ページ番号1008931 更新日 令和3年3月4日
原油市場他:サウジアラビアによる自主的な追加減産実施により2021年2~3月はOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が事実上減産措置を強化へ(速報)
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概要
- 2021年1月4及び5日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年1月に実施していた合計日量720万バレルの減産措置につき、2021年2~3月においてはロシアとカザフスタンを除く産油国の減産準を据え置くことで合意した。
- また、2021年2月のロシアの減産規模を1月のそれに比べ日量6.5万バレル、3月のそれも2月に比べさらに同6.5万バレル、それぞれ緩和する他、2021年2月のカザフスタンの減産規模も1月のそれに比べ日量1万バレル、3月のそれも2月に比べさらに同1万バレル、それぞれ緩和する旨決定した。
- 他方、別途サウジアラビアは2~3月につき単独で日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨OPECプラス産油国閣僚会合開催後に表明した。
- 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は3月4日に開催される予定である。
- 足元では、変異したものも含め新型コロナウイルス感染が世界各国及び地域で拡大しつつあるなど、短期的には世界経済及び石油需要が下振れすることにより石油需給が緩和し原油相場に下方圧力を加えるリスクが存在する中、OPECプラス産油国はそのような下振れリスクを警戒するとともに先制的に対応すべく、2月も1月と同様の規模の減産措置を実施することにつき、1月4日の当該会合開催時において大半の減産措置参加産油国が合意していた。
- しかしながら、世界石油需要は回復しつつあるとして、ロシア及びカザフスタンは2月のOPECプラス産油国全体の減産措置を1月に比べ日量50万バレル縮小する旨主張した。
- このような意見の相違が発生したことから、当初1月4日のみの開催予定であった当該閣僚会合は1日延長され、1月5日に再協議を実施した結果、厳冬のため国内石油需要が増加しているロシア及びカザフスタンについては減産措置緩和を認めるものの、他のOPECプラス産油国については2~3月の減産措置につき1月と同規模とすることで妥協が成立した。
- また、石油需要の伸びと原油価格の下振れの可能性を懸念するサウジアラビアは、そのような可能性に対し先制的に行動すべく、単独で自主的な追加減産を実施するに至ったものと見られる。
- 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後、原油価格が上昇基調となっていたことから、OPECプラス産油国が2月の減産措置を日量50万バレル縮小する旨決定するとの予想が市場心理に織り込まれる格好となっていたところ、実際にはOPECプラス産油国は2~3月の減産措置の据え置きを決定したうえ、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したこともあり、石油需給引き締まり感が市場で強まったことから、会合開催直後の1月5日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり2.31ドル上昇し49.93ドルの終値となった。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2021年1月4及び5日(当初は1月4日のみの開催予定であったが実際には1日延長された)にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年1月に実施していた合計日量720万バレルの減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)につき、2021年2~3月においてはロシアとカザフスタンを除く産油国の減産水準を据え置くことで合意した(表1及び参考1参照)。
(2) また、2021年2月のロシアの減産規模を1月のそれに比べ日量6.5万バレル、3月のそれも2月に比べさらに同6.5万バレル、それぞれ緩和する旨決定した他、2021年2月のカザフスタンの減産規模も1月のそれに比べ日量1万バレル、3月のそれも2月に比べさらに同1万バレル、それぞれ緩和する旨決定した。
(3) 他方、別途サウジアラビアは2021年2~3月につき単独で日量100万バレルの自主的な減産を実施する旨表明した(この表明は他のOPECプラス産油国への事前相談なしに行われたとされる)。
(4) 最近では石油市場参加者の心理が改善するとともに原油価格も上昇しているものの、新型コロナウイルス感染拡大により、より厳しい封鎖措置の実施と不透明感の増大で、2021年もより脆弱な経済成長の回復が予想される旨、OPECプラス産油国閣僚級会合で指摘されるとともに、石油需要と製油所の精製利幅が低迷したままであり、石油在庫余剰も高水準である等警戒が必要であることが当該会合で強調された。
