ページ番号1008935 更新日 令和3年1月21日
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1. 政治・経済情勢
(1)国内
政治・経済
ロシアで新型コロナウイルスのワクチン接種を開始
- プーチン大統領は、12月2日、政府の会議の中で、ロシアで大規模な新型コロナウイルスに対するワクチン接種を開始することをGolikova副首相に指示した。ワクチンは200万回分の準備がほぼできており、ワクチン接種は任意で、無料となるとされている。ロシアのガマレヤ記念国立疫学微生物学研究センターで開発された「Sputnik V」は、2020年8月11日にロシア政府から緊急的に承認され、臨床試験が開始された。また、ベラルーシ、インド、アラブ首長国連邦、ベネズエラでも臨床試験が行われている。
- これを受け、12月5日、教師と医師等からワクチン接種が開始された。Manturov産業商務大臣は、12月30日、年末までに100万回分以上のワクチンが流通すると述べ、他国への供給も可能になるとした。12月24日付けの報道によると、アルゼンチンには既に30万回分のワクチンが供給されており、その他の複数の国にもワクチンを供給する合意が発表されている。
- 12月14日の発表によると、臨床試験の結果でSputnik Vの有効性は91.4%だった。また、予防接種を受けた人の中には、発熱や倦怠感などの短期間の有害事象が報告されているものの、予期しない有害事象は確認されていないと述べられている。11月11日の発表でも、ワクチンの有効性は92%と評価されていた。
- ロシアでの新型コロナウイルスの感染拡大は9月から増加を続けており、12月24日には過去最大となる1日あたり29,035人の感染が報告されている。
プーチン大統領の定例年次会見をオンライン形式で開催
- プーチン大統領は、12月17日、毎年12月に行う定例年次会見をオンライン形式で開催し、複数のメディアで生放送された。全ての連邦管区で記者が会見に参加するためのプラットフォームが組織された他、市民からもコールセンターやモバイルアプリケーションを通じて質問を受け付けた。記者会見は約4時間半続けられ、プーチン大統領が多くの質問に回答した。
- プーチン大統領は最初の質問で1年間の評価を問われ、パンデミックの影響について多くの問題はあるものの、経済の安定と社会サービス医療システムの発展について、部分的には他の国よりも優れていると自信を示した。同大統領によると、ロシアのGDP成長率はマイナス3.6%となっており、EU諸国や米国よりも優れていると主張した。また、ロシアの歳入の7割は石油ガス収入以外から形成されているとして、石油・ガス収入の依存度の低下を経済発展の前向きな要素として挙げた。最後に、最も重要なこととして、困難な状況な中でロシアの全国的な団結をもう一度確認したと述べ、ボランティアや医師の仕事、隣人を支援した人々に感謝の意を述べた。また、別の質問に対し、ロシアが危機から抜け出す方法は、我々がパンデミックにどのように対処するかによると述べ、経済については2021年の終わりから2022年の第1四半期までにすべての問題を克服し、来年にはGDPはプラスに達するという予測を紹介し、今後6ヶ月で状況が改善するとの見通しを示した。
- 2020年に憲法を改正した理由について、プーチン大統領は、憲法の基本的な部分は変わっていないと説明した。一方、年金の物価スライド制の導入、最低賃金の保障、国際法に対するロシア憲法の優位性などを例に挙げ、これまで不可能だったことを可能にするため、状況に応じて改正が必要だったとも述べた。また、憲法改正によりプーチン大統領が2024年の任期満了後も大統領に就任できるようになったことについては、大統領選挙の出馬をまだ決めていないと回答した。
2021年~2023年の予算法にプーチン大統領が署名
- プーチン大統領は、12月8日、2021年~2023年の期間における連邦予算法に署名を行った。予算は計画期間におけるロシア連邦の社会経済発展予測の基本シナリオに基づいている。
