ページ番号1008908 更新日 令和2年12月7日
原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国で2020年8~12月に実施している日量770万バレルの減産措置につき2021年1月は日量50万バレル縮小することを決定(速報)
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概要
- 2020年12月3日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、2020年8月1月から12月末にかけ実施している日量770万バレル程度の減産措置を2021年1月については日量50万バレル縮小し同720万バレルとする旨決定した。
- また、2021年1月以降毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催しその都度石油市場の状況を検討するとともに2月以降の減産措置につき調整するものの、その調整量は日量50万バレルを超過しないものとした。
- 早ければ2020年12月11日にも新型コロナウイルスワクチン接種が開始されるなど当該ワクチンの実用化が近づいていることもあり、世界経済成長及び石油需要の伸びの回復、及び石油需給の引き締まり期待が市場で増大していることから、11月下旬以降原油相場は2020年3月5日以来の高水準に到達するなど堅調に推移していることもあり、今回の会合を控え一部OPECプラス産油国からは減産措置の縮小を要望する動きが発生したものと見られる。
- また、UAEは他の一部産油国による減産措置の不徹底や不平等な減産目標設定に対し不満を持っていたとされ、これも会合での議論を複雑化させた格好となった。
- しかしながら、実際にワクチン接種が広く普及することにより世界経済成長及び石油需要の伸びが回復するには時間を要する結果、それまでは新型コロナウイルス感染が拡大することにより世界経済及び石油需要が下振れする可能性も残っている。
- 加えて、リビアの原油生産が相当程度回復してきたことに加え、今後米国のイラン核合意復帰と対イラン制裁解除によるイランの原油生産増加等が市場関係者の視野に入りつつある中で、短期的には世界石油需給が緩和する可能性がある結果、原油価格が下落するリスクを払拭しきれなかった。
- このような足元の状況及び将来に向けての不透明感、そして一部OPECプラス産油国の要望に対応するために、OPECプラス産油国は、既存の減産措置の緩和は実施するものの、それをとりあえず1ヶ月間に限定し、以降はその時々の状況等を織り込みつつ再調整していくといった方策を採用することにより、現在はこの先顕在化すると見られる様々な要因による原油価格等への影響を最小限にしようとしたものと考えられる。
- 市場ではOPECプラス産油国閣僚級会合開催1週間前の時点でOPECプラス産油国が既存の減産措置の3ヶ月間の延長を決定するとの予想が大勢を占めるとともに原油相場にも予めそれが織り込まれる格好となっており、そのような中当該会合では市場の事前予想を事実上下回る決定となったことで、利益確定の動きが発生することにより原油相場に下方圧力が加わるリスクを内包していたが、新型コロナウイルスワクチン開発及び普及の進展による世界石油成長及び石油需要の回復と石油需給引き締まりに対する期待が強かったこと等もあり、会合開催直後の12月1日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり0.36ドル上昇し45.64ドルの終値となっている。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2020年11月30日にOPEC産油国は総会(通常総会)をテレビ会議形式(当初はオーストリアのウィーンで開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染が収束しないことから、テレビ会議形式となったものと見られる)で開催、2020年8月1日から12月31日にかけ実施中の日量770万バレルの減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)の延長(従来は2021年1月1日~2022年4月30日については日量580万バレルへと減産措置の規模を縮小する予定であった)の是非等につき議論したが、結論に至らないままこの日の会議を打ち切り、12月1日に当該総会を延長して実施する旨決定した。
(2) また、11月30日午後遅く(米国東部時間)には、当初12月1日に開催する予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合を12月3日に延期する旨報じられた。
(3) しかしながら、OPECプラス産油国関係者は電話会議等を実施することにより協議を継続したと伝えられたものの、12月1日に開催する予定とされたOPEC総会は開催されずじまいであった。
(4) ただ、12月3日にはOPECプラス産油国閣僚級会合がテレビ会議形式で開催され(OPEC総会同様、当初はオーストリアのウィーンで開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染が収束しないことから、テレビ会議形式となったものと見られる)、2020年12月末までの日量770万バレルの減産措置を2021年1月については同50万バレル縮小し同720万バレルとすることで合意した(表1及び参考1参照)。
