ページ番号1008975 更新日 令和3年3月5日

原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2021年4月の減産措置につき、一部を除き3月と同様の規模で据え置き、サウジアラビアの自主的追加減産も継続へ(速報)

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レポートID 1008975
作成日 2021-03-05 00:00:00 +0900
更新日 2021-03-05 09:52:15 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2020
Vol
No
ページ数 14
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
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地域5
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地域6
国6
地域7
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地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2021/03/05 野神 隆之
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概要

  1. 2021年3月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年3月に実施している減産規模(日量705万バレル)の減産措置を、ロシア(3月比で日量13万バレル減産規模縮小)及びカザフスタン(同2万バレル縮小)を除き、4月についても実施することで合意した。
  2. また、5月以降の減産措置につき協議するために4月1日にOPECプラス産油国閣僚級会合を、3月31日にOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC)を開催することも併せて決定した。
  3. さらに、サウジアラビアが単独で実施していた日量100万バレルの自主的な追加減産を4月も継続する旨同国が表明した。
  4. 足元では、新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大に伴い当該ウイルス感染が収束に向かうとともに、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されることに加え、米国等で大規模な追加経済対策が実施されることで、世界経済が加速するとともに石油需要が回復する一方、OPECプラス産油国が減産措置を講じることで、石油需給が引き締まるとの期待が市場で強まりつつあったことから、原油価格は2月25日時点で1バレル当たり63.53ドルと2019年5月1日の新型コロナウイルス感染拡大の相当前の水準にまで戻った。
  5.     しかしながら、この原油価格の上昇は、石油需給引き締まり期待が先行する中で世界的な金融緩和策により低コストで調達された資金が原油市場に流入したことが一因であると見受けられる部分もあり、OPECプラス産油国による日量50万バレルの減産措置の縮小及びサウジアラビアの自主的な追加減産の終了の観測が市場で発生すると原油価格は下落する場面が見られた。
  6. このようなことから、石油市場には依然として脆弱な部分があるとして、石油需給引き締まり感の後退による市場心理の急変と原油価格急落を抑制するための先制的行動として、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国は、減産措置の規模を維持するとともに、サウジアラビアも自主的な追加減産措置を継続する方針に向かい始めたものと考えられる。
  7. ただ、世界石油需給状況は2020年に比べ改善しているとして減産措置の緩和をロシアは主張、サウジアラビア等他のOPECプラス産油国との間で意見の相違が発生したことから、ロシア(及びカザフスタン)については、減産措置の緩和を認めることで妥協したものと考えられる。
  8. 今回OPECプラス産油国閣僚級会合での決定は、OPECプラス産油国全体で日量50万バレルの減産措置の縮小及びサウジアラビアの自主的な追加減産措置の終了という市場の事前予想よりも石油需給を引き締める方向で石油市場に作用することから、この決定を受け原油相場に上方圧力が加わった結果、当該会合開催日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり2.55ドル上昇し、63.83ドルの終値となっている。

(OPEC、IEA、EIA他)


1. 協議内容等

(1) 2021年3月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、OPECプラス産油国が2021年3月に実施していた減産措置(日量705万バレル)(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)を、4月についてはロシア(3月比で日量13万バレル増加)及びカザフスタン(同2万バレル増加)を除き据え置き、減産規模を日量690万バレルとすることで合意した(表1及び参考1参照)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

(2) また、別途サウジアラビアが単独で実施していた2~3月の期間に渡る日量100万バレルの自主的な追加減産を4月も継続する旨当該会合において同国が表明した。

(3) サウジアラビアは、この先自主的な追加減産については段階的かつ漸進的に縮小する方針であるものの、それは急がない旨明らかにしている。

(4) 新型コロナウイルスワクチンの承認及び接種普及、そして主要国における追加景気刺激策により、最近では石油市場の心理は改善しているものの、依然として不透明感が拭えないとして、減産措置参加国に対し油断のない、そして柔軟な姿勢を維持するよう会合では要請された。