(5) また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できなかったOPECプラス減産参加産油国は、減産遵守未達成部分に関する追加減産計画を1月15日までにOPEC事務局に提出するよう要請された。
(6) 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は3月4日に開催される予定である。
(7) さらに、次回のOPECプラス産油国閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタン)を2月3日に、次々回のJMMCを3月3日に、それぞれ開催することを当該会合で決定した。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 2020年12月3日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、同年12月末までの日量770万バレルの減産措置を2021年1月については同50万バレル縮小し同720万バレルとすることで合意した。
(2) 加えて、2021年1月以降は毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催しその都度石油市場の状況を検討するとともに、翌月以降の減産措置につき調整するものの、その調整量は日量50万バレルを超過しないものとした。
(3) なお、2月以降の減産措置の調整量最大日量50万バレルは減産措置を最大日量50万バレル縮小するのみならず最大50万バレル拡大することも含まれる旨12月3日にロシアのノバク副首相が示唆していた。
(4) ただ、同日ノバク副首相は特段の緊急事態が発生しなければ、2021年4月までには累計で日量200万バレル増産する可能性が高いとも明らかにしていた。
(5) 他方、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の2020年12月2日の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり45.28ドルであったが、12月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で事実上日量50万バレルの増産が決定されたにもかかわらず、同日の原油価格の終値は1バレル当たり45.64ドルと、前日終値比で0.36ドル上昇するなど、当該価格は堅調に推移した。
(6) これは2020年4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された、2021年1月から2022年4月30日にかけての減産規模を日量580万バレルと、2020年12月までの同770万バレルから同190万バレル減産規模を縮小するとの方針が、少なくとも2021年1月については同50万バレルの減産規模の縮小にとどまったことから、石油需給緩和感が市場で後退したことによるものであるとの指摘もある。
(7) 加えて、12月11日には米国食品医薬局(FDA)が同国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックとともに開発中であった新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可申請(11月20日に提出されていた)につき緊急使用を許可する旨決定、12月14日には米国内で当該ワクチンの接種が開始された。
(8) また、それに先立つ12月8日には英国で新型コロナウイルスワクチン接種が開始された他、複数の国及び地域で新型コロナウイルスワクチンの使用が許可されつつあった。
(9) さらに、米国では追加経済対策法案に関するトランプ政権及び議会共和党及び民主党議員間での協議が進んだこと等により12月18日の原油価格はWTIの終値で1バレル当たり49.10ドルと、新型コロナウイルス感染拡大前である2020年2月25日(この時は同49.90ドル)以来の高水準に到達した(図1参照)。
(10) このように、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降原油価格は上昇基調となったが、その過程においては、最終的な世界経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で十分強いが故に、従来であれば原油価格を相当程度下落させかねいないような材料が出現しても、石油市場関係者心理はそのような材料を軽視する結果、原油相場の下落幅が限定されるか、そのような要因が事実上無視されることにより、原油相場が上昇し続けるといった場面が見られた。
