ページ番号1008911 更新日 令和2年12月18日

原油市場他:新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大による世界経済成長回復に伴う石油需要の増加期待等により上昇する原油価格

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レポートID 1008911
作成日 2020-12-14 00:00:00 +0900
更新日 2020-12-18 07:47:08 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 38
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2020/12/14 野神 隆之
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概要

  1. 米国では冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房油需要増加期待が市場で増大したこともあり精製利幅が改善したことから製油所の稼働は上昇したものの、米国北東部の気温は概ね平年を上回っており同地域では実際の暖房油需要が盛り上がったわけではなかったことから、留出油在庫は増加傾向となった他平年幅上方に位置する量となった。また、不需要期であったことからガソリン在庫も増加した他平年幅上限を超過している。さらに、製油所での原油精製処理量の増加を国内原油生産量の増加で相殺した結果、原油在庫も増加傾向となった他平年幅上限を上回る状態は継続している。
  2. 2020年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、日本では11月末時点では国内の製油所等に原油が到着しきれていなかった部分があったと見られることが一因となり原油在庫は減少した。ただ、米国では原油在庫は増加した他、欧州でも製油所の稼働上昇に併せて原油調達が行われた結果原油在庫は若干ながら増加した。このため、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では製油所の稼働上昇とともに石油製品生産活動が活発化したこともあり在庫は増加した。しかしながら、米国では、プロパン/プロピレン及びその他の石油製品等の在庫が減少したこと、そして欧州では米国方面への中間留分輸出が活発に行われたことが一因となり、両地域で石油製品在庫は減少したことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが平年幅上限は超過している。
  3. 2020年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場では、米国製薬大手ファイザーとドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが共同で開発中の新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可を米国当局に申請する意向である旨11月20日に明らかになって以降、新型コロナウイルスワクチン接種の普及拡大による世界経済成長回復等を通じた石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、11月13日にはWTI終値で1バレル当たり40.13ドルであった原油価格は12月11日には同46.57ドルに到達するなど上昇傾向となった。
  4. 既に北半球では冬場の暖房用石油製品需要期に突入していることから季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場を下支えする他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力を加えるといった場面が見られることもありうる。他方、足元の新型コロナウイルス感染状況による個人の外出規制及び経済活動の制限状況の強化が原油相場に下方圧力を加える場面が見られる可能性があるが、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種普及により世界経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復するとの期待が市場で強まりつつあることにより、それが金融緩和状態に伴う投資資金の流入と相俟って原油価格が上振れしやすいものと考えられる。このような中、地政学的リスク要因、米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、及びOPECプラス産油国の減産措置の遵守状況、そしてこの先の減産措置を巡る動向を含む情報等が原油相場に影響を及ぼすものと見られる。

1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国で2020年8~12月に実施している日量770万バレルの減産措置を2021年1月は日量50万バレル縮小することを決定

(1) 協議内容等

2020年11月30日にOPEC産油国は総会(通常総会)をテレビ会議形式(当初はオーストリアのウィーンで開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染が収束しないことから、テレビ会議形式となったものと見られる)で開催、2020年8月1日から12月31日にかけ実施中の日量770万バレルの減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)の延長(従来は2021年1月1日~2022年4月30日については日量580万バレルへと減産措置の規模を縮小する予定であった)の是非等につき議論したが、結論に至らないままこの日の会議を打ち切り、12月1日に当該総会を延長して実施する旨決定した。また、11月30日午後遅く(米国東部時間)には、当初12月1日に開催する予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合を12月3日に延期する旨報じられた。しかしながら、OPECプラス産油国関係者は電話会議等を実施することにより協議を継続したと伝えられたものの、12月1日に開催する予定とされたOPEC総会は開催されずじまいであった。ただ、12月3日にはOPECプラス産油国閣僚級会合がテレビ会議形式で開催され(OPEC総会同様、当初はオーストリアのウィーンで開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染が収束しないことから、テレビ会議形式となったものと見られる)、2020年12月末までの日量770万バレルの減産措置を2021年1月については同50万バレル縮小し同720万バレルとすることで合意した(表1参照)。加えて、2021年1月以降は毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催しその都度石油市場の状況を検討するとともに、2月以降の減産措置につき調整をするものの、その調整量は日量50万バレルを超過しないものとした。なお、2月以降の減産措置の調整量最大日量50万バレルは減産措置を最大日量50万バレル縮小するのみならず最大50万バレル拡大することも含まれる旨12月3日にロシアのノバク副首相が示唆した(ただ、同日同副首相は特段の非常事態が発生しなければ、2021年4月までには累計で200万バレル増産する可能性が高いとも明らかにしている)。次回OPECプラス産油国閣僚級会合の開催日については、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合の声明では明記されなかったが、2021年1月4日に開催される予定で調整中であり、2020年12月17日に開催される予定であるOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)までには日程が確定するであろう旨12月7日に伝えられる(なお、その後JMMCは開催日を1日繰り上げ12月16日とする旨12月11日にロシアのノバク副首相の報道官が発表している)。また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できなかったOPECプラス減産参加産油国は、減産遵守未達成部分を2021年1~3月に既存の減産措置に追加して減産することに同意した。なお、原油生産が不安定なイラン、リビア及びベネズエラの各国の減産目標については、4月12日及び6月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時の声明では言及されていなかったが、今般の会合の声明においても言及されていない。ただ、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、原油生産量が回復しつつあるリビアが減産措置を実施するのはしばらく先のことになる旨12月3日に明らかにしている。

表1 OPECプラス産油国の減産幅


(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

2020年6月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では5~6月に実施していた日量970万バレルの減産措置のうちメキシコの減産分日量10万バレルを除いた同960万バレル分を7月中も実施する他、6月中はサウジアラビアが日量100万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)が同10万バレル、クウェート同8万バレル、及びオマーン同1~1.5万バレルの自主的な追加減産を実施する旨決定した。その後7月15日に開催されたOPECプラス産油国JMMCでは、世界各国及び地域が個人の外出規制や経済活動制限を緩和しつつあるなど世界経済成長が改善するとともに石油需要の回復、もしくは回復期待から原油価格が持ち直す兆候が見られたこともあり、減産措置を緩和しても需要の回復により相殺されるであろう旨の認識が示され、8月1日より12月31日まで日量770万バレルへと減産規模を縮小した措置を実施することを事実上決定した。

しかしながら、その後米国のみならず欧州一部諸国において、1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加し始めるとともに個人の外出規制や経済活動制限が再度強化され始めた。このようなことから、5月14日時点の日量9,055万バレルが7月10日時点には同9,209万バレルへと上方修正された、国際エネルギー機関(IEA)による2020年の世界石油需要見通し(表2参照)は以降下方修正され、11月12日発表時点では同9,128万バレルと5月以来の低水準の展望となった(表3参照)他、同機関が2020年6月16日に日量9,742万バレルとして初めて公開した2021年の世界石油需要見通しについても以降下方修正され11月には日量9,708万バレルとなった(表4及び5参照)。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2020年)(2020年7月時点)、表3 世界石油需給バランスシナリオ(2020年)(2020年11月時点)、表4 世界石油需給バランスシナリオ(2021年)(2020年7月時点)、表5 世界石油需給バランスシナリオ(2021年)(2020年11月時点)

他方、2020年の米国の天然ガス液(NGL: Natural Gas Liquids)の生産については、7月時点の見込みである日量480万バレルが11月時点では同511万バレルと同31万バレル上方修正された(新型コロナウイルス感染に対処するためのIT機器及び医療資機材等向けのプラスチック製造の原料となるエタンの需要が増加したことに伴い天然ガスからのエタン回収が活発化したことが一因と見られる)ことを含め2020年の非OPEC産油国の石油生産量は同時期同32万バレル上方修正された。加えて、イラクやナイジェリア等一部OPEC産油国の減産遵守(及び過去の減産目標未達分を相殺するための7月以降の既存の減産措置に追加した減産の実施)が必ずしも徹底されなかったことにより、OPEC産油国の原油生産量も上振れした。

この結果、7月時点では2020年の世界石油需給は供給が需要を日量114万バレル超過すると見込まれていたものが、11月時点では同245万バレル超過すると見込まれるようになるなど、2020年の世界石油需給は以前に比べ緩和感が強まる見通しとなった。

また、2021年については、非OPEC産油国石油生産量、OPEC産油国原油生産量及びOPEC産油国NGL生産量については7月時点の見込みと11月時点での見込みはほぼ同水準となっている。しかしながら、新型コロナウイルス感染再拡大の影響もあり、2021年の世界石油需要見通しが2020年7月時点の日量9,738万バレルから11月時点では同9,708万バレルへと下方修正されたことが一因となり、2021年全体の世界石油需給バランスシナリオ(なお、ここでは、OPECプラス産油国が当初予定通り2021年1月1日に減産措置をそれまでの日量770万バレルから同580万バレルへと縮小する他、リビア、イラン及びベネズエラについては2020年10月の原油生産水準がそのまま継続することを前提としている)は、7月時点では需要が供給を日量338万バレル超過していたものが11月時点では同284万バレルの超過と引き締まりの度合いが縮小している。

