ページ番号1008998 更新日 令和6年10月21日

苦境から1年、復活への歩みを進めるTullow Oil

レポート属性
レポートID 1008998
作成日 2021-03-29 00:00:00 +0900
更新日 2024-10-21 15:50:25 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業
著者
著者直接入力 橋本 知世
年度 2020
Vol
No
ページ数 9
抽出データ
地域1 アフリカ
国1 ガーナ
地域2 アフリカ
国2 赤道ギニア
地域3 アフリカ
国3 ガボン
地域4 アフリカ
国4 ウガンダ
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アフリカ,ガーナアフリカ,赤道ギニアアフリカ,ガボンアフリカ,ウガンダ
2021/03/29 橋本 知世
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概要

  • Tullow OilはガーナのJubilee油田、TEN油田をコア資産に据え、アフリカに焦点を当てた英国ベースの中小独立系企業である。
  • 2019年末、ガーナ・Jubilee油田での生産不調を受けて、Tullow Oilの株価が20年来の最低水準に落ち込んだ。同社はポートフォリオ全体及び財務の見直しを行い、資産売却を検討し、ガーナの生産アセットに集中することとなった。
  • 2020年4月にTullow Oilのウガンダ資産をTotalに売却することで合意し、同年11月には取引が成立した。
  • 2021年2月にTullow Oilの赤道ギニア、ガボン資産をノルウェーのPanoro Energyに売却することで合意し、2021年6月までに取引を成立させる予定である。
  • 昨今の油価上昇基調やポートフォリオの見直しを通じてTullow Oilのさらなる復活が期待される。

(Tullow Oilホームページ、Kosmos Energyホームページ、Panoro Energyホームページ他)


1. Tullow Oil概要

Tullow Oilは独立系の石油天然ガス探鉱開発企業である。同社は1985年にアイルランド、ダブリンから南へ35マイルほどにあるTullowという小さな町で設立され、現在ではロンドンに本拠地を構えている。

現在、同社はアフリカと南米[1]の14か国で70のライセンスを保有している。同社のビジネスモデルは、発見した石油の開発・生産からキャッシュフローを創出し、新たな石油発見のための探鉱投資に焦点を当てるというものであったが、現在は負債の削減とポートフォリオ管理による資産の適正規模化に注力している。Tullow Oilは1986年からアフリカで事業を展開しており[2]、アフリカ大陸での探鉱開発事業は、Tullow Oilをここまで成長させるために極めて重要な役割を果たしてきた。


[1] 南米ではアルゼンチン、ガイアナ、ペルー、スリナムでライセンスを保有。

[2] 創業者のAidan Heavey氏は、友人と話しているときに、メジャーに取り残されたアフリカの小さな油田の話を聞いた。それからAidan氏は世界銀行の友人に連絡を取り、セネガルのプロジェクトについて知った。そして1986年にセネガルでライセンス契約を締結すると、1987年には同国でガスの生産と販売を開始した。

図1:Tullow Oilのアフリカでの活動場所
図1:Tullow Oilのアフリカでの活動場所(出所:Tullow Oilホームページ)

表1:Tullow Oilの歴史年表(出所:Tullow OilホームページからJOGMEC作成)
主要出来事 従業員数 収益
1985年
  • アイルランドにて設立
  • セネガルでライセンス取得
42人 1.7百万£
1987年
  • セネガルでガス生産開始
1989年
  • 英国陸上、スペイン、イタリア、南イエメンで鉱区取得
  • 英国及びアイルランドの株式市場に上場
1990年代
  • パキスタンを皮切りにバングラデシュ、インド、コートジボワール、エジプト、ルーマニアに鉱区取得
89人 5.2百万£
2000年代
  • BPから取得した英領北海鉱区で石油ガス生産開始
128人 126.6百万£
2004年
  • Energy Africaの買収により事業規模を2倍に拡大、ウガンダ、ガボン、赤道ギニア、ナミビア、コンゴ(ブラザビル)等の生産・探鉱資産を獲得。
147人 225.2百万£
2005年
  • 英領北海、ガボン、モーリタニアでガス発見
174人 445.2百万£
2006年 探鉱成功のはじまり
  • ウガンダで5つの油田を発見、Lake Albert盆地の有望性を明らかに
  • 英国で3つのガス発見
  • Hardmanを買収し、ウガンダでオペレーションポジションの確立をはかるとともに、モーリタニア、仏領ギアナ、スリナムの資産を獲得
250人 1,067百万$
2007年
  • ガーナ沖で開発に直結する同社最大のJubilee油田を発見
  • FTSE100[3]に昇格
370人 1,280百万$
2010年
  • ガーナJubilee油田からの生産開始(発見からわずか40か月後)
  • ガーナTEN油田発見
935人 1,090百万$
2013年
  • ケニア陸上探鉱で成功
  • ウガンダ事業で開発開始
2,034人 26.5億$
2016年
  • ガーナ沖TEN油田生産開始
1,152人 12.7億$
2017年
  • 創業者Aidan Heavey氏が会長に就任、新CEOにPaul McDade氏就任
1,030人 17.23億$
2018年
  • 創業者Aidan Heavey氏引退
990人 19億$

