ページ番号1009014 更新日 令和4年1月14日
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修正:2022/1/14
概要
- メジャー企業の2020年第4四半期決算はBP、Totalの2社が利益を確保したのに対し、ExxonMobil、Royal Dutch Shell、Chevronの3社は最終赤字となった。損失額では米国シェールガス資産の減損を実施したExxonMobilの201億ドルが最大であったが、メジャー企業各社とも設備投資を削減し借入を圧縮するなど財務規律を優先している。ブレークイーブンが低く温室効果ガスの排出が少ないコア資産に投資を集中することで利益を確保しつつ、再生可能エネルギーや二酸化炭素回収貯留事業などエネルギートランジションへの取り組みを進めている。
- 5社体制に移行した2000年以降、メジャー企業5社は垂直統合型ビジネスモデルの強みを活かして採算を確保してきたが、2020年は通年ベースで初めて全社が損失を計上した。新型コロナウィルス感染拡大とエネルギートランジションの影響は探鉱を含めた上流開発投資だけに止まらず、精製・石化事業を含めた全社的な事業ポートフォリオの見直しに及んでいる。BPがBig OilからBig Energyへ戦略の転換を掲げ、TotalがTotalEnergiesに社名を変更し、ExxonMobilとChevronが合併を検討していたことが報道されるなど、メジャー企業各社の設備投資・エネルギートランジション戦略の動向が注目される。
(各社ホームページ、報道等)
1 はじめに
メジャー企業各社の2020年第4四半期決算では、BPとTotalが少額ながら利益を計上したのに対し、ExxonMobil、Royal Dutch Shell、Chevronは損失を計上した。第1・2四半期に新型コロナウィルス感染拡大による需要減少で急落してからOPECプラス主要産油国の協調減産や米国シェール開発の減速等により原油価格は60ドル前後まで上昇して、比較的安定した水準にあるものの、メジャー企業の設備投資は回復するまでには至っていない。
2 2020年2020年第4四半期決算の動向
1) ExxonMobil
ExxonMobilの2020年第4四半期決算は4四半期連続赤字、前年同期56.9億ドルの純利益から200.7億ドルの純損失となり、売上高は672億ドルから449億ドルへ減少した。設備投資と経費削減策は第3四半期までに打ち出されていたが、第4四半期には米国における天然ガス事業(168億ドル)のほかカナダ・アルゼンチンなどの上流資産(22億ドル)の減損処理を実施した。
第4四半期の石油・天然ガス生産量は前年同期の401.8万boedから378.5万boedに5.8%減少したが、石油生産が回復したため第3四半期367.2万boedとの比較では3%増加した。パーミアンにおけるシェールオイル・ガス生産は41.8万boedとなり前年同期比42%増加(年平均36.7boed)、掘削・仕上げの生産性は前年比2~3割程度改善しており、2021年は掘削設備7~10基、水圧破砕チーム5~7隊の稼働により40万boedを生産する見通しである。油価・連邦政府管理鉱区における開発許認可にも左右される側面はあるが、2025年までに70万boed程度に生産を拡大するとしている。
第3四半期の設備投資は47.7億ドルとなり、年間ベースでは新型コロナウィルス感染拡大を受けて330億ドルから230億ドルに減額されていた計画に対し214億ドルという実績になった。シェールオイルに対する投資計画は需要見通しの減少に応じてペースダウンされているのに対し、深海油田の探鉱・開発は予定通り積極的に推進する予定であり、90億バレル相当の可採埋蔵量があるガイアナでは2026年75万b/dを生産する見込み、ブラジルBacalhau油田も2024年生産開始に向けて探鉱・開発が進んでいる。
石油精製量は、前年同期の405.3万b/dに対して375.5万b/dに減少したが、エネルギートランジションの関連で石油・天然ガス需要を牽引する石油化学事業と共に付加価値の高い中下流事業に対する設備投資は拡大していくとしている。
ExxonMobilは石油・天然ガス需要の増加が継続するとしてカウンターシクリカルな投資を継続するBig Oilモデルを堅持してきたが、第4四半期は減損を実施するとともにエネルギートランジション対応に戦略を転換し、これまで20年以上に亘り研究開発を行ってきた二酸化炭素回収貯留技術を新たに設立したExxonMobil Low Carbon Solutionsを通じて事業化することを発表した。
2) Royal Dutch Shell
