ページ番号1008943 更新日 令和3年1月26日

中国:低炭素や市場化推進も天然ガス不足再来で供給システムの脆弱ぶりを露呈

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レポートID 1008943
作成日 2021-01-26 00:00:00 +0900
更新日 2021-01-26 17:02:06 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG環境
著者 竹原 美佳
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 26
抽出データ
地域1 アジア
国1 中国
地域2
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地域3
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地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,中国
2021/01/26 竹原 美佳
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概要

  • 中国は2060年までの“カーボンニュートラル”実現に向け努力することを表明。国連気候サミット(2020年12月)においてこれまでの目標を前倒しし、2030年までの実行可能と思われる取り組みを表明した。
  • 石油・天然ガス事業における市場化の取り組みは政府主導で段階的に進展。PipeChinaは輸送・貯蔵資産の基本情報ならびに余剰能力、利用方法、利用料を公開し、企業の供給・販路拡大に向けた利用が始まった。
  • SHPGXは2020年6月以降カーボンニュートラルLNGの取引、輸入LNGのオンライン取引などの場を提供しているがいずれも試行的なものにとどまっている。トラックLNG出荷価格や北東アジアスポットLNG価格の高騰や“地政学的な緊張” により中国独自の価格への欲求が高まった可能性があるが、パイプライン・LNGともに油価連動の長期契約を抱えており短期的には困難と思われる。
  • 中国は2017~2018年冬季の天然ガス不足の教訓もあり、政府主導で貯蔵設備の増強を含む冬季ピーク需要への備えとPipeChinaによる輸送・貯蔵の一元管理などのガス供給システムの整備を進めてきた。しかし2020年11月下旬に天然ガス不足が発生しソフト面の運用を含めた課題が露呈した。低炭素化と市場化が加速する中、エネルギー安定供給と緊急時のバックアップがより一層重要である。
  • 中国は早ければ2021年にも日本を抜き世界最大のLNG輸入国となる可能性があり、LNG市場への影響が高まる。中国の天然ガス市場化、供給システムの整備、運用について今後も注視する必要がある。

(SIA Energy他各種情報に基づき作成)


1. 低炭素化を推進する中国

(1) 14次五か年計画(2021~2025年)の基本方針(2020年10月)

2020年10月29日、中国共産党第19期中央委員会第五回全体会議(五中全会)で次期14次五か年計画(2021~2025年)ならびに2035年までの長期目標の基本方針が承認、国務院に提案された。今後、共産党が提案した上記の基本方針をもとに国務院が草案を作成し、2021年3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代)で承認され、正式に公布される。

エネルギー関連の基本方針として“環境保護・排出削減”、“エネルギー革命”(2017年4月国務院公表、対象期間2016~2030年の「エネルギー生産・消費革命戦略」を指す)、“市場化”、“グリーン・低炭素化”の推進が示された。

環境保護・排出削減については、エネルギー資源配置の合理化、効率向上、汚染物質排出の削減、生態環境の改善を継続することが示された。“エネルギー革命”については、生産・供給・貯蔵・輸送・販売システムの整備、国内石油ガス探鉱開発、石油ガス貯蔵設備の建設、幹線パイプラインの建設。スマートエネルギーや発送電配置の向上を図ること、新エネルギーの消費と貯蔵(蓄電)、遠隔地への送配電の能力強化を図ること、水利インフラの建設を進め、水資源の最適配分を強化し、洪水や干ばつ災害を防ぐ能力を高めることなどの主に需給・輸送・貯蔵システムの整備、エネルギー安全保障について示された。市場化についてはエネルギー、鉄道、電信、公共事業などの競争性のある分野における市場化改革を進めることが示された。グリーン・低炭素の推進については、グリーン化に向けた法・政策、グリーン金融の発展、技術革新の支援、環境保護産業の発展を通じた主要産業と重要分野におけるグリーン転換を図ることが示された。また、クリーンで低炭素なエネルギーの安全で効率的な利用の推進や排出原単位の削減、2030年の温室効果ガス排出削減ピークアウトに向けた行動計画の策定を行うことが示された(表1)。

なお、石油・天然ガスを含むエネルギー関連の数値目標は全人代以降順次発表されるエネルギー源別の五か年改革の中で示される見通しだ。前回13次五か年計画の際は2016年3月の全人代から半年以上を経た2016年12月に石炭、電力、再生可能エネルギーの五か年計画がそれぞれ発表され、エネルギーと石油・天然ガスの五か年計画は2017年1月に発表されている。

表 1:14次五か年計画のエネルギー関連基本方針

表 1:14次五か年計画のエネルギー関連基本方針
中共中央关于制定国民经济和社会发展第十四个五年规划和二〇三五年远景目标的建议(新華社2020年11月4日)に基づき作成

(2) 中国、2060年“カーボンニュートラル”表明(2020年9月、国連総会)

(2)-1. 習近平主席、国連総会で2060年のカーボンニュートラルを表明

2020年9月22日の国連総会一般討論のビデオ演説で、習近平国家主席は「今回のCOVID-19は人類にグリーンな生活様式、生態環境と美しい地球の構築が必要と示した。自然界の警告を無視してはならず、投入せずに取り出すこと、保護せず発展のみ語ること、そして修復せず旧来の道を進むことがあってはならない。パリ協定は世界がグリーン・低炭素に向かう方向性を示すもので、地球を守るために各国が最低限の行動を取る必要がある。中国は2030年までにCO2排出を減少に転じさせ、2060年までに排出実質ゼロを実現すべく自主的な貢献度を高め、有効な政策と措置を取る。」と述べた。

