ページ番号1008913 更新日 令和2年12月14日
ブラジル:Petrobrasは2025年までの資本支出、石油・ガス生産見通しを引き下げ Open Acreage方式の鉱区入札、沖合鉱区への関心は低い
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概要
- Petrobrasは2021年から2025年の戦略計画、Strategic Plan 2021-2025(SP 2021-2025)で、資本支出を552億ドル(前計画、SP 2020-2024比27%減)、うち探鉱・生産部門への投資額を446億ドル(同27.5%減)とした。プレソルトに重点を置き探鉱・開発を進めるという方針はより強まり、探鉱・生産部門の投資額の70%をプレソルトの探鉱・開発に充てるとしている。
- 新規生産設備13基の生産開始が予定されていることから、Petrobrasの石油・天然ガス生産量は2021年の石油換算で日量275万バレルから2024年には330万バレルに増加、2025年はその水準を維持する見通しだ。SP 2020-2024に比べ、生産の伸びがほぼ1年ずつ先送りされており、さらに、資産売却が進めば2025年には生産量が石油換算で日量60万バレル減少する可能性があるとしている。
- PetrobrasはSP 2020-2024では200億~300億ドルの資産売却を計画していたが、SP 2021-2025では資産売却額を250億~350億ドルに引き上げた。Marlim油田、Albacora油田など深海油田も資産売却の対象となったことが、この要因である。
- Petrobrasは、ブラジル国内の石油販売量が減少するとの見通しから、中国やインド向けに石油輸出量を増やしていく計画だ。
- Petrobrasは、天然ガスのフレアの削減、二酸化炭素の再圧入、製油所の省エネやエネルギー効率向上などにより、2030年までに二酸化炭素排出量を25%削減するとしている。一方で、専門知識が乏しく、投資対効果が期待できない再生可能エネルギー事業には手をつけない方針。
- ブラジル国家石油庁(ANP)が12月4日に実施したOpen Acreage方式の鉱区入札には、7社が札を入れ、17鉱区と成熟油田1油田を落札した。サインボーナスは合計で5,700万レアル(1,100万ドル)、最低投資義務額は1億6,000万レアルとなった。陸上鉱区に関しては、Petrobrasの天然ガス市場独占が終わることを受け、ブラジル企業が16鉱区、1油田を落札したが、沖合鉱区はShellがCampos盆地の1鉱区を落札したのみという結果に終わった。この結果を受け、ブラジル政府が契約条件などを石油会社が参入しやすいように見直すのではないかとの見方がなされている。
(出所:Petrobras website、ANP website、Platts Oilgram News、BNamericas他)
1. Petrobrasの戦略計画
Petrobras取締役会は2020年11月25日、2021年から2025年の5年間の戦略計画「Strategic Plan 2021-2025(SP 2021-2025)」を承認した。Petrobrasは11月30日と12月1日に開催したPetrobras Dayでその戦略計画の詳細を発表した。
(1) 資本支出
Petrobrasは2021年から2025年の5年間の資本支出を552億ドルとし、そのうち84%にあたる465億ドルを石油・ガスの探鉱・生産部門に割り当てるとしている(図1)。

出所:Petrobras website
Petrobrasは、毎年、5年間の投資、生産などの計画を更新している。原油価格下落や同社をめぐる汚職問題の影響を受け、Petrobrasは、2014年から2018年の5カ年計画「Business and Management Plan(BMP)2014-2018」以降は資本支出を、また、BMP 2015-2019以降は探鉱・生産部門への投資額を削減していた。しかし、BMP 2018-2022以降、資本支出や探鉱・生産部門への投資額には大きな変更が行われなかったり、増額されたりするようになり、同社は回復に向かっていると見られていた。しかし、2019年に発表されたSP 2020-2024でPetrobrasは、ハイリターンが期待できるプロジェクトに投資を集中するとし、資本支出を10%、探鉱・生産部門への投資額を6.5%、それぞれ前5か年計画より削減した。そして、今回発表されたSP 2021-25では、COVID-19の感染拡大とそれに伴う石油需要の減退、原油価格の下落を受けて、資本支出を27%、探鉱・生産部門への投資額を27.5%と、SP 2020-2024よりさらに大きく削減した(図2)[1]。
