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天然ガス・LNG最新動向 ―スポットLNG価格急騰!2020年トラブル頻発とパナマ運河制約で激変迫るLNG物流―

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レポートID 1008920
作成日 2020-12-25 00:00:00 +0900
更新日 2021-01-07 14:49:14 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 白川 裕
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 42
抽出データ
地域1 グローバル
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国・地域 グローバル
2020/12/25 白川 裕
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概要

12月15日、北東アジアのスポットLNG価格は、6年ぶりに$12/MMBtu超の高値をつけた。

新型コロナウイルスと油価下落の影響で世界のガス需要が低迷するなか、4月末に更新したJKM(Japan Korea Marker、Platts北東アジアスポットLNG査定価格)の史上最低価格$1.825/MMBtuからは、豈図らんや、7倍の高騰となる。

原因は、秋以降、前代未聞のレベルで頻発した世界のLNG液化プラント等でのトラブルである。一連のトラブルが、国民の生活を支える重要な1次エネルギーであるLNGの安定供給に対する市場のセンチメントを膨張させ、スポットLNG価格の高騰を招いた。また、その過程で、パナマ運河という新たな、そして将来にわたるボトルネックが顕在化した。供給過剰が基調であるにもかかわらず、奇しくも、LNGサプライチェーン強靱化にスポットライトがあたった場面で、2020年は幕を降ろしつつある。

ここでは、まず、足元のLNG市場に関して、

  • 2020年の主要LNGマーケット需給速報
  • 秋以降、頻発したLNG液化プラント等トラブルの概要と推定原因
  • 急伸したスポットLNG価格の推移とその背景

についてまとめる。次に、将来のLNG市場に対して、

  • 2030年の世界の地域別LNG需給
  • ボトルネックとして露見したパナマ運河渋滞と今後のLNG船通航枠拡大の可能性
  • 今後拡大する地域間のLNG需給アンバランスとLNG物流の大きな変化

について論じる。そして最後に、

  • LNGサプライチェーン強靱化に対する政策支援とアジア一体としての協調の必要性

について触れてみたい。

(出所 IEA、GIIGNL、bp、Sempra、Chevron、Equinor、MOL、Intercontinental Exchange、Platts、ICIS、Rystad Energy、Gas Strategies、JICA、日本海事センター、ガスエネルギー新聞、Wikipediaほか)


1. 2020年 LNG需給速報

(1) 世界のLNG貿易

9月、IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)は、2020年の世界の天然ガス需要見込みについて、新型コロナウイルスの影響による発電需要の低下を主因として、対前年比120bcm、3%の減少と予測した。これは、原油需要の低下よりは小さいものの、リーマンショックの影響を受けた2009年の対前年比2%の減少よりもはるかに大きい歴史的な落ち込みであることを示している。

一方、世界のLNG貿易量は2020年の最初の9ヶ月間に対前年同期比3%拡大した。これは主に、米国を中心とした継続的なLNG供給能力追加と、欧州が余剰LNGを吸収したこと、そして、中国、インド、タイなどが、新型コロナウイルス蔓延の間に価格の低下したスポットLNGを追加購入したことが原因である。

今後の世界のLNG貿易は、2020年には2%、2021年には3%の増加が見込まれている。これは、2015-19年の間にみられた平均10%/年の成長率と比べ、大幅に小さいものとなっているが、伸びを主導するアジア地域の予測はこれより高く、2020年には3%、2021年には4%の増加が見込まれている。

表1.世界・アジアのLNG貿易予測


(2) 世界のLNG生産能力

世界のLNG生産能力は、2019年末時点で、427MTPAに達していたが、2020年は、以下のプロジェクトが相次いで商業運転を開始した。

  • 5月  米国・フリーポートLNG第3系列(5MTPA)
  • 8月  米国・キャメロンLNG第3系列(4MTPA)
  • 8月  米国・エルバアイランドLNG(2.5MTPA)

一方、3月の油価下落の影響を受け、多くのLNG液化プロジェクトのFID(Final Investment Decision、最終投資決定)が遅延したままとなっている。2019年は、米国を中心に、過去最大71MTPAのLNG液化プロジェクトが立ち上がったが、今年は、11月になって初めて、メキシコ・コスタアスールLNG(3.25MTPA)プロジェクトがFIDしたのみである。

足元では油価も上昇基調で、今後、予定されていたLNG液化プロジェクトFIDの進展が待たれるところである。有望なカタール拡張プロジェクトは、残りのエンジニアリング契約と建設契約を年末までに締結する予定である。また、2020年は、この油価下落の影響から、ノースウエストシェルフLNG、ダーウィンLNGなど、豪州を中心に、メジャーズの天然ガス・LNG資産組み換えが進んだ年でもあった。


(3) 世界の主要国・地域のLNG需要

日本では、4月7日、緊急事態宣言が発令されたことにより、LNG需要が大幅に減少し、ゴールデンウィークの影響も加わり、5月のLNG輸入は4.58MT/月と、対前年同月比18%減の2009年以来の低水準となった。また、2020年上半期のLNG輸入量は、36.4MTと10年ぶりの低水準となり、LNG在庫量は対前年比1割以上増加した。8月の猛暑により電力需要は増加したが、その後の回復は、いまだ遅れている状況にある。2020年LNG輸入量は、73.1MT(対前年比2.2MT、3%減少)となる見込みだ。

中国では、4月の武漢都市封鎖解除以降、天然ガス需要は回復し始め、第2四半期から輸入を拡大してきた。1月から7月にかけて、中国の天然ガス輸入量は55.71MT、対前年同期比1.9%のプラスとなったが、前年の10.8%増と比べると、はるかに低い伸びとなった。2020年LNG輸入量は、67.2MT(対前年比7.4MT、12%増加)の予測となっている。

韓国KOGASの5月のガス販売量は、電力需要の大幅な落ち込みのため、対前年同月比24.1%減の1.63MT/月となり、ここ10年来最大の落ち込みとなった。4月以降、冬場の大気汚染対策として停止していた石炭火力発電所が再稼働したことも響いている。夏場の気温が例年よりも低かったことで冷房需要の伸びも鈍く、最近では、新型コロナウイルス第3波がはじまり、いまだ需要は回復していない。