CO2排出を2030年頃までにピークアウトさせる目標については「エネルギー生産・消費革命戦略」や2015年6月に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出したINDC(約束草案)で表明されていたが、世界最大のCO2排出国である中国(BP統計によると2019年の石油・ガス・石炭の燃焼活動に伴う排出量は98億トン、世界の排出の29%を占める)が、排出実質ゼロを目指す努力目標を公表したのは初めてのことで注目を集めた。

写真 習近平主席の国連総会におけるスピーチ
写真:習近平主席の国連総会におけるスピーチ

出所:新華社(2020年9月22日)[1]


多くの国が2050年のカーボンニュートラルのビジョンや戦略を表明する中、中国が2060年とした理由について、清華大学の「中国長期低炭素発展戦略と転換への道の研究」報告では「欧米では炭素排出のピークから実質ゼロまでの移行期間が50~70年あるが、中国は排出ピークから30年で実行する。また2050年までに先進国の排出削減量をはるかに上回る。」と述べている[2]

「エネルギー生産・消費革命戦略」では2030年までの目標としてエネルギー消費抑制(石油換算42億トンに抑制)、エネルギー自給率の維持、低炭素化の促進(1次エネルギー消費に占める原子力・再生可能エネルギーの比率を20%前後、天然ガスを15%前後とする目標を設定、石炭・石油の比率目標は設定されていない)、排出抑制(GDP単位あたり<1万元創出>)のCO2排出を2005年比60~65%削減し、排出を2030年頃までにピークアウトという目標が設定されている(図1)。また、INDCでは1次エネルギー消費に占める原子力・再生可能エネルギーの比率を20%前後とし、2030年にGDP単位(1万元創出)あたりのCO2排出を2005年比60~65%削減、2030年前後に石炭消費をピークアウトさせるとある。


[2] 《中国长期低碳发展战略与转型路径研究》报告:我国2060年实现碳中和减排将远超发达国家
http://www.tanpaifang.com/tanzhonghe/2020/1019/74683.html

図 1:エネルギー生産・消費革命戦略における消費構成、低炭素化、排出抑制目標
図 1:エネルギー生産・消費革命戦略における消費構成、低炭素化、排出抑制目標
エネルギー生産・消費革命戦略(2017年4月国務院)に基づき作成

(2)-2. 国有石油企業3社の“カーボンニュートラル”政策への対応

国有石油企業3社は習近平主席のカーボンニュートラル宣言の前からそれぞれ対応を進めているようだ(表2)。

PetroChinaは2020年9月の上半期業績発表において「2050年までに二酸化炭素排出量をゼロに近づけることを目標に、グリーンエネルギー(地熱、太陽光、水素エネルギーなど)への投資を強化する」と表明し、二酸化炭素排出削減計画を正式に発表したアジア初の国有石油企業(NOC) となった。2021~2025年の新エネルギー分野への年間設備投資額を現在の倍以上の100億元(14.5億ドル)に増加すると表明した。新エネルギーへの投資額は2020年の設備投資額2,285億元(約330億ドル)の1%~2%に相当する。低炭素エネルギーであるガスシフトの加速、シェールガス・CBM、バイオマスなどの開発も強化するとした。2020年11月には大慶油田馬鞍山地区で植林によるカーボンオフセット事業を開始した。11月11日に開業式典が行われた。適応力、生物多様性、景観、強い吸収効果に配慮し、総面積510ムー(約34万平方キロ)に落葉広葉樹と常緑針葉樹計2.126万本を二期に分けて植林し、大慶油田鉄人王進喜記念館におけるカーボンニュートラルに用いる。

なお、2020年11月のJOGMECとPetroChina親会社CNPC傘下のシンクタンクCNPC-ETRIとのワークショップの際に幹部は「二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)の研究に重点を置いている」と語った。

次に、CNOOCは2020年10月のQ3決算報告時に天然ガス生産を現状の21%から今後15年で50%に引き上げると表明した。また洋上風力の拡大を図るとしている。同社は2019年7月に上海で洋上風力発電を手掛ける「中海油融風能源有限公司」を設立した。資本金20億元(約3億ドル)で同社の全額出資子会社である。2020年9月には江蘇省沖合39キロ、水深約12メートルの海域に風力発電機67基(発電設備容量計30万kW)の設置を開始した。2020年末までにフル稼働する予定とされている。

2021年1月15日にCNOOCはカーボンニュートラル計画を立ち上げた。汪東進会長によると、天然ガスシフトと2025年までに天然ガスと新エネルギーを合わせた低炭素エネルギーの比率を60%以上とする他、南シナ海における天然ガスの増産、ゼロフレアや陸上グリッドの利用による油ガス田操業時の排出削減を進める。また2020年6月に同社は中国で初めてカーボンニュートラルLNGの取引を行った。Shell、Totalから計5隻のカーボンニュートラルLNGを購入し、二酸化炭素換算で112万トンの炭素クレジット(主に中国西部新疆、青海における植林)を得たという。

Sinopecは2021年1月に隆基(Longi) などの国内太陽光大手4社と太陽光発電、グリーン水素を含む水素事業の提携について協議した際、世界をリードするクリーンエネルギー・化学企業を目指しており、水素、地熱、太陽光、風力、バイオ等新エネルギー・再生可能エネルギーを重要な戦略的新興産業として発展させると表明した。

また同社は2018年7月に資本金100億元(約15億ドル)で設立したSinopec Capitalを通じ、新エネルギーベンチャー、グリーン製品、AIに資金を提供しており、水素と燃料電池の専門家と提携している。2019年は上海の燃料電池技術企業「Re-fire」に投資(投資額非公表)し、2020年10月には米国の電力会社「Cummins」と電気分解でグリーン水素を製造する技術開発で合意した。また中国最大の精製事業者である同社は2019年に天然ガス由来のグレー水素300万トンを生産(中国の水素総生産の14%)し、主に自社製油所で使用しているが、輸送燃料としての水素の可能性に注目し、投資の一部を水素と燃料電池に配分するという。2019年には水素ステーション4か所を開設し、さらに多くの計画がある模様(2020年11月の上海における石油・ガスセミナー時Sinopec発言)。