(11) 例えば、12月9日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(12月4日の週分)で原油在庫が前週比で1,519万バレルの増加と2020年4月10日の週(この時は前週比で1,925万バレルの増加)以来(かつ史上2番目)の大幅な増加となった他、市場の事前予想(同104~140万バレル程度の減少)に反し増加していたことに加え、ガソリン及び留出油在庫がそれぞれ前週比で422万バレル、522万バレルの増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同200~230万バレル程度の増加、留出油在庫同90~140万バレル程度の増加)を上回って増加していた旨判明したにもかかわらず、この日の原油価格の終値は1バレル当たり45.52ドルと前日終値比で0.08ドルの下落にとどまった。
(12) また、12月17日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月12日の週分)が88.5万件と前週比で2.3万件増加したうえ市場の事前予想(80.0~81.8万件)を上回ったことから、本来このような要因は米国経済減速を示唆していることにより、米国株式相場に下方圧力を加えるとともに、石油需要を抑制する方向で作用する結果、原油価格が下落するはずのところ、この日は当該経済指標類の発表により、かえって米国議会による追加経済対策に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場とともに原油価格は上昇した。
(13) 一方、12月には、世界の一部諸国及び地域では新型コロナウイルス感染は拡大しており、米国のニューヨークでは12月14日に飲食店での店内での飲食サービス提供が停止したことに加え、同国の新型コロナウイルス感染者数が2021年1月2日時点で1日当たり291,384人と史上最高水準に到達したと伝えられる。
(14) また、新型コロナウイルス変異種(従来よりも感染力が強いとされる)による感染が急拡大している恐れがあるとして12月16日より英国ロンドン及びイングランド南東部の一部に対し最も厳格な規制を実施する旨12月14日に同国のハンコック保健相が明らかにした他、12月16日にはドイツで厳格な都市封鎖が実施された。
(15) さらに、変異した新型コロナウイルスによる感染が制御困難な程拡大しているとして、ロンドン及びイングランド南東部に発令されている都市封鎖措置を新型コロナウイルスワクチンの接種普及拡大まで継続する旨12月20日に英国のハンコック保健相が示唆するとともに、世界各国及び地域から英国への渡航禁止措置が実施されつつある旨12月21日に報じられた。
(16) 2021年1月4日には英国のジョンソン首相が変異種による新型コロナウイルス感染拡大に対応すべくイングランド全体に対し1月15日から少なくとも2月15日にかけ全面的に都市封鎖を実施する旨発表したうえ、ドイツでも、2020年12月16日より実施している新型コロナウイルス感染者抑制のための全国的な封鎖措置を当初終了予定であった1月10日を超えて実施し続ける旨1月3日に報じられた。
(17) しかしながら、変異した新型コロナウイルスに対してワクチンが有効でないという証拠は見られない旨の専門家が認識していると12月22日に伝えられる他、ビオンテックのサヒン最高経営責任者(CEO)がワクチンは変異した新型コロナウイルスにも有効である(但し、実際に当該ワクチンが有効かどうかを確認するには2週間程度が必要である旨同時に明らかにしている)とともに、仮に変異した新型コロナウイルスに対しワクチンが有効でない旨判明した(南アフリカで発見された新型コロナウイルスの変異種は開発済のワクチンが有効であるか確信が持てない旨1月4日に英国のハンコック保健相が明らかにしている)としても、変異した新型コロナウイルスに対応するワクチンの開発は技術的には6週間程度で可能である旨の見解を12月22日に披露した。
(18) このようなこともあり、新型コロナウイルス感染拡大による経済及び石油需要に対する負の影響は短期的なものであり、数ヶ月程度後には、多くの国及び地域で新型コロナウイルスワクチンの接種普及が拡大するとともに新型コロナウイルス感染者が収束、経済成長が回復する方向に向かい石油需要の伸びが加速、その結果石油需給が引き締まるとのシナリオが市場でより明確に描けるようになってきていた。
(19) また、12月21日夜(米国東部時間)に米国議会上院及び下院で可決された新型コロナウイルスのための8,920億ドル規模の追加経済対策法案を、12月28日にトランプ大統領が署名したこともあり、米国経済成長の持ち直しと石油需要の伸びの回復、及び石油需給の引き締まり感が市場で強まったこともあり、1月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の原油先物市場取引日であった12月31日の原油価格の終値も1バレル当たり48.52ドルと12月18日に到達した直近での高水準の終値からそう下落していない水準を維持した。