(5) 加えて、2021年1月以降は毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催しその都度石油市場の状況を検討するとともに、2月以降の減産措置につき調整をするものの、その調整量は日量50万バレルを超過しないものとした。
(6) なお、2月以降の減産措置の調整量最大日量50万バレルは減産措置を最大日量50万バレル縮小するのみならず最大50万バレル拡大することも含まれる旨12月3日にロシアのノバク副首相が示唆した。
(7) また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できなかったOPECプラス減産参加産油国は、減産遵守未達成部分を2021年1~3月に既存の減産措置に追加して減産することに同意した。
(8) なお、原油生産が不安定なイラン、リビア及びベネズエラの各国の減産目標については、4月12日及び6月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時の声明では言及されていなかったが、今般の会合等での声明においても言及されていない。
(9) ただ、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、原油生産量が回復しつつあるリビアが減産措置を実施するのはしばらく先のことになる旨12月3日に明らかにしている。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 2020年6月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では5~6月に実施していた日量970万バレルの減産措置のうちメキシコの減産分日量10万バレルを除いた同960万バレル分を7月中も実施する他、6月中はサウジアラビアが日量100万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)が同10万バレル、クウェート同8万バレル、及びオマーン同1~1.5万バレルの自主的な追加減産を実施する旨決定した。
(2) その後7月15日に開催されたOPECプラス産油国閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)では、世界各国及び地域が個人の外出規制や経済活動制限を緩和しつつあるなど世界経済成長が改善するとともに石油需要の回復、もしくは回復期待から原油価格が持ち直す兆候が見られたこともあり、減産措置を緩和しても需要の回復により相殺されるであろう旨の認識が示されたことにより、8月1日より12月31日まで日量770万バレルへと減産規模を縮小した措置を実施することを事実上決定した。
(3) しかしながら、その後米国のみならず欧州一部諸国において、1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加し始めるとともに個人の外出規制や経済活動制限が再度強化され始めた。
(4) このようなことから、5月14日時点の日量9,055万バレルが7月10日時点には同9,209万バレルへと上方修正された、国際エネルギー機関(IEA)による2020年の世界石油需要見通し(表2参照)は以降下方修正され、11月12日発表時点では同9,128万バレルと5月以来の低水準の展望となった(表3参照)他、同機関が2020年6月16日に日量9,742万バレルとして初めて公開した2021年の世界石油需要見通しについても以降下方修正され11月には日量9,708万バレルとなった(表4及び5参照)。
(5) 他方、2020年の米国の天然ガス液(NGL: Natural Gas Liquids)の生産については、7月時点の見込みである日量480万バレルが11月時点では同511万バレルと同31万バレル上方修正された(新型コロナウイルス感染に対処するためのIT機器及び医療資機材等向けのプラスチック製造のためのエタン需要が増加したことに伴い天然ガスからのエタン回収が活発化したことが一因と見られる)ことを含め2020年の非OPEC産油国の石油生産量は同時期同32万バレル上方修正された。
(6) 加えて、イラクやナイジェリア等一部OPEC産油国の減産遵守(及び過去の減産目標未達分を相殺するための7月以降の既存の減産措置に追加した減産の実施)が必ずしも徹底されなかったことにより、OPEC産油国の原油生産量も上振れした。
(7) この結果、7月時点では2020年の世界石油需給は供給が需要を日量114万バレル超過すると見込まれていたものが、11月時点では同245万バレル超過すると見込まれるようになるなど、2020年の世界石油需給は以前に比べ緩和感が強まる見通しとなった。
(8) 2021年については、非OPEC産油国石油生産量、OPEC産油国原油生産量及びOPEC産油国NGL生産量については7月時点の見込みと11月時点での見込みはほぼ同水準となっている。