インドは、3月末から2カ月半にわたって全土で厳しいロックダウンを実施した。その結果、第2四半期については、電力・肥料部門や都市ガス需要の急減により、天然ガス消費、生産、LNG輸入は、それぞれ対前年同期比14.3%、16%、12.5%(LNG換算で合計5.15MT)の減少となった。6月から徐々に規制緩和をはじめた結果、電力・肥料部門の需要が改善し、7月のLNG輸入量は対前年同月比で6%増加した。

台湾の1-6月のLNG輸入量は8.69MTで、対前年比12.6%増となり、その後も好調が続いている。台湾では、新型コロナウイルス対策が奏功し、ほかの国々よりも経済や日常生活が大きな影響を受けずに継続できていること、石炭からガスへの切り替え政策が進み、発電部門のLNG需要が増加していることが要因である。安価なスポットLNGも発電需要を促進した。

欧州では、3月の各国ロックダウンを起点として、ガス需要が2割程度減少し、LNGとの競合の結果、ロシアを中心としたパイプラインガス供給量が大きく減少した。5月以降の欧州向け米国産LNGの大量キャンセルに加え、8月の北海パイプライントラブルなどによるガス供給減少により欧州ガス価格は下支えされた。第1~3四半期LNG輸入量は、61MTで対前年同期比4MTの増加となった。2020年LNG輸入量は84MTの予測となっている。

図1.主要国・地域のLNG輸入量とスポットLNG価格(JKM)、 日本着平均LNG輸入価格(JLC)(2020年12月は推定値)
図1.主要国・地域のLNG輸入量とスポットLNG価格(JKM)、日本着平均LNG輸入価格(JLC)(2020年12月は推定値)
(Plattsほか、各種資料によりJOGMEC作成)

2. 2020年秋 トラブル頻発

(1) LNG液化プラント等トラブル頻発状況

2020年は、特に秋以降、世界中のLNG液化プラント等でトラブルが頻発した。

トラブルによって影響を受けたLNG液化プラント(118.4MTPA)は、全世界のLNG液化プラントの4分の1を占め、例年の5倍以上に上る(生産能力ベース)ともいわれる。供給過剰がいわれ、新型コロナウイルスの影響で十分に需要が回復していないにもかかわらず、その影響で、スポットLNG価格の急上昇を招いた。長年の積み重ねによって築き上げてきたLNG安定供給に対する信頼にも影を落としている。

大西洋地域

新たに生産を開始した米国LNG液化プラントで、火災等、多くのトラブルが発生した。今年はハリケーンも多く、停電や配船遅れなど大きな影響を受けた。また、ノルウェー・ハンメルフェストLNGも長期停止に陥った。

中東地域

カタールガス第4トレインが、短期間不調となったほかは大きなトラブルなし。

太平洋地域

規模の大きいゴーゴンLNGにおいて、長期にわたるトラブルが発生した。その他、太平洋地域で何らかのトラブルが発生したLNG液化プラントは3割近くに上る。

表2.LNG液化プラント等トラブル頻発

豪州・ゴーゴンLNGトラブル

5月23日、豪州・ゴーゴンLNGプロジェクト(5.2MTPA x 3トレイン)第2トレインが定期修理のために停止した。7月11日の稼働再開を予定していたが、ガス冷却プロセスのプロパン熱交換器8~11基に数百カ所の亀裂が発見され、そのまま修理を継続することとなった。

原因は、プロパン熱交換器製造時の溶接に関する品質管理上の問題と特定された。第1、3トレインに搭載されているプロパン熱交換器も、第2トレインとほぼ同じ設計で、同じ韓国の製造業者が製造したものであり、同様の問題を抱えていると推測されている。

このトラブルに関して、豪州・西オーストラリア鉱山産業規制安全局(Government of Western Australia、Department of Mines, Industry Regulation and Safety)による是正通知に加えて、WorkSafe部門は、第2トレインと第3トレインに対して32件、第1トレインに対して8件の改善通知を発行した。

第2トレインの修理は10月中の完了とされていたが、9月の時点で、11月末に延期された。オーストラリア製造業労働組合(Australian Manufacturing Workers’ Union)によると、ひび割れ修理の溶接手順が誤っていたため、一部で追加作業が必要になったためだという。

11月23日、第2トレインの修理が完了し生産が再開され、現在、第1トレインの修理が実施されている。第3トレインの修理は、第1トレインの生産再開後に実施される予定となっている。

図2.豪州・ゴーゴンLNG液化プラント
図2. 豪州・ゴーゴンLNG液化プラント
(Chevron)

ノルウェー・ハンメルフェストLNGトラブル

9月28日、ノルウェー・ハンメルフェストLNGプロジェクト(4.2MTPA x 1トレイン)発電タービン5基のうち1基の吸気口から出火した。火災は消し止められたものの、消火海水によって、発電所内の電気機器やケーブルなどが損傷した。

10月26日、オペレーターEquinorは、火災による損傷を修復するため、LNG液化プラントを最大12ヶ月間閉鎖すると発表した。当初は、2021年初頭の操業再開を予定していた。操業停止期間は、新型コロナウイルスによる工事や部品納入の遅延の影響も考慮したものとなっている。なお、この停止期間中に、2021年に予定されていた定期メンテナンスも、あわせて実施されることとなった。

11月17日、ノルウェー石油安全局(The Petroleum Safety Authority Norway)は、9月21-24日の事故・電気システム検査結果を公表し、2017年の監査の際も指摘されていた電気・計装分野の技術部門に十分な人員が配置されず、専門知識も不足していたこと、電気設備の技術的条件と仮設機器のルーチンに問題があったこと等改善点を発表し、2021年6月1日までに是正することを命令した。

それを受け、ノルウェー石油・ガス労働者組合(Industri Energi Norway)は、2014年以降のコスト削減を目的としたメンテナンス変更が「安全レベルに影響を与えた」と主張し、オフショア労働者の能力レベルも低下していると付け加え、施設の安全性向上のため、ノルウェー石油安全局に対して介入を求めた。

図3. ノルウェー・ハンメルフェストLNG液化プラント
図3. ノルウェー・ハンメルフェストLNG液化プラント
(Equinor)

(2)LNG設備のトラブルとは?

