ページ番号1008978 更新日 令和3年3月22日
原油市場他:OPECプラス産油国閣僚級会合で減産措置がほぼ維持されたこと等もあり、2年弱ぶりの高水準に到達する原油価格
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 米国では2月15~16日頃にテキサス州等に来襲した寒波により製油所の操業に支障が発生するとともに石油製品生産活動に影響が及んだことから、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となったが、両製品在庫とも平年幅上限を上回る量となっている。他方、寒波来襲により同国の原油生産も一時減少したものの、製油所に比べると早期に操業が再開されるとともに原油生産量も回復したことから、同国の原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を上回る水準となっている。
- 2021年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国テキサス州等への寒波来襲による製油所の稼働停止に伴い、欧州で米国市場向けガソリン輸出の誘因が増大したことにより、製油所での原油精製処理活動が活発化したことから原油在庫は減少した。日本でも地震に伴い複数の製油所の操業が停止したことで原油受入が鈍化したことが一因となり原油在庫は減少した。ただ、米国原油在庫が相当程度増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では寒波来襲による製油所での石油生産活動停止等により在庫は減少した。欧州でも米国への積極的なガソリン輸出等により石油製品在庫は減少した。日本でも地震発生に伴い製油所での石油製品生産が困難となったこともあり石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり平年幅上方付近に位置する量となっている。
- 2021年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場では、米国での金融緩和期間長期化を同国金融当局責任者が2月24日に示唆したことに加え、新型コロナウイルスワクチン開発及び生産拡大期待が市場で増大したこと、イエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビアの石油施設を攻撃した旨3月4日に主張したこと、3月4日にOPECプラス産油国が4月の減産措置の規模を3月とほぼ同等とする旨決定したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、2月12日にはWTI終値で1バレル当たり59.47ドルであった原油価格は上昇基調となり、3月5日には同66.09ドルの終値と、2019年4月23日以来の高水準に到達した。
- 米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来への意識が強まることにより、季節的な石油需給の引き締まり観測が市場で高まること、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで新型コロナウイルス感染が抑制されることに加え、感染が再拡大することに伴い経済成長の減速感が強まっても米国で大統領及び連邦議会上下院の主導権を事実上掌握している民主党が中心となり景気刺激策が実施されることにより、経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復するとの期待が市場で発生しやすい一方、原油価格の下落を回避することを希望する、サウジアラビアを中心とするOPECプラス産油国が減産措置の緩和に対し慎重な姿勢を示すとの認識が市場で広がりやすくなっているところからすると、金融緩和状態に伴う低コストでの投資資金の流入と相俟って、原油価格は上振れしやすいものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2021年4月の減産措置につき、一部を除き3月と同様の規模で据え置き、サウジアラビアの自主的追加減産も継続へ
(1) 協議内容等
2021年3月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、OPECプラス産油国が2021年3月に実施していた減産措置(日量705万バレル)(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)を、4月についてはロシア(3月比で日量13万バレル増加)及びカザフスタン(同2万バレル増加)を除き据え置き、減産規模を日量690万バレルとすることで合意した(表1参照)。また、別途サウジアラビアが単独で実施していた2~3月の期間に渡る日量100万バレルの自主的な追加減産を4月も継続する旨当該会合において同国が表明した。併せて、サウジアラビアは、この先自主的な追加減産については段階的かつ漸進的に縮小する方針であるものの、それは急がない旨明らかにしている。新型コロナウイルスワクチンの承認及び接種普及、そして主要国における追加景気刺激策により、最近では石油市場の心理は改善しているものの、依然として不透明感が拭えないとして、減産措置参加国に対し油断のない、そして柔軟な姿勢を維持するよう会合では要請された。また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できていないOPECプラス減産措置参加産油国は7月31日までに減産目標未達成部分を追加して減産するよう求められた。併せてナイジェリアが2021年1月に減産措置の完全遵守を達成した他、これまでの減産目標未達成部分全てにつき追加減産を実施済みであるとして、当該会合では同国に対し感謝の意が表明された。次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は4月1日に開催され、その場において5月以降の減産措置の取り扱いを議論する予定である。また、次回のOPECプラス産油国閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタンとされる)を3月31日に開催することとした。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年1月4及び5日にOPECプラス産油国は閣僚級会合を開催し、2021年1月に実施していた合計日量720万バレルの減産措置につき、2021年2~3月においてはロシアとカザフスタンを除く産油国の減産水準を据え置くことで合意した。また、別途サウジアラビアは2~3月につき単独で日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨OPECプラス産油国閣僚会合開催後に表明した。当該会合開催に際しては、足元では、変異したものも含め新型コロナウイルス感染が世界各国及び地域で拡大しつつあるなど、短期的には世界経済及び石油需要が下振れすることにより石油需給が緩和し原油相場に下方圧力を加えるリスクが存在する中、OPECプラス産油国はそのような下振れリスクを警戒するとともに先制的に対応すべく、2月も1月と同様の規模の減産措置を実施することにつき大半の減産措置参加産油国が合意した。また、石油需要の伸びと原油価格の下振れの可能性を懸念するサウジアラビアは、そのような可能性に対し先制的に行動すべく、単独で自主的な追加減産を実施するに至ったものと見られた。2020年12月3日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後、原油価格が上昇基調となっていたことから、OPECプラス産油国が2月の減産措置を日量50万バレル縮小する旨決定するとの予想が市場心理に織り込まれる格好となっていたところ、実際にはOPECプラス産油国は2~3月の減産措置を概ね据え置きとする旨決定したうえ、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施する旨表明したこともあり、石油需給引き締まり感が市場で一層強まったことから、会合終了時の1月5日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり2.31ドル上昇し終値は49.93ドルとなった。
そして、新型コロナウイルスの変異種による感染例の出現等の不透明感が依然存在するものの、新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大に伴い当該ウイルス感染が収束方向に向かうとともに、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されることに加え、米国等で大規模な追加経済対策が実施される方向で手続きが進められつつあることで、世界経済成長が加速するとともに石油需要が回復する一方、OPECプラス産油国が減産措置を概ね維持するとともにサウジアラビアが自主的な追加減産措置を実施した結果、石油需給が引き締まるとの期待が市場で強まりつつあったこともあり、原油価格は2月25日時点で1バレル当たり63.53ドルと2019年5月1日(この時は同63.60ドル)の新型コロナウイルス感染拡大の相当以前以来の水準にまで戻った(図1参照)。また、2020年11月3日に実施された米国大統領選挙でバイデン氏が当選した後、バイデン氏の米国大統領就任による、米国の対イラン制裁措置の緩和(もしくは、少なくとも制裁をこれ以上強化しないこと)を見込んで、イランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した旨示唆したと12月6日に伝えられたが、1月のイランの原油生産量は日量208万バレルと11月の同200万バレルから若干の増加にとどまっていたことも、世界石油需給の緩和感を抑制する方向に作用した結果、原油相場を下支えする格好となった。
このようなこともあり、OPECプラス産油国関係者間で2021年4月以降減産措置を日量50万バレル縮小することが望ましいとの考え方が発生している旨、2月24日に伝えられた。また、2020年に比べこの先の不透明感が後退するなど原油市場は全体として良好である旨、3月2日にOPECのバルキンド事務局長が明らかにした他、OPECプラス産油国が2021年2~6月に日量240万バレル程度増産しても(これは、当初2021年1月1日~2022年4月30日に実施する予定であったOPECプラス産油国の減産措置の規模である日量580万バレル程度へと減産規模を縮小する他サウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産措置を終了することによる、事実上の増産量に概ね等しい)、それによって生じる供給過剰は8月には解消可能である旨の見方を3月2日にOPEC事務局のアナリストが提示したとされる(なお、この時点ではサウジアラビアは、2~3月に実施していた日量100万バレルの自主的な追加減産措置に関し、4月に完全に終了するか、もしくは数ヶ月に渡り減産規模を縮小していくかどうかにつき検討していたと3月2日に伝えられる)。そして、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)がアジア地域の原油購入者に対し、4月の原油供給量を3月よりも増加させる(3月は契約数量から10~15%削減する一方4月は5%の削減とする)旨通知したと3月2日に伝えられたことからすると、OPECプラス産油国の大勢は少なくとも閣僚級会合開催のかなり前の段階で日量50万バレル程度の減産措置の緩和を支持していたことが覗われた。このようなこともあり、3月4日開催予定のOPECプラス産油国閣僚級会合で日量50万バレルのOPECプラス産油国減産措置の緩和に加えサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産措置の終了が決定するとの観測が市場で発生した(米国大手金融機関シティ・グループは、OPECプラス産油国は4月に日量50万バレル減産措置を緩和する他、同月にサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産措置を継続する可能性は低い旨の見解を披露したと3月1日に伝えられていた)。