表 2:国有石油企業3社の低炭素化への対応

表 2:国有石油企業3社の低炭素化への対応
各種情報に基づき作成

(3) 中国国内では国連気候サミットにおける風力・太陽光の拡大目標について実現可能との見方

2020年12月12日、 “カーボンニュートラル”公表から3か月後に開催された国連気候サミットにおいて習近平主席は「1次エネルギー消費に占める原子力・再生可能エネルギーの比率を2030年に25%前後とする。風力発電と太陽光発電の設備容量(2019年9月時点で4.4億kWが送電網と接続)を2030年に12億kW以上に増やす。またGDP単位あたりの二酸化炭素排出量を2005年より65%以上削減し、森林蓄積量を2005年比で60億立方メートル増やすと表明した(表3)。

原子力・再生可能エネルギーの比率を2030年に25%前後(2019年15%)とする目標は「エネルギー生産・消費革命戦略」(2030年に20%前後)に比べ5%の上方修正となるが、中国国内では風力・太陽光の拡大目標は実現可能という見方が示された。なお、2019年の1次エネルギー消費に占める原子力・再生可能エネルギーの比率は15%、発電設備容量は風力・太陽光が合わせて4億1,000万kW、原子力が4,900万kWである。

表 3:2030年までの排出削減・低炭素化目標の変遷

表 3:2030年までの排出削減・低炭素化目標の変遷
各種情報に基づき作成

「能源雑誌」(2020年12月13日)によると、2030年に風力発電と太陽光発電の設備容量を12億kW以上に引き上げる目標を達成するためには、今後10年で風力発電と太陽光発電の設備容量を7.5億kW以上(年平均7,500万kW)追加する必要がある。13次五か年計画期間中(2015年から2019年)、風力発電と太陽光発電の設備容量は2.4億kW(年平均6,000万kW)増加したが、今後10年間の新規設備容量追加はこれを大幅に上回ることが必要だ。しかし、風力発電や太陽光発電の業界団体は14次五か年計画期間中の発電設備容量の増加ペースについてそれぞれ年5,000万kW以上、年7,000~9,000万kWと表明しており、両者を合わせると年平均1.2億kW以上になるという。また中国の研究機関が中国のエネルギー行政を所管する国家能源局に提出した報告では、風力と太陽光発電の新規発電設備容量を2030年まで年平均1.2億kW増設し17億kWとする場合、2030年の原子力・再生可能エネルギーが1次エネルギー消費に占める比率は25.6%に達するという。

現時点で習近平主席の国連におけるカーボンニュートラル宣言に基づく発電設備容量やエネルギー源別の消費に占める比率の全体像は公表されていない。そこでIEAが2020年10月に公表したWorld Energy Outlookのシナリオで全体像の類推を試みた。

風力・太陽光設備増強目標(2030年12億kW)は公表政策シナリオ(STEPS)とほぼ同じ(2030年11億4,000万kW)だが、この場合原子力・再生可能エネルギーが1次エネルギー消費に占める比率は19%で2030年に25%という目標は未達となる。2030年の風力・太陽光の発電設備容量を2030年に17億kWに増やすと、原子力・再生可能エネルギーが1次エネルギー消費に占める比率は25%に達する。中国の研究機関が国家能源局に提出した報告はIEA(STEPS)を10年前倒ししたイメージということが分かる(図2)。

図 2:IEA WEO2020に基づき作成
図 2:IEA WEO2020に基づき作成
STEPS:公表済政策を加味したシナリオ、SDS:国連の持続可能な発展目標(SDGs)のうち、エネルギー関連目標を達成すると想定したシナリオ

GDP単位あたりの二酸化炭素排出を2005年比65%以上削減するという目標はINDCや「エネルギー生産・消費革命戦略」で表明した「60~65%抑制」とほとんど変わらない。「中国気候変動第2次更新報告」(2018年12月)における2014年の温室効果ガス排出量のうちCO2の排出は、エネルギー活動に伴う排出が89.25億トン(CO2排出総量の98%)であり、工業生産、農業、廃棄物処理、土地利用の変化・林業(森林吸収分11.51億トンを差し引いた総量は91.24億トンとある。本稿では最新の数値が分からないため、BP統計における石油・ガス・石炭の燃焼活動に伴うCO2排出量を用い、GDP単位あたりのエネルギー燃焼に伴うCO2排出を試算した(図3)。2019年時点ですでに2005年比約50%削減しており、2030年に排出をピークアウトさせる目標は達成できそうだ(図3)。

図 3:GDP単位あたり二酸化炭素排出
図 3:GDP単位あたり二酸化炭素排出
BP統計、中国統計摘要2020に基づき試算、工業生産、農業、廃棄物処理、森林吸収分は含めず

(4) “2060年カーボンニュートラル”に海外から疑問符

国連気候サミットにおいて中国は、石炭の抑制目標やその対応については言及せず、2030年までの実行可能な対応を中心に、表明したようにも見える。その背景には、バイデン政権におけるエネルギー政策の発表を待ち、今回は踏み込んだ表現を避けたという見方がある。また米国や豪州との関係悪化でエネルギー安全保障への危機意識が高まっていることも石炭の抑制に触れなかった理由ではないか。

