ページ番号1008934 更新日 令和3年3月4日
原油市場他:新型コロナウイルスワクチン普及拡大及び米国追加経済対策推進期待、そしてサウジアラビアによる日量100万バレルの追加減産表明により、上昇基調の原油価格
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概要
- 米国では新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制強化等によりガソリン需要が不振であった他、米国北東部が温暖であったこと等もあり留出油需要も軟調であった結果、両製品在庫は増加、平年幅上限を超過する水準となった。他方、原油在庫は平年幅上限を超過しているものの減少となったが、これはメキシコ湾岸製油所による年末の課税対策によるものと指摘する向きもある。
- 2020年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国で減少した他、日本でも秋場のメンテナンス作業実施終了に伴い製油所での原油精製処理活動が活発化したこともあり在庫は減少した。欧州では精製利幅低下により製油所での原油精製処理活動減速とともに原油の購入が削減された結果在庫は若干ながら減少した。このため、OECD諸国全体としても原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では冬場の暖房シーズン到来に伴い灯油在庫が減少したことで石油製品全体の在庫は減少した。米国でも冬場の暖房シーズンに突入したことによりプロパン/プロピレン在庫が減少したこと等により同国の石油製品全体の在庫は減少した。また、欧州では製油所の稼働が低下した一方冬場の暖房シーズン突入に伴い暖房向け石油製品需要が堅調となったことにより石油製品全体の在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり平年幅上限付近に位置する量となっている。
- 2020年12月中旬から2021年1月中旬にかけての原油市場では、新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可を米国当局が承認したことに加え、トランプ大統領が追加経済対策法案に署名したこと、サウジアラビアが日量100万バレルの追加減産を実施する旨表明したこと等により、原油価格は上昇基調となり、1月6日には50.63ドルと2020年2月24日以来の50ドル超での終値となった。
- 今後、冬場の暖房シーズン終了が視野に入ることで季節的な石油需給緩和感が市場で強まり始めることが、原油相場の上昇を抑制する可能性があるが、足元で気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることもありうる。他方、新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制及び経済活動の制限の強化が原油相場に下方圧力を加える場面が見られる可能性があるが、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種普及が拡大することで感染が抑制されることに加え、米国で大統領及び議会上下院の主導権を事実上民主党が掌握したことで、同国での追加経済対策等の景気刺激策が推進されやすくなることにより、世界経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復するとの楽観的な見方が市場で強まりつつあることから、それが金融緩和状態に伴う投資資金の流入と相俟って、原油価格が上振れしやすいものと考えられる。さらに、サウジアラビアによる追加減産実施の表明に伴う相対的な世界石油需給引き締まり感の増大やサウジアラビアの石油需給バランス均衡に向けた断固たる方策の推進に対する期待が市場で拡大しつつあることも、原油相場を下支えするものと思われる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. サウジアラビアによる自主的な追加減産実施により2021年2~3月はOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が事実上減産措置を強化へ
(1) 協議内容等
2021年1月4及び5日(当初は1月4日のみの開催予定であったが実際には1日延長された)にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年1月に実施していた合計日量720万バレルの減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)を、2021年2~3月についてはロシアとカザフスタンを除き据え置くことで合意した(表1参照)。
また、2021年2月のロシアの減産規模は1月のそれに比べ日量6.5万バレル、3月のそれも2月に比べさらに同6.5万バレル、それぞれ緩和する他、2021年2月のカザフスタンの減産規模も1月のそれに比べ日量1万バレル、3月のそれも2月に比べさらに同1万バレル、それぞれ緩和する旨決定した。
さらに、別途サウジアラビアは2021年2~3月につき単独で日量100万バレル自主的に追加減産を実施する旨表明した(この表明は他のOPECプラス産油国への事前相談なしに行われたとされる)。
最近では石油市場参加者の心理が改善するとともに原油価格も上昇しているものの、新型コロナウイルス感染拡大により、より厳しい封鎖措置の実施と不透明感の増大で、2021年もより脆弱な経済成長の回復が予想される旨、OPECプラス産油国閣僚級会合で指摘されるとともに、石油需要と製油所の精製利幅が低迷したままであり、石油在庫余剰も高水準である等警戒が必要であることが当該会合で強調された。
また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できなかったOPECプラス減産参加産油国は、減産遵守未達成部分に関する追加減産計画を1月15日までにOPEC事務局に提出するよう要請された。
さらに、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を3月4日に開催する他、次回のOPECプラス産油国閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタン)を2月3日に、次々回のJMMCを3月3日に、それぞれ開催することを当該会合で決定した。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2020年12月3日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、同年12月末までの日量770万バレルの減産措置を2021年1月については同50万バレル縮小し同720万バレルとすることで合意した。加えて、2021年1月以降は毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催しその都度石油市場の状況を検討するとともに、翌月以降の減産措置につき調整するものの、その調整量は日量50万バレルを超過しないものとした。2月以降の減産措置の調整量最大日量50万バレルは減産措置を最大日量50万バレル縮小するのみならず最大50万バレル拡大することも含まれる旨12月3日にロシアのノバク副首相が示唆していたが、同日ノバク副首相は特段の緊急事態が発生しなければ、2021年4月までには累計で日量200万バレル増産する可能性が高いとも明らかにしていた。
他方、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の2020年12月2日の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり45.28ドルであったが、12月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で事実上日量50万バレルの増産が決定されたにもかかわらず、同日の原油価格の終値は1バレル当たり45.64ドルと、前日終値比で0.36ドル上昇するなど、当該価格は堅調に推移した。これは2020年4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された、2021年1月から2022年4月30日にかけての減産規模を日量580万バレルと、2020年12月までの同770万バレルから同190万バレル減産規模を縮小するとの方針が、少なくとも2021年1月については同50万バレルの減産規模の縮小にとどめる旨の方針に事実上変更されたことから、石油需給緩和感が市場で後退したことによるものであるとの指摘もある。
加えて、12月11日には米国食品医薬局(FDA)が同国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックとともに開発中であった新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可申請(11月20日に提出されていた)につき緊急使用を許可する旨決定、12月14日には米国内で当該ワクチンの接種が開始された。また、それに先立つ12月8日には英国で新型コロナウイルスワクチン接種が開始された他、複数の国及び地域で新型コロナウイルスワクチンの使用が許可されつつあった。さらに、米国では追加経済対策法案に関するトランプ政権及び議会共和党及び民主党議員間での協議が進みつつあった等により12月18日の原油価格はWTIの終値で1バレル当たり49.10ドルと、新型コロナウイルス感染拡大前である2020年2月25日(この時は同49.90ドル)以来の高水準に到達した(図1参照)。
このように、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降原油価格は上昇基調となったが、その過程においては、最終的な世界経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で十分強いが故に、従来であれば原油価格を相当程度下落させかねいないような材料が出現しても、石油市場関係者心理はそのような材料を軽視する結果、原油相場の下落幅が限定されるか、そのような要因が事実上無視されることにより、原油相場が上昇し続けるといった場面が見られた。
例えば、12月9日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(12月4日の週分)では、原油在庫が前週比で1,519万バレルの増加と2020年4月10日の週(この時は前週比で1,925万バレルの増加)以来(かつ史上2番目)の大幅な増加となった他、市場の事前予想(同104~140万バレル程度の減少)に反し増加していたことに加え、ガソリン及び留出油在庫がそれぞれ前週比で422万バレル、522万バレルの増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同200~230万バレル程度、留出油在庫同90~140万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加していた旨判明したにもかかわらず、この日の原油価格の終値は1バレル当たり45.52ドルと前日終値比で0.08ドルの下落にとどまった。
また、12月17日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月12日の週分)が88.5万件と前週比で2.3万件増加したうえ市場の事前予想(80.0~81.8万件)を上回ったことから、本来このような要因は米国経済減速を示唆していることにより石油需要を抑制する方向で作用する結果、米国株式相場に下方圧力を加えるとともに原油価格が下落するはずのところ、この日は当該経済指標類の発表により、かえって米国議会による追加経済対策に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場とともに原油価格は上昇した。