[3] ロンドン証券取引所(LSE)における株価指数で、イギリスの代表的な株価指数。

 


2. 主要アセットのガーナ沖Jubilee油田とTEN油田

Jubilee油田は2007年に掘削された探鉱井、Mahogany-1(M-1)およびHyedua-1(H-1)によって発見された。Jubilee油田は2つの鉱区にまたがる油田で、West Cape Three Points鉱区でM-1探鉱井によって商業量の油が発見されると、隣接するDeepWaterTano鉱区にもMahogany構造が伸びている可能性があるとして、H-1探鉱井により掘削、商業量の油が発見された。Tullow Oilと米国独立系Kosmos Energyがそれぞれオペレーターを務めるDeep Water Tano および West Cape Three Point 鉱区で発見された両構造はJubilee油田として一体開発されることになり、ガーナ政府は2009年7月に開発計画を承認した。Jubilee 油田は FPSO(原油生産量:12万b/d)ならびに海底に生産設備を設置する Sub-sea Production System(SPS)による開発を行い、2010年12月に生産開始された。2020年のJubilee油田からの生産量は平均8.2万b/dと見込まれている。

図2:Jubilee油田の位置
図2:Jubilee油田の位置(出所:Tullow Oilホームページ)

表2:Jubilee Unit Area参加企業及び権益比率(出所:Tullow Oil、Kosmos Energyホームページ[4]
Tullow Oil(オペレーター) 35.48%
Kosmos Energy 24.08%
Anadarko[5] 24.08%
GNPC 13.64%
PetroSA 2.73%

 

なお、Jubilee油田開発で使用されているのはFPSO Kwame Nkrumah MV21で、三井海洋開発株式会社(MODEC)がTullow Oilのガーナ現地法人より建造及びチャーター契約を受注したものである。ちなみに、MODEC社2017年6月1日付プレスリリース[6]によると、同社が建造したFPSOがガーナ共和国の新紙幣(5セディ)の図柄として採用された由である。


[4] https://www.kosmosenergy.com/ghana/

[5] OccidentalのAnadarko買収の一環として、TotalがAnadarkoのアフリカ資産買収交渉をする中で、ガーナも対象であったが、2020年5月、TotalはAnadarkoのガーナ資産の買収を行わない旨明らかにした。当該資産が非オペレーター権のものであることや、当時の原油相場の状況から判断されたもの。これによりOccidentalは当該資産を別の第三者に売却が可能になった。

[6] https://www.modec.com/jp/news/2017/20170601.html

 

写真左:FPSO Kwame Nkrumah MV21 写真右:ガーナ新紙幣のFPSO
写真左:FPSO Kwame Nkrumah MV21(出所:MODECホームページ)
写真右:ガーナ新紙幣のFPSO(出所:同上)

また、ガーナでは、2009年にTweneboaガス・コンデンセート構造が発見されると、翌2010年にEnyenra油田が発見され、2012年にはNtomme油田及びWamaガス・コンデンセート構造が発見された。これらを総称してTEN油田という。TEN油田について、Tullow Oilほかパートナー企業はFPSO(原油生産量:8万b/d)を用いて油田開発を行うこととし、初期段階ではEnyenra油田及びNtomme油田に焦点が当てられた。2013年にガーナ政府からTEN油田開発計画が承認され、2016年に生産を開始した。また、同油田開発で用いられるFPSO(名称:FPSO Prof. John Evans Atta Mills)はJubilee油田に続き、MODECがTullow Oilから連続受注したものであり、エンジニアリングから設計、機器購入、建造、据付までの一括工事を行った。

 

表3:TEN油田参加企業及び権益比率(出所:Kosmos Energyホームページ)
Tullow Oil(オペレーター) 47.18%
Kosmos Energy 17%
Anadarko 17%
GNPC 15%
PetroSA 3.82%

 


3. 2019年末、生産不調を受けてCEO辞任、株価暴落

2019年以降、Tullow Oilは生産目標の未達成に苦しみ、同年12月、Tullow Oilにとって主要アセットのJubilee油田で、技術的問題(ガス圧縮の制約や水注入による生産問題等)及び操業上の問題の影響により期待を著しく下回る生産パフォーマンスに至った。さらに、TEN油田では事前の予想をはるかに上回るウォーターカット[7]が明らかになりEnyenra油田の埋蔵量を30%ダウンさせた。これを受け、同社のCEO Paul McDade氏(当時)と Chief Exploration Officerの Angus McCoss氏(当時)は辞任し、同社の株価は暴落(前月217ポンドから39ポンドまで下落)、20年来の低水準にまで落ち込んだ。

その後、non-executive Chair のDorothy Thompson氏が暫定CEOに指名された。同社はポートフォリオ全体及び財務の見直しを行い、ウガンダ等の資産売却を検討し、ガーナの生産業務に集中する方向に舵を切った。2020年4月には、アフリカに焦点を当てる独立系Delonex EnergyのCEO Rahul Dhir氏がTullow Oilの新CEOにノミネートされ、7月1日に着任した。Dhir氏はCairn Indiaに2006年のIPOから2012年までmanaging directorとして在籍し、2013年にはDelonex Energyを創業した。Delonex Energyはチャド、ケニア、エチオピアで活動しており、ケニアの12A鉱区ではTullow Oilのパートナーである。