- 予測では、新型コロナウイルスによる継続的な制限のために、世界経済のゆっくりとした回復を想定しており、ロシアのGDPは2020年に3.9%のマイナスと予測されているものの、2021年に3.3%、2022年に3.4%、2023年には3.0%成長するとされている。また、インフレ率は期間を通じて4%を越えない。一方、2020年以降、2023年まで連邦予算は赤字が続き、赤字は主に政府借入によって補填され、一部は国民福祉基金も利用される。
- 2021年の連邦予算は、115兆5,330億ルーブルのGDP予測と、3.7%のインフレ率に基づいて作成され、歳入は18兆7,651億ルーブル、歳出は21兆5,201億ルーブルとなり、赤字は2兆7,550億ルーブルに達するとされている。最大の歳出は社会政策の分野の5.6兆ルーブルで、2020年の予測の6.0兆ルーブルからは減少するもの、2019年実績から0.7兆ルーブルの増額となっている。歳出の第2の分野は経済で3.3兆ルーブル、第3の分野は国防で3.1兆ルーブルと続く。
- 原油価格は43.3ドル/バレルが基準価格とされ、これを越えた場合の歳入は国民福祉基金に送られる。
(2) 対外関係
1) 米国
軍事エンドユーザーに対し輸出制限
- 米国商務省は、12月21日、ロシア企業45社及び中国企業58社を含む事業体を新たに「軍事エンドユーザー」として輸出管理規則に加えると発表した。リストにはロシア国防省やRostec等が含まれ、指定された事業体への特定の商品と技術の輸出が制限される。
- 米国は、これらの軍事エンドユーザーリストの事業体が中国、ロシア、またはベネズエラにおいて軍事使用または転用されるリスクがあると判断しており、指定された品目をこれらの事業体に輸出、再輸出、譲渡するにはライセンスが必要となる。
- 米国商務省のプレスリリースによると、米国は、米国と世界の企業が協力してロシアや中国が不安定な軍事プログラムに米国の技術が転用されることに対抗することの重要性を認識しており、この処置は、輸出業者が軍事エンドユーザーをスクリーニングすることを支援するとしている。
バイデン次期大統領への祝意を表明
- ロシア大統領府は、12月15日、プーチン大統領がバイデン次期米国大統領に祝意を伝える電報を発出したと発表した。
- プーチン大統領は電報の中で、バイデン次期米国大統領がすべての成功を収めることを望むと述べ、世界の安全と安定に特別な責任を負っているロシアと米国が、その違いを乗り越えて、世界が現在直面している多くの課題の解決に貢献できるという自信を表明した。また、同大統領は、これを念頭に、平等と相互尊重の原則に基づくロシアとアメリカの協力が、両国の人々と国際社会全体の利益となるだろうと述べた。さらに、プーチン大統領側はバイデン氏との交流をする準備ができていると強調した。
- バイデン次期米国大統領は11月7日に大統領選挙の勝利宣言を行っていたが、12月14日に各州での選挙人が投票を行い、バイデン氏の当選が実質的に確定した。ロシア大統領府は、公式結果が出るまで大統領選挙の勝者を認めるのは留保するとしていた。
2) EU
対EU制裁を拡大
- ロシア外務省は、12月22日、EU制裁への対応に関する声明を出し、EUに対する制裁を拡大すると発表した。外務省によると、EU内でロシアへの制裁拡大活動に関与している人物に対し、ロシアへの入国を禁止する等の制裁を課すとしているが、具体的な名前は公表されていない。
- 外務省は、2020年8月にロシアの野党指導者のNavalny氏が毒殺未遂となった事件に関連し、EUがロシアに対して違法な制裁措置を講じていることは容認できないと主張している。また、ロシア当局が繰り返し求めているにも関わらず、事件の証拠を提示していないことを非難した。今回の措置は、EUの制裁に対する相互主義の原則に基づいて実施されるとされており、外務省は、引き続き欧米諸国の行動に対し適切な対応をとると述べている。
3) 中国
プーチン大統領と習近平国家主席が電話会談
- プーチン大統領は、12月28日、中国の習近平国家主席との電話会談を行った。