(20) このような中で、1月3日にはOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)が開催されたが、その場においてOPECのバルキンド事務局長は、2021年前半の石油市場展望は非常にまちまちであり、依然として乗り切らなければならない下振れリスクがある他、2021年後半の世界経済は強力に反発する可能性があるが、個人の往来、観光、余暇及び歓待が新型コロナウイルス感染拡大前に戻るには数年を要する可能性があり、OPECプラス産油国による今後数ヶ月間の合計日量200万バレルの漸進的増産については石油市場の状況によっては調整する用意がある旨示唆した他、当該委員会では大半の専門家が2月における日量50万バレルの減産措置緩和に反対している旨明らかになった。
(21) 加えて、1月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、石油需要は脆弱であり変異した新型コロナウイルスを巡る動向が予想不可能であるとして、OPECプラス産油国は、全般的な市場環境における楽観的な見方にも関わらず、警戒すべきであるとともに先制的に対応すべきである旨発言しており、この時点でサウジアラビアは1月に実施された日量720万バレルのOPECプラス産油国の減産措置を2月も据え置くことを支持していた旨示唆されるが、同時に下振れリスクを抱える石油需要と原油価格に対し先制的に対応すべく自国の日量100万バレルの自主的追加減産を検討していた可能性がある。
(22) また、同会合においてアルジェリア、ナイジェリア、イラク、オマーン、クウェート及びUAEは1月の減産規模を2月も据え置くことに同意したと報じられる一方で、アゼルバイジャンは減産措置については中立的な立場である旨明らかにしたと1月4日に伝えられるなど、大半のOPECプラス産油国は減産規模の据え置きに事実上賛同している旨示唆された。
(23) 他方、前回OPECプラス産油国閣僚級会合開催の際には、UAE、イラク及びナイジェリア等一部OPECプラス産油国は減産措置に不満を持っていたとされた。
(24) UAEはOPECプラス産油国の減産措置における減産目標の配分が「不公平」であるという意識を持っていた(サウジアラビアの原油生産目標が日量899万バレル程度と原油生産能力(同1,200万バレル程度と推定される)の約75%と見られる一方、UAEは原油生産目標が同251万バレル程度と原油生産能力(同353万バレル程度と推定される)の約71%と見られるなど、原油生産能力を基準とするとUAEの方が減産率が高いことを指していると見る向きもある)とされる他、同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識しているが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討している(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨11月17日に伝えられており、可能な状況であれば同国は増産を希望していることが示唆された。
(25) また、イラクのアラウィ財務相兼副首相はOPECプラス産油国全体に画一的に減産措置を要請するのではなく、各産油国の1人当たり所得及び政府基金の状況(イラクは双方とも低水準)を含む政治経済状態を考慮すべきである旨主張した(ただ、同氏は自身の意見は同国石油省を代表しているものではない旨付言している)と11月25日に報じられる。
(26) ナイジェリアのブバリ大統領は、多くの人口と巨大なインフラ負債を抱える(そして同国国内総生産(GDP)は2四半期連続で減少している)同国の状況をOPECは考慮すべきである旨11月26日遅く(現地時間)に明らかにした。さらに、従来からナイジェリアはOPECが原油生産として見做してきた同国産アグバミ(Agbami)原油(API比重48.28度、硫黄含有分0.04%、原油生産量は日量12.6~15.7万バレル程度とされる)はコンデンセートであると主張(OPECはAPI比重45~55度の液体炭化水素をコンデンセートと定義している旨ナイジェリアのシルバ(Sylva)石油資源担当国務相が明らかにしたと8月12日に報じられる)、このコンデンセート相当分を自国の原油生産目標から除外するべきである旨示唆している(ただ、アルジェリアのアタル(Attar)エネルギー相はナイジェリアに対し減産目標の変更は他の産油国からも同様の要望を発生させることによりOPECプラス産油国減産体制の崩壊を招く可能性がある旨警告したと11月17日に伝えられる)。
(27) ただ、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際には、新型コロナウイルスワクチン開発、使用許可承認及び普及拡大による世界経済成長の持ち直しと石油需要の伸びの回復及び石油需給引き締まり期待が市場で増大するとともに原油相場に上方圧力が加わりつつある中で開催されたこともあり、一部OPECプラス産油国から事実上の減産措置緩和要求が示される場面が見られたが、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合は、新型コロナウイルスの変異種等による感染拡大により短期的であれ世界経済成長が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化、そして石油需給が緩和する恐れがある中で開催されたこともあり、それら産油国からの減産措置緩和要求は概ね抑制されたものと見られる。