(9) しかしながら、新型コロナウイルス感染再拡大の影響もあり、2021年の世界石油需要見通しが2020年7月時点の日量9,738万バレルから11月時点では同9,708万バレルへと下方修正されたことが一因となり、2021年全体の世界石油需給バランスシナリオ(なお、ここでは、OPECプラス産油国が当初予定通り2021年1月1日に減産措置をそれまでの日量770万バレルから同580万バレルへと縮小する他、リビア、イラン及びベネズエラについては2020年10月の原油生産水準がそのまま継続することを前提としている)は、7月時点では需要が供給を日量338万バレル超過していたものが11月時点では同284万バレルの超過へと引き締まりの度合いが縮小している。
(10) 他方、2021年に向け供給面から世界基油需給を緩和させる可能性があることを示唆する要因も複数出現した。
(11) 一つは、リビアでの原油生産回復である。リビアでは、西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会)(HoR:House of Representatives)を支援する、ハフタル将軍を指導者とするリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトやUAE等が支援(ロシアも支援しているとの指摘もある))との間で事実上の内戦状態が続いていたが、9月18日にはハフタル将軍が、GNAとの間で石油販売収入を公平に分配する他公平な分配実施を監視する委員会を設置する旨合意したことにより、内戦に伴い事実上封鎖されていた同国の油田関連施設の操業を1ヶ月間可能にする旨表明した。これにより、同国の油田関連施設に対し宣言されていた不可抗力条項の適用が解除され始めるとともに、同国での原油生産(8月時点では日量10万バレルであった)が増加し始めた。また、10月23日にはGNAとLNAが3ヶ月間に渡る停戦(但しテロ組織への攻撃については停戦の範囲外)及び外国勢力の排除を含む恒久的停戦に向けた合意書に署名した旨国連リビア支援団が発表した。10月26日には同国南西部にあるエル・フィール油田の操業に対する不可抗力条項の適用を解除しており、これによりリビアの全ての油田関連施設に対する不可抗力条項の適用は解除された。そのようなこともあり、11月18日には同国の原油生産量が日量125万バレルに到達した旨同国国営石油会社NOCが発表した(図1参照)。
(12) 2020年10月のリビアの原油生産量は日量45万バレルであったので、これは10月から11月にかけリビアの原油生産量が同80万バレル増加したことを意味する。
(13) これを2021年の世界石油需給バランスシナリオに織り込んで調整すると、少なくとも第一四半期は石油需要が供給を上回る量が当該事象を織り込む前の日量109万バレルから同29万バレル程度にまで縮小することから、当該四半期においては石油需給の引き締まり感が殆ど発生しない他、2020~21年の北半球が暖冬である旨判明する、もしくは新型コロナウイルス感染拡大に伴い世界各国及び地域での個人の外出規制及び経済活動制限が強化されること等により石油需要が下振れするようであれば、当該四半期は供給過剰となる結果石油需給の緩和感が市場で醸成されるとともに、原油価格が下落するといった展開もありうることを示している。
(14) もう一つの要因はイランである。2020年11月3日に実施された米国の次期大統領選挙投票では、バイデン前副大統領が当選確実であると11月7日に報じられるとともに同日同氏が勝利宣言を行った(ただ、トランプ大統領は、敗北を受け入れておらず、一部の州の投票で不正が行われたとして一連の訴訟を行っており、選挙結果が事実上確定しているとは必ずしも言い切れない状況にあるなど、次期大統領選出過程には不透明感も漂う)。
(15) 今後大統領に就任後、バイデン氏はオバマ前大統領(とバイデン前副大統領)時代に締結されたイラン核合意をトランプ大統領が離脱した後対イラン制裁を実施したといった一連の流れを元に戻す作業に取り組むことになろう。このため、最終的には米国がイラン核合意に復帰するとともに対イラン制裁を解除することで事実上のイラン原油輸出制限が撤廃されることにより、その分だけイラン産原油が世界石油市場に流入、石油需給が緩和するといった展開が想定される。2018年5月8日に米国がイラン核合意を離脱し対イラン制裁再開を決定した時点でのイランの原油生産量(2018年5月)は日量385万バレルであったが2020年10月の同国の原油生産量は同189万バレルであったことから、この差分(つまり同196万バレル)の原油供給が今後増加するとともに世界石油市場に流入する可能性がある(図2参照)。
(16) かつて2016年1月16日にイラン核合意によりイラン制裁が解除されたが、それにより同年1月の同国原油生産量日量299万バレルが3ヶ月後の4月には同354万バレルへ増加しており、このときの状況から判断すると、今回もイランの原油生産がそれほど時間を要しないうちに大幅に増加するといった展開も想定され、従ってこの分だけ、比較的短期間で世界石油需給が一層緩和するとの観測が市場で発生する結果、少なくとも季節的に石油需給が緩和しやすい第一~第二四半期には原油相場にさらに下方圧力が加わる可能性がある。
(17) このように今後世界石油市場が不安定になる可能性がある等の要因が存在するといった状況に鑑み、OPEC産油国の一部(そしてその中心はサウジアラビアであったと見られる)には2020年12月31日まで実施予定であった既存の日量770万バレルの減産措置延長することにより原油価格の維持を図ろうとする動きが発生した。
