ページ番号1008925 更新日 令和3年10月13日
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概要
- 2019年2月にTotalは南アフリカ11B/12B鉱区Brulpadda構造での試掘により、ガス・コンデンセートを確認し、また2020年10月にはBrulpaddaの東50㎞に位置するLuiperd構造においてもガス・コンデンセートを確認した。
- 世界中の石油・天然ガス開発業界全体で探鉱予算が削減される傾向にあり、特にフロンティアの深海探鉱には極めて選択的になっているにも関わらず、TotalがBrulpadda等で探鉱に成功したことで、南アフリカでの探鉱開発への関心が高まる可能性がある。
- 2020年にはExxonMobil及びEquinorが主な南アフリカ沖探鉱エリアから撤退した一方、Shellは保有権益の拡大や追加のファームインを通して同国での存在感を強めている。
- 既存インフラの近くに位置するBrulpadda、Luiperd両ディスカバリーは、石油天然ガス資源に乏しい南アフリカにとって希望溢れる発見となった一方、商業開発に向けたプロセスはこれから。
(各社HP他)
1. 南アフリカのエネルギー事情
南アフリカの人口は5,778万人、19世紀後半にダイヤモンド、金が発見されて以降、鉱業主導で成長し、これによって蓄積された資本を原資として製造業及び金融業が発展してきた。しかし、近年では、かつての主力産業であった鉱業の対GDP比率が縮小する一方で、金融・保険の対GDP比率が拡大するなど産業構造が変化してきている。第3次産業のGDPに占める割合が高くなっているものの[1]、貿易では依然鉱物資源輸出への依存度が高い。
近年の南アフリカ経済は2008~2009年の世界金融危機後、投資・輸出の不振等が続き、2009年には経済成長率はマイナスに転落、その後は金融危機以前の水準に及ばないものの3 %超の成長率で上向いてきた。しかし、2015年には中国経済の減速に伴う鉱物資源価格の下落による影響に加え、長引く労働争議、電力供給不足[2]、干ばつとそれに付随する水不足の影響で1 %前半の低い成長率を記録し、2019年には0.2 %の成長率となった。
一次エネルギー消費量の内訳は以下の通りであり、国内に豊富にある石炭の依存度が非常に高い。
[1] 外務省ホームページによれば、2015年のGDP産業別内訳は,第一次産業が10%,第二次産業が21%,第三次産業が69%と,先進国同様,南ア経済は第三次産業の割合が高くなっている(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/s_africa/data.html)。
[2] 南アフリカでは2015年以降大規模な計画停電が国営電力公社Eskomによって実施されている。計画停電の実施は発電施設の老朽化と維持補修にかかる経費不足と発表。同社の公称発電能力は44,000MW(うち36,500MWは15基の石炭火力発電からなる)だが、現在は27,000MWの需要にも応えられないという。同社の経営危機に対してはズマ政権下で放漫経営が放置されたとの指摘もある。
石油生産に関しては、南アフリカ国営石油会社Soekor(現:PetroSA)が1988年にOryx油田を、1990年にOribi油田を発見し、Oribi油田は1997年に、Oryx油田は2000年に生産を開始したが、16年後の2013年には、両油田とも生産量減退により、生産を停止した。Oil & Gas Journalによると、同国の原油埋蔵量は1,500万バレル(2019年1月時点)で、同国南部沖合とナミビアとの海洋国境付近の西海岸沖合に炭化水素ポテンシャルがあると考えられているが、これまで探鉱活動は限定的であった。Shellは南アフリカ西部沖合のOrange Basinで探鉱権を獲得し、2015年に掘削の環境認可を得たが掘削・生産には至っていない。
このように、南アフリカの石油・天然ガス資源は豊富とはいえず、石油消費量56.9万b/dに対して国内生産量はほぼ存在せず、供給量の99.7%を輸入に依存しており、サウジアラビアやナイジェリア、アンゴラから輸入している[3]。
国内の製油所はChevref Refinery(ケープタウン)、Enref Refinery(Engen Refinery)(ダーバン)、Natref Refinery(サソルバーグ)、Sapref Refinery(ダーバン)の4カ所あり、合計の精製能力は52万b/dで、アフリカではエジプト、アルジェリアに次いで3番目に大きい。2019年の精製処理量(refinery throughput)は45.3万b/dだった。石油製品供給量のうち、72%は国内製油所で生産され、28%は輸入[4]している。輸入量のうち18%は国内消費、10%は隣接する南部アフリカ各国に輸出している。