しかし国外からは2060年までのカーボンニュートラルの実現に疑義が呈されている。環境NGOグリーンピース東アジアSenior Climate & Energy Policy OfficerのLi Shuo氏は「これらの対応では2030年までに排出をピークアウトすることは可能でも、2060年までのカーボンニュートラルの実現は相当急峻な排出削減が必要だ」と国連気候サミット後にツイートした。

また、石炭の削減について、駐中国欧州連合(EU)代表部のNicolas Chapuis大使は2020年12月にCNPC傘下シンクタンクCNPC-ETRIとIHS-Markitが共催したエネルギーフォーラムにおいて、「中国が気候変動の公約を達成するためには石炭政策の見直しが不可欠である」と指摘した。また同氏は中国が世界最大の産炭国かつ消費国であり、海外の石炭火力発電所の建設にも積極的であることを踏まえ、「企業が石炭発電プラントを海外に輸出できないようにすること、特に一帯一路(BRI)諸国への補助金拠出を止めることが必要」と指摘した。また、国外での石炭発電所開発における中国の関与を終了させることに加えて、中国が今後20年以内にどのように石炭を削減するかについて明確な道筋を示す必要があると指摘した。


2. 市場化に向けた環境整備

中国では2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(18期三中全会)における“改革の全面的な深化における若干の重要な問題に関する中共中央の決定”における“現代市場システムの整備加速”という方針に基づき経済の市場化が進められている。中国の石油・天然ガス産業は生産から輸送、販売まで国有石油企業の寡占状態にあったが、段階的な市場化が進められている(表4)。

表 4:最近の市場化に向けた動き

表 4:最近の市場化に向けた動き
各種資料に基づき作成

(1) 上流(探鉱開発)

上流(探鉱開発)について、国有石油企業が生産の7割を占める寡占状態は変わらないものの、2012年9月のシェールガス鉱区入札以降、四川・重慶・貴州などの西南部のシェールガス探鉱開発事業への地方政府系企業、民間企業、異業種国有企業の参入(中国政府の求める多角的な投資主体、いわゆる“混合所有制”)が徐々に進んでいる。2019年6月30日には政府(国家発展改革委員会と商務部)が「外商投資アクセスのための特別管理措置(ネガティブリスト)2019年版」を公表(施行、同年7月30日)した。これにより外国企業は在来型・非在来型を問わず、中国企業とパートナーシップを結ばずに単独で石油・天然ガス探鉱開発への投資が可能となった。これを受けて、同年6月にはCNOOCが海洋鉱区入札を行っている。もっとも、この措置は中国の貿易政策に対する批判の中、開放を印象付けるイメージアップが目的という見方もあり、外国石油企業(IOCs)や中国の業界関係者は同国の複雑な地質や商業規模の成功が限定的な状況のもとでは、法律や規制を調整し、十分なインセンティブを設けなければ外国企業の関心をひくことは難しいとの指摘もある。


(2) 中流(輸送・貯蔵) ―国有石油会社からPipeChinaへの輸送・貯蔵資産売却、PipeChinaによる輸送・貯蔵資産の公開―

2019年3月19日、習近平国家主席がトップを務める中央改革全面深化委員会第7回会議において“石油天然ガスパイプライン網運営メカニズムの改革についての実施意見”が通過し、“多角的な投資主体”による国有の輸送・貯蔵会社を設立することが決まった。これを受けて、2019年12月9日に国家石油天然ガス管網集団公司(以下、PipeChina)が設立された。所在地は国有石油企業3社の本社と同じ北京市朝陽区である。PipeChinaの初代董事長(会長)に就任した張偉(Zhang Wei)氏(51歳)は国有3社と同じ中央企業であり、石油の貯蔵、トレーディング、精製石化事業を行う中化集団(SINOCHEM)の出身で、同社で20年以上の経験を積んでいる。総経理(社長)は元PetroChina総経理の候啓軍(Hou Qijun)氏である。従業員は500名で2020年6月時点では国有石油企業3社からPipeChinaに350名が転籍と報じられている。パイプラインやLNG受入基地などの輸送・貯蔵インフラの余剰能力の開放による供給源の多角化、統一的な輸送・貯蔵インフラ運営管理による効率向上が期待されている。

(2)-1. 国有石油企業からPipeChinaに資産売却

2020年7月以降、国有石油企業のPipeChinaへの資産売却が行われてきた。具体的には、PipeChinaから国有石油会社への株式と現金の支払いにより行われた。CNOOCの現金受領額は未公表だが、3社合計の売却額は650億ドル以上である。

設立当時の資本金は200億元で出資構成は国有資産監督管理委員会(以下、SASAC)が40%、国有石油企業3社が60%(CNPC 30%、SINOPEC 20%、CNOOC 10%)であったが、2020年7月に国有石油企業からPipeChinaへの輸送・貯蔵資産が売却されたことにより、5,000億元(710億ドル)に増資され、出資構成は国有石油会社3社47%(PetroChina 29.9%、Sinopec 14%、CNOOC 2.9%)、政府(SASAC)4.46%、国家ファンド4%(中投国際<CIC>2%、シルクロード基金2%)、その他全国社会保障基金理事会(年金)、中保投資有限責任公司(保険)などの機関投資家44.74%と“多角的な投資主体”による国有の輸送・貯蔵会社が実現した。PipeChinaは国有石油企業の輸送・貯蔵資産買収により幹線パイプラインの全てと地方のパイプライングリッドの一部、天然ガス地下貯蔵設備の4分の1、LNG受入基地の3割を取得した。9月30日に資産引き渡し式典が開催された。

図 4:PipeChinaの出資構成
図 4:PipeChinaの出資構成 各社公告、SIA Energyに基づき作成
PetroChina

2020年7月23日、PetroChinaは傘下の原油・天然ガス・石油製品貯蔵・輸送子会社保有株式ならびに付随するパイプライン、貯蔵設備について、その評価額に20.56%上乗せし、2,687億478万元(384億ドル)でPipeChinaに売却した。PipeChinaからPetroChinaに株式29.9%(1,495億元≒500億ドル相当)と、現金1,192億元(170億ドル)により支払いが行われた。

