ページ番号1008886 更新日 令和2年11月18日

原油市場他: ハリケーン、新型コロナウイルス感染拡大とワクチン開発進展及びOPECプラス産油国減産措置を巡る観測等で変動する原油価格

レポート属性
レポートID 1008886
作成日 2020-11-16 00:00:00 +0900
更新日 2020-11-18 13:23:32 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 37
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2020/11/16 野神 隆之
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概要

  1. 米国ではハリケーン等のメキシコ湾岸来襲等に伴う当該地域製油所の操業上の支障等もあり原油精製処理がもたつくとともに石油製品生産活動が不活発化した。ただ、新型コロナウイルス感染拡大がガソリン需要を抑制したことからガソリン在庫の変動は限定的であった一方、秋場の農産物収穫シーズン突入による農機具向け軽油需要の増加に加え気温低下に伴う暖房向け石油製品需要の発生もあり留出油在庫は減少傾向となった。他方ハリケーンのメキシコ湾沖合通過に伴い当該地域周辺の油田関連施設の操業が停止したことで原油生産が減少したことが製油所での原油精製処理水準の低迷を相殺したことから、原油在庫は比較的限られた範囲で推移した。そして原油及びガソリンの在庫は平年幅上限を上回る状態が続き、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する量となっている。
  2. 2020年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少した他、欧州や日本でも秋場のメンテナンス作業等の実施による製油所での原油購入不活発化から当該在庫は減少した。このため、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州でほぼ横這いとなった他、日本ではガソリンや軽油を中心として石油製品在庫は増加した。ただ、米国では、ガソリン及び留出油在庫が減少したこともあり石油製品全体の在庫水準も低下した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが平年幅上限は超過している。
  3. 2020年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場では、世界各国及び地域で新型コロナウイルス感染者数が史上最高水準に到達したことに伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化に加え、米国での追加経済対策を巡るトランプ政権、共和党及び民主党との間での議論の膠着、リビアの原油生産量の増加等が原油相場に下方圧力を加えた反面、新型コロナウイルスワクチン開発進展の発表、及びOPECプラス産油国による既存の減産措置継続の可能性を示唆する情報等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は終値ベースで1バレル当たり概ね36~41ドルを中心とする領域で推移した。
  4. 米国では冬場の暖房シーズンに突入したことにより、今後製油所での原油精製処理量が増加し原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で発生するとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。そのような中で、11月30日及び12月1日に開催される予定であるOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合に向けた関係者の発言及び実際の各会合での議論内容等が原油相場に影響を及ぼすことになろう。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制や経済活動制限の強化具合及びワクチン・治療薬開発状況、OPECプラス産油国及び米国等の原油生産状況や米国石油坑井掘削装置稼働数、米国の金融政策及び追加経済対策を巡る状況、バイデン前米国副大統領の発言や行動、米国北東部を中心とする気温や気温予報、及び地政学的リスク要因等でも原油相場が変動する場面が見られることがありうる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2020年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量851万バレル、前年同月比で13.5%程度の減少となり(図1参照)、速報値(前年同月比で10.5%程度減少の日量880万バレル)から下方修正された。7月には1日の新型コロナ新規感染者数が7万人を超過、当時としては最高水準の感染者数を記録したこともあった他、8月に入ってからは1日当たり新規感染者数が7月の水準からは減少したとは言え、依然として3~6万人台で推移するなど、5月から6月前半にかけての概ね3万人以下の状態に比べれば相対的に高水準であったこともあり、個人の外出が手控えられた(米国では8月も通勤や商業施設への外出が不振であった旨示唆される他、同月の同国自動車運転距離数は前年同月比で12.3%の減少と7月の同11.2%の減少から減少幅が拡大している)ことが、同月の同国ガソリン需要の減少幅拡大に寄与したものと考えられる。また、同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は10月1日の推定46,418人から10月31日には同84,285人へと増加した他、10月30日には同99,784人と当時としては過去最高水準に到達するなどしたことにより引き続き個人の外出が不活発であったこともあり、2020年10月の同国ガソリン需要(速報値)は日量845万バレル、前年同月比で9.0%程度の減少と9月の同7.1%程度の減少から減少幅が拡大している。ただ、夏場のドライブシーズンに伴う個人の外出(いわゆる不要不急の外出と見なされやすい)が敬遠された影響が色濃く現れた7~8月に比べれば、9月7日を以てドライブシーズンが終了したことによりこの面での新型コロナウイルス感染拡大によるガソリン需要への影響が軽減された結果、落ち込み幅が限定されたものと見られる。他方8月下旬にハリケーン「ローラ(Laura)」、9月中旬にはハリケーン「サリー(Sally)」、10月上旬にはハリケーン「デルタ(Delta)」が、それぞれ米国メキシコ湾岸地域に来襲したことにより、当該暴風雨通過周辺地域に位置する製油所の稼働が電力供給途絶等により停止した他、秋場の製油所メンテナンス作業実施及び一部製油所での装置不具合の発生により、米国の原油精製処理量は総じて低調に推移した(図2参照)ことから、これがガソリンの生産水準を抑制する方向で作用したと見られる(ガソリン最終製品の生産は図3参照)ものの、新型コロナウイルス感染再拡大もあり需要が伸び悩んだことで相殺された結果、10月上旬から11月上旬にかけガソリン在庫は比較的限られた範囲での変動となった他、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~20年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~20年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~20年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~20年)

2020年8月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量366万バレルと前年同月比で9.1%程度の減少となり、7月の同7.7%程度の減少から減少幅が拡大した他、速報値である日量374万バレル(同7.2%程度の減少)から下方修正された(図5参照)。8月の同国留出油輸出量についてEIAは速報値時点では暫定的に日量130万バレル程度と見込んでいたものの、実際の輸出量は日量137万バレルと速報値を日量7万バレル上回っていたことから、この部分が確定値算出段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、下方修正の一因となったものと見られる。また、7月末を以て米国の失業保険追加給付を含む経済対策が失効した後、米国トランプ政権、共和党及び民主党との間での議論が事実上膠着したことにより、現在に至るまで追加経済対策が実施できない状態が続いていることが、同国経済に負の影響を与えていると見られ、8月の同国の鉱工業生産も前年同月比で7.0%の減少と7月の同6.8%の減少から減少幅が拡大しつつあり(因みに2019年8月の同国鉱工業生産は前年同月比で0.2%程度の減少であった)、それに伴い8月の同国の物流活動は前年同月比で7.1%の減少と7月の同4.9%の減少から減少幅が拡大している(因みに2019年8月の同国物流活動は前年同月比で4.0%の増加であった)ことが、留出油需要減少に寄与しているものと思われる。また、2020年10月の留出油需要(速報値)は日量394万バレルと前年同月比で6.7%程度の減少となっており、9月の当該需要(速報値)の同358万バレル(同8.8%程度の減少)から減少幅が縮小している。新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出、経済活動制限及び米国の追加経済対策を巡る関係者間での協議の膠着等が同国での留出油需要を抑制する方向で作用していると見られるものの、同国での暖房油需要消費の中心地である北東部では10月は下旬を中心として気温が平年を相当程度下回るほどに冷え込んだことにより、暖房油の需要が喚起されたことが、留出油需要の前年同月比での減少幅を縮小させたものと考えられる。そして、このような暖房向け需要に加え、同国中西部を中心とする地域での秋場の穀物を含む農産物の収穫シーズン到来に伴う農機具向け軽油需要が発生したことが同国の留出油需要を下支えする一方で、米国の製油所の稼働が伸び悩み気味となったことに加え製油所の留出油製造関連装置のメンテナンス作業が実施されたり留出油製造関連装置に不具合が発生したりしたと見られることに伴い留出油生産が需要を賄うには不十分であった(図6参照)こともあり、10月上旬から11月上旬にかけての留出油在庫は減少傾向を示したうえ、平年幅上方に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~20年)

図6 米国の留出油生産量(2009~20年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~20年)

2020年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で12.9%程度減少の日量1,844万バレルとなった(図8参照)。ガソリン及びジェット燃料を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を下回ったことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。また、ガソリンやジェット燃料に加えプロパン/プロピレン等の需要の確定値が速報値から下方修正された(同月の同国からのプロパン/プロピレン輸出量が速報値段階では日量99 万バレル程度と推定されるところ、確定値では同114万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国プロパン/プロピレン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる)一方で、ジェット燃料、重油及びその他の石油製品の需要が上方修正されたことにより相殺されて余りあったことから、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,830万バレル、前年同月比13.5%程度の減少)から上方修正されている。また、2020年10月の米国石油需要(速報値)は、日量1,896万バレルと前年同月比で8.5%程度減少した。ガソリン需要、ジェット燃料、軽油等の需要が前年同月を相当程度下回ったことから、同国石油需要も前年同月比で減少となっている。他方、10月上旬から11月上旬において米国メキシコ湾沖合をハリケーン「デルタ」及び「ゼータ(Zeta)」が通過したことに伴いハリケーン通過地域周辺の沖合油田関連施設で従業員が避難したことにより当該施設での操業が停止するとともに原油生産が減少したものの、ハリケーン通過後は米国メキシコ湾沖合の油田関連施設の操業が再開されるとともに原油生産が回復した一方で、米国の原油精製処理活動が総じてもたつき気味であったこともあり、10月中旬から11月中旬にかけ原油在庫水準は上下に変動しながらも若干の減少となったが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図9参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~20年)