天然ガスについては、2018年の需要約5Bcmのうち国内生産量はおよそ2割の約1Bcmに留まっており、足りない部分はモザンビークからのパイプライン輸入で補っている(次頁図3)。沖合F-Aガス田からのガス・コンデンセート生産はPetroSAにより1992年に始まり、2000年にはE-Mガス田が生産を開始したがいずれも2017年には生産を終了している。F-Aガス田のインフラへのタイバックとして開発されたF-Oガス田は2014年に稼働開始したが、その生産量は減少傾向にあり、2020年代前半には生産終了が見込まれている。
現在その国産ガスは、全量30mmcf/dがMossel湾でPetroSAが運営するGTL(Gas To Liquids)プラントに供給されている。同プラントは石油換算で日量4万5,000バレルの供給能力を持つが、近年はフィードガス不足から50%以下のキャパシティで稼働している。プラントでは主にガスからガソリンやディーゼル、灯油に転換されている。
[3] The South African Energy sector report 2019, Energy Department, Republic of South Africa
[4] 石油製品は5割を中東から輸入し、4割弱をインド、シンガポールをはじめアジアから輸入している。
南アフリカは国産では足りないガスを、隣接するモザンビークから年間約4Bcm、South Africa-Mozambique pipelineを通じて輸入している[5]が、同国は将来的にはLNGの輸入も視野に入れている。というのも、国内の天然ガス生産量が減少する一方、石炭火力発電の削減にむけてガスへの方向転換を望んでいるためである。同国にはLNG受入基地がないが、ExxonMobilとオランダの貯蔵大手Vopakが受入基地のためのFS調査を実施するためにMOUを締結したと2020年12月15日に発表しており、今後の展開に注目している。
[5]南アフリカは2004年以来、隣国モザンビークからROMPCO(モザンビーク共和国パイプライン投資会社)が所有し、モザンビーク中南部のPande及びTamaneガス田からヨハネスブルグ近傍のSecunda CTL/GTLプラントを連絡するパイプライン経由で天然ガスを輸入している。
2. 南アフリカのエネルギー政策、国営石油会社、規制当局
南アフリカのMantasha鉱物資源大臣は、脱炭素化に向けて、石炭依存が著しい同国のエネルギーミックスをより多様化する必要があるとし、同国のエネルギー自給率を高めるために石油とガスは不可欠な存在であり続け、エネルギートランジションは極端なものから極端なものへと移行すべきではない、と2020年10月のAfrica Oil Week Virtual Conferenceで語った。
南アフリカの「自国が決定する貢献(INDC)[6]」(2015年9月25日提出)では、2020年以降の温室効果ガス削減目標(自国が決定する貢献案)を「2025年及び2030年までに▲398~▲614Mt(BAU比[7])としている。INDCによると、南アフリカは開発ニーズと気候変動対策の両方の必要性を考慮しているが、最優先課題は貧困の解消と不平等の根絶であり、政府主導による低炭素で気候変動に強靭な社会への移行は、この最優先課題を考慮に入れて考えるべきだとしている。そして、低炭素エネルギーへの移行の中心にあるのは、石炭依存からの脱却であり、老朽化し非効率な石炭火力発電所を今後、クリーンで高効率なエネルギーに置き換えることで実現しようとしている。
また、IEAによれば、南アフリカは現在の稼働キャパシティの42GWの発電量のうち35GWの石炭火力を廃止し、2030年までに新たに必要となる29GWの電力のうち少なくとも20GWを再生可能エネルギーと天然ガスで供給することを目標としている[8]。
ただし、図4に示す通り、大きく伸びる風力発電や太陽光発電に比較すると天然ガス発電のシェアは必ずしも大きくない。南アフリカ政府としては、本命は再生可能エネルギーの開発であろうが、もしも今後、南アフリカ沖合でガスの発見が続くようならば、南アフリカ政府も自国産ガスの活用を前提とした電源構成を検討する可能性があろう。また、コスト等の問題で、再生可能エネルギーの導入が進まず、当面の排出量削減のために天然ガスを導入しなければならない可能性もあるだろう。