Royal Dutch Shellの2020年第4四半期決算は40.1億ドルの純損失を計上、米国メキシコ湾の上流資産Appomattoxで13億ドルの減損処理を行ったほか、米国・オランダ・シンガポールの精製設備で計13億ドルの減損処理を行っている。売上高は前年同期840億ドルから440億ドルへ大幅に減少している。
石油・天然ガス生産量は前年同期376.3万boedから337.1万boedに10.4%減少、米国メキシコ湾におけるハリケーンの影響が残っていた第3四半期308.1万boedとの比較では9.4%増加した。
第4四半期の設備投資は55億ドル、通年ベースでは178億ドルとなり、年初250億ドルから200億ドルに下方修正された年間投資見通しを下回った。資産売却の動きも進んでおり、第4四半期に豪州Queensland Curtis LNGプロジェクト関連資産の一部を25億ドルで売却したほか、発表は今年に入ってからであるがナイジェリアの探鉱資産売却にも合意している。
Royal Dutch Shellの新事業戦略では、低炭素事業、エネルギートランジション、上流開発が3本の柱とされている。再生可能エネルギーや二酸化炭素回収貯留といった低炭素事業を「成長の柱」とし、天然ガス液化事業や石油化学といった移行期の事業(「移行の柱」)で業容を拡大し、高採算・低炭素密度の上流開発資産(「上流の柱」)で収益を支えるとしている。キャッシュフローの源泉となる中核上流資産には英領北海、パーミアン、米国メキシコ湾、ブラジル、ナイジェリア、カザフスタン、オマーン、マレーシア、ブルネイが含まれ、これら9地域に設備投資の8割を投入してキャッシュフローの8割を上げるとしている。石油生産は2019年がピークであったとする一方、移行の柱である天然ガス・LNGに対する需要は石炭からの切り替えにより2040年にかけて増加が継続すると見ている。
3) BP
BPの第4四半期決算は13.6億ドルの純利益計上となり、前年同期0.02億ドルの純利益、そして第3四半期4.5億ドルの純損失と比べ改善した。
石油・天然ガス生産量326.6万boedは、前年同期の379.3万boedに対し13.9%、第3四半期331.8万boedから1.6%の減少。第4四半期にはオマーンのGhazeer、英領北海のVorlich、インドのKG D6 Rが生産を開始したほか、Trans Adriaticパイプラインが完成しアゼルバイジャンのShah Denizから欧州への天然ガス供給が始まっている。
2018年にBHPから105億ドルで買収した米国シェール資産については、シェールガスについては大幅な生産削減、シェールオイルについても現状12.5万b/d程度から2025年に26万b/dまで拡大するとしたものの、2021~22年は現状維持の見通しを示している。
米国シェール資産のほか、米国メキシコ湾、アンゴラ、北海油田、アジア、アゼルバイジャン‐ジョージア‐トルコ、中東、北アフリカの8つの中核地域から生産量と利益の8割を上げるとしている。
設備投資は34.9億ドル、通年では目標120億ドルに対し140.5億ドルであった。2020年第4四半期末のFID済み再生可能エネルギー発電能力は3.3GW(前年同期0.7GW)、今年1月Equinorとの米国洋上風力発電事業合弁に合意しているほか、OrstadとドイツのLingen製油所におけるグリーン水素や英国のCCUSプロジェクトへを予定している。
BPは2025年までに250億ドルの資産売却を計画しており、第4四半期には石油化学事業を35億ドルでIneosに売却したほか、今年2月にはオマーンのBlock 61権益の20%を26億ドルで売却するなど計画の進捗率は5割を超えている。今年後半にも40~60億ドルの資産売却を予定しており、借入圧縮を進めている。
4) Chevron
Chevronの第4四半期決算は6.7億ドルの純損失となり、前年同期66.1億ドルからは改善したが、第3四半期2.1億ドルからは損失が拡大した。
石油・天然ガス生産量327.7万boedは前年同期の307.8万boedから6.5%、第3四半期283.4万boedからは15.6%の増加であった。パーミアンにおける生産量はNoble Energyが加わったことで60万boedまで増加した。従来年間40~50億ドルを投資して2025年に120万boedまで増産するとしていた計画を2021年は20億ドルに削減、現状5基が稼働中のリグ数を据え置くとしている。
昨年初め油価(ブレント)60ドルを前提に190~220億ドルとされていた年間設備投資計画は140~160億ドルに削減されていたが、実績は135億ドルとなった。
Chevronは低炭素化技術の事業化に対する取り組みも強化しており、バイオ燃料事業や水素バリューチェーンへの投資のほかChevron Technology Venturesを通じて二酸化炭素回収貯留事業も手掛けている。