[1] Petrobrasは、毎年更新する5年間の投資計画の名称を2018年発表のものまでは「Business and Management Plan」としていたが、2019年以降「Strategic Plan」と変更した。

Petrobras websiteを基に作成
ただし、資本支出に占める探鉱・生産部門への投資額の割合はSP 2020-2024の64%から84%に、探鉱・生産部門への投資額に占めるプレソルトへの投資額の割合は59%から70%に引き上げられており、これまで以上にプレソルトに重点を置き探鉱・開発を進める方針を強めていくことがうかがわれる。中でも、Buzios油田の開発には探鉱・生産部門の投資額の36%(167億ドル)を充てるとしている。SP 2020-2024では、Petrobrasは、Buzios油田の開発には探鉱・生産部門の投資額の28%(179億ドル)を充てるとしていた。また、プレソルトのTupi油田、Jubarte油田、Sépia油田、Atapu油田、Mero油田、Sapinhoá油田、Itapu油田、Berbigão/Sururu油田の開発にも探鉱・生産部門の投資額の25%が充てられる。一方で、ポストソルトに関しては、Marlim、Roncador、Barracuda/Caratinga油田などの開発を進めるとしているが、MarlimやAlbacora等の油田の権益売却を計画していることに伴い、これらポストソルトのプロジェクトへの投資額の探鉱・生産部門への投資額に占める割合は、SP 2020-2024の29%から22%に引き下げられている(図3)。
Petrobrasは、Campos盆地にはプレソルトとポストソルトを合わせてSP 2020-2024比約30%減の130億ドルの投資を計画している。このうち約10%は2017年から2019年に取得した14鉱区の探鉱に充てられるという。そして、2021年にはプレソルトの坑井4坑を掘削する予定だという。
また、Petrobrasは赤道周辺部の探鉱に10億ドル、Sergipe深海の開発に20億ドルの投資を計画している。

出所:Petrobras website
Petrobrasは2021年から2025年までに精製部門に37億ドルを投じる計画だ。Petrobrasは、現在所有している13の製油所を2025年には5製油所まで減らし、精製能力も日量220万バレルから115万バレルまで減らす計画だ。そして、国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)の2020規制を満たす低硫黄の石油製品の精製・処理量を増やすことに重点を置いていくとしている。
ガス及びエネルギー(電力)部門には11億ドルの投資が計画されており、プレソルトで生産される随伴ガスを輸送するルート3パイプラインでガスの供給を受ける予定のUTG Itaboraí天然ガス処理施設の建設などが行われる。Petrobrasによると、ルート3パイプラインと同ガス処理施設は2021年第4四半期または2022年第1四半期までに稼働する予定である。
PetrobrasのSP 2021-2025は、SP 2020-2024と比較して資本支出を27%削減することとしたが、これは2020年に他の石油会社が発表した資本支出削減率20~30%とほぼ一致している。Totalは3月に、2020年の設備投資を17%削減して150億ドルにすると発表、さらに5月には設備投資額を140億ドルまで削減すると発表した。BPは4月に、2020年の設備投資を2019年第4四半期に発表した150億~170億ドルから120億ドルに25%削減するとした。Shellは3月に、2020年の設備投資を当初計画の250億ドルから200億ドルに削減するとした。ExxonMobilは4月に、2020年の設備投資額を30%削減して230億ドルとするとした。Eniは、3月に2020年の設備投資を当初計画の89.6億ドルから67.2億ドルに、さらに4月に61.6億ドルに削減するとした。Equinorは3月に、設備投資を100億~110億ドルから85億ドルに約20%削減すると発表した。Pemexは2020年の設備投資を当初167億ドルと計画していたが、144億ドル程度になる見込みである。
(2) 探鉱・開発・生産
Petrobrasは、2021年の同社の石油・天然ガス生産量は、COVID-19の感染拡大や2020年に生じた原油価格下落などの影響を反映し、石油換算で日量275万バレルになるとしている。その後は、2021年から2025年の5年間に深海、大水深で新たに13基の生産設備の生産を開始する予定であることから、生産量は着実に増加し、2024年には石油換算で日量330万バレルとなり、2025年はその水準を維持するとしている(図4)。