(18) このような流れに沿って、11月16日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)では既存の減産措置を2021年1月1日以降3~6ヶ月延長すべきである旨推奨されたと同日報じられた。
(19) 他方、米国医薬品製造大手ファイザーがドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックと共同で開発している新型コロナウイルスワクチンにつき接種者の90%以上で感染防止効果が認められたとの暫定結果を11月9日朝(米国東部時間)にファイザーが発表、11月20日午後(同)には、両社が米国食品医薬局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請した他、11月22日に米国当局者は12月11日にも当該ワクチン接種が開始できる可能性がある旨示唆するなど、新型コロナウイルスワクチンが実用化に向け開発が進みつつあり、それによる世界経済成長改善等を通じた石油需要回復に対する期待感から原油価格(WTI)は11月25日には1バレル当たり45.71ドルの終値と2020年3月5日(この時は同45.90ドル)以来の高水準に到達した(図3参照)。
(20) このため、既存の減産措置の延長が、新型コロナウイルスワクチンの開発及び普及の進展による世界経済成長改善等を通じた石油需要回復期待と相俟って原油価格が上振れするといった展開も否定できなくなってきた。
(21) これはロシアが従来から懸念していたところの、原油価格の上昇に伴い米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほどの世界石油需給緩和を招くことによって原油価格が乱高下することに加え、産油国であるロシアの通貨ルーブルが上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けるといった事態を招く可能性が増大していることを意味していた。
(22) 加えて、2020年8月の原油生産量が日量276万バレルと減産遵守率が71%に落ち込んだUAEに対し、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相がUAEのマズルーイ エネルギー相を呼び出して非難したと言われている(9月1日にUAEのマズルーイ エネルギー相は自国の夏場の電力消費拡大(主に気温上昇に伴う空調稼働向けとされる)による発電所向け天然ガス需要増加に対応するために天然ガスの生産を活発化した結果併せて原油生産量も増加した旨説明している)。UAEはその後自国の原油生産を削減し減産遵守率が向上したものの、イラク、ナイジェリア及びロシア等のOPECプラス産油国については減産遵守が徹底されない状況が継続したことから、UAEはこのような減産遵守の不徹底を「不公平」と捉えるようになり、11月29日のOPECプラス産油国非公式協議に続き11月30日のOPEC総会において他の産油国の減産遵守を徹底させるよう主張、これがOPECプラス産油国会合延期に繋がったと12月1日に伝えられる。
(23) また、UAEはOPECプラス産油国の減産措置における減産目標の配分も「不公平」であるという意識も持っていた(サウジアラビアの原油生産目標が日量899万バレル程度と原油生産能力(同1,200万バレル程度と推定される)の約75%と見られる一方、UAEは原油生産目標が同251万バレル程度と原油生産能力(同353万バレル程度の推定される)の約71%と見られるなど、原油生産能力を基準とするとUAEの方が減産率が高いことを指していると見る向きもある)とされ、このようなこともOPEC総会等の会合での議論の動向に影響したものと見られる。
(24) さらに、UAEはOPEC加盟が同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識しているが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討している(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨11月17日に伝えられる。
(25) 他方、イラクのアラウィ財務相兼副首相はOPECプラス産油国全体に画一的に減産措置を要請するのではなく、各産油国の1人当たり所得及び政府基金の状況(イラクは双方とも低水準)を含む政治経済状態を考慮すべきである旨主張した(ただ、同氏は自身の意見は同国石油省を代表しているものではない旨付言している)と11月25日に報じられる。