(28) そして、短期的な世界経済成長及び石油需要の伸びの下振れと石油需給の緩和といったリスクを内包する中での減産措置縮小の決定は、OPECプラス産油国が継続的に世界石油需給緩和を許容する姿勢を示していると市場で受け取られることにより、原油相場に恒常的に下方圧力が加わりやすくなるといった事態を招く恐れがあったことから、そのような事態をOPECプラス産油国の大半は回避しようとしたものと考えられる。
(29) しかしながら、ロシアは、世界石油需要は回復しつつあるとともに新型コロナウイルスワクチン接種が開始されることで感染が収束することにより石油需要はさらに増加する方向に向かうとして、OPECプラス産油国全体で日量50万バレルの減産措置緩和を主張、カザフスタンも同調した。
(30) 既存の減産措置を維持することはOPECプラス産油国が石油需給を引き締めるとともに原油価格を浮揚させようとする確固たる姿勢を示していると市場で認識されることにより、かえって原油価格がさらに相当程度上昇するとともに米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほど世界石油需給が緩和することにより原油価格が乱高下することに加え、産油国であるロシアの通貨ルーブルが上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けることを、ロシアは従来から懸念していた。
(31) 実際、12月21日にロシアのノバク副首相は世界石油需要の回復は予想よりも緩慢であり、新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻るまでには2~3年を要するかもしれない旨発言した一方で、原油価格は1バレル当たり45~55ドルの最適範囲に位置していることから、2月に日量50万バレルのさらなる減産措置の緩和を支持する旨同副首相は12月25日に明らかにしているなどしており、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合でのロシアの主張はそのような考え方に沿ったものであるものと見受けられる。
(32) ロシア(及びカザフスタン)と他のOPECプラス産油国との間で議論は平行線を辿った結果、1月4日の当該会合では結論は出ずじまいとなり、改めて1月5日に減産方針につき再協議することになった。
(33) そして、1月5日の再協議の結果、ロシアとカザフスタンについては厳冬による国内石油需要の増加に伴い減産措置の緩和(つまり事実上の増産)を認める(なお、減産措置緩和量はOPECプラス産油国全体で日量50万バレルの減産措置緩和を実施した場合のロシア及びカザフスタンへの割当減産緩和相当分の約半分の水準となっている)ものの、他のOPECプラス産油国については2~3月については1月の減産措置を据え置きとすることとするともに、新型コロナウイルス感染拡大による石油需要の下振れを懸念するサウジアラビアはそのような事態発生の可能性に対し先制的に行動することで石油需給バランス及び原油価格の維持を図るべく2~3月に日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨決意したものと考えられる。
3. 原油価格の動き等
(1) 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際の12月3日にノバク副首相は特段の緊急事態が発生しなければ、2021年4月までには累計で日量200万バレル増産する可能性が高いと明らかにしていたことに加え、前回会合以降原油価格が概ね上昇基調であったこともあり、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合では日量50万バレルの減産規模の縮小決定の可能性が予め市場参加者の心理に織り込まれる格好となっていた。
(2) しかしながら、実際にはロシアとカザフスタンについては減産措置が緩和されたものの、他の全てのOPECプラス産油国については1月の減産規模が2~3月にも引き継がれる他、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したことにより、市場の事前予想よりも世界石油需給を引き締める方向に向かわせる旨示唆されたこともあり、会合開催直後の1月5日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり2.31ドル上昇し49.93ドルの終値と、2020年2月24日(この時は同51.43ドル)以来の高水準の終値となった他、一時は同50.20ドルに到達する場面も見られた。
