ページ番号1008888 更新日 令和2年11月18日

メキシコ:Wahalajaraパイプラインシステム操業開始で米国からの天然ガス輸入増加への期待高まる

レポート属性
レポートID 1008888
作成日 2020-11-18 00:00:00 +0900
更新日 2020-11-18 14:36:36 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 8
抽出データ
地域1 中南米
国1 メキシコ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,メキシコ
2020/11/18 舩木 弥和子
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概要

  1. Texas州西部Wahaハブからメキシコ中西部に天然ガスを輸送するWahalajaraパイプラインシステムの最南端の区間Villa de Reyes-Aguascalientes-Guadalajara(VAG)パイプラインが2020年3月に完成し、10月に操業を開始した。
  2. メキシコの天然ガス確認埋蔵量、生産量はともに減少を続けている。石油生産量減少に伴う随伴ガスの生産減、AMLO政権の天然ガスに関する方針の欠如、パイプラインなどインフラの不整備などがその理由と考えられる。メキシコのシェールガスの技術的回収可能量は多いものの、AMLO政権下でシェール開発に関連する水圧破砕は禁止され、非在来型の鉱区を対象とする入札も中止されている。
  3. メキシコの天然ガス輸入の多くは米国からのパイプラインガスによるものだ。米国内のパイプライン網拡充とメキシコ国内のパイプライン整備により、米国からのパイプラインガス輸入量は、2010年の日量9億立方フィートから、2015年に29億立方フィート、2019年には51億立方フィートと急増している。しかし、メキシコ国内のパイプラインは、建設や稼働開始が遅れたり、ガス輸送能力に比べ実際の供給量が少なかったりすることが多い。Wahalajaraパイプラインも、VAGパイプライン稼働までパイプライン全体の供給量は総輸送能力の10%程度であった。新型コロナウイルス感染拡大により、メキシコ国内の天然ガス需要が停滞する中、Wahalajaraパイプラインが産業が集約する中西部まで天然ガスを供給できるようになったことで、米国からメキシコへのパイプラインガス輸入量がどのように変化するのか注目される。

(PlattsOilgram News、International Oil Daily、BNamericas、LatAmOil他)

1. Villa de Reyes-Aguascalientes-Guadalajaraパイプライン稼働

Wahalajaraパイプラインシステムの最南端の区間Villa de Reyes-Aguascalientes-Guadalajara(VAG)パイプラインが2020年3月に完成し、10月に操業を開始した。

Wahalajaraパイプラインシステムは、中流に特化したメキシコの民間エネルギー企業Fermacaが保有するパイプラインだ。Fermacaは、Wahalajaraパイプラインシステム以外にも、メキシコと米国にパイプラインを保有している。保有するパイプラインの総延長は2,150キロメートル(うち、メキシコ国内1,828キロメートル)、ガス輸送能力は5,331MMcf/dで、メキシコの天然ガスインフラのオペレーターとして第2位の位置につけている。

表1. Wahalajaraパイプラインシステム
区間 延長
(キロメートル)
輸送能力
(日量百万立方フィート)
操業などの状況

San Isidro -El Encino(Tarahumara)

387.87 850 2008年7月発注、2013年8月操業開始
El Encino-La Laguna 476.7 1,500 2014年12月発注、2018年3月操業開始
La Laguna‐Aguascalientes 453.1 1,190 2016年3月発注、2019年12月操業開始

Villa de Reyes-Aguascalientes-Guadalajara

163+220 886 2016年3月発注、2017年12月16日着工、2020年3月31日完成

各種資料を基に作成    

 