PetroChinaの主な売却資産は、同社子会社の「管道(パイプライン)有限責任公司」(PetroChina保有の株式72.2616%)で、その対価として、PipeChinaの株式28.3347%(1,416億735万元、214億ドル相当)および現金を受け取った。また、同じくPetroChina子会社の広東省天然ガスグリッド有限公司(PetroChina保有の株式23%)について現金582.04億元(83億ドル)で売却するなど、地方の天然ガスパイプライングリッドも売却の対象となった。なお、2020年7月23日の時点でPetroChina傘下の昆侖能源(Kunlun Energy)とPipeChinaの間で合意できていなかった、北京市天然ガスパイプライン有限公司(崑崙能源60%、北京燃気集団40%)および大連LNG公司(崑崙能源75%)の資産売却については、12月22日にPipeChinaに現金408億8,600万人民元(58億ドル)で売却した。現時点では、崑崙能源からの売却を合わせ、PipeChinaからPetroChinaに株式29.9%(214億ドル相当)と現金1,601億元(229億ドル)が支払われている。

Sinopec

2020年7月23日、Sinopecは原油・天然ガス(石炭合成ガス)・石油製品貯蔵・輸送子会社保有株式ならびに付随するパイプライン、貯蔵設備についてPipeChinaに1,226億元(175億ドル)で売却した。主な売却資産は原油貯蔵・輸送子会社の中石化冠徳(Sinopec Kantons)ならびに天然ガス公司でPipeChina株式4.56%はSinopec天然ガス公司が保有している。広西壮族自治区北海(Beihai)LNG受入基地保有株式も売却された。PipeChinaからSinopecに株式14%(700億元、100億ドル相当)と現金75億ドルにより支払いが行われた。

CNOOC

CNOOCの売却額を含む状況は対象資産を保有していたCNOOC Gas &Powerが非上場のため公表されていないが、9月30日までにCNOOCからPipeChinaへの資産売却が完了し、CNOOCはPipeChinaの株式2.9%(21億ドル相当)を取得している。主な売却資産はLNG受入基地で、PipeChinaのLNG受入基地余剰能力の公開対象となっている天津FSRU、広東省深圳・迭福(Shenzhen・Diefu)、広西壮族自治区防城港(Fangchenggang)、広東省粤東(Yuedong)、海南省洋浦(Yangpu)LNG受入基地と類推される。

表 5:国有石油会社のPipeChinaへの資産売却

表 5:国有石油会社のPipeChinaへの資産売却
各社公告、SIA Energy、PipeChinaに基づき作成

(2)-2. PipeChina、輸送・貯蔵設備を開放

2020年10月以降PipeChinaは管理下の原油・石油製品、天然ガス輸送・貯蔵設備、LNG受入基地を開放し、基本情報ならびに余剰能力、価格、利用方法を公開した。

図 5:PipeChina移譲後の幹線パイプライン
図 5:PipeChina移譲後の幹線パイプライン
出所:SIA Energy

これまで幹線パイプライン(約9万6,000キロメートル)は国有石油企業3社が8割前後を押さえ、地域のガスパイプライン網(グリッド)の株式も一部は国有石油企業が保有していた。国有石油会社からPipeChinaへの売却により、PipeChinaは幹線パイプライン資産全てを取得した他、吉林、山東、浙江・江蘇、貴州、江西、福建、広西など各省・自治区の地域ガスパイプライングリッドの株主となった(図5、表6)。広東省では国有石油企業3社が保有していた広東省天然ガスパイプライングリッドの株式(CNOOC 26%、CNPC、Sinopec各23%)がPipeChinaに移譲され、PipeChinaが最大株主となった。2020年9月24日にPipeChinaは広東省政府と広東省ガスパイプライングリッドをPipeChinaの子会社とする戦略的協力協定を締結した。協定によると、広東省政府とPipeChinaは、広東省内のガス配送の建設・運営を行う唯一の機関として、PipeChina広東ガスパイプライン(グリッド)を設立し、建設、運営、配送、保守を行う権限を持つ。またPipeChinaは広東省全域にネットワークを拡張し、広東省の全ての都市がパイプライングリッドに接続する計画を進めている。

表 6:中国の天然ガスの構造

表 6:中国の天然ガスの構造

天然ガス地下貯蔵について、PetroChinaとSinopecが主に枯渇油ガス田を利用(一部は岩塩ドーム)した設備が24か所操業中であり、払い出し可能量(ワーキングガス)は2019年時点で23Bcm(天然ガス消費の7%、約1か月分に相当)である。

PipeChinaは西気東輸パイプライン沿線に位置する河南省中原・文(Zhongwen・Wen)23、江蘇省金壇(Jintan)、江蘇省劉庄(LiuZhuang)天然ガス地下貯蔵設備(ワーキングガス計5.4Bcm)について基本情報ならびに余剰能力、価格、利用方法を公開した。操業中の天然ガス地下貯蔵設備(ワーキングガスベース)の約4分の1(5.43Bcm)が開放されたことになる。

表 7:PipeChinaが公開したガス地下貯蔵設備(2020年12月)

表 7:PipeChinaが公開したガス地下貯蔵設備(2020年12月)
出所:PipeChinaに基づき作成

LNG受入基地について22か所(8,100万トン)が操業中である。新奥(ENN)、申能(Shenergy)、九豊(Jovo)、広匯能源(Guanghui)、深圳燃気(Shenzhen Gas)などの民間・地方政府系企業が独自に基地を建設する動きはあったものの、国有石油企業3社が受入能力の9割を占めていた。