5) Total
Totalの2020年第4四半期純利益は前年同期26億ドルから8.9億ドルに減少したが、減損処理は完了しているため第3四半期2.0億ドルからは改善した。
石油・天然ガス生産量は前年同期311.3万boedから8.7%減少して284.1万boedとなった。石油生産が171.4万b/dから148.3万b/dへと13.5%減少しており、OPECプラス協調減産によるアンゴラ、イラク、カザフスタン、ナイジェリアに加え、カナダやリビアの減産が影響した。
2020年の設備投資実績は155億ドルとなり、修正後の年間投資計画140億ドルを上回った。Arctic LNG 2、モザンビーク、キャメロン、Costa Azulで大型の液化設備投資プロジェクトを予定している。
Totalは欧州では2050年までに消費段階までを含めた温室効果ガス排出ネットゼロ(欧州域内スコープ3ネットゼロ)を目指し、事業の柱をLNGと再生可能エネルギーとし、5月の株主総会の承認を前提に社名もTotalEnergiesに変更するとしている。
3 2020年決算と設備投資見通し
1) 収益動向
ExxonとMobilが統合されて5社体制となって以降、メジャー企業は景気後退・油価下落に対して垂直統合型ビジネスモデルの強みを活かして相対的に良好な業績を維持してきたが、昨年は新型コロナウィルス感染拡大により大幅な収益悪化を記録した。通年ベースで全社が大幅な当期純損失を計上、赤字額の合計は772億ドルに達した。新型コロナウィルス感染拡大により再生可能エネルギーへのエネルギートランジションが加速しており、石油・天然ガスに対する需要ピーク見通しが前倒しとなり想定油価が下方修正されたことで事業資産の減損損失が膨らんだことが主因であった。
ExxonMobilの当期純損失(2020年通年)224億ドルの主因は米国・カナダ・アルゼンチンにおける天然ガス上流資産の減損処理201億ドルであった。これは取得時から天然ガス価格が低下していたため事業採算が疑問視されていたものであり、直接的には油価・ガス価格見通しの引き下げによるものではなかったが、開発計画を見直すに至った要因としては新型コロナウィルス感染拡大とエネルギートランジションによる需要・価格見通しの変化があったと考えられる。
Royal Dutch Shellの純損失217億ドルの主な要因は、油価見通しの引き下げによる米国メキシコ湾・ブラジル沖・北海・ナイジェリア・米国非在来の上流資産と豪州天然ガス液化プロジェクトの事業評価見直しに加え、長期的な精製マージンの引き下げによる石油精製設備の再評価を実施したことであり、合わせて281億ドルの減損処理を実施した。
BPの純損失203億ドルは、油価見通しの引き下げによりアゼルバイジャン・米国非在来(シェール)・カナダ・エジプト・インド・モーリタニア・セネガル・北海・トリニダード・米国アラスカ州の上流資産と中下流資産で発生した144億ドルの減損処理に加え、探鉱資産の償却103億ドルを実施したことが主な要因である。BPは2030年までに(ロスネフチを除く)石油・天然ガス生産を現状の250万boedから150万boedまで削減する目標を掲げており、新たなフロンティア地域における探鉱計画の停止を発表している。探鉱資産の償却はこの計画変更に伴うものであり、アンゴラ・ブラジル・カナダ・エジプト・インド・米国メキシコ湾の資産が対象となった。
Chevronの純損失55億ドルの主因も減損処理48億ドルであり、その内訳は米国12億ドル、海外事業部門36億ドルであった。Totalの純損失は72億、資源価格の低迷や低炭素化への対応を踏まえてカナダのオイルサンド事業を中心に85億ドルの減損処理を実施した。
天然ガス液化事業に強みを持つRoyal Dutch ShellとTotalの2社は減損処理を除けば利益を計上していたのに対し、米国シェール開発に強みを持つExxonMobilとChevronは減損処理を除いても採算を確保できていない。BPの収益動向については2010年に発生したメキシコ湾の原油流出事故やBHPから米国シェール資産を買収したことによる借入増加の影響もあるため、IOCからIECへの戦略転換により探鉱資産の償却を一時的な要因として早期に採算を確保できるか注目される。
2) 設備投資
メジャー企業5社による2020年設備投資の合計額は823億ドルとなり、前年度1,196億ドルから31%、期初計画から26%の減少となった。メジャー企業は今年も設備投資計画の積み増しに慎重な方針を維持しているが、再生可能エネルギーや中下流事業向けの投資はむしろ拡大するとしている。グローバルベースで現状程度の石油・天然ガス生産を維持していくのに必要とされる3,000~5,000億ドル規模の石油・天然ガス上流開発投資に占めるメジャー企業のウェイトはさらに低下すると見られる。
