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カナダ:連邦政府の水素戦略とAlberta州政府の天然ガス戦略

レポート属性
レポートID 1008960
作成日 2021-02-17 00:00:00 +0900
更新日 2021-02-17 13:28:12 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG環境
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 18
抽出データ
地域1 北米
国1 カナダ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,カナダ
2021/02/17 舩木 弥和子
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概要

  • カナダ連邦政府及びAlberta州政府は、脱炭素化を目指す世界的な流れの中で、経済の再編成、石油・ガス業界の立て直しを図ろうと、水素及び天然ガスに関する戦略を発表した。
  • Alberta州政府は、豊富な天然ガス資源、経験豊富で革新的な技術力、そして高度な技術を有する労働力を背景に、天然ガスの新たなバリューチェーンの構築を推進し、あるいは既存のバリューチェーンを拡大することで、天然ガス需要増を促し、州内の石油・ガス産業を改めて振興していく方針だ。そして、この目標を実現するため、LNG、水素、Alberta州の産業需要、石油化学、プラスチック製品リサイクルの5分野に注力するとしている。中でも、LNGに関しては、2030年までに大型LNG生産・出荷プラントを2~3か所建設、アジアや欧州にLNGを供給するとしている。また、水素に関しては、2030年までに天然ガス由来のブルー水素製造事業を州内で稼働し、州内の商業用途で利用、2040年までに水素及び水素由来製品をカナダ国内へ供給するとともに、国外へ輸出することを目指すとしている。
  • 連邦政府の水素戦略は、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で30%削減し、2050年までに排出量をネットゼロにするというパリ協定の合意を実現するため、水素の生産、利用、輸出を促進するとしている。そして、そのために、国内に水素ハブを創設、2050年までに水素生産量を2,000万トン以上とし、世界の水素生産国のトップ3に入り、水素がカナダのエネルギーの30%を供給し、世界から選ばれる水素供給国となることを目標としている。化石燃料、再生可能エネルギー、原子力発電、バイオマス、産業の副生産物など多様な水素源から水素を生産し、輸送用燃料、発電用燃料、産業及び建物への熱供給、産業用原料として利用することで、現在、天然ガスで供給されているエネルギーの50%以上を水素に代替し、GHG排出量を1億9,000万トン削減することを目指すという。そして、水素及びその技術を輸出する方針だ。
  • 連邦政府は、2020年12月に「健全な環境と健全な経済」とクリーン燃料規制の草案を発表し、水素戦略と併せて、低炭素社会の実現を目指すとしている。ただし、カナダではパリ協定実現のためにこれまでに77以上の環境関連政策が発表されたものの、連邦政府と各州政府の調整ができず、実現に至っていない。一方、Alberta州政府は連邦政府の水素戦略への取り組みを支援するとし、数ヶ月以内にAlberta州の水素ロードマップを策定すると発表している。

(出所:バンクーバー事務所他)


はじめに

カナダ、中でもAlberta州、そして、その石油・ガス産業は、Alberta州の主要産業であるオイルサンド事業からの外資撤退や金融機関の投資引き揚げ、パイプラインの輸送能力不足等など様々な問題を抱え、厳しい状況にある。特に2020年春からのコロナ禍とそれに伴う石油需要の減退、原油価格の急落以降は、オイルサンドに対するダイベストメントの流れ(Totalが同州オイルサンド事業を座礁資産認定する等)が加速した。価格下落に加え生産量も低下しているため、石油やガスの売り上げが低下し、Alberta州経済、とりわけ石油・ガス産業は非常に苦しい状況に追い込まれている。このような状況下、経済の再編成、石油・ガス業界の立て直しを図ろうと、また、世界的な脱炭素化を目指す流れを受けて、2020年10月にAlberta州が天然ガスに関する戦略を、12月に連邦政府が水素戦略を発表した。

ここでは、まずカナダのエネルギーの概観をつかむため、参考までに、一次エネルギー消費内訳を図1に、エネルギー源別発電量の割合を図2に、石油、天然ガス、電力生産・輸出入状況を表1に示した。一次エネルギー消費の内訳では、石油が32%、ガスが30%、水力が24%、原子力が6%を占めている。エネルギー源別発電量の割合では、水力の割合が59%と高く、原子力が15%とこれに続いている。また、石油は生産の7割強を主に米国に輸出、カナダは生産したガスの4割強を米国に輸出、電力は1割弱を米国に輸出している。

