ページ番号1008956 更新日 令和3年2月15日

原油市場他:新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大及び米国追加経済対策実施への期待の増大等で、1年超ぶりの高水準にまで上昇する原油価格

レポート属性
レポートID 1008956
作成日 2021-02-15 00:00:00 +0900
更新日 2021-02-15 13:42:57 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 42
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2021/02/15 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、ガソリン需要が持ち直してきたこともあり、製油所での原油精製処理活動も多少なりとも活発化したが、かえって需要以上にガソリンが生産されたと見られることから、同国のガソリン在庫は増加した。また、経済活動が部分的にせよ回復していると見られることで軽油需要が喚起されたうえ、同国北東部で気温が低下したことにより暖房油需要が発生したことから、留出油在庫は減少した。原油についても製油所での処理が進んだうえ輸出が堅調であったことから、在庫は減少した。ただ、ガソリン、留出油及び原油の各在庫は平年幅上限を超過している。
  2. 2021年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国で減少した他、日本でも冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入したこともあり製油所の稼働が維持されたことにより原油在庫は減少した。また、欧州では製油所での原油精製処理活動が上向いたことから原油在庫は減少した。このため、OECD諸国全体としても原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では冬場の暖房シーズン到来に伴い灯油需要増加とともに当該製品在庫が減少したこともあり、また、米国でも、プロパン/プロピレン及びブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、両国の石油製品全体の在庫は減少した。他方、欧州では、製油所で上向いた精製活動により増加した石油製品生産を需要で相殺し切れなかったことから、石油製品在庫は増加した。ただ、結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり平年幅上限付近に位置する量となっている。
  3. 2021年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場では、2月1日に米国北東部に猛烈な寒波が来襲したことや、同日米国連邦議会上下院において追加経済対策実施のための2021会計年度予算決議案が提出されたこと等による同国当該対策実施への期待が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、1月15日にはWTI終値で1バレル当たり52.36ドルであった原油価格は上昇基調となり、2月12日には同59.47ドルと、2020年1月9日以来の高水準に到達した。
  4. 今後は、春場の製油所メンテナンス作業実施シーズン突入に伴う季節的な原油購入意欲の低下による石油需給の緩和感が市場で強まり始めることが、原油相場のさらなる上昇を抑制する可能性があるが、足元で気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。また、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで感染が抑制されることに加え、経済成長の減速感が強まっても米国で大統領及び連邦議会上下院の主導権を事実上掌握している民主党が中心となり景気刺激策が実施されることにより、経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復する一方で、仮に石油需給緩和の兆候が見られてもサウジアラビアを中心とするOPECプラス産油国が先制的に減産措置を実施するとの期待が市場で広がりつつあるところからすると、金融緩和状態に伴う投資資金の流入と相俟って、原油価格は上振れしやすいものと考えられる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)


1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2020年11月の米国ガソリン需要(確定値)は日量798万バレル、前年同月比で13.4%程度の減少と10月の同11.3%の減少から減少幅が拡大した(図1参照)他、速報値(前年同月比で11.4%程度減少の日量816万バレル)から下方修正された。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量73万バレル程度と推定されるところ確定値では同83万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。また、10月31日には84,235人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が11月27日には205,462人まで増加するなど感染が拡大するとともに、個人の外出が敬遠されたこともあり、11月の同国自動車運転距離数(月間値)が前年同月比で11.1%の減少と10月(同8.9%の減少)から拡大したことが、前月からの減少幅拡大の背景にあるものと考えられる。また、2021年1月の同国のガソリン需要(速報値)は日量782万バレル、前年同月比で10.8%程度の減少と12月の同国ガソリン需要(速報値)の同11.4%程度の減少から減少幅が縮小している。同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は12月11日に280,514人と当時としては史上最高水準に到達した他、12月31日も231,045人となるなど、同月はしばしば1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が20万人を超過するなど高水準が継続した他、1月8日には当該感染者数が300,594人へとさらに増加したものの、その後は減少傾向となり1月31日には113,512人となるなどしたことにより、個人の外出が多少なりとも行われるようになったと推察されることから、自動車による運転距離数が持ち直す兆候が見られる(1月24日までの米国乗用車運転距離数は前年同月比で8~11%程度の減少と、12月(同10~19%程度の減少)から減少幅が縮小している)ことが、同月のガソリン需要の減少幅に反映されているものと考えられる。また、このように同国のガソリン需要が相対的に堅調になってきていることもあり、米国でのガソリン価格が上昇するとともに製油所でのガソリン生産のための精製利幅が拡大してきていることにより、同国製油所での原油精製処理量が若干ながら増加傾向となる(図2参照)とともに、ガソリン生産活動もそれなりに活発化したものと見られる(ガソリン最終製品の生産は図3参照であるが、むしろガソリン混合基材の生産が進んだものと推測される)結果、かえって1月上旬から2月上旬にかけ米国のガソリン在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~21年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~21年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~21年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~21年)

2020年11月の同国の留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量389万バレルと前年同月比で7.4%程度の減少となり、10月の同4.8%程度の減少から減少幅が拡大した他、速報値である日量397万バレル(同5.5%程度の減少)から下方修正された(図5参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量96万バレル程度と推定されるところ、確定値では同108万バレル程度へと上方修正されたことで、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。また、11月の同国鉱工業生産が前年同月比で5.4%の減少と10月の同5.0%の減少から減少幅が拡大した他、11月の物流活動が前年同月比で3.8%の減少と減少幅が10月のそれ(同3.6%の減少)から拡大しているなどしていることから、製造活動及び物流活動ともに減速していることが、同月の留出油需要の前年同月比での減少幅拡大に寄与しているものと考えられる。他方、2021年1月の留出油需要(速報値)は日量401万バレルと前年同月比で0.4%程度の増加となっており、12月の当該需要(速報値)の同365万バレル(同7.1%程度の減少)から相当程度上振れしている。同月の同国非農業部門雇用者数が前月比で4.9万人の増加と2020年12月(この時は同22.7万人の減少)から回復している他、1月は下旬に同国北東部(暖房用石油製品需要の中心地)が相当程度冷え込んだこともあり前年同月と比べ寒冷になったことから、暖房油の消費が堅調であったことが、留出油全体の需要に影響した可能性はあるが、その他の同国経済指標類はまちまちであったことに加え、同月の同国からの留出油輸出(速報値)が推定で日量91万バレルと過去5年間(日量92~128万バレル)と比較しても低い部類に入ることを考慮すれば、当該需要が速報値から確定値に移行する段階でそれまで国内需要に計上されていた一部の量が輸出として計上し直される結果、留出油需要が下方修正されるといった展開となる可能性も否定できない。また、9月上旬頃以降11月中旬頃にかけては米国の留出油在庫が減少傾向となったことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房油需要期に突入したこともあり、同国製油所における留出油生産のための精製利幅が増大したこともあり、10月中旬~下旬頃から12月にかけ製油所の稼働が上昇したうえ、1月上旬から2月上旬にかけても概ね稼働及び留出油生産が維持された(図6参照)ものの、留出油需要(及び輸出)の持ち直しを相殺し切れなかったことから、1月上旬から2月上旬にかけ米国の留出油在庫は減少傾向となったが平年幅上限を超過する水準は継続している(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~21年)

図6 米国の留出油生産量(2009~21年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~21年)

2020年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で9.8%程度減少の日量1,870万バレルとなった(図8参照)。ガソリン、ジェット燃料及び留出油を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を割り込んだことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。また、ガソリン、留出油及びその他石油製品需要等の確定値が速報値から下方修正されたこともあり、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,918万バレル、前年同月比7.5%程度の減少)から下方修正されている。また、2021年1月の米国石油需要(速報値)は日量1,944万バレルと前年同月比で2.3%程度の減少となった。12月には前年同月比で減少していた留出油需要が1月には増加に転じるなどしたことが一因となり、12月の同国石油需要(速報値)の前年同月比8.6%程度の減少よりも減少幅が縮小している。ただ、1月のその他の石油製品の需要は日量447万バレルと前年同月比で同62万バレルの増加となっているが、過去の実績(2019年12月~2020年11月の1年間(確定値)で日量349~424万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。他方、1月上旬から2月上旬にかけては、米国での原油生産量は概ね限られた範囲で推移した一方、製油所での原油精製処理量が若干ながら増加傾向となった他原油輸出が概ね高水準を維持した(当初2021年1月1日以降(2022年4月30日まで)2020年12月比で日量190万バレル緩和する予定であったOPECプラス産油国減産措置が、2020年12月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で1月は日量50万バレルの緩和にとどめることになったうえ、2021年1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合でも2~3月につき各月それぞれ同7.5万バレルの緩和にとどめる旨決定、さらに1月のOPECプラス産油国閣僚級会合の際にサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したこともあり、より中東に距離的に近い欧州での石油需給引き締まり感が市場で発生したことにより、欧州の指標原油であるブレントの価格がWTIに比べて相対的に割高になったこと等が影響している可能性がある)ことにより、同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図9参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~21年)

図9 米国原油在庫推移(2003~21年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~21年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~21年)

