ページ番号1009008 更新日 令和3年4月9日
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概要
- 中国は米国に次ぐ世界2位の石油消費国で世界の消費の1割強を占め、消費の7割を輸入している。2017年に米国を上回る世界1位の石油輸入国となった。2019年時点で世界の原油貿易の23%を中国が占めている。
- IEAは2021年3月に公表した「Oil 2021」において、2019年から2026年までの世界の石油需要増加の55%、日量240万バレル増加するとしており、当面中国が世界の石油需要増加のけん引役であることに変わりはない。
- 中国の石油需要は燃費規制、EV促進策、天然ガス自動車や高速鉄道の普及などの代替により消費の伸びは2010年代に比べ鈍化した。輸送燃料は2025年頃にピークアウトするという見方が多い。しかし内燃機関の自動車のストックや石化需要により、需要の急速な減少は考えにくい。また国内油田からの石油供給が頭打ちであることから、需給ギャップは今後も高止まりする見通しである。
- 中国向けの原油輸出首位はロシアとサウジアラビアだが今後イランからの原油輸入が増えるかもしれない。米国のイラン原油輸入にかかる制裁は解除されていないが、中国は2021年に入りイランからの原油輸入を増やしている。地方製油所が割安なイラン原油に飛びついているという。中国とイランが期間25年の「包括的協力計画」に合意、調印したことで同国からの原油輸入増加はさらに増えるかもしれない。
- IEA 「Oil2021」によると2020年末現在中国の石油貯蔵能力は17億バレルある。SPR(Strategic Petroleum Reserve:戦略備蓄)が4割、商業貯蔵設備が6割である。2017年から2020年にかけて商業貯蔵能力が2億バレル増加した。IEAは同時期の世界の貯蔵能力増強の90%を中国が占めたと指摘している。
- 地方製油所の台頭、製油所や貯蔵設備の増強により原油輸入が増加している。一方で過剰能力による余剰のガソリン、軽油の輸出が増加しており、シンガポールの市況に影響を与えるなど中国の石油における存在感はさらに高まっている。
(IEA「Oil2021」他に基づき作成)
1. 原油生産
中国の2020年の原油生産量は前年比1.6%増の日量390万バレルであった。原油は低油価に伴う投資縮小とコストの高い成熟油田の生産を抑制したことで、2015年から2018年にかけて生産が減少していた。しかし、米中貿易摩擦や産油国の供給不安定化を受けて同国のエネルギーセキュリティ意識が高まり、政府が国有石油企業に国内供給強化を働きかけ、企業が投資を増加させたことで2019年以降増加に転じている(2018年8月に習近平主席が国有石油企業3社に原油・天然ガス国内供給強化を“直接指示”したと報じられた)。新型コロナウイルス感染拡大に伴う石油生産操業への影響は限定的であった。ただし損益分岐点がバレルあたり60ドルを超える成熟油田を抱える同国の原油生産が今後大幅に上向くことは考えにくい。
中国は製造業促進と環境の両面で新エネルギー車(NEV)の利用促進を政策的に進めている。中国におけるNEVは純電気自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)、プラグインハイブリッド(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:PHEV)、燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)を指す。NEVの保有台数は2010年の2,000台から2020年には492万台(2020年の中国の自動車保有台数2億8,100万台の1.7%)に増加した。中国汽車工業協会によると、2020年のNEV販売台数は前年比10.9%増の137万台(このうちBEV11.6%増の111.5万台、PHEV8.4%増の25.1万台、FCV56.8%減の1,000台)で2年ぶりに前年を上回った。2020年11月に公表された「新エネルギー自動車産業発展計画(2021-2035年)」において2025年に新車販売の20%前後をNEVとする目標が設定されている。2020年の自動車(新車)販売台数は前年比1.9%減の2,531万台でNEVの比率は5%である。