図1カナダの一次エネルギー消費内訳(2019年 14.21Exajoule)
図1 カナダの一次エネルギー消費内訳(2019年 14.21Exajoule)
BP Statistical Review of World Energyを基に作成
図2カナダのエネルギー源別発電量の割合(2018年)
図2 カナダのエネルギー源別発電量の割合(2018年)
出所:EIA
表1 カナダの石油、天然ガス、電力生産・輸出入状況(2019年)
  石油(百万トン) 天然ガス(10億立方メートル) 電力(Terawatt・hour)
生産 275 173.1 660.4
輸出 197 73.2 60.4
 うち米国向け 190 73.2 60.4
輸入 33 25.1 13.4

出所:BP Statistical Review of World Energy、Canada Energy Regulator   

 


1. Alberta州政府の天然ガス戦略

Alberta州のDale Nally天然ガス・電力担当准大臣は2020年10月7日、同州の新たな天然ガス戦略「天然ガス ビジョンと戦略(Natural Gas Vision and Strategy)」を発表した。

同戦略は、世界のエネルギーシステムがかつてないほどの変化を遂げている中、最もクリーンなエネルギーの一つである天然ガスは、世界中の何十億人もの人々にエネルギー安全保障を提供し、環境面での成果をもたらす上で、極めて重要不可欠かつ永続的な役割を果たすことになるとしている。

Alberta州には豊富な天然ガス資源、高度な技術を持つ労働力、経験豊富で革新的な技術力を持つ企業が存在する。しかし、市場シェアを拡大し、国内消費を拡大するためには、連邦政府と強力なパートナーシップを構築し、上流部門の活力を回復し、バリューチェーンを拡大し、新たなビジネスモデルへの橋渡しをするための新たな戦略が必要であるとしている。

さらに、最近、石油・ガスパイプライン建設について、しばしば関係がこじれる先住民(First Nationsと呼ばれる住民)とのパートナーシップを重視し、また、連邦、州、地方自治体の規制を合理化し、効率的な規制環境を目指しつつ、新たな市場へのアクセスを拡大し、新たな機会を掴み、世界市場の変化に直面するために、投資を呼び込み、競争力を向上させていくことが重要であるとしている。

Alberta州は、具体的には、LNG、水素、Alberta州の産業需要、石油化学、プラスチック製品リサイクルの5分野を柱とし、天然ガスの新たなバリューチェーン構築を推進し、あるいは既存のバリューチェーンを拡大することで、天然ガス需要の増加を促進し、州内の石油・ガス産業を改めて振興していく方針であることを明らかにした。


(1) 天然ガス生産、利用などの現況

Alberta州では、天然ガスは100年以上にわたり、オイルサンド生産(熱源となる水蒸気生成)や発電用燃料、あるいは化学製品原料として中心的な役割を果たし、同州のエネルギー供給、あるいは経済発展の礎となってきた。2006年のAlberta州の天然ガス生産量は日量141億立方フィートで、2005/2006年度の州へのロイヤルティ支払額は84億カナダドルに上ったとされる。しかし、その後、天然ガスパイプラインの輸送能力不足や建設遅延、米国産シェールガスとの競争激化により、Alberta州の天然ガス生産者は市場シェアを失い、割安な価格でガスを販売せざるを得なくなっており、生産量は日量111億立方フィートまで減少、2019/20年のロイヤルティは、実に3億7,100万カナダドルにまで落ち込んでいる。


(2) LNG

Alberta州は同戦略の中で、カナダから安全でクリーン、かつ責任を持って供給されるLNGは、世界の消費者のエネルギー安全保障を促進し、石炭などの温室効果ガス排出量の多い燃料からの移行を促進し、増加する世界のエネルギー需要の充足に貢献できるとしている。また、Alberta州の天然ガス産業は、先住民を含む地域社会と連携し、環境への影響が最も少なく、カナダにも経済発展の機会をもたらすとしている。

そして、2030年までに大型のLNG生産・出荷プラントを2~3か所建設し、アジアやヨーロッパの市場にLNGを供給することを目標とするとし、そのために、以下のような短期的、あるいは中長期的な取り組みを行うとしている。