他方、2021年に向け供給面から世界石油需給を緩和させる可能性があることを示唆する要因も複数出現した。一つは、リビアでの原油生産回復である。リビアでは、西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会)(HoR:House of Representatives)を支援する、ハフタル将軍を指導者とするリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトやUAE等が支援(ロシアも支援しているとの指摘もある))との間で事実上の内戦状態が続いていたが、9月18日にはハフタル将軍が、GNAとの間で石油販売収入を公平に分配する他公平な分配実施を監視する委員会を設置する旨合意したことにより、内戦に伴い事実上封鎖されていた同国の油田関連施設の操業を1ヶ月間可能にする旨表明した。これにより、同国の油田関連施設に対し宣言されていた不可抗力条項の適用が解除され始めるとともに、同国での原油生産(8月時点では日量10万バレルであった)が増加し始めた。また、10月23日にはGNAとLNAが3ヶ月間に渡る停戦(但しテロ組織への攻撃については停戦の範囲外)及び外国勢力の排除を含む恒久的停戦に向けた合意書に署名した旨国連リビア支援団が発表した。10月26日には同国南西部にあるエル・フィール油田の操業に対する不可抗力条項の適用を解除しており、これによりリビアの全ての油田関連施設に対する不可抗力条項の適用は解除された。そのようなこともあり、11月18日には同国の原油生産量が日量125万バレルに到達した旨同国国営石油会社NOCが発表した(図1参照)。

図1 リビア原油生産量

2020年10月のリビアの原油生産量は日量45万バレルであったので、10月から11月にかけリビアの原油生産量は同80万バレル増加している。これを2021年の世界石油需給バランスシナリオに織り込んで調整すると、少なくとも第一四半期は石油需要が供給を上回る量が当該事象を織り込む前の日量109万バレルから同29万バレル程度にまで縮小することから、当該四半期においては石油需給の引き締まり感が殆ど発生しない他、2020~21年の北半球の冬が暖冬である旨判明する、もしくは新型コロナウイルス感染拡大に伴い世界各国及び地域での個人の外出規制及び経済活動制限が強化されること等により石油需要が下振れするようであれば、当該四半期は供給過剰となる結果石油需給の緩和感が市場で醸成されるとともに、原油価格が下落するといった展開もありうることを示している。

もう一つの要因はイランである。2020年11月3日に実施された米国の次期大統領選挙投票では、バイデン前副大統領が当選確実であると11月7日に報じられるとともに同日同氏が勝利宣言を行った(ただ、トランプ大統領は、敗北を受け入れておらず、一部の州の投票で不正が行われたとして一連の訴訟を行っており、選挙結果が事実上確定しているとは必ずしも言い切れない状況にあるなど、次期大統領選出過程には不透明感も漂う)。今後米国大統領に就任後、バイデン氏はオバマ前大統領(とバイデン前副大統領)時代に締結したイラン核合意からトランプ大統領が離脱した後トランプ大統領が対イラン制裁を実施したという一連の流れを元に戻す作業に取り組むことになろう。このため、最終的には米国がイラン核合意に復帰するとともに対イラン制裁を解除することで事実上のイラン原油輸出制限が撤廃されることにより、その分だけイラン産原油が世界石油市場に流入、石油需給が緩和するといった展開が想定される。2018年5月8日に米国がイラン核合意を離脱し対イラン制裁再開を決定した時点でのイランの原油生産量(2018年5月)は日量385万バレルであったが2020年10月の同国の原油生産量は同189万バレルであったことから、この差分(つまり同196万バレル)の原油供給が今後増加するとともに世界石油市場に流入する可能性がある(図2参照)。

図2 イラン原油生産量(2011~20年)

かつて2016年1月16日にイラン核合意により対イラン制裁が解除されたが、それにより同年1月の同国原油生産量日量299万バレルが3ヶ月後の4月には同354万バレルへ増加しており、この時の状況から判断すると、今回もイランの原油生産がそれほど時間を要しないうちに大幅に増加するといった展開も想定され(なお、12月6日にはイランのロウハニ大統領が同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示したと報じられる)、従ってこの分だけ、比較的短期間で世界石油需給が一層緩和するとの観測が市場で発生する結果、少なくとも季節的に石油需給が緩和しやすい第一~第二四半期には原油相場にさらに下方圧力が加わる可能性がある。

このように今後世界石油市場が不安定になる可能性がある等の要素が存在するといった状況に鑑み、OPEC産油国の一部(そしてその中心はサウジアラビアであったと見られる)には2020年12月31日まで実施予定であった既存の日量770万バレルの減産措置を延長することにより原油価格の維持を図ろうとする動きが発生、そして、11月16日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)では既存の減産措置を2021年1月1日以降3~6ヶ月延長すべきである旨推奨されたと同日報じられた。

他方、米国製薬大手ファイザーがドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックと共同で開発している新型コロナウイルスワクチンにつき接種者の90%以上で感染防止効果が認められたとの暫定結果を11月9日朝(米国東部時間)にファイザーが発表、11月20日午後(同)には、両社が米国食品医薬局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請した他、11月22日に米国当局者は12月11日にも当該ワクチン接種が開始できる可能性がある旨示唆するなど、新型コロナウイルスワクチンが実用化に向け開発が進みつつあり、それによる世界経済成長改善等を通じた石油需要回復に対する期待感から原油価格(WTI)は11月25日には1バレル当たり45.71ドルの終値と2020年3月5日(この時は同45.90ドル)以来の高水準に到達した(図3参照)。このため、既存の減産措置の延長が、新型コロナウイルスワクチンの開発及び普及の進展による世界経済成長改善等を通じた石油需要回復期待と相俟って原油価格が上振れするといった展開も否定できなくなってきた。これはロシアが従来から懸念していたところの、原油価格の上昇に伴い米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほどの世界石油需給緩和を招くことにより原油価格が乱高下することに加え、産油国であるロシアの通貨ルーブルが上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けるといった事態を招く可能性が増大していることを意味していた。

図3 原油価格の推移(2020年)

加えて、2020年8月の原油生産量が日量276万バレルと減産遵守率が71%に落ち込んだUAEに対し、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相がUAEのマズルーイ エネルギー相を呼び出して非難したと言われている(9月1日にUAEのマズルーイ エネルギー相は自国の夏場の電力消費拡大(主に気温上昇に伴う空調稼働向けとされる)による発電所向け天然ガス需要増加に対応するために天然ガスの生産を活発化した結果併せて原油生産量も増加した旨説明している)。UAEはその後自国の原油生産を削減し減産遵守率が向上したものの、イラク、ナイジェリア及びロシア等のOPECプラス産油国については減産遵守が徹底されない状況が継続したことから、UAEはこのような減産遵守の不徹底を「不公平」と捉えるようになり、11月29日のOPECプラス産油国非公式協議に続き11月30日のOPEC総会において他の産油国の減産遵守を徹底させるよう主張、これがOPECプラス産油国閣僚級会合延期に繋がったと12月1日に伝えられる。また、UAEはOPECプラス産油国の減産措置における減産目標の配分も「不公平」であるという意識も持っていた(サウジアラビアの原油生産目標が日量899万バレル程度と原油生産能力(同1,200万バレル程度と推定される)の約75%と見られる一方、UAEは原油生産目標が同251万バレル程度と原油生産能力(同353万バレル程度の推定される)の約71%と見られるなど、原油生産能力を基準とするとUAEの方が減産率が高いと指摘する向きもある)とされ、このようなこともOPEC総会等の会合での議論の動向に影響したものと見られる。さらに、UAEはOPEC加盟が同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討している(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨11月17日に伝えられる。

他方、イラクのアラウィ財務相兼副首相はOPECプラス産油国全体に画一的に減産措置を要請するのではなく、各産油国の1人当たり所得及び政府基金の状況(イラクは双方とも低水準)を含む政治経済状態を考慮すべきである旨主張した(ただ、同氏は自身の意見は同国石油省を代表しているものではない旨付言している)と11月25日に報じられる。また、ナイジェリアのブバリ大統領は、多くの人口と巨大なインフラ負債を抱える(そして同国国内総生産(GDP)は2四半期連続で減少している)同国の状況をOPECは考慮すべきである旨11月26日遅く(現地時間)に明らかにした。さらに、従来からナイジェリアはOPECが原油生産として見做してきた同国産アグバミ(Agbami)原油(API比重48.28度、硫黄含有分0.04%、原油生産量日量12.6~15.7万バレル程度とされる)はコンデンセートであると主張(OPECはAPI比重45~55度の液体炭化水素をコンデンセートと定義している旨ナイジェリアのシルバ(Sylva)石油資源担当国務相が明らかにしたと8月12日に報じられる)、このコンデンセート相当分を自国の原油生産目標から除外するべきである旨示唆している(ただ、アルジェリアのアタル(Attar)エネルギー相はナイジェリアに対し減産目標の変更は他の産油国からも同様の要望を発生させることによりOPECプラス産油国減産体制の崩壊を招く可能性がある旨警告したと11月17日に伝えられる)。

加えて、11月29日に開催されたOPECプラス産油国による非公式協議でロシアは2021年1月1日以降月を追う毎に日量50万バレルずつOPECプラス産油国の減産措置を緩和していく方策を提案したと伝えられる(カザフスタンがロシアの案に賛成したと同日伝えられる)。

このような現状にサウジアラビは不満を持ったこともあり、11月30日のOPEC総会開催時にはアブドルアジズ エネルギー相がJMMCの共同議長を辞任するかもしれない旨示唆した。そして、UAEが後任の共同議長就任を打診されたが拒否したと11月30日に伝えられるなど当該総会は紛糾したことが覗われる他、OPEC総会において減産措置を巡る取り扱い方針につき結論が出なかったことにより、OPEC総会を1日延長し12月1日にも開催するとともに、当初12月1日に開催する予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合を12月3日開催へと延期する旨決定した。

ただ、日量770万バレルの既存の減産措置の2020年3月31日への延長がOPECプラス産油国閣僚級会合で決定するとの市場の期待がOPEC総会前に既に相当程度原油価格に織り込まれる格好となっていた(後述)こともあり、OPEC総会及びOPECプラス閣僚級会合において減産措置延長で合意に至らないことにより、2020年1月1日以降の減産措置縮小が事実上決定すれば、市場の失望から、原油相場が相当程度下落する可能性があった。