以下に、LNG設備に関するトラブルの理解に欠かせない、故障率、トラブルの原因、ハインリッヒの法則についてまとめる。

故障率

運用開始以降、LNG設備をはじめ多くのプラントの顕在故障率はバスタブカーブを描く。

初期故障期 : 運転開始直後、設計不具合や調整不備、習熟不足などにより故障率が高い期間。時間の経過とともにトラブルは減少する。近年、米国で多くの新規LNG液化プラントが運転を開始している。

偶発故障期 : 初期故障期の後、故障率が長期間低位で推移し、稼働が安定する期間。この時期の故障の多くは指数分布に従いランダムに発生する。多くのLNG液化プラントがこの期間に該当しており、このため、例年世界のLNG液化プラントのトラブル数合計はほぼ一定で推移してきた。

摩耗故障期 : 部品の寿命がきて故障率が上昇する時期。LNG液化プラントの重要回転機器などにおいては、安全率を見込んで、この寿命が来る前に部品交換などが実施される。

図4. 故障率の推移(バスタブカーブ)
図4. 故障率の推移(バスタブカーブ)
(各種資料によりJOGMEC作成)

トラブル分類

トラブルの原因は、運転・設備・品質管理面から、以下のように分類される。

  • 運転管理(インプットミス、手順逸脱、スキル不足、失念など)
  • 設備管理(腐食、摩耗、疲労破壊、部品設置ミスなど)
  • 品質管理(LNG・ガス成分異常、不純物濃度逸脱など)

 

ハインリッヒの法則

1つの重大トラブルの背後には、29の中程度のトラブルがあり、さらにその背後には300の軽微なトラブルが存在するという経験則である。したがって、重大事故を撲滅するためには、軽微なトラブルも軽視せず、徹底して対応する必要がある。

図5. ハインリッヒの法則
図5. ハインリッヒの法則
(各種資料によりJOGMEC作成)

(3) トラブルの推定原因

ほとんどの世界のLNG液化プラントは、故障率が低く、トラブルが指数分布に従ってランダムに発生する偶発故障期にある。実際、これまで、LNG液化プラント等のトラブルが集中的に発生したことはない。特異な原因なしには、2020年のように例年の5倍ともいわれるトラブルが発生する確率はゼロに近い。

個々の正確な情報については、各国の安全運転管理調査委員会等の調査結果を待つほかはないが、一般的に考えられる一連のトラブルの推定原因を以下に列挙する。なお、トラブルではないものの、この期間、労働環境改善を要求する組合のストも頻発した。

  1. バスタブカーブにおける初期トラブルが発生した可能性

最もトラブルの多かった米国では、ここ数年、多くのLNG液化プラントの運転が開始されたが、いわゆるバスタブカーブにおける初期トラブルが発生した可能性がある。なお、運転開始1年以内は、EPCコントラクターの補償期間内となる契約が一般的である。また、トラブル類型では、火災が目立ったが、被害については、通常、火災保険で補償されることになる。

  1. メンテナンスの延期が影響した可能性

油価下落に起因するコストダウンのため、2020年は、多くのLNG液化プラントで通常需要が低下する春先に予定されていた定期修理を、秋口や2021年に延期した。これが回転機器の摩耗等を原因とするトラブルを増加させた可能性がある。

  1. 運転管理体制等の不備が影響を与えた可能性

油価下落等のため、メジャーズは大幅なコストダウンを断行せざるを得なかったが、運転管理体制等に対する過度なコストダウンが現場におけるトラブル増加を引き起こした可能性がある。ノルウェー・ハンメルフェストLNGにおいては、組合から行きすぎたコストダウンがトラブルの誘因となった可能性が指摘されている。

  1. 従来からの不具合のメンテナンスに踏み切った可能性

スポットLNG価格が下落し利益の出にくい市況のなかで、従来から認識はしていたが進行が遅くメンテナンスの時期を見定めていた機器の腐食・割れ等の不具合について、オペレーターがメンテナンスに踏み切った可能性がある。

  1. トラブルを大きく公表し、安定供給懸念に対する市場センチメント形成を狙った可能性

厳しい市況のなか、以前は公表しなかったようなマイナートラブルを大きく公表し、安定供給懸念に対する市場センチメントを形成し、スポットLNG価格上昇を狙った可能性も一部でいわれる。なお、トラブルの公表は、短期的には、長年築いてきたLNGの安定供給に対する市場の信頼そのものを毀損するが、長期的には、小さなトラブルも公開し運転管理の透明性を向上させ、改善を推進する健全な生産現場の土壌を醸成することにつながる。結果として、軽微なトラブルも含め、抜本的なトラブル撲滅をはかり、重大トラブルを減少させ、LNG液化プラント運転管理の信頼性を向上させる。また、市場関係者も、頻発するトラブル情報に対し、実際の需給バランスは、そこまで逼迫していないことに気づくなど、次第に馴化が進むものと推測される。

  1. 新型コロナウイルス対策が影響を及ぼした可能性

新型コロナウイルス対策として必要となった、マスクや間仕切り等の新たな管理方法がプラントの運転に影響を及ぼした可能性が考えられる。パナマ運河において発生したLNG船をはじめとした通航渋滞は、新型コロナウイルス感染防止対策が一因とされている。


3. 2020年冬 JKM急騰

(1) 2020年スポットLNG価格推移

2020年1月以降、アジア地域をはじめ欧州でも暖冬となり、JKMは下降基調となった。

2月に入り、中国が新型コロナウイルスの影響からフォースマジュール(FM、Force Majeure、不可抗力)を宣言し、JKMはさらに低下した。2月後半からは、安価なスポットカーゴを、インド、タイが追加購入したことで価格は一旦上昇したものの、3月下旬、インドがFM宣言したため、JKMは一気に下降し、4月28日のJKMは、$1.825/MMBtuと、史上最低価格を更新した。

7月末、15.6MTPAのLNG液化能力を持つ大型の豪州・ゴーゴンLNG液化プラントでトラブルが発生した。新型コロナウイルスの影響で世界のLNG需要はまだ回復していなかったが、その後、世界中でLNG液化プラントのトラブル報告が相次ぎ、10月に入ってからJKMは$2/MMBtu以上上昇した。

一連のLNG液化プラントトラブルによるJKM上昇に加え、冬期に向かって需要の増加しつつあったアジア地域めがけ、今夏キャンセルで稼働が低迷した米国LNG液化プラントが一斉にLNG増産を開始した。その結果、LNG船の輸送需要も急増したが、アジア向け米国産LNGを積載したLNG船が、一斉にパナマ運河に押しかけたため大渋滞が発生し、LNG船腹不足に拍車をかけることとなった。その結果、LNG船フレートをさらに押し上げた。