  • 短期的(2020年の秋から2021年の冬)な取り組み
    • カナダのLNGプロジェクトを推進し、連邦政府の資金援助を活性化するため、正式にAlberta州と連邦政府間の協力を行う。
    • 提案されているLNGプロジェクトに直接働きかけ、それぞれのニーズを支援し、各プロジェクトの投資決定を加速させる。
    • Alberta Petroleum Marketing CommissionやAlberta Indigenous Opportunities CorporationなどのAlberta州の機関と協力し、同州のガスをカナダ東海岸と西海岸に輸送できるよう検討する。
  • 中長期的(2021年以降)な取り組み
    • 連邦政府が規制プロセス審査中のLNG関連のプロジェクトやパイプラインを積極的に支援する。
    • 生産者と事業者のパートナーシップやオフテイク契約を成立させるための支援を促進する。
    • Alberta州産天然ガスの東西への輸送を促進するため、既存パイプラインの接続の最適化を図る。
    • カナダ連邦政府およびBritish Columbia州政府と協力して炭素削減の機会を促進する。
    • 必要に応じて、Alberta州政府、他の政府、産業界、先住民族、国内外の公的金融機関からの投資を促進する。

 

このような取り組みにより、Alberta州は2020年代半ばから後半には、新たなLNGの供給源となると意気込んでいる。その背景には、Alberta州には豊富な天然ガス埋蔵量があり、2018年にはカナダの天然ガスの約3分の2を生産しているという状況がある。また、カナダはLNGプロジェクトに税制優遇措置と輸出ライセンスの期間延長を認めることで、LNG産業に競争力のある環境を提供し、カナダのLNGプロジェクトは、アジアやヨーロッパの市場で他のLNGプロジェクトに勝る可能性を指摘している。さらに、米国メキシコ湾岸のLNGプロジェクトと比較した場合には、カナダ東海岸からはヨーロッパ、西海岸からはアジアへのより短いルートとなっている。加えて、カナダのLNGプロジェクトは、水力発電を活用してLNG液化施設を開発・操業できるため、低炭素またはゼロ炭素、低コストのLNGを供給することができるとしている。

そして、LNGを市場に供給することは、雇用、投資、政府収入を増加させ、産業活動を活発化し、Alberta州の天然ガス産業の成長につながるとしている。年間5,600万トンのLNGが生産されることで、2020年から2064年の間にカナダの国内総生産(GDP)を年間平均110億カナダドル以上増加させ、年間96,550人の雇用を増加させることができるなどの経済的効果が期待できるとしている。


(3) 水素

Alberta州は同戦略の中で、クリーンな水素経済を発展させることは、同州及びカナダにとって大きな経済的価値を生み出し、環境面で重要な成果を促進することができるとし、さらに、輸送や家庭用の熱供給、発電や産業プロセスの燃料として水素を取り入れることは、カナダにとってパリ協定の下で温室効果ガス削減目標を達成するための鍵となるとしている。そして、水素の需要が増加すれば、Alberta州は天然ガスのバリューチェーンを水素にまで拡大、統合することが可能となり、それにより雇用を創出し、政府の収入を生み出し、クリーンな燃料を世界経済に貢献することができ、Alberta州民、カナダ国民、そして世界に利益をもたらすことになるとみている。

世界の水素需要は2050年までに10倍に増加する可能性があるが、Alberta州は、すでに工業プロセス用水素の世界最大の生産地域の一つであり、低コストで低排出量の水素を生産し、使用するための専門知識を豊富に有しており、世界で最も低コストの水素生産エリアの一つになる可能性があるとしている。また、Alberta州では、エネルギー部門にすでに水素技術が選択的に、あるいは、試験的に導入されており、Air Productの Heartland水素パイプラインや Alberta Carbon Trunk Line、Quest炭素回収・貯蔵プロジェクトなどが実施され、水素及び二酸化炭素の輸送・貯留インフラがある。今後は、国内の大型輸送手段(トラックや貨車等)の脱炭素化や、産業、電力、家庭用熱供給のためのクリーンな水素生産のリーダーとなる可能性があるとしている。

Alberta州政府は、2030年までに天然ガス由来のブルー水素製造事業(CCUS事業とセット)を州内で稼働、展開させ、州内の様々な商業用途への展開を目指すとしている。さらに、2040年までには水素及び水素由来製品をカナダ国内へ供給するとともに、国外へ輸出することを目標としている。そのために、Alberta州政府は以下の取り組みを行うとしている。

