ページ番号1008966 更新日 令和3年3月8日
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概要
- 西豪州のGorgon LNG Project(以下、GLPという。)は、スーパーメジャーであるChevron、ExxonMobil、Shellに加え、世界最大のLNGバイヤーである日本の大手ユーティリティー会社JERAや大阪ガス、東京ガスもガス田・LNG施設の権益保有者として共同操業協定に基づいて参画する事業である。
- 同プロジェクトのLNG設備能力は年間1,560万トンであり、日本にはこのうち長期販売契約でJERA、大阪ガス、東京ガスに加え、九州電力とENEOSの5社が合計年間最大451.5万トンを調達している。
- 2021年1月13日、豪州の石油・ガス専門誌Energy News Bulletinは、西豪州政府がGLPを操業するために必要な環境許可の有効期間を2038年から2028年まで10年短縮したと報じた。
- また、ノルウェーの石油・ガス専門誌Upstreamも、豪州の独立系報道機関Boiling Cold社が情報開示請求制度を通じて得た公開情報を引用し、オペレーターであるChevron、西豪州政府そして環境保護団体への取材から、環境許可の有効期限短縮の要因がGLPで稼働中のGorgon Carbon Dioxide Injection Project(以下、GCIP)にあるとしてその現況を報じた。
- 一般的な二酸化炭素回収・貯留(以下CCS)技術は、古生代から中生代(約5億4千万年前~6000万年前)にかけて地球上に生息・生存した藻類、樹木や恐竜の堆積物を起源とする化石燃料を掘削し・エネルギーやその派生品として活用する際に排出する二酸化炭素を回収し、地上に漏れ出てこないような地下深くの地層に注入し貯留するという技術である。
- CCSは目に見えない地下の自然を相手にする難易度の高い技術的挑戦であるが、脱炭素社会を目指す我々にとって有用な技術となる可能性がある。
- ・GCIPが直面する課題を克服して、付加的な価値を持ちうる低炭素LNGの供給源として、今後もLNG開発の重要な先駆者であり続けることを期待する。
(出所:Chevron 社HP、Chevron Australia社HP、Energy News Bulletin、Upstream、Boiling Cold他)
1 はじめに
前週からの日本海側地域を襲う厳しい寒波の中、電力卸売スポット市場で1日平均154.57円/kWh[1]の史上最高値を記録した2021年1月13日、豪州のLNG事業の将来に関し驚くべきニュースが報じられた。日本が2020年暦年1年間に輸入したLNG約7,733万トン(通関統計速報値)の約6%に相当する年間最大451.5万トンを長期販売契約に基づき日本向けに供給する西豪州のGorgon LNG Project(液化事業のみ指す。以下GLPという。)について、その操業に必要な環境許可の有効期限が20年から10年に短縮され、これまでの2038年までから2028年までに短縮されたのである[2]。その理由を探るとGLPで実施中の、稼働中としては世界最大規模となる二酸化炭素回収・貯留(Carbon Dioxide Capture and Storage)システム(以下CCS)について幾つかの課題が事業者側とWestern Australia州(西豪州)政府との間で協議されていることが分かった[3]。
本稿では、GLPのCCSプロジェクトであるGorgon Carbon Dioxide Injection Project(以下GCIP)の概要と状況を確認した上で、その課題と影響を速報として整理する。
[1] https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/029_04_01.pdf
[2] https://www.energynewsbulletin.net/policy/news/1402471/gorgon-licence-to-be-reviewed-every-ten-years
[3] https://www.upstreamonline.com/environment/emission-increase-chevron-faces-more-gorgon-ccs-issues/2-1-943714
2 Gorgon LNG Project(GLP)とは
