ページ番号1008863 更新日 令和2年12月23日

原油市場他: 強弱材料が交錯する石油市場、原油価格は範囲内での展開に

レポート属性
レポートID 1008863
作成日 2020-10-19 00:00:00 +0900
更新日 2020-12-23 15:04:40 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 36
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2020/10/19 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、秋場のメンテナンス作業実施に加えハリケーン「ローラ」等の米国メキシコ湾岸来襲に伴う製油所の稼働低下と石油製品生産活動鈍化により、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状況は継続している。他方、ハリケーン等の来襲に伴う米国メキシコ湾沖合の油・ガス田関連施設の操業停止により原油生産が落ち込んだ影響から原油在庫も減少したが、こちらも平年幅上限を超過する状態は維持されている。
  2. 2020年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少した他、日本では製油所の稼働上昇による原油精製処理活動活発化もあり在庫は減少した。そして両国での在庫の減少がロシア等からの供給増加によるものと見られる欧州での在庫増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では在庫は減少したが、欧州では製油所の稼働が比較的堅調であったこともあり中間留分を中心として在庫は増加となった。他方、日本では在庫は微増にとどまった。結果としてOECD諸国の石油製品在庫は若干減少となったが、平年幅上限を超過する量となっている。
  3. 2020年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場では、ハリケーン「サリー」及び「デルタ」の米国メキシコ湾沖合通過に伴う同地域の油・ガス田関連施設の操業停止に加えノルウェーでの油・ガス田関連施設労働者ストライキの拡大による、これら地域からの原油供給減少懸念、サウジアラビアによる既存のOPECプラス産油国減産措置の延長検討の情報等が原油相場に上方圧力を加えた反面、リビアでの油田関連施設の操業再開、ノルウェーでの労働者ストライキの終了、米国トランプ政権と民主党幹部との追加経済対策を巡る協議の不調等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり概ね37~41ドルを中心とする領域で推移した。
  4. 今後、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期突入が市場関係者の視野に入ることにより、この面で原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、OPECプラス産油国の足元の減産遵守状況及び2021年1月以降の減産方針を巡る各産油国幹部の発言を含む動向にも市場の注目が集まるであろう。ただ、サウジアラビアが石油需給均衡と原油価格維持に対する断固たる姿勢を示していることから、この面での原油価格の下落は限定されやすいものと見られる。また、米国トランプ大統領等による対イラン制裁強化の実施等に伴う中東情勢の不安定化による当該地域からの石油供給途絶懸念が原油相場に上方圧力を加える可能性があるが、11月3日の米国大統領選挙投票により誰が大統領に選出されるか、ということによっても、原油相場が変動する可能性がある。さらに、新型コロナウイルスの感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化具合及びワクチン・治療薬開発状況、米国原油生産及び石油坑井掘削装置稼働数、米国等の金融政策及び景気刺激策に対する米国トランプ政権及び金融当局等の姿勢等でも、原油相場に上方あるいは下方圧力を加える場面が見られる可能性があるものと考えられる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2020年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量846万バレル、前年同月比で11.3%程度の減少となり(図1参照)、速報値(前年同月比で9.1%程度減少の日量867万バレル)から下方修正された。4月16日に米国のトランプ大統領が個人外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国では個人の外出規制と経済活動制限が緩和され始めた(5月20日のコネチカット州を以て米国の全50州が部分的であれ個人の外出規制及び経済活動制限を緩和した)ことにより個人の往来が相対的に活発化したことでガソリン需要は持ち直しつつある。しかしながら、7月は1日の新型コロナ感染者数が7万人を超過したと推定される日もあるなど感染が再拡大しつつあったことが、個人の外出を抑制したものと見られることもあり、この面では米国のガソリン需要の回復をもたつかせる方向で作用したものと考えられる。他方、2020年9月の同国ガソリン需要(速報値)は日量854万バレル、前年同月比で7.1%程度の減少となっている。7月の米国での1日当たりの新型コロナウイルス感染者数が4~7万人台、8月のそれが3~6万人台であったと推定されるのに対し、9月のそれは2~5万人台と、1日当たりの新型コロナウイルス感染者数が落ち着きつつあることが、同国のガソリン需要の減少幅を縮小させる方向で作用しているものと考えられる。また、8月下旬には熱帯性低気圧「マルコ(Marco)」及びハリケーン「ローラ(Laura)」が米国メキシコ湾岸に来襲したことに伴いハリケーン進路周辺地域の製油所が操業を停止したが、その後一部製油所が操業を再開したことが原油精製処理量を増加させる方向で作用した一方で、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことに伴う秋場のメンテナンス作業の実施や装置不具合の発生に伴い一部の製油所が操業を停止したことが原油精製処理量を減少させる方向で作用した。この結果、米国の原油精製処理量は9月上旬から10月中旬にかけ日量1,337~1,385万バレルといった比較的限られた範囲で推移した(図2参照)。それでも、8月の原油精製処理量(月間平均日量1,421万バレル)に比べれば精製処理水準が低下していたことにより、石油製品生産活動もそれに併せて鈍化した。それに伴いガソリン生産が抑制されたと見られる(特に混合基材の生産が影響を受けたと考えられる一方で、ガソリン最終製品の生産水準は概ね維持された、図3参照)。この結果、9月上旬から10月上旬にかけ混合基材を中心としてガソリン在庫は減少傾向となったが、それでも平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~20年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~20年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~20年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~20年)

2020年7月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量361万バレルと前年同月比で7.7%程度の減少となり、6月の同12.6%の減少から減少幅が縮小した他、速報値である日量354万バレル(同9.6%程度の減少)から上方修正された(図5参照)。7月は1日当たりの新型コロナウイルス感染者が史上最高水準に到達するなどしたことが個人の外出に影響を及ぼした側面はあったものの、米国での失業保険追加給付を含む経済対策の実施もあり経済活動は回復しつつあったものと見られ、7月の同国の鉱工業生産も前年同月比で6.8%の減少と6月の同10.7%の減少からそれなりに回復しており(因みに2019年7月の同国鉱工業生産は前年同月比で0.4%程度の増加であった)、それに伴い同月の同国の物流活動は前年同月比で4.8%の減少と6月の同7.3%の減少から減少幅が縮小している(因みに2019年7月の同国物流活動は前年同月比で2.7%の増加であった)ことが、留出油需要の持ち直しに寄与しているものと推測される。また、2020年9月の留出油需要(速報値)は日量358万バレルと前年同月比で8.8%程度の減少となっており、8月の当該需要(速報値)の同374万バレル(同7.2%程度の減少)から減少幅が拡大している。7月末を以て米国では失業保険追加給付等の経済対策が失効したことで8月1日以降は世帯収入が減少することにより個人の購買力が低下していると見られることもあり、9月の同国鉱工業生産が前年同月比7.3%の減少と、8月の同7.0%減少から減少幅が拡大したこと(因みに2019年9月は同0.2%の減少であった)が9月の留出油需要に反映されているものと考えられる。他方、秋場のメンテナンス作業実施により、9月上旬から10月上旬にかけての製油所での石油製品生産活動は、8月上旬から9月上旬のそれに比べればそれなりに鈍化したことに伴い、留出油生産も減少した(図6参照)一方、9月上旬から10月上旬にかけての留出油需要は8月上旬から9月上旬のそれに比べてそれほど落ち込まなかった(秋場の穀物等収穫のための農機具稼働向け軽油需要が発生しているものと見られる)こともあり、9月上旬から10月上旬にかけての留出油在庫は減少傾向を示したが、平年幅の上限を超過する状態は続いている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~20年)

図6 米国の留出油生産量(2009~20年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~20年)

2020年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で11.6%程度減少の日量1,832万バレルとなった(図8参照)。ガソリン及びジェット燃料を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を下回ったことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。また、ガソリンやジェット燃料に加えプロパン/プロピレン等の需要の確定値が速報値から下方修正された(同月の同国からのプロパン/プロピレン輸出量が速報値段階では日量103 万バレル程度と推定されるところ、確定値では同122万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国プロパン/プロピレン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる)ことが、その他の石油製品の需要が上方修正されたことにより相殺されたことから、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,831万バレル、前年同月比11.7%程度の減少)とほぼ同水準となっている。また、2020年9月の米国石油需要(速報値)は、日量1,788万バレルと前年同月比で11.7%程度減少した。ガソリン需要、ジェット燃料、軽油及びその他の石油製品等の需要が前年同月を相当程度下回ったことから、同国石油需要も前年同月比で減少となっている。他方、製油所の秋場のメンテナンス作業実施シーズン突入を見据えて9月上旬から10月上旬にかけての米国の原油輸入量は8月上旬から9月上旬にかけてのそれに比べ減少したことに加え、同国の原油生産量は熱帯性低気圧「マルコ」、ハリケーン「ローラ」及び「サリー」の通過後の落ち込みからの回復途上期にあった一方、製油所での原油精製処理量は比較的維持された(前述)こともあり、9月上旬から10月上旬にかけ米国の原油在庫はそれなりに減少したが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図9参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~20年)

図9 米国原油在庫推移(2003~20年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~20年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~20年)