  • 短期的(2020年の秋から2021年の冬)な取り組み
    • 水素システムの配置、パートナーシップ、障壁とギャップ(商業、技術、政策)、技術開発の可能性、目標を決定するため、Alberta州以外の関係者との間で水素システムに関するパートナーシップを構築し、ロードマップを作成する。
    • Alberta州及び他の州で水素導入を加速させるために、連邦政府との間で共通の利益とパートナーシップの機会を確立する。
  • 中期的(2021年から2023年)な取り組み
    • 最適な水素システムの配置、政策、イノベーション戦略、資金調達支援について詳細なAlberta州の水素ロードマップを策定する。
    • カナダ西部での水素導入を加速させるために、カナダ西部の州間での支援を構築し、政策を調整する。
    • 水素導入を包括的に行うために官僚的な手続きを廃止し、可能な政策、法律、基準を可決する。
    • 産業界と協力して、インフラを含めたパイロットプロジェクトや初期の実証プロジェクトを推進する。
    • 水素経済構築を促進するために、連邦/州の民間セクターの共同出資を加速する機会を探る。
    • LNG輸出バリューチェーンへの全体的なアプローチの一環としての水素の機会を調査・検討する。
  • 長期的(2023年以降)な取り組み
    • 業界のリーダーと協力して、インフラを構築するだけでなく、スケールアップと商業展開を加速させる。既存の天然ガスインフラやパイプラインを利用したより広範な水素輸送の機会を探ることも含まれる。
    • 他の政府と協力して、カナダ全土での水素輸送が可能になるようにする。
    • 世界規模の水素エネルギー輸出プロジェクトをAlberta州へ誘致し、確保する。

 

水素利用の経済的な効果について、エネルギーの移行に資する水素について統一した長期ビジョンを持つ大手企業によるグローバルなイニシアチブである「水素評議会(Hydrogen Council)」は、2050年までに水素と関連機器の世界の市場規模が年間2.5兆ドルに達し、3,000万人の雇用を創出すると予測している。また、米国の水素経済に関するロードマップでは、米国の水素経済は、2030年までに年間 1,400億米ドルの収益と70万人の雇用を、2050年までには、年間7,500億米ドルの収益と340万人の雇用を創出できるとしている。しかし、Alberta州にとっての具体的な経済効果についてはさらなる分析が必要であるとしている。


(4) Alberta州の産業の需要

Alberta州の天然ガスとNGLは、主としてAlberta州の電力、オイルサンド、石油化学、セメントなどの産業部門へ供給されている。これらの産業はAlberta州内の天然ガス需要の半分以上を占めており、今後も増加が見込まれている。また、石炭を天然ガスに置き換え、コージェネレーションなどの産業プロセスを進化させることで、Alberta州は温室効果ガスの排出量を減らし、環境への影響を改善することができるとしている。

Alberta州政府は、天然ガス処理インフラへの投資を増やすことで、同州内の天然ガスとNGLの需要を増加させることを目指している。また、天然ガスの輸送・流通インフラを急速に拡張することで、産業のパフォーマンスを向上させ、成長を図るとしている。そのために行う取り組みとして、以下を示している。

  • 短期的(2020年の秋から2021年の冬)な取り組み
    • 連邦のエネルギー規制当局Canada Energy Regulatorと協力して、提案されている石炭から天然ガスへの転換にあたっての規制上の課題と遅延対策を特定する。
    • Alberta州内の老朽化したパイプラインインフラの現状を評価し、優先順位をつけ、農村部、先住民族、遠隔地のコミュニティへ信頼性の高い天然ガス供給を可能にするための提言を作成する。
    • 石炭火力発電を置き換える新規天然ガス発電の影響評価要件を撤廃するため、連邦政府の合意を求める。
  • 中長期的(2021年以降)な取り組み
    • Alberta州の天然ガスおよびNGL処理インフラおよび石油・ガス化学産業への追加投資を促すプログラムと適切な支援メカニズムを実施する。
    • 可能であれば、天然ガスに転換する施設へのパイプライン接続の承認に関してAlberta州政府が規制、監督を実施する。
    • 石炭からガスへの転換と地方へのガス供給へのアクセスに関する規制上の障壁に対処するために、連邦のCanada Energy Regulatorとの協力を継続する。
    • 産業クラスターおよび指定工業地帯が、計画されたプロジェクトを適時に開発し、効率を高めることができるようにするための行動を支援する。

 

経済的な影響として、Alberta州エネルギー規制局が2020年6月に発表した見通しによると、発電部門の天然ガス消費量は、2019年の日量12億立方フィートから2029年には19億立方フィートに増加するという。また、オイルサンドの生産量は、2019年の日量310万バレルから2029年には400万バレルに増加すると見込んでおり、これに伴い、オイルサンドの処理に用いられる天然ガスの消費量も同期間に日量19億立方フィートから27億立方フィートに増加すると予測されている。全体として、2019年から2029年にわたり、Alberta州の石油化学プラントの天然ガス需要は、年平均1.3%の増加が見込まれている。