図9 米国原油在庫推移(2003~20年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~20年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~20年)

2020年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少した他、欧州や日本においても秋場のメンテナンス作業等の実施による製油所での稼働低下に伴う原油精製処理活動の鈍化もあり原油購入が不活発となったことから当該在庫は減少した。このため、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では製油所の稼働が低下したことにより石油製品生産活動が鈍化したものの、新型コロナウイルス感染拡大による欧州一部諸国での個人の外出規制及び経済活動制限の強化が石油需要に負の影響を与えたことで相殺されたことから、石油製品在庫はほぼ横這いとなった。また、日本では、製油所の稼働が低下したことにより石油製品生産活動は必ずしも活発ではなかったものの、ドライブシーズンに伴うガソリン需要期ではなかったことからガソリン在庫が積み上がった他、新型コロナウイルス感染の影響もあり経済がもたつき気味となったと見られることが軽油需要を抑制したと思われることから当該製品在庫が増加したこともあり、石油製品在庫は増加した。他方、米国では、ガソリン、留出油、及びプロパン/プロピレン在庫が減少した(秋場の穀物乾燥や気温の低下に伴う暖房向けプロパン需要の増加もありプロパン/プロピレン在庫が減少したと見られる)。加えて、その他の石油製品の在庫が減少した(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることによりブタンの在庫が減少したものと考えられる)。このようなこともあり同国の石油製品全体の在庫水準も低下した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが平年幅上限は超過している(図13参照)。そして、原油及び石油製品在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油と石油製品を合計した在庫も平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2020年10月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は72.4日と9月末の推定在庫日数(73.4日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~20年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~19年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~20年)

10月14日に1,300万バレル台後半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、10月21日には1,300万バレル台前半程度、10月28日には1,100万バレル台前半程度の、それぞれ量へと減少した。その後、11月4日には1,200万バレル台後半程度、11月11日には1,300万バレル台前半程度の、それぞれ量へと増加したものの、10月14日の水準は下回っている。中国の旺盛な原油輸入(2020年前半に原油価格が大幅に下落した際に大量に原油を購入した他、米国と中国との貿易問題を巡る第一段階の合意に基づき中国が米国からの原油調達を拡大していることが背景にあると見られる)に伴う製油所での石油製品生産活動活発化により、製造されたガソリンが輸出されていることで、シンガポールの軽質留分在庫水準が下支えされているものの、秋場のメンテナンス作業実施等に伴い製油所での石油製品生産活動が落ち込んだ時期があったと見られることが、シンガポールでの軽質留分在庫変動に影響しているものと考えられる(なお、インドネシアをはじめとする東南アジア諸国は新型コロナウイルス感染拡大がガソリン需要を抑制している格好となっているもあり、シンガポールからこれら諸国への軽質留分輸出は伸び悩み気味である)。そして、10月中旬から下旬にかけては、シンガポールでの軽質留分在庫減少傾向に伴うガソリン需給引き締まり感がアジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えたうえ、原油価格の下落にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、ガソリンとドバイ原油の価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、その後はシンガポールでの軽質留分在庫が増加したことに加え、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、10月下旬から11月中旬にかけては、ガソリン価格とドバイ原油の価格差は縮小傾向となった。

ナフサについては、夏場を中心とした時期には石油化学部門向け原料の面で競合した結果ナフサ価格に下方圧力を加える格好となっていた液化石油ガス(LPG)につき、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近による需給引き締まり観測が市場で醸成され始めたことから、LPGの石油化学部門での利用可能性が低下することにより、相対的に価格面で優位になるナフサの需要が増加するとの見方が市場で広がり始めたことが、アジア市場でのナフサ価格に上方圧力を加えたり原油価格の下落にナフサのそれが追い付かない場面が見られたりしたこともあり、10月中旬から下旬にかけてはナフサとドバイ原油の価格差(この場合10月中旬時点ではナフサ価格がドバイ原油のそれを上回っていた)は拡大する場面が見られた。しかしながら、その後は欧米諸国等での新型コロナウイルス感染再拡大に伴う個人の外出規制や経済活動制限の強化でガソリン需要が影響を受けるとともにガソリンに混入するナフサ需要が減少することにより余剰となったナフサがアジア市場に流入するとの観測が市場で増加したうえ、韓国のロッテケミカルの大山(デサン)工場(2020年3月4日未明に工場内のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産110万トン)で爆発及び火災事故が発生した後操業を停止していた)の操業再開が当初の11月20日から11月30日に延期される旨10月6日に報じられたうえ、さらに10月19日には12月上旬まで延期される旨伝えられた他、11月5日には韓国のLG化学の麗水(ヨス)石油化学工場で火災が発生した結果ナフサ分解装置(エチレン生産能力年産116万トン)が操業を停止したと伝えられたこともあり、ナフサの需要が下振れするとの観測が市場で増大したことがアジア市場のナフサ価格に下方圧力を加えた他、原油価格の上昇にナフサ価格のそれが追い付かなかった結果、ナフサとドバイ原油の価格差は縮小したうえ、11月上旬末頃以降はドバイ原油価格がナフサ価格を上回る場面も見られた。

10月14日には1,500万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、10月21日には1,400万バレル台後半程度の量へと減少したものの、10月28日には1,500万バレル台後半程度の水準へと上昇、11月4日には1,500万バレル弱の量へと再び減少したが、11月11日には1,600万バレル台半ば程度の水準へと回復しており、10月14日の量を上回る状態となっている。中国で製油所の稼働が上昇、軽油の生産が活発化するとともに輸出枠を利用し尽くすべく輸出が促進されていることに加え、新型コロナウイルス感染拡大により需要が抑制されていることから欧州向けの軽油輸出による利幅の確保が困難になっていることもあり、中東やインド等からシンガポール方面に軽油が流入していることが、シンガポールの中間留分在庫の増加傾向の背景にあるものと考えられる。そして、10月中旬から下旬にかけてはドバイ原油価格の下落にシンガポール市場の軽油価格のそれが追い付かなかったことで両者の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)が拡大する場面が見られたものの、その後11月中旬にかけては、シンガポールでの中間留分在庫が増加したことに加え、原油価格の上昇に軽油のそれが追い付かなかったこともあり、軽油とドバイ原油の価格差は縮小傾向となった。

10月14日に2,400万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、10月21日には2,400万バレル台前半程度、10月28日には2,300万バレル台前半程度の量へと、それぞれ減少した。そして、11月4日も2,300万バレル強程度の水準が維持されたものの、11月11日には2,300万バレル強の量となるなど、全体として当該在庫は減少傾向となった。2020年前半に実施された新型コロナウイルス感染に伴う世界各国及び地域の個人の外出規制及び経済発動の制限措置の緩和後、世界貿易がある程度回復したこともあり、シンガポールでの船舶燃料販売がそれなりに堅調に推移したことが、重油在庫減少傾向の一因となっているものと考えられる。このようなことに加え9月上旬に韓国に来襲した台風9号及び10号に伴う同国原子力発電所の稼働停止(後述)による代替手段としての重油火力発電所の稼働上昇に伴う低硫黄重油調達の活発化もあり、10月中旬から11月中旬にかけての低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油のそれを上回っている)は上下に変動しつつもどちらかというと拡大する傾向を示した。他方、高硫黄重油価格は10月中旬時点ではドバイ原油価格を概ね下回っていたものの、パキスタンをはじめとする諸国での発電部門向け重油需要が堅調であった(10月後半にアジア市場での液化天然ガス(LNG)スポット価格が大幅に上昇したことにより、代替として割安な高硫黄重油に対する引き合いが増大したことが背景にあるものと見られる)ことに加え、原油価格の下落に高硫黄重油のそれが追い付かなかったことから、10月下旬においては高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを上回る場面も見られた。しかしながら、その後は、原油価格の上昇に高硫黄重油のそれが追い付かなかったこともあり、11月中旬には高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを再び下回るようになっている。


2. 2020年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況

2020年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場では、世界各国及び地域で新型コロナウイルス感染者数が史上最高水準に到達したことに伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化に加え、米国での追加経済対策を巡るトランプ政権、共和党及び民主党との間での議論の膠着、リビアの原油生産量の増加、国際エネルギー機関(IEA)による世界石油需要見通しの下方修正等が原油相場に下方圧力を加えた反面、新型コロナウイルスワクチン開発進展の発表、OPECプラス産油国による既存の減産措置継続の可能性を示唆する情報、ハリケーン「ゼータ(Zeta)」の米国メキシコ湾沖合通過に伴う当該地域の原油生産の減少等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は終値ベースで1バレル当たり概ね36~41ドルを中心とする領域で推移した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~20年)