なお、本来であれば、安価な大西洋地域のスポットLNGが太平洋地域へ仕向けられ、アジア地域へのLNG供給が増加することにより、JKMの上昇はある程度抑えられていたはずであったが、この時期、フリーのLNG船の数も少なくフレートが高騰したため、経済的な移送が成立しなかった。

これを副因として、JKMは、12月初旬には$8/MMBtuを超え、12月14日、6年ぶりに$12/MMBtuを突破した。

一方、長期契約油価リンクLNGが多くを占めるJLC(Japan LNG Cocktail、日本平均LNG輸入価格)は、3月の油価下落の影響を受け、それまでの$9/MMBtu台から$5/MMBtu台まで急落したが、その後の油価回復とともに現在上昇基調にある。

図6. スポットLNG価格の推移(2020年2-12月)
図6. スポットLNG価格の推移(2020年2-12月)
(Plattsほか、各種資料によりJOGMEC作成)

(2) 市場によるスポットLNG価格予測

JKMフォワードカーブは、市場が今後のJKM推移をどうみているかを判断する指標となる。

7月以降、今冬のJKMフォワードカーブは、豪州・ゴーゴンLNG等、一連のLNG液化プラントのトラブルを受け、急上昇した。2021年中のフォワードカーブも、10月末のノルウェー・ハンメルフェストLNGトラブル長期化の影響で上昇した。その後も、LNG液化プラントのトラブルは続いており、市場のセンチメントは、LNG安定供給を懸念する方向に急激に傾いている。

ただし、新型コロナウイルスの影響の残るなか、しっかりしたLNG実需増加を伴わない高価格は、今後LNG液化プラントのトラブルが終息するとともに、いずれ沈静化するとみられている。

図7. JKMフォワードカーブの変化(2020年7-11月)
図7. JKMフォワードカーブの変化(2020年7-11月)
(Intercontinental Exchangeほか、各種資料によりJOGMEC作成)

(3) LNG液化プラントトラブルと市場のセンチメント

7月半ばの豪州・ゴーゴンLNG第2トレイン(5.2MTPA)トラブル発生以降、被害状況が明らかになるにつれ、JKMは徐々に上昇し始めた。少し遅れるように、LNG船フレートも上昇を開始し、その後、大西洋地域の安価なスポットLNGの太平洋地域へのアービトラージを目的とした移送が成立しなくなった。さらに、パナマ運河の通航能力制約から、米国LNGの太平洋地域への流入も穏やかで、この時、アジア地域はいわば孤立した状況にあったと考えられる。

ゴーゴンLNG(5.2MTPA x 3、15.6MTPA)は規模が大きく、3トレイン合計で、太平洋地域の全LNG液化プラント生産能力(169.7MTPA)の9%、1トレインでも3%に相当する。7月の第2トレイン定期修理、および、トラブル発見以降、1トレインずつ修理を実施中であり、アジア地域向けLNG供給が減少している。

ゴーゴンLNG液化プラントが正常に運転を継続していたと仮定した場合のJKMイメージを示す。これをみると、トラブルがなかった場合、新型コロナウイルスの影響で需要が回復しきっていなかったこともあり、ここまでの急騰はおこらなかったことがわかる。

図8.ゴーゴンLNG健全供給時のJKMイメージ
図8. ゴーゴンLNG健全供給時のJKMイメージ
(各種資料によりJOGMEC作成)

(4) スポットLNGの市場規模

2019年の世界の原油トレーディング量(1年以内)は、2,239MT(LNG換算では、1,914MT-LNG)であった。

一方、2019年の世界のLNGトレーディング量は、355MTPAであった。そのうち、長期契約が66%を占め、上記原油トレーディングと取引期間の近いLNGスポット市場での取引量は、わずか119MT(3年以内の取引、ちなみに90日間以内取引分は95MT)に過ぎない。

また、金額ベースでは、原油市場の$1,053Bに対し、スポットLNG市場は$35Bと、わずか30分の1にも満たない。

この市場規模の小ささにより、スポットLNG価格は、供給上の外乱(LNG液化プラントトラブル、ハリケーンによるLNG生産停止など)の影響を受けやすい構造となっている。

図9. 原油 vs LNG市場規模比較(2019年)
図9. 原油 vs LNG市場規模比較(2019年)
(BPほか、各種資料によりJOGMEC作成)

4. 世界のLNG需給バランス

(1) 世界全体のLNG需給バランス

6月、IEAは、2025年までLNGマーケットタイト化のリスクは小さいと予測した。2010年代後半の大量のFIDが、最近のLNG生産能力の大幅な増加につながっており、2020年から2025年の間にも、最大120Bcm/年、20%のLNG生産能力が追加される予定であり、2021年以降も、LNG液化プラントの稼働率が大きく低下するとした。2021年夏期についても、2020年に匹敵する米国産LNGの余剰が発生する可能性を示唆する見方もある。

2020年は、新型コロナウイルスによる需要低下の影響で、世界のLNG液化プラントの稼働率が80%前後に低下した。なお、エジプトLNGはスポットLNG価格低下によるフィードガス価格との逆ざや発生によりLNG生産を停止した。また、米国LNGはキャンセル多発により、トリニダード・トバゴのアトランティックLNGはフィードガス供給不足のため、稼働率が低下した。

世界のLNG液化プラントの生産能力合計は、2019年末で426.6MTPAに達しており、数件のLNG液化プラントのトラブルが発生しても、残りのプラントの生産を増加させれば、マーケットはタイト化しないレベルにある。

ただし、近年、世界の各地域のLNG市場は、連携を強めているとはいえ、以下の要因で、短期的、地域的な需給バランスにミスマッチが生じる余地がある。

  • 生産地と消費地が離れていること。
  • 地域毎の需要と供給のバランスが異なること。
  • 輸送能力に制約があること。
図10. LNG生産能力と需要、稼動率の推移
図10. LNG生産能力と需要、稼動率の推移
(IEA)
図11. LNG液化プラント稼働率(2020年)
図11. LNG液化プラント稼働率(2020年)
(IEA)