(5) 石油化学及びプラスチック製品リサイクル

Alberta州は石油化学に関し、その生産で世界トップ10入りを果たし、現在製造されている製品のポートフォリオを拡大・多様化することを目標として打ち出した。Alberta州政府は、その結果、新規施設の建設・運営期間中に9万人以上の直接・間接雇用を創出、Alberta州政府に100億カナダドル以上の法人税・所得税収入がもたらされると見ている。

また、プラスチック製品のリサイクルに関して、Alberta州政府は、先進的な化学薬品と再生可能な低炭素プラスチックリサイクルの研究を行い、州全体にプラスチックリサイクルと転用システムを導入し、2030年までに同州が北米西部におけるプラスチックの転用とリサイクルの中心地となることを目指すとしている。また、地域を超えて連携し、プラスチックの転用とリサイクルを実施するとしている。


2. カナダ連邦政府の水素戦略

2020年12月16日、カナダ連邦政府のSeamus O’Regan天然資源大臣は、「カナダの水素戦略:水素開発事業の機会をつかむ(Hydrogen Strategy for Canada: Seizing the Opportunities for Hydrogen)」を発表した。

この戦略は、労働者、産業界、政府、先住民団体、学界を含む1,500人の専門家や利害関係者の意見を取り入れ、3年間にわたり実施された研究と分析の結果をまとめあげたものである。

同戦略は、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で30%削減し、2050年までに排出量をネットゼロにするというパリ協定の合意を実現するため、水素の生産、利用、輸出を促進するとしている。そのために、国内に水素ハブを創設、2050年までに水素生産量を2,000万トン以上とし、世界の水素生産国のトップ3に入り、水素がカナダのエネルギーの30%を供給し、世界から選ばれる水素供給国となることを目標としている。


(1) 水素生産、利用などの現況

カナダは現在、精製や窒素肥料生産などで生じる天然ガスの水蒸気メタン改質により水素を生産している。水素生産量は年間推定300万トン以上となっており、世界のトップ10にランクインしている。地域的にはカナダ西部での生産量が多く、次いでカナダ中部と大西洋岸で生産されている。

図3 Alberta州の水素パイプライン
図3 Alberta州の水素パイプライン
出所:Hydrogen Strategy for Canada: Seizing the Opportunities for Hydrogen

生産された水素は、主にトレーラートラックで輸送されている。また、Alberta州には水素専用のパイプラインがあり、このパイプラインを使って水素を低コストで輸送することができる。

水素は、輸送用燃料として利用されており、小型の燃料電池電気自動車(FCEV)約110台が稼働しており、British Columbia州に3カ所、Quebec州に1カ所、Ontario州に1カ所の水素供給ステーションがある。燃料電池式電気バス(FCEB)も数は少ないが、15年以上の運転実績がある。

また、産業用原料として石油精製、アンモニア、メタノール、鉄鋼生産で利用されている。


(2) 水素の生産

「カナダの水素戦略」は、カナダは、化石燃料、再生可能エネルギー、原子力発電、バイオマス、産業の副生産物など多様な水素源を持ち、水素生産における優位性を有していると強調している。

カナダでは、世界第3位の発電量を誇る水力発量が総発電容量の約6割を占めている。また、再生可能エネルギー(風力、太陽光)の導入も進められている。そのため、カナダの電力は、その82%が原子力等を含む温室効果ガスを排出しない電源から供給されている。このように大規模で安定したクリーン電力が存在することによって、水電解による規模の大きなグリーン水素を生産することが可能であるとしている。

また、カナダには、天然ガス、原油、ビチューメン、石炭などの化石燃料が豊富に埋蔵されており、CCUSによる化石燃料からのブルー水素生産の数十年の経験もあるとしている。特にカナダ西部堆積盆地には、永続的なCO2の貯留に適した地質が多数あり、石油・ガス部門からの専門知識の移転も容易に可能であるとしている。

特に、天然ガスに関しては、埋蔵量が多く、CO2貯蔵の可能性があるカナダ西部Alberta州、British Columbia州、Saskatchewan州ではメタンを水素に変換し、CCUSと組み合わせる方法が適しているとしている。

すでに、Shell QuestプロジェクトやAlberta Carbon Trunk LineとリンクしたSturgeon製油所などCCUSのプロジェクトが実施されている。これらCCUSを使用した化石燃料由来のブルー水素は、低コストで豊富な天然ガスによって、水電解によるグリーン水素に比べてコスト競争力があるとしている。