2020年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少した他、日本では、9月の4連休による行楽時期(及びGo Toトラベルキャンペーン)に伴う個人の外出の活発化に備え製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだこともあり、原油在庫が減少した。このため、米国と日本での原油在庫の減少が、欧州での原油在庫の増加(8月1日以降のOPECプラス産油国の減産措置緩和に伴うロシア等から欧州向けの原油輸出の活発化が寄与しているものと考えられる)を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では、ガソリンや留出油在庫の減少が影響したことで石油製品全体の在庫水準も低下した。他方、欧州においては、9月の製油所の稼働は前月から横這い(8月7日以降米国ではガソリン在庫が継続的に減少した結果、2020年4月17日には2.63億バレルと1990年初以降の同国週間統計史上最高水準に到達していた当該在庫は9月初旬にはほぼ過去5年平均近辺にまで減少したことから、ガソリン需給引き締まり感が米国市場で発生した結果、米国のガソリン価格が欧州のそれに比べて割高になったことが刺激となりガソリンを米国に輸出すべく、欧州での精製稼働が維持されたことが一因であるものと見られる)であったこともあり、当該地域で生産されたガソリンは米国等へ輸出されたと見られる結果、9月末の欧州ガソリン在庫は前月から微増にとどまったが、併せて生産された中間留分等の製品の在庫が増加したことにより、欧州の石油製品在庫は増加となった。また、日本においては、ジェット燃料の需要が不振であったことに加え冬場の暖房用需要期を控えた灯油在庫の積み上げが進んだことから、これら在庫が増加した反面、軽油在庫等が減少した(相対的に割高で取引されている海外市場に向け輸出された可能性がある)ことで相殺されたことから、石油製品在庫は微増にとどまった。結果としてOECD諸国の石油製品在庫は若干減少となったが、平年幅上限を超過する量となっている(図13参照)。そして、原油及び石油製品在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油と石油製品を合計した在庫も平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2020年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は70.7日と8月末の推定在庫日数(71.8日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~20年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~19年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~20年)

9月9日に1,400万バレル台後半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、9月16日には1,700万バレル台半ば程度の量へと大幅に増加した。しかしながら、9月23日には1,400万バレル台前半程度と大幅に減少したうえで、9月30日も1,300万バレル半ば程度の量へと減少した。10月7日及び14日には1,300万バレル台後半程度の量へと回復しているが9月9日の水準は下回っている。アジア地域における新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制と経済活動の制限による輸送部門や産業部門での軽油やジェット燃料等の中間留分需要低迷で、精製利幅が圧迫されたことから、地域の製油所の稼働が低迷した結果、ガソリンの生産まで抑制されたことがシンガポールへのガソリン流入及びシンガポールでの軽質留分在庫に影響を与えているものと考えられる。このため、ガソリン需給引き締まり感が市場で強まるとともにガソリン価格に上方圧力を加えた。また、原油価格の下落にガソリン価格のそれが追い付かない場面が見られた。このようなこともあり、10月上旬にかけてはガソリンとドバイ原油の価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大した。しかしながら、アジア地域の主要なガソリン輸入国であるインドネシアで9月下旬にかけ新型コロナウイルス感染者数が増加傾向を示したうえ、その後も高止まりする様相を呈すなど、東南アジア諸国の一部では当該感染が収束する気配が見られないこともあり、必ずしもガソリン需要が好調とは言えない状態であったことや、これまで価格が低迷した時に原油を大量に輸入した中国が自国の製油所で精製したガソリンを高水準で輸出するのではないかとの観測が市場で発生していることが、アジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加えたことから、ガソリンとドバイ原油の価格差拡大は持続せず、10月上旬後半以降は再び拡大前の水準に戻るといった状態であった。

ナフサについては、これまで石油化学部門向け原料の面で競合した結果ナフサ価格に下方圧力を加える格好となっていた液化石油ガス(LPG)につき、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近による需給引き締まり観測が市場で醸成され始めたことから、LPGの石油化学部門での利用可能性が低下することにより、相対的に価格面で優位になると見られるナフサの需要が増加するとの見方が市場で広がり始めたうえ、米国での秋場の製油所メンテナンス作業実施時期突入に加えハリケーン「サリー」等の米国メキシコ湾岸地域来襲に伴う当該地域の製油所の稼働停止によるナフサ供給低下の懸念が市場で拡大していること、日本での連休に伴う自動車向けガソリン需要の盛り上がりによりガソリンに混入するナフサ需要増加観測が市場で増大したこと等が、アジア市場でのナフサ価格に上方圧力を加える格好となったことに加え、原油価格の下落にナフサ価格のそれが追い付かない場面が見られたことから、9月中旬から10月中旬にかけナフサ価格はドバイ原油のそれを上回ったうえで、その差は拡大する傾向を示した。

9月9日には1,500万バレル強の量であったシンガポールの中間留分在庫は、9月16日には1,500万バレル台前半、9月23日には1,500万バレル台後半程度の量へと、それぞれ増加した。しかしながら、9月30日には1,500万バレル台前半、10月7日は1,400万バレル台後半の量へと、それぞれ減少した。ただ、10月14日には1,500万バレル台前半程度の量へと回復するとともに9月9日の水準を若干ながら上回るなど、当該在庫は比較的限られた範囲内での動きとなっている。9月中旬にはインドで新型コロナウイルス感染者数が史上最高水準に到達したことで国内需要が低迷した結果同国からの軽油輸出が促進された一方で、欧州で軽油等の中間留分の在庫が積み上がりつつあったことによりアジア市場から欧州市場方面への軽油の流れが抑制されたことが、シンガポールへの中間留分流入を促進するとともに当該製品在庫を増加させる方向で作用したものと見られる。それでも、その後当該製品需給緩和感が市場で醸成されたことにより精製利幅が圧迫された製油所が稼働率を低下させたことに加え、アジアの製油所が秋場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったことから、一部諸国からの当該製品供給が減少し始めたと見られることにより、シンガポールへの中間留分流入が鈍化するとともに当該製品在庫の増加を抑制させる方向で作用したものと考えられる。そして、そのような中、例えばアジアでの軽油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、原油価格下落に軽油のそれが追い付かなかった結果拡大する場面が見られたり、原油価格上昇に軽油のそれが追い付かなかった結果縮小する場面が見られたりしたが、概ね限られた範囲内で変動した。

9月9日に2,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、9月16日には2,100万バレル台前半程度、9月23日は2,300万バレル台後半程度、9月30日には2,400万バレル強程度、10月7日には2,400万バレル台前半程度、そして10月14日には2,400万バレル台後半程度の量へと、それぞれ増加した。中東での夏場の気温上昇に伴う空調向け発電所稼働上昇に伴い増加していた重油需要が、夏場の高温時期が過ぎるとともに低下しつつあることから、中東方面からシンガポールへの重油の流れが促されたことが、シンガポールでの重油在庫増加をもたらしているものと考えられる。このようなことに加え、9月中旬から下旬にかけては原油価格の上昇に重油のそれが追い付かなかったこともあり、例えば、シンガポールでの高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する場面が見られた。しかしながら、その後軽油等中間留分需給緩和感増大から製油所が稼働を低減させた影響で、併せて重油生産も抑制されたことから、重油需給引き締まり観測が市場で発生したことに加え、原油価格の下落に重油価格のそれが追い付かない場面が見られたこともあり、高硫黄重油のドバイ原油価格を下回る程度は縮小する傾向を示したうえ、10月中旬には重油の種類によってはドバイ原油価格を上回るものも見られるようになっている。


2. 2020年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況

2020年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場では、ハリケーン「サリー」及び「デルタ」の米国メキシコ湾沖合通過に伴う同地域での油・ガス田関連施設の操業停止に加えノルウェーでの油・ガス田関連施設労働者ストライキの拡大による、これら地域からの原油供給減少懸念、サウジアラビアによる既存のOPECプラス産油国減産措置の延長検討の情報、中国での堅調な原油輸入、及び米国原油在庫減少等が原油相場に上方圧力を加えた反面、リビアでの油田関連施設の操業再開、ノルウェーでの労働者ストライキの終了、米国トランプ政権と民主党幹部との追加経済対策を巡る協議の不調、及び米国石油坑井掘削装置稼働数の増加等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり概ね37~41ドルを中心とする領域で推移した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~20年)