2021年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国で減少した他、日本でも冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入したこともあり製油所の稼働が維持されたことにより原油在庫は減少した。また、米国ガソリン価格が欧州のそれに比べ相対的に割高になるとともに米国等に向けガソリンを輸出する欧州でも精製部門でのガソリン生産に伴う利幅が改善したこともあり製油所での原油精製処理活動が上向いたことから当該地域での原油在庫は減少した。このため、OECD諸国全体としても原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本では冬場の暖房シーズン到来に伴う灯油需要期に突入したことによる当該製品在庫減少もあり同国の石油製品全体の在庫は減少した。米国でも、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入したことによりプロパン/プロピレン在庫が減少したことに加え、冬用ガソリンに混入するブタンの需要が堅調であると見られることによりブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫も減少した。他方、欧州では1日当たり新型コロナウイルス感染者数が減少傾向となる(12月30日の285,568人が1月31日には126,651人に)とともに経済活動も上向いていると見受けられることから、この部分で石油需要が上振れしている可能性もある他、米国でのガソリン価格が欧州のそれに比べ相対的に割高となっていることもあり欧州からのガソリン輸出が比較的堅調に行われているように見受けられるものの、欧州の一部諸国では都市封鎖等の個人の外出規制及び経済活動制限が強化され続けていることもあり経済活動及び石油需要の回復が顕著であるとは言い切れない部分があると見られることにより、製油所で上向いた精製活動により増加した石油製品生産を相殺し切れなかったことから、石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり平年幅上限付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2021年1月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は69.8日と2020年12月末の推定在庫日数(71.2日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~21年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~21年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~21年)

1月13日に1,500万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、1月20日も1,500万バレル台半ば程度の水準を維持した。1月27日には1,400万バレル弱程度の量へと減少したものの、2月3日には1,600万バレル弱程度の水準へと上昇、2月10日には1,500万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、概ね1月13日の水準近辺となるなど、当該在庫はこの期間比較的限られた範囲内で推移した。当該期間の大部分においてインドネシア等東南アジア諸国のガソリン需要が新型コロナウイルス感染拡大により総じて不振であった(なお、インドネシアは2月に入り1日当たり新型コロナウイルス感染者数が減少傾向となっていることもあり、ガソリン需要が持ち直す兆候が見られる)ことが、シンガポールからの軽質留分輸出を抑制したものの、中国等アジア諸国の製油所で春場のメンテナンス作業シーズンに突入しつつあることにより、これら諸国からシンガポール方面へのガソリン輸出が鈍化したことで相殺されたことが、シンガポールでの軽質留分在庫増減幅を限定させたものと考えられる。そしてこのようにシンガポールでの軽質留分在庫が比較的安定していたことから、アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は比較的限られた範囲で推移した。もっとも、シンガポールの軽質留分在庫は前年同期を相当程度(7~19%程度)上回るなどしていることから、軽質留分需給の緩和感を市場が意識した結果、ガソリンとドバイ原油の価格差は前年同時期を相当程度下回る状況となっている。

他方、12月10日午前0時前後に韓国LG化学の麗水(ヨス)石油化学工場中央制御室で火災が発生した結果操業を停止した同工場のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産116万トン)は1月18日に操業を再開した。また、韓国の麗川(ヨチュン)NCC(Yeochun NCC)の麗水にある第二工場のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産58万トン)(2020年10月20日にメンテナンス作業実施により操業を停止、12月半ばまでに操業を再開する予定であったが、労働問題の発生により遅延していた)も操業を再開した旨1月20日に報じられる。これらを含めアジア一部諸国で停止していたナフサ分解装置が操業を開始する結果原料となるナフサの需要が増加するとの観測が市場で発生したことに加え、中国等一部アジア諸国で製油所が春場のメンテナンス作業を実施しつつあることからナフサの供給水準が低下するとの見方が市場で増大したことが、アジア市場でのナフサ価格に上方圧力を加えた結果、ナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油のそれを概ね上回っている)は1月中旬から下旬前半頃にかけては堅調に推移した。しかしながら、その後は中国での春節(旧正月)に伴う休暇シーズン(2021年は2月11~17日)を控えた経済活動の減速に伴う石油化学製品需要の低下観測に加え、パナマ運河周辺において滞船していた(濃霧の発生に加え、北半球の厳冬予想(9月10日に米国海洋大気庁気象予報センターが足元でラニーニャ現象が発生していることから2020~21年は北半球で厳冬になる可能性が高い旨の見解を明らかにしていた)によるLNG積載船舶の運河への集中、そして新型コロナウイルス感染拡大による安全対策の強化に伴う人的資源減少等による当該運河通過手続きの長時間化等が影響しているとされる(後述))ナフサ積載船がアジア市場に到着するようになることを市場が意識したこと、原油価格の上昇にナフサ価格のそれが追い付かなかったこと等により、1月下旬後半から2月上旬にかけてはナフサ価格のドバイ原油価格を上回る幅が縮小したうえ、2月中旬にはナフサ価格がドバイ原油価格を下回る場面も見られるようになっている。もっとも、欧州一部諸国で新型コロナウイルス感染が拡大したことに伴い経済活動制限が強化されたことにより当該地域での製油所の稼働が低下した結果、欧州でのナフサ価格のアジアのそれと比較した場合の割安感が後退したこともあり、欧州方面からアジア市場へのナフサの流入が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格(及びナフサとドバイ原油との価格差)を下支えする格好となっている。

1月13日には1,400万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、1月20日には1,500万バレル台前半程度の量へと増加したものの、1月27日には1,400万バレル強程度の水準へと低下した。その後2月3日には1,400万バレル台前半程度、2月10日には1,400万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと回復した結果、1月13日の量にほぼ等しい状況となっている。新型コロナウイルス感染が落ち着いた結果経済活動が持ち直しつつある中国やインドでの軽油需要はそれなりに堅調であると見られる他、製油所が春場のメンテナンス作業時期に突入しつつある一部アジア諸国からシンガポールへの中間留分輸出もどちらかというと伸び悩み気味であった。このような要因がシンガポールでの中間留分在庫の増加を抑制する方向で作用したものの、欧州一部諸国での新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化による軽油需要の不振により欧州の軽油価格のアジアのそれに対する割高感が後退したことで、従来欧州方面に軽油を輸出していたインド及び中東諸国がシンガポール等アジア市場に向け軽油を輸出したことが、シンガポールでの中間留分在庫の減少を抑制する格好となったことが、同地点での中間留分在庫を限定的な範囲で変動させた背景にあるものと考えられる。そしてこのようにシンガポールでの中間留分在庫変動が比較的限られていたこともあり、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)も上昇もしくは下落の傾向を創出することなく推移したが、当該在庫は前年同期を24~44%程度超過する状態であったことから、軽油価格がドバイ原油価格を上回る幅は前年同期を相当程度下回る状況となっている。

1月13日に2,200万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、1月20日には2,200万バレル弱程度、1月27日には2,000万バレル台後半程度の量へと、それぞれ減少した。2月3日には2,100万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、2月10日には2,100万バレル強程度の量へと再び減少するなど、当該在庫は総じて減少傾向となっている。12月に欧州での製油所の稼働が低下したこともあり、欧州での重油を含む石油製品の生産が減少するとともに欧州での重油の割安感が薄らいだことから、当該地域等からシンガポールに向けた重油の流れが鈍化したことに加え、12月中旬から1月中旬にかけての北東アジア諸国への寒波の来襲に伴い暖房用もしくは空調機器稼働のための発電用天然ガス需要が増加したことにより、北東アジア市場でのLNG価格が大幅に上昇したことから、代替燃料として重油の需要が盛り上がったこと、新型コロナウイルス感染が相対的に沈静化している中国やインドの貿易活動の活発化に伴い船舶用重油需要が堅調であったことが、シンガポールでの重油在庫の減少に寄与したものと考えられる。他方、原油価格の上昇に高硫黄重油のそれが追い付かなかったこともあり、アジア市場での高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合当該重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が見られたが、北東アジア諸国での発電部門向け需要が旺盛であった低硫黄重油の価格は原油価格の上昇以上に上昇した結果、原油との価格差(この場合当該重油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向を示した。


2. 2021年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況

2021年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場では、リビアでの石油ターミナル封鎖により操業が停止した旨1月24日に伝えられたことに加え、1月のOPECプラス産油国の減産遵守率が高水準である旨1月31日に報じられたこと、2月1日に米国北東部に猛烈な寒波が来襲したこと、この先の世界石油需給引き締まりと原油価格上昇見通しを一部金融機関が明らかにした旨2月1日に伝えられたこと、同日米国連邦議会上下院において追加経済対策実施のための2021会計年度予算決議案が提出されたこと、原油価格の上昇にもかかわらず減産措置を維持する旨OPECプラス産油国が2月3日に示唆したこと、2月7日にイラン核合意を巡り米国とイランとの対立が改めて明らかになったこと、原油在庫が減少したこと、そして米国株式相場が上昇したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、1月15日にはWTI終値で1バレル当たり52.36ドルであった原油価格は上昇基調となり、2月12日には同59.47ドルと、2020年1月9日以来の高水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~21年)

