ページ番号1008919 更新日 令和5年5月30日
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概要
- メジャー企業5社の2020年第3四半期決算ではRoyal Dutch Shell、Totalの2社が純利益、ExxonMobil、BP、Chevronの3社が純損失を計上した。ExxonMobilを除く各社は第2四半期に減損処理を実施していたが、いずれも業績改善となっている。なかでも天然ガス液化事業を含めたエネルギートランジション対応で先行するShell、Totalが利益を計上した。
- BPは2050年の二酸化炭素排出ネットゼロ目標達成に向けて上流開発事業の絞り込みや再生可能エネルギー関連投資を拡大することを表明した。欧州系に比べて対応の遅れを指摘されていたExxonMobilも第4四半期に入ってから上流開発資産の減損処理を行うのに加えて温室効果ガスの排出削減や関連情報の開示を進める計画を発表した。メジャー企業各社はそれぞれのペースでエネルギートランジション対応を進めている。
- 新型コロナウィルス感染拡大による需要減少への対応としてメジャー企業各社は生産調整を行い、設備投資計画を下方修正してきた。都市封鎖・移動制限による輸送用の石油需要急減を目の当たりにしたことで従来長期的なリスクとして認識されていた脱炭素化・エネルギートランジション対応が一気に加速した2020年はメジャー企業のエネルギートランジション戦略にとって転換点となったと考えられる。
(各社ホームページ、報道等)
1 はじめに
メジャー企業各社の2020年第3四半期は、新型コロナウィルス感染拡大による需要減少・低油価により、採算が悪化した油ガス田での生産調整や米国メキシコ湾におけるハリケーンの影響などにより生産量の減少が続いた。7月以降、原油価格(WTI)は40ドル台を回復し比較的安定的に推移、11月にワクチン開発の進展が伝えられて以降は50ドル付近に近づいてきたものの、第2四半期に下方修正された設備投資が回復する兆しは見えてきていない。要因と見られるのが新型コロナウィルス感染(再)拡大とエネルギートランジション対応である。
2020年4月、新型コロナウィルス感染拡大への対応として実施された都市封鎖などの経済活動制限にOPECプラス主要産油国間のシェア獲得競争が加わったことで世界の石油需給バランスが崩れ、WTIは一時マイナスを記録した。メジャー企業各社も、自社が参入している産油国の政府からの要請に基づく減産や米国シェールオイルの油井閉鎖のようにそれぞれの油田の採算性に応じた生産調整などの短期的な対応を行った。
新型コロナウィルス収束後の経済・社会・産業の在り方を見直す動きは従来パリ協定や持続可能な成長目標を通じて長期的な課題として議論されることの多かった温室効果ガス排出削減や再生可能エネルギー投資拡大の議論を加速させることに繋がっている。メジャー企業各社にも、このような長期的課題への対応として機関投資家や環境活動家などとの対話を通じて上流開発資産の減損処理や設備投資計画における再生可能エネルギーの割合を増やす動きが見られる。
2 2020年第3四半期決算動向
1) ExxonMobil
ExxonMobilの2020年第3四半期決算は3期連続の赤字、前年同期31.7億ドルの純利益から6.8億ドルの純損失となり、売上高は前年同期の634億ドルから454億ドルへ減少した。減収減益や石油・天然ガス需給動向を踏まえ、設備投資の削減と従業員削減を含む事業の見直し、15%の経費削減策を打ち出している。なお、天然ガス資産の開発計画を見直した結果、第4四半期に税引き後170~200億ドルの減損処理を行うことも11月30日に発表した。
2020年第3四半期の石油・天然ガス生産量は、前年同期の389.9万boedから367.2万boedに減少、天然ガスの生産が幾分回復したため第2四半期363.8万boedとの比較においては僅かながら回復した。パーミアンにおけるシェール開発の生産調整(シャットイン)分が復元されたが、需要回復の足取りが緩やかなため産油国政府主導の減産に従い、第3四半期も14万b/dの生産調整が継続している。なお、第4四半期に入っても22万b/d程度の生産調整の影響がある。
第3四半期の設備投資は41.3億ドル。今年始めに発表された年間設備投資計画は330億ドルであったが、新型コロナウィルス感染拡大を受けてすでに230億ドルに減額されている。第1~3四半期実績は166億ドルで減額後の設備投資年間計画に対し72%の進捗。2021年の設備投資は160~19億ドルとなる見通しと大幅な減少を見込んでいる。しかしながら2022年から2025年までの年間設備投資は200~250億ドルの見通しを示しており、探鉱を含め石油・天然ガス事業向け設備投資は積極的に継続していく方針を維持している。