しかしながら、少なくともこの時点では2020年前半に積み上がった余剰石油供給が完全に消滅したとは必ずしも言い切れない状況であった(表2及び3参照)一方、足元の原油価格の上昇は石油需給引き締まり期待が市場で先行するとともに、世界的な金融緩和の動きの中、低コストで調達された資金が原油市場に流入したことによるという、いわば金融要因が一因であると見受けられる部分もあった。このようなことから、OPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置の縮小決定観測が市場で発生することに伴い石油需給引き締まり感が後退するとともに、これまでの原油価格上昇に伴う利益確定の動きが発生したこととにより、OPECプラス産油国閣僚級会合の約1週間前である2月26日から3月2日にかけての3取引日で、原油価格は合計で1バレル当たり3.78ドル下落した。
また、例年第二四半期は暖房シーズンによる暖房用石油製品需要期が終了するとともに夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期にはまだ早いことから季節的に石油需給が緩和しやすいこともあり、OPECプラス産油国が日量50万バレル減産措置を緩和するとともにサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産措置を3月で終了した場合、供給が需要を超過する状態となることが予想された。そしてこのような、第二四半期の石油需給が緩和しやすい状況が想定される中で、減産措置の緩和を決定すれば、OPECプラス産油国の石油需給均衡に向けての決意はそれほど断固たるものでもないと言った印象を市場が持つ結果、原油相場への下方圧力が一層強まると言った展開も想定された。さらに、イランの原油生産量は足元では左程増加していないものの、今後油田操業再開作業が進捗するにつれ同国の原油生産が増加していくことにより、結果としてOPECプラス産油国全体の原油供給が拡大するといったリスクも内包していた。加えて、新型コロナウイルスワクチンの接種普及は拡大しつつあるものの、接種が行き渡る前にウイルス感染が再拡大、それもワクチンの有効性が低下するウイルス変異種によるものとなる可能性も全くないわけではなかったこのようなことから、実際にOPECプラス産油国閣僚級会合で、日量50万バレルの減産措置縮小及び日量100万バレルのサウジアラビアの自主的な追加減産の終了の決定がなされた場合、一時的にせよ石油需給緩和感が強まるとともに市場心理が冷え込むことで、原油相場が急落する結果、OPECプラス産油国の原油生産調整策の変更を以てしても原油価格の制御が困難な事態に陥る恐れがあったことから、サウジアラビアを初めとするOPEC産油国は慎重に行動する必要性に迫られた。そして、石油市場には依然として脆弱な部分があるとして、石油需給引き締まり感の後退による市場心理の急変と原油価格急落を抑制するため、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国は、減産措置の規模を維持し、サウジアラビアも自主的な追加減産措置を継続する方針に向かい始めたものと考えられる。
しかしながら、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合においても、関係産油国間で世界石油需要に関する見解に相違が見られた。2月14日に、ロシアのノバク副首相は、石油需要は依然として新型コロナウイルス感染拡大前を8~9%下回っているものの、2020年4~5月に見られたような前年同月比での20~25%の減少からは部分的には回復していることもあり、過去数ヶ月間原油価格の変動は限定的であり、それは世界石油需給が再均衡していることを意味している他、2021年の原油価格は1バレル当たり45~60ドルとなる可能性がある旨明らかにしていた。原油価格の終値は2月14日の時点で1バレル当たり59.47ドル(ブレント原油価格は同62.43ドル)とノバク副首相が想定している原油価格変動領域の上限付近に位置していたこともあり、ロシアはこれ以上の原油価格の上昇を望んでおらず、むしろ原油を増産することで原油価格のさらなる上昇を抑制することが望ましい旨認識していたことが示唆される(原油価格がさらに相当程度上昇すれば、米国のシェールオイルを含む原油生産量が急速に回復する結果OPECプラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困難なほど世界石油需給が緩和することにより原油価格が乱高下することに加え、産油国であるロシアの通貨ルーブルが上昇することにより輸出収入に依存する同国製造業等が打撃を受けることを、ロシアは従来から懸念していた)。3月3日にも、ロシアのノバク副首相は、世界石油市場は不透明感を伴うものの、需給状況は2020年に比べ改善している旨主張、3月の減産措置を4月もそのまま継続することについては消極的であることが示唆された。このようなことから、世界石油需給が緩和する兆候の出現とともに原油価格が急落する可能性が依然存在することに対し、先制的に行動することにより、原油価格の維持を図るとともに、結果的に原油価格がさらに上昇することについても事実上容認する姿勢を示唆するサウジアラビア等の産油国とロシア等一部産油国の間で、原油生産方針に関する見解の相違が示される格好となった。そこで、増産を希望するロシア等他の産油国については増産を認める一方、他のOPECプラス産油国については減産規模を据え置きするとともに、サウジアラビアも自主的な追加減産措置を継続することで、ロシアの希望を満たしつつ、減産措置の緩和も抑制しようとしたものと考えられる(OPECプラス産油国閣僚級会合においてロシアは国内市場での供給不足に対応するため自国の増産を要請したと伝えられる)。なお、ロシアの増産量である日量13万バレル、及びカザフスタンの増産量である同2万バレルは、OPECプラス産油国が日量50万バレルの減産措置の緩和を決定した場合に配分される、両国の増産量にほぼ等しい量である。
また、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国にとってみれば、石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場が上昇し続けることにより、消費国から不満が発生するといった問題が発生する(実際3月3日にはインドのプラダン(Pradhan)石油相は主要OPECプラス産油国に対し石油市場を安定させるとの約束を守るために増産すべきであると要請した)ものの、それに対しては、これ以上原油価格が上昇し続けた場合には供給を増加させる意図がある旨表明すると言ったいわゆる口先介入、そしてそれでも原油価格の上昇が継続する場合には実際に原油供給を増加させることにより、原油価格上昇の沈静化を図ると言った選択を行う余地が残される一方、原油価格の上昇が継続している間は、OPECプラス産油国の原油収入は概ね増加するものと見られることから、不用意に減産措置を緩和することにより原油価格が制御不可能な格好で下落し続けるよりも、慎重に減産措置を運用する結果原油価格が上振れする方が、彼らにとっては得策といった側面もある(なお、3月4日にサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相はインドからの増産要求に対し2020年の原油価格低迷時期に購入した原油を利用すべきである旨発言しており、これに対しインド政府は国営石油精製会社に対し原油供給源をロシアやガイアナ等へと多様化させるとともに中東依存度を低減させるよう要請した旨3月9日に伝えられる)。また、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相はシェールオイルの活発な開発・生産活動は永久に過ぎ去ったとの見解を3月4日の閣僚級会合後に明らかにしているが、このようなサウジアラビアの認識を疑問視する向きも市場にはある。
(3) 原油価格の動き等
市場では、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で、4月に日量50万バレルの減産規模の縮小、そしてサウジアラビアが実施している日量100万バレルの自主的な追加減産措置の終了が決定すると事前に予想されていたが、実際の決定はそのような事前予想よりも世界石油需給を引き締める方向で作用するものであったことにより、原油相場に上方圧力が加わった結果、当該会合開催日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.55ドル上昇し、同日の終値は63.83ドルと2019年4月30日(この時は同63.91ドルの終値)以来の高水準の終値に到達した。また、3月4日のOPECプラス閣僚級会合での決定もあり、米国大手金融機関が原油価格予想を引き上げたことが一因となり、3月5日の原油価格の終値も1バレル当たり66.09ドルと2019年4月23日(この時は同66.30ドル)以来の高水準に到達した他、前日終値比で2.26ドル上昇した(後述)。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2020年12月の米国ガソリン需要(確定値)は日量784万バレル、前年同月比で12.7%程度の減少と11月の同13.4%の減少から減少幅が縮小した(図2参照)が、速報値(前年同月比で12.4%程度減少の日量786万バレル)からは若干ながら下方修正された。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量84万バレル程度と推定されるところ確定値では同93万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。また、11月30日には167,839人(過去7日平均160,387人)であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が12月31日には同231,035人(同188,591人)まで増加したものの、増加ペースは減速気味(因みに10月31日は84,210人(同80,765人))であったこともあり、12月の同国の自動車運転距離数も前年同月比で10.3%の減少と11月の同10.7%の減少から多少なりとも持ち直したことが、前月からの減少幅の縮小の背景にあるものと考えられる。また、2021年2月の同国のガソリン需要(速報値)は日量800万バレル、前年同月比で10.8%程度の減少と1月の同国ガソリン需要(速報値)の同10.8%程度の減少とほぼ同水準の減少幅となっている。2月は米国の広い範囲に寒波が来襲した(後述)ことにより、個人の外出が敬遠された結果、2月の自動車運転距離数(週間値)は前年同期比10~17%程度の減少と、1月の同8~11%程度の減少から減少幅が拡大しているものの、同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は1月31日の113,511人が2月28日には50,925人へと減少したこともあり、同国一部地域で新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限措置が緩和されたことが、寒波が去るとともに気温が上昇したことと相俟って、この先自動車を利用して外出を活発化させるべくガソリンの購買を促進させたことで当該製品需要を下支えしたものと考えられる。また、2月15~16日頃に米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域に寒波が来襲したことにより、停電等に伴い一部製油所の操業が停止した結果、原油精製処理活動が減速する(同国メキシコ湾岸地域の原油精製処理量は2月12日の週には日量829万バレルであったが、2月26日の週には同389万バレルと同440万バレル減少した他、2月26日の週の原油精製処理量は、ハリケーン「グスタフ(Gustav)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した2008年9月19日の週(この時は同347万バレル)以来の低水準に到達した、図3参照)とともに、石油製品生産活動が不活発化したことにより、ガソリン生産活動も相当程度鈍化したものと見られる(ガソリン最終製品の生産は図4参照であるが、むしろガソリン混合基材の生産に、より大きな影響を及ぼしたものと推測される)結果、かえって2月上旬から3月上旬にかけ米国のガソリン在庫は減少傾向となった他、2月26日時点の同国ガソリン在庫は前週比で1,362万バレルの減少と、1990年以降の同国週間ガソリン在庫統計史上最大の減少幅となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図5参照)。