1月18日には、米国キング牧師生誕記念日の休日に伴い終値は計上されなかったが、1月19日には、リビア東部のサマ(Samah)及びダフラ(Dhahra)両油田(原油生産量は合わせて日量35万バレル)から同国東部沿岸のエス・シデル(Es Sider)石油ターミナル(原油出荷量日量32万バレル)へ原油を輸送するパイプライン(原油輸送能力日量20万バレル)から原油が流出したことにより当該パイプラインが修理のため操業を停止した結果、同国の原油生産量(12月は日量125万バレルであった)が日量20万バレル程度減少した旨同国国営石油会社NOCが1月16日に明らかにした(パイプラインの修理には7~10日間程度を要する旨NOCは1月18日遅く(現地時間)に示唆したが、1月24日には修理が完了し操業を再開したとされる)ことで、同国の原油生産維持の困難さを市場が意識したことに加え、冬場の荒天に伴う停電で一部原油輸送施設の操業が停止したことによりカザフスタンの原油生産量が1月17日時点で停電前に比べ日量13万バレル程度減少し同162万バレルとなっている旨1月18日に報じられたこと、12月の中国の製油所での原油精製処理量が6,000万トン(推定日量1,417万バレル)と11月の5,835万トン(同1,423万バレル)に比べ日量ベースでは減少しているもののほぼ同水準を維持している旨1月18日に中国国家統計局が明らかにしたこと、石油需要の回復につき慎重ながらも楽観視している旨OPECのバルキンド事務局長が1月19日に明らかにしたこと、そして、1月19日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで2021年第1四半期の世界石油在庫が日量110万バレル減少する他2021年後半は需要が持ち直すとともに当該在庫はさらに急激に減少する旨の見解をIEAが披露したことで、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、1月19日に開催された次期財務長官に指名されたイエレン前米国連邦準備制度理事会(FRB)議長に対する米国議会上院財政委員会での財務長官承認公聴会において、イエレン氏が、米国の債務拡大にもかかわらず、今は景気刺激のために大胆に行動することが賢明である旨議会議員に呼びかけたことで、この先の米国政府による大規模追加経済対策実施に対する期待が市場で高まったこともあり、米国株式先物相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したことにもあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.62ドル上昇し、終値は52.98ドルとなった。また、1月20日も、1月21日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(1月15日の週分)で、原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、米国のバイデン前副大統領が1月20日に大統領就任式を滞りなく終了、第46代大統領に就任したことで、議会とともに追加経済対策を推進していくとの期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇(この日米国ダウ工業株30種平均は史上最高水準に到達)したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.24ドルと前日終値比で0.26ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2021年2月渡し原油先物契約は取引を終了したが、3月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり53.31ドル(前日終値比0.33ドルの上昇)であった)。この結果原油価格は1月19~20日の2日間で併せて1バレル当たり0.88ドルの上昇となった。しかしながら、1月20日夕方(米国東部時間)に米国石油協会(API)から発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で256万バレルの増加と市場の事前予想に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.13ドルと前日終値比で0.11ドル下落した。また、1月22日も、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で435万バレルの増加と市場の事前予想(同120~168万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことに加え、1月22日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で289基と前週比2基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は272基と同3基増加)している旨判明したこと、1月22日に英国のジョンソン首相が英国で発見された新型コロナウイルス変異種は従来型の新型コロナウイルスよりも致死率が高い恐れがある旨発言したこともあり英ポンドが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.86ドル下落し、終値は52.27ドルとなった。この結果原油価格は1月21~22日の2日間で併せて1バレル当たり0.97ドル下落した。

ただ、遅延している給与の支払いを求めリビア東部の石油ターミナルの警備兵が施設を封鎖したことで、エス・シデル(Es Sider)(原油出荷能力日量32万バレル)、ラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(同22万バレル)及びハリガ(Hariga)(同11万バレル)の各石油ターミナルでの操業が停止した旨1月24日に報じられたことにより、同国の石油供給の脆弱性に関する懸念が市場で増大したことに加え、イラクが2020年のOPECプラス産油国減産措置の目標未達成分を充足すべく、2021年1~2月は日量360万バレルの原油生産量と2020年12月の日量385万バレルから原油生産量を削減する方針である旨1月24日に伝えられたこと(もしその通りとなれば、2015年2月(この時は同332万バレル)以来の低水準の原油生産量となる)、2021年2月のロシアの西側諸国向け海上原油輸出予定量が463万トン(日量122万バレル)と1月の当該輸出予定量(632万トン、日量150万バレル)に比べ19%程度減少する旨1月25日に報じられたことから、1月25日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.50ドル上昇し、終値は52.77ドルとなった。しかしながら、1月27日にEIAから発表される予定である米国石油統計(1月22日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したうえ、新型コロナウイルスワクチンを以てしても当面は新型コロナウイルス感染拡大を食い止めるまでには至らない旨世界保健機関(WHO)が明らかにしたと1月25日午後に報じられたことに加え、中国の旧正月(春節)期間中の航空便予約が2019年比で73.7%減少している旨1月26日に伝えられたことにより新型コロナウイルス感染抑制と世界経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する市場の期待が後退したことから、1月26日の原油価格の終値は1バレル当たり52.61ドルと前日終値比で0.16ドル下落した。それでも、1月27日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比991万バレルの減少と市場の事前予想(同43~150万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.24ドル上昇し、終値は52.85ドルとなった。ただ、1月28日には、南アフリカで発見された新型コロナウイルス変異種による感染が米国サウスキャロライナ州で2例確認されたと同州の衛生環境規制省が報告した旨1月27日に伝えられたことにより、米国での新型コロナウイルス感染拡大と同国経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に関する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.34ドルと前日終値比で0.51ドル下落した。1月29日も、米国製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発中の新型コロナウイルスワクチンの有効率が66%である旨この日同社が発表、米国ファイザーとドイツのビオンテック、及び米国モデルナがそれぞれ開発したワクチンに比べ有効性が劣る旨示唆されたこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル下落し終値は52.20ドルとなった。この結果原油価格は1月28~29日の2日間で1バレル当たり合計0.65ドル下落した。

2月1日には、2021年1月のOPECプラス産油国減産遵守率が暫定的に99%(うちOPEC産油国103%、非OPEC産油国93%)であると推定される旨OPEC関係者が明らかにしたと1月31日に報じられたことで、OPECプラス産油国の減産措置が概ね遵守されているとの認識が市場で広がったことに加え、米国オクラホマ州クッシングでの原油在庫が1月23日以降230万バレル減少しているとの観測が2月1日の市場で発生した(情報源は英国エネルギー関連調査会社ウッド・マッケンジーとされる)ことで、米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、2月1日に米国北東部に猛烈な寒波が来襲したことにより、当該地域での主要暖房用燃料である暖房油の需要が急増するとの見方が市場で増大したこと、2021年2~3月のサウジアラビアの自主的な原油追加減産措置の実施もあり2021年前半の世界石油市場は日量90万バレルの供給不足と当初予想された日量50万バレルの供給不足よりも不足幅が拡大することから石油需給引き締まり感が市場で強まるとともに2021年7月にはブレント原油価格は1バレル当たり65ドルに到達する可能性がある旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたと2月1日に報じられたことで原油価格の先高感が市場で増大したこと、大手国際石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルが北海産原油を積極的に購入している他さらなる当該原油購入の意向を示しているとの情報が2月1日に明らかになり石油需給の引き締まり展望が市場で強まったこと、個人投資家からの資金流入により銀相場が大幅に上昇したこともあり鉱業企業株式価格が上昇したことが一因となり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.35ドル上昇し、終値は53.55ドルとなった。また、2月1日午後(米国東部時間)に米国民主党のシューマー議会上院院内総務とペロシ同下院議長が同国のバイデン大統領の提案した1.9兆ドル規模の追加経済対策を実施するための2021会計年度(2020年10月~2021年9月)予算決議案を議会に提出、財政調整法を利用して議会で主導権を握る民主党単独での迅速な当該経済対策の実施を目指す手続きを開始したことで同国経済成長の加速に対する期待が市場で増大したこともあり米国株式相場が上昇したことに加え、ロイヤル・ダッチ・シェルが引き続き北海産原油購入の意向を示しているとの情報が2月2日に明らかになり石油需給の引き締まり展望が市場で強まったことから、2月2日の原油価格の終値は1バレル当たり54.76ドルと前日終値比で1.21ドル上昇した。2月3日には、この日開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)に際し、遅滞なく石油需給を再均衡させることが重要である旨表明するなど、最近の原油価格の上昇にもかかわらず減産措置の方針を維持することが示唆されたことで、この先の石油需給の引き締まりに関する観測が市場で増大したことに加え、2月3日に米国給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された1月の同国民間雇用者数が前月比で17.4万人の増加(12月は同7.8万人の減少)と市場の事前予想(同4.9~7.0万人程度の増加)を上回って増加していたうえ、同日米国供給管理協会(ISM)から発表された1月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が58.7と12月の57.7から上昇、2019年2月(この時は58.8)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(56.7~56.8)を上回っている旨判明したことで、米国経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対する楽観的な見方が市場で拡大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.93ドル上昇し、終値は55.69ドルとなった。また、2月4日も、2月3日に開催されたOPECプラス産油国JMMCにおいて減産措置の方針を維持する旨示唆されたことでこの先の石油需給の引き締まりに関する観測が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、サウジアラビアが3月の米国及び欧州向け販売原油の全ての種類につき価格を引き上げたことで原油価格の先高感を市場が意識したこと、2月3日夕方(米国東部時間)に米国議会下院が追加経済対策実施に向けた2021会計年度予算決議案を可決したうえ、2月3日夕方に発表された米国電子決済サービス会社ペイパルの2020年10~12月期業績が市場の事前予想を上回ったこと、2月4日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(1月30日の週分)が77.9万件と前週(81.2万件)から減少した他市場の事前予想(83万件)を下回ったこと、及び同日米国商務省から発表された12月の同国製造業受注が前月比で1.1%の増加と市場の事前予想(同0.7%の増加)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.23ドルと前日終値比で0.54ドル上昇した。さらに2月5日には、この日米国労働省から発表された1月の同国非農業部門雇用者数が前月比で4.9万人の増加と市場の事前予想(同5~10.5万人増加)を下回ったこともあり、追加経済対策実施に対する期待が市場で高まったこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.62ドル上昇し、終値は56.85ドルとなった。この結果原油価格は2月1~5日の5日間で1バレル当たり合計4.65ドル上昇した。