[6] INDC:https://www4.unfccc.int/sites/ndcstaging/PublishedDocuments/South%20Africa%20First/South%20Africa.pdf(外部リンク)
日本国外務省:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html
[7] 特段の対策のない自然体ケース(Business as usual)と比較したときの効果を表す概念。
南アフリカの国営石油会社はPetroSAである。政府が100%出資し、エネルギー省管轄の中央エネルギー基金(the Central Energy Fund:CEF)の子会社という位置づけである。同社は2002年に、以下3つの国営企業Soekor E&P、Mossgas[9] 及びStrategic Fuel Fund(SFF)[10]の一部と合併して設立され石油・天然ガスの探鉱開発及び石油製品のマーケティングを行っている。南アフリカの契約形態はコンセッション契約(利権契約)であり、鉱物・石油資源開発法(The Mineral and Petroleum Resources Development Act:MPRDA)に基づき、南アフリカで行われる石油・天然ガスの探鉱開発に、南アフリカ政府はPetroSAを通じて最大10%の権益で参加するオプションを保有している。
なお、この鉱物・石油資源開発法は現在改正法案が検討されている[11]。改正法案の中には(1)探鉱開発に国がPetroSAを通して20%のキャリードインタレストを保有すること、(2)B-BBEE企業[12]が10%の参加のオプションを持つ条項が含まれており、この2点が石油・天然ガス開発投資の障壁となり得る。ただし、B-BBEE企業に10%の参加権益を確保する政策は新たな政策ではなく、TotalがBrulpaddaを発見した11B/12B鉱区では、すでに10%の権益をB-BBEE企業が保有している。
このMPRDA改正法案は、2019年12月24日に官報に掲載され、2020年2月21日まで法案に対する利害関係者または影響を受ける当事者のコメントが受け付けられていた。2020年6月時点では、法案にコメントした石油業界等の関係者と協議を行っていた。COVID-19により、当初設定していた、2020年末の成立予定より後ろ倒しになっているが、2021年初頭までの成立を目指している。
専門家の意見によれば、同国の始まったばかりの石油・ガス産業に法的枠組みを提供しようとする点では成功しており、全体的には大きな問題のない受け入れ可能な法律案と見ている。
石油・天然ガス開発事業はAgency for Promotion of Petroleum Exploration and Exploitation(一般的にはthe Petroleum Agency SAとして知られる)によって規制されている。Petroleum Agencyはエネルギー政策と規制、安全、環境問題、権利の承認と許可を担当するエネルギー省に代わって活動することとされている。しかし、現在、その鉱物・石油資源開発法の改正法案が検討されており、そこではPetroleum Agencyの廃止、及びその機能の移管も検討されている模様である。
[9] 合成燃料生産会社
[10] トレーディング及び燃料貯蔵機関
[11] 2014 年には、MPRDA改正法案は全ての新規石油・ガス事業に対して20%の国の権益を保有し、合意された価格で100%まで保有権益を引き上げるオプションを推奨したが、同法案は大統領に却下され議会に戻されていた。後に2018年に同法案は撤回されている。
[12] 南アフリカ共和国では、憲法第9条に定められた平等権を具体化する政策として、ブラック・エコノミック・エンパワーメント政策(Broad-Based Black Economic Empowerment, B-BBEE政策, 通称BEE政策)が採られている。アパルトヘイト時代に黒人、カラード、女性など(Historically Disadvantaged South Africans:HDSA)は不当な差別を受け、歴史的に不利な立場に置かれてきた。Broad-Based Black Economic Empowerment(BEE)政策は、これを克服するためのアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)として位置付けられ、南アの特徴的な政策である。(出所:JETRO https://www.jetro.go.jp/world/africa/za/invest_11.html(外部リンク))