2020年12月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量386万バレルと前年同月比で1.7%程度の減少となり、10月の同7.4%程度の減少から減少幅が相当程度縮小した他、速報値である日量365万バレル(同7.1%程度の減少)からも上方修正された(図6参照)。米国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが開発中であった新型コロナウイルスワクチン接種者の90%以上に感染防止効果が認められたとの暫定結果を11月9日朝(米国東部時間)にファイザーが発表したことに加え、11月20日には両社が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可承認を米国食品医薬局(FDA)に申請、12月11日にFDAは緊急使用許可を承認した。このようなことから、新型コロナウイルスワクチン接種の普及拡大に伴い経済活動制限措置が緩和する結果、米国での経済成長の伸びが加速するとの期待が市場で高まるとともに、同国株式相場が上昇基調となった。それに併せて、経済活動が持ち直し始めたこともあり、12月の同国鉱工業生産は前年同月比で3.2%の減少と11月の同4.7%の減少から減少幅が縮小した他、12月の物流活動が前年同月比で3.5%の増加と減少幅が11月のそれ(同3.8%の減少)から増加に転じるなど、製造活動及び物流活動が活発化していることが、同月の留出油需要の前年同月比での減少幅縮小に寄与しているものと考えられる。他方、2021年2月の留出油需要(速報値)は日量414万バレルと前年同月比で3.2%程度の増加となっており、1月の当該需要(速報値)の同401万バレル(同0.4%程度の増加)から増加幅が拡大している。同月の同国非農業部門雇用者数が前月比で37.9万人の増加と1月(この時は同16.6万人の増加)から増加幅が拡大したうえ、2月の同国製造業景況感が改善していることが示されていることから、産業及び物流部門での軽油需要が底上げされたことが覗われる他、2月は上旬及び中旬を中心として米国北東部(暖房用石油製品需要の中心地)の気温が平年を相当程度下回る場面が見られたことから、暖房油消費が刺激されたことが、留出油需要の前年同月比の増加幅拡大に寄与しているものと思われる。そして、米国の留出油需要が堅調であったうえ、2月中旬に米国メキシコ湾岸地域に寒波が来襲したことにより、当該地域の製油所の操業に支障が発生した結果、留出油生産活動が鈍化した(図7参照)ことから、2月上旬から3月上旬にかけ米国の留出油在庫は減少傾向となった他、2月26日時点の同国留出油在庫は前週比で972万バレルの減少と2003年1月31日の週(この時は同1,033万バレルの減少)以来の大幅な減少となったが、平年幅上限を超過する水準は継続している(図8参照)。
2020年12月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で8.1%程度減少の日量1,880万バレルとなった(図9参照)。ガソリン及びジェット燃料を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を割り込んだことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。ただ、留出油需要の確定値が速報値から上方修正されたこともあり、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,868万バレル、前年同月比8.6%程度の減少)から上方修正されている。また、2021年2月の米国石油需要(速報値)は日量1,941万バレルと前年同月比で2.2%程度の減少となった。ガソリンやジェット燃料等の需要が前年同月比で引き続き相当程度減少しているものの留出油需要が堅調であったことで相殺されたことから、1月の同国石油需要(速報値)の同1,944万バレル(前年同月比2.3%程度の減少)よりも減少幅が縮小している。ただ、2月のその他の石油製品の需要は日量436万バレルと前年同月比で同77万バレルの増加となっているが、過去の実績(2020年1~12月の1年間(確定値)で日量349~431万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。他方、2月15~16日頃に米国メキシコ湾岸地域に来襲した寒波により、米国の油・ガス田関連施設が凍結や停電等により操業を停止したものの、寒波が去った後は比較的速やかに操業が再開しつつある反面、寒波来襲により稼働を停止した同国メキシコ湾岸地域の製油所が操業再開に時間を要している結果、原油生産が回復しつつある反面原油精製処理が進まなかったことにより、2月上旬から3月上旬にかけては、同国の原油在庫は増加傾向となったうえ、2月26日の同国原油在庫は前週比で2,156万バレルの増加となり、1982年後半以降の同国週間原油在庫統計史上最大の伸びとなった他、平年幅上限を上回る状態は続いている(図10参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2021年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、2月15~16日頃に米国テキサス州等に来襲した寒波により同国の一部製油所の操業が停止したことで、ガソリン等石油製品の供給減少に伴う需給引き締まり感が市場で増大した結果、例えば米国のガソリン価格が欧州のそれを上回る幅が拡大したことで、欧州でも米国市場向けにガソリンを生産する誘因が増大したことにより、当該地域の製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだことから欧州の原油在庫は減少した。また、日本でも2月13日午後11時7分に発生した東日本を中心とする地域での地震に伴い同国の複数の製油所の操業が停止、そのうち一部は現時点においても操業を再開していないこともあり、それら製油所での原油の受入がなされなくなったことが一因となり、原油在庫は減少した。しかしながら、米国の原油在庫が相当程度増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、米国ではテキサス州等に寒波が来襲したことで複数の製油所の稼働が停止するとともに幅広く石油製品の生産に支障が発生したことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期突入により留出油やプロパン/プロピレン在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫も減少した。また、欧州でも、米国テキサス州等への寒波来襲に伴う製油所の稼働停止によるガソリン等の石油製品生産上の支障で、例えば米国のガソリン価格が欧州のそれに比べ割高になったこともあり、欧州から米国に向けてガソリンが積極的に輸出された他、欧州でも2月上~中旬を中心として気温が平年を下回る程冷え込んだこともあり、暖房用石油製品需要が喚起されたこともから、当該地域での石油製品在庫も減少した。日本でも冬場の暖房シーズン到来に伴う灯油需要期に突入したことによる当該製品在庫減少に加え、2月中旬に発生した地震に伴い国内の複数の製油所の稼働が停止したことにより石油製品生産が困難となったこともあり、同国の石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり平年幅上方付近に位置する量となっている(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図15参照)。なお、2021年2月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は68.3日と1月末の推定在庫日数(69.8日)から減少している。
2月10日に1,500万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、2月17日には1,500万バレル台後半程度の量へと増加した。2月24日には再び1,500万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、3月3及び10日には1,600万バレル弱程度の水準へと上昇、2月10日の量を上回る状態となっている。旧正月(春節)に伴う中国の休暇シーズン(2021年は2月11~17日)において、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、政府が個人の移動を自粛するよう要請したこともあり、自動車による往来が低迷したことが同国のガソリン需要に影響を及ぼしたと見られる結果、同国からシンガポール方面にガソリンが輸出されたことに加え、原油価格とともに国内ガソリン価格が上昇したことが自動車による外出に影響を与えたことによりガソリン需要が軟調となったインド(1月の同国のガソリン需要は日量71万バレルで前年同月比6.2%程度の増加であったが、2月の需要は同74万バレルと同0.4%程度の増加にとどまった)からもシンガポール方面にガソリン輸出が行われた一方、原油価格とともに国内ガソリン価格が上昇したインドネシア等でも自動車による外出が敬遠されるとともにガソリン需要がもたつき気味となったと見られることもあり、シンガポールからこれら諸国へのガソリン輸出が必ずしも堅調ではなかったことが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そして、このようにアジア諸国においてガソリン需給の緩和感が市場で意識されたことに加え、2月中旬から下旬にかけての原油価格上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったことにより、この時期アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、その後は3~5月を中心としてアジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業が実施されるとの意識が市場で強まったうえ、2月15~16日頃に米国テキサス州等に来襲した寒波により停止した製油所の操業再開が緩やかに進みつつあることが同国でのガソリン供給低迷及びガソリン需給引き締まり観測を市場で発生させたことに加え、同国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2021年は5月29日~9月6日)に向けた季節的なガソリン需給引き締まり感を市場で意識し始めたことが、アジア市場でのガソリン価格にも上方圧力を加える格好となったことから、ガソリンとドバイ原油の価格差は2月下旬から3月中旬にかけ拡大する傾向を示した。