10月19日には、イタリアの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が11,705人と史上最高水準に到達したうえ、この日同国のコンテ首相が新型コロナウイルス感染抑制に向けた新規の経済活動制限策を実施する旨表明したことに加え、同日スペインの一部地域で個人の外出規制や経済活動制限の強化を実施する旨発表された他、米国でも新型コロナウイルス新規感染者数が拡大しつつある旨示唆されるとこの日伝えられたことで、世界各国の経済成長及び石油需要の回復の鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、リビアの東部のアブ・アティフェル(Abu Attifel)油田(生産能力日量7万バレル)が10月24日より生産を再開する旨10月19日に報じられたことにより同国からの原油供給増加観測が増大するとともに石油需給緩和感を市場が意識したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、10月19日に開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)がOPECプラス参加全産油国に対し緊張感を持って先制的に行動するよう喚起する旨呼びかけたことで、2021年1月1日からのOPECプラス産油国減産措置緩和策実施の延期に対する期待が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.05ドルの下落にとどまり、終値は40.83ドルとなった。ただ、10月20日には、10月21日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(10月16日の週分)で、原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、10月20日に、米国トランプ政権が提案する新型コロナウイルス感染に対する追加経済対策の規模を1.88兆ドル(それまでは1.8兆ドル)へと引き上げた他、同日同国議会下院のペロシ議長(民主党)も当該対策が合意されることを希望している旨示唆したことで、当該対策合意に対する期待が市場で増大したことともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり41.46ドルと前日終値比で0.63ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2020年11月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2020年12月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり41.70ドル(前日終値比0.64ドルの上昇)であった)。それでも、10月21日には、この日EIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比で190万バレルの増加と市場の事前予想(同150~180万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことで、同国ガソリン需要低迷(実際この日から発表された米国石油統計では10月16日の週のガソリン需要は日量829万バレルと6月12日の週(この時は同787万バレル)以来の低水準であることを示していた)を市場が意識したこともあり、米国ガソリン先物価格が下落したことに加え、米国の追加経済対策に関するトランプ政権と民主党との協議が前進している旨この日明らかになった(当該協議は10月22日も継続される予定とされた)ものの、11月3日の大統領選挙投票日前には当該対策法案が議会両院を通過しないかもしれない旨ペロシ議長が示唆したことで、対策実施による同国経済回復の遅延に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.43ドル下落し、終値は40.03ドルとなった。10月22日には、米国の追加経済対策に関し合意が間近に迫っている旨ペロシ議長がこの日示唆したことで当該対策実施による同国経済と石油需要回復に対する期待が市場で増大したことに加え、10月22日にロシアのプーチン大統領が、今後のOPECプラス産油国の減産方針につき、現在の日量770万バレルの減産措置を2021年1月1日以降同580万バレルへと引き下げるという既定の方針を変更する必要はないと考えるものの、現在の減産措置を延長するといった選択肢を排除するわけではなく、必要であれば減産幅の拡大もありうる旨示唆したことで、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、10月22日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(10月17日の週分)が78.7万件と前週比で5.5万件減少し、市場の事前予想(86.0~87.0万件)を下回ったうえ、同日全米不動産業者協会(NAR)から発表された9月の同国中古住宅販売件数が年率654万戸と前月比で9.4%増加、2006年5月(この時は同658万戸)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(同630万戸)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.64ドルと前日終値比で0.61ドル上昇した。ただ、10月23日には、この日リビアの国民合意政府(GNA)とリビア国民軍(LNA)との間で恒久的停戦に向けた合意書に署名がなされるとともに、同国で操業停止が続いていたエス・シデル(Es Sider)及びラス・ラヌフ(Ras Lanuf)両石油ターミナル(それぞれ原油出荷能力日量32万バレル及び同22万バレル)に対し宣言されていた不可抗力条項の適用が解除されたことで、同国からの原油供給増加に伴う世界石油需給感を市場が意識したことに加え、米国の追加経済対策を巡る協議の進捗状況に関し、この日はムニューシン財務長官側からもペロシ議長側からも発表がなかったことにより、当該対策決定による米国経済及び石油需要の回復に対する悲観的な見方が市場で増大したこと、10月22日時点の米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が76,195人と7月16日に記録した史上最高記録である77,299人に次ぐ水準に到達している旨明らかになった他、欧州諸国でも新規感染者数が増加する傾向を示している旨示唆されたことから、世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したこと、10月23日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で211基と前週比で6基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は193基と同6基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.79ドル下落し、終値は39.85ドルとなった。

また、米国のメドウズ大統領首席補佐官とペロシ議長が、同国の追加経済対策を巡り目標を勝手に変更しているとして互いを非難し合っている旨10月25日に報じられたことで、当該対策の関係者間での合意と実施による同国経済及び石油需要の回復に対する市場の期待が後退したことに加え、新型コロナウイルス感染拡大のため10月25日にスペイン政府が11月9日にかけ午後11時~翌朝午前6時の外出禁止令を同国全土で実施することを含む緊急事態宣言を発表した他、英国でも個人の行動規制が拡大されつつある旨10月26日に伝えられることに加え、1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数がイタリア(21,273人)、フランス(52,010人)及び米国(85,317人)で過去最高を記録した旨10月25日に報じられた他、10月26日にはロシアでも1.7万人超と記録的に多い1日当たり新規感染者数が報告されたうえ、ドイツで個人の行動制限措置の実施が検討されている旨10月26日に報じられる等したことにより、新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したこと、10月26日にリビアのエル・フィール(El Feel)油田(原油生産能力日量7万バレル程度とされる)の操業に対する不可抗力条項の適用が解除され、これを以て同国の主要原油生産関連施設での操業がほぼ全て再開される方向となったことに加え、同国の原油生産量が日量69万バレルに到達した(因みに8月は同10万バレルであった)旨同日伝えられたことにより、同国の原油生産増加と世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、10月26日の原油価格の終値は1バレル当たり38.56ドルと前週末終値比で1.29ドル下落した。10月27日には、この日メキシコのユカタン半島北部を熱帯性低気圧「ゼータ(Zeta)」が通過するとともに、10月28日に向け勢力を強めつつ米国メキシコ湾沖合を北上、同国ルイジアナ州南東部に上陸すると予想されることにより、既に同湾沖合油田の原油生産量全体の49.45%に当たる日量914,811バレルの生産が停止した他今後当該地域での原油生産停止及び米国原油輸入への支障の発生による米国での原油供給減少と石油需給引き締まり懸念が市場で発生したことに加え、前日の上昇に伴う利益確定の動きが発生したこともあり米ドルが一時下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.01ドル上昇し、終値は39.57ドルとなった。しかしながら、10月28日には、この日ドイツのメルケル首相が新型コロナウイルス感染拡大のため11月2日から1ヶ月に渡り同国の一部都市において限定的な緊急封鎖を実施する旨発表した他、フランスのマクロン大統領も同日夜(現地時間)に新型コロナウイルス感染抑制対策として新規の規制を発表する予定である旨同日伝えられたこと、イタリアで1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が24,991人と史上最高水準に到達した旨同日報じられたこと、米国イリノイ州で新型コロナウイルス感染拡大のため飲食店の屋内営業を10月30日より停止する措置を実施する旨同州のプリツカー知事が明らかにしたと10月27日夕方(米国東部時間)に報じられたことで、欧米諸国等での経済及び石油需要回復に対する不安感が市場で増大したことに加え、10月28日にEIAから発表された米国石油統計(10月23日の週分)で原油在庫が前週比で432万バレルの増加と市場の事前予想(同20~150万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したこと、欧米諸国での新型コロナウイルス感染拡大に伴い米国株式相場が下落するとともに安全資産である米ドルの購入が進んだことにより米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり37.39ドルと前日終値比で2.18ドル下落した。また、10月28日午後(米国東部時間)に、新型コロナウイルス感染拡大に伴い10月30日から12月1日にかけフランス全土において都市封鎖を実施する旨同国のマクロン大統領が発表したことに加え、10月25日に発令された、11月9日まで適用される予定であった緊急事態宣言を2021年5月9日まで延長する旨10月29日にスペイン議会が決定したこと、イタリアで1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が3日連続で史上最高記録を更新した旨10月29日に同国政府が発表した他、米国でも新型コロナウイルス新規感染者数が拡大しつつある旨同国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が警告したと10月29日に伝えられるなどしたことにより、欧米諸国等の経済及び石油需要回復に対する市場の懸念が増大したことから、この日(10月29日)の原油価格も前日終値比で1バレル当たり1.22ドル下落し、終値は36.17ドルとなった。10月30日も、米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が10月29日時点で91,254人と史上最高水準に到達した旨この日報じられたうえ、米国情報技術(IT)関連企業で新製品の売り上げが市場の事前予想を割り込んでいたり、この先の業績に対する不安材料が明らかになったりしたことや、11月3日に実施が予定されている米国大統領選挙投票に向けた不透明感に伴う持ち高調整が発生したこともあり、米国株式相場が下落したことに加え、10月30日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で221基と前週比10基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は204基と同11基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり35.79ドルと前日終値比で0.38ドル下落した。この結果、原油価格は10月28~30日の3日間で1バレル当たり合計3.78ドルの下落となった。