一方、12月には、世界の一部諸国及び地域では新型コロナウイルス感染は拡大しており、米国のニューヨークでは12月14日に飲食店での店内飲食サービス提供が停止したことに加え、同国の新型コロナウイルス感染者数が2021年1月2日時点で1日当たり291,384人と史上最高水準に到達したと伝えられた。また、新型コロナウイルス変異種(従来よりも感染力が強いとされる)による感染が急拡大している恐れがあるとして12月16日より英国ロンドン及びイングランド南東部の一部に対し最も厳格な規制を実施する旨12月14日に同国のハンコック保健相が明らかにした他、12月16日にはドイツでより厳格な都市封鎖(期限は1月10日であった)が実施された。さらに、変異した新型コロナウイルスによる感染が制御困難な程拡大しているとして、ロンドン及びイングランド南東部に発令されている都市封鎖措置を新型コロナウイルスワクチンの接種普及拡大まで継続する旨12月20日に英国のハンコック保健相が示唆するとともに、世界各国及び地域で英国への渡航禁止措置が実施されつつある旨12月21日に報じられた。2021年1月4日には英国のジョンソン首相が変異種による新型コロナウイルス感染拡大に対応すべくイングランド全体に対し1月15日から少なくとも2月15日にかけ全面的に都市封鎖を実施する旨発表したうえ、ドイツでも、新型コロナウイルス感染者抑制のための全国的な封鎖措置を当初終了予定であった1月10日を超えて実施し続ける旨1月3日に報じられた。
しかしながら、変異した新型コロナウイルスに対してワクチンが有効でないという証拠は見られない旨の専門家が認識していると12月22日に伝えられる他、ビオンテックのサヒン最高経営責任者(CEO)がワクチンは変異した新型コロナウイルスにも有効である(但し、実際に当該ワクチンが有効かどうかを確認するには2週間程度必要である旨同時に明らかにしている)とともに、仮に変異した新型コロナウイルスに対しワクチンが有効でない旨判明した(南アフリカで発見された新型コロナウイルスの変異種は開発済のワクチンが有効であるか確信が持てない旨1月4日に英国のハンコック保健相が明らかにしている)としても、変異した新型コロナウイルスに対応するワクチンの開発は技術的には6週間程度で可能である旨の見解を12月22日に披露した。
このようなこともあり、新型コロナウイルス感染拡大による経済及び石油需要に対する負の影響は短期的なものであり、数ヶ月程度後には多くの国及び地域で新型コロナウイルスワクチンの接種普及が拡大するとともに新型コロナウイルス感染が収束、経済成長が回復する方向に向かい石油需要の伸びが加速、その結果石油需給が引き締まるとのシナリオが市場でより明確に描けるようになってきていた。
また、12月21日夜(米国東部時間)に米国議会上院及び下院で可決された新型コロナウイルスのための8,920億ドル規模の追加経済対策法案に対し、12月28日にトランプ大統領が署名したこともあり、米国経済成長の持ち直しと石油需要の伸びの回復、及び石油需給の引き締まり感が市場で一層強まったこともあり、1月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の原油先物市場取引日であった12月31日の原油価格の終値も1バレル当たり48.52ドルと12月18日に到達した直近での高水準の終値からそう下落していない水準を維持した。
このような中で、1月3日にはOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)が開催されたが、その場においてOPECのバルキンド事務局長は、2021年前半の石油市場展望は非常にまちまちであり、依然として乗り切らなければならない下振れリスクがある他、2021年後半の世界経済は強力に反発する可能性があるが、個人の往来、観光、余暇及び歓待が新型コロナウイルス感染拡大前に戻るには数年を要する可能性があり、OPECプラス産油国による今後数ヶ月間の合計日量200万バレル程度の漸進的増産については石油市場の状況によっては調整する用意がある旨示唆した他、当該委員会では大半の専門家が2月における日量50万バレルの減産措置緩和に反対している旨明らかになった。
加えて、1月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、石油需要は脆弱であり変異した新型コロナウイルスを巡る動向が予想不可能であるとして、OPECプラス産油国は、全般的な市場環境における楽観的な見方にも関わらず、警戒すべきであるとともに先制的に対応すべきである旨発言しており、この時点でサウジアラビアは1月に実施された日量720万バレルのOPECプラス産油国の減産措置を2月も据え置くことを支持していた旨示唆されるが、同時に下振れリスクを抱える石油需要と原油価格に対し先制的に対応すべく自国の日量100万バレルの自主的な追加減産を検討していた可能性がある。
また、同会合においてアルジェリア、ナイジェリア、イラク、オマーン、クウェート及びUAEは1月の減産規模を2月も据え置くことに同意したと報じられる一方で、アゼルバイジャンは減産措置については中立的な立場である旨明らかにしたと1月4日に伝えられるなど、大半のOPECプラス産油国は減産規模の据え置きに事実上賛同している旨示唆された。
他方、前回OPECプラス産油国閣僚級会合開催の際には、UAE、イラク及びナイジェリア等一部OPECプラス産油国は減産措置に不満を持っていたとされた。
UAEはOPECプラス産油国の減産措置における減産目標の配分が「不公平」であるという意識を持っていた(サウジアラビアの原油生産目標が日量899万バレル程度と原油生産能力(同1,200万バレル程度と推定される)の約75%と見られる一方、UAEは原油生産目標が同251万バレル程度と原油生産能力(同353万バレル程度と推定される)の約71%と見られるなど、原油生産能力を基準とするとUAEの方が減産率が高いことを指していると見る向きもある)とされる他、同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに対する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識しているが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討している(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨11月17日に伝えられており、可能な状況であれば同国は増産を希望していることが示唆された。
また、イラクのアラウィ財務相兼副首相はOPECプラス産油国全体に画一的に減産措置を要請するのではなく、各産油国の1人当たり所得及び政府基金の状況(イラクは双方とも低水準)を含む政治経済状態を考慮すべきである旨主張した(ただ、同氏は自身の意見は同国石油省を代表しているものではない旨付言している)と11月25日に報じられる。
ナイジェリアのブバリ大統領は、多くの人口と巨大なインフラ負債を抱える(そして同国国内総生産(GDP)は2四半期連続で減少している)同国の状況をOPECは考慮すべきである旨11月26日遅く(現地時間)に明らかにした。さらに、従来からナイジェリアはOPECが原油生産として見做してきた同国産アグバミ(Agbami)原油(API比重48.28度、硫黄含有分0.04%、原油生産量は日量12.6~15.7万バレル程度とされる)はコンデンセートであると主張(OPECはAPI比重45~55度の液体炭化水素をコンデンセートと定義している旨ナイジェリアのシルバ(Sylva)石油資源担当国務相が明らかにしたと8月12日に報じられる)、このコンデンセート相当分を自国の原油生産目標から除外するべきである旨示唆している(ただ、アルジェリアのアタル(Attar)エネルギー相はナイジェリアに対し減産目標の変更は他の産油国からも同様の要望を発生させることによりOPECプラス産油国減産体制の崩壊を招く可能性がある旨警告したと11月17日に伝えられる)。
ただ、前回(12月3日)のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際には、新型コロナウイルスワクチン開発の進展、使用許可の承認及び普及の拡大による世界経済成長の持ち直しと石油需要の伸びの回復及び石油需給引き締まり期待が市場で増大するとともに原油相場に上方圧力が加わりつつある中で開催されたこともあり、一部OPECプラス産油国から事実上の減産措置緩和要求が示される場面が見られたが、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合は、新型コロナウイルスの変異種等による感染拡大により短期的であれ世界経済成長が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化、そして石油需給が緩和する恐れがある中で開催されたこともあり、それら産油国からの減産措置緩和要求は概ね抑制されたものと見られる。
そして、短期的な世界経済成長及び石油需要の伸びの下振れと石油需給の緩和といったリスクを内包する中での減産措置縮小の決定は、OPECプラス産油国が継続的に世界石油需給緩和を許容する姿勢を示していると市場で受け取られることにより、原油相場に恒常的に下方圧力が加わりやすくなる(現在の原油価格の上昇が足元の石油需給状態を反映しているわけではなく将来の需給引き締まり期待で浮揚している側面があることから、一旦市場心理が冷え込んだ場合OPECプラス産油国の緊急減産措置等を講じたとしても原油価格の下落が抑制されにくくなる可能性がある)事態を招く恐れがあったことから、そのような事態をOPECプラス産油国の大半は回避しようとしたものと考えられる。
しかしながら、ロシアは、世界石油需要は回復しつつあるとともに新型コロナウイルスワクチン接種が開始されることで感染が収束することにより石油需要はさらに増加する方向に向かうとして、OPECプラス産油国全体で日量50万バレルの減産措置緩和を主張、カザフスタンも同調した。
既存の減産措置を維持することはOPECプラス産油国が石油需給を引き締めるとともに原油価格を浮揚させようとする断固たる姿勢を示していると市場で認識されることにより、かえって原油価格がさらに相当程度上昇するとともに米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほど世界石油需給が緩和することにより原油価格が乱高下することに加え、産油国であるロシアの通貨ルーブルが上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けることを、ロシアは従来から懸念していた。
実際、12月21日にロシアのノバク副首相は世界石油需要の回復は予想よりも緩慢であり、新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻るまでには2~3年を要するかもしれない旨発言した一方で、原油価格は1バレル当たり45~55ドルの最適範囲に位置していることから、2月に日量50万バレルのさらなる減産措置の緩和を支持する旨同副首相は12月25日に明らかにしているなどしており、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合でのロシアの主張はそのような考え方に沿ったものであるものと見受けられる。
ロシア(及びカザフスタン)と他のOPECプラス産油国との間で議論は平行線を辿った結果、1月4日の当該会合では結論は出ずじまいとなり、改めて1月5日に減産方針につき再協議することになった。