- 両首脳は、年末年始を祝福し、翌年の包括的なパートナーシップと戦略的相互作用によるロシアと中国の関係の発展を確認した。二国間関係については、歴史上最高の水準に達し、真に相互に有益であると高い評価がなされた。また、新型コロナウイルスのパンデミックと戦うための両国の効果的な共同努力を評価し、ワクチンの開発と生産における協力の重要性を指摘した。
- さらに、2001年にプーチン大統領と江沢民国家主席の間で署名された中露善隣友好協力条約の20周年を踏まえ、エネルギーおよび産業協力の分野における大規模な共同プロジェクトの実施を含むすべての分野における相互作用をさらに深める方向性が確認された。
- また、両首脳は、地域的、世界的規模で平和と安定を維持するために、国際舞台での調整を強化する用意があることを表明した。
4) サウジアラビア
Novak副首相がリャドを訪問
- Novak副首相は、12月20日、サウジアラビアのリャドを訪問し、Abdulazizエネルギー大臣と会談を行い、ロシアとサウジアラビア間の経済協力の発展についての議論が行われた。この中で、Novak副首相は、ロシアにとってサウジアラビアは中東における戦略的パートナーであると強調した。また、同副首相は、2024年までに両国の貿易額を50億ドルにするという目標について、2019年末に58%増加して17億ドル、2020年1月~10月の期間では、不利な外部環境にも関わらず、前年比でさらに6%増加し、14億ドルに達していると進捗を報告した。また、ロシア直接投資基金とサウジアラビア公共投資基金の間の投資協力については、インフラ、産業、農業、小売業等の約30のプロジェクトが実施され、合計25億ドルが投資されており、さらにエネルギー、農業、情報技術分野で新たに12のプロジェクトが検討されていると述べた。中でも、エネルギー部門は両国の協力において重要な役割を維持しており、石油生産、EOR技術開発、AI利用、科学的協力において大きな可能性を秘めていると強調し、ロシアでのエネルギープロジェクトへのサウジアラムコ等の参加の拡大が積極的に検討されていると述べた。新たなロードマップの署名は2021年前半に予定されている。石油市場の協力については、OPECプラスの合意と、市場を早期に回復させ、需要が不安定な状況の中で均衡を実現させるための両国間の協力の必要性が再確認された。
- 会談後の記者会見では、Abdulaziz大臣は、OPECプラスの合意は2022年4月までだが、投資を維持するために2022年末まで継続する可能性に言及した。また、Novak副首相は、市場は依然として非常に脆弱で、以前よりも不安定になっているため、毎月の需要監視を維持する必要があり、より頻繁に会う必要があると、OPECプラスの取組みの重要性を強調した。
2. 石油ガス産業情勢
(1) 原油・石油製品輸出税
- 2020年12月、原油輸出税はUSD5.8/バレルで、東シベリア及びカスピ海北部の油ガス田等に対しては、引き続きゼロ課税となった。
- 12月の石油製品輸出税はUSD12.6/トン、ガソリンについてはUSD23.1/トンに設定された。
(2) 原油生産・輸出量
- 12月、原油、ガス・コンデンセート生産量は4,246万トン(約3億996万バレル、平均日量1,040万バレル)で、前年同月比11%減。
- 2020年の原油、ガス・コンデンセート生産量は累計で5億1,268万トン(約37億4,256万バレル、平均日量1,027万バレル)で、前年比8.6%減となり、過去10年で最低となった。
- 12月、原油輸出量は1,858万トン(約1億3,564万バレル)で、前年同月比15.3%減。
- 2020年の原油輸出量は累計で2億3,234万トン(約16億9,605万バレル)で、前年比12.7%減となった。
(3) 減産合意
ロシアは2021年1月から12.5万バレル/日を増産予定
