探鉱とデータの評価を実施。2017年10月、Araku 1 号井を掘削したが、ドライ。 |
58 |
Apacheが2014年のライセンスラウンドに応札。2015年6月、PS契約を締結。2019年12月にTotalが権益50%を取得。商業規模の油田発見があれば、開発、生産段階でStaatsolieが最大20%の権益を取得する。 | 2016年に3D震探6,250平方キロメートル実施。2019年9月よりMaka Central 1号井、2020年にSapakara West 1号井とKwaskwasi 1号井を掘削、いずれの坑井でも油層を確認した。Keskesi井掘削と評価井の掘削キャンペーンを計画している。 |
59 |
2017年7月、ExxonMobil、Equinor、HessがPS 契約を締結。3社が等しく権益を保有。 | 2D震探を実施する計画。 |
60 |
2017年7月、EquinorはPS契約を締結。 | 地質調査、地震探鉱、探鉱井掘削を行う計画。 |
61 |
2018年6月、Cairn Energyが権益100%を取得。 | ― |
62 |
2018年9月、Tullow OilがPS契約締結。権益の一部をPluspetrolに移転。 | ― |
(各種資料を基に作成)
スリナムでは、2020年第3四半期以降、PetronasとTullow Oilにより掘削が計画されている。
Petronasは、沖合Block52での掘削用にセミサブマーシブルリグMaersk Developerのリース契約をMaersk Drillingと締結した(契約額2,040万ドル)。Petronasはこのリグを用いて、2020年第3四半期か第4四半期より75日をかけ同鉱区内でSloanea 1号井を掘削する。同鉱区の権益保有比率は、Petronasと ExxonMobilが50:50となっているが、商業規模の油田が発見された場合にはStaatsolieが権益20%を取得することになっている。
一方、Tullow Oilは、Block 47のGoliathberg-Voltzberg Northプロスペクトでの最初の坑井GVN1号井の掘削を2020年第4四半期に計画していたが、これを2021年第1四半期に延期することとした。Tullow Oilは掘削延期の理由についてはコメントしていない。
3. スムーズな政権交代で探鉱・開発進展か
スリナムでは、2020年5月25日に総選挙が実施され、国会の議席数51に対し、野党の統一改革党(VHP)が20議席を獲得し、16議席を獲得した与党の国民民主党(NDP)を押さえて勝利した。国家元首である大統領は国会において選出されることになっており、2010年から2期、10年にわたり大統領を務めてきたDesi Bouterse氏が退陣を拒み、権力の座にしがみつくのではないか、そして、それが沖合での探鉱に影響を及ぼすのではないかと懸念する向きもあった。
というのも、お隣のガイアナでは、2018年12月に国会でDavid Granger政権に対する不信任案が成立したものの、Granger政権がこれを受け入れず、政権交代が泥沼化したためである。カリブ共同体の最高裁にあたる司法機関、カリブ司法裁判所(Caribbean Court of Justice:CCJ、トリニダード・トバゴ)でこの不信任決議についての審理が行われた。2019年6月にCCJはこの不信任案は有効であると判断、これを受け、Granger政権は総辞職し、2020年3月2日に総選挙が実施された。しかし、総選挙で不正があったとして票の再集計と法廷闘争が続き、ようやく8月2日に、選挙管理委員会が野党・人民進歩党(PPP)の勝利を発表し、同党候補のIrfaan Ali元住宅相(40歳)が大統領に就任することとなった。しかし、この間、1年半程度、Stabroek Block開発の第3フェーズの政府承認やGranger政権が取り組んできた石油法や規制の見直しについての議論が遅延することとなった。
しかし、スリナムに関しては、大方の予想に反し、現職のBouterse大統領が退陣に同意し、7月16日にChandrikapersad Chan Santokhi元法務・警察大臣(61歳)が大統領に就任し、Santokhi政権が成立した。少なくともスムーズな政権交代が行われたことから、ガイアナのように政治的不安定要因が石油産業の発展を挫くリスクは、ひとまず大幅に軽減することができたと見られている。また、Santokhi政権は、石油・ガス開発を支援し、外資の誘致に力を入れる方針を示している。
ただし、Santokhi政権の先行きは不透明と見る向きも多い。ボーキサイトなど鉱物資源に富むスリナムは、近年の資源価格下落で経済情勢が悪化していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により観光業も打撃を受け、経済状況はさらに悪化していると伝えられている。また、Bouterse前大統領は、2019年11月29日に1982年に自らに批判的なジャーナリストなど15人の殺害を指示した罪で禁錮20年の有罪判決を言い渡されている他、麻薬取引や汚職にも関与していたとされ、その一派の多くがいまだに権力と影響力のある地位を維持しているという。
新政権は、今のところ、契約条件を大幅に変更する様子は見せていないが、ただ独立した石油・ガス規制当局の設立など、様々な動きもあるようであり、今後どのような探鉱・開発政策がとられるのか注視していきたい。
以上
(この報告は2020年8月19日時点のものです)