(5) また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できていないOPECプラス減産参加産油国は7月31日までに減産目標未達成部分を追加して減産するよう求められた。

(6) 併せてナイジェリアが2021年1月に減産措置の完全遵守を達成した他、これまでの減産目標未達成部分全てにつき追加減産を実施済みであるとして、当該会合では同国に対し感謝の意が表明された。

(7) 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は4月1日に開催され、その場において5月以降の減産措置の取り扱いを議論する予定である。

(8) また、次回のOPECプラス産油国閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタンとされる)を3月31日に開催することとした。


2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

 (1) 2021年1月4及び5日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年1月に実施していた合計日量720万バレルの減産措置につき、2021年2~3月においてはロシアとカザフスタンを除く産油国の減産水準を据え置くことで合意した。

 (2) また、別途サウジアラビアは2~3月につき単独で日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨OPECプラス産油国閣僚会合開催後に表明した。

 (3) その際、足元では、変異したものも含め新型コロナウイルス感染が世界各国及び地域で拡大しつつあるなど、短期的には世界経済及び石油需要が下振れすることにより石油需給が緩和し原油相場に下方圧力を加えるリスクが存在する中、OPECプラス産油国はそのような下振れリスクを警戒するとともに先制的に対応すべく、2月も1月と同様の規模の減産措置を実施することにつき、1月4日の当該会合開催時において大半の減産措置参加産油国が合意した。

 (4) また、石油需要の伸びと原油価格の下振れの可能性を懸念するサウジアラビアは、そのような可能性に対し先制的に行動すべく、単独で自主的な追加減産を実施するに至ったものと見られた。

 (5) 2020年12月3日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後、原油価格が上昇基調となっていたことから、OPECプラス産油国が2月の減産措置を日量50万バレル縮小する旨決定するとの予想が市場心理に織り込まれる格好となっていたところ、実際にはOPECプラス産油国は2~3月の減産措置を概ね据え置きとする旨決定したうえ、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したこともあり、石油需給引き締まり感が市場で一層強まったことから、会合終了時の1月5日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり2.31ドル上昇し終値は49.93ドルとなった。

 (6) そして、最近では、新型コロナウイルスの変異種による感染例の出現等の不透明感が依然存在するものの、新型コロナウイルスワクチン接種拡大に伴い当該ウイルス感染が収束方向に向かうとともに、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されることに加え、米国等で大規模な追加経済対策が実施される方向で手続きが進められつつあることで、世界経済成長が加速するとともに石油需要が回復する一方、OPECプラス産油国が減産措置を概ね維持するとともにサウジアラビアが自主的な追加減産措置を実施した結果、石油需給が引き締まるとの期待が市場で強まりつつあったこともあり、原油価格は2月25日時点で1バレル当たり63.53ドルと2019年5月1日(この時は同63.60ドル)の新型コロナウイルス感染拡大の相当以前以来の水準にまで戻った(図1参照)。

図1 原油価格の推移(2020~21年)

 (7) また、11月3日に実施された米国大統領選挙でバイデン氏が当選した後、バイデン氏の米国大統領就任による、米国の対イラン制裁措置の緩和(もしくは、少なくとも制裁をこれ以上強化しないこと)を見込んで、イランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した(トランプ前大統領によるイラン核合意離脱と対イラン制裁実施表明時の2018年5月の日量385万バレル以来イランの原油生産量は減少し、2020年10月には同189万バレルとなっていた)旨示唆したと12月6日に伝えられたが、1月のイランの原油生産量は日量208万バレルと11月の同200万バレルから若干の増加にとどまっていた(因みに2月の同国の原油生産量も日量210万バレル前後であると推定されている)ことも、世界石油需給の緩和感を抑制する方向に作用した結果、原油相場を下支えする格好となった。

 (8) このようなこともあり、OPECプラス産油国関係者間で2021年4月以降減産措置を日量50万バレル縮小することが望ましいとの考え方が発生している旨、2月24日に伝えられた。