(26) ナイジェリアのブバリ大統領は、多くの人口と巨大なインフラ負債を抱える(そして同国国内総生産(GDP)は2四半期連続で減少している)同国の状況をOPECは考慮すべきである旨11月26日遅く(現地時間)に明らかにした。さらに、従来からナイジェリアはOPECが原油生産として見做してきた同国産アグバミ(Agbami)原油(API比重48.28度、硫黄含有分0.04%、原油生産量は日量12.6~15.7万バレル程度とされる)はコンデンセートであると主張(OPECはAPI比重45~55度の液体炭化水素をコンデンセートと定義している旨ナイジェリアのシルバ(Sylva)石油資源担当国務相が明らかにしたと8月12日に報じられる)、このコンデンセート相当分を自国の原油生産目標から除外するべきである旨示唆している(ただ、アルジェリアのアタル(Attar)エネルギー相はナイジェリアに対し減産目標の変更は他の産油国からも同様の要望を発生させることによりOPECプラス産油国減産体制の崩壊を招く可能性がある旨警告したと11月17日に伝えられる)。
(27) 加えて、11月29日に開催されたOPECプラス産油国による非公式協議ではロシアは2021年1月1日以降月を追う毎に日量50万バレルずつOPECプラス産油国の減産措置を緩和していく方策を提案したと伝えられる(カザフスタンがロシアの案に賛成したと同日伝えられる)。
(28) このような現状にサウジアラビは不満を持ったこともあり、11月30日のOPEC総会開催時にアブドルアジズ エネルギー相がJMMCの共同議長を辞任するかもしれない旨示唆した。そして、UAEが後任の共同議長就任を打診されたが拒否したと11月30日に伝えられるなど当該総会は紛糾したことが覗われる他、OPEC総会において減産措置を巡る取り扱い方針につき結論が出なかったことにより、OPEC総会を1日延長し12月1日にも開催するとともに、当初12月1日に開催する予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合を12月3日開催へと延期する旨決定した。
(29) ただ、日量770万バレルの既存の減産措置の2020年3月31日への延長がOPECプラス産油国閣僚級会合で決定するとの市場の期待がOPEC総会前に既に相当程度原油価格に織り込む格好となっていた(後述)こともあり、OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合において減産措置延長に対し合意に至らないことにより、2020年1月1日以降の減産措置縮小が事実上決定すれば、市場の失望から、原油相場が相当程度下落する可能性があった。
(30) 加えて、新型コロナウイルスワクチンの開発は進展しつつあることにより世界経済成長改善と石油需要の回復に対する期待が市場で増大してきた結果原油相場が持ち直す兆候が見られるものの、足元では世界の一部諸国及び地域で新型コロナウイルス感染が拡大する場面が見られる他リビア及びイランといった産油国の原油生産が増加したり増加後維持されたりする可能性があるなど、今後の世界石油市場を巡っては不透明感が払拭できない状態であること考慮し、最終的には、2021年1月においては既存の日量770万バレルの減産措置を同50万バレル縮小し同720万バレルとする旨決定するものの、それ以降は今後の新型コロナウイルス感染及びワクチン普及状況や世界経済成長及び石油需要、そして原油価格等を勘案しながら、毎月減産措置を調整することを通じ市場での石油需給緩和感の拡大を抑制しつつ原油価格の維持を図る方策を採用する判断をしたものと考えられる。
3. 原油価格の動き等
(1) 欧米諸国等において新型コロナウイルス感染が再拡大するとともにリビアの原油生産が増加しつつあった10月19日に開催されたOPECプラス産油国JMMCでは、不安定な石油市場の現状と展望により、OPECプラス産油国に対し警戒的かつ先制的な行動を要請するよう喚起する旨声明を発表するなど、OPECプラス産油国は原油価格への下方圧力に対し牽制する姿勢を見せた。
(2) さらに、11月3日に実施された米国大統領選挙投票後バイデン前副大統領が当選確実である旨の情報が発信された後の11月16日に開催されたOPECプラス産油国JTCでは既存の日量770万バレルの減産措置を2021年1月1日以降3~6ヶ月延長すべき旨推奨されたと同日報じられた。
(3) また、OPECプラス産油国が足元の原油価格の上昇にもかかわらず現状の日量770万バレルの減産措置の3ヶ月間程度の延長(とりあえず3ヶ月間延長、さらに3ヶ月間の延長するかどうかについては後日改めて検討する方策につき検討しているとされる)決定に向け協議が進みつつある旨11月25日に報じられた。
(4) このようなことから、OPECプラス産油国閣僚級会合では2021年1月1日から3ヶ月間日量770万バレルの既存の減産措置を延長するとの決定を行う旨市場関係者の大半が予想していると11月26日に報じられており、この時点で原油相場にはこのような市場心理が織り込まれる格好となっていた。
(5) しかしながら、実際にはOPECプラス閣僚級会合では市場が事前に予想していた減産措置の規模を事実上下回る規模の減産措置を決定したことから、従来であれば、石油市場では失望とともに利益確定の動きが発生し原油相場に下方圧力が加わる結果、原油価格が下落するといった展開となりやすい。