米国では、パーミアンにおける第3四半期の生産量は40.1万boedで、年間平均では36万boedと見込む。またパーミアンにおける掘削リグ数は2020年末に10基程度まで削減するが、2021年の生産量は40万boedまで回復できるとしている。シェールオイル等のショートサイクル資産に対する投資をペースダウンとするのに対し、深海油田開発は予定通り推進する見通しで、90億バレル相当の可採埋蔵量があるガイアナのLiza-Payara油田では2026年75万b/dの生産を見込むなど長期的な石油需要の増加が継続するという見通しに基づいた垂直統合型のビジネスモデルを維持する。ブラジルのプレソルトエリアでEquinorが操業するBacalhau油田についても予定通り開発を推進する。
原油処理量は、前年同期の405.2万b/dに対して375.9万b/dに減少した。エネルギートランジションの関連では石油・天然ガスの需要を牽引する石油化学事業に対する設備投資を継続するとしている。
Papua New GuineaとMozambiqueの天然ガス液化プロジェクト(Area4)はレジリエンス・プランとして推進していくとしているが、FIDが2021年に先遅りされた開発計画がさらに後ろ倒しになる可能性が指摘されている。ExxonMobilのLNGプロジェクト投資の基本は原油価格など広範なエネルギー価格にリンクした長期引取契約があることであり、需要サイドと緊密な連携を取りつつ進められている。このためベトナムではJERAとLNG火力発電プロジェクトを推進するなど需要開拓の取組みにも注力している。
ExxonMobilは設備投資を削減して配当を維持することを選択し、垂直統合型のビジネスモデルの優位性を強調している。他方で新型コロナウィルス感染拡大により需要動向を見直し天然ガス資産に最大200億ドルの減損を行うことを発表したことに加え、従来は2025年に倍増するとしていた利益目標を2027年に2年間後ろ倒しとするなど成長ペースの調整も行っている。
2) Royal Dutch Shell
Royal Dutch Shellの2020年第3四半期決算は4.9億ドルの純利益を計上、大規模な減損処理を行った第2四半期の純損失181億ドルからは改善したが前年同期58.8億ドルと比較すると大幅な減益であった。部門別には中下流事業のマーケティングマージンが改善した。グループ全体の売上高は前年同期866億ドルから440億ドルへ半減している。
石油・天然ガス生産量は前年同期356.3万boedから308.1万boedに14%の減少、第2四半期337.9万boedからは9%の減少となった。新型コロナウィルス感染拡大による需要の減少、OPECプラスの協調減産への協力に加えて米国メキシコ湾におけるハリケーンの影響も受けている。
第3四半期の設備投資は37億ドル。今年始めの250億ドルから下方修正された年間計画200億ドルに対し第1~3四半期実績は123億ドル(進捗率60%)、年間でも190億ドルを下回る見込み。ただし、2021年以降の設備投資は190~220億ドルを見込み、当面は50%程度を上流開発事業に充てるが将来的には35~40%に削減し、代わりに再エネ・バイオ燃料・水素などの成長分野を25%まで増加するとしている。
Shellはブラジル沖合で開発中のMero油田のFPSOを最終投資決定したほか、パーミアン、メキシコ湾、ブラジル、英国、ナイジェリア、カザフスタン、オマーン、マレーシア、ブルネイを9大コア資産と位置付け、集中的な設備投資によりキャッシュフローを増加させるとしている。
下流事業では現状14ある精製設備を6つのEnergy and Chemicals Parks(米国のDeer ParkとNorco、オランダのPernis、シンガポールのPulau Bukom、ドイツのRheinland、カナダのScotford)に集約、精製・石化部門の統合強化・ネットゼロ化を成長戦略の中核に位置付ける。LNG関連事業ではPreludeに操業上の問題が発生、また米国のメキシコ湾における石油・天然ガス資産でも減損が発生する可能性があるとしている。なお5月に発表したアパラチアのシェールガス資産売却(541百万ドル)を第3四半期にクローズした。
Shellは4月に3分の2削減した配当を第4四半期から僅かながら(4%)増加。債務圧縮計画を進め、成長軌道への復帰を目指している。
3) BP
BPの第3四半期決算は4.5億ドルの純損失となり、前年同期7.5億ドル、第2四半期168億ドルの純損失と比べると改善している。大規模な減損がなくなったこと、石油需要の回復ペースには不確実性が大きい反面、天然ガス事業の採算改善には期待感が持てるとしている。