(3) 今後の原油市場では、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された事実上の石油需給引き締め方策及び当該会合の際に示されたサウジアラビアをはじめとしたOPECプラス産油国による原油価格浮揚のための確たる姿勢に加え、新型コロナウイルスワクチンの開発と普及の進展による新型コロナウイルス感染の収束と世界各国及び地域の経済成長の加速及び石油需要の増加と石油需給引き締まり、そしてその結果としてこの先の原油価格の上昇への期待から、原油相場に上方圧力が加わりやすい状況となるものと考えられる。
(4) そしてその場合、足元での新型コロナウイルス感染拡大と一部諸国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の強化による石油需要の伸びの鈍化観測と石油需給緩和感の市場での醸成も、最終的な石油需要の回復と石油需給の引き締まり期待に押し切られる結果、新型コロナウイルス感染拡大による石油需要の伸びの鈍化観測で原油価格が下落し始めたとしても、値頃感から原油を購入する動きが市場で発生するとともに、原油価格がそう下落しないうちに反発するといった展開になりやすいものと考えられる。
(5) また、経済が改善していることを示唆する指標類の発表や地政学的リスク要因の顕在化(ペルシャ湾において韓国船籍タンカーを拿捕した旨イラン革命防衛隊が1月4日に発表した他、同日イラン政府が濃縮度20%のウラン製造を開始した旨発表するなどしている)等によっても、石油需要の増加観測もしくは石油供給途絶懸念を市場で発生させることを通じ、原油相場に上方圧力を加えるといった展開が想定される他、経済が減速しつつあることを示唆する指標類が発表されても、経済対策実施に対する期待が市場で増大したり米ドルが下落したりすることにより、かえって原油相場が上昇するといった場面が見られることも想定される。
(6) また、2020年3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げたことに伴い、大幅に低下したコストで調達された資金が商品等のリスク資産市場に流入する結果、原油相場に下方圧力を加える要因により原油価格が下落しようとしても、むしろ下落する局面では原油を購入する良い機会であると市場関係者から見做されて資金が流入する結果、原油価格が十分に下落しない反面、原油相場に上方圧力を加える要因に対しては原油を購入するための大量の資金が流入する結果、原油価格の上昇幅が拡大するといった傾向が生じやすいことにも注意が必要である。
(7) 他方、原油価格の上昇につれ、米国での石油坑井掘削装置稼働数が増加する結果、同国のシェールオイルを含む原油生産が持ち直すといった展開も想定されるが、最近の米国石油会社においては株主や資金供給者が原油生産に伴う収益性を重視する動きが見られると指摘される他、原油価格の上昇が原油生産の増加となって現れるには6ヶ月程度を要すると言われているところからすると、米国の原油生産増加に伴う世界石油需給緩和感が原油価格を抑制する前に、新型コロナウイルスワクチン普及拡大による世界経済成長及び石油需要の伸びの回復と石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大することを通じて原油相場に上方圧力が加わる結果、少なくとも短期的には原油価格は一時的にせよ上昇する場面が見られる可能性がある。
(8) ただ、OPECプラス産油国による減産措置を巡ってはかつて一部OPECプラス産油国間で不協和音が伝えられたこともあり、今後もOPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による情報等を通じOPECプラス産油国による減産遵守状況がこの先明らかになる等するにつれ、市場がOPECプラス産油国の結束を疑問視したり、この先のOPECプラス産油国間での原油生産方針決定の際に再び関係国間での意見の相違が顕在化したりすることで、この先のOPECプラス産油国の減産措置方針の決定過程が複雑化したり、それが原油相場に反映されたりするといった展開となるとなる場面が見られることも否定できない。
(9) また、今般サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産方針を表明したことは、世界石油需給の引き締まり感が強まる結果原油価格が相当程度上昇することを通じ、中長期的には米国のシェールオイル生産が活発化することにより、将来的にはかえってOPECプラス産油国による原油生産調整措置が機能しにくくなるとともに原油価格が乱高下しやすくなるといったリスクも内包している。
(参考1:2021年1月4~5日開催OPECプラス閣僚級会合時声明)
The 13th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 2/2021
Vienna, Austria
05 Jan 2021
The 13th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM), held via videoconference, concluded on Tuesday, 5 January 2021.