リビア西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA:Government of National Accord)と対立していた、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会)(HoR:House of Representatives)を支援するリビア国民軍(LNA:Libya National Army)の指導者であるハフタル将軍が、9月12日までに同国内のエネルギー部門の操業を完全に再開できるよう約束した旨9月12日に在リビア米国大使館(現在はチュニジアのチュニスで臨時執務中)が声明を発表したことに加え、9月14日に大手国際石油会社BPから発表された「エネルギー展望2020年版(Energy Outlook 2020)」において、近年展開してきた政府の政策、技術及び社会的志向を前提とした「通常シナリオ」であっても、今後20年間世界石油需要は日量1億バレル前後の横這いの状態で推移するとの見解をBPが明らかにしたことで、石油需要の伸び悩み観測が市場で発生したこと、9月14日にOPEC事務局から発表されたOPEC月刊オイル・マーケット・レポートで2020年の世界石油需要を日量40万バレル、2021年のそれを同77万バレル、それぞれ下方修正した一方、2020年の非OPEC産油国石油供給を日量36万バレル、2021年のそれを同37万バレル、それぞれ上方修正している旨判明したことが、原油価格に下方圧力を加えた反面、米国メキシコ湾沖合東部にあるハリケーン「サリー(Sally)」が勢力を強めつつメキシコ湾沖合を北西方向に進みつつあったことにより、ハリケーン通過予想地域の油田関連施設の従業員が避難しつつあることで、同地域の原油生産量の21.39%を占める日量395,790バレルの生産が停止した他、ルイジアナ沖合石油港(LOOP:Louisiana Offshore Oil Port)を含む同地域の原油受入ターミナルの操業が停止した旨報告されたことから、米国市場への原油供給の減少懸念が市場で発生したことに加え、9月13日に米国画像処理半導体製造会社エヌビディアが英国半導体設計会社アームを、同日米国製薬会社ギリアド・サイエンシズが米国同業イミュノメディクスを、それぞれ買収する旨発表した他、9月14日に米国ソフトウェア開発大手オラクルが中国動画投稿アプリ開発会社TikTok(ティックトック)の米国事業継続のためTikTok親会社の北京字節跳動科技(バイトダンス)との提携を行う旨発表したこともあり、9月14日の米国株式相場が上昇したことが、原油価格に上方圧力を加えたことから、9月14日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.07ドルの下落にとどまり、終値は37.26ドルとなった。ただ、9月15日には、ハリケーン「サリー」が勢力を強めながらメキシコ湾沖合を進みつつあったことから、ハリケーン通過予想地域の油田関連施設の従業員が避難を続けた結果、同地域の原油生産量の26.87%を占める日量497,072バレルの生産が停止したことにより、原油供給の減少懸念が市場で増大したことに加え、9月15日に中国国家統計局から発表された8月の同国小売売上高が前年同月比0.5%の増加と2020年に入り初めて前年同月比で増加に転じた他市場の事前予想(同横這い)を上回ったうえ、8月の同国鉱工業生産が前年同月比5.6%の増加と7月の同4.8%の増加から増加率が拡大するとともに、市場の事前予想(同5.1%の増加)を上回ったこと、9月15日に中国国家統計局から発表された8月の同国原油精製処理量が日量5,947万トン(日量推定1,404万バレル)と7月の5,956万トン(同1,406万バレル)の史上最高水準に次ぐ水準となった他前年同月比で9.2%増加した旨判明したこと、9月15日に米国ニューヨーク連邦準備銀行から発表された9月のニューヨーク地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門好不況の分岐点)が17.0と8月の3.7から上昇、2018年11月(この時は21.1)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(6.0~6.9)を上回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり38.28ドルと前日終値比で1.02ドル上昇した。9月16日も、ハリケーン「サリー」が勢力を強めつつメキシコ湾沖合を進みつつあったことから、当該地域の油田関連施設の従業員が避難を続けた結果、同地域の原油生産量の27.48%を占める日量508,366バレルの生産が停止した旨報告されたことから、原油供給の減少懸念が市場でさらに増大したことに加え、9月16日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(9月11日の週分)で、原油在庫が前週比で439万バレルの減少と市場の事前予想(同180万バレル程度の減少~同207万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したこと、2020年7~8月のOPECプラス産油国減産措置の遵守状況が芳しくなかったとされるUAEが、10月の原油供給の30%削減(既に8月31日に報じられている)に続き、11月も25%削減する方針である旨9月16日にブルームバーグ通信が報じたことで、OPECプラス産油国の減産遵守向上と石油需給引き締まり期待が市場で増大したこと、9月15~16日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で、中長期的に平均2%の物価上昇率に到達したうえで同水準の物価上昇率が確実に維持できるようになるまで金融緩和姿勢を持続する方針である旨表明した他、別途2023年までは現状のゼロ近辺の金利が維持されるとの見解が示唆されたことにより、経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.88ドル上昇し、終値は40.16ドルとなった。また、9月17日には、この日開催されたOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)において、減産措置を完全に遵守することに加え減産目標未達の産油国は可及的速やかに超過生産分を補償することが極めて肝要である他、世界の(新型コロナウイルス感染による影響からの)経済回復が均一でなく、一部諸国で新型コロナウイルス感染例が増加していると見られることから、積極的で先制的な姿勢でいることが重要であり、必要であればさらなる方策を実施する意志を持つべきであると推奨した他、原油価格がさらに下振れした場合には、10月に臨時総会を開催する可能性がある旨サウジアラビアのアブドルアジズエネルギー相が明らかにした旨同日報じられたことで、今後のOPECプラス産油国の行動による石油需給引き締まり観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.97ドルと前日終値比で0.81ドル上昇した。さらに、9月18日も、9月17日に開催されたOPECプラス産油国JMMC開催の際、原油価格がさらに下振れした場合には、10月に臨時総会を開催する可能性がある旨サウジアラビアのアブドルアジズエネルギー相が明らかにした旨報じられたことで、今後のOPECプラス産油国の行動による石油需給引き締まり観測が市場で発生した流れを引き継いだうえ、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、世界石油市場は2020年第四四半期までに日量300万バレル供給不足となる旨明らかにしたと9月18日に報じられたこと、9月18日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で179基と前週比1基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は166基と同3基減少)している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル上昇し、終値は41.11ドルとなった。この結果原油価格は9月15~18日の4日間で併せて1バレル当たり3.85ドル上昇した。

しかしながら、9月20日にリビア国営石油会社NOCが同国での原油生産及び出荷関連施設操業に対しこれまで発動されていた不可抗力条項の適用(2020年1月18日に同国東部の石油ターミナル、1月20日に同国西部のシャララ(Sharara)及びエル・フィール(El Feel)油田に対し、それぞれ適用)に関し、武装勢力が撤退し安全が確保されたものにつき、当該条項を解除する旨発表した後、シャララ油田等一部油田において操業が再開しつつある旨9月21日に伝えられたことにより、同国からの原油生産増加と世界石油需給緩和観測が市場で増大したことに加え、9月18日に米国最高裁判所のキンズバーグ判事死去に伴う後任の判事選出を巡るトランプ政権及び米国議会共和党と米国議会民主党との対立の先鋭化により、同国の追加経済対策決定が遅延するとの観測が市場で発生したうえ、9月21日に英国政府の首席科学顧問が、感染抑制のための規制が講じられない場合、英国での1日当たりの新型コロナウイルス感染者数が10月半ばまでに5万人にまで増加する可能性がある旨警告したことを受け9月22日にも同国のジョンソン首相が規制強化を発表する見通しである旨9月21日に伝えられた他、フランスやスペインの一部地域で新型コロナウイルス感染抑制のための規制が強化されつつある旨9月21日に報じられたことにより、この先の世界石油需要の回復ペース鈍化観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.80ドル下落し終値は39.31ドルとなった。9月22日には、前日の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、9月23日にEIAから発表される予定である米国石油統計(9月18日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、これまでの下落に対し値頃感による買い戻しの動きが発生したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり39.60ドルとは前日終値比で0.29ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2020年10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2020年11月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり39.80ドル(前日終値比0.26ドルの上昇)であった)。9月23日には、この日EIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比で日量403万バレル、留出油在庫が同336万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(ガソリン在庫同65~190万バレル程度の減少、留出油在庫同100~120万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル上昇し、終値は39.93ドルとなった。また、9月24日も、9月23日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン及び留出油在庫が市場の事前予想に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明した流れを引き継いだうえ、9月24日に米国商務省から発表された8月の同国新築住宅販売件数が年率101.1万戸と7月の同96.5万戸から増加したうえ、市場の事前予想(同89~89.5万戸)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したこと、9月24日に米国のムニューシン財務長官と同国議会ペロシ議長(民主党)が、同国の追加経済対策に関する協議再開に対する意向や期待を表明したことで、当該対策実施による米国経済及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.31ドルと前日終値比で0.38ドル上昇した。9月25日には、この日米国商務省から発表された8月の耐久財受注が前月比0.4%の増加と7月の同11.7%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同1.5%増加)を下回ったことに加え、9月25日にベーカー・ヒュージズから発表された米国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で183基と前週比で4基増加(米国石油水平坑井掘削装置稼働数は171基と同4基増加)している旨判明したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、これまでの下落に対し値頃感から株式を買い戻す動きが発生したこともあり米国株式相場が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.06ドルの下落にとどまり、終値は40.25ドルとなった。