ただし、Campos盆地のAlbacora油田やMarlim油田の権益を含む上流資産の売却が進めば、2025年には生産量が石油換算で日量60万バレル減少する可能性があるとしている。減少分の内訳は、陸上、浅海での生産が石油換算で日量30万バレル、Marlim油田群が20万バレル、Albacora油田とAlbacora Leste油田が10万バレルとなっている。
また、資産売却に加え、ポストソルトの成熟油田の生産減退やプレソルトでの新規生産開始により、プレソルトからの生産量が総生産量に占める割合は2021年の67%から2025年には80%に高まる見通しである。

出所:Petrobras website
PetrobrasはSP 2020-2024で、新規の浮体式生産貯蔵積出設備(floating production, storage and offloading:FPSO)13基の生産開始やCampos盆地の生産安定により、2021年に石油換算で日量290万バレル、2022年に310万バレル、2023年に330万バレル、2024年に350万バレルと生産量は着実に増加するとしていた。SP 2021-2025では、SP 2020-2024に比べ、生産の伸びがほぼ1年ずつ先送りされており、さらに、資産売却の影響も加味されている(図5)。COVID-19の感染拡大や原油価格下落などが影響を及ぼしたこと、また、上流資産売却の対象が浅海や陸上から、深海のAlbacora油田やMarlim油田にまで拡大されたことが原因と考えられる。

Petrobras websiteを基に作成
Petrobrasは、2021年から2025年に13基のFPSOを新たに設置するために170億ドルを投じる計画だ。FPSOの生産開始に関するSP 2020-2024からの主な変更点は、Itapu油田の生産開始を2024年から2023年に前倒ししたこと、Marlim 1の生産開始を2023年に、Parque das Baleias(IPB)の生産開始を2024年に1年延期したこと、Lula FRプロジェクトを除外したことである。また、SP 2021-2025には、2025年に生産開始が予定されているMero 4、Búzios 7(FPSO P-78)、8(FPSO P-79)が加えられた(図6)。
中国の大連造船所でのCOVID-19流行の影響で建造が遅れたものの、Mero 1のFPSO GuanabaraとSépia油田のFPSO Cariocaの生産開始は2021年の予定を維持した。FPSO Cariocaはブラジルに向かっており、2021年1月の到着を予定しているが、FPSO Guanabaraは2021年下半期の初めに到着予定となっている。
前述した通り、Petrobrasは2025年までに130億ドルをCampos盆地の探鉱・開発に投じる計画であるが、これによりCampos盆地で100坑以上を掘削し、今後5年間で現在の生産量、日量80万バレルを100万バレルに増やすとしている。
なお、Petrobrasは、Brent原油の価格がバレル当たり35ドルでも採算が取れるプロジェクトにのみ投資を行うとしている。

出所:Petrobras websiteに加筆
注:赤字はSP 2020-2024で予定されていた生産開始年
廃坑に関してPetrobrasは、2025年までに46億ドルを投資し、Campos盆地や Espírito Santo盆地を中心に、プラットフォーム18基と総延長1,000kmの海底ライザー及びフローラインを廃止する計画だ(図7)。PetrobrasはSP 2020-2024では、2000年に5億ドル、2021年に23億ドル、2022年に11億ドル、2023年に11億ドル、2024年に10億ドルの合計60億ドルをかけ、18基のプラットフォーム、パイプライン、沖合抗井の廃坑を行う予定としていたので、廃坑費はSP 2020-2024より23%削減されることになる。

出所:Petrobras website
(3) 資産売却
PetrobrasはSP 2020-2024で2020年から2024年の5年間に200億~300億ドルの資産を売却するとしていたが、SP 2021-2025では2021年から2025年の5年間の資産売却額を250億~350億ドルとした。
Petrobrasは、当初、上流資産については陸上及び浅海の資産を売却するとしていた。しかし、2020年9月25日にCampos盆地のAlbacora油田(権益保有比率Petrobras 100%)とAlbacora Leste油田(同Petrobras 90%、Repsol 10%)を資産売却プログラムに追加することを明らかにした。その際にPetrobrasは、Marlim油田のようなより大規模な資産売却については未定としていた。しかし、11月中旬に、Marlim油田群(Marlim、Voador、Marlim Leste、Marlim Sul油田)の権益50%の入札に向けた情報開示を開始した。