11月2日には、これまでの下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、10月31日に中国国家統計局から発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門好不況の分岐点)が51.4と市場の事前予想(51.3)を上回ったうえ、11月2日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された10月の同国製造業PMIが53.6と市場の事前予想(52.8~53.0)を上回った他、11月2日に米国供給管理協会(ISM)から発表された10月の同国製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が59.3と9月の55.4から上昇したうえ市場の事前予想(55.8~56.0)を上回ったことで、世界経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したこと、現在実施しているOPECプラス産油国による日量770万バレルの減産措置を2021年第一四半期末まで延長することを含めた今後のロシアの原油生産方針に関する選択肢につき、同国のノバク エネルギー相と同国石油会社幹部との間で11月2日に協議を行った旨同日伝えられたことにより、OPECプラス産油国による既存の減産措置の2021年1月以降の延長に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり36.81ドルと前週末終値比で1.02ドル上昇した。また、11月3日も、OPEC産油国及びロシアが2021年早期において減産措置を強化することを検討している旨11月3日に報じられたことで、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、11月3日に実施されている次期米国大統領選挙投票の結果バイデン氏が当選することにより大規模な追加経済対策が実施されるとの期待から米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度の拡大に伴い米ドルが下落したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.85ドル上昇し、終値は37.66ドルとなった。さらに、11月4日も、11月2日以降伝えられている、OPECプラス産油国による既存の減産措置の延長等の検討の動きに関する情報による、市場での石油需給引き締まり期待増大の流れを引き継いだうえ、11月4日未明(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が今次大統領選挙に関する演説を行い一方的に勝利宣言したことを受け、米国の対イラン強硬姿勢の継続に伴うイランからの原油供給低迷長期化や原油価格維持のためのOPECプラス産油国減産措置実施への支持堅持予想が市場で増大したこと、11月4日にEIAから発表された米国石油統計(10月30日の週分)で原油在庫が前週比800万バレルの減少と市場の事前予想(同60万バレル程度の減少~89万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したこと、11月3日に実施された米国議会選挙の開票過程において上院で民主党が多数派を占める可能性が低下したことにより、これまでの政策が継続されるとの楽観的な見方が市場で増大したこともあり11月4日の米国株式相場が上昇したことから、この日(11月4日)の原油価格の終値は1バレル当たり39.15ドルと前日終値比で1.49ドル上昇した。この結果原油価格は11月2~4日の3日間で1バレル当たり合計3.36ドルの上昇となった。しかしながら、11月5日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、サウジアラビアが需要軟調見通しから大部分の原油につき12月のアジア諸国向け販売価格を引き下げた旨11月5日に報じられたこと、11月5日にギリシャが全土に渡る封鎖措置を11月7日午前6時(現地時間)より3週間実施する旨発表したうえ、フランスでも午後10時から翌朝午前6時においてのパリ市内での飲食物宅配及び持ち帰りの禁止等の追加措置が11月6日より実施される旨パリ市のイダルゴ市長が11月5日に発表した他、イタリアでも11月5日時点の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が過去最高水準に到達した旨判明した一方、11月5日に欧州委員会(EC)が2021年のユーロ圏経済成長率見通しを4.2%と7月7日発表時の6.1%から下方修正した旨発表したことから、この日(11月5日)の原油価格の終値は1バレル当たり38.79ドルと前日終値比で0.36ドル下落した。11月6日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定が市場で発生した流れが継続したことに加え、フランス、イタリア及び米国等で1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が史上最高に到達した旨11月6日に報じられたことで、この先の個人の外出規制及び経済活動制限の強化と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.65ドル下落し、終値は37.14ドルとなった。この結果原油価格は11月5~6日の2日間で1バレル当たり合計2.01ドル下落した。

11月9日には、米国医薬品製造大手ファイザーがドイツ医薬品製造会社ビオンテックと共同で開発中である新型コロナウイルスワクチンにつき接種者の90%以上に感染防止効果が認められたとの暫定結果を11月9日朝(米国東部時間)にファイザーが発表したことで、新型コロナウイルス感染抑制と世界経済及び石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことに加え、状況によっては現在2021年1月1日より実施する予定であるOPECプラス産油国減産措置の縮小(既存の日量770万バレルの減産を同580万バレルに)を調整することもありうる旨11月9日にサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が示唆したことで、当該減産措置の縮小延期に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.15ドル上昇し、終値は40.29ドルとなった。11月10日も、早ければ12月には新型コロナウイルスワクチンが優先度の高い集団に対し接種可能となる旨米国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が明らかにしたことで、当該ワクチン接種による新型コロナウイルス感染抑制に伴う世界経済及び石油需要回復期待が市場で増大したことに加え、11月12日にEIAから発表される予定である米国石油統計(11月6日の週分)で原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり41.36ドルと前日終値比で1.07ドル上昇した。この結果原油価格は11月9~10日の2日間で1バレル当たり合計4.22ドルの上昇となった。また、11月10日午後4時半(米国東部時間)に米国石油協会(API)から発表された米国石油統計で原油在庫が前週比515万バレル、ガソリン在庫同330万バレル、留出油在庫同562万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫90~190万バレル程度の減少、ガソリン30万バレル程度の減少~40万バレル程度の増加、留出油在庫同165~190万バレル程度の減少)に反し、もしくは上回って減少している旨判明したことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、米国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が2021年4月には一般の米国人もワクチン接種が可能になるものと見込まれる旨示唆したと11月10日夕方(米国東部時間)に報じられたことで、この先の個人の往来活発化及び米国経済回復に対する期待が市場で増大したこと、OPECプラス産油国が2021年1月1日に実施を予定している減産措置の規模縮小を3~6ヶ月間延期する旨検討していると11月11日に伝えられた他、同日アルジェリアのアルカブ エネルギー相(OPEC議長)が、市場の状況次第では現在の減産措置につき2021年への延長もしくは減産幅の拡大を行うことがありうる旨11月11日に発言したことで、現在実施中のOPECプラス産油国減産措置の延長もしくは規模拡大に対する期待が市場で増大したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、これまでの原油価格の上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、11月11日にOPECが発表した月刊オイル・マーケット・レポートでOPECが2020年の世界石油需要を日量28万バレル、2021年のそれを同58万バレル、それぞれ下方修正した旨判明したこと、米国で1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が11月10日時点で推定139,855人と史上最高水準にまで増加するとともに、一部の州では経済活動制限の強化等を実施する方針である旨11月10~11日に明らかになったことで、短期的には新型コロナウイルス感染拡大により経済活動及び石油需要が抑制されるとの懸念が市場で増大したこと、リビアの原油生産が日量110万バレルに到達し、2020年1月の内戦による同国石油生産及び出荷関連施設操業停止前の生産水準(因みに2019年12月の同国原油生産量は日量114万バレルであった)に接近しつつある旨11月11日に報じられたことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、この日(11月11日)の原油価格の終値は1バレル当たり41.45ドルと前日終値比で0.09ドルの上昇にとどまった。ただ、11月12日には、過去の実績と欧州での新型コロナウイルス感染拡大を反映し、世界石油需要を2020年第三四半期に日量40万バレル、第四四半期に同120万バレル、2021年第一四半期に同69万バレル、それぞれ下方修正した他、新型コロナウイルスワクチンが広く利用可能になるのは2021年半ば頃となることから、経済活動や石油需要の回復は2021年後半となるであろう旨の見解をこの日IEAが明らかにしたことに加え、11月12日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で428万バレルの増加と市場の事前予想(同91~300万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したこと、11月11日時点の米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が推定142,860人の史上最高水準に到達するとともに11月12日に米国イリノイ州シカゴ市が30日間の個人の外出自粛勧告を行う旨発表した他、この日ミシガン州デトロイト市も2021年1月11日まで公立学校において遠隔授業を実施する旨明らかにするなど、同国での新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制等が強化されつつあることで、同国経済と石油需要の先行きに対する懸念が市場で増大したうえ、新型コロナウイルスワクチン開発進展の情報にもかかわらず今後数ヶ月間は米国経済の状況は厳しい可能性がある旨の見解を11月12日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が示したこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル下落し、終値は41.12ドルとなった。また、11月13日も、新型コロナウイルス感染抑制のためイタリア国内の2州(トスカーナ州及びカンパーニャ州)で新たに個人の外出規制及び経済活動制限を強化する旨11月13日に同国政府が発表した他、イタリアに加え米国、ドイツ及びロシアでも1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が過去最高水準に到達した旨11月13日に明らかになったことで、世界経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、リビアの原油生産量が日量114.5~121.5万バレルと11月11日の同110万バレル程度から増加している旨11月13日に報じられたこと、11月13日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で236基と前週比で10基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は217基と同10基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり40.13ドルと前日終値比で0.99ドル下落した。この結果原油価格は11月12~13日の2日間で1バレル当たり合計1.32ドルの下落となった。


3. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での注目点は、まず、イランを含む中東情勢であろう。2020年11月3日に実施された米国の次期大統領選挙投票では、バイデン前副大統領が当選確実であると11月7日に報じられるとともに同日同氏が勝利宣言を行った。今後同氏が大統領に就任することにより、オバマ前大統領(とバイデン前副大統領)時代に締結されたイラン核合意をトランプ大統領が離脱した後同大統領が対イラン制裁を実施したといった一連の流れを戻す作業に取り組むことになろう。このため、最終的には米国がイラン核合意に復帰するとともに対イラン制裁を解除することで事実上のイラン原油輸出制限が撤廃されることにより、その分だけイラン産原油が世界石油市場に流入、石油需給が緩和されるといった展開が想定される。2018年5月8日に米国がイラン核合意を離脱し対イラン制裁再開を決定した時点でのイランの原油生産量(2018年5月)は日量385万バレルであったが、2020年10月の同国の原油生産量は同189万バレルであることから、この差分(つまり同196万バレル)の原油供給が今後増加するとともに世界石油市場に流入する可能性がある。実際には、トランプ大統領の任期が2021年1月20日まで残存していることから、この期間中はトランプ政権がイラン(及びイランと取引を行うイラン内外の政府、法人及び個人)に対しさらなる制裁等を実施する旨警告したり実際に実施したりする可能性がある他、バイデン前副大統領の大統領就任後も、これまでこじれてしまった米国とイランとの外交関係の修復に時間を要する可能性があることに加え、2021年6月18日に実施される予定であるイラン次期大統領選挙で保守強硬派の候補が大統領に当選した場合には米国の核合意復帰過程が一層複雑化することもありうるなど、今後の展開が紆余曲折を経る可能性はあるものの、バイデン政権においては、トランプ政権時代のように、イランに対して制裁を強化していく方向ではなく、制裁を緩和していく方向に向かうとの観測が市場では増大すること、またトランプ大統領が退任することを見越してイランや消費国が既存の米国制裁措置にもかかわらず原油生産増加や売買契約等の復活に向け準備を開始する結果、比較的早期にイランからの原油供給が増加するといった展開もありうることにより、この面では少なくとも石油需給の緩和感が市場で醸成されることから、原油相場には下方圧力を加えやすくなるものと考えられる。もっとも11月13日の時点でトランプ大統領は敗北宣言を行っておらず、今後大統領選挙投票再集計等を巡る訴訟を含め次期大統領選出過程に不透明感が強まるようだと、米国のイラン核合意復帰とイランからの原油輸出再開を巡る市場での楽観的な見方が後退することにより、それが原油相場に反映される場面が見られることもありうる。また、イラン核合意への米国の復帰を巡り、中東諸国(サウジアラビアを含む中東湾岸産油国及びイスラエル等)との関係も複雑化する可能性があり、今後のこれら諸国政府関係者による発言や行動によっては、原油相場に影響を与える可能性もある。

ベネズエラに関しては、オバマ前大統領(及びバイデン前副大統領)がチャベス及びマドゥロ両政権と必ずしも友好的であったというわけではない。このため、バイデン前副大統領が次期大統領に就任したとしても、直ちにマドゥロ大統領と対立するグアイド国会議長の支援を取り止めてマドゥロ大統領の支援に乗り換えるといった展開にはなりにくく、従ってベネズエラ情勢の混乱が収拾して米国が現在発動している制裁が解除されるとともに国外からのベネズエラ石油産業向け投資が再開されることにより、同国の原油生産が増加するまでには、少なくともイランの場合以上に時間を要する可能性があるものと考えられる。このようなことから、今後バイデン前副大統領がベネズエラ情勢に対してどう関与していくかということについては注目する必要があろうが、ベネズエラはイランよりは緩やかに原油供給が増加していくとの市場心理から、短期的には原油相場への影響はどちらかというとより中立的なものになりやすいものと見られる。

リビアでは、西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会)(HoR:House of Representatives)を支援する、ハフタル将軍を指導者とするリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトやUAE等が支援(ロシアも支援しているとの指摘もある))との間で事実上の内戦状態が続いていたが、9月18日にはLNAのハフタル将軍が、GNAとの間で石油販売収入を公平に分配する他、分配が公平に実施されているか監視する委員会を設置する旨合意したことにより、封鎖されていた同国の油田操業を1ヶ月間可能にする旨表明した。これにより、同国の油田関連施設に対し宣言されていた不可抗力条項の適用が解除され始めるとともに、同国での原油生産(8月時点では日量10万バレルであった)が増加し始めた。また、10月23日にはGNAとLNAとの間で3ヶ月間に渡る停戦(但しテロ組織への攻撃については停戦の範囲外)及び外国勢力の排除を含む、恒久的停戦に向けた合意書に署名した旨国連リビア支援団が発表した。10月26日には同国南西部にあるエル・フィール油田の操業に対する不可抗力条項の適用を解除しており、これによりリビアの全石油生産関連施設に対する不可抗力条項の適用は解除された。そのようなこともあり、11月7日には同国の原油生産量が日量103.6万バレルに、11月13日には同114.5万バレルに到達した旨同国国営石油会社NOCが発表した(11月13日には日量121.5万バレルに到達したとも別途報じられる)。そのような中で、11月9日にはGNAとHoRとの間での会議がチュニジアのチュニスで1週間程度の予定で開始され、選挙の早期実施を含めた和平問題につき協議が行われており、11月13日には同国での大統領及び議会議員選挙を2021年12月24日に実施することで合意した。このように、同国の原油生産は急速に回復するとともに、対立していた勢力間での対話の機運が相対的に高まっている。しかしながら、トルコのエルドアン大統領は10月23日に締結された停戦合意の有効性につき疑問視するなど旨同日報じられており、GNAとHoR(及びLNA)との間での和平協議の行方を含め、同国の情勢安定化については不透明感が払拭できない部分も存在する。そして、同国では停戦が実現し油田関連施設の操業が開始されても短期間で再度当該施設が封鎖されることにより原油生産が停止してしまう例が過去頻発していたこと等を考慮すれば、今後同国での原油生産が十分に回復したうえで、それがある程度の期間継続することにより、最早同国からの原油生産停止リスクが相当程度低下したと市場が確信するまでは、原油相場に持続的に下方圧力を加えるといった展開にはなりにくい部分もあるものと考えられる。

9月27日には、アゼルバイジャンとアルメニアとの間で軍事衝突が発生した(両国はアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州を巡り長期に渡り対立してきた)。北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)及びロシア等は戦闘停止を要請した一方で、トルコはアゼルバイジャン支持を表明している。その後アルメニアとアゼルバイジャンが10月10日正午(現地時間)、10月18日午前0時(同)、10月26日午前8時(同)を以て、停戦する旨両国が合意したものの、その後も両国間での戦闘は継続した。しかしながら、11月10日にアルメニア、アゼルバイジャン及びロシアの3ヶ国間で紛争終結に向けた合意書(アルメニアが実質的に支配してきたナゴルノカラバフ地方の周辺の7地域のうちの3地域をアゼルバイジャンの支配に移行する旨の内容)に署名し、当該紛争は事実上終結した格好となっている(ロシアは紛争地域に最低5年間の期間で以て1,960人の平和維持部隊を派遣した)。ただ、事実上支配地域を失ったアルメニアでは国民の反発が発生していると言われており、今後両国間、そしてアルメニアを支援するロシア、アゼルバイジャンを支援するトルコとの間での関係が安定するかどうかにつき不透明な部分も残る。アゼルバイジャン国内及びアルメニアの近隣にはアゼルバイジャンの首都バクー(Baku)からの原油(バクー~スプサ(Supsa)(ジョージア)パイプライン(原油輸送能力日量14.5万バレル)、及びBTCパイプライン(バクー~ジェイハン(Ceyhan)(トルコ)、原油輸送能力日量120万バレル))及び天然ガス(南コーカサスパイプライン(バクー~エルズルム(Erzurum)(トルコ)、SCP:South Caucasus Pipeline、天然ガス輸送能力同25億立方フィート))を輸送するパイプラインが通過しているので、今後両国間での対立が先鋭化するとともに戦闘が再開されるようであれば展開によってはこれら石油(及び天然ガス)輸送関連施設の操業が脅かされる恐れがあることから、この面で石油(及び天然ガス)市場関係者の懸念が増大する結果、原油相場にそのような懸念が織り込まれることもありうるので、引き続き当面当該情勢については注意する必要があろう。