そして、1月5日の再協議の結果、ロシアとカザフスタンについては厳冬による国内石油需要の増加に伴い2~3月の減産措置の緩和(つまり事実上の増産)を認める(なお、減産措置緩和量はOPECプラス産油国全体で日量50万バレルの減産措置緩和を実施した場合のロシア及びカザフスタンへの割当減産緩和相当量の約半分の水準となっている)ものの、他のOPECプラス産油国については2~3月の減産措置を1月の規模で据え置きとすることとするとした。
ただ、北半球の冬場の暖房シーズンの終了が視野に入り始めることにより一部諸国及び地域の製油所が春場のメンテナンス作業を実施することに伴い原油の購入が不活発化することに加え、変異種を含む新型コロナウイルス感染拡大による石油需要の下振れによる石油需給の緩和と原油相場への下方圧力増大の可能性を懸念するサウジアラビアは、そのような事態発生の可能性に対し先制的に行動することで、石油需給バランス及び原油価格の維持を図る必要性を感じていたものの、石油需要が増加過程にあるとしてロシア(及びカザフスタン)が減産措置の緩和を要求した他、UAE、イラク及びナイジェリア等むしろできれば増産を希望する旨示唆する産油国もあったこともあり、同国は日量100万バレルの単独での自主的な追加減産を2~3月に実施する旨決意したものと考えられる。
(3) 原油価格の動き等
前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際の12月3日にノバク副首相は特段の緊急事態が発生しなければ、2021年4月までには累計で日量200万バレル増産する可能性が高いと明らかにしていたことに加え、前回会合以降原油価格が概ね上昇基調であったこともあり、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合では日量50万バレルの減産規模の縮小決定の可能性が予め市場参加者の心理に織り込まれる格好となっていた。
しかしながら、実際にはロシアとカザフスタンについては減産措置が緩和されたものの、他の全てのOPECプラス産油国については1月の減産規模が2~3月にも引き継がれる他、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したことにより、市場の事前予想よりも世界石油需給が引き締まる方向に向かう旨示唆されたこともあり、会合開催直後の1月5日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.31ドル上昇し49.93ドルの終値と、2020年2月24日(この時は同51.43ドル)以来の高水準の終値となった他、一時は同50.20ドルに到達する場面も見られた。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2020年10月の米国ガソリン需要(確定値)は日量826万バレル、前年同月比で11.3%程度の減少となり(図2参照)、速報値(前年同月比で9.0%程度減少の日量847万バレル)から下方修正された。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量68万バレル程度と推定されるところ確定値では同82万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。10月の同国自動車運転距離数(月間値)は前年同月比で8.8%の減少と9月(同8.8%の減少)と同水準の減少率であるが、9月の同国の1日当たり新型コロナ新規感染者数は2~5万人台で推移していた一方、10月1日時点では同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が推定46,418人であったものが10月31日には同84,285人へと増加した他、10月30日には同99,784人と当時としては過去最高水準に到達するなどした(そして11月に入ってもその傾向は変わらなかった)こともあり、10月末から11月(そして12月)にかけ同国週間自動車運転距離数の前年同期比での減少幅は拡大する様相を呈した(10月の同国週間自動車運転距離数は前年同期比で7~10%程度の減少であったが、11月は同10~14%程度の減少であった)ところからすると、新型コロナウイルス感染者数拡大傾向を見据えて既に10月の時点でガソリン購入が手控えられ始めており、それが同月の同国ガソリン需要に反映されたものと考えられる。また、同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は11月30日には推定167,760人であったが12月31日には同231,045人と当時としては史上最高水準に到達したこともあり、個人の外出が一層敬遠されるとともに12月の米国の週間自動車運転距離数の前年同月比での減少幅が11月に比べさらに拡大した(12月は前年同期比で12~14%程度の減少となった)ことから、2020年12月の同国のガソリン需要(速報値)は推定日量787万バレル、前年同月比で12.3%程度の減少と11月の同国ガソリン需要(速報値)の前年同月比同11.4%程度の減少から減少幅が拡大している。他方、装置の不具合発生もあり12月上旬から2021年1月上旬にかけ米国製油所では原油精製処理量とともにガソリン生産量がもたつき気味となったものと見られる(図3参照、またガソリン最終製品の生産は図4参照)ものの、ガソリン需要が低迷した結果、12月上旬から1月上旬にかけ米国のガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図5参照)。
2020年10月の同国の留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量402万バレルと前年同月比で4.8%程度の減少となり、9月の同2.6%程度の減少から減少幅が拡大したものの、速報値である日量395万バレル(同6.6%程度の減少)からは上方修正された(図6参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量111万バレル程度と推定されるところ、確定値では同108万バレル程度へと下方修正されたことで、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となっているものと見られる。10月の同国鉱工業生産は前年同月比で5.0%の減少と9月の同6.3%の減少から減少幅が縮小している他、物流活動が前年同月比で3.6%の減少と減少幅が9月のそれ(同4.4%の減少)から低下しているものの、8月の1日当たり新型コロナウイルス感染者数が7月に比べて減少傾向となったにもかかわらず8月の留出油需要が前年同月比で9.1%程度の減少と7月のそれ(同7.7%程度の減少)から減少率が拡大した反動で、9月の留出油需要が前年同月比で2.6%程度の減少へと減少率が相当程度縮小したこともあり、10月は9月の留出油需要減少率縮小に対する再度の反動が発生した格好となったと見られることが、10月の留出油需要の減少幅に反映されているものと思われる。また、2020年12月の留出油需要(速報値)は推定日量366万バレルと前年同月比で6.7%程度の減少となっており、11月の当該需要(速報値)の同397万バレル(同5.5%程度の減少)から減少率が拡大している。12月の同国非農業部門雇用者数は前月比で14万人の減少と2020年4月(この時は同2,079万人の減少)以来の減少となった一方で、12月の米国鉱工業生産は前年同月比で3.6%の減少と11月の同5.4%の減少から減少幅が縮小するなど、この面では同国留出油需要への影響がまちまちなものとなったことが示唆される。ただ、12月は米国北東部の気温が前年同月に比べ若干ながら温暖であったと見られることにより暖房向け留出油需要が抑制されたと思われることが、留出油需要の前年同月比での減少に影響したものと考えられる。このように米国留出油需要が軟調であったことから、製油所での原油精製活動が必ずしも活発ではなかったこともあり留出油生産が低迷した(図7参照)ものの、12月上旬から1月上旬にかけ米国の留出油在庫は増加傾向となり平年幅上限を超過する水準に到達している(図8参照)。
2020年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で10.1%程度減少の日量1,862万バレルとなった(図9参照)。ガソリン、ジェット燃料及び留出油を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を割り込んだことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。また、ガソリン及びその他石油製品需要等の確定値が速報値から下方修正されたこともあり、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,896万バレル、前年同月比8.5%程度の減少)から下方修正されている。また、2020年12月の米国石油需要(速報値)は推定日量1,873万バレルと前年同月比で8.4%程度の減少となった。ガソリン、ジェット燃料及び留出油等の石油製品の需要が堅調でなかったこともあり、11月の同国石油需要(速報値)の前年同月比7.5%減少よりも減少幅が拡大している。また、12月のその他の石油製品の需要は推定日量423万バレルと前年同月比で同26万バレルの増加となっているが、過去の実績(2019年11月~2020年10月の1年間(確定値)で日量349~418万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。他方、12月上旬から1月上旬にかけては、米国での原油生産量及び製油所での原油精製処理量は概ね限られた範囲で推移したものの、原油輸入量が減少した反面、原油輸出量が増加したことにより、同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図10参照)。原油在庫の減少については、米国のテキサス州やルイジアナ州で年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等が必要以上の陸上在庫保有を敬遠すべく、原油輸入を減速させるとともに原油輸出を促進させたことに伴うものであると指摘する向きもある。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2020年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国で減少した他、日本でも秋場のメンテナンス作業実施シーズンが終了を迎えるとともに製油所での原油精製処理活動が相対的に活発化したこともあり在庫は減少した。また、10月以降新型コロナウイルス感染者数が増加傾向となったこともあり欧州の一部諸国及び地域で個人の外出規制及び経済活動制限が強化されたことに伴い石油需要の伸びが鈍化したと見られることに加え、米国でも11月以降新型コロナウイルス感染者数が増加傾向となったこともあり個人の外出が敬遠されたことにより乗用車向けガソリン需要が抑制されるとともに欧州の米国向けガソリン輸出に影響を及ぼしたことが一因となり、欧州における製油所の精製利幅確保が困難となり始めた。このため、当該地域製油所は原油精製処理活動を減速する(12月の当該地域製油所の原油精製処理量は前月比で6%超減少したと伝えられる)とともに、原料となる原油の購入が削減された結果、原油在庫は若干ながら減少した。このため、OECD諸国全体としても原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、日本では冬場の暖房シーズン到来に伴う灯油需要期に突入したことによる当該製品在庫減少が製油所での稼働上昇に伴う石油製品生産活動活発化(及び新型コロナウイルス感染再拡大による外出自粛や経済活動制限に伴う需要の抑制)による他の石油製品在庫増加を相殺した余りあったことから、同国の石油製品全体の在庫は減少した。米国でも、装置不具合発生等で製油所の稼働がもたつき気味になる一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入したことにより12月末時点でプロパン/プロピレン在庫が前月末比で減少を示した(プロパン/プロピレンは暖房用として米国で幅広く利用されるが、米国全体は北東部に比べ12月の冷え込みが相対的に強かったと見られることから、この面で当該製品の在庫を押し下げた側面があるものと考えられる)ことに加え、冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることによりブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫も減少した。また、欧州では製油所の稼働が相当程度低下した一方で冬場の暖房シーズン突入に伴い暖房向け石油製品(欧州の場合民生用には主に軽油が利用されている)需要が相対的に堅調となったことにより中間留分を中心として石油製品全体の在庫が減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図15参照)。なお、2020年12月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は69.9日と11月末の推定在庫日数(71.4日)から減少している。