 (9) また、2020年に比べこの先の不透明感が後退するなど原油市場は全体として良好である旨、3月2日にOPECのバルキンド事務局長が明らかにした他、OPECプラス産油国が2021年2~6月に日量240万バレル程度増産して(これは、当初2021年1月1日~2022年4月30日に実施する予定であったOPECプラス産油国の減産措置の規模である日量580万バレル程度へと減産規模を縮小する他サウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産措置を終了することによる、事実上の増産量に概ね等しい)も、それによって生じる供給過剰は8月には解消可能である旨の見方を3月2日にOPEC事務局のアナリストが提示したとされる(なお、この時点ではサウジアラビアは、2~3月に実施していた日量100万バレルの自主的な追加減産措置に関し、4月に完全に終了するか、もしくは数ヶ月に渡り減産規模を縮小していくかどうかにつき検討していたと3月2日に伝えられる)。

(10) そして、UAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)がアジア地域の原油購入者に対し、4月の原油供給量を3月よりも増加させる(3月は契約数量から10~15%削減する一方4月は5%の削減とする)旨通知したと3月2日に伝えられたことからすると、OPECプラス産油国の大勢は少なくとも閣僚級会合開催のかなり前の段階で日量50万バレル程度の減産措置の緩和を支持していたことが覗われた。

(11) このようなこともあり、3月4日開催予定のOPECプラス産油国閣僚級会合で日量50万バレルのOPECプラス産油国減産措置の緩和に加えサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産措置の終了が決定するとの観測が市場で発生した(米国大手金融機関シティ・グループは、OPECプラス産油国は4月に日量50万バレル減産措置を緩和する他、同月にサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産措置を継続する可能性は低い旨の見解を披露したと3月1日に伝えられていた)。

(12) しかしながら、少なくとも現時点では2020年前半に積み上がった余剰石油供給が完全に消滅したとは必ずしも言い切れない状況であった(表2及び3参照)一方、現在の原油価格の上昇は石油需給引き締まり期待が市場で先行するとともに、世界的な金融緩和の動きの中、低コストで調達された資金が原油市場に流入したことによるという、いわば金融要因が一因であると見受けられる部分もあった。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2020年)

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2021年)(2021年3月4日時点)

(13) このようなことから、OPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置の縮小決定観測が市場で発生することに伴い石油需給引き締まり感が後退するとともに、これまでの原油価格上昇に伴う利益確定の動きが発生したこととにより、OPECプラス産油国閣僚級会合の約1週間前である2月26日から3月2日にかけての3取引日で、原油価格は合計で1バレル当たり3.78ドル下落した。

(14) また、例年第二四半期は季節的に石油需給が緩和しやすい状況であり、OPECプラス産油国が日量50万バレル減産措置を緩和するとともにサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産措置を3月で終了した場合、供給が需要を超過する状態となることが予想された。

(15) そしてこのような、第二四半期の石油需給が緩和しやすい状況が想定される中で、減産措置の緩和を決定すれば、OPECプラス産油国の石油需給均衡に向けての決意はそれほど断固たるものでもないと言った印象を市場が持つ結果、原油相場への下方圧力が一層強まると言った展開も想定された。

(16) さらに、イランの原油生産量は現時点では左程増加していないものの、今後油田操業再開作業が進捗するにつれ同国の原油生産が増加していくことにより、結果としてOPECプラス産油国全体の原油供給が拡大するといったリスクも内包していた。

(17) 加えて、新型コロナウイルスワクチンの接種普及は拡大しつつあるものの、接種が行き渡る前にウイルス感染が再拡大、それもワクチンの有効性が低下するウイルス変異種によるものとなる可能性も全くないわけではなかった。

