ページ番号1008945 更新日 令和3年1月28日

(短報)豪州北部準州Beetaloo堆積盆Kyalla Shale層の低CO2・リッチガスの発見

レポート属性
レポートID 1008945
作成日 2021-01-28 00:00:00 +0900
更新日 2021-01-28 10:39:08 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG企業
著者 庄子 達也
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 7
抽出データ
地域1 大洋州
国1 オーストラリア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 大洋州,オーストラリア
2021/01/28 庄子 達也
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概要

  • 豪州北部準州(NT)のBeetaloo堆積盆でCO2含有量1%未満のリッチガス(注)の発見が報告された。この発見は水圧破砕法によるフラッキングとその生産テストを伴う探鉱によるNTのモラトリアム解禁後初の発見である。(注)C2(エタン)、C3(プロパン)、C4(ブタン)等の含有量が多い天然ガス。
  • 鉱区はダーウィンの南約600キロメートルの陸上鉱区EP117で、地下1,800メートル付近のLower Kyalla Shale層。
  • 商業化に向けた課題としては、フラッキングを伴う石油ガス探鉱・開発への地元理解や探鉱・開発・生産コストが挙げられる。
  • Covid-19からの経済復興政策である豪州連邦政府のGas-fired Recovery戦略やその具体的な重要政策であるBeetaloo Basin Strategic Planを有効に活用し、商業化に向かうか注目が集まっている。

(出所:Origin Energy Limited社PR、Falcon Oil & Gas Ltd社PR、 IHS、Energy News Bulletin他)


1. 今回の発見の内容

2021年1月19日、豪州のユーティリティー会社Origin Energy Limited(本社:シドニー)の子会社(以下Origin)とカナダのE&P会社Falcon Oil & Gas Ltd(本社:ダブリン)の子会社(以下FOG)の共同事業体(Origin/FOG)が探鉱中の豪州北部準州Beetaloo堆積盆のEP117鉱区で低CO2・リッチガスの発見を報告した。Origin/FOGは、EP117に隣接する鉱区EP76とEP98でも探鉱中で既に2017年2月にEP117、EP98、EP76の地下2,000メートル-3,000メートルに広がるVelkerri B層でのガス発見(確認埋蔵量(2C)6.6tcf)を発表しているが、今回はこのVelkerri層より浅い地下1,000メートル-2,000メートルに広がるLower Kyalla Shale層で低CO2・リッチガスが発見された。ガスの埋蔵量はまだ発表されていない。

表 1:Kyalla 117の発見概要、出所:FOG PR(2021年1月19、22日付)

図 1:鉱区EP117及びKyalla117井の位置
図 1:鉱区EP117及びKyalla117井の位置
出所:FOG Annual General & Special Meeting 10 December 2020
図 2:Kyalla117 N2-1及びKyalla117N2-1HST2の掘削の概要
図 2:Kyalla117 N2-1及びKyalla117N2-1HST2の掘削の概要
出所:FOG Annual General & Special Meeting 10 December 2020

2. これまでの探鉱経緯

Origin/FOGが探鉱中の北部準州陸上鉱区EP117、EP98、EP76は、2000年代初頭にFOGが各鉱区の探鉱ライセンスを取得し、自身でオペレーターとなりShenandoah-1の掘削(掘削長2,703メートル)を含む探鉱・評価を開始したことに始まる。FOGは、一時カナダの石油会社Hessの子会社Hess Australia Pty Limited(以下、Hess)へ上述3鉱区の探鉱権益63.5%をFarm-Out(FO)するが、2013年7月譲渡条件となっていた探鉱井5本の掘削義務をHessが怠ったとして譲渡を取り消している。

2014年5月にQLD州のAPLNGで上流事業のオペレーターとして非在来の石炭炭層ガスの開発経験を有するOrigin社をオペレーターに迎え探鉱作業を本格化させる。Origin/FOGは2015年から2016年にかけてKalala S-1(掘削長2,622メートル)、Amungee NW-1(掘削長2,609メートル)、AmungeeNW-1H(掘削長3,808メートル)、Beetaloo W-1(掘削長3,172メートル)の4本の評価井を掘削し探鉱を順調に進めた。

しかし、豪州全土で環境意識の高まりから水圧破砕を伴う探鉱・開発への慎重な意見が強くなり、NT政府が2016年9月に陸上鉱区での非在来資源の探鉱・開発・生産を一時禁止するモラトリアムが発令したことで、探鉱・開発のスケジュールの目途が見通せない状況となった。

それでもOrigin/FOGはそれまでに実施した探鉱データに基づき資源量評価を継続、2017年2月地下2,000メートル-3,000メートルに広がるVelkerri Shale B層のドライガスの確認埋蔵量(2C)を6.6tcfとする評価を発表した。

2018年に入ると上記モラトリアム発令後にNT政府が立ち上げた特別委員会により、非在来シェールガス探鉱・開発・生産についての科学的検証と地域と行政と産業界間のコミュニケーションに基づき「the Recommendations of the Scientific Inquiry into Hydraulic Fracturing」(以下RSIHF)が発表され、地域社会で受け入れ可能なシェールガスの探鉱・開発・生産の基準が示された。更に、2019年7月には上述RSIHFに示された探鉱作業を行う環境が整ったとしてNT政府は非在来ガス資源の探鉱許可を再開した。