12月9日に1,200万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、12月16日には1,200万バレル台後半程度、12月23日には1,300万バレル台半ば程度、12月30日には1,400万バレル弱程度の量へと増加した。また、1月6日は1,400万バレル弱程度の水準と前週比で横這いとなったが、1月13日には1,500万バレル台半ば程度の量へと増加した結果、12月9日の水準を相当程度上回る状態となっている。2020年10月中旬以降米国で新型コロナウイルス感染者数が増加傾向を示したこともあり個人の外出が敬遠されたことで同国での乗用車の利用に伴うガソリン需要が低迷するとともに同国のガソリン在庫が増加傾向となったことが欧州から米国へのガソリン輸出に負の影響を及ぼしたうえ、欧州でも2020年後半に新型コロナウイルス感染が拡大したことで個人の外出とともに乗用車の利用が抑制されたことにより当該地域でのガソリン需要が低迷したことから当該地域でのガソリン在庫が増加するなど、総じて大西洋圏でのガソリン需給が緩和状態であったこともあり、大西洋圏に向かう代わりに中東方面からシンガポールにガソリンが流入した他、中国での高水準の精製活動(2020年前半の原油価格の大幅下落時に大量に調達された安価な原油を処理しているものと見られる)により製油所で生産されたガソリンがシンガポールに流入したことが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。このように、シンガポールでの軽質留分在庫が増加していることもありガソリン需給緩和感が感じられていることがアジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加える一方で新型コロナウイルスワクチンの普及拡大に伴うアジア諸国における個人の外出及び乗用車の利用の活発化によるガソリン需要回復及び当該製品需給引き締まり期待がガソリン価格を下支えした結果、12月中のアジア市場でのガソリン価格は概ねドバイ原油価格と同水準近辺で推移していた。しかしながら、1月以降アジア諸国の一部製油所でメンテナンス作業実施開始により稼働が低下する結果ガソリン需給が相対的に引き締まるとの観測が発生したことがアジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えた結果1月に入りアジア市場のガソリン価格はドバイ原油のそれを上回るとともに、その幅を拡大する傾向が見られた。
他方、12月7日には、韓国ロッテケミカルの大山(デサン)工場のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産110万トン)の操業が12月7日に再開した(2020年3月4日未明に当該ナフサ分解装置で爆発及び火災事故が発生した後同装置は稼働を停止していた)。また、11月6日午前0時前後に韓国LG化学の麗水(ヨス)石油化学工場中央制御室で火災が発生した結果同工場のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産116万トン)が操業を停止したが同装置は1月16日に操業を再開する予定である旨1月7日に報じられた(但し1月13日には操業再開を1月18日に延期する旨伝えられる)。さらに、韓国の麗川(ヨチュン)NCC(Yeochun NCC)の麗水にある第二工場のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産58万トン)(2020年10月20日にメンテナンス作業実施により操業を停止、12月半ばまでに操業を再開する予定であったが、労働問題の発生により遅延していた)も1月14日には操業を再開する予定である旨12月28日に報じられた(但し1月12日には操業再開を1月17日に延期する旨伝えられている)。これらを含めアジア一部諸国で停止しているナフサ分解装置が操業を再開する結果ナフサの需要が増加するとの観測が市場で発生したことに加え、パナマ運河周辺におけるナフサ積載船舶の渋滞(濃霧の発生に加え、北半球の厳冬予想(9月10日に米国海洋大気庁気象予報センターが足元でラニーニャ現象が発生していることから2020~21年は北半球で厳冬になる可能性が高い旨の見解を明らかにしていた)によるLNG積載船舶の運河への集中、そして新型コロナウイルス感染拡大による安全対策の強化に伴う人的資源減少等による当該運河通過手続きの長時間化等が影響しているとされる)により大西洋圏からアジア太平洋地域へのナフサ供給に支障が発生したこと、石油化学部門でナフサと競合する液化石油ガス(LPG)が冬場の気温低下による暖房向け需要の増加(及びナフサと同様にLPG積載船舶のパナマ運河周辺での渋滞)により価格が上昇、相対的に安価であるナフサの石油化学部門向け需要が旺盛になるとの見方が市場で強まったこと、1月4~5日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後サウジアラビアが2~3月において日量100万バレルの追加自主減産を実施する旨表明したことにより、同国からアジア方面へのナフサの輸出が減少するとの懸念が市場で発生したこと、中国の春節(旧正月)(2021年は2月11~17日)に向けプラスチック製品需要が盛り上がることに伴いナフサ需要が堅調になるとの見方が市場で発生したこと等が、アジア市場でのナフサ価格に上方圧力を加えた結果、12月中旬にはドバイ原油価格を下回っていたナフサ価格はドバイ原油価格を下回る幅を縮小したうえで、12月下旬以降は概ねドバイ原油価格を上回る状況となっている。
12月9日には1,500万バレル強程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、12月16日には1,500万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、12月23日には再び1,500万バレル強程度の水準へと低下した。また、12月30日には1,500万バレル台前半程度の量へと回復したものの、1月6日には1,400万バレル台半ば程度の水準へと低下した。そして1月13日も1,400万バレル台半ば程度の量と前週比でほぼ同水準となるなど、12月9日の量を下回る状態となっている。中国及びインドで新型コロナウイルス感染が沈静化したことに加え、インドでは、モンスーン(雨季)(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化すること等により、物流や製造業での軽油の利用が鈍化する)が終了したこともあり、中国及びインドの経済活動の回復に伴う物流や産業部門での軽油需要の相対的な増加等により、これら諸国からの軽油輸出が抑制されたことがシンガポールでの中間留分在庫変動に反映されているものと考えられる。そのような中で、新型コロナウイルスワクチンの普及拡大による経済成長の加速に伴う物流及び産業活動の活発化による軽油需要の伸びの回復に対する期待がアジア市場での軽油価格を支持する格好で作用したものの、足元の一部諸国での新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界経済成長の減速と物流及び産業部門での軽油需要の伸びの鈍化に対する懸念が軽油価格の上昇を抑制した結果、アジア市場での軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は比較的限られた範囲内で推移した。
12月9日に2,200万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、12月16日には2,200万バレル台後半程度の量へと増加した。12月23日には2,000万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、12月30日は2,200万バレル弱程度、そして1月6日には2,200万バレル台半ば程度の量へと増加した。そして、1月13日には2,200万バレル台前半程度の水準へと若干減少しており、結果的に12月9日と同等の量となっている。アジア諸国の製油所が秋場のメンテナンス作業実施を終了し稼働を上昇させたことにより石油製品生産活動が持ち直したこともあり生産された重油がシンガポールに向けて輸出されたことに加え、欧州方面からも重油が流入したことがシンガポールでの重油在庫を下支えしたものと見られる(2020年8月7日以降米国ではガソリン在庫が継続的に減少した結果、同年4月17日には2.63億バレルと1990年初以降の同国週間統計史上最高水準に到達していた当該在庫は9月初旬にはほぼ過去5年平均近辺にまで減少したことから、ガソリン需給引き締まり感が米国市場で発生した結果、米国のガソリン価格が欧州のそれに比べて割高になったことが刺激となりガソリンを米国に輸出すべく欧州での製油所の稼働が維持されたことによりガソリン等の製造と併せて生産された重油の在庫が欧州で増加、その結果域内での重油価格に下方圧力を加えるとともに相対的に重油価格が割高であるシンガポールに向け重油の輸出が活発化したものと見られる)。他方、中国やインドにおいて新型コロナウイルス感染が沈静化するとともに経済活動が回復しつつあったこともあり物流のための船舶向け低硫黄及び高硫黄重油需要が堅調になったことが、シンガポールでの重油在庫の増加を抑制する形で作用したものと考えられる。そして、シンガポール重油在庫に明確な増加もしくは減少傾向が創出されなかったこともあり、この面ではアジア市場での重油価格は上方圧力及び下方圧力に挟まれる格好となったことから、12月中旬から1月中旬にかけてのアジア市場での高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合当該重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は比較的限られた範囲で変動した。ただ、アジア市場での船舶向け需要が堅調であったことに加え、12月下旬から1月前半にかけ北東アジア諸国で気温が大幅に低下したことが一因となりLNG価格が大幅に上昇した結果、発電部門でLNGと競合する重油の価格が相対的に割安となったこともあり、北東アジア諸国で低硫黄重油の需要が増加するとの観測が市場で増大したことが当該重油価格に上方圧力を加えたことにより、低硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合当該重油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向を示した。