ナフサについては、中国での旧正月に伴う休暇シーズンを控えた経済活動の減速に伴う石油化学製品需要の低下観測がナフサ価格に下方圧力を加えたうえ、2月13日午後11時7分(現地時間)に発生した東日本を中心とする地域の地震に伴う停電により、日本の複数のナフサ分解装置が停止したこともあり、石油化学製品用原料としてのナフサの需要が影響を受けるとの見方が市場で広がったことから、2月上旬までドバイ原油価格を上回っていたアジア市場でのナフサ価格は2月中旬にはナフサ価格がドバイ原油価格を下回る場面も見られるようになるなど、軟調に推移した。しかしながら、東日本を中心とする地域での地震の発生により併せて日本の複数の製油所の稼働も停止したことによりこの先ナフサ供給が減少するとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格を下支えした他、2月15~16日頃に米国メキシコ湾岸地域に来襲した寒波に伴う気温の大幅低下による停電等で製油所の稼働が停止したことに伴い米国でのガソリン需給引き締まり感が強まった他、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入りつつあったことにより、この先ガソリンに混入するナフサの需要が拡大することで、米国市場にガソリンを輸出している欧州方面からアジア市場へのナフサの流入が低下するとの見方が広がったことに加え、米国メキシコ湾岸地域への寒波の来襲に伴う停電や施設凍結の発生により製油所や油・ガス田でのLPGの生産に支障が発生したこともあり、石油化学部門向け原料としてナフサと競合するLPGの価格に上方圧力が加わったことが、当該部門でLPGに比べ相対的に安価となったナフサ需要を強める格好で作用したうえ、アジア諸国の製油所が3~5月を中心とした期間に春場のメンテナンス作業を実施することにより、製油所からのナフサ供給が減少する可能性があるとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に上方圧力を加えたことから、2月中旬以降3月中旬にかけアジア市場でのナフサ価格はドバイ原油価格を上回って推移した。
2月10日には1,400万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、2月17日及び24日には1,500万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、3月3日には1,400万バレル台半ば程度、そして、3月10日には1,400万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと減少するなど、比較的限られた範囲で方向感のない動きとなった。新型コロナウイルス感染抑制のため欧州諸国で個人の外出規制及び経済活動制限が強化されたこともあり、当該地域での輸送及び産業部門向け軽油需要が不振であったことにより、欧州での軽油価格がアジアのそれを十分に上回らなかったことが、アジア市場等から欧州方面への軽油の流出に負の影響を与えたことにより、欧州に向かわなかった軽油がシンガポールに流入したことが、シンガポールでの中間留分在庫を増加させる方向で作用した。また、中国の旧正月の休暇期間突入に際し経済活動が減速したことにより国内軽油需要が鈍化したことも、同国からシンガポール方面への軽油輸出を促す格好となった。他方、インドにおいては、原油価格の上昇とともに国内軽油価格が上昇したことが軽油需要を抑制する格好となった(2月の同国軽油需要は日量177万バレル、前年同月比4.8%程度の減少と、1月の同166万バレル、同1.8%程度の減少から、減少幅が拡大している)ことが同国からシンガポール方面への軽油輸出を促進する形で作用したものの、インドでの新型コロナウイルス感染が落ち着いた(同国の1日当たり新型コロナウイルス感染者数は2020年9月16日の97,894人を天井として以降減少傾向となった)ことに伴い、同国の経済活動が相対的に活発化したことにより、同国からシンガポール方面への軽油輸出が抑制される場面も見られなど、インドからシンガポールへの軽油の流入状況はまちまちであった。また、インドネシア等でも新型コロナウイルス感染が抑制されつつある(インドネシアの1日当たりの新型コロナウイルス感染者数は1月30日の14,518人を天井として以降減少傾向となっている)ことに伴い経済活動が回復し始めていると見られることもあり、軽油の需要が持ち直すとともにシンガポールからインドネシア等への軽油の輸出が活発化した。以上のような要因が、シンガポールでの中間留分在庫の変動に影響したものと考えられる。そしてこのように、シンガポールでの中間留分在庫が比較的限られた範囲内で推移したこともあり、2月中旬から3月中旬にかけてのアジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)の変動も限定的な幅にとどまることとなった。
2月10日に2,100万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、2月17日には1,900万バレル台半ば程度の量へと相当程度減少したものの、2月24日には2,000万バレル台前半程度、3月3日には2,200万バレル弱程度、そして3月10日には2,200万バレル台後半程度の量へと、それぞれ増加した。12月中旬から1月中旬にかけての北東アジア諸国への寒波の来襲に伴い暖房用もしくは空調機器稼働のための発電用天然ガス需要が増加したことにより、北東アジア市場でのLNG価格が大幅に上昇したことから、発電部門等での天然ガスの代替燃料として重油の需要が旺盛となったうえ、新型コロナウイルス感染が相対的に沈静化している中国等の貿易活動の活発化(3月7日に中国税関総署から発表された2021年1~2月の同国輸出(米ドルベース)は前年同期比60.6%増加、同時期の輸入は同22.2%の増加と、市場の事前予想(輸出38.9~40.0%、輸入15.0~16.0%の、それぞれ増加)を上回った)に伴い船舶用重油需要が堅調であったことにより、アジア市場の重油価格の欧州のそれに対する割高感が強まったこともあり、かえって欧州方面からアジア市場への重油輸出が活発化するとともに、そのような重油がシンガポールに到着し始めたことが、シンガポールでの重油在庫増加の一因となったものと見られる。他方、12月中旬~1月中旬を中心とする時期に北東アジア諸国に来襲した寒波に伴う気温の相当程度の低下による電力需給逼迫で発電部門での重油需要が相当程度増加したものの、寒波が後退するとともに気温が上昇したことで重油需要が縮小し始める一方気温が低下した際に発注した重油が到着しつつあったことから、重油の需給緩和感が市場で醸成されるとともに重油価格を抑制し始めたことに加え、アジア市場に欧州方面から重油が流入しつつあったこと、3月4日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合で事実上の増産が決定することにより、重油がより多く生産できる中質・重質高硫黄原油の供給が増加するとの見方が市場で発生したことが、アジア市場での重油価格に下方圧力を加えた。しかしながら、新型コロナウイルス感染抑制とともに経済活動が回復した中国等の貿易活動が活発化したことにより、船舶向け重油需要が堅調であった他、3月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で一部を除き事実上増産が見送られたことにより、この先も重油を多く生産できる中質・重質高硫黄原油の供給は概ね絞られたままとなるとの見方が市場で発生したこと、3月7日に発生した地震により日本の複数の製油所が操業を停止した結果、重油の供給余力が低下したことに加え、3~5月を中心としてアジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業が実施される結果、重油の供給が減少するとの観測が市場で発生したことが、重油価格に上方圧力を加えた。結果として2月中旬から3月中旬にかけてのアジア市場での重質高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合重質高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は比較的限られた範囲で推移した。
3. 2021年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場では、米国での金融緩和期間長期化を同国金融当局責任者が2月24日に示唆したことに加え、新型コロナウイルスワクチン開発及び生産拡大期待が市場で増大したこと、イエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビアの石油施設を攻撃した旨3月4日に主張したこと、3月4日にOPECプラス産油国が4月の減産措置の規模を3月とほぼ同等とする旨決定したこと、米国金融機関がこの先の原油価格見通しを上方修正したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、2月12日にはWTI終値で1バレル当たり59.47ドルであった原油価格は上昇基調となり、3月5日には同66.09ドルの終値と、2019年4月23日以来の高水準に到達した(図16参照)。
2月15日は、米国ワシントン大統領誕生記念日(President's Day)に伴う休日により、この日の米国原油先物市場での原油価格の終値は計上されなかった。ただ、2月14日にサウジアラビアが主導する有志連合軍が、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)から発射された、爆発物を積載した無人攻撃機を撃退した旨発表した一方、同日フーシ派武装勢力は、サウジアラビア南部の都市アブハの国際空港を無人攻撃機が攻撃した旨主張したことから、中東での政情不安と当該地域からの石油供給途絶に関する懸念が2月16日の市場で増大したことに加え、2月15日に米国テキサス州に寒波が来襲、同国の主要シェールオイル地域であるパーミアン盆地(テキサス州及びニューメキシコ州)(2021年1月の推定原油生産量日量433万バレル)にあるテキサス州ミッドランドの気温が摂氏マイナス19度にまで低下した結果、凍結及び停電に伴い坑井、原油及び天然ガス輸送パイプ等の油・ガス田関連施設の操業に支障が発生した(テキサス州は通常冬場でもそれほど気温が低下しないことにより、気温が異常低下した場合の油田関連施設等での備えが不十分であったことが一因であったと指摘される)ことにより、当該盆地での原油生産量が最大で日量200万バレル程度減少していると推定される旨2月16日に報じられたことに加え、米国での寒波来襲により、LPG及び暖房油といった暖房用石油製品需要が増加するとの観測が市場で発生したうえ、米国での寒波来襲に伴う停電や天然ガス供給減少等により、Motiva Enterprises(サウジアラムコ子会社)操業のPort Arthur製油所(原油精製処理能力日量60.7万バレルで米国最大)他複数の製油所で最大日量300万バレル相当の精製能力に支障が発生しつつあると推定される旨2月16日に伝えられたことで、石油製品供給減少観測が市場で発生したことにより、石油製品需給引き締まり感が市場で増大した結果石油製品価格が上昇したことが原油価格に影響を及ぼしたこと、シベリア地域に寒波が来襲したことが一因となり、2月初め以降の原油生産に支障が発生したと見られることから、2月1~15日のロシアの原油生産量が推定日量1,012万バレルと1月の同1,016万バレルから減少、増産すると見られていた(1月4~5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合における関係国間での合意では、ロシアは2月の原油生産量を前月比で日量6.5万バレル増加させることが示唆された)ロシアの原油生産が増産していない旨2月16日に判明したことで、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、2月16日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.58ドル上昇し、終値は60.05ドルとなった。