燃費については2017年4月の「自動車産業中長期発展規画」において2020年に100km/平均5.0L、2025年に100km/平均4.0Lとする目標を設定していたが、「乗用車燃費国家強制標準」(GB19578-2021)が2021年7月から施行され、燃費の計測方法が「新欧州ドライビングサイクル(NEDC)モード」から「WLTC モード」(「世界統一試験サイクル」といわれる国際的な試験方法のことで、2014年3月に国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラムで採択)に変更され、燃費目標に関しても、修正が加えられる模様だ。
このように中国の石油需要はEV促進策、燃費規制、天然ガス自動車や高速鉄道の普及などの代替により伸びが2010年代に比べ鈍化しており、ガソリン、軽油を中心とする輸送燃料は2025年頃にピークアウトするという見方が多い。しかし自動車のストック(2020年の保有台数2億8,100万台、このうち新規登録2,424万台)や石化需要により、需要の急速な減少は考えにくい。また国内供給が頭打ちであることから、需給ギャップは当面高止まりする見通しである。
2. 石油需要・輸入
2019年時点で中国は世界7位の産油国、石油確認埋蔵量は世界13位(可採年数19年)である(いずれもBP統計)。しかし、米国に次ぐ世界2位(世界の消費の1割強を占め、消費の7割を輸入)の石油消費国である。2017年に米国を上回る世界1位の石油輸入国となった。2019年時点で世界の原油貿易の23%を中国が占めている。
IEAによると、2020年の中国の石油需要は前年比1.8%増の日量1,393万バレルである。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う産業活動の低迷により2月と3月の石油需要は大きく落ち込んだ。2020年第1四半期の中国の石油需要は前年同期比9%減少した。しかし第2四半期以降は航空燃料を除き前年同期比でプラスに転じた。IEAは2021年の中国の石油需要を同6.1%増(85万バレル増)の日量1,478万バレルと見ている。また、IEAは2021年3月に公表した「Oil 2021」において世界の石油需要が2019年から2026年までに日量440万バレル増加するなか、中国は世界の需要増加の55%、日量240万バレル増加するとしている。
中国の2020年の原油輸入量は前年比7.3%増の日量1,085万バレルであった。国内製油所の新増設や政府の地方の独立系製油所に対する原油輸入ライセンス付与が増加したこと、民間を含む貯蔵設備の増強により原油輸入の増加が続いている。ちなみに米国はシェールオイルの生産増加で2015年12月には40年ぶりに原油輸出を解禁した。2019年10月以降単月ベースで石油純輸出ポジションとなり、2020年に石油純輸出国化した。
中国の原油輸入を国別で見ると、サウジアラビアとロシアが毎年首位を争っている。2020年は前年に続きサウジアラビアからの原油輸入が日量170万バレルともっとも多く、原油輸入全体の16%を占めた。2位がロシアで同167万バレル(15%)であった。ロシアから中国への原油供給は “Loan for Oil”(2009年国家開発銀行によるロシア国営RosneftとTransneftへの融資によるESPO原油パイプライン大慶支線の開通や、RosneftとCNPCおよびSINOPECの原油長期売買契約)により2014年以降拡大している。さらに2016年以降は、主に山東省に位置する地方製油所が、ロシア原油の輸入を増加した。地方製油所にとり小回りの利くロシア原油(輸送距離が短く、スポット、少量での調達が可能)の輸入は使い勝手が良いようだ。サウジアラビアはこれまでSinopecなど国有石油会社へのターム契約による販売が主体であったが、ロシアからの輸入を増やす地方製油所に対し、スポット契約による販売やクレジット条件の緩和などによるマーケティングを強化した。2019年2月には浙江省民間企業グループ浙江石油化工有限公司(ZPC)の株式9%取得ならびに浙江省政府傘下の浙江省能源集団有限公司と合弁石油製品販売会社設立に関する覚書(MoU) を締結した。これらの努力が2年連続首位につながっていると思われる。