また、2月7日には、米国のバイデン大統領がイラン核合意復帰に際し先に対イラン制裁を解除することはない旨明らかにし、イランの核合意履行が先決である旨示唆した一方、同日イランの最高指導者ハメネイ師がイランの核合意履行は米国の対イラン制裁解除が前提である旨表明したことにより、米国とイランとの核合意を巡る対立とイランからの原油供給回復に対する不透明感を市場が意識したことに加え、2月5日午後(米国東部時間)にバイデン大統領が追加経済対策につき共和党の協力なしに実施に向け作業する意向である旨表明したことで、同国追加経済対策の実現に対する期待が市場で強まったうえ、2月7日に米国のイエレン財務長官が追加経済対策を実施すれば、2022年までには完全雇用を達成することが可能である旨の見解を明らかにしたことにより、同国経済成長の加速に対する楽観的な見方が市場で増大したこともあり、2月8日に米国株式相場が上昇したことから、2月8日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.12ドル上昇し、終値は57.97ドルとなった。さらに、2月9日には、これまで米ドルが上昇したこと(米国の追加経済対策実施による同国経済成長の加速に対する期待を反映しているとされる)に対する利益確定の動きが発生したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.36ドルと前日終値比で0.39ドル上昇した。2月10日には、この日EIAから発表された米国石油統計(2月5日の週分)で原油在庫が前週比で665万バレルの減少と市場の事前予想(同80万バレル程度の減少~99万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことに加え、2月10日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、同国で最大雇用を実現しそれを持続させるには金融緩和政策以上の方策が求められる旨発言、当面緩和的な金融政策を維持する旨示唆したうえ、同日米国労働省から発表された1月の同国の食品とエネルギーを除いたコア消費者物価指数(CPI)が前月比で横這いと市場の事前予想(同0.2%の上昇)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.32ドル上昇し、終値は58.68ドルとなった。この結果原油価格は2月8~10日の3日間で1バレル当たり合計1.83ドル上昇した。2月11日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、2月11日にIEAから発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、IEAが足元の世界石油市場は脆弱なままである旨示唆したうえ、同日OPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートで、OPECが2021年の世界石油需要を下方修正したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.44ドル下落し、終値は58.24ドルとなった。しかしながら、2月12日は、2月11日にIEAから発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが2021年後半は石油需給が急速に引き締まる旨、そして同日OPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、OPECが2021年後半はより力強く世界石油需要が反発する旨、それぞれ示唆したことで、原油価格の先高感を市場が意識した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.47ドルと前日終値比で1.23ドル上昇した他、2020年1月9日(この時は同59.56ドル)以来の高水準に到達した。


3. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での主な注目点は、まず、イランを含む中東情勢であろう。2月7日には米国のバイデン大統領がイラン核合意復帰に際し米国が先に対イラン制裁を解除することはない旨明らかにし、イランの核合意履行が先決である旨示唆した一方、同日イランの最高指導者ハメネイ師がイランの核合意履行は米国の対イラン制裁解除が前提である旨表明した。また2月7日にはイランのザリフ外相が、2月21日までに米国が対イラン制裁を解除しなければ、イランは国際原子力機関(IAEA)による対イラン抜き打ち査察の受入を拒否する意向である旨発表した。他方、2月1日にイランは最新式のエンジンを搭載したロケットによる人工衛星の発射実験を成功裏に行った旨発表した(人工衛星打ち上げのためのロケットエンジンは、核弾頭を搭載した弾道ミサイル開発に利用可能であるとされる)。また、1月30日にイランは核合意で認められていない新型遠心分離機(認められているのは旧型遠心分離機)の稼働を開始した旨の報告書をIAEAが取り纏めたうえ加盟国に通知した。また、2月6日にはイランが金属ウラン(核弾頭の部品として利用が可能であるとされる)の製造を行ったことを2月8日に確認した旨2月10日にIAEAが明らかにした。ただ、11月以降ペルシャ湾に派遣されていた米国空母ニミッツに対しワシントンに帰還するよう1月31日に命じた旨2月2日に米国国防省が発表した。また、1月4日にイランが海洋汚染法規に違反したとして拿捕した韓国船籍タンカーに関し、船長以外は解放する旨イラン外務省が2月2日に表明した。さらに、2月4日に米国にバイデン大統領は、イエメンでフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)と対立しているハディ暫定大統領派勢力を支援しているサウジアラビアが主導する有志連合軍によるフーシ派武装勢力への軍事行動に対する支援を取りやめる旨表明した。また、2月12日に米国のブリンケン国務長官は、イエメンのフーシ派武装勢力に対する外国テロ組織指定(1月10日にポンペオ前国務長官が発表した)につき人道的見地から解除すると発表した。もっとも、2月10日には、サウジアラビア南西部の都市アブハの空港において民間航空機がフーシ派武装勢力の無人機による攻撃を受け炎上した(同日フーシ派武装勢力は軍用機を狙っていた旨主張している)。

このように、1月20日にバイデン大統領が就任して以降、米国とイランとの対立状況に関してはまちまちな情報が発信されているものの、基本的には、米国側は核合意復帰はイランの核合意遵守が前提である旨示唆する反面、イラン側は核合意を遵守するためには米国にまず対イラン制裁を解除するよう要求するなど、両国の主張は真っ向から対立する格好となっている。さらに、米国は核合意復帰の際にイランの弾道ミサイル開発も協議する意向である旨1月29日に示唆している。このようなこともあり、今後も、両国間での核合意を巡る交渉は紆余曲折を経るものと見られ、その際には、ペルシャ湾内でのタンカー等への攻撃等が行われたり、イエメンのフーシ派武装勢力からサウジアラビア方面にミサイル等が発射されたりするといった場面が見られる可能性もあり、これが他の世界石油需給引き締まり要因と重なるようであれば、原油価格上昇を増幅する方向で作用するといった事態も想定される。他方、少なくとも当面は米国がさらなる対イラン制裁を踏みとどまることを見越して、一部諸国はイランからの原油輸入を拡大させる可能性もあり、その結果、イランの原油生産も増加する(既にイランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した(トランプ前大統領によるイラン核合意離脱と対イラン制裁実施表明時の2018年5月の日量385万バレル以来イランの原油生産量は減少し、2020年10月には同189万バレルとなっていた)旨示唆したと12月6日に伝えられる他、12月12日にはイランのザンギャネ石油相が2021年3月21日に開始されるイランでの次年度中に日量450万バレルの原油及びコンデンセート生産量を目指す旨明らかにしている。コンデンセートをNGLと見做せば、足元の同国でのNGL生産量は日量105万バレルであり、11月時点での原油とコンデンセート(NGL)を併せた生産量は日量301万バレルとなることから、日量450万バレルへの生産の引き上げは実質的に日量150万バレル程度の増産と解釈される)ことにより、OPECプラス産油国全体の原油生産量が上振れすることもありうることから、この面ではこの先のOPECプラス産油国の減産措置方針の決定過程にも影響が及ぶといった展開も排除しきれない。

また、イラクでは、1月21日に複数の自爆テロ事件が発生し32人が死亡したと伝えられるが、1月22日未明(現地時間)にはイスラム国(IS)が当該事件に関し犯行声明を発表しており、再びISの活動が活発化する兆候が見られることから、このようなテロ活動が同国の治安を含む政権運営、そして原油生産及び輸出活動に影響を及ぼす可能性に対する懸念が市場で増大する結果、石油需給引き締まり感が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。