2月17日も、米国南部への寒波来襲による気温低下や停電が継続したことから、同国パーミアン盆地での原油生産が65~80%減少したことを含め同国の原油生産量が日量400万バレル超停止したと推定される旨この日伝えられた他、気温低下による米国石油産業の混乱は少なくとももう数日間(場合によっては数週間)は継続するとの見方が市場で発生したことにより、石油需給引き締まり感が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.14ドルと前日終値比で1.09ドル上昇した。この結果原油価格は2月16~17日の2日間で1バレル当たり合計1.67ドルの上昇となった。しかしながら、2月18日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、2月18日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(2月13日の週分)が86.1万件と前週の84.8万件から増加した他市場の事前予想(76.5~77.3万件)を上回ったうえ、米国長期金利の上昇もあり、同国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.52ドルと前日終値比で0.62ドル下落した。2月19日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で継続したことに加え、一部石油会社がテキサス州イーグルフォードシェール鉱床での電力供給回復等に併せ油田関連施設等での操業再開に向け準備しつつある一方、同州の主要製油所の操業再開までには数週間を要すると見られる旨2月19日に報じられたことにより、原油供給増加の一方原油精製処理活動が低迷する結果、原油需給が緩和するとの観測が市場で発生したこと、米国南部への寒波来襲による同国原油生産への影響は小規模でありかつ一時的である旨の見解を米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにした旨2月19日に報じられたこと、2月18日午後(米国東部時間)に、米国国務省がイラン核合意復帰に向けイランと協議する用意がある旨表明したことにより、米国の対イラン制裁解除に伴いイランからの原油供給が増加するとの期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.28ドル下落し、終値は59.24ドルとなった。この結果原油価格は2月18~19日の2日間で1バレル当たり合計1.90ドル下落した。
しかしながら、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、石油需要が供給を上回って回復していくことにより、2021年第二四半期の原油価格を1バレル当たり70ドル、第三四半期のそれを同75ドルへと、以前の予想からそれぞれ10ドル引き上げた旨2月21日に伝えられたことに加え、2021年初頭以降、世界石油市場は日量280万バレルの供給不足になっており、これは四半期の需給としては2000年以来の最も引き締まったものである旨2月22日に米国大手金融機関モルガン・スタンレーが明らかにしたこと、新型コロナウイルス感染からの世界経済の回復、そして米国で最近来襲した寒波により米国での原油生産4,000万バレル相当分が2月は供給されないであろうと見られる他、米国で生産を停止した石油坑井の5%は二度と生産が回復できないかもしれないこと、製油所の停止により石油製品供給が減少することにより、夏場に向け石油市場は引き締まる旨の見解を大手国際石油商社トラフィギュラ(Trafigura)が2月22日に示したこと、2月22日にドイツ非営利公的研究機関IFO経済研究所から発表された2月の同国企業景況感指数(2005年=100)が92.4と市場の事前予想(90.5)を上回ったこともありユーロが上昇した他、2月22日に英国のジョンソン首相が3月8日以降段階的に同国での個人外出規制及び経済活動制限を緩和する方針である旨表明したこともあり、英ポンドが上昇した反面、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.25ドル上昇し、終値は61.49ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2021年3月渡し原油先物契約は取引を終了したが、4月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり61.70ドル(前日終値比2.44ドルの上昇)であった)。2月23日の原油価格の終値は1バレル当たり61.67ドルと、前日終値比で0.18ドル上昇したが、4月渡し米国原油先物契約間では前日終値比で0.03ドルの下落であった。これは、2月24日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表される予定である米国石油統計(2月19日の週分)で原油、ガソリン及び留出油の各在庫が前週比で減少しているとの観測が市場で発生したことに加え、米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカが2021年の平均ブレント原油価格をそれまでの1バレル当たり50ドルから60ドルへと引き上げたうえ70ドルに到達する場面が見られる可能性がある旨指摘した他、2026年にかけ1バレル当たり50~70ドルの原油価格を見込むが、金融緩和及び景気刺激策、石油需給及び中国経済の改善により、この期間中原油価格が1バレル当たり100ドルにまで上昇する可能性もある旨の見解を披露したと2月23日に伝えられたことが原油相場に上方圧力を加えた反面、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことが、原油相場に下方圧力を加えたことによる。2月24日は、この日EIAから発表された米国石油統計において米国原油生産量が前週比で日量110万バレル減少の同970万バレルとなっている旨判明したことで同国の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、米国経済が年率2%のインフレ目標に到達するまでには3年超の期間を要する可能性がある旨2月24日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が米国連邦議会下院金融サービス委員会の公聴会で証言したことにより同国での金融緩和政策が長期化するとの期待が市場で増大したことうえ、米国製薬・日用品製造大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発中の新型コロナウイルスワクチンに対し米国食品医薬局(FDA)職員が安全であり効果的である旨の見解を2月24日に示したことより米国等の経済活動の活発化に対する期待が市場で増大したこともあり、同国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.55ドル上昇し、終値は63.22ドルとなった。さらに、2月25日には、米国経済が年率2%のインフレ目標に到達するまでには3年超の期間を要する可能性がある旨2月24日にパウエルFRB議長が証言したことにより同国での金融緩和政策長期化に対する期待が市場で増大した流れを引き継いだうえ、2月23日夜(現地時間)に操業再開作業を開始したサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの子会社であるモティバ エンタープライジズ(Motiva Enterprises)のポート・アーサー(Port Arthur)製油所(原油精製処理能力日量60.7万バレル)に続き、大手国際石油会社トタル(Total)のポート・アーサー製油所(同22.55万バレル)も操業再開作業を実施中である旨2月25日に伝えられたことにより、米国製油所での原油精製処理量増加に伴い製油所の原油購買が促進される結果原油在庫が減少するとの観測が市場で増大したことから、この日(2月25日)の原油価格の終値は1バレル当たり63.53ドルと、前日終値比で0.31ドル上昇した。この結果原油価格は2月24~25日の2日間合計で1バレル当たり1.86ドルの上昇となった。ただ、2月26日は、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、2月26日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で309基と前週比4基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は287基と同3基増加)している旨判明したこと、2月26日に米国商務省から発表された1月の同国個人所得が前月比で10.0%増加と市場の事前予想(同9.5%増加)を上回ったうえ、同国国債利回りが高水準を維持していることもあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.50ドルと前日終値比で2.03ドル下落した。
また、2月28日に中国国家統計局から発表された2月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門好不況の分岐点)が50.6と1月の51.3から低下、2020年5月(この時は50.6)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(51.0~51.1)を下回ったことで、同国経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に関する懸念が市場で発生したことに加え、2月25~26日の下落に対し値頃感から株式を買い戻す動きが市場で発生したうえ、3月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された2月の同国製造業景況感指数(50が当該部門好不況の分岐点)が60.8と2018年2月(この時は60.8)以来の高水準となった他市場の事前予想(58.8~58.9)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことにより、将来に向けた経済成長加速に対する期待が市場で強まったこともあり、米ドルが上昇したこと、そして3月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合を前にした持ち高調整が市場で発生したことから、3月1日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.86ドル下落し終値は60.64ドルとなった。また、3月2日も、新型コロナウイルス感染再拡大の可能性が排除し切れていないことで原油価格の下振れリスクは依然存在しているものの、2020年に比べこの先の不透明感が後退するなど、石油市場は全体として良好である旨、3月2日にOPECのバルキンド事務局長が明らかにしたことに加え、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)がアジア地域の原油購入者に対し、4月の原油供給量を3月よりも増加させる(3月は契約数量から10~15%削減する一方4月は5%の削減とする)旨通知したと3月2日に伝えられたことより、3月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合で、OPECプラス産油国による日量50万バレルの減産措置の緩和が決定される他、サウジアラビアが2月以降実施している日量100万バレルの自主的な追加減産措置を3月末を以て終了させることにより、世界石油需給が相対的に緩和するのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.75ドルと前日終値比で0.89ドル下落した。