(2) 地域間LNG需給バランス

太平洋地域から生産されるLNGは、最大の消費地であり輸送距離の短いアジア地域に向けて、そのほとんどが輸出される。それに加えて、アジア地域と欧州の双方にアクセスのよい中東地域からも、多くのLNGがアジア地域に向けて輸出される。近年、LNG生産の急拡大した米州を含む大西洋地域からは、主に、欧州へ輸出され、少量がアジア地域へ輸出される。

 

世界のLNG輸出(2019年)

  • 太平洋        146.68MTPA(41.3%)
  • 大西洋        114.16MTPA(32.2%)
  • 中東             93.89MTPA(26.5%)

 

世界のLNG輸入(2019年)

  • アジア        246.16MTPA(69.4%)
  • 欧州             85.89MTPA(24.2%)
  • 米州             15.75MTPA( 4.4%)
  • 中東               6.94MTPA( 2.0%)
図12. 地域間LNG輸出入バランス(2019年)
図12. 地域間LNG輸出入バランス(2019年)
(GIIGNLほか、各種資料によりJOGMEC作成)
  • 日本     LNG需要が減少するなか、スポットLNG調達割合が減少。太平洋地域からの調達が増加し、中東地域からが減少。LNG調達割合も減少。
  • 中国     LNG需要が急増。増加分ほぼ全てを太平洋地域の豪州から調達された。スポット調達割合も増加してきた。
  • 欧州     2018年以降、行き先のない米国産LNGを吸収してきた。スポットLNGの調達割合も増加。
図13.主要国・地域向けLNG供給地域の推移(2019年)
図13.主要国・地域向けLNG供給地域の推移(2019年)
(GIIGNLほか、各種資料によりJOGMEC作成)
図14. 地域別LNG供給フロー推移
図14. 地域別LNG供給フロー推移
(GIIGNLほか、各種資料によりJOGMEC作成)

(3) 今後の主要国・地域のLNG需要予測

Rystad Energyによれば、今後のLNG需要は、中国、東南・南アジアで大きく伸長していく。主要国・地域のLNG需要予測を以下にまとめる。

 

中国

  • 2022年には中国が79MTを輸入。日本の輸入量を6MT上回り、世界最大の輸入国となる。
  • 世界のなかで最もLNG需要の増加が大きい国であり、2030年までにLNG輸入量は140MTに達する。
  • 再生可能エネルギーの継続的な成長にもかかわらず、排出量目標を達成するためのガスが継続的に必要となり、2060年のカーボンニュートラル目標がLNG需要を大きく牽引する。

 

東南・南アジア

  • LNG需要が、今後最も急速に伸び、2022年には欧州を追い抜く。

 

日本、韓国

  • 日本のLNG需要は、2030年には70.8MTに微減。
  • 韓国は、2030年44.5MTの予測。現状より微増。

 

欧州

  • 2030年までLNG需要は現状の水準で推移するとの予測。欧州のガス需要は減少するが、域内ガス生産量も減少するため、LNG輸入依存度は高くなる。
図15. 地域別LNG需要予測
図15. 地域別LNG需要予測
(Rystad Energyほか、各種資料によりJOGMEC作成)

(4) 今後の地域別LNG供給

2010年代のアジア地域の需要増加は、油価上昇とアジア地域を中心とした新規長期契約締結に基づき立ち上がった多くの豪州LNGプロジェクトのスタートによって支えられてきた。しかし、2012年以降、豪州では、新たなLNG液化プロジェクトのFIDはなされていない。

豪州は、現在中国への最大のLNG供給国であるが、昨年来、両国の緊張が高まっている。その結果、中国企業が豪州LNG液化プロジェクトの新規売買契約や上流投資契約を結ぶ前には、中国政府の承認が必要となり、事実上、新たな契約締結が難しくなっているともいわれる。また、豪州側についても、外国投資審査委員会の監視強化により、特に中国企業への資産売却が困難になってきている。

今後、太平洋地域における新たなLNG供給源は、ペトロナスFLNG2、タングーLNG第3トレイン、LNGカナダ、コスタアズールLNGにほぼ限定される。

大西洋地域では、2019年の米国を中心とした記録的FIDの帰結として、2025年以降、大量のLNG供給が開始され、しばらくは供給過剰基調となる。これを反映して、平時には、TTF、そして、JKMも低位安定するとみられる。

一方、LNG需給の地域間バランスについては、元々アジア地域内では、ガス生産やパイプラインガス輸入等ほかのガス源が限定されているなか、中国、インドを中心としてLNG需要が増加することにより、今後さらに大西洋地域への依存を高め、偏りを大きくすることになる。

LNG市場のパイの拡大、スポットLNG割合の増加などによって、世界的なガス・LNG価格の連動傾向は強まってはいるものの、輸送距離、パナマ運河などの地理的制約、また、時として、ホルムズ海峡などの地政学的制約などにより、まだまだ、LNG市場は容易に分断されうる。冬期需要増加時や、LNG液化プラント等トラブルによる供給不良時など、アジア地域でのLNG価格がスパイクする傾向は、今後、さらに強まることになるであろう。

図16. 地域別LNG供給予測
図16. 地域別LNG供給予測
(Rystad Energyほか、各種資料によりJOGMEC作成)

5. 2020年 フレート上昇とパナマ運河大渋滞

(1) LNG船フレート上昇

12月10日の大西洋地域のスポットLNG船フレートは、今夏最低レベル$20,000/日台から、その7倍の$135,000/日に達した。

今秋、世界中のLNG液化プラント等でトラブルが発生した結果、その代替として調達されるスポットLNGの輸送需要が急増し、フレートは大きく値上がりした。同時に、フレートの高騰は、大西洋地域から太平洋地域への鞘取りの経済性を低下させた。なお、長期契約LNG輸送用の定期用船契約に基づくLNG船の稼働率は、LNG液化プラント等トラブルを反映し低下した。高値のアジア地域へLNGを供給すべく、米国産LNGが増産されたが、パナマ運河が渋滞したことにより、スポットLNG船が足止めを食らい、船腹不足に拍車をかけた。その後、需要期であるにも関わらず、フレート高騰による採算性の悪化により、米国産LNGのキャンセルがはじまっている。

この傾向は、冬期需要が落ち着く2021年2月までは継続するとみられている。

図17. LNG船フレートの推移
図17. LNG船フレートの推移
(ICIS)