3. 南アフリカにおける最近の探鉱開発状況
さて、本題の南アフリカにおける探鉱開発状況に移りたい。
石油・天然ガス業界全体で探鉱予算が削減される傾向にあり、各社がフロンティアの深海探鉱に選択的になっているにも関わらず、南アフリカでの探鉱には欧米の一部の石油メジャーを惹きつけ始めている。この起爆剤となったのが、2019年2月のTotalによる11B/12B鉱区でのBrulpaddaガス・コンデンセートの発見である。
面積 | 19,000平方キロメートル |
水深 | 200~1,800メートル |
権益比率 | Total(オペレーター)45%、Qatar Petroleum 25%、CNR international 20%、Main Street(南アフリカのコンソーシアム)10% |
註釈 | Main StreetはBlack-Economic EmpowermentのコンソーシアムでAfrica Energy(加)が12.5%、Impact Oil &Gas(英)が36.5%を所有、ヨハネスブルクに拠点を置く投資会社Arostyle Investmentsが51%を所有。 |
(Totalホームページ他よりJOGMEC作成)
Totalは北海やバレンツ海等での経験を活かして、成長ポテンシャルのあり、且つチャレンジングなフロンティアに参入し、探鉱・生産活動を拡大するという当時の戦略に基づいて、2013年9月に11B/12B鉱区に参入した。その後、Qatar Petroleumは2018年5月に11B/12B鉱区のTotal権益の一部を買収及び参入した。2019年のBrulpadda構造発見後(後述)、同年8月には隣国ナミビアでTotalがオペレーターを務める2鉱区にファームインしている。Qatar Petroleumはメジャーズと共にフロンティアに参入することでリスクを回避する意図があると共に、Totalから見ればQatar Petroleumを抱き込むことで、カタールのノースフィールドガス田追加開発のパートナー選定で自社にプラスに働くと判断しているものと考えられる。
3-1. Brulpadda構造
2019年2月、Totalは南アフリカ南部沖合175キロメートルに位置するOuteniqua Basin下部白亜系で層厚57メートル(Net)のガス・コンデンセート層を発見した。
(Africa Energyホームページ[13])
[13] https://www.africaenergycorp.com/operations/south-africa-block-11b-12b/(外部リンク)
同社は10%の権益をもつコンソーシアムMain Streetのうちの1社。
ガス・コンデンセート層が発見されたOuteniqua Basinは世界で最も強力な海流の一つであるアガラス海流の通り道に位置し、強風と高波にさらされており、掘削リグを安定した状態に維持することが難しく、標準的な仕様のライザーでの掘削は事実上不可能だったとされている。実際にTotalは2014年に掘削を試みたが断念した経験も持ち合わせていた。
(1)lateral riser retention system(LRRS)
海洋掘削では、海底坑口装置と掘削装置をつなぐためにライザーが使用されるが、表層海流速度(surface current velocity)が1.7m/sを超えるとライザーの安全性は確保されず、破損または安全性を脅かすリスクがある。そのためライザーが1.7m/s以上の流速での掘削を可能にするよう仕様が変更された。具体的には、ライザーの安定性を高め、より効率的に動きをコントロールできるようDOLFINES社と共同で開発されたlateral riser retention system (LRRS)が導入された。LRRSは掘削リグに取り付けられた4つのテンショナーで構成され、ライザーに接続された4つのケーブルによって加えられる把持力(retention force)をリアルタイム測定と数値シミュレーションに基づき伝達する。汎用性の高いLRRSのコンセプトは、他の掘削リグにも適用可能で、海洋環境の厳しい地域での使用が可能とされている。
(2)安定性が高められたタグボート
世界初の試みとしてリグの安定性を確保し、位置を確保するためタグボートがリグに取り付けられた。タグボートによって伝達された力によってリグの静止能力が25%向上したとされる。
(3)海流予測のための高周波レーダー(HFR)