イランからの2020年の原油輸入は、通関統計上は日量8万バレルで米国のイラン原油輸入制裁発動前の3分の1以下に減少した。同様にベネズエラからの輸入も行われていないことになっている。2021年1月と2月の両国からの輸入は、通関統計上はゼロであった。ただし、イランから(中国等へ)の原油密輸(あるいはイランから第三国経由での中国への原油輸出)を含め、世界石油市場から「消えた(ように見える)石油(missing barrels)」と呼ばれるものが相当規模で存在している。イランやベネズエラからの原油は中東やマレーシアの港湾で、イランを原産地としない船に積み替えられ、生産地を偽り中国が輸入しているとの報道もある。米国のイラン原油輸入にかかる制裁は解除されていないが、2020年12月のイランからの原油輸入量は前月の日量9万バレルから39万バレルに急増している。Kplerはイランからの石油製品の輸入も増えており、3月に原油と石油製品を合わせ、日量90万バレルを輸入したと推計している。またイランの原油は地方製油所が主に輸入しており、地方製油所だけで2021年第1四半期に25万~30万バレルを輸入したとも報じられている。Brent価格の50〜60%程度割安に販売されており、また米制裁の影響で一部契約の支払い時期が延期されるなどの優遇がとられているという。地方製油所がビチューメンブレンドと称して輸入しているものにイランやベネズエラ原油が含まれているという報道もある。もっとも今年に入り油価上昇、旧正月の移動制限、3月から4月の定期修繕シーズン入りで中国の石油需要は減少し、在庫が積み上がっており、イラン原油の輸入が増える一方でアンゴラやコンゴ共和国からの中軽質低硫黄原油の輸入があおりを受けて減っている。
2021年3月27日に中国とイランが期間25年の「包括的協力計画」に合意、調印したことで中国のイランからの原油輸入は今後さらに増えるかもしれない。詳細は双方とも未公表だが、Wall Street Journalによると中国は、原子力、港湾、石油・ガス開発などさまざまな分野のイランのプロジェクトに、数億ドル規模の投資を行う予定であり、その見返りとして中国は、イラン産原油の安定供給を受けると報じられている。
BBC(中国語サイト)によると、2020年7月にイラン外相が仏AFP通信に中国と25年の協力協定について交渉中と述べエネルギー、交通インフラ、軍事など25年間を通じ総額4,000億ドルの包括的な投資協力、投資の内訳として、石油・ガス・石油化学に2,800億ドル、交通・インフラ分野に1,200億ドルとも報じられているが実態は不明である。またBBCが入手した18ページの草稿ではイランのエネルギー、電力、銀行、通信、港湾、鉄道、農業における投資の増加、将来のイランと中国の協力分野、ケシム(Qeshm)島への自由貿易区の設立、スマートシティや地下鉄の建設などが示されていた。また中国とイランの双方は軍事共同演習、武器の共同開発、テロ対策のための情報共有など、軍事・安全保障面での協力の強化についても合意したという。ただし、イランのザリフ外相はイランの地元紙が報じた中国がイランに5,000人の軍隊を駐留させることについてこれを否定している。
米国からの原油輸入は前年の5倍の日量62万バレルに増加し、原油輸入全体の4%を占めた。米国からの原油輸入は2020年3月の米原油価格の暴落に加え、中国政府の国有精製事業者に対し、追加的な原油購入を働きかけたことが理由で増加した模様である。2020年1月15日に中米両国は経済貿易協議第1段階合意文書に調印した。中国は米国からのエネルギー産品の調達・輸入について2017年をベースに2020年に185億ドル、2021年に339億ドルに拡大することで合意した。同年2月6日に国務院(政府)関税税則委員会は米国から輸入する約750億ドル(約8兆2500億円)分の製品の追加関税率について2月14日から引き下げると発表し、同措置に伴い原油とLPGへの追加関税は5%から2.5%に引き下げられた。またLNGの追加関税も企業の申請により5月以降免除された。米国からの輸入金額の目標がそもそも過大で達成は不可能と見られていたが、2020年の米国からのエネルギー輸入額は原油62.7億ドル、LNG11.1億ドル、LPG17.4億ドルの計91.2億ドルでいずれも輸入量は大幅に増加した。しかし、油価が低迷したことも加わり目標額には達しなかった。
3. 製油所、貯蔵設備増強とガソリン、軽油の輸出
2020年の精製処理量は前年比3.4%増の日量1,349万バレルであった。BP統計によると中国の精製処理能力は2019年時点で日量1,620万バレルに達しており、国有石油企業を中心にガソリンや軽油などの余剰石油製品の輸出が拡大している。しかし「Oil 2021」によると2019年から2024年にかけて中国の精製処理能力は日量150万バレル以上、さらに増加するとしている。