また、Alberta州北部やSaskatchewan州の原油やビチューメンについては、地下深くでガス化を行い、水素を分離、二酸化炭素を捕集するためにCCUSを使用する新たな技術が開発されている。

さらに、カナダには水素や燃料電池技術についての専門的な知識があり、エネルギー部門の熟練した労働力を利用可能であるとしている。

このような利点を活かして、水素を生産し、経済を発展させることは、カナダの石油部門にとっては変革の機会となり、カナダのエネルギー企業は、ゼロ・エミッションの未来において、燃料供給者としてバリューチェーンを拡大することが可能となるとしている。そして、2050年までに、カナダは水素生産量を7倍に拡大し、年間2,000万トン以上の水素を生産するとしている。

図4 カナダの水素生産ポテンシャル
図4 カナダの水素生産ポテンシャル
出所:Hydrogen Strategy for Canada: Seizing the Opportunities for Hydrogen

(3) 水素の貯蔵・輸送

水素の貯蔵に関しては、塩の洞窟など水素を貯蔵可能な地下の構造や枯渇した天然ガス井を利用するとしている。

また、天然ガスパイプラインは、水素の貯蔵と輸送の両方に使用可能である。カナダには、生産地からカナダと米国の市場に天然ガスを供給する世界最大級のパイプラインネットワークがあるが、他国に比べ天然ガスパイプラインへの水素混入についての基準が整備されておらず、これを制定することが必要となる。また、一旦混合した水素と天然ガスを分離することは現在のところ困難であるが、中期的にはこれを実現する可能性があるとしている。

Alberta州には水素専用のパイプラインがあり、今後、これを拡張することで、水素を低コストで大規模に輸送できるようになり、カナダの優位性を高めることができるとしている。

また、水素をマイナス253℃で液化することで、貯蔵や輸送を容易に行うことができるようになるとしている。


(4) 水素の利用

上記のように生産、輸送、貯蔵された水素を、輸送用燃料、発電用燃料、産業及び建物への熱供給、産業用原料として利用することで、温室効果ガス1億9,000万トンの排出を削減する可能性を秘めているとしている。

輸送用燃料としては、小型車、バスやトラック等の中型及び大型車、港湾荷役用機械、鉱山用大型車両、鉄道、船舶及び航空機での利用の可能性が示唆されている。

カナダ連邦政府は小型車販売台数に占めるゼロ・エミッション車(ZEV:電池式電気自動車(BEV)、FCEV、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)を含む)の割合を2025年までに10%、2030年までに30%、2040年までに100%にするという目標を掲げている。また、ゼロ・エミッション・バス(ZEB)イニシアチブ2に基づき、政府は今後5年間で5,000台のZEBを購入する教育委員会や自治体を支援することを奨励するとしている。燃料電池の小型乗用車及び路線バスは、数は限られているものの、すでに利用されており、今後は中・大型トラック、鉄道、船舶で燃料電池が重要な役割を果たすことが期待されている。ただし、これら産業用車両、鉄道、船舶及や航空機については現在、実証試験の段階にある。2050年には、カナダ全土で500万台の燃料電池車(Fuel Cell Electric Vehicle)が走行することが想定されている。

発電用燃料に関しては、タービンでの水素燃焼または定置型燃料電池発電所での利用が挙げられている。水素と天然ガスの混合物による燃焼タービンはすでに市販化されている。一方、水素100%による専焼タービンは開発中で、2030年までに実現を期待するとしている。

産業への熱供給に関しては、産業プラントでの蒸気及び熱生成に使用される燃料を水素と天然ガスの混合物または水素100%に変換することが提示されている。建物への熱供給については、家庭での暖房、給湯用に水素を導入することが挙げられている。

産業用原料としては、石油精製、アンモニア生産、メタノール生産及び鉄鋼生産ですでに水素が利用されているが、クリーンな水素を用いることで二酸化炭素排出量削減を図るとしている。

将来像としては、全国規模の水素供給ネットワークにより、現在、天然ガスで供給されているエネルギーの50%以上は水素に代替され、これにより新たな産業が成立するとしている。さらに、水素は、再生可能エネルギーの普及を促進するための架け橋としての役割を果たすとしている。