図1.Fermacaパイプライン地図
図1.Fermacaパイプライン地図
出所:https://www.fermaca.com.mx/en/map/

Wahalajaraパイプラインシステムは、表1及び図1に示す4つの区間で構成されている。まず、ONEOK PartnersとFermacaが共同で所有するRoadrunnerパイプライン(延長321.8キロメートル、輸送能力日量6.4億立方フィート)により米国Permian盆地の天然ガスの主要な供給拠点であるTexas州西部Wahaハブから供給されるガスを、TarahumaraパイプラインでSan IsidroからEl Encinoに輸送する。El Encinoには、Tarahumaraパイプラインの他に、2017年6月より操業を開始したCarsoのOjinaga-El Encino間パイプライン(延長225キロメートル、輸送能力日量1,400億立法フィート)からもガスが供給されており、これを併せてLa Lagunaまで輸送するのが2番目の区間となる。3番目の区間、La Laguna‐Aguascalientesは2019年12月に運用を開始した。この度、運用を開始した最後の区間VAGは、Aguascalientesから北東のVilla de Reyesと南西のGuadalajaraの2方向にガスを供給する。

7月6日には米国エネルギー省エネルギー情報局(Energy Information Administration:EIA)が、VAGパイプラインが6月に操業を開始し、これによりPermian盆地とメキシコ中西部Guadalajaraなどの人口密集地が繋がれ、その結果、Texas州西部からメキシコへ米国産天然ガスの輸出が増加すると予想するレポートを発表した。

しかし、7月になってようやくVAGパイプラインの充填が行われていることが明らかになり、さらに、10月に入り、Fermacaのウェブサイトで同パイプラインの稼働開始が伝えられた。


2. 天然ガス生産量減少の背景

メキシコの天然ガス確認埋蔵量、生産量は、ともに減少を続けている。BP Statistical Review of World Energy June 2020によると、メキシコの2019年末時点の天然ガス埋蔵量は6.3兆立方フィートで、2011年の12.5兆立方フィートからほぼ半減している(図2)。また、2019年の天然ガス生産量は前年比3.4%減の日量32.9億立方フィートとなった。2009年から2014年には、メキシコの天然ガス生産量は日量50億立方フィート前後を推移していたので、この当時と比べると35%程度の減少となる。

図2. メキシコの天然ガス確認埋蔵量(単位:兆立方フィート)
図2.メキシコの天然ガス確認埋蔵量(単位:兆立方フィート)
BP Statistical Review of World Energyを基に作成
図3. メキシコの天然ガス生産量、消費量
図3.メキシコの天然ガス生産量、消費量
(単位:天然ガス:十億立方フィート/日(左軸)、石油1,000バレル/日(右軸))
BP Statistical Review of World Energyを基に作成

このように天然ガス生産量が減少している背景にはいくつかの理由がある。

Pemexによると、メキシコで生産される天然ガスの4分の3は随伴ガスであり、石油生産量の減少が天然ガス生産量減少の一因となっていると考えられる。メキシコの石油生産量は2004年の日量383万バレルをピークに減少し、2009年には300万バレルを割り込み、2012年まで290万バレル台で推移し、2014年以降は急劇に減少している。一方、天然ガス生産量は、2009年に日量50億立方フィートを上回り、その後、2014年まで日量50億立方フィートを挟んで上下した後、急減している。2009年以降について見ると、石油生産量と天然ガス生産量の動きは相互に関与していると考えられる(図3)。

また、2018年12月に就任したAndrés Manuel López Obrador(AMLO)大統領の下、Pemexは、石油については、毎年新たに優先的に開発を行う20の油田を選定し生産量を増加させることを計画したり、製油所の改修や新設を計画したりし、それに注力しているものの、天然ガスに関しては開発、生産、供給、消費などについて明確な方針が示されていない。石油生産量の増加や製油所の改修、新設に関しても、技術的、経済的な判断に基づいたものではなく、目標を達成することは難しいとの指摘を受けているが、天然ガスについてはその方向性も明らかにされておらず、今後も埋蔵量、生産量の減少が続くと見られている。

