ページ番号1008907 更新日 令和2年12月7日

(短報)TAP完成、欧州のエネルギー供給多角化に寄与

レポート属性
レポートID 1008907
作成日 2020-12-02 00:00:00 +0900
更新日 2020-12-07 10:15:49 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 四津 啓
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 5
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 アゼルバイジャン
地域2 欧州
国2 イタリア
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,アゼルバイジャン欧州,イタリア
2020/12/02 四津 啓
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概要

  • Trans Adriatic Pipeline(TAP)(年間輸送容量10BCM)が4年半の建設期間を経て10月に完成し、11月に商業稼働を開始したと発表。これにより、アゼルバイジャンの天然ガスをパイプラインで欧州に輸送する「南ガス回廊」が完成し、欧州のエネルギー調達ルートが増える。
  • TAPのガスは、ギリシア、ブルガリア、イタリアに供給される予定。今後容量を現行の2倍(年間20BCM)にする計画があり、将来的にはさらに広域にガスを供給することも想定され、特にバルカン地域の脱石炭、脱ロシアガス依存に貢献する見通しだが、欧州のガス需要の動向、追加のガスソースの確保は今のところ不透明。

(出所 TAPプレスリリース、各種業界報道記事)


1. TAP経緯

アドリア海横断パイプライン(Trans Adriatic Pipeline;TAP)コンソーシアムは10月12日、敷設工事が完了したことを発表し、その1か月後の11月15日、TAPが商業稼働を開始したことを発表した。

TAPはギリシア-トルコ国境でTANAPと接続し、南イタリアまで総延長878キロメートル、年間輸送容量10BCM(ただし拡張計画あり)。ギリシア(550キロメートル)、アルバニア(215キロメートル)を通ってアドリア海を横断し(105キロメートル)、イタリア(陸上部分8キロメートル)に上陸してメレンドゥーニョでイタリアのガス大手Snamの供給網に接続する。

TAPの構想は2003年にスイスのEGL(現在はAXPOが吸収)が最初に発表し、その後2006年以降に構想実現に向けた本格的なスタディが行われ、2007年にはノルウェーのStatoil(現在のEquinor)、2010年にドイツのE.On Ruhrgasが参加して計画が推し進められた。カスピ海地域から欧州へガスを供給するパイプライン計画はTAPの他にも、Nabuccoパイプライン計画、ITGI(Interconnector Turkey-Greek-Italy)パイプライン計画があったが、主な天然ガス供給源となるアゼルバイジャンのShakh Denizプロジェクトは2013年6月に、それらパイプライン計画の中で最も距離が短く経済性を重視したTAPを選択した。

同決定の後、Shakh Denizコンソーシアムは、パイプライン計画同士の競争の過程で2012年に獲得したTAP権益取得オプションを行使し、TAPとShakh Denizプロジェクトの参加者はほぼ同じ顔ぶれとなった。現在は、Statoilの権益売却、Snamの参入など参加者の入れ替えがあったものの、Shakh DenizのオペレーターBP、SOCARがTAPでもそれぞれ20%を保持している。

TAPの建設工事は2016年5月に開始。建設開始記念式典にはギリシアのチプラス首相他、EU、ジョージア、トルコ、米国等の政府高官も出席し、同プロジェクトによる新たなガス供給体制設立への期待が込められた。そして4年半後の2020年10月、TAPコンソーシアムはパイプライン建設工事が完了したと発表し、翌11月に商業稼働を開始したことを発表した。

これまでガスの輸出先がジョージアとトルコに限られていたアゼルバイジャンにとって、TAPを通じた欧州市場への供給手段を手に入れたことの意味は大きい。欧州、特に南欧バルカン地域に対するアゼルバイジャンのプレゼンス拡大に繋がる上、ACG油田の減退が進む中で、アゼルバイジャンのガス生産の増強は同国の経済に不可欠であり、その供給ルート確保は重要な一歩と言える。今後は、安定的な供給に足る天然ガスソースを維持できるかが課題として注目される。

なお、TAPはアゼルバイジャンからのガスを物理的には輸送できる状態になっているが、まだ輸送は始まっておらず、アゼルバイジャンエネルギー省によると年末までに徐々に欧州向け輸送量を増やす(ランプアップ)予定であり、本格的な稼働は2021年明け以降になると見込まれる。また、輸送量の95%は長期販売契約が結ばれており、残り5%がスポット取引となると報じられているが、各社ごとの契約数量などは明らかにはされていない。


2. 南ガス回廊の完成

南ガス回廊(Southern Gas Corridor)は、カスピ海で生産される天然ガスを、ロシアを介さずに欧州市場に輸出するガス輸送構想である。欧州のガス調達ロシア依存の低減を念頭に計画され、EUの支援のもと関係国が実現に向け協力し推進されてきた。天然ガスの供給源はShakh Denizガス田(フェーズ2)で、輸送ルートとして3本の連続するパイプラインが含まれ、長さは約3500キロメートルに及ぶ。1本目はサンガチャル油ガス処理ターミナルからジョージアを経由してトルコ国境に至る南コーカサスパイプライン(South Caucasus Pipeline;SCP。但し既存ラインに沿って南ガス回廊のために拡張)、2本目はSCPからトルコ・アナトリア半島を横断しギリシア国境に至るアナトリア横断パイプライン(Trans-Anatolian Natural Gas Pipeline; TANAP)、そして3本目がTANAPから接続してイタリアに延びるTAPである。TAPの完成により南ガス回廊全線が完成し、アゼルバイジャンのガスのパイプラインによる欧州への直接輸送が実現する。各パイプラインの諸元は表を参照されたい。