加えて、新型コロナウイルスワクチンの開発は進展しつつあることにより世界経済成長改善と石油需要の回復に対する期待が市場で増大してきた結果原油相場が持ち直す兆候が見られるものの、足元では世界の一部諸国及び地域で新型コロナウイルス感染が拡大する場面が見られる他リビア及びイランといった産油国の原油生産が増加したり増加後維持されたりする可能性があるなど、今後の世界石油市場を巡っては不透明感が払拭できない状態であること考慮し、最終的には、2021年1月においては既存の日量770万バレルの減産措置を同50万バレル縮小し同720万バレルとする旨決定するものの、それ以降は今後の新型コロナウイルス感染及びワクチン普及状況や世界経済成長及び石油需要、そして原油価格等を勘案しながら、毎月減産措置を調整することを通じ市場での石油需給緩和感の拡大を抑制しつつ原油価格の維持を図る方策を採用する判断をしたものと考えられる。


(3) 原油価格の動き等

欧米諸国等において新型コロナウイルス感染が再拡大するとともにリビアの原油生産が増加しつつあった10月19日に開催されたOPECプラス産油国JMMCでは、不安定な石油市場の現状と展望により、OPECプラス産油国に対し警戒的かつ先制的な行動を要請するよう喚起する旨声明を発表するなど、OPECプラス産油国は原油価格への下方圧力に対し牽制する姿勢を見せた。さらに、11月3日に実施された米国大統領選挙投票後バイデン前副大統領が当選確実である旨の情報が発信された後の11月16日に開催されたOPECプラス産油国JTCでは既存の日量770万バレルの減産措置を2021年1月1日以降3~6ヶ月延長すべき旨推奨されたと同日報じられた。また、OPECプラス産油国が足元の原油価格の上昇にもかかわらず現状の日量770万バレルの減産措置の3ヶ月間程度の延長決定に向け協議が進みつつある(とりあえず3ヶ月間延長、さらに3ヶ月間の延長するかどうかについては後日改めて検討する方策につき検討していたとされる)旨11月25日に報じられた。このようなことから、OPECプラス産油国閣僚級会合では2021年1月1日から3ヶ月間日量770万バレルの既存の減産措置を延長するとの決定を行う旨市場関係者の大半が予想していると11月26日に報じられており、この時点で原油相場にはこのような市場心理が織り込まれる格好となっていた。

しかしながら、実際にはOPECプラス閣僚級会合では市場が事前に予想していた減産措置の規模を事実上下回る規模の減産措置を決定したことから、従来であれば、石油市場では失望とともに利益確定の動きが発生し原油相場に下方圧力が加わる結果、原油価格が下落するといった展開となりやすかった。それでも、市場では新型コロナウイルスワクチン開発及び普及の進展に伴う世界経済成長及び石油需要の回復と石油需給引き締まりによる原油相場上振れ期待が強かったことに加え、OPECプラス産油国の減産措置縮小が1ヶ月間につき日量50万バレルにとどまり、以降は世界経済、石油需給、及び原油価格等に基づき減産措置の調整を再検討する(そして状況によっては減産措置を再拡大する可能性がある旨ロシアのノバク副首相は12月3日に示唆している)といったように減産措置の縮小に関して慎重な姿勢が示されたこともあり、市場関係者によるOPECプラス産油国閣僚級会合での合意事項に対する失望感が抑制されるとともに、米国の追加経済対策につき同国議会下院のペロシ議長(民主党)と議会上院のマコネル院内総務(共和党)が協議を再開した旨12月3日に伝えられた他、マコネル院内総務が民主党との妥協に手が届きつつある旨12月3日に示唆したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、OPECプラス閣僚級会合が開催された12月3日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.36ドル上昇し、終値は45.64ドルとなった。


2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2020年9月の米国ガソリン需要(確定値)は日量855万バレル、前年同月比で7.1%程度の減少となり(図4参照)、速報値(前年同月比で7.1%程度減少の日量854万バレル)とほぼ同水準となった。同国の1日の新型コロナ新規感染者数は7月に7万人を超過するなど当時としては史上最高水準に到達したものの、8月以降1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が落ち着き始め、9月は1日当たり2~5万人台で推移したこともあり、同国のガソリン需要は前年同月比では依然減少となったものの、その減少幅は同国での新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制が強化された3月以降では最小規模のものとなった(9月の米国自動車運転距離数も前年同月比で8.6%の減少と8月の同12.3%の減少から減少幅が縮小している)。他方、同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は10月31日の推定84,235人から11月30日には167,760人へと増加した他、11月27日には205,462人と当時としては史上最高水準に到達するなどしたことにより、同国の個人の外出が敬遠されるとともに自動車運転距離数が再び抑制された(11月の米国自動車運転距離数の前年同期比の減少幅は10.2%と9~10月の同8.6~8.7%の減少から減少幅が拡大している)こともあり、2020年11月の同国ガソリン需要(速報値)は日量816万バレル、前年同月比で11.4%程度の減少と10月の同国ガソリン需要(速報値)の前年同月比での減少幅である同9.0%程度から拡大している。また、夏場から秋場にかけてのハリケーン等の米国メキシコ湾岸地域来襲、秋場のメンテナンス作業実施、及び装置不具合の発生等により米国の製油所の稼働が低下した後、11月には製油所の操業が回復したことに加え、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油需要期(11月1日~翌年3月31日とされる)突入もあり、暖房油需要増加観測が発生するとともに製油所での暖房油生産のための精製利幅が改善したことによる製油所での稼働の上昇で、11月上旬から12月上旬にかけ同国の原油精製処理量は増加傾向を示した(図5参照)。それに伴い米国の石油製品生産活動も活発化するとともにガソリン(特に混合基材)の生産も増加したものと見られる(ガソリン最終製品の生産は図6参照)一方、前述の通り同国のガソリン需要がもたつき気味となった結果、11月上旬から12月上旬にかけガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図7参照)。

図4 米国ガソリン需要の伸び(2006~20年)

図5 米国の原油精製処理量(2009~20年)

図6 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~20年)

図7 米国ガソリン在庫推移(2003~20年)

2020年9月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量382万バレルと前年同月比で2.6%程度の減少となり、8月の同9.1%程度の減少から減少幅が相当程度縮小した他、速報値である日量358万バレル(同8.8%程度の減少)から上方修正された(図8参照)。8月の同国の物流活動が前年同月比で7.1%の減少と減少幅が前月から拡大した(因みに7月のそれは同4.8%の減少であった)反動で9月は物流活動が前年同月比で4.4%の減少と持ち直した格好になったことが、留出油需要減少幅の縮小に寄与しているものと思われる。また、2020年11月の留出油需要(速報値)は日量397万バレルと前年同月比で5.5%程度の減少となっており、10月の当該需要(速報値)の同395万バレル(同6.6%程度の減少)から若干ながら需要が増加するとともに前年同月比での減少幅も縮小している。新型コロナウイルス感染の影響を受けにくい秋場の穀物等農産物収穫シーズン到来に伴う農機具向け軽油需要が発生したことが留出油需要を下支えしたことや、10月末及び11月上旬及び中旬の一時期に暖房油の主要消費地である米国北東部の気温が平年を割り込んだことにより暖房油需要が喚起されたことが、同月の留出油需要を喚起したと側面はあるものの、11月は10月と比較して格段に米国経済が改善したようにも見受けられなかった他、11月全体としては米国北東部は前年同月よりも温暖であったと見られることから、11月の米国留出油需要は10月の水準からはそう変わらないものになったと考えられる。他方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要期到来に伴い暖房油生産のための精製利幅が改善してきたこともあり製油所の稼働が上昇するとともに石油製品生産活動が活発化、留出油生産も増加傾向となったものの、足元の実際の留出油需要はもたつき気味となった(図9参照)こともあり、11月上旬から12月上旬にかけての留出油在庫は上下に変動しつつも、若干ながら増加傾向を示したうえ、平年幅上方に位置する量となっている(図10参照)。

図8 米国留出油需要の伸び(2006~20年)

図9 米国の留出油生産量(2009~20年)

図10 米国留出油在庫推移(2003~20年)

2020年9月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で9.6%程度減少の日量1,831万バレルとなった(図11参照)。ガソリン及びジェット燃料を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を下回ったことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。ただ、留出油需要の確定値が速報値から上方修正されたこともあり、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,788万バレル、前年同月比11.7%程度の減少)から上方修正されている。また、2020年11月の米国石油需要(速報値)は日量1,918万バレルと前年同月比で7.5%程度の減少となった。ガソリン、ジェット燃料、留出油及びプロパン/プロピレン等ほぼ石油製品全体にわたり需要は堅調ではなかったものの、その他の石油製品の需要が前年同月を相当程度上回ったことが当該需要の前年同月比での減少幅を抑制する格好となっている。もっとも、11月のその他の石油製品の需要は日量434万バレルと前年同月比で同40万バレルの増加となっており、過去の実績(2019年10月~2019年9月の1年間(確定値)で日量349~418万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。他方、10月上旬から11月上旬において米国メキシコ湾沖合をハリケーン「デルタ」及び「ゼータ(Zeta)」が通過したことに伴いハリケーン通過地域周辺の沖合油田関連施設で従業員が避難したことにより当該施設での操業が停止するとともに原油生産が減少したものの、ハリケーン通過後は米国メキシコ湾沖合の油田関連施設の操業が再開されるとともに原油生産がハリケーン来襲前の水準にまで回復したことが、同国製油所の稼働上昇による原油精製処理活動の活発化による原油精製処理量の増加を相殺したこともあり、11月上旬から12月上旬にかけ原油在庫水準は上昇傾向となった他、平年幅上限を上回る状態は続いている(図12参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過している一方で、留出油在庫が平年幅上方に位置する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。

図11 米国石油需要の伸び(2006~20年)

図12 米国原油在庫推移(2003~20年)

図13 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~20年)

図14 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~20年)