まず、GLPの概要を確認する。GLPは西豪州の沖合の北部カーナボン堆積盆でChevron Australiaが1981年に発見した沖合のGorgonガス田(発見埋蔵量:ガス約12.0tcf、コンデンセート約8,700万バレル)と2000年に発見した沖合のJansz-Ioガス田(発見埋蔵量:ガス約14.7tcf、コンデンセート約7,100万バレル)を西豪州沖合約60kmのBarrow島へパイプラインで運び、そこで適宜処理を行った後一部を国内ガス市場へ、そして一部を液化してLNGとして海外へ販売するプロジェクトである。2009年8月に沖合ガス田と陸上のガス処理・液化基地の環境許可を取得し、2009年9月に最終投資決定(Final Investment Decision: FID)を行い開発されたプロジェクトで、生産開始から40年に渡りLNGを生産・供給する計画である。
2.1 共同事業者
GLPは以下共同事業者により共同操業協定に基づき開発・生産・販売されている。
2.2 鉱区
GLPにガスを供給する現在の鉱区は以下の通りである。Chevronの資料には、それぞれのガス田によりCO2含有率が異なりGorgonガス田が~14%、Janszガス田が<1%となっている。仮にJanszガス田のガスだけを使用すれば、CO2排出量は相対的に低減される可能性があることを補足しておきたい。
なお、40年の操業を行うために、上記鉱区近郊にWA-5-R、WA-14-R、WA-15-R、WA-53-R等の鉱区を取得し、上記ガス田の減退に備え、Chrysaor/Dionysus、Geryon、Satyr、Achilles、Isosceles and Dino North、Chandon、West Tryal Rocks、Orthrus-Maenad、Orthrus Deep、Yellowglen等のガス田からバックフィル(補助供給)用に開発する計画である。
2.3 設備
Barrow島にある設備はGLPの設備の概要は以下の通り。
2.4 販売契約
GLPで生産されるLNGは主要な権益保有者であるChevron、EM、Shellが自社持分のLNGの売主となり各社が独自にマーケティングを行い長期販売契約で販売している。以下の表で示すようにその供給先を国別に分類すると日本向けが年間最大451.5万トン、中国向けが年間425万トン、韓国向けが年間415万トン、インド向けが年間364万トンとなっている。販売契約の詳細の条件は、知ることはできないが、韓国向け以外の契約は2028年も販売契約が継続中で環境許可が切れれば影響が大きいことは明らかである。
2.5 GLPの生産開始スケジュール
ChevronのHPによると、GLPのコミッショニングカーゴ(LNG出荷設備、LNGタンクやガス液化装置の冷却や、設備全体の最終的な生産試験に使用するためにLNG基地が購入するLNG)の到着が2016年1月で、GLPからのLNGの初出荷は第1トレインが2016年3月、第2トレインが2016年10月、第3トレインが2017年3月になされたとある。また、国内向けガスの出荷も2016年12月に開始している。これ以降一定期間をかけて徐々にLNG・ガスの生産量を設備容量の最大値まで上げていく工程(Ramp-up)に入ったことになる。本来であれば、これらの生産と合わせてGCIPも稼働される計画であったが、実際にGCIPが稼働したのは2019年8月からであった。
3 GLPで稼働中のCCSとは
前章では、GLPから排出されるCO2がどのような場所や工程で発生するのかのイメージを持ってもらうために、GLPの概要を説明した。この章では、GLPで実施されているCCSであるGCIP(Gorgon Carbon Dioxide Injection Project)について概要を紹介する。
3.1 準拠法
豪州で石油ガスの探鉱・開発・生産に伴うCCSに関する規制は、連邦政府の環境保護法1986(Environmental Protect Act 1986)を大前提に、海岸から3海里以遠については基本的に連邦法である2006年海洋石油・温暖化ガス貯蔵法(OPGGS2006)が適用され、3海里以内の沿岸部や陸上は各州の環境法でその活動が規制される。また、2020年上半期の法改正で、連邦海域と各州管下の地域にまたがる沖合事業に関しては、連邦政府か州政府のどちらか1つの許可を取得した上で、沖合事業については国家海洋石油安全環境管理庁(NOPSEMA)の管理下となり、陸上は各州の管理下となることになっている。GLPの活動は上記法改正以降WA州管下のBarrow島で行われるためWA州のBarrow Island Act 2003が準拠法となり、WA州政府の水環境規制省の管理下となっている。
3.2 設備・仕様