石油・天然ガス生産量331.8万boedは、前年同期の364.9万boedに対し10%、第2四半期359.6万boedからは8%の減少。新型コロナウィルス感染拡大による需要減退、OPECプラスの協調減産と米国メキシコ湾におけるハリケーンの影響を受けたほか、米国ではアラスカとシェール開発、エジプトではスエズ湾海上油田開発の資産売却を実施した。ノルウェーの合弁会社Aker BPはJohan Sverdrupの石油・天然ガス生産を21%増加している。
設備投資は2020年の設備投資目標120億ドルに対し第3四半期までの実績は91億ドル、借入は資産売却計画の進捗により純債務350億ドルの目標に近づく。アゼルバイジャンから欧州向けた天然ガスパイプライン事業Southern Gas Corridorが供給を開始する。
BPは炭化水素の生産量を40%削減するなど資本節約型のエネルギートランジション戦略を採るとしているが、第3四半期は2つの上流開発プロジェクト(米国メキシコ湾Atlantis Phase 3、オマーンKhazzan Phase 2)で操業を開始、第4四半期には英領北海Vorlich油田やインドでReliance Industriesと協働する深海ガス田開発(KG D6)が操業開始となる予定である。
石油化学事業は年内にINEOSに50億ドルで売却する計画であり、LNG事業ではトリニダード・トバコ、アンゴラ、モーリタニア、セネガルなどからの調達契約により液化設備への資本投資を節約してトレーディング収益を確保するなど、バランスシート節約型の事業モデルを志向している。2025年までに250億ドルの資産売却を計画しているが、すでにアラスカの資産売却などにより約半分を達成済みである。
米国ヘインズビルのシェールガスについては米国国内の発電事業向けと海外のLNG向けの需要が堅調に推移するとの見通しを示している。キャッシュフローがプラスになる油価(北海ブレント)水準は42ドル/バレルであり、現状程度(45~50ドル)で推移すれば2021年後半或いは2022年に自社株買いを再開する見通しである。
4) Chevron
Chevronの第3四半期決算は2億ドルの純損失となり、前年同期25.8億ドルの純利益から赤字になったが、第2四半期の純損失82.7億ドルからは改善した。
石油・天然ガス生産量283.4万boedは、前年同期の303.3万boedから7%、第2四半期298.8万boedからは5%の減少。パーミアンからの生産量は56.5万boed、第4四半期には買収したNoble Energyの寄与分が加わり60万boedまで増加する見通しである。
今年始めの年間設備投資計画は油価(ブレント)60ドルを前提に190~220億ドルとされていたが、新型コロナウィルス感染拡大を受けて140~160億ドルに削減、第1-3四半期の実績は103.2億ドルとなっている。2020年の当初計画にはNoble Energyの設備投資は含まれていなかったことを勘案すると、12月3日にChevronが発表した2021年の設備投資計画140億ドルは実質的な削減である。その内訳は上流開発115億ドル(米国50億ドル、海外65億ドル)、中下流21億ドル(米国12億ドル、海外9億ドル)、その他(再エネ関連投資を含む)4億ドルとなっており、Chevronが引き続き上流開発に注力していることが見て取れる。上流開発投資の主要なものとしては米国のパーミアンやカザフスタンのテンギス油田拡張が含まれる。
2022~25年の設備投資見通しは年間140~160億ドルを予定している。今年買収したNoble Energyの東地中海ガス田開発も長期的な企業価値向上に寄与する資産との位置付けである。
5) Total
Totalの2020年第3四半期決算は前年同期28億ドルから2.02億ドルに減少したが、減損処理の影響により83.7億ドルの損失を計上した第2四半期からは改善であった。
石油・天然ガス生産量は前年同期304万boedから11%減少して271.5万boedとなった。なかでも石油生産量は172万b/dから143.7万b/dへと16%の減少幅となっており、OPECプラス協調減産によるアンゴラ、イラク、カザフスタン、ナイジェリアなどの生産減に加え、カナダやリビアにおける生産減少が影響した。