(6) しかしながら、市場では新型コロナウイルスワクチン開発及び普及の進展に伴う世界経済成長及び石油需要の回復と石油需給引き締まりによる原油相場上振れ期待が強かったことに加え、OPECプラス産油国の減産措置縮小が1ヶ月間につき日量50万バレルにとどまり、以降は世界経済、石油需給、及び原油価格等に基づき減産措置の調整を再検討する(そして状況によっては減産措置を再拡大する可能性がある旨ロシアのノバク副首相は12月3日に示唆している)といったように減産措置の縮小に関して慎重な姿勢が示されたこともあり、市場関係者によるOPECプラス産油国閣僚級会合での合意事項に対する失望感が抑制されるとともに、米国の追加経済対策につき同国議会下院のペロシ議長(民主党)と議会上院のマコネル院内総務(共和党)が協議を再開した旨12月3日に伝えられた他、マコネル院内総務が民主党との妥協に手が届きつつある旨12月3日に示唆したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、OPECプラス閣僚級会合が開催された12月3日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.36ドル上昇し、終値は45.64ドルとなった。
(7) 今後の原油市場を見るうえでの注目点としては、まず、新型コロナウイルスを巡る状況が挙げられよう。
(8) 米国製薬大手ファイザーとドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが開発中の新型コロナウイルスワクチンは11月20日に両社が米国FDAに緊急使用許可を申請したが、米国ホワイトハウスの新型コロナウイルスワクチン接種の管理責任者であるスラウイ氏は12月11日にはワクチンの接種が開始されるとともに、2021年5月には経済活動を含め米国国民の日常生活が正常に戻る可能性がある旨11月22日に示唆した。
(9) このようなことから、今後米国(そしてワクチンが普及するにつれ他の諸国)において、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されるとともに経済成長及び石油需要の伸びが回復するとの期待が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力を加えやすい状況となるものと見られる。
(10) もちろん、足元では新型コロナウイルス感染者数が増加傾向を示す国及び地域も存在することから、世界経済成長及び石油需要の伸びの回復は紆余曲折を経る可能性は残っているものの、最終的には新型コロナウイルスワクチンが普及する結果世界経済成長と石油需要の伸びが回復することにより石油需給が引き締まるといった楽観的な見方が、足元の新型コロナウイルス感染拡大による世界経済成長と石油需要のもたつき懸念を凌駕する結果、原油価格は上下に変動しながらもどちらかというと上振れリスクを内包しているものと考えられる。
(11) また、3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げたことに伴い、大幅に低下したコストで調達された資金が商品等のリスク資産市場に流入する結果、原油相場に下方圧力を加える要因により原油価格が下落しようとしても、むしろ下落する局面では原油を購入する良い機会であると市場関係者から見做されて資金が流入する結果、原油価格が十分に下落しない反面、原油相場に上方圧力を加える要因に対しては原油を購入するための大量の資金が流入する結果、原油価格の上昇幅が拡大するといった傾向が生じやすいことにも注意が必要である。
(12) 他方、原油価格の上昇につれ、米国での石油坑井掘削装置稼働数が増加する結果、同国のシェールオイルを含む原油生産が持ち直すといった展開も想定されるが、最近の米国石油会社においては株主や資金供給者が原油生産に伴う収益性を重視するといった動きも見られると指摘される他、原油価格の上昇が原油生産の増加となって現れるには6ヶ月程度を要すると言われているところからすると、米国の原油生産増加に伴う世界石油需給緩和感が原油価格を抑制する前に、新型コロナウイルスワクチン普及による世界経済成長及び石油需要の伸びの回復と石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大することを通じて原油相場に上方圧力が加わる結果、少なくとも短期的には原油価格は一時的にせよ上昇する場面が見られる可能性がある。
(13) ただ、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては一部OPECプラス産油国間での不協和音が伝えられる場面が見られたことから、今後もOPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による情報等を通じOPECプラス産油国による減産遵守状況がこの先明らかになる等するにつれ、市場がOPECプラス産油国の結束につき疑問視したり、この先のOPECプラス産油国間での原油生産方針決定の際に再び関係国間での意見の相違が顕在化したりすることで、原油相場に影響が及ぶといった展開となることも否定できない。
(参考1:2020年12月3日開催OPECプラス閣僚級会合時声明)
The 12th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 28/2020
Vienna, Austria
03 Dec 2020
The 12th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM) was held via videoconference, on Thursday, 03 December 2020.