2020年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、日本では原油はそれなりに輸入されつつあったものの11月末時点では国内の製油所等に到着しきれていなかった部分があったと見られる一方、冬場の暖房シーズン到来に向け秋場のメンテナンス作業を終了した製油所が稼働を引き上げるとともに原油精製処理量が増加したこともあり、原油在庫は減少した。ただ、米国では原油在庫は増加した他、欧州でも製油所の稼働上昇に併せて原油調達が行われた結果原油在庫は若干ながら増加した。このため、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、日本では製油所の稼働上昇とともに石油製品生産活動が活発化した反面11月は同国の一部地域で温暖な日が見られるなどしたことで暖房用石油製品需要が影響を受けた場面が見られたことが一因となり石油製品在庫は増加した。しかしながら、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入した反面製油所の操業がもたつき気味となった場面が見られたことにより11月末時点ではプロパン/プロピレン及び留出油在庫が前月末比で減少を示した(またプロパン/プロピレンは暖房用として米国で幅広く利用されるが、米国全体は北東部に比べ11月の冷え込みが相対的に強かったと見られることから、この面で当該製品の在庫を押し下げた側面もあるものと考えられる)ことに加え、冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることによりブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫は減少した。また、欧州では域内の留出油需要が必ずしも堅調ではなかったことにより、当該地域への当該製品輸入が抑制されたと見られる反面欧州から米国方面への当該製品輸出が活発に行われた結果、中間留分を中心として石油製品全体の在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが平年幅上限は超過している(図16参照)。そして、原油及び石油製品在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油と石油製品を合計した在庫も平年幅上限を超過する状態となっている(図17参照)。なお、2020年11月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は71.3日と10月末の推定在庫日数(72.4日)から減少している。

図15 OECD諸国原油在庫推移(2005~210年)

図16 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~20年)

図17 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~20年)

11月11日に1,300万バレル台前半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、11月18及び25日には1,200万バレル台半ば程度、12月2日には1,200万バレル台前半程度の量へと減少した。12月9日には1,200万バレル台半ば程度の量へと回復したものの、11月11日の水準は下回っている。アジアの一部の国及び地域では1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が高止まりしていることもあり、インドネシア等当該地域諸国及び地域でのガソリン需要は必ずしも堅調ではなく、従ってシンガポールからの輸出が拡大する傾向は見られない。しかしながら、1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数の減少による中国及びインドでの経済回復に伴うガソリン需要の増加(またインドは10月を以て雨期(モンスーンシーズン)が終了したことにより、それまで敬遠されていた個人の外出が相対的に活発化していると見られることも当該製品需要増加の背景にあるものと考えられる)に加え中国では一部製油所でメンテナンス作業を実施したこともあり石油製品生産活動が鈍化したこともあり、これら諸国からシンガポール等国外への軽質留分輸出が抑制されたと見られることが、シンガポールでの軽質留分在庫の減少傾向の背景にあるものと考えられる。他方、ドバイ原油価格の上昇にアジアでのガソリン価格のそれが追い付かなかった結果、11月中旬及び下旬には当該製品価格がドバイ原油価格を下回る場面が見られたが、シンガポールでの軽質留分在庫減少傾向に伴い需給の引き締まり感が市場で発生したことにより、アジア市場でのガソリン価格が持ち直した結果、12月上旬及び中旬にいては、ガソリン価格は概ねドバイ原油価格を上回る状況となっている。それでもアジアの一部諸国及び地域における新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制等の影響もあり、12月上旬及び中旬においてもアジア市場でのガソリンとドバイ原油の価格差はもたつく傾向が見られる。

ナフサについては、韓国ロッテケミカルの大山(デサン)工場(2020年3月4日未明に工場内のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産110万トン)で爆発及び火災事故が発生した後操業を停止していた)の操業再開が当初の11月20日から11月30日に延期される旨10月6日に報じられたうえ、さらに10月19日には12月上旬まで延期される旨伝えられた他、11月6日午前0時前後に韓国のLG化学の麗水(ヨス)石油化学工場中央制御室で火災が発生した結果ナフサ分解装置(エチレン生産能力年産116万トン)が操業を停止した(火災発生当初当該施設は3週間程度操業を停止する予定であると伝えられたが、一部市場関係者は操業再開までに数ヶ月間を要する可能性がある旨明らかにしたと11月11日に伝えられる)。そしてこのような石油化学工場でのナフサ分解装置の予期せぬ停止もしくは停止期間の延長により、原料としてのナフサ需要が減少するのではないかとの見方が市場で増大した。加えて、米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了とともにガソリンに混入するナフサ需要の減少観測から米国でのナフサ価格が下落したこともあり、米国から相対的に価格が維持されていたアジア方面に流出したナフサが11月にアジアに到着した。このようなこともあり、アジア市場でのナフサ需給の緩和感が市場で感じられたことが、当該地域でのナフサに下方圧力を加えた結果、ナフサ価格はドバイ原油価格を下回る状態となった他、その価格差は12月上旬にかけ拡大する傾向を示した。しかしながら12月7日にはロッテケミカルの大山工場が稼働を再開するとともに原料のナフサの投入を開始したことに加え、冬の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入したこともあり、石油化学部門においてナフサと競合する液化石油ガス(LPG)の価格が暖房向け需要の増加から上昇したことにより、石油化学部門において相対的に安価であるナフサの需要が増加するとの観測が市場で高まったことがナフサ価格に上方圧力を加えたことから、以降12月中旬にかけては、ナフサ価格は依然ドバイ原油価格を下回ってはいるものの、その幅を縮小しつつある。

11月11日には1,600万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、11月18日には1,600万バレル強程度、11月25日には1,500万バレル台前半程度の水準へと低下、12月2日には1,500万バレル台後半程度の量へと回復したものの、12月9日には1,500万バレル強程度の水準へと低下するなど、全体として減少傾向となった。アジア地域の一部諸国及び地域では新型コロナウイルス感染拡大が経済活動に影響を与えたことから需要は堅調ではなかったものの、その結果かえって製油所での軽油生産における精製利幅が十分に確保できなくなったこともあり、アジア地域の製油所での軽油生産活動が鈍化したことにより、アジア諸国の国外に向けた軽油の輸出が縮小したことがシンガポールでの中間留分在庫水準に影響しているものと見られる。また、特に11月中旬から下旬にかけては例えばドバイ原油価格の上昇にアジア市場での軽油価格のそれが追い付かなかった結果、当該製品とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、シンガポールでの中間留分在庫が減少傾向を示したこともあり、アジア市場で中間留分需給の引き締まり感が相対的に強まってきたことが、当該地域での軽油価格に上方圧力を加えた格好となったことから、12月に入って以降中旬にかけては、当該製品価格とドバイ原油価格との差は回復する傾向が認められる。

11月11日に2,300万バレル強の水準であったシンガポールの重油在庫は、11月18日には2,200万バレル強程度の量へと減少した。また、11月25日には2,400万バレル強程度、12月2日は2,500万バレル台後半程度の水準へと上昇したものの、12月9日には2,200万バレル前半程度の量となるなど、全体として当該在庫は増減を繰り返す格好となった。10月には欧州での新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化もあり当該地域経済が減速するととともに重油需給が緩和、欧州の重油価格が相対的に需給の引き締まっていたシンガポールのそれを下回る程度が拡大したこともあり、欧州方面からシンガポールに向け輸出された重油が11月後半にシンガポールに到着したことがシンガポールでの重油在庫水準を押し上げた一因であると見られるが、域外への輸出に伴い欧州での重油在庫が減少したこともあり、欧州での重油価格が持ち直すとともにシンガポールでの重油価格を下回る程度が縮小したことにより、12月上旬には欧州方面からシンガポールへの重油の流入が減少したことが一因となり、当該地域での重油在庫が減少したものと見られる。また、アジア市場では原油価格の上昇に高硫黄重油価格のそれが追い付かなかったことから、11月中旬から12月中旬にかけ高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合重油価格がドバイ原油価格のそれを下回っている)は拡大する傾向を示した。もっともシンガポールでの船舶用の低硫黄重油は需要が底堅いとされる(新型コロナウイルス感染が世界的に拡大する中でシンガポールの港湾においては船員の交代が柔軟に行われていることが一因であると指摘する向きがある)こともあり、当該地域での低硫黄重油とドバイ原油の格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油のそれを上回っている)は比較的安定して推移している。


3. 2020年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場等の状況

2020年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場では、米国製薬大手ファイザーとドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが共同で開発中の新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可を米国当局に申請する意向である旨11月20日に明らかになって以降、新型コロナウイルスワクチン接種の普及拡大による世界経済成長回復等を通じた石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で増大したことに加え、OPECプラス産油国が2020年1月の減産措置を当初予定程緩和しない旨12月3日に決定したこと、イエメンの武装勢力がサウジアラビア石油施設に向けミサイルを発射した旨11月23日に表明したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、11月13日にはWTI終値で1バレル当たり40.13ドルであった原油価格は12月11日には同46.57ドルに到達するなど上昇傾向となった(図18参照)。

図18 原油価格の推移(2003~20年)