(2) パナマ運河の通航

2016年6月、パナマ運河拡張工事が完了した。新閘門は延長427メートル、幅55 メートル、深さ18.3 メートルで、LNG船を含むネオパナマックス(長さ366メートル、幅49メートル、喫水15.2メートル)の通行が可能となった。

2017年1月6日、中部電力上越火力発電所に着桟したLNG船「オーク・スピリット号」が、パナマ運河経由日本着LNG船の第1船である。

LNG船の通航量は、2016年10月〜2017年9月期に163隻だったが、2018年10月~2019年9月期には399隻に増加した。

メキシコ湾岸から日本へはパナマ運河経由が最短である。

  • パナマ運河経由 → 20日
  • 喜望峰経由   → 34日
  • スエズ運河経由 → 31日

輸送コストも、パナマ運河経由の場合は、スエズ運河経由と比べて$0.3 - 0.8/MMBtu、喜望峰経由と比べて$0.2 - 0.7/MMBtu安くなる。また、パナマ運河庁は、運河を通航するLNG 船に対し、60 日以内に復路で通航する場合に通航料を減額する措置を取っている。

ただし、新閘門の大型船の通航枠は、8隻/日に制限される。特に、アジア地域発着の海上物流は増加の一途をたどっており、LNG船は、コンテナ船、クルーズ船、LPG船などと競合している。

図18. パナマ運河
図18. パナマ運河
(Wikipedia)

(3) パナマ運河渋滞発生

10月、予約なしでパナマ運河を通過するLNG船は最大1週間以上、待たされるようになり始めた。10月30日現在、遅延は北行きで13日前後、南行きで8日前後となった。遅延の原因は、濃霧、船舶数増加、新型コロナウイルス対策の安全手順追加などのためといわれている。

現在、LNG船の予約枠は2隻/日であり、10月、パナマ運河を通過したLNG船は平均1.5隻/日となった。これは、年換算で40MTPA程度の通航量である。なお、11月のLNG船通航は53隻(前年同月48隻)で、荷役・航行スケジュールの確定が難しいため、ほとんどのLNG船は枠を予約していない。

また、LNG船に対する以下のような運航上の制限も遅延理由とされている。

  • 運河内ガツン湖(Gatun Lake)での投錨・停泊の禁止
  • 夜間通峡の禁止
  • ガツン湖航行時のエスコート船の追加
  • 運河入港口(太平洋側、大西洋側)、および、クレブラカット(Culebra Cut:大西洋側の掘割部分)での対面航行の禁止

現状、優先度の高いコンテナ船やクルーズ客船にスロットが提供されていることも、LNG船、および、LPG船に長期滞船を発生させている理由ともいわれる。

パナマ運河での未予約船の待ち時間が長いため、多くの米国産LNG船はパナマ運河を避けて東進することを余儀なくされておりアジア地域へのLNG輸送にかなりの時間およびコストがかかっている。

このように特に冬期等の需要期に、パナマ運河がLNG輸送の瞬発力の制約となることが顕在化した。

図19. パナマ運河LNG船通行数と平均通過時間
図19. パナマ運河LNG船通行数と平均通過時間
(12/7 Platts LNG Daily、S&P Global Platts Analytics、不許複製)

(4) LNG船通航枠増枠の可能性

12月4日、パナマ運河庁は、今後、米国産LNG輸出が急増する予測に対応し、LNG船通航枠を追加する可能性があると関係者に述べた。また、来年、輸送者とパナマパイロット協会との契約更改交渉にあわせて、LNG船に対する運航制限緩和とLNG船通航枠拡大に向けた動きがあるとの情報が得られている。

ただし、米国メキシコ湾岸でのLNG生産、および、アジア地域のLNG需要の増加に伴い、2030年時点で、大西洋地域からアジア地域へ向かうLNG量はいまの4倍に達する見込みである。

一方、パナマ運河を通航できる大型船枠は8隻/日である。物理的には12隻/日の通航が可能といわれるものの、2030年のアジア地域向けLNG船全船を通航させるには、パナマ運河の現行の大型船用8枠中、7枠をLNG船に割り当てる必要がある。

アジア地域の経済発展に伴い、コンテナ船、クルーズ船、LPG船の通航需要もLNG船と同様に伸びる見込みとなっている。LNG船だけを優先して通行枠を拡大できるかどうかは、甚だ不透明といわざるをえない。早期予約の徹底など、オペレーション上の改善や、夜間通航や錨泊などの運航制限の緩和が認められれば、ある程度の通航枠拡大は期待できる。

図20. パナマ運河大型船通行隻数(2019年10月~2020年9月)
図20. パナマ運河大型船通行隻数(2019年10月~2020年9月)
(MOL、Plattsほか、各種資料によりJOGMEC作成)

6. LNG物流の変化

(1) アジア地域向けLNG供給地域の変化

今後、アジア地域の需要は、2019年の241MTPAから、2025年は339MTPA、2030年は453MTPAに、4%/年で拡大していくと予測されている。一方、アジア地域向け供給地域は以下のように変化すると考えられる。

 

2019年

太平洋地域からのLNG供給が6割を占め、不足分を中東地域、大西洋地域から調達している。

2025年

中東カタール拡張プロジェクトのLNG生産開始の直前となるため、中東地域への依存度が一旦低下する。太平洋地域からの追加LNG供給も小さいため、大西洋地域への依存度がさらに上昇する。

2030年

太平洋地域からの追加供給が小さく、その結果、大西洋地域への依存度がさらに上昇し、現在の4倍の144MTPAに増加する。中東カタール拡張プロジェクトがLNG生産を開始し、中東地域への依存度は2019年並に戻る。中東地域からの供給量は現在の1.7倍の105MTPAに増加する。

図21. アジア地域へのLNG供給量と地域割合予測


(2) アジア地域向けLNG輸送経路の変化

世界のLNG輸送フローは、今後2030年にかけて大きく変化し、大西洋地域からアジア地域へのLNG供給が大幅に拡大すると見込まれる。ここではパナマ運河LNG船枠は現状2枠のままと仮定する。

結果として、輸送日数が10日間延び、フレートも$0.5/MMBtu増加するため、輸送コストは現在の1.4倍に上昇する。なお、大西洋地域からのLNG供給全量を、最短最安のパナマ運河経由で輸送する場合は、大型船用全8枠中7枠をLNG船用に変更する必要がある。