アグラス海流は強力なだけではなく、東から西への蛇行や渦を発生させ、掘削作業に支障をきたす。これらの現象は衛星観測や数値モデリングでは効果的な予測が困難だった。そこで、これらの現象をリアルタイムで追跡し、予測精度を向上させるために、沿岸部に3つのHFRステーションを設置した陸上ネットワークを構築した。このシステムは、沖合250キロメートルまでの表層海流を監視するように設計されており、運用区域の80%をカバーする6キロメートル×6キロメートル4のグリッドを提供し、30分ごとにデータを更新している。これによって掘削作業の計画が立てやすくなったとされる。
3-2. Luiperd構造
その後、Totalは同地域のさらなる調査のため、Brulpadda構造の50キロメートル東でLuiperd-1X探鉱井を掘削し、2020年10月に層厚73メートルのガス・コンデンセート層を発見した。
Luiperdは事前の予想よりも多くの液分を含むと見られ、3Tcfのガスと4億バレルの液分を保有すると見込まれる。関係者によれば、LuiperdはBrulpaddaよりもさらに30~40%、液分が多いとされる。
Totalの探鉱開発部門長のArnaud Breuillac氏は「今回の第2の発見とその非常に有望な結果は、この沖合のガス田の世界的に見ても大きな規模である特徴を示すものであり、非常に喜ばしい」とコメントした。
また、パートナーのQatar Petroleum 、Saad Sherida al-Kaabi CEOは熱心に「井戸の探鉱結果は予想以上に良好であり、この地域でのさらなる探鉱評価活動を推進し、すべての関係者とともに商業化を検討する素晴らしい機会である」とコメントした。
南アフリカのコンソーシアム「Main Street」のうちの1社であるAfrica Energyは「Luiperdディスカバリーはポテンシャルのある世界規模の探鉱プレイであることを再認識させた」とし、「Luiperdで発見されたネットペイは2019年のBrulpaddaよりも大きい」と述べた。
4. LuiperdとBrulpadda両構造のガス開発の今後の展望
まずは、埋蔵量の評価がなければ開発移行の判断は出来ない。今後は評価井の掘削や地質評価を通じて埋蔵量評価を行ない、その結果を踏まえて開発計画の検討、FEED(Front End Engineering Design)の実施など、通常の開発検討プロセスに乗っていくと考えられる。報道によれば、Totalは2021年~2022年に評価及び探鉱掘削キャンペーンを行う模様である。
このエリアは必ずしも石油、天然ガスの探鉱開発が活発に行われてきたエリアではないことから、そのロジスティクス構築など、ガス田開発検討には時間がかかる可能性もある。ただし、LuiperdとBrulpadda両構造は、740MWの出力を持つGourikwa発電所[15]やMossel湾岸のPetroSAの45,000 b/d のGTL プラントといった陸上施設にパイプラインでつながっているF-Oガス田[16]から70㎞の距離に位置しているため、比較的既存インフラに近く、比較的安価につなぎ混むことが可能である。
前述の通り、Petro SAによれば、GTLプラントはF-Oガス田等からの利用可能なフィードガス不足のため50%以下のキャパシティで稼働中であり、南アフリカ政府は現在生産している沖合ガス田がGTLプラントや発電所に今後も十分なガスを供給できるかどうかを懸念しており、モザンビークからのパイプラインガス輸入量の増加やLNG輸入への転換を検討している。しかし、Brulpadda及びLuiperdを既存のF-Oプラットフォームに接続して供給が維持できれば、こうした懸念は解消される。このような地産地消のガスを用いれば、コストのかかるLNG輸入施設を建設する必要がなくなることになるため、ガス田の商業化が前進する地合いにはあると思われる。また、Totalは早くも南アフリカ政府とガスの商業化について何らかの協議を行っていると報じられており、Mossel 湾岸のGTLプラントやGourikwa発電所へのガス供給についても協議を進めていると考えられる。
5. 南アフリカ沖でのその他の探鉱・開発状況
5-1. ExxonMobilとEquinorの撤退
2020年8月、ExxonMobil及びEquinorの両社はTotalのBrulpadda構造の近くの鉱区でパートナーシップを組んで探鉱に取り組んでいたが、南アフリカの主な探鉱エリアから撤退することを表明した。なお、ExxonMobilは2012年に、Equinorは2015年に南アフリカ沖に参入していた。
鉱区 | 権益比率(撤退前) | 行われた作業 |
権益比率(撤退後1) |
権益比率(撤退後2) |