この結果原油価格は3月1~2日の2日間で1バレル当たり合計1.75ドル下落となった。しかしながら、米国製薬大手メルクが米国製薬・日用品製造大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した新型コロナウイルスワクチンを製造する旨3月2日夕方(米国東部時間)に米国のバイデン大統領が発表するとともに、2022年の今頃には米国は正常化していることを希望する他、正常化する時期は早まる可能性がある旨明らかにしたことにより、新型コロナウイルスワクチン接種普及加速による米国経済活動の活発化及び石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことに加え、3月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合で、3月のOPECプラス産油国減産措置を4月も継続する方向で検討している旨3月3日にロイター通信が報じたことで、これまで当該会合で当該減産措置を緩和する旨決定すると予想していた市場関係者の間で石油需給引き締まり感が増大したこと、3月3日にEIAから発表された米国石油統計(2月26日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で1,362万バレルの減少と1990年以降の同国週間ガソリン在庫統計史上最大の減少幅となった他市場の事前予想(同230~250万バレル程度の減少)を上回って減少していたうえ、留出油在庫が同972万バレルの減少と2003年1月31日の週(この時は同1,033万バレルの減少)以来の大幅な減少となった他市場の事前予想(同300~375万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、3月3日の原油価格の終値は1バレル当たり61.28ドルと前日終値比で1.53ドル上昇した。3月4日も、この日開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、ロシア及びカザフスタンを除き4月の減産措置の規模を3月から据え置きとする他、2~3月に実施していたサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産措置を4月に延長して実施する旨決定したことから、将来的な石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、イエメンでハディ暫定大統領政権(サウジアラビア等が支援)と対立するフーシ派武装勢力が、サウジアラビア西部の都市ジェッダにある同国国営石油会社サウジアラムコの石油関連施設をミサイル及び無人機で攻撃しその攻撃が成功した旨3月4日に主張した他、サウジアラビア南部の都市ハミス・ムシャイト(Khamis Mushait)も無人機で攻撃した旨同日明らかにしたことで、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.55ドル上昇し、終値は63.83ドルとなった。3月5日も、3月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、ロシア及びカザフスタンを除き4月の減産措置の規模を3月から据え置きとする他、2~3月に実施していたサウジアラビアによる自主的な追加減産措置を4月に延長して実施する旨決定したことを受け、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、2021年第二四半期のブレント原油価格予想を1バレル当たり75ドル、第三四半期のそれを同80ドルと、それぞれ以前の見通しよりも同5ドル上方修正する旨3月4日夜(米国東部時間)に報じられるなど、一部金融機関が原油価格見通しを引き上げたことに加え、3月5日に米国労働省から発表された2月の同国非農業部門雇用者数が前月比で37.9万人の増加と1月の同16.6万人の増加から増加幅が加速した他、市場の事前予想(同18.2~20.0万人の増加)を上回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.09ドルと2019年4月23日(この時は同66.30ドル)以来の高水準に到達した他、前日終値比で2.26ドル上昇した。この結果原油価格は3月3~5日の3日間で1バレル当たり合計6.34ドルの上昇となった。
3月8日には、この日ブレント原油価格が1バレル当たり70ドルを超過する場面が見られたうえ、3月7日に、サウジアラビア東部にある石油積み出し港ラス・タヌラ(Ras Tanura)(石油輸出能力日量650万バレルと言われている)の石油貯蔵タンク基地及び、同国東部のダンマン(Dammam)、南西部のアジル(Asir)及びジーザーン(Jizan/Jazan)の軍事拠点に向け、イエメンのフーシ派武装勢力がミサイル8発及び無人機14機を発射したものの、サウジアラビアが主導する有志連合軍が同日それら兵器を迎撃した旨発表、サウジアラビアの石油生産面での影響はなかったとされる旨3月8日に報じられたこともあり、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、バイデン大統領の提案した追加経済対策法案が米国連邦議会上院で可決されたことにより米国経済成長の加速に対する期待が市場で増大したこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.05ドルと前週末終値比で1.04ドル下落した。また、3月9日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で継続したことに加え、3月10日にEIAから発表される予定である米国石油統計(3月5日の週分)で、原油在庫が前週比で増加しているとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり1.04ドル下落し、終値は64.01ドルとなった。この結果原油価格は3月8~9日の2日間で1バレル当たり合計2.08ドル下落した。しかしながら、3月10日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、ガソリン在庫が前週比で1,187万バレル、留出油在庫が同550万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(ガソリン在庫同290~350万バレル程度、留出油在庫同310~350万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.43ドル上昇し、終値は64.44ドルとなった。また、3月11日も、3月10日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が市場の事前予想を相当程度上回って減少している旨判明した流れを引き継いで同国のガソリン先物価格が上昇したことに加え、3月11日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(3月6日の週分)が71.2万件と前週の75.4万件から減少した他市場の事前予想(72.5万件)を下回ったうえ、3月11日に米国のバイデン大統領が追加経済対策法案に署名したことで当該法案が法律として成立したことにより、この先の米国経済成長の加速に対する市場の期待が増大したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.02ドルと前日終値比で1.58ドル上昇した。この結果原油価格は3月10~11日の2日間で1バレル当たり合計2.01ドルの上昇となった。ただ、3月12日には、この日発表された3月の米国ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)(1964年=100)が83.0と2月(確定値)の76.8から上昇した他市場の事前予想(78.5)を上回るとともに2020年3月以来の高水準(この時は89.1)に到達したうえ、この日米国労働省から発表された2月の同国卸売物価指数(PPI)が前年同月比で2.8%の上昇と2018年10月(同3.1%の上昇)以来の大幅な伸びとなった他市場の事前予想(同2.7%の上昇)を上回ったこともありインフレ懸念が市場で増大したことにより米国債利回りとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.61ドルと前日終値比で0.41ドル下落した。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面での主な注目点は、イランを含む中東情勢であろう。2月14日にサウジアラビアが主導する有志連合軍が、イエメンのフーシ派武装勢力から発射された、爆発物を搭載した無人攻撃機を撃退した旨発表した一方、同日フーシ派武装勢力が、無人攻撃機がサウジアラビア南部の都市アブハ(Abha)の国際空港に着弾した旨主張した。2月27日には、サウジアラビアの首都リヤド及び同国南部の都市ジーザーンにミサイルが飛来したが、同国の治安部隊が迎撃した旨2月28日に国営サウジ通信が報じた(フーシ派武装勢力が犯行声明を発表している)。2月28日に米国のブリンケン国務長官はこの攻撃を非難する声明を発表した他、3月2日にはフーシ派武装勢力の幹部2名に対し米国内の資産凍結及び米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨発表した。ただ、2月26日にオマーンの首都マスカットにおいて米国国務省のレンダーキング(Lenderking)イエメン担当特使がフーシ派武装勢力との間で初めて直接協議を実施したと3月3日に報じられる。また、3月4日には、サウジアラビア南部のハミス・ムシャイトにフーシ派武装勢力が発射した無人機が飛来し、サウジアラビアが主導する有志連合軍が迎撃した他、サウジアラビア西部のジェッダにあるサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの石油関連施設に向けミサイル等を発射し施設に着弾した旨同日フーシ派武装勢力が主張した。3月7日朝及び夕方(現地時間)には、フーシ派武装勢力がサウジアラビア東部にある石油積み出し港ラス・タヌラの石油貯蔵タンク及びダンマン等に向け、ミサイル8発及び無人機14機を発射、サウジアラビアが主導する有志連合軍は同日ミサイル及び無人機を迎撃した旨発表した。
他方、2月15日夜(現地時間)には、イラク北部のクルド人自治区の都市アルビル(エルビル)(Arbil/Erbil)にある国際空港近隣にある、米国が主導する連合軍の駐留基地に少なくとも3発のロケット弾が着弾し、民間人1人及び米国軍兵士1人を含む9人が負傷した。2月16日には米国のブリンケン国務長官が、イラクのカディミ首相と電話で会談を実施、その後米国、フランス、ドイツ、イタリア及び英国の外相が共同で当該攻撃を強く非難する旨の声明を発表した。2月25日には米国のバイデン大統領の指示によりシリア東部に存在する親イラン武装勢力関連施設を米軍が空爆した旨同日米国国防省が発表した(2月15日のイラク北部アルビルの米軍拠点攻撃に対する報復措置であるとされる)が、2月26日にロシア、イラン及びシリアがこのような米国の行為を非難している。2月28日には、イスラエルが、シリアの首都ダマスカスを攻撃、シリア側が迎撃した旨国営シリア通信が報じた。3月2日には、イラク中西部アンバル(Anbar)州のアルアサド(Al Asad)空軍基地付近に10発程度のロケット弾が着弾したと3月3日に伝えられる。これに対し3月3日に米国国防省のカービー報道官は必要であれば報復的軍事措置を実施する方針である旨示唆した。