また、9月27日に中国国家統計局から発表された8月の同国工業企業利益が前年同月比で19.1%の増加と4ヶ月連続前年同月比で増加した旨判明したことに加え、追加経済対策につき米国トランプ政権との間で協議は継続中であり合意に至るものと考えている旨9月27日に米国議会下院のペロシ議長が発言したこともあり、9月28日の米国株式相場が上昇したことから、9月28日の原油価格の終値は1バレル当たり40.60ドルと前週末終値比で0.35ドル上昇した。ただ、9月29日には、9月30日にEIAから発表される予定である米国石油統計(9月25日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、大手石油商社ビトル(Vitol)、マーキュリア(Mercuria)及びガンボー(Gunvor)の最高経営責任者(CEO)が、今後の石油需要及び原油価格に関し悲観的な見通しを明らかにしたこと、ニューヨーク市での新型コロナウイルス陽性率が3.25%と6月以来で最高となった旨9月29日にデブラシオ市長が明らかにしたうえ、同日夜(米国東部時間)に予定される第一回米国大統領候補テレビ討論会開催を控えた持ち高調整が発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.31ドル下落し終値は39.29ドルとなった。ただ、9月30日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で198万バレルの減少と市場の事前予想(同100~190万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことに加え、9月30日に米国企業向け給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセシング(ADP)から発表された9月の同国民間雇用者数が前月比で74.9万人の増加と8月の同48.1万人増加から伸びが加速したうえ市場の事前予想(同64.9~65.0万人増加)を上回ったことに加え、米国の追加経済対策につき9月30日にムニューシン財務長官が同国議会下院のペロシ議長との協議で妥協が成立する可能性がある旨明らかにした一方、ペロシ議長も協議の進捗を楽観視している旨明らかにしたことから、同国経済回復に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.22ドルと前日終値比で0.93ドル上昇した。しかしながら、10月1日には、この日米国供給管理協会(ISM)から発表された9月の同国製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が55.4と8月の56.0から低下した他市場の事前予想(56.3~56.5)を下回ったことに加え、10月1日時点においても、米国追加経済対策につき、ムニューシン財務長官と議会下院のペロシ議長との間で意見が相違したままとなっている旨同日報じられたことにより経済成長及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で後退したこと、タンカー追跡データによると9月のサウジアラビアの原油輸出量が前月比で日量50万バレル増加している旨示唆していると10月1日に報じられたことで石油需給緩和感を市場が意識したこと、リビアの原油生産量が日量27万バレルに到達している(前週は同9万バレルであったとされる)旨10月1日に報じられたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.50ドル下落し終値は38.72ドルとなった。10月2日も、9月のロシアの原油及びコンデンセート生産量が4,065万トン(推定日量993万バレル)と8月の4,065万トン(同987万バレル)から日量換算で増加している旨判明したことに加え、10月2日に米国トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染している旨判明したことで米国経済と石油需要に関する不透明感が市場で増大したこと、10月2日に米国労働省から発表された9月の同国非農業部門雇用者数が前月比で66.1万人増加と8月の同148.9万人増加から相当程度減速した他市場の事前予想(同85~85.9万人増加)を下回ったこと、10月2日にベーカー・ヒュージズから発表された米国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で189基と前週比6基増加(米国石油水平坑井掘削装置稼働数は177基と同6基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり37.05ドルと前日終値比で1.67ドル下落した。この結果原油価格は10月1~2日の2日間で併せて1バレル当たり3.17ドルの下落となった。

10月5日には、これまでの価格下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、米国のトランプ大統領が早ければ10月5日に退院できるようになる旨10月4日に医師団が明らかにしたと同日報じられたことで、米国経済の先行き不透明感が市場で後退したこと、10月5日にISMから発表された9月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が57.8と8月の56.9から上昇したうえ市場の事前予想(56.2~56.3)を上回ったこと、10月5日に米国のムニューシン財務長官と同国議会下院のペロシ議長が同国の追加経済対策につき電話協議を行ったうえ、10月6日も協議を継続すると10月5日に伝えられたことにより、当該対策に関する合意に対する期待が市場で増大したこと、賃金を巡る石油会社と労働組合との交渉が不調であったことから、9月30日に開始されたノルウェーでの石油・天然ガス関連施設でのストライキが拡大しつつある結果、同国の油・ガス田6ヶ所が生産を停止するとともに同国の原油・天然ガス生産全体の8%程度を占める日量33万バレル(石油換算、うち3分の1程度が原油とされる)分の生産が減少する恐れがある旨ノルウェー石油ガス協会(NOG:Norway Oil and Gas Association、石油会社を代表して労働組合と交渉)が明らかにしたことで、同国からの石油供給減少と需給引き締まり感を市場が意識したこと、10月5日朝(米国東部時間)に熱帯性低気圧「デルタ(Delta)」が発生しカリブ海から米国メキシコ湾沖合を北上し湾岸地域に上陸するとの予報が発表されたことにより、当該暴風雨の米国メキシコ湾沖合油・ガス田及び湾岸地域の原油受入ターミナル等の操業への影響に対する懸念が市場で発生したことから、この日(10月5日)の原油価格の終値は1バレル当たり39.22ドルと前週末終値比で2.17ドル上昇した。10月6日も、労働組合によるストライキにより10月5日に6ヶ所の油・ガス田において石油換算日量33万バレル程度の原油及び天然ガス生産が停止したノルウェーで、賃金交渉が妥結できなければ、10月10日よりさらに4ヶ所の油・ガス田においてストライキを実施する旨労働組合が10月6日に表明したことで、同国からのさらなる原油供給減少に対する懸念が市場で増大したことに加え、カテゴリー2のハリケーンへと勢力を強めた「デルタ」がカリブ海を北西方向に進みつつあり、10月8~9日には米国メキシコ湾沖合の油・ガス田関連施設に来襲すると予想されたことにより、当該施設での操業を停止し従業員を避難させつつあることに伴い、メキシコ湾沖合の原油生産量(全体で日量185万バレル程度)のうちの29.22%に当たる540,495バレルの生産が停止した旨報告されたことで、米国原油供給低下に対する不安感が市場で増大したことから、この日(10月6日)の原油価格も前日終値比で1バレル当たり1.45ドル上昇し、終値は40.67ドルとなった。この結果原油価格は10月5~6日の2日間で併せて1バレル当たり3.62ドル上昇した。ただ、10月6日午後に米国のトランプ大統領が追加経済対策に関する民主党との協議を打ち切りとし、11月3日に実施される予定である大統領選挙後に改めて大規模景気刺激法案を議会で通過させる意向である旨表明したことにより、経済及び石油需要の回復に対し悲観的な見方が市場で増大したことに加え、10月7日にEIAから発表された米国石油統計(10月2日の週分)で、原油在庫が前週比で50万バレルの増加と市場の事前予想(同200万バレル程度の減少~29万バレル程度の増加)に反し、もしくは上回って増加している旨判明したことから、10月7日の原油価格の終値は1バレル当たり39.95ドルと前日終値比で0.72ドル下落した。それでも、10月8日には、ノルウェーでの油田関連施設労働者のストライキによりヨハン・スヴェルダップ(Johan Sverdrup)油田(原油生産量日量47万バレル)の原油生産が10月14日以降停止する(この結果ノルウェーの原油・天然ガス生産量の約4分の1に当たる石油換算日量96.6万バレルの生産が削減される)可能性がある旨10月7日に同国石油会社エクイノール(Equinor)が警告した流れを引き継いだことに加え、新型コロナウイルス感染再拡大による石油需要への影響及びリビアでの原油生産増加により、現在2020年末まで実施する予定である、OPECプラス産油国による日量770万バレルの減産措置を2021年3月末まで延長すべくサウジアラビアが検討している旨10月8日報じられたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、ハリケーン「デルタ」の米国メキシコ湾来襲に伴い当該地域の油・ガス田関連施設からの従業員の避難とともに当該地域の原油生産量日量1,693,232バレル(同地域全体の91.53%)が停止したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.24ドル上昇し、終値は41.19ドルとなった。しかしながら、10月9日には、前日の価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、10月9日に実施されたノルウェーの油田関連施設労働者に対する賃金に関する交渉が石油会社及び労働組合との間で妥結したことにより、同国からの原油生産が回復するとの観測が市場で発生したこと、10月9日にベーカー・ヒュージズから発表された米国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で193基と前週比4基増加(米国石油水平坑井掘削装置稼働数は182基と同5基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.60ドルと前日終値比で0.59ドル下落した。