Tugela South | ExxonMobil*40%, Equinor 35%, Impact Africa Limited 25% | 地震探査 | Impact Africa Limited 100% | ― |
Deepwater Durban | ExxonMobil*50%, Equinor 50% | 地震探査 | relinquished | ― |
Transkei-Algoa | ExxonMobil*40%, Equinor 35%, Impact Africa Limited 25% | 地震探査 | Impact Africa Limited 100% | Shell*50%, Impact Africa Limited 50% |
East Algoa |
Equinor*60%, Total 30%, OK Energy 10% |
地震探査 | (撤退の具体的な情報なし) | ― |
注釈:*はオペレーター |
(各種資料よりJOGMEC作成)
ExxonMobilの担当者は「南アフリカの海上ライセンスから撤退することは、『常にポートフォリオを評価して、資産を組み替えていく』という当社の戦略的事業目標に沿ったものである」とコメントした。また、Equinorの担当者は「取得した地震データを評価したが、当社の他の地質ポテンシャルと比較して、当該探鉱エリアはポテンシャルが劣った」と撤退の理由を明らかにした。
その後10月には、Impact Oil and Gas(英)の現地法人Impact Africa Limitedが、Transkei-Algoa鉱区と Tugela South鉱区のExxonMobil(40 %)とEquinor(35 %)の権益を譲り受けることについて政府承認を受けた。両鉱区でImpact Oil and Gasは25 %の権益を保有してきたが、これにより、両鉱区ともImpactが100 %の権益を保有することとなった(表2「ExxonMobil及びEquinorの撤退エリア」権益比率(撤退後1)参照)。
パートナーを失ったImpact Oil and Gasは新たなパートナーを探していたが、11月にはTranskei-Algoa鉱区にShellが50 %の権益でファームインし(表2「ExxonMobil及びEquinorの撤退エリア」権益比率(撤退後2)参照)、同時にオペレーターとなった。さらに、Shellは事業が成功した場合には後に5 %の権益を追加で取得するオプションもあると報じられている。
5-2. 「捨てる神あれば拾う神あり」、Shellの存在感拡大
また、Shellは9月にKosmos Energy(米)のアフリカと南米のフロンティア探鉱アセットのポートフォリオを最大2億米ドルで買収することで合意した。そこには、南アフリカNCUD鉱区(図5)の探鉱権益45%が含まれている。譲渡対価2億ドルの内訳は、まず契約一時金として約1億ドルを支払い、その後、買収したアセット全体のうち最初に掘削された4つの探鉱井から商業的発見があった場合に1億ドルを上限に追加で支払うことになっている。
この取引では、元々オペレーターを務めていた、Shellが苦境に陥ったKosmosから有利な条件を引き出した側面もある様子だ。Kosmosは収益が第二四半期に前年同期比で68%下落し1億2,700万ドルに落ち込み、1億9,900万ドルの損失を計上している。
取引前 | Shell(オペレーター)45 %、Kosmos Energy 45 %、OK Energy 10 % |
取引後 | Shell(オペレーター)90 %、OK Energy 10 % |
NUCD鉱区内での掘削活動は現在のところ計画していない模様。 |
(各種資料からJOGMEC作成)
Shellによれば「(今回手に入れた)ナミビアと南アフリカでは、探鉱戦略に沿って、費用や専門知識を共有する新たなパートナーを探し、南アフリカ西部海域のOrange Basinでの探鉱計画を進めていく。」とし、「この持ち分は深海探鉱では高すぎるため、深海鉱区の持ち分は50%以下にしたい」と話し、一部権益を今後ファームアウトする可能性を示唆した。
6. 今後の展望
石油・天然ガス資源に極めて乏しい南アフリカにおいて、既存インフラ近くでBrulpadda、Luiperd構造が発見されたことは明るいニュースである。オペレーターのTotalが南アフリカ政府と商業化に向けて協議中であることに加え、石油・天然ガス上流開発資源法案がまだ採決されていないなど、商業的枠組みが定まったわけではないが、今後、順調に進展するのか、また南アフリカでの今後の探鉱成果が注目される。
以上
(この報告は2020年12月25日時点のものです)