2020年の設備投資見通しは130億ドルと、183億ドルから下方修正された年間投資計画140億ドルを下回る見通しである。下流事業では7月に英国Lindsey製油所の売却を発表、フランスGrandpuits製油所をバイオ燃料工場に転換、精製処理量は、前年同期の171.9万b/dに対して121.1万b/dに減少している。LNG関連ではArctic LNG 2、モザンビーク、キャメロン、Costa Azul、カタールで大型の液化設備投資プロジェクトを抱えている一方、インド市場へのアクセスを強化するため地場企業Adaniグループと輸入ターミナル建設や天然ガス販売網の整備にも取り組んでいる。
3 エネルギートランジションへの対応
1) ExxonMobil
ExxonMobilは第4四半期に200億ドル規模の減損処理を行うことを発表した。2010年に360億ドルで買収したシェールガス開発企業XTO Energyの米国、アルゼンチン、カナダにおける資産の一部を当面の開発計画から除外したことにともなう措置であるが、当面の設備投資計画は2021年160~190億ドル、2022~25年200~250億ドルで不変、油価が60ドルまで回復することを前提に(従前2025年としていた)収益倍増の目途を2027年としている。
ExxonMobilは二酸化炭素排出削減の重要性を強調しつつ、途上国のエネルギー需要の増加に応えていくことにコミットしており、エネルギートランジションには時間をかけて対応していくとしている。効率性向上がグローバルベースでみた温室効果ガス排出削減に繋がるとして、デジタル化や操業コストの削減を重視している。
ExxonMobilのエネルギートランジション対応としては12月14日に温室効果ガス排出削減目標を発表した。2025年までに自社操業油ガス田における温室効果ガス排出を15~20%削減する目標を設定(所謂スコープ1・2)、また削減目標は設定していないが生産した石油・天然ガスを費消する際に排出される温室効果ガス排出量(スコープ3)を2021年から開示するとした。欧州系メジャー企業に比べエネルギートランジション対応の遅れが指摘されていたExxonMobilの動きが今後加速するか注目される。
2) Royal Dutch Shell
Shellのエネルギートランジション戦略は温室効果ガス排出ネットゼロへの道程を予測することは難しいため、様々のシナリオのもとで需要が増加することが見込まれる天然ガス液化事業や石油化学事業に投資することで利益を上げつつ、再生可能エネルギーや水素・バイオ燃料・二酸化炭素回収貯留といったビジネスの成長機会を追求、長期的なポートフォリオのバランスを目指すというプラグマティックなアプローチを取っている。
80%を出資するオランダのCrossWindコンソーシアムが759MWの洋上風力発電プロジェクトの最終投資決定を行うなどの取組みが進む反面、Shellは向こう数十年に亘り石油・天然ガス上流開発事業を継続するとしている。このような経営トップの認識とのギャップからトランジション部門幹部が相次いで退職すると報道されるなどエネルギートランジション対応の適正なペースを改めて模索する動きも見られる。
3) BP
BPはエネルギートランジション対応を加速していおり、ロスネフチを除く石油・天然ガス生産量を現状260万boedから2030年150万boedまで削減し、再生可能エネルギーへの投資を2020年5億ドルから2025年40億ドル、2030年50億ドルへと拡大することを表明した。低コスト・低排出の炭化水素事業を中核としてロシア(ロスネフチ)と米国(BPX、シェール開発)を位置付け、これらの事業から生まれるキャッシュフローにより低炭素エネルギーへのトランジションを推進するとしている。2025年まで年間設備投資150億ドルのうち石油・天然ガス開発を50%以下とし、新たな地域における探鉱活動を行わないとしている。
他方、再生可能エネルギーへの投資では投資利回り8~10%の投資機会を追求しており、米国東海岸でEquinorが行う洋上風力発電プロジェクトに50%出資、ドイツのEV高速充電事業に参入、BP Chargemasterがスコットランド警察への充電設備を供給、ヒューストンやアバディーンと温室効果ガス排出ネットゼロに向けて協力することに合意するなど取り組みを強化している。
また英領北海における二酸化炭素回収貯留プロジェクトにも取り組んでおり、BPが主導するエネルギー会社のコンソーシアムNorthern Endurance Partnership(NEP)はイングランド東部のHumberside(NZH:Net Zero Humber)とTeeside(NZT:Net Zero Teeside)工業地域で二酸化炭素の回収貯留プロジェクトを開始した。パートナーにはENI、Equinor、Royal Dutch Shell、Total、National Gridが参加しており、2026年操業開始、2030年二酸化炭素回収、水素、エネルギー転換によりネットゼロ達成を目指している。