10月12日も、10月9日に実施されたノルウェーの油田関連施設労働者に関する賃金交渉が石油会社及び労働組合との間で妥結したことにより、同国からの原油生産が回復するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだうえ、10月11日にリビアのシャララ油田(原油生産量日量30万バレル)の操業に関する不可抗力条項の適用が解除されたことで、同国の原油生産が増加するとの期待が市場で発生したこと、ハリケーン「デルタ」の米国メキシコ湾地域通過後、同湾沖合の油・ガス田関連施設への復員が進みつつあることで、当該地域からの原油供給が回復するとの見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.17ドル下落し、終値は39.43ドルとなった。ただ、10月13日には、この日中国税関総署から発表された9月の同国原油輸入量が4,848.2万トン(推定日量1,183万バレル)と前年同月比で17.6%増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.20ドルと前日終値比で0.77ドル上昇した。10月14日も、10月15日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月9日の週分)で原油、ガソリン及び留出油の各在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、9月のOPECプラス産油国の減産遵守率が102%に到達した旨10月14日に報じられたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.84ドル上昇し、終値は41.04ドルとなった。この結果原油価格は10月13~14日の2日間で併せて1バレル当たり1.61ドル上昇した。また、10月15日には、この日米国ニューヨーク連邦準備銀行から発表された10月のニューヨーク地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門好不況の分岐点)が10.5と9月の17.0から低下した他市場の事前予想(14.0~15.0)を下回ったうえ、同日米国労働省から発表された新規失業保険申請件数(10月10日の週分)が前週比5.3万件増加の89.8万件と市場の事前予想(82.5万件)を上回ったこともあり、米国株式相場が下落したことに加え、リビアの原油生産量が日量50万バレルに到達した旨10月15日に報じられたこと、フランスの新型コロナウイルス感染者数が10月15日時点で30,621人と史上最高水準に到達したうえ、ドイツでも新型コロナウイルス感染数が6,638人と史上最高水準に到達した旨10月15日発表された他、英国政府は新型コロナウイルス感染抑制のためにロンドンでの個人の行動に対する規制を強化する方針である旨10月15日に伝えられたことに加え、米国中西部の感染者数が10月14日時点で2.2万人を超過した旨10月15日に明らかになるなど、新型コロナウイルス感染拡大が世界各地域で見られることにより、経済成長及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、10月15日にEIAから発表された米国石油統計(10月9日の週分)で原油在庫が前週比で382万バレルの減少と市場の事前予想(同210~280万バレル程度の減少)を上回って減少していたうえ、留出油在庫が前週比で725万バレルの減少と2003年1月31日の週(この時は前週比で1,033万バレルの減少)以来の大幅減少となった他市場の事前予想(同210~250万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.08ドルの下落にとどまり、終値は40.96ドルとなった。さらに、リビアの原油生産回復が継続したうえ新型コロナウイルス感染拡大が長期化するようであれば、2021年は世界で日量20万バレルの石油供給過剰に陥る可能性があるとの試算を行っている旨OPECプラス産油国関連資料が示唆していたと10月16日に報じられたことにより世界石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、10月16日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で205基と前週比で12基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は187基と同5基増加)している旨判明したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、10月16日に米国商務省から発表された9月の同国小売売上高が前月比で1.9%の増加と市場の事前予想(同0.7~0.8%の増加)を上回ったこともあり米国株式相場が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.88ドルと前日終値比で0.08ドルの下落にとどまった。


3. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での注目点は、まず、イランを含む中東情勢であろう。イエメンにおいて対立している、ハディ暫定大統領を支援するサウジアラビアが主導する有志連合軍と、イランが支援しているとされるフーシ派武装勢力は、双方に拘束した捕虜等合計1,081人を交換することで合意した旨9月27日に国連のグリフィス事務総長イエメン担当特使が発表した。また、9月30日には国際原子力機関(IAEA)が、核開発活動を実施していたと疑われているイラン国内施設2ケ所のうちの2ヶ所目の施設について査察を実施した旨明らかにした(1ヶ所目は9月上旬に実施済とされる)。

しかしながら、9月19日に、米国のポンペオ国務長官は、国連による対イラン制裁が全面的に復活した旨表明した。これに対し同日イランのラバンチ国連大使は米国の対イラン国連制裁復活手続きは無効で受入不可能なものである旨主張、同日グテレス国連事務総長も、国連安全保障理事会の結論を待って対応する旨の姿勢を示した。他方9月21日に米国のトランプ大統領は、イランに武器を供与、販売及び輸送した国や企業等に対し制裁を科すことを内容とする大統領令に署名した旨発表するとともに、イラン国防省、防衛産業機構及び原子力庁に関係する、ベネズエラのマドゥロ大統領を含む27の団体及び個人に対し、米国の資産凍結を内容とする制裁を発動した。また、10月8日にも米国財務省はイランの銀行18行に対し米国内資産の凍結及び米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。さらに、制裁対象となる銀行と取引した者も制裁対象となりうる旨財務省は同日明らかにしている。今後米国がさらに対イラン制裁を強化する中で、国連の対イラン制裁に違反していると米国が判断した第三国やその国の法人もしくは個人に対し米国が制裁を発動するということになると、その制裁の内容によっては、対イラン制裁復活に反対する諸国も米国の方針に従わざるをえなくなる結果、国連の対イラン制裁が事実上全面復活する可能性も否定できくなる他、その場合、イランは核合意にとどまる意味がなくなることにより、自国の核開発を全面復活させるとともに、イラン(及びイランが支援しているとされるイエメン)と米国、イスラエル及び中東湾岸産油国(サウジアラビアや、イスラエルとの外交関係を回復させつつあるUAE等)などとの対立が先鋭化することを通じ、中東産油国からの石油供給が脅かされるとの不安感が市場で台頭することにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、11月3日に実施される予定である米国大統領選挙でトランプ大統領が選出された場合には、米国の対イラン包囲網がさらに強化される可能性があり、米国とイランとの対立のさらなる高まりとともに中東情勢不安定化に伴う当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大することにより原油価格が上昇する場面が見られるといったこともありうる。他方バイデン前副大統領が選出された場合には、米国の対イラン政策は転換される可能性があり、米国のイラン核合意復帰とイランからの原油輸出の再開がなされると市場での予想から、同氏選出直後において原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。

リビアでは、西部の首都トリポリを拠点とするGNA(国連及びトルコ等が支援)と、東部トブルクを拠点とするHoRを支援する、ハフタル将軍を指導者とするLNA(エジプト及びUAE等が支援)との間で事実上の内戦状態が続いていたが、9月18日にはLNAのハフタル将軍が、GNAとの間で石油販売収入を公平に分配する他、分配が公平に実施されているか監視する委員会を設置する旨合意したことにより、封鎖されていた同国の油田操業を1ヶ月間可能にする旨表明した。その後ハリガ(Hariga)、ブレガ(Brega)及びズエイティナ(Zueitina)といった石油ターミナルが操業を再開するとともに、各石油ターミナルに原油を供給する油田関連施設の操業も復旧した結果、10月5日には同国の原油生産量が日量29万バレルに到達した旨明らかになった(因みに8月の同国の原油生産量は日量10万バレル程度であった)。また、リビア国営石油会社NOCが同国南西部にあるシャララ油田(原油生産能力日量30万バレルで、同国で最大規模の油田とされる)関連設備の警備を担当する警備兵(但し実際には彼らが同設備を封鎖したため油田での生産は停止していた)と間での紳士協定を締結した結果、当該設備の封鎖が終了、10月11日に操業に関する不可抗力条項の適用を解除した。シャララ油田は当初日量4万バレルで操業を開始する予定であるが、10日間程度で日量ほぼ30万バレルに到達可能と関係筋は明らかにしており、これでリビアの原油生産量は日量60万バレルに到達する見込みであるとされる(10月16日には日量50万バレル(うちシャララ油田は同11万バレル)に到達したと伝えられる)。ただ、ハフタル将軍は1ヶ月間経過した以降の油田関連施設の取り扱いについては態度を明らかにしていない。加えて、従来同国では停戦が実現し油田関連施設の操業が開始されても短期間で当該施設が再度封鎖されることにより原油生産が停止してしまう例が過去頻発していたこと等を考慮すれば、今後同国での原油生産が十分に回復した(但し、NOCは油田関連施設等に必要な資金が十分に確保できていないことを理由に2022年においても原油生産量は日量65万バレルと2019年第四四半期の同国原油生産量である日量120万バレル弱の約半分にとどまる旨7月7日に明らかにしている)うえで、それがある程度の期間持続することにより、最早同国からの原油生産停止リスクが相当程度低下したと市場が確信するまでは、原油相場に継続的に下方圧力を加えるといった展開にはなりにくいものと考えられる。

9月27日には、アゼルバイジャンとアルメニアとの間で軍事衝突が発生した(両国はアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ自治州を巡り長期に渡り対立してきた)。そして、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)及びロシア等は戦闘停止を要請した一方で、トルコはアゼルバイジャン支持を表明している。その後アルメニアとアゼルバイジャンが10月10日正午(現地時間)を以て停戦する旨合意したと、同日ロシアのラブロフ外相が発表したが、10月12日にはナゴルノ・カラバフ地域及びその周辺で両国軍による新たな衝突が発生している(それ以外にも攻撃が行われているとの情報もある)。また、10月11日にアゼルバイジャン西部に位置する同国第二の都市ギンジャ(Ganja)がアルメニアから空爆を受けた(10人が死亡したと伝えられる)とアゼルバイジャンが主張するとともにアルメニア系住民居住地域に対し空爆を行った旨表明した他、10月14日にはアゼルバイジャンが同国内の石油・天然ガスパイプラインを標的にしようとしているとしてアルメニアを非難した。また、10月17日未明(同)にも、再びギンジャにミサイルと見られる攻撃がなされた結果13人が死亡、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は同日アルメニアへの反撃を表明(アルメニア側は攻撃を否定)した。10月17日夜(同)にはアゼルバイジャン外務省が人道的見地から10月18日午前0時(同)を以てアルメニアとの間で一時停戦する旨合意したと発表したが、10月10日に実施した停戦が事実上反故にされるなど現地情勢の安定化に関しては不透明感が漂ったままとなっている。アゼルバイジャン国内及びアルメニアの近隣にはアゼルバイジャンの首都バクー(Baku)からの原油(バクー~スプサ(Supsa)(ジョージア)パイプライン(原油輸送能力日量14.5万バレル)、及びBTCパイプライン(バクー~ジェイハン(Ceyhan)(トルコ)、原油輸送能力日量120万バレル))及び天然ガス(南コーカサスパイプライン(バクー~エルズルム(Erzurum)(トルコ)、SCP:South Caucasus Pipeline、天然ガス輸送能力同25億立方フィート)を輸送するパイプラインが通過しているので、今後の両国対立の展開によってはこれら施設が被害を受ける恐れがあることから、この面で石油(及び天然ガス)市場関係者の懸念が増大する結果、原油相場にその懸念が織り込まれることもありうる。