国有石油会社からPipeChinaへの資産売却後PipeChinaがLNG受入能力(操業中8,100万トン)の29%について最大株主となった(CNOOC 24%、CNPC 16%、Sinopec 15%、民間・地方政府系事業者(Tier-2)16%)。PipeChinaは広西・北海(Beihai)、広西・防城港(Fangchenggang)、海南・洋浦(Yangpu)、深圳・迭福(Diefu)、天津(Tianjin)、広東・粤東(Yuedong)の6基地(操業中、計2,640万トン)について基本情報ならびに余剰能力、価格、利用方法を公開した(図6、表8)。

図 6:PipeChinaへの資産売却後のLNG受入基地、表 8:PipeChinaが公開したLNG受入基地
図 6:PipeChinaへの資産売却後のLNG受入基地 出所:SIA Energy
表 8:PipeChinaが公開したLNG受入基地 出所:PipeChinaに基づき作成

公開に先駆けて2020年11月17日には広東省の民間企業 JOVO Energy がPipeChina の海南・洋浦 LNG受入基地を利用し輸入したLNGの積み出しを行った。同基地で初めての第三者アクセス(TPA)である。洋浦受入基地の能力は年300万トンだが、主要消費地から離れていることもあり年間利用率は3割程度と低かった。

LNGの一部は小型船でJOVOの広東・東莞(Dongguan)受入基地(受入能力年100万トン)に出荷され、残りは海南で販売される。東莞基地は9万立方メートル以下の中・小型LNG輸送船しか接岸できないが、JovoはPetronasと年70万トン(2017~2023年、FOB)の中・小型LNG輸送船ベースの売買契約を有している。国内で小型船に積み替えることでLNGの輸入・自社基地への供給拡大を実現した。

余剰能力を活用したのは地方政府系や民間ばかりではない。CNOOCは広東省深圳・迭福(Diefu)LNG受入基地を利用しLNGを貯蔵した。さらに幹線パイプラインにアクセスし、内陸部への供給(販路拡大)を実現したと報じられている。

ここ数年地方政府系や都市ガス企業などがLNG受入基地の出資者としてTerminal Use Agreement(TUA)によるLNGの輸入を行っており、2020年は特にLNG受入基地を利用し、安値で推移していたスポットLNGを輸入する動きが目立ったが、今後JOVOやCNOOCのような基地活用が増えると期待されている。


(3) SHPGXにおける最近の輸入LNG取引、LNG共同調達プラットフォーム開設の動き

天然ガス・LNGの取引については2015年3月に政府主導で上海石油天然気交易中心(SHPGX)が設立され、2016年から天然ガス・LNGの現物取引を開始した。

SHPGXは2020年6月以降カーボンニュートラルLNGの取引、LNGのオンライン取引、国際LNG取引などを行っているが、今のところ、いずれも試行的なものである(表9)。トラックLNG出荷価格、北東アジアスポットLNG価格の高騰や“地政学的な緊張”(米中、豪中)により、中国独自の価格(市場指向のガスインデックス)への期待が高まった可能性があるが、油価連動の長期契約をパイプライン・LNGともに抱えており、短期的には中国独自の価格指標が広く認知されるようになるのは困難と思われる。

表 9:SHPGXによる最近のLNG取引、取引プラットフォーム開設の動き

表 9:SHPGXによる最近のLNG取引、取引プラットフォーム開設の動き
各種情報に基づき作成

3. 天然ガス不足再来

(1) 2017~2018年冬季の天然ガス不足発生とピーク需要への備え

中国では2017年末から2018年初頭にかけて北部を中心に深刻な天然ガス不足が発生した。中国の北部(図7の緑色のエリア)では11月15日から3月15日にかけて集中暖房によるピーク需要期に当たり、気温低下などで天然ガスの不足が生じることは珍しくはなかった。しかし2017年から2018年の冬季は大気汚染防止政策による燃料転換目標達成のため、地方政府が燃料の確保を十分に行わずに、石炭から天然ガスへの転換(“Coal to Gas”)を強行したことで深刻なガス不足となり、経済や国民生活に支障が生じた。その後燃料転換政策の緩和と政府主導でピーク需要への備えを進めたこと、比較的穏やかな気温であったことから、2018年から2019年冬季および2019年から2020年冬季は需要増にもかかわらずガス不足は発生しなかった。

図 7:中国北部の冬季集中暖房エリア(緑色のエリア)
図 7:中国北部の冬季集中暖房エリア(緑色のエリア)
各種情報に基づきJOGMEC作成

中国政府が主導した天然ガスピーク需要への備えは主に次の通りである。

【石炭からガスへの転換政策の緩和】

政府は地方政府に対し供給を確保してから設備の転換を行うこと、天然ガス、電気、低排出炭などの地域の状況に合致した転換を行うことなど、石炭から天然ガスへの“無理のない転換”を働きかけた。

【天然ガス貯蔵設備の増強】

「天然ガス貯蔵設備建設の加速ならびにピーク需要向けガス貯蔵システム構築に関する意見」(2018年4月国家能源局)に基づき、天然ガス貯蔵の増強を政策的に進めている。

ワーキングガス量目標2020年15BCM、2030年35BCM

ピーク需要向けガス貯蔵目標:PetroChinaなどの供給者は供給の10%(約36日)、都市ガス配給事業者は需要の5%(約18日)、各地方政府が消費の3日分の在庫を持つことが求められている→法的拘束力はなく、地方政府などのインフラ整備は進んでいない。