- OPECプラスは、12月3日、第12回閣僚会議をテレビ会議形式で開催した。会議は11月30日も開催されたが、合意に至らず、12月1日に再度予定された会議も事前調整が難航したために延期され、12月3日に開催された。会議では、2021年1月以降、OPECプラス参加国は減産量を現在の770万バレル/日から50万バレル/日縮小し、720万バレル/日にすることを決定した。また、OPECプラスは2021年1月以降に毎月閣僚会議を開催し、市場の状況に応じて翌月以降の生産調整を決定すると合意した。毎月の調整量は50万バレル/日以下とされている。また、全ての国の過剰生産分の完全な補償を確保するため、補償期間を2021年3月までに延長することを合意した。
- 会議では、これまでの生産調整に対する全体的な適合水準の結果と、達成されなかった減産量についての補償メカニズムに対する各国の建設的な対応が歓迎された。また、より厳格な新型コロナウイルスの封じ込め措置は、世界経済と石油需要の回復に影響を及ぼし続けており、冬季は不確実性が続くとされ、今後もOPECプラスの参加国及び主要な生産者が、市場の均衡と安定を目的とした取組みに全力で取組むことが重要であると強調された。
- 今回の閣僚会議の開催にあたり、各国の調整は難航し、サウジアラビアのAbdulazizエネルギー大臣は閣僚監視委員会の共同議長を辞退すると発表していたが、OPECプラスの参加国が議長としての役割を継続するように要請し、同大臣はこの要請を受け入れた。2020年4月の時点のOPECプラスの合意では、2021年1月からは減産量を570万バレルまで縮小することとしていたが、現在の市況を考慮し、協調減産を3ヶ月継続するか、計画通りに増産するか、議論が分かれていたと報じられている。
- ロシアのNovak副首相は、OPECプラスの会議後、メディアに対し、2021年1月から増産されることが合意された50万バレル/日のうち、ロシアの割り当ては12.5万バレル/日であると述べた。同副首相は、会議は成功したと評価し、ロシアは年初から石油生産を増加させることに問題はないと述べた。
(4) 天然ガス生産
- 12月、天然ガス生産量は663億立方メートル(約2.3TCF)で、前年同月比で1.6%減。
- 2020年の天然ガス生産量は累計で6,923億立方メートル(約24.5TCF)で、前年比で6.2%減となった。
(5) 税制・法制
エネルギー省の次官を5名に削減
- エネルギー省は、12月31日、次官5名に削減するなど、再編を行うと発表した。ロシアでは11月より省庁の人員削減を議論しており、12月28日に政府全体での具体的な再編方針が決定され、エネルギー省ではこの方針に沿って、2021年4月1日までに再編が行われる。
- エネルギー省では、次官を現在の7名から5名に削減し、削減される次官の所掌は他の次官に割り当てられる。どの次官のポストが削減されるかはまだ発表されていない。また、省内で5%の人員を削減し、プロジェクト管理運用サポート局、燃料エネルギーに係る企業政策及び財産関係局、燃料エネルギーに係る支払監督局を廃止する。また、石油ガス生産輸送局、石炭泥炭産業局、国際協力局が統合される。
- 政府の発表によると、政府全体で74部門と36の次官のポストが削減され、各省庁の人員を5%ずつ削減する。再編の目的はマネジメントと部下の最適なバランスを確保し、効果的に働くことだとされている。
(6) 環境関連
2023年までに水素バスの製造を指示
- プーチン大統領は、12月30日、ミシュスチン首相と電話会議を行い、ロシアの輸送とインフラ開発の問題を議論した。会議の中では主に鉄道輸送、航空交通、道路等の現状や計画について議論されたが、最後に、プーチン大統領はミシュスチン首相に、2023年までに水素を利用した市内バスを作るように指示をした。
- プーチン大統領は、我々の計画は良い意味ですでに分散されているが、次の段階に進み、2023年までに水素燃料で市内バスを作ることが不可欠、これには電気モーターが利用されるが、水素が使われる必要があると述べた、そして次の段階は、水素で機関車を作ることだとした。同大統領は、環境保護の要件を考慮すると、100万人を越える大都市では都市交通にディーゼル燃料を多く使用しており、ガスエンジンや水素燃料による輸送が強く求められていると説明した。