[7] 坑井から生産される液体に含まれる水分の比率をパーセントで表したもの。(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1000297/1000305.html)


4. アフリカ資産を相次いで売却

(1) ウガンダ資産売却

2020年4月、Tullow OilはウガンダのLake Albertプロジェクトにおける同社の保有権益の全てを5億7,500万ドルでTotalに売却することで両社は合意、同年10月にウガンダ政府及び財務当局も当該売却を承認し、同年11月に売却を完了した。すでに11月時点でTullow OilはTotalから5億ドルを受け取っており、Lake AlbertプロジェクトがFIDした際には追加で7,500万ドルを受け取る予定である。

Tullow Oilはウガンダ資産売却によって純負債額を24億ドルに修正した。これまで探鉱に焦点を当てた活動をしてきたが、債務軽減のため探鉱活動は先送りされる予定である。その他に、今後数年間はガーナの既存油田に投資の90%を集中し、今後10年間で70億ドルのキャッシュフローを生み出す予定である。


(2) 赤道ギニア・ガボン資産売却へ

2021年2月、Tullow Oilは赤道ギニアとガボンの上流資産を最大1億8,000万ドルでPanoro Energy[8]に売却することで両社が合意したと発表した。ディールは6月までに完了させる予定である。純負債の削減に努めるTullow Oilにとって、この資産売却はその原資を手に入れる良い機会と考えられている。

Tullow Oilによると、赤道ギニア資産の対価として最大1億500万ドル、ガボン資産の対価としては最大7,000万ドルで売却され、両取引が完了した際にさらに500万ドルがTullowに支払われる予定である。

 

表4:取引内容(出所:Tullow Oilホームページ、各種資料よりJOGMEC作成)
  金額 資産のパフォーマンスと原油
価格に応じた偶発的支払
Tullowへの追加支払い
赤道ギニア 8,900万ドル 最大1,600万ドル トランザクション完了後に
追加で500万ドル
ガボン 4,600万ドル 最大2,400万ドル

[8] 2009年設立。オスロ上場、本社は英国。アフリカでの生産・探鉱・開発アセットを保有する独立系企業。


Tullow Oilが売却する資産は、赤道ギニアのBlock Gの14.25%の権益とガボン沖の Dussafu Marin Permitの10%の権益の予定である。いずれもTullow はオペレーターを務めておらず、マイナーシェアを持っているのみである。

赤道ギニアのBlock G(CEIBA、OKUME両油田)ではCeiba油田が2000年に生産開始し、Okume油田が2006年に生産を開始した。2020年の両油田からの生産量は3万8,000b/d程度と見られる。オペレーターのTrident Energyは4D地震調査の結果に基づいて、新たな開発機会を創出するために2021年3月以降に開発掘削活動を再開する予定である。

 

表5:赤道ギニアBlock G(CEIBA and OKUME)参画企業および権益比率(出所:KOSMOS ENERGY ホームページ)
Trident Energy(オペレーター) 40.375%
Kosmos Energy 40.375%
Tullow Oil 14.25%
GEPETROL 5%

 


図3:赤道ギニア鉱区図
図3:赤道ギニア鉱区図(出所:KOSMOS ENERGYホームページ)

ガボンのDussafu Marin Permit(Ruche EEA)では、これまで6つの油田が発見されている。最初に発見されたTortue油田は2018年9月にFPSOによって生産を開始しており、現在の生産量は1万6,000b/dである。今後、他の油田の開発とさらなる探鉱が予定されている。

 

表6:ガボンDussafu Marin Permit(Ruche EEA)参画企業および権益比率 (出所:各種資料よりJOGMEC作成)
BW Energy(オペレーター) 73.5%
Panoro Energy 7.5%
Tullow Oil 10%
Gabon Oil Company 9%

 


図4:ガボン鉱区図
図4:ガボン鉱区図(出所:Tullow Oilホームページに筆者加筆)

Panoro Energyによると、今回の買収により、7つの油田(非オペレーター)から6,900b/dの純生産量と2Pで2,500万バレルの埋蔵量が同社に加わり、会社規模が約4倍になるといい、「“high-quality, low operating cost” の資産を買収する」と述べた。

Panoro Energyはアフリカ6か国(ガボン、赤道ギニア、チュニジア、ナイジェリア、南ア)でアセットを保有し、ポートフォリオ拡大に意欲的と報じられている。


5. 今後の展望

昨今の原油価格はワクチンの普及による石油需要回復への期待感などに下支えられ、上昇基調にある。この油価上昇トレンドやウガンダ、赤道ギニア、ガボン資産の売却による負債の削減でTullow Oilは復活への歩みを順調に進めている模様である。同社のアフリカでの果敢な探鉱・開発への取り組みは目を見張るものがあり、今後のさらなる復活が期待される。


以上

(この報告は2021年3月25日時点のものです)

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