それではGCIPの設備と仕組みの概要を紹介する。まずは、イメージ作りを兼ねて以下設備の配置図を参照願いたい。
GCIPは、大きく3つのシステムで構成されている。まず、1つ目はCO2圧入システム、2つ目はCO2圧入層圧力調整システム、そして3つ目がモニタリングシステムである。
CO2圧入システムは、GLPで圧縮されたCO2をGLP施設の北方に設置された9つのCO2圧入井を通じ、地下2,500m付近のDupuy層(後期ジュラ紀)へ圧入し、その孔隙にCO2を貯槽させるものである。
CO2圧入層圧力調整システムでは、CO2の注入効率を高めるため圧入井から4-8キロメートル離れた圧力調整井から同地層に帯水する水をくみ上げ圧入層の圧力を調整し、くみ上げた水はDupuy層の上方で同層とはシール(隔離)されたBarrow Group層(前期白亜紀)へ再注入するものである。
モニタリングシステムでは、圧入井の状態、圧入されたCO2の地下での状態を圧入井近くの監視井でモニタリングを行うと共に、地震探査調査等でCO2の地下での移動や地表での漏れを確認するものである。
3.3 コスト
GCIPのコストについては、Chevronが2020年9月に発表したGCIP の年次報告書(2019年7月1日-2020年6月30日)から総額AUD3,092百万であるとの記述がある。その内訳は以下の図5の通りとなっている。
3.4 スケジュール
GCIPの直近のハイライトは、なんといっても2019年8月6日CO2の圧入が開始されたことである。そのパフォーマンスについては後述するが、計画されたCO2圧入は実施されているようである。Gorgon Project Carbon Dioxide Injection Project Low Emissions Technology Demonstration Fund Annual Report 1 July 2019 – 30 June 2020[4] (以下GCIP年次レポート2019年度)によれば、GLP内に設置されているCO2圧縮機については、GLPのFIDの翌月2009年10月には既に発注されている。当時の状況としては、その前年の2008年7月に開催されたG8の首脳による北海道洞爺湖サミットの首脳宣言の中で、CCSについてロードマップを策定するためのイニシアティブの創設や、2010年までに世界的に20の大規模な実証プロジェクトへの支援が表明された僅か1年後である。世の中が漸くCCSを真剣に考え始めた草創期の段階で、GLPでは、既に商業化に向けたCCSの一部を発注しているところにGCIPの挑戦の難易度が窺える。その後、準備は進みCO2圧入井の掘削もその仕上げも2015年3月には完了していることが同資料から読み取れる。また、今後のスケジュールで気になるのは、2021年に予定されている5年間毎のレビューである。また、特に今回の環境許可の短縮とも関係すると思われるが、2016年3月から2019年8月までの期間にGCIPの稼働しないままでGLPの操業を継続したために、大気中に放出されたCO2は約7百万トンになると報道されている。これらが今後の、事業者と州政府及び関係ステークホルダーとの間の議論がどのように影響を与えるのか注視したい。
[4] https://beta.documentcloud.org/documents/20440488-foi-2-gorgon-project-2020-letdf-annual-report-rev-1-ar
3.5 CO2圧入の結果
さて、2019年8月に開始されたCO2の圧入の結果についても上記GCIP年次報告書2019年度から読み取れる。
ポイントを以下にまとめる。
- 2019年度(2019年7月から2020年6月)は、約250万トンのGHGの圧入に成功した。
- CO2圧入レートは、当初41kg/秒(日量換算3,500トン)でスタートし、2020年2月26日には150kg/秒(日量換算約13,000トン)を達成した。
- 一方、圧力調整システムは生産水の中に不純物が多く混ざっていたため、再圧入ができずシステムが停止中。これについては生産水をフィルター等で処理することで対応予定。
4 Gorgon LNG Project CCSの課題と日本への影響
4.1 Gorgon LNG Project CCSの課題
現状知り得る情報で、先述したUpstreamの記事でも紹介されているBoiling Cold誌が指摘している技術的な課題は2つある。要約すると圧力調整システムが停止していることと圧力調整システムが無しにCO2の圧入を続けることである。