- プーチン大統領はこれに先立ち、12月22日にNovak副首相と面談し、ロシアの燃料エネルギー産業について議論を行っている。この中でNovak副首相は、多くの国が2050年までにカーボンニュートラルの目標を発表し、従来のエネルギー資源の需要に大きく影響する、そして技術開発の結果としても資源の需要が減少し、世界中の資源が過剰になる傾向があると述べ、国内市場の開発及び輸出の多様化、つまり炭化水素の精製と新エネルギーによって付加価値をつけた輸出に注力する必要があると主張している。
- ロシア政府は、10月に2024年までの水素エネルギー開発のための行動計画を策定しており、規制の枠組みを改善し、水素の生産、貯蔵、輸送、利用のためのプロジェクトに対する国の支援策を策定及び実施し、市場における国内企業の地位を強化し、さらに科学及び技術の開発の重要な分野に関する研究開発作業を実施する計画を立てている。
ロシアとドイツが水素の共同プロジェクトを検討
- 報道によると、Novak副首相は、12月1日、ロシアドイツ原材料フォーラムで、両国の企業の技術パートナーシップの構築と、水素をドイツに出荷するための共同パイロットプロジェクトの実施を検討していると述べた。また、水素エネルギー開発のための共同ロードマップの作成、研究機関間の協力、水素エネルギー開発の政府規制の分野でノウハウを共有する可能性も議論されていると明かした。
- 同副首相によると、ロシアには天然ガス、石油、石炭の重要な資源基盤があり、発電のための予備能力もあり、水素の発電輸送・貯留分野の科学的競争力がある、ロシアの2035年までのエネルギー戦略では、水素エネルギーの開発を行い、水素の生産輸出で世界のリーダーの一つになることを目指していると述べた。一方で、従来のエネルギー部門におけるロシアとドイツの協力も同様に重要であるとして、炭化水素、特に天然ガスは依然として世界のエネルギーバランスの重要な要素であり、エネルギー転換を行う上で主導的な役割を果たすだろう、化石燃料は現代技術の開発と応用を考慮すると環境的にニュートラルである可能性があると加えた。
- このフォーラムでは、Gazpromの省エネルギー及び環境部門の責任者であるAlexander Ishkov氏も講演を行い、Nord Streamパイプラインの到着地点であるドイツのGreifswaldに、天然ガスを水素に転換するためのプラントを建設する可能性があると述べた。また、ロシアで二酸化炭素を貯留するためにロシアに向けてNord Streamパイプラインにより二酸化炭素を輸送する可能性についても言及した。さらに、Gazpromは炭素排出の削減に向けた欧州の取組みを真剣に受け止めており、脱炭素化の研究を実施するための専門子会社Gazprom Hydrogenを設立することが発表された。
- Gazpromはこれまでも、Nord Stream 1及び建設中のNord Stream 2での天然ガスの輸送に水素を混合し、欧州に輸送することが可能だと発表しており、欧州への水素供給に関心を示していた。
3. ロシア石油ガス会社の主な動き
(1) Rosneft
Vostok Oil社の10%をTrafiguraに譲渡完了
- シンガポールに拠点を置く貿易会社であるTrafiguraは、12月30日、RosneftよりVostok Oil社の権益10%を買収する取引を完了したと発表した。プレスリリースでは買収の大部分は長期債務により調達されると述べられているが、金額については触れられていない。また、同社はこの投資により、推定60億トンの高品質原油資源を備えたVankolクラスターとPayakhaクラスターで構成される新しい陸上石油生産地域にアクセスできるようになり、Vostok Oil社を含む原油の長期オフテイク供給へのアクセスが提供されると述べている。
- Rosneftは、これに先立ち、Vostok Oil社に資源基盤を集約している。報道によると、12月22日、Vostok Oil社はTaymyr半島に位置するKazantsevsky鉱区、Severo-Gorchinsky鉱区の27年間の炭化水素の地質調査探査・生産ライセンスのオークションを、それぞれ1億9,151万ルーブル、1,969万ルーブルで落札した。