中国では石油製品の輸出は割当制である。2020年については、政府は国内在庫解消を目的に計3回の石油製品輸出枠を発給した。これまで輸出枠は中国石油天然気股份公司(PetroChina)や中国石化集団公司(SINOPEC)、中国海洋石油集団(CNOOC)、Sinochem、China Aviation Oilのみに割り当てられていたが、2020年11月に民間の浙江石油化工有限公司(ZPC)や国有軍需企業中国兵器工業集団(Norinco)傘下の北方華錦化学工業集団(North Huajin)に対して初めて輸出枠が割り当てられた。2020年通年の発給は前年比5%増の5,903万トンであった。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う周辺国の需要減少でガソリンの輸出は前年比2.3%減の1,600万トン、軽油は同7.6%減の1,976万トン、航空燃料の輸出は需要の大幅な低下で同43.3%減の998万トンであった。
IEA 「Oil2021」によると2020年時点で中国の原油貯蔵能力は計画中のSPRを含め17億バレルある。国家石油備蓄(SPR)が約6.3億バレル(うち2.3億バレルは計画中)、商業貯蔵設備が11億バレルである。IEAは2017年から2020年にかけてSPRの建設に加え、製油所貯蔵タンクの増設により中国の商業貯蔵能力が2億バレル以上増加し、同時期の世界の貯蔵能力増強の90%を中国が占めたと指摘している。
中国の石油備蓄は国家備蓄(SPR)と企業備蓄、製油所在庫により構成されている。SPRを所管するのは国家発展・改革委員会傘下の国家糧食・物資備蓄局で備蓄実施主体は中国国家石油備蓄センター(NORC)である。2010年までに1期4基地(貯蔵容量1億332万バレル)が完成し、2期8基地(増強を含む、貯蔵容量2億万バレル)が2019年までに完成した。3期(貯蔵容量約2.3億バレル)の計画はあるが、立地を含め進捗状況は不明である。
中国の原油・石油製品の貯蔵量は公表されておらず、体系的に把握することは難しいとされるが、Kplerは中国の原油在庫量(SPRを含む)は2019年から2020年にかけて1.2億バレル増加し9.2億バレルとなった。石油製品在庫の把握も原油と同様に難しいが、同時期に1.5億バレル増加し2.2億バレルになったとしている。なお、SPRについては2017年12月に国家統計局が一部民間タンクの借り上げを含む備蓄量を2億7,500万バレルと公表したが、その後更新されていない。
表 1:中国の国家石油備蓄基地
4. おわりに
中国は米国に次ぐ世界2位の石油消費国で2017年に米国を上回る世界1位の石油輸入国となった。2019年時点で世界の原油貿易の23%を中国が占めている。
中国の需要はもはや2010年代後半のような高い伸びではない。燃費規制の強化や新エネルギー車(NEV)の増加などにより輸送燃料需要が2025年頃にピークアウトするという見方が多いが、自動車のストックや石化需要により、需要の急速な減少は考えにくい。また国内供給が頭打ちであることから、需給ギャップは今後も高止まりする見通しである。IEAは2021年3月に公表した「Oil 2021」において世界の石油需要が2019年から2026年までに日量440万バレル増加するなか、中国は需要増加の55%、日量240万バレル増加するとしており、当面中国が世界の石油需要増加のけん引役であることに変わりはない。
米国のイラン原油輸入にかかる制裁は解除されていないが、中国は2021年3月にイランから大量に原油を輸入したと報じられた。地方製油所が割安なイラン原油に飛びついているという。中国とイランが期間25年の「包括的協力計画」に合意、調印したことでイランからの原油輸入増加はさらに増えるかもしれない。
また 「Oil2021」によると2017年から2020年にかけて中国の商業貯蔵能力が大幅に増加した。同時期の世界の貯蔵能力増強の90%を中国が占めたと指摘している。地方製油所の台頭、製油所や貯蔵設備の増強により原油輸入は増加している。一方で過剰能力による余剰のガソリン、軽油がシンガポールの市況に影響を与えるなど中国の石油における存在感は高まっている。
以上
(この報告は2021年4月9日時点のものです)