4) Chevron
Chevronの2021年設備投資計画140億ドルの内訳は上流開発115億ドル(米国50億ドル、海外65億ドル)、中下流21億ドル(米国12億ドル、海外9億ドル)、その他(再生可能エネルギー関連投資を含む)4億ドルとなっており、米国のパーミアンやカザフスタンのテンギス油田など上流開発が中心である。2022~25年も年間140~160億ドルの設備投資を予定しており、買収したNoble Energyの東地中海ガス田開発など長期的な企業価値向上も上流開発が中心の位置付けである。
Chevronにとってパーミアンのショートサイクル資産や天然ガスLNG事業へのシフトを進めることはエネルギートランジション戦略の一部であると考えられる。座礁資産化のリスク管理を強化する上でショートサイクル資産や天然ガス液化事業とブレークイーブンコストの低い大型油ガス田開発のバランスを取りつつ二酸化炭素回収貯留やバイオ燃料技術などの再生可能エネルギー関連技術への投資を継続している。
5) Total
Totalのエネルギートランジション戦略は天然ガス液化事業と再生可能エネルギーを中心に構成されており、2030年の売上構成を石油35%、天然ガス50%とし、かつ石油35%の中にはバイオ燃料も含むとしている。石油・天然ガス事業から得られるキャッシュフローによりLNG設備や再生可能エネルギーへの投資を推進するとしている。天然ガス事業は2025年までに40億ドルのキャッシュフローを生む中核事業となる計画であり、Arctic LNG 2(19.8百万トン)、Nigeria LNG Train 7(7.6百万トン)、Mozambique LNG(12.9百万トン)の3大プロジェクトで2030年までに38~40百万トンの設備増強を予定している。これらの他にも米国のCameron LNG、メキシコのCosta Azul、パプアニューギニアのPapua LNGなど有力なプロジェクトへの投資を予定している。
LNG事業のカーボンニュートラル化にも取り組んでおり、中国における風力発電やジンバブエの森林保護事業で得られるクレジットを利用したカーボンニュートラルLNGを中国向けに販売するなどの取り組みを行っている。第3四半期にはスペインで3.3ギガワット規模の太陽光発電事業を買収するなど積極的、2020年の年間設備投資130億ドルのうち20億ドルが再生可能エネルギーに充ててられている。
温室効果ガス排出ネットゼロに向けた取り組みに要する期間を予め見通すことは難しく、移行期間が長くなれば長くなるほどLNGプロジェクトに対する投資のリターンは大きくなると考えられる。このようなTotalのエネルギートランジション戦略は、石油・天然ガスからのキャッシュフローを最大限活用し、LNG・再エネ投資に経営資源をシフトしている。
4 まとめ
メジャー企業各社の第3四半期決算は新型コロナウィルス感染拡大やエネルギートランジションの影響を受けており、2021年の設備投資計画も抑制的なものとなる見込みである。新型コロナウィルス感染拡大が収束すれば短期的に需要の拡大に供給力が追いつかなくなる事態に備える必要があることは論を俟たない。同時に石油・天然ガスの上流開発事業を止める訳ではなく、設備投資に占める上流開発の割合を減らすにしても相当程度の長期間にわたり最大シェアを占めることから、温室効果ガス排出ネットゼロの達成までの期間中において継続して利益を上げ続けるであろう天然ガス液化事業を中心にエネルギートランジション戦略を構成している。
再生可能エネルギー中心に移行した後の事業計画ではなく、移行期間中の事業ポートフォリオを詳細設計しているところにメジャー企業の現実的なエネルギートランジション戦略の特徴が見られ、再生可能エネルギーへの移行に要する時間が長くなれば長くなるほど天然ガス・LNG事業に強みを持つShellやTotalにとっては投資リターンが大きくなる関係にある。2050年排出ネットゼロに向けて上流開発投資を絞り込みトレーディング事業を強化するなどの対応を加速するBP、長期的な石油・天然ガスに対する需要の拡大を前提にポートフォリオを構築するExxonMobilやChevron、メジャー企業各社が想定するエネルギートランジション戦略は様々である。
新型コロナウィルスの感染拡大による油価の下落と長期的な石油需要の減少に前倒してメジャー企業各社もエネルギートランジション戦略を前倒しで実施することを求められており、それぞれのペースでエネルギートランジション戦略を進めるメジャー企業各社にとって2020年は一つの転換点になったと考えられる。
以上
(この報告は2020年12月23日時点のものです)