- また、12月25日付けの報道によると、Rosneft及びRosneftの子会社のRN-Vankor社が保有していた14鉱区ライセンスをVostok Oil社へ移管した。これには、Vadinsky、Vostochno-Tagulsky1及び2、Kupchiktakhsky、Vostochno-Suzunsky 8、Yangodsky、Mezeninsky、Severo-Dzhangodsky、Vladimirsky、Kubalakhsky、Kungasalakhsky、Ichemminsky等が含まれる。これらの潜在的な資源量は石油換算で約20億トンとされている。
- さらに、Rosneftは12月28日、Vostok Oil社を含む複数の子会社を通じてPayakhaクラスターを保有するTaimyrneftegaz社を100%買収したと発表した。同社はKhudainatov前Rosneft社長が保有していた。取引額は発表されていないが、同じくKhudainatov氏が保有している子会社にRosneftが100%を保有していたRN-Sakhalinmorneftegazの9%が譲渡されており、これはTaimyrneftegaz社買収の対価の一部ではないかと推測されており、他にもRosneftの成熟資産が、Khudainatov氏へ譲渡されると見られている。
Rosneftが2035年までの気候変動対策目標を策定
- Rosneftは、12月17日の取締役会で、2035年までの気候変動対策目標を検討したとして、同目標を発表した。主な目標は、下記の4点とされている。
- 2,000万トンのCO2相当の温室効果ガス排出抑制
- 上流部門の排出原単位を30%削減
- メタン排出原単位を0.25%以下に削減
- 随伴ガスの定期的なフレアリングの廃止
- Rosneftのプレスリリースでは、Rosneftはパリ協定に基づくロシアの公約の実行に貢献してきており、パリ協定の目標を完全に達成することを含む様々なシナリオでの長期計画の評価を行っている。同社の炭素管理計画の中では、2,000万トンのCO2相当の温室効果ガスの抑制及び、上流での排出原単位の30%削減が主な取組みの分野となる。また、フレアリングをゼロにすることを念頭に、随伴ガス利用プログラムの取組みを継続し、Rosneftの生産量に占めるガスの割合を25%に増やすことを計画している。
- その他、電力を再生可能エネルギーに置き換えること、既存インフラを利用したCCUS、水素バイオディーゼルなどのクリーンな燃料を製造すること、植林などの選択肢も検討する。また、2035年までの今回の目標に加えて、2050年までにカーボンニュートラルを達成するための機会も追求していくこととしている。
- ロシアはパリ協定を履行するために、森林やその他の生態系の最大限の吸収能力を考慮し、2030年までに温室効果ガスを1990年基準で30%削減することを目標としている。
KrasGeoNaC社の持分49%をEquinorに売却
- Rosneftは、12月14日、東シベリアで12の探査及び生産ライセンス鉱区を保有するKrasGeoNaC(KGN)社の持分49%をEquinor社に売却したと発表した。売却額は約5億5,000万ドルで、これには、2019年1月1日の発効日における現金対価3億2,500万ドルと、該当鉱区の探査プログラムの費用などが含まれる。Equinorによると、今回の合意の一環として、オホーツク海沖合プロジェクトの残りの探鉱資金を振り向けることにしており、未解決の義務は残っていないとしている。EquinorはRosneftとオホーツク海のMagadan 1鉱区及びLisyansky鉱区の探査を行っていたが、十分な埋蔵量が発見できていない。12月11日付けの報道によると、Equinorは取材に対し、オホーツク海のプロジェクトではさらに3本の井戸の探鉱資金が残っていたが、Equinorはオホーツク海への関心がなくなったとコメントしている。
- KrasGeoNaCの保有する12鉱区にはNorth Danilovskyが含まれ、同鉱区では2020年7月に生産を開始し、生産量は2024年までに4万バレル/日に達すると予測されており、その後7万バレル/日にまで拡大する計画となっている。