2019年

  • 太平洋地域からのLNG供給がメイン。不足分は中東地域から補完。
  • 太平洋地域から145MTPAが供給。
  • 中東地域からは、ホルムズ、マラッカ海峡経由で63MTPAが供給。
  • 大西洋地域からは、パナマ運河経由で38MTPAが供給。

2030年

  • 太平洋地域からの供給は大きくは伸びない。一方、大西洋地域からの供給が急拡大する。
  • 従来通り、太平洋地域から最も多い204MTPAが供給。
  • 中東地域からは、ホルムズ、マラッカ海峡経由で105MTPAが供給。
  • 大西洋地域からは、パナマ運河経由で38MTPA、喜望峰/スエズ運河経由で106MTPAが供給。
図22. アジア地域への平均輸送日数、平均輸送コスト
図22. アジア地域への平均輸送日数、平均輸送コスト
(各種資料によりJOGMEC作成)
図23. 世界のLNGフロー(2019年、パナマ運河LNG船2枠)
図23. 世界のLNGフロー(2019年、パナマ運河LNG船2枠)
(各種資料によりJOGMEC作成)
図24. 世界のLNGフロー(2030年、パナマ運河LNG船2枠継続想定)
図24. 世界のLNGフロー(2030年、パナマ運河LNG船2枠継続想定)
(各種資料によりJOGMEC作成)

(3) アジア地域のインフラ整備の重要性

日本のLNG安定供給には、その周辺のアジア地域のデマンドクリエーションが重要である。

IEAによれば、新興アジア地域(ここでは中国とインドを除く)は、世界のガス需要の成長にとって、中国に次ぐ第2位の貢献者であり、2019-25年の間に35bcm/年の成長を遂げる予測となっている。

新型コロナウイルスの影響が残るなかでも、需要増加は、主に発電セクターが牽引し、ガスの成長見通しは比較的強いままである。この間に、新興アジア全域で15GWの新規ガス発電能力の追加が予測されており、これは、増加幅の60%以上を占める。パキスタン、バングラデシュ、インドネシアは、産業部門(肥料と軽工業)が牽引する。

新興アジア地域におけるガス需要は、インフラ整備のペースや各国の政策支援の規模、政策の優先順位、外部資金への依存等に大きく左右される。計画されているLNGターミナルプロジェクトが遅延し、既存のLNG受入基地のみでのLNG輸入となれば、2019 - 25年の総需要の伸びは半分に減少すると予測されている。

逆に、LNG トレーダーやポートフォリオ・プレーヤーがより積極的に参加し、開発銀行や外国政府からの支援を受けて、この地域の天然ガスインフラやガス火力発電を開発すれば、予測されたレベルを超える追加需要を掘り起こすことができる。

図25. 新興アジア地域の天然ガス需要見通し(2019-25年)
図25. 新興アジア地域の天然ガス需要見通し(2019-25年)
(IEA)

世界のLNG受入基地再ガス化能力は、2019年、830MTPAに上るが、2030年には、1,300MTPAに達する予測である。新規能力のうち、282MTPAは、中国とインドを中心に、バングラデシュ、パキスタン、インドネシア等、アジア地域で建設される見込みである。欧州も、2019年の156MTPAから、2030年には229MTPAへと拡大する。

ただ、新型コロナウイルスの影響から、多くの受入基地建設プロジェクトが遅延している。2020年は、計画の51MTPAのうち、これまで、16MTPA相当しか完成していない。残る26.6MTPA(インド9MTPA、ブラジル6MTPA、中国5MTPA、メキシコ3MTPA、ミャンマー3MTPA等)も現在建設中である。また、11月、ExxonMobilは、パキスタン第3LNG受入基地プロジェクト(5.6MTPA)からの撤退を決定した。

一方、スポットLNG価格が低下したことにより、小規模LNG受入プロジェクトが多数提案されている。

  • エクアドル: エクアドル初の受入基地。130MW発電プロジェクト用FSRU。
  • ミャンマー: 2020年6月に初輸入。2030年に25MTPAまでの拡張を計画。
  • ベトナム : 2028年までに24.3MTPAを計画(うち15.2MTPAは投機的)。
  • ニカラグア: 初めてのLNG受入基地建設が提案。
図26. 世界のLNG受入基地能力
図26. 世界のLNG受入基地能力
(Rystad Energyほか、各種資料によりJOGMEC作成)

表3. 世界の新規LNG受入基地

図27. LNG受入基地(南アジア)
図27. LNG受入基地(南アジア)
(JOGMEC天然ガス・LNGデータハブより転載)
図28. LNG受入基地(東南アジア)
図28. LNG受入基地(東南アジア)
(JOGMEC天然ガス・LNGデータハブより転載)
図29. LNG受入基地(北東アジア)
図29. LNG受入基地(北東アジア)
(JOGMEC天然ガス・LNGデータハブより転載)

7. LNGサプライチェーンの強靭化

2020年秋以降、LNG液化プラント等トラブルが頻発し、スポットLNG価格が高騰した。

第1に、上流から下流まで、売主も買主も、LNGバリューチェーンに関わる全ての関係者は、操業の基本に立ち返り、LNG安定供給に対する信頼性の回復に注力しなければならない。

将来をみると、2030年に向けてアジア地域のLNG需要が拡大することによって、LNG輸送フローが大きく変化し、輸送日数、フレートが大幅に増加する可能性があることが明らかとなった。

その結果、以下のリスク等が高まる可能性が示された。

  1. 地政学上懸念のある地点は少ないものの、輸送距離が延びることにより、一般的なトラブルのリスクが上昇する。
  2. また、積地が遠方となるため、急な配船変更への対応など、オペレーション上の柔軟性が低下する。
  3. フレートの上昇は、JKMの上昇につながる。その結果、豪州、インドネシア、メキシコ、カナダ、ロシア(北極海側)など、アジア地域の消費地から近距離で、輸送費の低い太平洋地域のLNG液化プロジェクトのFIDを促進する可能性がある。
  4. 特に緊急時において、アジア地域でJKMのスパイクする度合いが大きくなる。
  5. 上記リスクヘッジのために、トレーディングの重要性が、ますますアップする。