ExxonMobilは従来石油・天然ガスに対する需要の増加に対応して現状370万boedの生産量を2025年に500万boedまで拡大するため年間300~350億ドルを投資する計画としていたが、新型コロナウィルス感染拡大を踏まえて2025年まで370万boed程度の生産量を維持すると見通しを変えた。これを踏まえて実施したのが第4四半期の減損処理であり、2025年までの投資計画も200~250億ドルに下方修正しているが、2021年の設備投資の見通しは借入圧縮を優先するため160~190億ドル程度に止めている。
Royal Dutch Shellの2021年以降の設備投資は190~220 億ドルを計画であるが、純債務が650億ドル下回るまでは抑制的な運用となる。当面は50%程度を上流開発事業に充てるが将来的には35~40%に削減し、代わりに再エネ・バイオ燃料・水素などの成長分野を25%まで増加するとしている。
Chevronの2021年設備投資計画140億ドルの内訳は上流開発115億ドル(米国50億ドル、海外65億ドル)、中下流21億ドル(米国21億ドル、海外9億ドル)、再エネ関連等その他4億ドルとなっている。2025年にかけて年間140~160億ドルを投資する計画であり、高利回り・低炭素の上流開発投資による企業価値の向上を目指しており、米国パーミアン、カザフスタンのテンギス油田拡張プロジェクト、米国メキシコ湾、東地中海ガス田開発が含まれる。
BPは借入削減計画を達成するまで年間130~150億ドルを目途に設備投資計画を立てており、Totalも2025年まで130~160億ドルを目途としているが、2021年については120億ドルを上限としている。
3) エネルギートランジション戦略
欧州ではスウェーデンの学校ストライキ運動や英国の環境団体エクスティンクション・レベリオンなどのように化石燃料開発の利益を享受するエネルギー業界に対する社会的な要請が強く欧州系メジャーは再生可能エネルギー投資に注力するなどエネルギートランジション戦略が進んでいた。2019年12月Repsolが2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロを達成すると表明したのを皮切りにEquinor・ENIもネットゼロ目標を発表していた。メジャー企業では2020年8月にBPが発表した新経営戦略では2050年までにスコープ3排出ネットゼロ目標を掲げ、石油・天然ガスの生産量を2030年までに4割削減すると表明した。他の欧州系メジャーの対応が注目されたが、Totalのスコープ3ネットゼロは欧州地域のみ、Royal Dutch Shellは未だにスコープ3ネットゼロまでは踏み込んでいない。
米国ではトランプ政権下のエネルギードミナンス戦略によりシェールを始めとする石油・天然ガス開発が推進されてきたが、パリ協定復帰を公約したバイデン大統領の就任により、証券取引委員会や連邦準備制度理事会からの気候変動問題に関する情報開示やストレステスト実施の要請が高まった。今のところ米系メジャー企業の温室効果ガス排出削減目標はスコープ1・2までに止まっており、設備投資の内容も欧州系のような再生可能エネルギー・電力バリューチェーンの下流に降りていく状況には至っていないが、欧州系に比べて対応が遅れていた米系メジャー企業にもエネルギートランジション対応を加速させる動きが見られる。二酸化炭素回収貯留(CCS)・バイオ燃料・水素技術など上流開発関連を中心に中下流事業が補完する形ではあるが、エネルギートランジション関連投資に対する優遇税制の動向などが注目される。
4 まとめ
2020年第4四半期決算ではExxonMobilが減損処理を実施して200億ドルの損失を計上、年度決算ではメジャー企業5社が揃って損失を計上するなど、エネルギートランジションによる影響がクローズアップされているが、これまで対応が遅れていた米系メジャー企業が二酸化炭素回収貯留事業への取り組みを強化するなど新型コロナウィルス感染拡大による油価の下落と需要ピークが前倒しになったことが契機となってエネルギートランジションに対する取り組みが進んだことも注目される。
メジャー企業のエネルギートランジション戦略は上流開発投資だけに止まらず、精製・石化事業など全社的な事業ポートフォリオの見直しに及んでいる。BPがスコープ3温室効果ガス排出ネットゼロ目標を掲げ、Totalは欧州域内スコープ3ネットゼロ目標を掲げてTotalEnergiesに社名変更すると発表、実現はしなかったがExxonMobilとChevronが合併を検討していたことも報道されたている。新型コロナウィルス感染拡大によりエネルギートランジションが加速した2020年はメジャー企業各社の戦略にとっても転換点となった。
以上
(この報告は2021年4月14日時点のものです)