3. 2020年12月中旬から2021年1月中旬にかけての原油市場等の状況
2020年12月中旬から2021年1月中旬にかけての原油市場では、12月18日にファイザー及びビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可を米国食品医薬局(FDA)が承認したことにより、同国の個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されるとともに同国経済成長が加速、石油需要の伸びが回復するとの楽観的な見方が市場で広がったことに加え、12月21日に米国議会上下院で可決された追加経済対策法案に対し12月28日にトランプ大統領が署名したこと、1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合後サウジアラビアが2~3月につき日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したことで世界石油需給引き締まり観測が市場で強まったこと等により、原油相場に上方圧力が加わった結果、12月11日にはWTI終値で1バレル当たり46.57ドルであった原油価格は上昇基調となり、1月6日には50.63ドルと2020年2月24日以来の50ドル超での終値となった他、1月14日には53.57ドルに到達した(図16参照)。
12月14日午前0時40分(現地時間)に、サウジアラビア西部のジェッダ港でシンガポール船籍の石油タンカー(シンガポール海運会社ハフニア(Hafnia)が運航)が陸揚げ作業に伴う停泊中に爆発物を積載した小型船舶により攻撃され爆発とともに火災が発生(間もなく鎮火)したことにより中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、ファイザー及びビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチン接種が12月14日に米国で開始されたことにより同国経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、12月14日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.42ドル上昇し、終値は46.99ドルとなった。また12月15日も、12月16日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である米国石油統計(12月11日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、11月の中国原油精製処理量が5,835万トン(推定日量1,424万バレル)と日量としては史上最高水準に到達した旨12月15日に同国国家統計局が発表したことで石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、米国議会上院のマコネル院内総務と議会下院のマッカーシー院内総務(ともに共和党)が同国追加経済対策につきクリスマスの休暇前に合意に到達すべきである旨12月15日に表明したことで追加経済対策合意による同国経済成長の加速と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したこと、米国バイオ医薬品製造大手モデルナが開発中の新型コロナウイルスワクチンにつき、安全かつ有効である旨の報告書が米国食品医薬局(FDA)内部でなされるとともに、12月17日にもFDA諮問委員会が開催され緊急使用許可を支持するかどうかにつき議論、12月18日にもFDAが緊急使用許可を承認する方向である旨12月15日に報じられたことで、新型コロナウイルスワクチン接種のさらなる普及拡大に伴う米国等世界経済成長の加速と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、この日(12月15日)の原油価格の終値は1バレル当たり47.62ドルと前日終値比で0.63ドル上昇した。12月16日も、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で314万バレルの減少と市場の事前予想(同190~220万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、8,920億ドル程度の米国追加経済対策案につき米国議会幹部が合意に接近しつつある旨この日報じられたことで、同国経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は47.82ドルとなった。また、12月17日も、米国議会下院のペロシ議長(民主党)が同国追加経済対策に関する協議につき進展があった旨明らかにしたとこの日報じられたうえ、当該対策に関する議会での合意が間近に迫っているようだとの見解を同国議会上院のマコネル院内総務が明らかにした旨同日伝えられたことで、同国経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことに加え、12月17日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月12日の週分)が88.5万件と前週比で2.3万件増加したうえ市場の事前予想(80.0~81.8万件)を上回ったことにより米国議会の追加経済対策決定に対する期待が市場で増大したこともあり米国株式相場が上昇したこと、欧州委員会(EC)のフォンデアライエン委員長が12月27~29日に欧州連合(EU)加盟国で新型コロナウイルスワクチン接種を開始する旨12月17日に表明したことで、欧州経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したこと、英国のEU離脱に伴う自由貿易協定が12月18日までに合意する可能性がある旨EUのバルニエ首席交渉官が明らかにしたと12月17日に伝えられたことで、ユーロ及び英ポンドが上昇したことに加え、米国株式相場が上昇したことにより投資家のリスク許容度が拡大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日(12月17日)の原油価格の終値は1バレル当たり48.36ドルと前日終値比で0.54ドル上昇した。12月18日も、米国の追加経済対策に関する同国議会での合意が間近に迫っているようだとの見解を同国議会上院のマコネル院内総務が明らかにした旨12月17日に報じられたことで当該対策合意による米国経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、12月18日にファイザー及びビオンテックが日本の厚生労働省に新型コロナウイルスワクチンの製造及び販売承認を申請したことから、世界各国及び地域における新型コロナウイルスワクチンの接種普及が一層広がることにより世界経済成長加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.74ドル上昇、終値は49.10ドルとなり、2020年2月25日(この時は同49.90ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は12月14~18日の5日間で1バレル当たり合計2.53ドル上昇した。
ただ、12月21日には、これまでの原油価格の上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、変異した新型コロナウイルスによる感染が相当程度拡大しているとして、ロンドン及びイングランド南東部に対し12月20日より個人の外出規制及び経済活動制限を大幅に強化する旨12月19日に英国政府が発表したことで、変異した新型コロナウイルス感染拡大による世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したこと、世界石油需要の回復は当初見込みよりも緩慢で2~3年を要する可能性がある旨12月21日にロシアのノバク副首相が示唆したことにより世界石油需給緩和感を市場が意識したこと、英国とEUとの間での自由貿易協定に関する交渉が12月21日も継続される見通しとなったものの依然両当事者間で漁業権及び国家による補助等の面を巡り顕著な意見の相違があり協議が難航している旨12月20日に報じられたことで、通商面での合意なく英国がEUを離脱することに伴う英国及び欧州経済の混乱に対する懸念が市場で増大したことで、ユーロ及び英ポンドが下落する反面米ドルが上昇したことから、この日(12月21日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.36ドル下落し、終値は47.74ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2021年1月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2021年2月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり47.97ドル(前日終値比1.27ドルの下落)であった)。また、12月22日も、変異した新型コロナウイルスによる感染が英国で拡大していることに伴う同国等での個人の外出規制及び経済活動制限の大幅強化による世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだうえ、変異した新型コロナウイルスによる感染が英国で拡大していることに加え英国とEUとの自由貿易協定を巡る交渉が難航していることにより、ユーロ及び英ポンドが下落するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり47.02ドルと、前日終値比で0.72ドル下落した。この結果原油価格は12月21~22日の2日間で1バレル当たり合計2.08ドルの下落となった。12月23日には、この日EIAから発表された米国石油統計(12月18日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で113万バレル、留出油在庫が同233万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(ガソリン在庫同80~120万バレル程度の増加、留出油在庫同90~150万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少していた旨判明したことで、石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、英国とEUとの間で行われていた自由貿易協定を巡る協議に関し、その枠組みにつき両当事者が合意に到達した旨12月23日に伝えられたことにより、ユーロ及び英ポンドが上昇する反面米ドルが下落するとともに、12月23日に米国商務省から発表された11月の同国耐久財受注が前月比で0.9%の増加と市場の事前予想(同0.6%の増加)を上回ったうえ同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月19日の週分)が80.3万件と前週から8.9万件減少した他市場の事前予想(88.0~88.5万件)を下回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり48.12ドルと前日終値比で1.10ドル上昇した。12月24日も、この日実際に英国とEUが自由貿易協定締結で合意に到達した旨発表されたことから、12月31日に英国が通商協定で合意なくEU離脱移行期間を終了することにより英国及び欧州経済が混乱する事態を回避できる見通しとなったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.11ドル上昇し、終値は48.23ドルとなった。この結果原油価格は12月23~24日の2日間で1バレル当たり合計1.21ドル上昇した。なお、12月25日は米国でのクリスマスに伴う休日により米国原油先物市場では取引は実施されなかった。