これを受けOrigin/FOGは2019年9月から探鉱を再開し、Kyalla117 N2-1(掘削長1,895メートル、垂直性)、Kyalla117 N2-1HST2(掘削長3,809メートル、技掘による水平井1,579メートル含む)の評価井の掘削、水圧破砕テスト(11段フラクチャリング)、自噴による生産テスト(連続17時間)等実施した。また、それらから得たデータに基づき評価がなされ、2021年1月19日にNT州産業・環境・商業省にNotice of Discoveryを提出すると同時に今回の公表を行っている。FOGの2021年1月22日付RPによると、2021年第2四半期に60-90日程度の長期生産テストの計画を発表している。

表 2:これまでの経緯


3. 商業化に向けた課題

商業化に向けた課題は数多くあると思うが、当面の課題として以下2点を挙げておきたい。

図 3 RSIHFの進捗状況(出所:NT州HP)
図 3:RSIHFの進捗状況(出所:NT州HP)

一つ目は、上述RSIHFに基づく地域社会に受入可能な開発・生産の環境整備の完了とその時期である。左図は、NT政府のHPに掲載されているRSIHFで提案された138項目への対応の進捗率である。46%は完了している。残りの未達成の54%(75項目)は、環境や地域雇用に関する評価基準やガイドラインの策定等の項目が多くなっている。

これら75項目の完了なくして地域社会からの理解は得られず、ガス生産のスケジュール策定や必要なコストを鑑みた経済性評価は困難である。また、そのような状態で出資・融資を呼び込むことも困難であろう。当方が2019年9月に実施したブリーフィング「豪州(特に北部準州)におけるガス・石油開発の現状と方向性」では、関係者へのヒアリング調査から『本格的な生産には最低でも5年以上を要する』との見通しを報告した。コロナ禍の下、既にRSIHF発表から2年が経過し、2021年4月には同3年目を迎えることになる。後述する豪州連邦政府の戦略や経済対策がどんなに素晴らしいものでも、これを推進するためには、まずは地域社会の理解を得ることが必須であろう。RSIHFの条件が1日も早く充足されることが期待される。

2つ目の課題は、探鉱・開発・生産コストである。豪州のエネルギー情報誌Energy News Bulletinの記事「Origin Declares Beetaloo well a liquids-rich discovery」では、今回の評価井のコストをAUD50百万と推定しており、これは豪州の陸上石油・ガス井の中で史上最も高額なコストだと指摘している。Originが本件参入時にFOGと結んだ契約では、水圧破砕テストを伴う評価井のコストをAUD24-27百万/井としており、今回のコストはその約2倍になっていることになる。このコスト増がCovid-19対策による一過性のものなのか、RSIHFへの対応による恒常的なものなのか明確な理由は明らかになっていない。ガス資源の豊富な米国やロシアではインフラが整っている上、サポートするコントラクター企業も多く、掘削コストや生産コストは豪州北部準州とは比べ物にならないほど安価であろう。豪州シェールガスのコスト競争力はまだまだ低い。例えば、埋蔵量が大きい、生産性が高い、あるいは生産量減退が抑制できるならば、経済性は向上する。また、今回の発見ではCO2含有量は低いとの報告であるが、CCSなどを組み合わせて「カーボンニュートラルのガス」と位置付けられるのであれば、差別化・高値販売も可能かもしれないが、CCSはまだ商業段階には至っていない。いずれにしても豪州初のシェールガス商業生産に漕ぎ着けるまでには紆余曲折が待ち構えていよう。


4. 豪州政府のGas-fired Recovery戦略とBeetaloo Basin Strategic Planの概要

上記課題に希望の光を灯しているのが、2020年9月に発表された豪州連邦政府のGas-fired Recovery戦略 と2021年1月に発表されたBeetaloo Basin Strategic Planである。

Gas-Fired Recovery戦略はモリソン首相自らが発表したCovid-19で落ち込んだ経済をガス資源・ガス利用の積極的活発を通じた経済復興政策である。

表 3:豪州連邦政府のGas-Fired Recovery戦略の概要

また、上記戦略のより具体的な重要政策としてBeetaloo Basin Strategic Planが以下のように策定されている。

表 4:Beetaloo Basin Strategic Planの概要


5. まとめ

2021年1月19日豪州北部準州(NT)のBeetaloo堆積盆のLower Kyalla Shale層でCO2含有量1%未満のリッチガスの発見が報告された。この発見は2018年4月にNTがモラトリアム解禁後に実施された水圧破砕法によるフラッキング(HF)とその後生産テストを伴う探鉱による初の発見となる。鉱区はダーウィンの南約600キロメートルに位置する陸上鉱区EP117の地下1,800メートル付近である。

商業化に向けた課題としては、フラッキングを伴う石油・ガス探鉱・開発に対する地元理解や探鉱・開発・生産コストが挙げられるが、豪州連邦政府のCovid-19からの経済復興政策であるGas-fired Recovery戦略やその中の重要政策であるBeetaloo Basin Strategic Planを有効に活用し商業化に向かうか注目が集まっている。


以上

(この報告は2021年1月22日時点のものです)

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