【地下貯蔵と冬季のLNG調達】

天然ガス地下貯蔵へのガスの貯蔵:PetroChina、Sinopecなどの国有石油企業が夏・秋季(不需要期)に貯蔵を行い、国家能源局がそれを把握。(国家能源局は2020年11月初旬時点で地下貯蔵は前年比5Bcm増、冬場の備えを強調)

スポットLNGの手配:PetroChinaなどが11月初旬頃までに冬季ピーク時のスポットLNGを手配

【ガス不足発生時の需給調整】

「2020年のエネルギー安全保障に関する指導意見」(2020年6月国家発展改革委員会・国家能源局)によりピーク時(需給調整)ユーザーリストならびに「緊急時供給保障計画」を作成し、ピーク時の供給を状況に応じ実施する。家庭のガスを確保した上で、学校、病院、老人福祉施設、集中暖房(熱・ガス供給)、公共バス・タクシー向けに優先的に供給を行うとされた。

この他2019年には天然ガスパイプラインの接続、連携やコンテナLNGの南部から北部への試験輸送など南北間の緊急時ガス融通と新たな輸送方式を模索する動きもあった。


(2) 2020年冬季、異例の南部発天然ガス不足発生

中国国家統計局によると2020年の中国の天然ガス生産は前年比9.8%増の189Bcm(1億3,782万トン)である。輸入は同5.3%増の139Bcmでこのうちパイプラインガスの輸入は前年比5%減の47.6Bcm(3,452万トン)、LNGは11%増の6,713万トンであった。CNPC-ETRIによると消費は約4%増の320Bcmの見通しである(図8)。

図 8 中国の天然ガス需給
図 8:中国の天然ガス需給
各種情報に基づき作成

2020年11月初旬には、寒波予測に関わらず今冬の天然ガス需給バランスは均衡との見方が優勢であった。10月の定例記者会見で国家発展改革委員会は天然ガス地下貯蔵を昨年比5Bcm増加、全体の需給バランスは往年より良好と指摘していた。また、Sinopecは天然ガスの需要について2020年初めの数か月は新型コロナウイルスの感染拡大で需要が伸びなかったが、後半は経済回復により産業用需要が伸びた。2020年通年のGDPは2.3%と44年ぶりの低成長だが、新型コロナウイルスによるロックダウンで第1四半期(1月から3月)は6.8%減となったがその後政府主導企業活動の再開が進みプラス転換、第4四半期には6.5%増となった。2020~2021年冬季の天然ガス需要は前年同期比10%増の148Bcmに増加するが、国内生産が拡大する一方、液化天然ガス(LNG)輸入が過去最高水準に達していることから、均衡が維持されるとの見解を示していた。ところが11月下旬に広東省などの南部で天然ガス不足が発生(南部の冬季のガス不足は異例)、各地に波及した。

中国では国産LNG液化プラント(随伴ガス利用)ならびにLNG受入基地からのトラック(ローリー)LNGの流通量が天然ガス消費の1割強の2,900万トン(2019年)あり、SHPGXは国内14地域50か所のトラックLNG出荷価格をモニタリングし、公表している。そのLNG全国出荷価格が11月下旬の11ドル/MMBtuから、12月下旬に20ドル/MMBtuに上昇後一旦下落に転じたが、1月の“最強寒波”で再び上昇傾向にある(図9)。トラックLNG出荷価格は中国のガス市況全体を示してはいないが需給不均衡時供給抑制の対象となり、自由価格で変動幅が大きいことから天然ガス不足の一端を示す指標となっている。

図 9:中国のLNG出荷価格
図 9:中国のLNG出荷価格
SHPGXに加筆

南部発天然ガス不足の要因として2件の天然ガス供給トラブルがあげられる。まず、11月2日に起きた北海LNG受入基地の火災で同基地が閉鎖(12月25日再開)、受入能力が低下した。また11月19日から停電によりトルクメニスタンの天然ガスパイプラインのコンプレッサーが故障し、供給が1週間程度契約量を下回った。また第4四半期(10月)以降の経済の急速な回復(輸出増加により産業用エネルギー需要が予想を上回るペースで増加)した。LNGを燃料とするトラックの増加(前年比15万台増)も需要を後押しした。

折悪しく、同時期に東南部沿海地域では電力不足が発生した。経済回復で電力負荷が高まる中、12月に東部・南部で気温が低下した。生活水準向上で南部も暖房(エアコン)需要が増加した。

石炭炭鉱安全検査の強化や豪中関係悪化による豪州炭の輸入抑制・通関手続き遅延等により発電用石炭在庫も低下した。水力発電は渇水で稼働率低下し電力需給がひっ迫した。12月中旬以降浙江、湖南、上海、首都北京などの各地で電力供給制限(計画停電)が実施された。ガスは家庭の暖房などの優先分野への供給で発電向けの追加需要に十分に対応することができなかった。


(3) 供給システムにおける課題

供給トラブルと経済の急速な回復による需要増加、供給側の需要の読みが甘いとの指摘もあるが、需要側の契約抑制(不足時はスポットLNGの安値調達、国有石油企業から追加調達が可能と楽観し、需要増加を把握していたにもかかわらず調達を抑えた)や国有石油会社とPipeChinaの供給責任の押し付け合いが事態を悪化させたとの見方もある。今回の天然ガス不足発生で供給システムにおけるソフト面の運用を含めた課題が露呈した。

業界紙によるとPipeChinaは「操業上の安全が最優先。ガス資産を保有しておらず、調整と輸送にのみ責任を負う。」とし供給・調達の責任は国有石油企業にあると主張している。一方、国有3社は「冬季のガスは生産・輸入共に十分に確保。PipeChinaは幹線パイプライン、LNG受入基地、貯蔵タンク、ガス地下貯蔵設備を有しており、安定供給責任はPipeChinaにある。また契約外の追加需要に対する供給増量についてPipeChinaの承認に時間がかかることが問題。」とし、PipeChinaの安定供給責任を指摘し、硬直的な組織体制を批判している。都市ガス会社は「これまでガスが不足した場合はNOC(特にPetroChina)がスポットLNGを輸入して不足を緩和していたが、現在国有3社は「契約量を保証しているだけ」と述べ国有石油会社が安定供給責任を果たしていないと非難している。