表:南ガス回廊を構成する3つのパイプライン
名称 SCP(SCPX;拡張分)
(South Caucasus Pipeline)
TANAP
(Trans-Anatolian Natural Gas Pipeline)
TAP
(Trans Adriatic Pipeline)
 
輸送容量 年間25BCM 年間16BCM 年間10BCM
総延長 692キロメートル(拡張分489キロメートル) 1,841キロメートル 878キロメートル
口径 42インチ
(拡張分48インチ)
56インチ(Adrahan-Eskisehir間1,334キロメートル)
48インチ(Eskisehir-Edirne間450キロメートル、但し海底部18キロメートルは36インチ)
48インチ
(アドリア海以降36インチ)
稼働開始年 2006年(2018年拡張) 2018年 2020年
オペレーター SCPコンソーシアム TANAPコンソーシアム TAPコンソーシアム
参加者 BP(28.8%)、TPAO(19%)、AzSCP(SOCAR)(10%)、SGC Midstream(6.7%)、PETRONAS(15.5%)、LUKOIL(10%)、NICO(10%) SOCAR(51%)、Botas (30%)、BP(12%)、 SOCAR Turkey(7%) BP(20%)、SOCAR (20%)、Snam(20%)、Fluxys(19%)、Enagás(16%)、Axpo(5%)
総工費 約50億ドル 約80億ドル 50~70億ドル

(各種情報に基づき作成)

 

3. TAPがもたらす欧州のガス供給への影響

前述のとおり、TAPの年間輸送容量は現状では10BCMであり、ロシアから欧州に繋がる他のパイプラインと比較すれば決して大きいプロジェクトではない(例えば、黒海経由のTurk Streamは年間31.5BCM、バルト海経由のNord Streamと建設中のNord Stream 2はそれぞれ年間55BCM。)。欧州にとって天然ガスの新しい供給ルートが増えたという点に意味がある。

TAPの年間輸送量10BCMのガスは、ギリシアとブルガリアに年間1BCMずつ、残りの年間8BCMはイタリアに供給される予定である。Gazpromによるロシア産パイプラインガスの欧州市場第2位の需要国がイタリア(1位はドイツ)であり、そこに今後TAPからのガスが供給されることになる。イタリアにとっては、これまでオーストリアまたはスイスから国内に入る、主にロシア産または北海産のガス、あるいは南方のアルジェリアから調達しているガスに新たにカスピ海ガスが追加され、供給源の分散と有利な契約条件(輸入価格の引き下げ)が期待される。

また、脱石炭を加速させたいギリシアにとっても、TAPのガスは石炭を代替するために新たなエネルギー供給減となる。また、ギリシア国内でTAPから分岐してブルガリアに延びるIGB(Interconnector Greece-Bulgaria)パイプラインも2021年の完成を目指して建設中で、ロシアガスに依存するブルガリアのガス調達先分散にも貢献することが期待されている。さらには、アルバニアからクロアチアまで延びるIAP(Ionian Adriatic Pipeline)パイプラインの建設計画もある。したがって、ロシアを介さない新しい天然ガス調達手段を創設するという南ガス回廊の本来の目的は達成されていく見通しであり、これらの国のガス調達に向けた契約の状況に注目が集まるだろう。

なお、TAPは今後輸送容量を2倍(年間20BCM)にすることを検討しているが、その一方で、今後のTAPが供給するガスの量に関しては不確実な要素がある。1つ目は、供給先の欧州における今後のガス需要であり、脱化石燃料の動きが広がる中で、TAP拡張へのニーズがはっきりと見通せない。また2つ目は、主にアゼルバイジャンにおいて、追加的なガス供給源が確保できるかという点である。アゼルバイジャンには南ガス回廊のガスソースとなっているShakh Denizガス田の他には、探鉱・開発が進んでいる有望なガス開発プロジェクトが今のところない。アゼルバイジャン以外では、将来的にはトルクメニスタン、イラン、または最近黒海でガス田を発見したというトルコ、さらにはロシアがガス供給源になっていく可能性も考えられるが、当面の現実的な供給源はアゼルバイジャンであり、アゼルバイジャンにおける追加のガス探鉱・開発プロジェクトの動向も注目される。

図 南欧、バルカン地域のガスパイプライン
図 南欧、バルカン地域のガスパイプライン
TAPは下の青緑線で、イタリアの「かかと」まで。ギリシア、ブルガリア、イタリアへのガス供給の他、将来的にはさらにそれ以外の国・地域への供給も想定されている。(出典: TAPのウェブサイト)

以上

(この報告は2020年12月2日時点のものです)

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