(5) 水素の輸出

「カナダの水素戦略」は、2050年までに、世界の水素の需要は少なくとも10倍増加し、世界の水素市場規模は2.5兆ドル以上に達すると予想、カナダには水素輸出の大きな機会があり、LNG輸出市場の獲得に取り組んでいる経験を基に、水素輸出市場をリードすることができるとしている。カナダは、日本、韓国、カリフォルニア、欧州など水素輸入が想定される市場に近接しており、2050年までにカナダの水素輸出は約500億ドルに達する可能性があると試算している。また、水素技術の輸出についても積極的な姿勢を示している。


(6) ロードマップ

「カナダの水素戦略」は、2025年までの5年間には、水素経済の基盤を築くことに注力するとしている。具体的には、地域や州の水素ロードマップの作成、水素ハブ候補の特定、展開を図り、新たな水素利用法のパイロット・実証プロジェクトを実施、新たな水素供給・流通インフラの計画・開発を行い、投資を促進、Clean Fuel Standardを含む政策・規制措置を策定、導入するなどが挙げられている。水素利用は、燃料電池の小型乗用車、路線バス、フォークリフトなどは商業化が進められ、大型トラック、鉄道、港湾荷役などの機械、発電、熱供給、産業用原料など商業化前の段階のアプリケーションは実証試験で導入を推進するとしている。

その後、2030年までの5年間は、水素経済の成長と多様化の段階に入る。水素関連技術が成熟し、商業的に実行可能な最終用途が増加、他のゼロ・エミッション技術と比較して水素が最も高い価値を提供できるようにすることに焦点が移る。既存の水素ハブが成長、拡大を続ける一方で、既存のハブに直結した新しい水素ハブが誕生、水素ハブ同士の接続も行われるとしている。燃料電池の乗用車及び路線バスは、急速な拡大段階に入る。低コストで大規模なブルー水素の生産により、熱供給、炭化水素の改質、化学製品原料などで商業化が進められる。水素経済の発展及びGHG排出量削減の観点から、2030年時点で10~20%の進捗率を目指す必要があるとしている。

図5 カナダでの水素利用
図5 カナダでの水素利用
出所:Hydrogen Strategy for Canada: Seizing the Opportunities for Hydrogen

さらに、2050年までには急速な市場の拡大により、カナダは世界をリードする水素技術の提供者となり、国内の低炭素燃料の生産を拡大しながら、経済回復を促進し、水素戦略のメリットを十分に享受できるようになると見ている。そして、新しい輸送用アプリケーションの商業化及び急速な拡大段階に移行、水素専用パイプラインの使用、天然ガスグリッドでの水素比率の増加などの技術革新を想定、クリーンな水素は、カナダ全土で広く利用可能となる。また、水素は、石油精製、アスファルトの改良、アンモニア製造、メタノール製造、鉄鋼製造を含む様々な産業プロセスの主要な供給源や熱源となることを想定している。水素経済の実現を通じて新たな雇用を創出、また、従来型のエネルギー分野の労働者の転向により、2050年までに35万人以上が水素に関連する仕事に就くとしている。


(7) 政策提言

「カナダの水素戦略」は、以下の8つを柱として政策提言を行っている。

第1の柱:戦略的パートナーシップ:既存および新規のパートナーシップを戦略的に活用し、協力してカナダにおける水素の将来を構想する。

第2の柱:投資のリスク回避:産業界と政府が水素経済の成長に投資することを奨励するための資金プログラム、長期政策、ビジネスモデルを確立する。

第3の柱:イノベーション:更なる研究開発を支援し、研究の優先順位を設定し、利害関係者間の協力を促進して、カナダが水素及び燃料電池技術における競争力及び世界的リーダーシップを維持することを確保するための行動をとる。

第4の柱:規範と基準:急速に変化する業界に対応し、国内および国際的な展開の障壁を取り除くため、既存の規範と基準を近代化し、新しい規範と基準を開発する。

第5の柱:実現可能な政策と規制:水素が政府のあらゆるレベルでクリーンエネルギーのロードマップと戦略に統合され、その適用を奨励することを保証する。

第6の柱:認識:国レベルで主導し、水素の安全性、利用、および便益について、個人や地域社会が確実に認識できるようにする。

第7の柱:地域のブループリント:地域の水素ブループリントの開発を促進するために、政府による複数の協力的な取り組みを実施し、水素製造と最終用途に関する具体的な機会と計画を特定する。