2020年8月の生産量は、Albacora油田が石油換算で日量4.3万バレル(うち石油3.0万バレル)、Albacora Leste油田が3.8万バレル(同3.3万バレル)、Marlim油田が6.4万バレル(同6万バレル)、Marlim Leste油田が3.6万バレル(同3.3万バレル)、Marlim Sul油田が12.6万バレル(同11.2万バレル)となっているが、プレソルトの油田が開発される以前にはいずれの油田もブラジルの主要油田であった。なお、Petrobrasは、Marlim油田群の権益50%の売却後もこれらの油田のオペレーターを続けるとしている。Andrea Almeida最高財務責任者(CFO)によると、Marlim油田、Albacora油田、Albacora Leste油田などが資産売却対象となったことから、Petrobrasは資産売却目標をSP 2020-2024の200億~300億ドルから引き上げたという。
Petrobrasはまた、燃料販売子会社BR Distribuidora、天然ガス販売子会社Gaspetro、石油化学子会社Braskemなどの非中核資産の株式も売却対象としている。ただし、BR DistribuidoraとBraskemの株式売却は、市況が好転するまで待たなければならない、とAlmeida氏は述べた。また、Gaspetroの株式51%の売却は、現在の売却プロセスの下での単独入札者が独占禁止規制当局CADEによって失格とされたため、再度実施することが必要になるという。
Petrobrasは製油所8か所も売却する計画だが、これらの製油所の売却は、Petrobrasが資産売却で調達すると見込んでいる250億~350億ドルのかなりの部分を占めると見られている。Petrobrasは、Bahia州RLAM製油所に関してMubadala Investmentと協議中で、数週間以内に売却契約を締結し、2021年1月までには資産の移行プロセスを開始する見込みである。Petrobrasの持分を、CADEとの合意の下、現在の98%から約50%に引き下げることになる。Amazonas州REMAN製油所、Ceará州LUBNOR製油所、Paraná州SIX製油所についても、Petrobrasは拘束力のあるオファーを受けたという。Paraná州REPAR製油所(入札予定企業Raizen、Ultrapar、Sinopec)とRio Grande do Sul州REFAP製油所についても拘束力のあるオファーを間もなく受ける予定で、2021年第1四半期には売却に向けた基本的な合意が得られる見通しだ。Petrobrasは第1四半期中に、REGAP製油所とRNEST製油所の拘束力のあるオファーを受けられると見ている、と最高経営責任者(CEO)のRoberto Castello Branco氏は語っている。なお、Petrobrasは、製油所5か所を手元に残す計画だが、それらの製油所はいずれも石油の生産拠点であるプレソルトや消費地に近い南東部に存在する施設である。
(4) 石油輸出
Petrobrasは2021年からの5年間は、資産売却とともに石油輸出に注力するとした。ブラジル国内の石油販売量は、自社製油所の売却に伴って、2015年から2019年の日量134.8万バレルから、2021年から2025年には125.2万バレルに減少すると予想される。一方、石油輸出は、2015年から2019年の5年間の日量44.5万バレルから2021年から2025年には89.1万バレルに増加する見通しだ。中国はPetrobrasの最も重要な輸出市場として浮上しているが、Castello Branco氏は、同社はインドなど他の市場の開拓にも取り組んでいると述べている。
(5) 脱炭素化促進
Petrobrasは、2030年までに二酸化炭素排出量を25%削減するとしている。Petrobrasは、エネルギー・トランジションや再生可能エネルギープロジェクトについては言及せず、天然ガスのフレアリングの削減、二酸化炭素の再圧入、製油所の省エネやエネルギー効率向上などを含む新たな脱炭素化技術を展開し、脱炭素化を推進するとした。また、気候変動を担当する執行役員(executive management)の設置、原油流出ゼロ目標の設定なども強調した。一方で、専門知識が乏しく、投資対効果が期待できない再生可能エネルギー事業には手をつけないという。
他の大手石油会社が再生可能エネルギーへの取り組みを急ぐ中、Petrobrasは、石油の需要が短期的、中期的に減少することはないと考えており、石油生産の拡大に注力し、今後5年間は再生可能エネルギーへの大幅な投資は予定していないとした。同社の最高戦略責任者であるRafael Chaves Santos氏は、「我々は石油会社だ。需要がなくなることはないし、化石燃料を大規模に代替できる技術が他にあるとは思えない」と述べた。
2. Open Acreage方式の鉱区入札