リビアでは西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と、東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representatives)を支援する、ハフタル将軍を指導者とするリビア国民軍(LNA: Libyan National Army)(エジプト、UAE及びロシア等が支援)との間での停戦状態が継続している他、2月5日には国連主導でGNAとHoRによる和平協議が実施され、2021年12月に実施が予定されるリビア大統領及び議会議員選挙までの期間同国を統治するための暫定評議会の議長にムハンマド・メンフィ(Mohammad Younes Menfi)氏(東部トブルク出身の外交官)、暫定首相にアブドルハミド・デイバ(Abdul Hamid Mohammed Dbeibah)氏(西部ミスラタ出身の実業家)を選出した旨同日国連リビア支援団(UNSMIL)が発表した。欧米諸国、トルコ、ロシア及びエジプト等はこれに対し歓迎する旨表明したと同日伝えられる他、2月6日にはLNAも両者の選出に対し歓迎の意を表した。しかしながら、同国東部のサマ(Samah)及びダフラ(Dhahra)両油田(原油生産量は合わせて日量35万バレル)から同国東部沿岸のエス・シデル(Es Sider)石油ターミナル(原油出荷量日量32万バレル)へ原油を輸送するパイプラインから原油が流出したことにより当該パイプラインが修理のため操業を停止した結果、同国の原油生産量(12月は日量125万バレル)が日量20万バレル程度減少した旨同国国営石油会社NOCが1月16日に明らかにした(その後当該パイプラインは修理が完了し1月24日に操業再開したと見られる)。また、遅延している給与の支払いを求めリビア東部の石油ターミナルの警備兵が施設を封鎖したことから、エス・シデル、ラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(原油出荷能力日量22万バレル)及びハリガ(Hariga)(同11万バレル)の各石油ターミナルでの操業が停止したと1月24日に伝えられた。その後エス・シデル及びラス・ラヌフ両石油ターミナルの封鎖が解除されたことにより、同ターミナルからの原油輸出が再開される方向となった旨1月25日にリビアの原油輸送会社ワハ・オイル(Waha Oil)が明らかにした(ラス・ラヌフ石油ターミナルの関係者も操業が再開された旨同日伝えられる)ものの、ハリガ石油ターミナルは引き続き封鎖された結果、同国の原油生産量は日量104万バレルに減少した旨2月8日に明らかになった。ただ、2月10日にはハリガ石油ターミナルも封鎖が解除された旨警備兵が発表している。このように、2020年1月から9月頃にかけての同国での事実上の内戦に伴う石油生産関連施設当の封鎖により同国の原油生産と原油収入が大幅に減少したこともあり、リビアでは油田等の管理を十分に行うだけの費用が捻出できない状態となっている他、石油ターミナル等の施設における警備兵の給与支払い等の問題も完全には解決し切れていないものと見受けられることから、今後も油田関連施設等での操業上の不具合、及び警備兵による当該施設の封鎖等により、同国での原油生産が減少することを通じ、石油需給引き締まり感を市場が意識する結果、それが原油相場に影響を及ぼす場面が見られることもありうる。

1月25日に欧州連合(EU)はベネズエラのグアイド前国会議長を同国の最高指導者として認識しない旨表明した(2020年12月6日に実施された国会議員選挙をボイコットしたことにより同氏は2021年1月5日のマドゥロ大統領派勢力のロドリゲス新国会議長(前通信情報相)就任を以てもはや国会議長ではなくなったと判断されることによる)。ただ、2月3日に米国国務省はベネズエラのグアイド前国会議長を暫定大統領として支援する旨表明している。そのような中、ベネズエラが中国を含むアジア諸国に向け輸出した石油の量(原油及び製品)が2021年1月は日量54万バレル程度と前月比で12%弱増加した旨2月3日に伝えられる。このようにベネズエラについては、米国のバイデン政権がマドゥロ大統領を支持する可能性は低く、制裁も容易には解除されないかもしれないが、トランプ前大統領のようにベネズエラとの間で原油等の取引を行った国外関係者に対して直ちに制裁を発動するといった展開とはならない可能性もあり、実際にバイデン政権による対ベネズエラ制裁の強化といった具体的行動が見られなければ、諸外国によるベネズエラ原油に対する需要が相対的に高まるとともに同国の原油生産量が多少なりとも回復することはありうる。もっとも同国は長期に渡り石油産業等に対する投資が不足してきていることから、それ故に短期的には急激な原油生産量の増加は見込みにくいものと考えられる。

経済面では、まず新型コロナウイルス感染、新型コロナウイルスワクチンと治療薬の開発及び普及を巡る状況が原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。1月22日に英国のジョンソン首相は英国で発見された新型コロナウイルス変異種は感染率のみならず致死率も高い可能性がある旨指摘した一方で、南アフリカで発見された新型コロナウイルスの変異種に対し既存のワクチンの有効性が限定的である恐れがある旨英国のハンコック保健相が1月24日に明らかにした。また、2月2日には英国で発見された新型コロナウイルスの変異種がさらに変異していると見られる他、この新たな変異種は新型コロナウイルスワクチンに対して耐性を有している恐れがある旨の警告がなされたと報じられる。2020年11月20日のファイザー及びビオンテックが米食品医薬局(FDA)に緊急使用許可を申請して以降、新型コロナウイルスワクチンの開発及び接種の普及進展に伴い当該ウイルス感染が収束に向かうことにより世界経済成長が加速することとともに石油需要の伸びが回復、世界石油需給が引き締まることを通じ将来的には原油相場が上振れしていくとの期待が市場で増大したことが、これまでの原油価格上昇の一因となっているが、新型コロナウイルス変異種に対しワクチンが十分に有効なわけではない旨判明すれば、新型コロナウイルス感染収束までに長期間を要する結果、世界経済成長の加速とともに石油需要の回復、そして石油需給の引き締まりに対する市場での期待の増大を通じ原油相場へ上方圧力が加わるとのシナリオが描きにくくなることから、この面では市場関係者間で失望が広がるとともに、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性もある。ただ、例えば、英国アストラゼネカは同国オクスフォード大学と共同で開発した新型コロナウイルスワクチンが南アフリカで発見された変異種に対する有効性が限定的である旨2月6日に発表したが、同時に同社は既に南アフリカで発見された変異種に対するワクチンを開発済みであり、2021年秋頃には出荷が可能であろう旨明らかにしており、この面ではワクチン開発と新型コロナウイルス感染収束に対する期待を大きく減じるまでには至らない結果、原油相場への影響が限定されるといった展開もありうる。

他方、1月14日夜(同)にはバイデン次期大統領(当時)が総額1.9兆ドル規模のさらなる追加経済対策に関する提案(12月28日に成立した経済対策法に定められている個人1人当たり最大600ドルの直接給付を同2,000ドルにまで引き上げることや2021年9月まで失業保険を400ドル追加すること等を主な内容とする)を行った。この後2月1日に米国民主党のシューマー連邦議会上院院内総務とペロシ同下院議長が追加経済対策措置実施のための予算決議案を議会に提出、財政調整措置を活用することで、議会上院でも過半数の賛成で可決することができる(勢力は共和党50議席、民主党50議席であるが、議長を務めるハリス副大統領が民主党票として1票を投じることから、民主党が議会上院で事実上過半数を占める)よう準備が進みつつあり、2月3日夜(米国東部時間)には同国議会下院で、2月5日には議会下院で、それぞれ決議案は可決されるなどしており、近いうちに米国での追加経済対策が策定及び実施される運びとなることにより、同国の景気が刺激されるとともに経済成長が加速、それが石油需要に影響を及ぼすといった見方が市場で強まりつつある。そしてこのように、米国の大統領及び連邦議会上下院が事実上民主党により掌握されたことで今後も政権や議会運営がより安定的に行われることにより同国での新型コロナウイルス関連追加経済対策等の政策が円滑に実施されるとの期待が市場で増大しやすい状況となっており、そのような市場での期待感の増大により、追加経済対策が実施される前に、株式相場が上昇するとともに石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で広がる結果、原油価格が浮揚しやすいものと考えられる。

また、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、2020年3月15日に米国FRBは政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、8月31日には、FRBのクラリダ副議長も、失業率が低下しても、物価上昇率が目標ないしは安定した金融市場にとって脅威となる水準を継続的に超過する、もしくは超過する可能性があると想定されなければ、金利を引き上げることにはならないであろう旨発言したりするなどしたことにより、米国金融当局はより長期に渡り金融緩和策を実施する意向であると市場では受け取られていることから、今後も米ドルが下落する、もしくは金融緩和措置等を通じ将来的に経済が回復することへの期待が市場で増大することにより株式相場が上昇することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといったことも想定される。そして、この場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家の判断から低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない(もしくは経済が減速していることを示唆する経済指標類が発表されても、米国のバイデン政権による追加経済対策の実施に対する期待が市場で強まる結果、株式相場が上昇するとともに米ドルが下落することにより原油価格がかえって上昇する)現象が見られやすくなる一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には資金流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。

他方、2月10日夜(米国東部時間)には、米国のバイデン大統領が中国の習近平国家主席との間で電話会談を実施した。この場でバイデン大統領は、中国に対し公平性を欠く経済慣行、新疆での人権侵害、香港及び台湾問題に関する懸念を習近平主席に伝えたとされる。今後このような意見交換や協議を経ることにより、米国と中国との関係が改善に向かうといった観測が市場で発生することで株式及び原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうる。もっとも、両国間では少なくともある程度の期間は政治的な駆け引きが続く(バイデン氏は米国と中国との間での貿易紛争を巡る第一段階の合意を直ちに破棄する意向はない他現在発動中の対中国関税を撤廃する方針もない旨明らかにしたことに加え、中国の知的財産権、技術移転、不当廉売及び政府による不当な企業支援を含む問題に対処していく旨検討していると12月2日に報じられる)結果、関係改善までの過程が紆余曲折を経ることも否定できない。このようなことから、この面での動向によっては株式及び原油相場が上下に変動する場面が見られることもありうる。

米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお暫く継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ものの、製油所の段階では暖房用石油製品の生産は峠と越え始めつつあることもあり、メンテナンス作業の実施等により製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少することを通じ、製油所等の原油購入が不活発になることで、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることにより、この面では原油相場の上昇を抑制する形で作用するものと考えられる。ただ、前述の通り冬場の暖房用石油需要期は最終消費段階では当面続くことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測と需給引き締まり感が市場で意識される結果、暖房油とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、早ければ3月初頭以降、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来と製油所の稼働の上昇及び原油購入の活発化が市場で意識されるとともに、ガソリン及び原油価格に上方圧力が加わるといった展開が見られる可能性もある。

OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、3月4日に閣僚級会合を開催する予定である。1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、ロシア及びカザフスタンを除き1月の減産措置を2~3月も継続する旨決定した一方で、会合に際しサウジアラビアは同期間日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明した。このようなことから、OPECプラス産油国、特にサウジアラビアが石油需給緩和の可能性に関し先制的に原油供給を調整する結果、石油需給が引き締まる方向に向かうとともに原油相場に上方圧力が加わるとの観測を市場が強めつつあり、これがここ最近の原油価格上昇の一因となっているものと見られる。3月の閣僚級会合では、4月以降の減産措置につき協議することになろうが、その際、新型コロナウイルス感染、世界経済及び石油需要状況、そしてイラン、ベネズエラ及び米国等のOPECプラス産油国減産措置参加国以外の産油国の原油生産状況と世界石油需給見通し、さらには足元の原油価格の動向等が当該会合での減産措置に関する決定に影響するものと思われる。ただ、季節的にも世界石油需給が緩和しやすいと見られる第二四半期(4~6月)において、先制的に石油需給を引き締めるとともに原油価格の支持を図ろうとすべくサウジアラビアが引き続き自主的に追加減産を実施するとともに他のOPECプラス産油国も既存の減産措置を維持するか、緩和するとしてもごく限定的な規模にとどめるといった展開となることも否定できない。もっとも、1バレル当たり45~55ドルを最適原油価格水準と認識するロシアが減産措置のさらなる緩和を要望することにより、既存の減産措置の維持(足元の石油需給状況等によっては強化)を希望する可能性のあるサウジアラビア等他の減産措置産油国との間で減産措置の扱いを巡り意見の相違が発生する結果、協議過程が紆余曲折を経るといった展開となることもありうる。他方、この先明らかになるOPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による産油国の原油供給情報等により示唆されるOPECプラス産油国減産遵守状況等によってはOPECプラス産油国の結束力に関する観測が市場で発生することで、原油相場に影響が及ぶといったことも想定される。

また、原油価格の上昇につれ、米国での石油坑井掘削装置稼働数が増加する結果、同国のシェールオイルを含む原油生産が持ち直すといった展開もありうるが、最近は米国石油会社の株主や同国石油会社への資金供給者に原油生産に伴う収益性を重視する動きが見られると指摘される他、原油価格の上昇が原油生産の増加となって現れるには6ヶ月程度を要すると言われているところからすると、米国の原油生産増加に伴う世界石油需給緩和感が原油価格を抑制する前に、新型コロナウイルスワクチン接種普及や米国による追加経済対策実施による世界経済成長及び石油需要の伸びの回復とOPECプラス産油国減産措置等による石油需給引き締まりに対する観測が市場で増大することを通じ原油相場に上方圧力が加わる結果、少なくとも短期的には原油価格は上昇しやすいものと考えられる。もっとも、シェールオイルを開発及び生産する石油会社等が原油先物市場において今般上昇した原油価格水準で将来に向けた販売の予約を行うことが予想されることもあり、この先中長期的に石油需給が緩和し原油価格が下落しても米国シェールオイル等の開発及び生産活動が直ちに鈍化するわけでないといった展開となることもありうる。

全体としては、春場の製油所メンテナンス作業実施シーズン突入に伴う季節的な原油購入意欲の低下による石油需給の緩和感が市場で強まり始めることが、原油相場のさらなる上昇を抑制する可能性があるが、足元で気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。他方、変異種を含む新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制及び経済活動の制限の強化が原油相場に下方圧力を加える可能性があるが、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで感染が抑制されることに加え、経済成長の減速感が強まっても米国で大統領及び連邦議会上下院の主導権を事実上掌握している民主党が中心となり景気刺激策が実施されることにより、経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復する一方で、仮に石油需給緩和の兆候が見られてもサウジアラビアを中心とするOPECプラス産油国が先制的に減産措置を実施するとの期待が市場で広がりつつあるところからすると、金融緩和状態に伴う投資資金の流入と相俟って、むしろ原油価格は上振れしやすいものと考えられる。この他、イラン等を巡る地政学的リスク要因、米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、及びOPECプラス産油国減産措置遵守状況、そしてこの先の減産措置を巡る動向を含む情報等が原油相場に影響しうるものと見られる。


4. 世界天然ガス市場動向

米国では、2020年11月は気温が前年同月比で温暖であった(図16及び17参照)こともあり、民生部門での暖房用需要が低迷したことにより、当該部門での天然ガス需要は前年同月比で12.4%の減少率と相当程度の減少となった(図18参照)。ただ、2020年12月~2021年1月は同国の気温が前年同月比で寒冷となったことから、暖房用需要が上振れした結果、12月の民生部門での天然ガス需要は前年同月を0.7%程度上回った他、1月も2.3%超過する状態となっている。他方、9月後半以降同国で新型コロナウイルス感染者が拡大し始め、特に11月以降は感染増加ペースが加速したことに伴い経済活動制限が強化されたことが、産業部門向け天然ガス需要に影響したことから、11月の当該部門需要は前年同月比で3.1%程度の減少となり、12月は同3.1%程度の増加と持ち直したものの、1月は再び1.0%程度の減少となるなど、当該部門向け天然ガス需要は不安定であった。また、発電部門においては、11月においては、気温が温暖であったことから、暖房のための空調機器稼働用の電力需要が不振であったと見られることで、当該部門での天然ガス需要は前年同月を6.4%程度割り込む状態となった。他方、12月及び1月については、米国では気温が低下してきたこともあり、家庭部門を中心として電力消費は下支えされたものの、特にこの時期は天然ガス価格が上昇したこと(後述)もあり、当該部門での石炭の利用が相対的に活発化した他、風力等の再生可能エネルギーによる発電も比較的堅調であったこと(図19参照)が、当該部門での天然ガス需要を抑制する格好となり、12月の発電部門での天然ガス需要は前年同月比で1.9%程度の減少、1月の当該需要は同3.8%程度の減少となっている。このようなことから、11月の同国天然ガス総需要は前年同月比で12.4%程度の減少となった。ただ、発電部門での天然ガス需要が継続的に前年割れとなったものの、民生部門での需要が比較的堅調であったこともあり、12月は前年同月比で1.0%程度の増加、1月は同0.9%程度の増加となっている。また、2月に入ってからも米国はしばしば広い範囲で気温が平年を相当程度下回るようになったことから、特に暖房用を中心として天然ガス需要は旺盛であったものと見られる。

図16 米国(ニューヨーク)気温(2020~21年)

図17 米国(シカゴ)気温の推移(2020~21年)

図18 米国天然ガス消費増加量(前年同月比)(2015~21年)

図19 米国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2011~21年)

他方、2020年は前半を中心として、新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動の制限の強化に伴う石油及び天然ガス需要の減少により、石油及び天然ガス需給が世界的に大幅に緩和した。このため、米国での天然ガス価格が低迷した結果、米国のシェールガスを含む天然ガス開発及び生産活動が鈍化したのみならず、原油価格の相当程度の下落に伴い同国のシェールオイルを含む石油開発及び生産活動が減速したことにより、原油生産に随伴して生産される天然ガスの生産にも負の影響を与えた。その後原油及び天然ガス価格は回復しつつあるとともに、同国の石油及び天然ガス坑井掘削装置稼働数は増加傾向を示しているが、原油及び天然ガス生産量の回復はどちらかというと緩やかなものとなっている(図20参照)(シェール企業に対する投資家及び資金供給者の収益重視の圧力が当該企業の慎重な開発計画に繋がっていることが背景にあるものと考えられる)。また、2020年11月~2021年1月のメキシコへのパイプライン経由の天然ガス輸出は、メキシコの経済がもたつき気味となっていると見られることもあり、2020年8~10月に到達した直近での高水準である日量60億立方フィートには届かないものの、同55億立方フィート程度と比較的底堅く推移している(図21参照)(但しLNG価格が上昇しつつあったこともあり米国からのメキシコへのLNG輸出は11月は若干量なされたものの12~1月は皆無であった)。また、2019~2020年の冬場が温暖であり暖房用天然ガス需要が盛り上がらなかったことから、欧州やアジアでの天然ガス需給が緩和気味であったことに加え、新型コロナウイルス感染拡大に伴う欧州やアジアでの経済活動制限の強化による産業部門等での天然ガス需要の低迷により2020年は夏場を通じて天然ガス需給が緩和状態であったこともあり、2020年8月までは米国からのLNG出荷取消が頻発する(7~8月のLNG出荷取消件数は各月45件程発生していた)などしたことにより輸出は概して不振であったものの、9月10日に米国海洋大気庁気象予報センターからラニーニャ現象が発生していることにより2020~2021年は北半球では厳冬となる可能性が高い旨の見通しが発表されたこともあり、冬場の暖房のための(及び暖房のための空調機器稼働用の発電部門向け)LNG需要が発生したことにより、特に10月下旬頃以降は同国からのLNG輸出が活発化(図22参照)、12月にはLNG出荷取消件数が皆無になった。しかしながら、パナマ運河でのLNGタンカーの滞船発生等によりLNGタンカーの調達が困難になった(後述)こともあり、2021年1~2月は2~5件程度米国からのLNG出荷取消が発生している。

図20 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~21年)(EIA発表時期別)

図21 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~21年)

図22 米国からのLNG輸出量(2016~21年)