The Meeting, which reconvened following an initial round of discussions on 4 January, reaffirmed the continued commitment of the participating countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to a stable market in the mutual interest of producing nations; the efficient, economic and secure supply to consumers; and a fair return on invested capital.
In addition, the Meeting recalled the decision taken by all DoC participating countries at the 10th (Extraordinary) ONOMM on 12 April 2020 to adjust downwards overall crude oil production, the unanimous decisions taken at the 11th ONOMM on 6 June 2020, and the outcomes of the 12th ONOMM on 3 December 2020.
The Meeting highlighted the unprecedented events of 2020 and shocking impact of the COVID-19 pandemic on the world economy and markets, and commended the DoC participating countries for undertaking the largest and longest crude oil production adjustments in history in response to the exceptional challenges and market conditions caused by the pandemic.
It pointed out that rising infections, the return of stricter lockdown measures and growing uncertainties have resulted in a more fragile economic recovery that is expected to carry over into 2021. The Meeting recognized that market sentiment has been buoyed recently by vaccine programmes and improved asset markets, but underscored the need for caution due to prevailing weak demand and poor refining margins, the high stock overhang and other underlying uncertainties.
The Meeting acknowledged the need to gradually return 2 mb/d to the market, with the pace being determined according to market conditions. It reconfirmed the decision made at the 12th ONOMM to increase production by 0.5 mb/d starting in January 2021, and adjusting production from 7.7 mb/d to 7.2 mb/d.
The adjustments to the production level for February and March 2021 will be implemented as per the distribution detailed in the attached table. Production adjustments for April and subsequent months will be decided during the monthly ONOMM following the criteria agreed upon in the 12th ONOMM.
The Meeting reiterated the need to continue closely monitoring market fundamentals, including non-DoC supply and its impact on the global oil balance and overall market stability.
The Meeting noted that high conformity levels have contributed significantly to market rebalancing and stability. Between May and November, participating OPEC and non-OPEC countries contributed to reducing the global supply by approximately 1.9 billion barrels, including voluntary adjustments, and this has been key to the rebalancing of the market.
The Meeting drew attention to the exceptional year of 2020 as an outlier that distorts the latest five-year average of OECD commercial oil stock levels. It recommended retaining the 2015-2019 average as a more representative metric, while keeping the latest five-year average for the time being.
Furthermore, the Meeting expressed appreciation to participating countries, particularly the United Arab Emirates (UAE) and Angola, which have performed beyond expectation. At the same time, it reiterated the critical importance of adhering to full conformity, and compensating the overproduced volumes in accordance with the statements of the 11th and 12th ONOMM, in order to achieve the objective of market rebalancing and avoid undue delay in the process.
It requested all underperforming participating countries to submit their plans for implementation of the required compensation for the overproduced volumes to the OPEC Secretariat by 15 January 2021.
The Meeting welcomed HE Dr Mohammad Alfares, Kuwait’s new Minister of Oil and Minister of Electricity and Water, and expressed its appreciation to his predecessor, Dr Khaled A. Al-Fadhel, for his dedication to the DoC process.
The Meeting decided to hold the next Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) Meeting on 3 February 2021, followed by a JMMC Meeting on 3 March 2021 and ONOMM on 4 March 2021.
以上
(この報告は2021年1月5日時点のものです)