ブラジル国家石油庁(ANP)は12月4日、Open Acreage方式の鉱区入札を実施した。
Open Acreage方式の入札は、成熟油田や過去の入札で落札されなかった鉱区、返還された鉱区を対象に、企業の要請に基づいて実施される。2019年に同方式の最初の入札が行われ、今回は同方式による2回目の入札となった。ブラジル政府は2020年に第17次ライセンスラウンド、第7次PS入札ラウンド、transfer-of-rightsエリアの第2次入札ラウンドを実施する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大や市場の状況から、これらを延期することとした。そのため、ブラジルでは2020年にはこのOpen Acreage方式の入札のみが行われることとなった。
今回の入札は、Camamu-Almada、Campos、Ceará、Espírito Santo、Jacuípe、Pelotas、Pernambuco-Paraíba、Potiguar、Santos、Sergipe-Alagoas盆地の708鉱区(探鉱)とEspírito Santo盆地Rio Ibiribas油田、Recôncavo盆地Miranga油田、Solimões盆地Juruá油田の3成熟油田を対象とした。ExxonMobil、Karoon、Murphy Oil、Petrobras、Premier Oil、Rosneft、Shell、Total、Wintershallなど69社が入札に参加するとして登録を行った。
実際に入札に参加した企業は7社で、17の鉱区と成熟油田1油田が落札された。サインボーナスは合計で5,700万レアル(1,100万ドル)、最低投資義務額は1億6,000万レアルとなった。
沖合鉱区は35鉱区が入札対象とされ、Campos、Santos盆地の鉱区の中にはプレソルトで油田発見の可能性がある鉱区も含まれていた。2017年から2019年の入札では、同様の鉱区に対しメジャーをはじめとする石油会社が競って札を入れ、記録的な額のサインボーナスをブラジル政府にもたらした。ところが、今回の入札で落札された沖合鉱区は、入札に付された35鉱区中、Campos盆地のBlock C-M-757の1鉱区のみであった。Shellが同鉱区をサインボーナス1,200万レアル(230万ドル)、最低投資義務額2,900万レアルで落札した。同鉱区は、プレソルトで油田を発見できる可能性を秘めた鉱区であるが、PS契約を締結することが必要なプレソルトエリアの外側に位置している。Shellは、2019年10月に実施された第16次ライセンスラウンドで、C-M-757ブロックの北に位置するBlock C-M-659とBlock C-M-713をQatar Petroleum、Chevronとコンソーシアムを組み落札している(図8)。その2鉱区の権益保有比率はShellが40%、Qatar Petroleumが25%、Chevronが35%で、Shellがオペレーターである。また、そのサインボーナスはそれぞれ、7.14億レアル、5.51億レアルであった。Shellは、今回の入札は同社がブラジルへの投資を継続していくことを示しているとした。Shellは、ブラジルの探鉱中の鉱区23鉱区、開発中の鉱区1鉱区、生産中の鉱区14鉱区の権益を保有している。

出所:ANP website
沖合鉱区の入札が低調だったのに対し、陸上の鉱区に関しては、ブラジル政府によるPetrobrasが独占してきたガス市場を開放しようとする動きを前に、ブラジル企業6社が入札し、それぞれの探鉱・開発事業の足場を固めた。いずれもガス狙いで探鉱権益を増やそうとしている。
EnevaはImetame Energiaを破り、Solimões盆地のJuruá油田を最高額のサインボーナス2,576万レアル、最低投資義務額360万レアルで落札した。Enevaはまた、Amazonas盆地のBlock AM-T-62、AM-T-84、AM-T-85を、サインボーナス合計1,630万レアル、最低投資義務額6,850万レアルで落札した。さらに、Enauta Energiaとコンソーシアムを組み、Parana盆地のBlock PAR-T-196、PAR-T-215、PAR-T-86、PAR-T-99をサインボーナス合計593,000レアル、最低投資義務額2,280万レアルで落札した。権益保有比率はEnevaが70%、Enautaが30%となっており、Enevaがオペレーターを務める。