経済面では、まず新型コロナウイルス感染状況であろう。インドでは1日当たりの新規感染者数が9月中旬以降多少落ち着いてきているように見受けられるものの、依然としてそれなりに高水準な状態である他、英国、フランス、イタリア及びスペインといった欧州諸国、及び米国中西部で感染が再拡大する傾向が示されていることから、一部諸国の一部地域では個人の外出規制や経済の活動制限の強化が行われている、もしくは検討されていると伝えられる。このように新型コロナウイルス感染者数が増加したり、高止まったりするようであれば、個人の外出規制及び経済活動制限が強化されることにより、ガソリン、ジェット燃料、軽油及び重油の需要が抑制される可能性が増大することから、石油需要の伸びの鈍化を市場が意識する結果、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありうる。反対に、新型コロナウイルス感染拡大ペースが鈍化する傾向が見られるようであれば、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されることから、ガソリン、ジェット燃料、軽油及び重油需要が盛り返すことにより、石油需要回復期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、新型コロナウイルスワクチンや治療薬の開発進展具合に関する情報によっても、今後の個人の外出規制や経済活動制限に関する観測が市場で醸成される結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。

また、7月31日に失効した米国失業保険の追加給付を含む経済対策につき、トランプ大統領が対策規模を1.8兆ドルに引き上げた(9月30日にムニューシン財務長官は1.5兆ドル規模の経済対策を提案していた)他民主党を上回る景気対策を希望している旨10月9日明らかにしたが、米国議会下院多数派の民主党は2.2兆ドルの対策規模を主張し続けており、両者の相違は解消されてない。今後も当該問題に対する議論が長引くようだと、米国の経済対策が後手に回ることにより、米国の経済回復の減速及び石油需要の伸びの鈍化観測が市場で増大する結果、原油相場を抑制する可能性もある。

他方、新型コロナウイルス感染に伴う外出規制と経済活動制限の実施に伴う同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、8月31日には、FRBのクラリダ副議長も、失業率が低下しても、物価上昇率が目標ないしは安定した金融市場にとって脅威となる水準を継続的に超過する、もしくは超過する可能性があると想定されなければ、金利を引き上げることにはならないであろう旨発言したりするなどしたことにより、米国の金融機関はより長期に渡り一層の金融緩和策を実施する意向であると市場では理解されていることから、今後も米ドルが下落する、もしくは将来的な経済回復への期待から株式相場が上昇することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといったことも想定される。そして、この場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの判断から低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない現象が見られやすくなる一方で、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合資金流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。また10月中旬以降主要米国主要企業の2020年7~9月期等の業績(及び今後の業績見通し)が発表されているが、その内容でも株式相場とともに原油相場が変動する可能性がある。

現在米国では11月3日の投票日を控えて大統領選挙戦期間中であるが、11月3日の投票により、トランプ大統領が再選された場合には、米国と中国の貿易及び南シナ海情勢等を巡る対立は継続するか、場合によっては先鋭化することも予想されることから、この面では両国等の経済成長の減速と石油需要の鈍化等の観測が市場で増大する結果、原油相場に下方圧力を加える場面が見られるといった展開もありうる。他方バイデン前副大統領が選出された場合には、米国と中国との関係は改善に向かうことで、この面では株式及び原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうる(もっとも、両国間で、少なくともある程度の期間は政治的な駆け引きが続く結果、関係改善までの過程が紆余曲折を経ることも否定できない)ことから、選挙結果によって株式及び原油相場が変動する場面が見られうる。

9月17日に開催されたOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)は、減産措置を完全に遵守することに加え減産目標未達の産油国は可及的速やかに超過生産分を補償することが極めて重要である(もっとも同JMMCでは補償期間を当初の7~9月から12月末まで延長する旨表明している)他、世界の(新型コロナウイルス感染による影響からの)経済回復が均一でなく、一部諸国で新型コロナウイルス感染例が増加していると見られることから、(OPECプラス産油国は)積極的で先制的な姿勢でいることが重要であり、必要であればさらなる方策を実施する意志を持つべきであると推奨した。これまで減産遵守状況の芳しくなかったイラク及びナイジェリア等の産油国については過去の減産目標未達分を今後既存の減産措置に加えて減産幅を拡大することになろうが、タンカー追跡データや顧客への通知等を通じて明らかになるこれら諸国の原油供給状況に関する情報をもとに推定される、それら産油国の原油生産量を巡って発生する、市場関係者による観測等が原油相場を左右することもありうる。他方、当該JMMC開催に際し、原油価格がさらに下振れした場合には、10月にOPECプラス産油国臨時閣僚級会合を開催する可能性がある旨サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が示唆した他、原油市場で原油の空売りを実施するトレーダーに対し地獄のような打撃を受けることになるであろう旨同エネルギー相が警告したことを通じ、サウジアラビアは石油需給の均衡と原油価格の維持に対し断固たる姿勢を示していることから、この先当面、この面で少なくとも原油相場の下落が抑制される可能性がある。加えて、10月8日には現在2021年1月1日以降に実施される予定であるOPECプラス産油国による日量580万バレルの減産措置につき、サウジアラビアが現状の日量770万バレルの措置を2021年3月末まで延長することを検討している旨伝えられることもあり、今後もOPECプラス産油国の2021年1月以降の減産措置の規模に関する、関係産油国幹部による発言等の動向によっては、原油相場が影響を受ける場面が見られることもありうる。

米国では、この先冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)を控え、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進むとともに、原油購入を活発化させてくる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まるものと考えられる。従って、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、ここで市場が注目するのは、足元の気温状況及び冬場の気温予報であろう。9月10日には米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センター(CPC:Climate Prediction Center)から足元でラニーニャ現象が発生しており、北半球の2020~2021年の冬にかけ75%の確率で同現象が継続する可能性がある旨の見解が発表されていることもあり、この冬は気温が相当程度低下する結果、暖房用石油製品需要が増加する可能性があることが示唆される。このような中で、秋場の後半及び冬場の前半での気温低下予想が発表されたり実際に気温が低下したりすれば、市場関係者間で暖房用石油製品需要拡大観測と需給引き締まり懸念が増大し、それが原油相場に上方圧力を加えることに繋がりやすい。その意味では、この先の米国(特に暖房用石油製品消費の中心地である北東部)での気温予報や実際の気温の状況には注意する必要があろう。他方、原油価格が上昇してきたことから、石油坑井掘削装置稼働数や原油生産の底打ちを期待する向きが市場にはあるが、投資家による収益確保の圧力により石油会社のシェールオイル等開発姿勢が慎重になっていると見る向きもある(さらに原油価格の回復が生産増加に反映されるまでには6ヶ月程度を要すると言われる)ことから、なかなか掘削装置稼働数や原油生産量が十分に回復しないことも予想され、それが市場関係者の間で同国石油産業の衰退の兆候と受け取られるとともに石油需給の引き締まり観測が市場で発生することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることも想定される。

大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎたことから、ハリケーン等が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすこと等に伴う石油供給途絶懸念は市場では相対的に低下してきているものと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油・ガス田関連施設の操業に影響を与える結果、当該地域での原油生産等が減少する(実際に被害が発生しなくても、暴風雨接近に伴い沖合油・ガス田関連施設では従業員を避難させなければならないことから油・ガス田での原油等の生産活動を停止させる必要があるが、特に2020年は新型コロナウイルス感染抑制のため従業員の避難及び復員に時間を要する結果油田等での生産活動停止が長期化する恐れもある)他、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動等に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電線が暴風で切断されることにより、製油所等への電力供給が遮断されることを通じて操業が停止するといった事態が発生することが想定される)、メキシコの沖合油田や原油輸出港が操業を停止すること等により米国の原油輸入(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)に影響を与えたりする。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも同国メキシコ湾沖合ではそれなりの量原油が生産されている(2019年に当該地域では日量188万バレルの原油を生産しており、これは米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は同国の精製活動中心地である(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国原油精製処理能力全体の約47%を占める)など、米国メキシコ湾沖合及びメキシコ湾岸地域は同国石油市場にとって依然重要な地位を占めている。8月5日時点のコロラド州立大学の予報や、8月6日時点の米国国立ハリケーンセンターの予報によると、2020年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている他、前回予報(コロラド州立大学が7月7日、国立ハリケーンセンターが5月21日)時点の予報に比べ暴風雨発生予想が上方修正されている(表1参照)こともあり、この先の暴風雨シーズン中もハリケーン等の暴風雨が発生し油田や製油所での操業等を脅かすのではないかとの神経質な感情が市場で残存するとともに、そのような市場関係者の心理が原油相場に織り込まれるといった展開もありうることから、ハリケーン等の実際の発生状況、進路及び勢力、そしてその予報等には注意する必要があろう。