そして、同国の天然ガス生産量は2020年前半の価格下落に伴う石油及び天然ガス開発活動の減速で回復が緩慢であった他、北半球の冬場に向けた暖房用等の需要への対応のためのLNG輸出が活発化したうえメキシコ向けパイプライン経由での天然ガス輸出もそれなりに行われたものの、米国内での需要が盛り上がりに欠けた部分があったことから、米国の天然ガス需給は引き締まる方向には必ずしも向かわず、2020年11月6日時点で過去5年平均(つまり平年値)を4.7%上回っていた同国の天然ガス在庫はその後過去5年平均値を上回る幅を拡大する傾向を示し、2021年1月22日時点では過去5年平均値を9.3%上回る状態となるなど、同国の天然ガス需給はむしろ緩和する様相を呈した(図23参照)。そしてそれに伴い、10月30日には100万Btu当たり3.354ドルであった米国天然ガス価格はその後上下に変動しつつも下落傾向となり、1月22日には同2.446ドルとなった(図24参照)。しかしながら、その後は米国の各地域で気温が平年を下回る程度に低下したことにより、暖房用天然ガス需要が増加したと見られることから、同国天然ガス在庫の過去5年平均を上回る幅は2月5日時点で6.4%へと縮小するとともに、同国天然ガス価格も上昇傾向に転じ、2月12日時点で100万Btu当たり2.912ドルとなっている(なお、気温低下に伴う天然ガス需要の増加により現物市場では一部地域で天然ガス価格が大幅に上昇する事例が見られ、例えば同国オクラホマ州では、2月8日には100万Btu当たり3ドル台半ば程度であった天然ガス価格は2月10日には同9ドル程度に、そして2月12日には同377.13ドルへと急騰する場面も見られている)。

図23 米国天然ガス貯蔵量(2017~21年)

図24 天然ガス先物価格の推移(2007~21年)

欧州においては、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期が接近するとともに11月下旬には気温の低下予報が発表され、その後12月後半から2月前半頃にかけてはしばしば気温が平年を下回って低下したこと(図25参照)により民生部門向け天然ガス需要が喚起された。また、この時期風力発電量の減少予想がしばしば発表されるとともに実際の風力発電量も低下した(図26参照)ことにより、発電部門での天然ガス需要も相対的に高まった。さらに、アジア市場でのLNG価格が欧州の天然ガス価格を大幅に上回って上昇したことにより、天然ガス価格が相対的に低水準である欧州市場へのLNG供給が低下するとの観測が市場で強まった他、実際に1月には欧州向けのLNG供給が大幅に減少した(図27参照)。このようなことから、例年冬場は欧州の天然ガス在庫は減少傾向となるが、2020~2021年の冬場にかけては減少ペースがさらに加速した結果、2020年11月13日時点では、過去5年平均値を8.7%上回っていた欧州での天然ガス在庫は2021年2月13日時点では過去5年平均値を5.9%下回る(図28参照)など、同地域での天然ガス需給は引き締まる傾向を示した。このような欧州での天然ガス需給引き締まり傾向とともにアジアでのLNG価格上昇、そして依然欧州の天然ガス価格決定に対する影響力を残している原油価格の上昇(11月20日の米国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックによる新型コロナウイルスワクチンの米国FDAへの緊急使用許可申請の情報以降、米国等での新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大による個人の外出規制及び経済活動制限の緩和に伴う世界経済成長の加速と石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことが一因となって原油価格は以降上昇傾向となっている)、さらに炭素排出権価格の上昇(12月11日に欧州連合(EU)の指導者が首脳級会議である欧州理事会において2030年までの二酸化炭素排出削減率(1990年比)を既存の40%から55%以上に引き上げることで事実上合意したこともあり、この日の欧州炭素排出権価格は二酸化炭素排出量1トン当たり31.30ユーロ(同約37.89ドル)と2005年に欧州で炭素排出権取引市場が創設されて以来の最高水準に到達した他、それ以降も上昇が続いた)に伴い化石燃料中でもより二酸化炭素排出量の低い天然ガスの需要が増加するとの観測が市場で増大したこと等により、欧州での天然ガス価格は上昇基調となり、11月13日には日量100万Btu当たり推定2.995ドルであった英国天然ガス(NBP:National Balancing Points)先物価格は1月12日には同10.58ドルに到達した。またオランダの天然ガス指標であるTTF(Title Transfer Facility)天然ガス先物価格も11月13日には100万Btu当たり推定4.357ドルであったものが1月12日には推定8.256ドルに到達している(図29参照)。ただ、アジアLNG価格の上昇が頂点に達した1月13日(後述)以降、アジアLNG価格が下落傾向となったことに加え、1月下旬(及び2月中旬)には欧州での気温が上昇するとの予報が発表されたこと、アジアLNG価格の欧州天然ガス価格を上回る幅が縮小した(図30参照)ことにより、供給に伴う利幅が相対的に確保されやすくなった英国をはじめとする欧州にLNGが供給されつつある(英国天然ガス市場へのLNG受入基地からの天然ガス流入は2月に入り急増している、図31参照)こともあり、英国NBP及びオランダTTF天然ガス価格も下落傾向となり、2月12日現在英国NBP天然ガス価格は100万Btu当たり推定6.211ドル、オランダTTF天然ガス価格は同5.522ドルとなっている。

図25 英国(ロンドン)気温の推移(2020~21年)

図26 英国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2011~21年)

図27 欧州のLNG輸入(2006~21年)

図28 欧州天然ガス在庫(2018~21年)

図29 天然ガス先物価格の推移(2018~21年)

図30 米国メキシコ湾から英国及び日本/韓国向けLNGのネットバック価格

図31 英国天然ガス使用へのLNG受入基地からの天然ガス供給量(2020~21年)