Enevaは、2007年に創立されたブラジルの発電事業者、商社で、天然ガスの探鉱・生産にも携わっている。Enevaの火力発電設備容量は2.2ギガワット(ブラジルの火力発電設備容量の5%)、天然ガス生産能力は日量840万立方メートルでブラジル最大の民間天然ガス事業者である。Enevaが今回取得することになった鉱区は、同社の現在の探鉱・開発事業や、同社がPetrobrasから取得を目指しているUrucuガス田と近く、Enevaは今回の入札でAmazonas、Parana、Solimoes各盆地での探鉱・開発体制を強化することになった。Petrobrasは12月4日に、Enevaと3R Petroleum Oleo e Gasからそれぞれ6億ドルと10億ドルのUrucuガス田に対する拘束力のある買収提案を受けたことを明らかにしている。Petrobrasは現在、両社からの提案を評価中であるという。
Enauta Energia(元Queiroz Galvão Exploração e Produção)は、ブラジル企業Construtora Queiroz Galvãoの子会社で、ブラジルで石油・天然ガスの探鉱・生産に従事している。2020年9月にEnautaのCEOに就任したDécio Fabricio Oddone da Costa氏は、PetrobrasやBraskemなどに勤務後、ANPの長官を務めた人物である。2009年に設立された同社は、Foz do AmazonasからSantos盆地までブラジルの8堆積盆地に15鉱区を保有し、ブラジル最大のガス田であるManatiガス田などで生産中であるが、陸上での探鉱・生産に乗り出すのは今回が初めてとなる。
Imetame EnergiaとENP Ecossistemasは、Espírito Santo盆地の7鉱区(Block ES-T-305、ES-T-409、ES-T-429、ES-T-466、ES-T-486A、ES-T-517、ES-T-527)をサインボーナス356,000レアル、最低投資義務額449万レアルで落札した。
Imetame Energiaは、ブラジル陸上で探鉱・開発を行う石油会社で、1994年に設立された。Potiguar、Espírito Santo、Recôncavo、Sergipe-Alagoas、São Franscisco盆地の33鉱区の権益を保有している。Imetameは、PetrobrasからEspírito Santo盆地のLagoa Parda油田を取得し、Espírito Santo盆地にImetame I天然ガス火力発電所の建設を計画している。2025年までの設備投資額は1億6,000万ドルとされている。
ENP Ecossistemasは、Espírito Santo州を中心に、ブラジル全土で探鉱、生産、精製、石油・ガスのインフラプロジェクト事業を展開する総合エネルギー企業である。ENPは、Espírito Santo州とRio de Janeiro州の州境の浅海に、複数の天然ガス事業者から供給されるガスを両州のガス処理施設に分配する天然ガスのハブ(Hub Gasines)を建設することを計画している。ENPのCEO、Marcio Felix氏は鉱山エネルギー省で石油・ガス長官を務めていたが、同時期にANPの長官を務めていたEnautaのCEO、Décio Fabricio Oddone da Costa氏とともに、ガス市場の自由化を進めた人物である。
PetroRecôncavoは、Potiguar盆地のBlock POT-T-702をサインボーナス75,000レアル、最低投資義務額600万レアルで落札した。PetroRecôncavoは、Recôncavo、Potiguar盆地に鉱区を保有、オペレーターとして成熟油田の開発を行っている。
また、Petrobornは、Tucano盆地のBlock TUC-T-172をサインボーナス5万ドル、最低投資義務額240万ドルで落札した。PetrobornはTucano Sul盆地のCampo de Itaíガス田のオペレーターを務めている。
今回の入札に関して、ANPのRaphael Moura事務局長は、石油・ガス産業にとって特に困難な年に行われたが、大成功だったと語った。これは、2019年に実施されたOpen Acreage方式の最初の入札と比較してサインボーナスが430万ドルから1,090万ドルへとほぼ倍増したことや、これまで未探鉱だった鉱区が落札されたことに注目した発言と考えられる。
一方、沖合鉱区については、Bento Albuquerque鉱山・エネルギー相が、政府はSantos盆地やEspírito Santo盆地などの沖合鉱区への関心の欠如を分析すると述べている。政府は、2019年11月に実施されたプレソルトエリアを対象とする2回の入札が不調に終わったことから、プレソルトエリアに関する契約条件や入札方式の変更を検討している。今回も、沖合鉱区への入札が1件しかなかったことから、ブラジル政府は契約条件などを石油会社が参入しやすいように見直すのではないかとの見方がなされている。
なお、ANPは、延期していた第17次ライセンスラウンドを2021年10月7日に実施する計画だ。
以上
(この報告は2020年12月10日時点のものです)