表1 2020年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

全体としては、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期突入が市場関係者の視野に入ることにより、この面で原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、OPECプラス産油国の足元の減産遵守状況及び2021年1月以降の減産方針を巡る各産油国幹部の発言を含む動向にも市場の注目が集まるであろう。ただ、サウジアラビアが石油需給均衡と原油価格維持に対する断固たる姿勢を示していることから、この面での原油価格の下落は限定されやすいものと見られる。また、米国トランプ大統領等による対イラン制裁強化の実施等に伴う中東情勢の不安定化による当該地域からの石油供給途絶懸念が原油相場に上方圧力を加える可能性があるが、11月3日の米国大統領選挙投票により誰が大統領に選出されるか、ということによっても、原油相場が変動する可能性がある。さらに、新型コロナウイルスの感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化具合及びワクチン・治療薬開発状況、米国原油生産及び石油坑井掘削装置稼働数、米国メキシコ湾等へのハリケーン等来襲状況、米国等の金融政策及び景気刺激策に対する米国トランプ政権及び金融当局等の姿勢等でも、原油相場に上方あるいは下方圧力を加える場面が見られる可能性があるものと考えられる。


4. 最近の世界のガソリン及びナフサ価格と世界のガソリン及びナフサの流れ等に関する一考察

世界の石油製品市場は過去1年半程度(概ね2019年初以降)においてそれなりに大きな変化が見られた。ここでは世界の主要地域(米国、欧州、シンガポール等)間でのガソリン及びナフサ(もしくは軽質留分)の流れの変化と需給状況、そして当該製品と原油の価格差(精製利幅の代替的指標)の動向とその背景等につき説明することとしたい。

まず、ガソリンにつき言及することする。米国では、2019年1~3月は、製油所の季節的なメンテナンス作業実施時期であったことに加え、2019年3月17日にヒューストン近郊のディア・パーク(Deer Park)にある石油化学製品貯蔵会社インターナショナル・ターミナルズ(ITC:International Terminals Company)の貯蔵施設で火災が発生、破損した貯蔵タンクから流出した石油化学製品が3月22日に隣接するヒューストン運河(Houston Ship Channel)に流入したことで、流出した石油化学製品除去作業のために当該運河が閉鎖、船舶の航行が停止(3月25日に部分的に船舶航行再開)したことにより、ヒューストン運河経由で原油を調達している、シェル(Shell)のディア・パーク(Deer Park)製油所(原油精製処理量日量27.5万バレル)及びリヨンデル・バーゼル(Lyondell Basell)のヒューストン製油所(同26.4万バレル)への原油供給が不足したことから、原油精製処理活動が低下した(図16参照)こともあり、当該製油所からの製品出荷に支障が発生するとともに同国のガソリン在庫が大幅に減少した(4月には過去5年平均水準を割り込んだ)(図17参照)。このため、同国のガソリン価格が上昇、原油価格との価格差が拡大した(図18参照)ことにより、かえって他の製油所でのガソリン生産活動が活発化するとともに、欧州やインド方面からのガソリン(主に混合基材)輸入が増加した(2019年5月は日量100万バレル超と前年同月比1.2倍であった)(図19参照)。しかしながら、製油所の稼働上昇に伴う供給増加と輸入増加の一方、2019年1月4日にFRBのパウエル議長が金融政策につき柔軟な姿勢を示唆した(中国等の経済成長の下振れを市場が懸念する中、2018年12月18~19日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き上げ2.25~2.50%としたことを受け株式相場が下落していた)こともあり米国株式相場が上昇するとともに、2019年4月22日には同国のポンペオ国務長官がイランからの原油禁輸猶予措置を終了する旨表明(実際に同年5月8日を以て終了)したこともあり、原油価格が堅調に推移するとともにガソリン小売価格も上昇したこともあり、ガソリン需要が伸び悩み気味となった(2019年の同国のガソリン需要はしばしば前年同月を下回るようになった)結果、2019年5月末にはガソリン在庫は概ね過去5年平均幅を超過する程度にまで回復した。しかしながら、2019年第三四半期は、米国と中国の貿易紛争による関税賦課合戦(2018年 7月16日及び8月23日に米国及び中国がお互いの国の製品(ともに500億ドル相当分)に対し追加関税課税を発動、同年9月24日には両国がさらなる追加関税(米国が2,000億ドル相当分、中国が60億ドル相当分)賦課措置を発動、さらに2019年9月1日にも両国は関税賦課を実施している)等により、米国経済が減速気味となったこともあり、留出油とともにガソリン需要がもたつき気味に推移したことで、製油所での石油製品精製利幅が減退したことに加え、秋場のメンテナンス作業実施に伴い、製油所での稼働が低下するとともに石油製品生産活動が鈍化したにより、かえってガソリン生産が絞り込まれたことから、米国のガソリン在庫は2019年夏場から秋場にかけ概ね減少傾向を示した他、過去5年平均値を下回る場面も見られた。その後冬場の暖房シーズン到来による製油所での暖房用石油製品生産活動活発化に伴いガソリン生産も旺盛となったことから、当該製品在庫は持ち直したものの、2020年2月以降は製油所の春場のメンテナンス作業実施等によりガソリン生産が鈍化した結果、再び同国のガソリン在庫は減少し始めた。ただ、2020年3~4月は、米国で新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制強化に伴う自動車での往来の不活発化による米国自動車運転距離数の大幅減少とともに同国のガソリン需要が急減した結果、例年であれば製油所でのメンテナンス作業実施によりガソリン在庫が減少し続けるところ、当該在庫は反転し増加し始め、4月17日には2.63億バレルと1990年初以降の同国週間ガソリン在庫統計史上最高水準に到達した。このようなこともあり、米国でのガソリン精製利幅も例年拡大へと転換する3月以降も低迷し続けたうえ、米国では2月以降暖房シーズン終了とともに留出油等の暖房用石油製品不需要期が視野に入り始めたことから、暖房油価格に下方圧力が加わった結果、留出油の精製利幅も圧縮された格好となったことにより、製油所での石油製品精製利幅が全体的に低水準となった(図20参照)。このため、メンテナンス作業実施のみならず精製利幅の低迷を理由として、米国の製油所は稼働を抑制したことから、同国製油所での石油製品生産活動が低迷した一方、4月16日に米国のトランプ大統領が個人の外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国では実際に個人の外出規制と経済活動制限が緩和され始めたことにより個人の往来が相対的に活発化したことによりガソリン需要が持ち直したことから、4月17日以降ガソリン在庫は減少し始めたものの、なお、必ずしも新型コロナウイルス感染拡大に伴う規制導入以前のように個人の外出が完全に自由に行われるようになったわけではなかった(加えて7月には同国の新型コロナウイルスの規感染者数が史上最高水準に到達するなど、その後も新型コロナウイルス感染増減は紆余曲折を経る形となった)こともあり、ガソリン需要が伸び悩んだ。しかしながら、外出規制等の緩和によるガソリン需要回復と精製利幅改善期待が精製業界で広がり始めたことで、かえって製油所での稼働が上昇するとともに石油製品生産活動が活発化したことにより、ガソリン等の供給が上振れしたと見られることから、2020年4月から7月にかけ米国ガソリン在庫の減少は緩やかに進行することになった。それでも、その後の精製利幅のもたつきに伴う米国での製油所の稼働の伸び悩みに加え、8月下旬には、熱帯性低気圧「マルコ(Marco)」及びハリケーン「ローラ(Laura)」が米国メキシコ湾岸に来襲した結果、当該地域の製油所の稼働が停止した(一時は日量250万バレル超相当の原油精製能力が停止したとされる)一方、7月下旬に史上最高水準に到達した米国の新型コロナウイルス感染新規感謝数はその後減少傾向をたどるようになったことに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に伴う個人による自動車での外出活発化もあり、米国のガソリン在庫は8月に入り減少ペースを加速するとともに、過去5年平均水準を若干上回る幅を縮小、9月にはほぼ過去5年平均並みの量となっている。

図16 米国原油精製処理量(2017~20年)

図17 米国ガソリン在庫(2017~20年)

図18 各地域のガソリンと原油の格差(2018~20年)

図19 米国ガソリン輸入(2017~20年)

図20 額地域の精製利幅(2018~20年)