圧力調整システムが停止している点については、先述した通り生産井でくみ上げた水(以下生産水)の中に不純物が多く混ざっており、生産水をそのまま再圧入できない問題である。これはフィルター等を施すことで対応するとあるのであるので、その結果に期待したいところである。
圧力調整システム無しにCO2を圧入することについては、上記問題の解決によるところが大きいと思うが、仮に暫く圧力調整システムの改造・補強に時間を要することになれば、CO2含有率が1%未満のJanszガス田からのガスを優先的に利用することで、大気中へのCO2の排出は低減できるかもしれない。
また、GCIP未稼働期間に大気に放出されたCO2の取り扱いについては、不足量を補うため、CO2の圧入量を増やす計画がなされているようで、2019年度の実績でも日量14,000トンを超えて圧入しているので、可能な分をクレジットし生産期間を通じてCO2圧入量を増やすことで解決するかもしれない。あるいは別の手段、例えば植林、若しくは取り決めに従った金銭による解決方法など、幾つかの選択肢があると思われる。技術的な対応で克服されるのであれば、CCS技術の蓄積のためにも圧入量を増やす方法が望まれるところだ。
4.2 GCIPの技術的課題が克服できない場合と克服できた場合の日本への影響
Barrow島が希少な植物や海亀等が生息する国立自然保護区であることを考えても、GCIPが現在直面している技術的課題の影響は小さくないだろう。想定よりも早期に液化事業を終了すると、当然、経済性が悪化するため、これは事業者側としては絶対に避けねばならない選択肢であろう。
州政府との関係では、例えば、当面、CO2の少ないガス田からのガスを優先的に活用する、CO2貯留層の管理が容易な程度まで操業を抑制する、あるいは植林事業や何らかの経済的ペナルティ(州税支払額の引き上げ)などが課される可能性はあるかもしれない。これらは、事業の早期終結よりは影響は少ないかもしれないが、事業者の経済性に少なからぬ影響を与えたり、我が国やそのほかのバイヤー向けの出荷量減少に繋がったりする可能性もあることから、今後、事業者と州政府及び関係ステークホルダーの間でどのように打開していくのか、状況を注視して参りたい。
また、エナジートランジションへ積極的に取り組むShellのGLPでの対応にも注視していきたい。
GCIPがこれらの技術的問題を解決し関係ステークホルダーの同意を得て、日本のバイヤーがいままでと同様、低炭素LNGを調達し、また商業化されたCCSプロジェクトの先駆者としてのGLPの存在価値がさらに高まることに期待したい。
5 まとめ
西豪州のGorgon LNG Projectは、スーパーメジャーであるChevron、ExxonMobil、Shellに加え、世界最大のLNGバイヤーである日本の大手ユーティリティー会社JERA、大阪ガス、東京ガスも事業者として参画する共同操業事業である。同プロジェクトのLNG設備能力は年間1,560万トンで、日本には長期販売契約で上記ユーティリティーに加え、九州電力とENEOSの5社が合計年間最大451.5万トンのLNGを調達している。
2021年1月13日、豪州の石油・ガス専門誌Energy News Bulletinは、西豪州政府がGorgon LNG Projectが操業するための環境許可の有効期間を2038年から2028年まで10年短縮したと報じた。また、ノルウェーの石油・ガス専門誌Upstreamも、豪州の独立系報道機関Boiling Cold社が情報開示請求制度を通じ得た公開情報を引用し、当事者であるオペレーターであるChevron、行政そして環境保護団体への取材から、環境許可の有効期限短縮の要因が同プロジェクトで稼働中のCCSであるGCIPにあるとして、その現況を報じた。
CCS技術は、古生代から中生代(約5億4千万年前~6000万年前)にかけて地球上に生息・生存した藻類、樹木や恐竜の堆積物を起源とする化石燃料を掘削し・エネルギーやその派生品として活用する際に排出する二酸化炭素を回収し、地上に漏れ出てこないような地下深くの地層に注入し貯留するという技術である。
CCSは目に見えない地下の自然を相手にする難易度の高い技術的挑戦であるが、脱炭素社会を目指す我々にとっては極めて有効な技術となり得る。今後、事業者と州政府及び関係ステークホルダーの間で適切な対応策が検討されることを祈りたい。
本稿が、日本の年間輸入量の約6%に相当するLNGを供給するGorgon LNG Projectで実践中の技術的挑戦への理解と、皆さんの知見や技術がCCS技術や運用の発展への有効活用に繋げられる一助となれば幸いである。
以上
(この報告は2021年2月10日時点のものです)