11月16日には、この日中国国家統計局から発表された10月の同国鉱工業生産が前年同月比で6.9%の増加と市場の事前予想(同6.5~6.7%の増加)を上回った他、同月の同国製油所の原油精製処理量が5,982万トン(日量1,413万バレル)と史上最高水準に到達していた旨明らかになったことで、同国経済回復に伴う石油需要の増加による石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、11月16日に米国バイオ製薬会社モデルナが自社で開発中の新型コロナウイルスワクチンの治験で有効率が94.5%であった旨明らかにしたこともあり米国株式相場が上昇(米国ダウ工業株30種平均の終値はこの日29,950.44ドルの史上最高水準に到達)するとともに、当該ワクチンによる新型コロナウイルス感染抑制と世界経済成長回復に伴う石油需要の持ち直しに対する期待が市場で増大したこと、米国株式相場が上昇したことによる投資家のリスク許容度拡大もあり米ドルが下落したこと、11月16日に開催されたOPECプラス産油国JTCにおいて世界石油需給は緩和リスクを内包していると見られることから既存の日量770万バレルの減産措置を2020年1月1日(従来はこの日より日量580万バレルへと減産措置を縮小する予定であった)以降3~6ヶ月間延長することを検討すべきである旨提言したと同日伝えられることにより世界石油需給引き締まり期待が市場で発生したことから、この日(11月16日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.21ドル上昇し、終値は41.34ドルとなった。11月17日も、新型コロナウイルスワクチン開発進展による世界経済成長回復に伴う石油需要の持ち直しに対する楽観的な見方が市場で発生した流れを引き継いだうえ、新型コロナウイルス感染拡大による影響から米国経済が回復するまで金融当局はあらゆる手段を利用する方針である旨11月17日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が表明したこともあり米ドルが下落したこと、アフガニスタンに駐留する米軍の規模を4,500人から2,500人へと削減する方針である旨米国国防省が11月17日に発表したことで中東地域情勢不安定化の当該地域からの原油供給への影響に対する懸念が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、前日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、11月18日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(11月13日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、11月17日現在の米国での新型コロナウイルス感染による入院者数が73,140人と史上最高水準に到達した旨この日報じられたことで短期的な米国経済成長減速による石油需要の伸びの鈍化の可能性に対する懸念が増大したこと、11月17日に開催されたOPECプラス産油国JMMCにおいて、2021年1月1日以降の減産措置延長の方針が明確に打ち出されなかったことで既存の減産措置の2020年末以降の延長による世界石油需給引き締まり期待が市場で後退したこと、11月16日の上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え11月17日に米国商務省から発表された10月の同国小売売上高が前月比で0.3%の増加と市場の事前予想(同0.5%の増加)を下回ったこともあり米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日(11月17日)の原油価格の終値は1バレル当たり41.43ドルと前日終値比で0.09ドルの上昇にとどまった。しかしながら、11月18日には、ファイザーがビオンテックと共同で開発中の新型コロナウイルスワクチンの有効率が95%であった旨の治験最終結果を11月18日にファイザーが明らかにしたことで新型コロナウイルス感染抑制による世界経済成長の回復に伴う石油需要の持ち直しに対する期待が市場で増大したことに加え、11月18日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で77万バレルの増加と市場の事前予想(同160~170万バレル程度の増加)程増加していなかった旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.39ドル上昇し、終値は41.82ドルとなった。また、11月19日は、この日時点の米国での新型コロナウイルス感染による入院患者数が約79,000人と2週間で約50%拡大した旨同日報じられた他、米国の一部の州で経済活動の制限が行われつつある旨この日伝えられうえ、この日米国疾病対策センター(CDC)が11月26日の感謝祭(Thanksgiving Day)の休暇期間は外出を控えるよう要請したことで、同国経済成長減速による石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、11月19日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(11月14日の週分)が74.2万件と5週ぶりに増加したうえ市場の事前予想(70.0~70.7万件)を上回ったこと、リビア国営石油会社NOCのサナラ(Sunallah)会長が同国の原油生産量が日量125万バレルに到達した旨11月19日に明らかにしたことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、11月19日に発表された米国新規失業保険申請件数が市場の事前予想を上回っていた旨判明したこともあり米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり41.74ドルと前日終値比で0.08ドルの下落にとどまった。ただ、米国追加経済対策協議再開で同国議会上院共和党のマコネル院内総務が合意した旨11月19日午後遅くに同国議会民主党上院のシューマー院内総務が明らかにしたと報じられたことから11月20日に米ドルが下落したことに加え、ファイザーとビオンテックが共同で開発中の新型コロナウイルスワクチンにつき両社が11月20日に米国食品医薬局(FDA)に対し緊急使用許可を申請する方針である旨この日報じられた(その後同日両社は緊急使用許可を申請した)ことで、当該ワクチン実用化による米国経済成長回復に伴う石油需要の持ち直しに対する期待が市場で増大したこと、11月20日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で231基と前週比5基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は216基と同1基減少)している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.41ドル上昇し、終値は42.15ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2020年12月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2021年1月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり42.42ドル(前日終値比0.52ドルの上昇)であった)。

また、12月11日にも米国での新型コロナウイルスワクチンの接種が開始できるとともに2021年5月頃には米国の日常生活が新型コロナウイルス感染拡大前の状態に戻ると期待している旨11月22日に同国での新型コロナウイルスワクチンの普及に関する責任者であるスラウイ(Slaoui)氏が示唆したことに加え、英国大手製薬会社アストラゼネカと英国オクスフォード大学が共同で開発中の新型コロナウイルスワクチン(ファイザーやモデルナのワクチンに比べ製造費用が安価でありかつ摂氏2~8度で保管可能とされる)の治験中間報告で重大な副作用を発生させることなしに新型コロナウイルスを最大90%程度予防できる旨11月23日にアストラゼネカが明らかにしたこと、11月23日に英国経済関連調査サービス会社IHSマークイットから発表された11月の米国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門好不況の分岐点)が56.7と10月の53.4から上昇したうえ市場の事前予想(53.0)を上回った他、同国サービス業PMI(50が当該部門好不況の分岐点)も57.7と10月の56.9から上昇したうえ市場の事前予想(55.0)を上回ったこと、また、同日IHSマークイットが発表した11月のドイツ製造業PMI(50が当該部門好不況の分岐点)が58.2と市場の事前予想(56.5)を上回ったこともあり、米国等の経済成長に対する期待が増大し米国株式相場が上昇するとともに石油需要の回復観測が市場で拡大したこと、11月23日にイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援していると言われており、サウジアラビアが主導する有志連合軍が支援するイエメンのハディ暫定大統領派勢力との間で事実上の内戦状態となっている)がミサイルをサウジアラビア西部のジェッダに向け発射したと主張、その後当該ミサイルがサウジアラムコの油槽所にある燃料タンクに着弾し火災が発生、消火作業中である旨同日国営サウジ通信(SPA)が報じたことで、サウジアラビアからの原油供給を巡るリスクを市場が意識したことから、11月23日の原油価格の終値は1バレル当たり43.06ドルと前週末終値比で0.91ドル上昇した。11月24日も、新型コロナウイルスワクチン開発進展による当該ウイルス感染抑制に伴う経済成長回復による石油需要持ち直し期待が市場で拡大した流れを引き継いだうえ、11月23日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領がバイデン前副大統領への政権移行作業開始を認めたことにより、政権移行を巡る混乱と米国経済等への悪影響に対する市場の懸念が後退した他、バイデン前副大統領が財務長官候補にイエレン前FRB議長を指名する計画である旨11月23日午後(同)に報じられたことにより穏健な金融政策及び追加経済対策の実施に対する期待が市場で増大したこともあり11月24日の米国株式相場が上昇(同国ダウ工業株30種平均はこの日前日終値比で454.97ドル上昇し終値は30,046.24ドルと史上初めて終値で30,000ドル超過)したこと、米国株式相場が上昇したことに伴う投資家のリスク許容度の拡大により米ドルが下落したことから、この日(11月24日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.85ドル上昇し、終値は44.91ドルとなった。また、11月25日も、新型コロナウイルスワクチン開発進展による当該ウイルス感染抑制に伴う経済成長回復による石油需要持ち直し期待が市場で拡大した流れを引き継いだうえ、サウジアラビア南西部シュカイク(Shuqaiq)沖合の紅海において船舶(ギリシャ海運会社が運航するマルタ船籍石油タンカーと見られる)がイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃を受けた旨11月25日にサウジアラビア国営テレビが報じたことで、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給への影響に対する懸念が市場で発生したこと、11月25日にEIAから発表された米国石油統計(11月20日の週分)で原油在庫が前週比75万バレルの減少と市場の事前予想(同13~23万バレル程度の増加)に反し減少していた旨判明したこと、OPECプラス産油国が最近の原油価格の上昇にもかかわらず足元の日量770万バレルの減産措置の3ヶ月間程度の延長に向け協議を進めつつある(とりあえず3ヶ月間延長、さらに3ヶ月間の延長するかどうかについては後日改めて検討する方策につき検討しているとされる)旨11月25日に報じられたことより、この先の石油需給引き締まり期待が市場で増大したこと、11月25日に米国労働省発表から発表された同国新規失業保険申請件数(11月21日の週分)が77.8万件と前週の74.8万件から増加した他市場の事前予想(73.0万件)を上回ったうえ、同日米国商務省から発表された10月の同国個人所得が前月比で0.7%の減少と市場の事前予想(同0.0~0.1%減少)を上回って減少していた旨判明したことに加え、11月26日の米国感謝祭(サンクスギビングデー)前の持ち高調整が発生したこともあり、米ドルが下落したことから、この日(11月25日)の原油価格の終値は1バレル当たり45.71ドルと前日終値比で0.80ドル上昇した。この結果原油価格は11月23~25日の3日間において1バレル当たり合計で3.56ドルの上昇となった。11月26日には、米国感謝祭の休日に伴い終値は計上されなかったが、11月27日には、これまでの価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり45.53ドルと前日終値比で0.18ドル下落した。