ただ、原油価格が1バレル当たり45~55ドルの最適範囲に到達しているとして、2021年1月4日に開催が予定される次回OPECプラス産油国閣僚級会合を控え2月にOPECプラス産油国でさらに日量合計50万バレル減産措置を緩和する方針を支持する旨12月25日にロシアのノバク副首相が発言したことで、この先の石油需給引き締まり感が市場で後退したことに加え、新コロナウイルスの変異種による感染症が世界各国及び地域で確認されつつあるとともに、英国への航空便を取り消す動きが続いていることにより、個人の外出規制及び経済活動制限の強化を通じた石油需要の下振れ懸念が市場で増大したことから、12月28日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.61ドル下落し、終値は47.62ドルとなった。しかしながら、12月21日夜(米国東部時間)に米国議会上院及び下院で可決された新型コロナウイルス感染に対する追加経済対策法案及び2021会計年度歳出法案を、12月28日にトランプ大統領が署名したことから、12月29日以降の米国一部政府機関の閉鎖回避による米国経済成長減速懸念が市場で後退したこと、及び追加経済対策実施を通じた同国経済成長の持ち直しに対する期待が市場で増大したことにより、米国等石油需要の伸びの回復に対する市場の期待が拡大した流れが12月29日の市場に引き継がれたことに加え、12月28日夕方(米国東部時間)に、米国議会下院において超党派議員の賛成多数により可決された、個人1人当たり最大で2,000ドルの直接給付実施を内容とする新たな追加経済対策法案につき12月29日に同国議会上院での採決をマコネル院内総務が阻止したものの、引き続き当該問題を検討する旨同氏が表明したことで、新規追加経済対策法案可決に対する期待が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり48.00ドルと前日終値比で0.38ドル上昇した。また、12月30日も、英国大手製薬会社アストラゼネカ及び英国オクスフォード大学が共同で開発中であった新型コロナウイルスワクチンの使用をこの日英国政府が世界で初めて承認したことで、新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大による世界経済成長の加速と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことに加え、12月30日にEIAから発表された米国石油統計(12月25日の週分)で原油在庫が前週比で607万バレルの減少と市場の事前予想(同260~310万バレル程度の減少)を上回って減少していたうえ、ガソリン在庫が同119万バレルの減少と市場の事前予想(同40~170万バレル程度の増加)に反し減少していた旨判明したこと、米国追加経済対策合意及び英国とEUとの間での自由貿易協定締結合意を背景として月末及び年末を控えた持ち高調整が発生したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は48.40ドルとなった。さらに、12月31日も、1月1日の米国新年の休日に伴う原油先物市場取引停止を控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり48.52ドルと前日終値比で0.12ドル上昇した。この結果原油価格は12月29~31日の3日間で1バレル当たり合計0.90ドル上昇した。なお、1月1日は、米国での新年の休日に伴い原油先物市場での取引は実施されなかった。
1月4日には、この日英国のジョンソン首相が変異種による新型コロナウイルス感染拡大に対応すべく、1月15日から少なくとも2月15日にかけイングランドに対し全面的に都市封鎖を実施する旨発表したうえ、ドイツでも2020年12月16日より実施している新型コロナウイルス感染抑制のための全国的な封鎖措置を当初終了予定であった1月10日を超えても実施し続ける旨1月3日に報じられたことにより、同国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、1月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、減産措置参加産油国の大半は1月の減産規模を2月も据え置きとすることに同意したものの、世界石油需要は回復しつつあるとして2月について1月比で日量50万バレル減産措置を緩和するようロシア等が主張したことで、議論が平行線を辿ったことにより協議が決着せず、1月5日に改めて会合を開催することとしたことで、世界石油需給引き締まり期待が市場で後退したことから、1月4日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.90ドル下落し、終値は47.62ドルとなった。しかしながら、1月4日にペルシャ湾において韓国船籍タンカーを拿捕した旨イラン革命防衛隊が発表(海洋環境維持に関する法律に抵触した旨革命防衛隊は主張)したことに加え、同日イラン政府が濃縮度20%のウラン製造を開始した旨発表したことに対し同日イスラエルのネタニヤフ首相がイランの行動を非難したことで、中東情勢不安定化に伴う当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大した流れを1月5日の市場が引き継いだうえ、1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、2~3月の減産措置につき、ロシアとカザフスタンが1月の両国の減産規模から若干縮小することを除き減産規模を据え置きとする旨で合意した他、当該会合終了後サウジアラビアが2~3月において日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したことで、この先の石油需給引き締まり感が市場で増大したことから、1月5日の原油価格の終値は1バレル当たり49.93ドルと前日終値比で2.31ドル上昇した。1月6日も、1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合終了後サウジアラビアが2~3月において日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したことで、この先の石油需給引き締まり感が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが2月のアジア及び米国向け原油販売価格を全ての油種につき引き上げる旨1月6日に報じられたこと、1月6日にEIAから発表された米国石油統計(1月1日の週分)で原油在庫が前週比で801万バレルの減少と市場の事前予想(同210~270万バレルの減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.70ドル上昇し、終値は50.63ドルと、2020年2月24日(この時は同51.43ドル)以来の50ドル超の終値となった。また、米国議会上院議員選挙のジョージア州決選投票で民主党候補2名が当選確実となった旨1月6日夕方(米国東部時間)に明らかになった他、1月7日早朝(同)には米国議会上下院がバイデン前副大統領の大統領選挙勝利を正式に認定したことで、米国大統領及び議会上下院で事実上民主党が主導権を掌握したことにより、今後同国での新型コロナウイルス関連追加経済対策等の政策が安定的に推進されるとの期待が1月7日の市場で増大したうえ、1月7日に米国供給管理協会(ISM)から発表された2020年12月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が57.2と11月の55.9から上昇した他市場の事前予想(54.5~54.6)を上回ったこともあり、米国株式先物相場が上昇したことから、1月7日の原油価格の終値は1バレル当たり50.83ドルと前日終値比で0.20ドル上昇した。さらに、数兆ドル規模の追加経済対策に関する提案を1月14日に発表する予定である旨米国のバイデン次期大統領が1月8日に発表したことにより、米国経済成長の加速に対する期待が市場で増大した結果、同国株式相場が上昇したことから、1月8日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.41ドル上昇し、終値は52.24ドルとなった。この結果原油価格は1月5~8日の4日間で1バレル当たり合計4.62ドル上昇した。
また、1月5日のサウジアラビアによる自主的な追加減産表明により世界石油需給が引き締まると見られることや米国政権及び議会の主導権を民主党が掌握することによるさらなる追加景気刺激のための支出の実施等を背景として、ブレント原油価格が1バレル当たり65ドルに到達する時期の見通しを、これまでの2021年末から2021年7月へと繰り上げる旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが1月11日に示唆したことが、この日(1月11日)の原油相場に上方圧力を加えた反面、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したうえ、中国本土の1日当たり新型コロナウイルス感染者数が1月10日時点で103人と1月9日の69人から増加し2020年7月30日(この時は127人)以来の高水準となったことに伴い1月11日に同国河北省や黒竜江省の一部地域に封鎖措置が講じられた旨1月11日に伝えられたことにより同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したこと、これまでの上昇に対する利益確定の動きが発生したこともあり米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.01ドルの上昇にとどまり、終値は52.25ドルとなった。また、1月13日にEIAから発表される予定である米国石油統計(1月8日の週分)で原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が1月12日の市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.21ドルと前日終値比で0.96ドル上昇した。ただ、1月13日には、これまでの価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月13日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比440万バレル、留出油在庫が同479万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫250~270万バレル程度、留出油在庫200~270万バレル程度の、それぞれ増加)を上回っていた旨判明したこと、ドイツの新型コロナウイルス感染拡大抑制のための封鎖措置は早くても4月上旬までは解除できない旨同国のメルケル首相が示唆したと1月12日に伝えられたうえ、新型コロナウイルス感染が収束する兆候が見られないとしてイタリアが当初1月末に終了する予定であった新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言を4月末まで延長する旨同国のスペランツァ保健相が1月13日に明らかにしたことにより、欧州諸国等における経済成長加速及び石油需要の伸びの回復に対する市場の楽観的な見方が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.30ドル下落し、終値は52.91ドルとなった。