また、2月26日未明(現地時間)にはオマーン湾でイスラエル企業が保有する貨物船が爆発した事件が発生したが、これにつきイスラエルのガンツ国防相はイランが関与した可能性がある旨2月27日に示唆した他、3月1日には同国のネタニヤフ首相が同趣の非難を行っているが、3月1日にイランの外務省報道官は当該事件に同国は関与していない旨表明している。また、3月10日には地中海のシリア沖合を航行していたイランのコンテナ船が攻撃され船体が損傷した旨3月12日にイラン海運会社が発表した(イスラエルが関与していることが示唆される旨3月11日に報じられる)。
他方、2月23日以降イランは国際原子力機関(IAEA)による同国核関連施設での抜き打ち査察の実施(2015年のイラン核合意に基づき実施)を拒否すると2月15日に連絡してきたと2月16日にIAEAが加盟国に報告した。また、2月17日にはイランがIAEAに対し、同国中部ナタンズの核関連施設での新型遠心分離機稼働数(1月30日に174機の稼働を開始)を引き上げる(174機×2系統)方針である旨連絡したと加盟国に報告した。さらに、同日イランの最高指導者ハメネイ師は、イラン核合意参加国に対し、望んでいるのは言葉ではなく行動であり、それに基づきイランも行動する旨表明した。2月18日には、ブリンケン国務長官(米国)、ラーブ外相(英国)、ルドリアン外相(フランス)、マース外相(ドイツ)がイラン核合意の取り扱いにつき協議したが、その場でブリンケン国務長官は、イランが核合意を遵守すれば、米国も行動するとともに、イランとの間で協議する用意がある旨表明、英国、フランス及びドイツは米国の姿勢を歓迎した。また、2月18日には、米国政府が国連安全保障理事会による対イラン制裁を全面復活させるとのトランプ前政権の方針を取り下げる旨国連安全保障理事会に連絡した。さらに、同日米国国務省幹部は、欧州連合(EU)が、イラン核合意に関する協議を開催するのであれば、米国は出席する意向である旨明らかにした。2月21日にイランとIAEAは、最長3ヶ月間暫定的に必要とされる水準でのIAEAの査察及び監視(米国の対イラン制裁が解除された時点で核関連施設等に対する監視カメラの映像をIAEAに提供するが、3ヶ月以内に米国が対イラン制裁を解除しなければ当該映像を廃棄するとされる)を容認することで合意した(但しイランは核合意の際に締結されたIAEAによるイラン査察実施のための追加議定書の履行は通知した通り2月23日に停止した)。ただ、2月22日には、ハメネイ師が必要性によっては現在20%の濃縮度で製造している濃縮ウランの濃度(2月16日時点でイランは濃縮度が20%に到達したウランを17.6キログラム保有している旨確認したと2月23日にIAEAが報告)を60%にまで引き上げることも可能である旨表明した。また、2月28日には、イラン外務省報道官が、イラン核合意に関する米国との交渉については、米国の対イラン制裁が先決であり現時点では時期が適切ではないとして、受け入れない旨明らかにした。さらに、3月1日に開催される予定であるIAEAの定例理事会において西側諸国等がIAEAによる査察を2月23日より制限しているイランを非難する決議等を行うようであればイランとしてもそれに対し行動する旨イランのサレヒ原子力庁長官が表明した。当該理事会においては、当初英国、フランス及びドイツがイランを非難する旨決議する意向を示していたが、実際には当該決議を見送った旨3月4日に明らかになり、これに対しイラン外務報道官は歓迎の意を表明した。また、同日には、イランが核合意に関し米国を含めた西側諸国等との間での非公式協議に関し前向きな姿勢を示している他、イランが金属ウラン(核弾頭の部品として利用が可能であるとされる)の生産(2月6日に製造を行ったこと2月8日に確認した旨2月10日にIAEAが明らかにしていた)を中断したと伝えられるなどの変化を見せつつある旨報じられる。3月9日には米国のブリンケン国務長官が、イランでの抗議行動の関係者に対する人権侵害を理由として、イラン革命防衛隊の取調官2人に対し制裁を発動する旨発表したが、3月10日にはイランのロウハニ大統領が、米国が対イラン制裁を一部解除するのであれば、イランも核合意遵守逸脱の一部を改める旨明らかにした他、3月21日のイランの新年度開始までに同国は核合意逸脱状態改善と米国の対イラン制裁の解除要求に関する案を提示すべく、同国外務省が素案を作成し同国指導部が検討中であると3月10日に伝えられる。また、米国のバイデン政権も、イランの核合意逸脱改善の度合いに応じて、米国の対イラン制裁を一部緩和するといった選択肢も採用しうる旨イランに伝達していると3月12日に伝えられる。
このように、米国が核合意に関しイランと協議する意向を示している他、英国、フランス及びドイツもイランに対する非難を見送るなどしたこともあり、イランも一旦は米国との協議を拒否したものの、後に西側諸国等との協議等に関し姿勢を軟化させる兆候が現れ始めるなど、両国の対立の状況にも変化が見られつつある。ただ、米国の駐イラク軍事関連施設が攻撃される一方で、米国はシリアの親イラン武装勢力関連施設に対し空爆を実施するなどしている他、米国はイエメンのフーシ派武装勢力と接触し始めているものの、イエメンからサウジアラビアの石油関連施設等に対し複数のロケット弾等が発射されるなど、米国(及びその友好国と見られる諸国)及びイラン(及びその友好国、もしくはイランが支援しているとされる勢力)との間での情勢は複雑化している部分も見受けられることから、両国間での核合意を巡る交渉は今後もなお紆余曲折を経るものと思われ、その際に、ペルシャ湾内でのタンカー等への攻撃等が行われたり、イエメンのフーシ派武装勢力からサウジアラビア方面にミサイル等が発射されたりするようであれば、原油価格が上昇する場面が見られることも想定される。最近では新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大と米国の追加経済対策実施、及びOPECプラス産油国による減産措置の堅持の方針の表明等により、この先の石油需給引き締まり感と原油価格の先高感が市場で強まっていることもあり、地政学的リスク要因面で石油供給途絶懸念を市場で高めるような事象が発生するようであれば、原油価格の上昇が増幅されることもありうる。
他方、少なくとも当面は米国がさらなる対イラン制裁を踏みとどまることを見越して、一部諸国はイランからの原油輸入を拡大させる可能性もあり(実際、3月の中国のイランからの原油輸入は他国経由のものも含め日量86万バレルと2月に比べ2.3倍になる見通しである旨3月10日に伝えられる)、その結果、イランの原油生産も増加することになる(既にイランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した(米国のトランプ前大統領によるイラン核合意離脱と対イラン制裁実施表明時の2018年5月の日量385万バレル以来イランの原油生産量は減少し、2020年10月には同189万バレルとなっていた)旨示唆したと12月6日に伝えられる他、12月12日にはイランのザンギャネ石油相が2021年3月21日に開始されるイランでの次年度中に日量450万バレルの原油及びコンデンセート生産量を目指す旨明らかにしており、コンデンセートをNGLと見做せば、足元の同国でのNGL生産量は日量105万バレルであり、11月時点での原油とコンデンセート(NGL)を併せた生産量は日量301万バレルとなることから、日量450万バレルへの生産の引き上げは実質的に日量150万バレル程度の増産と解釈される)。2月のイランの原油生産量は日量212万バレルと11月(同200万バレル)に比べ同12万バレルの増加にとどまっているため、現時点では世界石油供給に与える影響も限定的となっているが、今後イランの原油生産量が増加基調となることにより、世界石油需給引き締まり感が市場で後退するとともに、一時的にせよ原油価格に下方圧力を加えるといった展開となることも排除しきれない。
経済面では、新型コロナウイルス感染、新型コロナウイルスワクチンと治療薬の開発及び普及を巡る状況が原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。英国では1,500万人(同国の人口約6,700万人の約4分の1)に対し新型コロナウイルスワクチンの1回目の接種が実施された旨2月14日にジョンソン首相が発表した一方、2月18日には米国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長がワクチン接種による社会活動の正常化は2021年末までに実現する可能性がある旨の見解を披露、これまでの同氏の見方である同年秋頃から遅延する旨示唆したものの、3月11日夜(米国東部時間)には米国のバイデン大統領が5月末までには成人全員分のワクチンを確保できる予定であり、7月4日(独立記念日)までには米国内をできるだけ正常に戻す意向である旨表明するなど、ワクチン接種の進捗の現状や今後の見通しは必ずしも固まっているわけではないことが示唆される。また、新型コロナウイルスの変異種とワクチンの有効性に関しても不透明感が漂う。今後、新型コロナウイルスワクチンの接種普及が遅延したり、新型コロナウイルスの変異種に対しワクチンが十分に有効なわけではない旨判明したりすれば、新型コロナウイルス感染収束までにより長期間を要する結果、世界経済成長の加速とともに石油需要の回復、そして石油需給の引き締まりに対する市場での期待の増大を背景として原油相場へ上方圧力が加わり続けるとのシナリオが描きにくくなることから、この面では市場関係者間で失望が広がるとともに、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性もある。ただ、それが決定的に明確になるようでなければ、新型コロナウイルスワクチンの開発及び接種の普及進展に伴い当該ウイルス感染が収束に向かうことにより世界経済成長が加速することとともに石油需要の伸びが回復、世界石油需給が引き締まることを通じ将来的には原油相場が上振れしていくとの期待が市場で増大し続けることにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性があるものと考えられる。
他方、1月14日夜(米国東部時間)には米国のバイデン次期大統領(当時)が総額1.9兆ドル規模の追加経済対策に関する提案(12月28日に成立した経済対策法に定められている個人1人当たり最大600ドルの直接給付を同2,000ドルにまで引き上げることや2021年9月まで失業保険を400ドル追加すること等を主な内容とする)を行った。この後2月1日に米国民主党のシューマー連邦議会上院院内総務とペロシ同下院議長が追加経済対策措置実施のための予算決議案を議会に提出、2月3日夜(米国東部時間)には下院で、2月5日には上院で、それぞれ決議案が可決された。2月19日には、米国下院予算委員会が追加経済対策法(「米国救済計画法」)案を策定し、2月27日未明に当該対策法案を下院本会議で可決、3月6日には上院において、下院で可決された法案を修正したものを可決した。そして、3月10日には上院で修正された法案につき下院で再度可決したうえで、3月11日にはバイデン大統領が議会両院で可決した法案に署名し当該法は成立した。さらに、バイデン政権はインフラ構築のための大規模支出のための法案を3月に公表すべく準備中である旨2月21日に報じられる。このように、米国での追加経済対策が実施される運びとなったこと、そしてさらなる景気刺激策が実施される方向であることにより、同国の景気が刺激されるとともに経済成長が加速、それが石油需要を拡大させるといった見方が市場で強まりつつある。そして、米国の大統領及び連邦議会上下院が事実上民主党により掌握されたことで今後も政権や議会運営がより安定的に行われることにより同国での新型コロナウイルス関連追加経済対策等の政策が円滑に実施されるとの期待が市場で増大しやすい状況となっており、そのような市場での期待感を背景として、株式相場が上昇するとともに石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で広がる結果、原油価格が浮揚しやすいものと考えられる。