The Meeting welcomed the new Russian Minister of Energy, HE Nikolai Shulginov.
The Meeting recalled the rights of peoples and nations to permanent sovereignty over their natural wealth and resources.
The Meeting reaffirmed the continued commitment of the participating producing countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to a stable market, the mutual interest of producing nations, the efficient, economic and secure supply to consumers, and a fair return on invested capital.
The Meeting recalled the decision taken by all participating countries in the DoC at the 10th (Extraordinary) ONOMM on 12 April 2020 to adjust downwards overall crude oil production and the unanimous decisions taken at the 11th ONOMM on 6 June 2020.
The Meeting welcomed the positive performance in overall conformity levels to the production adjustments since it last met in June, and the constructive response from many countries to the compensation mechanism in accommodating their underperformed volumes as agreed at the June ministerial meetings, and later amended in September 2020.
Looking ahead, the Meeting emphasized that it was vital that DoC participants, and all major producers, remain fully committed to efforts aimed at balancing and stabilizing the market. It noted that renewed lockdowns, due to more stringent COVID-19 containment measures, continue to impact the global economy and oil demand recovery, with prevailing uncertainties over the winter months.
In light of the current oil market fundamentals and the outlook for 2021, the Meeting agreed to reconfirm the existing commitment under the DoC decision from 12 April 2020, then amended in June and September 2020, to gradually return 2 mb/d, given consideration to market conditions.
Beginning in January 2021, DoC participating countries decided to voluntary adjust production by 0.5 mb/d from 7.7 mb/d to 7.2 mb/d.
Furthermore, DoC participating counties agreed to hold monthly OPEC and non-OPEC ministerial meetings starting January 2021 to assess market conditions and decide on further production adjustments for the following month, with further monthly adjustments being no more than 0.5 mb/d.
The Meeting also agreed to extend the compensation period established from the 11th ONOMM, and later amended in September 2020, for the period of January until the end of March 2021, to ensure full compensation of over production from all DoC participating countries.
OPEC and non-OPEC participating countries urged Saudi Arabia’s Minister of Energy HRH Prince Abdul Aziz bin Salman to continue in his role as Chair of the OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting. His perseverance, diligence and extraordinary efforts have been highly appreciated by all participating countries and instrumental in helping counter the impacts of the COVID-19 pandemic and in stabilizing the oil market through the successful implementation of DoC objectives.
HRH Prince Abdul Aziz bin Salman accepted the offer to continue in his role as Chairman of the Meeting and vowed to vigorously pursue the sustainable oil market stability desired by both producers and consumers.
The Meeting also expressed its deep appreciation and gratitude to HE Alexander Novak, Deputy Prime Minister of the Russian Federation, for his exemplary leadership as co-Chair of the ONOMM. The Meeting asked him to continue in this role and thanked him for his tireless efforts and strong support for the DoC during these extremely challenging times.
The Meeting also noted the four-year anniversary of the signing of the DoC on 10 December 2016 and commended participating countries for their continued commitment to principles underpinning the DoC.
以上
(この報告は2020年12月4日時点のものです)