また、1月14日には、この日中国税関総署から発表された12月の同国輸出が前年同月比で18.1%、輸入が同6.5%の、それぞれ増加と市場の事前予想(輸出同15.0%、輸入同5.0~5.7%の、それぞれ増加)を上回っている旨判明したことで、同国経済成長及び石油需要の伸びに対する期待が市場で増大したことに加え、米国のバイデン次期大統領が1月14日夜(米国東部時間)に提案する予定である追加経済対策は2兆ドル規模である旨1月13日夜(米国東部時間)に報じられたことで当該追加経済対策実施による同国経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したこと、ナイジェリアでフォルカドス(Forcados)原油を輸送するパイプラインから原油が流出したことにより、フォルカドス原油を出荷するShellのナイジェリア関係会社が当該原油の出荷に関し不可抗力条項適用を宣言した旨1月14日に報じられたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.57ドルと前日終値比で0.66ドル上昇した。しかしながら、1月15日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月14日に中国で確認された1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が144人と2020年3月1日(この時は202人)以来の高水準に到達した旨中国国家衛生健康委員会が1月15日に発表するとともに、中国政府当局が同国春節休暇期間中において不要不急の外出を控えるよう呼びかけた旨1月15日に伝えられたことから、中国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、1月15日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で287基と前回発表時比12基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は269基と同11基増加)している旨判明したこと、これまでの株式相場上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え1月15日に米国商務省から発表された12月の同国小売売上高が前月比で0.7%の減少と市場の事前予想(同横這い)を下回ったこともあり米国株式相場が下落したこと、これまでの下落に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え中国での新型コロナウイルス感染者数増加もあり安全通貨としての米ドルへの需要が高まったこと等により米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.21ドル下落し、終値は52.36ドルとなっている。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面での主な注目点は、イランを含む中東情勢であろう。2020年12月1日には、保守強硬派が過半数を占めるイラン国会が核開発拡大法(ウラン濃縮濃度の20%への引き上げを実施することや5ヶ月以内の金属ウラン製造を開始することなどを含め核開発活動を拡大することに加え、イラン核合意に参加する欧州諸国が2ヶ月以内にイラン金融及び石油部門に対する制裁を緩和しない場合には、イランは国際原子力機関(IAEA)による抜き打ち査察実施を含むIAEA追加議定書(2003年12月18日に署名)の履行を停止すること等が規定されている)を可決した(なお、ロウハニ大統領は反対の意を12月2日に表明していた)が、12月2日にはイランの護憲評議会が当該法案を承認したことにより、同法は発効した。また、12月14日にロウハニ大統領は、米国のイラン核合意復帰に際しイランのミサイル開発計画に関する協議を実施することは困難である旨表明した。さらに、12月16日にはイラン核合意当事国による次官級会議が開催され、その場においてイラン(アラグチ外務次官)は、英国、フランス及びドイツに対しイランからの原油輸出や銀行取引の再開を要求した旨同日伝えられる。1月4日にはペルシャ湾で韓国船籍タンカーを拿捕した旨イラン革命防衛隊が発表した(米国の制裁により凍結されているイラン産原油のための資金凍結解除に向けた圧力の一環との見方もあったがイラン側はそのような見方を否定するとともに韓国側が海洋汚染に関する法律に抵触したことが拿捕の理由である旨革命防衛隊は主張している)。1月10日には、イランにより拿捕された韓国船籍タンカーの解放交渉のため、韓国外務省の崔鍾建第一次官がテヘランでイラン外務省のアラグチ次官と協議を実施したが、その場において韓国によるイラン産原油のための資金の凍結の解除についても交渉されたとされる。
他方、イランが20%の濃縮ウランを製造する(20%の濃縮ウランから兵器に利用可能な90%の濃縮ウランを製造するのは容易であるとされる)方針である(その時点では時期は未定とされた)旨同国がIAEAに通知したと2021年1月1日に報じられる。また、1月4日には、イラン政府が、同国中部フォルドゥにある核開発関連地下施設において濃縮度20%のウランを生産する作業を開始した旨発表したが、同日イスラエルのネタニヤフ首相がイランの行為を非難した他、欧州連合(EU)もイラン核合意存続の観点から相当程度同国の行動は逸脱しているとして強い懸念を表明した(1月6日には英国、フランス及びドイツの外相が同様の強い懸念を表明している)。そして、イランの当該施設において濃縮度20%のウランを1月当たり10キログラム製造することが可能となっている旨1月11日にIAEAのグロッシ事務局長が明らかにしている。さらに、イランは研究用原子炉向け燃料用の金属ウラン(核弾頭製造に利用可能とされる)製造のための研究開発を開始した(2015年7月14日に到達したイラン核合意では15年間金属ウランの製造は禁止されており、金属ウランから派生される燃料についても核合意10年後に他の核合意参加国による合意が得られることを条件として小規模なものが可能になるとの取り決めがなされている)旨1月13日にIAEAが明らかにした(これについても1月16日に英国、フランス及びドイツが共同声明を発表し深い懸念を表明するとともにイランに対し核合意を遵守するよう要求している)。
他方、12月20日にイラクの首都バグダッドにある米国大使館が21発のロケット弾で攻撃されたことにつき、12月23日に米国のトランプ大統領はイランが行ったものと推定されるとの見解を表明するとともに、今後同様な行動により米国人が死亡するようであれば、米国はイランに責任を取らせる旨表明した。また、12月21日には米国海軍原子力潜水艦ジョージア及びミサイル巡洋艦2隻がホルムズ海峡を通過してペルシャ湾に進入した旨同国海軍第五艦隊が発表した。1月3日には米国国防省のミラー長官代行がイランの脅威に対処するため原子力空母ニミッツに対し派遣先のペルシャ湾周辺海域にとどまるよう指示した旨発表した。
12月24日~25にはシリア中部のハマ郊外にある親イラン民兵組織関係の武器貯蔵庫がミサイルで攻撃され(イスラエルによるものと伝えられる)、少なくとも6人が死亡したと12月25日に報じられる。また、1月12日夜から1月13日にかけ同国東部デリゾール郊外等で空爆が行われ、アサド政権軍兵士や政権軍を支援する親イラン民兵組織戦闘員等計57人が死亡した(イスラエルの攻撃である旨1月13日に国営シリア・アラブ通信が伝える)。さらに、1月10日には米国のポンペオ国務長官がイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)を「外国テロ組織」に指定し同勢力への物資供給を禁止するとともに指導者3人を国際テロリストに指名する旨発表している。
このように米国はイランに対し制裁を強めつつあるとともに、イランも核合意に定められた条件を逸脱して核開発活動を拡大しつつあることを含め、中東情勢はさらに複雑化しつつある。今後も1月20日までのトランプ大統領の在任期間中、イランに対しさらなる制裁的行動等を米国が実施すること等による米国とイランの対立先鋭化を含め、イラク、イエメン、サウジアラビア及びイスラエル等中東諸国を巡る情勢が不安定化する可能性に対し市場の懸念が増大するとともに、その影響が原油相場に織り込まれる場面が見られるといったこともありうる。そして、1月20日のバイデン次期大統領の米国大統領正式就任後も、これまでこじれてしまった米国とイランとの外交関係の修復や不安定化した中東情勢の沈静化への努力に時間を要する可能性があることに加え、2021年6月18日に実施される予定であるイラン次期大統領選挙で保守強硬派の候補が大統領に当選した場合には米国の核合意復帰過程が一層混迷化することもありうるなど、今後の展開が紆余曲折を経る可能性がある。もっとも、バイデン政権は、トランプ政権時代のように、イランに対して制裁を強化していく方向ではなく、制裁を緩和していく方向に向かうとの観測が市場では増大すること、また、トランプ大統領が退任することを見越してイランや原油輸入国等が既存の米国制裁措置にもかかわらず自国の原油生産増加やイランとの原油売買契約を含む経済関係等の復活に向け準備を進める結果、比較的早期にイランからの原油供給が増加する等するといった展開もありうる。実際イランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した(2018年5月の日量385万バレル以来イランの原油生産量は減少、2020年10月には同189万バレルとなっていた)旨示唆したと12月6日に伝えられる他、12月12日にはイランのザンギャネ石油相が2021年3月21日に開始されるイランでの次年度中に日量450万バレルの原油及びコンデンセート生産量を目指す旨明らかにしている。コンデンセートをNGLと見做せば、足元の同国でのNGL生産量は日量105万バレルであり、11月時点での原油とコンデンセート(NGL)を併せた生産量は日量301万バレルとなることから、日量450万バレルへの生産の引き上げは実質的に日量150万バレル程度の増産と解釈される。この増産が今後どの程度の期間で実現されるかによって、OPECプラス産油国全体の石油供給量が左右されるとともに、世界石油需給バランスが変化、原油相場が変動するものと考えられる。