また、9月10日に発表された米国海洋大気庁気象予報センターによるラニーニャ現象の発生及び2020~2021年の北半球の厳冬予想により、北半球のLNG輸入国の輸入が活発化するとの観測が市場で発生したこともあり、LNGタンカー傭船市場では、大手国際石油会社をはじめとする、複数の供給源及び供給先を有するLNG事業者(「ポートフォリオ・プレーヤー」と言われ、安価なスポットLNGを調達し原油価格連動型LNG価格体系等によるLNG売買契約を締結する需要家他に対し販売を行うことを目指す等する)等により、傭船料が上昇する前にLNGタンカーを確保しようとする動きが見られた(一部の事業者は1年~1年半程度といった長期間に渡りLNGタンカーを確保しようとしたとされる)。また、パナマ運河でのLNGタンカーの滞船が深刻化、最速では1日で運河の通過が可能とされるところ、11~12月には通過に最大2週間程度を要するようになったと伝えられた。パナマ運河での滞船の深刻化には、複数の理由が挙げられている。当初は、米国からの冬場の暖房用等需要充足に向けたLNG輸出が活発化した一方パナマ運河でのLNG通過予約が通過予定の10~15日前の時点で1日当たり1船に限られていたことに加え、パナマ運河の大西洋側入り口付近で濃霧が発生したことにより船舶の航行に支障を来したこと、新型コロナウイルス感染拡大に伴い安全対策を入念に行うようになった結果運河の通過手続き等に時間を要するようになったこと等によるものとされた。しかしながら、時間が経過するにつれ、理由にも変化が見られるようにもなった。12月以降濃霧は船舶滞船理由として挙げられなくなった反面、冬場の暖房向け天然ガス需要期到来に伴いLNGタンカーの通過が集中したという理由に加え、概してLNGタンカーよりも高価な運河通過料を課することのできるコンテナ船の通過を優先したことが影響したと指摘する向きも見られた(なお、1月4日にパナマ運河はLNGタンカー通過体制を変更、通過予約を1日当たり2船とした他、直前に他の船舶の通過予約取消等が発生した場合には通過予定時刻の2~3日前の時点で入札により通過予約を付与する方式を導入しており、このような方策もあり当該運河の大西洋側入り口における滞船日数は4~5日間程度に縮小した旨1月22日に伝えられる)。他方、一部の天然ガス液化施設において操業上の問題が発生した結果、減産したり、操業を停止したりしたものがあった。この中には、豪州のゴーゴン(Gorgon)LNG(操業主体:シェブロン(Chevron))(2020年5月23日から11月23日にかけ第二液化施設(天然ガス液化能力年間520万トン)の熱交換器の溶接部分での亀裂発見により改修作業を実施、そして引き続き第一液化施設(同年間520万トン)につき同様の問題がないか点検のため現在操業を停止中であり、当該作業は完了間近である旨2月1日にシェブロンが明らかにしている(さらに3月に予定される第一液化装置の点検完了後、第三液化装置の点検を開始する予定である))、同国のプレリュード(Prelude)LNG(操業主体:シェル(Shell)、天然ガス液化能力年間360万トン)(2020年2月2日から2021年1月9日まで操業を停止(電気系統の不具合とされる))、そして、同国ウィートストーン(Wheatstone)LNG第一液化施設(操業主体:シェブロン、天然ガス液化能力年産445万トン)(沖合天然ガス生産施設において天然ガス処理装置が操業を停止した旨12月4日にシェブロンが明らかにしており、これによりLNG生産が減少していると推測されたが、2月1日の時点でなお当該装置が修理中であるため、当該LNG施設での生産が依然として通常の水準を若干ながら下回っている旨同日シェブロンが説明している)の他、マレーシアLNG(操業主体:ペトロナス、同年間2,800万トン)(8月初旬に天然ガス生産関連施設で不具合が発生して以来しばしば減産の情報が流れている)、カタールLNG第四液化施設(操業主体:カタール・ペトロリアム、同780万トン)(冷媒圧縮機の不具合により11月19日に操業を停止したが12月18日に操業を再開したとされる)等が含まれる。加えて、ノルウェーのスノービット(Snohvit)(もしくはハメルフェスト(Hammerfest))天然ガス液化施設(操業者:エクイノール(Equinor)、天然ガス液化能力年間420万トン)のタービン施設で2020年9月28日午後3時半頃(現地時間)火災が発生したことにより当該施設の操業が停止、9月29日時点では10月28日まで、10月12日には2021年1月1日まで、操業を停止する旨それぞれ伝えられた他、10月26日にはエクイノールが当該施設の修理のため最大で12ヶ月間操業を停止する旨明らかにした。そして、このような操業上の問題の発生した天然ガス液化施設からのLNG供給減少の代替として他の天然ガス液化施設からのLNG調達が実施されたことにより、かえってLNG輸送のためのLNGタンカーの使用期間が長引く格好となった結果、スポット市場にさらにLNGタンカーが供給されにくくなった側面があると見る向きもある(スノービットLNG天然ガス液化施設操業停止の際には、従来同LNGを輸入していたリトアニアやポーランドの需要家が代替のLNGを米国、トリニダード・トバゴ及びナイジェリア等から調達したことにより、LNG輸送が長期化したと言われている)。その結果、9月中旬にはアジア太平洋、インド洋及び大西洋地域において20隻程度が利用可能であると推定されたスポットLNGタンカー隻数は、12月にはアジア太平洋地域で1~2隻程度利用可能な状態にまで減少した(インド洋及び大西洋地域では利用可能なLNGタンカーは皆無になったとされる)。このようなこともあり、9月下旬初頭頃には100万Btu当たり1ドル台前半程度とされた、米国メキシコ湾から北東アジア諸国に向けたLNGタンカーの傭船コストが、以降上昇し始め、10月下旬には同2ドル半ば~後半程度に到達した。他方、韓国は冬場の大気汚染抑制のために12月1日から2月28日にかけ9~16ヶ所の石炭火力発電所の稼働を停止する方針である旨11月26日に発表したことにより同国発電部門での代替燃料として天然ガスが利用されるようになることに伴うLNGの需要増加観測が市場で増大、併せて韓国ガス公社(Kogas)がLNG購入に向け動いている旨伝えられた。また、台湾でも原子力発電所の装置不具合発生に伴う稼働停止(12月16日に伝えられる)により発電のための代替燃料としての天然ガス利用が促進されることとなったことから、同国でのLNG需要も増加した。さらに日本でも関西電力大飯原子力発電所(発電能力118万kW)がメンテナンス作業実施に伴い11月3日に操業を停止した。それでも、11月25日に発表された日本の気象庁の12~2月の3ヶ月予報は全国的に平年並み(北日本は平年並みか高い)との見通しであった他、実際12月中旬頃までは北東アジア諸国の気温は平年よりも温暖であったこと(図32、33及び34参照)もあり、北東アジア諸国の需要家からのLNG購入活動は必ずしも極めて活発とも言い切れなかった(図35及び36参照)。ただ、10月16日以降一部の大手国際石油商社等によるLNG購買意欲は旺盛であったと見受けられ、LNGに関し高水準の購入希望価格が提示された結果LNG価格が大幅に上昇する場面が見られるようになり、10月前半には100万Btu当たり5ドル~5ドル台半ば程度であった北東アジアのスポットLNG価格は12月中旬には同10ドルを超過する水準に到達した。さらに、12月下旬から1月中旬にかけては、中国、韓国及び日本において気温が平年を相当程度下回る程度にまで低下した(中国の北京は1月7日朝にはマイナス19.6度と1966年以来の低気温となったとされる)ことから、暖房のための民生部門での天然ガス需要及び暖房用空調機器稼働による電力供給のための発電部門での天然ガス需要が急増するとともに、これら諸国の天然ガス需給が引き締まり始めたことで、北東アジア諸国はLNG購入を活発化させようとした。しかしながら、既に利用可能なLNGタンカーがほぼ見当たらない状況となった(このようなこともあり、LNGタンカー傭船コスト(米国メキシコ湾~北東アジア諸国)は1月上旬には100万Btu当たり6ドル弱~7ドル強の水準に到達するなど高騰した)ことから、LNGの購入が相当程度困難となった他、大手国際石油商社等からの高水準の購入希望価格提示が継続したこともあり、スポットLNG価格の上昇は継続した。このため、一部公益事業者の中には天然ガス在庫が減少する(日本の電力会社における天然ガス在庫は12月9日の200万トン弱の量から1月11日には100万トンを割り込む水準へと低下した旨示唆される)とともに、12月下旬には天然ガス火力発電所の稼働を低下させるところも見られるようになった。また、併せて、北東アジア諸国の公益事業者等は長期LNG売買契約に定められる一定の範囲内での買い増しオプション(UQT: Upward Quantity Tolerance)を行使することや、発電用代替燃料として石炭及び重油を確保することが模索されるようになった。しかしながら、UQTの権利行使はかなり困難である旨判明した(LNGタンカーの利用可能隻数減少や既に発生していた天然ガス液化施設の操業上の支障等によりLNG供給に余裕がなかったことが背景にあるものと見られる)他、中国の気温の大幅低下に伴う発電部門向け石炭需要の増加(なお、2018年8月23日に豪州政府が中国ファーウェイ・テクノロジーを自国の5G通信網構築から事実上排除したこともあり両国の関係は従来から良好ではなかったが、2020年4月23日に豪州のモリソン首相が新型コロナウイルス感染経路につき独立した調査の実施を主張したことに中国側が反発したことでさらに両国関係が悪化したこともあり、中国の豪州からの石炭輸入は減少し始めた(中国の豪州産石炭通関手続きが遅延している旨10月13日に伝えられる)他、12月13日には中国国内発電所は豪州産石炭の調達を事実上停止するよう指示を受けている(そして、中国は豪州の代わりにインドネシア、ロシア及び南アフリカ等から石炭を輸入した)旨報じられていたが、豪州産石炭は中国に輸出される代わりにインド、バングラデシュ及びトルコに向かうようになっていた)により当時石炭需給も引き締まっており、石炭価格が上昇するともに直ちに石炭を調達することには困難を伴った。さらに、重油については従来需要が減少気味であった他、2020年1月1日に発効した国際海事機関(IMO)による船舶用燃料の硫黄含有分規制強化(重量比で3.5%から0.5%に引き下げ)に伴い、従来重油を利用していた一部の船舶が燃料として船舶用軽油(MGO: Marine Gas Oil)を使用し始めるとの見方が強まったことが、さらに重油の生産体制を後退させる格好となったことにより、重油の需要が増加しても直ちに調達できるような状態ではなかった。このような中で、1月前半は北東アジア諸国において気温が平年を下回る状態が継続したこともあり、天然ガス需給の引き締まり感が強まる方向に向かったことから、1月7日には北東アジアのスポットLNG価格は100万Btu当たり20.705ドルと2014年2月14日に到達したそれまでの史上最高水準である同20.20ドルを超過した他、1月13日には北東アジアLNG価格は100万Btu当たり32.50ドルの史上最高水準に到達した。しかしながら、その後は北東アジア諸国の気温が平年並みにまで上昇してきたことで暖房のための空調機器向け電力供給のための発電部門向け天然ガス需要が落ち着き始めたこと、低硫黄重油(排煙脱硫装置を設置している石油火力発電所を保有する西日本の一部公益事業者は高硫黄重油)等の代替燃料の調達が進み始めたこと、1月15日に関西電力大飯原子力発電所第4号機が稼働を再開したことで天然ガス火力発電に対する需要が相対的に低下したにより発電部門での天然ガス需要が減少したことに加え、気温の相対的な上昇により民生部門での暖房用天然ガス需要も沈静化し始めた(また、パナマ運河の滞船により航行が遅延していた米国産LNGが1月下旬以降北東アジア諸国に到着し始めた)こと、及び一部天然ガス液化施設において操業が回復したこと等からLNG需給緩和感が市場に醸成されるとともに、傭船相場も低下傾向となったこと(LNGタンカー傭船コスト(米国メキシコ湾~北東アジア諸国)は2月中旬には100万Btu当たり1ドル台半ば~2ドル弱程度の水準にまで低下してきた他、2月前半頃にはスポットLNGタンカーもアジア太平洋、大西洋及びインド洋で併せて10隻超利用可能となった旨示唆されるが、一方で、LNGタンカー傭船料の値頃感からポートフォリオ・プレーヤーが調達活動を行っているとも伝えられる)、そして大手国際石油商社等による高水準のLNG購入希望価格の提示もなされなくなったこともあり、北東アジアLNG価格は2月11日には100万Btu当たり7ドル弱の水準と、足元の原油価格等価の水準を下回る程度にまで下落している。

図32 日本(東京)気温(2020~21年)

図33 中国(北京)気温(2020~21年)

図34 韓国(ソウル)気温(2020~21年)

図35 日本及び韓国のLNG輸入増減量(前年同月比)(2008~21年)

図36 中国、台湾及びインドのLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~21年)


以上

(この報告は2021年2月15日時点のものです)

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