経済面では、まず新型コロナウイルス感染及び新型コロナウイルスワクチン及び治療薬の開発を巡る状況が原油相場に影響することになるであろう。特に最近欧州各国及び米国では感染者数が史上最高水準に到達するなど増加傾向にあるとともに、一部諸国では個人の外出規制及び経済活動制限が強化されつつあることもあり、経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化懸念を市場で増大させる結果、原油相場を押し下げる場面が見られた。今後も、新型コロナウイルス感染者数が増加したり、高止まったりするようであれば、個人の外出規制及び経済活動制限が強化されることにより、ガソリン、ジェット燃料、軽油及び重油の需要が抑制される可能性が増大することから、石油需要の伸びの鈍化を市場が意識する結果、原油相場に下方圧力が加わるといった展開もありうる。反対に、新型コロナウイルス感染拡大ペースが鈍化する傾向が見られる、もしくは感染が縮小に転じるようであれば、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されることから、ガソリン、ジェット燃料、軽油及び重油等石油需要の回復期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。他方、11月9日には開発中の新型コロナウイルスワクチンが90%超の確率で感染を防止できた旨米国製薬大手ファイザーが発表した。共同で開発を行っているドイツバイオ医薬品ベンチャー企業のビオンテックは1年間に渡り感染防止効果を期待できるとの見解を明らかにしたものの、これについてはまだ確定的ではない旨同日報じられる。このような情報により、この日は米国の株式相場とともに原油相場が大幅に上昇する場面が見られた。新型コロナウイルスワクチンについては、治験終了後米国食品医薬局(FDA)の承認を受けたうえで、ワクチンの接種が実施されることにあることから、なお、ワクチン投与までにはそれなりの時間を要する(さらにファイザーとビオンテックが共同開発している新型コロナウイルスワクチンは摂氏マイナス70度という超低温で保管する必要があるが、現時点ではそのような保管機材を所有する医療機関は極めて限られるとも指摘されている)ことになり、その間は新型コロナウイルス感染拡大に伴い個人の外出及び経済活動が制限されるとともに石油需要がその影響を受けるといった展開となりやすいものと考えられる(FRBのパウエル議長も新型コロナウイルスワクチン開発進展の情報にかかわらず今後数ヶ月間米国経済は厳しい状況となるであろう旨11月12日に示唆している)。ただ、今後もこのような新型コロナウイルスワクチン及び治療薬の開発の進展に関する情報が明らかになるようであれば、この先の経済活動の回復に伴う石油需要の増加に対する期待から、原油相場に上方圧力が加わることもありうる。

他方、7月31日に失効した米国失業保険の追加給付を含む経済対策につき、同国のトランプ大統領が対策規模の提案を1.8兆ドルに引き上げた(9月30日にムニューシン財務長官は1.5兆ドル規模の経済対策を提案していた)他民主党を上回る景気対策を希望している旨10月9日明らかにしたが、米国議会下院多数派の民主党は2.2兆ドルの対策規模を主張し続けており、両者の相違は解消されてない。そのような中で、米国大統領選挙投票日に突入したうえ、11月7日にはバイデン前副大統領が当選確実となり同氏は同日勝利宣言を行ったものの、トランプ大統領は敗北を認めていない他、11月9日には共和党のマコネル議会上院院内総務が2020年末に向け限られた分野での追加経済対策を実施すべきである旨主張しており、当該問題は容易に収拾する兆しは見えない。現時点でも、トランプ大統領が選挙結果を巡り訴訟等の準備を進めていることもあり、今後もそのような訴訟手続き等によりトランプ政権の政策遂行に空白が生じる結果、当該問題に対する議論が長引く可能性があることから、米国の経済対策が後手に回ることにより米国の経済回復の減速及び石油需要の伸びの鈍化観測が市場で増大する結果、原油相場を抑制する可能性もある。

他方、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施に伴う同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、3月15日に米国FRBは政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、8月31日には、FRBのクラリダ副議長も、失業率が低下しても、物価上昇率が目標ないしは安定した金融市場にとって脅威となる水準を継続的に超過する、もしくは超過する可能性があると想定されなければ、金利を引き上げることにはならないであろう旨発言したりするなどしたことにより、米国の金融当局はより長期に渡り一層の金融緩和策を実施する意向であると市場では受け取られていることから、今後も米ドルが下落する、もしくは金融緩和措置を通じ将来的に経済が回復することへの期待が増大することにより株式相場が上昇することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといったことも想定される。そして、この場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの判断から低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない現象が見られやすくなる一方で、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には資金流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。

他方、バイデン前副大統領が次期大統領に就任した場合には、米国と中国との関係は改善に向かうといった観測が市場で発生することで株式及び原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうる。もっとも、両国間で、中国人権問題等を巡り少なくともある程度の期間は政治的な駆け引きが続く結果、関係改善までの過程が紆余曲折を経ることも否定できない。このようなことから、この面での動向によっては株式及び原油相場が上下に変動する場面が見られることも否定できない。

米国では、冬場の暖房シーズンに突入し(暖房シーズンは通常11月1日~翌年3月31日である)、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加、その結果原油購入が活発化するとともに季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなる。そして、このような市場の心理が原油相場を下支えしてくものと思われる。その際市場が考慮するのは足元の気温(特に米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温)及び気温予報である。例えば、足元の気温が大幅に低下する、もしくは今後3ヶ月間の気温が平年を下回る寒冷なものとなる旨の予報が発表される、ということになれば、暖房用石油製品需要が盛り上がるとの認識が市場で強まることにより、軽油・暖房油等の価格が上昇、それに原油価格が引きずられる、といった展開となることもありうる。また、9月10日には米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センター(CPC:Climate Prediction Center)が、足元でラニーニャ現象が発生しており、2020~2021年の北半球の冬にかけ75%の確率で同現象が継続する可能性がある旨の見解が発表された他、11月12日にもラニーニャ現象が2021年1~3月に95%の確率で継続する可能性がある旨CPCが発表していることもあり、この冬は気温が相当程度低下する(ラニーニャ現象が発生した場合、北半球は厳冬になると言われている)結果、暖房用石油製品需要が増加する可能性があることが示唆される。このような中で、冬場の前半で気温低下予想が発表されたり実際に気温が低下したりすれば、市場関係者間でこの冬全体に渡る暖房用石油製品需要拡大観測と需給引き締まり懸念が増大し、それが原油相場に上方圧力を加えることに繋がりやすい。

また、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等における濃霧発生の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げに影響が及ぶことがありうる他、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少に向かいやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計でメキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度の減少傾向を示す場面が発生することにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加えられる、といった展開となることも予想される。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受け入れが再開されることから、反動で相当程度在庫が増加する可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることもありうる。

この先、11月30日にはOPEC総会、12月1日にはOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国閣僚級会合が開催される予定である。欧州や米国等一部諸国や地域では新型コロナウイルス感染者数が史上最高水準に到達するとともに、一部地域においては個人の外出規制もしくは経済活動制限の強化がなされていることから、世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に関する懸念が市場で拡大しつつある。このようなことから、現在の日量770万バレルを2021年1月1日以降同580万バレルへと縮小する予定であるOPECプラス産油国減産措置に関し、当初の決定通り減産規模を日量580万バレルに縮小するか、もしくは日量770万バレルの減産措置を延長するか、ということが当該会合での議論の焦点となろう。新型コロナウイルス感染再拡大による石油需要への影響及びリビアでの原油生産増加等により、サウジアラビアは現在の日量770万バレルの減産措置を2021年3月末まで延長することを検討している旨10月8日報じられている他、10月19日に開催されたOPECプラスJMMC(Joint Ministerial Monitoring Committee)では、不安定な市場の状況と展望から、減産措置参加全産油国に対し先制的な姿勢で臨むよう呼びかけられたこと、今後リビアに加えイランの原油生産も増加する可能性があるところからすると、次回会合では先制的に既存の減産措置の延長を決定する可能性も否定できない。これについては、10月22日にロシアのプーチン大統領も、今後のOPECプラス産油国の減産方針につき、現在の日量770万バレルの減産措置を2021年1月1日以降同580万バレルへと引き下げるという既定の方針を変更する必要はないと考えるものの、現在の減産措置を延長するといった選択肢を排除するわけではなく、必要であれば減産幅の拡大もありうる(但し現在は必要ないと考えている)旨示唆しており、周辺の状況が許せば日量770万バレルの減産措置延長を拒否するわけではない旨示唆している。従って、OPECプラス産油国閣僚級会合直前の原油価格や世界経済を含めた世界石油需給バランスを巡る諸要因次第で、当該会合等で既存の減産措置の2021年への延長(状況によっては減産幅拡大)が決定される可能性もある。そしてその過程でOPECプラス産油国関係者(特にサウジアラビア及びロシア)等による発言に原油相場が反応する場面が見られることもありうる。特に原油価格が下落する過程においては、サウジアラビア等のOPECプラス産油国減産措置産油国が既存の減産措置の延長(もしくは減産措置強化)の可能性を示唆することにより、原油価格下落の抑制を試みる結果、原油価格が持ち直す可能性もある。他方、今後タンカー追跡データや顧客への通知等を通じて明らかになる原油供給状況に関する情報をもとに推定される、OPECプラス産油国の原油生産量を巡って発生する、市場関係者による観測等が原油相場を左右するといった展開も想定される。また、2020年前半の低水準から原油価格が上昇してきたことにより、石油坑井掘削装置稼働数や原油生産の底打ちを期待する向きが市場にはあるが、投資家による収益確保の圧力により石油会社のシェールオイル等開発姿勢が慎重になっていると見る向きもある(さらに原油価格の回復が生産増加に反映されるまでには6ヶ月程度を要すると言われる)ことから、なかなか掘削装置稼働数や原油生産量が十分に回復しないことも予想され、それが市場関係者の間で同国石油産業の衰退の兆候と受け取られるとともに石油需給の引き締まり観測が市場で発生することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることも想定される。