また、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、2020年3月15日にFRBは政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、8月31日には、FRBのクラリダ副議長も、失業率が低下しても、物価上昇率が目標ないしは安定した金融市場にとって脅威となる水準を継続的に超過する、もしくは超過する可能性があると想定されなければ、金利を引き上げることにはならないであろう旨発言している。さらに、2021年2月24日にもパウエル議長はインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を示した。このようなことから、米国金融当局は長期に渡り金融緩和策を実施する意向であると市場では受け取られており、今後も米ドルが下落する、もしくは金融緩和措置等を通じ将来的に経済が回復することへの期待が市場で増大することにより株式相場が上昇することを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることも想定される。そして、この場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家の判断から金融緩和政策により低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない(もしくは経済が減速していることを示唆する経済指標類が発表されても、米国のバイデン政権による追加経済対策の実施に対する期待が市場で強まる結果、株式相場が上昇するとともに米ドルが下落することにより原油価格がかえって上昇する)現象が見られやすくなる一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には資金流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。しかしながら、他方で米国長期国債利回りが上昇し始めており(これについては、米国経済が回復することにより当初見込んでいたよりも早期に同国金融当局が金融緩和措置を縮小するとの観測が市場で増大していることや、金融緩和措置の継続に伴い将来的にインフレが加速するとの見方が市場で広がっていることによるものであると指摘する向きもある)、この場合米ドルが上昇するとともに、リスク資産である株式や商品市場から資金が逃避し、より安全な米国債券市場等に向かうといったことにより、原油相場に下方圧力を加えるといった展開となることも想定されるが、これについては、3月16~17日に米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定であるので、そこでの議論内容や、FOMC開催後の記者会見におけるパウエルFRB議長の米国経済情勢、金融政策及び米国債券利回り動向に関する発言に市場の注目が集まることになり、発言内容によっては、米国債券利回り及び米ドルが変動するとともに、その影響が原油相場に及ぶ可能性もある。
米国では、3月に入り、最終消費段階では、夏場のドライブシーズン(2021年は5月29日から9月6日まで)に伴うガソリン需要期到来にはまだ早いとの認識が強いが、製油所の段階では、夏場のガソリン需要期が視野に入り始めており、ガソリン先物価格が上昇し始める一方、製油所の春場のメンテナンス作業実施も峠を越えつつあるとともに稼働を上昇、原油精製処理活動を増進するとともに原油購入を活発化するようになるものと考えられる。このため、季節的な石油需給の引き締まり観測が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。他方、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお若干は継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測と需給引き締まり感が市場で意識される結果、暖房油とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、これはそれほど頻度が多い現象ではないが、米国での寒波が大きく南下することにより、テキサス州等の産油州でのシェールオイルを含む油田関連施設が凍結する(地下から生産される原油、NGL、天然ガス及び水の混合流体のうち、特に水が凍結しやすいとされる)ことや、電力供給に支障が発生することにより、油・ガス田関連施設の操業が停止したり、停電や燃料となる天然ガス供給の減少により製油所の稼働に支障が生じたりするといった事態が発生する。例えば、2月15~16日頃に米国南部に寒波が来襲した際には、気温の低下に伴いテキサス州等での暖房のための空調機器稼働向け電力需要が増加した一方、連邦政府からの規制を敬遠すべくテキサス州の送電網は他の州から隔離されていたことにより、テキサス州は他州からの電力融通が困難な状態であったこともあり、寒波来襲で同州の電力需給が逼迫するとともに一時470万世帯が停電するとともに、2月15~16日頃の寒波来襲の際には米国の原油生産量最大日量400万バレル程度の生産が停止した他、最大日量400万バレル程度の精製能力に相当する製油所の稼働に影響した旨伝えられた。テキサス州等に来襲した寒波が過ぎ去ったことにより気温は上昇、電力供給も回復したが、米国メキシコ湾岸地域の石油産業の回復には濃淡が発生し(油・ガス田関連施設の操業は再開、3月3日現在生産を停止している油田の原油生産量は日量10万バレル未満と推定されるが、製油所の操業回復はもたつき気味であり、3月5日の週現在なお同国の原油精製処理量は寒波来襲前の週を日量440万バレル程度下回っている)、その結果、原油や石油製品在庫に相当程度の増減が見られた。このように、米国での気温低下は、時として同国の原油及び石油製品の需要、供給及び需給バランスに大きな影響を及ぼすことがあるので、注意する必要があろう。
OPECプラス産油国は3月4日に閣僚級会合を開催し、2021年3月に実施している規模の減産措置を、ロシア及びカザフスタンを除き、4月についても継続することで合意した。原油市場では、今回のOPECプラス産油国閣僚会合での決定により、原油価格上昇にもかかわらずOPECプラス産油国の減産措置緩和に対する姿勢が慎重である、つまり、OPECプラス産油国は石油需給均衡に向け毅然として行動すると言う断固たる姿勢を示している、との認識が市場で広がりやすくなっている一方で、新型コロナウイルスワクチンの接種普及が進捗しつつあることにより個人の外出規制及び経済活動制限が緩和される方向に向かいつつことに加え、米国で追加経済対策が実施される方向となったことから、景気が刺激されるとともに、経済成長が加速、石油需要が増加するとの観測が市場で増大してきていることもあり、この先の石油需給引き締まりと原油価格上昇期待が市場で強まるとともに原油相場に上方圧力が加わりやすい状況となっているものと考えられる。ただ、今後もOPEC事務局による月刊オイル・マーケット・レポート、タンカー追跡データ及び原油販売顧客による情報等を通じOPECプラス産油国による減産遵守状況がこの先明らかになる等するにつれ、市場がOPECプラス産油国の結束を疑問視したり、この先のOPECプラス産油国間での原油生産方針決定の際に関係国間での意見の相違が顕在化したりすることにより、OPECプラス産油国の減産措置方針の決定過程が複雑化したりすることで、それが原油相場に影響を及ぼす場面が見られることも否定できない。また、今後イラン等のOPECプラス産油国減産措置参加産油国以外の産油国がどの程度原油生産を増加させるかといったことも、OPECプラス産油国減産措置の市場に対する影響力を左右するとともに、場合によっては当該減産措置の再調整が必要となる場面が見られることも想定される。
また、4月1日には次回OPECプラス産油国閣僚級会合が開催される予定である。当該会合に向け原油価格が上昇基調となったとしても、会合直前に原油価格が急速に下落する兆候を見せるようであれば、次回会合においても、サウジアラビアの自主的な追加減産措置を含め減産措置の緩和が一部減産措置参加産油国を除き見送られるといった展開となることもありうる他、最近の原油価格上昇基調が、実際の足元の石油需給の引き締まりではなく、石油需給引き締まり及び原油価格の上昇に対する期待の先行に伴う金融要因で生み出されているとの認識もOPECプラス産油国間では根強いと見られる他、例年第二四半期は北半球の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了する一方夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期にはまだ早いことから、世界石油市場での需給緩和感が発生しやすく、それに伴い投資家の心理の変化の状況によっては、原油価格が急落するリスクが依然存在する見られることから、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は減産措置緩和に関して慎重な姿勢を堅持するととともに、措置を緩和するとしても、その規模を限定的なものとする可能性があるものと考えられる。
ただ、今般サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産継続を表明したことにより、世界石油需給の引き締まり感が強まる結果原油価格が相当程度上昇することにより、シェールオイルを開発及び生産する石油会社等が原油先物市場において、上昇した原油価格水準で将来に向けた販売の予約を行う(この結果その後原油価格が下落してもシェールオイルの生産は減退しにくくなる)ことが予想されることもあり、中長期的には米国のシェールオイル開発・生産が活発化すること(この点については、米国石油会社の収益重視による慎重な事業への投資姿勢もあり、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相はシェールオイルの活発な開発・生産活動時期は過ぎ去ったと認識している旨3月4日の閣僚級会合後に発言しているが、このようなサウジアラビアの認識を疑問視する向きも市場にはある)により、将来的にはかえってOPECプラス産油国による原油生産調整措置が機能しにくくなるとともに原油価格が乱高下しやすくなるといったリスクも内包している。
全体としては、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来への意識が強まることにより、季節的な石油需給の引き締まり観測が市場で高まること、近い将来新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで新型コロナウイルス感染が抑制されることに加え、感染が再拡大することに伴い経済成長の減速感が強まっても米国で大統領及び連邦議会上下院の主導権を事実上掌握している民主党が中心となり景気刺激策が実施されることにより、経済成長が持ち直すとともに石油需要が回復するとの期待が市場で発生しやすい一方、原油価格の下落を回避することを希望する、サウジアラビアを中心とするOPECプラス産油国が減産措置の緩和に対し慎重な姿勢を示すとの認識が市場で広がりやすくなっているところからすると、金融緩和状態に伴う低コストでの投資資金の流入と相俟って、原油価格は上振れしやすいものと考えられる。この他、イラン等を巡る地政学的リスク要因、及びこの先のOPECプラス産油国の減産措置を巡る動向等が原油相場に影響しうるものと見られる。
以上
(この報告は2021年3月15日時点のものです)