メキシコでは、既存の天然ガスパイプラインは、天然ガスが主に生産されるメキシコ湾の沿岸部を中心に敷設されている。そのため、自動車産業など多くの産業が集中する中央高原エリアや西部向けのパイプラインの整備が進められている。しかし、これらパイプラインの敷設や天然ガス処理プラントの建設には遅れが見られる。また、パイプラインに関しては先住民から抗議を受けるなどにより、建設や稼働に影響が生じているものもあり、これも天然ガス生産量が増加しない原因の一つと考えられる。

さらに、メキシコでは、生産される天然ガスの約50%がフレアリングされたり、再圧入など現場で使用されたりしてしまい、市場に流通していない。これも、生産量に影響を及ぼしていると考えられる。Pemexによると、2016年上半期にフレアリングされた天然ガスは日量5億6,200万立方フィートとなっている。

天然ガス生産量減少の問題に加え、メキシコで生産されるガスは窒素含有率が高い点が問題であるとの指摘もある。

EIAが2013年6月に発表した「世界のシェールガス資源量評価」によると、メキシコのシェールガスの技術的回収可能量は545.2兆立方フィートとされている。シェールガスの開発を進めれば、メキシコは天然ガス生産量を大きく増やすことも可能になる。しかし、AMLO政権は、シェール開発に関連する水圧破砕を禁止するとともに、2018年9月に予定されていた非在来型の鉱区を対象とする入札、ラウンド3.3を中止した。従って、シェールガスの開発も進んでいない。ただし、メキシコのシェール層は地質構造が複雑とされ、水圧破砕が可能になり、入札が実施されたからと言って、ガスの生産増に直結するとは限らないとの見方もある。


3. 天然ガス輸入状況

メキシコでは、このように天然ガス生産量が減少しており、この傾向は継続する見通しであるが、その一方で、天然ガス消費量は増加しており、メキシコはその不足分を輸入で補っている。

図4. 米国のメキシコ向けパイプラインガス輸出(単位:百万立方フィート)
図4.米国のメキシコ向けパイプラインガス輸出(単位:百万立方フィート)
EIAを基に作成
図5. 米国からメキシコ向けの主要な天然ガスパイプライン
図5.米国からメキシコ向けの主要な天然ガスパイプライン
出所:https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=44278

メキシコの天然ガス輸入の大部分は米国からのパイプラインガスで占められている。2010年には日量9億立方フィートであったメキシコの米国からのパイプラインガス輸入量は、2015 年には29億立方フィート、2019年は51億立方フィートと急激に増加している。米国にとっても、メキシコへのパイプラインガス輸出は天然ガス輸出の40%を占めており、メキシコは最大の天然ガス輸出国となっている。

このように米国からのパイプラインガス輸入量が増加してきた裏には、米国内のパイプラインが拡充されたこと、および、メキシコ国内にパイプラインが整備されたことがある。

図5には、米国で生産され、メキシコ国境まで輸送されてきた天然ガスを受け入れ、メキシコ国内に供給するパイプラインのうち2016年以降に完成したものと建設中、計画中のものが示されている。2016年以降、毎年複数のパイプラインが完成していることが分かる。

特に、Los RamonesⅡパイプラインとSur de Texas-Tuxpanパイプラインが完成したことで、Texas州南部からメキシコへの天然ガス輸出が増加したという。Los RamonesⅡパイプラインは、Texas州Agua DulceからLos RamonesⅠパイプライン経由で輸送されたガスを、San Luis PotosiやApaseo El Altoなどへ輸送する延長741.7キロメートル(Nuevo Leon-San Luis Potosi間450キロメートル、San Luis Potosi-Apaseo el Alto間291.7キロメートル)、輸送能力日量14.2億立方フィートのパイプラインだ。同パイプラインの北部はPemexとIEnova、南部はGDF SuezとPemexのジョイントベンチャーが保有している。Sur de Texas–Tuxpanパイプラインは、TC EnergyとIEnovaがパートナーを組み、主にメキシコ湾海底に建設、メキシコ南部Veracruz州までガスを輸送する延長770キロメートル、輸送能力日量26億立方フィートのパイプラインだ。2019年9月にSur de Texas-Tuxpanパイプラインが完成したことで、メキシコへの米国のパイプラインガス輸出量は2019年10月に過去最高の日量55億立方フィートに増加した。