(18) このようなことから、実際にOPECプラス産油国閣僚級会合で、日量50万バレルの減産措置縮小及び日量100万バレルのサウジアラビアの自主的な追加減産の終了の決定がなされた場合、一時的にせよ石油需給緩和感が強まるとともに市場心理が一層冷え込むことで、原油相場が急落する結果、OPECプラス産油国の原油生産調整策の変更を以てしても原油価格の制御が困難な事態に陥る恐れがあったことから、サウジアラビアを初めとするOPEC産油国は慎重に行動する必要性に迫られた。

(19) そして、石油市場には依然として脆弱な部分があるとして、石油需給引き締まり感の後退による市場心理の急変と原油価格急落を抑制するため、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国は、減産措置の規模を維持し、サウジアラビアも自主的な追加減産措置を継続する方針に向かい始めたものと考えられる。

(20) しかしながら、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合においても、関係産油国間で世界石油需要に関する見解に相違が見られた。

(21) 2月14日に、ロシアのノバク副首相は、石油需要は依然として新型コロナウイルス感染拡大前を8~9%下回っているものの、2020年4~5月に見られたような前年同月比での20~25%の減少からは部分的には回復していることもあり、過去数ヶ月間原油価格の変動は限定的であり、それは世界石油需給が再均衡していることを意味している他、2021年の原油価格は1バレル当たり45~60ドルとなる可能性がある旨明らかにしていた。

(22) 原油価格の終値は2月14日の時点で1バレル当たり59.47ドル(ブレント原油価格は同62.43ドル)とノバク副首相が想定している原油価格変動領域の上限付近に位置していたこともあり、ロシアはこれ以上の原油価格の上昇を望んでおらず、むしろ原油を増産することで原油価格のさらなる上昇を抑制することが望ましい旨認識していたことが示唆される(原油価格がさらに相当程度上昇すれば、米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほど世界石油需給が緩和することにより原油価格が乱高下することに加え、産油国であるロシアの通貨ルーブルが上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けることを、ロシアは従来から懸念していた)。

(23) 3月3日にも、ロシアのノバク副首相は、世界石油市場は不透明感を伴うものの、需給状況は2020年に比べ改善している旨主張、3月の減産措置を4月もそのまま継続することについては消極的であることが示唆された。

(24) このようなことから、世界石油需給が緩和する兆候の出現とともに原油価格が急落する可能性が依然存在することに対し、先制的に行動することにより、原油価格の維持を図るとともに、結果的に原油価格がさらに上昇することについても事実上容認する姿勢を示唆するサウジアラビア等の産油国との間で、原油生産方針に関する見解の相違が示される格好となった。

(25) そこで、増産を希望するロシア等他の産油国については増産を認める一方、他のOPECプラス産油国については減産規模を据え置きするとともに、サウジアラビアも自主的な追加減産措置を継続することで、ロシアの希望を満たしつつ、減産措置の緩和も抑制しようとしたものと考えられる(なお、OPECプラス産油国閣僚級会合においてロシアは国内市場での供給不足に対応するため自国の増産を要請したと伝えられる)。

(26) なお、ロシアの増産量である日量13万バレル、及びカザフスタンの増産量である同2万バレルは、OPECプラス産油国が日量50万バレルの減産措置の緩和を決定した場合に配分される、両国の増産量にほぼ等しい量である。

(27) また、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国にとってみれば、石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場が上昇し続けることにより、消費国から不満が発生するといった問題が発生する(実際3月3日にはインドのプラダン(Pradhan)石油相は主要OPECプラス産油国に対し石油市場を安定させるとの約束を守るために増産すべきであると要請した)ものの、それに対しては、これ以上原油価格が上昇し続けた場合には供給を増加させる意図がある旨表明すると言ったいわゆる口先介入、そしてそれでも原油価格の上昇が継続する場合には実際に原油供給を増加させることにより、原油価格上昇の沈静化を図ると言った選択を行う余地が残される一方、原油価格の上昇が継続している間は、OPECプラス産油国の原油収入は概ね増加するものと見られることから、不用意に減産措置を緩和することにより原油価格が制御不可能な格好で下落し続けるよりも、慎重に減産措置を運用する結果原油価格が上振れする方が、彼らにとっては得策といった側面もある(なお、3月4日にサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相はインドからの増産要求に対し2020年の原油価格低迷時期に購入した原油を利用すべきである旨発言している)。