また、11月29日に実施されたOPECプラス産油国による非公式協議において一部産油国が2021年1月1日以降の減産措置の延長に反対している旨同日報じられたことに加え、11月30日に開催されたOPEC総会においても減産措置の延長につき明確な結論が出ないまま同日の協議が終了、12月1日も引き続きOPEC総会を実施する旨11月30日午後早く(米国東部時間)に報じられたことで、この先の世界石油需給引き締まりに対する不安感が市場で増大したことから、11月30日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.19ドル下落し、終値は45.34ドルとなった。さらに、既存の日量770万バレルの減産措置の2020年1月以降への延長に関し関係産油国間での合意が形成されないこともあり、当初12月1日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合を12月3日に延期する旨11月30日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことにより、当該合意の可能性に関する懸念が市場で増大したことから、12月1日の原油価格の終値は1バレル当たり44.55ドルと前日終値比で0.79ドル下落した。この結果原油価格は11月30日~12月1日の2日間で1バレル当たり合計0.98ドルの下落となった。しかしながら、12月2日には、ファイザーとビオンテックが共同で開発中であった新型コロナウイルワクチンにつきこの日英国政府が緊急使用許可を承認したことで、この先の世界経済成長改善による石油需要の回復に対する期待が増大したことに加え、OPECプラス産油国が合意に向け前進しているとの情報がこの日流れたことにより2021年以降の世界石油需給バランスの相対的な引き締まりに対する期待が市場で拡大したこと、12月1日に米国議会超党派議員が9,080億ドルの追加経済対策案を公表したことに対し12月2日に同国民主党幹部が議論の出発点として当該案を支持する旨表明したことから、12月2日の原油価格の終値は1バレル当たり45.28ドルと前日終値比で0.73ドル上昇した。また、12月3日も、この日開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、OPECプラス産油国が2020年1月の減産措置につき既存の日量770万バレルから同50万バレル縮小し同720万バレルとする他、2月以降の減産については毎月検討のうえ判断する旨決定したことで、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、米国議会上院のマコネル院内総務(共和党)が同国追加経済対策の妥協に手が届きつつある旨12月3日に発言したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、12月3日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.36ドル上昇し、終値は45.64ドルとなった。12月4日も、12月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、OPECプラス産油国が2020年1月の減産措置につき既存の日量770万バレルから同50万バレル縮小する等で合意したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、12月4日に米国労働省から発表された11月の同国非農業部門雇用者数が前月比で24.5万人の増加と10月の同61万人の増加から増加幅が縮小した他市場の事前予想(同46.0~46.9万人の増加)を下回ったことにより同国の追加経済対策実施に対する期待が高まったうえ、米国議会下院のペロシ議長(民主党)が同国追加経済対策決定に向けた勢いが増しつつある旨12月4日に明らかにしたこと、同日次期米国大統領に当選確実となったバイデン前副大統領が米国議会に対し直ちに財政支援に向けた行動が必要である旨表明したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり46.26ドルと前日終値比で0.62ドル上昇した他、同日の終値は2020年3月4日(この時は同46.78ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は12月2~4日の3日間で1バレル当たり合計1.71ドルの上昇となった。

12月7日には、これまでの価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、イランのロウハニ大統領が石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した旨示唆したと12月6日に伝えられたこと、11月11日に香港立法会(議会)の民主派議員が議員資格を剥奪されたとして12月7日に米国政府が中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会副委員長14人に対し本人及びその家族の米国渡航禁止を内容とする制裁を発動したことにより米国と中国の対立の先鋭化に対する懸念が市場で増大したこと、新型コロナウイルス感染拡大により米国カリフォルニア州のニューサム知事が同州の個人の外出規制及び経済活動制限を強化する旨12月7日に発表した他、同日ニューヨーク州のクオモ知事もこの先5日間新型コロナウイルス感染者による入院率が上昇し続けるようであればニューヨーク市内の飲食店での店内飲食禁止等規制を強化する予定である旨表明したこと、また、同日ドイツのメルケル首相も高水準の新型コロナウイルス感染者数を背景として個人の行動や経済活動に対する制限強化が必要である旨示唆したことにより、世界各国及び地域の経済成長抑制及び石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり45.76ドルとは前週末終値比で0.50ドル下落した。また、12月8日には、米国追加経済対策を巡る同国議会での協議が進展していない旨12月7日夕方に報じられたことで米国経済成長改善と石油需要回復に対する市場の期待が後退したことに加え、米国で1日当たりの新規新型コロナウイルス感染者数の拡大傾向が継続していることにより同国等経済成長抑制及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.16ドル下落し、終値は45.60ドルとなった。この結果原油価格は12月7~8日の2日間合計で1バレル当たり0.66ドル下落した。しかしながら、12月9日には、この日EIAから発表された同国石油統計(12月4日の週分)で原油在庫が前週比で1,519万バレルの増加と2020年4月10日の週(この時は前週比で1,925万バレルの増加)以来の大幅(かつ史上2番目に大幅)な増加となった他市場の事前予想(同104~140万バレル程度の減少)に反し増加を示したうえ、ガソリン及び留出油在庫がそれぞれ前週比で422万バレル、522万バレルの増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同200~230万バレル程度、留出油在庫同90~140万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、12月8日夕方に米国のムニューシン財務長官が9,160億ドルの同国追加経済対策案を同国議会下院のペロシ議長に提案したものの民主党側がそれを事実上受け入れなかったとして12月9日に同国議会上院のマコネル院内総務が民主党を非難するなど引き続き同国追加経済対策を巡り協議が膠着している旨示唆したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、12月9日にイラク北部キルクーク南西20キロメートルに位置するカバス(Khabbaz)油田(原油生産量日量2.5万バレル)のうちの2坑井(原油生産量同2,000バレル以下)が攻撃され炎上(同日ISが犯行を主張)したことで中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、12月9日にカナダ保健省がファイザー及びビオンテックが共同で開発していた新型コロナウイルスワクチンの使用許可につき承認したうえ12月10日にFDAが当該ワクチンの緊急使用を承認する見通しであることでワクチン接種普及による新型コロナウイルス感染抑制と経済及び石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日(12月9日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.08ドルの下落にとどまり、終値は45.52ドルとなった。しかしながら、12月10日には、12月9日にカナダ保健省がファイザー及びビオンテックが共同で開発していた新型コロナウイルスワクチンの使用許可を承認したことに加え、12月10日に米国FDAが当該ワクチンの緊急使用を承認する見通しであることで、ワクチン接種普及による新型コロナウイルス感染抑制と経済及び石油需要の回復に対する期待が市場で増大した流れを引き継いだうえ、12月10日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において、新型コロナウイルス感染再拡大による経済への影響を抑制するため、既存の1.35兆ユーロのパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による債券購入規模を5,000億ドル増額した他期間を9ヶ月間延長し2022年9月までとする旨決定したものの、これが市場の事前予想程のものではなかったと受け取られたこともあり、ユーロが上昇した他、12月10日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月5日の週分)が85.3万件と前週比で13.7万件増加した他市場の事前予想(72.5万件)を上回ったうえ、引き続き米国の追加経済対策に関し与野党間での協議が決着に向け進捗しているようには見受けられない状況であったこともあり、米ドルが下落したことから、この日(12月10日)の原油価格の終値は1バレル当たり46.78ドルと前日終値比で1.26ドル上昇した。ただ、12月11日には、前日の原油価格の上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、英国は欧州連合(EU)との間で通商協定を締結することなく12月31日の英国のEU離脱移行期間を終了する可能性が極めて高い旨12月11日に英国のジョンソン首相が明らかにした他、欧州委員会(EC)のフォンデアライエン委員長も当該協定につき合意に至らない可能性が非常に高いと認識している旨12月11日に報じられたことで、英国のEU離脱に際し地域経済が混乱するとの懸念が市場で増大したこと、米国議会上院のマコネル院内総務が同国追加経済対策につき民主党が州政府向け支援策の導入を主張し続けているとして非難する旨表明したと12月11日に伝えられたことで、同国追加経済対策を巡る協議がもたつくことによる米国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に関する懸念が市場で発生したこと、新型コロナウイルス感染率拡大により12月14日以降ニューヨーク市内の飲食店での店内飲食を禁止する旨ニューヨーク州のクオモ知事が12月11日に発表したことで、米国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が市場で拡大したこと、12月11日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で258基と前週比12基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は244基と同12基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.21ドル下落し、終値は46.57ドルとなった。


4. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での注目点は、まず、イランを含む中東情勢であろう。11月23日にイエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビア西部の都市ジェッダにある同国国営石油会社サウジアラムコの油槽所に向けミサイルを発射した旨の声明を発表、別途サウジアラムコはジェッダにある油槽所にミサイルが着弾し13基ある石油タンクのうち1基が破損するとともに火災が発生、40分後に鎮火した旨11月24日に明らかにした。また、11月25日には、サウジアラビア南西部の都市シュカイク(Shuqaiq)の港湾に停泊していたマルタ船籍の石油タンカー(ギリシャ海運会社による運航とされる)1隻が攻撃を受けたと伝えられ、サウジアラビア側はフーシ派武装勢力による犯行であると主張した。11月27日には、サウジアラビアが主導する有志連合軍はフーシ派武装勢力が支配するイエメンの首都サヌアで空爆を実施している。