全体としては、米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、今後製油所での原油精製処理量が増加し原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で発生するとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。そのような中で、11月30日及び12月1日に開催される予定であるOPEC総会及びOPECプラス産油国閣僚級会合に向けたOPECプラス産油国関係者の発言及び実際の各会合での議論内容等が原油相場に影響を及ぼすことになろう。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化具合及びワクチン・治療薬開発状況、OPECプラス産油国及び米国等の原油生産状況及び米国石油坑井掘削装置稼働数、米国等の金融政策及び景気刺激策に対する米国トランプ政権及び金融当局等の姿勢、バイデン前米国副大統領による米国経済及び外交政策に関する発言や行動、米国北東部を中心とする地域の気温及び気温予報及び地政学的リスク要因等でも原油相場が変動することがありうる。


4. 世界天然ガス市場動向

米国では8月は気温が上昇した(図16参照)ことにより空調向け電力消費が比較的堅調に推移したものの、水力、太陽光及び風力による発電が堅調であったことにより相対的に天然ガスの発電部門向け需要が抑制された(図17参照)と見られる他、7月末を以て失業保険の追加給付を含む経済対策が終了したことが同国経済にとって足枷となったことに加え、新型コロナウイルス感染が再拡大し始めたことにより、商業及び産業部門における電力需要が低迷したこともあり、8~10月の発電部門における天然ガス需要は前年を相当程度割り込む状態となった(図18参照)。また、新型コロナウイルス感染再拡大に伴う鉱工業部門の不振により8~10月の産業部門向け天然ガス需要も前年同月水準を割り込むこととなった。他方、9~10月は同国で気温が低下してきたこともあり民生部門向け天然ガス需要が前年同月比で増加した(2020年3月以降の同国での新型コロナウイルス感染拡大により、在宅者数が相対的に増大したこともあり、自宅での給湯用に加え暖房用天然ガス需要が増加していることが同月の民生部門向け天然ガス需要を押し上げている側面もあるものと見られる)。このようなことから、8~9月は産業部門及び発電部門での天然ガス需要の落ち込みを民生部門向け天然ガス需要で相殺しきれなかったことから同国の天然ガス需要は前年同月を下回る消費量となったが、10月は気温が平年を相当程度下回る場面が見られたことにより暖房用を中心とする民生部門向け天然ガス需要が堅調となったこともあり、同月の同国天然ガス需要は前年同月比で微増となった。

図16 米国(ニューヨーク)気温(2020年)

図17 米国の発電量に占める石炭と天然ガスの占有率(2011~20年)

図18 米国天然ガス消費増加量(前年同月比)(2015~20年)

他方、メキシコでは、VAG(ビラ・デ・レイエス-アグアスカリエンテス-グアダラハラ(Villa de Reyes-Aguascalientes-Guadalajara)パイプライン(天然ガス輸送能力日量8.86億立方フィート)の建設が2020年3月31日に完了、同年6月中には操業を開始したと7月6日に伝えられることもあり、米国からのパイプライン経由のメキシコ向け天然ガス輸出量は増加傾向となり(図19参照)、8月には日量60億立方フィート程度の水準に到達したと見られる他、9~10月も高水準を維持している(他方、相対的にメキシコでの受入価格が高水準である米国から同国向けのLNG輸出は8~10月は低水準にとどまったものと推測される)。

図19 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~20年)

また、欧州やアジア諸国では2019~20年の冬が温暖であったことに伴い同時期暖房用天然ガス需要が低迷したことに加え、新型コロナウイルス感染拡大に伴う欧州及びアジアでの経済活動減速により産業及び発電部門向け天然ガス需要が不振であったこともあり、これら地域における天然ガス需給が相当程度緩和したことにより、4月中旬には欧州(英国)の天然ガス価格が100万Btu当たり推定で2ドル程度を割り込んだ他、5月下旬には同1ドル近くにまで下落したことに加え、アジア諸国のスポットLNG価格も4月下旬には同2ドルを割り込む水準にまで下落したことが、米国産LNGに対する需要を押し下げるとともに米国産LNGを積載する予定だったタンカーの取り消しが相次いだ(米国からの輸出のためのLNGタンカー取り消し隻数は7~8月が各月40~45隻程度であると見る向きもある)。それでも欧州やアジア諸国における冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期到来に向けた天然ガス需要増加見込みから9月以降は米国産LNGに対する需要が回復しつつある(米国からの輸出向けLNGタンカー取り消し隻数は、9月が25隻、10月が10隻、11月は最大5隻、12月は取り消しなしと推定されている)。このように米国産LNGの輸出増加(図20参照)に伴い米国での輸出向けLNGのための原料となる天然ガス需要が持ち直してきている。

図20 米国からのLNG輸出量(2016~20年)

他方、米国では2020年1月下旬から7月末にかけ天然ガス価格が100万Btu当たり2ドルを割り込む状態であった(図21参照)他、原油価格も同年4月下旬に一時1バレル当たりマイナス40ドル程度にまで落ち込むなど低迷したこともあり、同国での原油及び天然ガス坑井掘削活動が減速した結果、同国の天然ガス生産(天然ガス坑井から生産される天然ガス及び石油坑井からの原油生産に随伴して生産される天然ガス)が減少する場面が見られた。しかしながら、8月以降天然ガス価格は100万Btu当たり2ドルを超過、10月下旬には3ドル近辺にまで上昇してきていることに加え、原油価格も6月以降は1バレル当たり30ドル台後半~40ドル台前半を中心とする範囲で推移するようになったことから、同国の天然ガス及び原油坑井掘削装置稼働数が下げ止まるとともに、これまで掘削は行っていたものの未仕上げとなっていた坑井につき、仕上げ作業が進み始めたこともあり、同国での天然ガス生産は多少なりとも持ち直す兆候が見られる(図22参照)。

図21 天然ガス先物価格の推移(2007~20年)

図22 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~21年)(EIA発表時期別)

それでも、米国からのパイプライン及びLNGによる輸出のための天然ガス需要が堅調になりつつあったことから、国内需要が引き続き低迷していたり、国内生産が持ち直す兆候が見られたりしたものの、全体として同国の天然ガス需給は引き締まり傾向となっており、4月10日には過去5年平均値(つまり平年と見做される値)を21.4%上回っていた米国天然ガス貯蔵量は11月6日には過去5年平均値を上回る率が同4.7%へと縮小している(図23参照)。そしてこのような需給の引き締まり感に加え、2020~21年の冬場はラニーニャ現象の出現により米国の多くの地域で厳冬となる可能性がある旨9月10日に米国海洋大気庁気象予報センターが発表した他11月12日にも同様の発表を行っている(前述)ことに加え、10月以降気温が実際に相当程度低下するなど冷え込む場面が見られ始めた結果暖房用天然ガス需要が刺激される格好となったことが、同国での天然ガス相場に上方圧力を加えたことにより、7月31日には100万Btu当たり1.799ドルの終値であった同国天然ガス価格は上昇傾向となり、11月13日には同2.995ドルへと到達した他、10月30日には同3.354ドルと2019年1月18日(この時は同3.482ドル)以来の高水準の終値に到達した。また、米国メキシコ湾沖合をハリケーン(「ローラ」、「サリー」、「デルタ」及び「ゼータ」)等が通過する際に同地域における油・ガス田関連施設の従業員が操業を停止し避難したことにより、その期間当該地域での天然ガス供給が減少したことから、需給の引き締まり感を市場が意識した結果、天然ガス価格に上方圧力が加わる場面も見られた。

図23 米国天然ガス貯蔵量(2017~20年)