ただし、これらのパイプラインは、建設が計画通りに進まず、遅延したり、完成後も稼働開始が遅れたりすることが多い。VAGパイプラインも2019年に開通が予定されていたが遅延し、2020年3月に完成したものの、その後も操業開始まで時間を要した。完成後操業開始までに時間がかかったのには、Pemexが精製処理する硫黄分を多く含む燃料油を他で売却できず、同パイプラインからガスを供給する予定のGuadalajaraのTierra Mojada、Villa de Reyes発電所で引き続きPemexから供給される燃料油が利用されることになったことや、Manzanillo発電所向けにガスを供給するEnergia Occidente de Mexicoパイプラインを逆走させるのに手間取ったことなど様々な要因が関与したと思われる。VAGパイプラインと同じく2019年に完成予定であったSamalayuca-Sásabeパイプライン(延長624キロメートル、輸送能力日量4.72億立方フィート)も、80%以上完成しているものの、先住民のAgua Prietaコミュニティがこのパイプラインの建設に反対し、2018年以降、土地使用許可証の不足を理由に全ての建設が停止している。IEnovaのGuaymas-El Oroパイプライン(延長330キロメートル、輸送能力日量5.1億立方フィート)は、2017年5月に完成したが、先住民Yaqui族のコミュニティとの間の交渉が難航し、現在も稼働していない。

さらに、完成したパイプラインも、ガス輸送能力に比べ、実際の供給量が少ない場合が多い。Texas州San Elizaroからメキシコに天然ガスを供給するComanche Trailパイプライン(延長314キロメートル、輸送能力日量11億立法フィート)は2017年に完成、2017年6月にSan Isidro-Samalayucaパイプライン(延長25キロメートル、輸送能力日量11.35億立方フィート)が稼働して以降、日量1億立方フィートのガスをメキシコに供給しており、Samalayuca-Sásabeパイプライン稼働までは供給量は増加しないと見られている。Texas州Presidioで国境を越えるTrans-Pecosパイプライン(延長238キロメートル、輸送能力日量14億立法フィート)も2017年に完成したが、2018年10月まで天然ガスの輸送量は少なく、その後も輸送能力の10%から15%でしか稼働していなかったという。

Wahalajaraパイプラインも、VAGパイプライン稼働までEl Encino以南へのガスの供給はごくわずかで、パイプライン全体の供給量は総輸送能力の10%程度であった。新型コロナウイルス感染拡大防止措置より経済への影響が生じたり、原油価格が下落したりする以前に、S&P Global Plattsが、米国のメキシコへの天然ガス輸出量は、同パイプラインの完成、稼働により日量3~4億立方フィート程度増加すると予想していた。しかし、状況の変化を受けてメキシコの天然ガス需要が減少しているため、米国からメキシコへのガス輸出量の増加は予想よりも鈍化する可能性が高いと考えられている。VAGパイプラインの操業開始により、天然ガス輸入状況が実際にどのように変化するのか注目していきたい。

なお、メキシコのLNG輸入量は2014年の93億立法メートルをピークに、2015年以降は56~69億立法メートルで推移しており、2019年は66億立方メートルであった。パイプラインの輸送能力拡張増強が進行中で、米国からより安いパイプラインガスが輸入されることで、LNG輸入量が天然ガス総輸入量に占める割合は2014年の32%から2019年の11%に急減しており、LNG輸入は今後も減少すると予想されている。

図6. メキシコの天然ガス生産及び輸入量推移(単位:十億立方メートル)
図6.メキシコの天然ガス生産及び輸入量推移(単位:十億立方メートル)
BP Statistical Review of World Energyを基に作成

以上

(この報告は2020年11月17日時点のものです)

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