11月18日には、米国財務省がイラン最高指導者ハメネイ師の管理する財団とその幹部及び関連団体、そしてイランのアラビ(Alavi)情報相に対し、米国内資産凍結及び米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨、また、同日米国国務省も2019年11月15日のイラン政府によるガソリン価格の1.5倍の値上げをきっかけとしてイランの多くの地域で発生した抗議デモの際に同国マフシャール(Mahshahr)で行われた弾圧(約150人が殺害されたとされる)に関与したとしてイラン革命防衛隊関係者2人に対し制裁を発動する旨発表した。他方、11月17日には米国のミラー国防長官代行がイラクとアフガニスタンから米軍の一部を撤収し規模を半分程度に縮小する旨発表した他、11月19日には現在イスラエルが占領しているゴラン高原を米国のポンペオ国務長官が訪問し同地をイスラエルのものである旨表明した。また、11月22日にはイスラエルのネタニヤフ首相が極秘裏にサウジアラビア(北西部の紅海沿岸都市であるネオム(Neom)とされる)を訪問しサウジアラビアのムハンマド皇太子及び米国のポンペオ国務長官と会談した旨11月23日に報じられる(但し同日サウジアラビアのファイサル外相は米国との会談は実施したもののイスラエル関係者の同席はなかった旨説明している)。ただ、サウジアラビアは当初特にムハンマド皇太子がイスラエルとの国交正常化に向けた動きにつき前向きに検討していたとされるものの、米国でバイデン前副大統領が大統領に選出される流れが強まりつつあることもあり、検討は進んでいない旨11月27日に報じられる。また、11月25日にはイランのミサイル開発計画に関与したとして米国政府との取引及び米国への輸出の禁止を内容とする制裁を中国2法人及びロシア2法人に対し発動する旨米国国務省が発表した。さらに、11月27日にはイランの核及びミサイル開発計画推進の中心的存在と言われた核科学者であるファクリザデ(Fakhrizadeh)氏がテヘラン近郊で暗殺された。イランの最高指導者ハメネイ師は報復を実施する旨表明したと同日報じられる。また、同日イランのザリフ外相は当該暗殺にイスラエルが関与していることを示す重大な形跡が認められると発言している。11月28日には、イランの中部ナタンズの核開発関連施設で2020年7月2日に発生した爆発にイスラエルが関与しているとの見解をイラン原子力庁が明らかにした。そして、米国海軍の原子力空母「ニミッツ」を中心とする空母攻撃群が11月25日にはペルシャ湾に展開した旨11月28日に報じられている。

他方、11月11日に国際原子力機関(IAEA)は、これまでイランのナタンズの核開発関連施設の地上部分に設置していた高性能遠心分離機を地下部分に移動させるなど、イラン核合意で定められてない行為をイランが行っている他、イランの低濃縮ウラン貯蔵量が2.4429トンと核合意で規定される上限量である202.8キログラムの約12倍に到達している旨の報告を取り纏めた。また、11月18日にはIAEAが定例理事会を開催し、同機関に申告していないイラン国内施設でウラン粒子を検知したことにつき速やかに十分な説明を行う必要がある旨イランに要請した。しかしながら、12月1日には、保守強硬派が過半数を占めるイラン国会が核開発拡大法(イラン核合意に参加する欧州諸国が2ヶ月以内にイラン金融及び石油部門に対する制裁を緩和しない場合には、イランはIAEAによる抜き打ち査察実施を含むIAEA追加議定書(2003年12月18日に署名)の履行を停止したりウラン濃縮濃度の20%への引き上げを実施したりすることなどを含む核開発活動の実施等が規定されている)を可決した(ロウハニ大統領は反対の意を12月2日に表明していた)後、12月2日にイランの護憲評議会は当該法案を承認したことにより、同法は発効した。また、イランはウラン濃縮のための新型遠心分離機を同国中部ナタンツの地下施設に設置する(核合意で定められているのは旧型遠心分離機のみである)方針である旨12月2日付の書簡でIAEAに通知した旨12月4日に報じられる。

このように米国はイランに対してさらなる制裁を発動しつつあるとともに、イランも核合意に定められた範囲を逸脱して核開発活動を拡大しつつあることを含め、中東情勢は複雑化しつつある。今後も2021年1月20日までのトランプ大統領の在任期間中に、イランに対しさらなる制裁的行動等を米国が実施する可能性も否定できず、また、イランの核科学者の暗殺等を巡り、米国とイランの対立が先鋭化することを含め、イラク、イエメン、サウジアラビア及びイスラエル等中東諸国を巡る情勢が不安定化する可能性に対し市場の懸念が増大するとともに、その影響が原油相場に織り込まれる場面が見られるといったこともありうる。そして、2021年1月20日のバイデン前副大統領の米国大統領就任後も、これまでこじれてしまった米国とイランとの外交関係の修復や不安定化した中東情勢の沈静化への努力に時間を要する可能性があることに加え、2021年6月18日に実施される予定であるイラン次期大統領選挙で保守強硬派の候補が大統領に当選した場合には米国の核合意復帰過程が一層混迷することもありうるなど、今後の展開が紆余曲折を経る可能性がある。もっとも、バイデン政権は、トランプ政権時代のように、イランに対して制裁を強化していく方向ではなく、制裁を緩和していく方向に向かうとの観測が市場では増大すること、また、トランプ大統領が退任することを見越してイランや原油輸入国が既存の米国制裁措置にもかかわらず原油生産増加やイランとの原油売買契約等の復活に向け準備を進める結果、比較的早期にイランからの原油供給が増加するといった展開もありうる(イランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した(2018年5月の日量385万バレル以来イランの原油生産量は減少、2020年10月には同189万バレルとなっていた)旨示唆したと12月6日に伝えられる)ことにより、この面では少なくとも石油需給の緩和感が市場で醸成されることから、原油相場への上方圧力を抑制する方向で作用することもありうる。

ベネズエラでは12月6日に国会(一院制、定数277議席)議員選挙が実施された。マドゥロ大統領政権に反対する野党勢力の現職の国会議員は、今回の選挙は公平性に問題があるとして不参加であった。投票(投票率は30%程度であったとされる)の結果、マドゥロ大統領が所属する統一社会党が91%の得票率で以て253議席を獲得し勝利した旨12月10日に報じられる(国会議員の任期は2021年1月5日からとされる)。これに対し12月7日に米国のポンペオ国務長官及び欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は選挙結果が信頼性に欠けるものであるとして認めない旨表明、中南米諸国の一部も同様の声明を発表したと同日伝えられる。ベネズエラに関しては、オバマ前大統領(及びバイデン前副大統領)がチャベス及びマドゥロ両政権と必ずしも友好的であったというわけではない。このため、バイデン前副大統領が次期米国大統領に就任したとしても、直ちにマドゥロ大統領と対立するグアイド国会議長の支援を取り止めてマドゥロ大統領の支援に乗り換えるといった展開にはなりにくく、従ってベネズエラ情勢の混乱が収拾して米国が現在発動している制裁が解除されるとともに国外からのベネズエラ石油産業向け投資が再開されることにより同国の原油生産が相当程度増加するまでには、少なくともイランの場合以上に時間を要する可能性があるものと考えられる。このようなことから、今後バイデン前副大統領が米国大統領就任後ベネズエラ情勢に対してどう関与していくかということについては注目する必要があろうが、ベネズエラはイランよりは緩やかに原油供給が増加していくとの市場心理から、短期的には原油相場への影響はどちらかというとより限定的なものになりやすいものと見られる。

リビアでは原油生産が急速に回復するとともに、対立していた勢力間での対話の機運が相対的に高まっている(前述)。しかしながら、トルコのエルドアン大統領は10月23日に締結された停戦合意の有効性につき疑問視する旨同日報じられており、GNAとHoR(及びLNA)との間での和平協議の行方を含め同国の情勢安定化については不透明感が払拭できない部分も存在する。そして、同国では停戦が実現し油田関連施設の操業が開始されても短期間で再度当該施設が封鎖されることにより原油生産が停止してしまう例が過去頻発していたこと、そして11月23日にリビアのトリポリにあるNOCの本部に武装勢力が突入しようとする(警備兵により撃退された)などしていること等を考慮すれば、同国の原油生産活動を含む政治及び経済情勢が完全に安定化したとは必ずしも言い切れず、今後同国での原油生産が十分に回復したうえで、それがある程度の期間継続することにより、最早同国からの原油生産停止リスクが相当程度低下したと市場が確信するまでは、原油相場に持続的に下方圧力を加えるといった展開にはなりにくいものと考えられる。

ナイジェリアでは、同国南西部の産油地域であるニジェールデルタにあるバイエルサ(Bayelsa)州の原油パイプラインにおいて11月20~21日の間に2回の爆発が発生し、石油換算日量3万バレルの輸送に影響を及ぼした(これによりパイプラインの操業者であるイタリア大手石油会社ENIは11月24日にブラス(Brass)原油の輸出につき不可抗力条項の適用を宣言した(ただパイプラインは修理のうえ1週間程度で操業を再開できると可能性があると11月24日に報じられる))。また11月23日には大手国際石油会社Shellのナイジェリア関係会社であるSPDCが操業するバイエルサ州の天然ガスパイプラインが破損のため停止した旨SPDCが11月24日に発表した。今後もこのような爆破等が頻発するようであればナイジェリアからの石油供給途絶懸念が市場で拡大する結果、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性もある。