- Equinorは2019年に西シベリアのNorth-Komsomolskoye油田を開発するRosneftの子会社Sevkomneftegaz社の33.3%を買収する契約を締結しており、Volga-UralのDomanik層の開発でもRosneftと協力をしている。また、Zarubezhneftがオペレーターを務めるネネツ自治管区のKharyagaの30%の権益を有する。
(2) Gazprom
Vaneyvisskoye油田及びLayavozhskoye油田開発でLukoilと基本合意
- Gazpromは、12月21日、Lukoilとネネツ自治管区のVaneyvisskoye油田及びLayavozhskoye油田の開発に関する基本合意に署名した。両油田の地下資源利用ライセンスは現在Gazpromが保有しているが、Lukoilの生産中の鉱区に近接しており、Lukoilとの協力によりプロジェクトに必要なインフラを最小化することが可能となる。両油田の回収可能埋蔵量は2,740万トンの液体炭化水素と、2,253億立法メートルの天然ガスとされている。
- この合意は2018年のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで署名された両社の協定に基づき、両油田での炭化水素生産を開始するために必要な準備を定めており、プロジェクトを実行するための合弁会社について、両社のそれぞれの子会社、Gazprom Dobycha Krasnoda社及びLUKOIL-Komi社の間で設立されるとされており、この合弁会社が油田の鉱区を保有する。2018年の協定では、合弁会社は両社が同等の条件で設立する方針とされている。
(3) Novatek
SiemensとLNG生産の脱炭素化の協力で合意
- Novatekは、12月10日、Siemens Energy社と戦略的パートナーシップ及び協力協定に署名を行ったと発表した。協定の一環として、両社は発電およびLNG生産に使用される天然ガスをカーボンニュートラルな水素に置き換えるプロジェクトを実施する。
- 協定は、両社がLNG生産、発電、水素生産等をするためのハイテクソリューションを共同で開発実施し、両社のカーボン・フットプリントの削減、環境効率性向上の目標を達成することを意図している。
- NovatekのMikhelson社長はプレスリリースの中で、NovatekはYamal LNGとArctic LNG 2プロジェクトの主要機器供給者であるSiemens Energy社との長い相互協力の実績があると述べた。また、北極圏のLNG生産を拡大するためのNovatekの戦略は厳しい環境要件を満たす最先端の技術ソリューションを利用することが基礎となる、同社との更なる協力によるLNG生産の脱炭素化はNovatekの北極圏におけるカーボンフットプリントを削減し、気候変動の緩和に大きく貢献すると述べた。
- 同日のSiemens Energy社の発表では、両社は特にエネルギー効率の向上とデジタル技術の適用、発電における水素及びその他のカーボンニュートラル燃料の利用、グリーン及びブルーの水素の生産、CCUSのソリューションについても協力を行う予定とされている。
(4) SIBUR
Amurガス化学コンプレックスにSinopecが参入
- SIBURは、12月28日、Amurガス化学コンプレックスプロジェクトのため、中国のSinopecと合弁会社を設立したと発表した。SIBURとSinopecがそれぞれ株式の60%と40%を保有する。2019年6月に、両社は合弁会社設立のための契約条件について合意していたが、その後、企業及び規制当局の全ての承認が得られたため、取引が成立した。2015年12月に、SinopecはSIBURの株式10%を取得する契約を締結している。
- Amurガス化学コンプレックスは世界最大のポリマー生産施設となり、年間230万トンのポリエチレンと40万トンのポリプロピレンを含む270万トンの生産能力をもっている。製品はアジア市場、主に世界最大のポリマー消費国である中国をターゲットとしている。