3. 原油価格の動き等

(1) 市場では、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で、4月に日量50万バレルの減産規模の縮小、そしてサウジアラビアが実施している日量100万バレルの自主的な追加減産措置の終了が決定すると事前に予想されていたが、実際の決定はそのような事前予想よりも世界石油需給を引き締める方向で作用するものであったことにより、原油相場に上方圧力が加わった結果、当該会合開催日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり2.55ドル上昇し、同日の終値は63.83ドルと2019年4月30日(この時は同63.91ドルの終値)以来の高水準の終値に到達した。

(2) 原油市場では、原油価格上昇にもかかわらずOPECプラス産油国の減産措置緩和に対する姿勢が全体として慎重である、つまり、OPECプラス産油国は石油需給均衡に向け毅然として行動すると言う断固たる姿勢を示した、との認識が市場で広がりやすいうえ、新型コロナウイルスワクチンの接種普及が進捗しつつあることにより個人の外出規制及び経済活動制限が緩和される方向に向かいつつことに加え、米国で追加経済対策の実施に向け手続きが進められつつあることから、将来的には景気が刺激されるとともに、経済成長が加速、石油需要が増加するとの期待が市場で増大してきていることもあり、原油相場に上方圧力が加わりやすい状況となっているものと考えられる。

(3) また、経済が改善していることを示唆する指標類の発表や中東地域等の地政学的リスク要因の顕在化によっても、原油相場が上昇する場面が見られる可能性がある。

(4) さらに、2020年3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げたうえ、2021年2月24日にパウエルFRB議長は平均年率2%のインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を示したこともあり、大幅に低下したコストで調達された資金が商品等のリスク資産市場に流入することにより、原油相場に下方圧力を加える要因により原油価格が下落しようとしても、むしろそのような局面では原油を購入する良い機会であると市場関係者から見做されて資金が流入する結果、原油価格が十分に下落しない反面、原油相場に上方圧力を加える要因に対しては原油を購入するために大量の資金が流入する結果、原油価格の上昇が増幅するといった状態が生じやすいことにも注意が必要である。

(5) 他方、原油価格の上昇につれ、米国での石油坑井掘削装置稼働数が増加する結果、同国のシェールオイルを含む原油生産が持ち直すといった展開も想定されるが、最近の米国石油会社においては株主や資金供給者が原油生産に伴う収益性を重視する動きが見られると指摘される他、原油価格の上昇が原油生産の増加となって現れるには6ヶ月程度を要すると言われているところからすると、米国の原油生産増加に伴う世界石油需給緩和感が原油価格を抑制する前に、新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大による世界経済成長及び石油需要の伸びの回復とOPECプラス産油国の減産措置の実施による石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大することを通じて原油相場に上方圧力が加わる結果、少なくとも短期的には原油価格は上昇する場面が見られる可能性がある。

(6) ただ、OPECプラス産油国による減産措置を巡っては、かつて一部OPECプラス産油国間で不協和音が伝えられたこともあり、今後もOPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による情報等を通じOPECプラス産油国による減産遵守状況がこの先明らかになる等するにつれ、市場がOPECプラス産油国の結束を疑問視したり、この先のOPECプラス産油国間での原油生産方針決定の際に再び関係国間での意見の相違が顕在化したりすることで、OPECプラス産油国の減産措置方針の決定過程が複雑化したり、それが原油相場に反映されたりするといった展開となるとなる場面が見られることも否定できない。

(7) また、今後イラン、そしてベネズエラがどの程度原油生産を増加させるかといったことも、OPECプラス産油国減産措置の市場に対する影響力を左右するとともに、場合によっては当該減産措置の再調整が必要となる場面が見られるといった事態も想定されうる。