2021年12月21日、国家発展改革委員会経済運行局の責任者はメディア(新華社)を通じ、冬季暖房向け天然ガス不足への懸念を払しょくした。

まず国産ガスの生産が前年比9.3%増加しており、中露パイプライン中部区間完成が12月に完成、ガスが北京まで到達していること、輸入LNGも冬季に備え調達が済んでいると供給が十分にあることを強調した。次にガス地下貯蔵量は前年比4Bcm増加しており、残存貯蔵量は90日分あるとしてピーク需要への備えがあることを強調した(図9)。

また家庭・民生(学校、病院や公共輸送等)への供給は優先的に行われ、保証される。国有石油企業3社と工業ユーザーがピーク時需給調整(供給抑制・停止)に向け、秩序ある調整計画を策定していることも伝えられた。さらに北東アジアスポットLNG価格が高騰しているがスポットLNGの追加調達はごく少量で影響は限定的であること、民生用ガスは冬季前の調達の範囲内で供給されており、価格はシティゲート値上げ上限20%以下で厳格に統制されていると価格面のついても心配がないことを伝えた。1月に入り中国にも“最強寒潮(寒波)”が到来したが、冬季ピーク需要への備えもあり、天然ガスは局地的な不足や供給が絞られているトラックLNG出荷価格の高値は続くものの、全体的にはバランスがとれている。

図 10:冬季暖房ピーク需要への地下貯蔵
図 10:冬季暖房ピーク需要への地下貯蔵
出所:新華社網(2020年12月21日)

さらに中国では、ロシアからの天然ガス輸入の増量で供給懸念が和らいだと言われている。ロシアからの「シベリアの力」パイプインを通じた天然ガス供給は2020年1月から12月25日までに3.85Bcm供給されており、12月には中国国内中部区間(吉林長嶺~河北永清1,110キロメートル、19年7月着工、20年12月稼働)が開通した。2021年の供給量は10Bcmに増量されるという。

ちなみに、中国でトラックLNG出荷価格が高騰する中、日本の西部ガスが中国にコンテナLNG本格出荷を始めた。ジャスダ・エナジー・テクノロジー(上海)社向けにISOコンテナ(18トン)を利用しLNG輸出を行う。12月14日には初回出荷の40コンテナ(約720トン)を、北九州港のひびきコンテナターミナルから専用のコンテナ船で中国山東省へ出荷。海外向けのISOタンクコンテナによる一度のLNG出荷としては、これまでで最大である。2020年12月から2021年3月までの4カ月間(週1回、合計14回)で合計約1万2,000トンを出荷するという。

西部ガスはジャスダとISOタンクコンテナによるLNG供給のビジネスモデル構築に向けた覚書に調印(2019年10月)、2020年1月に15コンテナ(270トン)を定期コンテナ船で上海港に輸送するトライアル出荷を実施していた。2020年11月30日にはロシアNovatek子会社 Novatek gas & Power Asiaと共同でISOコンテナを中国向けにトライアル出荷(2019年9月のHoAに基づく実証)も実施した。中国老虎清潔能源有限公司(Tiger Gas)のISO コンテナを使用し、ひびきコンテナターミナルから上海へ出荷したものである。

西部ガスの動きは中国のガス不足緩和とまではいかないまでもガス輸送の多様化政策に貢献していると言えよう。


さいごに

2021年1月に入り、中国でも“最強寒潮(寒波)”が到来しているが、冬季需要に備えていた中国の天然ガス需給は局地的、トラックLNG出荷価格の高騰は続くものの、全体的にはバランスを取り戻した。

中国は2017~2018年冬季の石炭から天然ガスへの転換政策の強硬による天然ガス不足発生後、政府主導で中国はガス貯蔵設備の整備を含めた冬季ピーク需要への備えとPipeChinaによる輸送・貯蔵の一元管理を進めてきた。しかし2020年11月下旬の天然ガス不足発生で供給システムは依然脆弱な状況に見える。国務院のシンクタンク、発展研究センター資源環境政策研究所の郭氏は、「天然ガスの不足は短期的かつ局地的なもので、天然ガスの供給は相対的に豊富で複数の供給源がある。」とした上で、「PipeChinaは本格操業からまだ時間が経っていないが、天然ガス輸送・操業調整に関する規定の公開、グリッド容量取引市場の設立、全国の天然ガス輸送の調整について速やかに整備すべきである」と指摘した。低炭素化と市場化が加速する中、エネルギー安定供給と緊急時のバックアップシステムがより一層重要だ。

中国の2021年の天然ガス消費は前年比5~7%増(15~23Bcm増)の350Bcm前後と見込まれる。ロシアからのパイプラインガス輸入が増量するが、早ければ2021年にも日本を抜き世界最大のLNG輸入国となる可能性があり、LNG市場への影響が高まる。中国の天然ガス市場化、供給システムの整備、運用は今後も注視する必要がある。

参考

2030年、風力・太陽光発電設備容量12億kW以上」という目標をどう見るか?「能源雑誌」2020年12月13日)

「中国における最近の天然ガスの状況と市場化の動き」(石油天然ガス資源情報2019年10月)

「低油価、COVID-19、政策に翻弄される中国の石油・天然ガス産業」(石油天然ガス資源情報2020年4月)


以上

(この報告は2021年1月26日時点のものです)

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