他方、2017年8月下旬のハリケーン「ハービー(Harvey)」の米国メキシコ湾岸来襲とその後のメンテナンス作業実施に伴う製油所の操業停止に伴う石油製品生産活動の鈍化による米国でのガソリン在庫の減少(2017年11月から2018年1月にかけては米国のガソリン在庫は平年を割り込んだ)で、米国のガソリン価格が欧州のそれに対し相対的に割高になった(図21参照)ことから、2018年春先は、欧州から米国に向けガソリン(混合基材が主流)輸出が促された(図22参照)。加えて、2018年3~6月は欧州、特にドイツで製油所のメンテナンスが比較的大規模に実施された他、フランス等で製油所の不具合が発生したことから、操業が相当程度低下するとともにガソリン生産が影響を受けた。このため欧州でのガソリン在庫は2018年夏場において過去5年平均を相当程度割り込んだままとなった(図23参照)。ただ、同時に留出油在庫も過去5年平均を割り込んだままとなっていたこともあり、冬場の暖房シーズンに伴う暖房油等の暖房用石油製品需要期到来を控え、当該製品需給の引き締まり感が市場で発生したこともあり、留出油と原油との価格差が拡大、2018年秋場のメンテナンス作業実施等の終了後、製油所での留出油生産が大幅に増加したことに併せ、ガソリンの生産も増加した。しかしながら、米国でもガソリン在庫は概ね過去5年平均並みもしくは過去5年平均を超過する水準であったことにより、米国のガソリン価格が欧州のそれに比べ大幅に割高になり続けるということはなかったことから、2018年秋場以降欧州から米国へとガソリン輸出が大幅に促進されたわけではなかったこともあり、従来から欧州では秋から冬にかけてはガソリン在庫が増加基調となっていたが、2018~19年の秋場及び冬場においては、特に在庫増加が顕著となり、夏場には過去5年平均幅を相当程度下回っていた当該地域の在庫は、2019年1月には過去5年平均を超過する水準にまで回復した。他方、2019年3月には米国のガソリン在庫が過去5年平均を相当程度上回ったことにより、欧州ガソリン価格の米国のそれに対する割高感が目立ち始めるようになったことから、4月以降は欧州から米国へのガソリン輸出が伸び悩むとともに製油所での精製利幅も頭打ちとなったが、かえって製油所でのガソリン製造活動に影響を与えたと見られることに加え、欧州の製油所の春場のメンテナンス作業実施に伴い石油製品生産活動が鈍化したことに併せガソリンの生産もその影響を受けたことから、欧州でのガソリン在庫は2019年4~5月は過去5年平均幅を割り込むほどにまで減少した。その後2019年夏から秋にかけては概ね在庫は過去5年平均並みとなったが、米国と中国の貿易紛争を巡る関税賦課合戦に加え、秋場以降のガソリン不需要期もあり、欧州のガソリン価格の米国のそれと比べた場合の割安感も後退した他、製油所の精製利幅が低下したこともあり、当該地域でのガソリン生産活動が鈍化したことから、欧州でのガソリン在庫も増加ペースが減速した結果、2019年12月から2020年2月にかけては欧州の当該在庫は過去5年平均を下回ることとなった。しかしながら、2020年3月13日に米国のトランプ大統領が新型コロナウイルスに関し国家非常事態宣言を発動、その後3月19日にはカリフォルニア州、3月22日にはニューヨーク州が、それぞれ外出禁止令を発令したこともあり、米国のガソリン需要が大幅に低下したことにより、米国向けガソリン輸出が減少したことに加え、欧州でも3月に入り各国が封鎖措置を実施したことで、当該地域のガソリン需要が大幅に減退したことから、欧州のガソリン在庫は2020年3月には過去5年平均並みにまで回復した他、それ以降は過去5年平均を超過する水準で推移している。

図21 米国と欧州のガソリン価格差(2017~20年)

図22 欧州から米国へのガソリン輸出(2017~20年)

図23 欧州ガソリン在庫(2017~20年)

アジアにおいては、2019年前半まで中国国内でのガソリン需要が比較的堅調であったと見られることもあり、中国からのガソリン輸出は低調であった。他方、米国では、(前述の通り)2019年前半はガソリン在庫が相当程度早いペースで減少傾向となったことで、米国のガソリン価格がアジアのそれを上回る程度が拡大した(図24参照)こともあり、この時期輸出向け製油所が存在するインドのような国では生産されたガソリンが米国方面に流出していった結果、同時期例えばシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は減少傾向となり、同年半ば頃には前年同期を相当程度下回る状態となった。しかしながら、米国と中国との貿易紛争が世界経済に影響を与え始めたことが一因となり、2019年後半は中国経済が減速気味となり同国国内のガソリン等の石油需要に影響を与えたと見られることにより、同国からガソリン輸出が活発化したことに加え、同様の背景によりインド経済も減速気味となった一方、米国でのガソリン在庫も回復してきたことによりインドから米国へのガソリン輸出も沈静化してきたと見られることから、中国やインドから、例えばシンガポールへのガソリン流入が活発化した結果、シンガポールでの軽質留分在庫の前年同期を下回る幅は縮小する傾向を示した。さらに、2020年1~2月に中国で拡大した新型コロナウイルス感染に伴い同国で個人の外出規制及び経済活動の制限が強化されたことにより製油所が稼働を大幅に低下するとともにガソリンを含む石油製品生産が抑制されたこともあり、中国からシンガポールへのガソリン輸出が減少した結果、シンガポールの軽質留分在庫が伸び悩み気味になるとともに、再び前年同期を下回る幅が拡大する場面も見られた。しかしながら、2月10日の経済活動再開以降中国では製油所での石油製品生産活動が再開するとともに、同国からの輸出が拡大し始めたガソリン(原油価格の大幅下落に伴い値頃感から中国石油会社が大量に購入した原油を精製した結果、ガソリンが相当程度生産されたことが背景にあると見られる)がシンガポールに流入したことに加え、2月下旬以降は米国を含む中国国外で新型コロナウイルスの感染が拡大したこともあり、個人の外出規制の導入等によりガソリン需要が低迷した結果、米国向けのガソリンの流れが鈍化したインドからもシンガポール方面にガソリンが輸出されたことが、シンガポールの軽質留分在庫を押し上げる格好となっており、当該在庫は4月半ば以降前年同期を上回る状態となっている。

図24 米国とシンガポールのガソリン価格差(2017~20年)

続いてナフサについて説明することとしたい。2019年はガソリン小売価格が堅調であったうえ、米国と中国の貿易問題を巡る対立の先鋭化と関税賦課合戦による経済減速に加え、2020年3月には新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動の制限強化により、米国のガソリン需要はしばしば前年同期を割り込む場面が見られるようになった。これがガソリンに混入するナフサの価格に下方圧力を加え始めた。そのようなことから、2019年後半から2020年第一四半期にかけ米国でのナフサの精製利幅は低下傾向となった。それでも、4月16日に米国のトランプ大統領が個人の外出規制緩和及び経済活動再開への指針を発表したことで、同国では個人の外出規制と経済活動制限が緩和され始めたことにより、ガソリン需要が持ち直すともに、ナフサの需要も増加し始めたと見られることから、多少なりともナフサの精製利幅は回復する傾向が見られた(図25参照)。

図25 各地域のナフサと原油の価格差(2018~20年)

欧州は、自動車用石油製品として軽油がある程度利用されていることで、ガソリン需要が抑制されていることもあり、地域内の製油所で生産したものの消費しきれないガソリン(特に混合基材)を、米国(特に原油供給及び製油所での精製能力が不足気味である北東部)に輸出しているが、2019年は米国でのガソリン需要の伸びが減速してきたことから、ガソリンに混入するナフサの需要も減速気味となったこともあり、欧州のナフサ価格が抑制された結果、精製利幅が低下傾向を示した。このため、欧州からアジア方面にナフサが輸出されたものの、中東産油国の製油所で生産されアジアに輸出されるナフサと競合する等したことから、欧州でのナフサの精製利幅は低迷した。しかしながら、2019年10月以降は米国と中国の貿易問題を巡る第一段階の合意署名による中国等の経済成長回復に対する期待感が市場で高まったこともあり、アジア及びアジアにナフサを輸出している欧州でのナフサの精製利幅が回復した。また、2020年4月以降の米国でのガソリン需要の持ち直しに伴いナフサ需要が回復し始めたこともあり、欧州でのナフサの精製利幅は多少なりとも改善している。

アジアでは、従来から域内の製油所で石油化学原料用に利用するナフサの供給が不足気味であったことから、中東産油国もしくは欧州で生産されたナフサを輸入して利用していた。しかしながら、米国と中国の貿易を巡る対立の先鋭化に伴う関税賦課合戦による、米国やアジア等での経済減速に伴う石油化学製品需要の増加ペースの減速に加え、米国でのシェールガス等の生産拡大に伴い随伴で生産される液化石油ガス(LPG)の増加もあり、アジアの石油化学会社の中には、特に夏場を中心とした時期に暖房用需要が減少することによりナフサに比べ相対的に安価になるLPGを利用して石油化学製品を生産するところが出てきたことが、アジアでのナフサ需要と価格を圧迫することになり、2018年後半以降ナフサ価格はほぼ恒常的にドバイ原油価格を下回る状態となった。しかしながら、2020年1月下旬以降中国で新型コロナウイルス感染が広がって以降においても、アジアのナフサ需要の落ち込みは欧米諸国に比べ限定的な範囲にとどまっている。これは、中国を含めたアジア諸国で、新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療体制、個人の外出規制、及び在宅勤務体制の強化に伴い、新たにプラスチック製品(医療用品や医療機器、通信機器、及び飲食店での持ち帰りのための容器他)等の製造向けのナフサ需要が発生したことが影響しているとの指摘もある(なお、この時期は冬場の暖房シーズンであったことから、LPGの需給は引き締まっており、従って石油化学部門におけるナフサとの競争力は相対的に低下していた)。また、2020年の夏場においては、多少なりとも欧米諸国でのガソリン需要が回復したことによりガソリンに混入するナフサ需要が増加したことに伴い、世界的にナフサ需給に相対的に引き締まり感が発生したことが、アジア地域でのナフサ価格を下支えする格好となっている。


以上

(この報告は2020年10月19日時点のものです)

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