経済面では、まず新型コロナウイルス感染及び新型コロナウイルスワクチン及び治療薬の開発を巡る状況が原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。変異した新型コロナウイルスによる感染が制御できないほど拡大しているとしてロンドン及びイングランド南東部に発出されている都市封鎖措置は新型コロナウイルスワクチンの接種普及拡大まで継続する旨12月20日に英国のハンコック保健相が示唆するとともに、世界各国及び地域で英国への渡航禁止措置が実施されつつある旨12月21日に報じられたこと、そしてその後も世界各国及び地域で変異した新型コロナウイルス感染者が判明するなどしており、足元では変異した新型コロナウイルス感染拡大による世界経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大しつつあることが原油相場の上昇を抑制する格好で作用する場面が見られている。これまで英国及び南アフリカで発見された新型コロナウイルスの変異種に対しファイザー及びビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンは実験の結果有効であるようである旨判明したと1月7日に報じられる。ただ、当該実験は規模が限定的であり完全に有効であると断言できるようになるにはなお時間を要すると見られる。また、今後もさらなる新型コロナウイルスの変異種が発見される可能性もある。新型コロナウイルスの変異種に対し開発済のワクチンが実際に有効かどうかを確認するには2週間程度が必要であると言われる。また既存の新型コロナウイルスワクチンが新型コロナウイルスの変異種に対して有効でないと判明した場合変異した新型コロナウイルスに対応する新規ワクチンの開発は技術的には6週間程度で可能であるとされるものの、再度臨床試験や医療当局に対する緊急使用許可申請及び審査等を行わなければならない場合もあることから、新たな変異種に対応する新型コロナウイルスワクチンの実用化までに数ヶ月程度を要する可能性もある。従って、新型コロナウイルスワクチンの新型コロナウイルス変異種に対する有効性がどう判明するかということが、世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の強化もしくは緩和といった新型コロナウイルス感染者抑制策を左右することにより、石油需要の伸びの回復及び石油需給バランス引き締まりに関する期待もしくは懸念を市場で増大させることを通じ、原油相場に圧力を加えることになろう。
他方、7月31日に失効した米国失業保険の追加給付を含む経済対策については、12月21日夜(米国東部時間)に、米国議会下院及び上院が8,920億ドル規模の同国追加経済対策法案を可決し、トランプ大統領に送付した。トランプ大統領は12月28日に当該法案に署名することにより同法は成立した。また、米国議会上院議員選挙のジョージア州決選投票(1月5日実施)で民主党候補2名が当選確実となった旨1月6日夕方(米国東部時間)に明らかになった他、1月7日早朝(同)に米国議会上下院がバイデン前副大統領の大統領選挙での勝利を正式に認定したことで、米国大統領及び議会上下院で事実上民主党が主導権を掌握した。1月14日夜(同)にはバイデン次期大統領が総額1.9兆ドル規模のさらなる追加経済対策に関する提案(12月28日に成立した経済対策法に定められている個人1人当たり最大600ドルの直接給付を同2,000ドルにまで引き上げることや2021年9月まで失業保険を400ドル追加すること等を主な内容とする)を行った。米国の大統領及び議会上下院が事実上民主党により掌握されたことで今後政権や議会運営がより安定的に行われることにより同国での新型コロナウイルス関連追加経済対策等の政策が円滑に実施されるとの期待が市場で増大しやすい状況となっており、株式相場が上昇するとともに石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で広がる結果、原油相場にも上方圧力が加わりやすいものと考えられる。
また、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施に伴う同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、2020年3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、8月31日には、FRBのクラリダ副議長も、失業率が低下しても、物価上昇率が目標ないしは安定した金融市場にとって脅威となる水準を継続的に超過する、もしくは超過する可能性があると想定されなければ、金利を引き上げることにはならないであろう旨発言したりするなどしたことにより、米国金融当局はより長期に渡り一層の金融緩和策を実施する意向であると市場では受け取られていることから、今後も米ドルが下落する、もしくは金融緩和措置を通じ将来的に経済が回復することへの期待が市場で増大することにより株式相場が上昇することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといったことも想定される。そして、この場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家の判断から低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない現象が見られやすくなる一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には資金流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。
他方、バイデン次期大統領が就任することにより米国と中国との関係が改善に向かうといった観測が市場で発生することで株式及び原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうる。もっとも、両国間では少なくともある程度の期間は政治的な駆け引きが続く(バイデン氏は米国と中国との間での貿易紛争を巡る第一段階の合意を直ちに破棄する意向はない他現在発動中の対中国関税を撤廃する方針もない旨明らかにしたことに加え、中国の知的財産権、技術移転、不当廉売及び政府による不当な企業支援を含む問題に対処していく旨検討していると12月2日に報じられる)結果、関係改善までの過程が紆余曲折を経ることも否定できない。このようなことから、この面での動向によっては株式及び原油相場が上下に変動する場面が見られることもありうる。
また、1月中旬頃以降、主要米国企業等の2020年10~12月期等の業績及び今後の業績見通し等が明らかになり始めているが、新型コロナウイルスワクチン接種拡大による経済成長回復期待から、企業の業績見通しが前向きなものとなることも予想され、その結果株式相場が上昇するとともに石油需要の増加期待の拡大から原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の生産が完了しつつあり、むしろ間もなく春場のメンテナンス作業時期に突入することで、その時期に向け製油所は稼働を引き下げ始めるとともに、原油の購入を不活発にしてくる。このため、原油に対する需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面で原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において、この先平年を割り込む気温が継続したり、気温が平年を大きく割り込む旨の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での暖房油需給の引き締まり感の強まりから、暖房油価格、そして原油価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、米国のシェールオイルを含む原油生産状況及びその見通し、そして同国での石油坑井掘削装置稼働数等も、原油相場に影響を与える可能性がある。
OPECプラス産油国は2021年1月1日より、それまでの減産措置を日量50万バレル縮小した減産措置を実施している他、1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では2~3月につきロシア及びカザフスタン等一部減産参加国が減産措置を緩和するものの他のOPECプラス産油国は1月の減産措置を据え置きとする旨決定した一方で、会合終了後サウジアラビアが2~3月に日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明した。このため、当初市場が見込んでいたよりも世界石油需給が相対的に引き締る方向に向かうとの見方が市場で強まった他、この先も断固として石油需給均衡を達成すべく必要な場合にはサウジアラビアが自主的な追加減産措置を実施するであろうとの期待が市場で発生しやすい状態となっていることから、この面で原油相場が下支えされやすいものと考えられる。ただ、今後OPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による情報等を通じOPECプラス産油国による減産遵守状況がこの先明らかになる等するにつれ、OPECプラス産油国間で原油生産方針等を巡り意見の相違が顕在化することでOPECプラス産油国の減産措置方針の決定過程が複雑化することや、OPECプラス産油国の結束を疑問視する向きが市場で強まることにより、原油価格が変動する場面が見られることもありうる。
また、原油価格の上昇につれ、米国での石油坑井掘削装置稼働数が増加する結果、同国のシェールオイルを含む原油生産が持ち直すといった展開も想定されるが、最近の米国石油会社においては株主や資金供給者が原油生産に伴う収益性を重視するといった動きも見られると指摘される他、原油価格の上昇が原油生産の増加となって現れるには6ヶ月程度を要すると言われているところからすると、米国の原油生産増加に伴う世界石油需給緩和感が原油価格を抑制する前に、新型コロナウイルスワクチン接種普及による世界経済成長及び石油需要の伸びの回復とOPECプラス産油国減産措置等による石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大することを通じて原油相場に上方圧力が加わる結果、少なくとも短期的には原油価格は一時的にせよ上昇しやすいものと考えられる。もっとも、シェールオイルを開発及び生産する石油会社等が原油先物市場において今般上昇した原油価格水準で将来に向けた販売の予約を行うことが予想されることもあり、この先中長期的に石油需給が緩和し原油価格が下落しても米国シェールオイル等の開発及び生産活動が直ちに鈍化するわけでないといった展開となることもありうる。
全体としては、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入るとともに季節的な石油需給の緩和感が市場で強まり始めることが、原油相場のさらなる上昇を抑制する可能性があるが、足元で気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。他方、変異種を含む新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制及び経済活動の制限の強化が原油相場に下方圧力を加える場面が見られる可能性があるが、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで感染が抑制されることに加え、米国で大統領及び議会上下院の主導権を事実上民主党が掌握したことで同国での追加経済対策等の景気刺激策が推進されやすくなることにより、世界経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復するとの楽観的な見方が市場で強まりつつあることから、それが金融緩和状態に伴う投資資金の流入と相俟って、原油価格が上振れしやすいものと考えられる。さらに、サウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産実施の表明に伴う相対的な世界石油需給引き締まり感の増大やサウジアラビアの石油需給バランス均衡に向けた断固たる方策の推進に対する期待が市場で拡大しつつあることも、原油相場を下支えするものと思われる。このような中、イラン等を巡る地政学的リスク要因が顕在化すれば、原油相場にさらに上方圧力を加えることもありうると見られる。この他、米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、及びOPECプラス産油国減産措置遵守状況、そしてこの先の減産措置を巡る動向を含む情報等が原油相場に影響を及ぼすものと見られる。
以上
(この報告は2021年1月18日時点のものです)