いまこそ、LNGバリューチェーン強靭化のための、ハード・ソフト両面での対策が必要となっている。


(1) ガス事業の在り方研究会、強靱性向上策を議論

アジア地域のデマンドクリエーションが、日本へのLNG供給安定性の向上に直結するとの観点から、需要拡大が予測されている東南アジアを中心にこれを加速すべく、政策的な支援が計画されている。

 

11/9 ガスエネルギー新聞

「第3回2050年に向けたガス事業の在り方研究会、強靱性向上策を議論」

10月23日、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」第3回会合で、ガスのサプライチェーンにおける上流から下流までの強靱化を議論。

エネ庁の早田豪石油・天然ガス課長は、LNG調達を低廉で安定的に行うため、LNGの「外々取引」(海外で調達したガスを第3国に転売)を含む取扱量を18年度実績の9,000万トン(うち外々取引1,000万トン)から30年度1億トンに増やすとした。外々取引は約4倍を見込む。

外外取引は「非常事態の時、緊急的にLNGを持ち込めるなど、セキュリティー上のメリットがある」と指摘。相手方は東南アジアが有力とした。

「東南アジアでは40年まで化石燃料の需要が大幅に伸びる。・・・LNGの外外取引拡大は日本にもメリットがあり、アジアでの需要拡大を起こしていく必要がある」とし、外外取引に資する投資(日本企業が関与するLNG受入基地、貯蔵・積み替え設備など)にも国が投融資などの支援を行う措置をしたと述べた。

図30. 2050年に向けたガス事業の在り方研究会
図30. 2050年に向けたガス事業の在り方研究会
(ガスエネルギー新聞)

(2) JOGMECの法改正、海外LNG関連事業出資・債務保証を拡充

2020年6月、JOGMECは、政府が発表した「新国際資源戦略」に基づき、日本企業向けの新たな金融支援プログラムを開始した。

出資・債務保証による支援を、日本企業が関与するLNG受入基地やFSRU、貯蔵設備、積替設備等のLNG関連事業にも拡充するものである。

日本企業によるLNG取引量のさらなる増加を目指し、アジア・太平洋地域の新興国での大きな需要を創出し、LNG市場を確立することで、アジア・太平洋地域、および、日本への安定的な供給を確保することを目的としている。

図31.JOGMECの支援拡充
図31. JOGMECの支援拡充

(3) アジア一体のLNGサプライチェーン強靭化構想

2030年に向けてLNGサプライチェーンを強靭化する上で、パナマ運河通航枠問題のように、日本1国で解決の難しい課題もある。アジア地域の各国が一丸となって、これらの課題に取り組むことは可能であろうか?

ハード面では、前述のとおり、日本政府からは政策上の支援が提供される。他国も各国の事情に応じてLNG設備の整備を推進している。

ソフト面については、これまでも、民間レベルでの緊急時LNG融通契約など、有事の際、一方に余裕があればLNGを融通するなどして他方を援助する、バイラテラルのゆるやかな枠組みが形成されてきている。

日本は、現在世界第1位のLNG輸入国であり、世界有数のLNG貯蔵容量を保有している。一方、中国は、年々存在感を増しており、2022年には日本を抜き世界第1位のLNG輸入国となる見込みである。

各国とも、喫緊は自国のエネルギー安全保障の強化に注力中で、今すぐの協調は難しいと思われる。また、LNGに関する実務はあくまで民間企業が担っており、会社間の利害相反もありうる。また、同じ北半球に位置し、需要期を同じくするため、いわゆる緊急時が、重複する可能性も高い。

ただし、日本、中国、韓国、台湾4か国は、世界のLNG輸入量の6割近くを輸入しており、大きなプレゼンスがある。また、各国の需給、契約状況はそれぞれ異なるため、理論的には、協調による互助関係の成立機会は十分ありうる。関係各国が長期的視点に立てば、この協調がアジア地域全体のLNGサプライチェーン強靭化に資する可能性は十分にあると考えられる。

図32. 東アジア天然ガス・LNG供給内訳(2018年)
図32. 東アジア天然ガス・LNG供給内訳(2018年)
(各種資料によりJOGMEC作成)
図33. 東アジア天然ガス・LNG貯蔵容量内訳(2018年)
図33. 東アジア天然ガス・LNG貯蔵容量内訳(2018年)
(各種資料によりJOGMEC作成)

8. おわりに

「備えよ常に」は、ボーイスカウトの有名なモットーである。緊急時はもちろん、平時においても、いつ何時、いかなる場所で、いかなることがおこった場合でも善処できるよう、常に準備を怠ることなかれとする心構えを説いている。

2020年、新型コロナウイルスからはじまり、油価下落、JKM最低価格更新、LNG液化プラント等トラブル頻発とそれに続くJKM急伸など、多くの想定外によって、好調に拡大を続けていたLNG市場は、ストレス耐性を試される形となり、LNGサプライチェーンに内在する課題が顕在化した。

今後、特にアジア地域のLNG需要はますます増加していく。一方、中東カタール拡張プロジェクトのFIDは確実視されているものの、太平洋地域からの新規LNG液化プロジェクトのFIDは停滞したままである。また、2019年、記録を塗り替えた米国を中心としたLNG液化プロジェクトFIDによって、2020年代半ばからは、大西洋地域から多くのLNGが供給される。LNG船のパナマ運河通行枠制約が改善されない場合、大西洋地域から喜望峰回り等のLNG物流が大幅に増加し、そのため、輸送期間延長、コストアップ等が発生する。今回、2030年にかけて世界のLNG物流が大きく変貌する可能性が明らかとなった。

また、一連のLNG液化プラント等トラブルで浮き彫りになったように、太平洋地域からの供給減少がより鮮明となるアジア地域では、特に冬期の需要期等、JKMのTTFに対するプレミアムが今以上に拡大するとともに、緊急時には、JKMのスパイクがより顕著となる可能性が示された。

環境が厳しいほど、進化は最適な方向に向かうという。2020年のストレステストによって、2030年に向けてのLNGサプライチェーン強靱化の必要性が今回強く認識された。ほとんどのLNGプロジェクトは、長年にわたる多くの人々の努力の上に、状況が好転するチャンスを待って、10年以上の時を経てようやく実現にたどり着いている。LNGサプライチェーンの強靭化は、決して、単なる遠い将来の目標ではなく、今日からLNG関係者が一丸となって実現に努力しなければならない、現実の明日なのである。


以上

(この報告は2020年12月25日時点のものです)

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