欧州では、9月下旬初頭頃までは気温がしばしば平年を上回っていたこと(図24参照)により空調稼働用の電力供給のための発電部門向け天然ガス需要が堅調であったと見られる他、高水準の天然ガス貯蔵量(図25参照)を背景として天然ガス需給緩和感が市場で増大したことを反映し欧州での天然ガス価格が低迷したこともあり発電所が相対的にコストの高い石炭よりも天然ガスの利用を優先した(図26参照)うえ、英国で風力発電量が減少した(夏場は季節的に風力発電量が低下する傾向がある)ことから発電部門向け天然ガス消費が進んだことに加え、9月初頭頃までは欧州諸国で新型コロナウイルス感染に伴う経済活動制限が緩和されたことにより産業部門向け天然ガス需要が持ち直しつつあったと見られることから、当該地域での天然ガス需要が上振れし始めたものと考えられる。他方、欧州での天然ガス貯蔵水準上昇等に伴う当該地域での天然ガス価格の低迷もあり、相対的に価格競争力の低い米国産LNGの引き取りが大幅に削減された(図27参照)。さらに、欧州の天然ガス供給の一部がウクライナの貯蔵施設に流入した(欧州での天然ガス貯蔵余力低下に加えウクライナでの貯蔵費用が安価であった(同国では外国企業による同国施設での天然ガス貯蔵に対しては課税が免除される)こともあり、8月1日の欧州からウクライナへの天然ガス流入量は日量39億立方フィートと7月全体の同25億立方フィートから相当程度増加した旨8月3日に伝えられる他、2020年1~10月の外国企業によるウクライナへの天然ガス流入量は日量9.8億立方フィートと前年同期比で4.2倍となっている旨11月5日に報じられる)ことが、欧州での天然ガス地下貯蔵量の増加を抑制する方向で作用した。加えて9月下旬以降は概して気温が平年を下回るようになったり、下回るとの予報が発表されたりしたことから、暖房用天然ガス需要(もしくは暖房用電力のための発電部門向け天然ガス需要)が増加するとの観測が市場で発生したことが、欧州の天然ガス相場に上方圧力を加えた。また、欧州議会が法的拘束力を持つ2030年の温室効果ガス排出量を1990年比で60%削減とする旨の目標を賛成多数で可決した旨10月7日に明らかになった(従来は2030年までに40%削減とする旨の目標であった)ことにより、炭素排出権価格が上昇するとともに発電所において石炭から天然ガスへの移行がより進むとの観測が市場で発生したことで、当該地域での天然ガス価格が上昇する場面が見られた。さらに、賃金を巡る石油会社と労働組合との交渉が不調であったことから、9月30日に開始されたノルウェーでの石油・天然ガス関連施設でのストライキがその後拡大、10月5日には同国の6ヶ所の油・ガス田において石油換算日量33万バレル程度の原油及び天然ガス生産が停止した他、賃金交渉が妥結できなければ10月10日よりさらに4ヶ所の油・ガス田においてストライキを実施する旨労働組合が10月6日に表明した(関係者間での交渉は10月9日に妥結)等したことに加え、同国のスノービット(Snohvit)(もしくはハメルフェスト(Hammerfest))天然ガス液化(LNG生産)施設(操業者:エクイノール(Equinor)、天然ガス液化能力年間420万トン)のタービン施設で9月28日午後3時半頃(現地時間)火災が発生したことにより当該施設の操業が停止、9月29日時点では10月28日まで、10月12日には2021年1月1日まで、操業を停止する旨それぞれ伝えられた他、10月26日にはエクイノールが当該施設の修理のため最大で12ヶ月間操業を停止する旨明らかにしたことで、ノルウェーから欧州等向けの天然ガス輸出の減少懸念が市場で増大したことも、当該地域での天然ガス価格を押し上げる方向で作用した。そして、このような、天然ガス相場への上方圧力が、10月以降増加ペースが速まった当該地域での新型コロナウイルス感染再拡大による経済活動制限に伴う産業及び発電部門向け天然ガス需要の伸びの鈍化懸念の市場での発生による天然ガス相場への下方圧力を相殺して余りあったことから、英国の天然ガス価格は8月中旬以降10月下旬にかけ上昇傾向となり、8月14日には100万Btu当たり推定2.88ドル程度であった英国天然ガス価格は10月23日には同5.68ドル程度と2019年11月5日(この時は同5.71ドル程度)以来の高水準に到達した。ただ、その後は欧州での気候が温暖になるとの予報が明らかになったことから暖房向け天然ガス需要が抑制されるとの見方が市場で広がったことに加え、欧州各国で新型コロナウイルス感染が再拡大したことにより、産業及び発電部門向け天然ガス需要が影響を受けるとの観測が市場で増大したことが、欧州での天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、天然ガス価格は下落傾向となったが、11月中旬においても100万Btu当たり5ドル台前半を維持している。

図24 英国(ロンドン)気温の推移(2020年)

図25 欧州天然ガス在庫(2018~20年)

図26 英国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2011~20年)

図27 欧州のLNG輸入(2006~20年)

北東アジア地域では、豪州ゴーゴン(Gorgon)天然ガス液化(LNG生産)施設(天然ガス液化能力年産1,560万トン(第一~第三液化装置で各年産520万トン)、操業者:シェブロン(Chevron))が5月23日~7月11日にかけ定期メンテナンス作業を実施した際に、第二液化装置のプロパン熱交換装置8~11基の溶接部分につき最大数千ヶ所に渡り長さ最大1メートル、深さ最大3センチメートルの亀裂が発見されたことにより、当該メンテナンス作業を9月早期まで延長する旨7月28日にシェブロンが発表した(当初9月3日までと見込まれていたが、その後9月12日まで延長された旨8月13日に伝えられる)ことから、当該LNG生産施設からのLNG供給低下に対する懸念が市場で発生したことに加え、西豪州政府鉱山・産業規制安全部(Department of Mines, Industry Regulation and Safety)がシェブロンに対し8月21日までにゴーゴンLNG生産施設第一液化装置及び第三液化装置のプロパン熱交換器を点検するよう8月7日に指示した旨明らかになったことが、当該地域のLNGスポット価格に上方圧力を加えたものの、その後ゴーゴンLNG生産施設第二液化装置につき9月12日までメンテナンス作業を実施した後、第一液化装置は10月早期に、第三液化装置は2021年1月に、それぞれメンテナンス作業のため操業を停止するとのシェブロンの計画(併せて操業停止期間は45~90日程度であることが示唆された)を西豪州政府鉱山・産業規制安全部が承認した旨8月21日に発表したこともあり、当該LNG生産施設における液化装置が同時に複数停止するという事態は回避される結果、供給面への影響が抑制されるとの観測が市場で発生したことから、8月中旬には100万Btu当たり3ドル後半から4ドルを超過する水準にまで上昇した北東アジア市場でのLNGスポット価格は8月下旬前半には同4ドルを割り込む水準にまで下落した。しかしながら、9月上旬の台風9号及び10号の韓国来襲に伴い同国の複数基の原子力発電施設(古里原子力発電所3及び4号機(出力各95kW)、新古里原子力発電所1及び2号機(同各100万kW)、月城原子力発電所3号機(同70万kW))が操業を停止したことから、代替の電力確保のためのLNG需要が同国で増加したことに加え、その後9月28日には月城原子力発電所3号機が操業を再開した他、10月6日までには古里原子力発電所3及び4号機、そして新古里原子力発電所1及び2号機が操業を再開したものの、これら原子力発電装置停止中に稼働した天然ガス火力発電所での天然ガス消費促進に伴い同国の天然ガス在庫が減少したと見られることから、以降も同国ではLNG購入活動が活発に実施されたこと(図28参照)、2020年2月2日に電気系統の不具合により操業を停止した豪州プレリュード(Prelude)天然ガス液化(LNG生産)施設(操業者:シェル、天然ガス液化能力年産360万トン)につき、当初9月末には操業を再開するものと見られていたところ、10月に入っても操業再開の発表がなされなかったうえ、10月15日にはシェルが当該LNG生産施設は2020年末まで稼働しない旨明らかにしたこと、9月12日に操業を再開するはずであった豪州のゴーゴンLNG生産施設第二液化装置のメンテナンス作業が10月となる旨シェブロンが9月3日に発表したことから当該LNG装置からのLNG供給回復に対する懸念が市場で増大した(その後シェブロンは10月30日に当該装置の改修が完了し試運転を開始、11月後半には操業を再開する旨発表している(当該装置が11月22日に操業を再開した後2週間程度後に第一液化装置の操業を停止すると見る向きもある))他、8月下旬にハリケーン「ローラ(Laura)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したうえ8月27日夜半過ぎにルイジアナ州東部に上陸したこともあり、当該ハリケーンの進路周辺に位置していたキャメロン(Cameron)天然ガス液化(LNG生産)施設(操業者キャメロンLNG、天然ガス液化能力年産1,200万トン)が8月26日以降操業を停止した(同LNG生産施設は停電や港湾の浚渫等により操業停止が続いていたが、9月19日に電力供給が復旧した後10月5日に事実上操業を再開している)ことに加え、9月28日にノルウェーのスノービットLNG生産施設で火災が発生し操業が停止したことで、欧州市場でのスポットLNG価格が上昇した一方、9月10日にはラニーニャ現象の出現により北半球が厳冬になるとの予報が発表されたことによりアジア地域での冬場の気温低下に伴う暖房向け天然ガス需要増加観測が市場で増大したことが、北東アジア市場でのスポットLNG相場に上方圧力を加えた結果、同市場のスポットLNG価格は上昇傾向となり、10月下旬には100万Btu当たり7ドル台半ば近辺にまで到達した。しかしながらそのようなスポットLNG価格は長期契約LNG価格を上回ると見られた(売買契約にもよるが100万Btu当たり概ね5ドル台半ば~6ドル台半ば程度になるものと推定される)ことから新型コロナウイルス感染拡大に伴い経済活動制限が強化された2020年前半に引き取りを延期した長期契約LNGにつき引き取りを実施することや、重油、もしくは石炭の利用等を含め、需要家側がスポットLNGの調達を敬遠したことに加え、欧州での新型コロナウイルス感染再拡大による天然ガス需要面への影響に関する懸念から同地域での天然ガス価格(そしてスポットLNG価格)が下落したことに伴い欧州市場に比べスポットLNG価格が相対的に割高な北東アジア市場へと米国産LNGが流入するとの観測が市場で増大したこと等が、同市場でのスポットLNG相場に下方圧力を加えたことから、11月中旬にはスポットLNG価格は100万Btu当たり6ドル台後半程度の水準へと下落している。

図28 日本及び韓国のLNG輸入増減量(前年同月比)(2008~20年)


以上

(この報告は2020年11月16日時点のものです)

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