第8の柱:国際市場:国際的なパートナーと協力して、クリーン燃料の世界的な推進には水素が含まれるようにし、カナダの水素産業が国内外で繁栄するようにする。


(8) 課題

「カナダの水素戦略」は、産業投資を誘致し、リスクを回避するために、今後5~10年の間に強力な政策と財政支援やビジネスモデルを構築、水素製造コスト(目標は1キログラム当たり1.5ドルから3.5ドル)を引き下げるためのイノベーションや技術開発への資金支援が必要であるとしている。また、政策・規制の整備、水素インフラの整備、規範と基準の確立などを目標達成のための課題としている。


おわりに

連邦政府は、2020年12月11日に「健全な環境と健全な経済(A Healthy Environment and a Healthy Economy)」と題したカナダの気候対策を加速させるための計画を、12月19日にはクリーン燃料規制(Clean Fuel Standard)の草案を発表した。

「健全な環境と健全な経済」は、2030年までにカーボン価格を1トン当たり170カナダドルまで引き上げるとともに、省エネインフラ、交通の低炭素化などに補助金などを導入するという内容である。CO2排出量1トン当たり、170カナダドルとなると、端的に言えばガソリンで言えば80リットルで車のタンクを満タンにすると2,500円程度の追加税負担となるので、現在の水準からすれば非常に高い印象となろう。

また、現在、カナダ国内で、制定に向けて手続きが進んでいるクリーン燃料規制は、液体燃料の低炭素化を図る法令案で、上流・中流・下流での低炭素化を支援し、上限値を下回ればカーボンクレジットが創出されるという内容になっている。「燃料輸入者・燃料利用者」のみならず、液体燃料(炭化水素)から水素など低炭素燃料に移行したり、CCSを実施したりすることでカーボンクレジットを作れるとされている。これにより、石油業界も低炭素化によりカーボンクレジットを作れることになるが、その他の産業でも低炭素燃料に切り替えたり、CCS/水素事業に関与したりすることでカーボンクレジットを作り出し、全国規模で売買することが可能となり、CCUS、水素などを含める多岐にわたる低環境負荷事業を石油業界だけでなく、幅広い業界で促進することができるようになると見込んでいる。クリーン燃料規制は、75日のパブリックコメント期間を経て、2021年中に成立、2022年から施行される予定となっている。

これらの計画は、水素戦略と併せて、低炭素社会の実現を目指すものとなっている。

ただし、カナダではパリ協定実現のためにこれまでに77以上の環境関連政策を発表してきているが、気候変動対策を国際社会でコミットする連邦政府が、実施機関である各州政府と調整しきれていないことが主な理由となり、その実現が難航しており、実績が乏しい。例えば、炭素税や環境影響評価については、連邦政府と一部の州政府の間で対立が生じ、係争が生じている。このように連邦政府と州政府の取り組みの統一が取れないばかりでなく、州政府が連邦政府の介入と見られる政策に反応して政治的トラブルに発展することもしばしばある。今回、連邦が水素戦略を発表したが、表1に示した通り、州政府も水素に関する取り組みを行っている。今後、どのように状況が推移していくのか注目していきたい。

表2 主な州の水素に関する取り組み
水素に関する取り組み
Alberta 天然ガス戦略の一環として水素戦略について言及、今後水素ロードマップを公開予定。メインは炭化水素由来のブルー水素。水素供給から水素市場を形成する戦略。Edmonton市近郊で既存インフラを活用して水素ハブを形成。
British Columbia 水素スタディを発表し、水素戦略を近日中に発表予定。おそらくグリーン水素を推進し、ブルー水素も盛り込むと思われる。これまでのBC州のアプローチは需要側から水素市場を形成する戦略であったので、今後もこれが踏襲される模様。水素戦略ではアジア向け輸出や米国西海岸への輸出にも言及する可能性がある。
Ontario 水素ディスカッション・ペーパーを発表し、水素戦略を2021年中に発表予定。すでにEnbridgeが水素と天然ガスの混合事業を行うと発表。メインはグリーン水素か。鉄鋼業との関連性にも注目。
Quebec 電力企業HydroQuebecが水素についてのスタディを公開。グリーン水素の産業利用がメインか。フランス系企業などが電気分解施設の建設などを発表。

各種資料より作成    

 

なお、Alberta州の天然ガス戦略は、カナダ石油生産者協会(Canadian Association of Petroleum Producers:CAPP)やカナダ・エネルギー・パイプライン協会(Canadian Energy Pipeline Association: CEPA)から支持や称賛を受けているが、こちらも、どのような水素ロードマップを策定するのかと併せて、引き続き注視していく必要があると考える。


以上

(この報告は2021年2月16日時点のものです)

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