- Amurガス化学コンプレックスの予算は暫定的に100億~110億ドルと見積もられており、プロジェクトの進捗に応じて調整される可能性があるとされている。建設と試運転の完了は2024年に予定されている。
4. 東シベリア・極東・サハリン
(1) サハリン
サハリンの小規模LNGプラント建設とガス化に80億ルーブル以上を投資
- 12月8日付けの報道によると、サハリン州のZaitsev副知事は、Trutnev副首相兼極東連邦管区大統領全権代表との会議の中で、州政府とGazpromがサハリンでの小規模LNGプラント建設と完全ガス化に向けて80億ルーブル以上を投資するとの方針を明かした。
- 同副知事によると、小規模LNGはPoronaysky地区に建設され、2023年の稼働を予定している。また、サハリンの完全ガス化は2025年が予定されている。2020年に、州政府とGazpromがこの時間軸でプロジェクトを実施する合意に署名したとされる。この小規模LNGの規模については、年間6万トンと報じられている。
5. 新規LNG・P/L事業
(1) Nord Stream 2
米国が新たな制裁を検討
- 米国議会は、12月4日、2021年の国防授権法でNord Stream 2への制裁を含む法案ドラフトを公表した。法案によると、Nord Stream 2プロジェクトに関する保険及び認証サービスの提供や、パイプの溶接、コーティング、設置作業等に関わる企業に対して制裁が課されるとしている。しかし、制裁は以前提案されていたように2019年12月まで遡及的に導入されることはなくなり、法律が施行した後に行われる活動に対してのみ可能となる。この場合、DNV GLが提供する予定となっているパイプラインの認証が制裁の対象となる可能性が残っている。
- 一方、法案では、制裁はEU、EU加盟国ノルウェー・スイス・英国政府、政府機関、非営利組織については課すことができず、米国大統領が米国の国益に反すると判断すれば、制裁を免れるとの条項も加わっている。また、米国政府は制裁を実行する前に、EU、ノルウェー、スイス、英国政府との相談が必要となる。
- 欧州委員会のStano報道官は、12月4日、第三国が欧州企業の合法な事業に対して制裁を課すことについて欧州委員会は反対すると、新聞のインタビューでコメントしている。また、ロシアのPeskov大統領府報道官は、米国の制裁はプロジェクトの実施を可能な限り困難にする可能性があるが、ロシアと欧州はエネルギー安全保障を確保するために必要なプロジェクトの実施に関心を持っていると述べた。
- トランプ大統領はこの法案について、12月23日、重要な国家安全保障措置が含まれていないとして、法案に対する拒否権を発動した。しかし、下院は12月28日、大統領の拒否権を無効にする投票を行い可決した。上院でも大統領の拒否権を無効にする投票が可決されれば、法案は成立する。
ドイツでの建設を完了
- 12月28日付けの報道によると、Nord Stream 2のドイツ排他的経済水域におけるパイプラインの敷設作業が完了した。同区間では2.6キロメートルの作業が残されていたが、12月11日に作業が始まり、ドイツ当局から12月末までの許可が与えられていると報じられていた。敷設作業はロシアのパイプ敷設船Fortunaが利用された。
- Nord Stream 2プロジェクトではデンマーク海域でのパイプライン建設が残されているが、12月23日付けの報道によるとデンマーク当局は2021年1月15日からパイプ敷設工事の許可をした。この作業も、Fortunaが行うとされている。
- 同プロジェクトでは、2020年の米国国防授権法によりNord Stream 2のパイプライン敷設が制裁対象となったことから、パイプライン敷設を請け負っていたスイスのAllseas社がプロジェクトから撤退し、敷設作業が2019年末から停止されていた。
以上
(この報告は2021年1月20日時点のものです)
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