(8) そして、今般サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産継続を表明したことにより、世界石油需給の引き締まり感が強まる結果原油価格が相当程度上昇することを通じ、中長期的には米国のシェールオイル開発・生産が活発化すること(この点については、米国石油会社の収益重視による慎重な事業への投資姿勢もあり、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相はシェールオイルの活発な開発・生産活動段階は終了したと認識している旨3月4日の閣僚級会合後に発言しているが、このようなサウジアラビアの認識を疑問視する向きもある)により、将来的にはかえってOPECプラス産油国による原油生産調整措置が機能しにくくなるとともに原油価格が乱高下しやすくなるといったリスクも内包している。


(参考1:2021年3月4日開催OPECプラス閣僚級会合時声明)

The 14th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting

No 08/2021
Vienna, Austria
04 Mar 2021

 

The 14th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting took place via video conference on Thursday March 4, 2021, under the Chairmanship of HRH Prince Abdul Aziz bin Salman, Saudi Arabia’s Minister of Energy, and Co-Chair HE Alexander Novak, Deputy Prime Minister of the Russian Federation.

The Meeting welcomed the appointment of HE Mohammed Al-Fares, Minister of Petroleum of Kuwait and the return of HE Mohamed Arkab, Energy Minister of Algeria.

The Meeting emphasized the ongoing positive contributions of the Declaration of Cooperation (DoC) in supporting a rebalancing of the global oil market in line with the historic decisions taken at the 10th (Extraordinary) OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12 April 2020 to adjust downwards overall crude oil production and subsequent decisions.

The Ministers noted, with gratitude, the significant voluntary extra supply reduction made by Saudi Arabia, which took effect on 1 February for two months, which supported the stability of the market.

The Ministers also commended Saudi Arabia for the extension of the additional voluntary adjustments of 1 mb/d for the month of April 2021, exemplifying its leadership, and demonstrating its flexible and pre-emptive approach.

The Ministers approved a continuation of the production levels of March for the month of April, with the exception of Russia and Kazakhstan, which will be allowed to increase production by 130 and 20 thousand barrels per day respectively, due to continued seasonal consumption patterns.

The Meeting reviewed the monthly report prepared by the Joint Technical Committee (JTC), including the crude oil production data for the month of February.

It welcomed the positive performance of participating countries. Overall conformity with the original decision was 103 per cent, reinforcing the trend of aggregate high compliance by participating countries.

The Meeting noted that since the April 2020 meeting, OPEC and non-OPEC countries had withheld 2.3bn barrels of oil by end of January 2021, accelerating the oil market rebalancing.

The Meeting Extended special thanks to Nigeria for achieving full conformity in January 2021, and compensating its entire overproduced volumes.

The ministers thanked HE Timipre Sylva, Minister of State for Petroleum Resources of Nigeria, for his shuttle diplomacy as Special Envoy of the JMMC to Congo, Equatorial Guinea, Gabon and South Sudan to discuss matters pertaining to conformity levels with the voluntary production adjustments and compensation of over-produced volumes.

In this regards the Ministers agreed to the request by several countries, which have not yet completed their compensation, for an extension of the compensation period until end of July 2021.

It urged all participants to achieve full conformity and make up for pervious compensation shortfalls, to reach the objective of market rebalancing and avoid undue delay in the process.

The Meeting observed that in December, stocks in OECD countries had fallen for the fifth consecutive month.

The Meeting recognized the recent improvement in the market sentiment by the acceptance and the rollout of vaccine programs and additional stimulus packages in key economies, but cautioned all participating countries to remain vigilant and flexible given the uncertain market conditions, and to remain on the course which had been voluntarily decided and which had hitherto reaped rewards.

The Ministers thanked the JTC and the OPEC Secretariat for their contributions to the meeting. The next meetings of the JMMC and OPEC and non-OPEC Ministers are scheduled for 31 March and 1 April 2021, respectively.


以上

(この報告は2021年3月5日時点のものです)

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