経済面では、まず新型コロナウイルス感染及び新型コロナウイルスワクチン及び治療薬の開発を巡る状況が原油相場に影響することになるであろう。最近欧州各国及び米国では感染者数が史上最高水準に到達するなど増加傾向にあるとともに、一部諸国では個人の外出規制及び経済活動制限が強化されつつあることもあり、経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大していることが、原油価格を抑制させる格好で作用する可能性がある。しかしながら、米国医薬品製造大手ファイザーがドイツ医薬品製造会社ビオンテックと共同で開発している新型コロナウイルスワクチンにつき接種者の90%以上で感染防止効果が認められたとの暫定結果を11月9日朝(米国東部時間)にファイザーが発表、11月20日には、米国食品医薬局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請した他、12月10日にはFDAの諮問委員会が当該緊急使用許可承認を支持する旨決定、12月11日夜(米国東部時間)にはFDAが緊急使用を許可した。12月6日には米国のアザー厚生長官が、2021年4~6月には米国での希望者全員に当該ワクチンの接種が可能となるであろう旨明らかにしている。また、英国では12月2日にファイザー及びビオンテックが開発する新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可が承認され12月8日にワクチン接種が開始されるととともに、12月9日にはカナダ保健省もファイザー及びビオンテックが開発する新型コロナウイルスワクチンの使用を承認した。さらに、11月16日には米国バイオ製薬会社モデルナが自社で開発中の新型コロナウイルスワクチンの治験で有効率が94.5%であった旨明らかにする(ファイザーとビオンテックが共同開発している新型コロナウイルスワクチンは摂氏マイナス60~80度で最大半年間保管可能(現時点ではそのような保管機材を所有する医療機関は極めて限られるとも指摘されている)な一方2~8度では5日間保管可能であるが、モデルナのワクチンは摂氏マイナス20度で最大半年間保管可能であり2~8度では30日間保管可能であると言われている)など、新型コロナウイルスワクチンの開発が実用化に向け進みつつある。当該ワクチンによる新型コロナウイルス感染防止有効期間(ビオンテックは1年間に渡り感染防止効果を期待できるとの見解を明らかにしたものの、これについてはまだ確定的ではない旨11月9日に報じられる)や変異した新型コロナウイルスに対する有効性といった側面では不透明感が存在するものの、今後米国等において、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されるとともに経済成長及び石油需要の伸びが回復するとの期待が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力を加えやすい状況となるものと見られる。もちろん、足元では新型コロナウイルス感染者数が増加傾向を示す国及び地域も存在することから、世界経済成長及び石油需要の伸びの回復は紆余曲折を経る可能性は残っているものの、最終的には新型コロナウイルスワクチン接種が普及する結果世界経済成長と石油需要の伸びが回復することにより石油需給が引き締まるといった楽観的な見方が、足元での新型コロナウイルス感染拡大による世界経済成長と石油需要のもたつき懸念を凌駕する結果、原油価格の下落局面でも値頃感から原油を購入する良い機会であるとの市場の判断で原油の購入が促進されることにより下落幅が抑制されるとともに原油価格を上昇させやすくする方向で作用することで、原油価格は上下に変動しながらもどちらかというと上振れリスクを内包しているものと考えられる。

他方、7月31日に失効した米国失業保険の追加給付を含む経済対策につき、11月19日午後(米国東部時間)に協議再開で米国議会上院のマコネル院内総務(共和党)が合意した旨11月19日午後遅くに米国議会上院のシューマー院内総務(民主党)が明らかにしたと報じられる。また、12月1日には米国議会の超党派議員が9,080億ドルの追加経済対策案を公表したことに対し、12月2日に同国民主党幹部が議論の出発点として当該案を支持する旨表明した他、12月3日には米国議会上院のマコネル院内総務が同国追加経済対策につき妥協に手が届きつつある旨発言、米国議会下院のペロシ議長(民主党)も同国追加経済対策に対する勢いが増しつつある旨12月4日に明らかにした他、同日次期米国大統領に当選確実となったバイデン前副大統領が米国議会に対し直ちに財政支援に向けた行動が必要である旨表明するなどしている。ただ、その後再びトランプ政権(12月8日(米国東部時間)にはムニューシン財務長官が9,160億ドルの追加経済対策案を議会下院のペロシ議長に提案したと伝えられる)、共和党(州政府に対する支援策を追加経済対策に盛り込むべきであるとの主張を民主党は取り下げるべきである旨マコネル院内総務が示唆したと12月11日に報じられる)及び民主党(ムニューシン財務長官による9,160億ドルの追加経済対策案を民主党が拒否したと12月9日にマコネル院内総務は明らかにしている)との間で、追加経済対策に関する協議は進捗しているようには見受けられない。従って、当面この面では原油相場の上昇を抑制する方向で作用することになる可能性があると見られるが、米国議会での追加経済対策実施に向けた動きが加速するようであれば、米国経済に対する相対的に楽観的な見方とともに石油需要の増加観測が市場で広がる結果、米国株式相場とともに原油相場が上昇する場面が見られることもありうる。

また、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施に伴う同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、3月15日に米国FRBは政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、8月31日には、FRBのクラリダ副議長も、失業率が低下しても、物価上昇率が目標ないしは安定した金融市場にとって脅威となる水準を継続的に超過する、もしくは超過する可能性があると想定されなければ、金利を引き上げることにはならないであろう旨発言したりするなどしたことにより、米国の金融当局はより長期に渡り一層の金融緩和策を実施する意向であると市場では受け取られていることから、今後も米ドルが下落する、もしくは金融緩和措置を通じ将来的に経済が回復することへの期待が増大することにより株式相場が上昇することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといったことも想定される。そして、この場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの判断から低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない現象が見られやすくなる一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には資金流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。

他方、バイデン前副大統領が次期大統領に就任した場合には、米国と中国との関係は改善に向かうといった観測が市場で発生することで株式及び原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうる。もっとも、両国間では少なくともある程度の期間は政治的な駆け引きが続く(バイデン氏は米国と中国との間での貿易紛争を巡る第一段階の合意を直ちに破棄する意向はない他現在発動中の対中国関税を撤廃する方針もない旨明らかにしたことに加え、中国の知的財産権、技術移転、不当廉売及び政府による不当な企業支援を含む問題に対処していく旨検討していると12月2日に報じられる)結果、関係改善までの過程が紆余曲折を経ることも否定できない。このようなことから、この面での動向によっては株式及び原油相場が上下に変動する場面が見られることも否定できない。

また、1月中旬頃以降、主要米国企業等の2020年10~12月期等の業績及び業績見通し等が明らかになる予定である。ここにおいては、新型コロナウイルスワクチン接種拡大による経済成長回復期待から、企業の業績見通しが前向きなものとなることも予想され、その結果株式相場が上昇するとともに石油需要の増加期待の拡大から原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。

北半球では既に冬場の暖房シーズンに突入している。これに併せ、暖房用石油製品需要が増加、製油所も秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに、原油購入を活発化させるとの観測が市場で増大しつつある。このような市場での季節的な需給引き締まり感の醸成が当面原油相場を下支えするものと考えられる。併せて、米国の暖房油消費の中心地である北東部での気温や気温予報に対しても市場関係者は敏感になるものと見られ、当該地域での足元の気温が低下したり、気温が低下するとの予報が発表されたりするようだと、需給の引き締まり感が市場で強まる結果、暖房油価格が上昇、それに引きずられて原油価格に上方圧力が加わる可能性もある。

なお、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等において濃霧の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げが鈍化することがありうる他、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することにより原油在庫が相当程度減少する場面が見られる可能性がある(もっとも、その間原油は沖合のタンカーに貯蔵され停泊していると言われている)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計では特にメキシコ湾岸地域での原油在庫等が減少傾向を示すことにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加わる、といった展開となる場合もある。ただ、1月以降は製油所等での原油等の受入が再開される(沖合で停泊していた原油貯蔵タンカーが接岸し原油を陸上タンクへと流入させる)ことから、反動で相当程度の在庫増加が見られる可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることもありうる。

12月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、2021年1月の減産措置を日量720万バレルとし、それまでに比べ事実上日量50万バレル増産する旨合意した。ただ、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては一部OPECプラス産油国間での不協和音が伝えられる場面が見られた。今後もOPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による情報等を通じOPECプラス産油国による減産遵守状況がこの先明らかになる等するにつれ市場がOPECプラス産油国の結束につき疑問視する向きが強まったり、この先のOPECプラス産油国間での原油生産方針決定等のための協議の際に再び関係国間での意見の相違が顕在化したりすることで、原油相場に影響が及ぶといった展開となることも否定できない。また2021年1月4日には次回OPECプラス産油国閣僚級会合が開催される予定であると12月7日に伝えられる(また当初予定を1日繰り上げて12月16日にJMMCを開催する旨ロシアのノバク副首相の報道官が12月11日に明らかにしている)一方、12月6日にはイランのロウハニ大統領が同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示したと報じられる。イランの原油生産量は米国のトランプ政権による制裁により減少し始める前の2018年5月には日量385万バレルであったが、2020年10月には同189万バレルとなっている。これが今後3ヶ月程度で完全に元に戻るかどうか不透明な部分はあるが、リビアでの原油生産増加に加え2021年1月以降はイランの原油生産も増加することに伴い、現在決定されている減産措置のままでは世界石油需給バランスが相対的に緩和する結果、原油価格がその影響を受けることも想定されることから、次回以降のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、そのような石油需給バランス緩和の可能性、UAE等を含むOPECプラス産油国間での結束の問題等を含め、より繊細な対応をOPECプラス産油国は迫られることもありうる。

他方、原油価格の上昇につれ、米国での石油坑井掘削装置稼働数が増加する結果、同国のシェールオイルを含む原油生産が持ち直すといった展開も想定されるが、最近の米国石油会社においては株主や資金供給者が原油生産に伴う収益性を重視するといった動きも見られると指摘される他、原油価格の上昇が原油生産の増加となって現れるには6ヶ月程度を要すると言われているところからすると、米国の原油生産増加に伴う世界石油需給緩和感が原油価格を抑制する前に、新型コロナウイルスワクチン接種普及による世界経済成長及び石油需要の伸びの回復と石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大することを通じて原油相場に上方圧力が加わる結果、少なくとも短期的には原油価格は一時的にせよ上昇しやすいものと考えられる。

全体としては、既に北半球では冬場の暖房用石油製品需要期に突入していることから季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場を下支えする他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力を加えるといった場面が見られることもありうる。他方、足元の新型コロナウイルス感染状況による個人の外出規制及び経済活動の制限状況の強化が原油相場に下方圧力を加える場面が見られる可能性があるが、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種普及により世界経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復するとの期待が市場で強まりつつあることにより、それが金融緩和状態に伴う投資資金の流入と相俟って原油価格が上振れしやすいものと考えられる。このような中、イラン等を巡る地政学的リスク要因が顕在化することも、原油相場の上昇幅を拡大する方向で作用する可能性がある。この他、米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、及びOPECプラス産油国の減産措置の遵守状況、そしてこの先の減産措置を巡る動向を含む情報等が原油相場に影響を及ぼすものと見られる。


以上

(この報告は2020年12月14日時点のものです)

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